説明

レール張り出し防止装置およびスラブ式軌道

【課題】大きなレール軸力を受けてもレール張り出しを防止することができるレール張り出し防止装置およびスラブ式軌道を提供する。
【解決手段】路盤コンクリート2の上に填充層3が設けられ、填充層3の上に軌道スラブ4が設けられ、軌道スラブ4の上にレール5が固定されたスラブ式軌道1におけるレール5の張り出しを防止するレール張り出し防止装置20であって、軌道幅方向の両側部にて路盤コンクリート2と軌道スラブ4との間に設けられており、軌道スラブ4に固定される固定部25と、固定部25から一体的に下延するアーム26を有し、アーム26の内壁面が、路盤コンクリート2における軌道長手方向に沿って延びる側面2aに当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レール張り出し防止装置およびスラブ式軌道に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道のレールでは、温度上昇に伴う軸力の増加が原因で、レールがその長手方向と直交する方向に張り出す所謂レールの張り出しが生じたり、座屈が生じたりするのを防止するため、レールとレールの継ぎ目部分に伸縮継目を設置して、レールの伸縮を許容し、レール軸力の増大を抑制している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
伸縮継目は、接続される2本のレールの接続側端部に形成された受けレールと、前記2本のレールの接続側端部の間に設置される短尺のトングレールとから構成され、トングレールの長手方向の両端が先端に接近するにしたがってレールの頭部幅が薄く形成されていて、受けレールの端部とトングレールの端部とをレールの長手方向に重複して配置し接触させて構成されている。
【0004】
一方、軌道には、路盤コンクリート上に填充層を設け、填充層の上にコンクリート製の軌道スラブを多数並べて設け、この軌道スラブにレールを直接固定して構成されるスラブ式軌道がある(例えば、特許文献2参照)。
そして、スラブ式軌道において、軌道スラブ上のレールを伸縮継目を介して接続する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4054432号公報
【特許文献2】特開2002−129503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、スラブ式軌道において伸縮継目を設置すると、万一に地震時等に脱線が起きた場合に、脱線した列車が伸縮継目を通過する際に伸縮継目を破壊し、レールがバラバラになって、さらに大きな脱線を引き起こしかねない。そこで、地震対策として、スラブ式軌道においては、伸縮継目を撤去し、ロングレールを用いることが考えられている。
【0007】
しかしながら、スラブ式軌道において伸縮継目を撤去して、軌道スラブにロングレールを固定すると、レールの伸縮を逃がす部分がなくなるため、温度上昇によりレールが伸びてレール軸力が増大したときにレールの張り出しが発生するという課題が生じる。したがって、この課題を解決しない限り、スラブ式軌道において伸縮継目の撤去を実現することはできない。
【0008】
そこで、この発明は、大きなレール軸力を受けてもレール張り出しを防止することができるレール張り出し防止装置およびスラブ式軌道を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、路盤コンクリートの上に填充層が設けられ、前記填充層の上に軌道スラブが設けられ、前記軌道スラブの上にレールが固定されたスラブ式軌道における前記レールの張り出しを防止する装置であって、軌道幅方向の両側部にて前記路盤コンクリートと前記軌道スラブとの間に設けられ、前記路盤コンクリートと前記軌道スラブのいずれか一方に固定される固定部と、前記固定部に連結され、前記路盤コンクリートと前記軌道スラブの他方における軌道長手方向に沿って延びる側面に当接する押さえ部と、を備えることを特徴とするレール張り出し防止装置である。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記固定部は、前記軌道スラブの軌道長手方向に沿って延びる側面にボルトによって固定され、前記押さえ部は、前記固定部と一体に形成され該固定部から下方に延びるアームを有し、前記アームの内壁面が前記路盤コンクリートにおける軌道長手方向に沿って延びる側面に当接することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の発明において、前記固定部と前記軌道スラブの前記側面との間、または、前記アームの前記内壁面と前記路盤コンクリートの前記側面との間に、調整板を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記固定部は、前記路盤コンクリートにボルトによって固定されており、前記軌道スラブにおける軌道長手方向に沿って延びる側面に対向して配置される支持部を有し、前記支持部には軌道幅方向に沿って延びるねじ孔が設けられ、前記押さえ部は、前記支持部の前記ねじ孔に螺合するねじ部材を有し、前記ねじ部材の先端に、前記軌道スラブにおける軌道長手方向に沿って延びる側面に当接する当接部を有することを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、路盤コンクリートの上に填充層が設けられ、前記填充層の上に軌道スラブが設けられ、前記軌道スラブの上にレールが固定されたスラブ式軌道において、軌道幅方向の両側には、前記路盤コンクリートと前記軌道スラブとの間に、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレール張り出し防止装置が設置されていることを特徴とするスラブ式軌道である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、レールは軌道スラブに対してレール張り出し方向へ移動不能に固定されているためレールと軌道スラブとの間にレール張り出し方向への相対移動はないが、軌道スラブは路盤コンクリートに対して水平方向へ相対移動可能であるため、例えば温度上昇によって軌道スラブ上のレールの軸力が大きくなっていき、レールに張り出し方向の力が発生すると、この力が軌道スラブに伝達され、レールとともに軌道スラブが路盤コンクリートに対してレール張り出し方向に移動しようとするが、軌道幅方向の両側部には路盤コンクリートと軌道スラブとの間にレール張り出し防止装置が設置されているので、軌道スラブの路盤コンクリートに対するレール張り出し方向への移動を阻止することができる。その結果、伸縮継目を備えないスラブ式軌道において、従来は耐えられなかった大きな軸力がレールに発生しても、レール張り出しを防止することができ、また、レールの座屈を防止することができる。
なお、レール張り出し防止装置の押さえ部は、路盤コンクリートあるいは軌道スラブの軌道長手方向に沿って延びる側面に当接しているだけであるので、スラブ式軌道の軌道幅方向の一方の側に設置されたレール張り出し防止装置は、押さえ部が当接している前記側面から該押さえ部が離間する方向への軌道スラブの移動を阻止することができないが、レール張り出し防止装置はスラブ式軌道の軌道幅方向の両側部に設置されているので、軌道幅方向に沿ういずれの方向についても軌道スラブの路盤コンクリートに対する移動を阻止することができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、レール張り出し防止装置を極めて簡単な構成とすることができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、適宜に厚さを調整された調整板を用いることで、アームの内壁面を路盤コンクリートの側面に確実に当接させることができ、設置作業が容易になる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、押さえ部のねじ部材が固定部における支持部のねじ孔に螺合しており、当接部の支持部からの突出寸法を簡単に調節することができるので、押さえ部の当接部と軌道スラブの側面とを確実に当接させることができ、設置作業が容易になる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、路盤コンクリートと填充層と軌道スラブとを備え、軌道スラブの上のレールに伸縮継目を備えないスラブ式軌道において、従来は耐えられなかった大きな軸力がレールに発生しても、レール張り出し及びレールの座屈を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施例1のレール張り出し防止装置を備えたスラブ式軌道の外観斜視図である。
【図2】実施例1のスラブ式軌道の断面図である。
【図3】実施例1のスラブ式軌道に用いられるレール張り出し防止装置の断面図である。
【図4】実施例1のレール張り出し防止装置の本体の正面図である。
【図5】実施例1のレール張り出し防止装置の本体の側面図である。
【図6】実施例1のスラブ式軌道に用いられる軌道スラブの平面図である。
【図7】前記軌道スラブの正面図である。
【図8】この発明の実施例2のスラブ式軌道の断面図である。
【図9】実施例2のスラブ式軌道に用いられるレール張り出し防止装置の断面図である。
【図10】実施例2のレール張り出し防止装置の外観斜視図である。
【図11】実施例2のレール張り出し防止装置の本体の正面図である。
【図12】実施例2のレール張り出し防止装置の本体の平面図である。
【図13】実施例2のレール張り出し防止装置のねじ部材の図面であり、(A)は正面図、(B)は左端面図である。
【図14】実施例1のレール張り出し防止装置の効果を実証するための実験方法を説明するための図である。
【図15】前記実験における荷重位置と変位測定位置を説明するための図である。
【図16】実施例1のレール張り出し防止装置を備えたスラブ式軌道と備えないスラブ式軌道に対する試験結果を比較して示す荷重/変位グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明に係るレール張り出し防止装置とこれを備えるスラブ式軌道の実施例を図1から図16の図面を参照して説明する。
【0021】
<実施例1>
初めに、この発明の実施例1を図1から図7の図面を参照して説明する。
図1は実施例1におけるスラブ式軌道の外観斜視図である。なお、各図において、矢印Xはスラブ式軌道のレール敷設方向(以下、軌道長手方向という)を示し、矢印Yはスラブ式軌道の軌道幅方向を示している。
【0022】
スラブ式軌道1は、図示しない土路盤上に、軌道長手方向に切れ目なく一体に形成された路盤コンクリート2が設置され、路盤コンクリート2の上に、セメントとアスファルト乳剤と細骨材とを混合したセメントアスファルト系モルタル(以下、モルタルと略す)からなる填充層3が設置され、填充層3の上にコンクリート製の軌道スラブ4が設置され、軌道スラブ4の上にレール5が多数の固定装置6によって固定されている。
【0023】
填充層3は軌道長手方向に所定の長さを有しており、互いに隣接する填充層3同士の間に若干の隙間を有して、軌道長手方向に沿って一列に並んで配置されている。また、填充層3の軌道幅方向の長さ(以下、填充層3の横幅という)は路盤コンクリート2の軌道幅方向の長さ(以下、路盤コンクリート2の横幅という)よりも若干短く、平面視では填充層3の軌道幅方向の両端部から路盤コンクリート2の両端部が若干突き出た形態となっている。
【0024】
軌道スラブ4の軌道長手方向の長さは、填充層3の軌道長手方向の長さとほぼ同寸法とされており、填充層3と軌道スラブ4の軌道長手方向の端部はほぼ一致している。また、軌道スラブ4の軌道幅方向の長さ(以下、軌道スラブ4の横幅という)は填充層3の横幅よりも若干短く、平面視では軌道スラブ4の軌道幅方向の両端部から填充層3の軌道幅方向の両端部が若干突き出た形態となっている。
【0025】
つまり、図2に示すように、填充層3の横幅は、路盤コンクリート2の横幅より短く、且つ、軌道スラブ4の横幅よりも長くなっていて、路盤コンクリート2の軌道長手方向に沿って延びる側面2aと、填充層3の軌道長手方向に沿って延びる側面3aと、軌道スラブ4の軌道長手方向に沿って延びる側面4aが、階段状に配置されている。
【0026】
また、軌道長手方向にて互いに隣り合う填充層3,3及び軌道スラブ4,4の間には、路盤コンクリート2上に路盤コンクリート2と一体に立設されたコンクリート製の円柱状の突起7が配置されており、填充層3及び軌道スラブ4の軌道長手方向の端部には、この突起7を挿入可能にするために平面視で半円弧状をなす凹部8が形成されている。なお、図1では図示を省略しているが、凹部8と突起7との間には樹脂が充填されていている。
【0027】
図6は1つの軌道スラブ4の平面図であり、図7はその正面図である。実施例1の軌道スラブ4の場合には、軌道長手方向の長さが約4.8m、横幅が約2.3m、厚さが約0.2mとなっている。
軌道スラブ4の軌道長手方向に沿って延びる両側面4aには、その長手方向の端部に近い位置に、各一対のねじ孔9が設けられている。このねじ孔9は、元々は軌道スラブ4をクレーン等で持ち上げる際の治具を取り付けるために設けられてものであるが、実施例1のスラブ式軌道1においては後述するレール張り出し防止装置20を固定するためのねじ孔としても利用されることになる。
【0028】
軌道スラブ4の上に敷設されるレール5は長尺のもの(例えば、1000m)が使用されており、左右各1本のレール5が多数の軌道スラブ4の上に架け渡されており、多数の固定装置6によって各軌道スラブ4に固定されている。なお、固定装置6は周知技術であり、従来一般に用いられているものと同じであるので、説明を省略する。
【0029】
このように構成されたスラブ式軌道1においては、敷設当初は路盤コンクリート2と填充層3、及び填充層3と軌道スラブ4はそれぞれ密着しており、水平方向に相対移動することはない。しかしながら、経時的にこれら密着部の劣化が進行すると、路盤コンクリート2と填充層3、及び、填充層3と軌道スラブ4との間で水平方向への相対移動が可能となっていく。一方、レール5は多数の固定装置6によって軌道スラブ4にしっかりと固定されているので、レール5に横荷重が作用するとその荷重は軌道スラブ4に伝わり、万一レール張り出しが生じた場合には、レール5とともに軌道スラブ4が填充層3に対して横方向へ移動するようになる。つまり、レール5が路盤コンクリート2に対して横方向へ移動するようになる。
【0030】
従来のスラブ式軌道1では、前述した突起7と凹部8とその間に充填された樹脂とからなる連結構造によって、スラブ式軌道1に作用する横荷重に抗しており、約980kNのレール軸力が作用しても軌道スラブ4が水平移動しないように、すなわちレール張り出しが生じないように設計されていた。この設計基準は伸縮継目を備えることを前提として決められたものである。
【0031】
しかして、この実施例1のスラブ式軌道1では伸縮継目を用いない。伸縮継目を用いないと、温度上昇によりレール5が伸びてレール軸力が増大し、上限値である約980kNを越えると、軌道スラブ4の水平移動が起きてしまい、レール5の張り出しや座屈を防止することができなくなってしまう。
そこで、実施例1のスラブ式軌道1においては、図1及び図2に示すように、スラブ式軌道1の軌道幅方向の両側部において路盤コンクリート2と軌道スラブ4との間に、軌道スラブ4が路盤コンクリート2に対して軌道幅方向に相対移動するのを阻止するレール張り出し防止装置20が設けられている。
【0032】
レール張り出し防止装置20は、1つの軌道スラブ4に対して軌道幅方向の各側部に2つずつ、合計4つ設けられており、軌道スラブ4を間に挟んで互いに対向して配置されている。
図3から図5の図面を参照して、スラブ式軌道1の軌道幅方向の右側部に設けられたレール張り出し防止装置20を説明する。
レール張り出し防止装置20は、鉄製の本体21と、鋼製のボルト22と、鋼製のばね座金23と、鉄製の調整板24とから構成されている。
【0033】
本体21は、断面L字形をなし、上側が固定部25、下側がアーム(押さえ部)26となっている。固定部25には左右一対の貫通孔27が形成されており、一対の貫通孔27間のピッチは、軌道スラブ4の側面4aに設けられている一対のねじ孔9間のピッチと同寸法となっている。
調整板24は、固定部25の端面と同一形状、同一寸法に形成されていて、調整板24にも、固定部25の貫通孔27と同一径の一対の貫通孔28が、固定部25の貫通孔27と同一ピッチで設けられている。調整板24は、厚さだけが異なる多種類のものが予め用意されている。
【0034】
固定部25は、軌道スラブ4の側面4aとの間に調整板24を介在させ、固定部25の貫通孔27及び調整板24の貫通孔28にボルト22を挿通し、ボルト22のねじ部22aを軌道スラブ4の側面4aのねじ孔9に螺合することによって、軌道スラブ4の側面4aに固定されている。そして、固定部25を軌道スラブ4の側面4aに固定したときに、アーム26の下端部29が路盤コンクリート2の側面2aと対向するようにアーム26の長さが予め設定されている。さらに、ボルト22を締め付けたときに、アーム26の下端部29の内壁面29aが路盤コンクリート2の側面2aに当接するように、調整板24の厚さが予め選択されている。換言すると、適切な厚さに調整された調整板24を用いることで、アーム26の内壁面29aを路盤コンクリート2の側面2aに確実に当接させることができる。
【0035】
このように構成されたスラブ式軌道1の右側の端部に設けられたレール張り出し防止装置20は、軌道スラブ4が路盤コンクリート2に対して図3において左方へ移動するのを阻止するが、図3において右方へ移動するのを阻止することはできない。しかしながら、前述したように、レール張り出し防止装置20は、1つの軌道スラブ4に対して軌道スラブ4を間に挟んで互いに対向する位置にそれぞれ配置されているので、軌道スラブ4が路盤コンクリート2に対して左方移動するのも右方移動するのも阻止することができる。つまり、軌道幅方向に沿ういずれの方向についても軌道スラブ4の路盤コンクリート2に対する水平移動を阻止することができる。
【0036】
その結果、伸縮継目を備えないスラブ式軌道1において、従来は耐えられなかった大きな軸力がレール5に発生しても、軌道スラブ4の水平移動を阻止して、レール張り出しを防止することができ、また、レールの座屈を防止することができる。
この実施例1のレール張り出し防止装置20は、部品点数が少なく、装置の小型化が可能である。
【0037】
この実施例1のレール張り出し防止装置20では、元々軌道スラブ4に形成されていた運搬用治具取付用のねじ孔9を利用してレール張り出し防止装置20を取り付けているので、新たにレール張り出し防止装置20取付用のねじ孔を設ける必要がない。また、既存のスラブ式軌道の軌道スラブ4にレール張り出し防止装置20を取り付けることができるので、既存のスラブ式軌道の改造も容易に行うことができる。
【0038】
なお、レール軸力が増大し、軌道スラブ4に横荷重が作用した際には、レール張り出し防止装置20におけるアーム26の下端部29の内壁面29aが、路盤コンクリート2の側面2aを強く圧接する。ここで、アーム26の内壁面29aが路盤コンクリート2の側面2aに面接触していれば荷重集中は起こらず問題ないが、鉄製のアーム26の内壁面29aとコンクリート製の路盤コンクリート2の側面2aとを面接触させるのは現実には難しく、そのため両者が部分的に接触して荷重集中を起こす場合がある。そこで、これを防止するために、アーム26の内壁面29aにゴム層または樹脂層を設けるのが好ましい。前記ゴム層または前記樹脂層を介してアーム26の内壁面29aと路盤コンクリート2の側面2aとを突き合わすようにすると、アーム26の内壁面29aとコンクリート製の路盤コンクリート2の側面2aとを面接触させた状態に近付けることができ、荷重集中が起こり難くなって、路盤コンクリート2の側面2aの損傷を防止することができる。
【0039】
また、アーム26の内壁面29aにゴム層または樹脂層を設けるのに代えて、路盤コンクリート2の側面2aにおいてアーム26の内壁面29aに当接する部分に、モルタルを介して鉄板を取り付けて、該鉄板とアーム26の内壁面29aとが面接触するようにしてもよい。これによっても、当接部での荷重集中が起こり難くなって、路盤コンクリート2の側面2aの損傷を防止することができる。
【0040】
実施例1のスラブ式軌道1においては、1つの軌道スラブ4に対して軌道幅方向の各側部に2つずつ、合計4つのレール張り出し防止装置20を設けたが、1つの軌道スラブ4に取り付けるレール張り出し防止装置20の数はこれに限るものではない。レール張り出し防止装置20の取り付け個数は、耐レール軸力の大きさの設定に応じて変更可能であり、レール張り出し防止装置20の取り付け個数を多くすることで、耐レール軸力を大きい値に設定することができる。
また、耐レール軸力の大きさに応じて、レール張り出し防止装置20の本体21の形状や寸法、ボルト22の大きさや本数を変更することも可能である。
【0041】
<実施例2>
次に、この発明の実施例2におけるレール張り出し防止装置とスラブ式軌道を、図8から図13の図面を参照して説明する。
実施例2のスラブ式軌道1が実施例1のものと相違する点は、レール張り出し防止装置の構成だけである。以下、相違点を中心に説明し、同一構成部分については、図1を援用して、同一態様部分に同一符号を付し概略説明に留める。
【0042】
図8に示すように、実施例2のスラブ式軌道1も、実施例1のスラブ式軌道1と同様に、路盤コンクリート2と、填充層3と、軌道スラブ4とを有し、軌道スラブ4の上にレール5が固定装置6(図1参照)によって固定されている。実施例2のスラブ式軌道1も伸縮継目を備えていない。
実施例2のスラブ式軌道1では、実施例1のスラブ式軌道1におけるレール張り出し防止装置20に代えてレール張り出し防止装置40が設けられている。つまり、実施例2のスラブ式軌道1の場合も、実施例1の場合と同様に、レール張り出し防止装置40が、1つの軌道スラブ4に対して軌道幅方向の各側部に2つずつ、合計4つ設けられており、軌道スラブ4を間に挟んで互いに対向して配置されている。
【0043】
図9から図13の図面を参照して、スラブ式軌道1の軌道幅方向の右側部に設けられたレール張り出し防止装置40を説明する。
レール張り出し防止装置40は、鉄製の固定部41と、鋼製の押さえ部材42と、鋼製のロックナット43とから構成されている。
固定部41は、ベース部44と、ベース部44の中央から一体的に起立する支柱部45とを備えている。ベース部44の四隅には貫通孔46が設けられており、各貫通孔46に、路盤コンクリート2の水平部2bに固定されたアンカーボルト47をそれぞれ挿通し、各アンカーボルト47にナット48を締め付けることによって、固定部41は路盤コンクリート2に固定されている。
【0044】
支柱部45の上端部は支持部49とされており、この支持部49が軌道スラブ4の側面4aと対向するように支柱部45の高さが設定されている。支持部49には軌道幅方向に沿って延びるねじ孔50が貫通形成されている。
押さえ部材42は、軸方向のほぼ全長に亘って雄ねじ部51が形成された軸部52と、軸部52の一端に一体的に形成された円板状の当接板53と、軸部52の他端に形成され径方向の両側を面取りしてなる工具係合部54とから構成されている。
押さえ部材42は、当接板53を軌道スラブ4の側面4aに対向させるように配置して、支柱部45のねじ孔50に軸部52の雄ねじ部51を螺合させて、固定部41に取り付けられている。
【0045】
レール張り出し防止装置40は次のようにセットする。なお、予めロックナット43を、支持部49と当接板53との間に位置するように雄ねじ部51に螺合させておく。そして、工具係合部54にスパナ等を係合して押さえ部材42を回転させ、支持部49からの当接板53の突出寸法を調整することによって、当接板53の先端面53aを軌道スラブ4の側面4aに当接させる。この調整完了後に、ロックナット43を支持部49に密接するように締め込む。これにより、レール張り出し防止装置40を、当接板53の先端面53aを軌道スラブ4の側面4aに当接させた状態にして設置することができる。
【0046】
実施例2のレール張り出し防止装置40の場合も、スラブ式軌道1の軌道幅方向の一方側に設けたレール張り出し防止装置40だけでは、軌道スラブ4の路盤コンクリート2に対する水平移動の阻止は、軌道幅方向の一方向のみしかできない。
しかしながら、レール張り出し防止装置40は、1つの軌道スラブ4に対して軌道スラブ4を間に挟んで互いに対向する位置にそれぞれ配置されているので、軌道スラブ4が路盤コンクリート2に対して左方移動するのも右方移動するのも阻止することができる。つまり、軌道幅方向に沿ういずれの方向についても軌道スラブ4の路盤コンクリート2に対する水平移動を阻止することができる。
【0047】
その結果、伸縮継目を備えないスラブ式軌道1において、従来は耐えられなかった大きな軸力がレール5に発生しても、軌道スラブ4の水平移動を阻止して、レール張り出しを防止することができ、また、レールの座屈を防止することができる。
実施例2におけるレール張り出し防止装置40の場合も、当接板53と軌道スラブ4の側面4aとの当接部における荷重集中を抑制するために、当接板53の先端面53aにゴム層または樹脂層を設けることが可能であり、あるいは、軌道スラブ4の側面4aにおいて当接板53の先端面53aが当接する部分に、モルタルを介して鉄板を取り付けることが可能である。
【0048】
実施例2のスラブ式軌道1においても、1つの軌道スラブ4に取り付けるレール張り出し防止装置20の数は4つに限るものではない。レール張り出し防止装置40の取り付け個数は、耐レール軸力の大きさの設定に応じて変更可能であり、レール張り出し防止装置20の取り付け個数を多くすることで、耐レール軸力を大きい値に設定することができる。
また、耐レール軸力の大きさに応じて、レール張り出し防止装置40の固定部41の形状や寸法、押さえ部材42の外径や当接板53の外径等を変更することも可能である。
【0049】
<実証試験>
前述した実施例1のレール張り出し防止装置20の効果を実証するための試験を行った。
実証試験は、図14に示すように、路盤コンクリート2と填充層3と軌道スラブ4を備えたスラブ式軌道を用い、突起7と軌道スラブ4の凹部8との間に樹脂を充填せず、軌道スラブ4の上にレール5を設置しないで行った。実証試験に使用した軌道スラブ4は、実施例1の軌道スラブ4と同じであり、全長が約4.8m、横幅が約2.3m、厚さが約0.2mの大きさのものを使用した。
【0050】
また、実証試験は、図15に示すように、軌道幅方向の一方の側部のみに実施例1のレール張り出し防止装置20を2つ設置し、各レール張り出し防止装置20は軌道スラブ4の軌道長手方向の各端部に近い部位に設置して行った。
レール張り出し防止装置20の本体21は、材質をJIS G3101 SS400とし、本体21の大きさは図4、図5を参照して説明すると、固定部25及びアーム26の幅Wが220mm、固定部25の高さH1が150mm、固定部25の厚さD1が125mm、アーム26の高さH2が150mm、アーム26の厚さD2が50mmとした。また、レール張り出し防止装置20のボルト22はM20とした。
【0051】
また、実証試験では、レール軸力を印加する代わりに、レール軸力に相当する横荷重を軌道スラブ4の側面4aに印加することで行い、図14、図15に示すように、横荷重を、軌道スラブ4においてレール張り出し防止装置20を設置した側の側面4aに、軌道幅方向に沿う水平方向に印加した。具体的には、路盤コンクリート2に対して移動不能に固定された反力壁100と軌道スラブ4の側面4aとの間に、油圧ジャッキ101とロードセル102を配置し、油圧ジャッキ101で横荷重を発生させた。そして、発生させた横荷重(すなわち、軌道スラブ4に印加する横荷重)をロードセル102で検出した。
横荷重の作用点はレール張り出し防止装置20の設置位置よりも僅かに軌道長手方向外寄りの2箇所とし、各作用点における荷重W1,W2に相違がないようにして行った。
【0052】
そして、実証試験では、軌道スラブ4に印加した横荷重に対して、軌道スラブ4の路盤コンクリート2に対する軌道幅方向への変位を測定した。この変位の測定点は、図15に示すように、横加重の作用点と対向する位置a,bとした。
そして、実証試験は、前記のようにして軌道スラブ4に印加する横荷重を徐々に増大していったときの、前記2箇所の測定点a,bにおける変位を測定した。
【0053】
この実証試験の試験結果を図16(A),(B)に示す。図16(A)は横荷重を変化させていった時の測定点aにおける変位を測定した試験結果を示す荷重/変位グラフであり、図16(B)は測定点bにおける変位を測定した試験結果を示す荷重/変位グラフである。
図16(A),(B)において、荷重を加え始めてからある変位に達するまでのt1,t2の間は、一端増加した荷重が徐々に減少しているが、これは、荷重を印加する前の初期状態においてレール張り出し防止装置20のアーム26の内壁面29aと路盤コンクリート2の側面2aとの間に1mm強の隙間があったため、この隙間をなくすまでに要する区間である。
【0054】
この試験結果から、横荷重が約180kNに達したときに、軌道スラブ4の路盤コンクリート2に対する実質的な変位量(前記初期隙間分を差し引いた変位量)が、測定点aでは約1.5mmであり、測定点bでは約2.2mmであった。この変位量は実際の鉄道の軌道において許容される値である。
【0055】
ここで、比較例として、レール張り出し防止装置20を設置しないで、前記実証試験と同じ方法で試験を行った試験結果を図16(C),(D)に示す。図16(C)は測定点aにおける荷重/変位グラブであり、図16(D)は測定点bにおける荷重/変位グラフである。この試験結果によれば、レール張り出し防止装置20を設置していない比較例では、測定点a,bいずれの場合も、荷重が約60〜70kNに達すると変位が際限なく増大していく。つまり、この比較例では、横荷重として約60kNまでしか耐えられない。単純に比較しても、実施例1のレール張り出し防止装置20を備えたスラブ式軌道1は、耐横荷重性能が比較例の約3倍向上したと言える。
したがって、本発明のレール張り出し防止装置20およびこれを備えたスラブ式軌道1が、耐レール軸力の向上に極めて大きな効果があることが実証された。
【符号の説明】
【0056】
1 スラブ式軌道
2 路盤コンクリート
2a 側面
3 填充層
4 軌道スラブ
4a 側面
5 レール
20 レール張り出し防止装置
21 本体
22 ボルト
24 調整板
25 固定部
26 アーム
29 下端部
29a 内壁面
40 レール張り出し防止装置
41 固定部
42 押さえ部材
49 支持部
50 ねじ孔
51 雄ねじ部
53 当接板
53a 先端面(当接部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路盤コンクリートの上に填充層が設けられ、前記填充層の上に軌道スラブが設けられ、前記軌道スラブの上にレールが固定されたスラブ式軌道における前記レールの張り出しを防止する装置であって、
軌道幅方向の両側部にて前記路盤コンクリートと前記軌道スラブとの間に設けられ、前記路盤コンクリートと前記軌道スラブのいずれか一方に固定される固定部と、
前記固定部に連結され、前記路盤コンクリートと前記軌道スラブの他方における軌道長手方向に沿って延びる側面に当接する押さえ部と、
を備えることを特徴とするレール張り出し防止装置。
【請求項2】
前記固定部は、前記軌道スラブの軌道長手方向に沿って延びる側面にボルトによって固定され、
前記押さえ部は、前記固定部と一体に形成され該固定部から下方に延びるアームを有し、前記アームの内壁面が前記路盤コンクリートにおける軌道長手方向に沿って延びる側面に当接することを特徴とする請求項1に記載のレール張り出し防止装置。
【請求項3】
前記固定部と前記軌道スラブの前記側面との間、または、前記アームの前記内壁面と前記路盤コンクリートの前記側面との間に、調整板を備えることを特徴とする請求項2に記載のレール張り出し防止装置。
【請求項4】
前記固定部は、前記路盤コンクリートにボルトによって固定されており、前記軌道スラブにおける軌道長手方向に沿って延びる側面に対向して配置される支持部を有し、前記支持部には軌道幅方向に沿って延びるねじ孔が設けられ、
前記押さえ部は、前記支持部の前記ねじ孔に螺合するねじ部材を有し、前記ねじ部材の先端に、前記軌道スラブにおける軌道長手方向に沿って延びる側面に当接する当接部を有することを特徴とする請求項1に記載のレール張り出し防止装置。
【請求項5】
路盤コンクリートの上に填充層が設けられ、前記填充層の上に軌道スラブが設けられ、前記軌道スラブの上にレールが固定されたスラブ式軌道において、
軌道幅方向の両側には、前記路盤コンクリートと前記軌道スラブとの間に、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレール張り出し防止装置が設置されていることを特徴とするスラブ式軌道。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−91957(P2013−91957A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234003(P2011−234003)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)