説明

ロボットのツールパラメータの補正方法

【課題】簡便なロボットの動作によって、作業者の熟練度や技量などに因らず短時間で精度よく、ツールパラメータを補正する方法を提供する。
【解決手段】溶接ロボット2のアーム先端に設けられるフランジ部7に取り付けられた溶接ツール6の先端位置を決定するツールパラメータを導出する方法において、溶接ツール6に3つ以上の姿勢角をとらせ、各姿勢角において溶接ツール6の先端点Pを基準面である平板8までベース座標系における一Zb方向に移動させる。その上で、各姿勢角において、溶接ツール6の先端点Pが平板8に到達したときの先端点Pの位置ずれ量を計測して並進成分変化量を求め、当該求めた並進成分変化量を基にツールパラメータを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ロボットなどの先端に取り付けられたツールに関し、簡便且つ短時間に精度よくツールパラメータを補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ワークに対して自動的に溶接を行う溶接ロボットにおいては、当該溶接ロボットの先端部分(フランジ部)に、溶接トーチ等を備えたツール(工具)が取り付けられている。
この溶接ツールの先端部にはツール座標系が設定されており、このツール座標系は、ツールパラメータを用いた変換行列を用いることでフランジ座標系から座標変換可能となっている。フランジ座標系は、溶接ロボットの先端部に形成されているフランジ部に設定された座標系であり、このフランジ座標系は、溶接ロボットの各軸のデータに基づいて制御装置で計算される。
【0003】
以上のことから明らかなように、制御装置においてツール先端の位置を正確に把握するためには、座標変換に不可欠なツールパラメータを予め正確に導出しておく必要がある。ツールパラメータの導出作業は溶接ロボットのツールを交換した後に行われることもあるが、ツールが作業ワーク等に衝突したときなどツールパラメータに変更が生じたときにも行われる。
【0004】
ツールパラメータの導出、較正に関する技術としては、例えば、特許文献1〜3に開示されたものがある。
特許文献1には、少なくとも三つの位置が指定された治具を設け、該治具のいずれか一つの位置を工具の設定されるべき位置に一致させ、前記工具の設定されるべき位置を自動的に設定できるようにしたロボットの工具位置設定方式が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ロボットのアーム先端に取り付けられたツールを空間上の1点に少なくとも異なる3つの姿勢で位置決めしたときの各位置決めデータに基づいて上記ツールの取り付け部の座標系を演算し、ツールパラメータを用いて表現される上記取り付け部の座標系よりみたツール位置候補の平均値に対する偏差に基づいて上記ツールパラメータの較正値を推定してなるロボットのツールパラメータ較正方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ロボットの動作範囲内に、導電性を有する3平板と、前記作業工具の一部に設けた導電性を有する接触子との間に電圧を印加し、あらかじめ設定された方向にロボットを動作させる工程と、該平板と該接触子の電気的接触を検出する工程と、該ロボットの前回の位置データと今回の位置データの差分を算出し、該作業工具の作業点と基準点の誤差を演算する工程と、該誤差を吸収する方向に該作業工具の作業点をずらす工程とを有するロボットの芯ずれ補正方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−25206号公報
【特許文献2】特許第2774939号公報
【特許文献3】特開平1−257593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2に開示された技術を用いることで、ロボットのツール(工具)位置やツールパラメータを導出及び較正することができるようになる。ところが、特許文献1や特許文献2の技術では、較正作業において、専用の治具やピンが必要なだけでなく、オペレータの操作によって、ツールの先端を治具の所定位置やピンの先端へ正確に移動させなくてはならない。このような位置決め作業は、オペレータの習熟度や目視の方向などの影響を受けてしまい、正確に行うことが難しい。また、較正後の検証もオペレータの目視で行うため、定量的な把握も難しい。言い換えれば、これらの技術においては、オペレータの熟練度や技量などがツールの位置決め精度やツールパラメータの導出精度に影響
を及ぼすことになる。
【0009】
特許文献3に開示された技術は、3つの平板を直交させて組み立てた専用治具と接触センサとを用いて、ツール先端を当該治具の3つの平板それぞれに1回ずつ合計3回接触させている。このようなセンシング動作によって所定の基準点とツール先端との差分ベクトルを求め、求めた差分ベクトルを基にロボットの芯ずれが補正される。
このような特許文献3の技術では、専用治具をロボットに対して高精度に位置決めして設置する必要がある。しかし、差分ベクトルからツールパラメータを計算するには、ロボット座標から見た治具の方向角(α,β,γ)が既知でなくてはならない。しかし、ロボット座標を目視で確認することはできないので、目視できないロボット座標に対して治具を精度良く設置する事、あるいはロボット座標から見た治具の方向角(α,β,γ)を計測する事は非常に困難である。
【0010】
また、ツール先端と治具の3つの平板との差分ベクトルを高精度に得るためには、ツール先端を各平板に対して「ほぼ垂直に点接触」させる必要がある。そのためには、治具の設置場所や角度が変わる度に、センシング動作方法を教示によって変更しなくてはならない。このようなセンシング動作では、ツールの姿勢角を保持したまま、ツール先端をロボット座標のX軸,Y軸,Z軸の3方向に移動させる。この際、マニピュレータの全ての軸が動作するので、ロボットの全関節の位置決め誤差が、得ようとする差分ベクトルに重畳されてしまう可能性を排除できない。
【0011】
上記したように、特許文献1〜特許文献3に開示されたツールパラメータの導出及び補正技術は、オペレータに高い熟練度を要求するだけでなく、多くの手間と時間を要する負担の大きな作業を必要とするものである。加えて、専用の治具をロボットに対して精度良く位置決めする必要があり、実際の現場で簡便に採用できるものとは言い難い。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、簡便なロボットの動作によって、作業者の熟練度や技量などに因らず短時間で精度よく、ツールパラメータ(特に、ロボットの並進成分を表す(T,T,T))を補正する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明に係るロボットのツールパラメータの補正方法は、ロボットのアーム先端に設けられるフランジ部に取り付けられたツールの先端位置を決定するツールパラメータを導出する方法であって、前記ツールに3つ以上の姿勢角をとらせ、各姿勢角において前記ツールの先端を基準面まで姿勢角を保持したまま一方向に移動させ、各姿勢角において、前記ツールの先端が前記基準面に到達したときの当該ツール先端の位置ずれ量を計測して並進成分変化量を求め、当該求めた並進成分変化量を基にツールパラメータを補正することを特徴とする。
【0013】
ここで、好ましくは、前記ツールの各姿勢角において、前記ツールの先端をロボットのベース座標における垂直軸方向に沿って前記基準面まで移動させることで、前記並進成分変化量を求めるとよい。
また、好ましくは、前記ロボットがとる3つ以上の姿勢角のうち、最初の姿勢角においては、前記フランジ部が前記基準面に対して垂直又は水平であるとよい。
【0014】
なお、好ましくは、前記各姿勢角は、前記ロボットのベース座標における各垂直軸回りに前記ツールを回転させることで指定されるとよい。
さらに、好ましくは、前記ロボットがとる複数の姿勢角のうち最初の姿勢角においては、ベース座標におけるY軸回りの回転角が、0度又は90度であるとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る技術を用いれば、簡便なロボットの動作によって、作業者の熟練度や技量などに因らず短時間で精度よく、ツールパラメータを補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態によるロボットシステムの全体構成図である。
【図2】ロボットと各座標系との関係を示す図であり、(a)は全体の概略図、(b)はロボットのアーム先端付近(ツール部分)を拡大して示す図である。
【図3】本実施形態によるツールパラメータの補正方法においてタッチ距離を求めるための動作を示す図であり、(a)は全体の概略図、(b)はロボットのアーム先端付近を拡大して示す図である。
【図4】本実施形態によるツールパラメータの補正方法の動作ステップを示すフローチャートである。
【図5】本実施形態によるツールパラメータの補正方法の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を、図を基に説明する。なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
まず、本実施形態によるロボットシステム1の全体構成について説明する。
図1に示すように、ロボットシステム1は、溶接ロボット2と、教示ペンダント3を備えた制御装置4と、パソコン(パーソナルコンピュータ)5とを含む。溶接ロボット2は垂直多関節型の6軸の産業用ロボット(多関節マニピュレータ)であり、その先端に設けられたフランジ部7に溶接トーチなどから構成される溶接ツール6が取り付けられている。この溶接ロボット2は、それ自体を移動させるスライダ(図示せず)に搭載されていてもよい。
【0018】
制御装置4は、溶接ロボット2を、予め教示したプログラムに従って制御するものである。教示プログラムは、制御装置4に接続された教示ペンダント3を使用して作成する場合や、パソコン5を利用したオフライン教示システムを使用して作成する場合がある。いずれの場合であっても、教示プログラムは、溶接ロボット2が実際に動作する前に予め作成される。パソコン5によりオフラインで作成された教示プログラムは、磁気的又は電気的にデータを記憶した媒体等を介して制御装置4に受渡しされたり、データ通信により制御装置4に転送されたりする。
【0019】
パソコン5、すなわちオフライン教示システムは、表示装置としてグラフィック表示可能なディスプレイを備え、入力装置としてキーボードやマウスを備える。また、ワークWのCAD情報を取込むために、読取装置又は通信装置が設けられている。
ところで、本願発明は、溶接ツール6の先端点の位置(先端位置)を正確に把握するために必要なツールパラメータを正しく補正するための方法に関するものである。この方法は、大きくは以下に示す3つの工程を有している。
【0020】
<工程i> 既にツールパラメータが設定された溶接ロボット2及び溶接ツール6に所定の姿勢(姿勢角)をとらせて、溶接ツール6の先端点Pを基準面である平板8までZb軸方向に沿って移動させる。その際、溶接ツール6の先端点Pが平板8に到達したときの先端点Pの位置から、溶接ツール6の先端点Pの移動距離を求めタッチ距離とする。
<工程ii> 溶接ロボット2及び溶接ツール6に3つ以上の姿勢(姿勢角)を取らせ、各姿勢(姿勢角)で工程iを実施する。
【0021】
<工程iii> 各姿勢(姿勢角)ごとに求められたタッチ距離からベース座標系における溶接ツール6の交換前後の先端点Pの位置変化量(位置ずれ量)を算出する。その上で、算出した先端点Pの位置変化量を基にツールパラメータの並進成分変化量を求め、求めた並進成分変化量を基にツールパラメータを補正する。
工程i〜工程iiiを有するツールパラメータの補正処理は、制御装置4又はパソコン5内に格納されたプログラムによって実現されるものである。
【0022】
ところで、図2(a),図2(b)に示す如く、ツールパラメータとは、フランジ座標系からツール座標系への座標変換を行う際に必要な変換パラメータ(変換行列)のことである。ツール座標系は、溶接ツール6の先端点P(溶接点)の位置(TCP:Tool Center Point)を表現するための座標系である。
フランジ座標系は、溶接ロボット2の先端に形成されているフランジ部7に設定された座標系であり、溶接ロボット2の第6軸(J6)の回転中心を原点とする座標系である。さらに、図2(a)に示すように、溶接ロボット2の基端部(第1軸J1)には、溶接ロボット2のベース座標系が設定されている。
【0023】
溶接ロボット2のツールパラメータには(T,T,T,α,β,γ)の並進3成分と回転3成分とがあるが、本実施形態では、主に3つの並進成分(T,T,T)のみに着目してツールパラメータと呼び、斯かるツールパラメータを補正する方法を開示する。
なお、姿勢角とは、溶接ロボット2や溶接ツール6の姿勢を決めるための各関節の回転角(例えば、フランジ部7の回転角)に相当するものである。
【0024】
以下に、図3〜図5を参照して、本実施形態によるツールパラメータの補正方法について、詳しく説明する。
[ツールベクトルの補正方法 <工程i>]
図3を参照しながら、所定の姿勢角をとる溶接ツール6の先端点Pを平板8までZb軸方向に沿って(Zb軸の負の方向に沿って)移動させて、先端点Pの移動量(タッチ距離)を求める方法について説明する。
【0025】
まず、タッチ距離を求めるに先立ち、溶接ロボット2の位置に対して固定された位置、言い換えればベース座標系において固定された位置に平板8を設ける。平板8上の面に設定される垂線がベース座標系のZb軸と平行になるように平板8は設置される。なお、平板8はツールパラメータの補正のために新たに設けた専用治具である必要はない。溶接ロボット2の周囲に存在する作業台、ワーク搭載用ステージ、及びポジショナ等、ベース座標系のXY平面と平行な面を有する部材を用いればよい。
【0026】
また、溶接ツール6は、ワークWの位置ずれを検知ために一般的に用いられる接触センサを内蔵しており、溶接ワイヤが基準面である平板8に接触したことを検知できるようになっている。
図3(a)に示すように、溶接ロボット2は、平板8の上方において、動作開始TCP位置P0(X0,Y0,Z0,α0,β0,γ0)から動作完了TCP位置P1(X0,Y0,Z1,α0,β0,γ0)へ向かって、接触センサを内蔵した溶接ツール6を、−Zb方向に移動させる。
【0027】
ところが、その移動途中には平板8が存在するため、溶接ツール6が平板8に接触することとなる。溶接ツール6が平板8に接触すると接触センサが当該接触を検知し、溶接ロボット2は、接触位置Ps(X0,Y0,Zs,α0,β0,γ0)で停止する。これによって、動作開始TCP位置P0から接触位置Psまでの移動距離ΔSが、式(1)によって得られる。この式で得られる移動距離ΔSをタッチ距離とする。
【0028】
【数1】

【0029】
なお、上述の動作ではツールパラメータが既知である場合について述べたが、ツールパラメータが未知の場合でも、先端点Pの移動距離ΔSを求める事ができる。
すなわち、図3(b)に示す如く、例えば、未知のツールパラメータの全成分を0とした場合((Xt,Yt,Zt,αt,βt,γt)=(0,0,0,0,0,0))、先端点PのTCPはツール取付け部であるフランジ座標の原点と一致する。しかし、図3(b)に示すように、フランジ座標原点の移動距離も溶接ツール6の先端点Pの移動距離も、共にΔSとなるので、フランジ座標原点の移動距離を測定することで、先端点Pの移動距離ΔS(タッチ距離)を正しく求める事ができる。
【0030】
[ツールベクトルの補正方法 <工程ii>]
次に、図4を参照しながら、溶接ロボット2及び溶接ツール6に3つ以上の姿勢角を取らせ、各姿勢角で工程iを実施し、各姿勢角でのタッチ距離を求める方法について説明する。
なお、本実施形態では、溶接ツール6が破損や故障等によって新たな溶接ツール6に交換された場合や、溶接ツール6のワークとの干渉等により若干の位置ずれを起こした場合を考える。つまり、交換前や干渉前の溶接ツール6に関するツールパラメータの並進成分(Xt,Yt,Zt)、3つの姿勢角でのタッチ距離(Z1,Z2,Z3)は既知であって精度が確保されているものとする。
【0031】
この条件の下、図4のステップS1〜S3により、交換後や干渉後の溶接ツール6に関
する、3つの姿勢角でのタッチ距離(Z1’,Z2’,Z3’)を測定する。
まず、図4のステップS1において、溶接ロボット2のフランジ面が平板8に対して水平となるように、つまりフランジ座標系のZ軸(Zf軸)方向が、ベース座標系のZ軸(Zb軸)と平行であってZb軸の負方向を向くように溶接ロボット2及び溶接ツール6の姿勢角を決める。
【0032】
その上で、ベース座標系からみたフランジ部7の回転角(フランジ座標系のZf軸の回転角)が以下に示す値となるように、溶接ロボット2及び溶接ツール6の姿勢角を決めて第1の姿勢角とする。フランジ座標系のZf軸の回転角に関し、ベース座標系のZb軸回りの角度をロール角α、ベース座標系のY軸(Yb軸)回りの角度をピッチ角β、ベース座標系のX軸(Xb軸)回りの角度をヨー角γとすると、第1の姿勢角においては、(α,β,γ)=(任意,0°,180°)である。
【0033】
このような第1の姿勢角を保ちつつ、工程iの処理を行うことでタッチ距離を計測することができる。第1の姿勢角で得られたタッチ距離をZ1’とする。
次に、ステップS2において、溶接ロボット2の第5軸(J5)を動かして、フランジ面を平板8に対して所定角度傾けた第2の姿勢角とする。つまり、ステップS1における第1の姿勢角から、ピッチ角βを所定角度だけ変更する。第1の姿勢角ではピッチ角βは0度であったが、ステップS2の第2の姿勢角ではピッチ角βをΔθ5度とする。このΔθ5度は、ある特定の数値である必要はなく、任意の値で構わない。
【0034】
第2の姿勢角においては、(α,β,γ)=(任意,Δθ5°,180°)である。
このような第2の姿勢角を保ちつつ工程iの処理を行い、タッチ距離Z2’を計測する。
最後に、ステップS3において、溶接ロボット2の第6軸(J6)を動かして、フランジ面を平板8に対して回転させた第3の姿勢角とする。
【0035】
つまり、ステップS2における第2の姿勢角からヨー角γを所定角度変更する。第2の姿勢角では、ヨー角γは180度であったが、ステップS3の第3の姿勢角ではヨー角γを、Δθ6度回転させたγ3度とする。このΔθ6度は、ある特定の数値である必要はなく、任意の値で構わない。このとき、ヨー角γの変更にともなって、ピッチ角βはΔθ5度からβ3度に変化する。
【0036】
第3の姿勢角においては、(α,β,γ)=(任意,β3°,γ3°)である。
このような第3の姿勢角を保ちつつ工程iの処理を行い、タッチ距離Z3’を測定する。
これらステップS1〜S3で得られた3つのタッチ距離(Z1’,Z2’,Z3’)が、制御装置4又はパソコン5に記憶される。
【0037】
[ツールベクトルの補正方法(工程iii)]
以上述べた工程i、工程iiを経ることで、交換後の溶接ツール6のタッチ距離(Z1’,Z2’,Z3’)が既知となる。加えて、交換前のツールパラメータの並進成分(Xt,Yt,Zt)とタッチ距離(Z1,Z2,Z3)とは、前述したように既知である。
この状況の下、工程iiiでは、交換後の溶接ツール6のツールパラメータの並進成分(Xt’,Yt’,Zt’)を求める方法、換言すれば、既知のツールパラメータの並進成分(Xt,Yt,Zt)を、交換後の溶接ツール6に適したツールパラメータとなるように補正する方法について説明する。
溶接ツール6の交換後におけるツールパラメータ並進成分の変化量(ΔTx,ΔTy,ΔTz) は、交換前のツールパラメータ並進成分(Tx,Ty,Tz)と交換後のツールパラメータ並進成分(Tx’,Ty’,Tz’)を用いて、フランジ座標系上のベクトルflgVとして式(2)で表される。
【0038】
【数2】

【0039】
つまり、flgVを求めれば、式(2)に既知である交換前のツールパラメータ並進成分(Tx,Ty,Tz)を適用して、ツール交換後のツールパラメータ(Tx’,Ty’,Tz’)を求めることができる。
今、溶接ロボット2のベース座標系から見て、フランジ座標系の回転行列を baseflgとし、ベース座標系における溶接ツール6の交換前後の先端点Pの位置変化量(位置ずれ量)をbaseV=(ΔX,ΔY,ΔZ)とする。このとき、式(3)が成立する。
【0040】
【数3】

【0041】
ベース座標系から見たフランジ座標系の回転角をロール角α、ピッチ角β、ヨー角γとすると、回転行列 baseflgは、式(4)のように表される。
【0042】
【数4】

【0043】
式(3)のZ成分のみに注目すると、溶接ツール6の先端点Pの位置変化量ΔZとツールパラメータ並進成分の変化量との関係を表す式(5)が得られる。
【0044】
【数5】

【0045】
このように得られた式(5)のΔZに位置変化量ΔZ1〜ΔZ3を順に適用することで、表1に示すように、並進成分変化量ΔTx,ΔTy,ΔTzを順番に求めることができる。なお、ΔZ1=Z1’−Z1、ΔZ2=Z2’−Z2、ΔZ3=Z3’−Z3であり、Z1’,Z2’,Z3’は、工程iiのステップS1〜S3で測定した溶接ツール6の先端点Pのタッチ距離である。
【0046】
【表1】

【0047】
つまり、表1のステップS1では、位置変化量ΔZ1は既知であり、sinβ及びsinγは0、cosβは1、cosγは−1となる。これを式(5)に適用すると、位置変化量ΔZ1は、−ΔTzと等しくなり、ツールパラメータの並進成分におけるZ成分の補正量ΔTzが、式(6)のように−ΔZ1と決まる。
【0048】
【数6】

【0049】
次に、表1のステップS2では、sinβは0以外の値、sinγは0、cosγは−1となる。これを式(5)に適用すると、式(5)を式(7)のように変形することができる。
【0050】
【数7】

【0051】
ここで、式(7)に、既知の位置変化量ΔZ2と表1のステップS1で既に求めたΔTzを適用すると、ツールパラメータの並進成分におけるX成分の補正量ΔTxが決まる。
最後に、表1のステップS3では、sinβ及びsinγは0以外の値となる。これを式(5)に適用すると、式(5)は式(8)のように変形することができる。
【0052】
【数8】

【0053】
ここで、式(8)に、既知の位置変化量ΔZ3と表1のステップS1で既に求めたΔTzと表1のステップS2で求めたΔTxとを適用すると、ツールパラメータの並進成分におけるY成分の補正量ΔTyが決まる。
以上のとおり、表1のステップS1〜S3を経て求めたツールパラメータ並進成分の変化量(ΔTx,ΔTy,ΔTz)と、交換前のツールパラメータ並進成分(Tx,Ty,Tz)とから、式(2)を用いて、交換後のツールパラメータ並進成分(Tx’,Ty’,Tz’)を求める。その結果、交換後のツールパラメータ並進成分は、式(9)に示す通りの値となり、新たなツールパラメータの並進成分として、制御装置4又はパソコン5に設定される。
【0054】
【数9】

【0055】
このように、溶接ロボット2及び溶接ツール6に簡単な3つの姿勢角をとらせて、ベース座標系において−Z方向に溶接ツール6を移動させることで、新たなツールパラメータの並進成分を再設定することができる。
つまり、本実施形態によるツールパラメータの補正方法によれば、溶接ツール6の交換前に教示したロボットプログラムをそのまま使用してもツールパラメータの精度が確保され、溶接ツール6の交換後に即座に溶接ロボット2を再稼動させることができる。
[変形例(1)]
上述した本実施形態では、溶接ツール6をベース座標系においてZb軸方向(Zb軸の負方向)に移動させた。しかし、本実施形態で説明した考え方を用いれば、溶接ツール6をXb軸方向又はYb軸方向に移動させることによってもツールパラメータを補正することができる。
【0056】
例えば、図5に示すように、フランジ座標系のZ軸(Zf軸)方向がベース座標系のX軸(Xb軸)方向に平行で且つZf軸がXb軸の正方向を向くように溶接ロボット2及び溶接ツール6の姿勢角を決める。その後、溶接ツール6をベース座標系においてXb軸方向に移動させ、溶接ロボット2及び溶接ツール6の3つの姿勢角におけるタッチ距離X1〜X3を測定することができる。言い換えれば、Zf軸の向きをベース座標系のYb軸回りの角度であるピッチ角βが90度となるようにし、溶接ツール6をベース座標系においてXb軸方向に移動させタッチ距離X1〜X3を測定することができる。
【0057】
この場合、平板8は、平板8上の面に設定される垂線がベース座標系のXb軸に平行に
設置されている。
このようにして測定されたタッチ距離X1〜X3に本実施形態で説明した考え方を適用することでも、確実にツールパラメータを補正することができる。
[変形例(2)]
上述したように、本発明のツールパラメータの補正方法は、もっぱら溶接ロボット2の実稼動開始後のツールの変形及び交換により、溶接ツール6の寸法が変化した場合の補正に用いられる。
【0058】
しかし、高精度に機械加工された調整用「基準ツール」を用いれば、溶接ロボット2の納入及び立上げ時に、溶接ツール6を初めて溶接ロボット2のフランジ部7に取付ける際のツールパラメータの調整にも本発明を適用することができる。その手順について、以下に説明する。
【0059】
(1)まず、高精度に機械加工された基準ツールを用い、まず本発明の実施形態で説明したステップS1〜S3の動作により、タッチ距離(Z1,Z2,Z3)を測定し記憶する。
このとき、基準ツールの寸法は高精度に調整されているため、ツールパラメータ(Tx,Ty,Tz)を計算によって求めることができる。よって、基準ツールのツールパラメータを既知であるとみなして良い。
(2)次に、実際に使用する溶接ツール6に交換して、図4のステップS1〜S3の動作によりタッチ距離(Z1’,Z2’,Z3’)を測定し、制御装置4又はパソコン5に記憶する。基準ツールのタッチ距離(Z1,Z2,Z3)と溶接ツール6のタッチ距離(Z1’,Z2’,Z3’)から、位置変化量(ΔZ1,ΔZ2,ΔZ3)を求め、それら位置変化量から、上述の式(5)を用いてツールパラメータ並進成分の変化量(ΔTx,ΔTy,ΔTz)を求める。
(3)溶接ツール6のツールパラメータを(Tx+ΔTx,Ty+ΔTy,Tz+ΔTz)として補正し、制御装置4又はパソコン5に記憶する。
この手法を用いても、確実にツールパラメータを補正することができる。
【0060】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0061】
1 ロボットシステム
2 溶接ロボット
3 教示ペンダント
4 制御装置
5 パソコン
6 溶接ツール
7 フランジ部
8 平板
P 先端点
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットのアーム先端に設けられるフランジ部に取り付けられたツールの先端位置を決定するツールパラメータを導出する方法であって、
前記ツールに3つ以上の姿勢角をとらせ、
各姿勢角において前記ツールの先端を基準面まで姿勢角を保持したまま一方向に移動させ、
各姿勢角において、前記ツールの先端が前記基準面に到達したときの当該ツール先端の位置ずれ量を計測して並進成分変化量を求め、
当該求めた並進成分変化量を基にツールパラメータを補正することを特徴とするロボットのツールパラメータの補正方法。
【請求項2】
前記ツールの各姿勢角において、前記ツールの先端をロボットのベース座標における垂直軸方向に沿って前記基準面まで移動させることで、前記並進成分変化量を求めることを特徴とする請求項1に記載のロボットのツールパラメータの補正方法。
【請求項3】
前記ロボットがとる3つ以上の姿勢角のうち、最初の姿勢角においては、前記フランジ部が前記基準面に対して垂直又は水平であることを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットのツールパラメータの補正方法。
【請求項4】
前記各姿勢角は、前記ロボットのベース座標における各垂直軸回りに前記ツールを回転させることで指定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のロボットのツールパラメータの補正方法。
【請求項5】
前記ロボットがとる複数の姿勢角のうち最初の姿勢角においては、ベース座標におけるY軸回りの回転角が、0度又は90度であることを特徴とする請求項4に記載のロボットのツールパラメータの補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−870(P2013−870A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137391(P2011−137391)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】