説明

レールへの自動塗液装置

【課題】カントの大きい個所においても、内軌レールに設置することによって、レールと車輪間に生ずるきしみ音の発生を効果的に防止でき、潤滑液が無駄に垂れ流れることもない、レールへの自動塗液装置を提供すること。
【解決手段】潤滑液の貯留タンク1と、貯留タンク1から潤滑液を供出するポンプ2と、ポンプ2から潤滑液供給を受けてこれをレール踏面上に吐出する塗液ユニット3とから成るレールへの塗液装置であって、塗液ユニット3は、レール頭部の側面に固定される長尺ブロック4と、長尺ブロック4に組み込まれる吐出ブロック5とから成り、吐出ブロック5には、ポンプ2の作用で貯留タンク1から供出され、配管11を通って送られてくる潤滑液をレールの踏面に向けて吐出するためのノズル15が設けられ、ノズル15は、上向き傾斜させると共にレール方向に内向き傾斜させて配備されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレールへの塗液装置、より詳細には、カーブ地点のように、車輪とレールとの接触圧が高まってきしみ騒音を発生する個所(特に、車輪踏面の横滑りが起こる内軌レール側)に、その騒音を低減し、また、レール及び車輪の摩耗を防止するために設置されるレールへの自動塗液装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の複合脱線防止、運行安全対策の一環として、レール形状復元のための削正と車輪フランジ角度の60度から70度への変更が実施されている。この変更は、レールと車輪との摩擦抵抗を増大させて、せり上がり脱線に対する余裕度を高めることを企図してなされたものである。しかし、この変更に伴い、レールのカーブ地点において、従来以上に車輪(特に外軌側)のフランジとレールの摩耗が早まっており、また、特に内軌側においてきしみ騒音が増大している。
【0003】
即ち、カーブ地点においては、1つの車軸の車輪を考えた場合、外軌側車輪の転動距離は内軌側車輪の転動距離よりも長くなる。そのため、内軌側車輪は内軌レール上を空回り(横滑り)することになり、その際に大きなきしみ音を発するのである。
【0004】
古くは、上記きしみ音対策として、人手によりレール踏側面にグリスや水を塗布することが行われていた。しかし、その作業には、手間と人件費がかかることから、軌条上を走行する車両の車輪フランジ部に向けて注油孔を開孔した注油装置を軌条に設け、該注油装置を電動ポンプを介して貯油槽に連通させ、さらに該電動ポンプを、タイマ機構を備えた吐出量制御装置を介して車両進入検出装置に電気的に接続し、該車両進入検出装置の信号で注油装置の注油孔から軌条に塗油するようにしたことを特徴とする電動式軌条塗油装置が提唱された(実公昭53−10641号公報)。
【0005】
しかし、上記軌条塗油装置の場合、電動であって部品点数が多くて機構が複雑なため、装置自体のコスト及びランニングコストが嵩むだけなく、過剰に塗油されることが多いためにレール踏面や側面に油粕が付着し、その除去作業に手間がかかり、また、多量のグリスを用いるために、装置設置部周辺が汚れるといった欠点があった。
【0006】
そこで、そのような欠点のないレールへの塗油装置として、特許第3806065号公報記載のものが提唱された。それは、オイルタンクと、前記オイルタンクから潤滑油の供給を受け、車輪の踏圧によって送油動作を行なうオイルポンプと、前記オイルポンプから潤滑油の供給を受けてこれをレール上に滲出させる塗油ユニットとから成るものである。
【0007】
この塗油装置は、潤滑油を、車輪の踏圧によってレール踏面にレールに対して直角方向に比較的緩やかに滲出させるものであるが、それなりの効果があるものとして実用化されている。
【0008】
しかるに、カント、即ち、内軌側と外軌側のレールの高さの差が大きい個所においては、レール踏面がかなりカーブの内側方向に下り傾斜することになるため、レール踏面に吐出された潤滑油は内軌側に垂れ流れることになる。この場合、外軌レールにおいてはさほど問題はないが、内軌レールにおいては潤滑油不足となり、十分にその目的を達することが困難となる。
【0009】
近時は、従来用いられていたグリスが環境汚染を招くところから、それに代えて水溶性潤滑液が用いられるようになってきているが(特開2003−55683号公報)、上記カントの大きな個所における潤滑液の無駄な垂れ流れは、コスト上も問題となる。
【0010】
そこで従来は、塗液装置の設置場所を、きしみ音発生個所よりも手前のカントの小さい個所に設置する方法がとられていたが、もちろんその方法では、肝心な個所で潤滑液が不足することになるため、きしみ音対策として十分なものとはなり得ていない。
【0011】
【特許文献1】実公昭53−10641号公報
【特許文献2】特許第3806065号公報
【特許文献3】特開2003−55683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来方法における問題点に鑑みてなされたもので、カントの大きい個所においても、内軌レールに設置することによって、レールと車輪間に生ずるきしみ音の発生を効果的に防止でき、潤滑液が無駄に垂れ流れることがない、レールへの自動塗液装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための請求項1に記載のレールへの自動塗液装置は、潤滑液の貯留タンクと、前記貯留タンクから潤滑液を供出するポンプと、前記ポンプから潤滑液供給を受けてこれをレール踏面上に吐出する塗液ユニットとから成るレールへの塗液装置であって、前記塗液ユニットは、レール頭部の側面に固定される長尺ブロックと、前記長尺ブロックに組み込まれる吐出ブロックとから成り、前記吐出ブロックには、前記ポンプの作用で前記貯留タンクから供出され、配管を通って送られてくる潤滑液を前記レールの踏面に向けて吐出するためのノズルが設けられ、前記ノズルは、上向き傾斜させると共に前記レール方向に内向き傾斜させて配備されることを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記ノズルの前記上向き傾斜角度は15度前後とし、前記内向き傾斜角度は5度前後とする。また、前記長尺ブロックに、前記吐出ブロックを嵌合するための嵌合用凹陥部を形成し、前記吐出ブロックを前記嵌合用凹陥部に嵌合した後、固定板を宛がうことによって脱落を防止すると共に、その嵌合状態を保持可能にする。
【0015】
前記吐出ブロックは交換可能にし、その場合、前記吐出ブロックとして、前記ノズルの上向き傾斜角度及び/又は内向き傾斜角度が異なる複数種を用意して、選択交換可能にする。
【0016】
更に好ましくは、前記長尺ブロックの上面と前記吐出ブロックの上面を面一状態にし、前記吐出ブロックの上面から前記長尺ブロックの上面にかけて、一連の排液溝を形成する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上記構成であって、ノズルが上向き且つ内向きに傾斜するように配備されるので、ノズルから吐出される潤滑液は、レール踏面に小さな斜角を以て横切るように付着するので、その付着区間はかなり長いものとなり、レールに対して直角又はそれに近い方向に吐出する場合よりもかなり長時間レール踏面上に滞留することになり、当該潤滑液によるきしみ音発生防止作用が有効に行われることになる。
【0018】
また、請求項3乃至5に記載の発明によれば、吐出ブロックの脱着交換が容易で、状況に合わせて最適な吐出ブロックに付け換えることができる効果がある。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、吐出ブロックの上面に潤滑液の飛沫が貯まってノズルの動作に悪影響を及ぼすことが回避される効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態につき、添付図面に依拠して説明する。本発明に係る塗液装置は、図1に示すように、レール31の近傍に設置されて潤滑液を貯留する貯留タンク1と、貯留タンク1から潤滑液を供出するポンプ2と、ポンプ2の作用で潤滑液の供給を受けてこれをレール31の踏面に向けて飛翔させる塗液ユニット3とから成る。ポンプ2は電動ポンプであって、例えば図示せぬセンサからの車輌の到来検出信号に基いて吐出動作をする。
【0021】
塗液ユニット3は、レール31の頭部の側面に固定される長尺ブロック4と、長尺ブロック4に組み込まれる吐出ブロック5とから成る(図2、4参照)。通例、1つの長尺ブロック4に組み込まれる吐出ブロック5は1つであるが、複数とする構成も可能である。長尺ブロック4と吐出ブロック5は樹脂成形することができ、その場合は、レール31の曲率に対応する形状とすることが容易となる。
【0022】
吐出ブロック5は、例えば長さ1200mm程の長尺ブロック4の一端部付近に形成した嵌合用凹陥部6に嵌合する形状とし、嵌合後における吐出ブロック5の側面露出部に固定板7を宛がい、固定板7から吐出ブロック5両端の翼部5aを通して長尺ブロック4にボルト8をねじ込むことによって、そこに固定するようにする。この固定方法によった場合は、ボルト8を緩めて固定板7を外すことにより、吐出ブロック5を簡単に着脱できるので、その交換作業は容易なものとなる。
【0023】
吐出ブロック5の底面には入液ポート13が形成され、そこから内方に穿設される液路14は、吐出ブロック5の上部に配備されるノズル15に接続される(図6参照)。入液ポート13には、ポンプ2、流量制御弁10及び逆止弁を介して貯留タンク1から延びる配管11が接続される。
【0024】
ノズル15の吐出口は吐出ブロック5の上面に露出させるが、本発明においては、このノズル15の向きが重要である。即ち、このノズル15の向きは、上向き且つ内向きに傾斜させることが必要となる。ノズル15の上向き角度及び内向き角度は、潤滑液がレール踏面に斜めに且つできるだけ長い区間塗布されることが意図されるため、それはノズル15からの吐出圧にもよるが、一例を挙げれば、水平線から15度前後の上向き傾斜とされ、また、レール31に対する平行線からレール31方向に5度前後の内向き傾斜となるように設定される。
【0025】
吐出ブロック5の上面には、ノズル15の先端部を収めるノズル溝16に、飛沫の蓄積による液溜まりが生じてノズル15が汚れたり詰まったりすることを防止するために、ノズル溝16に連通していてノズル溝16に対して直交方向に延びる排液溝17が形成される。また、固定板7の上面に、排液溝17に連なる排液溝18が形成される。かくして、ノズル溝16内に落ちた飛沫は、排液溝17、18を通って随時流出するので、そこに貯まることはない。
【0026】
長尺ブロック4のレール31への取り付けは、レール31の下側からレール31の頭部方向へ延びて長尺ブロック4を下方から支持するブロック支持具を複数用いて行う。
【0027】
ブロック支持具は、図7及び図8に示すように、レール31のベース31aを下方から取り巻く支持具本体21を有し、支持具本体21の先端は、ベース31aの一側の側端縁を抱き込むように小さく湾曲し(前端湾曲部23)、その後端は、斜め下方から、レール31の頭部に向かって大きく湾曲する(後端湾曲部22)。好ましくは、支持具本体21は、後端湾曲部22側が太くされる。
【0028】
後端湾曲部22の先端には、固定用ボルト24と押圧用ボルト25とが、互いに接触することなく直交状態に設置される。固定用ボルト24は、後端湾曲部22の端部に、そこに固定されているナット26を通してネジ込まれ、その先端に、レール31のベース31aの端部に対応する形状の固定用ブロック27が設置される。固定用ボルト24は、固定用ブロック27に対し空回りしつつ、固定用ブロック27をレール31のベース31aに向けて押圧する。
【0029】
後端湾曲部22にはメネジブロック28が設置され、そこに、押圧用ボルト25がネジ込まれる。押圧用ボルト25の先端には、長尺ブロック4の外側面から底面にかけて当接する対応座面を有する受部材30が配置され、押圧用ボルト25は、受部材30に対し空回りしつつ、受部材30を長尺ブロック4に向けて押圧する。
【0030】
かかる構成において固定用ボルト24を回転させると、ナット26は固定されていて回転しないため、固定用ボルト24はナット26に対して螺進する。それにより、後端湾曲部22はレール31から離れるように加圧され、その結果、先端湾曲部23がレール31のベース31a端縁を確固と抱持することとなり、本体21はレール31に確固と固定される。
【0031】
また、押圧用ボルト25を螺進させると、長尺ブロック4は、受部材30に斜め下方から押圧支持されるため、車輪32の踏圧によって図8において反時計回りに傾くことはなく、レール踏面との間に隙間を生じさせることなく、レール31の頭部側面に密着する。
【0032】
本発明に係る塗液装置は上記構成であり、塗液ユニット3は、レール31のカーブ領域におけるきしみ音の発生する個所の直前位置に取り付けられ、その手前のレール近傍位置に、例えば光電センサが設置される。ポンプ2としては、例えばモータに直結されたトロコイドポンプが用いられ、電源としては、ソーラーバッテリー12やAC電源が用いられる。
【0033】
かくしてセンサが車輌の到来を感知し、これに基いて、制御盤9に設置されたコントローラによりモータが制御されてトロコイドポンプが、秒単位のタイマー設定により動作し、所定量吐液ユニット3に向けて送液した後、直ちに送液を停止する。送液量は流量制御弁10によって調整する。この流量調整弁10による調整は、複数の長い配管11に送液する場合、送液バランスを取り、適正な吐出圧を確保する上で重要となる。
【0034】
かくして潤滑液は、ノズル15から、前方のレール31踏面に向けて斜め方向に瞬間的に勢いよく飛ばされ、レール31を斜めに鋭角に横切るようにしてその踏面に付着する。その際、潤滑液がレール31を通り過ぎないように、また、その手前に落ちてレール31に十分達しないことがないように、吐出圧及び吐出量を調整することは言うまでもない。
【0035】
この発明をある程度詳細にその最も好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は添付特許請求の範囲において限定した以外はその特定の実施形態に制約されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る装置の全体構成図である。
【図2】本発明に係る装置の設置状態を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係る装置の設置状態を示す正面図である。
【図4】本発明に係る装置の設置状態を示す要部斜視図である。
【図5】本発明に係る装置における吐出ブロックの平面図である。
【図6】本発明に係る装置における吐出ブロックの縦断面図である。
【図7】本発明に係る装置のレールへの取り付け方法を示す縦断面図である。
【図8】本発明に係る装置のレールへの取り付け方法を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 貯留タンク
2 ポンプ
3 塗液ユニット
4 長尺ブロック
5 吐出ブロック
6 嵌合用凹陥部
7 固定板
8 ボルト
9 制御盤
10 流量制御弁
11 配管
12 ソーラーバッテリー
13 入液ポート
14 液路
15 ノズル
16 ノズル溝
17 排液溝
18 排液溝
20 ブロック支持具
21 支持具本体
22 後端湾曲部
23 先端湾曲部
24 固定用ボルト
25 押圧用ボルト
26 ナット
27 固定用ブロック
28 メネジブロック
30 受部材
31 レール
31a ベース
32 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑液の貯留タンクと、前記貯留タンクから潤滑液を供出するポンプと、前記ポンプから潤滑液供給を受けてこれをレール踏面上に吐出する塗液ユニットとから成るレールへの塗液装置であって、前記塗液ユニットは、レール頭部の側面に固定される長尺ブロックと、前記長尺ブロックに組み込まれる吐出ブロックとから成り、前記吐出ブロックには、前記ポンプの作用で前記貯留タンクから供出され、配管を通って送られてくる潤滑液を前記レールの踏面に向けて吐出するためのノズルが設けられ、前記ノズルは、上向き傾斜させると共に前記レール方向に内向き傾斜させて配備されることを特徴とするレールへの自動塗液装置。
【請求項2】
前記ノズルの前記上向き傾斜角度を15度前後とし、前記内向き傾斜角度を5度前後とした請求項1に記載のレールへの自動塗液装置。
【請求項3】
前記長尺ブロックには、前記吐出ブロックを嵌合するための嵌合用凹陥部が形成され、前記吐出ブロックは、前記嵌合用凹陥部に嵌合された後、固定板が宛がわれることにより脱落が防止されると共に、その嵌合状態が保持される請求項1に記載のレールへの自動塗液装置。
【請求項4】
前記吐出ブロックは交換可能である請求項1乃至3のいずれかに記載のレールへの自動塗液装置。
【請求項5】
前記吐出ブロックとして、前記ノズルの上向き傾斜角度及び/又は内向き傾斜角度が異なる複数種が用意されて選択交換が可能である請求項4に記載のレールへの自動塗液装置。
【請求項6】
前記長尺ブロックの上面と前記吐出ブロックの上面は面一状態にされ、前記吐出ブロックの上面から前記長尺ブロックの上面にかけて、一連の排液溝が形成された請求項1乃至5のいずれかに記載のレールへの自動塗液装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−96382(P2009−96382A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271192(P2007−271192)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(398009122)京成電鉄株式会社 (2)
【出願人】(594183831)伊岳商事株式会社 (15)
【出願人】(599027460)株式会社伊藤鉄工所 (2)