説明

ワイヤー錠用等の錠前

【課題】 ワイヤー錠用等の錠前において、円筒形の錠本体内に嵌装する施錠リングの内周面にそれぞれ具えた係合突起の配置位置を探り出し難くして、不正な開錠をより防止できるようにする。
【構成】 錠本体1に形成した円筒部3内に、固定クリック板4と回転クリックリング7を嵌装し、同軸上に、角度差のある係合突起16を具えた複数の施錠リング10を間にスペーサリング11を介在させて嵌装して、円筒部を鍵孔14を具えた蓋板13で閉鎖する一方、錠杆体25に一体に形成した錠杆24の側面に、回転クリックリングと、各施錠リングの各係合突起に係合する鍵突起26を設けた錠前において、錠本体の円筒部の内端部に、常時けりだしばね22に付勢されつつ施錠状態にある錠杆を内端部から圧迫するけりだし部材23を嵌装し、蓋板の内端面に鍵突起を掛止する凸部13’を設けたワイヤー錠用等の錠前。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーまたはチエンの一端を錠本体に連結し、他端を錠杆体に連結するとともに、円筒形に形成した錠本体内に複数個の施錠リングを嵌装し、錠杆体には各施錠リングに配設した係合突起と係合する鍵突起を設けて施錠、開錠動作を行なうようにしたワイヤー錠用等の錠前に関し、施錠状態にある各施錠リングの開錠位置を探られ難くして不正な開錠を防止するようにしたことを特長とするものである。
【背景技術】
【0002】
円筒形の錠本体内にそれぞれ係合突起を内周に具えた複数個の施錠リングを回転自在に嵌装し、錠杆体の一側に各施錠リングと係合する鍵突起を設けたこの種のワイヤー錠用等の錠前には、例えば出願人の先願に特許文献1がある。
【0003】
【特許文献1】実開昭63−25769号公報(例えば、第1頁、第2図参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先願の錠前は、通常の文字合わせ錠と異なって錠本体の表面に施錠リングの周面が表れていないので探り止め効果が高いという利点があるが、施錠状態に錠本体に挿入されている錠杆体を強く引っ張りながら回すことによって各施錠リングの内周面に具えている係合突起の配置位置を探り出して不法に開錠される場合が多いという欠点があった。
以上のことから、本発明が解決しようとする課題は、各施錠リングの内周面に具えている係合突起の配置位置を探り出し難くして、不正な開錠をより防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は、上記の課題を解決するために、ワイヤーまたはチエンの一端を連結する錠本体に円筒部を形成し、円筒部内に、非回転に固定される固定クリック板と、錠杆の挿入孔を中心に具えて回転自在に嵌合する回転クリックリングを互いに弾性的に圧接させて嵌装するとともに、回転クリックリングと同軸上に、それぞれ鍵突起の挿通孔と、該挿通孔に対して回転方向に角度差のある係合突起とを内周面に具えた複数個の施錠リングをそれぞれ回転自在に、かつ、互いの間にスペーサリングを介在させて嵌装し、上記円筒部の開口部を鍵孔を具えた蓋板で閉鎖する一方、上記ワイヤーまたはチエンの他端を連結する錠杆体に、上記鍵孔から錠本体の円筒部内に挿入される錠杆を一体に形成し、この錠杆の長さ方向に沿う側面に、上記回転クリックリングの挿入孔と、各施錠リングの各係合突起とにそれぞれ係合して、上記回転クリックリングと、各施錠リングを施錠方向と開錠方向とに回転させる鍵突起を設けたワイヤー錠用等の錠前において、前記錠本体の円筒部の内端部に、常時けりだしばねに付勢されつつ、施錠状態にある前記錠杆体を内端部から圧迫するけりだし部材を嵌装するとともに、前記蓋板の内端面に前記鍵突起と係合して上記錠杆体の回転を不能に掛止する凸部を配設したことを特徴とするワイヤー錠用等の錠前を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
上記のように構成した本発明錠前は、錠本体の円筒部の内端部に備えたけりだし部材が常時けりだしばねに付勢されつつ施錠状態にある錠杆を内端部から強く圧迫して蓋板の内端面に具えた凸部に鍵突起を係合させて錠杆体の回転を不能に掛止している。したがって、開錠する場合には、まず錠杆体を押し込んでからでなくては探りができない。そして、錠杆体の押し込みによって錠杆体の回転は可能になるが、それによりけりだしばねの付勢が増すことになるので、各施錠リング内で回転する鍵突起と係合突起との当接が滑らかに行なわれ、クリック音とその振動を感知することはできるが、鍵突起と係合突起との接触による振動が錠本体と錠杆体にはきわめて伝わり難くなって、不正な開錠を困難にし、施錠に対する信頼性が向上する。
以上のようにして本発明は前記の課題を解決したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ワイヤーまたはチエンの一端を連結する錠本体に円筒部を形成する。
錠本体の円筒部内に、固定クリック板を非回転に固定し、中心に錠杆の挿入孔を具えた回転クリックリングを回転自在に嵌合するとともに、固定クリック板と互いに弾性的に圧接させて嵌装する。
回転クリックリングと同軸上に、それぞれ鍵突起の挿通孔と、該挿通孔に対して回転方向に角度差のある係合突起とを内周面に具えた複数個の施錠リングをそれぞれ回転自在に、かつ、互いの間にスペーサリングを介在させて嵌装し、円筒部の開口部を鍵孔を具えた蓋板で閉鎖する。
一方、ワイヤーまたはチエンの他端を連結する錠杆体に、鍵孔から錠本体の円筒部内に挿入される錠杆を一体に形成する。
錠杆の長さ方向に沿う側面に、回転クリックリングの挿入孔と、各施錠リングの各係合突起とにそれぞれ係合して、回転クリックリングと、各施錠リングを施錠方向と開錠方向とに回転させる鍵突起を設ける。
上記錠本体の円筒部の内端部に、常時けりだしばねに付勢されつつ、施錠状態にある前記錠杆を内端部から圧迫するけりだし部材を嵌装し、
前記蓋板の内端面に前記鍵突起と係合して上記錠杆体の回転を不能に掛止する凸部を配設する。
以上の構成からなるワイヤー錠用等の錠前。
【実施例】
【0008】
以下に本発明の実施例を図面について説明する。
図1は、本発明に係る錠前の分解斜視図と組立斜視図、図2は、本発明に係る錠前の側面図、図3は、施錠状態を説明する側面図、図4は、開錠状態の側面図、図5は、施錠状態を示す縦断側面図、図6は、蓋板の内端面図と縦断面図、図7は、施錠リング10aの正面図、図8は、施錠リング10bの正面図である。
【0009】
図において、1は、一端(図示左端)に二股の軸受部2を一体に形成し、他端に開口する円筒部3を具えた錠本体、4は、円筒部3の内端にコイルばね5とともに嵌合して、円筒部3の内面に非回転に固定され、端面の周縁部にクリック突起6を配置した固定クリック板、7は、周縁部にクリック突起6に対応するクリック凹部8具え、中心に錠杆の挿入孔9を具えて回転自在に円筒部3に嵌合し、固定クリック板6と互いに弾性的に圧接する回転クリックリング、10a、10bは、それぞれ回転自在に円筒部3に嵌合する施錠リング、11は、回り止めの突起12を具えて各リングの間に介在するスペーサリング、13は、中心に鍵孔14を具えて円筒部3の開口部を閉鎖する番手設定兼用の蓋板である。
【0010】
回転クリックリング7と、施錠リング10a、10bは、挿入孔9の一側に鍵孔14と連通する挿通孔15を設け、施錠リング10a、10bは、内周面に挿通孔15からそれぞれ円周方向に角度差のある係合突起16を具えている(図7、8参照)。また、固定クリック板6とスペーサリング11と蓋板13は、外周に具えた突起12と17を円筒部3の内周面の回り止め溝18に掛止させてそれぞれ非回転に嵌装される。
【0011】
上記錠本体1の円筒部3の内端部には、図5に示すように、中心にばねの保持孔19を貫通させた円柱形のブロック20がばね受け板21とともに固定され、保持孔19内に嵌装したけりだしばね22に付勢されるけりだし部材23を有して、円筒部3内で施錠状態にある錠杆24の内端部を常時けりだし方向に付勢している。
【0012】
ワイヤーまたはチエンの他端を連結する錠杆体25は、図1に示すように、一端に上記鍵孔14から錠本体1の円筒部3内に挿入される錠杆24を具え、錠杆20の長さ方向の一側面に、上記施錠リング10a、10b、回転クリックリング7とに対応する3個の鍵突起26を設けている。
【0013】
一方、円筒部3の開口部を閉鎖する番手設定兼用の蓋板13は、図6に示すように、内端面に番手に対応する凸部13’を配設していて、けりだしばね22とけりだし部材23とに付勢されて後退する錠杆24の鍵突起26を凸部13’の間に嵌合させて、施錠状態にある錠杆体25の回転を阻止している。
【0014】
なお、この実施例において、錠杆体25は、一方の端面に開口する中空室27内にジョイントブロック28を嵌装してピン29で該ブロック28を抜け止めし、該ブロック28の外周に具えた凹部30を介してカバー部材31を外嵌し、さらに、錠本体の場合と同様に二股に形成した軸受部32を一体に設けた外端部材33を、ジョイントブロック28側の一側を開放した内周溝34と外端部材33側の内端のフランジ部35との嵌合により一体に連結するようにしている。
【0015】
錠本体1と錠杆体25の外端部にそれぞれ二股に一体形成した軸受部2と32には、それぞれヒンジ軸36で軸受けされる保持金具37を取り付け、該金具37と筒形のカバー38とを介して図示省略のワイヤーまたはチエンの両端を連結し、固着する。
【0016】
図5に示すように、施錠状態にある錠杆24の内端は、上述のように、錠本体1の円筒部3の内端部で常時けりだしばね22に付勢されいるけりだし部材23の圧迫により、開口部側に強く付勢されて、手前側の鍵突起26を蓋板13の内端面の凸部13に係合させ非回転に保持されている。
【0017】
なお、図中39は、錠本体1の円筒部3の開口部の口縁に設けた一方の符合部、40は、錠杆体25の縁に設けた他方の符合部である。
本発明に係る錠前は、施錠状態にあって、けりだし部材23に圧迫されている錠杆体25を円筒部3側に対して押し付けつつ一回転以上回して、上記符合部40を円筒部3側の符合部39に合致させた上で、固定クリック板4と回転クリックリング7とが発するクリック音と振動を数えながら、この実施例では右に6個左に6個さらに右へ3個錠杆体25を回転させることによって、施錠リング10a、10bの係合突起16と鍵突起26とが開錠位置に整合して開錠できるようになる。
【0018】
上記の構成を備えた本発明に係る錠前は、施錠状態にある錠杆体25がけりだし部材23の付勢により、図3に示すように、錠本体1と若干の間隙をおいて錠杆体25が常時後退している。
錠杆体25が後退しているときは、上述のように、錠杆24の鍵突起26が蓋板13の内端面の凸部13’に係合しているので不正に開錠しようとしても錠杆体25は回らないからクリック音と振動は生じない。
さらに不正に開錠しようとして錠杆体25を押し込めば、錠杆24の回転が可能になり、錠杆24の回転にしたがってクリック音と振動を生ずるが、錠杆24の押し込みによりけりだしばね22の付勢が増強されるので、鍵突起26と施錠リングの係合突起16との当接位置を感知できるまでには至らない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
前記のように構成され上記のように用いられるようにした本発明錠前は、従来のこの種の錠前に比べて不正な開錠操作に対する防止効果がきわめて高く、信頼性の高い錠前を得ることができるとともに、製作が容易であるなど有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明に係る錠前の分解斜視図と組立斜視図である。
【図2】図2は本発明に係る錠前の側面図である。
【図3】図3は施錠状態を説明する側面図である。
【図4】図4は開錠状態の分解側面図である。
【図5】図5は施錠状態を示す縦断側面図である。
【図6】蓋板の内端面図と縦断面図である。
【図7】施錠リング10aの正面図である。
【図8】施錠リング10bの正面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 錠本体
2 軸受部
3 円筒部
4 固定クリック板
5 コイルばね
6 クリック突起
7 回転クリックリング
8 クリック凹部
9 錠杆の挿入孔
10a、10b 施錠リング
11 スペーサリング
12 回り止め突起
13 蓋板 (13’ 凸部)
14 鍵孔
15 挿通孔
16 係合突起
17 突起
18 回り止め溝
19 ばねの保持孔
20 ブロック
21 ばね受け板
22 けりだしばね
23 けりだし部材
24 錠杆
25 錠杆体
26 鍵突起
27 中空室
28 ジョイントブロック
29 ピン
30 凹部
31 カバー部材
32 軸受部
33 外端部材
34 内周溝
35 フランジ部
36 ヒンジ軸
37 保持金具
38 カバー
39、40 符合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーまたはチエンの一端を連結する錠本体に円筒部を形成し、円筒部内に、非回転に固定される固定クリック板と、錠杆の挿入孔を中心に具えて回転自在に嵌合する回転クリックリングを互いに弾性的に圧接させて嵌装するとともに、回転クリックリングと同軸上に、それぞれ鍵突起の挿通孔と、該挿通孔に対して回転方向に角度差のある係合突起とを内周面に具えた複数個の施錠リングをそれぞれ回転自在に、かつ、互いの間にスペーサリングを介在させて嵌装し、上記円筒部の開口部を鍵孔を具えた蓋板で閉鎖する一方、上記ワイヤーまたはチエンの他端を連結する錠杆体に、上記鍵孔から錠本体の円筒部内に挿入される錠杆を一体に形成し、この錠杆の長さ方向に沿う側面に、上記回転クリックリングの挿入孔と、各施錠リングの各係合突起とにそれぞれ係合して、上記回転クリックリングと、各施錠リングを施錠方向と開錠方向とに回転させる鍵突起を設けたチエン錠用等の錠前において、前記錠本体の円筒部の内端部に、常時けりだしばねに付勢されつつ、施錠状態にある前記錠杆体を内端部から圧迫するけりだし部材を嵌装するとともに、前記蓋板の内端面に前記鍵突起と係合して上記錠杆体の回転を不能に掛止する凸部を配設したことを特徴とするワイヤー錠用等の錠前。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−183366(P2006−183366A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379482(P2004−379482)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000111029)株式会社ニッコー (26)