説明

レーザ距離測定装置の感度調整方法及びレーザ距離測定装置

【課題】照射距離の遠い範囲の感度を維持しつつ照射距離の近い範囲の感度を低下させることができるレーザ距離測定装置の感度調整方法及びレーザ距離測定装置を提供する。
【解決手段】本発明のレーザ距離測定装置1は、レーザ光の照射方向と同一方向にある対象物Xからの反射光を受光して距離を測定するレーザ距離測定装置であり、レーザ光を対象物Xに照射する投光部2と、対象物Xの反射光のうち照射経路を通らない反射光を受光する受光部3と、投光部2及び受光部3を支持する本体部4と、を有し、投光部2及び受光部3は、投光部2の照射範囲2Aと受光部3の受光視野範囲3Aとが重ならない死角領域5を対象物Xと本体部4との間に形成するように光学調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光の照射方向と同一方向にある対象物からの反射光を受光して距離を測定するレーザ距離測定装置の感度調整方法及びレーザ距離測定装置に関し、特に、遠距離の感度を維持しつつ近距離の感度を低下させることができるレーザ距離測定装置の感度調整方法及びレーザ距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を利用したレーザ距離測定装置は、既に種々のタイプのものが開発・実用化されており、例えば、特許文献1,特許文献2等に記載されたものが提案されている。特許文献1に記載されたレーザ距離測定装置は、多面体ミラー(ポリゴンミラー)と、多面体ミラーを一定速度で回転駆動する主走査モータと、この主走査モータに対してその回転軸を直交するように設けてポリゴンミラーの回転軸を所定の角度範囲内で傾動させてポリゴンミラーの回転面を所定速度で揺動させる副走査モータと、を備えた光学系を有している。レーザ光源から射出されたレーザパルス光は、ハーフミラーを介してポリゴンミラーに投射される。このレーザパルス光は、ポリゴンミラーの回転に応じてレーザ光源から射出されると共に、副走査モータによって所定速度でポリゴンミラーのミラー面が揺動されて所定の測定範囲に照射される。そして、レーザ光の照射範囲内に存在する対象物からの反射光をポリゴンミラーによって集光レンズに導き、集光された反射光を受光素子が受光する。
【0003】
かかる特許文献1に記載されたレーザ距離測定装置では、多面体ミラーの一面のみを照射面と受光面に使用している。したがって、照射光と反射光の光軸は一致しており、集光される反射光は照射光の対象物からの正反射光となっている。すなわち、照射光が照射される範囲に含まれる全ての対象物の反射光が集光され受光素子により検出される。
【0004】
特許文献2に記載されたレーザ距離測定装置は、基本的な構成は特許文献1に記載されたものと同じであるが、反射光の受光面として、ポリゴンミラーの照射面とは異なる面を使用している。このように照射光と反射光の光軸をずらすことによってレーザ距離測定装置の照射窓(ガラス窓)からの反射光(ノイズ)を受光しないようにしている。
【特許文献1】特開2005−214718号公報
【特許文献2】特開2005−69975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたレーザ距離測定装置のように、照射光と反射光の光軸が一致している場合には、照射光の照射範囲に存在する対象物の全ての反射光を受光してしまう。また、レーザ光の受光感度は、照射距離の二乗に反比例し、照射距離が近いほど受光感度が高く、照射距離が遠いほど受光感度が低いという性質がある。レーザ距離測定装置を装置から離れた所定の領域(例えば、踏切、交差点等)の障害物検知装置として使用する場合には、監視領域外の照射距離の近い範囲において受光感度が高いという問題がある。その結果、監視領域外の水蒸気や粉塵・砂塵等までも検知してしまい、これらのノイズを除去しなければならない。その対策として、例えば、レーザ出力を低下させる、受光感度を下げる、減光フィルタを使用する等が考えられるが、照射距離の近い範囲のノイズを検知しないようにすると、必然的に照射距離の遠い範囲の対象物の検知能力も低下してしまい、監視領域の障害物を適切に検知できなくなってしまうことになる。
【0006】
また、特許文献2に記載されたレーザ距離測定装置のように、照射光と反射光の光軸をずらすことによって照射範囲と受光視野範囲とを区別して考えることができる。そして、特許文献2では照射窓からのノイズを低減することを目的として、照射面から照射窓までの至近距離のみを照射範囲と受光視野範囲とが重ならないようにしている。しかしながら、照射窓から対象物の間における照射距離の近い範囲においては特許文献1と同じ問題が生じている。
【0007】
本発明は上述した問題点に鑑み創案されたものであり、照射距離の遠い範囲の感度を維持しつつ照射距離の近い範囲の感度を低下させることができるレーザ距離測定装置の感度調整方法及びレーザ距離測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、レーザ光の照射方向と同一方向にある対象物からの反射光を受光して距離を測定するレーザ距離測定装置の感度調整方法において、前記レーザ光を前記対象物に照射する時の投光軸と前記対象物の反射光を受光する時の受光軸とをずらし、前記レーザ光の照射範囲と前記反射光の受光視野範囲とが重ならない死角領域を前記対象物と前記レーザ距離測定装置との間に形成する、ことを特徴とするレーザ距離測定装置の感度調整方法が提供される。
【0009】
また、前記死角領域の大きさは、前記投光軸と前記受光軸の距離、前記投光軸と前記受光軸の角度、前記照射範囲若しくは前記受光視野範囲の拡がり又はこれらの組み合わせのいずれかにより調整するようにしてもよい。
【0010】
また、前記対象物は、前記レーザ距離測定装置に近い近縁と前記レーザ距離測定装置から遠い遠縁とを有する監視領域内に存在する対象物であって、前記近縁及び前記遠縁における前記対象物の受光信号が第一閾値を越えるように前記死角領域を形成するようにしてもよい。さらに、前記近縁と前記遠縁との間における前記対象物の受光信号が第二閾値を越えないように前記死角領域を形成するようにしてもよい。
【0011】
また、本発明によれば、レーザ光の照射方向と同一方向にある対象物からの反射光を受光して距離を測定するレーザ距離測定装置において、前記レーザ光を前記対象物に照射する投光部と、前記対象物の反射光のうち照射経路を通らない反射光を受光する受光部と、前記投光部及び前記受光部を支持する本体部と、を有し、前記投光部及び前記受光部は、前記投光部の照射範囲と前記受光部の受光視野範囲とが重ならない死角領域を前記対象物と前記本体部との間に形成するように光学調整されている、ことを特徴とするレーザ距離測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明のレーザ距離測定装置の感度調整方法によれば、投光軸と受光軸をずらしたことにより死角領域を形成することが可能となり、対象物とレーザ距離測定装置との間に死角領域を形成することによって、照射距離の近い範囲の感度を低下させることができる。したがって、照射距離が近いほど受光感度が高く、照射距離が遠いほど受光感度が低いというレーザ光の性質に反して、照射距離の遠い範囲の感度を維持しつつ照射距離の近い範囲の感度を低下させることができ、水蒸気や粉塵・砂塵等の検知によるノイズを低減することができる。
【0013】
また、死角領域の大きさは、前記投光軸と前記受光軸の距離、前記投光軸と前記受光軸の角度、前記照射範囲若しくは前記受光視野範囲の拡がり又はこれらの組み合わせのいずれかにより任意に調整することができ、レーザ距離測定装置の使用条件等に適するように調整することができる。
【0014】
また、近縁及び遠縁の受光信号が第一閾値を越えるように死角領域を形成することにより、対象物を検知したい領域を確実に監視することができ、近縁と遠縁との間における受光信号が第二閾値を越えないように死角領域を形成することにより、受光信号を飽和させることなく対象物の距離を測定することができる。
【0015】
また、上述した本発明のレーザ距離測定装置によれば、受光部を対象物の反射光のうち照射経路を通らない反射光を受光するように配置したことにより死角領域を形成することが可能となり、対象物と本体部との間に死角領域を形成することによって、照射距離の近い範囲の感度を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図1〜図6を用いて説明する。ここで、図1は、本発明のレーザ距離測定装置を示す図である。また、図2は、本発明のレーザ距離測定装置の感度調整方法を示す図であり、(A)〜(C)は死角領域の大きさを三段階に分けて表示したものである。
【0017】
図1に示すように、本発明のレーザ距離測定装置1は、レーザ光の照射方向と同一方向にある対象物Xからの反射光を受光して距離を測定するレーザ距離測定装置であり、レーザ光を対象物Xに照射する投光部2と、対象物Xの反射光のうち照射経路を通らない反射光を受光する受光部3と、投光部2及び受光部3を支持する本体部4と、を有し、投光部2及び受光部3は、投光部2の照射範囲A2と受光部3の受光視野範囲A3とが重ならない死角領域5を対象物Xと本体部4との間に形成するように光学調整されている。
【0018】
前記投光部2は、対象物Xに対してレーザ光を発光して照射する部品である。図1に示すように、投光部2は、例えば、光源となるレーザダイオード2aと、レーザ光をコリメートする投光レンズ2bと、を有する。また、後述するように、投光部2に照射ミラー等を使用して種々の光学系を構成するようにしてもよい。なお、光源は、レーザ光を発光できるものであればよく、レーザダイオード2aに限定されるものではない。
【0019】
投光部2の照射範囲A2は、光源の種類及びレーザ光径によって定まる拡がり角度、投光レンズ2bの焦点距離及び投光軸C2の向きにより設定される。レーザ光は指向性に優れているが、照射距離が延びるに連れて若干の拡がりを見せる。図1では、レーザダイオード2aが発光したレーザ光を略正面に照射するように投光軸C2を設定しているが、投光部2全体、レーザダイオード2a又は投光レンズ2bの向きを変えて、投光軸C2の向きを変更するようにしてもよい。また、照射範囲A2は、投光レンズ2bの種類・大きさ・曲率等を変更することにより調整することもできる。
【0020】
前記受光部3は、対象物Xに照射されたレーザ光の反射光を受光する部品である。レーザ距離測定装置において、投光部2と受光部2は一体に形成されており、投光軸C2と受光軸C3とが一致するように構成されているものが一般的であるが、本発明では投光部2と受光部3とを分離している。これは、投光軸C2と受光軸C3をずらして死角領域5を形成するためである。受光部3は、図1に示すように、例えば、反射光を集光する受光レンズ3aと、集光された反射光を受光して電圧に変換する受光素子3bと、を有する。また、後述するように、受光部3に受光ミラー等を使用して種々の構成の光学系を構成するようにしてもよい。なお、受光素子3bには、フォトダイオード等が使用される。
【0021】
受光部3の受光視野範囲A3は、受光素子3bの種類及び径、受光レンズ3aの焦点距離及び受光軸C3の向きにより設定される。一般に、受光視野範囲A3の拡がり角度は照射範囲A2の拡がり角度よりも大きい。図1では、受光部3全体の向きを変えて受光軸C3を設定しているが、受光レンズ3a又は受光素子3bの向きを変えて、受光軸C3の向きを変更するようにしてもよい。また、受光視野範囲A3は、受光レンズ3aの種類・大きさ・曲率等を変更することにより調整することもできる。
【0022】
前記本体部4は、投光部2及び受光部3を支持する筐体であり、前面に透過窓4aを備えている。透過窓4aは、例えば、ガラス窓である。また、本体部4は、隣接又は離隔して配置される制御部6が接続されている。制御部6は、図1に示すように、例えば、投光部2に接続された時間計測部6aと、受光部3に接続された信号処理部6bと、投光部2、受光部3、時間計測部6a及び信号処理部6bに接続された演算部6cと、により構成される。時間計測部6aは、レーザダイオード2aのパルス発光の時間及びタイミングを計測し、演算部6cにデータを送信する。信号処理部6bは、受光素子3bからの信号に増幅・圧縮・デコード等の処理を施して、演算部6cにデータを送信する。演算部6cは、時間計測部6a及び信号処理部6bからの信号に加え、投光部2から照射範囲A2や投光軸C2に関するデータを受信し、受光部3から受光視野範囲A3や受光軸C3に関するデータを受信する。そして、演算部6cは、これらの受信したデータから、対象物Xの距離を算出し、ディスプレイやプリンタ等の出力機器に出力する。このとき、受光視野範囲全体又は一部の領域に含まれる反射光の受光信号に基づいて二次元画像又は三次元画像として出力するようにしてもよい。
【0023】
前記死角領域5は、図1において斜線で示すように、投光部2の照射範囲A2と受光部3の受光視野範囲A3とが重ならない領域であり、本体部4、照射範囲A2及び受光視野範囲A3の外縁により囲まれた三角形の領域である。受光視野範囲A3外の領域は、対象物Xの反射光を受光し難いという意味において、全て死角領域ということもできるが、本発明において、上述した斜線領域を死角領域5と定義する。要は、照射範囲A2と受光視野範囲A3とが重なり始める交点Pが、対象物Xと本体部4との間に配置されるように、照射範囲A2及び受光視野範囲A3が設定されていればよい。そのように照射範囲A2及び受光視野範囲A3を設定することにより、レーザダイオード2aの照射距離の近い範囲の感度を低下させることができる。したがって、照射距離が近いほど受光感度が高く、照射距離が遠いほど受光感度が低いというレーザ光の性質に反して、照射距離の遠い範囲の感度を維持しつつ照射距離の近い範囲の感度を低下させることができ、水蒸気や粉塵・砂塵等の検知によるノイズを低減することができる。なお、図1では、投光軸C2と受光軸C3を交差させて死角領域5を形成しているが、投光軸C2と受光軸C3を平行に設定した状態で照射範囲C2及び受光視野範囲C3の拡がり角度のみを調整して死角領域5を形成するようにしてもよい。
【0024】
次に、本発明のレーザ距離測定装置の感度調整方法について説明する。本発明のレーザ距離測定装置の感度調整方法は、図1に示すように、レーザ光を対象物Xに照射する時の投光軸C2と対象物Xの反射光を受光する時の受光軸C3とをずらし、レーザ光の照射範囲A2と反射光の受光視野範囲A3とが重ならない死角領域5を対象物Xとレーザ距離測定装置1(具体的には、本体部4)との間に形成することを特徴とする。
【0025】
以下、死角領域5の設定方法について、図2を参照しつつ説明する。ただし、レーザダイオード2a、投光レンズ2b、受光レンズ3a及び受光素子3bは、レーザ距離測定装置1の使用条件等により予め定まっているものとする。
【0026】
まず、照射範囲A2の拡がり角度と方向を設定する。照射範囲A2の拡がり角度は、投光レンズ2bの焦点距離を調整することにより決定される。照射範囲A2の方向は、投光軸C2の向きを調整することにより決定される。なお、照射範囲A2は、対象物Xの距離を検出したい範囲(監視領域)を照射できるように拡がり角度と方向が設定される。図2では、投光部2の照射距離の短い、すなわち、本体部4に近い近縁L1と、投光部2の照射距離の長い、すなわち、本体部4から遠い遠縁L2とにより囲まれた範囲を監視領域として設定している。
【0027】
次に、受光視野範囲A3の拡がり角度と方向を設定する。受光視野範囲A3の拡がり角度は、受光レンズ3aの焦点距離を調整することにより決定される。受光視野範囲A3の方向は、受光軸C3の向きを調整することにより決定される。また、受光視野範囲A3の拡がり角度と方向は、近縁L1と遠縁L2により設定される監視領域内の対象物Xを検知できるように設定される。このとき、受光素子3bの出力、すなわち、受光部3の受光感度をモニターしながら設定される。
【0028】
例えば、まず遠縁L2近傍の対象物Xを検知できるように、受光視野範囲A3の拡がり角度と方向が調整され、受光部3からの受光信号が閾値α(第一閾値)を越えるように設定される。閾値αは、対象物Xを検知できる下限値に設定されることが好ましい。次に、受光視野範囲A3の拡がり角度と方向を徐々に調整し、近縁L1近傍の対象物Xを検知できるように、かつ、対象物Xと本体部4との間に死角領域5を形成するように設定する。このときも、受光部3からの受光信号が閾値αを越えるように設定される。また、近縁L1と遠縁L2との間における監視領域の受光信号が閾値β(第二閾値)を越えないように、受光視野範囲A3の拡がり角度と方向を調整するとよい。閾値βは、受光素子3bの受光量が飽和しない値に設定される。閾値βを設定することにより、監視領域内における対象物Xの距離の濃淡を適切に検知して出力することができる。
【0029】
本発明においては、図2(A)に示すように、できるだけ死角領域5を大きくすることが好ましい。死角領域5を大きくすることで、近縁L1〜本体部4の間における対象物Xからの反射光を受光し難くすることができる。図2(A)では、照射範囲A2と受光視野範囲A3の交点Pが監視領域内に設定されている。これは、受光視野範囲A3は、受光視野範囲A3外の領域における対象物Xの反射光も受光可能であるためである。すなわち、監視領域が受光視野範囲A3から外れていたとしても、外れた部分の受光感度が閾値αを越えていれば対象物Xの検知が可能である。
【0030】
図2(B)は、近縁L1上に交点Pを設定した場合である。この場合、監視領域の受光感度を上げることができるが、死角領域5が図2(A)の場合よりも狭いため、近縁L1〜本体部4の間における対象物Xからの反射光を受光し易くなっている。さらに、図2(C)に示すように、監視領域全体において、照射範囲A2と受光視野範囲A3とが完全に重なるように交点Pを設定してもよい。この場合、監視領域の受光感度をより上げることができるが、死角領域5が図2(B)の場合よりもさらに狭いため、近縁L1〜本体部4の間における対象物Xからの反射光を受光し易くなっている。この交点Pの位置は、投光部2及び受光部3の構成やレーザ距離測定装置1の用途等に応じて変更されるものであるが、いずれにせよ、近縁L1及び遠縁L2の受光信号が閾値αを越え、監視領域内の受光信号が閾値βを越えないように設定すればよい。
【0031】
次に、投光部2及び受光部3の光学系の変形例について、図3を参照しつつ説明する。ここで、図3は、本発明のレーザ距離測定装置における他の実施形態を示し、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態を示している。なお、各図において、投光部2及び受光部3の光学系のみを図示している。
【0032】
図3(A)に示す光学系は、投光部2と受光部3とが対峙して配置されており、投光部2と受光部3との間に多面体から構成されるポリゴンミラー31が配置されている。ポリゴンミラー31は、照射面31aと受光面31bとを有する。照射面31aは、投光部2からのレーザ光を反射して対象物X側にレーザ光を照射する。受光面31bは、対象物Xからの反射光を受光部3が受光できるように反射する。例えば、ポリゴンミラー31の断面が正方形の場合であって、照射面31a及び受光面31bの略中央部で反射させるように設定した場合に、ポリゴンミラー31の一辺の長さをaとすれば、投光軸C2と受光軸C3の距離Dは、D=0.5(√2)aとして求めることができる。この距離Dを調整する場合には、投光部2又は受光部3の位置を平行移動又は回転移動させてレーザ光又は反射光の入射ポイントをずらしたり、ポリゴンミラー31の大きさを調整したりすればよい。このように、ポリゴンミラー31を使用した光学系の場合、照射面31aと受光面31bの角度が常に一定であるため、ポリゴンミラー31を回転させても投光軸C2と受光軸C3の位置関係を維持することができ、レーザ光を走査させる場合に適している。
【0033】
図3(B)に示す光学系は、投光部2と受光部3とが対峙して配置されており、投光部2と受光部3との間にレーザ光を反射する照射ミラー32と対象物Xからの反射光を反射する受光ミラー33とが配置されている。照射ミラー32は、投光部2からのレーザ光を反射して対象物X側にレーザ光を照射する。受光ミラー33は、対象物Xからの反射光を受光部3が受光できるように反射する。この光学系では、照射ミラー32と受光ミラー33とを個別に調整することができるため、照射範囲A2及び受光視野範囲A3の調整が容易である。例えば、投光軸C2と受光軸C3の距離を調整したい場合には、照射ミラー32と受光ミラー33の間隔を調整すればよい。
【0034】
なお、本発明のレーザ距離測定装置1において使用される光学系は、図3(A)及び(B)に図示したものに限定されるものではなく、ハーフミラーやビームスプリッタ等を適宜使用して種々の光学系を使用しうることはいうまでもない。
【0035】
次に、本発明のレーザ距離測定装置の感度調整方法の作用について、図4及び図5を参照しつつ説明する。ここで、図4は、受光視野範囲A3に入る反射光の割合を示したグラフであり、図5は、本発明のレーザ距離測定装置の受光感度を示したグラフである。
【0036】
本発明のレーザ距離測定装置1を使用して、図1に示す死角領域5の範囲を変動させ、受光視野範囲A3に入る対象物Xからの反射光の割合を図示したものが図4のグラフである。具体的には、照射範囲A2と受光視野範囲A3の交点Pの位置を10m〜40mの範囲で変動させた結果である。横軸は、交点Pの本体部4からの距離(m)を示し、縦軸は、対象物Xからの反射光が含まれる割合(%)を示している。
【0037】
図4において、グラフF1は交点Pの本体部4からの距離が10mの場合、グラフF2は交点Pの本体部4からの距離が15mの場合、グラフF3は交点Pの本体部4からの距離が20mの場合、グラフF4は交点Pの本体部4からの距離が30mの場合、グラフF5は交点Pの本体部4からの距離が40mの場合を示している。図4に示すように、交点Pの本体部4からの距離を本体部4に近づけると、交点Pの位置までは、受光視野範囲A3に入る反射光の割合が距離の二乗に反比例するように増加していくが、交点Pを過ぎると受光視野範囲A3に入る反射光の割合が徐々に減少していくことが分かる。また、交点Pよりも本体部4に近い領域でも一定の反射光が受光されていることも分かる。
【0038】
本発明のレーザ距離測定装置1を使用して感度調整を行った結果を図示したものが図5のグラフである。横軸は、本体部4からの距離(m)を示し、縦軸は、受光信号(V)を示している。ここで、本発明のレーザ距離測定装置1の受光信号を実線で表示し、従来のレーザ距離測定装置の受光信号を破線で表示している。なお、各レーザ距離測定装置において、レーザダイオード、投光レンズ、受光レンズ及び受光素子には、全く同じものを使用している。
【0039】
図5に示すように、従来のレーザ距離測定装置の受光感度を調整する場合、監視領域の遠縁L2における受光信号が閾値αを越えていなければならない。そして、遠縁L2〜本体部4までの受光感度は、必然的に距離の二乗に反比例して上昇し、ある地点で閾値βを越え、いずれ飽和に達する。図5に示す例では、本体部4からの距離が20mの付近で閾値βを越え、近縁L1(距離10m)の付近で受光信号が飽和に達していることがわかる。一方、本発明のレーザ距離測定装置1では、照射範囲A2と受光視野範囲A3の交点Pの位置を14m付近に設定すると、近縁L1及び遠縁L2の付近の受光信号が閾値αを越え、監視領域内の受光信号が閾値βを越えないように感度を調整することができた。なお、ここでは、閾値αを約1.0V、閾値βを約2.7Vに設定したが、かかる数値に限定されるものではない。
【0040】
最後に、本発明のレーザ距離測定装置1を三次元レーザレーダに適用した場合について、図6を参照しつつ説明する。ここで、図6は、本発明のレーザ距離測定装置1を適用した三次元レーザレーダの概念図である。
【0041】
図6に示す三次元レーザレーダ61は、図1等に示したレーザ距離測定装置1に、レーザ光を走査(スキャン)させる主走査モータ62及び副走査モータ63を付加した装置である。光学系には、例えば、図3(A)に示したようなポリゴンミラー31を使用したものを採用することが好ましい。主走査モータ62は、レーザ光をX方向に走査させるモータである。具体的には、ポリゴンミラー31を照射面31aと受光面31bの並びの方向に回転又は回動させる。副走査モータ63は、レーザ光をY方向に走査させるモータである。具体的には、主走査モータ62の走査方向と垂直な方向にポリゴンミラー31又は本体部4を揺動させる。
【0042】
かかる三次元レーザレーダ61は、図6に示すように、例えば、監視領域64を俯瞰できる高所に設置される。そして、主走査モータ62及び副走査モータ63を駆動させることにより、レーザ光を走査させて監視領域64を一定の間隔でスキャンすることができる。本発明のレーザ距離測定装置1を三次元レーザレーダ61に適用することにより、図6に示すような三次元的な死角領域65を形成することができる。三次元レーザレーダ61のスキャンごとに照射範囲A2と受光視野範囲A3の交点Pをプロットすると仮想球面65aを描くことができ、この仮想球面65aから三次元レーザレーダ61までの間の空間が死角領域65として設定される。なお、監視領域64は、例えば、踏み切り、交差点、工場内、その他種々の施設内等である。
【0043】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のレーザ距離測定装置を示す図である。
【図2】本発明のレーザ距離測定装置の感度調整方法を示す図であり、(A)〜(C)は死角領域の大きさを三段階に分けて表示したものである。
【図3】本発明のレーザ距離測定装置における他の実施形態を示し、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態を示している。
【図4】受光視野範囲に入る反射光の割合を示したグラフである。
【図5】本発明のレーザ距離測定装置の受光感度を示したグラフである。
【図6】本発明のレーザ距離測定装置を適用した三次元レーザレーダの概念図である。
【符号の説明】
【0045】
1 レーザ距離測定装置
2 投光部
2a レーザダイオード
2b 投光レンズ
3 受光部
3a 受光レンズ
3b 受光素子
4 本体部
4a 透過窓
5,65 死角領域
6 制御部
6a 時間計測部
6b 信号処理部
6c 演算部
31 ポリゴンミラー
31a 照射面
31b 受光面
32 照射ミラー
33 受光ミラー
61 三次元レーザレーダ
62 主走査モータ
63 副走査モータ
64 監視領域
65a 仮想球面
A2 照射範囲
A3 受光視野範囲
C2 投光軸
C3 受光軸
X 対象物
P 交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の照射方向と同一方向にある対象物からの反射光を受光して距離を測定するレーザ距離測定装置の感度調整方法において、
前記レーザ光を前記対象物に照射する時の投光軸と前記対象物の反射光を受光する時の受光軸とをずらし、前記レーザ光の照射範囲と前記反射光の受光視野範囲とが重ならない死角領域を前記対象物と前記レーザ距離測定装置との間に形成する、ことを特徴とするレーザ距離測定装置の感度調整方法。
【請求項2】
前記死角領域の大きさは、前記投光軸と前記受光軸の距離、前記投光軸と前記受光軸の角度、前記照射範囲若しくは前記受光視野範囲の拡がり又はこれらの組み合わせのいずれかにより調整される、ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ距離測定装置の感度調整方法。
【請求項3】
前記対象物は、前記レーザ距離測定装置に近い近縁と前記レーザ距離測定装置から遠い遠縁とを有する監視領域内に存在する対象物であって、前記近縁及び前記遠縁における前記対象物の受光信号が第一閾値を越えるように前記死角領域を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ距離測定装置の感度調整方法。
【請求項4】
前記近縁と前記遠縁との間における前記対象物の受光信号が第二閾値を越えないように前記死角領域を形成する、ことを特徴とする請求項3に記載のレーザ距離測定装置の感度調整方法。
【請求項5】
レーザ光の照射方向と同一方向にある対象物からの反射光を受光して距離を測定するレーザ距離測定装置において、
前記レーザ光を前記対象物に照射する投光部と、前記対象物の反射光のうち照射経路を通らない反射光を受光する受光部と、前記投光部及び前記受光部を支持する本体部と、を有し、前記投光部及び前記受光部は、前記投光部の照射範囲と前記受光部の受光視野範囲とが重ならない死角領域を前記対象物と前記本体部との間に形成するように光学調整されている、ことを特徴とするレーザ距離測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−47433(P2009−47433A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210861(P2007−210861)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】