説明

ロッカージョイントピン型サイレントチェーン

【課題】多様な噛合いピッチを実現してスプロケットの噛み合い時に生じがちな周期的な騒音をランダム化して大幅に低減できるロッカージョイントピン型サイレントチェーンを提供すること。
【解決手段】前後一対の噛合い部111と前後一対のピン孔112を備えた複数のリンクプレート110がロッカーピン121とジョイントピン122からなるロッカージョイントピン120で指組み状にチェーン長手方向に連結編成されて一定の噛合いピッチを有するスプロケットSに噛合うロッカージョイントピン型サイレントチェーン100において、噛合い部の噛合い形状を異ならしめた複数のリンクプレート110がチェーン長手方向に不規則に配置されているとともに、ロッカーピン121のピン厚みとジョイントピン122のピン厚みがチェーン長手方向に隣合うリンクプレート110を貫通するピン孔112に不規則な大小関係で配置されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの動力伝達機構に用いるサイレントチェーンに関するものであって、特に、スプロケットとの噛合い周期音を低減したロッカージョイントピン型サイレントチェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スプロケット歯との噛み合い時に生じる周期的な騒音を低減するロッカージョイントピン型サイレントチェーンとして、各々一対の歯部およびピン孔を有する多数のリンクプレートを該ピン孔内に装入した連結ピンにより連結するとともに最外側リンクプレートの外側にガイドリンクを配置し、内側フランク面の突出量が異なるランダムリンクが混在することにより構成されているリンクプレートを用いたもの(例えば、特許文献1参照)がある。
また、前後一対の噛合い部と前後一対のピン孔を備えた1以上のリンクプレートによりリンクモジュールが構成され、隣合うリンクモジュールの各リンクプレートのピン孔に不規則に配列された第1及び第2のロッカージョイントピンを挿通して前記リンクモジュールを無端状に編成し、前記第1のロッカージョイントピンが、サイレントチェーンの直線状態における長ピンと短ピンの接触点間のピッチ方向で第1の厚みを有する長ピンと第1の厚みを有する短ピンの組合せよりなり、前記第2のロッカージョイントピンが、サイレントチェーンの直線状態における長ピンと短ピンの接触点間のピッチ方向で第2の厚みを有する長ピンと第2の厚みを有する短ピンの組合せよりなるもの(例えば、特許文献2参照)がある。
【特許文献1】特開2000−130518号公報(第1欄、図12)
【特許文献2】特開2001−3996号公報(第1頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、前者のロッカージョイントピン型サイレントチェーンでは、噛合周期をずらしたパターンを多くしようとすると、その分の異なるリンクプレートが必要となり、ランダムチェーンの組み立てが困難になるという問題があった。
また、後者のロッカージョイントピン型サイレントチェーンでは、第1の厚みを有する長ピンと第1の厚みを有する短ピンの組合せによる第1のロッカージョイントピンと第2の厚みを有する長ピンと第2の厚みを有する短ピンの組合せによる第2のロッカージョイントピンとをチェーン長手方向に不規則に配置しているため、チェーンピッチが3種類に止まり、スプロケットの噛合い時に生じる周期音を充分に防止することができないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明では、ロッカーピンのピン厚みとジョイントピンのピン厚みとを不規則に配置することと、リンクプレートの噛合い部形状を隣合うリンクモジュール毎に不規則に配置することの組み合わせに着目して、上述したような従来の課題を解決することにした。
すなわち、本発明の目的は、多様な噛合いピッチを実現してスプロケットの噛み合い時に生じがちな周期的な騒音をランダム化して大幅に低減できるロッカージョイントピン型サイレントチェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前後一対の噛合い部と前後一対のピン孔を備えた複数のリンクプレートがロッカーピンとジョイントピンからなるロッカージョイントピンで指組み状にチェーン長手方向に連結編成されて一定の噛合いピッチを有するスプロケットに噛合うロッカージョイントピン型サイレントチェーンにおいて、前記噛合い部の噛合い形状を異ならしめた複数のリンクプレートがチェーン長手方向に不規則に配置されているとともに、前記ロッカーピンのピン厚みとジョイントピンのピン厚みがチェーン長手方向に隣合うリンクプレートを貫通するピン孔に不規則な大小関係で配置されていることによって、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のロッカージョイントピン型サイレントチェーンは、前後一対の噛合い部と前後一対のピン孔を備えた複数のリンクプレートがロッカーピンとジョイントピンからなるロッカージョイントピンで指組み状にチェーン長手方向に連結編成されていることにより、一定の噛合いピッチを有するスプロケットに噛合うことができるばかりでなく、特有のチェーン構成により、以下のような効果を奏することができる。
【0007】
すなわち、本発明のロッカージョイントピン型サイレントチェーンは、噛合い部の噛合い形状を異ならしめた複数のリンクプレートがチェーン長手方向に不規則に配置されているとともに、ロッカーピンのピン厚みとジョイントピンのピン厚みがチェーン長手方向に隣合うリンクプレートを貫通するピン孔に不規則な大小関係で配置されていることによって、サイレントチェーンとしての多様な噛合いピッチ、すなわち、噛合いタイミングを実現するので、一定の噛合いピッチを有するスプロケットの噛み合い時に生じがちな周期的な騒音をランダム化して大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、前後一対の噛合い部と前後一対のピン孔を備えた複数のリンクプレートがロッカーピンとジョイントピンからなるロッカージョイントピンで指組み状にチェーン長手方向に連結編成されて一定の噛合いピッチを有するスプロケットに噛合うロッカージョイントピン型サイレントチェーンにおいて、前記噛合い部の噛合い形状を異ならしめた複数のリンクプレートがチェーン長手方向に不規則に配置されているとともに、前記ロッカーピンのピン厚みとジョイントピンのピン厚みがチェーン長手方向に隣合うリンクプレートを貫通するピン孔に不規則な大小関係で配置されており、多様な噛合いピッチ、すなわち、噛合いタイミングを実現してスプロケットの噛み合い時に生じる周期的な騒音をランダム化して大幅に低減するものであれば、その具体的な実施の態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0009】
たとえば、本発明で用いるリンクプレートは、前後一対の噛合い部に形成された外側フランクのみで噛み合って着座する、所謂、外股当たりの外股着座タイプのもの、または、前後一対の噛合い部に形成された内側フランクのみで噛み合って着座する、所謂、内股当たりの内股着座タイプのもの、更に、前後一対の噛合い部に形成された内側フランクで噛み合って前後一対の噛合い部に形成された外側フランクで着座する、所謂、内股当たりの外股着座タイプのものの、いずれであっても良い。
【0010】
また、本発明で用いるリンクプレートの噛合い部については、直線状に形成されたフランク、曲線状に形成されたフランク、直線と曲線の組み合わせで形成されたフランクのいずれであっても良い。
【0011】
さらに、本発明で用いるリンクプレートの噛合い部には、シェービング加工、或いは、ファイン・ブランキング加工を施すことが好ましく、例えば、シェービング加工を施した剪断面長さがリンクプレートの板厚の約70%以上となっている場合には、衝撃騒音を大幅に低減するとともにサイレントチェーン自体の耐久性を長期にわたって持続することができるのでより好ましい。
【実施例】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明によるロッカージョイントピン型サイレントチェーンの実施例を説明する。
まず、図1は、本発明の一実施例であるロッカージョイントピン型サイレントチェーンの使用態様図であり、図2の(A)、(B)は、図1のロッカージョイントピン型サイレントチェーンで用いたリンクプレートの拡大図であり、図3は、図1のロッカージョイントピン型サイレントチェーンがスプロケットと噛み合う状態を拡大視した図であり、図4の(A)、(B)、(C)は、ロッカーピンとジョイントピンとの組み合わせパターンを示す説明図である。
【0013】
本発明の一実施例であるロッカージョイントピン型サイレントチェーン100は、自動車用トランスファー機構に用いられるものであって、一定の噛合いピッチを有するインボリュート歯を備えたスプロケットSに噛合って動力伝達するように構成されている。
すなわち、図1及び図3に示すように、本実施例のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100は、前後一対の噛合い部111と前後一対のピン孔112を備えたリンクプレート110がロッカーピン121とジョイントピン122からなるロッカージョイントピン120で指組み状にチェーン長手方向に連結編成されて一定の噛合いピッチを有するスプロケットSに噛合うようになっている。
ここで、図3における矢印は、チェーン進行方向とスプロケット回転方向をそれぞれ示している。
【0014】
なお、図1及び図3に示していないが、本実施例のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100は、指組み状にチェーン長手方向に連結編成されたリンクプレート110の両外側には、ガイドプレートが存在しており、このガイドプレートにロッカーピン121よりも長いジョイントピン122が圧入嵌合されて固定されている。
すなわち、本実施例のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100は、左右一対のガイドプレートとその間に並列配置したリンクプレート110とでチェーン幅方向に構成されているガイド列リンクと、リンクプレート110のみでチェーン幅方向に構成されている関節列リンクとがロッカージョイントピン120で指組み状にチェーン長手方向に交互に連結編成されている。
【0015】
ここで、本実施例のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100で用いるリンクプレート110は、図2乃至図3に示されているように、前後一対の噛合い部に形成された外側フランクのみで噛み合って着座する、所謂、外股当たりの外股着座タイプのものを採用している。
【0016】
そして、本実施例のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100では、図2に示すように、噛合い部の噛合い形状を異ならしめた2種類のリンクプレート110A、110Bが採用され、図3に示すように、これら2種類のリンクプレート110A、110Bがチェーン長手方向に不規則配置の一形態である交互に配置されている。
すなわち、リンクプレート110Aは、外側に向けて曲線状に僅かに膨出形成された外側フランクを有し、他方のリンクプレート110Bは、直線状に形成された外側フランクを有しており、図2に示すように、それぞれの噛み合い位置における噛み合いピッチは、P1>P2の大小関係になっている。
【0017】
他方、本実施例のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100で用いるロッカージョイントピン120は、図3乃至図4に示すように、ピン厚みを大小異ならしめた2種類のロッカーピン121とジョイントピン122とで構成され、これら2種類のロッカーピン121とジョイントピン122がチェーン長手方向に隣合うリンクプレート110を貫通するピン孔112においてピン厚みの不規則な大小関係(t1>t2)で配置されている。
なお、前記ジョイントピン122は、前述したようにガイドプレートに圧入嵌合されて固定するために、ロッカーピン121よりもピンの長さが長くなっている。
【0018】
図4の(A)、(B)、(C)は、図3のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100に存在するピン厚みを大小異ならしめた2種類のロッカーピン121とジョイントピン122との組み合わせパターンを示している。なお、図4における符号112Aは、関節列リンクのピン孔を示し、符号112Bは、ガイド列リンクのピン孔を示している。また、図4における仮想線は、隣合うリンクプレート110毎のピン孔112A、112Bの中心線を示している。
【0019】
すなわち、図4の(A)は、ピン厚みのともに大なるロッカーピン121とジョイントピン122とが存在する場合の、チェーン長手方向に隣合うリンクプレート110を貫通するピン孔112の重なり状態を実線で示している。
また、図4の(B)は、ピン厚みの小なるロッカーピン121とピン厚みの大なるジョイントピン122とが存在する場合の、チェーン長手方向に隣合うリンクプレート110を貫通するピン孔112の重なり状態を実線で示しており、見かけのピン孔が図4の(A)に比較すると狭小になっている。
さらに、図4の(C)は、ピン厚みのともに小なるロッカーピン121とジョイントピン122とが存在する場合の、チェーン長手方向に隣合うリンクプレート110を貫通するピン孔112の重なり状態を実線で示しており、見かけのピン孔が図4の(A)、(B)に比較すると最も狭小になっている。
【0020】
ここで、図4の(A)、(B)、(C)から、ピン厚みを大小異ならしめた2種類のロッカーピン121とジョイントピン122との組み合わせパターンに応じて、噛合いピッチが異なってくことが容易に理解できる。
【0021】
このようにして得られた本実施例のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100では、噛合い部の噛合い形状を異ならしめた2種類のリンクプレート110A、110Bがチェーン長手方向に不規則に配置されているとともに、ピン厚みを大小異ならしめた2種類のロッカーピン121とジョイントピン122をチェーン長手方向に隣合うリンクプレート110を貫通するピン孔112に不規則な大小関係で配置されていることによって、リンクプレート110に起因する2通りの配列パターンとロッカーピン121のピン厚みに起因する2通りの組み合わせパターンとジョイントピン122のピン厚みに起因する2通りの組み合わせパターンとがサイレントチェーンとして2×2×2からなる8通りの多様な噛合いピッチ(Pa、Pb、Pc、Pd、・・・、Ph)、すなわち、噛合いタイミングを実現するため、一定の噛合いピッチを有するスプロケットSの噛み合い時に生じがちな周期的な騒音を8通りにランダム化して低減することができる。
【0022】
なお、上述した本実施例のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100で用いるリンクプレート110では、前後一対の噛合い部111に形成された外側フランクのみで噛み合って着座する、所謂、外股当たりの外股着座タイプのものを採用しているが、前後一対の噛合い部111に形成された内側フランクのみで噛み合って着座する、所謂、内股当たりの内股着座タイプのもの、あるいは、前後一対の噛合い部111に形成された内側フランクで噛み合って前後一対の噛合い部に形成された外側フランクで着座する、所謂、内股当たりの外股着座タイプのものの、いずれであっても良い。
【0023】
また、上述した本実施例のロッカージョイントピン型サイレントチェーン100で用いるリンクプレート110では、リンクプレート110に起因する2通りの配列パターンとロッカーピン121のピン厚みに起因する2通りの組み合わせパターンとジョイントピン122のピン厚みに起因する2通りの組み合わせパターンとがサイレントチェーンとして2×2×2からなる8通りの多様な噛合いピッチ、すなわち、噛合いタイミングを実現しているが、リンクプレート110に起因する配列パターンとロッカーピン121のピン厚みに起因する組み合わせパターンとジョイントピン122のピン厚みに起因する組み合わせパターンとを、例えば、リンクプレート110に起因する配列パターンを3通りに豊富化して構成した場合は、3×2×2からなる12通りの極めて多様な噛合いピッチを実現し、また、ロッカーピン121のピン厚みに起因する組み合わせパターンとジョイントピン122のピン厚みを大中小の3通りに豊富化して構成した場合は、2×3×3からなる18通りの極めて多様な噛合いピッチを実現するなど、一定の噛合いピッチを有するスプロケットSの噛み合い時に生じがちな周期的な騒音を更に一段とランダム化して大幅に低減することができるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施例であるロッカージョイントピン型サイレントチェーンの使用態様図。
【図2】本実施例で用いたリンクプレートの拡大図。
【図3】図1のロッカージョイントピン型サイレントチェーンがスプロケットと噛み合う状態を拡大視した図。
【図4】ロッカーピンとジョイントピンとの組み合わせパターンを示す説明図。
【符号の説明】
【0025】
100 ・・・ロッカージョイントピン型サイレントチェーン
110 ・・・リンクプレート
111 ・・・噛合い部
112 ・・・ピン孔
120 ・・・ロッカージョイントピン
121 ・・・ロッカーピン
122 ・・・ジョイントピン
S ・・・スプロケット
P1、P2・・・噛み合いピッチ
t1,t2・・・ピン厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後一対の噛合い部と前後一対のピン孔を備えた複数のリンクプレートがロッカーピンとジョイントピンからなるロッカージョイントピンで指組み状にチェーン長手方向に連結編成されて一定の噛合いピッチを有するスプロケットに噛合うロッカージョイントピン型サイレントチェーンにおいて、
前記噛合い部の噛合い形状を異ならしめた複数のリンクプレートが、チェーン長手方向に不規則に配置されているとともに、
前記ロッカーピンのピン厚みとジョイントピンのピン厚みが、チェーン長手方向に隣合うリンクプレートを貫通するピン孔に不規則な大小関係で配置されていることを特徴とするロッカージョイントピン型サイレントチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−127648(P2009−127648A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300036(P2007−300036)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)