説明

ローラチェーン

【課題】低騒音で長寿命のローラチェーンを提供することにある。
【解決手段】2本のブシュの両端が、一対の内プレートに穿孔されたブシュ孔にそれぞれ圧入され、ブシュの外側に回転可能なローラを有する内リンクと、隣接した内リンクのブシュ内に遊貫された2本のピンの両端が、一対の内プレートの両外側に配置された一対の外プレートに穿孔されたピン孔にそれぞれ圧入された外リンクとを有し、内リンクと外リンクがピンにより交互に屈曲可能に連結されたローラチェーンにおいて、外リンクにより連結された2つの内リンクに跨るブシュ間ピッチを、1つの内リンクにおけるブシュ間ピッチよりも、チェーンの初期摩耗伸び量を考慮した寸法分短く設定したことにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジンのカム軸伝動機構や、産業機械等の動力伝達機構あるいは搬送機構等に用いられるローラチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用エンジンのカム軸伝動機構等に用いられる動力伝達媒体には、高荷重、高速化及びメンテナンスフリー化の要請から、従来、多用されていた歯付ベルトに代わり、耐久性に優れた金属製ローラチェーンの採用が増加している。
【0003】
一般に金属製ローラチェーンは、図4に示すように、2本の円筒状のブシュ42の両端が、一対の内プレート41に穿孔されたブシュ孔41aにそれぞれ圧入され、前記ブシュの外側に回転可能なローラを有する内リンクと、隣接した前記内リンクの前記ブシュ42内に遊貫された2本のピン45の両端が、前記一対の内プレート41の両外側に配置された一対の外プレート44のピン孔44aにそれぞれ圧入された外リンクとを有し、前記内リンクと前記外リンクが前記ピンにより交互に屈曲可能に連結された構成をしている。
【0004】
このような構成をした従来の金属製ローラチェーンは、図2に示すように、ブシュ間ピッチが、チェーン全体にわたって等しくなるように設計されている。すなわち、一つの内リンクにおけるブシュ間ピッチP1,P3と、外リンクにより連結された2つの内リンクに跨るブシュ間ピッチP2が等しくなるように設計されている(例えば、非特許文献1参照)。なお、本発明においてブシュ間ピッチとは、ブシュの中心間距離ではなく、図2に示したように隣接する2つのブシュの外周面間の距離を意味している。
【特許文献1】中込昌孝著「チェーンのおはなし」日本規格協会,1997年1月20日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述したような金属製ローラチェーンは、使用にともないピンとブシュの間における摺動によって、ブシュの内周面及びピンの外周面が摩耗する。そのため、内リンクを構成する2つのブシュの間のブシュ間ピッチP1,P3は変化しないのに対して、外リンクにより連結された2つの内リンクに跨るブシュ間ピッチP2は、チェーンの使用に伴い長くなる。このようなブシュ間ピッチのバラツキが大きくなるとスプロケットとの噛み合いが不整合となり、騒音発生の原因となっていた。さらにブシュ間ピッチのバラツキが大きくなるとローラがスプロケットの歯先と干渉するためローラが割れる原因ともなっていた。
【0006】
一方、本発明の発明者らが鋭意研究したところ、ピンとブシュの間における摺動によるブシュ内周面及びピン外周面の摩耗は、チェーンの使用時間に対して定常的に摩耗するのではなく、図3に示したようにチェーンの使用開始直後に短期間で急激に摩耗し(初期摩耗)、その後は長期間にわたって緩やかに摩耗していく(定常摩耗)ことが解明された。
【0007】
そこで、本発明の目的は、前述したような従来のローラチェーンが抱えていた問題点を解消し、低騒音で長寿命のローラチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、2本のブシュの両端が、一対の内プレートに穿孔されたブシュ孔にそれぞれ圧入され、前記ブシュの外側に回転可能なローラを有する内リンクと、隣接した前記内リンクの前記ブシュ内に遊貫された2本のピンの両端が、前記一対の内プレートの両外側に配置された一対の外プレートに穿孔されたピン孔にそれぞれ圧入された外リンクとを有し、前記内リンクと前記外リンクが前記ピンにより交互に屈曲可能に連結されたローラチェーンにおいて、前記外リンクにより連結された2つの内リンクに跨るブシュ間ピッチを、1つの内リンクにおけるブシュ間ピッチよりも、チェーンの初期摩耗伸び量を考慮した寸法分短く設定することによって、上述した課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明は、2本のブシュの両端が、一対の内プレートに穿孔されたブシュ孔にそれぞれ圧入され、前記ブシュの外側に回転可能なローラを有する内リンクと、隣接した前記内リンクの前記ブシュ内に遊貫された2本のピンの両端が、前記一対の内プレートの両外側に配置された一対の外プレートに穿孔されたピン孔にそれぞれ圧入された外リンクとを有し、前記内リンクと前記外リンクが前記ピンにより交互に屈曲可能に連結されたローラチェーンにおいて、前記外リンクにより連結された2つの内リンクに跨るブシュ間ピッチを、1つの内リンクにおけるブシュ間ピッチよりも、チェーンの初期摩耗伸び量を考慮した寸法分短く設定したことによって、チェーンの低騒音化及び長寿命化が図られる。
【0010】
なお、本発明においては、内リンクのブシュにローラを外挿したローラチェーンを対象としているが、本発明における効果は、内リンクのブシュにローラを外挿しないブシュチェーンにおいても同様の効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。
【0012】
チェーンの初期摩耗による伸び率は、ブシュ及びピンの材質、寸法、形状によって左右されるが、本実施例においては、8mmピッチのローラチェーンを用いて計測したところ、約0.1%であった。すなわち、初期摩耗によって0.008mmの伸びが予想される。そこで、1つの内リンクのブシュ間ピッチ8mmに対して、外リンクにより連結された2つの内リンクに跨るブシュ間ピッチを7.992mmとする。外リンクにより連結された2つの内リンクに跨るブシュ間ピッチは、外リンクのピン孔間距離を調整することにより、簡単に調整することが可能である。
【0013】
その結果、図1(a)に示したように、チェーンの使用開始直後においては、1つの内リンクのブシュ間ピッチと外リンクにより連結された2つの内リンクに跨るブシュ間ピッチとの間には、0.008mmのマイナスのピッチ差が生じているが、初期摩耗終了時においてピッチ差が解消し、その後は定常摩耗によって緩やかにピッチ差が上昇する。そのため初期摩耗終了後は、長期にわたって、小さなピッチ差で使用することが可能になる。
【0014】
また、騒音レベルについても、図1(b)に示したように、チェーンの使用開始直後は、従来品よりも大きな騒音が発生するが、初期摩耗の進行に伴い、従来品は騒音レベルが大きくなるのに対して、本発明品は騒音レベルが小さくなる。初期摩耗終了時において本発明品は騒音レベルが最小となり、その後は、定常摩耗によるピッチ差の上昇に従い、長期に亘って緩やかに騒音レベルが上昇する。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、特殊な製造設備や高価な材料を用いることなく製造でき、しかも、外リンクのピン孔間距離を調整するという簡単な方法で騒音の低減を実現できるため、産業上の利用可能性は、きわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例のローラチェーンと従来品のピッチ差、騒音レベルを示す図である。
【図2】本発明のローラチェーンを説明する図である。
【図3】本発明のローラチェーンを説明する図である。
【図4】本発明に関連するローラチェーンの一部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0017】
40 ・・・ ローラチェーン
41 ・・・ 内プレート
41a ・・・ ブシュ孔
42 ・・・ ブシュ
43 ・・・ ローラ
44 ・・・ 外プレート
44a ・・・ ピン孔
45 ・・・ ピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本のブシュの両端が、一対の内プレートに穿孔されたブシュ孔にそれぞれ圧入され、前記ブシュの外側に回転可能なローラを有する内リンクと、隣接した前記内リンクの前記ブシュ内に遊貫された2本のピンの両端が、前記一対の内プレートの両外側に配置された一対の外プレートに穿孔されたピン孔にそれぞれ圧入された外リンクとを有し、前記内リンクと前記外リンクが前記ピンにより交互に屈曲可能に連結されたローラチェーンにおいて、
前記外リンクにより連結された2つの内リンクに跨るブシュ間ピッチを、1つの内リンクにおけるブシュ間ピッチよりも、チェーンの初期摩耗伸び量を考慮した寸法分短く設定したことを特徴とするローラチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−9947(P2006−9947A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187889(P2004−187889)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)