説明

ロール状印刷版用原版

【課題】 ロール状の印刷用原版を製造するにあたり、その厚み、構成によって巻き芯のクッション材の厚みと密度を工夫することで、印刷用原版の巻き始めの巻き始め端縁部の段差痕の転写を防止し、巻き緩みや巻き締まりもなく良好な状態で巻き取られることを課題とする。
【解決手段】中空コアの周りに長尺の印刷用原版が巻き重ねてなるロール状印刷用原版において、中空コアと巻き始めの印刷用原版を繋げるテープの厚みが印刷用原版の厚みの0〜20%以下であることを特徴とするロール状印刷用原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を必要とする連続した印刷版用原版のシートもしくはフィルムをロール状に巻き重ねた時に巻芯の巻き始め端縁部で発生する印刷用原版の段差形状が転写しないロール状印刷版用原版とその巻取り方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に可撓性のある印刷版用原版の長尺シートを中空コアにロール状に巻き重ねる場合、紙管や樹脂やアルミ製の巻芯にテープや両面テープ等の粘着テープで印刷版用原版のシートの巻始め部分を固定し、その上に巻き重ねていく。このとき巻取り張力が弱いと、巻き物が巻き緩みを生じ、巻き側面がずれる。巻き側面が揃うように巻き重ねるためには所定以上の張力で巻き取らなければならない。しかし、巻きの側面が揃うような強い張力で巻き重ねていくと、巻始め部分に段差があるため、この段差転写が巻き重ねた印刷版用原版のシートに転写する。この巻内段差の転写はロール状シートの走行方向に対して横筋状になって印刷版用原版のシートにそのまま残り、最終的な印刷物にまでその段差痕として転写するために欠陥となり、印刷版用原版の最終製品の収率を低下させる原因となっていた。
【0003】
この巻きズレを解決するために、巻芯にゴムベルトや紙管の外周面をサンドブラストしたすべり防止用の巻芯を用いた方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法は巻きズレには効果があるものの、巻き始め部分の段差形状の転写が発生するという問題については解決しておらず、これらを解決する巻芯と巻き始め部分の段差のない印刷版用原版の長尺シートの開発が望まれていた。
【0004】
一方、この段差を吸収させるためにクッション性を有する紙管も開発されている。例えば、外周面をパルプを主体とした繊維で加熱発泡した密度0.1〜0.4g/cmの発泡紙で紙管の最外層を巻きつけたクッション性紙管が提案されているが(特許文献2等参照)、このようなクッション性の巻芯は、100μm未満の薄いフィルムを巻き重ねるときには適しているが、印刷用原版に使用されるような100μm以上の厚みのあるシートに適用した場合、クッションの効果を得ることができないため、適していなかった。
【特許文献1】特開2002−114418号公報
【特許文献2】特開平6−156878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために考慮してなされたものであり、連続した印刷版用原版のシートをロール状に巻き重ねた時に中空コアで発生する印刷用原版の巻き始め端縁部の段差形状の転写を防止するとともに、巻きズレもないロール状印刷用原版を収率よく提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願人は、鋭意検討した結果、中空コアの周りに長尺の印刷用原版を巻き重ねる際に、中空コアと巻き始めの部分に着目したところ、中空コアと印刷用原版を繋げるテープの厚みが印刷用原版の厚みより特定の範囲で薄く、更に好ましくは使用される巻芯の外周面を特定条件の範囲のクッション材で被覆することで、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
(1)中空コアの周りに長尺の印刷用原版が巻き重ねてなるロール状印刷用原版において、中空コアと巻き始めの印刷用原版を繋げるテープの厚みが印刷用原版の厚みの0〜20%以下であることを特徴とするロール状印刷用原版、好ましくは、
(2)該印刷用原版の厚みが、150〜300μmである(1)に記載のロール状印刷用原版、より好ましくは、
(3)中空コアが、巻芯の外周面を密度400〜800kg/mのクッション材で被覆したものである(1)又は(2)に記載のロール状印刷用原版、また、
(4)中空コアの周りに長尺の印刷用原版を巻取る方法おいて、中空コアと巻き始めの印刷用原版を印刷用原版の厚みの0〜20%以下であるテープで繋げた状態で巻き重ねることを特徴とするロール状印刷用原版の巻取り方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長尺の印刷用原版を巻き重ねる場合、中空コア近くに発生する巻き始めの段差形状が転写せずに巻き重ねることができ、巻き緩みや巻き締まりもなく良好な状態で巻き取られることで品質を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[巻取り]
本発明において、巻取り部での巻取り方法は、例えば図1に示すような巻取り装置を用いておこなうことが好ましい。図1について説明すると、巻取り部は、シャフト3とシャフト3に巻芯1にクッション材を被覆した中空コアを取り付けるための治具であるエアコアチャック2で構成されている。エアコアチャック2はエア注入弁よりエアを供給することで膨張し、巻芯1を内側より固定するものである。尚、本発明においては、巻芯にクッション材を被覆したものを中空コアと呼んでいる。
【0010】
製品巻取後に巻取り部より巻取ロールを取り外すときには、再度注入弁を押すことによってエアが抜け、エアコアチャック2は巻芯より取り外されるしくみとなっている。エアコアチャック2は中空コアの内径に併せて適当なサイズのものが用意されるが、通常76.2mm(3インチ)前後用のものが使用される。このような構成により、縮径した状態のエアコアチャック2が中空コアへ挿入され、エアコアチャック2を拡径して中空コアを芯ズレないように固定することができる。
【0011】
中空コアの内側(巻芯)の材質としては通常は紙管を使用するが、アルミもしくはその他の金属管、ポリビニール管、飽和ポリエステル管、ガラス管及びそれらの複合管等を用いることもできる。芯材の望ましい肉厚は一般的に8〜12mm程度である。
【0012】
また、巻芯1に被覆されるのクッション材は円筒状の巻芯1の外周面を被覆し固定することが好ましい。その際にクッション材の密度が400〜800kg/mのものを用いることが好ましい。更に好ましいクッション材の密度は500〜700kg/mであり、より更に好ましくは600〜650kg/mである。クッション材は、薄すぎるとクッションとして機能せず、反対に厚すぎると巻き皺ができたりして正しい巻き付けができなくなる可能性があるため、クッション材の厚さは、好ましくは1〜5mm、より好ましくは2〜3mm程度とすることが推奨される。クッション材の密度は、上記範囲内であると巻内部に皺や巻き緩みや巻きズレが発生することなく、また、クッションとしての効果が十分であるため好ましい。
【0013】
巻芯の外周面に被覆するクッション材は、上記条件を満たしていれば好ましく、その他の限定は特にないが、具体的な好ましい材質としては、厚み1〜5mm程度のポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ポリ塩化ビニールフォーム、ビスコーススポンジ、ゴムフォーム、EVAフォーム、ABSフォーム、ナイロンフォーム、アクリル樹脂フォーム、ポリウレタンフォーム、フェルトフォーム、尿素樹脂フォーム、シリコン樹脂フォーム、エポキシ樹脂フォームなどの発泡樹脂が用いられる。
【0014】
シート状の印刷用原版4は、その巻き内端縁が巻芯外周面のクッション材の外面に両面接着テープもしくは手巻きにて(テープなしで)シートが中空コアに固定するまで数週巻くことにより繋げられる。この印刷用原版4は、その厚さが150〜300μmであることが好ましく、より好ましく180〜250μmである。また、中空コアと印刷用原版を繋げるテープの厚みは、印刷用原版の厚みの20%以下であるか、より望ましくは印刷用原版の10%以下、もしくは巻き芯と巻き始めの印刷用原版を繋げるテープがない状態である。即ち、好ましいテープの厚みは印刷用原版の厚みの0〜20%以下である。
【0015】
印刷用原版と中空コアを繋げる方法としては上記に示した通り、手巻きで固定し、テープを使用しないのがより好ましいが、テープで固定する場合にはテープの粘着材の粘着力はなるべく低粘着が望ましく、0.2N/20mm(20.4g/20mm)以下の粘着力、より好ましくは0.05N/20mm以上0.1N/20mm以下を有するものを使用することが好ましい。テープの粘着材が強すぎるとロール状印刷用原版にセットした設備に巻芯の巻内端縁シートの粘着材が付着し、印刷用原版の供給もしくは排版の搬送トラブルになったり、粘着材の付着物が異物の原因になったりする可能性がある。
【0016】
本発明で用いるテープは、前述の好ましい物性を有するものを製造して使用してもの構わないし、市販のものを用いても問題ない。市販品として使用可能なものの例としては、例えば弱粘着両面テープとしては3M製でアクリル系粘着剤を使用した型番9415PC等(0.13N/cm、テープ厚み60μm)が挙げられる。原版をテープで留める場合、その留め方などは特に限定されないが、全幅を留めることが好ましいが、ずれないようにしておけば、一部のみを留めても問題ない。
【0017】
ロール状印刷用原版の巻内端縁をクッション材が被覆された巻芯1へ固定した後には、その巻き端面が揃うような張力で巻き取ることが好ましい。この巻取り張力は、通常、巻き幅36cm当たり2〜3kg程度である。このようにして中空コアにより、印刷用原版4を巻き取るとクッション材は、印刷用原版4の巻き始め端縁部に押さえつけられ、窪みを生じるこのため、巻芯であるクッション材被覆巻芯1の外周円筒面と、印刷用原版4の巻き始め端縁部の外周面との段差はほとんどなくなり、この巻き始め端縁部の段差はその巻き始め端縁部に重なる印刷用原版4に転写され難くなる。
【0018】
本発明において、中空コアの周りに巻かれる長尺の印刷用原版は、特に限定されず、現在市販されている印刷用原版すべてに使用可能である。好ましくは、支持体上に直接又は他の層を介して感光性組成物からなる感光層を有するものである。それぞれについて以下に説明する。
【0019】
[支持体]
本発明の印刷版用原版において、用いられる支持体の具体例としては、アルミ板、鋼板、ステンレス板、銅板などの金属板、これら金属の合金板、ポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、酢酸セルロースなどのプラスチックフィルム、紙、アルミ箔ラミネート紙、金属蒸着紙、プラスチックラミネート紙などのラミネートフィルム等が挙げられる。特に好ましくはアルミ板(取り扱いが容易、さびにくく安価、伸びが小さく長時間印刷に適している)、プラスチックフィルムでは、ポリエステル(物理的性質(特に耐熱性)、機械的性質(特に引張強度)に優れ、安価である)である。
【0020】
本発明で用いる支持体は、長尺状で箔やフィルム状のもので最終の支持体の形態としてロール物となるものである。これらの支持体の厚さは、好ましくは130〜280μmであり、より好ましくは180〜250μmである。又、これらの支持体は、密着性の改良等を目的として、酸化処理、クロメート処理、リン酸亜鉛処理、サンドブラスト処理、コロナ放電処理などの表面処理を施してもよい。
【0021】
又、支持体上に他の層(下地層)を介して感光層を形成する方法も有効である。下地層としては、上層の感光層と支持体の密着性が上がるものであれば特に限定されることはない。組成としてはポリウレタン系が多いが、それに限定されることはない。厚みは下地層としての性能が発現する厚みであれば十分で通常は、5〜10μm程度である。
【0022】
[感光層]
本発明の印刷版用原版において、感光層は、感光性組成物を塗布することから得られるものであることが好ましい。感光層は、特に限定されず、通常PS版として使用されている感光層や、機上現像型と言われるCTP版に使用されている感光層等、何ら問題なく使用可能である。好ましくは撥インク性(親水性)を有する架橋樹脂からなるものであり、さらに光未照射の状態ではその表面が撥インク性(親水性)を有するものであり、光照射することにより撥インク性から親インク性に変化するものであることが好ましい。
【0023】
このような感光層を形成するための感光性組成物としては、特に限定されないが、一例として親水性ポリマー、架橋剤及び光吸収剤を含有する感光性組成物あるいは、親水性ポリマー、架橋剤、親油性ポリマー及び光吸収剤を含有する感光性組成物が挙げられるが、本発明では特に後者の親油性ポリマーを含有する感光性組成物を支持体上に塗布した後、架橋して、感光層を形成する方法についての具体例を示す。該感光層の膜厚は特に制限はないが、熱処理後の膜厚として、通常0.5〜10μm程度、特に1〜4μmが好ましい。
【0024】
[親水性ポリマー]
本発明において好ましい感光層を形成する感光性組成物に含まれる親水性ポリマーは、親水基を有するポリマーであれば特に限定されないが、好ましくは親水基及び架橋剤と反応し得る官能基を側鎖に有しているものである。
【0025】
該親水基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩等が挙げられ、またその他の例としてアミド基、アミノ基、スルホンアミド基、オキシメチレン基、オキシエチレン基などが挙げられる。
又、架橋剤と反応し得る官能基としては、上記の親水基の他、イソシアナート基、グリシジル基、オキサゾリル基、メチロール基、及びメチロール基とメタノール、ブタノール等のアルコールとが縮合したメトキシメチル基やブトキシメチル基等が挙げられる。
【0026】
親水性ポリマーとしては、好ましくは水酸基を側鎖に有するポリマー、カルボキシル基を側鎖に有するポリマー、スルホン酸基を側鎖に有するポリマー、リン酸基を側鎖に有するポリマー、アミド基を側鎖に有するポリマー等が挙げられる。より好ましい具体例として親水性ポリマーは、アクリルアミド、アクリル酸、ヒドロキシエチルアクリレート、水からなるモノマー溶液等が挙げられる。
【0027】
[架橋剤]
本発明において好ましい感光層を形成する感光性組成物に含まれる架橋剤は、親水性ポリマーを架橋するのに用いられるものであることが好ましく、前記親水性ポリマーと架橋反応して親水性ポリマーを水不溶性にすることにより感光層の耐水性を向上させるものであればより好ましい。例えば、親水性ポリマー中の架橋性官能基であるカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、グリシジル基、アミド基と反応する公知の多価アルコール化合物類、多価カルボン酸化合物やその無水物類、多価グリシジル化合物(エポキシ樹脂)類、多価アミン化合物類、ポリアミド樹脂類、多価イソシアナート化合物類(ブロックイソシアナート類を含む)、オキサゾリン樹脂、アミノ樹脂、グリオキザール等が挙げられる。
【0028】
[光吸収剤]
本発明において感光層を形成する感光性組成物に含まれる光吸収剤としては、光を吸収して熱を生じるものであればよく、吸収する光の波長に関しても特に制限は無く、露光に際しては、光吸収剤が吸収する波長域の光を適宜用いればよい。光吸収剤の具体例としては、シアニン系色素、ポリメチン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アントラシアニン系色素、ポルフィリン系色素、アゾ系色素、ベンゾキノン系色素、ナフトキノン系色素、ジチオール金属錯体類、ジアミンの金属錯体類、ニグロシン、カーボンブラック等が挙げられる。
【0029】
これらの光吸収剤は、明室での取り扱いを可能にするため、あるいは露光に用いる光源の出力や使いやすさから、700〜1200nm、特に市場に供されている高出力半導体レーザーの発振波長である800〜860nmに吸収域を有し、且つ感度、分解特性等に優れる光吸収剤を用いることが望ましい。これらの吸収波長域に関しては、置換基やπ電子の共役系の長さなどを変えることにより調整することが可能である。これらの光吸収剤は、感光性組成物に溶解していても分散していてもよい。
【0030】
[親油性ポリマー]
本発明において感光層を形成する感光性組成物に用いられる親油性ポリマーは、ポリマー微粒子が水に分散したエマルジョン型が好ましく、自己乳化型でも強制乳化型でもよい。これは乳化重合、懸濁重合、グラフト重合、ポリマーの後乳化等で作ることができる。親油性ポリマーとしては、ウレタン系、(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン、スチレン系、酢酸ビニル系、塩化ビニリデン系、共役ジエン系ゴム、ブタジエンゴム系等が挙げられる。これらに用いられる親油性ポリマーは、1種類だけでなく2種類以上を用いてもよい。
【0031】
本発明において感光性組成物には、更に親水性添加剤を添加してもよい。親水性添加剤としては、水や有機溶媒に溶解するものが望ましい。この親水性添加剤によって印刷版表面の親水性を高め、印刷開始後すぐに湿し水が表面に付くような作用をするものであれば、どのような化合物でも使用できるが、特に界面活性剤や表面改質剤と呼ばれているものが特に好ましい。現在さまざまな親水性添加剤が入手できるが、「特殊機能界面活性剤」シーエムシー出版(1986)記載の親水性界面活性剤が使用可能である。
【0032】
[感光層の組成比]
本発明において好ましい感光層となる感光性組成物に於いて、親水性ポリマー、親油性ポリマー、架橋剤、光吸収剤の使用割合は、刷版の感光層の親水性と耐水性のバランスや感度、その他種々の印刷特性の点や経済性の観点から、適宜決定することができ、特に限定されないが、好ましくは固形分で親水性ポリマー97〜10質量部、親油性ポリマー80〜10質量部、架橋剤3〜50質量部の割合であり、その際、光吸収剤は前記親水性ポリマー、親油性ポリマーと架橋剤の固形分の合計100質量部に対し2〜20質量部が好ましい。更に、親水性ポリマー60〜20質量部、親油性ポリマー70〜20質量部、架橋剤5〜40質量部の割合がより好ましく、その際、光吸収剤は前記親水性ポリマー、親油性ポリマーと架橋剤の固形分の合計100質量部に対し3〜15質量部が好ましい。
【0033】
支持体と感光層との密着性が悪い場合には、支持体と感光層との間には下地層を設けてもよい。この場合、下地層を最初に支持体に塗布し、その上に感光層を塗布する。下地の塗布についても支持体のエッジによる傷つきや異物のかみこみによる傷つきを防止するために本発明と同様の塗工方式、すなわち不織布を被覆したロールコート方式が好ましい。この時に用いる下地層は感光性組成物に含まれる親油性ポリマーと同じ樹脂系を用いることが望ましい。この樹脂系は特にウレタン系、アクリル系、酢酸ビニル系、合成ゴム系、エチレン系の親油性ポリマーが望ましい。下地層を構成する親油性ポリマーは、感光性組成物に用いられるものと同種類のものを用いる場合、分子量その他の諸物性は同一である必要はない。下地層を成膜する際に用いられる樹脂は、水溶液又は有機溶媒に溶解した均一溶液でもよいし、エマルジョンでも良い。特に好ましいのはポリマーエマルジョン型である。この親油性ポリマーエマルジョンは強制乳化型でもよいし、自己乳化型でもよい。エマルジョンを用いた場合、下地層の表面凹凸を防ぐため、ポリマーの平均粒径は5〜500nm以下が望ましい。エマルジョンの平均粒径は、一般的には水で薄めて粒度測定器(例えば「マイクロトラック」等)により測定される。その他、エマルジョンを凍結後スライスして透過型電子顕微鏡で測定することもでき、特に平均粒径が10nm以下の場合には好ましく用いられる。このエマルジョンは塗布後、分散溶媒が蒸発すると融着して造膜する特性が必要である。製造上問題がなければ造膜温度は何度でもよい。
【0034】
下地層には1種類または2種類以上の前記親油性ポリマー樹脂を混合して使用できる。さらに、架橋剤を加えて強靭な膜を作ることも可能である。この下地層を塗布するときには支持体への傷つきや異物のかみこみを考慮してロールが配設されている塗布装置を用いることが好ましい。この際、塗布溶液の消泡のためや、塗布膜の平滑化の支持体との密着性向上、親水性の感光層との密着性向上のために塗布溶液に消泡剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、カップリング剤等の各種添加剤を用いても良い。
【0035】
下地層の膜厚は特に制限はないが、通常0.1〜20μm程度、好ましくは5〜15μm、さらに好ましくは9〜11μmである。下地層塗布後そのまま感光性組成物を塗布してもよいし、加熱または送風乾燥してから使用してもよい。このように設けた下地層によって、支持体/下地層界面、下地層/感光層界面の密着性が上がるため耐刷性がよく、湿し水が供給されても界面での剥離は起きない。さらにレーザー照射部分の熱の拡散を防止でき、感度が向上する効果も有する。
【0036】
[感光層の製造]
本発明においては、前記支持体に感光層を設けるには、本発明の感光性組成物を含有する溶液を支持体に直接又は下地層表面に塗布し、乾燥、硬化すればよい。この際、塗布溶液の消泡のためや、塗布膜の平滑化のために塗布溶液に消泡剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、カップリング剤等の各種添加剤を用いても良い。
【0037】
[塗布液組成]
本発明において感光層を形成するための塗布液組成は、前記感光性組成物を溶剤に溶解又は分散させて使用する。ここで、使用する溶剤としては、水、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコール等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルあるいはこれらの混合溶剤を使用することができる。
【0038】
塗布液濃度は特に制限はないが、不揮発性成分(NV)が5〜30wt%程度、好ましくは10〜20wt%である。又、20℃における塗布液粘度は10〜1000mPa・s、好ましくは10〜100mPa・sとなるように調製するのが望ましい。また、感光層の耐水性等の特性を改良するために有機や無機のフィラーを用いてもよい。
【0039】
[塗布方法]
本発明においての塗布方法は、感光性組成物の特性や塗布速度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、バーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、カーテンフローコーター、ダイコーター、ディップコーターやスプレー法等を用いることができる。
【0040】
[乾燥および樹脂架橋]
以上のようにして感光性組成物の溶液を塗布した後、加熱して乾燥及び親水性ポリマーを架橋する。加熱温度は通常50〜200℃程度である。なお、乾燥、架橋は同時に行ってもよいし、別工程としてもよい。別工程とする場合は、乾燥、架橋を連続的に行ってもよいが、乾燥工程に比較して架橋工程には一般的に長時間を要することから、乾燥工程まで経た原反をまとめて架橋するバッチ式は簡便である。好ましくは、90〜120℃で乾燥し、次いで100〜140℃で架橋する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を例にとって、本発明を説明するが、本発明は何らこの記載によって限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例においては、以下の感光性組成物を使用した。また、本発明においての評価は以下の方法にて行った。
感光液の粘度測定:回転式粘度計(ビスコベーシック株式会社製:デジタル式回転粘度計 ビスコベーシック+)を用い、回転数50rpmにて測定した。
【0042】
感光性組成物A(下記の質量部は固形分としての比率)
・親水性ポリマーP 40質量部
・親油性ポリマー(ウレタン系エマルジョン) 40質量部
(第一工業製薬(株)製「エマルジョンスーパーフレックス(登録商標)700」)
・架橋剤(メチル化メラミン樹脂) 20質量部
(三井サイテック(株)製「サイメル(登録商標)350」)
・光吸収剤(シアニン色素) 5質量部
(アクロス製「IR125」(商品名))
・親水性添加剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム) 2質量部
(第一工業製薬(株)製「ネオゲン(登録商標)R」)
以上の成分を混合した後、NV=20%になるように純水を適量加え、塗布液とした。尚、親水性ポリマーPは、以下の方法で合成したものである。
【0043】
(親水性ポリマーPの合成)
1000mlのフラスコに水400gを入れ、窒素をバブリングして溶存酸素を除去した後、80℃に昇温した。窒素ガスをフラスコに流しながら、アクリルアミド100g、アクリル酸25g、ヒドロキシエチルアクリレート5g、水165gからなるモノマー溶液と重合開始剤「V−50」(水性アゾ系、和光純薬工業(株)製品)0.5gを水50gに溶解した開始剤の水溶液を、内温を80℃に維持しながら、別々に3時間に亘り連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間重合を続けた後、さらに90℃で2時間重合した。最後に水150gを加えた後、アンモニア水溶液でpHを4.5に調整して親水性ポリマーPの水溶液を得た。このポリマーの水溶液は、粘度が8000mPa・s、固形分は17質量%である。
【0044】
実施例1
厚さ188μm、幅1140mmである長尺状のPETフィルムの支持体を、塗布液として、前記感光性組成物Aを含有した塗布液を用い、ワニスタンク、配管、コータヘッド部分を5℃、塗布雰囲気温度として20℃に保持し、ロールを有する塗布装置を使用して塗布した。乾燥後の感光性組成物を含有した層の厚みは乾燥後に3μmとなるように、支持体の搬送速度40m/minにして塗布後、支持体に120℃のエアを吹き付ける長さ60mの乾燥装置を通過させた。乾燥後の感光性組成物を含有した層の厚みは3μmであった。この幅1140mmの印刷用原版を一度152.4mm(6インチ)の巻き芯に巻取り、その後にスリッター装置にて、360mm幅で3本取りし、その巻取りにおいて、下記条件の中空コアを使用し、図1のような巻取り装置にてロール状印刷用原版を巻取り張力1Nで巻き取った。
【0045】
巻芯として以下のものを使用した。
巻芯の材質・・・・硬質紙
巻芯内径・・・・・・76.2mm(3インチ)
中空コア幅(長さ)・・・・360mm
中空コア厚み・・・・・・8mm
クッション材材質・・・・PE(ポリエチレン)
フォーム厚さ・・・・・・・2mm
クッション材密度・・・・600kg/m
この中空コアに、幅360mm、厚さ191μmのフィルム状印刷用原版の一端縁部をテープの貼り付けなしに巻芯に取り付け、巻き端面を揃わせて3周印刷用原版を巻きつけ固定した。その後に巻き端面が揃うように巻取り張力1Nで長さ35mを巻き取り、一昼夜放置した。その後、積層体を解いて、巻き始め端縁部の段差が転写されて残った巻層数を目視で数え、何巻目まで段差跡が認められるかを調べた。この巻芯では、段差跡は1巻目から認められず、極めて良好な状態で積層体を巻き取ることができることが判った。
【0046】
実施例2
実施例1において使用した巻芯を用い、フィルム状印刷用原版の端縁部の固定方法を極薄の両面接着テープ(自社製 アクリル系粘着材使用)で固定すること以外は、同様の方法で巻取りを行った。両面テープの厚みは15μm(印刷原版に対する厚み8%)で粘着力は0.2N/20mm(20.4g/20mm)であった。その結果、この方法でも、段差跡は1巻目から認められず、極めて良好な状態で積層体を巻き取ることができた。
【0047】
比較例1
実施例1において使用した巻芯を用い、フィルム状印刷用原版の端縁部の固定方法を厚みが50μmの両面テープ(0.1N/20mm、印刷原版に対する厚み26%)固定すること以外は、同様の方法で巻取りを行った。その結果、固定した両面テープの厚みが厚かったために、クッション材の効果が小さく、印刷用原版巻き始めの端縁部より20巻目まで段差跡が見られた。この両面テープの厚みにおいてはクッション材の密度を200kg/mにしても巻き始め端縁部の段差痕は5巻き目まで見られ、巻きの形状としてはクッション材が沈みすぎ、巻きズレが発生する寸前で、印刷用原版の巻き芯としては不適であることが判った。
【0048】
実施例3
実施例1において使用した巻芯を用い、印刷用原版の支持体として厚みが350μmのアルミを使用し、同様に巻取り端面がずれないような張力で巻取り部に巻き取った。この結果、巻内端縁部のテープの貼り付けなしで段差は少なくなったが、支持体として使用したアルミの厚みが厚かったためにクッション材の効果が若干小さく、印刷用原版巻き始めの端縁部より5巻目まで段差跡が見られた。この支持体の厚みにおいてはクッション材の密度を200kgf/mにすると巻き始め端縁部の段差痕は1巻き目まで改善され、巻きズレの発生もなく、印刷用原版の巻き芯としては十分であることが判った。
【0049】
実施例4
実施例1において使用した中空コアを使用し、クッション材の密度を1000kg/mまで大きくした以外は実施例1と同様に印刷用原版を巻き取った。この結果、巻内端縁部のテープの貼り付けなしで段差は少なくなったが、この巻芯のクッション材の密度では若干硬過ぎて、印刷用原版の巻き始め端縁部の段差痕は2巻き目まで見られた。但し、クッション密度を800kg/mのものは巻き始め端縁部の段差痕はなく改善され、巻きズレの発生もなく、印刷用原版の巻き芯としては十分であることが判った。
【0050】
なお、本発明においては、上記の実施例に限定されるものではなく、クッション材としては、前述したようにあらゆるタイプの発泡樹脂フォームを用いることができ、また、印刷用原版の巻芯のクッション材への取り付け方法は請求項の記載する範囲内で任意であり、さらに、本発明は上記の説明から当業者が容易に考え得る総ての変更実施例を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
ロール状の印刷用原版を製造するにあたり、その厚み、構成によって巻芯のクッション材の厚みと密度を工夫することで、印刷用原版の巻き始めの巻き始め端縁部の段差痕を防止することができ、巻きずれもないロール状の印刷用原版と巻き芯とその製造方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】中空コアに巻き重ねられたロール状印刷用原版の巻取り部を例示した説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1.巻芯
2.エアコアチャック
3.シャフト
4.シート状印刷用原版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空コアの周りに長尺の印刷用原版が巻き重ねてなるロール状印刷用原版において、中空コアと巻き始めの印刷用原版を繋げるテープの厚みが印刷用原版の厚みの0〜20%以下であることを特徴とするロール状印刷用原版。
【請求項2】
該印刷用原版の厚みが、150〜300μmである請求項1に記載のロール状印刷用原版。
【請求項3】
中空コアが、巻芯の外周面を密度400〜800kg/mのクッション材で被覆したものである請求項1又は2に記載のロール状印刷用原版。
【請求項4】
中空コアの周りに長尺の印刷用原版を巻取る方法おいて、中空コアと巻き始めの印刷用原版を印刷用原版の厚みの0〜20%以下であるテープで繋げた状態で巻き重ねることを特徴とするロール状印刷用原版の巻取り方法。



【図1】
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【公開番号】特開2006−44838(P2006−44838A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225535(P2004−225535)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】