ロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造
【課題】ディスク内に不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することのできる構成のロータリーアトマイザーの噴霧用ディスク構造を提供する。
【解決手段】供給室内に供給された液体又はスラリーの噴射物を噴射する複数のノズル孔と、ノズル孔に装着された噴射ノズルとを噴射面に備え、ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、前記供給室内に噴射物がノズル孔へ向かう配流促進手段を設ける。また、供給室内に供給された噴射物を噴射する複数のノズル孔と、ノズル孔に装着された噴射ノズルとを噴射面に備え、ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、ノズル孔をディスクの半径方向に対して、噴射物流出方向に水平傾斜させる。
【解決手段】供給室内に供給された液体又はスラリーの噴射物を噴射する複数のノズル孔と、ノズル孔に装着された噴射ノズルとを噴射面に備え、ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、前記供給室内に噴射物がノズル孔へ向かう配流促進手段を設ける。また、供給室内に供給された噴射物を噴射する複数のノズル孔と、ノズル孔に装着された噴射ノズルとを噴射面に備え、ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、ノズル孔をディスクの半径方向に対して、噴射物流出方向に水平傾斜させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼排ガスの処理、食品や石鹸等の日用品やファインセラミックス、医薬品等の乾燥、造粒等で用いられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーアトマイザは、ロータリーアトマイザ本体の高速回転機構の出力軸の先端に取り付けた噴霧用ディスクを高速回転し、高速回転による遠心力を利用してディスクから液体又はスラリーを噴霧することができる装置であり、燃焼排ガスの処理や、食品や石鹸等の日用品の乾燥等に用いられ、調整される粉末がミクロな球状粒子であるため、ファインセラミックス、医薬品等の乾燥、造粒等でも用いられる。
【0003】
現在、一般に用いられているロータリーアトマイザの正面図を図13に示した。高速回転することのできる駆動モーター10にカップリング12を介して出力軸5が取り付けられており、該出力軸5の先端には複数のノズル3と室4が設けられたディスク2が取り付けられている。駆動モーター10を高速回転することで、出力軸5及び出力軸5の先端に取り付けられたディスク2が高速回転し、その遠心力によって、噴射物供給口8及び9よりディスク2内の室4に供給された液体、スラリー等の噴射物はノズル3よりロータリーアトマイザ1の外部へ噴霧される。
駆動モーター10は、使用する噴射物の性状、量により異なるが出力軸5及びディスク2が通常6000〜30000rpmとなるように回転数を調節する。また、図13のロータリーアトマイザでは高速回転することのできる駆動モーター10を用いているが、目的の回転数よりも回転能力の低い駆動モーターを用いて増速装置で増速し、出力軸5及びディスク2が目的の回転数で回転するように調節することもある。
【0004】
さらに、ディスク2について、図14、図15に詳しく示した。
図14はディスク2の平面図である。複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3がディスク2の噴射面6に備え付けられており、室4内に供給された噴射物は出力軸5を中心にディスク2を高速回転することで、その遠心力によってノズル3よりディスク2の外部へ噴霧される構成となっている。
図15(A)はディスク2の断面図である。前記噴射物供給口より供給された噴射物は、ディストリビューター7によって室4内に噴射物量が均一になるように分配される。室4の底面13の最底部はノズル孔3bの下部よりも下方に位置し、出力軸5を中心にディスク2が高速回転することによって、その遠心力によって室4内に溜まった噴射物がせり上がり、ノズル3よりディスク2の外部へ噴霧される構成となっている。図15(B)は図15(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は円形である。
【0005】
しかしながら、図14及び図15で示した構成のディスクでは、噴射物が磨耗性を有する場合、噴射物がディスク本体の室4内の壁面を磨耗させてしまうという問題があり、磨耗を防止するためにノズル内端部を室側に突出させて室外周面に被覆膜を形成させた場合、被覆膜がノズル内壁にも生じ、ノズルが閉塞するという問題があった。
そこで、特許文献1にはディスク本体の室内にその天井壁面及び底壁面からノズルに向かって傾斜するテーパ面を設け、且つノズル孔を室内テーパ面に連続し孔中間で小径となる内方拡開のテーパ孔部と、孔中間の小径部からノズル出口端に向かって外方拡開のテーパ孔部とで構成したディスクが開示されている。
【0006】
また、ディスクの円筒状の噴射面に開口する複数のノズル孔に噴射側端面が平面であるノズルを装着すると噴射面の噴射ノズル周囲に凹凸ができ、噴射ノズル周囲が削られ、ディスクの軸線に対する重量アンバランスが生じ出力軸の異常振動を引き起こすため、ディスクを頻繁に交換しなければならないという問題があった。
そこで特許文献2には、噴射面の形状を出力軸の軸線上の一点を中心とし、該中心から噴射面外周を半径とする球面を形成するとともに、ノズルを前記中心から放射状に配置し、噴射側端面の外縁を装着孔内縁に一致させて装着したディスクが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特公昭61−37992号公報
【特許文献2】特開平11−138057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ロータリーアトマイザは出力軸の先端に重いディスクを取り付けて高速回転するため振動しやすい構造であることに加えて、前記図14及び図15で示した構成のディスク、特許文献1、特許文献2で開示されているディスクのいずれにおいても、ディスク内の室底面がノズル孔よりも下方に位置するため、ディスク内に噴射物が液膜状に溜まり、ある回転数域で該液膜が不安定振動を起こし、該不安定振動が起振力となって出力軸を振動させて、出力軸の変形、出力軸の軸受の損傷を引き起こしてしまうという問題があった。
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、ディスク内に不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することのできる構成のロータリーアトマイザーの噴霧用ディスク構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明においては、
ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造であって、液体又はスラリー状の噴射物が供給されるディスク室内の、該室内外周壁に沿って周方向に複数個のノズル孔を穿設するとともに、該ノズル孔に夫々噴射ノズルを装着し、出力軸を介してディスクに作用する遠心力を利用して、前記ディスクに供給された噴射物を前記噴射ノズルから噴射させることにより噴霧化させるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、前記ディスク室内に位置する噴射物がディスクの回転により生じる円周方向の慣性力に抗してディスク室内周壁に設けたノズル孔へ向かう遠心力方向に配流を促進させる配流促進手段を、前記ディスクの室内若しくはノズル孔部に設けたことを特徴とする。
このことにより、室内に供給された噴射物はノズル孔へ向かいディスク外への噴霧を促進されるため、ディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することができる。
【0010】
また、前記配流促進手段として、ディスクの室底部をノズル孔へ向かう下向き傾斜としたことを特徴とする。
図1に該特徴を持つディスクの室近傍の基本構成図を示した。図示しない噴射物供給口よりディスク2の室4内に供給された液体又はスラリー状である噴射物は、ノズル3からディスク外部へ噴霧される。室4内に供給された噴射物は室4底部がノズル孔3bへ向かう下向き傾斜であるためノズル孔3bへ向かって流れやすい構成となっている。
即ち液体又はスラリー状である噴射物はノズル孔へ向かって流れやすくなり、従ってディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防ぐことができる。
【0011】
さらに、前記下向き傾斜させたディスクの室底部外周端と、該外周端と対面するノズル入口のR端部下面との高さを一致させたことを特徴とする。
図2に該特徴を持つディスク構造の室近傍の基本構成図を示した。図示しない噴射物供給口よりディスク2の室4内に供給された液体又はスラリー状である噴射物は、ノズル3からディスク外部へ噴霧される。室4内に供給された噴射物は室4底部がノズル孔3bへ向かう下向き傾斜であるためノズル孔3bへ向かって流れやすい構成となっている。さらに、室4外周端と、該外周端と対面するノズル入口のR端部下面3cの高さを一致させるため、ノズル孔3bに装着されたノズル3の室4側には障害となるものがなく、ノズル3をディスク内側から脱着することができる。
即ち、液体又はスラリー状である噴射物はノズル孔へ向かって流れやすくなり、従ってディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防ぐことができることに加えて、ディスク内側からノズル孔へのノズルの脱着が可能となるため、ディスクのメンテナンスが容易となる。
【0012】
さらに、前記ディスクの室底部の下向き傾斜部を含む底部部材を、ディスク本体から分割できる別部材で構成し、該底部部材が分割された後のディスク本体の供給室の底面の少なくとも外周縁がノズル孔下面と同じ高さ又はその下方に位置することを特徴とする。
図3に該特徴を持つディスクの室近傍の基本構成図を示した。図示しない噴射物供給口よりディスク2の室4内に供給された液体又はスラリー状である噴射物は、ノズル3からディスク外部へ噴霧される。室4内に供給された噴射物は室4底部がノズル孔3bへ向かう下向き傾斜であるためノズル孔3bへ向かって流れやすい構成となっている。さらに、底部部材14が分割された後のディスク本体の室4の底面の少なくとも外周縁をノズル孔下面と同じ高さ又はその下方に位置させるため、ノズル孔3bに装着されたノズル3の室4側には障害となるものがなく、ノズル3をディスク内側から脱着することができる。さらにまた、底部部材の傾斜面の外端の高さの調整、傾斜角度の調整等、下向き傾斜部の調整加工を、下向き傾斜部を含む底部部材を分割して実施することができるため、ディスク作成後も下向き傾斜面の調整をすることができる。
即ち、液体又はスラリー状である噴射物はノズル孔へ向かって流れやすくなり、従ってディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防ぐことができることに加えて、底部部材を取り外すことでディスク内側からノズル孔へのノズルの脱着が可能となりディスクのメンテナンスが容易となるとともに、底部部材の傾斜面調整が可能であるため、余剰な噴射物のディスク外への排出(噴霧)の促進効果が高い状態に調整することができ、液膜の形成防止が効率的になされる。
【0013】
また、ノズル孔がノズル孔底面側が平面カットされた逆U字開口であり、該逆U字開口のノズル孔底面と前記ディスクの室底部の下向き傾斜の外端の高さが一致することを特徴とする。
図4に該特徴を持つディスクの室近傍の基本構成図を示した。図示しない噴射物供給口よりディスク2の室4内に供給された液体又はスラリー状である噴射物は、ノズル3からディスク外部へ噴霧される。室4内に供給された噴射物は室4底部がノズル孔3bへ向かう下向き傾斜であるためノズル孔3bへ向かって流れやすい構成となっている。さらに、ノズル孔3b底面側を平面カットし、該平面カットしたノズル孔3b底面と室底部の下向き傾斜部の外端が一致するため、室底部からノズル孔へ及ぶ滑らかな平面が形成される。そのため、噴射物が室4内に供給されてからノズル3よりディスク外へ噴霧されるまでに障害物がなくなり、さらに噴射物がディスク外へ噴霧されやすい構成となっている。さらにまた、ノズル孔3bに装着されたノズル3の室4側には障害となるものがなく、ノズル3をディスク内側から脱着することができる。
このことにより、ディスク内側からノズル孔へのノズルの脱着が可能となりディスクのメンテナンスが容易となるとともに、供給室底部の下向き傾斜とノズル底面が滑らかな面となるため、噴射物のディスク外への排出(噴霧)の促進効果が高くなり、液膜の形成防止が効率的になされる。
【0014】
また、前記配流促進手段として、前記ディスク室内外周壁に沿って周方向に穿設した複数個のノズル孔の隣接するノズル孔間にディスク半径方向に延在する規制手段を設け、該規制手段により前記ディスク室内に位置する噴射物がディスクの回転により生じるディスク周方向へ噴射物の流れを規制可能に構成したことを特徴とする。
このことにより、噴射物は周方向への流れが規制されて、自由に流れることのできるノズル方向への流れが促進されるため、ディスク内に噴射物が溜まりにくくなり、液膜が形成されにくくなる。さらに、周方向への噴射物の流れを規制することによって、供給室全周にわたる液膜の形成を防ぐこともできる。
【0015】
また、ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造であって、液体又はスラリー状の噴射物が供給されるディスク室内の、該室内外周壁に沿って周方向に複数個のノズル孔を穿設するとともに、該ノズル孔に夫々噴射ノズルを装着し、出力軸を介してディスクに作用する遠心力を利用して、前記ディスクに供給された噴射物を前記噴射ノズルから噴射させることにより噴霧化させるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、ノズル孔をディスクの半径方向に対して、ディスク回転方向下流側に水平傾斜させたことを特徴とする。
このことにより、ノズル孔の方向と室内の噴射物の流れの方向が一致するため、該噴射物はディスク外への排出(噴霧)を促進され、ディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することができる。
【0016】
さらに、前記水平傾斜の角度θが、ディスク上から見た流体の周方向への相対速度Uvと、噴射物の半径方向速度urを用いて
θ=tan−1(Uv/ur)[°]
で求められる角度であることを特徴とする。
このことにより、ディスクの供給室内の噴射物が最も排出(噴霧)されやすい水平傾斜の角度となり、効率的に噴射物のディスク外への排出(噴霧)が効率的になされる。
該最適な水平傾斜角度θは以下の方法で求めることができる。
図5はノズル入口近傍の速度ベクトルを示した図である。ノズル入口での噴射物の流れの速度ベクトルは、噴射物半径方向速度ベクトル51と、ディスクから見た噴射物の相対周方向速度ベクトル54の合成ベクトルで表すことができる。図5から明らかであるように、最適角度θは、噴射物の半径方向速度urと、ディスクから見た噴射物の相対周方向速度Uvを用いると、数1に示した式であらわすことができる。
【数1】
さらに、Uv及びurは以下の方法で求めることができる。
ディスクの内周面速度52をUとし、噴射物の周方向速度53はディスク内周面速度52のα倍であるとする。この時、噴射物を回転するディスク上から相対的に見ると、ディスクの回転方向とは逆方向に流れている。すなわち、ディスクから見た噴射物の相対周方向速度54(Uv)は数2で示した式であらわすことができる。
また、αは噴射物の粘度等の性状、量により異なるが、0.6〜0.7である。
【数2】
また、噴射物の最大流量Q[m3/s]とし、n本のノズルから均等に噴射されるとすると、各ノズルの流量はq=Q/n[m3/s]となり、ノズル直径d[m]即ちノズル断面積A=πd2/4であるノズルから噴射される噴射物の半径方向速度は数3で示した式であらわすことができる。
【数3】
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ディスクの室内に噴射物がノズル孔へ向かう配流促進手段を設けることにより、ディスク内の室に余剰な噴射物を溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することができる。
また、ノズル孔をディスクの半径方向に対して、噴射物流出方向に水平傾斜させることによっても、ディスク内の室に余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することができる。
従って、液膜の形成を防止し、不安定振動の発生を防止することができるため、不安定振動が起振力となって出力軸を振動させて、出力軸が変形したり出力軸の軸受が損傷することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0019】
図6(A)は、本実施例1に係るディスク2の断面図である。ディスク2の噴射面6には複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3が備えられている。図6(B)は図6(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は円形である。本発明の特徴的な構成として、室4の底面13aをノズル孔3へ向かう下向き傾斜とした。
【0020】
前記図6に示した構成のディスク2を前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。噴射物供給口8及び9からは噴射物として消石灰(Ca(OH)2)/水スラリーを投入し、駆動モーター10は回転数10000rpmで駆動させた。
噴射物供給口8及び9から投入された消石灰/水スラリーは、ディストリビュータ7によって室4内に均一に分配され、出力軸5を中心にディスク2が回転することによって、その遠心力によってノズル3よりディスク2の外部へ噴霧された。
この時、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
【実施例2】
【0021】
図7(A)は、本実施例2に係るディスク2の断面図である。ディスク2の噴射面6には複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3が備えられている。図7(B)は図7(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は円形である。本発明の特徴的な構成として、室4の底面13aをノズル孔3へ向かう下向き傾斜とし、更に底面13aの下向き傾斜の最外端をノズル3のR端部下面と高さが一致するようにした。
【0022】
前記図7に示した構成のディスク2を前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、実施例1と同じく、噴射物に消石灰/水スラリーを用い、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
この時、実施例1と同様に、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、よって、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
さらに、室4の底面13aの下向き傾斜の最外端をノズル3のR端部下面と高さが一致するようにしたため、ノズル3をディスク2の内側、すなわち室4側から脱着することができるようになり、ディスクのメンテナンス、ノズルの交換が容易となった。
【実施例3】
【0023】
図8(A)は、本実施例3に係るディスク2の断面図である。ディスク2の噴射面6には複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3が備えられている。図8(B)は図8(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は円形である。本発明の特徴的な構成として、室4の底面をノズル孔3へ向かう下向き斜面とし、更に該下向き斜面を含む底部部材14をディスク2と分割できる構成とした。さらに、底部部材14を分割した後のディスク2の室4底面外端はノズル孔3下面よりも下方とした。
なお、底部部材14はディスク2へボルト15で固定するようにしたが、ディスク2と底部部材14の固定手段はボルトに限定されるものではない。また、底部部材14を分割した後のディスク2の室4底面外端はノズル孔3下面と同じ高さまたは下方であればよい。
【0024】
前記図8に示した構成のディスク2を前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、実施例1及び2と同じく、噴射物に消石灰/水スラリーを用い、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
この時、実施例1及び2と同様に、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、よって、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
さらに、底部部材14を分割した後のディスク2の室4底面外端がノズル孔3b下面よりも下方であるため、底面部材14を分割した後は、ノズル3をディスク2の内側、すなわち室4側から脱着することができるようになり、ディスクのメンテナンス、ノズルの交換が容易となった。また、前記下向き斜面部の洗浄やメンテナンスは、底部部材14を取り外して行うことができるため、洗浄やメンテナンス作業が容易になった。
さらにまた、底部部材14の傾斜面の外端の高さがノズル3の内側下面と一致する底部部材14を用いると、室4内に余剰なスラリーを滞留させずに、ノズル3からの噴霧を促進させる効果がさらに高くなる。
【実施例4】
【0025】
図9(A)は、本実施例4に係るディスク2の断面図である。ディスク2の噴射面6には複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3が備えられている。本発明の特徴的な構成として、室4の底面をノズル孔3へ向かう下向き斜面とし、更にノズル孔3b及びノズル3の底面を水平カットしたU字開口とし、該ノズル孔3b及びノズル3の底面と前記室4の下向き斜面外端の高さが一致するようにした。図9(B)は図9(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は底面が水平カットされたU字型となっている。また、図9(A)のA−A断面図が図9(C)に示したような底面が広い逆U字型とすることもできる。
【0026】
前記図9に示した構成のディスク2を前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、実施例1〜3と同じく、噴射物に消石灰/水スラリーを用い、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
この時、実施例1〜3と同様に、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、よって、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
さらに、室4底面外端がノズル孔3下面と同じ高さであるため、ノズル3をディスク2の内側、すなわち室4側から脱着することができるようになり、ディスクのメンテナンス、ノズルの交換が容易となった。
さらにまた、室4底面下向き傾斜とノズル底面が滑らかな面となるため、スラリーのノズル3への流れに障害がなくなり、室4内に余剰なスラリーを滞留させずに、ノズル3からの噴霧を促進させる効果が高くなった。
【実施例5】
【0027】
図10は、本実施例5に係るディスク2の平面図である。複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3がディスク2の噴射面6に備え付けられており、室4内に供給された噴射物は出力軸5を中心にディスク2を高速回転することで、その遠心力によってノズル3よりディスク2の外部へ噴霧される構成となっている。さらに、本発明の特徴的な構成として、室4底面のノズル孔3b間に周方向へ噴射物の流れを規制するリブ16を設けた。
図11は、本実施例5に係るディスク2の室4近傍の断面図である。図11(A)は、高さが室4底面からノズル下面とノズル孔3b及びノズル3の中心3dの間であり、室4外端から内端に延在するリブを用いたディスク2の室4近傍の断面図であり、図11(B)は、高さが室4底面からノズル下面とノズル孔3b及びノズル3の中心3dの間であり、室4外端から外端と内端の中間に延在するリブを用いたディスク2の室4近傍の断面図であり、図11(C)は、高さが室4底面からノズル孔3b及びノズル3の中心3dであり、室4外端から内端に延在し、上部に複数の溝17を設けたリブを用いたディスク2の室4近傍の断面図であり、図11(D)は、高さが室4底面からノズル孔3b及びノズル3の中心3dであり、室4外端から内端に延在し、複数の孔18を設けたリブを用いたディスク2の室4近傍の断面図である。
【0028】
前記図11(A)〜(D)に示した構成のディスク2をそれぞれ前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、実施例1〜4と同じく、噴射物に消石灰/水スラリーを用い、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
図11(A)〜(D)に示したいずれのディスク2を用いたときも、実施例1〜4と同様に、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、よって、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
これは、噴射物は周方向への流れが規制されるため、自由に流れることのできるノズル方向への流れが促進され、ディスク内に噴射物が溜まりにくくなり、液膜が形成されにくくなること、さらに、周方向への噴射物の流れを規制することによって、供給室全周にわたる液膜の形成を防ぐこともできるためである。
また、図11(A)のディスク2においてはリブ16の上部、図11(B)のディスク2においてはリブ16の上部及び室4内側部、図11(C)のディスク2においてはリブ16の上部及び溝17、図11(D)のディスクのディスク2においてはリブ16の上部及び孔18からスラリーがリブ16を越えることができるため、ノズル3のうち1箇所が閉塞するトラブルが発生しても、該閉塞した1箇所のノズル3近傍だけにスラリーが滞留することはなく、室4全体にスラリーが均一に分配される。
【実施例6】
【0029】
図12は、本実施例6に係るディスク2の平面の一部である扇形の図である。ノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3がディスク2の噴射面6に備え付けられており、室4内に供給された噴射物は出力軸5を中心にディスク2を高速回転することで、その遠心力によってノズル3よりディスク2の外部へ噴霧される構成となっている。さらに、本発明の特徴的な構成として、ノズル孔3bをディスク2の半径方向に対して、噴射物流出方向、即ちディスク2の回転と反対の方向に角度θだけ水平傾斜させた。
【0030】
水平傾斜角度θは、数5で示す計算式で求めることが最適であり、本実施例においても数4で示した計算式で求めた水平傾斜角度θだけノズル孔3bを水平傾斜させたが、水平傾斜3bはこれに限定されるものではない。
【0031】
【数4】
【0032】
前記図12に示した構成のディスク2を前記図9に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、噴射物に消石灰/水スラリーを最大流量Q=0.002m3/sで投入し、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
【0033】
ここで、数5で求められる水平傾斜角度θは、具体的には以下の計算をおこなって79.45°とした。
本実施例において、ディスクの回転数が10000rpmであり、ディスク直径0.17mのディスクを使用したため、ディスクの内周面速度Uは89.0m/sである。また、消石灰/水スラリーの周方向速度はディスク内周面速度のα=0.7倍であるとする。このとき、ディスクから見た噴射物の相対周方向速度Uvは、前記数2を利用して、
Uv=U(1−α)=89.0×(1−0.7)=26.7m/sである。
また、最大流量Q=0.002m3/sの消石灰/水スラリーを8本のノズルから均等に噴射されているとすると、ノズル1本当たりの流量qはq=0.002/8=0.00025m3/sとなる。ここで、ノズル直径d=0.008m即ちノズル断面積A=π×0.0082/4=5.03×10−5m2であるノズルから噴射される噴射物の半径方向速度Urは前記数3を利用して、
Ur=q/A=4Q/nπd2=4×0.002/(8×π×0.0082)=4.97m/sである。
従って水平傾斜角度θは前記数1を利用して、
θ=tan−1(Uv/Ur)=tan−1(26.7/4.97)=79.45° となる。
【0034】
この時、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
これは、ノズル孔3bの方向と室4内のスラリーの流れの方向が一致するため、該スラリーはディスク2外への排出(噴霧)を促進されるためである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、ディスク内に不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することのできる構成のロータリーアトマイザーの噴霧用ディスク構造を提供することができ、出力軸の不安定振動を防止することができるため、ロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】前記配流促進手段として、ディスクの室底部をノズル孔へ向かう下向き傾斜としたディスクの室近傍の基本構成図である。
【図2】下向き傾斜させたディスクの室底部外周端と、該外周端と対面するノズル入口のR端部下面との高さを一致させたディスクの室近傍の基本構成図である。
【図3】ディスクの室底部の下向き傾斜部を含む底部部材を、ディスク本体から分割できる別部材で構成し、該底部部材が分割された後のディスク本体の供給室の底面の少なくとも外周縁がノズル孔下面と同じ高さ又はその下方に位置するディスクの室近傍の基本構成図である。
【図4】ノズル孔がノズル孔底面側が平面カットされた逆U字開口であり、該逆U字開口のノズル孔底面と前記ディスクの室底部の下向き傾斜の外端の高さが一致するディスクの室近傍の基本構成図である。
【図5】ノズル入口近傍の速度ベクトルを示した図である。
【図6】本実施例1に係るディスク2の断面図である。
【図7】本実施例2に係るディスク2の断面図である。
【図8】本実施例3に係るディスク2の断面図である。
【図9】本実施例4に係るディスク2の断面図である。
【図10】本実施例5に係るディスク2の平面図である。
【図11】本実施例5に係るディスク2の室4近傍の断面図である。
【図12】本実施例6に係るディスク2の平面の一部の扇形の図である。
【図13】一般に用いられているロータリーアトマイザの正面図である。
【図14】ディスク2の平面図である。
【図15】ディスク2の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ロータリーアトマイザ
2 ディスク
3 ノズル
3b ノズル孔
4 室
5 出力軸
6 噴射面
8、9 噴射物供給口
10 モーター
13a ディスク底面
14 底部部材
16 リブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼排ガスの処理、食品や石鹸等の日用品やファインセラミックス、医薬品等の乾燥、造粒等で用いられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーアトマイザは、ロータリーアトマイザ本体の高速回転機構の出力軸の先端に取り付けた噴霧用ディスクを高速回転し、高速回転による遠心力を利用してディスクから液体又はスラリーを噴霧することができる装置であり、燃焼排ガスの処理や、食品や石鹸等の日用品の乾燥等に用いられ、調整される粉末がミクロな球状粒子であるため、ファインセラミックス、医薬品等の乾燥、造粒等でも用いられる。
【0003】
現在、一般に用いられているロータリーアトマイザの正面図を図13に示した。高速回転することのできる駆動モーター10にカップリング12を介して出力軸5が取り付けられており、該出力軸5の先端には複数のノズル3と室4が設けられたディスク2が取り付けられている。駆動モーター10を高速回転することで、出力軸5及び出力軸5の先端に取り付けられたディスク2が高速回転し、その遠心力によって、噴射物供給口8及び9よりディスク2内の室4に供給された液体、スラリー等の噴射物はノズル3よりロータリーアトマイザ1の外部へ噴霧される。
駆動モーター10は、使用する噴射物の性状、量により異なるが出力軸5及びディスク2が通常6000〜30000rpmとなるように回転数を調節する。また、図13のロータリーアトマイザでは高速回転することのできる駆動モーター10を用いているが、目的の回転数よりも回転能力の低い駆動モーターを用いて増速装置で増速し、出力軸5及びディスク2が目的の回転数で回転するように調節することもある。
【0004】
さらに、ディスク2について、図14、図15に詳しく示した。
図14はディスク2の平面図である。複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3がディスク2の噴射面6に備え付けられており、室4内に供給された噴射物は出力軸5を中心にディスク2を高速回転することで、その遠心力によってノズル3よりディスク2の外部へ噴霧される構成となっている。
図15(A)はディスク2の断面図である。前記噴射物供給口より供給された噴射物は、ディストリビューター7によって室4内に噴射物量が均一になるように分配される。室4の底面13の最底部はノズル孔3bの下部よりも下方に位置し、出力軸5を中心にディスク2が高速回転することによって、その遠心力によって室4内に溜まった噴射物がせり上がり、ノズル3よりディスク2の外部へ噴霧される構成となっている。図15(B)は図15(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は円形である。
【0005】
しかしながら、図14及び図15で示した構成のディスクでは、噴射物が磨耗性を有する場合、噴射物がディスク本体の室4内の壁面を磨耗させてしまうという問題があり、磨耗を防止するためにノズル内端部を室側に突出させて室外周面に被覆膜を形成させた場合、被覆膜がノズル内壁にも生じ、ノズルが閉塞するという問題があった。
そこで、特許文献1にはディスク本体の室内にその天井壁面及び底壁面からノズルに向かって傾斜するテーパ面を設け、且つノズル孔を室内テーパ面に連続し孔中間で小径となる内方拡開のテーパ孔部と、孔中間の小径部からノズル出口端に向かって外方拡開のテーパ孔部とで構成したディスクが開示されている。
【0006】
また、ディスクの円筒状の噴射面に開口する複数のノズル孔に噴射側端面が平面であるノズルを装着すると噴射面の噴射ノズル周囲に凹凸ができ、噴射ノズル周囲が削られ、ディスクの軸線に対する重量アンバランスが生じ出力軸の異常振動を引き起こすため、ディスクを頻繁に交換しなければならないという問題があった。
そこで特許文献2には、噴射面の形状を出力軸の軸線上の一点を中心とし、該中心から噴射面外周を半径とする球面を形成するとともに、ノズルを前記中心から放射状に配置し、噴射側端面の外縁を装着孔内縁に一致させて装着したディスクが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特公昭61−37992号公報
【特許文献2】特開平11−138057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ロータリーアトマイザは出力軸の先端に重いディスクを取り付けて高速回転するため振動しやすい構造であることに加えて、前記図14及び図15で示した構成のディスク、特許文献1、特許文献2で開示されているディスクのいずれにおいても、ディスク内の室底面がノズル孔よりも下方に位置するため、ディスク内に噴射物が液膜状に溜まり、ある回転数域で該液膜が不安定振動を起こし、該不安定振動が起振力となって出力軸を振動させて、出力軸の変形、出力軸の軸受の損傷を引き起こしてしまうという問題があった。
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、ディスク内に不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することのできる構成のロータリーアトマイザーの噴霧用ディスク構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明においては、
ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造であって、液体又はスラリー状の噴射物が供給されるディスク室内の、該室内外周壁に沿って周方向に複数個のノズル孔を穿設するとともに、該ノズル孔に夫々噴射ノズルを装着し、出力軸を介してディスクに作用する遠心力を利用して、前記ディスクに供給された噴射物を前記噴射ノズルから噴射させることにより噴霧化させるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、前記ディスク室内に位置する噴射物がディスクの回転により生じる円周方向の慣性力に抗してディスク室内周壁に設けたノズル孔へ向かう遠心力方向に配流を促進させる配流促進手段を、前記ディスクの室内若しくはノズル孔部に設けたことを特徴とする。
このことにより、室内に供給された噴射物はノズル孔へ向かいディスク外への噴霧を促進されるため、ディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することができる。
【0010】
また、前記配流促進手段として、ディスクの室底部をノズル孔へ向かう下向き傾斜としたことを特徴とする。
図1に該特徴を持つディスクの室近傍の基本構成図を示した。図示しない噴射物供給口よりディスク2の室4内に供給された液体又はスラリー状である噴射物は、ノズル3からディスク外部へ噴霧される。室4内に供給された噴射物は室4底部がノズル孔3bへ向かう下向き傾斜であるためノズル孔3bへ向かって流れやすい構成となっている。
即ち液体又はスラリー状である噴射物はノズル孔へ向かって流れやすくなり、従ってディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防ぐことができる。
【0011】
さらに、前記下向き傾斜させたディスクの室底部外周端と、該外周端と対面するノズル入口のR端部下面との高さを一致させたことを特徴とする。
図2に該特徴を持つディスク構造の室近傍の基本構成図を示した。図示しない噴射物供給口よりディスク2の室4内に供給された液体又はスラリー状である噴射物は、ノズル3からディスク外部へ噴霧される。室4内に供給された噴射物は室4底部がノズル孔3bへ向かう下向き傾斜であるためノズル孔3bへ向かって流れやすい構成となっている。さらに、室4外周端と、該外周端と対面するノズル入口のR端部下面3cの高さを一致させるため、ノズル孔3bに装着されたノズル3の室4側には障害となるものがなく、ノズル3をディスク内側から脱着することができる。
即ち、液体又はスラリー状である噴射物はノズル孔へ向かって流れやすくなり、従ってディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防ぐことができることに加えて、ディスク内側からノズル孔へのノズルの脱着が可能となるため、ディスクのメンテナンスが容易となる。
【0012】
さらに、前記ディスクの室底部の下向き傾斜部を含む底部部材を、ディスク本体から分割できる別部材で構成し、該底部部材が分割された後のディスク本体の供給室の底面の少なくとも外周縁がノズル孔下面と同じ高さ又はその下方に位置することを特徴とする。
図3に該特徴を持つディスクの室近傍の基本構成図を示した。図示しない噴射物供給口よりディスク2の室4内に供給された液体又はスラリー状である噴射物は、ノズル3からディスク外部へ噴霧される。室4内に供給された噴射物は室4底部がノズル孔3bへ向かう下向き傾斜であるためノズル孔3bへ向かって流れやすい構成となっている。さらに、底部部材14が分割された後のディスク本体の室4の底面の少なくとも外周縁をノズル孔下面と同じ高さ又はその下方に位置させるため、ノズル孔3bに装着されたノズル3の室4側には障害となるものがなく、ノズル3をディスク内側から脱着することができる。さらにまた、底部部材の傾斜面の外端の高さの調整、傾斜角度の調整等、下向き傾斜部の調整加工を、下向き傾斜部を含む底部部材を分割して実施することができるため、ディスク作成後も下向き傾斜面の調整をすることができる。
即ち、液体又はスラリー状である噴射物はノズル孔へ向かって流れやすくなり、従ってディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防ぐことができることに加えて、底部部材を取り外すことでディスク内側からノズル孔へのノズルの脱着が可能となりディスクのメンテナンスが容易となるとともに、底部部材の傾斜面調整が可能であるため、余剰な噴射物のディスク外への排出(噴霧)の促進効果が高い状態に調整することができ、液膜の形成防止が効率的になされる。
【0013】
また、ノズル孔がノズル孔底面側が平面カットされた逆U字開口であり、該逆U字開口のノズル孔底面と前記ディスクの室底部の下向き傾斜の外端の高さが一致することを特徴とする。
図4に該特徴を持つディスクの室近傍の基本構成図を示した。図示しない噴射物供給口よりディスク2の室4内に供給された液体又はスラリー状である噴射物は、ノズル3からディスク外部へ噴霧される。室4内に供給された噴射物は室4底部がノズル孔3bへ向かう下向き傾斜であるためノズル孔3bへ向かって流れやすい構成となっている。さらに、ノズル孔3b底面側を平面カットし、該平面カットしたノズル孔3b底面と室底部の下向き傾斜部の外端が一致するため、室底部からノズル孔へ及ぶ滑らかな平面が形成される。そのため、噴射物が室4内に供給されてからノズル3よりディスク外へ噴霧されるまでに障害物がなくなり、さらに噴射物がディスク外へ噴霧されやすい構成となっている。さらにまた、ノズル孔3bに装着されたノズル3の室4側には障害となるものがなく、ノズル3をディスク内側から脱着することができる。
このことにより、ディスク内側からノズル孔へのノズルの脱着が可能となりディスクのメンテナンスが容易となるとともに、供給室底部の下向き傾斜とノズル底面が滑らかな面となるため、噴射物のディスク外への排出(噴霧)の促進効果が高くなり、液膜の形成防止が効率的になされる。
【0014】
また、前記配流促進手段として、前記ディスク室内外周壁に沿って周方向に穿設した複数個のノズル孔の隣接するノズル孔間にディスク半径方向に延在する規制手段を設け、該規制手段により前記ディスク室内に位置する噴射物がディスクの回転により生じるディスク周方向へ噴射物の流れを規制可能に構成したことを特徴とする。
このことにより、噴射物は周方向への流れが規制されて、自由に流れることのできるノズル方向への流れが促進されるため、ディスク内に噴射物が溜まりにくくなり、液膜が形成されにくくなる。さらに、周方向への噴射物の流れを規制することによって、供給室全周にわたる液膜の形成を防ぐこともできる。
【0015】
また、ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造であって、液体又はスラリー状の噴射物が供給されるディスク室内の、該室内外周壁に沿って周方向に複数個のノズル孔を穿設するとともに、該ノズル孔に夫々噴射ノズルを装着し、出力軸を介してディスクに作用する遠心力を利用して、前記ディスクに供給された噴射物を前記噴射ノズルから噴射させることにより噴霧化させるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、ノズル孔をディスクの半径方向に対して、ディスク回転方向下流側に水平傾斜させたことを特徴とする。
このことにより、ノズル孔の方向と室内の噴射物の流れの方向が一致するため、該噴射物はディスク外への排出(噴霧)を促進され、ディスク内には余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することができる。
【0016】
さらに、前記水平傾斜の角度θが、ディスク上から見た流体の周方向への相対速度Uvと、噴射物の半径方向速度urを用いて
θ=tan−1(Uv/ur)[°]
で求められる角度であることを特徴とする。
このことにより、ディスクの供給室内の噴射物が最も排出(噴霧)されやすい水平傾斜の角度となり、効率的に噴射物のディスク外への排出(噴霧)が効率的になされる。
該最適な水平傾斜角度θは以下の方法で求めることができる。
図5はノズル入口近傍の速度ベクトルを示した図である。ノズル入口での噴射物の流れの速度ベクトルは、噴射物半径方向速度ベクトル51と、ディスクから見た噴射物の相対周方向速度ベクトル54の合成ベクトルで表すことができる。図5から明らかであるように、最適角度θは、噴射物の半径方向速度urと、ディスクから見た噴射物の相対周方向速度Uvを用いると、数1に示した式であらわすことができる。
【数1】
さらに、Uv及びurは以下の方法で求めることができる。
ディスクの内周面速度52をUとし、噴射物の周方向速度53はディスク内周面速度52のα倍であるとする。この時、噴射物を回転するディスク上から相対的に見ると、ディスクの回転方向とは逆方向に流れている。すなわち、ディスクから見た噴射物の相対周方向速度54(Uv)は数2で示した式であらわすことができる。
また、αは噴射物の粘度等の性状、量により異なるが、0.6〜0.7である。
【数2】
また、噴射物の最大流量Q[m3/s]とし、n本のノズルから均等に噴射されるとすると、各ノズルの流量はq=Q/n[m3/s]となり、ノズル直径d[m]即ちノズル断面積A=πd2/4であるノズルから噴射される噴射物の半径方向速度は数3で示した式であらわすことができる。
【数3】
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ディスクの室内に噴射物がノズル孔へ向かう配流促進手段を設けることにより、ディスク内の室に余剰な噴射物を溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することができる。
また、ノズル孔をディスクの半径方向に対して、噴射物流出方向に水平傾斜させることによっても、ディスク内の室に余剰な噴射物が溜まらず、不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することができる。
従って、液膜の形成を防止し、不安定振動の発生を防止することができるため、不安定振動が起振力となって出力軸を振動させて、出力軸が変形したり出力軸の軸受が損傷することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0019】
図6(A)は、本実施例1に係るディスク2の断面図である。ディスク2の噴射面6には複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3が備えられている。図6(B)は図6(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は円形である。本発明の特徴的な構成として、室4の底面13aをノズル孔3へ向かう下向き傾斜とした。
【0020】
前記図6に示した構成のディスク2を前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。噴射物供給口8及び9からは噴射物として消石灰(Ca(OH)2)/水スラリーを投入し、駆動モーター10は回転数10000rpmで駆動させた。
噴射物供給口8及び9から投入された消石灰/水スラリーは、ディストリビュータ7によって室4内に均一に分配され、出力軸5を中心にディスク2が回転することによって、その遠心力によってノズル3よりディスク2の外部へ噴霧された。
この時、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
【実施例2】
【0021】
図7(A)は、本実施例2に係るディスク2の断面図である。ディスク2の噴射面6には複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3が備えられている。図7(B)は図7(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は円形である。本発明の特徴的な構成として、室4の底面13aをノズル孔3へ向かう下向き傾斜とし、更に底面13aの下向き傾斜の最外端をノズル3のR端部下面と高さが一致するようにした。
【0022】
前記図7に示した構成のディスク2を前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、実施例1と同じく、噴射物に消石灰/水スラリーを用い、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
この時、実施例1と同様に、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、よって、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
さらに、室4の底面13aの下向き傾斜の最外端をノズル3のR端部下面と高さが一致するようにしたため、ノズル3をディスク2の内側、すなわち室4側から脱着することができるようになり、ディスクのメンテナンス、ノズルの交換が容易となった。
【実施例3】
【0023】
図8(A)は、本実施例3に係るディスク2の断面図である。ディスク2の噴射面6には複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3が備えられている。図8(B)は図8(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は円形である。本発明の特徴的な構成として、室4の底面をノズル孔3へ向かう下向き斜面とし、更に該下向き斜面を含む底部部材14をディスク2と分割できる構成とした。さらに、底部部材14を分割した後のディスク2の室4底面外端はノズル孔3下面よりも下方とした。
なお、底部部材14はディスク2へボルト15で固定するようにしたが、ディスク2と底部部材14の固定手段はボルトに限定されるものではない。また、底部部材14を分割した後のディスク2の室4底面外端はノズル孔3下面と同じ高さまたは下方であればよい。
【0024】
前記図8に示した構成のディスク2を前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、実施例1及び2と同じく、噴射物に消石灰/水スラリーを用い、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
この時、実施例1及び2と同様に、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、よって、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
さらに、底部部材14を分割した後のディスク2の室4底面外端がノズル孔3b下面よりも下方であるため、底面部材14を分割した後は、ノズル3をディスク2の内側、すなわち室4側から脱着することができるようになり、ディスクのメンテナンス、ノズルの交換が容易となった。また、前記下向き斜面部の洗浄やメンテナンスは、底部部材14を取り外して行うことができるため、洗浄やメンテナンス作業が容易になった。
さらにまた、底部部材14の傾斜面の外端の高さがノズル3の内側下面と一致する底部部材14を用いると、室4内に余剰なスラリーを滞留させずに、ノズル3からの噴霧を促進させる効果がさらに高くなる。
【実施例4】
【0025】
図9(A)は、本実施例4に係るディスク2の断面図である。ディスク2の噴射面6には複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3が備えられている。本発明の特徴的な構成として、室4の底面をノズル孔3へ向かう下向き斜面とし、更にノズル孔3b及びノズル3の底面を水平カットしたU字開口とし、該ノズル孔3b及びノズル3の底面と前記室4の下向き斜面外端の高さが一致するようにした。図9(B)は図9(A)のA−A断面図であり、ノズル孔3b及びノズル3は底面が水平カットされたU字型となっている。また、図9(A)のA−A断面図が図9(C)に示したような底面が広い逆U字型とすることもできる。
【0026】
前記図9に示した構成のディスク2を前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、実施例1〜3と同じく、噴射物に消石灰/水スラリーを用い、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
この時、実施例1〜3と同様に、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、よって、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
さらに、室4底面外端がノズル孔3下面と同じ高さであるため、ノズル3をディスク2の内側、すなわち室4側から脱着することができるようになり、ディスクのメンテナンス、ノズルの交換が容易となった。
さらにまた、室4底面下向き傾斜とノズル底面が滑らかな面となるため、スラリーのノズル3への流れに障害がなくなり、室4内に余剰なスラリーを滞留させずに、ノズル3からの噴霧を促進させる効果が高くなった。
【実施例5】
【0027】
図10は、本実施例5に係るディスク2の平面図である。複数のノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3がディスク2の噴射面6に備え付けられており、室4内に供給された噴射物は出力軸5を中心にディスク2を高速回転することで、その遠心力によってノズル3よりディスク2の外部へ噴霧される構成となっている。さらに、本発明の特徴的な構成として、室4底面のノズル孔3b間に周方向へ噴射物の流れを規制するリブ16を設けた。
図11は、本実施例5に係るディスク2の室4近傍の断面図である。図11(A)は、高さが室4底面からノズル下面とノズル孔3b及びノズル3の中心3dの間であり、室4外端から内端に延在するリブを用いたディスク2の室4近傍の断面図であり、図11(B)は、高さが室4底面からノズル下面とノズル孔3b及びノズル3の中心3dの間であり、室4外端から外端と内端の中間に延在するリブを用いたディスク2の室4近傍の断面図であり、図11(C)は、高さが室4底面からノズル孔3b及びノズル3の中心3dであり、室4外端から内端に延在し、上部に複数の溝17を設けたリブを用いたディスク2の室4近傍の断面図であり、図11(D)は、高さが室4底面からノズル孔3b及びノズル3の中心3dであり、室4外端から内端に延在し、複数の孔18を設けたリブを用いたディスク2の室4近傍の断面図である。
【0028】
前記図11(A)〜(D)に示した構成のディスク2をそれぞれ前記図13に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、実施例1〜4と同じく、噴射物に消石灰/水スラリーを用い、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
図11(A)〜(D)に示したいずれのディスク2を用いたときも、実施例1〜4と同様に、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、よって、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
これは、噴射物は周方向への流れが規制されるため、自由に流れることのできるノズル方向への流れが促進され、ディスク内に噴射物が溜まりにくくなり、液膜が形成されにくくなること、さらに、周方向への噴射物の流れを規制することによって、供給室全周にわたる液膜の形成を防ぐこともできるためである。
また、図11(A)のディスク2においてはリブ16の上部、図11(B)のディスク2においてはリブ16の上部及び室4内側部、図11(C)のディスク2においてはリブ16の上部及び溝17、図11(D)のディスクのディスク2においてはリブ16の上部及び孔18からスラリーがリブ16を越えることができるため、ノズル3のうち1箇所が閉塞するトラブルが発生しても、該閉塞した1箇所のノズル3近傍だけにスラリーが滞留することはなく、室4全体にスラリーが均一に分配される。
【実施例6】
【0029】
図12は、本実施例6に係るディスク2の平面の一部である扇形の図である。ノズル孔3bと、ノズル孔3bに装着されたノズル3がディスク2の噴射面6に備え付けられており、室4内に供給された噴射物は出力軸5を中心にディスク2を高速回転することで、その遠心力によってノズル3よりディスク2の外部へ噴霧される構成となっている。さらに、本発明の特徴的な構成として、ノズル孔3bをディスク2の半径方向に対して、噴射物流出方向、即ちディスク2の回転と反対の方向に角度θだけ水平傾斜させた。
【0030】
水平傾斜角度θは、数5で示す計算式で求めることが最適であり、本実施例においても数4で示した計算式で求めた水平傾斜角度θだけノズル孔3bを水平傾斜させたが、水平傾斜3bはこれに限定されるものではない。
【0031】
【数4】
【0032】
前記図12に示した構成のディスク2を前記図9に全体図を示したロータリーアトマイザ1の出力軸5の先端に取り付け、ロータリーアトマイザ1を稼動させた。稼動の条件は、噴射物に消石灰/水スラリーを最大流量Q=0.002m3/sで投入し、駆動モーター10の回転数は10000rpmとした。
【0033】
ここで、数5で求められる水平傾斜角度θは、具体的には以下の計算をおこなって79.45°とした。
本実施例において、ディスクの回転数が10000rpmであり、ディスク直径0.17mのディスクを使用したため、ディスクの内周面速度Uは89.0m/sである。また、消石灰/水スラリーの周方向速度はディスク内周面速度のα=0.7倍であるとする。このとき、ディスクから見た噴射物の相対周方向速度Uvは、前記数2を利用して、
Uv=U(1−α)=89.0×(1−0.7)=26.7m/sである。
また、最大流量Q=0.002m3/sの消石灰/水スラリーを8本のノズルから均等に噴射されているとすると、ノズル1本当たりの流量qはq=0.002/8=0.00025m3/sとなる。ここで、ノズル直径d=0.008m即ちノズル断面積A=π×0.0082/4=5.03×10−5m2であるノズルから噴射される噴射物の半径方向速度Urは前記数3を利用して、
Ur=q/A=4Q/nπd2=4×0.002/(8×π×0.0082)=4.97m/sである。
従って水平傾斜角度θは前記数1を利用して、
θ=tan−1(Uv/Ur)=tan−1(26.7/4.97)=79.45° となる。
【0034】
この時、ディスク2の室4に供給された消石灰/水スラリーは室4内に滞留することなく、ノズル3より噴霧された。ディスク2内にはスラリーが滞留しないため液膜もできず、液膜に起因する不安定振動、該不安定振動が原因による出力軸5の変形、出力軸5の軸受の損傷といった問題も発生せず、ロータリーアトマイザを安定稼動させることができた。
これは、ノズル孔3bの方向と室4内のスラリーの流れの方向が一致するため、該スラリーはディスク2外への排出(噴霧)を促進されるためである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、ディスク内に不安定振動の原因となる液膜の形成を防止することのできる構成のロータリーアトマイザーの噴霧用ディスク構造を提供することができ、出力軸の不安定振動を防止することができるため、ロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】前記配流促進手段として、ディスクの室底部をノズル孔へ向かう下向き傾斜としたディスクの室近傍の基本構成図である。
【図2】下向き傾斜させたディスクの室底部外周端と、該外周端と対面するノズル入口のR端部下面との高さを一致させたディスクの室近傍の基本構成図である。
【図3】ディスクの室底部の下向き傾斜部を含む底部部材を、ディスク本体から分割できる別部材で構成し、該底部部材が分割された後のディスク本体の供給室の底面の少なくとも外周縁がノズル孔下面と同じ高さ又はその下方に位置するディスクの室近傍の基本構成図である。
【図4】ノズル孔がノズル孔底面側が平面カットされた逆U字開口であり、該逆U字開口のノズル孔底面と前記ディスクの室底部の下向き傾斜の外端の高さが一致するディスクの室近傍の基本構成図である。
【図5】ノズル入口近傍の速度ベクトルを示した図である。
【図6】本実施例1に係るディスク2の断面図である。
【図7】本実施例2に係るディスク2の断面図である。
【図8】本実施例3に係るディスク2の断面図である。
【図9】本実施例4に係るディスク2の断面図である。
【図10】本実施例5に係るディスク2の平面図である。
【図11】本実施例5に係るディスク2の室4近傍の断面図である。
【図12】本実施例6に係るディスク2の平面の一部の扇形の図である。
【図13】一般に用いられているロータリーアトマイザの正面図である。
【図14】ディスク2の平面図である。
【図15】ディスク2の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ロータリーアトマイザ
2 ディスク
3 ノズル
3b ノズル孔
4 室
5 出力軸
6 噴射面
8、9 噴射物供給口
10 モーター
13a ディスク底面
14 底部部材
16 リブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造であって、液体又はスラリー状の噴射物が供給されるディスク室内の、該室内外周壁に沿って周方向に複数個のノズル孔を穿設するとともに、該ノズル孔に夫々噴射ノズルを装着し、出力軸を介してディスクに作用する遠心力を利用して、前記ディスクに供給された噴射物を前記噴射ノズルから噴射させることにより噴霧化させるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、
前記ディスク室内に位置する噴射物がディスクの回転により生じる円周方向の慣性力に抗してディスク室内周壁に設けたノズル孔へ向かう遠心力方向に配流を促進させる配流促進手段を、前記ディスクの室内若しくはノズル孔部に設けたことを特徴とするロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項2】
前記配流促進手段として、ディスクの室底部をノズル孔へ向かう下向き傾斜としたことを特徴とする請求項1記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項3】
前記下向き傾斜させたディスクの室底部外周端と、該外周端と対面するノズル入口のR端部下面との高さを一致させたことを特徴とする請求項2記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項4】
前記ディスクの室底部の下向き傾斜部を含む底部部材を、ディスク本体から分割できる別部材で構成し、該底部部材が分割された後のディスク本体の供給室の底面の少なくとも外周縁がノズル孔下面と同じ高さ又はその下方に位置することを特徴とする請求項2記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項5】
ノズル孔がノズル孔底面側が平面カットされた逆U字開口であり、該逆U字開口のノズル孔底面と前記ディスクの室底部の下向き傾斜の外端の高さが一致することを特徴とする請求項2記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項6】
前記配流促進手段として、前記ディスク室内外周壁に沿って周方向に穿設した複数個のノズル孔の隣接するノズル孔間にディスク半径方向に延在する規制手段を設け、該規制手段により前記ディスク室内に位置する噴射物がディスクの回転により生じるディスク周方向へ噴射物の流れを規制可能に構成したことを特徴とする請求項1記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項7】
ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造であって、液体又はスラリー状の噴射物が供給されるディスク室内の、該室内外周壁に沿って周方向に複数個のノズル孔を穿設するとともに、該ノズル孔に夫々噴射ノズルを装着し、出力軸を介してディスクに作用する遠心力を利用して、前記ディスクに供給された噴射物を前記噴射ノズルから噴射させることにより噴霧化させるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、
ノズル孔をディスクの半径方向に対して、ディスク回転方向下流側に水平傾斜させたことを特徴とするロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項8】
前記水平傾斜の角度θが、ディスク上から見た流体の周方向への相対速度Uvと、噴射物の半径方向速度urを用いて
θ=tan−1(Uv/ur)[°]
で求められる角度であることを特徴とする請求項7記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項1】
ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造であって、液体又はスラリー状の噴射物が供給されるディスク室内の、該室内外周壁に沿って周方向に複数個のノズル孔を穿設するとともに、該ノズル孔に夫々噴射ノズルを装着し、出力軸を介してディスクに作用する遠心力を利用して、前記ディスクに供給された噴射物を前記噴射ノズルから噴射させることにより噴霧化させるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、
前記ディスク室内に位置する噴射物がディスクの回転により生じる円周方向の慣性力に抗してディスク室内周壁に設けたノズル孔へ向かう遠心力方向に配流を促進させる配流促進手段を、前記ディスクの室内若しくはノズル孔部に設けたことを特徴とするロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項2】
前記配流促進手段として、ディスクの室底部をノズル孔へ向かう下向き傾斜としたことを特徴とする請求項1記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項3】
前記下向き傾斜させたディスクの室底部外周端と、該外周端と対面するノズル入口のR端部下面との高さを一致させたことを特徴とする請求項2記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項4】
前記ディスクの室底部の下向き傾斜部を含む底部部材を、ディスク本体から分割できる別部材で構成し、該底部部材が分割された後のディスク本体の供給室の底面の少なくとも外周縁がノズル孔下面と同じ高さ又はその下方に位置することを特徴とする請求項2記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項5】
ノズル孔がノズル孔底面側が平面カットされた逆U字開口であり、該逆U字開口のノズル孔底面と前記ディスクの室底部の下向き傾斜の外端の高さが一致することを特徴とする請求項2記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項6】
前記配流促進手段として、前記ディスク室内外周壁に沿って周方向に穿設した複数個のノズル孔の隣接するノズル孔間にディスク半径方向に延在する規制手段を設け、該規制手段により前記ディスク室内に位置する噴射物がディスクの回転により生じるディスク周方向へ噴射物の流れを規制可能に構成したことを特徴とする請求項1記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項7】
ロータリーアトマイザ本体の回転機構の出力軸の先端に取り付けられるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造であって、液体又はスラリー状の噴射物が供給されるディスク室内の、該室内外周壁に沿って周方向に複数個のノズル孔を穿設するとともに、該ノズル孔に夫々噴射ノズルを装着し、出力軸を介してディスクに作用する遠心力を利用して、前記ディスクに供給された噴射物を前記噴射ノズルから噴射させることにより噴霧化させるロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造において、
ノズル孔をディスクの半径方向に対して、ディスク回転方向下流側に水平傾斜させたことを特徴とするロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【請求項8】
前記水平傾斜の角度θが、ディスク上から見た流体の周方向への相対速度Uvと、噴射物の半径方向速度urを用いて
θ=tan−1(Uv/ur)[°]
で求められる角度であることを特徴とする請求項7記載のロータリーアトマイザの噴霧用ディスク構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−222783(P2007−222783A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46820(P2006−46820)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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