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ロドコッカス属細菌の形質転換のためのランダム遺伝子導入用ツール
説明

ロドコッカス属細菌の形質転換のためのランダム遺伝子導入用ツール

【課題】任意の直鎖状DNA断片を用いてロドコッカス属細菌を形質転換することにより、トランスポゾンのような転移因子を用いることなく、DNA配列を簡単にゲノム上に挿入すること。
【解決手段】本発明は、ロドコッカス属に属する細菌のゲノムのランダムな位置に所望のDNA配列を挿入する方法に関する。具体的には、前記細菌のゲノムに直鎖状DNA断片を挿入後、直鎖状DNA断片中の互いに相同組換えが可能な相同領域間での相同組換えにより、前記相同領域に挟まれた領域を前記細菌のゲノム上から脱落させ、結果的に所望のDNA配列のみが前記細菌のゲノム上に挿入された細菌を作製する方法に関する。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロドコッカス属に属する細菌のゲノムのランダムな位置に所望のDNA配列を挿入する方法に関する。具体的には、前記細菌のゲノムに直鎖状DNA断片を挿入後、直鎖状DNA断片中の互いに相同組換えが可能な相同領域間での相同組換えにより、前記相同領域に挟まれた領域を前記細菌のゲノム上から脱落させ、結果的に所望のDNA配列のみが前記細菌のゲノム上に挿入された細菌を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロドコッカス属に属する細菌(以下「ロドコッカス属細菌」という)は、その物理的強度、有機溶媒耐性、酸化還元能、酵素などを細胞内に多量蓄積する能力などを有することから、産業的に有用な微生物触媒として知られている。例えば、ロドコッカス属細菌は、ニトリル類の酵素的水和又は加水分解によるアミドもしくは酸の生産などに利用されている(特許文献1、特許文献2)。また、難分解性化合物に対する分解能の高い微生物種としても知られており(特許文献3〜6)、その能力を活用することで、種々の有用物質生産及び環境浄化への応用検討が進められている。例えば、脱硫による石油からの有用物質の生産、あるいは環境中への石油流出時におけるバイオレメディエーションなどが挙げられる。
【0003】
加えて、ロドコッカス属細菌を遺伝子組換えの方法により、さらに有用なものに改変する試みがなされている(特許文献7〜9)。例えば、ロドコッカス属細菌の遺伝子操作を効率的に推し進めるために、宿主−ベクター系の開発が進められており、新規なプラスミドの探索(特許文献10〜12)、ベクターの開発(特許文献13〜20、非特許文献1)などが行われている。
【0004】
このようにロドコッカス属細菌の有用性が明らかになると共に、従来の遺伝子組換え手法の開発に加え、宿主としてのロドコッカス属細菌自体を使用目的に併せて望む特性を有するように改変する手法の開発が期待されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-470号公報
【特許文献2】特開平3-251192号公報
【特許文献3】欧州特許第188316号明細書
【特許文献4】欧州特許第204555号明細書
【特許文献5】欧州特許第348901号明細書
【特許文献6】欧州特許出願第307926号明細書
【特許文献7】特開平4-211379号公報
【特許文献8】特開平6-25296号公報
【特許文献9】特開平6-303791号公報
【特許文献10】特開平4-148685号公報
【特許文献11】特開平4-330287号公報
【特許文献12】特開平7-255484号公報
【特許文献13】特開平5-64589号公報
【特許文献14】特開平8-56669号公報
【特許文献15】米国特許第4,920,054号明細書
【特許文献16】特開平8-173169号公報
【特許文献17】特開平10-248578号公報
【特許文献18】特開2006-180843号公報
【特許文献19】特開2006-50967号公報
【特許文献20】特開2008-154552公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Bacteriology, vol. 170, p. 638-645 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロドコッカス属細菌をより有効に活用するためには、プラスミドを用いた有用タンパク質発現に加え、ゲノム上で遺伝子発現を行うことが効果的である。本来ゲノム上に存在しない他の遺伝子を導入する手法としては、相同組換えを利用してゲノム上の狙った位置に目的遺伝子を導入する方法と、非相同組換えを利用して、ゲノム上のランダムな位置に導入する方法とが挙げられる。
【0008】
微生物ゲノム上にランダムに遺伝子等を導入する場合には、その宿主内で機能するトランスポゾンのような転移因子(可動性遺伝子)等が利用される。トランスポゾンは、遺伝子の機能を探索する際に古くから使用されている。具体的には、トランスポゾンを生物のゲノム中にランダムに挿入して突然変異を起こさせた後、挿入領域を同定することにより、突然変異の起こった遺伝子の機能を推定する(微生物においてはASM Press, Washington, DC 2588-2612 (1996)を参照)。この手法は、微生物による物質生産においては、代謝系の解明を経て、より高性能な微生物の創出には欠かせない技術となっている。一般的には、プラスミド上にトランスポゼース遺伝子とトランスポゼースが認識する配列を組み込んだものを用いてターゲット微生物を形質転換するという方法が利用されている。この方法では、トランスポゼースが認識する短い配列(例えばTn903の場合には、19塩基の逆位繰り返し配列)に挟まれた領域がゲノム上に挿入される。しかし、このシステムが利用可能な微生物は、プラスミドが複製可能なものにのみ限定される。このため、より広い微生物種に対応するための汎用的なシステムとして、トランスポゾンユニットを含むDNA断片と酵素トランスポゼースとの複合体を形成させ、エレクトロポレーションによりこれを導入して形質転換体を得るという方法が提案されている(Nat Biotechnol. 18:97-100 (2000))。
【0009】
ロドコッカス属細菌においては、ノサシバエより見出されたトランスポゾンHimar1に含まれるトランスポゼース遺伝子と、トランスポゼースが認識する配列とを組み込んだプラスミドが作製され、ランダムな挿入突然変異を導入するシステムが構築された(Journal of Bacteriology. 185: 2644-2652 (2003))。さらに、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) NI86/21株より見出された挿入配列IS1415(Journal of Bacteriology. 179: 4635-4638 (1997))に含まれるトランスポゼース遺伝子と、トランスポゼースが認識する配列とを組み込んだプラスミドpTNRシリーズが作製され、より効率的なシステムが構築されている(Journal of Bacteriology. 121: 13-22 (2006)、Gene 386:173-82 (2007))。
【0010】
しかし、これらトランスポゾンの技術においては、上記のようにトランスポゼース遺伝子とトランスポゼースが認識する特定の配列が必要である。本発明者らは、任意の直鎖状DNA断片を用いてロドコッカス属細菌を形質転換することにより、トランスポゾンのような転移因子を用いることなく、DNA配列を簡単且つランダムにゲノム上に挿入する方法を発明した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ロドコッカス属細菌に対し、直鎖状DNA断片を用いた形質転換(ゲノム上へのランダムな直鎖状DNA断片挿入)後に、該直鎖状DNA断片中の互いに相同組換えが可能な相同領域間での相同組換えにより、前記相同領域に挟まれた領域を当該細菌のゲノム上から脱落させることにより、所望のDNA配列のみを前記細菌のゲノム上に残留させる(結果的に所望のDNA配列のみをランダムに挿入する)方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ゲノムに外来性DNA配列が挿入されたロドコッカス属細菌を作製する方法に関するものであり、以下の(a)及び(b)の工程を含むことを特徴とする。
(a)ロドコッカス属細菌を、少なくとも以下の3種類の配列を含む直鎖状DNA断片により形質転換し、形質転換体を作製する工程
(i)選択マーカーをコードする配列
(ii)ロドコッカス属細菌に対する条件致死遺伝子の配列
(iii)互いに相同組換えが可能な2つの相同領域配列、
ここで、直鎖状DNA断片は、選択マーカーをコードする配列および条件致死遺伝子の配列が2つの相同領域配列の間に含まれるように、設計される、
(b)上記工程(a)において作製された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。
【0013】
上記方法において、互いに相同組換えが可能な2つの相同領域配列は、プロモーター領域の配列とすることができる。
【0014】
また、選択マーカーは薬剤耐性遺伝子としてもよく、条件致死遺伝子はsacB遺伝子としてもよい。
【0015】
直鎖状DNA断片は、互いに相同組換えが可能な2つの相同領域の下流に、任意の外来性遺伝子又は遺伝子クラスターをさらに含んでもよく、また、直鎖状DNA断片は、大腸菌で機能するプラスミド複製開始点をさらに含んでもよい。
【0016】
プラスミド複製開始点としては、プラスミドpMB1及びその変異体に由来するプラスミド複製開始点を使用することができる。
【0017】
さらに、本発明は、本発明の方法により作製されたロドコッカス属細菌を培養し、培養物から任意の外来性遺伝子又は遺伝子クラスターがコードするタンパク質を採取することを特徴とする、タンパク質の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法を用いることにより、ロドコッカス属細菌において、所望のDNA配列を当該細菌のゲノムに挿入する方法を提供することができる。本発明の方法を用いて、例えば、同一細菌に対し繰り返し酵素遺伝子等の導入を行うことにより、単独酵素の発現だけでなく、代謝経路の改変又は再設計も行うことができ、当該細菌を宿主等に用いた効率的な物質生産をより容易にすることができる。加えて、直鎖状DNA断片をロドコッカス属細菌ゲノムに挿入した後、当該細菌からゲノムを抽出して直鎖状DNA断片周辺の配列を解析することにより、挿入領域を容易に同定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の製造方法によりロドコッカス(Rhodococcus)属細菌に直鎖上DNA断片RI-02を挿入後に、形質転換株をスクロース含有培地で培養した際の、当該細菌ゲノム上で起こる相同組換えによる遺伝子の脱落について示した概略図である。
【図2】図2は、直鎖状DNA断片RI-02作製用プラスミドpRI02の遺伝子地図を示す図である。
【図3】図3は、直鎖状DNA断片RI-02の遺伝子地図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0021】
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0022】
本発明は、ロドコッカス属細菌を、直鎖状DNA断片を用いて形質転換した後に、直鎖状DNA断片に含まれる相同領域間で相同組換えを起こすことにより、前記相同領域に挟まれた領域を当該細菌のゲノム上から脱落させ、結果的に所望のDNA配列のみがゲノム上に組み込まれた組換え細菌を製造する方法に関するものである。
【0023】
(1)所望のDNA配列が挿入されたロドコッカス属細菌製造方法
本発明に係るゲノム上のランダムな位置に所望のDNA配列を挿入した細菌の製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)は、以下の工程(a)及び(b)を含むことを特徴としている。
【0024】
(a)ロドコッカス属細菌を、少なくとも以下の3種類の配列から構成される直鎖状DNA断片により形質転換する工程
(i)選択マーカーをコードする配列
(ii)ロドコッカス属細菌に対する条件致死遺伝子の配列
(iii)互いに相同組換えが可能な2つの相同領域配列
ここで、直鎖状DNA断片は、選択マーカーをコードする配列および条件致死遺伝子の配列が2つの相同領域配列の間に含まれるように、設計される、
(b)上記工程(a)において作製された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。
【0025】
(1-1)工程(a)
工程(a)では、ロドコッカス属細菌のゲノムに直鎖状DNA断片が挿入された形質転換体を製造する。本発明において、ロドコッカス属細菌としては、例えば、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)、ロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)等が挙げられる。
【0026】
ロドコッカス・ロドクロウスとしては、ロドコッカス・ロドクロウスJ1、M8(SU1731814)、M33(VKM Ac-1515D)、ATCC 184、ATCC 999、ATCC 4001、ATCC 4273、ATCC 4276、ATCC 9356、ATCC 12483、ATCC 12674、ATCC 13808、ATCC 14341、ATCC 14347、ATCC 14350、ATCC 15905、ATCC 15998、ATCC 17041、ATCC 17043、ATCC 17895、ATCC 19067、ATCC 19149、ATCC 19150、ATCC 21243、ATCC 21291、ATCC 21785、ATCC 21924、ATCC 21999、ATCC 29670、ATCC 29672、ATCC 29675、ATCC 33258、ATCC 33275、ATCC 39484、IFO 3338、IFO 14894、JCM 3202、NCIMB 11215、NCIMB 11216等が挙げられる。
【0027】
ロドコッカス・エリスロポリスとしては、ロドコッカス・エリスロポリスPR4(NBRC 100887)、NBRC 12320、NBRC 15567、NBRC 16296、IFM 155、DSM 743、DSM 9675、DSM 43200、JCM 6821、JCM 6822、JCM 6823、JCM 6824、JCM 6827、DSM 11397、DSM 44522、JCM 2895、JCM 2893、JCM 2894、IAM 1400、IAM 1503等が挙げられる。
【0028】
ロドコッカス・オパカスとしては、ロドコッカス・オパカスB4等が挙げられる。
【0029】
ロドコッカス・ジョスティとしては、ロドコッカス・ジョスティRHA1等が挙げられる。
【0030】
本発明において、ロドコッカス属細菌に導入する直鎖状DNA断片としては、直鎖状DNA断片が挿入された形質転換体を選択する際に使用する(i)選択マーカーをコードする配列、所望のDNA配列以外を脱落させる際に使用する(ii)ロドコッカス属細菌に対する条件致死遺伝子の配列、および(iii)互いに相同組換えが可能な2つの相同領域配列の3種類の配列を最低限有するものである。直鎖状DNA断片には、必要に応じて、(iv)上記(i)〜(iii)以外の配列が含まれていてもよい。選択マーカーをコードする配列と条件致死遺伝子の配列を相同組換え時にゲノム上から脱落させる為に、これらの配列が、互いに相同組換えが可能な2つの相同領域に挟まれた部分に含まれるように、直鎖状DNA断片を設計する。
【0031】
直鎖状DNA断片の長さは特に限定されるものではないが、500〜20,000塩基、好ましくは1000〜15,000塩基、さらに好ましくは3000〜10,000塩基長のものである。
【0032】
直鎖状DNA断片は、化学合成により得ることができ、あるいはベクターから制限酵素等により切り出して得ることもできる。また、ベクター内において、形質転換に用いる直鎖状DNA断片の領域に該当する領域をPCR法により増幅して調製することができる。
【0033】
ベクターとしてはプラスミドベクター、バクテリオファージベクター、レトロトランスポゾンベクターなどを用いることができる。目的に応じて種々の改変を加えること、例えば既存のベクターに、選択マーカー、条件致死遺伝子、レポーター遺伝子などの各種遺伝子やプロモーター領域の配列、あるいは複製起点を導入することにより、直鎖状DNA断片調製用のベクターにすることができる。
【0034】
既存のプラスミドベクターとしては、例えばpBR322、pSC101、pACYC184、pACYC177、pTrc99A 、pHSG298、pHSG299、pHSG398、pHSG399、pSP64、pSP65、pGEM-3、pGEM-3Z、pGEM-3Zf(-)、pGEM-4p、GEM-4Z、Bluescript M13+、Bluescript M13-、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pK18、pK19、pK18mob、pK19mobなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
(i)選択マーカー
直鎖状DNA断片に含まれる選択マーカーをコードする配列は、形質転換後に直鎖状DNA断片が挿入されたロドコッカス属細菌の取得を可能にするものをコードする配列であれば特に限定されない。選択マーカーとしては、例えばポジティブセレクションに使用される薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。
【0036】
薬剤耐性遺伝子としては、例えば、アミノグリコシド系抗生物質耐性遺伝子、β-ラクタム系抗生物質耐性遺伝子、クロラムフェニコール系抗生物質耐性遺伝子、テトラサイクリン系抗生物質耐性遺伝子、トリメトプリム耐性ジヒドロキシ葉酸レダクターゼ等が挙げられる。
【0037】
ここで、アミノグリコシド系抗生物質耐性遺伝子としては、カナマイシン及びネオマイシン耐性遺伝子であるアミノグリコシド3’-ホスホトランスフェラーゼ等のリン酸転移酵素遺伝子群、ストレプトマイシン耐性遺伝子であるアミノグリコシド3’-アデニリルトランスフェラーゼ等のヌクレオチジル転移酵素遺伝子群、アセチル転移酵素遺伝子群が挙げられる。β-ラクタム系抗生物質耐性遺伝子としては、β-ラクタマーゼ遺伝子が挙げられる。クロラムフェニコール系抗生物質耐性遺伝子としては、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子が挙げられる。テトラサイクリン系抗生物質耐性遺伝子としては、トランスポゾンTn10由来テトラサイクリン耐性遺伝子が挙げられる。
【0038】
また、遺伝子挿入を実施するロドコッカス属細菌が栄養要求性を示す株(例えば、必須代謝経路の欠損変異株や、特定の炭素源及び/又は窒素源を資化する代謝系を持たない株等)である場合、その株の欠損等を相補するような遺伝子(群)を選択マーカーとして用いることもできる。栄養要求性としては、代表的なものに、アミノ酸要求性(アミノ酸生合成経路欠損)、核酸要求性(核酸生合成経路欠損)、ビタミン要求性(ビタミン生合成経路欠損)等がある。
【0039】
(ii)ロドコッカス属細菌に対する条件致死遺伝子
形質転換体から所望のDNA配列以外を脱落させる際に使用する条件致死遺伝子は、ロドコッカス属細菌のゲノム上に導入され、且つある特定条件下にさらされた場合に、当該細菌を死に至らしめる作用を有し得る遺伝子であれば限定されない。例えば、sacB遺伝子が好ましく挙げられる。sacB遺伝子は、当該遺伝子を保有し発現する微生物(例えばロドコッカス属細菌等)をスクロース含有培地で培養した場合に、スクロースを基質とし当該微生物に対して致死作用を有する有害物質(レバン(levan))を産生する酵素をコードする遺伝子である。グラム陽性菌の一部やグラム陰性菌では、スクロース存在下においてsacB遺伝子が導入された細胞株を排除(ネガティブセレクション)することにより、目的とする遺伝子改変細胞株を効率よく選択することが可能である(Jagar W et al., Journal of bacteriology 1992; 5462-5465、Pelicic V et al., Journal of bacteriology 1996; 1197-1199)。なお、SacB遺伝子の発現が、スクロース存在下において微生物に致死性を付与する理由は、明らかになっていない。
【0040】
上記sacB遺伝子以外のレバンスクラーゼをコードする遺伝子としては、fefA遺伝子(accession number: AJ508391, ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(Lactobacillus sanfranciscensis)由来のレバンスクラーゼ)、lev遺伝子(accession number: Q8GGV4, ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)由来のレバンスクラーゼ)、mlft遺伝子(accession number: AAT81165, ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)由来のレバンスクラーゼ)、lsc遺伝子(accession number: O68609, シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)由来のレバンスクラーゼ)、lsxA遺伝子(accession number: BAA93720, グルコンアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)由来のレバンスクラーゼ)等が挙げられるが、レバンスクラーゼをコードする遺伝子であれば、これらに限定されることなく用いることができる。
【0041】
(iii)互いに相同組換えが可能な2つの相同領域
互いに相同組換え可能な2つの相同領域は、上記条件致死遺伝子が機能し得る条件下において相同組換えを起こし、2つの相同領域に挟まれた領域を取り除く(脱落させる)ために必要な領域である。条件致死遺伝子が機能し、それを引き金として相同組換えが起こった場合、一方の相同領域および相同領域に挟まれた領域が脱落して、対象細菌のゲノム上には相同領域が1つ挿入された状態になる。従って、本発明における「所望のDNA配列」とは、相同領域、その直鎖状DNA断片中の5’末端側の相同領域の上流、および3’末端側の相同領域の下流の配列のことを指す。
【0042】
互いに相同組換えが可能な相同領域配列とは、相同領域間で相同組換えが可能な程度の相同性(同一性)と長さを有する任意配列であればよく、特に限定されないが、相同領域が長いほどより効率よく相同組換えを起こすことが出来るため、クローニングに支障が出ない範囲でより長い配列を用いることが好ましい。両相同領域配列がそれぞれ100〜3000 bpの塩基配列を含む配列であることが好ましく、より好ましくは500〜2000 bpの塩基配列を含む配列である。両領域配列の相同性については、相同組換え可能な程度であればよく、特に限定されないが、好ましくは50〜100%、より好ましくは70〜100%、更に好ましくは90〜100%の相同性を有する任意領域が挙げられる。
【0043】
互いに相同組換えが可能な相同領域配列は、任意遺伝子のプロモーター領域の配列であってもよい。プロモーター領域とは、遺伝子の転写開始に関与する領域のことで、転写開始領域の他に、転写調節因子が結合する転写制御に関与する領域(オペレーター領域)を含む場合もある。
【0044】
互いに相同組換えが可能な相同領域配列が任意遺伝子のプロモーター領域の配列である場合、直鎖状DNA断片中の3’末端側の相同領域(転写調節領域)下流に任意の遺伝子、又は遺伝子クラスターを配置することにより、任意遺伝子又は遺伝子クラスターを発現する組換え株を作製することができる。また、互いに相同組換えが可能な相同領域が、前記プロモーター領域と任意遺伝子(クラスター)から構成されていてもよい。任意遺伝子(クラスター)の種類やクラスターを構成する遺伝子の数は特に限定されないが、機能発現した際に、導入対象のロドコッカス属細菌の生育を著しく阻害しないものが好ましい。また、導入する遺伝子配列の長さについては、形質転換が可能な限り特に限定はされないが、20 kb以下のものが好ましい。本発明の方法により導入する遺伝子としては、例えば、各種酵素遺伝子(酸化還元酵素遺伝子、転移酵素遺伝子、加水分解酵素遺伝子、除去付加酵素(リアーゼ)遺伝子、異性化酵素遺伝子、合成酵素(リガーゼ)遺伝子)等が挙げられる。酸化還元酵素遺伝子としては、デヒドロゲナーゼ遺伝子、レダクターゼ遺伝子、オキシダーゼ遺伝子、オキシゲナーゼ遺伝子、ペルオキシダーゼ遺伝子、トランスヒドロゲナーゼ遺伝子、カタラーゼ遺伝子等が挙げられる。転移酵素遺伝子としては、カルボキシルトランスフェラーゼ遺伝子、トランスアルドラーゼ遺伝子、アシルトランスフェラーゼ遺伝子、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子、アミノトランスフェラーゼ遺伝子、ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、スルホトランスフェラーゼ遺伝子、アルキルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。加水分解酵素としては、エステラーゼ遺伝子、リパーゼ遺伝子、ヌクレアーゼ遺伝子、糖加水分解酵素遺伝子、ペプチダーゼ遺伝子、プロテアーゼ遺伝子、ニトリラーゼ遺伝子、ATPアーゼ遺伝子、デハロゲナーゼ遺伝子、アミダーゼ遺伝子等が挙げられる。除去付加酵素遺伝子としては、デカルボキシラーゼ遺伝子、カルボキシラーゼ遺伝子、ヒドラターゼ遺伝子、デヒドラターゼ遺伝子等が挙げられる。異性化酵素としては、ラセマーゼ遺伝子、エピメラーゼ遺伝子、ムターゼ遺伝子、イソメラーゼ遺伝子等が挙げられる。合成酵素としては、シンターゼ遺伝子、シンテターゼ遺伝子等が挙げられる。
【0045】
(iv)(i)〜(iii)以外の配列
上述のように、直鎖状DNA断片には上記(i)〜(iii)の他に大腸菌で機能するプラスミド複製開始点等、任意の配列を含めることができる。これら任意配列は選択マーカーや条件致死遺伝子と同様、互いに相同組換えが可能な相同領域に挟まれた部分に含まれていることが好ましい。後述するように、プラスミド複製開始点を直鎖状DNA断片に加えておくことにより、形質転換体製造後、ゲノム上に挿入された直鎖状DNA断片を、挿入個所の周辺ゲノム配列を含む形で大腸菌プラスミドとして回収できるようになるため、ゲノム上の挿入場所をより容易に調べることができるようになる。
【0046】
プラスミド複製開始点としては、例えばプラスミドpMB1由来の複製開始点、広域宿主プラスミドRK2由来の複製開始点、及びそれらの変異体などが挙げられる。ここで、変異体とは、複製開始点の塩基配列において、一部の塩基に欠失、置換、または付加等の変異が生じた塩基配列からなるDNAであって、複製開始点として機能するものをいい、例えば、ColE1が挙げられる。
【0047】
ロドコッカス属細菌の形質転換法は、当該細菌に直鎖状DNA断片を導入する方法であれば特に限定されない。例えばエレクトロポレーション法等が挙げられる。これらの形質転換手法は当分野において周知である。また、形質転換法の詳細については、「Hashimoto Y, Nishiyama M, Yu F, Watanabe I, Horinouchi S, Beppu T. (1992) Development of a host-vector system in a Rhodococcus strain and its use for expression of the cloned nitrile hydratase gene cluster. J Gen Microbiol. 138: 1003-1010.」等を参照することができる。
【0048】
上記の通り得られた形質転換体において、直鎖状DNA断片が挿入されたゲノム領域を形質転換体ゲノムDNAから調製することにより、挿入場所を特定することができる。本発明においては、例えば以下の方法により行うことができる。
【0049】
本発明の形質転換体よりゲノムを調製し、適当な制限酵素により消化後、大腸菌用ベクターに接続する。これを用いて大腸菌を形質転換し、挿入した直鎖状DNA断片上の選択マーカーを用いて直鎖状DNA断片が結合したベクターを含む形質転換体を得る(「確認用形質転換体」という)。
【0050】
直鎖状DNA断片上にプラスミド複製開始点を含む場合には、ゲノムを制限酵素により消化後、得られた断片を自己環化させる。DNA断片が挿入されたゲノム領域を含むものは、大腸菌プラスミドベクターの構成要素(複製開始点、マーカー遺伝子)を持っていることから、大腸菌を形質転換することにより、プラスミドとして回収することができる。直鎖状DNA断片を含む確認用形質転換体を得た後に、プラスミドを抽出し、配列解析を実施する。
【0051】
本発明においては、直鎖状DNAの周辺領域の塩基配列を解析することにより、直鎖状DNA断片の当該細菌内ゲノムへの挿入状況(挿入箇所、挿入形態、挿入された箇所の遺伝子情報等)を解析することができる。前記細菌のゲノム配列が公開されている場合は、直鎖状DNA断片が挿入された前後のゲノム配列と公開情報を比較することにより、挿入領域の情報をより詳細に得ることができる。
【0052】
(1-2)工程(b)
工程(b)では、工程(a)で作製された形質転換体を、前記直鎖状DNA断片由来の条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する。条件致死遺伝子が機能し得る培養条件としては、条件致死遺伝子が機能する限り、特に限定はされない。例えば、条件致死遺伝子がsacB遺伝子のようなレバンスクラーゼ遺伝子の場合は、スクロース含有培地を用いた培養が用いられる。
【0053】
上記培養条件においては、上記条件致死遺伝子を有する形質転換体は生育困難であるため、当該細菌ゲノム上の直鎖DNA断片中の2つの相同領域間で相同組換えが起こり、上記致死遺伝子、選択マーカー等、互いに相同な領域に挟まれた領域が除かれた(脱落した)細菌を得ることができる。
【0054】
上記工程(a)で挿入場所を特定している場合は、相同組換え後の当該細菌の条件致死遺伝子等の脱落後の状態を容易に確認することができる。
【0055】
本発明の作製方法により得られる所望のDNA配列を挿入されたロドコッカス属細菌は、上述の通り、ゲノム上に選択マーカー、条件致死遺伝子等が残らないため、本発明の工程(a)及び(b)を繰り返し行うことにより、同一の株に対し複数回DNA導入を行うことが可能である。また、上記DNAを導入したロドコッカス属細菌は、プラスミドを用いた遺伝子組み換え用宿主としても利用することができる。例えば、アクリルアミド製造用触媒であるニトリルヒドラターゼ等を発現し得る発現ベクター等を別途導入することが可能である。
【0056】
(2)タンパク質の製造方法
上述した本発明の作製方法により得られる所望のDNA配列が挿入されたロドコッカス属細菌も、本発明の範囲内に含まれるものである。挿入された所望のDNA配列が任意のタンパク質をコードする遺伝子及びプロモーター領域である場合、当該細菌を培養することにより、上記タンパク質を製造することができる。
【0057】
本発明においては、上記当該細菌を培養し、得られる培養物から目的タンパク質を採取することを特徴とする、タンパク質の製造方法を提供することができる。
【0058】
上記タンパク質の製造方法において、微生物を培養する方法は、通常の方法に従って行うことができる。
【0059】
微生物を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ヘキサン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等の炭化水素類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅若しくは炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0060】
培養条件は、限定はされないが、例えば、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、4〜40℃、好ましくは20〜35℃の温度下で、5〜120時間、好ましくは5〜100時間程度行うことが好ましい。場合により、本培養に先立ち、少量の前培養を行うこともできる。また、培養は、無機酸又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて適時pH調整を行うことが好ましい。
【0061】
上記のように、当該細菌の性質に合った適当な培養条件で培養すると、高収率で異種または同種のタンパク質(目的タンパク質)を上記培養物中、すなわち、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物の少なくともいずれかに蓄積することができる。これら、異種または同種のタンパク質を含有する溶液を「培養物」と称する。
【0062】
培養後、目的タンパク質が菌体内に生産される場合には、菌体のまま目的タンパク質を用いることもできるし、あるいは菌体を破砕することにより、目的タンパク質を採取することもできる。いずれの場合にも、必要であれば、遠心分離や膜ろ過などの固液分離操作により、培地除去及び洗浄を行うことができる。遠心分離は、菌体を沈降させる遠心力が供給できるものであれば特に限定されることはなく、円筒型や分離板型などを利用することができる。遠心力としては、例えば、500G〜20,000G程度で行うことができる。また、膜ろ過は、目的とする固液分離を達成できれば、精密ろ過(MF)膜、限外ろ過(UF)膜いずれでもよいが、通常、精密ろ過(MF)膜を用いることが好ましい。
【0063】
なお、菌体を破砕することにより、目的タンパク質を採取することもできる。菌体の破砕方法としては、超音波処理、フレンチプレスやホモジナイザーによる高圧処理、ビーズミルによる磨砕処理、衝撃破砕装置による衝突処理、リゾチーム、セルラーゼ、ペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘導処理等が挙げられ、いずれかの方法を単独又は必要に応じ組み合わせて利用することができる。
【0064】
一方、目的タンパク質が菌体外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、上述したような遠心分離やろ過等により菌体を除去すればよい。その後、必要に応じて硫安沈澱による抽出等により前記培養物中から目的タンパク質を採取し、さらに必要に応じて透析、各種クロマトグラフィー(ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)を単独又は適宜組み合わせて用いることにより、精製することもできる。
【0065】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0066】
直鎖状DNA断片の作製
(1)直鎖状DNA断片作製用鋳型プラスミドpRI02の作製
pK19mobsacB1の作製
pDNR-1r(Clontech Laboratories社製)中のsacB遺伝子を、NspV切断サイトを付加したプライマーSAC-01(配列番号1)及びSAC-02(配列番号2)を使用したPCRにより増幅し、約1.9 kbのsacB遺伝子断片を得た。増幅条件は以下の通りである。
【0067】
プライマー:
SAC-01: 5’- GGTTCGAATACCTGCCGTTCACTATTATTTAGTG -3’(配列番号1)
SAC-02: 5’- GGTTCGAATCGGCATTTTCTTTTGCGTTTTTATTTG -3’(配列番号2)

反応液組成:
滅菌水 22 μl
2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μl
SAC-01(配列番号1) 1 μl
SAC-02(配列番号2) 1 μl
pDNR-1r(clontech社製)(100倍希釈) 1 μl
総量 50 μl

温度サイクル:
98℃10秒、55℃ 15秒及び72℃60秒の反応を30サイクル
【0068】
sacB遺伝子断片を制限酵素NspV(タカラバイオ社製)で消化した。pK19mob(ナショナルバイオリソースプロジェクトから分譲可能(ナショナルバイオリソースプロジェクトE. coli strain Cloning Vectorコレクション))を制限酵素NspVで消化し、脱リン酸化した後にエタノール沈殿により精製した。このDNA断片と、sacB遺伝子を含むDNA断片とをライゲーション反応により結合させ、大腸菌XL10-Goldの形質転換を行った。カナマイシン耐性を示す形質転換体よりプラスミドを抽出した。sacB遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子の下流且つ同方向に導入されたプラスミドをpK19mobsacB1と命名した。
【0069】
pK19sacB1の作製
プラスミドpK19mobsacB1よりmob領域を除くため、まずpK19mobsacB1を制限酵素NspVにより部分消化し、その後PagI(フェルメンタス社製)を用いた消化後、精製を行い、NspV-PagI断片を得た。制限酵素NspV部分消化時は、反応時間を調整して適当な時間を選択した。NspV-PagI断片を平滑末端化した後、ライゲーション反応を行った。この工程において、目的の断片のセルフライゲーションが起こり、mob領域が除かれたプラスミドが形成される。上記pK19mobsacB1作製工程と同様、大腸菌XL10-Goldの形質転換及びプラスミド抽出を行った。前記mob領域が除かれたプラスミドをpK19sacB1と命名した。
【0070】
pRI01の作製
ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株を100 mlのMYK培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、1%グルコース、0.2% K2HPO4、0.2% KH2PO4、pH7.0)に植菌し、30℃にて振盪培養したものを、Saito and Miura の方法(Biochim. Biophys. Acta 72, 619 (1963))によりゲノムを抽出した。
【0071】
J1株ゲノム中のrRNAプロモーター領域を、制限酵素SpeIサイト又はXbaIサイトを付加したプライマーPro-12(配列番号3)及びPro-02(配列番号4)、Pro-13(配列番号5)及びPro-14(配列番号6)を使用したPCRにより増幅し、約0.5 kbのrRNAプロモーター領域断片を得た。増幅条件は以下の通りである(酵素はインビトロジェン社製)。
【0072】
プライマー:
Pro-12 (Fw primer): 5’- ACACTAGTCAGGCGATTTGGCAGGCAG -3’(配列番号3)
Pro-04 (Rv primer): 5’- ACTCTAGATTGAAGACTCACAATCACCC -3’(配列番号4)

Pro-13 (Fw primer): 5’- ACAAGCTTTCAGGCGATTTGGCAGGCAG -3’(配列番号5)
Pro-14 (Rv primer): 5’- ACAAGCTTTTGAAGACTCACAATCACCC -3’(配列番号6)

反応液組成:
滅菌水 41.8 μl
10×AccuPrime bufferII 5 μl
Fw primer 1 μl
Rv primer 1 μl
J1株ゲノム(10 ng/μl) 1 μl
AccuPrime Taq DNA polymerase (5 U/μl) 0.2 μl
総量 50 μl

温度サイクル:
94℃30秒、55℃ 30秒及び68℃60秒の反応を30サイクル
【0073】
rRNAプロモーター領域断片を制限酵素XbaI及びSpeI(共にタカラバイオ社製)、若しくは制限酵素HindIII(タカラバイオ社製)で消化した。pK19sacB1を制限酵素XbaIで消化し、脱リン酸化した後にエタノール沈殿により精製した。このDNA断片と、上記制限酵素XbaI及びSpeIで切断したrRNAプロモーター領域断片とをライゲーション反応により結合させ、大腸菌XL10-Goldの形質転換を行った。カナマイシン耐性を示す形質転換体よりプラスミドを抽出した。rRNAプロモーター領域がカナマイシン耐性遺伝子の上流且つ逆方向に導入されたプラスミドをpK19sacB1-rRNApro 1と命名した。
【0074】
上記プラスミドpK19sacB1-rRNApro 01を制限酵素HindIIIで消化し、脱リン酸化した後にエタノール沈殿により精製した。上記pK19sacB1-rRNApro 1作製時と同様の手順により、このDNA断片と、制限酵素HindIIIで切断したrRNAプロモーター領域断片を接続し、rRNAプロモーター領域断片が同方向に導入されたプラスミドを得、pRI01と命名した。
【0075】
pRI02の作製
プラスミドpSJ034を制限酵素XbaI及びSse8387I(共にタカラバイオ社製)により消化後、アガロースゲル電気泳動を行い、約2 kbのニトリルヒドラターゼ遺伝子断片部分を切り出した後、精製した。pSJ034はロドコッカス属細菌においてニトリルヒドラターゼを発現するプラスミドであり、pSJ023を用いて特開平10-337185号公報に示す方法で作製したものである。pSJ023は、形質転換体「R. rhodochrous ATCC12674/pSJ023」であり、受託番号FERM BP-6232として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに国際寄託されている。
【0076】
pRI01を制限酵素XbaI及びSse8387Iで消化し、脱リン酸化した後にエタノール沈殿により精製した。上記pK19sacB1-rRNApro 1及びpRI01作製時と同様の手順により、ニトリルヒドラターゼ断片が下流側のrRNAプロモーター領域の下流に導入されたプラスミドを得、pRI02と命名した(図2)。
【0077】
上記プラスミドpK19mobsacB1、pK19sacB1、pK19sacB1-rRNApro1、pRI01及びpRI02の作製手順において、制限酵素により切断したDNA断片及びPCR産物の精製にはWizard SV Gel and PCR Clean-up system(プロメガ社製)を、脱リン酸化にはShrimp Alkaline Phosphatase(タカラバイオ社製)を、DNA同士の接続にはDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)を、プラスミドの抽出にはQIAprep miniprep kit(QIAGEN社製)を用いた。
【0078】
(2)直鎖状DNA断片RI-02の作製
上記pRI02を鋳型にして、直鎖状DNA断片RI-02をプライマーPro-13(配列番号5)及びRI-01(配列番号7)を使用したPCRにより増幅し、約7.3 kbの直鎖状DNA断片を得た。増幅条件は以下の通りである。
【0079】
プライマー:
Pro-13: 5’- ACAAGCTTTCAGGCGATTTGGCAGGCAG -3’(配列番号5)
RI-01: 5’- TACCGAGCTCGAATTCGAGCTC -3’(配列番号7)

反応液組成:
滅菌水 22 μl
2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μl
Pro-13(配列番号5) 1 μl
RI-01(配列番号7) 1 μl
pRI02(1 ng/μl) 1 μl
総量 50 μl

温度サイクル:
98℃10秒、55℃ 15秒及び72℃150秒の反応を30サイクル
【0080】
PCR増幅断片を精製後、断片溶液50 μlに450 μlのTE 緩衝液、250μlの5 M NaCl、250 μlの30% PEG8000/1.5 M NaClを加え全量を1 mlとし、混合した後、4℃にて1時間静置した。その後4℃ 15000rpmで10分間の遠心分離により沈澱を回収した後、再度4℃ 15000rpmで1分間遠心を行い、壁に付着した上清を取り除いた。得られた沈殿物を10μl のTE緩衝液に溶解させ、直鎖状DNA断片RI-02(配列番号8)を得た(図3)。DNA濃度を測定後、150 μg/mlの濃度に調製した。
【実施例2】
【0081】
直鎖状DNA断片RI-02によるロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) NBRC100887(Rhodococcus erythropolis PR4)の形質転換
(1)コンピテントセルの作製
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)NBRC100887(Rhodococcus erythropolis PR4)株の対数増殖期の細胞を遠心分離器により集菌し、氷冷した滅菌水にて3回洗浄し、滅菌水に懸濁し、コンピテントセルを作製した。
【0082】
(2)形質転換株の作製
実施例1で調製した直鎖状DNA断片RI-02をTE緩衝液(10 mM Tris-HCl、1mM EDTA, pH 8.0)を用いて6倍希釈した溶液1 μlと、(1)で作製したコンピテントセルの菌体懸濁液各10 μlを混合し、氷冷した。遺伝子導入装置Gene Pulser(BIO RAD社製)用のキュベットに前記混合液を入れ、Gene Pulserを用いて20 KV/cm、200 OHMSで電気パルス処理を行った。電気パルスの直後、キュベットにLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、1% NaCl)0.5 mlを加え、30℃、5時間静置した後、200 μg/mlカナマイシン含有LB寒天培地に塗布し、30℃、3日間培養した。
【実施例3】
【0083】
条件致死遺伝子(sacB遺伝子)を利用した直鎖状DNA断片RI-02中の相同領域間部分のゲノムからの脱落
(1)ショ糖添加培地を用いたRI-02中の相同領域間部分のゲノムからの脱落
実施例2で得られた形質転換株(直鎖状DNA断片RI-02挿入株)をLB液体培地0.2 mlに懸濁し、そのうち0.1 mlを10%ショ糖含有LB培地に塗付し、30℃、3日間培養した。その結果、100程度のコロニーが出現した。
【0084】
(2)カナマイシン耐性の確認
上記(1)で得られたコロニー6個を爪楊枝で10 μg/ml塩化コバルト含有LB寒天培地と200 μg/mlカナマイシン含有LB寒天培地それぞれに植菌した。コントロール株として、RI-02挿入処理を行っていない株(親株)と、上記(1)記載のRI-02脱落処理を行っていない株(RI-02挿入株)も同時に植菌した。その結果、塩化コバルト含有LB寒天培地では全ての株の生育が認められたが、カナマイシン含有LB寒天培地ではコントロール株であるRI-02挿入株のみ生育が認められた(表1)。
【0085】
(3)ニトリルヒドラターゼ活性の確認
前記8株(コントロール株2株+スクロース含有LB培地生育株6株)を10 μg/ml塩化コバルト含有LB培地10 mlで培養後、遠心分離により各株を回収した。各株のペレットを生理食塩水で洗浄後、50 mMリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH7.0)に懸濁した。この懸濁溶液1 mlと50 mMリン酸緩衝液(pH 7.7)4 mlを混合し、さらに5.0%(w/v)のアクリロニトリルを含む50 mMリン酸緩衝液(pH 7.7)5 mlを混合液に加えて、10 ℃で10分間反応させた。反応終了後の溶液から菌体を濾別し、ガスクロマトグラフィー分析にて、生成したアクリルアミドを検出した。ガスクロマトグラフィー分析の結果、親株以外の株でアクリルアミドの生成が認められた(表1)。
【0086】
<分析条件>
分析機器:ガスクロマトグラフGC-14B(島津製作所)
検出器:FID(検出温度200℃)
カラム:ポラパックPS(ウォーターズ社カラム充填剤)を充填した1 mlガラスカラム
カラム温度:190℃
【0087】
上記実施例3(2)及び(3)の結果から、スクロース含有LB培地生育株は、RI-02に由来するsacB遺伝子活性及びカナマイシン耐性遺伝子活性を失い、ニトリルヒドラターゼ活性のみを有していることが分かった。従って、上記スクロース含有LB培地生育株は、ニトリルヒドラターゼ発現ユニット(相同領域(プロモーター領域)+ニトリルヒドラターゼ遺伝子)のみがゲノム中に挿入された形質転換株である。
【0088】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の方法を用いることにより、ロドコッカス属細菌において、所望のDNA配列を当該細菌のゲノムに挿入する方法を提供することができる。本発明の方法を用いて、例えば、同一細菌に対し繰り返し酵素遺伝子等の導入を行うことにより、単独酵素の発現だけでなく、代謝経路の改変又は再設計も行うことができ、当該細菌を宿主等に用いた効率的な物質生産をより容易にすることができる。また、上記DNAを導入したロドコッカス属細菌は、プラスミドを用いた遺伝子組み換え用宿主としても利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムに外来性DNA配列が挿入されたロドコッカス属細菌を作製する方法であり、以下の(a)及び(b)の工程を含むことを特徴とする方法。
(a)ロドコッカス属細菌を、少なくとも以下の3種類の配列を含む直鎖状DNA断片により形質転換し、形質転換体を作製する工程
(i)選択マーカーをコードする配列
(ii)ロドコッカス属細菌に対する条件致死遺伝子の配列
(iii)互いに相同組換えが可能な2つの相同領域配列
ここで、直鎖状DNA断片は、選択マーカーをコードする配列および条件致死遺伝子の配列が2つの相同領域配列の間に含まれるように、設計される、
(b)上記工程(a)において作製された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。
【請求項2】
互いに相同組換えが可能な2つの相同領域配列が、プロモーター領域の配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
選択マーカーが薬剤耐性遺伝子である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
条件致死遺伝子がsacB遺伝子である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
直鎖状DNA断片が、互いに相同組換えが可能な2つの相同領域の下流に、任意の外来性遺伝子又は遺伝子クラスターをさらに含むものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
直鎖状DNA断片が、大腸菌で機能するプラスミド複製開始点をさらに含むものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
プラスミド複製開始点がプラスミドpMB1及びその変異体に由来するプラスミド複製開始点である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法により作製された細菌を培養し、培養物から任意の外来性遺伝子又は遺伝子クラスターがコードするタンパク質を採取することを特徴とする、タンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−120505(P2012−120505A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275555(P2010−275555)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】