説明

ロタキサン、及びその製造方法

【課題】新規構造のロタキサン、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のロタキサンに係る第1の態様は、輪成分1の分子環内を、鎖状分子構造3を有する軸成分2の鎖状部分が貫通したロタキサン10であって、輪成分1は、環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体であり、軸成分2の鎖状部分に3級アンモニウム塩を含む。また、本発明のロタキサンに係る第2の態様は、輪成分1の分子環内を、鎖状分子構造3を有する軸成分2の鎖状部分が貫通したロタキサンであって、輪成分1は、環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体であり、軸成分の鎖状部分に3級アミンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規構造のロタキサン、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軸成分と輪成分からなるユニークな構造を持つインターロック分子であるロタキサンが注目を集め、種々の提案がなされている(例えば、非特許文献1〜5)。
【0003】
本発明者らのグループは、先般、抗ガン剤としての作用を示す新規構造のロタキサンや、アンモニウム窒素をアシル化する製造方法を提案した。アシル化構造を有するロタキサンは、例えば不斉触媒としての応用が可能である。
【0004】
ロタキサンは、カテナンとともにその構成成分の運動性の高さにより、従来の共有結合分子にはみられない特徴が認められている。このため、分子素子、分子スイッチ、分子モーターなどの分子機械への応用をはじめ、分子触媒、光合成素子、若しくは光電変換素子などへの応用が試みられている。ポリマーを含む高次ロタキサンにおいては、ポリロタキサンゲルが既に実用化され、直進型分子モーターへの応用も検討されている。ロタキサンを取り巻く環境は、大きく展開しており、ロタキサンは幅広い応用の可能性をもつ潜在的機能分子としてその存在を誇示しつつある。
なお、非特許文献6については、後述する。
【非特許文献1】T. Takata et al. , Chem. Lett., 1015, (1999).
【非特許文献2】T. Takata et al. , Chem. Lett., 506, (2000)
【非特許文献3】T. Takata et al. , J. Org. Chem., 71, 5093 (2006).
【非特許文献4】N. W. Alcock et al. , J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1289, (1995).
【非特許文献5】D. J. Williams et al. , Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 34, 1865, (1995).
【非特許文献6】B. L. Haymore et al., J. Am. Chem. Soc., 101, 6273-6276, (1979)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超分子化学と有機合成化学の発展によりロタキサンの合成法の開発が進んできた。しかしながら、ロタキサン分子の応用展開を図る上では、未だ合成上の問題が多いのが現状である。このため、新規構造のロタキサンの開発が切望されている。
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、新規構造のロタキサン及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のロタキサンに係る第1の態様は、輪成分の分子環内を、軸成分の鎖状分子構造部が貫通したロタキサンであって、前記輪成分は、環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体であり、前記鎖状分子構造部に3級アンモニウム塩を含むもの(以下、「3級アンモニウム塩型のロタキサン」とも云う。)である。
【0008】
上記非特許文献6において、クラウンエーテルに対するアンモニウム塩の錯体形成能についての研究報告がなされている。同文献では、クラウンエーテルの酸素原子とアンモニウム塩を構成する窒素に結合する水素原子との水素結合が錯体形成に重要な役割を担っていることが報告されている。そして、2級アンモニウム塩とクラウンエーテルの組み合わせにおいては、錯体が平衡反応により形成されるが、3級アンモニウム塩とクラウンエーテルの組み合わせにおいては、錯体が検出できないほど錯形成率が小さいことが記載されている。2級アンモニウム塩の場合、2級アンモニウム塩を構成する窒素に結合する2つの水素がクラウンエーテルの酸素に対して協同的に働いて比較的安定な錯体を形成するのに対し、3級アンモニウム塩の場合、3級アンモニウム塩を構成する窒素に結合する水素が1つしか無いため、クラウンエーテルとの錯体形成に不利となる。ロタキサンにおいては、これまで、軸成分の鎖状分子構造部にアンモニウム塩を含むものとして、2級アンモニウム塩タイプしか報告例がなく、3級アンモニウム塩タイプのロタキサンは合成できないものと考えられてきた。本発明のロタキサンに係る第1の態様によれば、軸成分の鎖状分子構造部に3級アンモニウム塩を含む新規構造のロタキサンを提供することができる。
【0009】
本発明のロタキサンに係る第2の態様は、輪成分の分子環内を、軸成分の鎖状分子構造部が貫通したロタキサンであって、前記輪成分は、環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体であり、前記鎖状分子構造部に3級アミンを含むもの(以下、「3級アミン型のロタキサン」とも云う)である。
【0010】
これまで、軸成分の鎖状分子構造部にアミンを含むロタキサンは、合成できないものと認識されていた。本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、軸成分の鎖状分子構造部に3級アミンを含むロタキサンが得られることを突き止めた。本発明のロタキサンに係る第2の態様によれば、軸成分の鎖状分子構造部に3級アミンを含む新規構造のロタキサンを提供することができる。
【0011】
本発明のロタキサンの製造方法に係る第1の態様は、環の員数が22〜34であり、環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体から選ばれる環状化合物と、3級アンモニウム塩を含む鎖状化合物から、前記輪成分の環内に前記鎖状化合物が相互作用により保持されてなる貫通型錯体を形成させ、当該貫通型錯体と、エンドキャップ剤とを反応させるものである。
【0012】
まず、従来例に係る2級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法の一例について下記式(2)を用いて説明する。
【化2】

【0013】
従来例に係る2級アンモニウム塩型のロタキサンは、上記式(2)に示すように、輪成分となるクラウンエーテル誘導体と、軸成分となる2級アンモニウム塩構造を含む鎖状化合物から貫通型錯体(pseudorotaxane)を形成する。続いて、エンドキャップ剤である3,5−ジメチル安息香酸無水物を用いて、トリブチルホスフィンの存在下、末端封鎖を行う。これにより、軸成分の鎖状分子構造部に2級アンモニウム塩を含むロタキサン(以下、「2級アンモニウム塩型のロタキサン」とも云う)が得られる。
【0014】
これまで、ロタキサンの前駆体となる貫通型錯体において、軸成分に3級アンモニウム塩を含む構造のものは報告例がなく、3級アンモニウム塩を含む軸成分の貫通型錯体形成は困難であると考えられてきた。本発明者らは、僅かながらにも3級アンモニウム塩を含む貫通型錯体が形成でき、この3級アンモニウム塩を含む貫通型錯体にエンドキャップ剤を反応させることにより、軸成分の鎖状分子構造部に3級アンモニウム塩を含むロタキサンが得られることを突き止めた。
【0015】
本発明のロタキサンの製造方法に係る第2の態様は、輪成分の分子環内を、軸成分の鎖状分子構造部が貫通したロタキサンの製造方法であって、前記鎖状分子構造部の2級アンモニウム塩を還元的アミノ化反応により3級アンモニウム塩に変換するものである。
【0016】
3級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法についてさらに検討を重ねたところ、上記ロタキサンの製造方法に係る第1の態様とは別の製造方法により、3級アンモニウム塩型のロタキサンを製造できることがわかった。すなわち、2級アンモニウム塩型のロタキサンの還元的アミノ化反応により直接的に3級アンモニウム塩型のロタキサンが得られることがわかった。
【0017】
本発明のロタキサンの製造方法に係る第3の態様は、上記3級アンモニウム塩型のロタキサン(本発明のロタキサンに係る第1の態様)に、無機塩基又は有機塩基で中和することにより上記3級アミン型のロタキサン(本発明のロタキサンに係る第2の態様)を得るものである。
【0018】
本発明のロタキサンの製造方法に係る第3の態様によれば、軸成分の鎖状分子構造部に3級アミンを含むロタキサンを得ることができる。2級アンモニウム塩型のロタキサンにおいては、中和することはできなかった。3級アンモニウム塩型のロタキサンにおいては、2級アンモニウム塩型のロタキサンに比して輪成分との相互作用が低下しているので、中和反応が進行したものと考えている。
【0019】
本発明のロタキサンの製造方法に係る第4の態様は、上記3級アミン型のロタキサン(本発明のロタキサンに係る第2の態様)に、無機酸又は有機酸を反応させることにより上記3級アンモニウム塩型のロタキサン(本発明に係るロタキサンに係る第1の態様)を得るものである。
【0020】
本発明のロタキサンの製造方法に係る第4の態様によれば、3級アミン型のロタキサンを3級アンモニウム塩型のロタキサンに変換することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、新規構造のロタキサン及びその製造方法を提供することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0023】
図1は、本発明に係るロタキサン10の一例を示す模式的説明図である。ロタキサン10は、輪成分1、軸成分2を備える。軸成分2は、鎖状分子構造部3と、この鎖状分子構造部3の両末端にそれぞれエンドキャップ部4を備える。ロタキサン10は、図1に示すように、輪成分1の分子環内を、鎖状分子構造部3を有する軸成分2の鎖状部分が貫通した構造となっている。輪成分1は、軸成分2の両末端に位置するエンドキャップ部4により、軸成分2から抜けない構造となっており、鎖状分子構造部3上に周回する状態で保持されている。
【0024】
輪成分1は、鎖状分子構造部3に輪成分1との相互作用が強い部位や基が存在する場合には、当該部位や基により動きが制約される。一方、輪成分との相互作用が強い部位や基が軸成分に存在しない場合には、輪成分1は、鎖状分子構造部3に対して動きの自由度が高い。
【0025】
なお、図1に図示したロタキサンの模式的構造は一例であって、鎖状分子構造部3とエンドキャップ部4を備える軸成分2と、輪成分1を備えているものであれば、その構造は特に限定されない。例えば、軸成分1つに対して輪成分の数は、1つに限定されるものではなく、複数有していてもよい。軸成分2は、低分子鎖でも高分子鎖でもよい。また、複数の輪成分等を相互に連結して、複数のロタキサン分子を架橋させた構造としてもよい。さらに、軸成分2は、1本の直鎖状であるものに限定されず、分岐構造を有していてもよい。エンドキャップ部4は、輪成分1のキャップとして機能していればよく、軸成分2の末端に位置するものに限定されない。また、ロタキサン1分子中のエンドキャップ部は2つに限定されるものではなく、少なくとも2つ備えていればよい。
【0026】
[3級アンモニウム塩型のロタキサン]
本発明に係る3級アンモニウム塩型のロタキサンの軸成分は、3級アンモニウム塩を含む鎖状分子構造部を有し、かつ、この軸成分の鎖状分子構造部に貫通している輪成分が抜け出さないものであれば、特に制限されない。
【0027】
本発明に係る3級アンモニウム塩型のロタキサンの一例として、図1の模式図に示すタイプの構造、すなわち、直鎖状の鎖状分子構造部3の両末端にそれぞれエンドキャップ部4を有するロタキサンの一般式(3)を下記に示す。
【化3】

上記式(3)中の、Rはそれぞれ独立に、エンドキャップとして働く1価の基であり、図1のエンドキャップ部4に相当する。Rは、3級アンモニウム塩を少なくとも一つ含む2価の基であり、図1の鎖状分子構造部3に相当する。
【0028】
上記Rとしては、例えば、輪成分の環を通り抜けることができない程度に嵩高い一価の基とすることができる。具体例としては、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジニトロフェニル基、4−tert-ブチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、tert-ブチル基、トリチル基、ナフタレン基、アントラセン基などが挙げられ、中でも3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−tert-ブチルフェニル基が好ましい。
【0029】
軸成分の鎖状分子構造部に含まれる3級アンモニウム塩の好ましい構造としては、下記一般式(4)で表わされる構造を挙げることができる。窒素原子の隣接部位2つをメチレン基とすることにより、3級アンモニウム塩の製造をより容易に行うことができる。下記式(4)のメチレン基の水素を、炭素数が1から3のアルキル基、炭素数が2から3のアルケニル基、炭素数が2から3のアルキニル基に代えてもよい。
【化4】

【0030】
上記式(4)中のXは任意の陰イオン分子、若しくは陰イオン原子である。具体的には、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンなどを挙げることができる。上記式(4)中のRは、官能基を有していてもよい1価の有機基であり、3級アンモニウム塩を構成する基であれば、特に制約されない。低分子鎖のみならず、高分子鎖であってもよい。
【0031】
上記Rの好ましい例としては、例えば、下記式(5)に示す基が挙げられる。
【化5】

【0032】
本発明に係る3級アンモニウム塩型のロタキサンの輪成分は、環の員数が22〜34の環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体から選ばれるものである。輪成分の環の員数は、より好ましくは24〜28である。輪成分の分子環内と、軸成分の鎖状分子構造部に含まれる3級アンモニウム塩とが相互作用する。
【0033】
本発明に用いられる上記輪成分は、官能基を含んでいてもよい。官能基としては、構造上可能である限り特に制限されないが、例えば、メルカプトメチル基、メルカプト基、アミノメチル基、アミノ基、水酸基、ヒドロキシルメチル基、カルボキシル基、カルボキシルメチル基、ハロゲン、エーテル基、チオエーテル基、カルバメート基、アミド基、ペプチド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、アルデヒド基、アクリレート基、メタクリレート基等を挙げることができる。導入する1分子あたりの官能基の数は、構造上可能である限り特に制限されない。後述する、貫通型錯体を経由する第1のロタキサンの製造する場合において、貫通型錯体とエンドキャップ剤とを反応させる際に、反応性の官能基が導入されている場合には、当該官能基を保護基により保護した上で反応を行う。エンドキャップ剤を導入してロタキサン構造を得た後に、官能基を導入してもよい。
【0034】
輪成分の好ましい例として、クラウンエーテル誘導体を挙げることができる。クラウンエーテル誘導体の環には炭素原子や酸素原子だけではなく、窒素原子や硫黄原子などが存在していてもよい。クラウンエーテル誘導体には、例えば、上述した官能基を適宜導入することができる。クラウンエーテル1個あたりの官能基の数は、構造上可能である限り特に制限されないが、通常1〜8の範囲で容易に制御することができる。
【0035】
クラウンエーテル誘導体の中の特に好ましい例としては、24−クラウン−8−エーテル誘導体を挙げることができる。具体例としては、いずれも置換基を有していてもよいジベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、24-クラウン-8−エーテル、ベンゾ-24-クラウン-8−エーテル、ビス(ビナフチル)-28-クラウン-8−エーテル、ビス(ビフェニル)-28-クラウン-8−エーテル、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8−エーテル、ベンゾ/ビナフチル-24-クラウン-8−エーテルなどが挙げられ、中でもジベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、24-クラウン-8−エーテル、ベンゾ-24-クラウン-8−エーテル、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8−エーテルが好ましい。
【0036】
特に好ましいクラウンエーテル誘導体は、下記一般式(1)で表わされるジベンゾ−24−クラウン−8−エーテルである。
【化6】

【0037】
上記式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R及びRは、独立に、水素原子、ハロゲン原子、1価の官能基、官能基を有していてもよい脂肪族炭化水素、及び官能基を有していてもよい芳香族炭化水素から選ばれる基である。隣り合うRとR、RとR、RとR、RとR、RとR及びRとRは、環を形成していてもよい。環としては、芳香族環、縮合環、脂環式環を挙げることができる。上記式(1)中、Y、Y、Y、Y、Y、Y,Y及びYは、独立に、水素原子、ハロゲン原子、1価の官能基、官能基を有していてもよい脂肪族炭化水素、及び官能基を有していてもよい芳香族炭化水素から選ばれる基である。隣り合うYとY、YとY、YとY、YとY、YとY及びYとYは、環を形成していてもよい。環としては、芳香族環、縮合環、脂環式環を挙げることができる。
【0038】
上記R〜R、及びY〜Yにおける官能基としては、メルカプトメチル基、メルカプト基、アミノメチル基、アミノ基、水酸基、ヒドロキシルメチル基、カルボキシル基、カルボキシルメチル基、エーテル基、チオエーテル基、カルバメート基、アミド基、ペプチド基、基、ビニル基、アリル基、エチニル基、アルデヒド基、アクリレート基、メタクリレート基等を挙げることができる。R〜R、及びY〜Yにおける脂肪族炭化水素としては、官能基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基等を挙げることができる。R〜R、及びY〜Yにおける脂環式炭化水素としては、シクロブタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等のシクロアルカン環等を挙げることができる。R〜R、及びY〜Yにおける芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基等を挙げることができる。また、ポルフィリン環、他のロタキサン、フラーレン等を備えていてもよい。架橋点となる官能基を導入して、本発明に係るロタキサンを架橋剤として用いることも可能である。
【0039】
〜Yにおける具体的な好ましい例としては、−COCHCH、−CHO、−CHCl、−CHOAc、−OCH,−CHOCOC=CHCH、−C≡CH,−NHCOCH,−CH=CH,−OCHPh,−CHOCOC*HMePh,下記一般式(6)で表わされるフラーレン等を挙げることができる。
【化7】

【0040】
上記R〜Rの具体的な好ましい例としては、例えば、下記式(7)のものを挙げることができる。
【化8】

【0041】
なお、上記においては、上記一般式(3)のタイプの構造を有するもの、すなわち、軸成分の鎖状分子構造部であるRの両末端にそれぞれエンドキャップ部であるRが形成されている構造について説明したが、これは一例に過ぎず、鎖状分子構造部とエンドキャップ部を備える軸成分と、この軸成分の鎖状分子構造部に貫通する輪成分の機能を有するロタキサンにおいて、本件発明を適用することができる。
【0042】
[3級アミン型のロタキサン]
本発明に係る3級アミン型のロタキサンの軸成分は、3級アミンを含む鎖状分子構造部を有し、かつ、この軸成分の鎖状分子構造部に貫通している輪成分が抜け出さないものであれば、特に制限されない。
【0043】
本発明に係る3級アミン型のロタキサンの一例として、図1の模式図に示すタイプの構造、すなわち、直鎖状の鎖状分子構造部3の両末端にそれぞれエンドキャップ部4を有するロタキサンの一般式(8)を下記に示す。
【化9】

上記式(8)中の、Rはそれぞれ独立に、エンドキャップとして働く1価の基であり、図1のエンドキャップ部4に相当する。Rは、3級アミンを少なくとも一つ含む2価の基であり、図1の鎖状分子構造部3に相当する。上記Rとしては、例えば、輪成分の環を通り抜けることができない程度に嵩高い一価の基とすることができる。上記Rの具体例は、上記式(3)で説明したものを挙げることができる。
【0044】
軸成分の鎖状分子構造部に含まれる3級アミンの好ましい構造としては、下記一般式(9)で表わされる構造を挙げることができる。窒素原子の隣接部位2つをメチレン基とすることにより、3級アミンの製造をより容易に行うことができる。下記式(9)のメチレン基の水素を、炭素数が1から3のアルキル基、炭素数が2から3のアルケニル基、炭素数が2から3のアルキニル基に代えてもよい。
【化10】

上記式(9)中のRは、官能基を有していてもよい1価の有機基であり、3級アミンを構成する基であれば、特に制約されない。低分子鎖のみならず、高分子鎖であってもよい。
【0045】
本発明に係る3級アミン型のロタキサンの輪成分は、環の員数が22〜34の環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体から選ばれるものである。輪成分の環の員数は、より好ましくは24〜28である。輪成分の分子環内と、軸成分の鎖状分子構造部に含まれる3級アミンとが相互作用する。
【0046】
本発明に用いられる上記輪成分は、官能基を含んでいてもよい。官能基としては、構造上可能である限り特に制限されない。具体例としては、上記3級アンモニウム塩型のロタキサンの説明で記載したもの等を挙げることができる。輪成分の好ましい例として、クラウンエーテル誘導体を挙げることができる。クラウンエーテル誘導体の環には炭素原子や酸素原子だけではなく、窒素原子や硫黄原子などが存在していてもよい。クラウンエーテル誘導体には、例えば、上述した官能基を適宜導入することができる。クラウンエーテル1個あたりの官能基の数は、構造上可能である限り特に制限されないが、通常1〜8の範囲で容易に制御することができる。
【0047】
クラウンエーテル誘導体の好ましい例としては、24−クラウン−8−エーテル誘導体を挙げることができる。具体例は、上記3級アンモニウム塩型のロタキサンにおいて例示したものを挙げることができる。その中でも特に好ましいクラウンエーテル誘導体として、下記一般式(1)であらわされるジベンゾ−24−クラウン−8−エーテルを挙げることができる。
【化11】

前記式(1)中の符号は、前述したとおりであり、具体例としては、上記3級アンモニウム塩型のロタキサンで説明した例を挙げることができる。
【0048】
3級アミン型のロタキサンは3級アンモニウム塩型のロタキサンに比して、輪成分と軸成分との相互作用が少ない。これは、アミンが中性であり、かつアミンを構成する窒素原子に水素原子が結合していないためである。このため、3級アミン型のロタキサンの輪成分は、3級アンモニウム塩型のそれに比して、鎖状分子構造部を自由に動くことができる。
【0049】
なお、上記においては、上記一般式(8)のタイプの構造を有するもの、すなわち、軸成分として鎖状分子構造部であるRの両末端にそれぞれエンドキャップ部であるRが形成されている構造について説明したが、これは一例に過ぎず、鎖状分子構造部とエンドキャップ部を備える軸成分と、この軸成分の鎖状分子構造部に貫通する輪成分の機能を有するロタキサンにおいて、本件発明を適用することができる。
【0050】
[3級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法1]
本発明の3級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法1は、環の員数が22〜34の環状化合物と、3級アンモニウム塩を含む鎖状化合物から、前記環状化合物の環内に前記鎖状化合物が相互作用により保持されてなる貫通型錯体を形成させ、当該貫通型錯体とエンドキャップ剤とを反応させることにより、3級アンモニウム塩型のロタキサンを得る方法である。図2に、3級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法1の模式的スキームを示す。
【0051】
図2に示すように、まず、環の員数が22〜34の環状化合物1aと、3級アンモニウム塩を含む鎖状化合物5を溶液中で混合し、輪成分の環内に鎖状化合物5が相互作用により保持されてなる貫通型錯体6を形成させる。鎖状化合物5には、ロタキサンのエンドキャップ部4として機能する部位と、貫通型錯体6を形成した後に、エンドキャップ剤7と反応し得る反応性ユニットAを有する。反応性ユニットAは、環状化合物1aの内径よりも小さく、環状化合物の環を通り抜けることができる大きさの構造とする。また、反応性ユニットAは、鎖状化合物5の3級アンモニウム塩と環状化合物1aとの相互作用を妨げないものとする。
【0052】
なお、図2においては、エンドキャップ部4と反応性ユニットAは、それぞれ鎖状化合物の末端に形成されている例について説明したが、これに限定されるものではない。また、鎖状化合物5中のエンドキャップ部4は、貫通型錯体6形成後、若しくはロタキサン10a形成後に、他の分子構造を有する基若しくは部位に変換することが可能であることは言うまでもない。
【0053】
鎖状化合物5中の反応性ユニットAは、エンドキャップ剤7の反応ユニットBと反応する限り特に制限されない。例えば、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、イソシアナート基、アミノ基、トリチルオキシ基、トリチルチオ基、イソチオシアナート基などが挙げられ、中でも水酸基、メルカプト基、アミノ基が好ましい。輪成分、若しくは軸成分となる鎖状化合物に、エンドキャップ剤と反応する官能基等が導入されている場合には、必要に応じて保護基を導入してから、反応性ユニットAとエンドキャップ剤7との反応を行う。保護基は、エンドキャップ導入後に、脱保護反応を行えばよい。
【0054】
貫通型錯体6の形成時に用いる溶媒は特に制限されない。例えば、クロロホルム、ベンゼン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、トルエンなどを用いることができる。これらは、単独で、若しくは混合溶媒として用いることができる。
【0055】
貫通型錯体6を形成した後、前述したとおり、エンドキャップ剤7と反応させることにより3級アンモニウム塩型のロタキサン10aを得る。エンドキャップ剤7には、鎖状化合物中の反応性ユニットAと反応して結合が形成される反応性部位若しくは反応性基である反応性ユニットBを備えている。反応性ユニットAと反応性ユニットBの組み合わせとしては、相互に反応するものであれば特に制限されない。例えば、水酸基とイソシアナート基、水酸基とカルボキシル基、メルカプト基とメルカプト基、カルボキシル基とアミノ基、水酸基とイソチオシアナート基、アミノ基とイソシアナート基、メルカプト基とイソシアナート基、メルカプト基とカルボキシル基などが挙げられ、中でも水酸基とイソシアナート基、メルカプト基とイソシアナート基、アミノ基とイソシアナート基が好ましい。
【0056】
貫通型錯体6とエンドキャップ剤7との反応は、当業者に公知の方法で反応させることにより行うことができる。場合により、トリブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン、三級アミン、ジラウリン酸ジ-n-ブチルスズ、トリフロロボロン酸エーテル錯体などの触媒を添加してもよい。例えば、反応性ユニットAが水酸基、エンドキャップ剤7の反応性ユニットBが酸無水物の場合には、貫通型錯体6にエンドキャップ剤7と触媒であるトリブチルホスフィンとを添加することにより反応を行うことができる。反応温度は特に制限されないが、好ましくは室温以下である。通常、一晩、放置することで反応を十分に進行させることができる。反応は通常、溶液中で行われる。溶媒は特に制限されないが、例えば、クロロホルム、ベンゼン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、トルエンなどを単独で、若しくは混合して用いることができる。図2の例においては、2工程でロタキサンを製造する方法について説明したが、貫通型錯体を形成する工程、貫通型錯体に対してエンドキャップを行う工程が含まれていればよく、多段階の合成工程が含まれていてもよいことは言うまでもない。
【0057】
[3級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法2]
本発明の3級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法2は、輪成分の分子環内を、2級アンモニウムを有する鎖状分子構造を有する軸成分の鎖状部分が貫通したロタキサンに、還元的アミノ化反応を行うことにより、2級アンモニウム塩を3級アンモニウム塩に変換することにより、3級アンモニウム塩型のロタキサンを得る方法である。図3に、3級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法2の模式的スキームを示す。2級アンモニウム塩型のロタキサン10bを3級アンモニウム塩型のロタキサン10cに還元的アミノ化反応により変換する。
【0058】
2級アンモニウム塩にメチル基を導入する場合には、還元的アミノ化反応としてエシュバイラー・クラーク反応(Eschweiler-Clarke methylation)を用いることが、3級アンモニウム塩型のロタキサンを収率高く得る観点から好ましい。また、ワンステップ反応で進行する観点からも好ましい。エシュバイラー・クラーク反応は、2級アンモニウム塩型のロタキサンに、過剰のパラホルムアルデヒド及び過剰の蟻酸を加えて加温する。これにより、2級アミンに対してメチル基を導入し、3級アンモニウム塩型のロタキサンを一段階、かつ高収率で得ることができる。
【0059】
貫通型錯体を経由してロタキサンを製造する場合、2級アンモニウム塩型のロタキサンは、類似構造の3級アンモニウム塩型のロタキサンに比して高収率で合成することが可能である。しかも、2級アンモニウム塩型のロタキサンの方が、類似構造の3級アンモニウム塩型のロタキサンに比して分子設計しやすい。さらには、類似構造の3級アンモニウム塩型のロタキサンに比して2級アンモニウム塩型のロタキサンの方が一般に短工程で合成できる。従って、まず、2級アンモニウム塩型のロタキサンを製造し、その後に、還元的アミノ化反応により3級アンモニウム塩型のロタキサンを製造する方法は、貫通型錯体を経由して直接的に3級アンモニウム塩型のロタキサンを製造する場合に比して、高収率で製造することが可能である。また、分子設計の自由度が高くなるというメリットがある。なお、原料となる2級アンモニウム塩型のロタキサンの分子構造は、特に限定されない。従って、多様な分子構造を有する3級アンモニウム塩型のロタキサンを提供することが可能である。
【0060】
[3級アミン型のロタキサンの製造方法]
本発明に係る3級アミン型のロタキサンは、3級アンモニウム塩型のロタキサンに、無機塩基または有機塩基で中和することにより得ることができる。無機塩基、有機塩基としては、当業者に公知のものを使用し、公知の方法にて中和反応を行うことができる。例えば、アセトニトリル中、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)を当量以上加えて加温することにより3級アンモニウム塩型のロタキサンを3級アミン型のロタキサンに定量的に変換させることができる。
【0061】
また、得られた3級アミン型のロタキサンに対して、無機酸又は有機酸で処理することにより、定量的に3級アンモニウム塩型のロタキサンを得ることができる。無機酸又は有機酸としては、当業者に公知のものを使用し、公知の方法にて処理を行うことができる。例えば、アセトニトリル中、室温で塩酸を加えることにより、定量的に3級アンモニウム塩型のロタキサンを得ることができる。
【0062】
3級アンモニウム塩部位を3級アミンに変換することにより、輪成分と軸成分との相互作用を弱め、鎖状分子構造部を輪成分が自由に動くことができるようになる。このため、機械的運動を行う化合物等として、様々な分野で応用が期待される。
【0063】
<実施例>
以下、本発明を具体的実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。生成したロタキサンの精製は、例えば、分取ゲル透過クロマトグラフィーなどの当業者に公知の方法で行うことができる。また、生成したロタキサンの同定はH−NMR、13C−NMR、IRスペクトル、マススペクトルなどの当業者に公知の方法で行った。
【0064】
[実施例1(3級アンモニウム塩型のロタキサンの合成例1)]
下記式(10)に示すスキームに従って、3級アンモニウム塩型のロタキサンを合成した。
【化12】

まず、末端に水酸基を持つ半ダンベル型の上記式(10)に示す3級アンモニウム塩を含む鎖状化合物(125mg、0.300mmol)とジベンゾ−24−クラウン−8−エーテル(202mg、0.450mmol)をクロロホルム(0.6mL)溶液に混合し、0℃で10分間攪拌した。その後さらに3,5−ジメチル安息香酸無水物(106mg、0.380mmol)、トリブチルホスフィン(7.4μL、0.03mmol)を加え、0℃で48時間攪拌した。次いで、炭酸水素ナトリウム溶液を加え、得られた有機層を2Mの塩酸と飽和食塩水で洗浄した。その後、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。残渣を高分解液体クロマトグラフィー(クロロホルム溶液)によって精製することにより、無色固体の反応生成物9.3mg(収率3%)を得た。
【0065】
得られた化合物のH NMR、13C NMR,IRの測定結果を下記に示す。この結果から、上記式(10)に示す3級アンモニウム塩型のロタキサンが得られたことを確認した。図4に、本実施例により得られた3級アンモニウム塩型のロタキサン、及び対応する構造の2級アンモニウム塩型のロタキサンのNMRチャート図を示す。
【0066】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.72 (br, 1H), 7.68-7.65 (m, 4H), 7.24 (m, 2H), 7.20 (s, 1H), 7.05 (s, 2H), 6.91-6.88 (m, 4H), 6.81-6.79 (m, 4H), 5.19-5.16 (m, 3H), 4.95-4.92 (m, 1H), 4.50-4.44 (m, 1H), 4.23-4.17 (m, 1H), 4.19-4.11 (m, 8H), 3.79-3.71(m, 8H), 3.56 (m, 8H), 2.93-2.92 (m, 3H), 2.36 (s, 6H), 2.21 (s, 6H) ppm.
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 147.2, 147.1, 138.3, 138.1, 137.6, 134.8, 132.1, 131.0, 130.4, 129.8, 129.2, 127.8, 127.3, 121.5, 121.3, 111.9, 111.7, 77.2, 71.7, 71.4, 70.4, 70.3, 68.1, 68.0, 65.8, 60.9, 60.3, 39.3, 29.7, 21.2 ppm.
・IR (KBr) 1718, 1505, 1458, 1250, 1120, 1058, 954, 842, 557 cm-1.
【0067】
[実施例2(3級アンモニウム塩型のロタキサンの合成例2)]
下記式(11)に示すスキームに従って、3級アンモニウム塩型のロタキサンを合成した。
【化13】

上記式(11)の2級アンモニウム塩型のロタキサン(98mg,0.10mmol)のDMF(1mL)溶液に、蟻酸(98mg、2.0mmol)とパラホルムアルデヒド(60mg、2.0mmol)を加え、70℃で24時間攪拌した。次いで、室温まで冷却し、50mLの水を加えた後に室温で1時間攪拌した。得られた沈殿物を濾過し、無色個体の3級アンモニウム塩型のロタキサンを100mg(収率100%)得た。
【0068】
得られた3級アンモニウム塩型のロタキサンの測定結果(融点、H NMR、13C NMR,IR、MS)の測定結果を下記に示す。は以下のとおりであり、上記式(11)と一致することを確認した。
・mp. 99-100 ℃;
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.73 (br, 1H), 7.68-7.65 (m, 4H), 7.29-7.23 (m, 2H), 7.20 (s, 1H), 7.05 (s, 2H), 6.90-6.87 (m, 5H), 6.81-6.77 (m, 4H), 5.20-5.15 (m, 3H), 4.94 (dd, J=2.3 Hz, J=13.1 Hz, 1H), 4.50-4.44 (m, 1H), 4.24-4.19 (m, 1H), 4.11-4.10 (m, 8H), 3.79-3.70 (m, 8H), 3.60-3.50 (m, 8H), 2.94-2.92 (m, 3H), 2.36 (s, 6H), 2.21 (s, 6H) ppm.
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 147.2, 147.1, 138.3, 138.1, 137.5, 134.8, 132.1, 130.4, 129.9, 129.8, 129.2, 127.8, 127.3, 121.5, 121.3, 111.9, 111.7, 77.2, 71.7, 71.5, 70.4, 70.3, 68.1, 68.0, 65.8, 60.9, 60.4, 39.3, 29.7, 21.1 ppm.
・IR (KBr) 1718, 1578, 1444, 1375, 1196, 856, 670 cm-1.
・MALDI-TOF MS (matrix DHBA) [M-PF6] calcd for C51H64NO10+ 850.4530, found 850.2540.
【0069】
[実施例3(3級アミン型のロタキサンの調製例)]
下記式(12)に示すスキームに従って、3級アンモニウム塩型のロタキサンを中和した。
【化14】

上記式(12)で表わされるロタキサン(25mg,0.025mmol)のアセトニトリル溶液に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)(37μL,0.25mmol)を加え、無色の懸濁液を70℃で24時間攪拌した。その後、水(30mL)を加え、30分間攪拌した。得られた沈殿物を濾過して水洗した後に、減圧乾固し、無色の粉末状の固体を21mg(収率100%)得た。
【0070】
得られた3級アミン型のロタキサンの測定結果は以下のとおりであり、上記式(12)と一致することを確認した。
・mp. 158 ℃,
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 8.13-8.10 (m, 4H), 7.11 (d, J= 8.0 Hz, 2H), 7.06 (s, 2H), 6.90-6.81 (m, 10H), 6.00 (s, 2H), 4.11-4.03 (m, 8H), 3.73-3.64 (m, 8H), 3.41 (s, 2H), 3.34 (s, 2H), 3.28-3.24 (m, 4H), 2.27 (s, 6H), 2.18 (s, 6H), 2.09 (s, 3H) ppm.
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 167.2, 148.6, 139.5, 137.5, 136.5, 136.2, 134.0, 130.9, 128.6, 128.4, 128.2, 128.2, 126.8, 120.4, 111.5, 77.2, 69.5, 69.3, 67.9, 67.0, 62.0, 61.3, 42.1, 21.3, 20.8 ppm.
・IR (KBr) 2917, 1720, 1505, 1455, 1321, 1251, 1218, 1127, 1037, 739 cm-1. MALDI-TOF MS (matrix DHBA) [M+H] calcd for C51H64NO10 850.4530, found 850.5493.
【0071】
図6(a)に、上記式(12)で表わされる3級アミン型のロタキサンの構造式、図6(b)に単結晶X線構造解析の結果を示す。
【0072】
[実施例4(3級アンモニウム塩型のロタキサンの調製例)]
下記式(13)に示すスキームに従って、3級アミン型のロタキサンから3級アンモニウム塩型のロタキサンに変換した。
【化15】

上記式(13)で示される3級アミン型のロタキサン(100mg、0.1mmol)のアセトニトリル(0.5mL)溶液に3Mの塩酸(0.5mL)溶液を加え、室温で強く攪拌した。3時間攪拌した後、ジメチルクロロホルムと混合物が抽出された。有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥後、溶媒を留去し、無色個体を103mg(収率100%)得た。
【0073】
得られた3級アンモニウム塩型のロタキサンの測定結果は以下のとおりであり、上記式(13)と一致することを確認した。
・mp. 128-130 ℃;
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.92 (br, 1H), 7.64-7.60 (m, 4H), 7.26 (br, 2H), 7.16 (s, 1H), 7.01 (s, 2H), 6.88-6.77 (m, 9H), 5.17-5.14 (m, 3H), 4.99-4.96 (br, 1H), 4.43 (br, 1H), 4.20-4.09 (m, 9H), 3.80-3.75 (m, 8H), 3.59 (br, 8H), 2.91 (br, 3H), 2.32 (s, 6H), 2.18 (s, 6H) ppm.
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 166.4, 147.1, 147.0, 138.2, 137.9, 137.4, 134.7, 131.8, 130.9, 129.8, 129.6, 128.8, 127.7, 127.2, 121.2, 121.1, 111.7, 111.6, 77.2, 71.6, 71.4, 70.4, 70.2, 68.1, 67.9, 65.6, 60.7, 60.2, 39.3, 39.2, 39.5, 21.2, 21.1, 0.9 ppm.
・IR (KBr) 2920, 1717, 1505, 1453, 1309, 1250, 1213, 1120, 951, 744 cm-1. MALDI-TOF MS (matrix DHBA) [M-Cl] calcd for C51H64NO10+ 850.4530, found 850.5310.
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るロタキサンの模式的説明図。
【図2】本発明の3級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法1の製造スキームの模式的説明図。
【図3】本発明の3級アンモニウム塩型のロタキサンの製造方法2の製造スキームの模式的説明図。
【図4】本実施例1に係る3級アンモニウム塩型のロタキサンのNMRチャート図。
【図5】本実施例3に係る3級アミン型のロタキサンのNMRチャート図。
【図6】(a)は、本実施例3に係る3級アミン型ロタキサンの構造式、(b)は、(a)のX線構造解析結果を示す図。
【符号の説明】
【0075】
1 輪成分
1a 環状化合物
2 軸成分
3 鎖状分子構造部
4 エンドキャップ部
5 鎖状化合物
6 貫通型錯体
7 エンドキャップ剤
8 触媒
10 ロタキサン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輪成分の分子環内を、軸成分の鎖状分子構造部が貫通したロタキサンであって、
前記輪成分は、環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体であり、
前記鎖状分子構造部に3級アンモニウム塩を含むロタキサン。
【請求項2】
輪成分の分子環内を、軸成分の鎖状分子構造部が貫通したロタキサンであって、
前記輪成分は、環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体であり、
前記鎖状分子構造部に3級アミンを含むロタキサン。
【請求項3】
前記輪成分が、クラウンエーテル誘導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のロタキサン。
【請求項4】
前記クラウンエーテル誘導体が、24−クラウン−8−エーテル誘導体であることを特徴とする請求項3に記載のロタキサン。
【請求項5】
前記クラウンエーテル誘導体が、下記一般式(1)で表わされるジベンゾ−24−クラウン−8−エーテル誘導体であることを特徴とする請求項4に記載のロタキサン。
【化1】

(前記一般式(1)中 、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R及びRは、独立に、水素原子、ハロゲン原子、1価の官能基、官能基を有していてもよい脂肪族炭化水素、及び官能基を有していてもよい芳香族炭化水素から選ばれる基である。隣り合うRとR、RとR、RとR、RとR、RとR及びRとRは、環を形成していてもよい。環としては、芳香族環、縮合環、脂環式環を挙げることができる。
前記一般式(1)中、Y、Y、Y、Y、Y、Y,Y及びYは、独立に、水素原子、ハロゲン原子、1価の官能基、官能基を有していてもよい脂肪族炭化水素、及び官能基を有していてもよい芳香族炭化水素から選ばれる基である。隣り合うYとY、YとY、YとY、YとY、YとY及びYとYは、環を形成していてもよい。環としては、芳香族環、縮合環、脂環式環を挙げることができる。)
【請求項6】
環の員数が22〜34であり、環状ポリエーテル誘導体、環状ポリスルフィド誘導体、環状ポリエーテルアミン誘導体、又は環状ポリアミン誘導体から選ばれる環状化合物と、3級アンモニウム塩を含む鎖状化合物から、前記環状化合物の環内に前記鎖状化合物が相互作用により保持されてなる貫通型錯体を形成させ、
当該貫通型錯体と、エンドキャップ剤とを反応させるロタキサンの製造方法。
【請求項7】
輪成分の分子環内を、軸成分の鎖状分子構造部が貫通したロタキサンの製造方法であって、
前記鎖状分子構造部の2級アンモニウム塩を還元的アミノ化反応により3級アンモニウム塩に変換するロタキサンの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の3級アンモニウム塩を含むロタキサンに、無機塩基又は有機塩基で中和することにより請求項2に記載の3級アミンを含むロタキサンを得るロタキサンの製造方法。
【請求項9】
請求項2に記載の3級アミンを含むロタキサンに、無機酸又は有機酸を反応させることにより請求項1に記載の3級アンモニウム塩を含むロタキサンを得るロタキサンの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−67699(P2009−67699A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235598(P2007−235598)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月25日から28日 社団法人 日本化学会主催の「第87春季年会(2007)」の平成19年3月12日発行の講演予稿集(CD−ROM)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】