説明

ワイヤグリッド偏光板及びワイヤグリッド偏光板の製造方法

【課題】切断加工により生じる偏光特性の劣化を抑制できるワイヤグリッド偏光板及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】樹脂で形成された基材(102)上に所定方向に延在する金属ワイヤ(103)を形成する工程と、金属ワイヤ(103)が形成された基材(102)にレーザー光を照射して切断加工を行う工程とを有し、切断加工において、レーザー光を金属ワイヤ(103)が形成されている領域に照射して基材(102)の切断を行う。また、切断加工後のワイヤグリッド偏光板の切断面が、厚み方向との成す角度で45°以上85°以下となるように、レーザー光を照射して基材(102)の切断を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光を利用したディスプレイやセンサー等の用途に好ましく使用できるワイヤグリッド偏光板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のフォトリソグラフィ技術の発達により、光の波長レベルのピッチを有する微細構造パターンを形成することができるようになってきた。この様に非常に小さいピッチのパターンを有する部材や製品は、半導体分野だけでなく、光学分野において利用範囲が広く有用である。
【0003】
例えば、金属などで構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列してなるワイヤグリッド偏光板がある(例えば、特許文献1)。ワイヤグリッド偏光板は、そのピッチが入射光に比べてかなり小さいピッチ(例えば、2分の1以下)であれば、導電体線に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光をほとんど反射し、導電体線に対して垂直な電場ベクトル成分の光をほとんど透過させるため、単一偏光を作り出す偏光板として使用できる。ワイヤグリッド偏光板は、透過しない光を反射し再利用することができるので、ディスプレイの光源装置などの用途では、光の有効利用の観点からも望ましいものである。
【0004】
上記のような原理から、ワイヤグリッド偏光板は、可視光から近赤外光、赤外光に至る広い範囲で優れた偏光特性を有する。また、ワイヤグリッド偏光板は、樹脂基材等の可撓性を有する基材を用いることによってフィルム状とすることができる。このため、近年、ワイヤグリッド偏光板を、様々な製品に対して適用することが検討されている。
【0005】
また、ワイヤグリッド偏光板はフィルムという性質上、様々な製品のニーズに合わせた加工を施し提供する必要性がある。所定形状のワイヤグリッド偏光板の作製方法として、従来から刃による打ち抜き加工がある。しかし、この方法では切断時の取り扱い時の難しさや、打ち抜きの精度等に問題がある。また、ワイヤグリッド偏光板の構造に粘着剤等が含まれる場合、刃による切断加工では加工後の素子が再接合し、製品同士が連なることがある。また、刃で切断加工されたワイヤグリッド偏光板では、毛細管現象によって水分や接着成分が染み出し金属ワイヤの劣化を招くおそれがある。
【0006】
また、切断加工により得られるワイヤグリッド偏光板の問題点として、パーティクルに関する問題がある。切断加工時に発生したパーティクルは、切断加工されたワイヤグリッド偏光板に付着し、精密機器に組み込む際に問題となる。さらに、ワイヤグリッド偏光板に付着したパーティクルにより偏光特性の劣化を引き起こす可能性が考えられる。したがって、上述した問題を解決できるワイヤグリッド偏光板の加工方法の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−328234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、切断加工により生じる偏光特性の劣化を抑制できるワイヤグリッド偏光板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のワイヤグリッド偏光板の製造方法は、樹脂で形成された基材上に所定方向に延在する金属ワイヤを形成する工程と、前記金属ワイヤが形成された基材にレーザー光を照射して切断加工を行う工程とを有するワイヤグリッド偏光板の製造方法であって、前記切断加工において、前記レーザー光を前記金属ワイヤが形成されている領域に照射して前記基材の切断を行うことを特徴とする。これにより、切断加工後のワイヤグリッド偏光板に付着するパーティクル数を低減し、ワイヤグリッド偏光板の偏光特性の劣化を抑制することができる。
【0010】
本発明のワイヤグリッド偏光板の製造方法において、前記レーザー光を照射する領域における金属の含有量が0.01wt%以上とすることが好ましい。
【0011】
本発明のワイヤグリッド偏光板の製造方法において、前記切断加工後のワイヤグリッド偏光板の切断面が、厚み方向との成す角度で45°以上85°以下とすることができる。
【0012】
本発明のワイヤグリッド偏光板の製造方法において、前記レーザー光の照射で消失する樹脂層の膜厚を80μm以上800μm以下とすることができる。
【0013】
本発明のワイヤグリッド偏光板の製造方法において、前記金属ワイヤを形成する工程の前に、前記基材の表面に所定方向に延在する凹凸構造を形成する工程を有し、前記基材の表面に形成された凹凸構造に対して導電体を蒸着して前記金属ワイヤを形成することができる。
【0014】
本発明のワイヤグリッド偏光板は、樹脂で形成された基材上と、前記基材上に設けられた金属ワイヤとを有するワイヤグリッド偏光板であって、前記基材及び前記金属ワイヤがレーザー光の照射により切断加工されていることを特徴とする。
【0015】
本発明のワイヤグリッド偏光板において、前記レーザー光の照射により切断加工されたワイヤグリッド偏光板の切断面が、厚み方向との成す角度で45°以上85°以下とすることができる。
【0016】
本発明のワイヤグリッド偏光板において、前記金属ワイヤを構成する金属の含有量が0.01wt%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
金属ワイヤを含む領域にレーザー光を照射して切断加工を行うことにより、切断加工により生じる偏光特性の劣化を抑制できるワイヤグリッド偏光板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】樹脂基材上に金属ワイヤを有する素子に対するレーザー光の照射方向を示す図である。
【図2】切断加工後のワイヤグリッド偏光板の断面像である。
【図3】切断加工後のワイヤグリッド偏光板、樹脂層の上面像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、ワイヤグリッド偏光板の製造において切断加工時の取扱い性や、切断加工後の断面形状の均一性を向上させるためにレーザーを用いて切断加工することを検討し、樹脂で形成される基材にレーザー光を照射して切断加工を行うことにより、切断後のワイヤグリッド偏光板の断面の均一性等の加工精度を向上できることを見出した。しかし、その一方で、樹脂基材と金属ワイヤを有する素子に対してレーザー光を照射する位置に応じて、切断加工後のワイヤグリッド偏光板に付着するパーティクル数が大きく変化することを見出した。
【0020】
レーザー光の照射位置とパーティクルの発生についてさらに詳細に検討した結果、金属ワイヤを含まない領域にレーザー光を照射して切断加工した場合には、切断加工後にワイヤグリッド偏光板に付着するパーティクルが多く発生することが分かった。これは、レーザー光の照射により溶解した有機物(樹脂層等)が飛散して、切断後のワイヤグリッド偏光板に付着したためであると考えられる。一方で、樹脂層中に金属が含まれる領域にレーザー光を照射して切断加工した場合には、切断加工後にワイヤグリッド偏光板に付着するパーティクルを抑制できることを見出した。
【0021】
そこで、本発明者は、ワイヤグリッド偏光板の切断加工において、金属ワイヤを含む領域に意図的にレーザー光を照射して切断加工を行うことを着想し、本願発明に至った。また、本発明者は、切断加工後のワイヤグリッド偏光板の断面にテーパが形成されるように切断加工を行うことにより、通常刃でハーフカットした際に発生する毛細管現象を低減し、ワイヤグリッド偏光板の劣化を抑制できることを見出した。以下に本実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
本実施の形態のワイヤグリッド偏光板の製造方法の一態様は、支持基板101と、当該支持基板101上に樹脂で形成された基材102と、当該基材102上に形成された金属ワイヤ103とを含む素子に対してレーザー光を照射して切断することによりワイヤグリッド偏光板を形成する工程を有している。また、本実施の形態では、当該レーザー光を金属ワイヤ103が形成されている領域に照射して素子の切断を行う(図1A参照)。これにより、切断加工後のワイヤグリッド偏光板の断面の加工精度を向上すると共に、ワイヤグリッド偏光板に付着するパーティクル数を効果的に低減することができる。
【0023】
また、本実施の形態では、レーザー光を照射して切断加工する素子の構造は図1Aに限られない。図1Bに示すように、金属ワイヤ103上に粘着剤層104を介してアクリル等の樹脂で形成された保護フィルム105が設けられた素子に対して、レーザー光を照射することもできる。また、レーザー光の照射条件を制御することにより、支持基板101が樹脂で形成されている場合に、レーザー光により支持基板101の途中部分まで消失させる(ハーフカット)構成としてもよい。
【0024】
一般的に、樹脂基材上に形成された金属ワイヤで構成されるワイヤグリッド偏光板は、有機物と金属の複合体であると考えられる。上述したように、樹脂層にレーザー光を照射した場合、レーザー光の照射により溶解した有機物(樹脂層等)が飛散して、切断後のワイヤグリッド偏光板に付着してしまう。しかし、金属を含む樹脂層にレーザー光を照射した場合、レーザー光の熱により有機物と金属の双方の成分が一旦気化するが、金属の方が有機物に対して気化物沸点が高いため不安定であり、有機物より先に気相中で凝集しやすい。そのため、金属を含む領域をレーザー光で照射することにより、気化した金属が有機物を巻き込んで凝集し、有機物単体の場合と比べてパーティクルの飛散距離を短縮させ、パーティクル飛散面積を小さくすることが可能となる。
【0025】
また、レーザー光の照射により消失する領域の金属含有量が多いほど、より多くの金属が気化して有機物を巻き込んで凝集するため、レーザー光を照射する領域における金属の含有量を0.01wt%以上とすることが好ましい。また、金属ワイヤの厚膜化は限度があるため、金属の含有量を増加するためには、レーザー光の照射で消失させる樹脂層の膜厚を薄くすることが好ましく、例えば、レーザー光の照射で消失する樹脂層の膜厚を80μm以上800μm以下とすることが好ましい。なお、金属含有量は、レーザー光の照射で消失する樹脂層中に含まれる金属の含有量を指す。樹脂層としては、具体的には、支持基板101、基材102、粘着剤層104、保護フィルム105等が挙げられる。
【0026】
また、本実施の形態において、レーザー光の照射条件を制御することにより、切断加工後の切断面を厚み方向との成す角度(テーパ角度)で45°以上85°以下とすることが好ましい。これにより、刃で切断加工されたワイヤグリッド偏光板と比較して、毛細管現象によって水分や接着成分が染み出し金属ワイヤが劣化することを抑制することができる。なお、レーザー光の照射条件としては、レーザー光の出力、レーザーパルスのデューティー比、レーザー光の焦点位置等を制御することにより、テーパ角度を制御することができる。
【0027】
以下に、本実施の形態のワイヤグリッド偏光板の構成、材料等について詳細に説明する。
【0028】
(支持基板)
支持基板101は、樹脂で形成される基材102を支持する基板として機能する。したがって、支持基板101は、基材102に対して、密着性がよく、屈折率差が小さく、ヘーズ値の差が小さい材料で形成することが好ましい。例えば、支持基板101をガラスや樹脂材料で形成することができる。また、支持基板101は、フレキシブル性(屈曲性)、高衝撃耐性を有し、加工が容易で高い生産性を有する材料、例えば、樹脂材料を用いることが好ましい。
【0029】
支持基板101として、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、メタクリル酸メチル−スチレン樹脂(MS樹脂)、スチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂(COP樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース樹脂(TAC樹脂)、ポリイミド樹脂あるいはアクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。特に、PMMA樹脂、アクリル系樹脂、PC樹脂、PS樹脂、スチレン系樹脂、COP樹脂、PET樹脂、PEN樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、TAC樹脂が好ましい。
【0030】
なお、支持基板101としては、上記材料に限定されず、使用目的や用途に応じて、ガラス、セラミック、金属等の無機材料、樹脂等の有機材料を任意に選択することができる。また、支持基板101を設けない構成としてもよい。
【0031】
(樹脂基材)
基材102は、樹脂材料を用いて形成することができる。樹脂材料を用いて基材102を形成することにより、ロールプロセスが可能になる、ワイヤグリッド偏光板にフレキシブル性(屈曲性)を持たすことができる、等のメリットがあるため好ましい。基材102として用いることができる樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化型樹脂や熱硬化型樹脂が挙げられる。また、UV硬化型樹脂や熱硬化型樹脂と、上記熱可塑性樹脂、トリアセテート樹脂とを組み合わせたり、単独で用いて基材を構成させたりすることもできる。また、基材102と金属ワイヤ103の密着性を向上させるための絶縁層を基材102の表面に備えても構わない。
【0032】
また、基材102の表面を凹凸構造としてもよい。この場合、基材102表面の凹凸構造は、断面視において、正弦波形状であることが好ましい。正弦波形状とは、凹部と凸部の繰り返しからなり、放物線のようになだらかに曲率が変化する曲線部を意味し、それは、台形形状、矩形形状、方形形状や、半円状などの正弦波形状であってもよい。基材102表面に凹凸構造を形成することにより、基材102の表面にある凹凸形状の凸部の側面及び凹部の底部に、斜め蒸着法で連続した金属ワイヤを容易に形成することが容易となる。
【0033】
また、基材102は目的とする波長領域において、実質的に透明であればよい。なお、所定の方向に延在するとは、凹凸構造が所定の方向に実質的に延在していればよく、凹凸構造の凹部と凸部の各々が厳密に平行に延在している必要はない。また、凹凸構造の間隔は100nm以上〜150nm以下が好ましく、等間隔であることが好ましい。
【0034】
表面に凹凸構造を有する基材102の製造方法は特に限定されない。例えば、本件出願人の出願による特許第4147247号公報に記載の製造方法を挙げることができる。特許第4147247号公報によれば、干渉露光法を用いて作製した凹凸構造を有する金属スタンパを用いて、凹凸構造を熱可塑性樹脂に熱転写し、凹凸構造を付与した熱可塑性樹脂の凹凸構造の延在方向と平行な方向に自由端一軸延伸加工を施す。その結果、熱可塑性樹脂に転写された凹凸構造のピッチが縮小され、微細な凹凸構造を有する樹脂版(延伸済み)が得られる。続いて、得られた微細な凹凸構造を有する樹脂版(延伸済み)から、電解メッキ法などを用いて、微細な凹凸構造を有する金属スタンパを作製する。この金属スタンパにより、基材表面に微細な凹凸構造を転写、形成することで、凹凸構造を有する基材を得ることが可能となる。その他、微細な凹凸構造を半導体製造のフォトリソグラフィを応用して作製したシリコン系基板等を用いる方法がある。例えば、微細な凹凸構造を有するシリコン系基板を鋳型として、微細な凹凸構造を表面に有する樹脂版を作製する。樹脂版から、電解メッキ法などを用いて、微細な凹凸構造を有する金属スタンパを作製することも可能である。
【0035】
(金属ワイヤ)
金属ワイヤ103は、金属材料を用いて形成することができる。具体的には、金属ワイヤ103として、アルミニウム、銀、銅、白金、金、クロム、ニッケル、タングステン又はこれらの各金属を主成分とする合金を使用することができる。また、金属ワイヤ103は、樹脂基材上の所定方向に延在するように複数形成することができ、隣接する金属ワイヤ103間の間隔(ピッチ)は、100nm以上〜150nm以下とすることが好ましい。また、金属ワイヤ103の幅と高さは、金属ワイヤ103のピッチと金属含有量の関係から決定することができる。例えば、金属ワイヤ103の幅は0.02μm以上〜0.1μm以下、高さは0.15μm以上〜0.4μm以下とすることができる。なお、基材102表面に対して垂直となる断面視における金属ワイヤ103の幅を指し、金属ワイヤ103の高さは基材102表面からの金属ワイヤ103の高さ(膜厚)を指す。
【0036】
また、本実施の形態では、金属ワイヤ103を基材102表面に形成された凹凸構造上に形成する場合に、凹凸構造の凸部上面だけでなく、凸部側面に接するように金属材料を形成することが好ましい。これにより、単位面積に含まれる金属の含有量を増加し、レーザー光の照射により飛散するパーティクル数を低減することが可能となる。
【0037】
具体的に、凹凸構造が形成された基材102上に金属ワイヤ103を設ける場合には、凸部の上面及び一方の側面に接し、金属ワイヤ103の上部が基材102の凸部の頂部より上方に延在するように設けることが好ましい。この構造は、斜めスパッタリング法や斜め蒸着法により容易に形成することができる。特に、アルミニウムもしくは銀を用いて金属ワイヤ103を形成することにより、可視域光の吸収損失を小さくすることができるため、好ましい。
【0038】
(誘電体)
本実施の形態で示すワイヤグリッド偏光板において、基材を構成する材料と金属ワイヤとの密着性向上のため、両者の間に両者と密着性が高い誘電体材料を含んでなる誘電体層を好適に用いることができる。例えば、二酸化珪素などの珪素(Si)の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はその複合物(誘電体単体に他の元素、単体又は化合物が混じった誘電体)や、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、イットリウム(Y)、ジルコニア(Zr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、銅(Cu)などの金属の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はそれらの複合物を用いることができる。誘電体材料としては、透過偏光性能を得ようとする波長領域において実質的に透明な材料であればよい。誘電体材料の積層方法には特に限定は無く、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的蒸着法を好適に用いることができる。
【0039】
(粘着剤層)
粘着剤層104の材料としては、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等の樹脂を使用することができる。耐熱性を考慮する場合には、シリコン系樹脂を主成分とする粘着剤(以下、「シリコン系粘着剤」という)が好ましい。また、透明性や接着力、コストなどを考慮する場合には、アクリル系樹脂を主成分とする粘着剤(以下、「アクリル系粘着剤」という)が好ましく、さらに、該粘着剤の樹脂構造中にはヒドロキシル基を有することが偏光特性の低下抑止の観点からより好ましい。
【0040】
(保護フィルム)
保護フィルム105は、ワイヤグリッド偏光板の強度を向上させ、金属ワイヤ103の損傷を防止できる材料で設ける。また、保護フィルム105としては、目的とする波長領域において実質的に光が透過する材料で形成する。例えば、保護フィルム105の材料として、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、トリアセチルセルロース樹脂(TAC)等や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化型樹脂や熱硬化型樹脂が挙げられる。
【0041】
(切断加工)
切断加工後のワイヤグリッド偏光板の断面形状は、テーパ形状を有する逆台形、逆三角形、正方形、長方形又は円形のいずれかに形成することができる。切断加工に適用できるレーザーとしては、固体レーザー、液体レーザー、気体レーザー又は半導体レーザー等を用いることができる。
【0042】
また、樹脂基材102上に形成された金属ワイヤ103を含む素子に対して、切断加工工程においてレーザー光を照射する幅は、100μm以上500μm以下とすることが好ましい。これは、レーザー光の照射により消失する幅が大きい場合には、切断加工後に得られるワイヤグリッド偏光板の数が低下し歩留まりが低下するためである。本実施の形態では、金属ワイヤ103が形成された領域にレーザー光を照射して消失するため、レーザー光の照射により消失する幅を考慮することは重要となる。
【0043】
例えば、金属ワイヤ103のピッチが100nm〜150nm、レーザー光を照射する幅が200μmである場合、レーザー光を金属ワイヤ103が延在する所定方向に沿って照射する際に、消失する幅200μmの範囲に金属ワイヤ103が1300〜2000本含まれることとなる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
本実施例で用いたワイヤグリッド偏光板の作製方法について以下に説明する。
【0046】
〈紫外線硬化樹脂を用いた格子状凹凸形状を有する転写フィルムの作製〉
基材として用いる格子状凹凸形状を有する転写フィルムの作製には、Ni製金型(以下、「金型」とする)を用いた。金型はピッチ幅145nmの格子状凹凸形状を有し、格子の延在する方向に垂直な断面における凹凸形状が略正弦波状であった。基材は、厚み80μmのトリアセチルセルロース樹脂(以下、「TAC」とする)フィルム(TD80UL−H:富士写真フィルム社製)とし、該TACフィルムの波長550nmにおける面内位相差値は3.2nmで、遅相軸はMD方向と略一致していた。該TACフィルムにアクリル系紫外線硬化樹脂(屈折率1.52)(以下、「薄膜」とする)を約3μm塗布し、塗布面を下にして金型とTACフィルムとを重畳させた。この際、TACフィルムのTD方向と金型の格子状凹凸形状の延在方向が略平行になるように配置した。また、金型とTACフィルム間に空気が入らないように配置した。その後、TACフィルム側から中心波長365nmの紫外線ランプを用いて紫外線を1000mJ/cmの条件で照射し、金型の格子状凹凸形状を転写した。TACフィルムを金型から剥離し、縦300mm、横200mmの格子状凹凸形状を転写したフィルムを作製した。以下、これを、「転写フィルム」とする。
【0047】
〈真空蒸着法を用いた金属の蒸着〉
次に、転写フィルムの格子状凹凸形状転写表面に、真空蒸着によりアルミニウム(Al)膜を成膜した。Alの蒸着は、常温下、真空度2.0×10−3Pa、蒸着速度2.5nm/sの条件で行った。形成されるAl膜の厚みを測定するため、表面が平滑なガラス基板を転写フィルムと同時に装置に挿入し、平滑ガラス基板上のAl膜の厚みをAl膜の平均厚みとした。蒸着は、蒸着角θが20°とし、Al平均厚みが100nm以上となるように行った。なお、ここでは、蒸着角θを、格子の長手方向と垂直に交わる平面内において基材面の法線と蒸着源のなす角度と定義する。また、ここでいう平均厚みとは、平滑ガラス基板上にガラス面に垂直方向から物質を蒸着させたと仮定した時の蒸着物の厚みのことを指す。
【0048】
また、レーザー光を照射する領域の金属の含有率とパーティクルの発生数との関係を確認するため、金属の含有率が異なる複数の素子を作製した。金属の含有率は、Al膜厚、又は樹脂層の膜厚を変化させることで制御した。
【0049】
(実施例1)
TACフィルム(80μm)/UV硬化樹脂(1μm)/金属ワイヤを順に積層した。この時、Alの含有量は全体の構成の0.4wt%になるように、ベタ膜(平面に積層される膜厚)換算で300nm斜め方向から成膜した。また、Alを蒸着後にエッチングによる膜厚調整は行っていない。
【0050】
(実施例2)
PET(125μm)/TACフィルム(80μm)/UV硬化樹脂(1μm)/金属ワイヤ/アクリルシート(500μm)を順に積層した。この、時Alの含有量が全体の構成の0.02wt%になるようベタ膜換算で150nm斜め方向から成膜した。Alの成膜後に、0.1wt%の水酸化ナトリウム溶液を用いて40秒間エッチングすることによりAlの膜厚調整を行った。
【0051】
(実施例3)
PET(125μm)/TACフィルム(80μm)/UV硬化樹脂(1μm)/金属ワイヤ/アクリルシート(1000μm)を順に積層した。この時、Alの含有量が全体の構成の0.01wt%になるようベタ膜換算で150nm斜め方向から成膜した。Alの成膜後に、0.1wt%の水酸化ナトリウム溶液を用いて40秒間エッチングすることによりAlの膜厚調整を行った。
【0052】
(比較例1)
PET(125μm)/TACフィルム(80μm)/UV硬化樹脂(1μm)/金属ワイヤ/アクリルシート(2000μm)を順に積層した。この時、Alの含有量が全体の構成の0.003wt%になるようベタ膜換算で100nm斜め方向から成膜した。Alの成膜後に、0.1wt%の水酸化ナトリウム溶液を用いて40秒間エッチングすることによりAlの膜厚調整を行った。
【0053】
(比較例2)
PET(125μm)/TACフィルム(80μm)/UV硬化樹脂(1μm)/アクリルシート(500μm)を順に積層した。つまり、比較例2では、金属の成膜を行っていない。
【0054】
〈作製サンプルの加工〉
上述のように作製された素子について、刃による切断加工とレーザー光による切断加工をそれぞれ行った。切断加工に用いたレーザーはCOレーザー、使用波長域は10.6μmを用いて行い、定格出力は200Wで行った。そして、切断加工後に得られたワイヤグリッド偏光板の観察を行った。ワイヤグリッド偏光板の観察は、光学顕微鏡(SIGMAKOKI倒立型顕微鏡 MODEL SGSP20−35)を用いて行った。
【0055】
図2に、刃による切断加工とレーザー光による切断加工後の断面像を示す。図2Aに示すように、レーザー光の照射により切断加工を行ったワイヤグリッド偏光板の断面は、上部側が下部側に対して消失の割合が大きな台形、もしくは逆三角形のテーパ形状になり、フィルム間に存在する他の糸くず状のゴミや粘着剤等が生じることがなく、極めて整った加工形状となっている。一方で、図2Bに示すように、刃により切断加工を行ったワイヤグリッド偏光板の断面は、断面が潰れておりサイズが大きいゴミや粘着剤が生じることが確認できた。
【0056】
表1に、上述した各素子に対して、レーザー光を照射して切断加工を行った場合のパーティクルの発生数を示す。なお、パーティクルの発生数は、顕微鏡による観察により目視評価した。また、図3に、金属を含有する素子(実施例1)と金属を含有しない素子(比較例2)に対してレーザー光を照射して切断加工した後の上面像を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1、図3より、金属を含有している領域にレーザー光を照射することにより、切断加工後のパーティクル数を低減できることが確認できた。図3Aに示すように、金属を含有する領域にレーザー光を照射して切断加工を行った場合にはパーティクルが少なかったが、図3Bに示すように、金属を含有しない領域にレーザー光を照射して切断加工を行った場合には上面にパーティクルが多く確認された。また、レーザー光を照射する領域の金属の含有量が多くなるにつれて、パーティクル数が減少することが確認でき、金属含有量を所定値(0.01wt%)以上とすることが好ましいことが分かった。
【0059】
これは、金属が含有される領域にレーザー光を照射することにより、金属ワイヤ由来の金属が分解物のガスの核となってパーティクルの発生を抑止する機能を発揮したためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、少なくともワイヤグリッド偏光板の製造方法として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
101 支持基板
102 基材
103 金属ワイヤ
104 粘着剤層
105 保護フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂で形成された基材上に所定方向に延在する金属ワイヤを形成する工程と、前記金属ワイヤが形成された基材にレーザー光を照射して切断加工を行う工程とを有するワイヤグリッド偏光板の製造方法であって、
前記切断加工において、前記レーザー光を前記金属ワイヤが形成されている領域に照射して前記基材の切断を行うことを特徴とするワイヤグリッド偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光を照射する領域における金属の含有量が0.01wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤグリッド偏光板の製造方法。
【請求項3】
前記切断加工後のワイヤグリッド偏光板の切断面が、厚み方向との成す角度で45°以上85°以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワイヤグリッド偏光板の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光の照射で消失する樹脂層の膜厚を80μm以上800μm以下とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のワイヤグリッド偏光板の製造方法。
【請求項5】
前記金属ワイヤを形成する工程の前に、前記基材の表面に所定方向に延在する凹凸構造を形成する工程を有し、前記基材の表面に形成された凹凸構造に対して導電体を蒸着して前記金属ワイヤを形成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のワイヤグリッド偏光板の製造方法。
【請求項6】
樹脂で形成された基材上と、前記基材上に設けられた金属ワイヤとを有するワイヤグリッド偏光板であって、前記基材及び前記金属ワイヤがレーザー光の照射により切断加工されていることを特徴とするワイヤグリッド偏光板。
【請求項7】
前記レーザー光の照射により切断加工されたワイヤグリッド偏光板の切断面が、厚み方向との成す角度で45°以上85°以下であることを特徴とする請求項6に記載のワイヤグリッド偏光板。
【請求項8】
前記金属ワイヤを構成する金属の含有量が0.01wt%以上であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のワイヤグリッド偏光板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−20182(P2013−20182A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154975(P2011−154975)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】