説明

レーザー光による眼球手術用のレーザー装置

【課題】眼球上に配置すべきコンタクトレンズを不要にする。
【解決手段】レーザー光眼球手術用のレーザー装置は、パルス状のフェムト秒レーザー光線のレーザー光源10と、レーザー光線を導き、眼球上または眼球内の治療位置に合焦するための光学的コンポーネント12,14,16とを有し、光学的コンポーネントとして、レーザー光線のビーム経路において順次に配列した複数個のレンズ18,20を有する。レンズのうち少なくとも1個18は、他のレンズに対してビーム経路の方向に調整可能に配置する。この調整可能レンズはビーム拡大光学素子12における第1発散レンズである。この調整のために、操作装置24を調整可能レンズに設け、この操作装置の制御のために、眼球表面のトポグラフィに関する測定データにアクセスし、また測定した表面トポグラフィに基づいて操作装置を制御するように構成した制御ユニット26を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー光による眼球手術用のレーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーは、眼球手術において様々な方法で使用する。例えば、視力障害を除去することに役立つ屈折に関する眼球手術においては、角膜または水晶体を切開しなければならないことがよくある。これに関連して広く普及している技術としては、いわゆるフェムトレーシック(LASIK)がある。レーシック(LASIK:laser in-situ keratomileusis)の場合、まず角膜の表面を小円板状に切り取る。この小円板は、専門分野ではフラップと称されているものであり、ヒンジ領域で、残っている上皮組織に依然としてつながっている。このフラップをわきにめくり、角膜の下層組織部を露出する。そして、予め確定した切開輪郭に基づいて、エキシマレーザーによって支質組織を切除する。この後、前記フラップを元に戻し、そして残存組織によって比較的短期間で治癒する。従来はこのフラップをマイクロケラトームによって機械的に形成していた。しかし、レーザーによって侵襲性は少ない。このため、フェムト秒レンジの超短パルス持続期間でのレーザー光線を使用する(したがってフェムトレーシックと称される)。切開部の正確な位置特定のために、短いレイリー長を有する比較的小さい焦点直径が必要である。眼球の角膜または水晶体におけるフラップ切開または他の切開に関する典型的な焦点半径は、約5μmまたはそれ以下である。従来のレイリー長は約10μmまたはそれ以下である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
組織物質の影響およびこの影響による改質は、ほぼビーム焦点領域のみにおいて起こる。ビーム焦点の外側は、エネルギー密度が過度に低い。焦点寸法が小さいため、切開部を形成すべき所望位置に正確にレーザービームの焦点を合わせることが必要である。x−y平面(これは、ビーム光軸に直交する平面を意味すると理解されたい)において焦点位置を正確に定めることは、制御の下で調整可能な1個またはそれ以上の偏向ミラーを備える偏向ユニット(スキャナ)により、可能である。しかし、問題は、z軸方向(すなわちビーム光軸の方向)における焦点制御に関連する。例えば、(フラップの場合のように)角膜に少なくとも部分的に一定の深さで施される表面切開のコースにおいてビーム焦点のz軸方向調整を回避することが望ましい場合、この方法においては、角膜を平たく押圧するために、眼球に対面する側が平坦な平坦化プレートを眼球に押し当てなければならない。このときフラップは、平坦表面切開によって形成することができる。
【0004】
この場合、平坦化プレートはレーザー光線を合焦する対物レンズに関して固定し、このようにしてビーム焦点にz軸方向基準を与える。しかし、目が平坦に押圧される結果、残念ながら眼球内圧がかなり増加し、このことは特定の状況下では視神経に不可逆的損傷を与えることさえありうる。
【0005】
目に対面する側を凹面状に形成したコンタクトレンズを使用する場合、眼球に生ずる変形がより少なくなる。しかし、そのようなレンズでさえ、目の変形を完全に避けることは決してできない。加えて、皿状コンタクトレンズは、通常ビーム焦点の質に悪影響を与える。コンタクトレンズと角膜との間における湾曲した接触面は、例えばコマ歪曲収差を引き起こし、これは切開部の質に好適でない影響を与えるかもしれない。
【0006】
しかがって、本発明の目的は、慎重かつ正確な眼球治療を可能にする、レーザー光による眼球手術の器具を得るにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明は、パルス状のフェムト秒レーザー光線のレーザー光源と、レーザー光線を導き、眼球上または眼球内の治療位置に合焦するための光学コンポーネントを有し、光学コンポーネントは、レーザー光線のビーム経路に順次に配置した複数個のレンズを有する。本発明によれば、あるアプローチによれば、レンズのうち少なくとも1個は、他のレンズに対してビーム経路の方向に調整可能に配置し、作動装置を調整するためにこの調節可能レンズに設け、そして作動装置を制御するために、眼球表面のトポグラフィに関する測定データにアクセスし、測定した表面トポグラフィに従って作動装置を制御するように構成した制御ユニットを設ける。
【0008】
本発明による解決法は、眼球の測定した表面トポグラフィによる手法でビーム焦点をz軸方向制御することに基づく。このことは、眼球上に配置するコンタクトレンズ、すなわち平坦な平坦化プレートの形式または窪んだ皿状レンズの形式のコンタクトレンズを不要にする。したがって、このようなコンタクトレンズを完全に廃棄することにより、あらゆる種類の望ましくない眼球変形が治療の過程で決して起こらず、コンタクトレンズのせいで光学的歪みが起こることも決してないという結果が得られる。とくに、トポグラフィ的測定データは外側角膜表面のトポグラフィを表す。しかし、原理的には、測定すべき基準面として、眼球における異なる表面、例えば水晶体表面を使用することも考えられることを理解されたい。
【0009】
眼球表面のトポグラフィは、例えば光スリット技術、超音波、または断層映像法によって測定できる。これら技術自体は専門分野においては知られているため、トポグラフィの測定データの取得方法に関するこれ以上の説明はここでは必要ない。1つまたはそれ以上の上述した測定原理に従って作動する測定装置は、本発明による装置の一部とすることができ、また制御ユニットがアクセスするメモリ内に測定データを保存することができる。
【0010】
トポグラフィ測定のために断層映像法を頼る限りでは、本発明は、とくに、10GHzのレンジ、好ましくは100GHzまたはそれ以上のレンジにおける繰り返し率での、フェムト秒放射源を用いる断層映像法の極めて高速な装置の使用、例えばいわゆるVECSEL(vertical external-cavity surface-emitting laser:垂直外部共振器面発光半導体レーザー)を使用するとよいことを教示する。このような半導体レーザーダイオードは、センチメートル範囲の物理的寸法にも関わらず、電気的または光学的な供給を行い、極めて高い出力および効率を達成することができる。フェムト秒繊維レーザーもまた、断層映像法の範囲内で使用することができる。このような放射源は、100nmより大きく最高1000nmに達するバンド幅、および100GHzより大きい繰り返し率を有するフェムト秒超連続体を生成し、この結果、極めて高い測定率を達成し、必要であれば、外科手術中に基準面(例えば角膜表面)のトポグラフィ測定をほぼリアルタイムに測定できる。従って、トポグラフィ測定は必ずしも手術の前に完全に行う必要はなく、手術中に行うことができ、言うなれば「オンライン」で行うことができる。
【0011】
本発明によるレーザー装置の光学コンポーネントは、便宜上、ビーム拡大光学素子、ビーム経路の方向に関してビーム拡大光学素子の下流側に配置し、ビーム方向に直交する平面でビームススキャンを行う走査ユニット、およびビーム経路の方向に関して走査ユニットの下流側に配置する合焦光学素子によって構成する。ビーム拡大光学は、合焦光学素子の高アパーチャ数値を達成するために、レーザービームを十分に拡大する。ビーム拡大光学素子は、通常ビーム方向に関して順次に配置する複数個のレンズを有し、そのうち少なくとも1個は発散レンズの形式とし、他の少なくとももう1個は収束レンズの形式とし、発散レンズを収束レンズの上流側に位置する。市販されている従来のビーム拡大光学素子は、概して、合計2個または3個のレンズを有し、そのうち第1レンズ(入力レンズ)は常に発散レンズである。その直径は、それに続く収束レンズの直径より十分小さい。従ってその質量もまた、ビーム拡大光学素子のそれに続く収束レンズの質量より通常かなり小さい。このため、本発明のより好適な実施形態は、ビーム拡大光学素子の発散レンズ、とくにビーム拡大光学素子の入力レンズを調整可能に配置し、またビーム拡大光学素子の少なくとも1個の収束レンズに対して、ビーム焦点のz軸方向制御のためにそれを変位可能にする。この場合、発散レンズは低質量であるために、例えば電動または圧電式の作動ドライブによって、発散レンズの高い動的調整が可能である。一方、続く収束レンズの調整、またはさらに合焦光学素子の調整の場合、移動する質量は比較にならないほど大きくなり、このことは所望の動力学的に不利である。
【0012】
本発明による装置のレンズの適切な設計および位置決めが与えられると、1.4mmの範囲内でビーム焦点を移動できるようにするためには、ビーム拡大光学素子の入力レンズにおける調整距離は10.0mmで十分であることが分かった。概して、この調整距離は、角膜の凸状を補償するために、また一定の深さに位置する二次元的切開部を角膜に施すために十分である。
【0013】
制御ユニットは、測定した表面トポグラフィに基づいて、またトポグラフィ測定した表面から眼球における光線作用の所望位置の高さ距離に基づいて、調整可能レンズの公称位置を確定し、そして確定した公称位置に基づいて作動装置を制御するよう構成する。これに関連する高さ距離は、z軸方向における間隔に関する。完全に静止した頭部姿勢であっても、また吸引リングによる眼球固定であっても、z軸方向の角膜のわずかな移動を完全に回避することはできない。このような移動は、例えば呼吸によるものである。それでもなお、眼球における所望位置に常に正確にビーム焦点を位置決めすることができるように、本発明によるレーザー装置の好適な実施形態においては、眼球上または眼球内における少なくとも1個の基準位置の高さ位置変位を検出するように構成する測定装置を備える。この場合、制御ユニットは、検出した少なくとも1個の基準位置の現高さ位置に基づいて、調整可能レンズの確定した公称位置を補正し、そして補正した公称位置に基づいて作動装置を制御するように構成する。例えば角膜頂点を、基準位置として考慮する。
【0014】
眼球を固定するための吸引リングを省略する場合、静止した頭部姿勢であっても、眼球の回転運動は通常回避できない。このような眼球運動は、また、調節可能レンズ用に、確定した公称位置のz軸方向補正を必要とすることがあり得る。なぜなら、眼球の回転は、同時に眼球内でレーザー光線を作用させる所望位置のz座標の変位を生ずることがある。したがって、本発明によるレーザー装置は、ビーム経路の方向に交差する平面において眼球上または眼球内における少なくとも1個の基準位置の移動を検出するよう構成する測定装置を設け、制御ユニットは、少なくとも1個の基準位置の検出した現横断位置に基づいて調整レンズの公称位置を補正し、補正した公称位置に基づいて作動装置を制御するよう構成する。
【0015】
眼球の回転運動を調整レンズの公称位置の補正に考慮するか否かに関わらず、常に正確にビーム焦点を追従できるように、あらゆる場合において眼球運動に従ってビームスキャンユニット(スキャナ)を制御することが必要である。これに適するモニタシステム(アイトラッカー)自体は、専門分野では知られている。例えば、これに関連して、角膜頂点をビーム光軸に交差する方向への変位をモニタすることができる。
【0016】
レーザー光線の焦点直径は、好適には約10μm以下、より好適には約7μm以下、より一層好適には、約5μm以下である。レーザー光線のレイリー長は、好適には約20μm以下、より好適には約15μm以下、より一層好適には、約10μm以下とする。
【0017】
ラインスキャンによって角膜表面にほぼ平行な角膜の二次元切開部を形成するため、制御ユニットは、ほぼ三角形特性および変化する三角形高さを有する制御信号を作動装置に供給するように構成することができる。ビームが平行ラインに沿って眼球上を移動するラインスキャンの代案として、スパイラルスキャンが考えられる。この場合、スパイラルスキャンによって角膜表面にほぼ平行な角膜の二次元切開部を形成するため、制御ユニットは、単調な変動振幅を持つ制御信号を作動装置に供給するように構成することができる。ラインスキャンの場合における制御信号の三角形状は、各ラインが下側の角膜縁から伸び、上方の中間領域を経て角膜縁に戻るという事実に関連している。従って、レンズは異なる位置に配置しなければならない。制御信号の変化する三角形高さは、角膜頂点上または近傍に延在するラインの場合、ラインのz方向移動は、角膜が凸状であるため、角膜縁の近傍にあるラインよりも大きいという事実から生じる。他方スパイラルスキャンの場合、調整レンズの一方向における連続的な調整が必要であり、このことは制御信号の単調な変調振幅で表される。
【0018】
本発明によるレーザー装置によれば、眼球上に配置すべきコンタクトレンズを不要とし、このようなコンタクトレンズを取り付けるマウント構体も不要となる。
【0019】
他の態様によれば、本発明は、レーザー光による眼球手術用のレーザー装置の制御方法を提供し、本発明レーザー装置は、パルス状のフェムト秒レーザー光線のレーザー光源、レーザー光線のビーム経路に順次に配置した複数個のレンズであり、そのうち少なくとも1個のレンズを他のレンズに対してビーム経路の方向に調整可能に配置した、該複数個のレンズ、および少なくとも1個の調整可能レンズを調整するための作動装置を有する。本発明によれば、本発明方法において、調整可能レンズの公称位置を記憶したトポグラフィ的な測定データに基づいて確定するステップと、およびこの確定した公称位置に基づいて、作動装置のための制御信号を生成するステップとを有する。
以下に添付図面につき本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】眼球手術用のレーザー装置の例示的な実施形態の模式的なブロック図である。
【図2】ラインスキャンを行う場合の図1に示すレーザー装置における個別調整可能レンズの作動位置の定性的推移状況を示すグラフである。
【図3】スパイラルスキャンを行う場合の、調整可能レンズの作動位置の定性的推移状況を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示す眼球手術用のレーザー装置は、レーザー発生器10を有し、このレーザー発生器10はフェムト秒レンジのパルス持続期間を有するパルス状のレーザー光線を生成して出力する。用語「フェムト秒」はここで広義に理解すべきであり、1ピコ秒からスタートするパルス持続期間に関して厳密な限界設定と理解すべきではない。その正反対に、本発明はまた1ピコ秒より長いパルス持続期間にも適している。フェムト秒レンジでのパルス持続期間への言及は、一般的に眼球手術で用いられるフェムト秒レーザーが、例えば最大でも5μmの焦点直径および最大でも10μmのレイリー散乱長を有する通常比較的小さい焦点寸法を有する程度のみを示し、本発明はこのような小さい焦点寸法の場合に特にその有利性を示す。しかし、レーザー光線のパルス持続期間は優先的に1ピコ秒以下、例えば3桁のフェムト秒レンジ内にある。
【0022】
レーザー発生器10のパルス繰り返し数は、例えば2桁または3桁のkHzレンジ以内から最高MHzレンジにまでなり得る。とくに、レーザー発生器10のパルス繰り返し数は制御可能でありうる。治療のために生成され用いられるレーザー光線の波長は、例えば1μm程度の赤外線領域における波長とすることができるが、それより短くすることもでき、紫外線領域まで短い波長とすることができる。
【0023】
レーザー発生器によって出力されるレーザービームのビーム経路において、レーザー発生器の後に、ビーム拡大光学素子12、スキャナ14、および合焦光学素子16が続く。ここでビーム拡大光学素子12は、発散レンズ18およびその下流側に位置する収束レンズ20を有する2レンズ系として示す。2個以上のレンズを有するビーム拡大光学素子を用いることもできると理解されたい。しかし、通常ビーム拡大光学素子の入力レンズ(ここではレンズ18)は発散レンズである。ビーム拡大光学素子12のレンズ18,20は、詳細には示さないハウジング内に収容し、収束レンズ20はハウジング内に強固に配置するが、発散レンズ18はビーム光軸(参照符号22で示す)の方向に収束レンズ20に対して調整可能である。制御ユニット26によって制御する作動ドライブ24は発散レンズ18を調整するの作用を行う。作動ドライブ24は、例えば電動または圧電式の作動ドライブとする。詳細には示さないが、作動ドライブ24は、例えばハウジング内で移動可能に案内し、かつ発散レンズ18を支持するレンズマウントに係合する。
【0024】
ビーム光軸22の方向における発散レンズ18の移動行程は数ミリメートル、例えば約10mm程度である。発散レンズ18を調整する必要速度は、とりわけ走査パターンに依存し、この走査パターンでレーザービームを治療すべき眼球(参照符号28で示す)上に案内する。少なくとも0.5m/s、好適には約1m/sの発散レンズ18の調整速度であれば、フラップ切開部を容認できる短時間で角膜に形成できることが分かっている。作動ドライブ24は、発散レンズ18のこの調整速度を保証することができるよう設計する。
【0025】
スキャナ14は、それ自体よく知られており、ここでは詳しく示さないが、ビーム光軸22に直交するx−y平面でレーザービームの目標に向かう偏向を可能にする1対の偏向ミラーを有することができる。それは、眼球28に施すべき切開部のx−y画像に基づくよう、また、あらゆる眼球運動に基づくよう、制御ユニット26によって制御する。このような眼球運動は、吸引リングによる眼球固定をしない限りにおいて不可避であり、機能ブロック30として示し、かつ制御ユニット26に接続した眼球追跡システム(アイトラッカー)によって記録することができる。このようなタイプのシステム自体は専門分野においてよく知られており、従ってそれらの機能および構造のより詳細な説明はここでは省略する。アイトラッカー30は、例えば順次連続して迅速に記録される眼球の瞳孔または他の部分に関する多くの画像に対して実行するパターン認識に基づいて眼球運動を記録できることを述べれば、十分である。
【0026】
合焦光学素子16は、やはりそれ自体よく知られており、複数個のレンズによって構成されるが、それらはここでは詳しく示さない。合焦光学素子16の焦点距離は固定である。合焦光学素子16は移動不能にレーザー装置に組み込み、その結果、ビーム焦点のz軸方向調整は発散レンズ18の調節のみで可能とする。もちろん、合焦光学素子16はビーム光軸22に沿って調整可能に配置し、その結果ビーム焦点のz軸方向調整は、発散レンズ18および合焦光学素子16双方の調整で可能とすることもできる。後者の場合、例えば合焦光学素子16の調整可能性は、実際の手術開始前における大まかな設定のために用いることができるとともに、発散レンズ18の調整可能性は、治療中における異なるz位置にビーム焦点を設定するのに用いる。大まかな設定過程で、発散レンズ18は便宜上中心位置に保持し、これにより、その後手術の過程で、両方向への調整において十分な移動行程をできる。
【0027】
図1によるレーザー装置はさらに測定装置32を有し、この測定装置32によって眼球28の角膜表面のトポグラフィを測定することができる。例えば、測定装置は断層映像法、すなわち光学的コヒーレンス・トモグラフィー(略してOCT)に従って動作する。測定装置32内での適切な評価手段により、測定値から、角膜表面のトポグラフィ的輪郭を表すトポグラフィ測定データを生成し、トポグラフィ的測定データを制御ユニット26で利用可能にする。例えば、測定装置32はトポグラフィ的測定データをメモリ34に書き込むことができ、このメモリ34から制御ユニット26が後でそれらを読み出し可能になる。このことにより、実際の手術前に全ての角膜トポグラフィ全体に対して時間的に切り離した測定が可能である。つぎに、トポグラフィ的測定データに基づいて、制御ユニットはまず、発散レンズ18のために二次元作動輪郭を計算することができ、この計算は、発散レンズ18を設定すべき公称位置のそれぞれにx−y平面の全ての走査ポイントに対して特定する。この作動輪郭の計算において、制御ユニット26は、x−y平面の各ポイントにおける切開部がとるべき位置の、z方向における角膜表面からの間隔(垂直間隔)を考慮する。例えば、角膜フラップを形成する場合、通常フラップの厚さを一定にしなければならない。従って、発散レンズ18の公称位置は、形成すべきフラップのすべてのx−y位値に対して、ビーム焦点が(切開部を角膜に向かって案内しなければならないフラップの端縁から離れる)角膜表面からの間隔がほぼ同一となるように計算する。これにより、手術中は、眼球28の角膜頂点または少なくとも1個の他の基準ポイントにおけるz軸方向位置をモニタし、その時点で記録されている眼球基準位置に関するz軸方向位置に基づいて、作動輪郭から生じる発散レンズ18の公称位置を修正するだけで十分となる。このモニタは、必要に応じて、同様にOCT測定装置32によって行い、そして制御ユニット26に対して直接、この点に関する測定値を供給する。
【0028】
眼球28は、治療中全く固定しない、または眼球の回転運動を抑止する吸引リングによってのみ固定する。吸引リングを使用する場合、この吸引リングは適切な機械的インターフェースを介してz軸方向において合焦光学素子16に便宜上強固に結合する。どの場合においても、治療は眼球28上に配置するコンタクトレンズなしで行う。
【0029】
角膜における表面切開を形成するために、ラインスキャンおよびスパイラルスキャンの双方が知られている。図2および図3は、角膜フラップを形成する場合における発散レンズ18の作動位置の、理想化したものではあるが典型的な推移状況を示し、図2はラインスキャン、図3はスパイラルスキャンを示す。ラインスキャンの場合、レーザービームは、互いに並置するラインに沿って角膜上に案内するものであり、各ラインのコースで乗り越えなければならない角膜の凸状湾曲を考慮して、発散レンズ18は連続的に前後に往復移動する。この結果、作動位置の図示した三角形状の推移となる。従って、ラインスキャンの場合、制御ユニット26によって作動ドライブ24に供給される制御信号は三角形特性を有する。角膜中央部分に延在する中央スキャンラインの場合、ライン中央とライン端部の高さの差は角膜縁に近いスキャンラインにおけるより大きいため、制御信号の三角形高さが異なる。
【0030】
他方、スパイラルスキャンの場合、発散レンズ18の一方向における連続的な調節で十分であり、スパイラルが角膜中央からまたは角膜縁から始まるか否かに無関係である。従って、図3に示すレンズ位置の推移は、単調に上昇する直線状となる。作動ドライブ24に供給される制御信号は、従って類似した特性を持つ。スパイラルスキャンの場合単位時間につき乗り越えなければならない高さの差は少ないため、スパイラルスキャンはラインスキャンより発散レンズ18のが低いトラバース(横断)速度可能となる。一方スパイラルスキャンの場合、レーザービームの角速度が不変であると仮定するならば、順次の連続する切開ポイント間の間隔が一定であることを考慮しなければならず、レーザー発生器10のパルス繰り返し数は、角膜縁に近接する外側スパイラルターンに対しては、内側の中央スパイラルターンよりも大きい値に設定しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光による眼球手術用のレーザー装置であって、パルス状のフェムト秒レーザー光線のレーザー光源(10)と、レーザー光線を導き、眼球上または眼球内の治療位置に合焦する光学的コンポーネント(12,14,16)を備え、この光学的コンポーネントは、レーザー光線のビーム経路に順次に配置した複数個のレンズ(18,20)を有するものとした、該レーザー装置において、レンズのうち少なくとも1個のレンズ(18)をビーム経路の方向において他のレンズに対して調整可能に配置し、このレンズ調整のために調整可能レンズ(18)に作動装置(24)を設け、また作動装置を制御するために制御ユニット(26)を設け、この制御ユニット(26)は眼球表面トポグラフィに関する測定データにアクセスし、また測定した表面トポグラフィに基づいて前記作動装置を制御するよう構成したことを特徴としたレーザー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザー装置において、少なくとも1個の調整可能レンズ(18)はビーム拡大光学素子(12)の一部とし、このビーム拡大光学素子(12)を、ビーム方向に交差する平面においてレーザー光線を走査する走査ユニット(14)のビーム方向上流側に配置したことを特徴とするレーザー装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザー装置において、前記ビーム拡大光学素子(12)は、少なくとも、発散レンズ(18)、およびビーム方向にこの発散レンズ(18)の下流側に配置した収束レンズ(20)を備え、前記発散レンズは前記作動装置(24)によって前記収束レンズに対して調整可能にしたことを特徴とするレーザー装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のレーザー装置において、前記制御ユニット(26)は、測定された表面トポグラフィ、およびトポグラフィ的に測定した表面からの眼球内におけるレーザー光線作動位置の高さ距離に基づいて、前記調節可能レンズ(18)の公称位置を確定し、また確定した公称位置に基づいて前記作動装置(24)を制御するよう構成したことを特徴とするレーザー装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザー装置において、測定装置(32)は眼球上または眼球内における少なくとも1個の基準位置の高さ位置変位を検出するよう構成し、前記制御ユニット(26)は、少なくとも1個の基準位置の検出した現高さ位置に基づいて、前記調整可能レンズ(18)の公称位置を補正し、この補正した公称位置に基づいて前記作動装置(24)を制御するよう構成したことを特徴とするレーザー装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のレーザー装置において、前記測定装置(32)は、ビーム経路の方向に交差する平面において眼球(28)上または眼球(28)内における少なくとも1個の基準位置の動きを検出するよう構成し、前記制御ユニット(26)は、前記少なくとも1個の基準位置の検出された現横断位置に基づいて前記調整可能レンズ(18)の公称位置を補正し、この補正した公称位置に基づいて前記作動装置(24)を制御するよう構成したことを特徴とするレーザー装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか一項に記載のレーザー装置において、前記レーザー装置は、角膜上に配置すべきコンタクトレンズを不要とし、またこのようなコンタクトレンズを取り付けるマウント構体も不要としたことを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか一項に記載のレーザー装置において、前記測定装置(32)は眼球の角膜表面をトポグラフィ的に測定するよう構成したことを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか一項に記載のレーザー装置において、レーザー光線の焦点直径は約10μm以下、好ましくは約7μm以下、そしてとくに好ましくは約5μm以下とし、レーザー光線のレイリー長は約20μm以下、好ましくは約15μm以下、そしてとくに好ましくは約10μm以下としたことを特徴とするレーザー装置。
【請求項10】
請求項1〜9のうちいずれか一項に記載のレーザー装置において、ラインスキャンによって角膜表面にほぼ平行な角膜の二次元切開部を形成するため、前記制御ユニット(26)は、前記作動装置に対して、ほぼ三角形特性および変化する三角形高さを有する制御信号を供給するよう構成したことを特徴とするレーザー装置。
【請求項11】
請求項1〜10のうちいずれか一項に記載のレーザー装置において、スパイラルスキャンによって角膜表面にほぼ平行な角膜の二次元の切開部を形成するために、前記制御ユニット(26)は、前記作動装置に単調に変化する振幅を有する制御信号を供給するよう構成したことを特徴とするレーザー装置。
【請求項12】
請求項1〜11のうちいずれか一項または請求項1の前段特徴部分に記載のレーザー装置において、前記光学コンポーネントは、前記ビーム拡大光学素子(12)、ビーム経路の方向に関してビーム拡大光学素子の下流側に配置し、またビーム方向に交差する平面においてビームスキャンを行う走査ユニット(14)、およびまたビーム経路の方向に関して前記走査ユニットの下流側に配置した合焦光学素子(16)によって構成し、前記ビーム拡大光学素子(12)は、ビーム方向に順次に配置した複数個のレンズを有し、少なくとも発散レンズ(18)および収束レンズ(20)を有するものとし、前記発散レンズは前記収束レンズに対して調整可能に配置することを特徴とするレーザー装置。
【請求項13】
レーザー光による眼球手術用のレーザー装置、とくに請求項1〜12のうちいずれか一項に記載のレーザー装置であって、パルス状のフェムト秒レーザー光線のレーザー光源(10)と、前記レーザー光線のビーム経路に順次に配置した複数個のレンズであり、そのうち少なくとも1個のレンズ(18)をビーム経路の方向に他のレンズ(20)に対して調整可能に配置した該複数個のレンズと、および、少なくとも1個の調整可能レンズ(18)を調整する作動と(24)を備えた該レーザー装置の制御方法において、記憶したトポグラフィ的な測定データに基づいて前記調整可能レンズ(18)の公称位置を確定するステップと、またこの確定した公称位置に基づいて前記作動装置(24)のための制御信号を生成するステップとを有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−279398(P2009−279398A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−103316(P2009−103316)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(509114077)ウェーブライト アーゲー (7)