説明

レーダ雨量計運用管理システム

【課題】配信された合成レーダ雨量の精度に関しては確立された評価方法がないため、レーダ雨量計全国合成システムを利用する際に誤使用してしまう。
【解決手段】レーダの運用状況整理手段1は、全国合成レーダ雨量データ等のヘッダ情報並びに点検・障害記録を用いて個別のレーダ雨量計及び全国合成処理システムの運用状況を整理する。降雨選定手段2は、レーダ雨量計観測結果を画像化し、対象レーダ観測範囲内に降雨のあった期間を全て抽出する。観測精度検証手段3は、全国合成レーダ雨量データの観測精度を年間を通した目視点検、降雨期間の特定、選定された地上雨量観測地点、累加雨量画像、指標値解析、ハイエトグラフを用いて評価する。観測特性検証手段4は、個別レーダ雨量計により観測されたレーダ雨量の観測精度を選定された地上雨量観測地点、極座標レーダ累加雨量画像、指標値解析、ZR解析、距離特性解析を用いて評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全国合成レーダ雨量の精度検証を行い、合成レーダ雨量の運用状況と合わせ保存することにより、今後のレーダ雨量計全国合成システムの適正な運用とレーダ雨量の有効活用を図ることができる有用なレーダ雨量計運用管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ雨量計は、電波が雨滴に当たって戻ってくるまでの時間と、その反射波の強さによって、降雨の位置(雨滴の分布)と雨量強度を観測する装置であり、昭和51年に第1号機が赤城山頂に設置されて以来、順次、全国に設置され、また、機器の更新が行われてきた結果、現在では26基が稼動している。
【0003】
従来、斯かるレーダ雨量計は、個々のレーダ雨量計の観測データをそのまま地方単位で合成するなどして利用されていたが、平成15年からレーダ雨量計全国合成システムによる合成レーダ雨量がインターネット等を通じて広く配信・利用されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−195381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した個々のレーダ雨量計は、年に数回の定期点検を実施しているものの、通常の点検では発見できない不具合が少なからず発生しており、また、気が付かないうちにレーダ雨量計の観測特性が変わってしまうことも相俟って、正常な雨量観測ができなくなるといった問題がある。
【0005】
また、従来のレーダ雨量計全国合成システムにあっては、未だ全国的に統一された運用方法、適切な補正方法、精度管理手法等を満たすシステムが十分には確立されておらず、特に、配信された合成レーダ雨量の精度に関しては確立された評価方法がないため、同全国合成システムを利用する際に誤使用してしまうといった問題がある。
【0006】
換言すれば、正確な雨量データを必要とするユーザや関係機関に正確な情報として配信できないため、雨量データに基づいて行われる洪水予報、水防警報、交通規制等やこれに伴う管理体制や防災体制に支障を来してしまうことが危惧されている。
【0007】
また、昨今では、オンラインで配信される合成レーダ雨量(以下、単にオンライン合成レーダ雨量という)が、重要な防災情報として適正に利用できるように精度を確保する必要があることに鑑み、合成レーダ雨量の精度向上を図り、かつ、今後のレーダ雨量計全国合成システムを誤差なく利用していくために個別のレーダ雨量計や全国合成システムの運用状況を把握し管理できるシステムが要望されている。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点及び要望に鑑みてなされたもので、合成レーダ雨量の精度検証を行い、合成レーダ雨量の運用状況と合わせ保存することにより、レーダ雨量計全国合成システムを利用する際の誤使用による問題発生を防止し、今後のレーダ雨量全国合成システムの適正な運用とレーダ雨量の有効活用を図ることができる有用なレーダ雨量計運用管理システムの提供を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の如き従来の問題点を解決し、所期の目的を達成するため本発明の要旨とする構成は、全国合成レーダ雨量データ・個別レーダ雨量データ・受信電力データのヘッダ情報並びに点検・障害記録を用いて個別のレーダ雨量計及び全国合成処理システムの運用状況を整理するレーダ運用状況整理手段と、全国合成レーダ雨量データから広範囲に相当量の降雨をもたらした降雨期間を特定する手段と、全国合成処理装置により合成された全国合成レーダ雨量データの観測精度を年間を通した目視点検、選定された地上雨量観測地点、累加雨量画像、指標値解析、ハイエトグラフを用いて評価する観測精度検証手段と、個別レーダ雨量計により観測されたレーダ雨量の観測精度を選定された地上雨量観測地点、累加雨量画像、指標値解析、ZR解析、距離特性解析を用いて評価する観測特性検証手段とを備えてなるレーダ雨量計運用管理システムに存する。
【0010】
また、レーダ運用状況整理手段は、全国合成レーダ雨量データのヘッダ部に付加されているレーダの状態を示すビット(システムステータス)を1年間5分毎の全てのデータに対し抽出し、ビットが立っている原因を、全国合成される前の個別レーダ雨量データ(極座標データ)及び個別レーダ雨量データに変換される前の受信電力データ(Prデータ)にまで遡及して解析する手法を用いるのが良い。
【0011】
更に、レーダ運用状況整理手段は、各データの有無及びヘッダ情報並びに各レーダ雨量計の点検記録、システム監視記録、全国合成処理装置の点検・監視記録よりバーチャート図及び表としてまとめる手法を用いても良い。
【0012】
また、前記目視点検は、5分データを1データとする全国合成レーダ雨量データを、1メッシュを国土地理院が定める3次地域区画の大きさとした画像にして目視点検を行い、かつ、広く広範囲に降った降雨を対象に累加画像を作成し目視点検を行なうのが良い。
【0013】
更に、前記降雨期間の特定は、年間を通じて解析対象範囲に広く強く降雨のあった期間を選定した期間が良い。
【0014】
また、前記指標値解析は、後述する[0041]にて選定された解析対象降雨における、レーダ雨量と地上雨量とで計算した相関係数、総雨量比を用いた解析であるのが良く、その結果を特定の降雨毎または全降雨毎に平面的かつ頻度としてまとめるのが良い。
【0015】
更に、前記ZR解析は、レーダ反射因子Zと地上雨量との関係を解析しレーダ実機に設定されている定数と比較するのが良く、前記距離特性解析は、レーダサイトからの距離と指標値解析結果との関係を解析するのが良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上述のように構成され、全国合成レーダ雨量データ・個別レーダ雨量データ・受信電力データのヘッダ情報並びに点検・障害記録を用いて個別のレーダ雨量計及び全国合成処理システムの運用状況を整理するレーダ運用状況整理手段と、全国合成レーダ雨量データから広範囲に相当量の降雨をもたらした降雨期間を特定する手段と、全国合成処理装置により合成された全国合成レーダ雨量データの観測精度を年間を通した目視点検、合成レーダ雨量の累加雨量画像による目視点検、選定された地上雨量観測地点における指標値解析、ハイエトグラフを用いて評価する観測精度検証手段と、個別レーダ雨量計により観測されたレーダ雨量の観測精度を選定された地上雨量観測地点、指標値解析、極座標レーダの累加雨量画像、ZR解析、距離特性解析を用いて評価する観測特性検証手段とを備えてたことによって、レーダデータ及び地上雨量データの収集整理、レーダ雨量計の運用状況と諸元データの整理、全国合成レーダ雨量の精度解析、観測特性の検討、レーダ観測結果の評価、雨量データの保存等を実施し、今後のレーダ雨量計全国合成システムの適正な運用とレーダ雨量の有効活用に資することができるといった効果を奏する。
【0017】
特に、オンライン合成レーダ雨量が、正確な雨量データを必要とするユーザや関係機関に正確な情報としてリアルタイムに配信できるため、雨量データに基づいて行われる洪水予報、水防警報、交通規制等やこれに伴う管理体制や防災体制にあって、重要な防災情報として適正に利用できるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
全国合成レーダ雨量データ・個別レーダ雨量データ・受信電力データのヘッダ情報並びに点検・障害記録を用いて個別のレーダ雨量計及び全国合成処理システムの運用状況を整理するレーダ運用状況整理手段と、全国合成処理装置により合成された全国合成レーダ雨量データの観測精度を年間を通した目視点検、降雨期間の特定、選定された地上雨量観測地点、累加雨量画像、指標値解析、ハイエトグラフを用いて評価する観測精度検証手段と、個別レーダ雨量計により観測されたレーダ雨量の観測精度を選定された地上雨量観測地点、累加雨量画像、指標値解析、ZR解析、距離特性解析を用いて評価する観測特性検証手段とを備えるのが良い。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明のレーダ雨量計運用管理システムの実施の一例について図面を参照しながら説明する。図中Aは、本発明に係るレーダ雨量計運用管理システムであり、このレーダ雨量計運用管理システムAは、レーダの運用状況整理手段1と、降雨選定手段2と、観測精度検証手段3と、観測特性検証手段4とを備えている。
【0020】
レーダ運用状況整理手段1は、全国合成レーダ雨量データ・個別レーダ雨量データ・受信電力データのヘッダ情報並びに点検・障害記録を用いて個別のレーダ雨量計及び全国合成処理システムの運用状況を整理するものである。
【0021】
具体的には、全国合成レーダ雨量データのヘッダ部に付加されているレーダの状態を示すビット(システムステータス)を1年間5分毎の全てのデータに対し抽出し、ビットが立っている原因を、全国合成される前の個別レーダ雨量データ(極座標データ)及び個別レーダ雨量データに変換される前の受信電力データ(Prデータ)にまで遡って解析する手法を用いている。
【0022】
レーダ雨量計の運用状況については、各地方整備局や全国合成局等の当該年の報告結果を基に、以下の項目(a)(b)を整理する。
(a)個別レーダ雨量計の稼働状況;全国合成レーダ雨量データにおけるシステムステータス及びその他の障害・更新・点検記録より、稼動状況をまとめる。ステータスビットが立っている場合、極座標データの有無を確認し、必要に応じてPrデータの有無及びサイト別テータス状況まで確認するものとする。
(b)全国合成処理装置(オンライン及び同時刻)の稼動状況;オンライン全国合成レーダ雨量の欠側状況を確認する。確認ではデータの欠落確認及び監視ログ、点検・更新・障害記録を参考とする。
【0023】
更に、上記の報告結果を、図3に示すように、バーチャート5に記し、点検(青色)6、異常(黒)7を色分けしたものを作成した後、点検以外の長期障害は同バーチャート5に赤枠8で囲みNo.を明記する。
【0024】
一方、降雨選定手段2は、レーダ雨量計観測結果を画像化し、対象レーダ観測範囲内に降雨のあった期間を全て抽出する。図5に示す日本全国の陸域をカバーする1次地域区画メッシュ10(国土地理院が定める数値地図単位)を対象に、解析対象エリア毎に図4に示す20kmメッシュ毎の空間スケール9をカバーする代表陸域メッシュの時間雨量、日雨量を整理し雨量資料一覧表を作成する手法を用いる。
【0025】
また、雨量資料一覧表から解析対象範囲における降雨発生割合及び時間雨量を加味し、上位降雨をロングリストにし広範囲に相当量の降雨をもたらした降雨期間を抽出する。
【0026】
次いで、ロングリストにあげられた各降雨における地点平均総雨量及び最大時間雨量から広範囲かつ相当量の降雨における上位降雨を抽出し個別レーダ雨量計の精度解析対象降雨とする。
【0027】
次いで、レーダ雨量計毎に抽出した降雨日について地方毎にまとめ、総合的に判断して広範囲かつ相当量の降雨をもたらした降雨を、全国合成レーダ雨量データの解析対象降雨として選定する。
【0028】
尚、全国合成レーダ雨量計データの解析では当該地方整備局の管理する地域の陸域メッシュを対象とし、個別レーダ雨量計データの解析では、当該レーダの定量観測範囲内(120km)のメッシュを対象に整理する。
【0029】
上記[0025]の20kmメッシュの空間スケールは、雷雨などの局所的な降雨は、地上の雨量計で測定される雨量と、上空のレーダ雨量との対応関係に大きな誤差を含んでいる可能性が高いため、解析対象から除外している。検討対象としている広範囲に降雨をもたらす気象現象は、積乱雲より大きな集中豪雨以上の規模である。積乱雲の空間スケールは概ね3〜30km、集中豪雨の空間スケールは概ね10〜100kmであることを考慮して、積乱雲の最大空間スケール(概ね30km)と集中豪雨の最小空間スケール(概ね10km)の平均値である20km×20kmとした。
【0030】
他方、観測精度検証手段3は、全国合成処理装置により合成された全国合成レーダ雨量データの観測精度を年間を通した目視点検、降雨期間の特定、選定された地上雨量観測地点、累加雨量画像、指標値解析、ハイエトグラフを用いて評価するものである。
【0031】
具体的には、以下の(a)乃至(c)に示す手法を用い、レーダ雨量データーの観測精度の検証を行っている。
(a)合成レーダ雨量の精度の検証を行うために、[0028]で選定された降雨期間を対象に、地上雨量計およびレーダ雨量計の最低観測時間雨量、降雨観測所数、欠測率を勘案し、解析対象地上雨量地点の選定を行う手法。
(b)合成レーダ雨量の精度の検証は、画像化によるデータ検証と指標値による精度検証により行う手法。
(c)対象期間の合成レーダ雨量から拡大画像(5分毎・3次メッシュ1ピクセル)および累加画像(解析対象降雨毎)を作成し、目視点検を行い合成レーダ雨量として正常な雨量表示と考えられないものを確認する手法(画像化によるデータ検証)。
【0032】
因に、目視点検にあたっては、オンライン全国合成レーダ雨量表示の調査票やレーダ雨量計の運用状況等の報告書を参照にするものであり、合成レーダ画像で正常でない雨量表示が確認された場合は、図6に示すように、時間別に矢印11を入れて時系列に表現し、発生箇所に赤い点線12で囲むことにより、その状況が分かりやすいものとする。
【0033】
また、正常と考えられないものの事例としては、例えば、(a)レーダサイトを中心にして常時同心円状或いは放射状のパターンが現れていること、(b)隣接するレーダ雨量計間の合成境界に大きな雨量強度差が出ていること、(c)今までなかったところに新たに遮蔽域が現れていること、(d)晴天時で降雨のない場所や特定の場所に一定値以上の降雨表示が現れていること、(e)降雨がないのに雨量表示(グランドクラッター、シークラッター等)が現れていること、(f)全国合成処理局間で異なった表示が出ていること、(g)特定のレーダ雨量計の観測値が表示されないことなどが挙げられる。
【0034】
更に、正常な雨量表示と考えられないものが現れた場合は、以下(a)乃至(f)の事項を解析し原因を調査するように構築されている。
(a)拡大画像を時系列に整理し時間的な変化の確認、(b)合成前の個別レーダ雨量から拡大画像を作成して確認、(c)合成システムに用いられた補正定数(遮蔽補正、距離補正)の確認、(d)合成システムに用いられた係数(一様補正係数)の時系列の変化を確認、(e)レーダ雨量データのシステムステータスの確認、(f)衛生画像、天気図による気象状況の確認などを行う。
【0035】
また、不具合原因の事例としては、例えば、(a)アンテナ、レドーム等の不具合、(b)ブライトバンド等の気象現象・電波の異常伝播、(c)新たな構造物等の出現、地形の改変、(d)レーダ雨量計機器の不具合、(e)レーダ雨量計の調整不良、(f)レーダ雨量計の解析処理装置の不具合、(g)レーダ雨量計の信号処理装置(MTI)の不具合、(h)グランドクラッター等の消え残り処理の不具合、(i)仰角合成の不具合、(j)データ伝送系の不具合、(k)雨滴定数や距離特性等の設定の不備、(l)レーダ雨量計解析処理局と合成局における定数等の不整合、(m)合成局における合成処理の不具合、(n)合成局におけるチューニングの不足、(o)合成局間における同期設定・系間整合の不具合などが挙げられる。
【0036】
尚、指標値評価をする観測地点は、同評価地点の精度を確保するため適切な地点のみ選定するものであり、選定条件としては、テレメータ雨量:2mm以上、合成レーダ雨量:1.5mm以上の観測値が5個以上、テレメータ雨量観測所の欠測率が80%以下であること望まれる。
【0037】
更に、指標値の種別は、精度を評価するための指標値として、相関係数と総雨量比とする手法であり、相関係数、すなわち、地上観測所の時間雨量とその観測所直上の1kmメッシュのレーダ雨量をもとに、下式により相関係数を算出する。
【0038】

尚、xi:時刻iの地上雨量(mm)、yi:時刻iのレーダ雨量(mm)、x:平均地上雨量(mm)、y:平均レーダ雨量(mm)、N:データ数である。
【0039】
また、総雨量比は、地上観測所の時間雨量とその観測所直上の1kmメッシュのレーダ雨量をもとに、下式により総雨量比を算出する。
【0040】

尚、xi:時刻iの地上雨量(mm)、yi:時刻iのレーダ雨量(mm)、N:データ数である。
【0041】
更に、精度の評価には、指標値の算定結果を基にヒストグラム、平面分布図を作成し合成レーダ雨量の精度評価結果を視覚的に表現する手法を用いている。
【0042】
ヒストグラム13は、図7に示すように、合成処理前および合成処理後のレーダ雨量データ等を比較できるよう全降雨を用いた相関係数・総雨量比解析結果から度数ヒストグラムおよび累積相対度数図を作成する。降雨毎の解析結果からは度数ヒストグラムのみを作成し、降雨毎の傾向を解析する。各ヒストグラムには最頻値を明記する。
【0043】
また、観測特性検証手段4は、個別レーダ雨量計により観測されたレーダ雨量の観測精度を選定された地上雨量観測地点、極座標レーダ累加雨量画像、指標値解析、ZR解析、距離特性解析を用いて評価するものである。
【0044】
具体的には、[0028]で選定された降雨期間(レーダ1基につき10降雨程度)を対象に行うものである。
【0045】
また、解析条件は、レーダ単体が観測する範囲の地上雨量観測地点を抽出し、そのうち[0047]にある条件を充たす、精度評価に適切な地上雨量計のみを解析対象とするものである。
【0046】
ZR解析及び距離特性解析地点の選定条件としては、例えば、レーダ雨量計から30km以遠120km以内の観測範囲(ZR解析のみ対象)、レーダ雨量計から見た遮蔽率0%の地点、レーダビーム高度が3000m以下の地点、地上雨量計の欠測率が80%以下の地点、鉄塔による遮蔽のない地点、遮蔽率100%を除いた地点(指標値平面分布図解析のみ対象)であることが望まれる。
【0047】
更に、ZR解析は、図8に示すように、対象とする降雨期間における各地上雨量計の時間雨量とその直上にあたるレーダ雨量計観測ッシュ(極座標メッシュ)の反射因子Zの時間値から、ZR散布図を作成するものである。
【0048】
また、反射因子Zは、解析対象年にレーダに設定されていた観測定数(B,β)を用いて、受信電力データから求め、このZR散布図の降雨毎の傾向を年間通じて見ることで、レーダの観測特性の変化や傾向、また、全降雨を用いて作図することで現行設定定数の妥当性について検討を行うものである。
【0049】
更に、距離特性解析は、上記までで選定した降雨及び地上雨量地点を対象に、地上雨量計直上に対応するレーダメシュの時間雨量を求め、レーダサイトからの距離を20km毎に分けてかつ雨量を5ランク(2mm以上〜4mm未満、4〜7mm、7mm〜14mm、14mm〜26mm、26mm〜50.0mm)で分類・積算し、同時刻に観測された地上雨量も同様に積算し、距離毎、かつ、ランク毎に総雨量比を算出し、X軸をレーダからの距離、Y軸を総雨量比としてプロットし、現在設定されている距離補正係数の妥当性を確認するものである(図9参照)。
【0050】
このように構成される本発明のレーダ雨量計運用管理システムは、レーダデータ及び地上雨量データの収集整理、レーダ雨量計の運用状況と諸元データの整理、全国合成レーダ雨量の精度解析、観測特性の検討、レーダ観測結果の評価、雨量データの保存等を実施することができるため、レーダ雨量計全国合成システムの精度向上を図ることができ、利用する際の誤使用による問題発生を未然に防止できるなど、今後のレーダ雨量計全国合成システムの適正な運用とレーダ雨量の有効活用に資することができる。
【0051】
尚、本発明は、本実施例に限定されることなく、本発明の目的の範囲内で自由に設計変更し得るものであり、本発明はそれらの全てを包摂するものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係るレーダ雨量計運用管理システムの全体を示すフローチャートである。
【図2】同レーダ雨量計運用管理システムのスタートからエンドを示すフローチャートである。
【図3】同レーダ雨量計運用管理システムにおける運用状況のシステムステータス状態を示す説明図である。
【図4】同レーダ雨量計運用管理システムにおける解析対象降雨選定時の代表解析メッシュを示す説明図である。
【図5】同レーダ雨量計運用管理システムにおける降雨期間の特定に用いる日本の陸域をカバーする1次メッシュを示す説明図である。
【図6】同レーダ雨量計運用管理システムにおける目視点検結果の表記方法を示す説明図である。
【図7】同レーダ雨量計運用管理システムにおける全降雨による総雨量比ヒストグラムである。
【図8】同レーダ雨量計運用管理システムにおける全降雨によるZ〜R散布図である。
【図9】同レーダ雨量計運用管理システムにおける雨量強度別の距離特性図である。
【符号の説明】
【0053】
1 レーダ運用状況整理手段
2 降雨選定手段
3 観測精度検証手段
4 観測特性検証手段
5 バーチャート
6 点検(青色)
7 異常(黒)
8 赤枠
9 空間スケール
10 1次メッシュ
11 矢印
12 赤い点線
13 ヒストグラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全国合成レーダ雨量データ・個別レーダ雨量データ・受信電力データのヘッダ情報並びに点検・障害記録を用いて個別のレーダ雨量計及び全国合成処理システムの運用状況を整理するレーダ運用状況整理手段と、全国合成レーダ雨量データから広範囲に相当量の降雨をもたらした降雨期間の特定手段と、全国合成処理装置により合成された全国合成レーダ雨量データの観測精度を年間を通した目視点検、選定された地上雨量観測地点、累加雨量画像、指標値解析、ハイエトグラフを用いて評価する観測精度検証手段と、個別レーダ雨量計により観測されたレーダ雨量の観測精度を選定された地上雨量観測地点、累加雨量画像、指標値解析、ZR解析、距離特性解析を用いて評価する観測特性検証手段とを備えてなることを特徴とするレーダ雨量計運用管理システム。
【請求項2】
前記レーダ運用状況整理手段は、全国合成レーダ雨量データのヘッダ部に付加されているレーダの状態を示すビット(システムステータス)を1年間5分毎の全てのデータに対し抽出し、ビットが立っている原因を、全国合成される前の個別レーダ雨量データ(極座標データ)及び個別レーダ雨量データに変換される前の受信電力データ(Prデータ)にまで遡及して解析することを特徴とする請求項1に記載のレーダ雨量計運用管理システム。
【請求項3】
前記レーダ運用状況整理手段は、各データの有無及びヘッダ情報並びに各レーダ雨量計の点検記録、システム監視記録、全国合成処理装置の点検・監視記録よりバーチャート図又は表としてまとめることを特徴とする請求項1に記載のレーダ雨量計運用管理システム。
【請求項4】
前記目視点検は、5分データを1データとする全国合成レーダ雨量データを、1メッシュを国土地理院が定める3次地域区画の大きさとした画像にして目視点検を行い、かつ、特定の降雨期間に対し累加した画像を作成し目視点検を行なうことを特徴とする請求項1に記載のレーダ雨量計運用管理システム。
【請求項5】
前記降雨期間の特定は、年間を通じて解析対象範囲に広く強く降雨のあった期間を、全国合成レーダ雨量データの陸域に対応するメッシュを解析し、天気図から降雨成因を勘案して選定した期間であることを特徴とする請求項1に記載のレーダ雨量計運用管理システム。
【請求項6】
前記指標値解析は、解析対象降雨における全国合成レーダ雨量と地上雨量とで計算した相関係数、総雨量比を用いた解析であることを特徴とし、解析結果を解析降雨毎及び解析全降雨をまとめた頻度分布及び平面分布にまとめることを特徴とする請求項1に記載のレーダ雨量計運用管理システム。
【請求項7】
前記指標値解析は、解析対象降雨における個別レーダ雨量と地上雨量とで計算した相関係数、総雨量比を用いた解析であることを特徴とし、解析結果を解析全降雨をまとめた頻度分布及び平面分布にまとめることを特徴とする請求項1に記載のレーダ雨量計運用管理システム。
【請求項8】
前記ZR解析は、レーダ反射因子Zと地上雨量との関係を解析するものであることを特徴とする請求項1に記載のレーダ雨量計運用管理システム。
【請求項9】
前記距離特性解析は、レーダサイトからの距離と指標値解析結果との関係を解析することを特徴とする請求項1に記載のレーダ雨量計運用管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−157713(P2008−157713A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345683(P2006−345683)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000173577)財団法人河川情報センター (11)