説明

ロータリーガン用ノズル

【課題】被処理面にウォータージェットを扇形状に噴出して移動軌跡が筋として残ることがなく、単位時間あたりの処理面積が広くなり、作業時間を短縮化できるロータリーガン用ノズルを提供する。
【解決手段】ロータリーガン用ノズル主体1の先端面に、ウォータージェットを扇形状に噴出する複数個の平射ノズル5,5を設ける。該平射ノズル5,5は回転中心軸線に対して、回転方向に傾斜する傾斜角を有し、さらに中心点に対して対称位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータージェットを処理対象物に扇形状に噴射して塗膜剥離、目荒し、はつり、洗浄、アスベスト除去などの処理作業を行う時に使用するロータリーガン用ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建設・土木分野などにおいてウォータージェットを用いる処理作業は広く行われている。例えば、古くなった建築構造物の外装塗膜面が長い年月の経過により、汚れたり、膨れたり、ヒビ割れなどが生じて改修工事をするための塗膜剥離をする時、あるいはコンクリート面にタイルを貼る際に、タイルの付着をよくするために下地に微細な凹凸をつけるための目荒らしをする時、さらには劣化したコンクリートをはつり落とす時、または天井や壁に吹き付けられたアスベストを除去する時などには、ウォータージェットを被処理面に噴射して、そのウォータージェットの持つエネルギーにより、タイル下地の目荒らし、はつり、アスベスト除去作業などを行っている。
【0003】
上記のような処理作業で使用されるウォータージェットノズルとしては、単一の噴射ノズルを用いるより、複数の噴射ノズルを用いる方が処理速度の点において優れることから複数の噴射ノズルが使用されている。例えば、ノズルヘッドの中心部に1個、その外周部に60度の間隔毎に6個、計7個からなるノズルを装着したマルチノズルヘッドを、ロータリーガンの先端部に取り付けて回転させて7個のノズルからウォータージェット噴出して処理作業を行うことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2668696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1の場合、マルチノズルヘッドが回転することによって、ウォータージェットも回転軸周りを回転する。これによって、ウォータージェットは、被処理対象物上で円を描くように噴射される。その状態でウォータージェットを、処理対象物の表面に対して略平行に横方向へ移動することによって処理するのであるが、この時、早く移動させると処理面にムラが出来てしまう。そのために低速で移動させなくてはならず、作業効率が低下してしまうという問題点があった。
【0006】
また、上記特許文献1のような複数のノズルチップを装着したマルチノズルヘッドの場合は、図5に示すように、ウォータージェットの移動軌跡が筋Bとなって処理面に残るばかりでなく、先行軌跡と後行軌跡の交差部の軌跡Cが深くなり、その交差部の軌跡Cが処理面に残ると共に、ウォータージェットの先行軌跡と後行軌跡により生じる僅かな間隙Dの部分が噴射されず塗膜面が残るという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決することを課題として開発されたもので、複数個の平射ノズルを備えたノズルを回転させながらウォータージェットを噴射して移動軌跡を筋として残すことがなく、単位時間あたりの処理面積が広くなり、処理作業時間を短縮化できるロータリーガン用ノズルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決し、その目的を達成する手段として、本発明は、ロータリーガン用ノズル主体の先端面に、ウォータージェットを扇形状に噴出する複数個の平射ノズルを設けると共に、該平射ノズルは回転中心線に対して、回転方向に傾斜する傾斜角で配置されていることを特徴とするロータリーガン用ノズルを開発し、採用した。
【0009】
上記のように構成した平射ノズルの傾斜角は、10〜25度の範囲内であることを特徴とするロータリーガン用ノズル、および複数個の平射ノズルは、同一の円周上位置で、中心点に対して、対称位置に配置されていることを特徴とするロータリーガン用ノズルを開発し、採用した。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るロータリーガン用ノズルによれば、複数個の平射ノズルが回転中心線に対して、回転方向に傾斜する角度で配置されているから、ウォータージェットが被処理面に当るのに角度がつき被処理面への食い込み効果が上がると共に、扇形状に噴射されるので軌跡がつくことがない。また、複数個の平射ノズルにより噴射幅が広くなり単位時間当りの処理作業をむらなく広くすることができる。さらに、扇形状に噴射するウォータージェットは向きを変えながら噴射する多方向からの噴射になり、塗膜剥離、目荒し、はつり、洗浄、アスベスト除去など複雑な形状の処理作業にも十分な効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のノズルの斜視図である。
【図2】本発明のノズルの平面図である。
【図3】本発明のノズルの正面図である。
【図4】本発明のノズルの水路を示す簡略図である。
【図5】従来のノズルの噴射移動軌跡を示す説明図である。
【図6】本発明のノズル使用による縞鋼板におけるウォータージェット噴射移動軌跡を示す説明図である。
【図7】従来の直射2孔ノズル使用による縞鋼板におけるウォータージェット噴射移動軌跡を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を説明すれば、1はノズル主体であり基部に多角形状の鍔体2を有し、その鍔体2の正面中央部にノズル柱体3を突出形成してあり、そのノズル柱体3の先端面のノズルヘッド4にウォータージェットを扇形状に噴出する2個の平射ノズル5,5が同一の円周上の位置で、かつ中心点Oに対して上下対称位置に配置されている。
【0013】
この平射ノズル5,5は、図2に示すように、回転中心線Aに対して回転方向に傾斜する傾斜角θ,θの傾斜角で捩られている。この傾斜角θ,θは10〜25度が好適である。傾斜角θ,θが10度以下になると、従来のノズルの噴射と効果が変わらず、25度以上になると、水流が拡散してしまい処理作業が殆どできないことから適さず15度が最適である。
【0014】
ノズルヘッド4の平射ノズル5,5が取り付けられている取着面は、相反する方向に傾斜する傾斜面6,6に形成されていると共に、外周面の上面部と下面部を水平面7,7に、両側面部を垂直面8,8に削成して軽量化してあり、水平面7,7と垂直面8,8の間を弧状面9,9、9,9に形成して略八角形状に形成されている。
【0015】
ノズル柱体3の内部には、平射ノズル5,5に連通する傾斜水路10,10が穿設されており、その傾斜水路10,10の下端部は鍔体2の内部に穿設された水平水路11に連通し、さらにその水平水路11と連結連通する導水孔13が鍔体2の背面側中央部の回転軸14に一体的に設けられている。
【0016】
このように構成した実施の形態におけるロータリーガン用ノズルの使用例を作用、効果と共に説明すれば、ノズル主体1をロータリーガン(図示せず)の先に装着して、被処理面に向かって噴射すれば、ノズル主体1が回転し、平射ノズル5,5からウォータージェットが重ならないよう広角に扇形状に噴射され、輻射幅が広くなり単位時間の当りの処理作業面積が広くなる。また、平射ノズル5,5が回転方向に傾斜する傾斜角で配置されているから、回転にともなって扇形状の向きを変えながら被処理面に対して噴射することになり、処理作業に対して多方向からの噴射になり、ボルト周りなどの凸凹部の複雑な部分であっても充分に噴射水が届き処理作業ができる。また、被処理面への食い込み効果が上がり、塗膜剥離、目荒らし、はつり、アスベスト除去などの作業効率が向上する。
【0017】
(実施例1)
以下に、本発明の具体的実施例を説明する。
圧力180MPa、水量9リットル/分、ノズル口径0.45mm、噴出角度15度で上下対称位置に配された2個の平射ノズル21、21を用いて、処理面との間隔3〜10cmの条件下で、図6に示すように、縦、横方向に突起部22a、22bを板面につけた縞鋼板22からなる階段の踏板、縦0.24m×横0.8mにアルキッドフタル酸塗料が塗布された塗膜面の剥離作業を行った。ウォータージェットの軌跡は図6に示すように、縦、横の突起部22a、22bの略全面に噴射されることになり、塗膜面積0.192mを剥離するのに1回目は17分48秒で全面剥離できた。2回目は16分04秒で全面剥離できた。平均の剥離時間は16分76秒であった。
【0018】
(比較例1)
圧力200MPa、水量11.8リットル/分、ノズル口径が直径0.5mm、直射2孔回転ノズル31を用いて、被処理面との間隔3〜10cmの条件下で、図7に示すように、縦、横方向に突起部32a、32bを板面につけた縞鋼板32からなる階段の踏板、縦0.24m×横0,8mにアルキッドフタル酸塗料が塗布された塗膜面の剥離作業を行った。ウォータージェットの軌跡は図7に示すように、縦、横の突起部32a、32bの一部に噴射されるだけであり、全面剥離するのに1回目は49分39秒かかり、2回目は53分54秒かかった。
【0019】
(実施例2)
圧力180MPa、水量9リットル/分、ノズル口径0.45mm、噴出角度15度で上下対称位置に配された2個の平射ノズルを用いて、処理面との間隔3〜10cmの条件下で、リブラスに断熱材(アスベスト仕様)を吹き付けた試験体、縦1.4m×横1m、厚さ30mmの除去試験をしたところ、面積1.4mを除去するのに1回目は1分19秒で100%除去でき、2回目は48秒で100%除去でき、平均の除去時間は1分04秒であった。
【0020】
(比較例2)
圧力200MPa、水量1.79リットル/分、ノズル口径が直径0.2mm、直射2孔回転ノズル((株)スギノマシン社製)を用いて、被処理面との間隔3〜10cmの条件下で、前記実施例2と同じリブラスに断熱材(アスベスト仕様)を吹き付けた試験体、縦0.7m×横1m、厚さ30mmの除去試験をしたところ、面積0.7m除去するのに1回目は4分11秒で略除去でき、2回目は4分24秒で略除去でき、平均の除去時間は4分18秒であった。
【0021】
(実施例3)
圧力180MPa、水量9リットル/分、ノズル口径0.45mm、噴出角度15度で上下対称位置に配された2個の平射ノズルを用いて、処理面との間隔3〜10cmの条件下で、リブラスに断熱材(アスベスト仕様)を吹き付けた試験体、縦0.6m×横1m、厚さ40mmの除去試験をしたところ、面積0.6m除去するのに1回目は1分08秒で100%除去でき、2回目は53秒で100%除去でき、平均の除去時間は1分01秒であった。
【0022】
(比較例3)
圧力200MPa、ノズル口径が直径0.2mm、水量2.67リットル/分、直射3孔回転ノズル((株)スギノマシン社製)を用いて、被処理面との間隔3〜10cmの条件下で、前記実施例3と同じリブラスに断熱材(アスベスト仕様)を吹き付けた試験体、縦0.7m×横1m、厚さ30mmの除去試験をしたところ、面積0.7m除去するのに1回目は4分26秒で略除去でき、2回目は3分31秒で略除去でき、平均の除去時間は3分59秒であった。
【0023】
以上、本発明の実施の形態では、処理作業を縞鋼板の塗膜剥離と断熱材アスベスト仕様の除去作業で説明したが、必ずしもこれに限るものではなく、目荒し、はつり、洗浄など本発明の目的を達成でき、かつ本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、扇形状のウォータージェットを被処理対象物に噴射して、剥離、洗浄、はつり、目荒し、アスベスト除去処理作業など広い範囲にわたって有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 ノズル主体
3 ノズル柱体
4 ノズルヘッド
5 平射ノズル
θ傾斜角
θ 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーガン用ノズル主体の先端面に、ウォータージェットを扇形状に噴出する複数個の平射ノズルを設けると共に、該平射ノズルは回転中心線に対して、回転方向に傾斜する傾斜角で配置されていることを特徴とするロータリーガン用ノズル。
【請求項2】
上記平射ノズルの傾斜角は、10〜25度の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のロータリーガン用ノズル。
【請求項3】
上記複数個の平射ノズルは、同一の円周上位置で、中心点に対して、対称位置に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のロータリーガン用ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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