説明

ワイヤーハーネス製造方法

【課題】インク使用量を低減しつつも電線を識別可能とするワイヤーハーネス製造方法を提供する。
【解決手段】連続して供給される電線に対して電線の接続先を示す回路情報を印字又はマーキングする印字工程と、印字工程において回路情報が付与された電線を所定長に切断する切断工程と、切断工程において切断された各種電線を組み合わせてワイヤーハーネスとするワイヤーハーネス組立工程と、ワイヤーハーネス組立工程に先立って、切断工程において切断された電線のうち後嵌め回路となる電線の端末に着色する端末着色工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線を組上げてワイヤーハーネスを組み立てる場合においては、電線を識別するために電線の被覆部に着色が行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−46933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術のように、着色のみで電線を識別しようとすると、ワイヤーハーネスの全回路を識別するために着色が必要となり、インク使用料が多大となってしまう。加えて、ワイヤーハーネスを組み立てる工程において、電線には、機械にて電線を組み付ける先嵌め回路と、手作業にて電線を組み付ける後嵌め回路とがある。このため、これらの先嵌め回路と後嵌め回路との双方の電線について、電線を識別するための着色を行うと、インク使用量が一層多大となってしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その発明の目的とするところは、インク使用量を低減しつつも電線を識別可能とするワイヤーハーネス製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のワイヤーハーネス製造方法は、連続して供給される電線に対して電線の接続先を示す回路情報を印字又はマーキングする印字工程と、前記印字工程において前記回路情報が付与された電線を所定長に切断する切断工程と、前記切断工程において切断された各種電線を組み合わせてワイヤーハーネスとするワイヤーハーネス組立工程と、前記ワイヤーハーネス組立工程に先立って、前記切断工程において切断された電線のうち後嵌め回路となる電線の端末に着色する端末着色工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
このワイヤーハーネス製造方法によれば、連続して供給される電線に対して電線の接続先を示す回路情報を印字又はマーキングするため、着色という色のみで電線を識別できるようにする場合と比較して、印字又はマーキングであれば文字、ドット及び記号などにより電線を識別することができ、情報を凝縮できることから、インク使用量を削減することができる。また、切断された電線のうち後嵌め回路となる電線の端末に着色するため、先嵌め回路については着色が不要となってインク使用量を削減できると共に、後嵌めの段階においては作業者が着色を参照することにより電線を識別することができる。従って、インク使用量を低減しつつも電線を識別可能とすることができる。
【0008】
また、ワイヤーハーネス製造方法において、前記印字工程では、前記回路情報を切断後の電線において等間隔となるように複数付与することが好ましい。
【0009】
このワイヤーハーネス製造方法によれば、回路情報を切断後の電線において等間隔となるように複数付与するため、ワイヤーハーネスにした段階で自動車環境等の理由から電線が一部焼損してしまったとしても、残部から回路情報を読み取ることができる。
【0010】
また、ワイヤーハーネス製造方法において、印字工程において前記回路情報が付与される電線を製造する電線製造工程をさらに備え、前記電線製造工程では、被覆部が白又は被覆樹脂本来の色となる電線を製造することが好ましい。
【0011】
このワイヤーハーネス製造方法によれば、前記回路情報が付与される電線の被覆部が白又は被覆樹脂本来の色となる電線を製造するため、製造コストを抑えると共に、電線が白又は被覆樹脂本来の色であるため、着色した電線を複数種製造する場合と比較して在庫数の減少につなげることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インク使用量を低減しつつも電線を識別可能とするワイヤーハーネス製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るワイヤーハーネス製造方法によって製造される電線を示す図であって、(a)は後嵌め回路を示し、(b)は先嵌め回路を示している。
【図2】図1(a)に示した後嵌め回路の変形例を示す図であって、(a)は第1変形例を示し、(b)は第2変形例を示し、(c)は第3変形例を示し、(d)は第4変形例を示し、(e)は第5変形例を示している。
【図3】本実施形態に係るワイヤーハーネス製造方法を示す工程図である。
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るワイヤーハーネス製造方法によって製造される電線を示す図であって、(a)は後嵌め回路を示し、(b)は先嵌め回路を示している。
【0015】
図1(a)に示す電線1は、後嵌め回路10である。後嵌め回路10とは、ワイヤーハーネスの組立段階において、作業者の手作業によって組み付けられる電線1である。このような後嵌め回路10は、芯線を被覆部11で覆った構成となっており、本実施形態において被覆部11は、白色又は被覆樹脂本来の色で統一されている。
【0016】
また、後嵌め回路10の中間部位には電線1の接続先を示す回路情報12が印字により付与されている。回路情報12は、所定長の電線において等間隔に複数印字されている。さらには、後嵌め回路10には、電線1の端末部位に後嵌め回路10であることを示す着色13が施されている。作業者は、後嵌め回路10の着色13を参照することにより、手作業を円滑に行うこととなる。
【0017】
また、図1(b)に示す電線1は、先嵌め回路20である。先嵌め回路20とは、ワイヤーハーネスの組立段階において、機械によって組み付けられる電線1である。このような先嵌め回路20は、芯線を被覆部21で覆った構成となっており、本実施形態において被覆部21は、白色又は被覆樹脂本来の色で統一されている。
【0018】
また、先嵌め回路20の中間部位には電線1の接続先を示す回路情報22が印字により付与されている。回路情報22は、所定長の電線において等間隔に複数印字されている。ここで、先嵌め回路20の端末部位には着色が施されていない。先嵌め回路20は、作業者が手作業により組み付ける必要がなく、機械が回路情報を判断することにより組み付けられるものだからである。
【0019】
図2は、図1(a)に示した後嵌め回路10の変形例を示す図であって、(a)は第1変形例を示し、(b)は第2変形例を示し、(c)は第3変形例を示し、(d)は第4変形例を示し、(e)は第5変形例を示している。
【0020】
図2(a)に示すように、第1変形例に係る後嵌め回路10には、記号により表わされた回路情報12aが付与されている。また、端末には円形のドットにより着色13aが施されている。
【0021】
また、図2(b)〜図2(d)に示す第2,第3変形例に係る後嵌め回路10には、それぞれ文字による回路情報12が印字されると共に(図2(b)参照)、打点の数や組み合わせによる回路情報12bがマーキングされている(図2(c)参照)。さらに、第4変形例に係る後嵌め回路10には、ドットによる回路情報12cがマーキングされている(図2(d)参照)。さらには、各後嵌め回路10には、端末には円形のドットにより着色13aが施されている(図2(b)〜図2(d)参照)。
【0022】
加えて、図2(e)に示す第5変形例に係る後嵌め回路10にも端末に円形のドットによる着色13aが施されている。また、第5変形例に係る後嵌め回路10には、モールス信号による回路情報12dがマーキングされている。
【0023】
このように、回路情報12〜12dは、文字、記号、打点及びドットのいずれによって表わされてもよい。これらの場合、着色とは異なり、情報を凝縮できることから、インク使用量を削減することができる。また、端末の着色13,13aについてもどのように表現されていてもよい。
【0024】
さらに、端末の着色13,13aは、回路情報12〜12dの印字又はマーキングに用いられるインクよりも、接着性、耐候性、耐熱性、及び耐薬品性の少なくとも1つが劣るインクによって着色されている。ここで、後嵌め回路10については、ワイヤーハーネスの組立工程において識別できればよく、組立後には着色13,13aが剥がれても問題とならない。よって、耐候性、耐熱性、及び耐薬品性の少なくとも1つが劣るインクによって着色することで、安価なインクにより着色することとなり、製造コストを抑えることができる。
【0025】
次に、本実施形態に係るワイヤーハーネス製造方法について説明する。図3は、本実施形態に係るワイヤーハーネス製造方法を示す工程図である。図3に示すように、まずワイヤーハーネスの受注があると(S1)、ワイヤーハーネスの製造にあたり、必要となる電線量データが電線工場に送られる(S2)。
【0026】
電線工場では、白色又は被覆樹脂本来の色(以下ナチュラルという)の電線データを発生させ(S3)、これに応じて白色又はナチュラルの電線1が製造される(電線製造工程)。次いで、製造された電線白色又はナチュラルの電線1が電線工場に供給される(S4)。そして、電線工場からワイヤーハーネス工場に白色又はナチュラルの電線1が供給される(S5)。
【0027】
また、ワイヤーハーネスの受注があると(S1)、製造すべきワイヤーハーネスの量を示すワイヤーハーネス製造量データがワイヤーハーネス工場に送信される(S6)。
【0028】
ワイヤーハーネス工場では、ワイヤーハーネス製造量データに基づいて、切断データと印字データが生成される(S7)。ここで、切断データとは、連続して供給される電線1を何メートルに何本切断するかを示すデータであり、印字データとは、回路情報12〜12dを印字するためのデータである。
【0029】
そして、印字装置において印字が行われる。このときに、連続して供給される電線1に対して電線1の接続先を示す回路情報12〜12dが印字又はマーキングされる(印字工程)。また、この工程では、回路情報12〜12dを切断後の電線1において等間隔となるように複数付与される。
【0030】
次に、印字装置から切断装置に切断データが送信される(S8)。これにより、印字された電線1が所定長に切断されていく(切断工程)。その後、切断された電線1のうち先嵌め回路20となる電線1はワイヤーハーネス組立部に供給される(S9)。
【0031】
また、切断された電線1のうち後嵌め回路10となる電線1に対しては、端末が着色される(S10)(端末着色工程)。この際、着色13,13aは、印字に用いられるインクよりも、接着性、耐候性、耐熱性、及び耐薬品性の少なくとも1つが劣るインクによって付与される。そして、後嵌め回路10は、着色後にワイヤーハーネス組立部に供給される。
【0032】
ワイヤーハーネス組立部では、切断された各種電線1(後嵌め回路10及び先嵌め回路20)が組み合わされてワイヤーハーネスとされる(ワイヤーハーネス組立工程)。すなわち、先嵌め回路20は機械により組み付けられ、後嵌め回路10は着色13,13aが確認されながら作業員により組み付けられる。
【0033】
このようにして、本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法によれば、連続して供給される電線1に対して電線1の接続先を示す回路情報12〜12dを印字又はマーキングするため、着色という色のみで電線を識別できるようにする場合と比較して、印字又はマーキングであれば文字、ドット及び記号などにより電線1を識別することができ、情報を凝縮できることから、インク使用量を削減することができる。また、切断された電線1のうち後嵌め回路10となる電線の端末に着色するため、先嵌め回路20については着色13,13aが不要となってインク使用量を削減できると共に、後嵌めの段階においては作業者が着色13,13aを参照することにより電線1を識別することができる。従って、インク使用量を低減しつつも電線1を識別可能とすることができる。
【0034】
また、回路情報12〜12dを切断後の電線1において等間隔となるように複数付与するため、ワイヤーハーネスにした段階で自動車環境等の理由から電線1が一部焼損してしまったとしても、残部から回路情報12〜12dを読み取ることができる。
【0035】
また、印字に用いられるインクよりも、接着性、耐候性、耐熱性、及び耐薬品性の少なくとも1つが劣るインクによって着色する。ここで、後嵌め回路10については、ワイヤーハーネスの組立工程において識別できればよく、組立後には着色13,13aが剥がれても問題とならない。よって、耐候性、耐熱性、及び耐薬品性の少なくとも1つが劣るインクによって着色することで、安価なインクにより着色することとなり、製造コストを抑えることができる。
【0036】
また、回路情報12〜12dが付与される電線1の被覆部11,21が白又は被覆樹脂本来の色となる電線を製造するため、製造コストを抑えると共に、電線1が白又は被覆樹脂本来の色であるため、着色した電線1複数種製造する場合と比較して在庫数の減少につなげることができる。
【0037】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0038】
例えば、回路情報12,12a及び着色13,13aは、図示したものに限られず、他の形状や模様等であってもよい。
【0039】
さらに、上記実施形態において被覆部11は白色又は被覆樹脂本来の色で統一されている。ここで、被覆部11を被覆樹脂本来の色で統一する場合、導体の種類(例えば銅(銅においても軟銅、純銅及び硬銅など)及びアルミ)に応じて被覆する樹脂を決定し、被覆部11の色を参照することにより導体の種類が判別できるようにすることが望ましい。これにより、外観により導体を判別できるからである。
【符号の説明】
【0040】
1…電線
10…後嵌め回路
11…被覆部
12〜12d…回路情報
13,13a…着色
20…先嵌め回路
21…被覆部
22…回路情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して供給される電線に対して電線の接続先を示す回路情報を印字又はマーキングする印字工程と、
前記印字工程において前記回路情報が付与された電線を所定長に切断する切断工程と、
前記切断工程において切断された各種電線を組み合わせてワイヤーハーネスとするワイヤーハーネス組立工程と、
前記ワイヤーハーネス組立工程に先立って、前記切断工程において切断された電線のうち後嵌め回路となる電線の端末に着色する端末着色工程と、
を有することを特徴とするワイヤーハーネス製造方法。
【請求項2】
前記印字工程では、前記回路情報を切断後の電線において等間隔となるように複数付与する
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤーハーネス製造方法。
【請求項3】
前記印字工程において前記回路情報が付与される電線を製造する電線製造工程をさらに備え、
前記電線製造工程では、被覆部が白又は被覆樹脂本来の色となる電線を製造する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のワイヤーハーネス製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−181396(P2011−181396A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45634(P2010−45634)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】