説明

レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法

【課題】カール、及び、レリーフ形成層における層状分離を抑制することができるレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、並びに、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版及びその製版方法を提供すること。
【解決手段】支持体上に、(成分A)エチレン性不飽和化合物と、(成分B)熱重合開始剤と、(成分C)下記式(I)で表される化合物とを含有するレリーフ形成層を備えることを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レリーフ形成層をレーザーにより直接彫刻し製版する、いわゆる「直彫りCTP方式」が多く提案されている。この方式では、フレキソ原版に直接レーザーを照射し、光熱変換により熱分解及び揮発を生じさせ、凹部を形成する。直彫りCTP方式は、原画フィルムを用いたレリーフ形成と異なり、自由にレリーフ形状を制御することができる。このため、抜き文字の如き画像を形成する場合、その領域を他の領域よりも深く彫刻する、又は、微細網点画像では、印圧に対する抵抗を考慮し、ショルダーをつけた彫刻をすることなども可能である。
従来のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版としては、例えば、特許文献1が知られている。
また、平版印刷版等に使用する硬化性組成物としては、例えば、特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−100048号公報
【特許文献2】特開2009−91555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、例えば、膜厚が0.1〜10mmと非常に厚いため、ポリマーや架橋重合物による層状分離が起こりやすく、特にラジカル重合架橋剤を含む場合に顕著に層状分離が見られる。層状の分離をしてしまうと、層ごとに強度が異なり、折れ曲がった際の強度低下や、界面からの剥がれが発生しやすい。また、膜内組成が不均一となるため、製造時に安定供給することが困難になる。また、層ごとに収縮率が異なることにより、カールの要因にもなり、カールすると版取り付け時等の取扱いが困難になる。
本発明は、上記従来における状況に鑑みなされたものであり、以下の課題を解決するものである。
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、カール、及び、レリーフ形成層における層状分離を抑制することができるレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、並びに、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版及びその製版方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は以下の<1>、<10>、<11>及び<12>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<9>及び<13>と共に以下に記載する。
<1>支持体上に、(成分A)エチレン性不飽和化合物と、(成分B)熱重合開始剤と、(成分C)下記式(I)で表される化合物とを含有するレリーフ形成層を備えることを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
【0006】
【化1】

(式(I)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、Z1はウレア基と共に、単環又は多環の環構造を形成する炭化水素基を表す。また、2つ以上の式(I)で表される化合物がZ1において結合又は縮環し、多量体を形成していてもよい。)
【0007】
<2>前記レリーフ形成層中の成分Cの含有量が、前記レリーフ形成層中の成分Aの含有量100重量%に対して、1〜100重量%である、上記<1>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<3>成分Bが、有機過酸化物である、請求項1又は2に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<4>前記レリーフ形成層が、(成分D)バインダーポリマーを更に含有する、上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<5>成分Dのガラス転移温度(Tg)が、20℃以上200℃未満である、上記<4>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<6>成分Dが、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール及びその誘導体よりなる群から選択された1種以上の樹脂である、上記<4>又は<5>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<7>前記レリーフ形成層が、(成分E)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を更に含有する、上記<1>〜<6>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<8>前記レリーフ形成層が、(成分F)加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物を更に含有する、上記<1>〜<7>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<9>前記レリーフ形成層が、(成分G)アルコール交換反応触媒を更に含有する、上記<8>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<10>上記<1>〜<9>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を熱により架橋した架橋レリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<11>(1)上記<1>〜<10>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を熱により架橋する工程、及び、(2)架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程、を含むことを特徴とするレリーフ印刷版の製版方法、
<12>上記<11>に記載の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版、
<13>前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である、上記<12>に記載のレリーフ印刷版。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カール、及び、レリーフ形成層内における層状分離を抑制することができるレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、並びに、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版及びその製版方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、数値範囲を表す「下限〜上限」の記載は、「下限以上、上限以下」を表し、「上限〜下限」の記載は、「上限以下、下限以上」を表す。すなわち、上限及び下限を含む数値範囲を表す。また、本発明において、「(成分A)重量平均分子量が5,000未満のエチレン性不飽和化合物」等を単に「成分A」等ともいう。
【0010】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版)
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版(以下、単に「レリーフ印刷版原版」ともいう。)は、支持体上に、(成分A)エチレン性不飽和化合物と、(成分B)熱重合開始剤と、(成分C)下記式(I)で表される化合物とを含有するレリーフ形成層を備えることを特徴とする。また、前記レリーフ形成層の厚みが、0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0011】
【化2】

(式(I)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、Z1はウレア基と共に、単環又は多環の環構造を形成する炭化水素基を表す。また、2つ以上の式(I)で表される化合物がZ1において結合又は縮環し、多量体を形成していてもよい。)
【0012】
従来のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版において目視では1mm膜厚のうち、空気に接している面側に0.3〜0.4mm程度の層が存在し、層状分離を起こしている場合が散見される。この層は膜内部より柔らかいため重合が進行していないと推測される。通常、光によるラジカル重合系では酸素による影響はごく表層部の数μm〜数十μmで起こるが、本発明のような熱重合系では架橋に要する時間が長いため、酸素による重合阻害の影響が非常に大きく、重合の進行度合いの差から層状分離を起こすものと考えられる。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版では、レリーフ形成層にウレア結合を環内に含む式(I)で表される化合物を使用することで、メカニズムは定かではないが、酸素によるラジカル重合阻害を防ぎ、層状分離が解消するものと考えられる。また、カールについても、環状ウレア化合物を使用することで、レリーフ形成層の均一性が向上し、改善されるものと考えられる。
更に、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、(成分A)エチレン性不飽和化合物と、(成分B)熱重合開始剤と、(成分C)式(I)で表される化合物とを含有するレリーフ形成層を備えることにより、メカニズムは定かではないが、高い彫刻感度を有し、印刷版のべとつき(タック性)を抑制し、耐刷性及びリンス性にも優れる。
【0013】
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、前記レリーフ形成層を架橋した架橋レリーフ形成層を有するものであってもよい。
本発明において「レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版」とは、レーザー彫刻用組成物からなる架橋性を有するレリーフ形成層が、架橋される前の状態、及び、熱により硬化された状態の両方又はいずれか一方のものをいう。
本発明において「レリーフ形成層」とは、架橋される前の状態の層をいい、すなわち、本発明のレーザー彫刻用組成物からなる層であり、必要に応じ、乾燥が行われていてもよい。
架橋レリーフ形成層を有する印刷版原版をレーザー彫刻することにより「レリーフ印刷版」が作製される。
本発明において「架橋レリーフ形成層」とは、前記レリーフ形成層を架橋した層をいう。前記架橋は、熱により行うことができる。また、前記架橋は、組成物が硬化される反応であれば特に限定されず、成分A同士の反応などによる架橋構造等が例示できる。
また、本発明において「レリーフ層」とは、レリーフ印刷版におけるレーザーにより彫刻された層、すなわち、レーザー彫刻後の前記架橋レリーフ形成層をいう。
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、必要により更に、支持体と(架橋)レリーフ形成層との間に接着層を、また、(架橋)レリーフ形成層上にスリップコート層、保護フィルムを有していてもよい。
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、レーザー彫刻用フレキソ印刷版原版として好適に用いることができる。
【0014】
<支持体>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、支持体上にレリーフ形成層を備える。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PAN(ポリアクリロニトリル))やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。支持体としては、PETフィルムやスチール基板が好ましく用いられる。これらの中でも、透明支持体であることが好ましく、PETフィルムであることがより好ましい。
【0015】
<レリーフ形成層>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層は、(成分A)エチレン性不飽和化合物と、(成分B)熱重合開始剤と、(成分C)式(I)で表される化合物とを含有し、その厚みが、0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。また、前記レリーフ形成層は、熱架橋性の層である。
以下、(成分A)エチレン性不飽和化合物と、(成分B)熱重合開始剤と、(成分C)式(I)で表される化合物とを含有する組成物を、「本発明のレーザー彫刻用組成物」又は単に「本発明の組成物」ともいう。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層の厚さは、0.1mm以上10mm以下が好ましく、0.2mm以上7mm以下がより好ましく、0.5mm以上3mm以下が更に好ましく、0.8mm以上1.5mm以下が特に好ましい。上記範囲であると、カール、及び、層状分離の抑制効果をより発揮することができる。
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における架橋レリーフ形成層の厚さは、前記レリーフ形成層と同様、0.1mm以上10mm以下が好ましく、0.2mm以上7mm以下がより好ましく、0.5mm以上3mm以下が更に好ましく、0.8mm以上1.5mm以下が特に好ましい。
【0016】
(成分A)エチレン性不飽和化合物
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層は、(成分A)エチレン性不飽和化合物(以下、単に「モノマー」ともいう。)を含有する。
また、本発明に用いることができるエチレン性不飽和化合物は、分子量(又は重量平均分子量)が5,000未満であることが好ましい。
エチレン性不飽和化合物とは、エチレン性不飽和基を少なくとも1個以上有する化合物である。エチレン性不飽和化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、エチレン性不飽和化合物に属する化合物群は当産業分野において広く知られるものであり、本発明においてはこれらを特に制限無く用いることができる。これらは、例えば、モノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの共重合体、並びにそれらの混合物などの化学的形態をもつ。
成分Aとしては、2官能以上のエチレン性不飽和化合物(多官能エチレン性不飽和化合物)であることが好ましい。
【0017】
以下、エチレン性不飽和結合を分子内に1つ有する単官能モノマー、及び、エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する多官能モノマーについて説明する。
前記レリーフ形成層は、膜中に架橋構造を付与するために、多官能モノマーが好ましく使用される。これらの多官能モノマーの分子量は、200〜2,000であることが好ましい。
単官能モノマーとしては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と一価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と一価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。また、多官能モノマーとしては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。
また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類あるいはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。
【0018】
更に、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、さらにハロゲノ基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適に使用できる。
中でも、単官能モノマーとしては、エチレン性不飽和基を有するオリゴマーが好ましく挙げられ、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートが特に好ましく挙げられる。
【0019】
多官能モノマーとしては、末端エチレン性不飽和基を2個〜20個有する化合物が好ましい。
多官能モノマーにおけるエチレン不飽和基が由来する化合物の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基や、アミノ基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル、アミド類と多官能イソシアネート類、エポキシ類との付加反応物、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアナト基や、エポキシ基、等の親電子性置換基を有する、不飽和カルボン酸エステル、アミド類と単官能又は多官能のアルコール類、アミン類との付加反応物、ハロゲン基や、トシルオキシ基、等の脱離性置換基を有する、不飽和カルボン酸エステル、アミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、ビニル化合物、アリル化合物、不飽和ホスホン酸、スチレン等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0020】
上記の多官能モノマーに含まれるエチレン性不飽和基は、反応性の観点でアクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、アリル化合物の各残基が好ましく、アクリレート、メタクリレートが特に好ましい。また、耐刷性の観点からは多官能モノマーはエチレン性不飽和基を3個以上有することがより好ましい。
【0021】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等が挙げられる。
【0022】
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等が挙げられる。中でも、トリメチロールプロパントリメタクリレートが特に好ましい。
【0023】
その他のエステルの例として、例えば、特公昭46−27926号、特公昭51−47334号、特開昭57−196231号各公報記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240号、特開昭59−5241号、特開平2−226149号各公報記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613号公報記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。
上記エステルモノマーは混合物としても使用することができる。
【0024】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビスメタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等が挙げられる。
その他の好ましいアミド系モノマーの例としては、特公昭54−21726号公報記載のシクロへキシレン構造を有すものを挙げることができる。
【0025】
また、イソシアネートと水酸基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(i)で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
CH2=C(R)COOCH2CH(R’)OH (i)
(ただし、R及びR’は、それぞれ、H又はCH3を示す。)
【0026】
また、特開昭51−37193号、特公平2−32293号、特公平2−16765号各公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号、特公昭56−17654号、特公昭62−39417号、特公昭62−39418号各公報記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類も好適である。
更に、特開昭63−277653号、特開昭63−260909号、特開平1−105238号各公報に記載される、分子内にアミノ構造を有する付加重合性化合物類を用いることによって、短時間で硬化組成物を得ることができる。
【0027】
その他の例としては、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、特公昭46−43946号、特公平1−40337号、特公平1−40336号各公報記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号公報記載のビニルホスホン酸系化合物等も挙げることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号公報記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。さらに、日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0028】
これらの中でも、成分Aがトリメチロールプロパントリメタクリレート及び/又はメトキシポリエチレングリコールメタクリレートを含むことが好ましく、トリメチロールプロパントリメタクリレート及びメトキシポリエチレングリコールメタクリレートを含むことが特に好ましい。
【0029】
前記レリーフ形成層中に含まれる成分Aの含有量は、1〜90重量%が好ましく、10〜80重量%がより好ましく、20〜75重量%が更に好ましく、30〜70重量%が特に好ましい。上記範囲であると、レーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層は耐刷性に優れる。
【0030】
(成分B)熱重合開始剤
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層は、(成分B)熱重合開始剤を含有する。
熱重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
熱ラジカル重合開始剤としては、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物が好ましく用いられ、(c)有機過酸化物がより好ましく用いられる。特に、以下に示す化合物が好ましい。
【0031】
(c)有機過酸化物
本発明に用いることができるラジカル重合開始剤として、好ましい(c)有機過酸化物としては、3,3’4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましい。
【0032】
(l)アゾ系化合物
本発明に用いることができるラジカル重合開始剤として、好ましい(l)アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスプロピオニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等を挙げることができる。
【0033】
本発明における熱重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。
前記レリーフ形成層における熱重合開始剤の含有量は、レリーフ形成層の全重量に対し、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.1〜3重量%であることがより好ましい。
【0034】
(成分C)式(I)で表される化合物
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層は、カール抑制、耐刷性、リンス性、彫刻感度及びべとつき抑制の観点から、(成分C)式(I)で表される化合物を含有する。
【0035】
【化3】

(式(I)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、Z1はウレア基と共に、単環又は多環の環構造を形成する炭化水素基を表す。また、2つ以上の式(I)で表される化合物がZ1において結合又は縮環し、多量体を形成していてもよい。)
【0036】
前記R1及びR2で表されるアルキル基は、直鎖構造を有していても、分岐構造を有していてもよく、例えば、炭素数が1〜10のアルキル基を好適に用いることができる。本発明においては、R1及びR2で表されるアルキル基の炭素数としては、1〜4であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
前記R1及びR2で表されるシクロアルキル基としては、例えば、炭素数が3〜10のシクロアルキル基を好適に用いることができる。中でも、炭素数が3〜8であることがより好ましく、炭素数が3〜6であることが更に好ましい。
前記R1及びR2で表されるアラルキル基としては、例えば、炭素数が7〜10のアラルキル基を好適に挙げることができる。中でも、炭素数が7又は8のアラルキル基であることがより好ましい。
また、前記R1及びR2で表されるアリール基としては、炭素数が6〜14のアリール基を好適に挙げることができる。中でも、炭素数が6〜10のアリール基であることがより好ましい。
本発明においては、膜内における層状分離抑制の観点から、R1及びR2がそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数3〜6のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましい。
【0037】
前記式(I)におけるZ1は、ウレア基と共に単環又は多環の環構造を形成する炭化水素基であれば、特に制限はない。Z1の炭素数としては、2〜10であることが好ましい。中でも、Z1としては、炭素数が2〜4のアルキレン基であることが好ましく、炭素数が2又は3のアルキレン基であることがより好ましい。
1は、ウレア基と共に単環又は多環の環構造を形成するが、前記環構造は置換基を更に有していてもよく、また、他の環が縮合していてもよいし、2つ以上の式(I)で表される化合物がZ1において結合又は縮環し、多量体を形成していてもよい。多量体の一例としては、後述する(U−6)が挙げられる。
1が有していてもよい置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基又はケト基が例示できるが、アルキル基又はヒドロキシ基が好ましく、アルキル基がより好ましい。また、Z1には、2以上の置換基を有していてもよい。
【0038】
本発明における式(I)で表される化合物は、R1及びR2がそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数3〜6のシクロアルキル基であって、Z1が炭素数2〜4のアルキレン基であることが好ましく、R1及びR2がそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基であって、Z1が炭素数2又は3のアルキレン基であることがより好ましい。
【0039】
以下に、式(I)で表される化合物の具体例として(U−1)〜(U−16)を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0040】
【化4】

【0041】
【化5】

【0042】
【化6】

【0043】
これらの中でも、カール抑制、耐刷性、リンス性、彫刻感度及びべとつき抑制の観点から、(U−1)〜(U−11)又は(U−13)〜(U−16)が好ましく、(U−1)〜(U−9)又は(U−13)〜(U−16)がより好ましく、(U−1)〜(U−6)、(U−13)、(U−14)又は(U−16)が更に好ましく、(U−1)、(U−3)、(U−6)、(U−13)又は(U−16)が特に好ましい。
【0044】
本発明における式(I)で表される化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。
前記レリーフ形成層における(成分C)式(I)で表される化合物の含有量は、成分A100重量部に対して、1〜100重量部であることが好ましく、印刷性能保持の観点から、1〜50重量部であることがより好ましく、1〜30重量部であることが更に好ましい。
また、前記レリーフ形成層における(成分C)式(I)で表される化合物の含有量は、レリーフ形成層の全重量に対し、0.1〜40重量%であることが好ましく、0.5〜35重量%であることがより好ましく、1〜30重量%であることが更に好ましく、5〜30重量%であることが特に好ましい。
【0045】
(成分D)バインダーポリマー
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層は、膜強度、耐刷性を向上させる観点から、バインダーポリマーを含有することが好ましい。
また、前記バインダーポリマーの重量平均分子量は、5,000以上500,000未満であることが好ましい。
本発明に用いることができるバインダーポリマーとしては、特に限定されないが、後述する成分Fにおける加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種と反応して架橋構造を形成しうる官能基を分子内に含むバインダーポリマーを含有することが、高度な三次元架橋を形成する上で好ましい。
バインダーポリマーは、レーザー彫刻用樹脂組成物に含有される高分子成分であり、一般的な高分子化合物を適宜選択し、1種又は2種以上を併用して用いることができる。特に、レーザー彫刻用樹脂組成物を印刷版原版に用いる際は、レーザー彫刻性、インキ受与性、彫刻カス分散性などの種々の性能を考慮して選択することが必要である。
バインダーとしては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマー、アクリル樹脂、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどから選択して用いることができる。
【0046】
例えば、レーザー彫刻感度の観点からは、露光又は加熱により熱分解する部分構造を含むポリマーが好ましい。このようなポリマーは、特開2008−163081号公報の段落0038に記載されているものが好ましく挙げられる。また、例えば、柔軟で可撓性を有する膜形成が目的とされる場合には、軟質樹脂や熱可塑性エラストマーが選択される。特開2008−163081号公報の段落0039〜0040に詳述されている。更に、レーザー彫刻用樹脂組成物を、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における記録層に適用する場合であれば、レーザー彫刻用樹脂組成物の調製の容易性、得られたレリーフ印刷版における油性インクに対する耐性向上の観点から、親水性又は親アルコール性ポリマーを使用することが好ましい。親水性ポリマーとしては、特開2008−163081号公報の段落0041に詳述されているものを使用することができる。
【0047】
加えて、加熱や露光により硬化させ、強度を向上させる目的に使用する場合には、分子内に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーが好ましく用いられる。
このようなバインダーポリマーとして、主鎖に炭素−炭素不飽和結合を含むポリマーとしては、例えば、SB(ポリスチレン−ポリブタジエン)、SBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等が挙げられる。
側鎖に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーとしては、前記ポリマーの骨格に、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニルエーテル基のような炭素−炭素不飽和結合を側鎖に導入することで得られる。ポリマー側鎖に炭素−炭素不飽和結合を導入する方法は、(1)重合性基に保護基を結合させてなる重合性基前駆体を有する構造単位をポリマーに共重合させ、保護基を脱離させて重合性基とする方法、(2)水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基などの反応性基を複数有する高分子化合物を作製し、これらの反応性基と反応する基及び炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を高分子反応させて導入する方法など、公知方法をとることができる。これらの方法によれば、高分子化合物中への不飽和結合、重合性基の導入量を制御することができる。
【0048】
本発明に用いることができるバインダーポリマーは、本発明において記録層を構成するレリーフ形成層の好ましい併用成分である、後述する700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤と組み合わせた場合に、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上のものとすることで、彫刻感度が向上するため、特に好ましい。このようなガラス転移温度を有するポリマーを、以下、非エラストマーともいう。すなわち、エラストマーとは、一般的に、ガラス転移温度が常温以下のポリマーであるとして学術的に定義されている(科学大辞典 第2版、編者 国際科学振興財団、発行 丸善株式会社、P154参照)。従って、非エラストマーとはガラス転移温度が常温を超える温度であるポリマーを指す。バインダーポリマーのガラス転移温度の上限には制限はないが、200℃未満であることが取り扱い性の観点から好ましく、25℃以上120℃以下であることがより好ましい。
【0049】
ガラス転移温度が室温(20℃)以上のバインダーポリマーを用いる場合、バインダーポリマーは常温ではガラス状態をとるが、このためゴム状態をとる場合に比較して、熱的な分子運動はかなり抑制された状態にある。レーザー彫刻においては、レーザー照射時に、赤外線レーザーが付与する熱に加え、所望により併用される光熱変換剤の機能により発生した熱が、周囲に存在するバインダーポリマーに伝達され、これが熱分解、消散して、結果的に彫刻されて凹部が形成される。
特定ポリマーを用いた場合、バインダーポリマーの熱的な分子運動が抑制された状態の中に光熱変換剤が存在するとバインダーポリマーへの熱伝達と熱分解が効果的に起こるものと考えられ、このような効果によって彫刻感度が更に増大したものと推定される。
【0050】
バインダーポリマーとしては、水酸基(−OH)を有するポリマー(以下、「特定ポリマー」ともいう。)を用いることが特に好ましい。特定ポリマーの骨格としては、特に限定されないが、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマー、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。
水酸基を有するアクリル樹脂の合成に用いられるアクリル単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類(メタ)アクリルアミド類であって分子内にヒドロキシル基を有するものが好ましい。この様な単量体の具体例としては例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらと公知の(メタ)アクリル系モノマーやビニル系モノマーとを重合させた共重合体が好ましく用いることができる。
特定ポリマーとして、ヒドロキシ基を側鎖に有するエポキシ樹脂を用いることも可能である。好ましい具体例としては、ビスフェノールAとエピクロヒドリンとの付加物を原料モノマーとして重合して得られるエポキシ樹脂が好ましい。
ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸などのヒドロキシルカルボン酸ユニットからなるポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。このようなポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、乳酸系ポリマー、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンコハク酸)、これらの誘導体又は混合物よりなる群から選択されるものが好ましい。
【0051】
特定ポリマーとしては、後述する(成分F)加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物と反応しうる原子及び/又は基を有するポリマーであることが好ましく、後述する成分Fと反応しうる原子及び/又は基を有するポリマーであり、水不溶、かつ、炭素数1〜4のアルコールに可溶のバインダーポリマーであることがより好ましい。
後述する成分Fと反応しうる原子及び/又は基としては特に限定されないが、エチレン性不飽和結合、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、ヒドロキシ基が例示され、これらの中でも、ヒドロキシ基が好ましく例示される。
本発明における特定ポリマーとして、水性インキ適性とUVインキ適性を両立しつつ、かつ彫刻感度が高く皮膜性も良好であるという観点で、ポリビニルブチラール(PVB)、側鎖にヒドロキシ基を有するアクリル樹脂及び側鎖にヒドロキシル基を有するエポキシ樹脂等が好ましく例示される。
【0052】
本発明において好ましく用いられるバインダーポリマーの具体例を、以下に例示する。
【0053】
(1)ポリビニルアセタール及びその誘導体
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルを鹸化して得られる。)を環状アセタール化することにより得られる化合物である。また、ポリビニルアセタール誘導体は、前記ポリビニルアセタールを変性させたり、他の共重合成分を加えたものである。
ポリビニルアセタール中のアセタール含量(原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数を100%とし、アセタール化されるビニルアルコール単位のモル%)は、30〜90%が好ましく、50〜85%がより好ましく、55〜78%が特に好ましい。
ポリビニルアセタール中のビニルアルコール単位としては、原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数に対して、10〜70モル%が好ましく、15〜50モル%がより好ましく、22〜45モル%が特に好ましい。
また、ポリビニルアセタールは、その他の成分として、酢酸ビニル単位を有していてもよく、その含量としては0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜10モル%が更に好ましい。ポリビニルアセタール誘導体は、更に、その他の共重合単位を有していてもよい。
ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラール、ポリビニルプロピラール、ポリビニルエチラール、ポリビニルメチラールなどが挙げられる。中でも、ポリビニルブチラール(PVB)が好ましい。
ポリビニルブチラールは、通常、ポリビニルアルコールをブチラール化して得られるポリマーである。また、ポリビニルブチラール誘導体を用いてもよい。
ポリビニルブチラール誘導体の例として、水酸基の少なくとも一部をカルボキシル基等の酸基に変性した酸変性PVB、水酸基の一部を(メタ)アクリロイル基に変性した変性PVB、水酸基の少なくとも一部をアミノ基に変性した変性PVB、水酸基の少なくとも一部にエチレングリコールやプロピレングリコール及びこれらの複量体を導入した変性PVB等が挙げられる。
ポリビニルアセタールの分子量としては、彫刻感度と皮膜性のバランスを保つ観点で、重量平均分子量として5,000〜800,000であることが好ましく、より好ましくは8,000〜500,000である。更に、彫刻カスのリンス性向上の観点からは、50,000〜300,000であることが特に好ましい。
【0054】
以下、ポリビニルアセタールの特に好ましい例として、ポリビニルブチラール(PVB)及びその誘導体を挙げて説明するが、これに限定されない。
PVBとしては、市販品としても入手可能であり、その好ましい具体例としては、アルコール溶解性(特にエタノール溶解性)の観点で、積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズ、「エスレックK(KS)」シリーズ、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」が好ましい。更に好ましくは、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズと電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」であり、特に好ましくは積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズでは、「BL−1」、「BL−1H」、「BL−2」、「BL−5」、「BL−S」、「BX−L」、「BM−S」、「BH−S」、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」では「#3000−1」、「#3000−2」、「#3000−4」、「#4000−2」、「#6000−C」、「#6000−EP」、「#6000−CS」、「#6000−AS」である。
PVBを特定ポリマーとして用いて記録層を製膜する際には、溶媒に溶かした溶液をキャストし乾燥させる方法が、膜の表面の平滑性の観点で好ましい。
【0055】
上記ポリビニルアセタール及びその誘導体のほか、特定ポリマーとしては、公知のアクリル単量体を用いて得るアクリル樹脂であって、分子内にヒドロキシル基を有するものを用いることもできる。また、特定ポリマーとして、フェノール類とアルデヒド類を酸性条件下で縮合させた樹脂であるノボラック樹脂を用いることもできる。また、特定ポリマーとして、ヒドロキシル基を側鎖に有するエポキシ樹脂を用いることも可能である。
【0056】
特定ポリマーの中でも、記録層としたときのリンス性及び耐刷性の観点でポリビニルブチラール及びその誘導体が特に好ましい。
本発明における特定ポリマーに含まれるヒドロキシ基の含有量は、前記いずれの態様のポリマーにおいても、0.1〜15mmol/gであることが好ましく、0.5〜7mmol/gであることがより好ましい。
前記レリーフ形成層においては、バインダーポリマーを1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明に用いることができるバインダーポリマーの重量平均分子量(GPC測定によるポリスチレン換算)は5,000〜1,000,000であることが好ましく、8,000〜750,000であることが更に好ましく、10,000〜500,000であることが最も好ましい。
本発明に用いることができる前記レリーフ形成層における特定ポリマーの好ましい含有量は、塗膜の形態保持性と耐水性と彫刻感度をバランスよく満足する観点で、前記レリーフ形成層の全重量に対し、2〜95重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜80重量%、特に好ましくは10〜60重量%である。
前記レリーフ形成層におけるバインダーポリマーの含有量は、塗膜の形態保持性と耐水性と彫刻感度とをバランスよく満足する観点で、前記レリーフ形成層の全重量に対し、0〜80重量%の範囲であることが好ましく、5〜60重量%の範囲であることがより好ましく、10〜40重量%であることが特に好ましい。
【0057】
(成分E)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層は、(成分E)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤(単に「光熱変換剤」ともいう。)を更に含有することが好ましい。すなわち、本発明における光熱変換剤は、レーザーの光を吸収し発熱することで、レーザー彫刻時の硬化物の熱分解を促進すると考えられる。このため、彫刻に用いるレーザー波長の光を吸収する光熱変換剤を選択することが好ましい。
【0058】
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を、700〜1,300nmの赤外線を発するレーザー(YAGレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー、面発光レーザー等)を光源としてレーザー彫刻に用いる場合に、700〜1,300nmに極大吸収波長を有する化合物を好適に用いることができる。
本発明における成分Eとしては、種々の染料又は顔料が用いられる。
【0059】
光熱変換剤のうち、染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、700〜1,300nmに極大吸収波長を有するものが挙げられ、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、ジインモニウム化合物、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が好ましく挙げられる。本発明において好ましく用いられる染料としては、ヘプタメチンシアニン色素等のシアニン系色素、ペンタメチンオキソノール色素等のオキソノール系色素、フタロシアニン系色素及び特開2008−63554号公報の段落0124〜0137に記載の染料を挙げることができる。
【0060】
本発明において使用される光熱変換剤のうち、顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。また、顔料としては、特開2009−178869号公報の段落0122〜0125に記載の顔料が例示できる。
これらの顔料のうち、好ましいものはカーボンブラックである。
【0061】
カーボンブラックは、組成物中における分散性などが安定である限り、ASTMによる分類のほか、用途(例えば、カラー用、ゴム用、乾電池用など)の如何に拘らずいずれも使用可能である。カーボンブラックには、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなどが含まれる。なお、カーボンブラックなどの黒色着色剤は、分散を容易にするため、必要に応じて分散剤を用い、予めニトロセルロースやバインダーなどに分散させたカラーチップやカラーペーストとして使用することができ、このようなチップやペーストは市販品として容易に入手できる。また、カーボンブラックとしては、特開2009−178869号公報の段落0130〜0134に記載されたものが例示できる。
【0062】
前記レリーフ形成層中おける(成分E)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤の含有量は、その分子固有の分子吸光係数の大きさにより大きく異なるが、レリーフ形成層の全重量に対し、0.01〜30重量%が好ましく、0.05〜20重量%がより好ましく、0.1〜10重量%が特に好ましい。
【0063】
(成分F)加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層は、(成分F)加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物を含有することが好ましい。
成分Fにおける「加水分解性シリル基」とは、加水分解性基を有するシリル基のことであり、加水分解性基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、ハロゲノ基、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、イソプロペノキシ基等を挙げることができる。シリル基は加水分解してシラノール基となり、シラノール基は脱水縮合してシロキサン結合が生成する。このような加水分解性シリル基又はシラノール基は下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0064】
【化7】

【0065】
前記式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、ヒドロキシル基、水素原子、又は、1価の有機基を表す。ただし、R1〜R3の少なくともいずれか1つは、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシル基を表す。
1〜R3が1価の有機基を表す場合の好ましい有機基としては、種々の有機溶媒への溶解性を付与できる観点から、炭素数1〜30のアルキル基が挙げられる。
前記式(1)中、ケイ素原子に結合する加水分解性基としては、特にアルコキシ基、ハロゲン原子が好ましい。
アルコキシ基としては、リンス性と耐刷性の観点から炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜15のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1〜5のアルコキシ基が更に好ましく、炭素数1〜3のアルコキシ基が特に好ましい。
また、ハロゲン原子としては、F原子、Cl原子、Br原子、I原子が挙げられ、合成のしやすさ及び安定性の観点で、Cl原子及びBr原子が好ましく、Cl原子がより好ましい。
【0066】
本発明における「(成分F)加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物」は、前記式(1)で表される基を少なくとも1つ以上有する化合物であることが好ましく、少なくとも2つ以上有する化合物であることがより好ましい。特に加水分解性シリル基を少なくとも2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。すなわち、分子内にケイ素原子を2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。化合物中に含まれるケイ素原子の数は2以上6以下が好ましく、2又は3が最も好ましい。
前記加水分解性基は、1個のケイ素原子に1〜3個の範囲で結合することができ、式(1)中における加水分解性基の総個数は2又は3の範囲であることが好ましく、3つの加水分解性基がケイ素原子に結合していることが特に好ましい。加水分解性基がケイ素原子に2個以上結合するときは、それらは互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0067】
前記アルコキシ基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ベンジルオキシ基などを挙げることができる。アルコキシ基の結合したアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基などのジメトキシシリル基;メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基などのモノアルコキシシリル基を挙げることができる。これらの各アルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよいし、異なるアルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよい。
前記アリールオキシ基としては、具体的には、例えば、フェノキシ基などを挙げることができる。アリールオキシ基の結合したアリールオキシシリル基としては、例えば、トリフェノキシシリル基などのトリアリールオキシシリル基を挙げることができる。
【0068】
本発明における成分Fの好ましい例としては、複数の前記式(1)で表される基が連結基を介して結合している化合物が挙げられ、このような連結基としては、効果の観点からスルフィド基、イミノ基、又は、ウレイレン基を含んで構成される連結基が好ましい。
スルフィド基、イミノ基、又は、ウレイレン基を有する連結基を含む成分Fの代表的な合成方法を以下に示す。
【0069】
〔スルフィド基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物の合成法〕
スルフィド基を含む連結基を有する成分F(以下、適宜、スルフィド連結基含有成分Fともいう。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Fと硫化アルカリの反応、メルカプト基を有する成分Fとハロゲン化炭化水素の反応、メルカプト基を有する成分Fとハロゲン化炭化水素基を有する成分Fの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Fとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Fとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Fとメルカプト基を有する成分Fの反応、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とメルカプト基を有する成分Fの反応、ケトン類とメルカプト基を有する成分Fの反応、ジアゾニウム塩とメルカプト基を有する成分Fの反応、メルカプト基を有する成分Fとオキシラン類との反応、メルカプト基を有する成分Fとオキシラン基を有する成分Fの反応、メルカプタン類とオキシラン基を有する成分Fの反応、及び、メルカプト基を有する成分Fとアジリジン類との反応等から選択される合成法のいずれかにより合成される。
【0070】
〔イミノ基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物の合成法〕
イミノ基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物(以下、適宜、イミノ連結基含有成分Fともいう。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、アミノ基を有する成分Fとハロゲン化炭化水素の反応、アミノ基を有する成分Fとハロゲン化炭化水素基を有する成分Fの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Fとアミン類の反応、アミノ基を有する成分Fとオキシラン類との反応、アミノ基を有する成分Fとオキシラン基を有する成分Fの反応、アミン類とオキシラン基を有する成分Fの反応、アミノ基を有する成分Fとアジリジン類との反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Fとアミン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Fとアミノ基を有する成分Fの反応、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Fの反応、アセチレン性不飽和三重結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Fの反応、イミン性不飽和二重結合を有する成分Fと有機アルカリ金属化合物の反応、イミン性不飽和二重結合を有する成分Fと有機アルカリ土類金属化合物の反応、及び、カルボニル化合物とアミノ基を有する成分Fの反応等から選択される合成法のいずれかにより合成される。
【0071】
〔ウレイレン基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物の合成法〕
ウレイレン基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物(以下、適宜、ウレイレン連結基含有成分Fともいう。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、アミノ基を有する成分Fとイソシアン酸エステル類の反応、アミノ基を有する成分Fとイソシアン酸エステルを有する成分Fの反応、及び、アミン類とイソシアン酸エステルを有する成分Fの反応等から選択される合成法のいずれかにより合成される。
【0072】
本発明における成分Fとしては、(F−1)シランカップリング剤を用いることが好ましい。
(F−1)シランカップリング剤
以下、本発明における成分Fとして好適な(F−1)シランカップリング剤について説明する。
本発明においては、Si原子に、アルコキシ基又はハロゲノ基が少なくとも1つ直接結合した官能基をシランカップリング基と呼び、このシランカップリング基を分子中に1つ以上有している化合物をシランカップリング剤ともいう。シランカップリング基は、Si原子にアルコキシ基又はハロゲン原子が2つ以上直接結合したものが好ましく、3つ以上直接結合したものが特に好ましい。
本発明の樹脂組成物においては、成分Fにおける加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種、好ましくは、(F−1)シランカップリング剤におけるシランカップリング基が、バインダーポリマー中の反応性官能基等、例えば、水酸基(−OH)であれば、この水酸基とアルコール交換反応を起こし、架橋構造を形成する。その結果、バインダーポリマーの分子同士がシランカップリング剤を介して3次元的に架橋される。
本発明における好ましい態様である(F−1)シランカップリング剤においては、Si原子に直接結合している官能基として、アルコキシ基及びハロゲン原子の少なくとも1つ以上の官能基を有することが必須であり、化合物の取り扱いやすさの観点からは、アルコキシ基を有するものが好ましい。
ここで、アルコキシ基としては、リンス性と耐刷性の観点から、炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜15のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1〜5のアルコキシ基が直に好ましい。
また、ハロゲン原子として、F原子、Cl原子、Br原子、I原子が挙げられ、合成のしやすさ及び安定性の観点で、Cl原子及びBr原子が好ましく、Cl原子がより好ましい。
【0073】
本発明におけるシランカップリング剤は、膜の架橋度と柔軟性のバランスを良好に保つ観点で、上記シランカップリング基を分子内に1個以上10個以下含むことが好ましく、1個以上5個以下含むことがより好ましく、2個以上4個以下含むことが特に好ましい。
シランカップリング基が2つ以上ある場合には、シランカップリング基同士が連結基で連結されていることが好ましい。連結基としては、ヘテロ原子や炭化水素などの置換基を有してもよい2価以上の有機基が挙げられ、彫刻感度が高い点ではヘテロ原子(N、S、O)を含む態様が好ましく、S原子を含む連結基が特に好ましい。
このような観点からは、本発明におけるシランカップリング剤として、アルコキシ基としてメトキシ基又はエトキシ基、中でもメトキシ基がSi原子に結合したシランカップリング基を分子内に2個有し、かつ、これらシランカップリング基が、ヘテロ原子(特に好ましくはS原子)を含むアルキレン基を介して結合している化合物が好適である。より具体的には、スルフィド基を含む連結基を有するものが好ましい。
また、シランカップリング基同士を連結する連結基の他の好ましい態様として、オキシアルキレン基を有する連結基が挙げられる。連結基がオキシアルキレン基を含むことで、レーザー彫刻後の彫刻カスのリンス性が向上する。オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基が好ましく、オキシエチレン基が複数連結されたポリオキシエチレン鎖がより好ましい。ポリオキシエチレン鎖におけるオキシエチレン基の総数としては、2〜50が好ましく、3〜30がより好ましく、4〜15が特に好ましい。
【0074】
本発明に用いることができるシランカップリング剤の具体例を以下に示す。本発明におけるシランカップリング剤としては、例えば、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)デカン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ウレア、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができ、そのほかにも、以下の式で示す化合物が好ましいものとして挙げられるが、本発明はこれらの化合物に制限されるものではない。
【0075】
【化8】

【0076】
【化9】

【0077】
【化10】

【0078】
【化11】

【0079】
【化12】

【0080】
前記各式中、Rは以下の構造から選択される部分構造を表す。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。また、下記化学式中、Etはエチル基を表し、Meはメチル基を表す。
【0081】
【化13】

【0082】
【化14】

【0083】
前記各式中、Rは以下に示す部分構造を表す。R1は前記したものと同義である。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。
【0084】
【化15】

【0085】
成分Fは、適宜合成して得ることも可能であるが、市販品を用いることがコストの面から好ましい。成分Fとしては、例えば、信越化学工業(株)、東レ・ダウコーニング(株)、モメンティブパフォーマンスマテリアルズ(株)、チッソ(株)等から市販されているシラン製品、シランカップリング剤などの市販品がこれに相当するため、本発明の組成物に、これら市販品を、目的に応じて適宜選択して使用してもよい。
【0086】
本発明におけるシランカップリング剤として、前記化合物の他、1種のシランを用いて得られた部分加水分解縮合物、及び、2種以上のシランを用いて得られた部分共加水分解縮合物を用いることができる。以下、これらの化合物を「部分(共)加水分解縮合物」ともいうことがある。
【0087】
このような部分(共)加水分解縮合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリス(メトキシプロポキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、へキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、シアノエチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシラン又はアセチルオキシシラン、エトキサリルオキシシラン等のアシロキシシランからなるシラン化合物から選択される1種以上を前駆体として用いて得られた部分(共)加水分解縮合物を挙げることができる。
【0088】
これらの部分(共)加水分解縮合物前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、膜の相溶性の観点から、ケイ素上の置換基としてメチル基及びフェニル基から選択される置換基を有するシラン化合物であることが好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが好ましい前駆体として例示される。
【0089】
この場合、部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物の2量体(シラン化合物2モルに水1モルを作用させてアルコール2モルを脱離させ、ジシロキサン単位としたもの)〜100量体、好ましくは2量体〜50量体、更に好ましくは2量体〜30量体としたものが好適に使用できるし、2種以上のシラン化合物を原料とする部分(共)加水分解縮合物を使用することも可能である。
【0090】
なお、このような部分(共)加水分解縮合物はシリコーンアルコキシオリゴマーとして市販されているものを使用してもよく(例えば、信越化学工業(株)などから市販されている。)、また、常法に基づき、加水分解性シラン化合物に対し当量未満の加水分解水を反応させた後に、アルコール、塩酸等の副生物を除去することによって製造したものを使用してもよい。製造に際しては、前駆体となる原料の加水分解性シラン化合物として、例えば、上記したようなアルコキシシラン類やアシロキシシラン類を使用する場合は、塩酸、硫酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミン等のアルカリ性有機物質等を反応触媒として部分加水分解縮合すればよく、クロロシラン類から直接製造する場合には、副生する塩酸を触媒として水及びアルコールを反応させればよい。
【0091】
成分Fの好ましい具体例としては、下記に示す化合物が挙げられるが、本発明はこれらの化合物に制限されるものではない。なお、下記化学式中、Etはエチル基を表し、Meはメチル基を表す。
【0092】
【化16】

【0093】
前記レリーフ形成層における成分Fは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記レリーフ形成層中に含まれる成分Fの含有量は、レリーフ形成層の全重量に対し、0.1〜80重量%の範囲であることが好ましく、0.5〜50重量%の範囲であることがより好ましく、1〜40重量%の範囲であることが特に好ましい。
【0094】
(成分G)アルコール交換反応触媒
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層は、(成分G)アルコール交換反応触媒を更に含有することが好ましい。特に、前記レリーフ形成層は、成分Fと成分Gとを共に含有することが好ましい。
アルコール交換反応触媒は、シランカップリング反応において一般に用いられる反応触媒であれば、限定なく適用できる。以下、代表的なアルコール交換反応触媒である(成分G−1)酸又は塩基性触媒、及び、(成分G−2)金属錯体触媒について順次説明する。
【0095】
(成分G−1)酸又は塩基性触媒
触媒としては、酸又は塩基性化合物をそのまま用いるか、又は水若しくは有機溶剤などの溶媒に溶解させた状態のもの(以下、それぞれ酸性触媒、塩基性触媒ともいう。)を用いる。溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸又は塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよい。
酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸、リン酸、ヘテロポリ酸、無機固体酸などが挙げられる。
塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、アミン類、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類酸化物、第四級アンモニウム塩化合物、第四級ホスホニウム塩化合物などが挙げられる。
【0096】
アミン類としては、(a)ヒドラジン等の水素化窒素化合物;(b)脂肪族アミン、脂環式アミン又は芳香族アミン;(c)縮合環を含む環状アミン;(d)アミノ酸類、アミド類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミド類又はラクタム類等の含酸素アミン;(e)S、Se等のヘテロ原子を有する含ヘテロ元素アミン;が挙げられる。
【0097】
(b)の脂肪族アミンとしては、式(G−1)で表されるアミン化合物が好ましい。
N(Rd1)(Rd2)(Rd3) (G−1)
式(G−1)中、Rd1〜Rd3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖又は分岐を有するアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、環員数3〜10の硫黄原子又は酸素原子を含む複素環(チオフェン)を表し、前記アルキル基、シクロアルキル基は少なくとも1つの不飽和結合を有していてもよい。
式(G−1)で表されるアミン化合物は置換基を有していてもよく、該置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキル基を有する(ジ)アルキルアミノ基、ヒドロキシ基が挙げられる。
前記Rd1〜Rd3のうちの2以上の基が結合してC=N結合を形成してもよい。C=N結合を有するアミン化合物として、グアニジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンが挙げられる。
(b)の脂環式アミンとしては、前記式(G−1)で表される化合物中のRd1〜Rd3のうちの2以上の基が結合した環骨格に窒素原子を含む脂環式アミンが挙げられる。脂環式アミンとしては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、キヌクリジンが挙げられる。
(b)の芳香族アミンとしては、イミダゾール、ピロール、ピリジン、ピリダジン、ピラジン、プリン、キノリン、キナゾリンが挙げられる。芳香族アミンは置換基を有していてもよく、該置換基としては、式(G−1)における置換基が挙げられる。
また、同一又は異なる2個以上の脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミンが結合して、ジアミン、トリアミン等のポリアミンを形成してもよい。ポリアミンとしては、脂肪族アミン同士が結合したポリアミンが好ましく、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ポリエチレンイミン(エポミン、日本触媒(株)製)が挙げられる。本発明において、D成分として、ポリアミンが好ましく、ポリエチレンイミンがより好ましい。
【0098】
前記(c)縮合環を含む環状アミンとは、少なくとも1つの窒素原子が縮合環を形成する環骨格に含まれる環状アミンであり、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが挙げられ、中でも、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましい。
前記(d)アミノ酸類、アミド類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミド類又はラクタム類等の含酸素アミンとしては、フタルイミド、2,5−ピペラジンジオン、マレイミド、カプロラクタム、ピロリドン、モルホリン、グリシン、アラニン、フェニルアラニンが挙げられる。
なお、(c)及び(d)は式(G−1)で表される化合物における前記置換基を有していてもよく、中でも炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
本発明において、アミン化合物は、(b)、(c)が好ましい。(b)としては、脂肪族アミンが好ましく、脂肪族アミンのポリアミンがより好ましく、ポリエチレンイミンが更に好ましい。(c)としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましい。
【0099】
熱架橋後の膜強度の観点から、アミン類として好ましいpKaH(共役酸の酸解離定数)の範囲としては、7以上が好ましく、10以上がより好ましい。
【0100】
前記酸又は塩基性触媒の中でも、膜中でのアルコール交換反応を速やかに進行させる観点で、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウムp−トルエンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホン酸、リン酸、ホスホン酸、酢酸、ポリエチレンイミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンが好ましく、特に好ましくは、リン酸、ポリエチレンイミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンである。
【0101】
(G−2)金属錯体触媒
本発明においてアルコール交換反応触媒として用いられる(G−2)金属錯体触媒は、好ましくは、周期律表の2、4、5及び13族から選ばれる金属元素とβ−ジケトン、ケトエステル、ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル、アミノアルコール、エノール性活性水素化合物の中から選ばれるオキソ又はヒドロキシ酸素化合物から構成されるものである。
更に、構成金属元素の中では、Mg、Ca、St、Baなどの2族元素、Ti、Zrなどの4族元素、V、Nb及びTaなどの5族元素及びAl、Gaなどの13族元素が好ましく、それぞれ触媒効果の優れた錯体を形成する。これらの中でも、Zr、Al又はTiから得られる錯体が好ましく、例えば、オルトチタン酸エチルなどが例示できる。
上記金属錯体の配位子を構成するオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物は、本発明においては、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、2,4−ヘプタンジオンなどのβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチルなどのケトエステル類、乳酸、乳酸メチル、サリチル酸、サリチル酸エチル、サリチル酸フェニル、リンゴ酸、酒石酸、酒石酸メチルなどのヒドロキシカルボン酸及びそのエステル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ヘプタノンなどのケトアルコール類、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミノアルコール類、メチロールメラミン、メチロール尿素、メチロールアクリルアミド、マロン酸ジエチルエステルなどのエノール性活性化合物、アセチルアセトンのメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物が挙げられる。
【0102】
好ましい配位子はアセチルアセトン誘導体であり、アセチルアセトン誘導体は、本発明においては、アセチルアセトンのメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物を指す。アセチルアセトンのメチル基に置換する置換基としては、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のアルキル基、アシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基であり、アセチルアセトンのメチレン基に置換する置換基としてはカルボキシル基、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のカルボキシアルキル基及びヒドロキシアルキル基であり、アセチルアセトンのカルボニル炭素に置換する置換基としては炭素数が1〜3のアルキル基であってこの場合はカルボニル酸素には水素原子が付加して水酸基となる。
【0103】
好ましいアセチルアセトン誘導体の具体例としては、アセチルアセトン、エチルカルボニルアセトン、n−プロピルカルボニルアセトン、i−プロピルカルボニルアセトン、ジアセチルアセトン、1−アセチル−1−プロピオニル−アセチルアセトン、ヒドロキシエチルカルボニルアセトン、ヒドロキシプロピルカルボニルアセトン、アセト酢酸、アセトプロピオン酸、ジアセト酢酸、3,3−ジアセトプロピオン酸、4,4−ジアセト酪酸、カルボキシエチルカルボニルアセトン、カルボキシプロピルカルボニルアセトン、ジアセトンアルコールが挙げられ、中でも、アセチルアセトン及びジアセチルアセトンが好ましい。該アセチルアセトン誘導体と上記金属元素の錯体は、金属元素1個当たりにアセチルアセトン誘導体が1〜4分子配位する単核錯体であり、金属元素の配位可能の手がアセチルアセトン誘導体における配位可能結合手の数の総和よりも多い場合には、水分子、ハロゲン化物イオン、ニトロ基、アンモニオ基など通常の錯体に汎用される配位子が配位してもよい。
【0104】
好ましい金属錯体の例としては、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)アルミニウム・アクア錯塩、モノ(アセチルアセトナト)アルミニウム・クロロ錯塩、ジ(ジアセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、トリス(アセチルアセトナト)バリウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、トリス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリス(安息香酸)錯塩、等が挙げられる。これらは水系塗布液での安定性及び、加熱乾燥時のゾルゲル反応でのゲル化促進効果に優れているが、中でも、特にエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)が好ましい。
【0105】
前記レリーフ形成層には、(成分G)アルコール交換反応触媒を1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
前記レリーフ形成層における(成分G)アルコール交換反応触媒の含有量は、レリーフ形成層の全重量に対し、0.01〜20重量%であることが好ましく、0.1〜10重量%であることがより好ましい。
【0106】
<その他の添加剤>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層には、前記成分A〜成分G以外の添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。例えば、香料、重合性化合物、重合開始剤、充填剤、可塑剤、ワックス、プロセス油、有機酸、金属酸化物、オゾン分解防止剤、老化防止剤、熱重合防止剤、着色剤等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、前記レリーフ形成層には、後述するような層形成時に使用する溶剤を、露光、現像及び印刷版としての使用に影響のない量であれば、含んでいてもよいが、含まないか、含んでいても0.1重量%未満であることが好ましい。
【0107】
前記レリーフ形成層は、可塑剤を含有してもよい。
可塑剤は、前記レリーフ形成層を柔軟化する作用を有するものであり、バインダーポリマーに対して相溶性のよいものである必要がある。
可塑剤としては、例えばジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート等や、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)好ましく用いられる。
また、前記レリーフ形成層は、彫刻感度向上のための添加剤として、ニトロセルロースや高熱伝導性物質を含んでいてもよい。
ニトロセルロースは自己反応性化合物であるため、レーザー彫刻時、自身が発熱し、共存する親水性ポリマー等のバインダーポリマーの熱分解をアシストする。その結果、彫刻感度が向上すると推定される。
高熱伝導性物質は、熱伝達を補助する目的で添加され、熱伝導性物質としては、金属粒子等の無機化合物、導電性ポリマー等の有機化合物が挙げられる。金属粒子としては、粒径がマイクロメートルオーダーから数ナノメートルオーダーの、金微粒子、銀微粒子、銅微粒子が好ましい。導電性ポリマーとしては、特に共役ポリマーが好ましく、具体的には、ポリアニリン、ポリチオフェンが挙げられる。
また、共増感剤を用いることで、レーザー彫刻用樹脂組成物を光硬化させる際の感度を更に向上させることができる。
更に、前記レリーフ形成層の作製に使用する組成物の製造中又は保存中において重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合禁止剤を添加することが好ましい。
前記レリーフ形成層の着色を目的として染料若しくは顔料等の着色剤を添加してもよい。これにより、画像部の視認性や、画像濃度測定機適性といった性質を向上させることができる。
更に、前記レリーフ形成層の硬化膜、すなわち、架橋レリーフ形成層の物性を改良するために充填剤等の公知の添加剤を加えてもよい。
【0108】
前記レリーフ形成層は、成分A〜成分Cを少なくとも含む層であり、架橋性の層である。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版によるレリーフ印刷版の作製態様としては、レリーフ形成層を架橋させて架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版とした後、架橋レリーフ形成層(硬質のレリーフ形成層)をレーザー彫刻することによりレリーフ層を形成してレリーフ印刷版を作製する態様であることが好ましい。レリーフ形成層を架橋することにより、印刷時におけるレリーフ層の摩耗を防ぐことができ、また、レーザー彫刻後にシャープな形状のレリーフ層を有するレリーフ印刷版を得ることができる。
【0109】
レリーフ形成層は、レリーフ形成層用の前記の如き成分を有するレーザー彫刻用樹脂組成物を、シート状又はスリーブ状に成形することで形成することができる。レリーフ形成層は、通常、後述する支持体上に設けられるが、製版、印刷用の装置に備えられたシリンダーなどの部材表面に直接形成したり、そこに配置して固定化したりすることもでき、必ずしも支持体を必要としない。
以下、主としてレリーフ形成層をシート状にした場合を例に挙げて説明する。
【0110】
<接着層>
レリーフ形成層を支持体上に形成する場合、両者の間には、層間の接着力を強化する目的で接着層を設けてもよい。
接着層に用いることができる材料(接着剤)としては、例えば、I.Skeist編、「Handbook of Adhesives」、第2版(1977)に記載のものを用いることができる。
【0111】
<保護フィルム、スリップコート層>
レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面への傷や凹み防止の目的で、レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面に保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの厚さは、25〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。保護フィルムは、例えば、PETのようなポリエステル系フィルム、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のようなポリオレフィン系フィルムを用いることができる。またフィルムの表面はマット化されていてもよい。保護フィルムは、剥離可能であることが好ましい。
【0112】
保護フィルムが剥離不可能な場合や、逆にレリーフ形成層に接着しにくい場合には、両層間にスリップコート層を設けてもよい。スリップコート層に使用される材料は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂など、水に溶解又は分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0113】
<レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層の形成は、特に限定されるものではないが、例えば、成分A〜成分Cを少なくとも含む組成物を調製し、必要に応じて、この組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法が挙げられる。あるいは、レーザー彫刻用樹脂組成物を、支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して樹脂組成物から溶剤を除去する方法でもよい。
中でも、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、成分A〜成分Cを少なくとも含む組成物よりレリーフ形成層を形成する層形成工程を含む製造方法であることが好ましい。
また、レリーフ形成層を架橋した架橋レリーフ形成層を有する本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、成分A〜成分Cを少なくとも含む組成物よりレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、前記レリーフ形成層を熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程を含む製造方法であることが好ましい。
【0114】
その後、必要に応じてレリーフ形成層の上に保護フィルムをラミネートしてもよい。ラミネートは、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムとレリーフ形成層を圧着することや、表面に少量の溶媒を含浸させたレリーフ形成層に保護フィルムを密着させることによって行うことができる。
保護フィルムを用いる場合には、先ず保護フィルム上にレリーフ形成層を積層し、次いで支持体をラミネートする方法を採ってもよい。
接着層を設ける場合は、接着層を塗布した支持体を用いることで対応できる。スリップコート層を設ける場合は、スリップコート層を塗布した保護フィルムを用いることで対応できる。
【0115】
<層形成工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、成分A〜成分Cを少なくとも含む組成物よりレリーフ形成層を形成する層形成工程を含むことが好ましい。
レリーフ形成層の形成方法としては、成分A〜成分Cを少なくとも含む組成物を調製し、必要に応じて、前記組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法や、成分A〜成分Cを少なくとも含む組成物を調製し、前記組成物を支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して溶剤を除去する方法が好ましく例示できる。
前記組成物(レーザー彫刻用組成物)は、例えば、成分A及び成分C、並びに、任意成分として、成分D〜成分G等を適当な溶剤に溶解させ、次いで、成分Bを溶解させることによって好ましく製造することができる。
【0116】
レリーフ形成層の作製に好適に使用することができる前記組成物は、溶剤を含有していてもよい。
前記組成物を調製する際に用いる溶剤は、各成分の溶解性の観点から、主として非プロトン性の有機溶剤を用いることが好ましい。より具体的には、非プロトン性の有機溶剤/プロトン性有機溶剤=100/0〜50/50(重量比)で用いることが好ましい。より好ましくは100/0〜70/30、特に好ましくは100/0〜90/10である。
非プロトン性の有機溶剤の好ましい具体例は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドである。
プロトン性有機溶剤の好ましい具体例は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオールである。
これらの中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0117】
<架橋工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、前記レリーフ形成層を熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程を含む製造方法であることが好ましい。
前記架橋工程において、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を加熱することで、レリーフ形成層を架橋することができる(熱により架橋する工程)。
加熱手段としては、印刷版原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
【0118】
レリーフ形成層を架橋することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。未架橋のレリーフ形成層をレーザー彫刻すると、レーザー照射部の周辺に伝播した余熱により、本来意図していない部分が溶融、変形しやすく、シャープなレリーフ層が得られない場合がある。また、素材の一般的な性質として、低分子なものほど固形ではなく液状になり、すなわち粘着性が強くなる傾向がある。レリーフ形成層を彫刻する際に発生する彫刻カスは、低分子の材料を多く用いるほど粘着性が強くなる傾向がある。低分子である重合性化合物は架橋することで高分子になるため、発生する彫刻カスは粘着性が少なくなる傾向がある。
【0119】
前記架橋工程は、熱により架橋する工程であるので、特別高価な装置を必要としない利点があるが、印刷版原版が高温になるので、高温で柔軟になる熱可塑性ポリマーは加熱中に変形する可能性がある等、使用する原材料は慎重に選択する必要がある。
熱架橋の際には、熱重合開始剤だけでなく、代表的な加硫剤も架橋用に使用できる。熱架橋性(heat−curable)の樹脂、例えば、エポキシ樹脂を架橋成分として層に加えることにより熱架橋も実施されうる。
【0120】
(レリーフ印刷版及びその製版方法)
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、架橋レリーフ形成層を有する本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程を含むことが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、成分A〜成分Cを少なくとも含む組成物よりレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程、を含むことがより好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における前記レリーフ形成層を架橋及びレーザー彫刻して得られたレリーフ層を有するレリーフ印刷版であり、本発明のレリーフ印刷版の製版方法により製版されたレリーフ印刷版であることが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、水性インキや溶剤インキ、UVインキ等の様々なインキを使用する印刷時に好適に使用することができる。
本発明のレリーフ印刷版の製版方法における層形成工程及び架橋工程は、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法における層形成工程及び架橋工程と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0121】
<彫刻工程>
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程を含むことが好ましい。
彫刻工程は、前記架橋工程で架橋された架橋レリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、架橋された架橋レリーフ形成層に対して、所望の画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成することが好ましい。また、所望の画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、架橋レリーフ形成層に対して走査照射する工程が好ましく挙げられる。
この彫刻工程には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、架橋レリーフ形成層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、架橋レリーフ形成層中の分子は分子切断又はイオン化されて選択的な除去、すなわち、彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く又はショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度で架橋レリーフ形成層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。
【0122】
彫刻工程に用いられる赤外レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)又は半導体レーザーが好ましい。特に、ファイバー付き半導体赤外線レーザー(FC−LD)が好ましく用いられる。一般に、半導体レーザーは、CO2レーザーに比べレーザー発振が高効率且つ安価で小型化が可能である。また、小型であるためアレイ化が容易である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。
半導体レーザーとしては、波長が700〜1,300nmのものが好ましく、800〜1,200nmのものがより好ましく、860〜1,200nmのものが更に好ましく、900〜1,100nmのものが特に好ましい。
【0123】
また、ファイバー付き半導体レーザーは、更に光ファイバーを取り付けることで効率よくレーザー光を出力できるため、本発明における彫刻工程には有効である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。例えば、ビームプロファイルはトップハット形状とすることができ、安定に版面にエネルギーを与えることができる。半導体レーザーの詳細は、「レーザーハンドブック第2版」レーザー学会編、実用レーザー技術 電子通信学会等に記載されている。
また、本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製版方法に好適に用いることができるファイバー付き半導体レーザーを備えた製版装置は、特開2009−172658号公報及び特開2009−214334号公報に詳細に記載され、これを本発明に係るレリーフ印刷版の製版に使用することができる。
【0124】
本発明のレリーフ印刷版の製版方法では、彫刻工程に次いで、更に、必要に応じて下記リンス工程、乾燥工程、及び/又は、後架橋工程を含んでもよい。
リンス工程:彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスする工程。
乾燥工程:彫刻されたレリーフ層を乾燥する工程。
後架橋工程:彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層を更に架橋する工程。
前記工程を経た後、彫刻表面に彫刻カスが付着しているため、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスして、彫刻カスを洗い流すリンス工程を追加してもよい。リンスの手段として、水道水で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式又は搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、石鹸や界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスするリンス工程を行った場合、彫刻されたレリーフ形成層を乾燥してリンス液を揮発させる乾燥工程を追加することが好ましい。
更に、必要に応じてレリーフ形成層を更に架橋させる後架橋工程を追加してもよい。追加の架橋工程である後架橋工程を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
【0125】
本発明に用いることができるリンス液のpHは、6以上であることが好ましく、6.5以上であることがより好ましく、11以上であることが更に好ましい。また、リンス液のpHは14以下であることが好ましく、13.5以下であることがより好ましく、13.1以下であることが更に好ましい。上記範囲であると、取り扱いが容易である。
リンス液を上記のpH範囲とするために、適宜、酸及び/又は塩基を用いてpHを調整すればよく、使用する酸及び塩基は特に限定されない。
本発明に用いることができるリンス液は、主成分として水を含有することが好ましい。
また、リンス液は、水以外の溶媒として、アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン等などの水混和性溶媒を含有していてもよい。
【0126】
リンス液は、界面活性剤を含有してもよい。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、彫刻カスの除去性、及び、レリーフ印刷版への影響を少なくする観点から、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物等のベタイン化合物(両性界面活性剤)が好ましく挙げられる。
【0127】
また、界面活性剤としては、公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等も挙げられる。更に、フッ素系、シリコーン系のノニオン界面活性剤も同様に使用することができる。
界面活性剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤の使用量は特に限定する必要はないが、リンス液の全重量に対し、0.01〜20重量%であることが好ましく、0.05〜10重量%であることがより好ましい。
【0128】
以上のようにして、支持体等の任意の基材表面にレリーフ層を有するレリーフ印刷版が得られる。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは、耐磨耗性やインキ転移性のような種々の印刷適性を満たす観点からは、0.05mm以上10mm以下が好ましく、0.05mm以上7mm以下がより好ましく、0.05mm以上3mm以下が更に好ましく、0.05mm以上1.5mm以下が特に好ましい。
【0129】
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50°以上90°以下であることが好ましい。レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、25℃において、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる。)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。
【0130】
本発明のレリーフ印刷版は、フレキソ印刷機による水性インキでの印刷に特に好適であるが、凸版用印刷機による水性インキ、油性インキ及びUVインキ、いずれのインキを用いた場合でも、印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機によるUVインキでの印刷も可能である。本発明のレリーフ印刷版は、印刷版全体として曲がり(カール)がない又は小さく、リンス性に優れており彫刻カスの残存がなく、また、印刷版のべとつきもなく、更に耐刷性にも優れる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で使用した(U−1)〜(U−16)はそれぞれ、成分Cの具体例として前述した(U−1)〜(U−16)である。
また、実施例におけるポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に断りのない限りにおいて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法で測定した値を表示している。更に、実施例における「部」とは、特に断りのない限り「重量部」を示すものとする。
【0132】
(実施例1)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
撹拌羽及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、成分Aとして下記(A−1)40部及びブレンマーPME−200(日本油脂(株)製、重量平均分子量:276)20部、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50部を入れ、更に成分BとしてPBZ(t−ブチルパーオキシベンゾエート、日本油脂(株)製、商標「パーブチルZ」)を5部、(成分C)式(I)で表される化合物として(U−1)を27部、(成分E)光熱変換剤としてケッチェンブラックEC600JD(カーボンブラック、ライオン(株)製)を8部、を添加して50℃にて30分間撹拌した。この操作により、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液1(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
【0133】
【化17】

【0134】
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、上記より得られた架橋性レリーフ形成層用塗布液1をスペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、100℃のオーブン中で2時間乾燥させて、厚さがおよそ1mmのレリーフ形成層を設け、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1を作製した。
【0135】
3.レリーフ印刷版の作製
得られた原版のレリーフ形成層を100℃で5時間加熱して、更に熱架橋した。架橋後のレリーフ形成層に対し、以下の2種のレーザーにより彫刻した。
炭酸ガスレーザー彫刻機として、レーザー照射による彫刻を、高品位CO2レーザーマーカML−9100シリーズ((株)キーエンス製)を用いた。レーザー彫刻用印刷版原版1から保護フイルムを剥離後、炭酸ガスレーザー彫刻機で、出力:12W、ヘッド速度:200mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
半導体レーザー彫刻機として、最大出力8.0Wのファイバー付き半導体レーザー(FC−LD)SDL−6390(JDSU社製、波長 915nm)を装備したレーザー記録装置を用いた。半導体レーザー彫刻機でレーザー出力:7.5W、ヘッド速度:409mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.05mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度を、前述の測定方法により測定したところ、56°であった。なお、ショア硬度Aの測定は、後述する各実施例及び比較例においても同様に行った。
【0136】
(実施例2)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
撹拌羽及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、成分Aとして下記(A−1)20部及びブレンマーPME−200(日本油脂(株)製、重量平均分子量:276)20部、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50部を入れ、更に成分BとしてPBZ(t−ブチルパーオキシベンゾエート、日本油脂(株)製、商標「パーブチルZ」)を2部、(成分C)式(I)で表される化合物として(U−1)を10部、(成分D)バインダーポリマーとして「デンカブチラール#3000−2」(電気化学工業(株)製、ポリビニルブチラール誘導体、Mw=9万)を40部、(成分E)光熱変換剤としてケッチェンブラックEC600JD(カーボンブラック、ライオン(株)製)を8部、を添加して50℃にて3時間撹拌した。この操作により、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液2(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.02mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は87°であった。
【0137】
(実施例3)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
撹拌羽及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、成分Aとして下記(A−1)25部及びブレンマーPME−200(日本油脂(株)製、重量平均分子量:276)15部、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50部を入れ、更に成分BとしてPBZ(t−ブチルパーオキシベンゾエート、日本油脂(株)製、商標「パーブチルZ」)を2部、(成分C)式(I)で表される化合物として(U−1)を10部、(成分D)バインダーポリマーとして「デンカブチラール#3000−2」(電気化学工業(株)製、ポリビニルブチラール誘導体、Mw=9万、Tg=70℃)を40部、(成分E)光熱変換剤としてケッチェンブラックEC600JD(カーボンブラック、ライオン(株)製)を8部、(成分F)加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物として(f−1)を10部、(成分G)アルコール交換反応触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)(和光純薬(株)製)0.5部を添加して50℃にて3時間撹拌した。この操作により、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液3(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.04mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は75°であった。
【0138】
【化18】

【0139】
(実施例4〜18)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分C)式(I)で表される化合物として表2に示したものを用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液4〜18(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さ、レリーフ層のショアA硬度は、下記の値であった。
【0140】
【表1】

【0141】
(実施例19)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分D)バインダーポリマーとしてアクリル樹脂1を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液19(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.03mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は80°であった。
【0142】
(実施例20)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分D)バインダーポリマーとしてアクリル樹脂2を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液20(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.02mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は82°であった。
【0143】
(実施例21)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分D)バインダーポリマーとしてウレタン樹脂1を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液21(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.05mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は68°であった。
【0144】
(実施例22)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分D)バインダーポリマーとしてウレタン樹脂2を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液22(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.00mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は67°であった。
【0145】
(実施例23)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
成分Aとして下記(A−2)40部及びブレンマーPME−200(日本油脂(株)製)20部を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液23(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.01mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は75°であった。
【0146】
【化19】

【0147】
(実施例24)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
成分Aとして下記(A−3)40部及びブレンマーPME−200(日本油脂(株)製)20部を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液24(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.02mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は68°であった。
【0148】
【化20】

【0149】
(実施例25)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
成分Aとして前記(A−1)40部及びブレンマーPME−100(日本油脂(株)製、重量平均分子量 188)20部を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液25(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.05mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は72°であった。
【0150】
(実施例26)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
成分Aとして前記(A−1)40部及びブレンマーPME−400(日本油脂(株)製重量平均分子量 540)20部を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液26(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.08mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は75°であった。
【0151】
(実施例27)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分C)式(I)で表される化合物として(U−1)を0.40部用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液27(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.06mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は70°であった。
【0152】
(実施例28)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分C)式(I)で表される化合物として(U−1)を0.81部用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液28(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.07mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は72°であった。
【0153】
(実施例29)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分C)式(I)で表される化合物として(U−1)を3.12部用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液29(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.08mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は74°であった。
【0154】
(実施例30)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分E)光熱変換剤を用いない以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液30(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.03mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は68°であった。
【0155】
なお、各実施例19〜22で使用した、表2中の(成分)バインダーポリマーの詳細は以下の通りである。
アクリル樹脂1 : ドデシルメタクリレート/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル 50/50(モル%)、Mw=5万、Tg=15℃)
アクリル樹脂2 : ドデシルメタクリレート/メタクリル酸アリル 50/50(モル%)、Mw=6万、Tg=35℃)
ウレタン樹脂1 : 下記製造例参照。
【0156】
<製造例1:ウレタン樹脂1の調製>
温度計、撹拌機、還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに信越化学工業(株)製、両末端型カルビノール変性反応性シリコーンオイルである、「KF−6003」(数平均分子量5,100、OH価22.0)を413.72gとトリレンジイソシアナート11.05gとを加え、80℃加温下で約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート5.49gを添加し、更に約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約2.0個)である重量平均分子量約60,000のウレタン樹脂1を調製した。この樹脂は、主鎖にシロキサン結合を含み、20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。また、Tgは20℃以下であった。
【0157】
ウレタン樹脂2 : 下記製造例参照。
【0158】
<製造例2:ウレタン樹脂2の調製>
温度計、撹拌機、還流器を備えた2Lのセパラブルフラスコに旭化成(株)製ポリカーボネートジオールである、商標「PCDL T4672」(数平均分子量2,059、OH価54.5)1,318gとトリレンジイソシアナート76.8gとを加え、80℃加温下で約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート52.6gを添加し、更に約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約1.7個)である重量平均分子量約40,000のウレタン樹脂2を調製した。この樹脂は、20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。また、Tgは20℃以下であった。
【0159】
(比較例1)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分C)式(I)で表される化合物を加えない以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液31(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.00mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は45°であった。
【0160】
(比較例2)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分C)式(I)で表される化合物の代わりに(UC−1)を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液32(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.01mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は40°であった。
【0161】
(比較例3)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分C)式(I)で表される化合物の代わりに(UC−2)を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液33(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.03mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は42°であった。
【0162】
(比較例4)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分C)式(I)で表される化合物の代わりに(UC−3)を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液34(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは0.99mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は41°であった。
【0163】
(比較例5)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
(成分C)式(I)で表される化合物の代わりに(UC−4)を用いた以外は実施例3と同様に行い、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液35(レーザー彫刻用樹脂組成物)を得た。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製、及び、3.レリーフ印刷版の作製については、それぞれ実施例1と同様に行った。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.04mmであった。また、レリーフ層のショアA硬度は38°であった。
【0164】
【化21】

【0165】
・レリーフ印刷版の評価
以下の項目でレリーフ印刷版の性能評価を行い、結果を表2に併記した。
【0166】
(1)彫刻深さ
実施例1〜30、比較例1〜5で得られたレリーフ印刷版が有するレリーフ形成層をレーザー彫刻して得られたレリーフ層の「彫刻深さ」を、以下のように測定した。ここで、「彫刻深さ」とは、レリーフ層の断面を観察した場合の、彫刻された位置(高さ)と彫刻されていない位置(高さ)との差をいう。本実施例における「彫刻深さ」は、レリーフ層の断面を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK9510((株)キーエンス製)にて観察することにより測定した。彫刻深さが大きいことは、彫刻感度が高いことを意味する。結果は、彫刻に用いたレーザーの種類毎に表2に示す。
【0167】
(2)リンス性
レーザー彫刻した版を水に浸漬し、彫刻部を歯ブラシ(ライオン(株)製、クリニカハブラシ フラット)で10回こすった。その後、光学顕微鏡でレリーフ層の表面におけるカスの有無を確認した。カスがないものを◎、ほとんどないものを○、少し残存しているものを△、カスが除去できていないものを×とした。
【0168】
(3)耐刷性
得られたレリーフ印刷版を印刷機(ITM−4型、(株)伊予機械製作所製)にセットし、インクとして、水性インキ アクアSPZ16紅(東洋インキ(株)製)を希釈せずに用いて、印刷紙として、フルカラーフォームM 70(日本製紙(株)製、厚さ100μm)を用いて印刷を継続し、ハイライト1〜10%を印刷物で確認した。印刷されない網点が生じたところを刷了とし、刷了時までに印刷した紙の長さ(メートル)を指標とした。数値が大きいほど耐刷性に優れると評価する。
【0169】
(4)タック性
得られたレリーフ印刷版を2cm×2cmの正方形に切り出し、ベトツキ(タック性)をセルロース粉(日本製紙ケミカル(株)製)の付着量にて評価した。付着しないものを◎、付着するものを×、その間を付着が少ないものから順に○、△として、4段階で評価した。
【0170】
(5)カール
得られたレリーフ印刷版のカールの程度を目視にて評価した。カールしないものを◎、カールするものを×、その間をカールの程度の小さいものから順に○、△として、4段階で評価した。
【0171】
(6)剥離耐性
レリーフ印刷版の膜(レリーフ層)の剥がれやすさを下記方法で評価した。該評価による剥離耐性が高いとレリーフ印刷版が外力を加えられた際に支持体又はクッション層から剥離することがなく、良好に取り扱うことができる。
剥離耐性は、テープ剥離試験による剥離面積として評価した。すなわち、熱架橋後のレリーフ印刷版原版の塗布面(架橋レリーフ形成層側の面)をJIS D0202−1988に準拠して碁盤目テープ剥離試験を行った。セロハンテープ(「CT24」、ニチバン(株)製)を用い、指の腹で前記塗布面に密着させた後、剥離した。
判定は、剥離面積率(膜全面積に対する剥離面積の割合)で、◎:5%未満、○:5%以上10%以下、△:10%を超え30%以下、×:30%を超えるとした。結果は、表2に示した。
【0172】
(7)層状分離
得られたレリーフ印刷版の断面を観察し、層状分離の程度を目視にて評価した。目視にて層状分離がハッキリと見えないものを○、層状分離がハッキリと見えるものを×として評価した。
【0173】
【表2】

【0174】
なお、実施例30のレーザー彫刻用樹脂組成物では、光熱変換剤を含まないため、前記半導体レーザーの条件では、ほとんど彫刻できなかったが、前記炭酸ガスレーザーの条件では、十分彫刻できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、
(成分A)エチレン性不飽和化合物と、(成分B)熱重合開始剤と、(成分C)下記式(I)で表される化合物とを含有するレリーフ形成層を備えることを特徴とする
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【化1】

(式(I)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、Z1はウレア基と共に、単環又は多環の環構造を形成する炭化水素基を表す。また、2つ以上の式(I)で表される化合物がZ1において結合又は縮環し、多量体を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記レリーフ形成層中の成分Cの含有量が、前記レリーフ形成層中の成分Aの含有量100重量%に対して、1〜100重量%である、請求項1に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項3】
成分Bが、有機過酸化物である、請求項1又は2に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項4】
前記レリーフ形成層が、(成分D)バインダーポリマーを更に含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項5】
成分Dのガラス転移温度(Tg)が、20℃以上200℃未満である、請求項4に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項6】
成分Dが、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール及びその誘導体よりなる群から選択された1種以上の樹脂である、請求項4又は5に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項7】
前記レリーフ形成層が、(成分E)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を更に含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項8】
前記レリーフ形成層が、(成分F)加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物を更に含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項9】
前記レリーフ形成層が、(成分G)アルコール交換反応触媒を更に含有する、請求項8に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を熱により架橋した架橋レリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項11】
(1)請求項1〜10のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を熱により架橋する工程、及び、(2)架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程、を含むことを特徴とするレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版。
【請求項13】
前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である、請求項12に記載のレリーフ印刷版。

【公開番号】特開2013−49251(P2013−49251A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189868(P2011−189868)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】