説明

レーザープラズマ放射電磁波を利用した非破壊検査方法および装置

【課題】被検査物表面にレーザーを照射して、レーザープラズマを生成させ、放射される電磁波の情報を捉え、遠隔で被検査物内部あるいは照射面周辺の非破壊検査を行う方法及び装置を提供する。
【解決手段】プラズマ形状は線状が良く、プラズマの長さの2倍が電磁波の波長に設定して必要な周波数を得る。生成するプラズマは被検査物表面に1本あるいは複数の線状のレーザープラズマを生成させて指向性の良い、決められた周波数帯を持った電磁波を放射させることが出来る。プラズマの生成位置をずらしながら計測し、信号処理を施し大開口で指向性の鋭いアンテナを使って計測した場合と、等価な探査結果を得る。被検査物表面に1本あるいは複数本のプラズマチャンネルを生成し、指向性を持った電磁波を発生させ、被検査物表面で発生した電磁波をガイドし、被検査物から反射された電磁波を解析することにより非破壊検査を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
非破壊検査分野
【背景技術】
【0002】
電磁波は誘電率の異なる境界で反射する性質を持つ。反射された電磁波を検出して解析することによりコンクリート内部欠陥や鉄筋位置同定および路面下の空洞探査などに用いられている。
【0003】
レーザーを用いたプラズマ発生は30年ほど前から行われており、高密度のプラズマが導体のように振る舞う性質を持つ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
土木、建築分野で用いられている電磁波によるコンクリート等の非破壊検査技術は被検査物に電磁波送信機を密着させる必要がある。このため、送信機は被検査物近くに設置することとなり遠隔探査が困難である。また、広い面積を短時間で検査することは容易ではないため、遠隔で短時間に検査可能な技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
レーザーを物質に照射するとプラズマが生成され、そこから電磁波が放射される。この電磁波は直接レーザー装置方向に戻ってくる場合もあれば、照射された物質内部あるいは物質表面で反射され、レーザー装置の方向に戻ってくる。この電磁波は物質の内部あるいは表面の情報を持っているため、反射された電磁波を検出することにより検査物内部、表面の検査を遠隔で行うことが出来る。
【0006】
レーザー光を検査したい領域の表面に照射しプラズマを生成する。生成されたプラズマはマイクロ波を放射する。プラズマの形状は線状が良い。プラズマの長さの2倍が電磁波の波長となるように設定することで必要な周波数を得ることができる。
【0007】
生成するプラズマは被検査物表面に1本あるいは複数の線状のレーザープラズマを生成することにより指向性および、決められた周波数帯を持った電磁波を放射させることが出来る。
【0008】
プラズマはレーザーが集光できる場所になら、任意に生成することが出来る。プラズマの生成位置を少しずつずらしながら計測し、信号処理を施すことにより、大開口で指向性の鋭いアンテナを使って計測した場合と、等価な探査結果が得られる。
【0009】
被検査物に向かうまでの空間(大気中)に複数本のプラズマチャンネルを生成することにより、レーザー装置側に指向性を持った電磁波を放射させることが出来る。
【0010】
送信源を探査装置と反対側に生成することで、バイスタティックでの計測が可能となり、後方散乱波の減少を抑圧できる。
【0011】
レーザー装置から被検査物までの空間に1本あるいは複数本のプラズマチャンネルを生成することにより、電磁波をガイドすることにより、電磁波の伝搬拡がりを抑制することが出来る。
【0012】
被検査物表面に1本あるいは複数本のプラズマチャンネルを生成し、指向性を持った電磁波を発生させる。次にレーザー装置から被検査物までの空間に1本あるいは複数本のプラズマチャンネルを生成することにより、大気中にプラズマチャンネルを1本あるいは複数本生成することにより被検査物表面で発生した電磁波をガイドし、被検査物から反射された電磁波を解析することにより非破壊検査を行う。
【発明の効果】
【0013】
電磁波による非破壊検査を遠隔で行うことが出来るため、人が進入できない場所等に応用が可能である。
【0014】
従来技術では探知機を被検査物表面に沿って移動させる必要があったが本発明ではレーザーを走査させるだけで迅速に探査できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1を用いて詳細な説明を行う。制御用コンピュータ7からビーム形成・位置決め光学系5を制御して、検査領域13の表面にレーザービーム9が集光されるように調節する。
【0016】
次に、ディレイジェレネータ6を制御して、レーザー発振器4にトリガを送り、検査領域13の表面にプラズマ12を生成させる。
【0017】
生成されたプラズマ12から周囲に電磁波11が放射される。放射された電磁波11はコンクリート等の被検査物10内部に伝搬する。被検査物内部に内部欠陥14が存在するとそれにより電磁波が反射され、遠隔検査装置8の方へ跳ね返される。
【0018】
散乱された電磁波11を、広帯域アンテナ3で受信し、広帯域ローノイズアンプ2で増幅した後、ディレイジェネレータ6によって適当な遅延時間後にトリガされた、高速デジタルオシロスコープ1で計測する。
【0019】
以上の行程を、検査領域13を少しずつずらしながら繰り返し、計測データを取得、信号処理することにより内部欠陥14を検出することが出来る。
【0020】
図2に示すように、生成するプラズマは被検査物領域13に1本あるいは複数の線状のレーザープラズマ15を生成することにより指向性および、決められた周波数帯を持った電磁波16を放射させることが出来る。
【0021】
図3に示すように、レーザー装置から被検査物までの空間に1本あるいは複数本の電磁波ガイド用プラズマチャンネル17を生成することにより、電磁波をガイド出来、電磁波の伝搬拡がりを抑制することが出来る。
【0022】
図4に示すように、被検査物表面に1本あるいは複数本のプラズマチャンネル15を生成し、指向性を持った電磁波16を発生させる。次にレーザー装置から被検査物までの空間に1本あるいは複数本のプラズマチャンネル17を生成することにより、被検査物表面で発生した電磁波をガイドし、被検査物から反射された電磁波を解析することにより内部欠陥14の検出を行う。
【0023】
信号処理の内容は、検査領域内のある注視点に散乱体が存在する可能性を計算し、それを探査領域内全ての座標で行うことで、探査領域内の散乱体の可視化を行う。
【0024】
散乱体の存在する可能性は以下のような計算で行う。
【0025】
取得した計測データをフーリエ変換する。ある注視点、送信点(プラズマ)、受信点(アンテナ)の位置情報から、伝搬径路長を計算し、ある周波数における受信点での位相を推定する。見積もった位相と、実際に計測で得られた位相の相関値を計算する。実際にその注視点に散乱体が存在した場合は、相関値は大きくなることから、全ての送信点、受信点、周波数において得られた相関値の積和をもって、散乱体がその注視点に存在する可能性とする。
【0026】
以上の計算を探査領域内全ての座標で計算することで、探査領域内の詳細な可視化が可能となる。
【0027】
電磁波の周波数帯域は、調べたい深さ、対象物の大きさ、被検査物での減衰から決定する。被検査物の大きさが直径30cmで、地表から数10cmの場合は1GHz弱〜3GHz程度が、土中透過性、埋設物での散乱強度の点から好ましい。
【0028】
電磁波の周波数を1GHzとする場合にはレーザープラズマチャンネルの長さを15cm程度(電磁波波長の半分)とすると良い。
【実施例】
【0029】
レーザーをシリンドリカルレンズにより線状に集光してレーザープラズマを生成させた。レーザープラズマの長さを20cmとした場合に発生した電磁波のスペクトルを図5に示す。18はプラズマ長さで決まる電磁波周波数の下限、19はデジタルオシロスコープの計測上限により計測できなくなる値を示す。
【0030】
レーザープラズマを線状集光させた場合に発生する電磁波の角度分布を図6に示す。20はプラズマチャンネルの軸に接する面(E面)で計測した結果、21はプラズマチャンネルの軸に垂直な面(H面)で計測した結果である。プラズマチャンネルを軸としたドーナツ状に電磁波が放射される。
【0031】
レーザープラズマを、塩ビ板とコンクリート板に線状集光させた場合に、発生する電磁波の強度とレーザーのフルエンスの関係を図7に示す。図より10J/Pulse程度のフルエンスがあれば、10V/m程度の電磁波を放射することが出来ることがわかる。
【0032】
受信アンテナを10cm間隔で1m動かしながら計測し、散乱体(コーナーリフレクタ、レーダー散乱断面積0.7m@1GHz)を可視化したものを図7に示す。シールドボックスの壁面や碍子などが観測できた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
コンクリート構造物の非破壊検査や、原子炉周辺など人的に検査が困難な場所の検査技術に適用。舗装道路下の空洞、建物の配筋、埋設地雷などの迅速検出に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】レーザープラズマ放射マイクロ波を用いた非破壊検査装置の模式図。
【図2】プラズマチャンネルを複数本生成することにより発生する電磁波の指向性を制御するための模式図。
【図3】プラズマチャンネルによるマイクロ波ガイド装置の模式図。
【図4】被検査物にレーザープラズマチャンネルを生成し、そこから発生する電磁波をプラズマチャンネルによりガイドするための模式図。
【図5】レーザープラズマの長さを20cmとした場合に発生した電磁波のスペクトル。
【図6】レーザープラズマを線状集光させた場合に発生する電磁波の角度分布。
【図7】レーザープラズマを線状集光させた場合に発生する電磁波の強度とレーザーの強度の関係。
【図8】受信アンテナを10cm間隔で1m動かしながら計測し、可視化した実験結果。
【符号の説明】
【0034】
1:デジタルオシロスコープ
2:広帯域ローノイズアンプ
3:広帯域アンテナ
4:レーザー発振器
5:ビーム形成・位置決め光学系
6:ディレイジェネレータ
7:計測制御用コンピュータ
8:遠隔検査装置
9:レーザービーム
10:被検査物(土やコンクリート等)
11:プラズマが放射した電磁波
12:プラズマあるいはプラズマチャンネル
13:検査領域
14:内部欠陥
15:複数本のプラズマチャンネル
16:指向性および決められた周波数帯を持った電磁波
17:1本あるいは複数本の電磁波ガイド用プラズマチャンネル
18:プラズマ長さで決まる電磁波周波数の下限
19:デジタルオシロスコープの計測上限により計測できなくなる値
20:放射強度プロファイル(E面)
21:放射強度プロファイル(H面)
22:ブロック
23:コーナーリフレクタ
24:レーザープラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠方の被検査物表面にレーザーを照射することにより、レーザープラズマを生成させ、そこから放射される電磁波の情報を捉え、遠隔で被検査物内部あるいは照射面周辺の非破壊検査を行う方法及び装置。
【請求項2】
遠方の被検査物表面に1本あるいは複数本の線状レーザープラズマを生成することにより指向性および、決められた周波数帯を持った電磁波を放射することで、内部、あるいは照射面周辺の非破壊検査を行う方法および装置。
【請求項3】
レーザープラズマチャンネルを大気中に1本あるいは複数本生成して電磁波をガイドすることにより、電磁波伝搬による拡がりを抑制する方法および装置。
【請求項4】
請求項2の線状レーザープラズマから放射された電磁波を請求項3のレーザープラズマチャンネルでガイドすることにより遠隔非破壊検査を行う方法および装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−31237(P2009−31237A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216481(P2007−216481)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 社団法人応用物理学会 プラズマエレクトロニクス分科会 刊行物名 第24回「プラズマプロセッシング研究会(SPP−24)」プロシーディングス 巻数、号数 205頁〜206頁 発行年月日 平成19年1月29日 発行者 社団法人電気学会 刊行物名 平成19年電気学会全国大会講演論文集 巻数、号数 249頁〜249頁 発行年月日 平成19年3月15日 発行者 社団法人応用物理学会 刊行物名 第54回応用物理学会関係連合講演会講演予稿集 巻数、号数 200頁 発行年月日 平成19年3月27日 発行者 社団法人プラズマ・核融合学会 刊行物名 Plasma and Fusion Research 巻数、号数 012−1頁〜012−3頁 発行年月日 平成19年5月2日
【出願人】(591114803)財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)