説明

レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法

【課題】低コストであり、解像力及びインキ着肉性に優れるレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版及びその製版方法を提供すること。
【解決手段】支持体上に、光硬化層、及び、熱硬化層をこの順で有し、前記光硬化層が、(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)粒子を含む層を光硬化した層であり、前記光硬化層及び前記熱硬化層が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版及びその製版方法。
(前記光硬化層の弾性率)<(前記熱硬化層の弾性率) (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レリーフ形成層をレーザーにより直接彫刻し製版する、いわゆる「直彫りCTP方式」が多く提案されている。この方式では、フレキソ原版に直接レーザーを照射し、光熱変換により熱分解及び揮発を生じさせ、凹部を形成する。直彫りCTP方式は、原画フィルムを用いたレリーフ形成と異なり、自由にレリーフ形状を制御することができる。このため、抜き文字の如き画像を形成する場合、その領域を他の領域よりも深く彫刻する、又は、微細網点画像では、印圧に対する抵抗を考慮し、ショルダーをつけた彫刻をすることなども可能である。
従来のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版としては、例えば、特許文献1〜4に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−76387号公報
【特許文献2】特開2010−76384号公報
【特許文献3】特開2009−72964号公報
【特許文献4】特開2008−221471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、低コストであり、解像力及びインキ着肉性に優れるレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版及びその製版方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は以下の<1>、<8>、<16>及び<18>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<7>、<9>〜<15>及び<17>と共に以下に記載する。
<1>支持体上に、光硬化層、及び、熱硬化層をこの順で有し、前記光硬化層が、(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)粒子を含む層を光硬化した層であり、前記光硬化層及び前記熱硬化層が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
(前記光硬化層の弾性率)<(前記熱硬化層の弾性率) (1)
<2>成分Aが、(メタ)アクリレート化合物を含む、上記<1>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<3>成分Cが、無機粒子である、上記<1>又は<2>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<4>前記熱硬化層が、バインダーポリマー、及び、光熱変換剤を含む、上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<5>前記光熱変換剤が、700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤である、上記<4>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<6>前記光熱変換剤が、カーボンブラックである、上記<4>又は<5>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<7>前記熱硬化層が、重合性化合物を含む層を熱硬化した層である、上記<1>〜<6>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<8>基材上に熱硬化性層を形成する層形成工程、前記熱硬化性層を熱硬化し熱硬化層を形成する熱硬化工程、(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)直径5〜100μmの粒子を含む光硬化性組成物を調製する調製工程、前記光硬化性組成物を付与し前記熱硬化性層又は前記熱硬化層と支持体とを貼り合わせる貼合工程、及び、前記光硬化性組成物を光により硬化させ光硬化層を形成し前記熱硬化性層又は前記熱硬化層と前記支持体とを接着する光硬化工程、を含み、前記光硬化層及び前記熱硬化層が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
(前記光硬化層の弾性率)<(前記熱硬化層の弾性率) (1)
<9>成分Aが、(メタ)アクリレート化合物を含む、上記<8>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<10>成分Cが、無機粒子である、上記<8>又は<9>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<11>前記光硬化工程において、200〜600nmの光により硬化させる、上記<8>〜<10>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<12>前記熱硬化層が、バインダーポリマー、及び、光熱変換剤を含む、上記<8>〜<11>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<13>前記光熱変換剤が、700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤である、上記<12>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<14>前記光熱変換剤が、カーボンブラックである、上記<12>又は<13>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<15>前記熱硬化性層が、重合性化合物を含む、上記<8>〜<14>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<16>上記<1>〜<7>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、又は、上記<8>〜<15>のいずれか1つに記載の製造方法により得られたレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の前記熱硬化層をレーザー彫刻しレリーフ層を形成する彫刻工程、を含むことを特徴とするレリーフ印刷版の製版方法、
<17>前記彫刻工程において、波長700〜1,300nmのファイバー付き半導体レーザーにより彫刻する、上記<16>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<18>上記<16>又は<17>に記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有することを特徴とするレリーフ印刷版。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低コストであり、解像力及びインキ着肉性に優れるレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版及びその製版方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のレリーフ印刷版原版の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、数値範囲を表す「下限〜上限」の記載は、「下限以上、上限以下」を表し、「上限〜下限」の記載は、「上限以下、下限以上」を表す。すなわち、上限及び下限を含む数値範囲を表す。また、本発明において、「(成分A)エチレン性不飽和化合物」等を単に「成分A」等ともいう。
【0009】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版)
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版(以下、単に「レリーフ印刷版原版」ともいう。)は、支持体上に、光硬化層、及び、熱硬化層をこの順で有し、前記光硬化層が、(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)粒子を含む層を光硬化した層であり、前記光硬化層及び前記熱硬化層が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
(前記光硬化層の弾性率)<(前記熱硬化層の弾性率) (1)
【0010】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版においては、記録層(熱硬化層)を硬くする、すなわち、弾性率を大きくすることにより解像力が上がるが、硬くなることによりインキ着肉性が低下するという問題があった。本発明者が詳細に検討した結果、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を、柔らかい、すなわち、弾性率の小さい下層(光硬化層)と記録層(熱硬化層)との2層構成とすることにより、解像力が上がるだけでなく、インキ着肉性が低下しないだけでなく、むしろ向上することを見いだした。
また、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版において、一般に、記録層、すなわち、本発明における熱硬化層の材料コストは高い。一方、光硬化層は、熱硬化層に比較して材料コストが低く、粒子を含有することにより更に材料コストを低く抑えることができる。
【0011】
<光硬化層及び熱硬化層の弾性率>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、前記光硬化層及び前記熱硬化層が、下記式(1)の関係を満たす。
(前記光硬化層の弾性率)<(前記熱硬化層の弾性率) (1)
すなわち、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における前記光硬化層は、前記熱硬化層よりも弾性率(「弾性係数」ともいう。)が小さい層である。
前記光硬化層及び前記熱硬化層の弾性率の測定方法としては、特に制限はなく、公知の測定方法により測定すればよい。具体的には、例えば、エスアイアイ(株)製DMS6100を使用し、測定条件としては、幅6mmの試料片を試料ホルダーに保持し、測定長を10mmとし、4℃/分の昇温速度で−30℃から50℃まで加熱を行い、その間引っ張りモードでの測定において、最大歪み率を0.1%として100Hzの動的粘弾性測定を行い、試料片に貼り付けた熱電対の示す温度と装置の表示する温度との差を測定して、装置の温度校正を行い、25℃における100Hzの貯蔵弾性率(E’)を求める測定方法が好ましく挙げられる。なお、試料片の厚みは、公知の方法により、別途測定すればよい。
また、本発明における前記弾性率は、複素弾性率E*の実数成分である貯蔵弾性率E’であることが好ましい。
前記光硬化層の貯蔵弾性率E’は、前記熱硬化層よりも小さい値であれば、特に制限はないが、インキ着肉性の観点から、1〜15MPaであることが好ましく、5〜12MPaであることがより好ましく、5〜10MPaであることが更に好ましい。
また、前記熱硬化層の貯蔵弾性率E’は、前記光硬化層よりも大きい値であれば、特に制限はないが、解像力の観点から、5〜50MPaであることが好ましく、10MPaを超え30MPa以下であることがより好ましく、12MPaを超え20MPa以下であることが更に好ましい。
【0012】
<支持体>
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PAN(ポリアクリロニトリル))やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。支持体としては、PETフィルムやスチール基板が好ましく用いられる。これらの中でも、透明支持体であることが好ましく、PETフィルムであることがより好ましい。
【0013】
<光硬化層>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版(以下、単に「レリーフ印刷版原版」ともいう。)は、支持体上に、光硬化層、及び、熱硬化層をこの順で有し、かつ、前記光硬化層が、(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)粒子を含む層を光硬化した層である。
また、本発明においては、「(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)粒子を含む層」を「光硬化性組成物からなる層」ともいう。
前記光硬化層を硬化させる光としては、特に制限はなく、α線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などが挙げられるが、紫外線、及び/又は、可視光線であることが好ましく、近紫外線〜可視光線の範囲である200〜600nmの光であることがより好ましい。
なお、本発明における「硬化」とは、硬化前の状態よりも硬くなることを意味する。
前記光硬化層の厚さは、コストやインキ着肉性の観点から、0.3〜2mmであることが好ましく、0.4〜1.0mmであることが好ましく、0.5〜0.9mmであることが更に好ましく、0.7〜0.9mmであることが特に好ましい。
また、前記光硬化層の厚さと前記熱硬化層の厚さとは、コストやインキ着肉性の観点から、下記式(2)を満たすことが好ましい。
(前記光硬化層の厚さ)≧(前記熱硬化層の厚さ) (2)
【0014】
(成分A)エチレン性不飽和化合物
前記光硬化層は、(成分A)エチレン性不飽和化合物を含む層を光硬化した層である。
ここで、エチレン性不飽和化合物とは、エチレン性不飽和基を少なくとも1個以上有する化合物である。エチレン性不飽和化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
エチレン性不飽和化合物としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)や、そのエステル類、アミド類等が挙げられる。
また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類あるいはエポキシ類との付加反応物、及び、単官能若しくは多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も挙げられる。
更に、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲノ基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も挙げられる。
また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、ビニル化合物、アリル化合物、不飽和ホスホン酸、スチレン等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
本発明に用いることができるエチレン性不飽和化合物としては、反応性の観点から、(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物、及び、アリル化合物が好ましく、(メタ)アクリレート化合物が特に好ましい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタアクリル」のいずれか一方、又は、その両方を含む語であり、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリル」及び「メタアクリル」のいずれか一方、又は、その両方を含む語である。
【0015】
また、エチレン性不飽和化合物としては、以下の式(A−1)〜式(A−7)で表される化合物が好ましく例示できる。
【0016】
【化1】

【0017】
式(A−1)中、R3は水素原子又は−CH3を表し、R4はそれぞれ独立に、水素原子、−CH3、−C25又は式(A’−1)で表される基を表し、R5はそれぞれ独立に、水素原子、塩素原子、−CH3又は−C25を表し、R6はそれぞれ独立に、水素原子又は式(A’−1)で表される基を表し、mはそれぞれ独立に、1〜8の整数を表し、nは1〜20の整数を表し、pはそれぞれ独立に、0又は1を表す。
式(A−1)で表される化合物として具体的には、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジグリセロールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
【化2】

【0019】
式(A−2)中、R7はそれぞれ独立に、水素原子又は−CH3を表し、R8はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R9はそれぞれ独立に、炭素数2〜4の直鎖又は分岐アルキレン基を示し、mはそれぞれ独立に、1〜10の整数を表す。
式(A−2)で表される化合物としては具体的には、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アクリロキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシヘキサエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アクリロキシヘプタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシオクタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アクリロキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシトリプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アクリロキシジプトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシオクタブトジキシフェニル)プロパン、2−(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)−2−(4−メタクリロキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−アクリロキシジプロポキシフェニル)−2−(4−アクリロキシトリエトキシフェニル)プロパン等が例示できる。
【0020】
【化3】

【0021】
式(A−3)中、R10は水素原子又は−CH3を表し、R11はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、nは0〜10の整数を表す。
式(A−3)で表される化合物としては具体的には、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピル(メタ)アクリレート等が例示できる。
【0022】
【化4】

【0023】
式(A−4)中、R12は水素原子又は−CH3を表し、R13は水素原子、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素数5〜20の環状アルキル基、フェニル基、テトラヒドロフルフリル基、又は、これらの基を有する炭素数5〜20の直鎖若しくは分枝アルキル基を示す。
式(A−4)で表される化合物としては具体的には、メタクリル酸、アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が例示できる。
【0024】
【化5】

【0025】
式(A−5)中、R14は水素原子又は−CH3を表し、R15は炭素数1〜20の直鎖若しくは分岐アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又は直鎖若しくは分岐アルコキシアルキル基を表す。
式(A−5)で表される化合物としては具体的には、メトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、エトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、ヘプトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、イソプロポキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
【化6】

【0027】
式(A−6)中、R16はそれぞれ独立に、水素原子又は−CH3を表し、R17はそれぞれ独立に、炭素数2〜4の直鎖又は分枝アルキレン基を表し、mはそれぞれ独立に、1〜10の整数を表し、nは1又は2を表す。
【0028】
【化7】

【0029】
式(A−7)中、R18はそれぞれ独立に、水素原子又は−CH3を表し、mはそれぞれ独立に、1〜10の整数を表し、nは1又は2を表す。
式(A−6)又は式(A−7)で表される化合物としては具体的には、(メタ)アクリロキシエチルリン酸、1−クロロ−3−(メタ)アクリロキシプロピル−2−リン酸、(メタ)アクリロキシプロピルリン酸等が例示できる。
【0030】
また、エチレン性不飽和化合物としては、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物を用いることができる。
ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物と有機ポリイソシアネート化合物との反応生成物や、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物と有機ポリイソシアネート化合物と三価以上のポリオール化合物及び/又はジオール化合物との反応生成物が挙げられる。
具体例としては、ビス(グリセリルウレタン)イソホロンテトラメタクリレート(下記化合物)が好ましく例示できる。
【0031】
【化8】

【0032】
エチレン性不飽和化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
前記光硬化層を形成する前記光硬化性組成物中のエチレン性不飽和化合物の含有量は、光硬化性組成物100重量部に対し、10〜90重量部であることが好ましく、20〜80重量部であることがより好ましい。
【0033】
(成分B)光重合開始剤
前記光硬化層は、(成分B)光重合開始剤を含む層を光硬化した層である。
光重合開始剤としては、特に制限はなく、公知の開始剤を用いることができるが、光ラジカル重合開始剤であることが好ましい。
前記光重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、及び、(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物が挙げられる。また、これらの光重合開始剤は、特開2008−19408号公報に記載されたものが挙げられる。
また、光重合開始剤の具体例は、例えば、Bruce M. Monroeら著、Chemical Reviews, 93, 435 (1993)や、R. S. Davidson著、Journal of Photochemistry and Biology A: Chemistry, 73, 81 (1993)や、J. P. Faussier "Photoinitiated Polymerization - Theory and Applications": Rapra Review, vol.9, Report, Rapra Technology (1998)や、M. Tsunooka et al., Prog. Polym. Sci., 21, 1 (1996)に多く記載されている。また、有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照、に化学増幅型フォトレジストに利用される化合物が光重合開始剤として多く記載されている。更には、F. D. Saeva, Topics in Current Chemistry, 156, 59 (1990)、G. G. Maslak, Topics in Current Chemistry, 168, 1 (1993)、H. B. Shuster et al, J. Am. Chem. Soc., 112, 6329 (1990)、I. D. F. Eaton et al, J. Am. Chem. Soc., 102, 3298 (1980)等に記載されているような、増感剤の電子励起状態との相互作用を経て、酸化的又は還元的に結合解裂を生じる化合物群も、光重合開始剤として知られている。
【0034】
また、光重合開始剤として具体的には、ベンジル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキシサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインオクチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジアセチル、メチルアントラキノン、アセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、アントラキノン、及び、3,3’,4,4’−テトラ(ターシャリーブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が例示できる。
前記光重合開始剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
前記光硬化層を形成する前記光硬化性組成物中の光重合開始剤の含有量は、光硬化性組成物100重量部に対し、0.1〜20重量部であることが好ましく、0.1〜10重量部であることがより好ましい。
【0035】
(成分C)粒子
前記光硬化層は、(成分C)粒子を含む層を光硬化した層である。
成分Cの体積平均粒径(体積平均一次粒径)としては、5〜100μmであることが好ましく、5〜80μmであることがより好ましく、10〜70μmであることが更に好ましい。上記範囲であると、光硬化時における光散乱を抑制でき、硬化性に優れ、また、光硬化層の平面性に優れる。
成分Cの体積平均粒径の測定方法としては、特に制限はなく、公知の測定方法により測定することができる。
本発明に用いることができる成分Cの形状としては、特に制限はなく、例えば、球状、層状、板状、ファイバー状、中空バルーンの形状等を挙げることができる。これらの中でも、球状、又は、層状であることが好ましく、球状であることがより好ましい。
【0036】
本発明に用いることができる成分Cとしては、充填剤として公知の粒子を用いることができ、例えば、無機粒子であっても、有機樹脂粒子であってもよいが、光硬化性組成物中における分散安定性や、光硬化性層の弾性率及び解像力の観点から、無機粒子であることが好ましい。
前記無機粒子としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、カオリン、焼成カオリン、タルク、ロウ石、ケイソウ土、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、リトポン、非晶質シリカ、コロイダルシリカ、焼成石コウ、シリカ、炭酸マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、炭酸バリウム、硫酸バリウム、マイカ等が挙げられる。
これらの中でも、シリカ、又は、アルミナが好ましく、シリカが特に好ましい。
【0037】
また、層状の無機粒子としては、薄い平板状の形状を有する無機質の層状化合物が好ましく挙げられ、例えば、下記式で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群、3MgO・4SiO・H2Oで表されるタルク、テニオライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、りん酸ジルコニウムなどが挙げられる。
A(B,C)2〜5410(OH,F,O)2
(式中、AはK,Na,Caのいずれかを表し、B及びCはFe(II),Fe(III),Mn,Al,Mg,Vのいずれかを表し、DはSi又はAlを表す。)
【0038】
本発明に用いることができる成分Cとしては、以下に示す市販品を好ましく例示できる。なお、括弧内の数値は平均粒径を表す。
球状シリカ粒子としては、関東化学(株)製シリカゲル60(40〜50μm)、シリカゲル60N(40〜50μm)、AGCエスアイテク(株)製サンスフェア H−51(5μm)、H−121(12μm)、H−201(20μm)、L−51(5μm)、P−100(10μm)、NP−200(20μm)が例示できる。
また、アルミナ粒子としては、日本軽金属(株)製A11(50μm)、A12(50μm)、A13(50μm)、A14(50μm)、A21(80μm)、A23(80μm)、A31(5μm)が例示できる。
【0039】
前記成分Cは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
前記光硬化層における成分Cの含有量は、光硬化層の全重量に対し、1〜70重量%であることが好ましく、5〜60重量%であることがより好ましく、10〜50重量%であることが更に好ましい。上記範囲であると、コストを低く抑えることができ、また、500μm程度の厚みの光硬化層を作成した場合における強度の低下を抑制することができ、熱硬化層の横ずれを防止することができる。
前記光硬化層を形成する前記光硬化性組成物中の成分Cの含有量は、光硬化性組成物100重量部に対し、1〜70重量部であることが好ましく、5〜60重量部であることがより好ましく、10〜50重量部であることが更に好ましい。上記範囲であると、コストを低く抑えることができ、また、500μm程度の厚みの光硬化層を作成した場合における強度の低下を抑制することができ、熱硬化層の横ずれを防止することができる。
【0040】
(成分D)その他の成分
前記光硬化層、及び、前記光硬化層を形成する光硬化性組成物には、前記の成分以外に、必要に応じ、公知の添加剤を含有していてもよいが、前記の成分以外のその他の成分を含まない方が好ましい。
添加剤としては、重合促進剤、安定化剤、着色剤、粘度調整剤等が例示できる。
重合促進剤としては例えば、1,2,3,4−テトラハイドロキノリン、サッカリン、トリエチルアミン、及び、N,N−ジメチルアニリン等が挙げられる。
安定化剤としては、シュウ酸、ジニトロソレゾルシノール、及び、キノン類等が例示できる。
粘度調整剤としては、樹脂等の高分子化合物や有機溶剤などが例示できる。
前記光硬化性組成物は、有機溶剤などのエチレン性不飽和基を有しない揮発性有機化合物(VOC)を含有していてもよいが、前記揮発性有機化合物を含有しないことが好ましく、成分A〜成分Cのみからなることがより好ましい。
【0041】
<熱硬化層>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版(以下、単に「レリーフ印刷版原版」ともいう。)は、支持体上に、光硬化層、及び、熱硬化層をこの順で有する。
前記熱硬化層は、熱により硬化した層であり、レーザーによる彫刻可能な層であれば、特に制限はないが、後述するレーザー彫刻用樹脂組成物により形成された層であることが好ましい。
より詳しくは、レーザー彫刻用樹脂組成物を層状に形成し熱により架橋させた層、前記レーザー彫刻用樹脂組成物中に溶剤を含む場合は、レーザー彫刻用樹脂組成物を層状に形成し、溶剤を除去し、熱により架橋させた層であることがより好ましい。
また、前記熱硬化層は、架橋構造を有していることが好ましい。
更に、前記熱硬化層は、バインダーポリマー、及び、光熱変換剤を含むことが好ましい。バインダーポリマー、及び、光熱変換剤については、後述のレーザー彫刻用樹脂組成物において、詳述する。
また、前記熱硬化層は、熱により硬化するだけでなく、加えて光による重合を行ってもよい。
前記熱硬化層の厚さは、コストやインキ着肉性の観点から、0.5〜1mmが好ましく、0.5〜0.9mm以下がより好ましく、0.5〜0.7mmが特に好ましい。
【0042】
−レーザー彫刻用樹脂組成物−
前記熱硬化層は、レーザー彫刻用樹脂組成物により形成されることが好ましい。
本発明に用いることができるレーザー彫刻用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、バインダーポリマーを含有することが好ましく、バインダーポリマーと、光熱変換剤とを含有することがより好ましく、バインダーポリマーと、光熱変換剤と、架橋剤とを含有することが更に好ましく、バインダーポリマーと、光熱変換剤と、反応性シラン化合物とを含有することが特に好ましい。
また、前記熱硬化層は、熱によりレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層を架橋させ硬化させた層であることが好ましい。前記レーザー彫刻用樹脂組成物中に溶剤を含む場合は、熱により硬化させる前に、レーザー彫刻用樹脂組成物から溶剤を除去することが好ましい。また、前記架橋は、特に制限はなく、レーザー彫刻用樹脂組成物を構成する成分のうち、少なくとも1種が架橋すればよい。例えば、後述するパインダーポリマー同士が架橋してもよいし、後述する架橋剤同士が架橋してもよいし、パインダーポリマーと架橋剤とが架橋してもよい。
【0043】
〔バインダーポリマー〕
前記レーザー彫刻用樹脂組成物は、バインダーポリマー(以下、「バインダー」ともいう。)を含有することが好ましい。
バインダーは、レーザー彫刻用樹脂組成物に含有される高分子成分であり、一般的な高分子化合物を適宜選択し、1種又は2種以上を併用して用いることができる。特に、レーザー彫刻用樹脂組成物を印刷版原版に用いる際は、レーザー彫刻性、インキ受与性、彫刻カス分散性などの種々の性能を考慮して選択することが必要である。
バインダーとしては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマー、アクリル樹脂、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどから選択して用いることができる。
【0044】
例えば、レーザー彫刻感度の観点からは、露光又は加熱により熱分解する部分構造を含むポリマーが好ましい。このようなポリマーは、特開2008−163081号公報の段落0038に記載されているものが好ましく挙げられる。また、例えば、柔軟で可撓性を有する膜形成が目的とされる場合には、軟質樹脂や熱可塑性エラストマーが選択される。特開2008−163081号公報の段落0039〜0040に詳述されている。さらに、レーザー彫刻用樹脂組成物を、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における熱硬化層(記録層)に適用する場合であれば、レーザー彫刻用樹脂組成物の調製の容易性、得られたレリーフ印刷版における油性インクに対する耐性向上の観点から、親水性又は親アルコール性ポリマーを使用することが好ましい。親水性ポリマーとしては、特開2008−163081号公報の段落0041に詳述されているものを使用することができる。
【0045】
加えて、加熱や露光により硬化させ、強度を向上させる目的に使用する場合には、分子内に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーが好ましく用いられる。
このようなバインダーとして、主鎖に炭素−炭素不飽和結合を含むポリマーとしては、例えば、SB(ポリスチレン−ポリブタジエン)、SBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等が挙げられる。
側鎖に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーとしては、前記ポリマーの骨格に、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニルエーテル基のような炭素−炭素不飽和結合を側鎖に導入することで得られる。ポリマー側鎖に炭素−炭素不飽和結合を導入する方法は、(1)重合性基に保護基を結合させてなる重合性基前駆体を有する構造単位をポリマーに共重合させ、保護基を脱離させて重合性基とする方法、(2)水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基などの反応性基を複数有する高分子化合物を作製し、これらの反応性基と反応する基及び炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を高分子反応させて導入する方法など、公知方法をとることができる。これらの方法によれば、高分子化合物中への不飽和結合、重合性基の導入量を制御することができる。
【0046】
バインダーとしては、水酸基(−OH)を有するポリマー(以下、「特定ポリマー」ともいう。)を用いることが特に好ましい。特定ポリマーの骨格としては、特に限定されないが、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマー、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。
水酸基を有するアクリル樹脂の合成に用いられるアクリル単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類(メタ)アクリルアミド類であって分子内にヒドロキシル基を有するものが好ましい。この様な単量体の具体例としては例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらと公知の(メタ)アクリル系モノマーやビニル系モノマーとを重合させた共重合体が好ましく用いることができる。
特定ポリマーとして、ヒドロキシ基を側鎖に有するエポキシ樹脂を用いることも可能である。好ましい具体例としては、ビスフェノールAとエピクロヒドリンとの付加物を原料モノマーとして重合して得られるエポキシ樹脂が好ましい。
ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸などのヒドロキシルカルボン酸ユニットからなるポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。このようなポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、乳酸系ポリマー、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンコハク酸)、これらの誘導体又は混合物よりなる群から選択されるものが好ましい。
【0047】
特定ポリマーとしては、後述する化合物(I)と反応し得る原子及び/又は基を有するポリマーであることが好ましく、化合物(I)と反応し得る原子及び/又は基を有するポリマーであり、水不溶、かつ、炭素数1〜4のアルコールに可溶のバインダーポリマーであることがより好ましい。
後述する化合物(I)と反応し得る原子及び/又は基としては特に限定されないが、エチレン性不飽和結合、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、ヒドロキシ基が例示され、これらの中でも、ヒドロキシ基が好ましく例示される。
本発明における特定ポリマーとして、水性インキ適性とUVインキ適性を両立しつつ、かつ彫刻感度が高く皮膜性も良好であるという観点で、ポリビニルブチラール(PVB)、側鎖にヒドロキシル基を有するアクリル樹脂及び側鎖にヒドロキシル基を有するエポキシ樹脂等が好ましく例示される。
【0048】
本発明に用いることができる特定ポリマーは、レーザー彫刻用樹脂組成物の好ましい併用成分である、後述する700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤と組み合わせた場合に、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上のものとすることで、彫刻感度が向上するため、特に好ましい。このようなガラス転移温度を有するポリマーを、以下、非エラストマーと称する。すなわち、エラストマーとは、一般的に、ガラス転移温度が常温以下のポリマーであるとして学術的に定義されている(科学大辞典 第2版、編者 国際科学振興財団、発行 丸善株式会社、P154参照)。従って、非エラストマーとはガラス転移温度が常温を超える温度であるポリマーを指す。特定ポリマーのガラス転移温度の上限には制限はないが、200℃以下であることが取り扱い性の観点から好ましく、25℃以上120℃以下であることがより好ましい。
【0049】
ガラス転移温度が室温(20℃)以上のポリマーを用いる場合、特定ポリマーは常温ではガラス状態をとるが、このためゴム状態をとる場合に比較して、熱的な分子運動はかなり抑制された状態にある。レーザー彫刻においては、レーザー照射時に、赤外線レーザーが付与する熱に加え、所望により併用される光熱変換剤の機能により発生した熱が、周囲に存在する特定ポリマーに伝達され、これが熱分解、消散して、結果的に彫刻されて凹部が形成される。
特定ポリマーを用いた場合、特定ポリマーの熱的な分子運動が抑制された状態の中に光熱変換剤が存在すると特定ポリマーへの熱伝達と熱分解が効果的に起こるものと考えられ、このような効果によって彫刻感度がさらに増大したものと推定される。
【0050】
本発明において好ましく用いられるバインダーの具体例を、以下に例示する。
【0051】
(1)ポリビニルアセタール及びその誘導体
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルを鹸化して得られる。)を環状アセタール化することにより得られる化合物である。また、ポリビニルアセタール誘導体は、前記ポリビニルアセタールを変性させたり、他の共重合成分を加えたものである。
ポリビニルアセタール中のアセタール含量(原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数を100%とし、アセタール化されるビニルアルコール単位のモル%)は、30〜90%が好ましく、50〜85%がより好ましく、55〜78%が特に好ましい。
ポリビニルアセタール中のビニルアルコール単位としては、原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数に対して、10〜70モル%が好ましく、15〜50モル%がより好ましく、22〜45モル%が特に好ましい。
また、ポリビニルアセタールは、その他の成分として、酢酸ビニル単位を有していてもよく、その含量としては0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜10モル%が更に好ましい。ポリビニルアセタール誘導体は、さらに、その他の共重合単位を有していてもよい。
ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラール、ポリビニルプロピラール、ポリビニルエチラール、ポリビニルメチラールなどが挙げられる。中でも、ポリビニルブチラール(PVB)が好ましい。
ポリビニルブチラールは、通常、ポリビニルアルコールをブチラール化して得られるポリマーである。また、ポリビニルブチラール誘導体を用いてもよい。
ポリビニルブチラール誘導体の例として、水酸基の少なくとも一部をカルボキシル基等の酸基に変性した酸変性PVB、水酸基の一部を(メタ)アクリロイル基に変性した変性PVB、水酸基の少なくとも一部をアミノ基に変性した変性PVB、水酸基の少なくとも一部にエチレングリコールやプロピレングリコール及びこれらの複量体を導入した変性PVB等が挙げられる。
ポリビニルアセタールの分子量としては、彫刻感度と皮膜性のバランスを保つ観点で、重量平均分子量として5,000〜800,000であることが好ましく、より好ましくは8,000〜500,000である。さらに、彫刻カスのリンス性向上の観点からは、50,000〜300,000であることが特に好ましい。
【0052】
以下、ポリビニルアセタールの特に好ましい例として、ポリビニルブチラール(PVB)及びその誘導体を挙げて説明するが、これに限定されない。
PVBとしては、市販品としても入手可能であり、その好ましい具体例としては、アルコール溶解性(特にエタノール溶解性)の観点で、積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズ、「エスレックK(KS)」シリーズ、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」が好ましい。更に好ましくは、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズと電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」であり、特に好ましくは積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズでは、「BL−1」、「BL−1H」、「BL−2」、「BL−5」、「BL−S」、「BX−L」、「BM−S」、「BH−S」、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」では「#3000−1」、「#3000−2」、「#3000−4」、「#4000−2」、「#6000−C」、「#6000−EP」、「#6000−CS」、「#6000−AS」である。
PVBを特定ポリマーとして用いて熱硬化性の樹脂組成物層を製膜する際には、溶媒に溶かした溶液をキャストし乾燥させる方法が、膜の表面の平滑性の観点で好ましい。
【0053】
上記ポリビニルアセタール及びその誘導体のほか、特定ポリマーとしては、公知のアクリル単量体を用いて得るアクリル樹脂であって、分子内にヒドロキシル基を有するものを用いることもできる。また、特定ポリマーとして、フェノール類とアルデヒド類を酸性条件下で縮合させた樹脂であるノボラック樹脂を用いることもできる。また、特定ポリマーとして、ヒドロキシル基を側鎖に有するエポキシ樹脂を用いることも可能である。
【0054】
特定ポリマーの中でも、熱硬化層としたときのリンス性及び耐刷性の観点でポリビニルブチラール及びその誘導体が特に好ましい。
本発明における特定ポリマーに含まれるヒドロキシル基の含有量は、前記いずれの態様のポリマーにおいても、0.1〜15mmol/gであることが好ましく、0.5〜7mmol/gであることがより好ましい。
樹脂組成物にはバインダーを1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明に用いることができるバインダーの重量平均分子量(GPC測定によるポリスチレン換算)は5,000〜1,000,000であることが好ましく、8,000〜750,000であることが更に好ましく、10,000〜500,000であることが最も好ましい。
本発明に用いることができる樹脂組成物における特定ポリマーの好ましい含有量は、塗膜の形態保持性と耐水性と彫刻感度をバランスよく満足する観点で、全固形分中、2〜95重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜80重量%、特に好ましくは10〜60重量%である。
バインダーポリマーの含有量は、レーザー彫刻用樹脂組成物の固形分全重量に対し、5〜95重量%が好ましく、15〜80重量%がより好ましく、20〜65重量%が更に好ましい。
例えば、レーザー彫刻用樹脂組成物をレリーフ印刷版原版の熱硬化層に適用した場合、バインダーポリマーの含有量を5重量%以上とすることで、得られたレリーフ印刷版を印刷版として使用するに足る耐刷性が得られ、また、95重量%以下とすることで、他成分が不足することがなく、レリーフ印刷版をフレキソ印刷版とした際においても印刷版として使用するに足る柔軟性を得ることができる。
【0055】
〔架橋剤〕
前記レーザー彫刻用樹脂組成物は、熱硬化層中に架橋構造を形成する観点から、これを形成するために、架橋剤を含有することが好ましい。
本発明に用いることができる架橋剤は、光や熱に起因した化学反応により高分子化して硬化可能であるものであれば特に限定されず用いることができる。特に、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物(以下、「重合性化合物」ともいう。)、アルコキシシリル基やハロゲン化シリル基等の反応性シリル基を有する反応性シラン化合物、反応性チタン化合物、反応性アルミニウム化合物等が好ましく用いられ、反応性シラン化合物がより好ましく用いられる。これらの化合物は、前記バインダーと反応することにより熱硬化層中に架橋構造を形成してもよく、又は、これらの化合物同士で反応することにより架橋構造を形成してもよく、これら両方の反応により架橋構造を形成してもよい。
ここで用いることができる重合性化合物としては、エチレン性不飽和基を少なくとも1個、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個有する化合物の中から任意に選択することができる。
【0056】
前記レーザー彫刻用樹脂組成物は、下記式(I)で表される基を有する化合物(以下、「化合物(I)」ともいう。)を含有することが好ましい。
−M(R1)(R2n (I)
(式(I)中、R1はOR3又はハロゲン原子を表し、MはSi、Ti又はAlを表し、MがSiであるときnは2であり、MがTiであるときnは2であり、MがAlであるときnは1であり、n個あるR2はそれぞれ独立に炭化水素基、OR3又はハロゲン原子を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表す。)
【0057】
式(I)中、MはSi、Ti又はAlを表す。これらの中でもMはSi又はTiであることが好ましく、Siであることが更に好ましい。
式(I)中、R1はOR3又はハロゲン原子を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、該炭化水素基としては、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数7〜37のアラルキル等が例示される。これらの中でもR3としては、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基であることが好ましく、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基であることが更に好ましく、メチル基又はエチル基であることが特に好ましい。すなわち、R1はメトキシ基又はエトキシ基であることが特に好ましい。
1はアルカリ性のリンス液で処理した時に−M(R2n-にイオン化するものであることが好ましい。
【0058】
式(I)中、R2は炭化水素基、OR3又はハロゲン原子を表す。R3は上述した通りであり、好ましい範囲も同様である。
2としては、OR3又はハロゲン原子であることが好ましく、OR3であることがより好ましい。
【0059】
MがSiであるとき、nは2である。MがSiであるとき、複数存在するR2は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、特に限定されない。
また、MがTiであるとき、nは2である。MがTiであるとき、複数存在するR2は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、特に限定されない。
MがAlであるとき、nは1を表す。
【0060】
なお、前記化合物(I)は、ポリマーとの反応により上記式(I)で表される基をポリマーに導入するものでもよく、反応前から上記式(I)で表される基を有し、ポリマーに上記式(I)で表される基を導入するものでもよい。
【0061】
前記化合物(I)としては、特にMがSiである態様が好ましい。
また、前記熱硬化層は、シロキサン結合を有していることが好ましい。
MがSiであるとき、式(I)で表される基を有する化合物(化合物(I))として、シランカップリング剤を使用することも可能である。なお、シランカップリング剤とは、アルコキシシリル基などの無機成分と反応可能な基と、メタクリロイル基などの有機成分と反応可能な基を有し、無機成分と有機成分とを結合可能な化合物である。なお、チタンカップリング剤、アルミネート系カップリング剤も同様である。
化合物(I)がビニル基、エポキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基、メルカプト基、アミノ基等の反応性基を有し、該反応性基でポリマーと反応し、これによりポリマーに式(I)で表される基が導入されることも好ましい。
【0062】
上記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
前記化合物(I)としては、式(I)で表される基を複数有する化合物も好ましく用いられる。このような場合、式(I)で表される基の一部とポリマーとが反応することで、ポリマーに式(I)で表される基を導入することができる。例えば、化合物(I)のR1基、及び、場合によりR2基が、ポリマー中の該化合物と反応し得る原子及び/又は基(例えば、水酸基(−OH))と反応(例えば、アルコール交換反応)する。また、式(I)で表される基の複数がポリマーと結合することにより、化合物(I)は架橋剤としても機能し、架橋構造を形成することができる。
このような化合物(I)としては、式(I)で表される基を複数有する化合物であることが好ましく、2〜6個の式(I)で表される基を有する化合物であることがより好ましく、2〜3個の式(I)で表される基を有する化合物であることが特に好ましい。
以下に示す化合物が好ましいものとして挙げられるが、本発明はこれらの化合物に制限されるものではない。
【0063】
【化9】

【0064】
【化10】

【0065】
【化11】

【0066】
【化12】

【0067】
前記各式中、Rは以下の構造から選択される部分構造を表す。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。
【0068】
【化13】

【0069】
【化14】

【0070】
前記各式中、Rは以下に示す部分構造を表す。R1は前記したものと同義である。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。
【0071】
【化15】

【0072】
また、本発明において、上記の化合物(I)として、シリカ粒子、酸化チタン粒子、酸化アルミニウム粒子等を使用することもできる。これらの粒子は、後述するポリマーと反応して、ポリマーに、上記式(I)で表される基を導入することができる。例えば、シリカ粒子と、後述するポリマーとが反応することにより、−SiOHが導入される。
その他、チタンカップリング剤としては、味の素ファインテクノ(株)製プレンアクト、マツモトファインケミカル(株)製チタンテトライソプロポキシド、日本曹達(株)製チタニウム−i−プロポキシビス(アセチルアセトナト)チタンが例示され、アルミネート系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートが例示される。
【0073】
本発明において、上記の化合物(I)は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記レーザー彫刻用樹脂組成物に含まれる化合物(I)の含有量は、固形分換算で0.1〜80重量%であることが好ましく、1〜40重量%であることがより好ましく、5〜30重量%であることが更に好ましい。
【0074】
本発明においては、熱硬化層中に架橋構造を形成する観点から、これを形成するために、レーザー彫刻用樹脂組成物には、重合性化合物を含有することが好ましい。
ここで用い得る重合性化合物は、エチレン性不飽和基を少なくとも1個、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個有する化合物の中から任意に選択することができる。
また、本発明においては、架橋構造を形成する目的以外に、柔軟性や脆性等の膜物性の観点などから、エチレン性不飽和基を1つのみ有する化合物(単官能重合性化合物、単官能モノマー)を用いてもよい。
【0075】
以下、重合性化合物として用いられる、エチレン性不飽和基を分子内に1つ有する化合物(単官能モノマー)、及び、エチレン性不飽和基を分子内に2個以上有する化合物(多官能モノマー)について説明する。
前記熱硬化性層は、前記熱硬化層中に架橋構造を有することが好ましいことから、多官能モノマーが好ましく使用される。これらの多官能モノマーの分子量は、200〜2,000であることが好ましい。
単官能モノマー及び多官能モノマーとしては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。
【0076】
本発明においては、重合性化合物として、彫刻感度向上の観点から、分子内に硫黄原子を有する化合物を用いることが好ましい。
このように分子内に硫黄原子を有する重合性化合物としては、彫刻感度向上の観点から、特に、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有し、そのうち2つのエチレン性不飽和結合間を連結する部位に炭素−硫黄結合を有する重合性化合物(以下、適宜、「含硫黄多官能モノマー」ともいう。)を用いることが好ましい。
【0077】
本発明における含硫黄多官能モノマー中の炭素−硫黄結合を含んだ官能基としては、スルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、スルホニル、スルホンアミド、チオカルボニル、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸、スルファミン酸、チオアミド、チオカルバメート、ジチオカルバメート、又はチオ尿素を含む官能基が挙げられる。
また、含硫黄多官能モノマーにおける2つのエチレン性不飽和結合間を連結する炭素−硫黄結合を含有する連結基としては、−C−S−、−C−S−S−、−NH(C=S)O−、−NH(C=O)S−、−NH(C=S)S−、及び、−C−SO2−よりなる群から選択される少なくとも1つのユニットであることが好ましい。
【0078】
また、含硫黄多官能モノマーの分子内に含まれる硫黄原子の数は1つ以上であれば特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、彫刻感度と塗布溶剤に対する溶解性のバランスの観点から、1〜10個が好ましく、1〜5個がより好ましく、1〜2個が更に好ましい。
一方、分子内に含まれるエチレン性不飽和基の数は2つ以上であれば特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、架橋膜の柔軟性の観点で、2〜10個が好ましく、2〜6個がより好ましく、2〜4個が更に好ましい。
【0079】
本発明における含硫黄多官能モノマーの分子量としては、形成される膜の柔軟性の観点から、120〜3,000であることが好ましく、120〜1,500であることがより好ましい。
また、本発明における含硫黄多官能モノマーは単独で用いてもよいが、分子内に硫黄原子を持たない多官能重合性化合物や単官能重合性化合物との混合物として用いてもよい。
彫刻感度の観点からは、含硫黄多官能モノマー単独で用いる、又は、含硫黄多官能モノマーと単官能モノマーとの混合物として用いる態様が好ましく、含硫黄多官能モノマーと単官能モノマーとの混合物として用いる態様がより好ましい。
【0080】
熱硬化層においては、含硫黄多官能モノマーをはじめとする重合性化合物を用いることにより、膜物性、例えば、脆性、柔軟性などを調整することもできる。
また、樹脂組成物中の含硫黄多官能モノマーをはじめとする重合性化合物の総含有量は、架橋膜の柔軟性や脆性の観点から、不揮発性成分に対して、10〜60重量%が好ましく、15〜45重量%の範囲がより好ましい。
なお、含硫黄多官能モノマーと他の重合性化合物とを併用する場合、全重合性化合物中の含硫黄多官能モノマーの量は、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。
【0081】
〔溶剤〕
本発明に用いることができるレーザー彫刻用樹脂組成物は、熱硬化性の樹脂組成物層を容易に形成するため、溶剤を含むことが好ましい。
本発明において、樹脂組成物を調製する際に用いる溶剤は、化合物(I)と特定ポリマーとの反応を速やかに進行させる観点で、主として非プロトン性の有機溶剤を用いることが好ましい。より具体的には、非プロトン性の有機溶剤/プロトン性有機溶剤=100/0〜50/50(重量比)で用いることが好ましい。より好ましくは100/0〜70/30、特に好ましくは100/0〜90/10である。
非プロトン性の有機溶剤の好ましい具体例は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドである。
プロトン性有機溶剤の好ましい具体例は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオールである。
また、前記溶剤は、熱により硬化させる前に、レーザー彫刻用樹脂組成物より形成した熱硬化性の樹脂組成物層から除去することが好ましい。
溶剤の除去方法としては、特に制限はなく、公知の方法により行うことができる。
【0082】
〔アルコール交換反応触媒〕
樹脂組成物に化合物(I)を使用する場合、化合物(I)と特定バインダーポリマーとの反応を促進するため、アルコール交換反応触媒を含有することが好ましい。
アルコール交換反応触媒は、一般に用いられる反応触媒であれば、限定なく適用できる。
以下、代表的なアルコール交換反応触媒である酸あるいは塩基性触媒、及び、金属錯体触媒について順次説明する。
【0083】
“酸性触媒又は塩基性触媒”
触媒としては、酸性触媒又は塩基性触媒をそのまま用いるか、あるいは水又は有機溶剤などの溶媒に溶解させた状態のものを用いる。溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸、あるいは塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよい。
酸性触媒又は塩基性触媒の種類は特に限定されないが、具体的には、酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸、リン酸などが挙げられ、塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などが挙げられる。層中でのアルコール交換反応を速やかに進行させる観点で、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウム p−トルエンスルホネート、リン酸、ホスホン酸、酢酸が好ましく、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸が特に好ましい。
【0084】
“金属錯体触媒”
本発明においてアルコール交換反応触媒として用いられる金属錯体触媒は、好ましくは、周期律表の2、4、5及び13族よりなる群から選ばれた金属元素とβ−ジケトン(アセチルアセトンなどが好ましい。)、ケトエステル、ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル、アミノアルコール、及び、エノール性活性水素化合物よりなる群から選ばれるオキソ又はヒドロキシ酸素化合物とから構成されるものである。
さらに、構成金属元素の中では、Mg,Ca,St及びBaなどの2族元素、Ti及びZrなどの4族元素、並びに、V,Nb及びTaなどの5族元素、Al及びGaなどの13族元素が好ましく挙げられ、それぞれ触媒効果の優れた錯体を形成する。その中でも、得られる錯体が優れている点から、Zr、Al又はTiの金属錯体触媒が好ましく、オルトチタン酸エチルなどが特に好ましい。
これらは水系塗布液での安定性、及び、加熱乾燥時のゾルゲル反応でのゲル化促進効果に優れているが、中でも、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)が特に好ましい。
樹脂組成物には、アルコール交換反応触媒を1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。樹脂組成物におけるアルコール交換反応触媒の含有量は、水酸基を有するポリマーに対して、0.01〜20重量%であることが好ましく、0.1〜10重量%であることがより好ましい。
【0085】
〔重合開始剤〕
本発明に用いることができるレーザー彫刻用樹脂組成物は、重合開始剤を含有することが好ましく、エチレン性不飽和基を有する化合物と重合開始剤とを併用することがより好ましい。
重合開始剤は、公知のものを制限なく使用することができる。以下、好ましい重合開始剤であるラジカル重合開始剤について詳述するが、本発明はこれらの記述により制限を受けるものではない。
重合開始剤としては、光重合開始剤と熱重合開始剤とに大別することができる。
光重合開始剤としては、前述したものを好適に用いることができる。
【0086】
本発明では、架橋度を向上させる観点から、熱重合開始剤が好ましく用いられる。熱重合開始剤としては、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物が好ましく用いられ、(c)有機過酸化物がより好ましく用いられる。特に、以下に示す化合物が好ましい。
【0087】
(c)有機過酸化物
本発明に用いることができるラジカル重合開始剤として、好ましい(c)有機過酸化物としては、3,3’4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましい。
【0088】
(l)アゾ系化合物
本発明に用いることができるラジカル重合開始剤として、好ましい(l)アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスプロピオニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等を挙げることができる。
【0089】
本発明における重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。
重合開始剤は、レーザー彫刻用樹脂組成物の全固形分に対し、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜3重量%の割合で添加することができる。
【0090】
〔光熱変換剤〕
前記熱硬化層は、光熱変換剤を含有することが好ましい。
また、前記レーザー彫刻用樹脂組成物は、光熱変換剤を含有することが好ましい。
光熱変換剤は、レーザーの光を吸収し発熱することで、レーザー彫刻用樹脂組成物の硬化物の熱分解を促進すると考えられる。ゆえに、彫刻に用いるレーザー波長の光を吸収する光熱変換剤を選択することが好ましい。
【0091】
波長700nm〜1,300nmの赤外線を発するレーザー(YAGレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー、面発光レーザー等)を光源としてレーザー彫刻に用いる場合には、本発明における熱硬化層は、700nm〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を含有することが好ましい。
本発明における光熱変換剤としては、種々の染料及び/又は顔料が用いられる。
前記光熱変換剤は、800nm〜1,200nmに吸収を有する顔料及び染料から選択される1種以上の光熱変換剤であることがより好ましい。
また、前記光熱変換剤は、顔料であることが好ましい。
【0092】
光熱変換剤のうち、染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、700nm〜1,300nmに極大吸収波長を有するものが挙げられ、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、ジインモニウム化合物、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。特に、ヘプタメチンシアニン色素等のシアニン系色素、ペンタメチンオキソノール色素等のオキソノール系色素、フタロシアニン系色素が好ましく用いられる。例えば、特開2008−63554号公報の段落0124〜0137に記載の染料を挙げることができる。
【0093】
本発明において使用される光熱変換剤のうち、顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0094】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち、好ましいものはカーボンブラックである。
【0095】
カーボンブラックは、組成物中における分散性などが安定である限り、ASTMによる分類のほか、用途(例えば、カラー用、ゴム用、乾電池用など)の如何に拘らずいずれも使用可能である。カーボンブラックには、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなどが含まれる。なお、カーボンブラックなどの黒色着色剤は、分散を容易にするため、必要に応じて分散剤を用い、予めニトロセルロースやなどに分散させたカラーチップやカラーペーストとして使用することができ、このようなチップやペーストは市販品として容易に入手できる。
本発明においては、比較的低い比表面積及び比較的低いDBP吸収を有するカーボンブラックや比表面積の大きい微細化されたカーボンブラックまでを使用することも可能である。好適なカーボンブラックの例は、Printex(登録商標)U、Printex(登録商標)A、又はSpezialschwarz(登録商標)4(Degussaより)を含む。
本発明に用いることができるカーボンブラックとしては、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が、150ml/100g未満であることが好ましい。
また、カーボンブラックとしては、光熱変換により発生した熱を周囲のポリマー等に効率よく伝えることで彫刻感度が向上するという観点で、比表面積が少なくとも150m2/gである、伝導性カーボンブラックが好ましい。
【0096】
前記熱硬化層、又は、前記レーザー彫刻用樹脂組成物中おける光熱変換剤の含有量は、その分子固有の分子吸光係数の大きさにより大きく異なるが、樹脂組成物又は熱硬化層の固形分全重量の0.01〜20重量%の範囲が好ましく、0.05〜10重量%の範囲がより好ましく、0.1〜5重量%の範囲が特に好ましい。
【0097】
<その他の添加剤>
前記レーザー彫刻用樹脂組成物、及び、前記レリーフ印刷版原版の熱硬化層は、前述したもの以外に、公知の添加剤を含有していてもよい。
レーザー彫刻用樹脂組成物は、可塑剤を含有することが好ましい。
可塑剤は、レーザー彫刻用樹脂組成物により形成された膜を柔軟化する作用を有するものであり、ポリマーに対して相溶性のよいものである必要がある。
可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート、クエン酸トリブチル等や、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)などが好ましく用いられる。
レーザー彫刻用樹脂組成物は、彫刻感度向上のための添加剤として、ニトロセルロースや高熱伝導性物質、を加えることがより好ましい。ニトロセルロースは自己反応性化合物であるため、レーザー彫刻時、自身が発熱し、共存する親水性ポリマー等のポリマーの熱分解をアシストする。その結果、彫刻感度が向上すると推定される。高熱伝導性物質は、熱伝達を補助する目的で添加され、熱伝導性物質としては、金属粒子等の無機化合物、導電性ポリマー等の有機化合物が挙げられる。金属粒子としては、粒径がマイクロメートルオーダーから数ナノメートルオーダーの、金微粒子、銀微粒子、銅微粒子が好ましい。導電性ポリマーとしては、特に共役ポリマーが好ましく、具体的には、ポリアニリン、ポリチオフェンが挙げられる。
また、共増感剤を用いることで、レーザー彫刻用樹脂組成物を光硬化させる際の感度を更に向上させることができる。
更に、組成物の製造中あるいは保存中において重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合禁止剤を添加することが好ましい。
レーザー彫刻用樹脂組成物の着色を目的として染料若しくは顔料等の着色剤を添加してもよい。これにより、画像部の視認性や、画像濃度測定機適性といった性質を向上させることができる。
更に、前記熱硬化層の物性を改良するために充填剤等の公知の添加剤を加えてもよい。
【0098】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法)
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版(以下、単に「レリーフ印刷版原版」ともいう。)の製造方法は、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を製造することができれば、特に制限はないが、基材上に熱硬化性層を形成する層形成工程、前記熱硬化性層を熱硬化し熱硬化層を形成する熱硬化工程、(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)直径5〜100μmの粒子を含む光硬化性組成物を調製する調製工程、前記光硬化性組成物を付与し前記熱硬化性層又は前記熱硬化層と支持体とを貼り合わせる貼合工程、及び、前記光硬化性組成物を光により硬化させ光硬化層を形成し前記熱硬化性層又は前記熱硬化層と前記支持体とを接着する光硬化工程、を含む製造方法であることが好ましい。
以下に、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法について、詳細に説明する。
【0099】
<層形成工程>
本発明のレリーフ印刷版原版の製造方法は、基材上に熱硬化性層を形成する層形成工程を含むことが好ましい。
前記層形成工程における基材は、特に制限はなく、公知の基材を用いることができる。
基材の形状としては、シート状であっても、ベルト状であっても、板状であってもよく、特に制限はないが、ベルト状であることが好ましい。また、基材の材質も、特に制限はなく、樹脂、ゴム、金属等、公知の材質であればよい。
前記層形成工程において、基材と熱硬化性層とは、直接接していても、直接接していなくとも、例えば、基材と熱硬化性層との間に保護層等の他の層を有していてもよいが、直接接していることが好ましい。基材と熱硬化性層とが直接接していることにより、熱硬化性層の描画面を、必要に応じて、基材の表面形状に対応する所望の表面形状にすることができる。
また、前記基材が熱硬化性層に直接接する場合、前記基材の熱硬化性層と接する側の表面は、平坦であることが好ましい。
【0100】
前記熱硬化性層は、特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、前記レーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であることが好ましい。
前記層形成工程において、基材上に熱硬化性層を形成する方法としては、特に制限はないが、レーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレリーフ彫刻用樹脂組成物から溶剤を除去した後に、基材上に溶融押し出しする方法や、基材上に樹脂組成物を流延し前記樹脂組成物中の溶剤の少なくとも一部を除去し熱硬化性層を形成する方法が好ましく例示でき、基材上に樹脂組成物を流延し前記樹脂組成物中の溶剤の少なくとも一部を除去し熱硬化性層を形成する方法がより好ましく例示できる。
レーザー彫刻用樹脂組成物は、例えば、架橋剤、バインダーポリマー、及び、任意成分として、光熱変換剤、香料、可塑剤を適当な溶媒に溶解させることによって製造できる。溶媒成分のほとんどは、レリーフ印刷版原版を製造する段階で除去する必要があるので、溶媒としては、揮発しやすい低分子アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル)等を用い、かつ温度を調整するなどして溶媒の全添加量をできるだけ少なく抑えることが好ましい。
【0101】
<熱硬化工程>
本発明のレリーフ印刷版原版の製造方法は、前記熱硬化性層を熱硬化し熱硬化層を形成する熱硬化工程を含むことが好ましい。
前記熱硬化工程は、前記貼合工程の前に行っても、後に行ってもよいが、前記前記貼合工程の前に行うことが好ましい。
また、本発明のレリーフ印刷版原版における熱硬化層は、レーザー彫刻性の観点から、架橋構造を有していることが好ましく、更に取り扱いの容易性等の観点から、前記前記貼合工程の前に前記熱硬化工程を行い、前記貼合工程の前の段階で、架橋構造を有していることがより好ましい。前記熱硬化層が架橋構造を有することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。
熱により硬化を行うための加熱手段としては、特に制限はなく、公知の方法により熱を付与して硬化すればよいが、例えば、前記熱硬化性層を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
【0102】
また、前記硬化は、熱による硬化だけでなく、光による硬化を更に行ってもよい。
前記光による硬化は、熱による硬化の前に行っても、同時に行っても、後に行ってもよい。
光としては、可視光、紫外光又は電子線が挙げられるが、紫外光が最も好ましい。また、光の照射は、前記熱硬化性層又は前記熱硬化層の全面に行うことが好ましい。光による架橋において、熱硬化性層又は熱硬化層の支持体側を裏面とすれば、表面に光を照射するだけでもよいが、支持体が光を透過する透明なフィルムならば、更に裏面からも光を照射することが好ましい。表面からの照射は、保護フィルムが存在する場合、これを設けたまま行ってもよいし、保護フィルムを剥離した後に行ってもよい。酸素の存在下において架橋反応が阻害される恐れがある場合は、熱硬化性層又は熱硬化層に塩化ビニルシートを被せて真空引きした上で、光の照射を行ってもよい。また、光の照射は、公知の光源を用いることができる。
【0103】
<調製工程>
本発明のレリーフ印刷版原版の製造方法は、(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)直径5〜100μmの粒子を含む光硬化性組成物を調製する調製工程を含むことが好ましい。
成分A〜成分Cを含む光硬化性組成物は、前述した本発明のレリーフ印刷版原版における光硬化性組成物と同義であり、好ましい態様も同様である。
また、前記光硬化性組成物は、特に制限はなく、公知の混合方法により調製することができる。具体的には、例えば、成分A〜成分C、及び、その他の成分を一度に混合する方法や、成分A、成分C、及び、その他の成分を混合した後、成分Bを混合する方法等が挙げられる。
【0104】
<貼合工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、前記光硬化性組成物を付与し前記熱硬化性層又は前記熱硬化層と支持体と貼り合わせる貼合工程を含むことが好ましい。
前記貼合工程においては、前記熱硬化層又は前記熱硬化性層における基材側の面と対向する面、いわゆる空気面に特定の光硬化性組成物を付与すること好ましい。上記態様をとることにより、接着性及び膜厚均一性に優れたレリーフ印刷版原版が得られる。
前記貼合工程における前記熱硬化層又は前記熱硬化性層に光硬化性組成物を付与する方法としては、特に制限はなく、公知の方法により行うことができる。
また、前記貼合工程における前記熱硬化層又は前記熱硬化性層と支持体とを貼り合わせる方法としては、特に制限はなく、公知の方法により行うことができる。
【0105】
<光硬化工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、前記光硬化性組成物を光により硬化させ光硬化層を形成し前記熱硬化性層又は前記熱硬化層と前記支持体とを接着する光硬化工程を含むことが好ましい。
前記光硬化工程において使用する光としては、その照射により光硬化性組成物を硬化することができる活性光線であり、かつ、レリーフ印刷版原版を彫刻可能なレーザー光以外であれば特に制限はなく、広くα線、γ線、X線、紫外線(UV)、可視光線、電子線などを包含するものである。中でも、紫外線を前記光として使用することが特に好ましい。
なお、レーザー光とは、コヒーレンスの高い光であり、指向性や収束性に優れ、例えば、後述する赤外線レーザーなどが例示できる。
また、前記光硬化工程における前記光は、200〜600nmの光であることが好ましい。
前記光硬化工程に用いることができる光源としては、特に制限はないが、水銀ランプ、メタルハライドランプ等が好ましく例示できる。
また、前記光硬化工程における光の露光量は、光硬化性組成物が硬化する量であればよいが、10〜4,000mJ/cm2であることが好ましく、20〜2,500mJ/cm2であることがより好ましい。
また、光による硬化の容易性の点から、前記支持体、及び、前記熱硬化性層又は前記熱硬化層の少なくとも1方は、透明であることが好ましく、前記支持体が透明支持体であることがより好ましい。
レリーフ印刷版原版において、前記熱硬化層と前記支持体との間の剥離力が、2N/cm以上であることが好ましく、3N/cm以上であることがより好ましく、4N/cm以上であることが更に好ましい。また、20N/cm以下であることが好ましい。
【0106】
また、本発明のレリーフ印刷版原版の製造方法は、必要に応じて、前記熱硬化性層又は前記熱硬化層の基材側の面に剥離可能な保護層を形成する保護工程を有していてもよい。保護層を設ける方法としては、例えば、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムと前記熱硬化性層又は前記熱硬化層とを圧着する方法や、表面に少量の溶媒を含浸させた前記熱硬化性層又は前記熱硬化層に保護フィルムを密着させることよって行う方法が挙げられる。
保護フィルムを用いる場合には、前記層形成工程において、まず基材上に保護フィルムを設け、その保護フィルム上に熱硬化性層を積層する方法を採ってもよい。
また、保護フィルムが剥離不可能な場合や、逆に前記熱硬化性層又は前記熱硬化層に接着しにくい場合には、両層間にスリップコート層を設けてもよい。スリップコート層に使用される材料は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂など、水に溶解又は分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0107】
本発明のレリーフ印刷版原版の製造方法に好適に用いられる製造装置としては、特に制限はないが、例えば、図1に示す装置が挙げられる。
図1は、本発明のレリーフ印刷版原版の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す概略図である。
基板上において熱硬化性層(不図示)を熱硬化することにより形成した熱硬化層12を熱硬化層ローラ14に巻き取り(不図示)、レリーフ印刷版原版の製造装置10において、熱硬化層ローラ14から熱硬化層12を、搬送手段16等を使用し搬送する。その搬送の際、熱硬化層12の上面を基材側の面と対向する面(空気面)12aとし、熱硬化層12の下面を基材側の面12bとする。
搬送された熱硬化層12は、空気面12aに接着剤付与手段18により光硬化性接着剤を付与し、光硬化性層20が形成される。
更に、光硬化性層20が形成された熱硬化層12に支持体ローラ22より搬送された支持体24がニップローラ26,28により貼り合わされる。
支持体24が貼り合わされた熱硬化層12に対し、紫外線照射手段30により支持体24側から紫外線を照射し、光硬化性層20が硬化し接着され、レリーフ印刷版原版32が得られる。
【0108】
(レリーフ印刷版及びその製版方法)
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の前記熱硬化層をレーザー彫刻しレリーフ層を形成する彫刻工程、を含む。
本発明のレリーフ印刷版は、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の熱硬化層をレーザー彫刻して得られたレリーフ層を有するレリーフ印刷版である。
【0109】
<彫刻工程>
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の前記熱硬化層をレーザー彫刻しレリーフ層を形成する彫刻工程を含む。
彫刻工程は、前記熱硬化層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、前記熱硬化層に対して、所望の画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成することが好ましい。また、所望の画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、前記熱硬化層に対して走査照射する工程が好ましく挙げられる。
この彫刻工程には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、前記熱硬化層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、前記熱硬化層中の分子は分子切断又はイオン化されて選択的な除去、すなわち、彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く又はショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度で前記熱硬化層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。
【0110】
彫刻工程に用いられる赤外線レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)又は半導体レーザーが好ましく、ファイバー付き半導体赤外線レーザー(FC−LD)が特に好ましい。一般に、半導体レーザーは、CO2レーザーに比べレーザー発振が高効率且つ安価で小型化が可能である。また、小型であるためアレイ化が容易である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。
半導体レーザーとしては、波長が700〜1,300nmのものが好ましく、800〜1,200nmのものがより好ましく、860〜1,200nmのものが更に好ましく、900〜1,100nmのものが特に好ましい。
また、ファイバー付き半導体レーザーは、更に光ファイバーを取り付けることで効率よくレーザー光を出力できるため、本発明における彫刻工程には有効である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。例えば、ビームプロファイルはトップハット形状とすることができ、安定に版面にエネルギーを与えることができる。半導体レーザーの詳細は、「レーザーハンドブック第2版」レーザー学会編、実用レーザー技術 電子通信学会 等に記載されている。
また、本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製版方法に好適に使用し得るファイバー付き半導体レーザーを備えた製版装置は、特開2009−172658号公報及び特開2009−214334号公報に詳細に記載され、これを本発明に係るレリーフ印刷版の製版に使用することができる。
【0111】
本発明のレリーフ印刷版の製版方法では、彫刻工程に次いで、更に、必要に応じて下記リンス工程、乾燥工程、及び/又は、後架橋工程を含んでもよい。
リンス工程:彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスする工程。
乾燥工程:彫刻されたレリーフ層を乾燥する工程。
後架橋工程:彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層を更に架橋する工程。
前記工程を経た後、彫刻表面に彫刻カスが付着しているため、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスして、彫刻カスを洗い流すリンス工程を追加してもよい。リンスの手段として、水道水で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式又は搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、石鹸や界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスするリンス工程を行った場合、彫刻されたレリーフ層を乾燥してリンス液を揮発させる乾燥工程を追加することが好ましい。
更に、必要に応じて記録層を更に架橋させる後架橋工程を追加してもよい。追加の架橋工程である後架橋工程を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
【0112】
本発明に用いることができるリンス液のpHは9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、11以上であることが更に好ましい。また、リンス液のpHは14以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましく、12.5以下であることが更に好ましい。上記範囲であると、取り扱いが容易である。
リンス液を上記のpH範囲とするために、適宜、酸及び/又は塩基を用いてpHを調整すればよく、使用する酸及び塩基は特に限定されない。
本発明に用いることができるリンス液は、主成分として水を含有することが好ましい。
また、リンス液は、水以外の溶媒として、アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン等などの水混和性溶媒を含有していてもよい。
【0113】
リンス液は、界面活性剤を含有することが好ましい。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、彫刻カスの除去性、及び、レリーフ印刷版への影響を少なくする観点から、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物等のベタイン化合物(両性界面活性剤)が好ましく挙げられる。なお、本発明において、アミンオキシド化合物のN=O、及び、ホスフィンオキシド化合物のP=Oの構造はそれぞれ、N+−O-、P+−O-と見なすものとする。
また、界面活性剤としては、公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等も挙げられる。さらに、フッ素系、シリコーン系のノニオン界面活性剤も同様に使用することができる。
界面活性剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤の使用量は、特に限定する必要はないが、リンス液の全重量に対し、0.01〜20重量%であることが好ましく、0.05〜10重量%であることがより好ましい。
【0114】
以上のようにして、レリーフ層を有するレリーフ印刷版が得られる。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは、耐磨耗性やインキ転移性のような種々の印刷適性を満たす観点からは、0.05mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上7mm以下、特に好ましくは0.05mm以上3mm以下である。
【0115】
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50°以上90°以下であることが好ましい。レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。
本発明のレリーフ印刷版は、フレキソ印刷機によるでの印刷に特に好適であるが、凸版用印刷機による水性インキ、油性インキ及びUVインキ、いずれのインキを用いた場合でも、印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機による水性インキ、溶剤インキ及びUVインキ、いずれのインキを用いた場合でも、印刷が可能である。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0117】
(実施例1〜7、及び、比較例1〜3)
<光硬化性組成物の作製>
以下の使用量で混合し、各実施例及び比較例で使用した光硬化性組成物を作製した。
・2−ヒドロキシプロピルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製) 46重量部
・トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製) 35重量部
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 8重量部
・表1記載の粒子化合物 表1に記載の量
【0118】
<熱硬化性記録層組成物の作製>
撹拌羽及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、特定ポリマーとしてゴーセナールT−215(日本合成化学工業(株)製、水溶性PVA)50重量部、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート47重量部を入れ、撹拌しながら70℃で120分間加熱しポリマーを溶解させた。その後、溶液を40℃にし、さらに可塑剤としてクエン酸トリブチルを15重量部、重合性化合物(単官能体)としてブレンマーLMA(日油(株)製)8重量部、重合開始剤としてパーブチルZ(日油(株)製)を1.6重量部、光熱変換剤としてカーボンブラック(ショウブラック N110、キャボットジャパン(株)製、DBP吸油量115ml/100g)を1重量部、を添加して30分間撹拌した。その後、化合物(I)(S−2)(以下に、構造を示す。)を15重量部、及び、触媒としてリン酸0.4重量部を添加し、40℃で10分間撹拌した。この操作により、流動性のあるレリーフ形成層用塗布液(熱硬化性記録層組成物)を得た。
【0119】
【化16】

なお、Etはエチル基を表す。
【0120】
<レリーフ印刷版原版の製造方法>
表1に記載の処方に従い、以下の操作により、各レリーフ印刷版原版を作製した。
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、上記より得られたレリーフ形成層用塗布液をスペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、90℃のオーブン中で3時間乾燥させて、表1記載の厚さの熱硬化性層を設け、レリーフシートを作製した。
得られたレリーフシートの記録層を80℃で3時間、更に100℃で3時間加熱して熱硬化性層を熱架橋し、熱硬化層を形成した。
熱架橋して得られたレリーフシートに対して表1に記載した条件で光硬化性組成物を塗設した後、2.5mm厚のPET支持体をニップローラにて張り合わせ、20秒後にPET支持体側からUV露光機(アイグラフィック社製UV露光機ECS−151U、メタルハライドランプ、1,500mJ/cm2、14sec露光)にて光硬化性層を硬化させ、レリーフ印刷版原版をそれぞれ作製した。作製した各レリーフ印刷版原版の弾性率、解像力及びインキ着肉性をそれぞれ以下のように測定した。また、作製した各レリーフ印刷版原版について、以下の方法によりコストを評価した。評価結果をまとめて表1に示す。
【0121】
<光硬化層及び熱硬化層の弾性率(弾性係数)の測定>
以下に、貯蔵弾性率(E’)の測定条件を示した。
動的粘弾性(DMA)に使用した測定装置は、エスアイアイ(株)製DMS6100であった。
その測定条件としては、幅6mmの試料片を試料ホルダーに保持し、測定長を10mmとした。厚みは別途測定した。4℃/分の昇温速度で−30℃から50℃まで加熱を行い、その間引っ張りモードでの測定において、最大歪み率を0.1%として100Hzの動的粘弾性測定を行った。試料片に貼り付けた熱電対の示す温度と装置の表示する温度との差を測定して、装置の温度校正を行い、25℃における100Hzの貯蔵弾性率(E’)を求めた。
【0122】
<彫刻方法>
半導体レーザー彫刻機として、最大出力8.0Wのファイバー付き半導体レーザー(FC−LD)SDL−6390(JDSU社製、波長 915nm)を装備したレーザー記録装置を用いた。半導体レーザー彫刻機でレーザー出力:7.5W、ヘッド速度:409mm/秒、ピッチ設定:2400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
【0123】
<リンス方法>
リンス液は、水、水酸化ナトリウム10重量%水溶液、及び、下記ベタイン化合物(1−B)を混合し、pHが12、かつ、ベタイン化合物(1−B)の含有量がリンス液全体の1質量%になるように調製した。
前記方法にて彫刻した各版材上に作成した上記リンス液を版表面が均一に濡れる様にスポイトで滴下(約100ml/m2)し、1分静置後、ハブラシ(ライオン(株)クリニカハブラシ フラット)を用い、荷重200gfで版と並行に20回(30秒)こすった。その後、流水にて版面を洗浄、版面の水分を除去し、1時間ほど自然乾燥した。
【0124】
【化17】

【0125】
(評価)
<印刷方法>
得られたレリーフ印刷版を印刷機(ITM−4型、(株)伊予機械製作所製)にセットし、インクとして、水性インキ アクアSPZ16紅(東洋インキ製造(株)製)を希釈せずに用いて、印刷紙として、フルカラーフォームM 70(日本製紙(株)製、厚さ100μm)を用いて印刷した。
【0126】
<インキ着肉性評価>
得られたレリーフ印刷版を印刷機(ITM−4型、(株)伊予機械製作所製)にセットし、インクとして、水性インキ アクアSPZ16紅(東洋インキ製造(株)製)を希釈せずに用いて、印刷紙として、フルカラーフォームM 70(日本製紙(株)製、厚さ100μm)を用いて印刷した。印刷された用紙の濃度を分光光度計SpectroEye(X−rite社製)を用いて測定した。
濃度1.55以上を◎、1.45以上1.55未満を○、1.35以上1.45未満を△、1.35未満を×と評価した。
【0127】
<解像力評価>
20〜50μmを5μm刻みで網点パターンを形成し、これを上記印刷方法で印刷したとき、紙に印刷された最小の網点を評価した。
【0128】
<コスト評価>
原材料費それぞれの価格と配合比を元に単位重量あたりの素材コストを算出し、比較例3に対しての相対的値を示した。
【0129】
【表1】

【0130】
なお、表1における粒子の添加量は、光硬化層の全重量に対する含有量(重量%)を示した。また、表1における粒子の平均粒径は、体積平均粒径を表す。
【符号の説明】
【0131】
10:レリーフ印刷版原版の製造装置、12:熱硬化層、12a:熱硬化層12の基材側の面と対向する面(空気面)、12b:熱硬化層12の基材側の面、14:熱硬化層ローラ、16:搬送手段、18:接着剤付与手段、20:光硬化性層、22:支持体ローラ、24:支持体、26,28:ニップローラ、30:紫外線照射手段、32:レリーフ印刷版原版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、
光硬化層、及び、
熱硬化層をこの順で有し、
前記光硬化層が、(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)粒子を含む層を光硬化した層であり、
前記光硬化層及び前記熱硬化層が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
(前記光硬化層の弾性率)<(前記熱硬化層の弾性率) (1)
【請求項2】
成分Aが、(メタ)アクリレート化合物を含む、請求項1に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項3】
成分Cが、無機粒子である、請求項1又は2に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項4】
前記熱硬化層が、バインダーポリマー、及び、光熱変換剤を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項5】
前記光熱変換剤が、700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤である、請求項4に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項6】
前記光熱変換剤が、カーボンブラックである、請求項4又は5に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項7】
前記熱硬化層が、重合性化合物を含む層を熱硬化した層である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項8】
基材上に熱硬化性層を形成する層形成工程、
前記熱硬化性層を熱硬化し熱硬化層を形成する熱硬化工程、
(成分A)エチレン性不飽和化合物、(成分B)光重合開始剤、及び、(成分C)直径5〜100μmの粒子を含む光硬化性組成物を調製する調製工程、
前記光硬化性組成物を付与し前記熱硬化性層又は前記熱硬化層と支持体とを貼り合わせる貼合工程、及び、
前記光硬化性組成物を光により硬化させ光硬化層を形成し前記熱硬化性層又は前記熱硬化層と前記支持体とを接着する光硬化工程、を含み、
前記光硬化層及び前記熱硬化層が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
(前記光硬化層の弾性率)<(前記熱硬化層の弾性率) (1)
【請求項9】
成分Aが、(メタ)アクリレート化合物を含む、請求項8に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項10】
成分Cが、無機粒子である、請求項8又は9に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項11】
前記光硬化工程において、200〜600nmの光により硬化させる、請求項8〜10のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項12】
前記熱硬化層が、バインダーポリマー、及び、光熱変換剤を含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項13】
前記光熱変換剤が、700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤である、請求項12に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項14】
前記光熱変換剤が、カーボンブラックである、請求項12又は13に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項15】
前記熱硬化性層が、重合性化合物を含む、請求項8〜14のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、又は、請求項8〜15のいずれか1項に記載の製造方法により得られたレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の前記熱硬化層をレーザー彫刻しレリーフ層を形成する彫刻工程、を含むことを特徴とする
レリーフ印刷版の製版方法。
【請求項17】
前記彫刻工程において、波長700〜1,300nmのファイバー付き半導体レーザーにより彫刻する、請求項16に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項18】
請求項16又は17に記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有することを特徴とする
レリーフ印刷版。

【図1】
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【公開番号】特開2012−171247(P2012−171247A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36362(P2011−36362)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】