説明

ロープ固定装置

【課題】鉄塔上部での作業員による作業に代わって,延線ロープを鉄塔に固定することができるロープ固定装置を提供する。
【解決手段】ロープ固定装置は,ロック状態時に開いている上部開口部分から入るロープを収容する所定長さの溝部と,前記溝部にロープが収容されるとロック状態を解除するロック解除機構部と,ロック状態の解除により,前記溝部内のロープを前記溝部の側面に押圧し且つ前記溝部の上部開口部分を閉じて,ロープを固定するロープ固定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,鉄塔間に架設されるロープを鉄塔に固定するためのロープ固定装置に関するものであり,特に,ヘリコプターなどで中空に懸垂された送電線の延線用ロープを自動的に鉄塔に固定するのに好適なロープ固定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,鉄塔に送電線を張る場合には,最初から送電線を張るのではなく,最初に延線用のロープ(延線ロープ)を張り,その延線ロープをガイドとして鋼線に引き替え,最後に送電線に引き替えて架設する方法が用いられる。
【0003】
最初に沿線用のロープを架設する場合であって,特に山岳地などで地上における作業が困難な場合には,ヘリコプターを用いた延線が行なわれる。
【0004】
図9は,従来の延線ロープを張る工事の概要を示す図である。各鉄塔間は平均250メートル程度の距離があり,一度に10基程度の鉄塔に延線ロープを架設する。各鉄塔の上部(送電線架線位置)に,2〜3名の作業員が待機した状態でヘリコプターを待っている。ヘリコプターの下部には,延線ロープ巻いたドラムが据え付けられ,「ドラム場」と呼ばれる地上の延線開始地点から上昇する。ヘリコプターに搭乗した作業員は,ドラムから延線ロープを繰り出しながら,最初の鉄塔の上空まで達した際,延線ロープを作業員が待機している位置に誘導を行なう。鉄塔上部で待機していた作業員は,ヘリコプターの風圧を受けながら,懸垂された延線ロープを受取り,紐や固定具などで送電鉄塔の腕金への固縛作業を行なう。固縛完了の合図を受けたヘリコプターは,ドラムから延線ロープを繰り出しながら,次の鉄塔まで飛び,同様の固縛作業を行なう。
【0005】
このようにして,10基程度の送電鉄塔に延線ロープが固縛された状態を作り,ヘリコプターは「エンジン場」と呼ばれる架線終点地点に降下して,延線ロープの設置作業が完了する。
【0006】
延線ロープから鋼線,送電線へと張り替えを行う作業は,別の日に次のようにして行なう。鉄塔の腕金に一旦固縛された延線ロープは,作業員によって固縛を放ち,金車に乗せ替えの作業を行う。金車は送電線の延線作業などに使う滑車である。すべての鉄塔において延線ロープが金車に乗せられた状態にした後に,ドラム場にて延線ロープの端を鋼線に繋ぎ替え,エンジン場においてもう一方の延線ロープの端を引く。延線ロープは鋼線に張り替えられ,また同様な方法で鋼線を送電線に張り替えを行い,送電線の架設が完了する。
【0007】
このようなヘリコプターを使って送電線を架設する従来工法としては,無人ヘリによりメッセンジャワイヤ(延線ロープ)を架設する工法が開示されている(特許文献1)。
【0008】
また,長いスパンの鉄塔間の鋼線の架設をヘリコプターにより行う工法としては,張力を管理しながら空中架線する工法が開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平6−276634号公報
【特許文献2】特開平8−144218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
送電線を架設する際には,ヘリコプターを用いた延線ロープの設置が必要となるが,この送電線の架設が前述のような工法によってなされることから,次のような作業上の安全面及びコスト面の課題が生じる。
【0010】
すなわち,高所で作業を行なう作業員は,通常の送電線の目視点検や設置工事においては,実際に鉄塔上部に上り,作業を行なうことが必要となる。延線ロープの固縛作業においては,高所での危険性に加えて,鉄塔近傍をヘリコプターがホバリングすることによる風圧に対してバランスをとりながら作業を行なわなければならない。また空中を移動する延線ロープを捕まえて鉄塔の腕金に固定する際には,ヘリコプターの思わぬ移動によりロープに力が加わるなどの危険性が増すために,延線ロープを安全に且つ確実に鉄塔に固縛することが困難である。
【0011】
また,延線ロープの設置作業を行なう際には,鉄塔上部で作業を行なう作業員を20名以上確保する必要があることから,コスト的な負担も多い。
【0012】
そこで,本発明の目的は,鉄塔上部での作業員による作業に代わって,ヘリコプターからの遠隔操作によって安全に且つ確実に延線ロープを鉄塔に固定することができるロープ固定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明のロープ固定装置の第1の技術的手段は,鉄塔間に架設されるロープを鉄塔に固定するために鉄塔に取り付けられるロープ固定装置において,ロック状態時に開いている上部開口部分から入るロープを収容する所定長さの溝部と,前記溝部にロープが収容されるとロック状態を解除するロック解除機構部と,ロック状態の解除により,前記溝部内のロープを前記溝部の側面に押圧し且つ前記溝部の上部開口部分を閉じて,ロープを固定するロープ固定部とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明のロープ固定装置は,固定部をロック状態にして,ロープ架設工事の前にあらかじめ鉄塔に取り付けられる。ヘリコプターから降ろされてくるロープが溝部に収容されると,ロープ固定部のロック状態が解除され,ロック状態の解除により,ロープ固定部は,溝部に収容されロープを溝部の側面に押圧し且つ溝部の上部開口部分を塞いで,ロープを溝部内に固定するものである。
【0015】
本発明のロープ固定装置の第2の技術的手段は,上記第1の技術的手段において,前記ロープ固定部が前記溝部内のロープの長さ方向への移動を抑止するクランプ部材を有することを特徴とする。
【0016】
このクランプ部材は,ロープが自重やヘリコプターの移動により前後(長さ方向に移動)した場合に,ロープの前後の(長さ方向の)移動を抑止するものである。
【0017】
本発明のロープ固定装置の第3の技術的手段は,上記第1又は第2の技術的手段において,前記ロック解除機構部が前記溝部の底部に設けられるスイッチを有し,前記ロープが前記スイッチに接触することにより,ロック状態を解除することを特徴とする。
【0018】
このスイッチは,ロープが溝部に完全に収容されてから,ロック状態が解除されるように,溝部の底部にロック状態を解除するために設けられるものである。
【0019】
本発明のロープ固定装置の第4の技術的手段は,上記第1乃至第3の技術的手段のいずれかにおいて,前記溝部の長さ方向が水平面に対して所定の角度分上下に傾斜するように揺動可能に前記鉄塔に取り付けられることを特徴とする。
【0020】
この第4の技術的手段は,ロープ固定装置を水平から左右所定角度,軽い力で傾くことができる状態で取り付けることができるので,ロープがロープ固定装置の水平面と角度をなす状態で接近した場合でも,ロープの長さ方向にロープ固定装置の水平面を一致させることができる。これにより,ロープを固定するのに十分な長さを溝部に収容することができるようになる。
【0021】
本発明のロープ固定装置の第5の技術的手段は,上記第1乃至第4の技術的手段のいずれかにおいて,前記ロープ固定部がロープを前記溝部の側面に押圧するバネを有し,ロック状態の解除により,ロック状態で圧縮保持されていたバネが解放されることで,前記バネがロープを前記溝部の側面に押圧することを特徴とする。
【0022】
この第5の技術的手段は,バネの力を利用した比較的簡単な構造によってロープを固定することができるという作用を有するものである。
【0023】
本発明のロープ固定装置の第6の技術的手段は,上記第1乃至第5の技術的手段のいずれかにおいて,前記ロープ固定部によりロープが固定されたことを表示する表示部を備えることを特徴とする。
【0024】
この表示部は,ヘリコプターに搭乗している作業員が遠隔からロープの固定完了を確認することができるように設けられるものである。
【0025】
本発明のロープ固定装置の第7の技術的手段は,上記第6の技術的手段において,前記表示部が表示旗を格納するケースと,該ケースの蓋を閉状態に維持するように前記ケースに取り付けられるピンと,前記ロープ固定部と前記ピンを繋ぐ接続手段とを有し,ロック状態の解除による前記ロープ固定部の移動により,前記ピンが前記ケースから外れて前記ケースの蓋が開き,前記ケースの中から前記表示旗が外部に出現することを特徴とする。
【0026】
本発明のロープ固定装置の第8の技術的手段は,上記第6の技術的手段において,前記表示部が前記ロープ固定部のロック状態で視認可能に外部に露出し且つロック解除による前記ロープ固定部の移動により外部から視認不能になるような前記ロープ固定部の部位にあり,該部位は,前記ロープ固定部の他の部位と異なる色の着色部分を有することを特徴とする。
【0027】
本発明のロープ固定装置の第9の技術的手段は,上記第1乃至第8の技術的手段のいずれかにおいて,ロープを前記溝部の上部開口部分に誘導するガイド部を備えることを特徴とする。
【0028】
このガイド部は,ヘリコプターの作業員がロープをロープ固定装置の溝部に容易に誘導することができるように機能するものである。
【0029】
本発明のロープ固定装置の第10の技術的手段は,上記第9の技術的手段において,前記ガイド部が前記ガイド部に沿って移動するロープを前記ガイド部上に置くための仮置き部を有することを特徴とする。
【0030】
このガイド部は,ロープを適度な速度で溝部に落とし込む(誘導する)ことができるように機能するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明は,送電線を張る工事における延線ロープ架設作業において,鉄塔上部に作業員を配置しなくとも,ヘリコプターから誘導されたロープを鉄塔上部に安全にかつ確実に固定することができるものである。したがって,従来の固縛作業という危険な仕事から作業員を解放することができると共に,天候に左右されるヘリコプターを用いた工事における作業員のコスト削減が図れるという効果が得られる。本発明は,送電線の架設のための工事の他に,橋梁へのロープ設置工事,ダム工事のロープ設置作業などにも適用することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0033】
図1は,本発明の実施の形態におけるロープ固定装置1の外観斜視図である。ロープ固定装置1は,台座2に取り付けられており,この台座2が鉄塔の腕金(鉄塔から横に延びている部分)上に固定されることによってロープ固定装置1を鉄塔に対して取り付けることができる。ロープ固定装置1は,上部からヘリコプターにより誘導される延線ロープを固定する機構を有しており,ロープ固定装置1全体の寸法は,長さ375mm,幅115mm,高さ120mm程度の大きさで,ステンレス材料によって作製されている。後述のガイド部を除いた重量は13kg程度である。図1には,延線ロープ(例えば直径16mm)がロープ固定装置1に固定されている状態が示されている。この延線ロープを固定する手段について,図2に沿って具体的に説明する。図2は,ロープ固定装置の内部側面図であり,図2(a)は,ロープ固定装置1のロープ固定動作前の状態を示し,図2(b)は,ロープ固定動作後の状態を示す。
【0034】
ロープ固定装置1は,上方から接近してくる延線ロープ(以下,単にロープと称する)を収容するように,上方に開口している所定長さの溝部10を備えている。好ましくは,ロープを溝部10に導入するための導入部11を備えており,この導入部11は,図示されるように,上方に広がる形状で,上方から接近してくるロープが溝部10内に容易に入り込むように導くことができる形状に設計されている。
【0035】
溝部10の側方には,導入されたロープを押圧する固定部12が設けられ,この固定部12には,溝部10の上方開口部分を閉じる蓋部12aが取り付けられている。この蓋部12aは,固定部12が動作してロープを押圧している状態のときに,ロープが溝部10から上方に抜去しないような機能を果たすものである。
【0036】
固定部12は,図の左右方向に移動可能であり,ハンドル13を引くことにより左側に移動することができるように設けられている。また固定部12には,バネ14が取り付けられており,ハンドル13を引いて固定部12を左方向に移動させると,バネ14が圧縮されることになる。ハンドル13をさらに左方向に引くと,固定部12の内部に内蔵されている小さいバネ15が作用してロックピン16の先端突起部を押し下げて下側に設けられた穴に嵌入させた状態となる。この状態では,バネ14が圧縮状態を維持したままで固定部12がロックされることになる。図2(a)は,固定部12がロックされた状態を示すものである。
【0037】
次に,固定部12のロック状態を解除する手段について,図2(b)に沿って説明する。図2(b)は,固定部12のロックが解除されてロープが固定部12と蓋部12aによって溝部10に固定された状態を示すものである。溝部10の底部には,固定部12のロック状態を解除するためのロック解除機構18が設けられている。ロープが導入部11に沿って自重で降りてきて溝部10に誘導されると,ロープが溝部10の底部に設置したロック解除機構18のスイッチ(プレート)18aをその自重で押し下げることになる。このとき,てこの原理によりロック解除機構18のもう一端のロック解除部18bが上昇してロックピン16を押し上げることになるので,穴に嵌入されているロックピン16の先端突起部が固定部12内に戻されて,ロックが解除されることになる。ロックが解除されると,圧縮状態に維持されているバネ14の力で,固定部12とその上の蓋部12aが右方向にスライドし,固定部12が溝部10内のロープをその側面23に押圧して固定し,同時に蓋部12aが溝部10の上方開口部分を閉じて,ロープは,溝部10内にしっかりと固定されることになる。この状態では,蓋部12aは,溝部10の上方開口部分を塞いでいる(閉じている)ので,ロープに上向きの力が加わっても,上部にロープが抜け出ることはない。
【0038】
本発明のロープ固定装置1は,その内部を上面から見ると,図3に示す構造となっている。図3(a)は,ロープ固定装置1のロープ固定動作前の状態を示し,図3(b)は,ロープ固定動作後の状態を示している。図3に示す構造について説明すると,固定部12は,二つのバネ14とハンドル13から構成され,蓋部12aは,固定部12と同じ幅に構成されている。ロックピン16によるロックを解除するためのスイッチ(プレート)18aは,溝部10のほぼ中央付近に設置されている。これは,スイッチ18aが端近くにある場合には,ロープの一端が溝部10の端に接触しただけでロックが解除される事態が発生しうるので,十分にロープが固定されないという事態を防ぐためである。
【0039】
また,固定部12の側面23には,ロープをしっかり固定するために,滑り防止のための凹凸が設けられている。この凹凸によって固定部12と蓋部12aによってロープを押圧した状態でしっかりとロープを固定することが可能となる。この側面23の凹凸面に替えて扇形クランプ20を固定部12と反対側に対をなすように設置してもよい。図3に示す扇形クランプ20には,ロープの接触面側にぎざぎざ状の歯面が設けられており,この歯面がロープに噛み込んで締め付けるので,ロープが溝部10の長さ方向に移動することを抑止することができる。
【0040】
このように,本発明のロープ固定装置1では,固定部12のバネ14による押圧力と,扇形クランプのぎざぎざ状の歯面による締め付け力により,作業員が紐や固定具などでロープを固縛するのと同等又はそれ以上のロープ固定を達成することができる。なお,図3に示すクランプの形状は,扇形であるが,この扇形に限られるものではない。
【0041】
次に,本発明のロープ固定装置1を鉄塔の腕金上の台座2に取り付けた状態について,第4図に沿って説明する。
【0042】
図4(a)は,ロープ固定装置1が台座2に水平に取り付けられている状態を示す図,図4(b)は,傾斜して取り付けられている状態を示す図,また図4(c)は,ロープ固定装置1が揺動している状態を示す図である。
【0043】
本発明のロープ固定装置1は,水平面における固定部12が移動する方向と直角の方向(ロープの長さ方向)に所定角度分上下に傾くことができるように揺動可能(スイング可能)に台座2に取り付けられている。ロープがロープ固定装置1の溝部10の面とある角度をなす状態で接近した場合に,そのロープがロープ固定装置1の一端に接触して力が作用しても,その力に対してロープ固定装置1が揺動するように取り付けられているので,ロープの傾き方向に対して溝部10の面が自然に追随することができる。したがって,ロープは,溝部10の面と一定長の範囲に亘って接触することができるので,ロープの一端のみが固定されるようなことはなく,固定部12の全面でロープを押圧・固定することが可能となる。
【0044】
ロープ固定装置1が揺動して傾斜する角度については,ロープの太さやロープ固定装置の大きさによって適宜設定可能であり,上下に15〜25度程度の傾斜が可能な揺動構造(スイング構造)に設計すれば,本ロープ固定装置に対して有効に機能する。例えば水平面に対して上下に15度程度であれば,軽い力で容易に傾くことができる。
【0045】
ロープ固定装置1には,その周囲にガイド部21及び表示部22などの補助部材を設置することが好ましい。図5は,ガイド部21及び表示部22を取り付けた概況を示す。
【0046】
ロープ固定装置1は,鉄塔の腕金上に取り付けられるので,ヘリコプターからの遠隔操作により,延線用のロープをロープ固定装置1の細い溝部10へ確実に誘導する必要があるが,導入部11だけでは,ロープを溝部10の位置に合わせる作業が困難な場合があるために,ロープ固定装置1の周囲にロープを安全にかつ確実に導入部11に誘導することができるような補助部材を設置することが好ましい。図5には,その一例としてガイドレール21a及びやり出し21bで構成されたガイド部21が図示されている。このガイド部21は,ロープ固定装置1の両側に設けられ,ロープ固定装置1の導入部11や溝部10にロープを安全にかつ確実に誘導する働きをするものである。鉄塔の腕金は,一般的には鉄塔側から離れる方向に下がるように取り付けられていることが多いことから,鉄塔側には腕金に沿ったガイドレール21aを,そして離れた側には落下防止のやり出し21bをガイド部21として設けるのが好ましく,このようなガイド部21によって,ヘリコプターの作業員がロープをロープ固定装置1まで安全にかつ確実に誘導することができることとなる。
【0047】
ガイドレール21aは,強度の観点からは金属製でもよいが,鉄塔上で作業するために軽量であることが好ましいので,摩擦によりロープに損傷を与えないことを考慮すると,プラスチック製であってもよい。
【0048】
ロープを安全にかつ確実に誘導するためには,ガイド部にさらに仮置き部21cを設けることが好ましい。図6に仮置き部21cを設けたガイド部21の別の形状例を示す。この例の仮置き部21cは,ロープを溝部10に誘導する前にロープを一時的に置くためのものであり,ロープが接触して移動するガイドレール21a及び/又はやり出し21b上に凹み又は段差などを設けることによって構成することができる。
【0049】
ガイド部21上に仮置き部21cを設けた場合には,次のような作用効果が得られる。すなわち,延線用ロープは,鉄塔間にある程度のたるみをもって張ることとなるが,その際に,この仮置き部21cにロープを一旦置いて,ヘリコプターを前後(鉄塔間の方向)に微調整移動させることにより,このたるみの調整を行うことができるようになる。また,ロープが勢いよく急激にロープ固定装置1に接触した場合には,その反動でロープが浮き,不安定な固定状態になる事態が生じるし,バウンドすることによってロープが溝部10にうまく誘導できない事態が生じる虞もあるが,この仮置き部21cをガイド部21に設けた場合には,ロープを一旦仮置きすることができるので,ロープの急激な接触やバウンドを未然に防止して適度なスピードで溝部10にロープを落とす(誘導する)ことができる。なお,ガイド部21のガイドレール21a及びやり出し21bは,その設置角度や設置長さを適宜調整できるように設計することが好ましく,図6には,やり出し21bの設置角度が調整可能であることが図示されている。
【0050】
本発明のロープ固定装置1では,図示されていないが,ロープが万一不安定な状態で固定されてしまった場合や,溝部10にロープがうまく収容されない状態でロック機構が解除された場合には,遠隔操作によりモータを稼動することなどにより,固定部12を図2において矢印で示す左方向に移動させて,再度固定部12をロック状態にすることができるように設計することもできる。
【0051】
次に,ロック解除を表示する表示部について説明する。表示部22は,図5に示すように,腕金などに吊下げられるもので,溝部10に収容されたロープが固定部12により固定されたことを表示する手段であり,ロック解除により固定部12が正常に動作してロープを固定した場合に,その動作完了をヘリコプターの作業員に伝えるためのものである。
【0052】
表示部22の具体的な構成例を図7に示す。図7(a),(b)は,待機状態における表示部22内部の側面図及び正面図であり,図7(c),(d)は,作動状態における表示部22内部の側面図及び正面図である。表示部22では,待機状態において,細長形状のケース内に表示旗22aが格納されている。ロープ固定装置1を設置する際に,ハンドル13を引いて固定部12をロックするが,そのとき固定部12に接続された止めピン引き抜きチェーン(接続手段)22bの端に取り付けてある止めピン22cで表示部22のケースの蓋を閉じ,チェーン22bを緩みのない状態で設置する(図7(a),(b))。ロック状態が解除されて固定部12がロープを押す方向にスライドすると,チェーン22bが引かれることで止めピン22cが抜ける。これにより表示部22の蓋が開き,中に格納されていた表示旗22aが垂れ下がる(図7(c),(d))。表示旗22aが外部に出現するのをヘリコプターの作業員が目視することで,当該鉄塔に対して延線ロープが固定されたことを確認することができる。
【0053】
表示部22は,その片面に組み込んでいる磁石によって,鉄塔の腕金に取り付けることができる(図5参照)。この磁石は簡単に取り外しができるので,表示部22の取り付け位置をずらすことによって止めピン引き抜きチェーン22bの緩みを容易に調節することが可能となる。
【0054】
図8は,表示部22の別の構成例を示す図である。図8(a)は,待機状態における表示部22の位置を示し,図8(b)は,作動状態における表示部22の位置を示す。図8における表示部22は,固定部12がロック状態のときは視認可能に外部に露出し,且つ固定部12のロック状態が解除され固定部12がスライドすると,ロープ固定装置1の内部に隠れ,視認不能になるような部位にあり,その部位に遠隔から視認できる程度に他の部位と異なる色を施したものである。該色が見えなくなることで,固定部12によりロープが正常に固定されていることを判別することが可能となる。また,単に着色するだけではなく,例えば記号,文字などとして着色が施されてもよい。この構成例は,ロープが不安定な固定状態になった場合や,溝部10にロープがうまく収容されない状態でロック機構が解除された場合に,遠隔操作などによって再度ロープの固定操作を行う場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態におけるロープ固定装置の外観斜視図である。
【図2】ロープ固定装置の内部側面図である。
【図3】ロープ固定装置の内部を上面から見た平面図である。
【図4】ロープ固定装置が鉄塔の腕金に固定される台座2に連結された状態を示す図である。
【図5】ロープ固定装置1にガイド部及び表示部を設置した状況を示す。
【図6】ガイド部の別の形状例を示す図である。
【図7】表示部22の構成例を示す図である。
【図8】表示部22の別の構成例を示す図である。
【図9】従来の延線ロープを張る工事の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1:ロープ固定装置,2:台座,10:溝部,11:導入部,12:固定部,12a:蓋部,13:ハンドル,14:バネ,15:バネ,16:ロックピン,18:ロック解除機構,18a:スイッチ,18b:ロック解除部,20:扇型クランプ,21:ガイド部,21a:ガイドレール,21b:やり出し,21c:仮置き部,22:表示部,22a:表示旗,22b:チェーン,22c:止めピン,23:側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔間に架設されるロープを鉄塔に固定するために鉄塔に取り付けられるロープ固定装置において,
ロック状態時に開いている上部開口部分から入るロープを収容する所定長さの溝部と,
前記溝部にロープが収容されるとロック状態を解除するロック解除機構部と,
ロック状態の解除により,前記溝部内のロープを前記溝部の側面に押圧し且つ前記溝部の上部開口部分を閉じて,ロープを固定するロープ固定部と
を備えることを特徴とするロープ固定装置。
【請求項2】
請求項1において,
前記ロープ固定部は,前記溝部内のロープがロープの長さ方向に移動するのを抑止するクランプ部材を有することを特徴とする固定装置。
【請求項3】
請求項1又は2において,
前記ロック解除機構部は,前記溝部の底部に設けられるスイッチを有し,前記ロープが前記スイッチに接触することにより,ロック状態を解除することを特徴とするロープ固定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて,
前記溝部の長さ方向が水平面に対して所定の角度分上下に傾斜するように揺動可能に前記鉄塔に取り付けられることを特徴とするロープ固定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて,
前記ロープ固定部は,ロープを前記溝部の側面に押圧するバネを有し,ロック状態の解除により,ロック状態で圧縮保持されていたバネが解放されることで,前記バネがロープを前記溝部の側面に押圧することを特徴とするロープ固定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて,
前記ロープ固定部によりロープが固定されたことを表示する表示部を備えることを特徴とするロープ固定装置。
【請求項7】
請求項6において,
前記表示部は,表示旗を格納するケースと,該ケースの蓋を閉状態に維持するように前記ケースに取り付けられるピンと,前記ロープ固定部と前記ピンを繋ぐ接続手段とを有し,ロック状態の解除による前記ロープ固定部の移動により,前記ピンが前記ケースから外れて前記ケースの蓋が開き,前記ケースの中から前記表示旗が外部に出現することを特徴とするロープ固定装置。
【請求項8】
請求項6において,
前記表示部は,前記ロープ固定部のロック状態で視認可能に外部に露出し且つロック解除による前記ロープ固定部の移動により外部から視認不能になるような前記ロープ固定部の部位にあり,該部位は,前記ロープ固定部の他の部位と異なる色の着色部分を有することを特徴とするロープ固定装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて,
ロープを前記溝部の上部開口部分に誘導するガイド部を備えることを特徴とするロープ固定装置。
【請求項10】
請求項9において,
前記ガイド部は,前記ガイド部に沿って移動するロープを前記ガイド部上に置くための仮置き部を有することを特徴とするロープ固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−247120(P2009−247120A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90855(P2008−90855)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(506350388)株式会社愛工大興 (1)