説明

ロボットアーム装置

【課題】安価で軽量化が可能なロボットアーム装置を提供する。
【解決手段】ロボットアーム装置1は、基体4とリンク部材3とが第1の関節機構Jで連結され、リンク部材3とエンドエフェクタEとが第2の関節機構Jで連結されたロボットアーム2を備える。ロボットアーム装置1は、ロボットアーム2から基体4に作用する力を検出する第1の力検出器F1を備え、基体4の基端部の端面4aにロボットアーム2の制御配線11用の開口部4bが形成され、開口部4bの周囲において、第1の力検出器F1として、相互に離間して配置されている3個以上の力検出器F1-iが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームを備えたロボットアーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基体とリンク部材、リンク部材とエンドエフェクタとがそれぞれ関節機構で連結された多関節式のロボットアームを備えたロボットアーム装置において、基体の基端部に力検出部を設けることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ロボットアームに加わる力を検出する力検出器を基体(ロボットベース)に設けたロボットアーム装置(ロボット)が記載されている。このロボットでは、力検出器で検出された外力全体から、ロボットアーム自身の動作によって発生した外力相当分を差し引くことによって、ロボットアームに対する接触力を検出している。力検出器は、例えば6軸力センサである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−21287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のようなロボットアーム装置では、一般的に、各軸方向の力及び各軸回りのモーメントを精度良く検出するために、1個の6軸力センサをロボットアームの基体の基端部の中央に配置している。そして、6軸力センサを中空状のものとして、その中空部分に給電ケーブルや信号線などの配線を通している。
【0006】
しかしながら、中空状の6軸力センサは、中実状のものより比較的高価であるという問題がある。また、1個の6軸力センサで力を検出するので、定格容量が大きく高価で大型の6軸力センサが必要となり、ロボットアーム装置が高価、高重量化するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、安価で軽量化が可能なロボットアーム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のロボットアーム装置は、基体とリンク部材とが第1の関節機構で連結され、前記リンク部材とエンドエフェクタとが第2の関節機構で連結されたロボットアームを備えたロボットアーム装置であって、前記ロボットアームから前記基体に作用する力を検出する第1の力検出器を備え、前記基体の基端部の端面に前記ロボットアームの駆動及び制御配線用の開口部が形成され、前記開口部の周囲において、前記第1の力検出器として、相互に離間して配置されている3個以上の力検出器が配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のロボットアーム装置によれば、各第1の力検出器を中実状のものとしても、これら各力検出器は互い離間して配置されているので、力検出器同士の間にスペースが生じる。そして、このスペースに、各関節機構のアクチュエータ等への給電ケーブルや信号線など、ロボットアームの内部を通るロボットアームの駆動及び制御配線を、基体の基端部の端面に形成された開口部を介して配設することが可能となる。よって、従来のように配線を通すために中空状の力検出器を用いる必要がないので、第1の力検出器として中実状の安価な力検出器を用いることができる。
【0010】
また、3個以上の第1の力検出器で力を検出するので、従来のように1個の力検出器で力を検出する場合に比べて、各力検出器を定格容量が小さな安価で小型なものとすることができる。
【0011】
以上により、第1の力検出器を構成する全ての力検出器を合計しても、従来のような1個の大型の力検出器と比較して、安価で軽量化させることが可能となる。
【0012】
本発明のロボットアーム装置において、3個以上の前記力検出器が、前記開口部を通り、前記端面の法線としての軸線回りの回転対称性、及び前記軸線に対して垂直な方向に延びる直線を基準とする鏡映対称性のうち少なくとも一方をもって配置されていることが好ましい。
【0013】
前記のように複数の力検出器が用いられることにより、当該複数の力検出器から複数の出力信号が得られるので、当該複数の出力信号が統合されることによってロボットアームから基体に作用する力が求められる。ここで、複数の力検出器の配置態様が不規則的なものであると、複数の出力信号の統合のための計算方法が比較的複雑なものになってしまい、当該力の検出精度が低下する恐れがある。
【0014】
しかるに、複数の第1の力検出器が前記軸線又は直線を基準とした対称性を有するように、即ち規則的に配置されることにより、複数の出力信号の統合のための計算方法を比較的簡易なものとすることができる分だけ、力の検出精度の向上が図られる。
【0015】
また、本発明のロボットアーム装置において、前記基体が設けられた移動体と、前記第1の力検出器の出力に基づいて、前記ロボットアームの前記移動体に対する重心位置を推定する重心位置推定手段と、前記重心位置推定手段が推定した前記ロボットアームの重心位置に基づいて、前記移動体の移動制御を行う移動体制御手段とを備えることが好ましい。
【0016】
この場合、重心位置推定手段が推定したロボットアームの重心位置に基づいて、ロボットアームの動作制御を行うだけでなく、移動体制御手段によって移動体の移動制御を行うので、ロボットアーム装置のバランスを確実に保つことが可能となる。
【0017】
また、本発明のロボットアーム装置において、前記エンドエフェクタと前記リンク部材との間に、前記エンドエフェクタを介して前記リンク部材に作用する力を検出する第2の力検出器を備えることが好ましい。
【0018】
この場合、第2の力検出器が検出した力からエンドエフェクタに外部から作用する力を推定することができ、推定した作業状態に応じた精度の高い作業を実施することが可能となる。
【0019】
さらに、第2の力検出器が検出した力を参照することによって、第1の力検出器が検出した力に基づいて、ロボットアームが外部環境と接触したときの反力を独立して推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るロボット装置の構成を示す説明図。
【図2】図1のII−II線矢視断面図。
【図3】制御装置の構成説明図。
【図4】制御装置の制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係るロボットアーム装置1について図面を参照して説明する。
【0022】
図1に示すように、ロボットアーム装置1は、ロボットアーム2を備えている。ロボットアーム2は、複数の関節機構と、当該複数の関節機構を介して連結されている複数のリンクとからなるリンク部材3を備えている。
【0023】
複数の関節機構には、ロボットアーム2の基端部側に配置されている第1の関節機構J1と、ロボットアーム2の先端部側に配置されている第2の関節機構J2と、第1の関節機構J1と第2の関節機構J2との中間に配置されている2つの中間関節機構I及びI2とが含まれている。中間関節機構は省略されてもよい。中間関節機構の数は任意に変更されうる。
【0024】
本発明のリンク部材3は、中間関節機構I,I2と複数のリンクとから構成されている。そして、第1の関節機構J1はリンク部材3とロボットアーム2の基体4とを連結している。第2の関節機構Jはリンク部材3とエンドエフェクタEとを連結している。
【0025】
第1の関節機構J1の回転自由度は2(ピッチ及びヨー)であり、第2の関節機構J2の回転自由度は3(ロール、ピッチ及びヨー)である。第1の中間関節機構I1の回転自由度は1(ロール)であり、第2の中間関節機構I2の回転自由度は2(ピッチ及びヨー)である。ロボットアーム2は、各関節機構の各回転自由度に応じた回転角度(関節角度)に応じた信号を出力するロータリエンコーダ等の関節角度センサSi(i=1,2,‥)を備えている(図3参照)。なお、各関節機構の回転自由度は任意に変更されてもよい。
【0026】
ロボットアーム2の先端部は、第2の関節機構Jを介してエンドエフェクタEに連結されている。エンドエフェクタEは、例えばバルブの開閉というタスクを実行するため、当該バルブのハンドルに係合させるための適当な治具として構成されている。
【0027】
ロボットアーム2の基端部に存在する基体4は、移動体Xに固定されている。移動体Xは、ここでは、XYステージX、及びこのXYステージXが固定された台車Xから構成されている。
【0028】
基体4は、XYステージXの上側のテーブル5に連結されている。XYステージXは、遠隔操作可能であり、水平面内でロボットアーム2を移動させることができる。XYステージXは、詳細は図示しないが、例えば、Y軸方向に延びるY軸レールに沿って、X軸方向に延びるX軸レールが設けられたY軸テーブルが移動可能に配置されており、X軸レールに沿って移動可能なX軸テーブルが配置されている。この場合、X軸テーブルが上側のテーブル5となる。
【0029】
XYステージXは、台車X上に固定されている。台車Xは、遠隔操作可能であり、ここでは、車輪を用いた車両であるが、無限軌道を用いた走行装置であってもよい。
【0030】
ロボットアーム2は、その基端部に配置された第1の6軸力センサF1を備えている。第1の6軸力センサF1は、ロボットアーム2とXYステージXとの相対的な3軸(ロール軸、ピッチ軸及びヨー軸)方向の力及び当該3軸回りのモーメントに応じた信号を出力するように構成されている。なお、基体4に、世界座標系(基準座標系)におけるXYステージXの姿勢に応じた信号を出力するジャイロセンサが配置されていてもよい。
【0031】
ロボットアーム2は、その先端部に、第2の6軸力センサF2と第1のジャイロセンサGとを備えている。第2の6軸力センサF2は、ロボットアーム2とエンドエフェクタEとの相対的な3軸(ロール軸、ピッチ軸及びヨー軸)方向の力及び当該3軸回りのモーメントに応じた信号を出力するように構成されている。第1のジャイロセンサGは、世界座標系(基準座標系)におけるエンドエフェクタEの姿勢(水平方向に対する傾斜角度など)に応じた信号を出力するように構成されている。
【0032】
また、台車Xは第2のジャイロセンサGを備えている。第2のジャイロセンサGは、世界座標系における台車Xの姿勢に応じた信号を出力するように構成されている。なお、XYステージXは台車X上に剛に固定されており、XYステージXと台車Xとの姿勢は同一とみなすことが可能である。
【0033】
ロボットアーム2、エンドエフェクタE、XYステージX及び台車Xのうち少なくとも1つに、図示していない撮像装置が取り付けられ、当該撮像装置により撮像された画像がロボットアーム2から離れた場所に設置されている画像装置に表示される。操作者はこの画像を見ながら遠隔操作装置10(図3参照)を操作することにより、ロボットアーム2を構成する各関節機構の関節動作に加えて、XYステージX及び台車Xの動作を遠隔制御することができる。
【0034】
(第1の6軸力センサの配置)
第1の6軸力センサF1は、第1の関節機構J1を介して基体に作用する力及びモーメント(以下、力、モーメント、力及びモーメントの何れかを意味して単に「力」ともいう。)検出する力検出器であり、基体4の基端部(下端部)に相互に離間して配置されている。
【0035】
第1の6軸力センサF1は、3個以上の6軸力センサF1−i(i=1,2,3,…)からなり、これら6軸力センサF1−iは、基体4の基端部の端面4aに形成された開口部4b(図2参照)の周囲に配置されている。この開口部4bは、ロボットアームの駆動及び制御配線、実施形態では各関節機構のアクチュエータAi、エンドエフェクタE、関節角度センサSi等への給電ケーブルや信号線などの配線11(図2参照)を通すために形成されている。
【0036】
これにより、各6軸力センサF1−iを中実状のものとしても、これらの6軸力センサF1−i同士の間にスペースが生じ、配線11を、前記スペース及び開口部4bを通して配設することができる。よって、従来のように配線を通すために中空状の6軸力センサを用いる必要がないので、第1の6軸力センサF1の各6軸力センサF1−iとして中実状の安価なものを用いることができる。
【0037】
また、3個以上の6軸力センサF1−iで力を検出するので、従来のように1個の6軸力センサで力を検出する場合に比べて、各6軸力センサF1−iを定格容量が小さな安価で小型なものとすることができる。そして、第1の6軸力センサF1を構成する全ての6軸力センサF1−iを合計しても、従来のような1個の大型の6軸力センサと比較して、安価で軽量化することが可能となる。
【0038】
そして、3個以上の6軸力センサF1−iは、開口部4bを通り、基体4の端面4aの法線としての軸線回りの回転対称性、及び前記軸線に対して垂直な方向に延びる直線を基準とする鏡映対称性のうち少なくとも一方をもって配置されている。
【0039】
3個以上の6軸力センサF1−iが用いられることにより、3個以上の6軸力センサF1−iから複数の出力信号が得られるので、これら複数の出力信号が統合されることによってロボットアーム2から基体4に作用する力が求められる。ここで、6軸力センサF1−iの配置態様が不規則的なものであると、複数の出力信号の統合のための計算方法が比較的複雑なものになってしまい、当該力の検出精度が低下する恐れがある。
【0040】
しかるに、3個以上の6軸力センサF1−iが前記軸線又は直線を基準とした対称性を有するように、即ち規則的に配置されることにより、複数の出力信号の統合のための計算方法を比較的簡易なものとすることができる分だけ、力の検出精度の向上が図られる。
【0041】
本実施形態では、同種の4個の6軸力センサF1−i(i=1,2,3,4)からなっている。各6軸力センサF1−iは、基体4の基端部に一体的に設けられた基板4cと、XYステージXの上側のテーブル5との間に配置されている。基板4cの中央部には円形の開口部4bが形成されており、この開口部4bの中心Oを通るZ軸(基体4の端面4aの法線としての軸線)回りの回転対称、及び、X軸及びY軸(Z軸に対して対して垂直方向に延びる直線)を基準とする鏡映対称性を有して、4個の6軸力センサF1−iが配置されている。なお、第1の関節機構J1の関節中心は、開口中心Oの真上、即ちZ軸上に位置している。
【0042】
そして、本実施形態は、2個の6軸力センサF1−1,F1−2の中心がY軸より前側(開口中心OよりX軸正方向側)に配置され、他の2個の6軸力センサF1−3,F1−4の中心がY軸より後側に配置されている。
【0043】
また、図示しないが、2個の6軸力センサF1−iの中心をX軸上に位置させ、他の2個の6軸力センサF1−iの中心をY軸上に位置させてもよい。これらにより、ロボットアーム2から基体4に作用するX軸、Y軸各方向の力を各6軸力センサF1−iで精度良く検出することができる。ただし、第1の6軸力センサF1を構成する各6軸力センサF1−iの配置はこれに限定されない。
【0044】
6軸力センサF1-iをこのように配置することにより、6軸力センサF1-iが例え1個故障しても、X軸を含めた両側には正常な6軸力センサF1-iが少なくとも1個存在するので、左右方向においてロボットアーム2から基体4に作用する力を良好に検出することができる。
【0045】
そして、エンドエフェクタEが前方(X軸正方向)に突き出てロボットアーム2の重心位置が開口中心Oより前方にずらせて作業させることが多い場合には、第1の力検出器F1を構成する各6軸力センサF1−iを、開口中心Oより後側以上に前側に配置されることが好ましい。このように、6軸力センサF1−iを配置することにより、エンドエフェクタEを突き出て重心位置が前方に移動したロボットアーム2から基体4に作用する力を精度良く検出することができる。
【0046】
また、この場合、前側の6軸力センサF1−iが例え1個故障しても、開口中心Oより前側に配置された正常な6軸力センサF1−iが少なくとも1個存在するので、重心位置が前側に移動したロボットアーム2から基体4に作用する力を良好に検出することができる。
【0047】
さらに、第1の6軸力センサF1が3個の6軸力センサF1−i(i=1,2,3)からなる場合には、2個の6軸力センサF1−1,F1−2の中心をY軸より前側に位置させ、他の1個の6軸力センサF1−3の中心をY軸より後側に位置させて、左右対称に配置することが好ましい。また、第1の6軸力センサF1が5個以上の6軸力センサF1−i(i=1,2,3,4,5,…)からなる場合には、Y軸より前側に中心を位置させる個数がY軸より後側に中心を位置させる個数以上となるようにして、X軸に対して鏡映対称に配置することが好ましい。
【0048】
さらに、エンドエフェクタEがバルブ開閉作業を行う場合、開閉各々の作業で基体4に左右不均一に力が作用する。ここでは、各6軸力センサF1−iはX軸に対して左右対称に配置されているので、基体4に作用する左右方向の力を何れも同等に検出することができる。
【0049】
(6軸力センサの出力に基づいた制御)
第1の6軸力センサF1は基体4の基端部に取り付けられ、ロボットアーム2とXYステージの上側のテーブル5との連結部分には第1の6軸力センサF1のみが介在している。よって、第1の6軸力センサF1は、基体4を含めロボットアーム2全体から基体4に作用する力を検出することになる。
【0050】
また、第1の6軸力センサF1が検出した力は、XYステージXの上側のテーブル5に基体4から作用する反力でもある。そして、XYステージX及び台車Xの剛性は既知であるので、第1の6軸力センサF1が検出した力から、XYステージX及び台車Xの変位量を推定し、さらに、基体4、即ちロボットアーム2の基端部の傾きを逆キネマティクスモデルを用いて推定することが可能となる。
【0051】
また、エンドエフェクタEとリンク部材3との間に、エンドエフェクタEからリンク部材に作用する力を検出する第2の6軸力センサFが設けられている。よって、この第2の6軸力センサFが実際に検出した力から、エンドエフェクタEがバルブを開閉するときの反力など、エンドエフェクタEからロボットアーム2に作用する力を逆キネマティクスモデルを用いて推定することができ、推定した作業状態に応じた精度の高い作業を実施することが可能となる。
【0052】
そして、ロボットアーム2の自重によって基体4に作用する力は、リンク部材3の構成が既知であるので、関節角度などからキネマティクスモデルを用いて推測することができる。
【0053】
そこで、ロボットアーム2の自重による力と第2の6軸力センサFで実際に検出した力とを統合することによって、ロボットアーム2から基体4に作用する力をキネマティクスモデルを用いて推測することができ、この力が作用したときの第1の6軸力センサF1での検出値を推測することができる。
【0054】
よって、この推測値と第1の6軸力センサF1で実際に検出した力の検出値との差異を求めることによって、ロボットアーム2が障害物などの外部環境に接触したときの反力を逆キネマティクスモデルを用いて推測することができる。
【0055】
このように、第2の6軸力センサFが検出した力を参照することによって、第1の6軸力センサF1で実際に検出した力などに基づいて、ロボットアーム2が外部環境と接触したときの反力を独立して推定することが可能となる。
【0056】
従って、ロボットアーム2に外部から作用する力及びその状況を推定することができるので、ロボットアーム装置1が状況に応じた好適な動作を行うように制御させることが可能となる。
【0057】
例えば、ロボットアーム2が外部環境と接触したことを推定したときには、接触を回避するようにロボットアーム2を動作させる制御を行うことができ、さらに、これと共に若しくは単独でXYステージXや台車Xを移動させるように制御を行うこともできる。
【0058】
ロボットアーム装置1は、図3に示される制御装置6を備える。制御装置6は、プログラマブルコンピュータにより構成される。制御装置6には、遠隔操作装置10からエンドエフェクタEの目標運動軌道が入力される。変数の「軌道」とは、当該変数の時間変化態様を表わす時系列的な変数値を意味する。
【0059】
制御装置6には、そのほか、第1の6軸力センサF1、第2の6軸力センサF2、第1のジャイロセンサG1及び第2のジャイロセンサG2に加えて、各関節機構J1、J2、I1、I2の関節角度センサSiから出力される信号が入力される。
【0060】
制御装置6は、当該入力信号に基づき、ロボットアーム2の各関節機構J1、J2、I1、I2、XYステージX、及び台車Xの動作制御指令信号を生成し、これらのアクチュエータAiに対して当該信号を出力するという制御処理を実行するように構成される。
【0061】
ここで、制御装置6が演算処理を実行するように構成されるとは、制御装置6を構成するCPU(中央演算処理)が、必要なソフトウェア及びデータをメモリ(記憶装置)から読み取り、当該ソフトウェアに従って当該演算処理を実行するようにプログラムされていることを意味する。
【0062】
また、制御装置6が、第1の6軸力センサF1の出力に基づいて、ロボットアーム2の重心位置を推定する重心位置推定手段7と、重心位置推定手段7が推定したロボットアーム2の重心位置に基づいて、移動体Xの移動制御を行う移動体制御手段8とを備えている。
【0063】
なお、重心位置推定手段7は、ロボットアーム2の重心位置を、第1の6軸力センサF1からの出力のみに基づいて推定してもよいし、関節角度センサS、ジャイロセンサG,G2からの出力などを含めて推定してもよい。また、重心位置推定手段7は、第1の6軸力センサF1を構成する各6軸軸力センサF1−iからの出力に基づいて求めた力の検出値の平均値から重心位置を推定してもよいが、各6軸力センサF1−iの配置位置を考慮して重心位置を推定してもよい。
【0064】
重心位置推定手段7が推定したロボットアーム2の重心位置が所定の安定位置からずれている場合には、そのずれが補償されるように移動体制御手段がXYステージXを制御する。この補償制御のみでは足りない場合には、第1の関節機構J1若しくは台車X又はこれら双方についても追加的に補償制御を行う。
【0065】
例えば、重心位置推定手段7が推定したロボットアーム2の重心位置が台車X2を基準として座標系における所定の領域外にあり、台車Xが転倒するおそれが生じた場合には、ロボットアーム2自体を動作させる他、移動体制御手段8によって、XYステージXや台車Xを移動させるように補償制御してもよい。これにより、例えば、ロボットアーム2が前方に突出し過ぎて台車Xが前方に転倒しそうになっても、XYステージXのテーブルを後方に移動させる、又は台車Xを前方に移動させるように制御することによって、台車Xのバランスを取り戻すことが可能となる。
【0066】
また、台車Xに搭載された第2のジャイロセンサGから台車Xが大きく傾斜していることを検出したとき、台車Xが転倒しないように、ロボットアーム2の重心位置を移動させるように、移動体制御手段8によってXYステージXを移動させ、これとともにロボットアーム2を動作させるように制御してもよい。これにより、例えば、台車Xが不整地を走行中に右方に側転しそうになっても、ロボットアーム2の重心位置を左方に移動させるようにロボットアーム2やXYステージXを制御することによって、台車Xのバランスを取り戻すことが可能となる。
【0067】
以下、制御装置6による制御の一実施形態について図面を参照して説明する。ただし、制御装置6による制御はこれに限定されない。
【0068】
図4に示されるように、制御装置6は、XYステージX、第1の関節機構J、及び台車Xの補償制御を行うための構成として、ロボットアーム2の推定重心位置軌道gc_actを生成する推定重心位置軌道生成要素31と、第1の関節機構J及び台車Xそれぞれの補償制御を行う場合を規定する補償制御規定要素32及び33と、補償制御規定要素32からの位置による補償量の軌道を第1の関節機構Jの回転角度(ヨー軸回り及びピッチ軸回りの角度)による角度補償軌道θ_compに変換する角度変換要素34とを備える。
【0069】
補償制御規定要素32は、リミッタ321と、リミッタ321の出力側に接続された一次遅れ要素322とを備える。補償制御規定要素33は、リミッタ331と、リミッタ331の出力側に接続された一次遅れ要素332とを備える。
【0070】
この構成において、制御装置6は、XYステージX、第1の関節機構J、及び台車Xの制御に際し、制御装置6に対して入力されたロボットアーム2の目標運動軌道により、ロボットアーム2の目標重心位置の軌道である目標重心位置軌道gc_cmdと、XYステージXの目標位置の軌道である目標ステージ位置軌道sp_cmdと、第1の関節機構Jの目標回転角度の軌道である目標角度軌道θ_cmdと、台車Xの目標位置の軌道である台車目標位置軌道cp_cmdとを定める。
【0071】
目標重心位置軌道gc_cmdは、台車Xを基準とする所定の基準平面上の位置の軌道として表され、ロボットアーム装置1の姿勢が最も安定するようなロボットアーム2の重心位置の軌道として設定される。この台車Xの基準平面は、台車Xが水平な床の上に位置するときに水平となるような平面である。この平面に沿って、XYステージXが移動する。従って、目標ステージ位置軌道sp_cmdは、台車Xの基準平面に沿った位置として表される。目標角度軌道θ_cmdは、XYステージX又は台車Xを基準とする第1の関節機構Jのピッチ及びヨー軸回りの角度として表される。
【0072】
推定重心位置軌道生成要素31により、第1の6軸力センサFの検出出力軌道f_actに基づいてロボットアーム2の推定重心位置軌道gc_actを生成する。このとき、例えば、上述したように、第1の6軸力センサFとして、XYステージXを4点で支持する4つの6軸力センサF1-iを採用した場合には、各6軸力センサF1-iにより検出される力に基づいてロボットアーム2の重心位置を算出することができる。
【0073】
この重心位置は、上述の台車Xの基準平面上の位置として算出される。その算出に際しては、第2のジャイロセンサGに基づいて得られるXYステージX(台車X)の傾きが考慮される。
【0074】
目標重心位置軌道gc_cmdと推定重心位置軌道gc_actとの偏差に基づき、関係式(1)に従って、ステージ位置補償軌道sp_compが生成される。ステージ位置補償軌道sp_compは、ロボットアーム2の重心位置の安定位置からのずれを、XYステージXの制御により補償するための軌道である。「Kp」は比例ゲイン係数であり、「Kd」は微分ゲイン係数である。Kp及びKdのうち一方が0とされてもよい。
【0075】
sp_comp=(Kp+Kds)(gc_cmd-gc_act) ..(1)。
【0076】
目標ステージ位置軌道sp_cmdが、ステージ位置補償軌道sp_compに基づき、関係式(2)に従って補正されることにより、補正目標ステージ位置軌道sp_cmd_mdfdが生成される。
【0077】
sp_cmd_mdfd=sp_cmd+sp_comp ..(2)。
【0078】
この補正目標ステージ位置軌道sp_cmd_mdfdに従ってXYステージXが駆動されることにより、ロボットアーム2の重心位置が、台車X上の安定位置である目標重心位置軌道gc_cmdからずれている場合には、そのずれ量分だけ、XYステージXが、ずれ方向とは反対方向に移動される。これにより、ロボットアーム2の重心位置が常に台車X上の安定位置に位置するように制御されるので、ロボットアーム装置1の姿勢が安定する。
【0079】
XYステージXの制御のみでは、ロボットアーム2の重心位置の安定位置からのずれが補償できない場合には、さらに、第1の関節機構Jのピッチ軸回りの角度及びヨー軸回りの角度と、台車Xの位置が制御される。
【0080】
すなわち、目標重心位置軌道gc_cmdと推定重心位置軌道gc_actとの偏差がリミッタ321の上限値Lmaxを超え、又は下限値Lminを下回る場合には、それぞれ関係式(3a)又は(3b)に従い、一次遅れ要素322を経て、関節機構補償軌道j_compが生成される。当該偏差が上限値Lmax以下で下限値Lmin以上である場合には、関節機構補償軌道j_compの値は0(ゼロ)である。
【0081】
j_comp=(gc_cmd-gc_act-Lmax)K1/(T1s+1) ..(3a)。
【0082】
j_comp=(gc_cmd-gc_act-Lmin)K1/(T1s+1) ..(3b)。
【0083】
関節機構補償軌道j_compは、後述する台車Xの移動に応じた分だけ、その移動とは逆方向にロボットアーム2の重心位置が移動するように、第1の関節機構Jの角度を補償するための軌道である。T1は時定数であり、K1はゲイン定数である。
【0084】
関節機構補償軌道j_compは、角度変換要素34を経て、第1の関節機構Jのピッチ軸回りの角度及びヨー軸回りの角度で表した補償量の軌道である角度補償軌道θ_compに変換される。この変換は、通常の幾何学的計算によって行われる。角度補償軌道θ_compに基づき、目標角度軌道θ_cmdが関係式(4)に従って補正され、補正目標角度軌道θ_cmd_mdfdが生成される。
【0085】
θ_cmd_mdfd=θ_cmd+θ_comp ..(4)。
【0086】
一方、目標重心位置軌道gc_cmdと推定重心位置軌道gc_actとの偏差がリミッタ331の上限値Lmaxを超え、又は下限値Lminを下回る場合には、それぞれ関係式(5a)又は(5b)に従い、一次遅れ要素332を経て、台車位置補償軌道cp_compが生成される。当該偏差が上限値Lmax以下で下限値Lmin以上である場合には、台車位置補償軌道cp_compの値は0(ゼロ)である。
【0087】
cp_comp=(gc_cmd-gc_act-Lmax)K2/(T2s+1)..(5a)。
【0088】
cp_comp=(gc_cmd-gc_act-Lmin)K2/(T2s+1)..(5b)。
【0089】
台車位置補償軌道cp_compは、ロボットアーム2の重心位置の安定位置からのずれを、台車Xの制御により、上述の第1の関節機構Jの角度補償と協働して補償するための軌道である。T2は時定数であり、K2はゲイン定数である。上述の関係式(3a)及び(3b)における時定数T1と時定数T2との大小関係は、T1=T2、T1>T2又はT1<T2の何れであってもよい。
【0090】
台車目標位置軌道cp_cmdが、台車位置補償軌道cp_compに基づき、関係式(6)に従って補正され、補正目標台車位置軌道cp_cmd_mdfdが生成される。
【0091】
cp_cmd_mdfd=cp_cmd-cp_comp ..(6)。
【0092】
そして、補正目標台車位置軌道cp_cmd_mdfdにより台車Xのアクチュエータが駆動され、補正目標角度軌道θ_cmd_mdfdにより第1の関節機構Jのアクチュエータが駆動される。
【0093】
これにより、台車Xは、ロボットアーム2の重心位置の安定位置(目標重心位置gc_cmd)からのずれ量に応じた量だけ、そのずれの方向へ移動するように(台車Xが移動中の場合にはそのずれの方向への移動量が増加するように)補償制御される。また、第1の関節機構Jは、そのずれ方向とは反対方向にロボットアーム2の重心位置が移動するように、ピッチ軸回りの角度及びヨー軸回りの角度が制御される。これにより、ロボットアーム2の重心位置の安定位置からのずれが、より確実に補償される。
【0094】
なお、この重心位置の制御のほか、制御装置6は、6軸力センサF1、F2、ジャイロセンサG1、G2、及び各関節機構J1、J2、I1、I2の関節角度センサSiからの出力に基づき、各関節機構J1、J2、I1、I2の各アクチュエータAiを制御することにより、たわみ補償や、コンプライアンス補償を行うことができる。
【0095】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態においては、リンク部材3は、中間関節機構I,I2と複数のリンクとから構成されている。しかし、本発明におけるリンク部材3の構成はこれに限定されない。例えば、リンク部材は1本のリンクからなるものであってもよい。また、リンク部材3は、直交座標系型、極座標系型、円筒座標系型、スカラー型等の可動機構を有する部材から構成されていてもよい。
【0096】
また、上述した実施形態においては、移動体XはXYステージXと台車Xから構成されている。しかし、本発明における移動体Xはこれに限定されない。例えば、XYステージXの代わりに、リニアステージや2次元直動ステージ等の他の水平移動機構を用いてもよい。台車Xの代わりに、脚を用いた歩行装置、船舶、航空機など周知の移動体を用いてもよい。さらに、移動体Xは、XYステージXやこれに類似するもの、又は、台車Xやこれに類似するものの少なくとも一方を有するものとして構成されてもよい。
【0097】
また、上述した実施形態においては、エンドエフェクタEを冶具として用いているが、その代わりに、計測器等のような受動的な機能を有するものとして用いてもよい。
【0098】
また、上述した実施形態においては、力検出器として6軸力センサを用いているが、その代わりに、3分力検出器等の他の力センサを用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…ロボットアーム装置、2…ロボットアーム、3…リンク部材、4…基体、4a…端面、4b…開口部、4c…基板、5…上側のテーブル、6…制御装置、7…重心位置推定手段、8…移動体制御手段、10…遠隔操作装置、11…配線、J1…第1の関節機構、J2…第2の関節機構、F1…第1の6軸力センサ(第1の力検出器)、F1-i…6軸力センサ(力検出器)、F2…第2の6軸力センサ(第2の力検出器)、E…エンドエフェクタ、X…移動体、X…XYステージ、X…台車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体とリンク部材とが第1の関節機構で連結され、前記リンク部材とエンドエフェクタとが第2の関節機構で連結されたロボットアームを備えたロボットアーム装置であって、
前記ロボットアームから前記基体に作用する力を検出する第1の力検出器を備え、前記基体の基端部の端面に前記ロボットアームの駆動及び制御配線用の開口部が形成され、前記開口部の周囲において、前記第1の力検出器として、相互に離間して配置されている3個以上の力検出器が配置されていることを特徴とするロボットアーム装置。
【請求項2】
3個以上の前記力検出器が、前記開口部を通り、前記端面の法線としての軸線回りの回転対称性、及び前記軸線に対して垂直な方向に延びる直線を基準とする鏡映対称性のうち少なくとも一方をもって配置されていることを特徴とする請求項1に記載のロボットアーム装置。
【請求項3】
前記基体が設けられた移動体と、
前記第1の力検出器の出力に基づいて、前記ロボットアームの前記移動体に対する重心位置を推定する重心位置推定手段と、
前記重心位置推定手段が推定した前記ロボットアームの重心位置に基づいて、前記移動体及び前記第1の関節機構を制御することにより前記ロボットアームの重心位置を所定の安定位置に位置するように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットアーム装置。
【請求項4】
前記エンドエフェクタと前記リンク部材との間に、前記エンドエフェクタから前記リンク部材に作用する力を検出する第2の力検出器を備えることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のロボットアーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−94935(P2013−94935A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242496(P2011−242496)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】