説明

ロードセルの破損防止機構を備えた摩擦試験機

【課題】摩擦試験機において、荷重を増加させるにつれて摺動時に凝着等が生じ、摩擦力が急激かつ瞬時に増加してロードセルを破損するのを防止する機構を備えた摩擦試験機を提供する。
【解決手段】柱状の固定の試験部材と往復動する部材間の摩擦力を測定するロードセルを具備する往復摺動摩擦試験機において、前記柱状の固定試験部材の軸方向に垂直断面の全体または一部のせん断強さがロードセルの許容負荷以下になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部品の摩擦力を測定するために使用されるロードセルを具備した摩擦試験機において、該ロードセルの破損を防止する機構を備えた摩擦試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部品に対して摺動性を評価する摺動摩擦試験機に関して、例えば、ボール・オン・ディスク型試験機が用いられる。
【0003】
この試験機はディスクにボールを接触させ、ボールに垂直荷重を負荷し、その状態でディスク上を回転させて、ボールとディスクとの摩擦力を測定するものである。摩擦力を測定するにはロードセル(歪ゲージ式)が使用されている。
【0004】
以上のような試験機は、例えば特開2007−271455号公報に開示されている。本公報によると、この試験機によれば、摩擦力測定値のばらつきを低く抑え、また、試験時間を短縮できるようになることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−271455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、摩擦係数が安定したものに対しての測定のばらつきを抑える技術はあるが、本発明は上記した観点ではなく、試験片がボールに限らず、特に平面接触で往復動する場合に問題となるロードセルに着目している。
【0007】
例えば、低摩擦物質の摩擦力を測定する際には測定誤差を低下させるために定格容量の小さいロードセル(測定誤差は定格容量の〜0.1%R.O.である。)が使用される。定格容量100N ,500Nの場合でそれぞれの誤差は0.1N,0.5Nとなる。
試験荷重を100N ,500Nの場合において、摩擦係数μ0.05(硬質炭素膜物品と金属の摺動)の条件で、摩擦力はそれぞれ5N,25N 、摩擦係数μが0.4(金属同士の摺動)条件で摩擦力はそれぞれ40N,200Nとなる。
【0008】
試験荷重100N、定格容量500Nのロードセルを使用した場合の誤差は0.5N/5N×100=10%に及ぶ。定格容量100Nを使用した場合には、誤差は2%となる。したがって、定格容量の低いロードセルを使用する方が誤差は小さい。
【0009】
しかし、試験荷重を100Nの条件において、摩擦係数μ0.4の材質になると摩擦力は40N、試験荷重500N条件では200Nとなり、試験荷重を増加させて摩擦試験をする場合には凝着や低摩擦膜の剥離により、摩擦係数μが0.05から0.4以上に増加する場合があり、摩擦力が急激に増大してロードセル許容負荷を超えてロードセルが破損する場合がある。このため、ロードセルの定格容量により測定誤差や試験荷重などの範囲が限定され、幅広い条件での摩擦試験ができない。
【0010】
また、その対策として、電気回路的に摩擦力が設定値以上になった場合に摺動を停止する機構がある。しかし、摩擦力増大が急激また瞬時に発生する際には停止せずにロードセルは破損する不具合がある。あるいはまた、測定サンプル毎に定格容量の合ったロードセルに交換することも可能であるが、摩擦試験機は往復動するためにロードセルが幾重にもねじ等で強固に固定されており、交換・調整に手間を要する。
【0011】
以上の問題点に鑑み、本発明は測定誤差を抑えつつ、試験荷重の範囲を広く増加させることができるロードセル破損の防止機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
摩擦試験中に往復動する部材と固定試験部材が凝着し、往復動する部材と固定試験部材の凝着等による摩擦力増大によって、ロードセルに許容負荷以上の過負荷がかかり、破損することを防止するためにまず試験部材の形状に着目し、本発明に至った。さらに、前記凝着等により固定部材が切断した後の異常事態でもロードセルが破損することがあるのでそれを防止する機構の発明にも至った。
【0013】
その結果、本発明は、固定の試験部材と往復動する部材間の摩擦力を測定するロードセルを具備する往復摺動摩擦試験機において、摩擦力の増加により前記ロードセルが破損しない手段を有することを特徴としている。
また、前記手段は前記固定試験部材が柱状であり、その軸方向に垂直な断面全体又は一部のせん断強さを前記ロードセルの許容負荷以下にするようにしたことを特徴としている。
【0014】
また、前記固定試験部材を支持する部材と前記固定試験部材を連結する柱状の連結部材を設け、該柱状の連結部材の軸方向に垂直な断面全体または一部のせん断強さを前記ロードセルの許容負荷以下にするようにしたことを特徴としている。
【0015】
以上により、ロードセルが許容負荷(許容負荷=定格容量×120%)を超え破損する前に、固定試験部材または連結部材が先にせん断強さを超えて切断されるので、除荷されてロードセルが破損することを防止できる。
【0016】
さらに、固定試験部材または連結部材がせん断されても、せん断された部材が往復動する部材(摺動部材)と接触して、摩擦力が増大する可能性があるため、固定試験部材の下部近傍にボールベアリングを具備した冶具を設けて、せん断された固定試験部材または支持部材が落下しても転がり摩擦により、摩擦力の増大を防ぎ、ロードセルの破損を防止することも特徴としている。
あるいは、固定試験部材の支持部材の下方に支持部材の落下を防止する荷重支持体を設けてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明した本発明によると、摩擦試験中に往復動する部材と固定試験部材が種々の原因により凝着等を起こし、それによる摩擦力増大によって、ロードセルに許容負荷(許容負荷=定格容量×120%)以上の過負荷がかかるのを防ぎ、ロードセルの破損を防止することができる。
【0018】
また、前記凝着等により固定試験部材または連結部材が切断した後の異常事態にもロードセルの破損することがあるのでそれを防止することもできる。
【0019】
以上により、測定誤差を抑えつつ、試験荷重の範囲を広く増加させることができるロードセル破損の防止機構を備えた摩擦試験機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る往復動摩擦試験機の概要を表す図である。
【図2】本発明に係る一つの実施形態を表す図である。
【図3】本発明にかかる他の実施形態を表す図である。
【図4】本発明にかかるさらに他の実施形態を表す図である。
【図5】本発明にかかるさらに他の実施形態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は本発明のロードセルを具備する摩擦試験機の概要を示す。
摩擦試験は、通常、潤滑状態で往復動する部材1に支持部材4に固定された固定試験部材2を荷重負荷機3により所定の荷重で押し付けて、所定の往復回数または試験時間で行われる。このときの摩擦力はロードセルコネクター6により連結されたロードセル7を介する摩擦力算出部11によって算出測定される。なお、往復動方向は紙面に垂直の方向である。
【0022】
この場合、通常、往復動する場合の往復動する部材1と固定試験部材2との摩擦力ではこれを許容する容量のロードセルが選ばれるので問題はないが、例えば、低摩擦試験部材の摩擦力を測定する際には、測定誤差を極力小さくしたいので、ロードセルの許容値を下げなければならない時があり、前記両部材が摩擦試験中に凝着を起こす場合では、摩擦力が瞬時に増大し、ロードセル7の許容負荷(許容負荷=定格容量×120%)を超え、ロードセル7が破損する場合がある。このような場合にロードセルの破損を防止するため、ロードセルが破損する前に往復動する部材1と固定試験部材2との摩擦を無くすあるいは軽減することが本発明の趣旨である。
【0023】
そこで、ロードセルの破損摩擦力と固定試験部材2のせん断力との関係を以下のように考える。
固定試験部材2の形状を円柱として、断面積(mm2 )をS、軸方向に垂直な面のせん断強さ(N/mm2)をτ、摺動試験時の荷重(N)をL、試験片と基材との摩擦係数 μ、ロードセル7の耐力(許容負荷(N)=定格容量(N)×120%とする)をηとすると,
ロードセルの破損しない摩擦力は次の(1)式の条件のときである。

μL ≦ η ・・・・(1)

一方、固定試験部材2の軸方向に垂直面がせん断される摩擦力は次の(2)式の条件を満たす時である。

μL / S ≧ τ・・・・(2)

したがって、ロードセル7が破損しないで、固定試験部材2の軸方向に垂直な面で破損させるための条件は次の(3)式のようになる。

S ≦ η/ τ・・・・(3)

【0024】
次に、ロードセル耐力と等しくなる固定試験部材のせん断強さと断面積・直径を、ロードセル耐力ηが500×1.2(120%)=120N、1000×1.2(120%)=1200Nの場合について、一例として、種々の材質について算出すると表1のようになる。
【0025】
【表1】

【0026】
したがって、円柱の固定試験部材2の直径すなわち断面積Sを材質により表1に示す値以下にすると、摩擦力が増大したときにロードセルの破損を防止することができる。
【0027】
また、他の実施形態としては、図2に示すように固定試験部材2の軸方向の一部に小径(小断面積)部2aを設けて、その直径・断面積を表1に示す直径・断面積以下の値としてもよい。
さらに、他の実施形態としては、固定試験部材2の直径・断面積が大きくしなければならない場合などでは、図3に示すように固定試験部材2を固定する支持部材4に連結する連結部材5を取り付け,その連結部材5の直径・断面積あるいは軸方向の一部の直径・断面積を表1に示す値以下にしてもよい。
なお、なお、固定試験部材2及び連結部材5の材質は表1に限らず、それらの直径・断面積を(3)式を満たす値にすればよいことは勿論のことである。
【0028】
次に、以上のような構成にして、ロードセル7以外の固定試験部材2あるいは上記連結部材5でせん断されても、せん断された固定試験部材が落下などして往復動する部材1と接触して、摩擦力が増大しロードセルを破損する恐れがある。このような場合を想定して、図4に示すように、固定試験部材2の下部近傍にボールベアリング8を具備した冶具9を設けるとよい。この構成によると、固定部材2がせん断して落下しても、往復動する部材1との間で転がり摩擦が生じ、これにより摩擦力を低減させることでロードセルに高負荷がかかり破損に至ることを防止することができる。
【0029】
あるいは、図5に示すように、固定試験部材2の支持部下方に、せん断された固定試験部材の落下を防止する荷重支持体10を設けてもよい。
【0030】
なお、以上の実施形態では、固定試験部材として、円柱の場合について記載したが、これに限らず例えば角柱などでもよい。また、摩擦試験として往復動摩擦試験について記載したが、これに限らず往復動する部材を回転する部材に代えた摺動機構の摩擦試験機にも適用できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は摺動する部品の摩擦・摩耗特性を検討する試験機として利用できる。
特に、薄膜を被覆した部品等低摩擦の摺動部材の摩擦力の測定に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 往復動する部材
2 固定試験部材
2a 固定試験部材の小径(小断面積)部
3 荷重負荷機
4 支持部材
5 連結部材
6 ロードセルコネクター
7 ロードセル
8 ボールベアリング
9 ボールベアリングを具備した治具
10 荷重支持体
11 摩擦力算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定試験部材と往復動する部材間の摩擦力を測定するロードセルを具備する往復摺動摩擦試験機において、摩擦力の増加により、前記ロードセルが破損しない手段を有することを特徴とする往復復摺摩擦試験機。
【請求項2】
前記手段が前記固定試験部材を柱状とし、その軸方向に垂直な断面全体又は一部のせん断強さをロードセルの許容負荷以下にすることであることを特徴とする請求項1に記載の往復復摺摩擦試験機。
【請求項3】
前記固定試験部材を支持する支持部材と前記固定試験部材を連結する柱状の連結部材を設け、該連結部材の軸方向に垂直な断面全体又は一部のせん断強さを前記ロードセルの許容負荷以下にすることを特徴とする請求項1に記載の往復復摺摩擦試験機。
【請求項4】
転がり摩擦を生じさせ、摩擦力の増大を防ぐように固定試験部材を支持する支持部材の下部近傍にボールベアリングを具備した冶具を設けることを特徴とする請求項1乃至3に記載の往復復摺摩擦試験機。
【請求項5】
支持部材の落下による摩擦力の増大を防ぐように、固定試験部材の支持部材の下部近傍に荷重支持体を設けることを特徴とする請求項1乃至3に記載の往復復摺摩擦試験機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−154704(P2012−154704A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12462(P2011−12462)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)