説明

ワイヤ錠

【課題】柔軟性及び使用利便性を有すると共に、盗難犯による切断具を用いたワイヤの切断動作に対して十分な耐性を有するワイヤ錠の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、可撓性を有するワイヤ本体と、このワイヤ本体の両端部の開閉を制御する錠機構とを備えるワイヤ錠であって、ワイヤ本体が、複数の鋼線を撚り合わせてなるワイヤロープと、このワイヤロープの外周に螺旋状に捲回される外線材とを有していることを特徴とするワイヤ錠である。当該ワイヤ錠は、ワイヤ本体の外周に外嵌される円筒状被覆材を備え、この円筒状被覆材として合成樹脂又はゴムを用いることが好ましい。また、外線材としては、硬鋼線、オイルテンパー鋼線、PC硬鋼線、亜鉛めっき鋼線、ピアノ鋼線、ステンレス鋼線、チタン鋼線及びチタン合金鋼線からなる群から選ばれる鋼線の単線又はワイヤロープを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車の前輪若しくは後輪の回転を防止し、又は自転車を構造物に繋止するために好適に用いられるワイヤ錠に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車の盗難防止のため、フック部にワイヤを用いるワイヤ錠と称されるものが、商品化され、広く普及している。このようなワイヤ錠を用いることによって、それを自転車の前輪や後輪に巻き付けてその回転を規制し、あるいは自転車の一部と構造物とを繋ぎ止めることによって、自転車の運転・持ち去りを防止することができる。
【0003】
自転車用のワイヤ錠のロック部は、一般的に、鍵によって開閉する鍵錠機構、又は予め定めた一連の番号を設定することで開放を許容するように構成されたロック機構を有している。このようなワイヤ錠の鍵錠機構は十分な耐破壊性を有するように形成されており、またロック機構に正しい許容番号を設定できる確率は低いため、自転車の盗難犯は、ロック部の破壊等ではなく、切断具(鋸や鋏など)を用いたワイヤ自体の切断を試みる場合も少なくない。
【0004】
従来のワイヤ錠の典型的な構造を図4に示す。合成樹脂被覆部30によって包接されたワイヤ31は、ロープ心32の外周に複数の側ストランド33を密に巻き付けることによって形成されている。ロープ心32及び側ストランド33の各々は、複数の鋼線を撚って形成されたものである。このように、ワイヤ錠に用いられるワイヤは、多数の鋼線から形成されていることから、大きな引張強度(破断強度)を有する。
【0005】
また、特許第2918091号には、芯線材の外周に複数本の巻き線材を巻き付けて形成されたワイヤが用いられる自転車用のワイヤ錠であって、各巻き線材は、複数の金属素線を束ねて捻った3本の捻り線材を交互に撚って形成されてなるワイヤ錠が開示されている。さらに、特開2005−67412号公報には、可撓性のあるワイヤロープの一端に接続されたロック機構と、該ワイヤロープの他端に設けられ、このロック機構と係脱自在に係合する係合部とを備えたワイヤ錠であって、このワイヤロープの周囲には可撓性のワイヤがコイル状に巻き付けられていることを特徴とするワイヤ錠が開示されている。
【0006】
ところで、ワイヤ錠のワイヤ(あるいは類似の線形材等の硬質線材)を切断するためには、ワイヤ等に対して垂直な方向から切断具を押圧すると共に切断動作を行うことが望ましいとされている。従って、自転車の盗難犯によるワイヤ切断を防止するためには、そのような切断具によるワイヤの切断動作に対する耐性を高めることが肝要である。翻って、上記の特許第2918091号に開示されたワイヤ錠は、ワイヤが有する巻き線材(側ストランド)の撚り構造に工夫を加えることにより、ワイヤの強度を低下させずに、柔軟性を向上させることを目的とするものである。しかし、特許第2918091号のワイヤ錠は、一本のワイヤの構造に改善を加えたものであって、切断具によるワイヤの切断動作に対する抑止という点では大きな向上をもたらすものではない。また、特開2005−67412号公報に開示されたワイヤ錠は、ワイヤロープの周囲にコイル状に巻き付けられている可撓性のワイヤを有し、これによって自転車を構造物に繋止することを可能とする。しかし、特開2005−67412号公報のワイヤ錠において、ワイヤロープの周囲にコイル状に巻き付けられている可撓性のワイヤは、その作用の発揮のために、ワイヤロープの周囲で可動状態とされているため、ワイヤロープの切断に対する耐性に寄与するものではない。
【0007】
従って、ワイヤ錠に一般的に要求されるある程度の柔軟性及び使用利便性を有することに加え、自転車等の盗難犯が切断具を用いてワイヤの切断動作を行う際に、そのような切断動作に対して大きな耐久性を有するワイヤ錠の開発が、強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2918091号
【特許文献2】特開2005−67412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこれらの不都合に鑑みてなされたものであり、柔軟性及び使用利便性を有すると共に、盗難犯による切断具を用いたワイヤの切断動作に対して十分な耐性を有する、自転車用として好適なワイヤ錠を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた発明は、
可撓性を有するワイヤ本体と、このワイヤ本体の両端部の開閉を制御する錠機構とを備えるワイヤ錠であって、
上記ワイヤ本体が、
複数の鋼線を撚り合わせてなるワイヤロープと、
このワイヤロープの外周に螺旋状に捲回される外線材と
を有していることを特徴とするワイヤ錠である。
【0011】
当該ワイヤ錠は、可撓性を有するワイヤ本体を備え、このワイヤ本体が複数の鋼線を撚り合わせてなるワイヤロープ(内芯のワイヤロープ)と、このワイヤロープの外周に螺旋状に捲回される外線材とを有することから、ワイヤ本体を構成するワイヤロープに対する垂直方向(切断が最も容易である方向)と外線材に対する垂直方向とが大きく相違するため、内芯のワイヤロープのみを切断する場合と比べて、盗難犯による当該ワイヤ錠の切断は格別に困難なものとなる。また、当該ワイヤ錠は、ワイヤ本体の両端部の開閉を制御する錠機構を備えることから、確実に前輪又は後輪の回転を規制すると同時に、所望の構造物に繋止することができるため、施錠時及び解錠時の使用利便性が高められる。
【0012】
当該ワイヤ錠は、ワイヤ本体の外周に外嵌される円筒状被覆材を備え、この円筒状被覆材としては合成樹脂又はゴムを用いることが好ましい。このようにワイヤ本体の外周に円筒状被覆材を備えることによって、ワイヤ本体の取扱い性を改善すると同時に、ワイヤ本体の耐久性を向上させることができる。また、円筒状被覆材の材料として合成樹脂又はゴムを用いることによって、ワイヤ本体を確実に被覆すると共に、高い柔軟性と使用性とが得られる。
【0013】
当該ワイヤ錠の外線材としては、硬鋼線、オイルテンパー鋼線、PC硬鋼線、亜鉛めっき鋼線、ピアノ鋼線、ステンレス鋼線、チタン鋼線及びチタン合金鋼線からなる群から選ばれる鋼線の単線、又は複数のこの鋼線を撚り合わせてなるワイヤロープを用いることができる。外線材としてこれらの材料を用いることにより、盗難犯による切断具を用いたワイヤ本体の切断動作に対して、十分な耐性を持たせることができる。また、これらの材料は、比較的入手が容易であるから、製造の容易性及び製造コストの削減にも寄与する。
【0014】
当該ワイヤ錠において、外線材が外周に捲回されるワイヤロープ(内芯のワイヤロープ)及び/又は外線材を構成するワイヤロープは、複数の鋼線を撚り合わせてなるロープ心の外周部に、複数本の鋼線を撚り合わせてなる複数の側ストランドを配設して形成されたものであることが好ましい。外線材が外周に捲回されるワイヤロープ及び/又は外線材を構成するワイヤロープとして、このように複数の鋼線を多重的に撚り合わせた構造のものを用いることによって、切断具を用いた切断に対する耐性・強度をさらに高めることが可能となる。
【0015】
当該ワイヤ錠において、外線材が外周に捲回されるワイヤロープ及び/又は外線材を構成するワイヤロープが、複数の鋼線を撚り合わせてなるロープ心の外周部に、複数本の鋼線を撚り合わせてなる複数の側ストランドを配設して形成されたものである場合において、これらの鋼線の破断強度は1500N/mm以上であることが好ましい。このような破断強度を有する鋼線を多重的に撚り合わせた構造のワイヤロープを用いることによって、ワイヤロープ全体の強度をさらに向上させ、切断具による切断に対する耐性を十分高い状態に保つことができる。
【0016】
当該ワイヤ錠において、外線材が外周に捲回されるワイヤロープの平均直径は、外線材の平均直径よりも大きいことが好ましい。このように、内芯のワイヤロープがある程度の大きさの直径を有することによって、ワイヤの切断に対する耐性を高いレベルに維持することができる。また、外線材の直径が内芯のワイヤロープの直径よりも小さいことによって、ワイヤ本体の柔軟性及び製造時の取扱いの簡便性がさらに改善される。
【0017】
当該ワイヤ錠において、外線材が外周に捲回されるワイヤロープの長手方向と垂直な面を基準とする外線材の中心平均方向角は、5°以上40°以下であることが好ましい。このように、内芯のワイヤロープの長手方向に対して垂直な面を基準とする外線材の中心平均方向角を5°以上とすることによって、切断に対する耐性を高く保ちながら、外線材の使用量を可能な限り低減して製造コストを削減することが可能となる。内芯のワイヤロープの長手方向に対して垂直な面を基準とする外線材の中心平均方向角を40°以下とすることによって、ワイヤ本体の高い柔軟性を維持しつつ、内芯のワイヤロープと外線材との形成方向の相違による耐切断性を最大限確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のワイヤ錠によれば、外線材が外周に捲回されるワイヤロープ(内芯のワイヤロープ)に対する垂直方向と、外線材に対する垂直方向とが大きく相違するため、盗難犯による当該ワイヤ錠の切断を非常に困難なものとすることができる。また、当該ワイヤ錠は、切断に対する強度、柔軟性(使用の快適性)及び製造の容易性をバランス良く達成することができる。さらに、当該ワイヤ錠は、自転車用として用いられる場合、確実に前輪又は後輪の回転を規制すると共に、所望の構造物に繋止することができるため、施錠時及び解錠時の使用利便性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤ錠を示す模式図である。
【図2】図2は、図1のワイヤ錠(内芯ワイヤロープ、外線材及び円筒状被覆材)の模式的断面図である。
【図3】図3は、図1のワイヤ錠の内芯ワイヤロープ及び外線材を構成するワイヤロープの断面図である。
【図4】図4は、従来のワイヤ錠の典型的な構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。
図1に示されたワイヤ錠1は、主に、ワイヤ本体2及び錠機構3を有する。さらに、ワイヤ本体2は、内芯ワイヤロープ4、外線材5及び円筒状被覆材6を有する。また、錠機構3は、ワイヤ本体2の一方の端部に、錠本体7、鍵孔8及び雌施錠部材9を有し、ワイヤ本体2の他端部に、施錠杵10及び雄施錠部材11を有し、加えて、鍵12を有する。
【0021】
内芯ワイヤロープ4は、可撓性を有するワイヤロープであり、ワイヤ錠1の内芯部を構成する。このワイヤロープとしては、公知のいずれの構造のものでも使用することができる。内芯ワイヤロープ4として用いられる典型的なワイヤロープの構造を図3に示す。このワイヤロープは、ロープ心13、樹脂被覆部14及び側ストランド15から形成されている。ロープ心13は、複数本の鋼線16を撚り合わせて構成されており、同様に、側ストランド15は鋼線17を撚り合わせて構成されている。内芯ワイヤロープ4の平均直径は、特に限定されないが約1mm以上10mm以下とすることができる。内芯ワイヤロープ4の平均直径をこのような範囲の大きさとすることによって、十分な強度を保持すると共に、柔軟性を確保し、さらには製造コストの増大を抑制することができる。
【0022】
また、内芯ワイヤロープ4の平均直径は、好ましくは、後述する外線材5の平均直径よりも大きく設定される。このように、内芯ワイヤロープ4の平均直径を外線材5の平均直径よりも大きくすることによって、ワイヤ本体の柔軟性が高められ、施錠時あるいは解錠時の使用性が改善される上に、内芯ワイヤロープ4の外周に外線材5を螺旋状に捲回することを含むワイヤ錠の製造・加工時の取扱い性が向上する。
【0023】
より詳細には、ロープ心13は、例えば1本の鋼線に6本の鋼線を撚り合わせ、さらに12本の鋼線を撚り合わせた構造の複数のストランドからなる。また、例えば、側ストランド15は、1本の鋼線に9本の鋼線を撚り合わせ、さらに9本の鋼線を撚り合わせた構造の複数のストランドからなる。ここで用いられる鋼線の例としては、炭素含有量0.79質量%以上0.95質量%以下の高炭素鋼材が挙げられる。樹脂被覆部14の樹脂は、典型的には熱可塑性ポリマーが用いられ、例としてはポリエチレンが挙げられる。このような樹脂被覆部14を設けることによって、ワイヤロープの柔軟性及び耐久性を同時に確保することが可能となる。なお、樹脂被覆部14の部分には、樹脂の代替として、天然繊維又は合成繊維を撚り合わせた繊維被覆層を用いてもよい。
【0024】
外線材5は、内芯ワイヤロープ4の外周面上の長手方向の全体にわたって螺旋状に捲回されている。上述のように、切断具によってワイヤ等の硬質線材を切断するためには、ワイヤ等に対して垂直な方向から切断具を押圧すると共に切断動作を行うことが望ましいとされる。ワイヤ錠1においては、外線材5が内芯ワイヤロープ4の外周面上に長手方向の全体にわたって螺旋状に捲回されていることにより、内芯ワイヤロープ4に対する垂直方向(易切断方向)と外線材5に対する垂直方向(易切断方向)とが大きく相違するため、内芯ワイヤロープ4のみを切断する場合と比べて、切断具による切断の困難性が非常に大きいものとなり、盗難に対する抑止力が著しく改善される。すなわち、盗難者が、内芯ワイヤロープ4を切断しようと意図して、内芯ワイヤロープ4に対して垂直な方向から切断具を押圧して切断動作を行う場合には、上記のように螺旋状に捲回された外線材5の切断は、易切断方向とは異なる切断動作であることから非常に困難である。また、ワイヤ錠1は、施錠時にワイヤ本体2が屈曲状態となっていることが多いため、内芯ワイヤロープ4の外周上で多数回にわたって螺旋状に捲回された外線材5の易切断方向に合わせて、切断具による切断を行うことは極めて困難な作業である。このように、外線材5の螺旋状の捲回によって、切断具によるワイヤ本体2の切断を効果的に防止することが可能となる。
【0025】
外線材5は、盗難犯が用いる切断具に対して十分な耐性を有する素材である限り特に限定されないが、例えば硬鋼線、オイルテンパー鋼線、PC硬鋼線、亜鉛めっき鋼線、ピアノ鋼線、ステンレス鋼線、チタン鋼線及びチタン合金鋼線からなる群から選ばれる鋼線の単線、又は複数のこの鋼線を撚り合わせてなるワイヤロープを用いることができる。これらの外線材5を構成する素材の中でも、入手容易性及び強度のバランスの観点から、硬鋼線及びピアノ鋼線が好ましい。外線材5としてワイヤロープを用いる場合、公知のいずれの構造のワイヤーロープでも使用することができる。外線材5のワイヤロープとしては、内芯ワイヤロープ4の典型的な構造例として説明したワイヤロープと同様の構造のワイヤロープを用いることもできる。
【0026】
外線材5の平均直径は、特に限定されないが、約0.2mm以上5mm以下とすることができる。外線材5の平均直径をこのような範囲の大きさとすることによって、ワイヤ本体の高い強度を確保しつつも、大きな柔軟性を得ることができる。また、外線材5は、鋼線の単線あるいはワイヤロープのいずれの場合であっても、内芯ワイヤロープ4の一方の端部から他端部に至るまで、切れ目なく連続した線材として形成・捲回されていることが好ましい。このように、外線材5の全体を連続した線材として形成することによって、切断具による切断に対するワイヤ本体の強度を維持しつつ、柔軟性を高めると共に、製造・加工の容易性を向上することができる。
【0027】
上述のように、外線材5の直径は、内芯ワイヤロープ4の直径よりも小さいことが好ましい。外線材5の直径は、内芯ワイヤロープ4の直径の10%以上50%以下の大きさであることがさらに好ましく、内芯ワイヤロープ4の直径の20%以上40%以下の大きさであることがより好ましい。外線材5の直径を内芯ワイヤロープ4の直径の10%以上とすることによって、ワイヤ本体の柔軟性及び製造・加工時の取扱い性を確保しつつ、切断に対する耐性を向上させることができる。一方、外線材5の直径を内芯ワイヤロープ4の直径の50%以下とすることによって、大きな耐切断性を維持しながら、高い柔軟性及び取扱い性が得られる。
【0028】
外線材5は、図1にも示すように、内芯ワイヤロープ4の長手方向に対して垂直な面を基準として5°以上40°以下の平均角度で、内芯ワイヤロープ4の外周面上に螺旋状に捲回されていることが好ましい(この平均角度は、以下「外線材の中心平均方向角」と称される)。このように、内芯ワイヤロープ4の長手方向に対して垂直な面を基準とする外線材5の中心平均方向角を5°以上とすることによって、切断に対する耐性を高いレベルに維持しながら、外線材5の使用量を可能な限り低減して製造コストを削減すると共に、ワイヤ本体の柔軟性を保つことができる。一方、内芯ワイヤロープ4の長手方向に対して垂直な面を基準とする外線材5の中心平均方向角を40°以下とすることによって、ワイヤ本体の高い柔軟性を維持しながら、外線材5の形成方向と内芯ワイヤロープ4の形成方向との相違をある程度大きく保ち、それによって切断具による切断に対する耐久性を最大限確保することができる。内芯ワイヤロープ4の長手方向に対して垂直な面を基準とする外線材5の中心平均方向角は、この長手方向の全体にわたってほぼ一定に保つことが好ましいが、製造コスト及び加工工程の最適化の観点から、複数の形成角度を混成させた構造とすることも可能である。
【0029】
外線材5は、内芯ワイヤロープ4の外周面上に螺旋状に捲回することに加えて、内芯ワイヤロープ4と一体化するように加工してもよい。外線材5と内芯ワイヤロープ4とを一体化するように加工することによって、外線材5が、内芯ワイヤロープ4の外周面上で所望の螺旋形状を確実に維持することができるため、外線材5の形成方向と内芯ワイヤロープ4の形成方向との相違によって奏される耐切断性をさらに強固なものとすることができる。このような外線材5及び内芯ワイヤロープ4の一体化のための加工は、適当な接着剤(例えば、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリレート系接着剤等)を用いた接着によってもよいし、接着剤以外の合成樹脂又は繊維による接合によってもよい。
【0030】
内芯ワイヤロープ4及び/又は外線材5を構成するワイヤロープの鋼線の破断強度は、1500N/mm以上であることが好ましい。ここでの破断強度は、G3525(2006)11.2素線試験のb)破断試験で定められた要領に従って測定される。内芯ワイヤロープ4及び/又は外線材5のワイヤロープの鋼線の破断強度を1500N/mm以上とすることによって、より強靱なワイヤロープを得ることができるため、盗難犯によるワイヤ切断に対する耐性も同時に改善され、犯罪への抑止力がより向上する。
【0031】
円筒状被覆材6は、内芯ワイヤロープ4及び外線材5の外面全体を包接するように形成される。内芯ワイヤロープ4、外線材5及び円筒状被覆材6の模式的な積層状態が図2に示される。円筒状被覆材6の平均厚みは、内芯ワイヤロープ4及び外線材5を十分に包接・保護することができる限りは特に限定されるものではないが、例えば2mm以上20mm以下とすることができる。円筒状被覆材6の平均厚みをこのような範囲の大きさとすることによって、ワイヤ本体の柔軟性及び取扱い性を確保しながら、内芯ワイヤロープ4及び外線材5を確実に保護することができる。
【0032】
円筒状被覆材6の材料としては、内芯ワイヤロープ4及び外線材5の十分な保護が可能であると共に、適度な柔軟性を確保することが可能である限りは特に限定されないが、一般的には合成樹脂又はゴムが用いられる。円筒状被覆材6の材料として用いられる合成樹脂の例としては、ポリウレタン、ナイロンエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリスチレン、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、酢酸ビニル、及びこれらが2つ以上混合されたものからなる群から選ばれた合成樹脂が挙げられる。これらの材料の中でも、入手容易性や柔軟性などの総合的な観点から、ポリ塩化ビニルが最も好ましい。また、円筒状被覆材6としては、意匠的な効果を考慮して、透明あるいは半透明の材料を用いることもできるが、防犯強化の面からは、非透明材料を用いることが好ましい。
【0033】
内芯ワイヤロープ4の各々の端部には、ループ状の施錠状態を構成する錠機構3が設けられている。すなわち、内芯ワイヤロープ4の一方の端部には、錠本体7、鍵孔8及び雌施錠部材9が備えられており、他方の端部には、施錠杵10及び雄施錠部材11が備えられており、鍵12は、解錠のための手段として用意されている。
【0034】
錠本体7には、公知のシリンダー錠が格納されており、このシリンダー錠には、鍵孔8及び雌施錠部材9が設けられている。錠機構3の施錠は、雄施錠部材11を雌施錠部材9の位置に係合することによって行うことができる。また、錠機構3の解錠は、鍵12を鍵孔8に挿入し、所定の方向に回転させて、雄施錠部材11の雌施錠部材9に対する係合を解除することによって行うことができる。このようなシリンダー錠は、外部からの破壊に対する十分な耐久性を有するものであることが好ましい。
【0035】
本実施形態のワイヤ錠によれば、内芯のワイヤロープに対する垂直方向(易切断方向)と外線材に対する垂直方向(易切断方向)とが大幅に相違するため、盗難犯によるワイヤ錠の切断が格段に困難となる。さらに、当該ワイヤ錠における内芯ワイヤロープ及び/又は外線材を構成するワイヤロープは、複数の鋼線を撚り合わせてなるロープ心の外周部に、複数本の鋼線を撚り合わせてなる複数の側ストランドを配設して形成されたものであるため、切断具を用いた切断に対する耐性・強度がさらに改善される。その上、当該ワイヤ錠において、外線材を外周に捲回したワイヤロープの長手方向と垂直な面を基準とする外線材の中心平均方向角が5°以上40°以下であることによって、切断に対する耐性、柔軟性の確保及び製造コストの削減をバランス良く達成することが可能となる。
【0036】
本発明の自転車用ワイヤは、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に規定された発明によって限定される範囲内で、種々の変形・改良を試みることができる。例えば、内芯のワイヤロープは、複数の鋼線を撚り合わせたものであれば、公知のいずれのものでも使用することが可能であり、鋼線の数や組み合わせ、ストランド間に介在させる合成樹脂や繊維に関しても変更を行うことができる。また、錠機構は、シリンダ錠に限らず、例えば、予め定めた一連の番号を設定することで開放を許容するように構成されたロック機構を用いることができる。このような番号によるロック機構は、所定の番号を記憶することは必要であるが、鍵の必要性がなくなる点では利便性が高い。外線材としては、ワイヤロープではなく、単線の線材を用いてもよい。外線材として、柔軟性を失わない範囲である程度の大きさの平均直径を有する単線の線材を用いることによって、加工時における利便性・効率性が大きくなる。なお、当該ワイヤは、自転車の盗難を防止するための施錠具として好適に用いられるが、回動部材の回転を規制したり、建造物に繋止することによって移動・盗難を防止できる他の対象物群についても使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のワイヤ錠は、切断に対する強靱な耐性及び快適な使用性を有し、ワイヤの切断による盗難に対して高度な抑止力を発揮するため、自転車等の施錠・繋止用に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0038】
1 自転車用ワイヤ錠
2 ワイヤ本体
3 錠機構
4 内芯ワイヤロープ
5 外線材
6 円筒状被覆材
7 錠本体
8 鍵孔
9 雌施錠部材
10 施錠杵
11 雄施錠部材
12 鍵
13 ロープ心
14 樹脂被覆部
15 側ストランド
16、17 鋼線
30 合成樹脂被覆部
31 ワイヤ
32 ロープ心
33 側ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するワイヤ本体と、このワイヤ本体の両端部の開閉を制御する錠機構とを備えるワイヤ錠であって、
上記ワイヤ本体が、
複数の鋼線を撚り合わせてなるワイヤロープと、
このワイヤロープの外周に螺旋状に捲回される外線材と
を有していることを特徴とするワイヤ錠。
【請求項2】
上記ワイヤ本体の外周に外嵌される円筒状被覆材を備え、この円筒状被覆材として合成樹脂又はゴムが用いられる請求項1に記載のワイヤ錠。
【請求項3】
上記外線材として、硬鋼線、オイルテンパー鋼線、PC硬鋼線、亜鉛めっき鋼線、ピアノ鋼線、ステンレス鋼線、チタン鋼線及びチタン合金鋼線からなる群から選ばれる鋼線の単線、又は複数のこの鋼線を撚り合わせてなるワイヤロープが用いられる請求項1又は請求項2に記載のワイヤ錠。
【請求項4】
上記外線材が外周に捲回されるワイヤロープ、及び/又は外線材を構成するワイヤロープが、複数の鋼線を撚り合わせてなるロープ心の外周部に、複数本の鋼線を撚り合わせてなる複数の側ストランドを配設して形成されたものである請求項1、請求項2又は請求項3に記載のワイヤ錠。
【請求項5】
上記鋼線の破断強度が、1500N/mm以上である請求項4に記載のワイヤ錠。
【請求項6】
上記外線材が外周に捲回されるワイヤロープの平均直径が、外線材の平均直径よりも大きい請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のワイヤ錠。
【請求項7】
上記外線材が外周に捲回されるワイヤロープの長手方向と垂直な面を基準とする外線材の中心平均方向角が、5°以上40°以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のワイヤ錠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−43010(P2011−43010A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192998(P2009−192998)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(503266828)有限会社クロップス (12)