ワクチンおよび診断に有用なHelicobacterpyloriタンパク質
【課題】 H.pyloriの新たな診断法の開発、および、H.pylori感染の予防および疾患の処置を行い得るワクチン設計に有用な影響を及ぼす、H.pylori細胞毒素の精製タンパク質およびそれらの遺伝子、ならびにそれらに関連する組換え物、例えば、ベクターおよび宿主細胞を提供すること。
【解決手段】 少なくとも8アミノ酸の連続する配列を含む免疫原性ポリペプチドであって、該免疫原性ポリペプチドは、以下の特性を有する: (1)該連続する配列は、(a)EFKNGKNKDFSK;(b)EPIYA;および(c)NNNNNNからなる群より選択される1つ以上のアミノ酸配列を含み;ならびに (2)該少なくとも8アミノ酸の連続する配列は、H.pylori由来ポリペプチドの特定のアミノ酸配列から得られる。
【解決手段】 少なくとも8アミノ酸の連続する配列を含む免疫原性ポリペプチドであって、該免疫原性ポリペプチドは、以下の特性を有する: (1)該連続する配列は、(a)EFKNGKNKDFSK;(b)EPIYA;および(c)NNNNNNからなる群より選択される1つ以上のアミノ酸配列を含み;ならびに (2)該少なくとも8アミノ酸の連続する配列は、H.pylori由来ポリペプチドの特定のアミノ酸配列から得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、特定のHelicobacter pyloriタンパク質、これらのタンパク質を発現する遺伝子、および、診断およびワクチンへの適用に有用なこれらのタンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Helicobacter pyloriは、1982年に慢性胃炎患者の胃生検より初めて単離された、螺旋状の微好気性グラム陰性細菌である(Warrenら、Lancet i:1273−75(1983))。元来Campylobacter pyloriと呼ばれていたものが、別属に属するものと認められ、Helicobacterと命名された(Goodwinら、Int.J.Syst.Bacteriol.39:397−405(1989))。この細菌はヒト胃粘膜にコロニーを形成し、感染が何十年もの間継続する。ここ数年の間に、この細菌の存在は、大半の感染患者は無症候性であるが、消化性潰瘍および胃腺癌の危険性をかなり増大する症状である、慢性B型胃炎に関連づけられた。ごく最近の研究で、H.pylori感染が、B型胃炎、消化性潰瘍、および胃癌の原因または補助因子であり得ることが、強く示唆された(例えば、Blaser,Gastroenterology 93:371−83(1987);Dooleyら、New Engl.J.Med.321:1562−66(1989);Parsonnetら、New Engl.J.Med.325:1127−31(1991)を参照のこと)。H.pyloriは、経口経路により伝搬されると考えられており(Thomasら、Lancet i:340,1194(1992))、その感染の危険性は、年齢とともに増大し(Grahamら、Gastroenterology 100:1495−1501(1991))、群衆化により促進される(Drummら、New Engl.J.Med.4322:359−63(1990);Blaser.Clin.Infect.Dis.15:386−93(1992))。先進諸国では、H.pylori抗原に対する抗体の存在が、30才代の人では20%未満から、60才代では50%以上に増加している(Jonesら、Med.Microbio.22:57−62(1986);Morrisら、N.Z.Med.J.99:657−59(1986))が、一方発展途上国では、人口の80%以上が20才代までにすでに感染している(Grahamら、Digestive Diseases and Sciences 36:1084−88(1991))。
【0003】
H.pylori発病因子の特性および機能は、いまだによく理解されていない。今までのところ同定された因子には、おそらく粘膜層を越えて移動するために必要な鞭毛(例えば、Leyingら、Mol.Microbiol.6:2863−74(1992)を参照のこと);胃の酸性環境を中和し、初期のコロニー化を可能にするために必要なウレアーゼ(例えば、Cussacら、J.Bacteriol.174:2466−73(1992);Perez−Perezら、J.Infect.Immun.60:3658−3663(1992);Austinら、J.Bacteriol.174:7470−73(1992);PCT公開No.WO90/04030を参照のこと)、および、真核上皮細胞中に空胞形成をなし、疾患に関連するH.pylori株により産生される、報告によれば87kDaの分子量を有するモノマーにより形成された、高分子量細胞毒性タンパク質(例えば、Coverら、J.Bio.Chem.267:10570−75(1992)(特定のN末端23アミノ酸配列を有する「空胞形成毒素」を参照);Coverら、J.Clin.Invest.90:913−18(1992);Leunk,Rev.Infect.Dis.13:5686−89(1991)を参照のこと)が包含される。さらに、以下のことが周知である。
【0004】
H.pylori培養上清には、分子量が120、128、または130kDaである抗原が含有されることが、別々の著者により示された(Apelら、Aentralblat fur Bakteriol.Microb.und Hygiene 268:271−76(1988);Crabtreeら、J.Clin.Pathol 45:733−34(1992);Coverら、Infect.Imunn.58:603−10(1990);Figuraら、H.pylori qastritis and peptic ulcer
(Malfrtheinerら、編),Springer Verlag,Berlin(1990))。記載された抗原の大きさの相違は、同じタンパク質の分子量測定についての各研究室間の相違によるのか、同じ抗原の大きさの可変性によるのか、または、実際に異なるタンパク質であるのかは、明白ではなかった。このタンパク質についてのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の情報はなかった。H.pylori感染の実質的に全患者の血清中に、特異抗体が検出されたので、感染ヒト中で、このタンパク質は非常に免疫原性である(Gersteneckerら、Eur.J.Clin.Microbiol.11:595−601(1992))。
【0005】
H.pylori熱ショックタンパク質(hsp)が記載された(Evansら、Infect.Immun.60:2125−27(1992)〔44アミノ酸N末端配列および分子量約62kDa);Dunnら、Infect.Immun.60:1946−51(1992)(N末端配列中に認められた33アミノ酸および分子量約54kDa);Austinら、J.Bacteriol.174:7470−73(1992)(N末端配列中に認められた37アミノ酸および分子量約60kDa)〕。Austinらは、N末端に同じアミノ酸配列を有する同じタンパク質が事実存在することを示唆している。
【0006】
診断試験の例については、H.pylori溶解物または半精製抗原に基づいた〔Evansら、Gastroenterology 96:1004−08(1989);U.S.4,882,271;PCT公開No.WO89/08843(いずれもウレアーゼ活性を有する、外膜表面由来の同じ高分子量(300−700kDa)抗原を含有する組成物およびアッセイに関連する);EPO公開No.329 570(63、57、45および31kDaの群からの少なくとも1つのフラグメントを有する、H.pylori抗体を検出するための抗原性組成物に関する)を参照のこと〕。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
症候状態または無症候状態のH.pylori感染患者の割合は、発展途上国および先進国の両方において非常に高く、入院費および治療費からして、H.pyloriワクチンおよびこの疾患に対するさらなる診断試験の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、H.pyloriの3つの主要なタンパク質のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列に関する。詳細には、これらは、細胞毒素、「細胞毒素関連免疫優性」(CAI)抗原、および熱ショックタンパク質である。これらのタンパク質の完全なアミノ酸配列は未知であり、それらの遺伝子も同定されていない。本発明は、これらの精製タンパク質およびそれらの遺伝子に関するばかりではなく、それらに関連する組換え物、例えば、ベクターおよび宿主細胞にも関する。これらのタンパク質の分子レベルでの特性および機能についての理解、ならびに、組換え産物の入手可能性は、H.pyloriの新たな診断法の開発、および、H.pylori感染の予防および疾患の処置を行い得るワクチン設計に、重要な影響を及ぼす。
【0009】
このように、これらのタンパク質は、ワクチンおよび診断の両方の用途に使用され得る。本発明には、H.pyloriに関連する疾患の処置および診断のための方法が包含される。H.pyloriは、B型胃炎、消化性潰瘍、および胃腺癌に関連するので、本発明が、これらの疾患症状の初期検出および緩和の助けとなることが望まれる。最近では、診断は内視鏡および生検の組織学的染色に依存し、既存の免疫アッセイは、H.pylori溶解物または半精製抗原に基づく。このようなアッセイにおいて認められる不均一性により、疾患症状との相関性は十分には確立されていない。従って、組換え抗原に基づくアッセイは、疾患検出のための核酸アッセイと同様に優れる。従来、H.pylori感染または処置のための市販ワクチンは存在しない。従って、組換えワクチンは本発明の目的である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、H.pylori細胞毒素の精製タンパク質およびそれらの遺伝子が提供されるばかりではなく、それらに関連する組換え物、例えば、ベクターおよび宿主細胞もまた提供される。このタンパク質の分子レベルでの特性および機能についての理解、ならびに、組換え産物の入手可能性は、H.pyloriの新たな診断法の開発、および、H.pylori感染の予防および疾患の処置を行い得るワクチン設計に有用な影響を及ぼす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(A.一般的な方法論)
本発明の実施には、他に示されていなければ、当該分野の分子生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の方法を使用する。このような方法は、文献に十分に説明されている。例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING;A LABORATORY MANUAL,第二版(1989);DNA CLONING,VOLUMES I AND II(D.N. Glover編 1985);OLIGONUCLEOTIDE SYNTHESIS(M.J.Gait編 1984);NUCLEIC ACID HYBRIDIZATION(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編 1984);TRANSCRIPTION AND TRANSLATION(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編 1984);ANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney編 1986);IMMOBILIZED CELLS AND ENZYMES(IRL Press, 1986);B. Perbal,A PRACTICAL GUIDE TO MOLECULAR CLONING(1984);METHODS IN ENZYMOLOGYシリーズ(Academic Press,Inc.);GENE TRANSFER VECTORS FOR MAMMALIAN CELLS(J.H.MillerおよびM.P.Calos編 1987,Cold Spring Harbor Laboratory)、Methods in Enzymology Vol. 154およびVol.155(それぞれに、WuおよびGrossman、およびWu編)、MayerおよびWalker編(1987),IMMUNOCHEMICAL METHODS IN CELL AND MOLECULAR BIOLOGY (Academic Press,London)、Scopes,(1987),PROTEIN PURIFICATION:PRINCIPLES AND PRACTICE,第二版(Springer−Verlag,N.Y.)、および、HANDBOOK OF EXPERIMENTAL IMMUNOLOGY,VOLUMES I−IV (D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編 1986)を参照のこと。
【0012】
ヌクレオチドおよびアミノ酸の標準的な省略形が、本明細書中で使用されている。本明細書中に掲載されている、全ての刊行物、特許、および特許出願は、参考として援用されている。
【0013】
(B.定義)
H.pyloriの「細胞毒素」または「毒素」とは、図1〜3および4にそれぞれに示されているヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を有する、タンパク質またはそれらのフラグメント、ならびに、それらの誘導体のことであり、分子量は約140kDaである。このタンパク質は、分子量が約100kDaの細胞毒素活性を有するタンパク質の前駆体として機能する。細胞毒素は、空胞を形成して多くの真核細胞型を死滅させ、そして、H.pylori培養上清から精製された。さらに、細胞毒素は、タンパク性であり、ゲル濾過法による見かけの分子量約950−972kDaを有する。精製物質の変性ゲル電気泳動により、報告によれば、950ー972kDa分子の主要成分が、見かけの分子量87kDaのポリペプチドであったことが以前に示されている(Coverら、J.Biol.Chem.267:10570−75 1992)。しかし、本明細書中において、以前に記載された87kDaは、100kDaタンパク質のさらなるプロセッシングによるのか、または、精製中に大きなタンパク質がタンパク質分解したことによるかのいずれかであることが示唆される。
【0014】
「細胞毒素関連免疫優性」(CAI)抗原とは、図6〜8に記載されているアミノ酸配列を有するタンパク質およびそのフラグメント、およびそれらの誘導体のことである。これは、親水性の表面露出タンパク質であり、約120−132kDa、好ましくは128−130kDaの分子量を有し、臨床分離株から産生される。遺伝子の大きさ、およびコードされるタンパク質の大きさは、遺伝子内部の領域の複製を含む機構により、個々の株により変化する。CAI抗原を産生しない臨床分離株は、cai遺伝子を有さず、また活性細胞毒素も産生し得ない。cai遺伝子の存在と細胞毒性との関連は、cai遺伝子産物が、細胞毒素の転写、折り畳み、移送、または機能に必要であることを示唆する。または、細胞毒素(CT)およびcai遺伝子の両方が、非細胞毒性株には存在しない。このことは、2つの遺伝子間である種の物理的連鎖を示唆する。CAI抗原固有の特性は、大きさの可変性であり、このことはcai遺伝子が連続的に変化していることを示唆する。CAI抗原は、細胞表面に結合されるようである。このことは、上清中への抗原放出が、抗原自身または細菌表面に結合されたCAI抗原を有する複合体のいずれかを切断する、血清中に存在するプロテアーゼの作用のためであり得ることを示唆する。同様のプロセッシング活性が、インビボにおける増殖中に抗原を放出し得る。典型的なリーダーペプチド配列が存在しないことにより、非依存的移送系が存在することが示唆される。
【0015】
「熱ショックタンパク質」(hsp)とは、図9〜11に示されているアミノ酸配列を有する、H.pyloriタンパク質およびそのフラグメントのことであり、分子量は54−62kDaの範囲であり、好ましくは約58−60kDaである。このhspは、グラム陰性細菌熱ショックタンパク質群、hsp60に属する。一般的には、hspは、原核および真核いずれも、動物および植物の全ての生物中に最も保存されたタンパク質に属し、この保存は全配列に沿って広がっている。この高度の保存は、その活性を損なうことなく改変されることはあり得ない、タンパク質の機能構造に、全配列が関与することを示唆する。
【0016】
本発明に使用され得るタンパク質の例には、このタンパク質の天然アミノ酸配列から主要でないアミノ酸が変化したポリペプチドが含まれ、特に、同類アミノ酸置換が予測される。同類置換は、それらの側鎖が縁続きのアミノ酸ファミリー内でなされる置換である。遺伝的にコードされるアミノ酸は、一般に4つのファミリーに分けられる:(1)酸性=アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性=リシン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および、(4)非帯電極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、シスチン、セリン、スレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、ときには、合わせて、芳香族アミノ酸として分類される。例えば、ロイシンのイソロイシンまたはバリンによる置換、アスパラギン酸のグルタミン酸による置換、スレオニンのセリンによる置換、または、構造的に関連するアミノ酸による同様の同類置換などの分離された置換が、生物学的活性に重要な影響を与えないことが、当然予測される。タンパク質として実質的に同じアミノ酸配列を有するが、実質的に機能面に影響しない、主要でないアミノ酸置換を有するポリペプチド分子は、タンパク質の定義内に存在する。
【0017】
天然源からのタンパク質の単離および精製によるのではなく、組換えDNA法によるタンパク質の生産の重要な利点は、天然源からタンパク質を単離するために要求される開始物質より、より少量の物質を使用して、同量のタンパク質が生産され得ることである。組換え法によるタンパク質の生産はまた、細胞内に通常存在するある種の分子を伴わずにタンパク質を単離することを可能にする。組換え非ヒト宿主により産生されたヒトタンパク質のみが議論の組換えタンパク質であるので、事実、いかなるヒトタンパク質夾雑物も完全に含まないタンパク質組成物が、容易に生産され得る。天然源からの潜在的なウイルス因子、および、ヒトに対して病原性であるウイルス成分もまた除外される。
【0018】
本明細書中に使用されているように、用語「組換えポリヌクレオチド」は、ゲノム、cDNA、半合成または合成起源のポリヌクレチドを示し、その起源または操作により:(1)天然では結合しているポリヌクレオチドの全てまたは一部と結合しない、(2)天然ではそれに結合しているポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドに結合する、または(3)天然では存在しない。従って、この用語はまた、H. pylori細菌ゲノムが遺伝子的に改変されて(例えば、変異誘発により)、1つ以上の改変ポリペプチドを産生する状態も包含する。
【0019】
本明細書中に使用されているように、用語「ポリヌクレオチド」とは、任意の長さのヌクレオチド、好ましくはデオキシリボヌクレオチドのポリマー形態のことであり、本明細書中では、用語「オリゴヌクレオチド」および「オリゴマー」と相互変換的に使用される。この用語は、分子の一次構造のみを示す。従って、この用語には、二本鎖および一本鎖DNAおよびアンチセンスポリヌクレオチドが包含される。これにはさらに、既知の型の改変、例えば、当該分野で公知の標識の存在、メチル化、末端「caps」、1つ以上の天然に存在するヌクレオチドのアナログとの置換、ヌクレオチド間の改変(例えば、ある型の非荷電性結合(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバミン酸エステルなど)、または、荷電性結合(例えば、ホスホチオエート、ホスホロジチオエートなど)との置換)、ペンダント部分の導入(例えば、タンパク質(ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリーLーリシンなど)、挿入剤(例えば、アクリジン、プソラレン(psoralen))、キレーター(例えば、金属、放射性物質、ホウ素、酸化成分など)、アルキル化剤(例えば、αアノマー性核酸));が、包含される。
【0020】
用語「ゲノムの」により、ベクターにクローン化された制限フラグメント由来のDNA分子のコレクションまたはライブラリーを意味する。これには、微生物の遺伝子物質の全てまたは一部が包含される。
【0021】
用語「cDNA」により、mRNAの相補鎖にハイブリダイズする相補mRNA配列を意味する。
【0022】
本明細書中で使用されているように、用語「オリゴマー」は、プライマーおよびプローブの両方を意味し、本明細書では用語「ポリヌクレオチド」と相互変換的に使用される。用語オリゴマーは、分子の大きさを意味しない。しかし、典型的にオリゴマーは、1000ヌクレオチド未満、より典型的には500ヌクレオチド未満、さらに典型的には250ヌクレオチド未満であり、それらは100ヌクレオチド未満であり得、75ヌクレオチド未満、そしてさらに50ヌクレオチド未満の長さであり得る。
【0023】
本明細書中で使用されているように、用語「プライマー」とは、適切な条件下で使用されるときに、ポリヌクレオチド鎖の合成開始点として作用し得るオリゴマーのことである。プライマーは、コピーされるべきポリヌクレオチド鎖の領域に、完全にまたは実質的に相補的である。従って、ハイブリダイゼーションを行う条件下で、プライマーは、分析物である鎖の相補領域にアニールする。適切な反応物(例えば、ポリメラーゼ、ヌクレオチドトリホスフェートなど)の添加により、プライマーは、重合剤により伸長されて分析物である鎖のコピーを形成する。プライマーは一本鎖であり得るか、または、部分的または全体に二本鎖であり得る。
【0024】
用語「分析物ポリヌクレオチド」および「分析物鎖」とは、標的領域を含有すると思われる、一本鎖または二本鎖核酸分子のことであり、生物学的試料中に存在し得る。
【0025】
本明細書中で使用されているように、用語「プローブ」とは、標的配列中の配列とプローブ中の少なくとも1つの配列との相補性により、標的配列とハイブリッド構造を形成するポリヌクレオチドを含有する構造のことである。プローブのポリヌクレオチド領域は、DNAおよび/またはRNA、および/または合成ヌクレオチドアナログから構成され得る。「捕獲プローブ」および「標識プローブ」は、プローブ内に包含される。
【0026】
本明細書中で使用されているように、用語「標的領域」とは、増幅および/または検出されるべき核酸領域のことである。用語「標的配列」とは、プローブまたはプライマーが、所望の条件下で安定なハイブリッドを形成し得る配列のことである。
【0027】
本明細書中で使用されているように、用語「捕獲プローブ」とは、結合パートナーに組み合わされる一本鎖ポリヌクレオチドを有するポリヌクレオチドプローブのことである。この一本鎖ポリヌクレオチドは、標的するポリヌクレオチド配列に含有され、これは、分析物ポリヌクレオチド中の検出されるべき標的領域内の標的配列に相補的である。この相補領域は、二本鎖に、分析物ポリヌクレオチドを固体表面に固定する(結合パートナーを介して)のに十分に安定性を与えるために、十分な長さからなり、標的配列に対して相補的である。結合パートナーは、第二の結合パートナーに特異的であり、第二の結合パートナーは、固体支持体の表面に結合され得るか、または、その他の構造物または結合パートナーを介して間接的に固体支持体に結合され得る。
【0028】
本明細書中で使用されているように、用語「標的するポリヌクレオチド配列」とは、標的ヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列が含有されるポリヌクレチド配列のことであり、その配列は、意図される目的に十分な安定性を有する二本鎖を形成するのに、十分な長さからなり、標的配列に相補的である。
【0029】
本明細書中で使用されているように、用語「結合パートナー」とは、例えば、抗原とそれに特異的な抗体のような、高度な特異性を有するリガンド分子を結合し得る分子のことである。一般的に、特異結合パートナーは、単離条件下で、分析物コピー/相補鎖の二本鎖(捕獲プローブの場合)を固定するのに十分な親和性で結合する。特異結合パートナーは、当該分野で公知であり、例えば、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジン、IgGとプロテインA、多くの既知のレセプター−リガンド対、および、相補的ポリヌクレオチド鎖を包含する。相補的ポリヌクレオチド結合パートナーの場合には、パートナーは通常、少なくとも約15塩基の長さであり、少なくとも40塩基であり得、さらに、少なくとも約40%から約60%のG+C含有量を有する。ポリヌクレオチドは、DNA、RNAまたは合成ヌクレオチドアナログを含み得る。
【0030】
本明細書中で使用されているように、用語「カップルした(coupled)」とは、共有結合によるまたは非共有結合の強い相互作用(例えば、疎水相互作用、水素結合など)による付着のことである。共有結合は、例えば、エステル、エーテル、リン酸エステル、アミド、ペプチド、イミド、炭素−イオウ結合、炭素−リン結合などであり得る。
【0031】
用語「支持体」とは、所望の結合パートナーが固定され得る、いずれもの固体または半固体の表面のことである。適切な支持体には、ガラス、プラスチック、金属、ポリマーゲルなどが含まれ、ビーズ、ウエル、ディップスティック、膜などの形態にされ得る。
【0032】
本明細書中で使用されているように、用語「標識」とは、検出し得る(好ましくは定量し得る)シグナルを提供するために使用され得、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに結合され得る、いずれもの元素または部分のことである。
【0033】
本明細書中で使用されているように、用語「標識プローブ」とは、分析物ポリヌクレオチド中の検出されるべき標的配列に相補的である、標的するポリヌクレオチド配列を含有するポリヌクレオチドプローブのことである。この相補領域は、「標識プローブ」および「標識配列」を含有する二本鎖が、標識により検出されるように、十分な長さからなり、標的配列に相補的である。標識プローブは、直接に、または、マルチマーを含む、互いに高度な特異性を有する1組のリガンド分子を介して間接に、標識とカップルする。
【0034】
本明細書中で使用されているように、用語「マルチマー」とは、同じ繰り返しの一本鎖ポリヌクレオチドユニットまたは異なる一本鎖ポリヌクレオチドユニットの、直鎖状または分枝状ポリマーのことである。ユニットの少なくとも1つは、目的の、第一の一本鎖ヌクレオチド配列、典型的には分析物または分析物に結合したポリヌクレオチドプローブ(例えば、標識プローブ)に特異的にハイブリダイズし得る、配列、長さ、および組成を有する。このような特異性および安定性を得るために、このユニットは、通常は少なくとも約15ヌクレオチドの長さであり、典型的には約50ヌクレオチド以下の長さ、そして好ましくは約30ヌクレオチドの長さであり;G+C含有量は、通常は少なくとも約40%、ほとんどは約60%である。このようなユニットに加えて、マルチマーには、目的の第二の一本鎖ヌクレオチド、典型的には標識ポリヌクレオチドまたはその他のマルチマーに、特異的および安定にハイブリダイズし得る、多くのユニットが包含される。これらのユニットは、上記に考察されたマルチマーのように、一般にはほぼ同じ大きさおよび組成である。マルチマーがその他のマルチマーにハイブリダイズされるように設計されているときには、第一および第二のオリゴヌクレオチドユニットは異質(異なる)であり、選択されたアッセイの条件下では、互いにはハイブリダイズしない。従って、マルチマーは、標識プローブであり得るか、または標識をプローブにカップルするリガンドであり得る。
【0035】
「レプリコン」は、細胞内のポリヌクレオチド複製の自己複製ユニットとして挙動する、すなわち、自己制御下に複製し得るいずれもの遺伝子エレメント、例えば、プラスミド、染色体、ウイルス、コスミドなどである。これには選択マーカーが含まれる。
【0036】
「PCR」とは、Saikiら、Nature 324:163(1986);およびScharfら、Science(1986)233:1076−1078;および米国特許第4,683,195号;ならびに米国特許第4,683,202号に記載されているようなポリメラーゼ連鎖反応のことである。
【0037】
本明細書中で使用されているように、本来xが、同じ様式でyに関連しない場合に、xはyに関して「異種」である。すなわち、天然ではxが全くyに関連しないか、または、天然に実在して認められるような同じ様式でyに関連しない。
【0038】
「相同性」とは、xとyとの間の類似性の程度のことである。1つの形態の配列と別の配列との類似は、当該分野で公知の方法により決定され得る。例えば、それらはポリヌクレオチドの配列情報の直接比較により決定され得る。または、相同は、相同領域(例えば、S1消化の前に使用される)間で安定な二本鎖を形成する条件下でポリヌクレオチドをハイブイブリダイズし、その後、一本鎖特異ヌクレアーゼにより消化し、その後に消化されたフラグメントの大きさを決定することにより決定され得る。
【0039】
「ベクター」は、別のポリヌクレオチドセグメントが接続されて、この接続されたセグメントの複製および/または発現をもたらすレプリコンである。
【0040】
「制御配列」とは、それらが連結されるコーディング配列の発現をもたらすために必要であるポリヌクレオチド配列のことである。このような制御配列の性質は、宿主生物に依存して異なる;原核生物では、このような制御配列は、一般的にプロモーター、リボソーム結合部位、および転写終止配列を含み;真核生物では、一般的に、このような制御配列は、プロモーターおよび転写終止配列を含む。用語「制御配列」は、最少限、発現に必要とされる全成分を含み、さらに存在が有利である付加的な成分、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列を含み得ると意図される。
【0041】
「作動可能に連結された」とは、記載されている成分が、それらの意図する様式で機能し得る関係にある並列のことである。コーディング配列に「作動可能に連結された」制御配列は、コーディング配列の発現が制御配列に適合した条件下で得られるように連結されている。
【0042】
「オープンリーディングフレーム」(ORF)は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の領域のことである;この領域は、コーディング配列の一部またはコーディング配列全てを示し得る。
【0043】
「コーディング配列」は、適切な調節配列の制御下におかれると、通常はmRNAを介してポリペプチドに翻訳されるポリヌクレオチド配列である。コーディング配列の境界は、5’末端の翻訳開始コドンおよび3’末端の翻訳終止コドンにより決定される。コーディング配列には、cDNAおよび組換えポリヌクレオチド配列が含まれる得るが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書中で使用されているように、用語「ポリペプチド」は、アミノ酸のポリマーを指し、特定の長さの産物を指すわけではない;従って、ペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質が、ポリペプチドの定義内に包含される。この用語にはまた、ポリペプチドの発現後改変(例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化など)は意味されず、すなわち包含されない。定義に包含されるのは、例えば、アミノ酸の1つ以上のアナログを含有するポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、置換結合を有するポリペプチド、および当該分野で公知の天然に存在するおよび存在しない改変である。
【0045】
示された核酸配列「由来の」ポリペプチドまたはアミノ酸配列とは、配列にコードされたポリペプチドのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、またはそれらの部分、ここで、この部分は、少なくとも3−5アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも8−10アミノ酸、そしてよりさらに好ましくは少なくとも11−15アミノ酸からなる、または配列にコードされたポリペプチドにより免疫学的に同定され得るポリペプチドのことである。この用語にはまた、示された核酸配列から発現されるポリペプチドも包含される。
【0046】
「免疫原性の」とは、アジュバントの存在または非存在下で、それのみで、またはキャリアに結合されて、体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答を引き起こすポリペプチドの能力のことである。「中和」とは、感染因子の感染力を、部分的または全体的に抑制する免疫応答のことである。
【0047】
「エピトープ」とは、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の抗原決定基のことである;1つのエピトープは、そのエピトープに対して唯一の高次構造(spatial conformation)で、3つ以上のアミノ酸を含み得る。一般的には、エピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸からなり、さらに通常には少なくとも8−10のこのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の高次構造の決定方法は当該分野では公知であり、例えば、これらには、x線結晶解析および二次元核磁気共鳴が含まれる。同じエピトープを認識する抗体は、1つの抗体が標的抗原に対するその他の抗原の結合を阻む能力を示す、簡単な免疫アッセイにおいて同定され得る。
【0048】
本明細書中で使用されているように、「処置(treatment)」とは、予防および/または治療(therapy)(すなわち、あらゆる疾患症状の調整)のことである。「個体(individual)」は、H.pylori感染が疑われる動物を意味し、これにはヒトを含む霊長類が包含されるが、これらに限定されない。「ワクチン」は、免疫原性の、または、部分的または完全にH.pyloriに対する保護を誘起し得る、個体の処置に有用な組成物である。
【0049】
H.pyloriタンパク質は、このタンパク質に特異的な、モノクローナルまたはポリクローナル抗体の産生に使用され得る。これらの抗体を産生する方法は、当該分野で公知である。
【0050】
「組換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞培養物」、およびその他のこのような用語は、組換えベクターまたは他の転移DNAの受容体として使用され得るか、または使用されてきた、微生物、昆虫細胞、および哺乳類細胞を示し、これには、形質転換されたもとの細胞の子孫も包含される。1つの母細胞の子孫は、自然突然変異、偶発突然変異または意図的突然変異(deliberate mutation)のために、形態学的に、または、ゲノムDNAまたは全DNA成分が、もとの母細胞と完全に同一である必要はないことが理解される。哺乳類宿主細胞の例には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞およびサル腎(COS)細胞が含まれる。
【0051】
特定して、本明細書中で使用されているように、用語「細胞系」とは、インビトロにおいて継続してまたは長期間に増殖および分裂し得る細胞群のことである。しばしば、細胞系は1つの幹細胞(progenitor cell)からのクローン群である。このようなクローン群の貯蔵または転移の間に、核型に自発変化または誘導変化が起こり得ることが、当該分野では公知である。従って、いわゆる細胞系由来の細胞は、祖先細胞または培養物に正確には同一ではなく、この細胞系には、このような変異体が包含される。用語「細胞系」はまた、不死化細胞を包含する。好ましくは、細胞系は、非ハイブリッド細胞系、または二細胞型のハイブリドーマを包含する。
【0052】
本明細書中で使用されているように、用語「微生物」には、細菌および真菌のような、原核微生物種および真核微生物種が包含され、後者には、酵母および糸状菌が含まれる。
【0053】
本明細書中で使用されているように、「形質転換」とは、挿入に用いられる方法(例えば、直接取り込み、形質導入、f−交配またはエレクトロポーレーション)に関係なく、外因性ポリヌクレオチドの宿主細胞への挿入のことである。外因性ポリヌクレオチドは、非組込みベクター(例えばプラスミド)として維持され得るか、または、宿主細胞ゲノムに組み込まれ得る。
【0054】
ポリペプチドまたはヌクレオチド配列に関するときには、「精製された」および「単離された」とは、示された分子が、同じ型のその他の生物学的高分子を実質的に含まずに存在することを意味する。本明細書中で使用されているように、用語「精製された」は、好ましくは、同じ型の生物学的高分子が、少なくとも75重量%、さらに好ましくは少なくとも85重量%、さらに好ましくは95重量%、そして最も好ましくは98重量%で存在することを意味する(しかし、水、緩衝液、およびその他の小分子、特に、1000未満の分子量を有する分子は存在し得る)。
【0055】
(C.核酸アッセイ)
基本としてH.pyloriゲノムを使用して、約8ヌクレオチド以上のポリヌクレオチドプローブは、cDNAに加えて、RNAの正鎖またはその相補鎖にハイブリダイズするように調製され得る。これらのポリヌクレオチドは、ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの検出、単離および/または標識用のプローブとして、および/または標的配列の転写および/または複製用のプライマーとして働く。各プローブは標的するポリヌクレオチド配列を含有し、標的ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチドから構成される;その配列は、意図する目的に対して十分に安定性を有する二本鎖を形成するために、十分な長さからなり、その配列に相補的である。例えば、目的が、標的配列を含有する分析物を固定化により単離することであるときには、プローブは、単離条件下で分析物を固体表面上に固定するのに十分な二本鎖安定性をもたらすために、十分な長さからなる、標的される配列に相補的であるポリヌクレオチド領域を含有する。さらに例えば、標的配列の転写および/または複製用のプライマーとして働くときには、プローブは、複製を成し遂げるために、十分な長さからなる、標的される配列に相補的であるポリヌクレオチド領域を含有する。さらに例えば、ポリヌクレオチドプローブが、標識プローブとして用いられるか、またはマルチマーに結合されるときには、標的するポリヌクレオチド領域は、標識プローブおよび/またはマルチマーと安定なハイブリッド二本鎖構造を形成するのに、十分な長さからなり、相補的である。このプローブは、標的される配列に相補的である、最低約4つの連続したヌクレオチドを含有し得る;通常は、このオリゴマーは、標的される配列に相補的な最低約8つの連続したヌクレオチド、そして好ましくは標的される配列に相補的な最低約14個の連続したヌクレオチドを含有する。
【0056】
しかし、プローブは、標的される配列に相補的な配列のみからなる必要はない。それらは、さらなるヌクレオチド配列またはその他の部分を含有し得る。例えば、プローブがPCRによる配列の増幅のためのプライマーとして使用されるときには、それらは、二本鎖の場合には、増幅される配列のクローニングを促進する制限酵素部位を形成する配列を含有し得る。さらに例えば、プローブがハイブリダイゼーションアッセイでの「捕獲プローブ」として使用されるときには、それらは、上記定義のような「結合パートナー」にカップルされる。プローブの調製は、当該分野で公知の手段により、このような手段には、例えば、切り出し、転写、または化学合成を含む方法によることが含まれる。
【0057】
(D.発現系)
一旦、適切なH.pyloriコーディング配列が単離されると、それは種々の異なる発現系、例えば、哺乳類細胞、バキュロウイルス、細菌、および酵母により用いられる発現系、で発現され得る。
【0058】
(i.哺乳類系)
哺乳類発現系は当該分野で公知である。哺乳類プロモーターは、哺乳類RNAポリメラーゼを結合し得、コーディング配列(例えば、構造遺伝子)のmRNAへの下流(3’)転写を開始し得る、いずれものDNA配列である。プロモーターは、通常はコーディング配列の5’末端近傍に位置する転写開始領域、および、通常は転写開始部位の上流25−30塩基対(bp)に位置するTATAボックスを有する。TATAボックスは、RNAポリメラーゼIIがRNA合成を適切な部位で開始させるのを導くと考えられている。哺乳類プロモーターはさらに、通常はTATAボックスの上流100から200bp内に位置する上流プロモーターエレメントを有する。上流プロモーターエレメントは、転写が開始される速度を決定し、いずれかの向きに作用し得る(Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第二版
(1989))。
【0059】
哺乳類ウイルス遺伝子は、しばしば高度に発現され、広範囲の宿主を有する;従って、哺乳類ウイルス遺伝子をコードする配列は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例には、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP)、および単純ヘルペスウイルスプロモーターが含まれる。さらに、ネズミメタロチオネイン(metallotheionein)遺伝子のような非ウイルス遺伝子由来の配列もまた、有用なプロモーター配列を提供する。発現は、構成的または調節され得(誘導可能な)、プロモーターに依存して、ホルモン−応答細胞中でグルココルチコイドにより誘導され得る。
【0060】
上記のプロモーターエレメントに組み合わされたエンハンサーエレメント(エンハンサー)の存在は、通常は発現レベルを増大させる。エンハンサーは、相同または異種プロモーターに連結されたときに、通常のRNA開始部位で合成を開始して、最高1000倍まで転写を促進し得る調節DNA配列である。さらに、エンハンサーは、通常の向きまたは裏返しの向きで転写開始部位から上流または下流に、または、プロモーターから1000ヌクレオチドを超える位置に配置されるときに活性である(Maniatisら、Scince 236:1237(1989);Albertsら、Molecular Biology of
the Cell,第二版(1989))。ウイルス由来のエンハンサーエレメントは、通常は広範囲の宿主を有するので、特に有用である。例には、SV40初期遺伝子エンハンサー(Dijkemaら、(1985) EMBO J.
4:761)、および、ラウス肉腫ウイルスの長末端反復(LTR)由来(Gormanら、(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.79:6777)およびヒトサイトメガロウイルス由来(Boshartら、(1985)Cell 41:5221)のエンハンサー/プロモーターが含まれる。さらに、いくつかのエンハンサーは、調節可能であり、ホルモンまたは金属イオンのような誘導物質が存在するときのみに活性になる(Sassone−Corsiら、(1986)Trends Genet.2:215;Maniatisら、(1987)Science 236:1237)。
【0061】
DNA分子は、哺乳類細胞において細胞内に発現され得る。プロモータ配列はDNA分子に直接連結され得るが、この場合にはいつも、組換えタンパク質のN末端の最初のアミノ酸がメチオニンであり、ATG開始コドンによりコードされる。所望であれば、N末端は、インビトロにおける臭化シアンとのインキュベーションにより、タンパク質から切断され得る。
【0062】
あるいは、外来タンパク質はまた、哺乳類細胞で外来タンパク質の分泌をなすリーダー配列フラグメントを含む、融合タンパク質をコードするキメラDNA分子をつくることにより、細胞から増殖培地内に分泌され得る。好ましくは、リーダーフラグメントと外来遺伝子との間でコードされるプロセッシング部位が存在し、これは、インビボまたはインビトロのいずれかにおいて切断され得る。リーダー配列フラグメントは通常、細胞からのタンパク質の分泌を導く、疎水性アミノ酸から構成されるシグナルペプチドをコードする。アデノウイルス3分節系リーダーは、哺乳類細胞内での外来タンパク質の分泌を提供するリーダー配列の例である。
【0063】
一般には、哺乳類細胞により認識される転写終止およびポリアデニル化配列は、翻訳終止コドンに対し3’側に位置する調節領域であり、従って、プロモーターエレメントとともに、コーディング配列に隣接する。成熟mRNAの3’末端は、部位特異的に翻訳後に切断され、ポリアデニル化されて形成される(Birnstielら、(1985)Cell 41:349;ProudfootおよびWhitelaw(1988)「真核RNAの終結および3’末端プロセッシング(Termination and 3’ end processing of eukaryotic RNA)」Transcription and splicing(B.D.HamesおよびD.M.Glover編);Proudfoot(1989)Trends Biochem.Sci.14:105)。これらの配列は、DNAによりコードされるポリペプチドに翻訳され得るmRNAの転写を導く。転写ターミネーター/ポリアデニル化シグナルの例には、SV40由来のものが含まれる(Sambrookら(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual.)。
【0064】
いくつかの遺伝子は、イントロン(介在配列とも呼ばれる)が存在するときに、より効率よく発現され得る。しかし、数個のcDNAは、スプライシングシグナル(スプライス供与部位および受容部位とも呼ばれる)が欠如しているベクターから効率よく発現された(例えば、GethingおよびSambrook (1981)Nature 293:620を参照のこと)。イントロンは、スプライス供与部位および受容部位を有するコーディング配列内の介在非コーディング配列である。それらは、一次転写物のポリアデニル化の後に、「スプライシング」と呼ばれるプロセスにより除去される(Nevins(1983)Annu.Rev.Biochem.52:441;Green(1986)Annu.Rev.Genet.20:671;Padgettら、(1986)Annu.Rev.Biochem.55:1119;KrainerおよびManiatis(1988)「RNAスプライシング(RNA splicing)」,Transcription and splicing(B.D.HamesおよびD.M.Glover編))。
【0065】
通常、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およ転写終止配列を含有する上記の成分は、発現構築物中に組み立てられる。エンハンサー、機能性スプライス供与部位および受容部位を有するイントロン、およびリーダー配列もまた、所望であれば発現構築物中に含まれる。発現構築物は、哺乳類細胞または細菌のような宿主中で安定に維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中に維持される。哺乳類複製系には、複製にトランス作用因子が必要とされる動物ウイルス由来のものが含まれる。例えば、SV40のようなパポーバウイルス(Gluzman(1981)Cell 23:175)またはポリオーマウイルスの複製系を含むプラスミドが、適切なウイルスT抗原存在下で、非常に多数のコピーを複製する。哺乳類レプリコンのさらなる例には、ウシパピローマウイルスおよびエプスタイン・バーウイルス由来のものが含まれる。さらに、レプリコンは2つの複製系を有し得、このため、例えば、発現のために哺乳類細胞中に、およびクローニングおよび増幅のために原核生物宿主中に維持される。このような哺乳類−細菌シャトルベクターの例には、pMT2(Kaufmanら(1989)Mol.Cell.Biol.9:946)、およびpHEBO(Shimizuら(1986)Mol.Cell.Biol.6:1074)が含まれる。
【0066】
使用される形質転換方法は、形質転換されるべき宿主に依存する。異種ポリヌクレオチドの哺乳類細胞への導入方法は、当該分野で公知であり、デキストラン介在トランスフェクション、リン酸カルシウム沈降法、ポリブレン介在トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーションポリヌクレオチドのリポソーム内へのカプセル化、および、DNAの核への直接マイクロインジェクションを包含する。
【0067】
発現用の宿主として入手可能な哺乳類細胞系は、当該分野で公知であり、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌腫細胞(例えば、HepG2)および多くのその他の細胞系を含む、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞系を包含する。
【0068】
(ii.バキュロウイルス系)
タンパク質をコードするポリヌクレオチドもまた、適切な昆虫発現ベクターに挿入され得、ベクター内の制御エレメントに作動可能に連結される。ベクター構築には、当該分野で公知の方法が用いられる。
【0069】
一般的に、発現系の成分には転移ベクター、通常は細菌プラスミドが含まれ、これは、バキュロウイルスゲノムフラグメントと、発現されるべき異種の遺伝子または遺伝子群挿入のための便宜的な制限部位との両方;転移ベクター内のバキュロウイルス特異フラグメントに相同な配列を有する野生型バキュロウイルス(これは、バキュロウイルスゲノム内への異種遺伝子の相同的組換えを考慮する);および、適切な昆虫宿主細胞および増殖培地を含む。
【0070】
タンパク質をコードするDNA配列を転移ベクター内に挿入した後に、ベクターおよび野生型ウイルスゲノムが、昆虫宿主細胞内へトランスフェクトされ、そこでベクターとウイルスゲノムとの組換えが起こる。パッケージングされた組換えウイルスが発現され、組換えプラークが同定および精製される。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系用の材料および方法は、キット形態で、特に、Invitrogen,San Diego CA(”MaxBac”キット)から市販されている。これらの方法は当業者に公知であり、SummersおよびSmith, Texas Agricultural Experimennt Station Bulletin No.1555(1987)(以後、「SummersおよびSmith」)に十分に記載されている。
【0071】
タンパク質をコードするDNA配列をバキュロウイルスゲノムに挿入する前に、プロモーター、リーダー(所望であれば)、目的のコーディング配列、および転写終止配列を含む上記の成分が、通常は中間置換構築物(intermediate transplacement construct)(転移ベクター)に組み立てられる。この構築物は、1つの遺伝子および作動可能に連結された調節エレメント;各遺伝子がそれ自身の固有のセットの作動可能に連結された調節エレメントを有する複数の遺伝子;または、同じセットの調節エレメントに調節される複数の遺伝子、を含む。中間置換構築物はしばしば、細菌のような宿主中で安定して維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中に維持される。レプリコンは1つの複製系を有し、このため、クローニングおよび増幅のために適切な宿主中に維持される。
【0072】
現在では、AcNPVへ外来遺伝子を導入するための最も一般的に使用される転移ベクターは、pAc373である。当業者に公知のその他の多くのベクターもまた設計されている。これらは、例えば、pVL985(ポリヘドリン開始コドンをATGからATTに変え、ATT下流32塩基対にBamHIクローニング部位を導入する;LuckowおよびSummers,Virology(1989)17:31を参照)。
【0073】
プラスミドは通常さらに、ポリヘドロンポリアデニル化シグナル(Millerら(1988)Ann.Rev.Microbiol.,42:177)、および、選択およびE.coli中での増殖のための原核アンピシリン耐性(amp)遺伝子および複製起点を含有する。
【0074】
バキュロウイルス転移ベクターは通常、バキュロウイルスプロモーターを含有する。バキュロウイルスプロモーターは、バキュロウイルスRNAポリメラーゼを結合し得、そしてコーディング配列(例えば、構造遺伝子)のmRNAへの下流(5’から3’)翻訳を開始し得る、いずれものDNA配列である。プロモーターは、コーディング配列の5’末端近傍に通常位置する転写開始領域を有する。この転写開始領域は通常、RNAポリメラーゼ結合部位および転写開始部位を含有する。バキュロウイスル転移ベクターもまた、エンハンサーと呼ばれる第二ドメインを有し、これは存在する場合には、構造遺伝子の遠位に存在する。発現は調節され得るか、または構成的であり得る。
【0075】
ウイルス感染サイクルの後期に多量に転写された構造遺伝子は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例には、ウイルスポリヘドロンタンパク質をコードする遺伝子由来の配列(Friesenら、(1986)「バキュロウイルス遺伝子発現の調節(The Regulation of Baculovirus Gene Expression)」,The Molecular Biology of Baculoviruses(Walter Doerfler編);EPO公開No.127 839およびNo.155 476);および、p10タンパク質をコードする遺伝子(Vlakら、(1988),J.Gen.Virol.69:765)が含まれる。
【0076】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、バキュロウイルスポリヘドリン遺伝子のような、昆虫またはバキュロウイルス分泌タンパク質の遺伝子由来であり得る(Carbonellら(1988)Gene,73:409)。あるいは、哺乳類細胞の翻訳後の改変(シグナルペプチド切断、タンパク質分解切断、およびリン酸化のような)のためのシグナルは、昆虫細胞により認識されると考えられており、そして分泌に必要なシグナルおよび核集積は、無脊椎動物および脊椎動物間で保存されているとも考えられているので、ヒトα−インターフェロン(Maedaら、(1985),Nature 315:592);ヒトガストリン放出ペプチド(Lebacq−Verheydenら、(1988),Molec.Cell.Biol.8:3129);ヒトIL−2(Smithら、(1985)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,82:8404);マウス IL−3,(Miyajimaら、(1987)Gene 58:273;ヒトグルコセレブロシダーゼ(Martinら(1988)DNA 7:99)をコードする遺伝子由来のような、非昆虫起源のリーダーもまた、昆虫での分泌を提供するために使用され得る。
【0077】
組換えポリペプチドまたはポリタンパク質は、細胞内に発現され得るか、または、適切な調節配列で発現されれば分泌され得る。非融合外来タンパク質の良好な細胞内発現は通常、ATG開始シグナルの前に適切な翻訳開始シグナルを含有する短いリーダー配列を理想的に有する異種遺伝子を必要とする。所望であれば、N末端のメチオニンは、インビトロにおける臭化シアンとのインキュベーションにより、成熟タンパク質から切断され得る。
【0078】
あるいは、天然では分泌されない組換えポリタンパク質またはタンパク質は、昆虫において外来タンパク質の分泌を提供するリーダー配列フラグメントを有する融合タンパク質をコードするキメラDNA分子をつくることにより、昆虫細胞から分泌され得る。リーダー配列フラグメントは通常、小胞体へのタンパク質の輸送(translocation)を導く、疎水性アミノ酸を有するシグナルペプチドをコードする。
【0079】
タンパク質の発現産物の前駆体をコードするDNA配列および/または遺伝子の挿入後に、昆虫細胞宿主を、転移ベクターの異種DNAと野生型バキュロウイルスのゲノムDNAとで共形質転換(通常は共トランスフェクション)する。構築物のプロモーターおよび転写終止配列は、通常バキュロウイルスゲノムの2−5kb断片を含有する。バキュロウイルスの所望の部位に異種DNAを導入する方法は、当該分野で公知である。(SummersおよびSmith;Juら(1987);Smithら、Mol.Cell.Biol.(1983)3:2156;および、LuckowおよびSummers(1989)を参照のこと)。例えば、挿入は、ポリヘドリン遺伝子のような遺伝子に、相同的二本鎖交差組換えによりなされ得る;挿入はまた、所望のバキュロウイルス遺伝子中に設計された制限酵素部位になされ得る。Millerら、(1989),Bioessays 4:91。
【0080】
DNA配列は、発現ベクターのポリヘドリン遺伝子の位置にクローニングされたときには、ポリヘドリン特異配列により、5’および3’両側に隣接され、ポリヘドリンプロモーターの下流に配置される。
【0081】
新たに形成されたバキュロウイルス発現ベクターは、次に、感染性組換えバキュロウイルス中にパッケージングされる。相同的組換えは低頻度(約1%から約5%の間)で生じるため、共トランスフェクション後に産生された主要なウイルスは、まだ野生型である。従って、組換えウイルスを同定する方法が必要である。発現系の利点は、視覚スクリーニングにより、組換えウイルスの区別が可能であることである。天然ウイルスにより産生されるポリヘドリンタンパク質は、ウイルス感染後、後期に感染細胞の核に非常に高レベルで産生される。集積されたポリヘドリンタンパク質は、埋め込まれた粒子をも含む封入体を形成する。これらの封入体は、15μmまでの大きさであり、非常に屈折性であるために、光学顕微鏡下で容易に視覚化される光沢のある外観となる。組換えウイルスに感染した細胞には、封入体がない。野生型ウイルスから組換えウイルスを区別するには、トランスフェクション上清を、当業者に公知の方法により、単層の昆虫細胞上でプラーク形成させる。すなわち、プラークを光学顕微鏡下で、封入体の存在(野生型ウイルスの指標)または非存在(組換えウイルスの指標)についてスクリーニングする。”Current Protocols in Microbiology” Vol.2(Ausubelら編)16.8(Supp. 10, 1990);SummersおよびSmith;Millerら(1989)。
【0082】
組換えバキュロウイルス発現ベクターは、数種の昆虫細胞への感染のために開発されている。例えば、組換えバキュロウイルは、とりわけ、Aedes aegypti、Autographa californica、Bombyx mori、Drosophila melanogaster、Spodoptera frugiperda、およびTrichoplusia niのために開発されている(PCT公開No.WO89/046699;Carbonellら、(1985)J.Virol.56:153;Wright(1986)Nature 321:718;Smithら、(1983)Mol.Cell.Biol.3:2156;および一般的にはFraserら(1989)In Vitro Cell.Dev.Biol.25:225を参照のこと)。
【0083】
細胞および細胞培養培地は、バキュロウイルス/発現系での異種ポリペプチドの直接発現および融合発現市販されている;細胞培養法は、一般に当業者に公知である。例えば、SummersおよびSmithを参照のこと。
【0084】
次に、改変昆虫細胞は、適切な栄養培地で増殖され得る。この栄養培地により、改変昆虫宿主内に存在するプラスミドは安定に維持され得る。発現産物遺伝子が誘導制御下にある場合には、宿主は高密度に増殖され得、発現が誘導され得る。あるいは、発現が構成的である場合には、産物は培地に連続的に発現される。目的の産物を取り出し、枯渇した栄養分を補給しながら、栄養培地を連続的に取り替えねばならない。産物は、例えば、HPLC、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー;電気泳動;密度勾配遠心分離;溶媒抽出などの方法で精製され得る。適切には、培地に分泌されるかまたは昆虫細胞溶解から生じるいずれもの昆虫タンパク質を実質的に除去するために、宿主の破片(例えば、タンパク質、脂質および多糖類)を少なくとも実質的に含まない産物を提供するために、必要であれば産物はさらに精製され得る。
【0085】
タンパク質発現を得るために、形質転換体由来の組換え宿主細胞は、配列をコードする組換えタンパク質の発現を可能にする条件下でインキュベートされる。これらの条件は、選択される宿主細胞に依存して変化する。しかし、条件は、当該分野で公知のものに基づいて、当業者に容易に確認され得る。
【0086】
(iii.細菌系)
細菌発現法は当該分野で公知である。細菌プロモーターは、細菌RNAポリメラーゼに結合し得、コーディング配列(例えば、構造遺伝子)のmRNAへの下流(3’’)転写を開始し得るいずれものDNA配列である。プロモーターは、通常コーディング配列の5’末端近傍に位置する転写開始領域を有する。この転写開始領域は通常、RNAポリメラーゼ結合部位および転写開始部位を含む。細菌プロモーターはまた、オペレーターと呼ばれる第二ドメインを有し得、これは、RNA合成を開始する位置である隣接RNAポリメラーゼ結合部位に重複し得る。遺伝子リプレッサータンパク質はオペレターに結合し得、そのことにより特異遺伝子の転写を阻害し得るので、オペレーターは、負の調節(誘導可能な)転写を行い得る。構成的発現は、オペレーターのような負の調節エレメントの非存在下で起こり得る。さらに、正の調節は、遺伝子活性化タンパク質結合配列により達成され得、これは、存在する場合には、通常RNAポリメラーゼ結合配列(5’)の近くに存在する。遺伝子活性化タンパク質の例は、カタボライト活性化タンパク質(CAP)であり、これは、E.coliでのlacオペロンの転写開始を助ける(Raibaudら(1984)Annu.Rev.Genet.18:173)。従って、調節的発現は正または負のいずれかであり得、そのことにより転写を促進または減退する。
【0087】
代謝経路の酵素をコードする配列は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例には、ガラクトース、ラクトース(lac)(Changら(1977)Nature 198:1056)、およびマルトースのような糖代謝酵素由来のプロモーター配列が含まれる。さらなる例には、トリプトファン(trp)のような生合成酵素由来のプロモーター配列が含まれる(Goeddelら(1980)Nuc.Acids Res.8:4057;Yelvertonら(1981)Nucl.Acids Res.9:731;米国特許第4,738,921号;EPO公開No.036776およびNo.121775)。g−ラオタマーゼ(g−laotamase)(bla)プロモーター系(Weissmann(1981)「インターフェロンのクローニングおよびその他のmistakes(The cloning of interferon and other mistakes)」 Interferon 3(I.Gresser編)、バクテリオファージλPL(Shimatakeら(1981)Nature 292:128)、およびT5(米国特許第4,689,406号)プロモーター系もまた、有用なプロモーター配列を提供する。
【0088】
さらに、天然に存在しない合成プロモーターもまた細菌プロモーターとして機能する。例えば、1つの細菌またはバクテリオファージプロモーターの転写活性化配列は、その他の細菌またはバクテリオファージプロモーターのオペロン配列に接続され得て、合成雑種プロモーターをつくる(米国特許第4,551,433号)。例えば、tacプロモーターは、lacリプレッサーにより調節される、trpプロモーターおよびlacオペロン両配列を含有する雑種trp−lacプロモーターである(Amannら(1983)Gene 25:167;de Boerら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.80:21)。さらに、細菌プロモーターは、細菌RNAポリメラーゼに結合し、転写を開始する能力を有する、非細菌起源の天然に存在するプロモーターを含み得る。非細菌起源の天然に存在するプロモーターはまた、適合するRNAポリメラーゼと結合して原核生物中である種の遺伝子を高レベルで発現し得る。バクテリオファージT7 RNAポリメラーゼ/プロモーター系は、結合されたプロモーター系の例である(Studierら(1986)J.Mol.Biol.189:113;Taborら(1985)Proc Natl.Acad.Sci.82:1074)。さらに、雑種プロモーターもまた、バクテリオファージプロモーターおよびE.coliオペレーター領域を含有し得る(EPO公開No.267851)。
【0089】
機能プロモーター配列に加えて、能率のよいリボソーム結合部位もまた、原核生物での外来遺伝子の発現に有用である。E.coliでは、リボソーム結合部位はシャイン・ダルガーノ(SD)配列と呼ばれ、開始コドン(ATG)および開始コドンの3−11ヌクレオチド上流に位置する3−9ヌクレオチドの長さの配列を含む(Shineら(1975)Nature 254:34)。SD配列は、SD配列とE.coli 16S rRNAの3’末端(3’ and)との間で塩基対合してmRNAのリボソームへの結合を促進すると考えられている(Steitzら(1979)「メッセンジャーRNAにおける遺伝シグナルおよびヌクレオチド配列(Genetic signals and nucleotide sequences in messenger RNA)」,
Biological Regulation and Development:Gene Expression(R.F.Goldberger編))。弱リボソーム結合部位を有する原核遺伝子および真核遺伝子を発現するために、(Sambrookら(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual)。
【0090】
DNA分子は細胞内に発現され得る。プロモーター配列は、直接DNA分子に連結され得、その場合、N末端の最初のアミノ酸はメチオニンであり、これはATG開始コドンによりコードされる。必要であれば、N末端のメチオニンは、インビトロにおける臭化シアンとのインキュベーション、または細菌メチオニンN末端ペプチダーゼとのインビボまたはインビトロインキュベーションにより、タンパク質から切断され得る(EPO公開No.219237)。
【0091】
融合タンパク質は、直接発現の代替を提供する。通常は、内因性細菌タンパク質またはその他の安定なタンパク質のN末端部分をコードするDNA配列が、異種コーディング配列の5’末端に融合される。発現に際し、この構築物は、2つのアミノ酸配列の融合を提供する。例えば、バクテリオファージλ細胞遺伝子が外来遺伝子の5’末端で連結され得、細菌内で発現され得る。得られた融合タンパク質は、好ましくは、外来遺伝子からバクテリオファージタンパク質を切断するためのプロセッシング酵素(因子Xa)に対する部位を保持している(Nagaiら(1984)Nature 309:810)。融合タンパク質はまたlacZ由来の配列を用いて生成され得る(Jiaら(1987)Gene 60:197,trpE,Allenら(1987)J.Biotechnol. 5:93;Makoffら(1989)J.Gen.Microbiol.135:11、およびEPO公開No.324647,genes)。2つのアミノ酸配列を接続したDNA配列は、切断部位をコードし得るか、またはコードし得ない。その他の例は、ユビキチン融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、好ましくは、外来遺伝子からユビキチンを切断するためのプロセッシング酵素(例えば、ユビキチン特異プロセッシングプロテアーゼ)に対する部位を保持しているユビキチン領域を用いて生成される。この方法によって、そのままの外来タンパク質が単離され得る(Millerら(1989)Bio/Technology 7:698)。
【0092】
あるいは、外来タンパク質はまた、細菌で外来タンパク質分泌を提供するシグナルペプチド配列フラグメントを含有する融合タンパク質をコードするキメラDNA分子をつくることにより、細胞から分泌され得る(米国特許第4,336,336号)。シグナル配列フラグメントは通常、細胞からのタンパク質分泌を導く疎水性アミノ酸を含有するシグナルペプチドをコードする。タンパク質は、増殖培地(グラム陽性細菌)、または、細胞の内膜と外膜との間に位置する細胞周辺腔(グラム陰性細菌)のいずれかに分泌される。好ましくは、シグナルペプチドフラグメントと外来遺伝子との間でコードされるプロセッシング部位が存在し、これはインビボまたはインビトロにおいて切断され得る。
【0093】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、E.coli外膜タンパク質遺伝子(ompA)(Masuiら(1983),Experimental Manipulation of Gene Expression;Ghrayebら(1984)EMBO J.3:2437)およびE.coliアルカリホスファターゼシグナル配列(phoA),(Okaら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.82:7212)のような、分泌される細菌タンパク質の遺伝子由来であり得る。さらなる例として、種々のBacillus株由来のαーアミラーゼ遺伝子のシグナル配列は、B.subtilisから異種タンパク質を分泌するために使用され得る(Palvaら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:5582;EPO公開No.244042)。
【0094】
通常、細菌により認識される転写終止配列は、翻訳終止コドンに対して3’側に位置する調節領域であり、従って、プロモーターとともにコーディング配列に隣接する。これらの配列は、DNAにコードされるポリペプチドに翻訳され得るmRNAの転写を導く。転写終止配列はしばしば、転写終止の助けとなるステムループ構造を形成し得る、約50ヌクレオチドのDNA配列を含む。例には、E.coliのtrp遺伝子およびその他の生合成遺伝子のような、強プロモーターを伴った遺伝子由来の転写終止配列が含まれる。
【0095】
通常、プロモーター、シグナル配列(所望であれば)、目的のコーディング配列、および転写終止配列を含む上記の成分は、発現構築物中に組み立てられる。発現構築物は、細菌のような宿主に安定して維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中に維持される。レプリコンは、1つの複製系を有し、このため、発現、またはクローニングおよび増幅のいずれかのために原核宿主中に維持される。さらに、レプリコンは、高コピー数または低コピー数のプラスミドであり得る。高コピー数のプラスミドは、一般的に、約5から約200、そして通常約10から約150、の範囲のコピー数を有する。高コピー数のプラスミドを含有する宿主は、好ましくは少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約20のプラスミドを含有する。高コピー数または低コピー数のいずれかのベクターが、宿主でのベクターの効果および外来タンパク質に依存して選択され得る。
【0096】
あるいは、発現構築物は、組込みベクターを用いて細菌ゲノムに組み込まれ得る。組込みベクターは通常、ベクターの組込みを可能にする細菌染色体に相同な少なくとも1つの配列を含有する。組込みは、ベクター中の相同DNAと細菌染色体と間の組換えによると考えられる。例えば、種々のBacillus株由来のDNAで構築された組込みベクターは、Bacillus染色体に組み込む(EPO公開No.127328)。組込みベクターはまた、バクテリオファージまたはトランスポゾン配列を含有し得る。
【0097】
通常、染色体外および組込み発現構築物は、形質転換された細菌株の選択を可能にする選択マーカーを含有し得る。選択マーカーは、細菌宿主中で発現され得、アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、カナマイシン(ネオマイシン)およびテトラサイクリンのような薬剤に対して細菌を耐性にする遺伝子を含有し得る。(Daviesら、(1978)Annu.Rev.Microbiol.32:469)。選択マーカーはまた、ヒスチジン、トリプトファン、およびロイシンの生合成経路でのような、生合成遺伝子を含み得る。
【0098】
あるいは、上記成分のいくつかは、形質転換ベクター中に組み立てられ得る。形質転換ベクターは通常、レプリコン中に維持されるかまたは組込みベクターに組み込まれる選択マーカーを含有する。
【0099】
染色体外レプリコンまたは組込みベクターである、発現および形質転換ベクターは、多くの細菌への形質転換のために開発されている。例えば、発現ベクターは、特に以下の細菌のために開発されている:Bacillus subtilis,Palvら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA
79:5582;EPO公開No.036259およびNo.063953;PCT公開No.Wo84/04541;E.coli,Shimatakeら(1981)Nature 292:128;Amannら(1985)Gene 40:183;Studierら(1986)J.Mol.Biol.189:113;EPO公開No.036776,No.136829およびNo.136907;Streptococcus cremoris,Powellら(1988)Appl.Environ.Microbiol.54:655;Streptococcus lividans,Powellら(1988)Appl.Environ.Microbiol.54:655;およびStreptomyces lividans、米国特許第4,745,056号。
【0100】
外因性DNAの細菌宿主への導入方法は当該分野で公知であり、CaCl2、または、二価カチオンおよびDMS0のようなその他の試薬で処理された細菌の形質転換を包含する。DNAはまた、エレクトロポーレーションにより細菌細胞中に導入され得る。形質転換の方法は、通常形質転換されるべき細菌種により変化する。Massonら(1989)FEMS Microbiol.Lett. 60:273;Palvaら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:5582;EPO公開No.036259およびNo.063953;PCT公開No.WO84/04541、Bacillusに関する;Millerら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.85:856;Wangら(1990)J.Bacteriol.172:949、Campylobacterに関する;Cohenら(1973)Proc.Natl.Acad.Sci.69:2110;Dowerら(1988)Nucleic Acids Res.16:6127;Kushner(1978)「ColE1由来プラスミドによるE.coli形質転換のための改良法(An improved method for transformation
of E.coli with ColE1−derived plasmids)」, Genetic Engineering:Proceedings of the International Symposium on Genetic Engineering(H.W.BoyerおよびS.Nicosia編);Mandelら(1970)J.Mol.Biol.53:159;Taketo(1988)Biochim.Biophys.Acta 949:318、Escherichiaに関する;Chassyら(1987)FEMS Microbiol.Lett.44:173、Lactobacillusに関する;Fiedlerら(1988)Anal.Biochem
170:38、Pseudomonasに関する;Augustinら(1990) FEMS Microbiol.Lett.66:203、Staphylococcusに関する;Baranyら(1980)J.Bacteriol. 144:698;Harlander(1987)「エレクトロポーレーションによるStreptococcus lactisの形質転換(Transfomation of Streptococcus lactis by electroporation)」,Streptococcal Genetics (J.FerrettiおよびR.Curtiss III編);Perryら(1981)Infec.Immun.32:1295;Powellら(1988)Appl.Environ.Microbiol.54:655;Somkutiら(1987)Proc.4th Evr.Cong.Biotechnolory 1:412、Streptococcusに関する、を参照のこと。
【0101】
(iv.酵母発現)
酵母発現系もまた当業者に公知である。酵母プロモーターは、酵母RNAポリメラーゼに結合し得、コーディング配列(例えば、構造遺伝子)のmRNAへの下流(3’)転写を開始し得る、いずれものDNA配列である。プロモーターは、コーディング配列の5’末端近傍に通常位置する転写開始領域を有する。この転写開始領域は通常、RNAポリメラーゼ結合部位(「TATAボックス」)および転写開始部位を含む。酵母プロモーターはさらに、上流活性化配列(UAS)と呼ばれる第二ドメインを有し得、これは、存在する場合には通常構造遺伝子の遠位に存在する。UASにより、調節(誘導可能な)発現が行われる。構成的発現は、UASの非存在下で起こる。調節的発現は正または負のいずれかであり得、そのことにより転写を促進または減退する。
【0102】
酵母は、活性代謝経路を有する発酵微生物であり、従って、代謝経路の酵素をコードする配列は特に有用なプロモーター配列を提供する。例には、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)(EPO公開No.284044)、エノラーゼ、グルコキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸−デヒドロゲナーゼ(GAPまたはGAPDH)、ヘキソキナーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、およびピルビン酸キナーゼ(PyK)(EPO公開No.329203)が包含される。酸性ホスファターゼをコードする酵母PHO5遺伝子もまた、有用なプロモーター配列を提供する(Myanoharaら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:1)。
【0103】
さらに、天然に存在しない合成プロモーターもまた、酵母プロモーターとして機能する。例えば、1つの酵母プロモーターのUAS配列は、別の酵母プロモーターの転写活性化領域に接続され得、合成雑種プロモーターがつくられ得る。このような雑種プロモーターの例には、GAP転写活性化領域に連結されたADH調節配列が含まれる(米国特許第4,876,197号および米国特許第4,880,734号)。雑種プロモーターのその他の例には、GAPまたはPyKのような解糖酵素遺伝子の転写活性化領域に組み合わされた、ADH2、GAL4、GAL10、またはPHO5遺伝子のいずれかの調節配列からなるプロモーターが含まれる(EPO公開No.164556)。さらに、酵母プロモーターには、酵母RNAポリメラーゼに結合し、転写を開始する能力を有する、非酵母起源の天然に存在するプロモーターが含まれ得る。このようなプロモーターの例には、特に、Cohenら(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:1078;Henikoffら(1981)Nature 283:835;Hollenbergら(1981)Curr.Topics Microbiol.Immunol.96:119;Hollenbergら(1979)「酵母Saccharomyces cerevisiaeでの細菌抗生物質耐性遺伝子の発現(The Expresion of Bacterial Antibioic Resistance Genes in the Yeast Saccharomyces cerevisiae)」:Plasmids of Medical,Environmental and
Commercial Importance (K.N.TimmisおよびA.Puhler編);Mercerau−Puigalonら(1980)Gene 11:163;Panthierら(1980)Curr.Genet.2:109が、含まれる。
【0104】
DNA分子は酵母において細胞内に発現され得る。プロモーター配列は、DNA分子に直接に連結され得、その場合には、組換えタンパク質のN末端の最初のアミノ酸はいつもメチオニンであり、これはATG開始コドンによりコードされる。所望であれば、N末端メチオニンは、インビトロにおける臭化シアンとのインキュベーションにより、タンパク質から切断され得る。
【0105】
融合タンパク質は、哺乳類、バキュロウイルス、および細菌発現系と同様に、酵母発現系の代替を提供する。通常、内因性酵母タンパク質またはその他の安定なタンパク質のN末端部分をコードするDNA配列が、異種コーディング配列の5’に融合される。発現に際し、この構築物は、2つアミノ酸配列の融合を提供する。例えば、酵母またはヒトのスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)遺伝子が、外来遺伝子の5’末端で連結され得、酵母で発現され得る。2つのアミノ酸配列の接続部位DNA配列は、切断部位をコードし得るか、またはコードし得ない。例えば、EPO公開No.196056を参照のこと。その他の例は、ユビキチン融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、好ましくは、外来タンパク質からユビキチンを切断するためのプロセッシング酵素(例えば、ユビキチン特異プロセッシングプロテアーゼ)に対する部位を保持しているユビキチン領域でつくられる。従って、この方法によってそのままの外来タンパク質が単離され得る(例えば、PCT公開No.WO88/024066を参照のこと)。
【0106】
あるいは、外来タンパク質はまた、酵母での外来タンパク質の分泌を提供するリーダー配列フラグメントを含有する融合タンパク質をコードする、キメラDNA分子をつくることにより、細胞から増殖培地に分泌され得る。好ましくは、リーダーフラグメントと外来遺伝子との間でコードされるプロセッシング部位が存在し、インビボまたはインビトロのいずれかで切断され得る。リーダー配列フラグメントは通常、細胞からのタンパク質の分泌を導く疎水性アミノ酸を含有するシグナルペプチドをコードする。
【0107】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、酵母インベルターゼ遺伝子(EPO公開No.012873;JPO公開No.62,096,086)およびA因子遺伝子(米国特許第4,588,684号)のような、分泌酵母タンパク質の遺伝子に由来し得る。あるいは、インターフェロンリーダーのような、非酵母起源のリーダーが存在し、これもまた酵母での分泌を提供する(EPO公開No.060057)。
【0108】
分泌リーダーの好ましいクラスには、酵母α因子遺伝子のフラグメントを用いるリーダーがあり、これは「pre」シグナル配列および「pro」領域の両方を含有する。用いられ得るα因子フラグメントの型には、全長pre−pro α因子リーダー(約83アミノ酸残基)および切断型α因子リーダー(通常約25から約50アミノ酸残基)が含まれる(米国特許第4,546,083号および米国特許第4,870,008号;EPO公開No.324274)。分泌を提供するα因子リーダーフラグメントを用いる別のリーダーには、第一酵母のpre配列でつくられたハイブリッドα因子リーダーが含まれるが、第二酵母のα因子のpro領域は含まれない。(例えば、PCT公開No.WO89/02463を参照のこと)。
【0109】
通常、酵母により認識される転写終止配列は、翻訳終止コドンに対して3’側に位置する調節領域であり、従って、プロモーターとともにコーディング領域に隣接する。これらの配列は、DNAによりコードされるポリペプチドに翻訳され得るmRNAの転写を導く。転写終止配列およびその他の酵母認識終止配列の例は、解糖酵素をコードする配列などである。
【0110】
通常、プロモーター、リーダー(所望であれば)、目的のコーディング配列、および転写終止配列を含む上記の成分は、発現構築物中に組み立てられる。発現構築物はしばしば、酵母または細菌のような宿主中に安定して維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中に維持される。レプリコンは2つの複製系を有し得、このため、例えば、発現のために酵母中に、およびクローニングおよび増幅のために原核宿主中に維持される。このような酵母−細菌シャトルベクターの例には、YEp24(Botsteinら(1979)Gene 8:17−24);pCl/1(Brakeら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci USA 81:4642−4646);およびYRp17(Stinchcombら(1982)J.Mol.Biol.158:157)が含まれる。さらに、レプリコンは、高コピー数または低コピー数のプラスミドであり得る。高コピー数のプラスミドは一般に、約5から約200の範囲のコピー数を有し、通常約10から約150のコピー数を有する。高コピー数のプラスミドを含有する宿主は、好ましくは少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約20を有する。高コピー数または低コピー数のベクターは、宿主におけるベクターおよび外来タンパク質の効果に依存して選択され得る。
【0111】
あるいは、発現構築物は、組込みベクターを用いて酵母ゲノムに組み込まれ得る。組込みベクターは通常、ベクターの組込みを可能にする、酵母染色体に相同な少なくとも1つの配列を含有し、好ましくは、発現構築物に隣接する2つの相同な配列を含有する。組込みは、ベクター中の相同DNAと酵母染色体との組換えによると考えられる(Orr−Weaverら(1983)Methods in Enzymol.101:228−245)。組込みベクターは、ベクター中への封入に適切な相同配列を選択することにより、酵母の特異的な座に導かれ得る。1つ以上の発現構築物が組み込まれ得、おそらく産生される組換えタンパク質レベルに影響し得る(Rineら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:6750)。ベクターに含まれる染色体配列は、ベクター中の1つのセグメントとして存在して、完全ベクターの組込みになり得るか、または、染色体中の隣接セグメントに相同で、ベクター中で発現構築物に隣接する2つのセグメントとして存在して、発現構築物のみの安定な組込みになり得る。
【0112】
通常は、染色体外および組込み発現構築物は、形質転換された酵母株の選択を可能にする選択マーカーを含有し得る。選択マーカーは、ADE2、HIS4、LEU2、TRP1、およびALG7のような、酵母宿主で発現され得る生合成遺伝子、および、ツニカマイシンおよびG418のそれぞれに対する酵母細胞において耐性を与えるG418耐性遺伝子を含み得る。さらに、適切な選択マーカーはまた、金属のような毒素成分の存在下で増殖する能力を有する酵母を提供し得る。例えば、CUP1の存在は、銅イオンの存在下での酵母の増殖を可能にする(Buttら(1987)Microbiol,Rev. 51:351)。
【0113】
あるいは、上記成分のいくつかは、形質転換ベクター中に組み立てれられ得る。形質転換ベクターは通常、レプリコン中に維持されるかまたは組込みベクターに組み込まれる選択マーカーを含有する。
【0114】
染色体外レプリコンまたは組込みベクターである、発現および形質転換ベクターは、多くの酵母の形質転換のために開発されている。例えば、発現ベクターは、特に以下の酵母のために開発されている:Candida albicans(Kurtzら(1986)Mol.Cell.Biol. 6:142);Candida maltosa(Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol. 25:141);Hansenula polymorpha(Gleesonら(1986)J.Gen.Microbiol 132:3459;Roggenkampら(1986)Mol.Gen.Genet.202:302);Kluyveromyces fragilis(Dasら(1984)J.Bacteriol.158:1165);Kluyveromyces lactis(De Louvencourtら(1983)J.Bacteriol.154:737;Van den Bergら(1990)Bio/Technology 8:135);Pichia guillerimondii(Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141);Pichia pastoris(Creggら(1985)Mol.Cell.Biol.5:3376;米国特許第4,837.148号および米国特許第4,929,555号);Saccharomyces cerevisiae(Hinnenら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:1929;Itoら(1983)J.Bacteriol.153:163);Schizosaccharomyces pombe(Beachら(1981)Nature 300:706);および、Yarrowia lipolytica(Davidowら(1985)Curr.Genet.10:380471 Gaillardinら(1985)Curr.Genet.10:49)。
【0115】
外因性DNAの酵母宿主への導入方法は、当該分野では公知であり、通常は、スフェロプラストまたは完全酵母細胞をアルカリカチオンで処理する形質転換を包含する。形質転換方法は通常、形質転換される酵母種により変化する。例えば、Kurtzら(1986)Mol.Cell.Biol.6:142;Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141、Candidaに関する;Gleesonら(1986)J.Gen.Microbioy.132:3459;Roggenkampら(1986)Mol.Gen.Genet.202:302、Hansenulaに関する;Dasら(1984)J.bioteriol.58:1165;De Louvencourtら(1983)J.Bacteriol.154:1165;Van den Bergら(1990)Bio/Technology 8:135、Kluyveromycesに関する;Creggら(1985)Mol.Cell.Biol.5:3376;Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141;米国特許第4,837,148号および米国特許第4,929,555号、Pichiaに関する;Hinnenら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75;1929;Itoら(1983)J.Bacteriol.153:163、Saccharomycesに関する;Beachら(1981)Nature 300:706、Schizosaccharomycesに関する;Davidowら(1985)Curr.Genet.10:39;Gaillardinら(1985)Curr.Genet.10:49、Yarrowiaに関する;参照のこと。
【0116】
(E.ワクチン)
本明細書中で考察されている各H.pyloriタンパク質は、単一ワクチン候補物として、または1つ以上のその他の抗原との組み合わせで使用され得、後者はH.pyloriまたはその他の病原のいずれかに由来する。好ましくは「カクテル」ワクチンであり、例えば、細胞毒素(CT)抗原、CAIタンパク質、およびウレアーゼを含有する。さらに、hspが、これらの成分の1つ以上に対して加えられ得る。これらのワクチンは、予防剤(感染を予防するため)または治療剤(感染後に疾患を治療するため)のいずれかであり得る。
【0117】
このようなワクチンは、H.pylori抗原または抗原類を、通常は「薬学的に受容可能なキャリア」との組合せで含有し、このキャリアは、この組成物が与えられる個体に対して有害な抗体の産生をそれ自身が誘導しないいずれものキャリアを含む。適切なキャリアは、典型的には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、脂質凝集体(例えば、油滴またはリポソーム)、および不活性ウイルス粒子のような、大きくて徐々に代謝される高分子である。このようなキャリアは、当業者に周知である。さらに、これらのキャリアは、免疫刺激剤(「アジュバント」)として機能し得る。さらに、抗原は、ジフテリア、破傷風、コレラ、H.pyloriなどの病原体のような細菌トキソイドにコンジュゲートされ得る。
【0118】
組成物の効果を増強させる好ましいアジュバントには、以下が包含されるが、これらに限定されない:(1)アルミニウム塩(alum)(水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなど);(2)水中油型エマルジョン製剤〔ムラミルペプチド(下記を参照)のようなその他の特異免疫刺激剤または細菌細胞壁成分を伴うまたは伴わない〕、例えば、(a)MF59(PCT公開No.WO90/14837):5%スクワレン、0.5%Tween 80、および0.5%Span 85〔必須ではないが必要に応じて、種々の量のMTP−PE(下記を参照)を含有する〕を含有して、110Y型マイクロフルイダイザー(Microfluidics,Newton,MA)のようなマイクロフルイダイザーを使用して、サブミクロン粒子に処方される;(b)SAF:10%スクワレン、0.4%Tween 80、5%プルロニック(pluronic)−ブロックポリマーL121、およびthr−MDP(下記を参照)を含有し、マイクロフルイダイザーにかけてサブミクロン粒子エマルジョンにされるか、ボルテックスにかけてより大きな粒子サイズのエマルジョンを生成する;および、(c)RibiTMアジュバント系(RAS)(Ribi Immunochem,Hamilton,MT):2%スクワレン、0.2%Tween
80、および、1つ以上の細菌細胞壁成分(モノホスホリルリピド(monophosphorylipid) A(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)よりなる群にから選ばれる、好ましくはMPL+CWS(DetoxTM)を含有する;(3)サポニンアジュバント(例えばStimulonTM(Cambridge Bioscience,Worcester,MA))が使用され得るか、または、ISCOM(免疫刺激複合体)のような、それらからつくられた粒子;(4)完全フロイントアジュバント(CFA)および不完全フロイントアジュバント(IFA);(5)サイトカイン(例えば、インターロイキン(IL−1、IL−2など)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)など);および、(6)組成物の効果を増強するための免疫刺激剤として作用するその他の物質。AlumおよびMF59が好ましい。
【0119】
上記のように、ムラミルペプチドには、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ(huydroxyphosphoryloxy))−エチルアミン(MTP−PE)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0120】
免疫原性組成物(例えば、抗原、薬学的に受容可能なキャリア、およびアジュバント)は典型的に、水、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどのような希釈剤を含有する。さらに、湿潤または乳化剤、pH緩衝物質などのような補助物質が、このような賦形剤中に存在し得る。
【0121】
典型的には、免疫原性組成物は、溶液または懸濁液のいずれかとして注射用に調製される;注射の前に液体賦形剤に溶解または懸濁するのに適切な固形もまた、調製され得る。薬学的に受容可能なキャリアについて上記で考察したように、調製物は、アジュバント効果を増強するために、エマルジョンにされるか、またはリポソームにカプセル化され得る。
【0122】
ワクチンとして使用される免疫原性組成物は、免疫学的に有効な量の抗原ポリペプチド、および必要であれば、上記成分のいかなる他の成分をも含有する。「免疫学的に有効な量」とは、単回投与でまたは連続投与の一部として個体に投与される量が、治療または予防に有効であることを意味する。この量は、処置される個体の健康状態および身体条件、処置される個体の分類学上のグループ(例えば、ヒト以外の霊長類、霊長類など)、抗体を合成するための個体の免疫系の能力、所望の予防程度、ワクチン処方、医療状況での治療医の評価、およびその他の関連因子に依存して変化する。その量は比較的広範囲にあり、所定の試行により決定され得ると思われる。
【0123】
免疫原性組成物は従来より非経口的に、例えば、皮下または筋肉内注射により、投与される。その他の投与形態に適した処方には、経口および肺への処方、坐薬、および経皮投与が含まれる。経口処方は、H.pyloriタンパク質に対して最も好ましい。投与処置は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであり得る。ワクチンは、その他の免疫調節剤と組み合わせて投与され得る。
【0124】
(F.免疫診断アッセイ)
H.pylori抗原は、抗体レベルを検出するために免疫アッセイにおいて使用され得(または逆に、H.pylori抗体が抗原レベルを検出するために使用され得る)、特に、胃十二指腸疾患および十二指腸潰瘍との相関が得られ得る。免疫アッセイは、よく判っている組換え抗原に基づいて、今日使用されている観血的診断法に置き換えられるように開発され得る。例えば、血液または血清試料を包含する生物学的試料中のH.pyloriタンパク質に対する抗体が、検出され得る。免疫アッセイの設計は非常に多様であり、これらの多様性は当該分野では公知である。免疫アッセイのプロトコールは、例えば、競合、直接反応、またはサンドイッチ型アッセイに基づき得る。プロトコールはさらに、例えば、固体支持体を使用し得るか、または免疫沈降法によるものであり得る。ほとんどのアッセイは、標識された抗体またはポリペプチドの使用を包含する;その標識は、例えば、蛍光、化学発光、放射性、または染色分子であり得る。プローブからのシグナルを増幅するアッセイもまた周知である;その例は、ビオチンおよびアビジンを使用するアッセイ、ならびに、ELISAアッセイのような酵素が標識および介在した免疫アッセイである。
【0125】
免疫診断に適した、適切な標識試薬を含むキットが、適当な容器中に、本発明の組成物を含む適切な材料を、アッセイの実施に必要とされるその他の試薬および材料(例えば、適切な緩衝液、塩溶液など)、ならびにアッセイの説明書とともに包装することにより、構成される。
【実施例】
【0126】
(G.実施例)
以下に示されている実施例は、当業者が実施するための指針として提供され、いかなる方法においても本発明を限定するようには構成されていない。
【0127】
(i.H.pylori細胞毒素(CT)抗原)
(1.材料および方法)
H.pylori増殖およびDNA単離に関する一般的な材料および方法については、CAI抗原およびhspのそれぞれに関する、以下のii節およびiii節を参照のこと。
【0128】
(a.クローニング)
縮重オリゴヌクレオチドの2つの混合物を、Applied Biosystemsモデル380BのDNAシンセサイザーを使用して、合成した。これらの混合物を、Genamp PCRキットを使用して、製造業者の指示に従い、200ngの精製DNAと100μlのポリメラーゼ連鎖反応に4μMの濃度で使用した。この反応物を、94℃で1分間、48℃で2分間、および56℃で2分間インキュベートした。反応混合物をこの条件に30サイクル供した。
【0129】
この反応の生成物をアガロースゲル電気泳動により分析すると、約87bpの顕著なDNAフラグメントが現れた。制限酵素XbaIおよびEcoRIでの消化後に、そのフラグメントを、前もってXbaIおよびEcoRIで消化したBluscript SK+(Stratgene)プラスミドに連結した。混合した連結物を使用して、(200Ω)a BioRad Gene Pulser(California)を使用する2000Vおよび25μFでのエレクトロポレーションにより、コンピテントE.coliを形質転換した。形質転換されたE.coliを、100μg/mLのアンピシリンを含有するL−寒天プレート上での増殖に対して選択した。プラスミドDNAは、陽性E.coli単離物から抽出して、Sequenase 2(United States Biochemical Corporation)DNA配列決定キットを使用し、製造業者の指示に従って配列分析にかけた。
【0130】
(b.ライブラリーの調製)
(1)HindIIIフラグメントのライブラリー
7μgの精製DNAを、制限酵素HindIIで完全に消化した。3μgのBluescript SK+プラスミドDNAを、HindIIIで完全に消化し、次に、仔ウシ腸ホスファターゼで処理した。両DNA混合物を、水飽和フェノールと撹拌して精製し、次に67%V/Vまでエチルアルコールを加えて沈澱させた。両DNAを50μLの水に再懸濁させた。0.7μgのDNAフラグメントを、25 mM Tris(pH7.5)、10mM MgCl2および5ユニットのT4 DNAリガーゼを含有する溶液50μL中の、0.3μgのBluescript DNAと混合した。この混合物を15℃で20時間インキュベートし、その後、DNAを水飽和フェノールで抽出して、エチルアルコールで沈澱させた。続いて、そのDNAを50μLの水に再懸濁させた。エレクトロポーレーションにより、このDNA1μgをE.coliに導入して、約3000−10,000のアンピシリン耐性細菌コロニーを得た。
【0131】
2)EcoRIフラグメントのライブラリー
約0.7μgのEcoRI消化DNAを精製し、前もってEcoRIで消化して仔ウシ腸ホスファターゼで処理しておいた0.45μgのBluescript SK+プラスミドと混合した。そのフラグメントを50μLの溶液中で連結した。精製および沈澱の後に、そのDNAを50μLの水に再懸濁させた。この溶液1μLによるE.coliのエレクトロポレーションで、約200のアンピシリン耐性細菌コロニーを得た。
【0132】
さらなるクローニング用のゲノムから適切な制限フラグントを同定するために、プラスミドを32pで均一に標識し、種々の制限酵素で消化した株CCUG由来のDNAを分析するためのプローブとして使用し、アガロースゲル電気泳動で分離し、そしてニトロセルロースフィルターに移した。そのプローブにより、単一の約3.5kbのHindIII制限フラグメントが現れた。HindIII消化DNAフラグメントのライブラリーを調製し、Bluescriptプラスミドベクターにクローニングした。このライブラリーを、予めクローニングしておいた87bpフラグメントに対応する32p標識DNAでスクリーニングした。同一の約3.3kbpのHindIIIフラグメントを含有する2つのクローンが同定された。これらのHindIIIフラグメントのDNA配列決定により、前記の87kDa細胞毒素のアミノ末端に対応する23アミノ酸をコードし得る配列が明らかになった。これらの配列は、HindIII制限酵素部位により境界を定められフラグメントの末端で終止する、約300ヌクレオチドのオープンリーディングフレームの部分を含有した。また、この配列からは、HindIII部位から120bp離れた推定オープンリーディングフレーム内にEcoRI制限部位が存在することが明らかになった。
【0133】
EcoRI部位とHindIII部位との間の配列に対応する32p標識プローブを、Bluescript SKベクターにクローニングされたDNA由来のEcoRフラグメントのライブラリーをスクリーニングするために使用した。このプローブにより、2つのクローンが、約7.3kbpフラグメントを含有することが明らかになった。このフラグメントのDNA配列決定により、3.2kbpのHindIIIフラグメントから決定された配列と重複した、連続的なオープンリーディングフレームがあることが判った。これらの重複フラグメントのDNA配列、および、含有される1つの長いオープンリーディングフレームの概念的な(conceptual)翻訳を、それぞれ図1〜3および4に示す。
【0134】
これらのクローンは非常に不安定であることが認められたことは注目されるべきである。スクリーニングで同定された最初のコロニーは、あまりにも小さいので検出が困難であった。16−18時間の継代培養の従来方法によるこれらのクローンの広がりは、DNA再配列および欠失のために非常に不均一な群のプラスミドとなった。これらのクローンの十分な量を、抗生物質選択のない8−10時間の継代培養により増殖させた。この様式では、プラスミドの収量は比較的に少ないが、生存再配列プラスミドを含有する細菌の選択および副産物を排除した。
【0135】
(C.DNAライブラリーのスクリーニング)
顕著な87 bpフラグメントを含有するPCR反応産物を、Prime−a−geneキット(Promega)を使用するランダムプライマー法により32pで標識した。この標識プローブを、ニトロセルロースフィルター上に固定された約3000の細菌クローン由来のDNAとのハイブリダイゼーション反応に使用した。ハイブリダイゼーション反応は、0.3M NaCl溶液中60℃で実施した。陽性細菌クローンを発展させて、プラスミドDNAを調製した。プラスミドは、約3.3kbのDNA挿入断片を含有し、TOXHH1と呼ばれた。
【0136】
図1〜3に示されている292位と410位との間の配列を含有する120bpフラグメントは、プラスミドTOXHH1由来であり、EcoRIフラグメントのライブラリーの約400コロニーをスクリーニングするために使用した。約7.3kbのDNA配列を含有し、TOXEE1と呼ばれる陽性クローンを単離した。
【0137】
図1〜3に示されているヌクレオチド配列は、クローンTOXHH1およびTOXEE1から、Sequenase 2配列決定キットを使用して得た。図1〜3の1位と410位との間のヌクレオチオドをTOXHH1から得、そして、291位と3507位との間のヌクレオチドをTOXEE1から得た。プラスミドTOXHH1およびTOXEE1を含有するE.coliをアメリカンタイプカルチャーコレクションに寄託した。下記を参照のこと。
【0138】
(d.細胞毒素に対する抗血清の調製)
図1〜3に示されている配列のヌクレオチド116ー413に対応するDNAフラグメントを、細菌発現ベクターpex 34 Aにクローニングし、細菌プロモーターの誘導で、細胞毒素ポリペプチドのアミノ酸に融合され、以前に同定された23アミノ酸を含有する、MS2ポリメラーゼポリペプチドの一部を含有する融合タンパク質を産生させた。この融合タンパク質の約200μgを、アクリルアミド電気泳動で部分精製し、標準的な方法でウサギを免疫するために使用した。
【0139】
1ヶ月間隔3回の免疫後に採取したこれらのウサギからの抗血清を、標準的なイムノブロッティング実験に、H.pyloriの細胞毒素陽性株および細胞毒素陰性株からのタンパク質抽出物をプローブするために使用した。その抗血清は、見かけの分子量100kDaの、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動上で移動したポリペプチドを現した。このポリペプチドは、細胞毒素陽性株のタンパク質抽出物には検出されたが、細胞毒素陰性株には検出されなかった。免疫前に採取した血清は、このポリペプチドと反応しなかった。
【0140】
(e.空胞化活性の部分精製)
6mg/mlの濃度のH.pylori全膜を、1% CHAPS、0.5M
NaCl、10mM Hepes(pH 7.4)、2.5mM EDTA、20%スクロース溶液に、4℃で1時間溶解した。次に、この混合物を、30%、35%、40%、および55%スクロース段階を含む、不連続スクロースグラジエントにかけ、そして20000xgで17時間超遠心分離にかけた。グラジエントにかけたものを分画して、各画分を空胞化活性およびウレアーゼ活性に対して試験した。ウレアーゼ活性に関連した空胞化活性を、グラジエント画分のいくつかに認めた。空胞化活性のピークもまた、グラジエントの一番高い画分に認め、これらの画分には、本質的にウレアーゼ活性はなかった。
【0141】
このウレアーゼ非依存空胞化活性を、20%から34%の濃度の間の硫酸アンモニウムによる段階沈澱法(stepwise precipitation)によってさらに分画した。異なる濃度の硫酸アンモニウムで沈澱させたタンパク質の変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で顕著な約100kDaポリペプチドが現れ、このポリペプチドは空胞化活性に関して精製された。このポリペプチドは、上記の組換え融合タンパク質に対してつくられたウサギ抗血清により認識された。
【0142】
(2.結果)
H.pyloriゲノムの約10kbpに対応する2つの重複フラグメントがクローニングされた。これらのクローンは、1296アミノ酸(図4に示されている)のポリペプチドをコードし得る3960bp(図1〜3に示されている)からなる遺伝子を含有する。この推定ポリペプチドの分子量は139.8kdである。図1〜3における18位のメチオニンコドンの9bp上流のヌクレオチド配列AGGAAGは、シャイン−ダルガーノコンセンサス配列(the consensus Shine−Dalgarno sequence)に密接に類似しており、このメチオニンがポリペプチド合成の開始メチオニンに相当するという仮説を支持する。図1〜3の3906位の推定終止コドンの10bp下流に始まる30bpヌクレオチド配列は、原核転写ターミネーターの構造に密接に類似しており、メッセンジャーRNAコーディング配列の末端に相当すると思われる。
【0143】
細胞毒素遺伝子は、以下の基準により、H.pylori空胞化活性のポリペプチド前駆体をコードするとして定義される:
(i)推定ポリペプチドは、以前に記載された87kDa空胞化タンパク質(Cloverら、J.Biol.Chem.267:10570−75(1992))のアミノ末端として同定された23アミノ酸配列(図4、34−56位)を含有する。この配列は、原核リーダー配列に類似する33アミノ酸の後に続き、従って、この配列は、成熟タンパク質のアミノ末端に相当すると思われる;
(ii)目的のアミノ末端を含有する推定ポリペプチドの100アミノ酸フラグメントに特異的なウサギ抗血清は、H.pyloriの細胞毒素陽性株の100kDaポリペプチドを認識したが、細胞毒素陰性株では認識しなかった。この100kDaポリペプチドは、H.pylori膜から空胞化活性に対して精製する。
【0144】
まとめて、本明細書中に記載された遺伝子は、H.pylori細胞毒素活性に関連の100kDaポリペプチドにプロセスされる約140kDaポリペプチドをコードする。以前に記載された87kDaポリペチドは、100kDaポリペプチドがさらにプロセスされたか、または精製中のタンパク質分解によるかのいずれかにちがいない。
【0145】
(ii.H.pylori CAI抗原)
(1.材料および方法)
(a.材料の起源)
クローンA1、64/4、G5、A17、24および57/Dは、λgt11ライブラリーから得た。クローンB1は、HindIIIフラグメントのゲノムプラスミドライブラリーから得た。007はPCRにより得た。細胞毒素を産生するH.pylori株は、以下である:G10、G27、G29、G32、G33、G39、G56、G65、G105、G113A。非細胞毒素株は、以下である:G12、G21、G25、G47、G50、G204。それらは、Grosseto Hospital(Tuscany,Italy)の内視鏡検査生検標本から単離された。株CCUG 17874(細胞毒素陽性)はCulture Collection of the University of Gotheborgから得た。非細胞毒素株Pylo 2U+(ウレアーゼ陽性)およびPylo 2U−(ウレアーゼ陰性)は、F. Megraud, Centre Hospitalier,Bordeaux(France)から得た。E.coli株のDH10B(Bethesda Research Laboratories)、TG1、K12ΔH1Δtrp、Y1088、Y1089、Y1090は、当該分野では公知である。プラスミドBluescript SK+(Stratagene,La Jolla,CA)を、クローニング用ベクターとして使用した。MS2融合タンパク質の発現用の、pEx34
a、b、cプラスミドは、以前に記載されている。ライブラリー発現に使用されたλgt11ファージベクターは、λgt11クローニングシステムキット(Bethesda Research Laboratories)からのものである。E.coli株は、LB培地(24)で培養した。H.pylori株は、選択培地(5%ウマ血液、Dent or Skirrow’s抗生物質補充のColumbia寒天ベース、0.2%シクロデキストリン)、または、5% ウシ胎児血清(6)または0.2%シクロデキストリン(25)を含有するBrucella肉汁液体培地にプレートした。
【0146】
(b.H.pyloriの増殖およびDNA単離)
H.pylori株は、37℃で3日間、固体培地または液体培地中で培養した。両方とも、Oxoid(Basingstoke,England)またはBecton and Dickinsin(Cockeysville,MD)ガスパックジェネレーターを使用した微好気性環境中、または、5%CO2補充空気を含有するインキュベーター(26)中で培養した。細菌を採取して、最終濃度100μg/mlのリゾチームを含有するSTE(NaCl 0.1M、Tris−HCl 10mM(pH8)、EDTA 1mM(pH8))に再懸濁させ、室温で5分間インキュベートした。細菌を溶解するために、最終濃度1%にSDSを加え、65℃に加熱した。プロテイナーゼKを最終濃度25μg/mlに加えた後、溶液を50℃で2時間インキュベートした。DNAを、臭化エチジウムを加えたCsClグラジエントにより精製し、77%エタノールで沈澱させて封入ガラスキャピラリーで回収した。
【0147】
(c.λgt11発現ライブラリーの構築およびスクリーニング)
λgt11発現ライブラリーを作製するために、制限酵素HaeIIIおよびAluIで部分消化した、CCUG 17874株由来のゲノムDNAを使用した。0.8%アガロースゲル上での分画後、0.6kbと8Kbとの間の大きさのDNAを、Costar Spin−X(0.22ミクロン)微量遠心分離フィルターを使用して溶出した。各消化からの産物を合わせて、λgt11クローニングシステムキット(Bethesda Research Laboratories)およびGigapack II Goldパッケージングキット(Stratagene,La Jolla, CA)を使用して、発現ライブラリーを構築するために使用した。0.8−1x106個の組換えファージを含有するライブラリーをE.coli Y1088で増幅し、109ファージ/mlの力価、85%組換え、平均挿入断片の大きさ900塩基対の溶解物150mlを得た。Protoblotシステム(Promega,Madison,WI)を使用する標準的な方法により、免疫学的スクリーニングを実施した。
【0148】
(d.プラスミドライブラリーの構築)
EMBL4またはλDashのような標準ベクターを使用する、部分消化された染色体DNAの完全ゲノムライブラリーを作製する試みは、H.pyloriDNAクローニングにおいての多くの著者により記載された困難に直面し、十分なライブラリーを得られなかった。従って、制限酵素HindIIIで消化し、Bluescript SK+にクローニングした株CCUG 17874、G39およびG50由来のゲノムDNAを使用して、部分ライブラリーを得た。DNA連結、E. coli DH 10Bのエレクトロポレーション、スクリーニング、およびライブラリー増幅を実施した。10%を超えないバックグラウンドとともに70000から85000の範囲のコロニーを有するライブラリーを得た。
【0149】
(e.DNA操作およびヌクレオチド配列決定)
DNA操作を標準的な方法によって実施した。DNA配列決定をSequenase 2.0(USB)を使用して実施し、図5に示されているDNAフラグメントをBluscript KS+にサブクローニングした。各鎖を少なくとも3回配列決定した。DNAクローンが入手できなかった1533と2289との間の領域をPCRにより増幅し、非対称PCR、および増幅産物の直接配列決定により配列決定した。この領域の重複は、one and double side anchored PCRにより確認した:5’付着末端HindIII配列、およびClaI、SalI、XhoIの認識部位を含むエクスターナルユニバーサルアンカー(external universal anchor)(5’−GCAAGCTTATCGATGTCGACTCGAGCT−3’/5’−GACTCGAGTCGACATCGA−3’)を、プライマー伸長DNAに連結して増幅した。次に、入れられた(nested)プライマーによるPCRの第二ラウンドを使用して、クローニングおよび配列決定に適したDNAフラグメントを得た。DNA配列データを集めて、VMS下のVAX 3900走査GCGパッケージ(Genetics Computer Group,Inc.,Madison,WI)により分析した。EMBL VAXclusterを使用して、GenBankおよびEMBLデータベースを調べた。
【0150】
(f.タンパク質調製およびELISA)
タンパク質抽出物を、H.pyloriペレットを6Mグアニジンで処理して得た。ウエスタンブロッティング、SDS−PAGE、電気溶出を、標準的な方法で実施した。融合タンパク質を誘導し、electrocutionまたはイオン交換クロマトグラフィーにより精製した。精製タンパク質を、ウサギを免疫するため、およびELISAアッセイのマイクロタイタープレートをコーティングするために使用した。正常粘膜保有者、血液供給者、および患者に由来する血清は、A.Ponzetto(Torino,Italy)から得た。臨床診断は、胃生検の組織学に基づいた。試料の空胞化活性は、Coverら、Infect.Immun.59:1264−70(1991)に記載されているようにHeLa細胞で試験した。
【0151】
(2.結果)
(a.免疫優性および細胞毒性)
胃十二指腸疾患にかかっている患者由来の血清でプローブされたH.pyloriグアニジン抽出物のウエスタンブロットは、クーマシーブルー染色ゲルでの主要でない成分である130kDaのタンパク質が、試験された全血清により強く認識されることを示した。CAIタンパク質を電気溶出し、ウエスタンブロットでこのタンパク質のみを認識するマウス血清をつくるのにこれを使用した。次に、この血清を、H.pylori株の抽出物中のCAIタンパク質をウエスタンブロッティングにより検出するために使用した。抗原は、HeLa細胞で空胞化活性を有する10株全てに存在しており、このような活性を有さない8株には存在していなかった;さらに、タンパク質の大きさは株によりわずかに異なっていた。CAI抗原は、Campylobacter jejuni、Helicobacter mustelae、E.coli、およびBordetella pertussisのようなその他の試験された種では、ウエスタンブロッティングにより検出されなかった。
【0152】
(b.cai遺伝子の構造)
λgt11発現ライブラリーの106個のクローンを、CAI抗原に対して特異的なマウス血清を用いて、および胃十二指腸疾患の患者由来の血清プールを使用して、スクリーニングした。マウス血清により、3x10−3の頻度で陽性クローンが検出された。8つのクローンの配列分析により、それら全てが、図5に示されているクローンA1と部分的に重複することが明らかになった。ヒト血清プールにより、クローン57/D、64/4および24、および、クローンA1に重複する数種のクローンを含む、cai遺伝子の異なる領域を含有する多くのクローンが同定された。
【0153】
図5中のクローンA1、64/4、G5、A17、24、および57/Dは、λgt11ライブラリーから得た。クローンB1は、HindIIIフラグメントのプラスミドライブラリーから得た。プラスミド57/D、64/4、B1(B/1)、およびP1−24(最も後ろのプラスミドはヌクレオチド2150から2650)は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)に寄託した。下記を参照のこと。007はPCRにより得た。オープンリーディングフレームは、図5の下段に示されている。矢印は、配列決定のためのプライマーとして使用した合成オリゴヌクレチドの位置および方向を示し、そして、G39の繰り返し配列の挿入位置が示されている。株G39に認められる繰り返し配列のうち1つのヌクレオチドおよびアミノ酸配列もまた、示されている。大文字は、cai遺伝子から複製された配列D1、D2、およびD3を示し、小文字は、ヌクレオチドおよびアミノ酸リンカーを示し、Pはプロモーターであり、およびTはターミネーターである。
【0154】
λgt11ライブラリー由来のクローン、HindIIIプラスミドライブラリーから単離されたクローンB1、および染色体DNAのPCRにより得られたフラグメント007を使用して、全領域のヌクレオチド配列を決定した。5925個のヌクレオチド配列のコンピューター分析により、ヌクレオチド535から3977にわたる長いオープンリーディングフレームが、λgt11クローン64/4、24およびA1およびA17から生じる融合タンパク質のフレーム内にはまっていることが明らかになった。クローン57/Dは、クローニングされたフラグメントの3’末端のみにオープンリーディングフレームを含有するため、遺伝子をλgt11のβガラクトシダーゼと融合し得なかった。λgt11クローン57/D中の免疫反応性タンパク質の存在は、非融合タンパク質の発現を誘導する内因性プロモーターの存在によってのみ説明され得る。この仮説は、Bluescriptプラスミドベクターに挿入断片57/4を両方向でサブクローニングすること、および、免疫反応性タンパク質が両場合ともに得られたことを示すことによって、真実であることが証明された。同定された遺伝子が事実CAI抗原をコードするという確実な証拠は、pEx 34Bプラスミドベクターに挿入断片A17および64/4をサブクローニングして、融合タンパク質を得、これを精製して用いてウサギを免疫することにより得られる。得られた血清は、細胞毒素H.pylori株中のCAI抗原バンドを特異的に認識した。
【0155】
cai遺伝子は、1147アミノ酸からなる、推定分子量128012.73ダルトンおよび、等電点9.72を有する推定タンパク質をコードすた。精製タンパク質の基本特性を、二次元ゲル電気泳動により確認した。遺伝子のコドンの用法およびGC含有量(37%)は、その他のH.pylori遺伝子に関する記載と類似した(13,26)。推定リボソーム結合部位:AGGAGは、目的のATG開始コドンから5塩基対上流に同定された。ATG開始コドンから上流領域のプロモーター配列についてのコンピューター検索は、−10または−35領域のいづれかに類似する配列を同定したが、E.coliプロモーターに共通する領域または公開されえいるH.pyloriプロモーター配列に類似することは見いだされなかった。精製H.pyloriRNAのプライマー伸長分析により、ATG開始コドンの104および214塩基対上流に2つの転写開始部位が存在することが示された。正統なプロモーターは、いずれの転写開始部位の上流にも同定され得なかった。クローン57/DによるCAI抗原部分の発現は、E.coliもまた、この領域のプロモーターを認識していることを示唆したが、E.coliがH.pyloriの同じプロモーターを認識するか、またはA−Tに富むH.pyloriDNAが、プロモーターとして作用し得る領域を有するE. coliを提供するかは、明らかではない。rho非依存ターミネーターが、開始コドンの下流に同定された。図6〜8では、AGGAGリボソーム結合部位およびターミネーターには下線を付け、繰り返し配列および6個のアスパラギンを含有するモチーフは線で囲った。CAI抗原は非常に親水性であり、明白なリーダーペプチドまたはトランスメンブラン配列を示さなかった。最も親水性である領域は、アミノ酸600から900であり、そこではまた、多くの例外的な特徴が認められ得る:配列 EFKNGKNKDFSKおよびEPYIAの繰り返し、および、6個の連続したアスパラギンの存在(図6〜8では線で囲った)。
【0156】
(c.cai遺伝子の多様性)
遺伝子の多様性は、内部複製により生じると考えられている。異なる株におけるCAIタンパク質の大きさの不均一性の機構を見いだすために、より大きなCAIタンパク質(G39)を有する1つの株の構造を、サザンブロッティング、PCRおよびDNA配列決定により分析した。結果は、G39およびCCUG 17874のcai遺伝子が3406位までの大きさで同一であることを示し、G39株が、102塩基対からなる2つの同一の繰り返しにより生成される204塩基対の挿入断片を含有することが分かった。各繰り返しは、cai遺伝子の同じ領域からの3つのDNAセグメント(図5の配列D1、D2およびD3)の複製から生じ、小さなリンカー配列により接続されている配列を含有することが認められた。挿入がなされた領域および挿入断片自身の図式を、図5に示す。
【0157】
(d.非細胞毒素株中のcai抗原の非存在)
CAI抗原が非細胞毒素株に存在しない理由を研究するために、それらの2つ(G50およびG21)からのDNAをEcoRI、HindIIIおよびHaeIII制限酵素で消化し、cai遺伝子内の2つのプローブ(それぞれに、ヌクレオチド520−1840および2850−4331の範囲)を使用したサザンブロッティングにより試験した。両プローブは、株CCUG 17874およびG39において強くハイブリダイズするバンドを認識した。そのバンドは2つの株で大きさが変わり、遺伝子の多様性に一致する。しかし、プローブは、G50およびG21 DNAのいずれにもハイブリダイズしなかった。このことは、試験された非細胞毒素株がcai遺伝子を含まないことを示した。
【0158】
(e.血清抗体)
CAI抗原に対する血清抗体の存在を、胃十二指腸疾患に関連づけた。CAI抗原に対する定量的抗体応答を研究するために、pEx34にサブクローニングされたA17フラグメントにより産生された融合タンパク質を、均質に精製して、ELISA試験用にμタイタープレートをコーティングするために使用した。このアッセイでは、胃十二指腸病状の患者は、無作偽に選択された血液供給者および正常な胃粘膜を有する人間に認められるより、有意に高い平均ELISA力価を有した。抗体力価が、特に胃十二指腸疾患に関連するかどうかを評価するために、既知の組織学的診断による患者からの血清を、ELISAアッセイで試験した。十二指腸潰瘍の患者は、その他全ての患者より有意に高い平均抗体力価を有した。概して、ELISAは、胃十二指腸疾患患者の75.3%、および十二指腸潰瘍患者の100%を予測し得ることが認められた。
【0159】
1つの特定のELISAでは、CAI抗原に由来する230アミノ酸を含有する組換えタンパク質を、タンパク質に特異的な抗血清を使用した、H. pylori DNAの発現ライブラリーのスクリーニングによって同定した。組換え抗原を、E.coli中で融合タンパク質として発現させ、均質に精製して、μタイタープレートをコーティングするために使用した。次に、そのプレートを、ヤギ抗ヒトIgGアルカリホスファターゼコンジュゲートの1/2000希釈と90分間インキュベートした。洗浄後、酵素基質をプレートに加え、30分間後に405nmでの光学濃度を読みとった。胃疾患ではなく、ウエスタンブロッティングで検出可能な抗H.pylori抗体を有さない20人の固体からの血清を使用して、カットオフレベルを、平均吸光度+2標準偏差により決定した。ELISAアッセイを、規定通りの上部胃十二指腸内視鏡検査を受けた82人の消化不良患者(平均年齢50.6±13.4才、28才から80才)の末梢血試料で試験した。患者の胃洞部粘膜を、組織学およびギムザ染色のために得た。20人の患者は十二指腸潰瘍、5人は胃潰瘍、43人は慢性活性B型胃炎、8人は十二指腸炎、そして6人は胃粘膜が正常であった。十二指腸潰瘍の全ての患者は、カットオフレベルを超える光学濃度値を有した。十二指腸炎、胃潰瘍、および慢性胃炎の患者は、それぞれに、75%、80%および53.9%の症例において陽性ELISA値を有した。ELISAと組織学的ギムザ染色間との一致は、十二指腸潰瘍で95%、十二指腸炎で98%、胃潰瘍で80%、そして、慢性胃炎で55.8%であった。このアッセイは、十二指腸炎潰瘍疾患と非常に相関性を与えた(p<0.0005)。
【0160】
(iii.熱ショックタンパク質(hsp))
(1.材料および方法)
(a.H.pylori株および増殖条件)
使用したH.pylori株は:CCUG 17874、G39、およびG33(the hospital of Grosseto, Italyでの胃生検から単離した)、Pylo 2U+およびPylo 2U−(F. Megraud, hospital Pellegzin,Bordeaux,France)、BA96(University of Siena,Italyでの胃生検で単離した)であった。Pylo 2U+株は非細胞毒性;Pylo
2U−株は非細胞毒性およびウレアーゼ陰性である。全株は、0.2%シクロデキストリン、5μg/mlセフスロジン、および5μg/mlアムホテリシンBを含有するColumbia寒天で、微好気性条件下で37℃で5ー6日間ルーチンで増殖した。細胞を採取し、PBSで洗浄した。ペレットをLaemmli試料緩衝液に再懸濁させ、煮沸して溶解した。
【0161】
胃炎および潰瘍に冒された患者の血清(A.Ponzetto,hospital ”Le Molinette”,Torino,Italyから提供された)、および胃癌患者の血清(F.Roviello,University of Siena,Italyから提供された)を使用した。
【0162】
(b.ライブラリーの免疫スクリーニング)
λgt11 H.pylori DNA発現ライブラリーの500,000プラークを、0.2%マルトースおよび10mM MgSO4を含有するLB中で一晩増殖させたE.coliY1090株の懸濁液5mlと混合し、0.5 O.D.で10mM MgSO4中に再懸濁させた。37℃で10分間のインキュベーション後に、溶かしたTopAgarose75mlを、細菌/ファージ混合物に注ぎ入れ、その全部をBBLプレートに塗布した(50,000プラーク/プレート)。塗布したライブラリーを42℃で3.5時間インキュベートした後、予め10mM IPTGで湿潤させたニトロセルロースフィルター(Schleicher and Schuell,Dassel,Germany)をプレートに取付けて37℃でのインキュベーションを3.5時間続け、次いで4℃で一晩放置した。λタンパク質のついたフィルターを持ち上げてPBSですすぎ、TBST(10mM TRIS pH8、100mM NaCl、5M MgCl2)に溶解した5%脱脂粉乳に20分間浸した。最初のハイブリダイゼーション工程は、患者血清を用いて実施した;陽性プラークの呈色および可視化のために、アルカリホスファターゼコンジュゲート抗ヒトIg抗体(Cappel,West Chester,PA)、およびAP緩衝液(100mM Tris pH9.5、100mM NaCl、5mM MgCl2)中のNBT/BCIPキット(Promega,Madison,WI)を、製造者の指示に従って使用した。
【0163】
(c.組換えDNA法)
使用した試薬および制限酵素は、Sigma(St.Louis,MO)およびBoehringer(Mannheim,Germany)から入手した。分子クローニング、一本鎖DNA精製、E.coliでの形質転換、プローブの放射活性標識、H.pylori DNAゲノムライブラリーのコロニースクリーニング、サザンブロット分析、PAGEおよびウエスタンブロット分析について、標準的な方法を使用した。
【0164】
(d.DNA配列分析)
DNAフラグメントをBluescript SK+(Stratagene,San Diego,CA)にサブクローニングした。[33P]αdATP(New England Nuclear,Boston,MA)およびSequenaseキット(U.S.Biochemical Corp.,Cleveland,OH)を製造者の指示に従って使用して、一本鎖DNA配列決定を実施した。配列は両鎖について決定し、各鎖は平均2回配列決定した。コンピューター配列分析は、GCGパッケージを用いて実施した。
【0165】
(e.組換えタンパク質)
MS2ポリメラーゼ融合タンパク質を、pEX31の誘導体である、ベクターpEX34Aを用いて生産した。挿入断片Hp67(図9〜11のヌクレオチド445からヌクレオチド1402)およびEcoRIリンカーを、ベクターのEcoRi部位に挿入してクローニングした。停止コドンの位置を確認するために、HpG3’ HindIIIフラグメントを、pEX34AのHindIII部位に挿入してクローニングした。組換えプラスミドを、E coli K12:H1Δtrpに形質転換した。誘導後両場合とも、予期した分子量の融合タンパク質が産生された。EcoRI/EcoRIフラグメントの場合に、誘導後に得られた融合タンパク質を電気溶出し、標準的なプロトコールにより、ウサギに免疫した。
【0166】
(2.結果)
(a.発現ライブラリーのスクリーニングおよびH. pylori hspのクローニング)
H.pylori DNA発現ライブラリーのスクリーニングに適した血清を見つけるために、H.pyloriCCUG 17874株の超音波処理抽出物を、異なる型の胃炎に冒された患者の血清に対するウエスタンブロット分析で試験した。異なる血清による抗原認識のパターンは、おそらく、患者の免疫応答の相違、および感染に関連する株により発現された抗原の相違によって、多用である。
【0167】
血清N°19を、細菌増殖の間にインビボで発現されたH.pylori特異抗原を同定するためのλgt11 H.pylori DNA発現ライブラリーをスクリーニングするために、選択した。この血清を用いるライブラリーのスクリーニング後に、多くの陽性クローンを単離して特徴付けた。Hp67と呼ばれる、これらのうちの1つのヌクレオチド配列で、熱ショックタンパク質のhsp60ファミリーに高度の相同性を有するタンパク質をコードする、958塩基対のオープンリーディングフレームが明らかにされた(Ellis,Nature
358:191−92(1992))。全コーディング領域を得るために、異なる制限酵素により消化されたH.pylori DNAのサザンブロット分析でのプローブとして、フラグメントHp67を使用した。プローブHp67は、それぞれに約800および1000塩基対の2つのHindIIIバンドを認識した。HindIIIで消化されたDNAのゲノムH.pyloriライブラリーを、プローブHp67でスクリーニングし、予期した分子量の2つの陽性クローン(HpG5’およびHpG3’)を得た。プラスミドpHp60G2(約ヌクレオチド1から829)およびpHp60G5(約ヌクレオチド824から1838)を含有するE.coliを、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)に寄託した。
【0168】
(b.配列分析)
ヌクレオチド配列分析で、開始ATGの6塩基対上流の推定リボソーム結合部位を有する、1638塩基対のオープンリーディングフレームが明らかにされた。図9〜11は、H.pylori hspのヌクレチドおよびアミノ酸配列を示す。推定リボソーム結合部位および内部HindIII部位には、下線を付けた。445位のシトシンおよび1402位のグアニンは、Hp67フラグメント中の、それぞれに最初および最後のヌクレオチドである。1772位のチミジンを、因子独立ターミネーター領域の位置を計算して、転写された最後の推定ヌクレオチドとして同定した。オープンリーディングフレームは、推定分子量58.3kDaおよび推定pI値5.37を有する、546アミノ酸のタンパク質をコードした。この遺伝子のコドン選択は、H.pyloriコドンの用法と一致する。
【0169】
親水性特性の分析で、推定リーダーペプチドまたはその他のトランスメンブランドメイン以外の大部分の親水性タンパク質が明らかにされた。アミノ末端配列は、Dunnら、Infect.Immun.60:1946−51(1992)により、精製タンパク質で決定された30アミノ酸の配列と100%相同性を示し、Evansら、Infect.Immun.60:2125−27(1992)により公表された44アミノ酸の配列と1残基(Lysに代わってSer42)のみが異なった(Evansら、1992)。成熟hspタンパク質のN末端配列は、開始メチオニンを含有せず、このことは、メチオニンが翻訳後に除去されたことを示す。
【0170】
(c.hsp60ファミリーとの相同性)
アミノ酸配列分析で、熱ショックタンパク質hsp60のファミリーと高度な相同性を示した。このファミリーのメンバーは、あらゆる生物に存在する。異種のhsp60タンパク質間の相同性の程度に基づくと、H.pylori hspは、グラム陰性細菌のhsp60タンパク質のサブグループに属する;しかし、hsp60ファミリーの他のタンパク質との相同性の程度は、非常に高い(少なくとも54%一致)。
【0171】
(d.組換えタンパク質の発現およびポリクローナル抗血清の産生)
クローンHp67およびクローンHpG3’の挿入断片を、MS2ポリメラーゼのアミノ末端に融合したこれらのオープンリーディングフレームを発現するために、発現ベクターpEX34Aにサブクローニングした。そのクローンは、予測された大きさの組換えタンパク質を産生し、最初のスクリーニングのために使用したヒト血清により認識された。クローンHp67由来の融合タンパク質を電気溶出し、抗hsp特異ポリクローナル抗血清を得るためにウサギの免疫に使用した。得られた抗血清は、融合タンパク質と、ウレアーゼ陰性株および非細胞毒性株を含む、試験したH.pyloriのいくつかの株の全細胞抽出物の58 KDaのタンパク質との両方を認識した。
【0172】
hspは、試験し全H.pylori株により発現されたことが示され、その発現はウレアーゼの存在または細胞毒性に関連しない。抗hsp抗血清に認識されたタンパク質は、H.pyloriの水溶性抽出物に認められ、ウレアーゼサブユニットとともに精製された。このことは、このタンパク質の細菌の外膜への弱い関連性を示唆する。従って、hspはウレアーゼ関連および表面露出されたとして記載され得る。hsp相同タンパク質のほとんどが、細胞質またはミトコンドリアおよびプラスチドに局在するので、細胞表面への局在は驚きである。hspにリーダーペプチドが存在しないことは、これが、特有の移送系により膜に移送されるか、そのタンパク質が細胞質から放出され、細菌の死後に細菌の膜に受動的に吸着されるかのいずれかであることを示唆する。
【0173】
hsp60タンパク質は、オリゴマーまたはマルチマータンパク質の正常な折り畳み、組立、および輸送を補助する分子シャペロン(chaperon)として作用することが示された。H.pylori hspの細胞局在性、およびウレアーゼへの弱い関連性より、hspは膜表面に露出された最終四次構造がA6B6であるタンパク質の折り畳みおよび/または組立を補助する役割をなし得る、ウレアーゼのような複数のサブユニットからなることを示唆する。Austinら、J.Bacteriol.174:7470−73(1992)は、H.pylori hspの超微細構造は、4つのグループに並んで積み重った円盤状の粒子に組み立てられた、7つのサブユニットからなることが示された。この構造はウレアーゼ高分子の形および大きさに類似し、このことは、それらが同時精製になるこれらの2つの高分子の共通の特性を説明し得る。しかし、H.pylori hsp遺伝子は、ウレアーゼオペロンの部分ではない。他の細菌hsp60タンパク質の遺伝子構造に一致し、これはジシストロン性オペロンであるはずだ。
【0174】
(e.胃十二指腸疾患患者中の抗hsp抗体の存在)
精製融合タンパク質を、H.pylori感染患者ならびに萎縮性および表在性胃炎に冒された患者、ならびに十二指腸および胃潰瘍患者の血清を使用する、ウエスタンブロットにより試験した。ほとんどの血清は組換えタンパク質を認識した。しかし、認識の程度は、個々の患者間で非常に多様であり、抗体レベルは、疾患型と明白な相関を示さなかった。さらに、H.pylori抗原および特にhspタンパク質に対する抗体が、試験された胃癌患者の12血清のほとんどに認められた。H.pylori hsp認識は疾患の特定の臨床状態には関係しないが、H.pylori hspとそのヒト相同物間の高度な保存があるとすると、このタンパク質がヒトの対応物と交差反応する自己免疫抗体を誘導し得ることは可能である。このクラスは相同タンパク質は、別の系における自己免疫疾患の誘導に関係がある。従って非消化性患者中のヒト相同物と交差反応する可能性がある高力価抗H.pylori hsp抗体の存在は、このタンパク質が胃十二指腸疾患において役割を有することを示唆する。この自己反応性は、H.pylori誘導性胃炎で生じる組織の損傷に役割を果たし得、従ってこの細菌感染に関連する病原機序を増加した。
【0175】
このような保存されたタンパク質に対する高レベルの抗体は、やや異常である;ヒトのものを含むhsp60ファミリーのメンバー間で高度に相同であるので、このタンパク質は、宿主免疫系に非常によく許容されるにちがいない。多くの患者に認められる強い免疫応答は、2つの異なる方法で説明され得る:(1)免疫応答は、H.pylori hspに特異的なエピトープに対してのみ指示される;(2)免疫応答は、H.pylori hspおよびヒト相同物間で共通のエピトープに対して指示される。
【0176】
(H.生物学的材料の寄託)
以下の材料は、ブダペスト条約(特許手続き上微生物の寄託の国際的承認に関する)のもとに、本発明の譲受人であるBiocine Sclavo,S.p.A.により、1992年12月15日および1993年1月22日に、メリーランド州、ロックビル、パークローンドライブ12301、電話(301)231−5519のアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)に寄託された。
【0177】
細胞毒素タンパク質(CT)について:
ATCC No.69157 プラスミドTOXHH1を含むE.coli TG1
ATCC No. n/a プラスミドTOXEE1を含むE.coli TG1。
【0178】
CAIタンパク質について:
ATCC No.69158 プラスミド57/Dを含むE.coli TG1
ATCC No.69159 プラスミド64/4を含むE.coli TG1
ATCC No.69160 プラスミドP1−24を含むE.coli TG1
ATCC No.69161 プラスミドB/1を含むE.coli TG1。
【0179】
熱ショックタンパク質(hsp)について:
ATCC No.69155 プラスミドpHp60G2を含むE.coli
TG1
ATCC No.69156 プラスミドpHp605を含むE.coli TG1。
【0180】
これらの寄託物は、当業者の利便性のために提供されており、寄託が米国特許法112条のもとに必要とされることを認めるものではない。これらの寄託物の核酸配列およびこれらによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列は、本明細書中に参考として援用されており、万一寄託物の配列と比較して本明細書中に記載された配列に任意の誤りがある場合には、参考にされるべきである。寄託物質の製造、使用、または売却には認可が必要であり得るが、ここではそのような認可は承認されていない。
【0181】
Helicobacter pyloriは、B型胃炎、消化性潰瘍および胃癌の原因または補助因子であることが知られている。先進国および発展途上国の両方において、高い割合で人々はこの細菌に感染している。本発明は概して、ある種のH.pyloriタンパク質、これらのタンパク質を発現する遺伝子、および、これらのタンパク質の診断およびワクチン用途のための使用に関する。特に、H.pylori細胞毒素(CT)の分子クローニング、ヌクレオチド、およびアミノ酸配列、「細胞毒素関連免疫優性」(CAI)抗原、および熱ショックタンパク質(hsp60)が、本明細書中に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】細胞毒素(CT)タンパク質のヌクレオチド配列を示す図である。
【図2】図1の続きである。
【図3】図2の続きである。
【図4】細胞毒素(CT)タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図5】CAIタンパク質のcai遺伝子マップ、および、この遺伝子の同定および配列決定に使用されたクローンのまとめを示す図である。
【図6】CAI抗原のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す図である。
【図7】図6の続きである。
【図8】図7の続きである。
【図9】熱ショックタンパク質(hsp)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す図である。
【図10】図9の続きである。
【図11】図10の続きである。
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、特定のHelicobacter pyloriタンパク質、これらのタンパク質を発現する遺伝子、および、診断およびワクチンへの適用に有用なこれらのタンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Helicobacter pyloriは、1982年に慢性胃炎患者の胃生検より初めて単離された、螺旋状の微好気性グラム陰性細菌である(Warrenら、Lancet i:1273−75(1983))。元来Campylobacter pyloriと呼ばれていたものが、別属に属するものと認められ、Helicobacterと命名された(Goodwinら、Int.J.Syst.Bacteriol.39:397−405(1989))。この細菌はヒト胃粘膜にコロニーを形成し、感染が何十年もの間継続する。ここ数年の間に、この細菌の存在は、大半の感染患者は無症候性であるが、消化性潰瘍および胃腺癌の危険性をかなり増大する症状である、慢性B型胃炎に関連づけられた。ごく最近の研究で、H.pylori感染が、B型胃炎、消化性潰瘍、および胃癌の原因または補助因子であり得ることが、強く示唆された(例えば、Blaser,Gastroenterology 93:371−83(1987);Dooleyら、New Engl.J.Med.321:1562−66(1989);Parsonnetら、New Engl.J.Med.325:1127−31(1991)を参照のこと)。H.pyloriは、経口経路により伝搬されると考えられており(Thomasら、Lancet i:340,1194(1992))、その感染の危険性は、年齢とともに増大し(Grahamら、Gastroenterology 100:1495−1501(1991))、群衆化により促進される(Drummら、New Engl.J.Med.4322:359−63(1990);Blaser.Clin.Infect.Dis.15:386−93(1992))。先進諸国では、H.pylori抗原に対する抗体の存在が、30才代の人では20%未満から、60才代では50%以上に増加している(Jonesら、Med.Microbio.22:57−62(1986);Morrisら、N.Z.Med.J.99:657−59(1986))が、一方発展途上国では、人口の80%以上が20才代までにすでに感染している(Grahamら、Digestive Diseases and Sciences 36:1084−88(1991))。
【0003】
H.pylori発病因子の特性および機能は、いまだによく理解されていない。今までのところ同定された因子には、おそらく粘膜層を越えて移動するために必要な鞭毛(例えば、Leyingら、Mol.Microbiol.6:2863−74(1992)を参照のこと);胃の酸性環境を中和し、初期のコロニー化を可能にするために必要なウレアーゼ(例えば、Cussacら、J.Bacteriol.174:2466−73(1992);Perez−Perezら、J.Infect.Immun.60:3658−3663(1992);Austinら、J.Bacteriol.174:7470−73(1992);PCT公開No.WO90/04030を参照のこと)、および、真核上皮細胞中に空胞形成をなし、疾患に関連するH.pylori株により産生される、報告によれば87kDaの分子量を有するモノマーにより形成された、高分子量細胞毒性タンパク質(例えば、Coverら、J.Bio.Chem.267:10570−75(1992)(特定のN末端23アミノ酸配列を有する「空胞形成毒素」を参照);Coverら、J.Clin.Invest.90:913−18(1992);Leunk,Rev.Infect.Dis.13:5686−89(1991)を参照のこと)が包含される。さらに、以下のことが周知である。
【0004】
H.pylori培養上清には、分子量が120、128、または130kDaである抗原が含有されることが、別々の著者により示された(Apelら、Aentralblat fur Bakteriol.Microb.und Hygiene 268:271−76(1988);Crabtreeら、J.Clin.Pathol 45:733−34(1992);Coverら、Infect.Imunn.58:603−10(1990);Figuraら、H.pylori qastritis and peptic ulcer
(Malfrtheinerら、編),Springer Verlag,Berlin(1990))。記載された抗原の大きさの相違は、同じタンパク質の分子量測定についての各研究室間の相違によるのか、同じ抗原の大きさの可変性によるのか、または、実際に異なるタンパク質であるのかは、明白ではなかった。このタンパク質についてのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の情報はなかった。H.pylori感染の実質的に全患者の血清中に、特異抗体が検出されたので、感染ヒト中で、このタンパク質は非常に免疫原性である(Gersteneckerら、Eur.J.Clin.Microbiol.11:595−601(1992))。
【0005】
H.pylori熱ショックタンパク質(hsp)が記載された(Evansら、Infect.Immun.60:2125−27(1992)〔44アミノ酸N末端配列および分子量約62kDa);Dunnら、Infect.Immun.60:1946−51(1992)(N末端配列中に認められた33アミノ酸および分子量約54kDa);Austinら、J.Bacteriol.174:7470−73(1992)(N末端配列中に認められた37アミノ酸および分子量約60kDa)〕。Austinらは、N末端に同じアミノ酸配列を有する同じタンパク質が事実存在することを示唆している。
【0006】
診断試験の例については、H.pylori溶解物または半精製抗原に基づいた〔Evansら、Gastroenterology 96:1004−08(1989);U.S.4,882,271;PCT公開No.WO89/08843(いずれもウレアーゼ活性を有する、外膜表面由来の同じ高分子量(300−700kDa)抗原を含有する組成物およびアッセイに関連する);EPO公開No.329 570(63、57、45および31kDaの群からの少なくとも1つのフラグメントを有する、H.pylori抗体を検出するための抗原性組成物に関する)を参照のこと〕。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
症候状態または無症候状態のH.pylori感染患者の割合は、発展途上国および先進国の両方において非常に高く、入院費および治療費からして、H.pyloriワクチンおよびこの疾患に対するさらなる診断試験の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、H.pyloriの3つの主要なタンパク質のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列に関する。詳細には、これらは、細胞毒素、「細胞毒素関連免疫優性」(CAI)抗原、および熱ショックタンパク質である。これらのタンパク質の完全なアミノ酸配列は未知であり、それらの遺伝子も同定されていない。本発明は、これらの精製タンパク質およびそれらの遺伝子に関するばかりではなく、それらに関連する組換え物、例えば、ベクターおよび宿主細胞にも関する。これらのタンパク質の分子レベルでの特性および機能についての理解、ならびに、組換え産物の入手可能性は、H.pyloriの新たな診断法の開発、および、H.pylori感染の予防および疾患の処置を行い得るワクチン設計に、重要な影響を及ぼす。
【0009】
このように、これらのタンパク質は、ワクチンおよび診断の両方の用途に使用され得る。本発明には、H.pyloriに関連する疾患の処置および診断のための方法が包含される。H.pyloriは、B型胃炎、消化性潰瘍、および胃腺癌に関連するので、本発明が、これらの疾患症状の初期検出および緩和の助けとなることが望まれる。最近では、診断は内視鏡および生検の組織学的染色に依存し、既存の免疫アッセイは、H.pylori溶解物または半精製抗原に基づく。このようなアッセイにおいて認められる不均一性により、疾患症状との相関性は十分には確立されていない。従って、組換え抗原に基づくアッセイは、疾患検出のための核酸アッセイと同様に優れる。従来、H.pylori感染または処置のための市販ワクチンは存在しない。従って、組換えワクチンは本発明の目的である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、H.pylori細胞毒素の精製タンパク質およびそれらの遺伝子が提供されるばかりではなく、それらに関連する組換え物、例えば、ベクターおよび宿主細胞もまた提供される。このタンパク質の分子レベルでの特性および機能についての理解、ならびに、組換え産物の入手可能性は、H.pyloriの新たな診断法の開発、および、H.pylori感染の予防および疾患の処置を行い得るワクチン設計に有用な影響を及ぼす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(A.一般的な方法論)
本発明の実施には、他に示されていなければ、当該分野の分子生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の方法を使用する。このような方法は、文献に十分に説明されている。例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING;A LABORATORY MANUAL,第二版(1989);DNA CLONING,VOLUMES I AND II(D.N. Glover編 1985);OLIGONUCLEOTIDE SYNTHESIS(M.J.Gait編 1984);NUCLEIC ACID HYBRIDIZATION(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編 1984);TRANSCRIPTION AND TRANSLATION(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編 1984);ANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney編 1986);IMMOBILIZED CELLS AND ENZYMES(IRL Press, 1986);B. Perbal,A PRACTICAL GUIDE TO MOLECULAR CLONING(1984);METHODS IN ENZYMOLOGYシリーズ(Academic Press,Inc.);GENE TRANSFER VECTORS FOR MAMMALIAN CELLS(J.H.MillerおよびM.P.Calos編 1987,Cold Spring Harbor Laboratory)、Methods in Enzymology Vol. 154およびVol.155(それぞれに、WuおよびGrossman、およびWu編)、MayerおよびWalker編(1987),IMMUNOCHEMICAL METHODS IN CELL AND MOLECULAR BIOLOGY (Academic Press,London)、Scopes,(1987),PROTEIN PURIFICATION:PRINCIPLES AND PRACTICE,第二版(Springer−Verlag,N.Y.)、および、HANDBOOK OF EXPERIMENTAL IMMUNOLOGY,VOLUMES I−IV (D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編 1986)を参照のこと。
【0012】
ヌクレオチドおよびアミノ酸の標準的な省略形が、本明細書中で使用されている。本明細書中に掲載されている、全ての刊行物、特許、および特許出願は、参考として援用されている。
【0013】
(B.定義)
H.pyloriの「細胞毒素」または「毒素」とは、図1〜3および4にそれぞれに示されているヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を有する、タンパク質またはそれらのフラグメント、ならびに、それらの誘導体のことであり、分子量は約140kDaである。このタンパク質は、分子量が約100kDaの細胞毒素活性を有するタンパク質の前駆体として機能する。細胞毒素は、空胞を形成して多くの真核細胞型を死滅させ、そして、H.pylori培養上清から精製された。さらに、細胞毒素は、タンパク性であり、ゲル濾過法による見かけの分子量約950−972kDaを有する。精製物質の変性ゲル電気泳動により、報告によれば、950ー972kDa分子の主要成分が、見かけの分子量87kDaのポリペプチドであったことが以前に示されている(Coverら、J.Biol.Chem.267:10570−75 1992)。しかし、本明細書中において、以前に記載された87kDaは、100kDaタンパク質のさらなるプロセッシングによるのか、または、精製中に大きなタンパク質がタンパク質分解したことによるかのいずれかであることが示唆される。
【0014】
「細胞毒素関連免疫優性」(CAI)抗原とは、図6〜8に記載されているアミノ酸配列を有するタンパク質およびそのフラグメント、およびそれらの誘導体のことである。これは、親水性の表面露出タンパク質であり、約120−132kDa、好ましくは128−130kDaの分子量を有し、臨床分離株から産生される。遺伝子の大きさ、およびコードされるタンパク質の大きさは、遺伝子内部の領域の複製を含む機構により、個々の株により変化する。CAI抗原を産生しない臨床分離株は、cai遺伝子を有さず、また活性細胞毒素も産生し得ない。cai遺伝子の存在と細胞毒性との関連は、cai遺伝子産物が、細胞毒素の転写、折り畳み、移送、または機能に必要であることを示唆する。または、細胞毒素(CT)およびcai遺伝子の両方が、非細胞毒性株には存在しない。このことは、2つの遺伝子間である種の物理的連鎖を示唆する。CAI抗原固有の特性は、大きさの可変性であり、このことはcai遺伝子が連続的に変化していることを示唆する。CAI抗原は、細胞表面に結合されるようである。このことは、上清中への抗原放出が、抗原自身または細菌表面に結合されたCAI抗原を有する複合体のいずれかを切断する、血清中に存在するプロテアーゼの作用のためであり得ることを示唆する。同様のプロセッシング活性が、インビボにおける増殖中に抗原を放出し得る。典型的なリーダーペプチド配列が存在しないことにより、非依存的移送系が存在することが示唆される。
【0015】
「熱ショックタンパク質」(hsp)とは、図9〜11に示されているアミノ酸配列を有する、H.pyloriタンパク質およびそのフラグメントのことであり、分子量は54−62kDaの範囲であり、好ましくは約58−60kDaである。このhspは、グラム陰性細菌熱ショックタンパク質群、hsp60に属する。一般的には、hspは、原核および真核いずれも、動物および植物の全ての生物中に最も保存されたタンパク質に属し、この保存は全配列に沿って広がっている。この高度の保存は、その活性を損なうことなく改変されることはあり得ない、タンパク質の機能構造に、全配列が関与することを示唆する。
【0016】
本発明に使用され得るタンパク質の例には、このタンパク質の天然アミノ酸配列から主要でないアミノ酸が変化したポリペプチドが含まれ、特に、同類アミノ酸置換が予測される。同類置換は、それらの側鎖が縁続きのアミノ酸ファミリー内でなされる置換である。遺伝的にコードされるアミノ酸は、一般に4つのファミリーに分けられる:(1)酸性=アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性=リシン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および、(4)非帯電極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、シスチン、セリン、スレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、ときには、合わせて、芳香族アミノ酸として分類される。例えば、ロイシンのイソロイシンまたはバリンによる置換、アスパラギン酸のグルタミン酸による置換、スレオニンのセリンによる置換、または、構造的に関連するアミノ酸による同様の同類置換などの分離された置換が、生物学的活性に重要な影響を与えないことが、当然予測される。タンパク質として実質的に同じアミノ酸配列を有するが、実質的に機能面に影響しない、主要でないアミノ酸置換を有するポリペプチド分子は、タンパク質の定義内に存在する。
【0017】
天然源からのタンパク質の単離および精製によるのではなく、組換えDNA法によるタンパク質の生産の重要な利点は、天然源からタンパク質を単離するために要求される開始物質より、より少量の物質を使用して、同量のタンパク質が生産され得ることである。組換え法によるタンパク質の生産はまた、細胞内に通常存在するある種の分子を伴わずにタンパク質を単離することを可能にする。組換え非ヒト宿主により産生されたヒトタンパク質のみが議論の組換えタンパク質であるので、事実、いかなるヒトタンパク質夾雑物も完全に含まないタンパク質組成物が、容易に生産され得る。天然源からの潜在的なウイルス因子、および、ヒトに対して病原性であるウイルス成分もまた除外される。
【0018】
本明細書中に使用されているように、用語「組換えポリヌクレオチド」は、ゲノム、cDNA、半合成または合成起源のポリヌクレチドを示し、その起源または操作により:(1)天然では結合しているポリヌクレオチドの全てまたは一部と結合しない、(2)天然ではそれに結合しているポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドに結合する、または(3)天然では存在しない。従って、この用語はまた、H. pylori細菌ゲノムが遺伝子的に改変されて(例えば、変異誘発により)、1つ以上の改変ポリペプチドを産生する状態も包含する。
【0019】
本明細書中に使用されているように、用語「ポリヌクレオチド」とは、任意の長さのヌクレオチド、好ましくはデオキシリボヌクレオチドのポリマー形態のことであり、本明細書中では、用語「オリゴヌクレオチド」および「オリゴマー」と相互変換的に使用される。この用語は、分子の一次構造のみを示す。従って、この用語には、二本鎖および一本鎖DNAおよびアンチセンスポリヌクレオチドが包含される。これにはさらに、既知の型の改変、例えば、当該分野で公知の標識の存在、メチル化、末端「caps」、1つ以上の天然に存在するヌクレオチドのアナログとの置換、ヌクレオチド間の改変(例えば、ある型の非荷電性結合(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバミン酸エステルなど)、または、荷電性結合(例えば、ホスホチオエート、ホスホロジチオエートなど)との置換)、ペンダント部分の導入(例えば、タンパク質(ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリーLーリシンなど)、挿入剤(例えば、アクリジン、プソラレン(psoralen))、キレーター(例えば、金属、放射性物質、ホウ素、酸化成分など)、アルキル化剤(例えば、αアノマー性核酸));が、包含される。
【0020】
用語「ゲノムの」により、ベクターにクローン化された制限フラグメント由来のDNA分子のコレクションまたはライブラリーを意味する。これには、微生物の遺伝子物質の全てまたは一部が包含される。
【0021】
用語「cDNA」により、mRNAの相補鎖にハイブリダイズする相補mRNA配列を意味する。
【0022】
本明細書中で使用されているように、用語「オリゴマー」は、プライマーおよびプローブの両方を意味し、本明細書では用語「ポリヌクレオチド」と相互変換的に使用される。用語オリゴマーは、分子の大きさを意味しない。しかし、典型的にオリゴマーは、1000ヌクレオチド未満、より典型的には500ヌクレオチド未満、さらに典型的には250ヌクレオチド未満であり、それらは100ヌクレオチド未満であり得、75ヌクレオチド未満、そしてさらに50ヌクレオチド未満の長さであり得る。
【0023】
本明細書中で使用されているように、用語「プライマー」とは、適切な条件下で使用されるときに、ポリヌクレオチド鎖の合成開始点として作用し得るオリゴマーのことである。プライマーは、コピーされるべきポリヌクレオチド鎖の領域に、完全にまたは実質的に相補的である。従って、ハイブリダイゼーションを行う条件下で、プライマーは、分析物である鎖の相補領域にアニールする。適切な反応物(例えば、ポリメラーゼ、ヌクレオチドトリホスフェートなど)の添加により、プライマーは、重合剤により伸長されて分析物である鎖のコピーを形成する。プライマーは一本鎖であり得るか、または、部分的または全体に二本鎖であり得る。
【0024】
用語「分析物ポリヌクレオチド」および「分析物鎖」とは、標的領域を含有すると思われる、一本鎖または二本鎖核酸分子のことであり、生物学的試料中に存在し得る。
【0025】
本明細書中で使用されているように、用語「プローブ」とは、標的配列中の配列とプローブ中の少なくとも1つの配列との相補性により、標的配列とハイブリッド構造を形成するポリヌクレオチドを含有する構造のことである。プローブのポリヌクレオチド領域は、DNAおよび/またはRNA、および/または合成ヌクレオチドアナログから構成され得る。「捕獲プローブ」および「標識プローブ」は、プローブ内に包含される。
【0026】
本明細書中で使用されているように、用語「標的領域」とは、増幅および/または検出されるべき核酸領域のことである。用語「標的配列」とは、プローブまたはプライマーが、所望の条件下で安定なハイブリッドを形成し得る配列のことである。
【0027】
本明細書中で使用されているように、用語「捕獲プローブ」とは、結合パートナーに組み合わされる一本鎖ポリヌクレオチドを有するポリヌクレオチドプローブのことである。この一本鎖ポリヌクレオチドは、標的するポリヌクレオチド配列に含有され、これは、分析物ポリヌクレオチド中の検出されるべき標的領域内の標的配列に相補的である。この相補領域は、二本鎖に、分析物ポリヌクレオチドを固体表面に固定する(結合パートナーを介して)のに十分に安定性を与えるために、十分な長さからなり、標的配列に対して相補的である。結合パートナーは、第二の結合パートナーに特異的であり、第二の結合パートナーは、固体支持体の表面に結合され得るか、または、その他の構造物または結合パートナーを介して間接的に固体支持体に結合され得る。
【0028】
本明細書中で使用されているように、用語「標的するポリヌクレオチド配列」とは、標的ヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列が含有されるポリヌクレチド配列のことであり、その配列は、意図される目的に十分な安定性を有する二本鎖を形成するのに、十分な長さからなり、標的配列に相補的である。
【0029】
本明細書中で使用されているように、用語「結合パートナー」とは、例えば、抗原とそれに特異的な抗体のような、高度な特異性を有するリガンド分子を結合し得る分子のことである。一般的に、特異結合パートナーは、単離条件下で、分析物コピー/相補鎖の二本鎖(捕獲プローブの場合)を固定するのに十分な親和性で結合する。特異結合パートナーは、当該分野で公知であり、例えば、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジン、IgGとプロテインA、多くの既知のレセプター−リガンド対、および、相補的ポリヌクレオチド鎖を包含する。相補的ポリヌクレオチド結合パートナーの場合には、パートナーは通常、少なくとも約15塩基の長さであり、少なくとも40塩基であり得、さらに、少なくとも約40%から約60%のG+C含有量を有する。ポリヌクレオチドは、DNA、RNAまたは合成ヌクレオチドアナログを含み得る。
【0030】
本明細書中で使用されているように、用語「カップルした(coupled)」とは、共有結合によるまたは非共有結合の強い相互作用(例えば、疎水相互作用、水素結合など)による付着のことである。共有結合は、例えば、エステル、エーテル、リン酸エステル、アミド、ペプチド、イミド、炭素−イオウ結合、炭素−リン結合などであり得る。
【0031】
用語「支持体」とは、所望の結合パートナーが固定され得る、いずれもの固体または半固体の表面のことである。適切な支持体には、ガラス、プラスチック、金属、ポリマーゲルなどが含まれ、ビーズ、ウエル、ディップスティック、膜などの形態にされ得る。
【0032】
本明細書中で使用されているように、用語「標識」とは、検出し得る(好ましくは定量し得る)シグナルを提供するために使用され得、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに結合され得る、いずれもの元素または部分のことである。
【0033】
本明細書中で使用されているように、用語「標識プローブ」とは、分析物ポリヌクレオチド中の検出されるべき標的配列に相補的である、標的するポリヌクレオチド配列を含有するポリヌクレオチドプローブのことである。この相補領域は、「標識プローブ」および「標識配列」を含有する二本鎖が、標識により検出されるように、十分な長さからなり、標的配列に相補的である。標識プローブは、直接に、または、マルチマーを含む、互いに高度な特異性を有する1組のリガンド分子を介して間接に、標識とカップルする。
【0034】
本明細書中で使用されているように、用語「マルチマー」とは、同じ繰り返しの一本鎖ポリヌクレオチドユニットまたは異なる一本鎖ポリヌクレオチドユニットの、直鎖状または分枝状ポリマーのことである。ユニットの少なくとも1つは、目的の、第一の一本鎖ヌクレオチド配列、典型的には分析物または分析物に結合したポリヌクレオチドプローブ(例えば、標識プローブ)に特異的にハイブリダイズし得る、配列、長さ、および組成を有する。このような特異性および安定性を得るために、このユニットは、通常は少なくとも約15ヌクレオチドの長さであり、典型的には約50ヌクレオチド以下の長さ、そして好ましくは約30ヌクレオチドの長さであり;G+C含有量は、通常は少なくとも約40%、ほとんどは約60%である。このようなユニットに加えて、マルチマーには、目的の第二の一本鎖ヌクレオチド、典型的には標識ポリヌクレオチドまたはその他のマルチマーに、特異的および安定にハイブリダイズし得る、多くのユニットが包含される。これらのユニットは、上記に考察されたマルチマーのように、一般にはほぼ同じ大きさおよび組成である。マルチマーがその他のマルチマーにハイブリダイズされるように設計されているときには、第一および第二のオリゴヌクレオチドユニットは異質(異なる)であり、選択されたアッセイの条件下では、互いにはハイブリダイズしない。従って、マルチマーは、標識プローブであり得るか、または標識をプローブにカップルするリガンドであり得る。
【0035】
「レプリコン」は、細胞内のポリヌクレオチド複製の自己複製ユニットとして挙動する、すなわち、自己制御下に複製し得るいずれもの遺伝子エレメント、例えば、プラスミド、染色体、ウイルス、コスミドなどである。これには選択マーカーが含まれる。
【0036】
「PCR」とは、Saikiら、Nature 324:163(1986);およびScharfら、Science(1986)233:1076−1078;および米国特許第4,683,195号;ならびに米国特許第4,683,202号に記載されているようなポリメラーゼ連鎖反応のことである。
【0037】
本明細書中で使用されているように、本来xが、同じ様式でyに関連しない場合に、xはyに関して「異種」である。すなわち、天然ではxが全くyに関連しないか、または、天然に実在して認められるような同じ様式でyに関連しない。
【0038】
「相同性」とは、xとyとの間の類似性の程度のことである。1つの形態の配列と別の配列との類似は、当該分野で公知の方法により決定され得る。例えば、それらはポリヌクレオチドの配列情報の直接比較により決定され得る。または、相同は、相同領域(例えば、S1消化の前に使用される)間で安定な二本鎖を形成する条件下でポリヌクレオチドをハイブイブリダイズし、その後、一本鎖特異ヌクレアーゼにより消化し、その後に消化されたフラグメントの大きさを決定することにより決定され得る。
【0039】
「ベクター」は、別のポリヌクレオチドセグメントが接続されて、この接続されたセグメントの複製および/または発現をもたらすレプリコンである。
【0040】
「制御配列」とは、それらが連結されるコーディング配列の発現をもたらすために必要であるポリヌクレオチド配列のことである。このような制御配列の性質は、宿主生物に依存して異なる;原核生物では、このような制御配列は、一般的にプロモーター、リボソーム結合部位、および転写終止配列を含み;真核生物では、一般的に、このような制御配列は、プロモーターおよび転写終止配列を含む。用語「制御配列」は、最少限、発現に必要とされる全成分を含み、さらに存在が有利である付加的な成分、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列を含み得ると意図される。
【0041】
「作動可能に連結された」とは、記載されている成分が、それらの意図する様式で機能し得る関係にある並列のことである。コーディング配列に「作動可能に連結された」制御配列は、コーディング配列の発現が制御配列に適合した条件下で得られるように連結されている。
【0042】
「オープンリーディングフレーム」(ORF)は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の領域のことである;この領域は、コーディング配列の一部またはコーディング配列全てを示し得る。
【0043】
「コーディング配列」は、適切な調節配列の制御下におかれると、通常はmRNAを介してポリペプチドに翻訳されるポリヌクレオチド配列である。コーディング配列の境界は、5’末端の翻訳開始コドンおよび3’末端の翻訳終止コドンにより決定される。コーディング配列には、cDNAおよび組換えポリヌクレオチド配列が含まれる得るが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書中で使用されているように、用語「ポリペプチド」は、アミノ酸のポリマーを指し、特定の長さの産物を指すわけではない;従って、ペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質が、ポリペプチドの定義内に包含される。この用語にはまた、ポリペプチドの発現後改変(例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化など)は意味されず、すなわち包含されない。定義に包含されるのは、例えば、アミノ酸の1つ以上のアナログを含有するポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、置換結合を有するポリペプチド、および当該分野で公知の天然に存在するおよび存在しない改変である。
【0045】
示された核酸配列「由来の」ポリペプチドまたはアミノ酸配列とは、配列にコードされたポリペプチドのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、またはそれらの部分、ここで、この部分は、少なくとも3−5アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも8−10アミノ酸、そしてよりさらに好ましくは少なくとも11−15アミノ酸からなる、または配列にコードされたポリペプチドにより免疫学的に同定され得るポリペプチドのことである。この用語にはまた、示された核酸配列から発現されるポリペプチドも包含される。
【0046】
「免疫原性の」とは、アジュバントの存在または非存在下で、それのみで、またはキャリアに結合されて、体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答を引き起こすポリペプチドの能力のことである。「中和」とは、感染因子の感染力を、部分的または全体的に抑制する免疫応答のことである。
【0047】
「エピトープ」とは、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の抗原決定基のことである;1つのエピトープは、そのエピトープに対して唯一の高次構造(spatial conformation)で、3つ以上のアミノ酸を含み得る。一般的には、エピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸からなり、さらに通常には少なくとも8−10のこのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の高次構造の決定方法は当該分野では公知であり、例えば、これらには、x線結晶解析および二次元核磁気共鳴が含まれる。同じエピトープを認識する抗体は、1つの抗体が標的抗原に対するその他の抗原の結合を阻む能力を示す、簡単な免疫アッセイにおいて同定され得る。
【0048】
本明細書中で使用されているように、「処置(treatment)」とは、予防および/または治療(therapy)(すなわち、あらゆる疾患症状の調整)のことである。「個体(individual)」は、H.pylori感染が疑われる動物を意味し、これにはヒトを含む霊長類が包含されるが、これらに限定されない。「ワクチン」は、免疫原性の、または、部分的または完全にH.pyloriに対する保護を誘起し得る、個体の処置に有用な組成物である。
【0049】
H.pyloriタンパク質は、このタンパク質に特異的な、モノクローナルまたはポリクローナル抗体の産生に使用され得る。これらの抗体を産生する方法は、当該分野で公知である。
【0050】
「組換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞培養物」、およびその他のこのような用語は、組換えベクターまたは他の転移DNAの受容体として使用され得るか、または使用されてきた、微生物、昆虫細胞、および哺乳類細胞を示し、これには、形質転換されたもとの細胞の子孫も包含される。1つの母細胞の子孫は、自然突然変異、偶発突然変異または意図的突然変異(deliberate mutation)のために、形態学的に、または、ゲノムDNAまたは全DNA成分が、もとの母細胞と完全に同一である必要はないことが理解される。哺乳類宿主細胞の例には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞およびサル腎(COS)細胞が含まれる。
【0051】
特定して、本明細書中で使用されているように、用語「細胞系」とは、インビトロにおいて継続してまたは長期間に増殖および分裂し得る細胞群のことである。しばしば、細胞系は1つの幹細胞(progenitor cell)からのクローン群である。このようなクローン群の貯蔵または転移の間に、核型に自発変化または誘導変化が起こり得ることが、当該分野では公知である。従って、いわゆる細胞系由来の細胞は、祖先細胞または培養物に正確には同一ではなく、この細胞系には、このような変異体が包含される。用語「細胞系」はまた、不死化細胞を包含する。好ましくは、細胞系は、非ハイブリッド細胞系、または二細胞型のハイブリドーマを包含する。
【0052】
本明細書中で使用されているように、用語「微生物」には、細菌および真菌のような、原核微生物種および真核微生物種が包含され、後者には、酵母および糸状菌が含まれる。
【0053】
本明細書中で使用されているように、「形質転換」とは、挿入に用いられる方法(例えば、直接取り込み、形質導入、f−交配またはエレクトロポーレーション)に関係なく、外因性ポリヌクレオチドの宿主細胞への挿入のことである。外因性ポリヌクレオチドは、非組込みベクター(例えばプラスミド)として維持され得るか、または、宿主細胞ゲノムに組み込まれ得る。
【0054】
ポリペプチドまたはヌクレオチド配列に関するときには、「精製された」および「単離された」とは、示された分子が、同じ型のその他の生物学的高分子を実質的に含まずに存在することを意味する。本明細書中で使用されているように、用語「精製された」は、好ましくは、同じ型の生物学的高分子が、少なくとも75重量%、さらに好ましくは少なくとも85重量%、さらに好ましくは95重量%、そして最も好ましくは98重量%で存在することを意味する(しかし、水、緩衝液、およびその他の小分子、特に、1000未満の分子量を有する分子は存在し得る)。
【0055】
(C.核酸アッセイ)
基本としてH.pyloriゲノムを使用して、約8ヌクレオチド以上のポリヌクレオチドプローブは、cDNAに加えて、RNAの正鎖またはその相補鎖にハイブリダイズするように調製され得る。これらのポリヌクレオチドは、ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの検出、単離および/または標識用のプローブとして、および/または標的配列の転写および/または複製用のプライマーとして働く。各プローブは標的するポリヌクレオチド配列を含有し、標的ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチドから構成される;その配列は、意図する目的に対して十分に安定性を有する二本鎖を形成するために、十分な長さからなり、その配列に相補的である。例えば、目的が、標的配列を含有する分析物を固定化により単離することであるときには、プローブは、単離条件下で分析物を固体表面上に固定するのに十分な二本鎖安定性をもたらすために、十分な長さからなる、標的される配列に相補的であるポリヌクレオチド領域を含有する。さらに例えば、標的配列の転写および/または複製用のプライマーとして働くときには、プローブは、複製を成し遂げるために、十分な長さからなる、標的される配列に相補的であるポリヌクレオチド領域を含有する。さらに例えば、ポリヌクレオチドプローブが、標識プローブとして用いられるか、またはマルチマーに結合されるときには、標的するポリヌクレオチド領域は、標識プローブおよび/またはマルチマーと安定なハイブリッド二本鎖構造を形成するのに、十分な長さからなり、相補的である。このプローブは、標的される配列に相補的である、最低約4つの連続したヌクレオチドを含有し得る;通常は、このオリゴマーは、標的される配列に相補的な最低約8つの連続したヌクレオチド、そして好ましくは標的される配列に相補的な最低約14個の連続したヌクレオチドを含有する。
【0056】
しかし、プローブは、標的される配列に相補的な配列のみからなる必要はない。それらは、さらなるヌクレオチド配列またはその他の部分を含有し得る。例えば、プローブがPCRによる配列の増幅のためのプライマーとして使用されるときには、それらは、二本鎖の場合には、増幅される配列のクローニングを促進する制限酵素部位を形成する配列を含有し得る。さらに例えば、プローブがハイブリダイゼーションアッセイでの「捕獲プローブ」として使用されるときには、それらは、上記定義のような「結合パートナー」にカップルされる。プローブの調製は、当該分野で公知の手段により、このような手段には、例えば、切り出し、転写、または化学合成を含む方法によることが含まれる。
【0057】
(D.発現系)
一旦、適切なH.pyloriコーディング配列が単離されると、それは種々の異なる発現系、例えば、哺乳類細胞、バキュロウイルス、細菌、および酵母により用いられる発現系、で発現され得る。
【0058】
(i.哺乳類系)
哺乳類発現系は当該分野で公知である。哺乳類プロモーターは、哺乳類RNAポリメラーゼを結合し得、コーディング配列(例えば、構造遺伝子)のmRNAへの下流(3’)転写を開始し得る、いずれものDNA配列である。プロモーターは、通常はコーディング配列の5’末端近傍に位置する転写開始領域、および、通常は転写開始部位の上流25−30塩基対(bp)に位置するTATAボックスを有する。TATAボックスは、RNAポリメラーゼIIがRNA合成を適切な部位で開始させるのを導くと考えられている。哺乳類プロモーターはさらに、通常はTATAボックスの上流100から200bp内に位置する上流プロモーターエレメントを有する。上流プロモーターエレメントは、転写が開始される速度を決定し、いずれかの向きに作用し得る(Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第二版
(1989))。
【0059】
哺乳類ウイルス遺伝子は、しばしば高度に発現され、広範囲の宿主を有する;従って、哺乳類ウイルス遺伝子をコードする配列は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例には、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP)、および単純ヘルペスウイルスプロモーターが含まれる。さらに、ネズミメタロチオネイン(metallotheionein)遺伝子のような非ウイルス遺伝子由来の配列もまた、有用なプロモーター配列を提供する。発現は、構成的または調節され得(誘導可能な)、プロモーターに依存して、ホルモン−応答細胞中でグルココルチコイドにより誘導され得る。
【0060】
上記のプロモーターエレメントに組み合わされたエンハンサーエレメント(エンハンサー)の存在は、通常は発現レベルを増大させる。エンハンサーは、相同または異種プロモーターに連結されたときに、通常のRNA開始部位で合成を開始して、最高1000倍まで転写を促進し得る調節DNA配列である。さらに、エンハンサーは、通常の向きまたは裏返しの向きで転写開始部位から上流または下流に、または、プロモーターから1000ヌクレオチドを超える位置に配置されるときに活性である(Maniatisら、Scince 236:1237(1989);Albertsら、Molecular Biology of
the Cell,第二版(1989))。ウイルス由来のエンハンサーエレメントは、通常は広範囲の宿主を有するので、特に有用である。例には、SV40初期遺伝子エンハンサー(Dijkemaら、(1985) EMBO J.
4:761)、および、ラウス肉腫ウイルスの長末端反復(LTR)由来(Gormanら、(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.79:6777)およびヒトサイトメガロウイルス由来(Boshartら、(1985)Cell 41:5221)のエンハンサー/プロモーターが含まれる。さらに、いくつかのエンハンサーは、調節可能であり、ホルモンまたは金属イオンのような誘導物質が存在するときのみに活性になる(Sassone−Corsiら、(1986)Trends Genet.2:215;Maniatisら、(1987)Science 236:1237)。
【0061】
DNA分子は、哺乳類細胞において細胞内に発現され得る。プロモータ配列はDNA分子に直接連結され得るが、この場合にはいつも、組換えタンパク質のN末端の最初のアミノ酸がメチオニンであり、ATG開始コドンによりコードされる。所望であれば、N末端は、インビトロにおける臭化シアンとのインキュベーションにより、タンパク質から切断され得る。
【0062】
あるいは、外来タンパク質はまた、哺乳類細胞で外来タンパク質の分泌をなすリーダー配列フラグメントを含む、融合タンパク質をコードするキメラDNA分子をつくることにより、細胞から増殖培地内に分泌され得る。好ましくは、リーダーフラグメントと外来遺伝子との間でコードされるプロセッシング部位が存在し、これは、インビボまたはインビトロのいずれかにおいて切断され得る。リーダー配列フラグメントは通常、細胞からのタンパク質の分泌を導く、疎水性アミノ酸から構成されるシグナルペプチドをコードする。アデノウイルス3分節系リーダーは、哺乳類細胞内での外来タンパク質の分泌を提供するリーダー配列の例である。
【0063】
一般には、哺乳類細胞により認識される転写終止およびポリアデニル化配列は、翻訳終止コドンに対し3’側に位置する調節領域であり、従って、プロモーターエレメントとともに、コーディング配列に隣接する。成熟mRNAの3’末端は、部位特異的に翻訳後に切断され、ポリアデニル化されて形成される(Birnstielら、(1985)Cell 41:349;ProudfootおよびWhitelaw(1988)「真核RNAの終結および3’末端プロセッシング(Termination and 3’ end processing of eukaryotic RNA)」Transcription and splicing(B.D.HamesおよびD.M.Glover編);Proudfoot(1989)Trends Biochem.Sci.14:105)。これらの配列は、DNAによりコードされるポリペプチドに翻訳され得るmRNAの転写を導く。転写ターミネーター/ポリアデニル化シグナルの例には、SV40由来のものが含まれる(Sambrookら(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual.)。
【0064】
いくつかの遺伝子は、イントロン(介在配列とも呼ばれる)が存在するときに、より効率よく発現され得る。しかし、数個のcDNAは、スプライシングシグナル(スプライス供与部位および受容部位とも呼ばれる)が欠如しているベクターから効率よく発現された(例えば、GethingおよびSambrook (1981)Nature 293:620を参照のこと)。イントロンは、スプライス供与部位および受容部位を有するコーディング配列内の介在非コーディング配列である。それらは、一次転写物のポリアデニル化の後に、「スプライシング」と呼ばれるプロセスにより除去される(Nevins(1983)Annu.Rev.Biochem.52:441;Green(1986)Annu.Rev.Genet.20:671;Padgettら、(1986)Annu.Rev.Biochem.55:1119;KrainerおよびManiatis(1988)「RNAスプライシング(RNA splicing)」,Transcription and splicing(B.D.HamesおよびD.M.Glover編))。
【0065】
通常、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およ転写終止配列を含有する上記の成分は、発現構築物中に組み立てられる。エンハンサー、機能性スプライス供与部位および受容部位を有するイントロン、およびリーダー配列もまた、所望であれば発現構築物中に含まれる。発現構築物は、哺乳類細胞または細菌のような宿主中で安定に維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中に維持される。哺乳類複製系には、複製にトランス作用因子が必要とされる動物ウイルス由来のものが含まれる。例えば、SV40のようなパポーバウイルス(Gluzman(1981)Cell 23:175)またはポリオーマウイルスの複製系を含むプラスミドが、適切なウイルスT抗原存在下で、非常に多数のコピーを複製する。哺乳類レプリコンのさらなる例には、ウシパピローマウイルスおよびエプスタイン・バーウイルス由来のものが含まれる。さらに、レプリコンは2つの複製系を有し得、このため、例えば、発現のために哺乳類細胞中に、およびクローニングおよび増幅のために原核生物宿主中に維持される。このような哺乳類−細菌シャトルベクターの例には、pMT2(Kaufmanら(1989)Mol.Cell.Biol.9:946)、およびpHEBO(Shimizuら(1986)Mol.Cell.Biol.6:1074)が含まれる。
【0066】
使用される形質転換方法は、形質転換されるべき宿主に依存する。異種ポリヌクレオチドの哺乳類細胞への導入方法は、当該分野で公知であり、デキストラン介在トランスフェクション、リン酸カルシウム沈降法、ポリブレン介在トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーションポリヌクレオチドのリポソーム内へのカプセル化、および、DNAの核への直接マイクロインジェクションを包含する。
【0067】
発現用の宿主として入手可能な哺乳類細胞系は、当該分野で公知であり、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌腫細胞(例えば、HepG2)および多くのその他の細胞系を含む、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞系を包含する。
【0068】
(ii.バキュロウイルス系)
タンパク質をコードするポリヌクレオチドもまた、適切な昆虫発現ベクターに挿入され得、ベクター内の制御エレメントに作動可能に連結される。ベクター構築には、当該分野で公知の方法が用いられる。
【0069】
一般的に、発現系の成分には転移ベクター、通常は細菌プラスミドが含まれ、これは、バキュロウイルスゲノムフラグメントと、発現されるべき異種の遺伝子または遺伝子群挿入のための便宜的な制限部位との両方;転移ベクター内のバキュロウイルス特異フラグメントに相同な配列を有する野生型バキュロウイルス(これは、バキュロウイルスゲノム内への異種遺伝子の相同的組換えを考慮する);および、適切な昆虫宿主細胞および増殖培地を含む。
【0070】
タンパク質をコードするDNA配列を転移ベクター内に挿入した後に、ベクターおよび野生型ウイルスゲノムが、昆虫宿主細胞内へトランスフェクトされ、そこでベクターとウイルスゲノムとの組換えが起こる。パッケージングされた組換えウイルスが発現され、組換えプラークが同定および精製される。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系用の材料および方法は、キット形態で、特に、Invitrogen,San Diego CA(”MaxBac”キット)から市販されている。これらの方法は当業者に公知であり、SummersおよびSmith, Texas Agricultural Experimennt Station Bulletin No.1555(1987)(以後、「SummersおよびSmith」)に十分に記載されている。
【0071】
タンパク質をコードするDNA配列をバキュロウイルスゲノムに挿入する前に、プロモーター、リーダー(所望であれば)、目的のコーディング配列、および転写終止配列を含む上記の成分が、通常は中間置換構築物(intermediate transplacement construct)(転移ベクター)に組み立てられる。この構築物は、1つの遺伝子および作動可能に連結された調節エレメント;各遺伝子がそれ自身の固有のセットの作動可能に連結された調節エレメントを有する複数の遺伝子;または、同じセットの調節エレメントに調節される複数の遺伝子、を含む。中間置換構築物はしばしば、細菌のような宿主中で安定して維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中に維持される。レプリコンは1つの複製系を有し、このため、クローニングおよび増幅のために適切な宿主中に維持される。
【0072】
現在では、AcNPVへ外来遺伝子を導入するための最も一般的に使用される転移ベクターは、pAc373である。当業者に公知のその他の多くのベクターもまた設計されている。これらは、例えば、pVL985(ポリヘドリン開始コドンをATGからATTに変え、ATT下流32塩基対にBamHIクローニング部位を導入する;LuckowおよびSummers,Virology(1989)17:31を参照)。
【0073】
プラスミドは通常さらに、ポリヘドロンポリアデニル化シグナル(Millerら(1988)Ann.Rev.Microbiol.,42:177)、および、選択およびE.coli中での増殖のための原核アンピシリン耐性(amp)遺伝子および複製起点を含有する。
【0074】
バキュロウイルス転移ベクターは通常、バキュロウイルスプロモーターを含有する。バキュロウイルスプロモーターは、バキュロウイルスRNAポリメラーゼを結合し得、そしてコーディング配列(例えば、構造遺伝子)のmRNAへの下流(5’から3’)翻訳を開始し得る、いずれものDNA配列である。プロモーターは、コーディング配列の5’末端近傍に通常位置する転写開始領域を有する。この転写開始領域は通常、RNAポリメラーゼ結合部位および転写開始部位を含有する。バキュロウイスル転移ベクターもまた、エンハンサーと呼ばれる第二ドメインを有し、これは存在する場合には、構造遺伝子の遠位に存在する。発現は調節され得るか、または構成的であり得る。
【0075】
ウイルス感染サイクルの後期に多量に転写された構造遺伝子は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例には、ウイルスポリヘドロンタンパク質をコードする遺伝子由来の配列(Friesenら、(1986)「バキュロウイルス遺伝子発現の調節(The Regulation of Baculovirus Gene Expression)」,The Molecular Biology of Baculoviruses(Walter Doerfler編);EPO公開No.127 839およびNo.155 476);および、p10タンパク質をコードする遺伝子(Vlakら、(1988),J.Gen.Virol.69:765)が含まれる。
【0076】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、バキュロウイルスポリヘドリン遺伝子のような、昆虫またはバキュロウイルス分泌タンパク質の遺伝子由来であり得る(Carbonellら(1988)Gene,73:409)。あるいは、哺乳類細胞の翻訳後の改変(シグナルペプチド切断、タンパク質分解切断、およびリン酸化のような)のためのシグナルは、昆虫細胞により認識されると考えられており、そして分泌に必要なシグナルおよび核集積は、無脊椎動物および脊椎動物間で保存されているとも考えられているので、ヒトα−インターフェロン(Maedaら、(1985),Nature 315:592);ヒトガストリン放出ペプチド(Lebacq−Verheydenら、(1988),Molec.Cell.Biol.8:3129);ヒトIL−2(Smithら、(1985)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,82:8404);マウス IL−3,(Miyajimaら、(1987)Gene 58:273;ヒトグルコセレブロシダーゼ(Martinら(1988)DNA 7:99)をコードする遺伝子由来のような、非昆虫起源のリーダーもまた、昆虫での分泌を提供するために使用され得る。
【0077】
組換えポリペプチドまたはポリタンパク質は、細胞内に発現され得るか、または、適切な調節配列で発現されれば分泌され得る。非融合外来タンパク質の良好な細胞内発現は通常、ATG開始シグナルの前に適切な翻訳開始シグナルを含有する短いリーダー配列を理想的に有する異種遺伝子を必要とする。所望であれば、N末端のメチオニンは、インビトロにおける臭化シアンとのインキュベーションにより、成熟タンパク質から切断され得る。
【0078】
あるいは、天然では分泌されない組換えポリタンパク質またはタンパク質は、昆虫において外来タンパク質の分泌を提供するリーダー配列フラグメントを有する融合タンパク質をコードするキメラDNA分子をつくることにより、昆虫細胞から分泌され得る。リーダー配列フラグメントは通常、小胞体へのタンパク質の輸送(translocation)を導く、疎水性アミノ酸を有するシグナルペプチドをコードする。
【0079】
タンパク質の発現産物の前駆体をコードするDNA配列および/または遺伝子の挿入後に、昆虫細胞宿主を、転移ベクターの異種DNAと野生型バキュロウイルスのゲノムDNAとで共形質転換(通常は共トランスフェクション)する。構築物のプロモーターおよび転写終止配列は、通常バキュロウイルスゲノムの2−5kb断片を含有する。バキュロウイルスの所望の部位に異種DNAを導入する方法は、当該分野で公知である。(SummersおよびSmith;Juら(1987);Smithら、Mol.Cell.Biol.(1983)3:2156;および、LuckowおよびSummers(1989)を参照のこと)。例えば、挿入は、ポリヘドリン遺伝子のような遺伝子に、相同的二本鎖交差組換えによりなされ得る;挿入はまた、所望のバキュロウイルス遺伝子中に設計された制限酵素部位になされ得る。Millerら、(1989),Bioessays 4:91。
【0080】
DNA配列は、発現ベクターのポリヘドリン遺伝子の位置にクローニングされたときには、ポリヘドリン特異配列により、5’および3’両側に隣接され、ポリヘドリンプロモーターの下流に配置される。
【0081】
新たに形成されたバキュロウイルス発現ベクターは、次に、感染性組換えバキュロウイルス中にパッケージングされる。相同的組換えは低頻度(約1%から約5%の間)で生じるため、共トランスフェクション後に産生された主要なウイルスは、まだ野生型である。従って、組換えウイルスを同定する方法が必要である。発現系の利点は、視覚スクリーニングにより、組換えウイルスの区別が可能であることである。天然ウイルスにより産生されるポリヘドリンタンパク質は、ウイルス感染後、後期に感染細胞の核に非常に高レベルで産生される。集積されたポリヘドリンタンパク質は、埋め込まれた粒子をも含む封入体を形成する。これらの封入体は、15μmまでの大きさであり、非常に屈折性であるために、光学顕微鏡下で容易に視覚化される光沢のある外観となる。組換えウイルスに感染した細胞には、封入体がない。野生型ウイルスから組換えウイルスを区別するには、トランスフェクション上清を、当業者に公知の方法により、単層の昆虫細胞上でプラーク形成させる。すなわち、プラークを光学顕微鏡下で、封入体の存在(野生型ウイルスの指標)または非存在(組換えウイルスの指標)についてスクリーニングする。”Current Protocols in Microbiology” Vol.2(Ausubelら編)16.8(Supp. 10, 1990);SummersおよびSmith;Millerら(1989)。
【0082】
組換えバキュロウイルス発現ベクターは、数種の昆虫細胞への感染のために開発されている。例えば、組換えバキュロウイルは、とりわけ、Aedes aegypti、Autographa californica、Bombyx mori、Drosophila melanogaster、Spodoptera frugiperda、およびTrichoplusia niのために開発されている(PCT公開No.WO89/046699;Carbonellら、(1985)J.Virol.56:153;Wright(1986)Nature 321:718;Smithら、(1983)Mol.Cell.Biol.3:2156;および一般的にはFraserら(1989)In Vitro Cell.Dev.Biol.25:225を参照のこと)。
【0083】
細胞および細胞培養培地は、バキュロウイルス/発現系での異種ポリペプチドの直接発現および融合発現市販されている;細胞培養法は、一般に当業者に公知である。例えば、SummersおよびSmithを参照のこと。
【0084】
次に、改変昆虫細胞は、適切な栄養培地で増殖され得る。この栄養培地により、改変昆虫宿主内に存在するプラスミドは安定に維持され得る。発現産物遺伝子が誘導制御下にある場合には、宿主は高密度に増殖され得、発現が誘導され得る。あるいは、発現が構成的である場合には、産物は培地に連続的に発現される。目的の産物を取り出し、枯渇した栄養分を補給しながら、栄養培地を連続的に取り替えねばならない。産物は、例えば、HPLC、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー;電気泳動;密度勾配遠心分離;溶媒抽出などの方法で精製され得る。適切には、培地に分泌されるかまたは昆虫細胞溶解から生じるいずれもの昆虫タンパク質を実質的に除去するために、宿主の破片(例えば、タンパク質、脂質および多糖類)を少なくとも実質的に含まない産物を提供するために、必要であれば産物はさらに精製され得る。
【0085】
タンパク質発現を得るために、形質転換体由来の組換え宿主細胞は、配列をコードする組換えタンパク質の発現を可能にする条件下でインキュベートされる。これらの条件は、選択される宿主細胞に依存して変化する。しかし、条件は、当該分野で公知のものに基づいて、当業者に容易に確認され得る。
【0086】
(iii.細菌系)
細菌発現法は当該分野で公知である。細菌プロモーターは、細菌RNAポリメラーゼに結合し得、コーディング配列(例えば、構造遺伝子)のmRNAへの下流(3’’)転写を開始し得るいずれものDNA配列である。プロモーターは、通常コーディング配列の5’末端近傍に位置する転写開始領域を有する。この転写開始領域は通常、RNAポリメラーゼ結合部位および転写開始部位を含む。細菌プロモーターはまた、オペレーターと呼ばれる第二ドメインを有し得、これは、RNA合成を開始する位置である隣接RNAポリメラーゼ結合部位に重複し得る。遺伝子リプレッサータンパク質はオペレターに結合し得、そのことにより特異遺伝子の転写を阻害し得るので、オペレーターは、負の調節(誘導可能な)転写を行い得る。構成的発現は、オペレーターのような負の調節エレメントの非存在下で起こり得る。さらに、正の調節は、遺伝子活性化タンパク質結合配列により達成され得、これは、存在する場合には、通常RNAポリメラーゼ結合配列(5’)の近くに存在する。遺伝子活性化タンパク質の例は、カタボライト活性化タンパク質(CAP)であり、これは、E.coliでのlacオペロンの転写開始を助ける(Raibaudら(1984)Annu.Rev.Genet.18:173)。従って、調節的発現は正または負のいずれかであり得、そのことにより転写を促進または減退する。
【0087】
代謝経路の酵素をコードする配列は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例には、ガラクトース、ラクトース(lac)(Changら(1977)Nature 198:1056)、およびマルトースのような糖代謝酵素由来のプロモーター配列が含まれる。さらなる例には、トリプトファン(trp)のような生合成酵素由来のプロモーター配列が含まれる(Goeddelら(1980)Nuc.Acids Res.8:4057;Yelvertonら(1981)Nucl.Acids Res.9:731;米国特許第4,738,921号;EPO公開No.036776およびNo.121775)。g−ラオタマーゼ(g−laotamase)(bla)プロモーター系(Weissmann(1981)「インターフェロンのクローニングおよびその他のmistakes(The cloning of interferon and other mistakes)」 Interferon 3(I.Gresser編)、バクテリオファージλPL(Shimatakeら(1981)Nature 292:128)、およびT5(米国特許第4,689,406号)プロモーター系もまた、有用なプロモーター配列を提供する。
【0088】
さらに、天然に存在しない合成プロモーターもまた細菌プロモーターとして機能する。例えば、1つの細菌またはバクテリオファージプロモーターの転写活性化配列は、その他の細菌またはバクテリオファージプロモーターのオペロン配列に接続され得て、合成雑種プロモーターをつくる(米国特許第4,551,433号)。例えば、tacプロモーターは、lacリプレッサーにより調節される、trpプロモーターおよびlacオペロン両配列を含有する雑種trp−lacプロモーターである(Amannら(1983)Gene 25:167;de Boerら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.80:21)。さらに、細菌プロモーターは、細菌RNAポリメラーゼに結合し、転写を開始する能力を有する、非細菌起源の天然に存在するプロモーターを含み得る。非細菌起源の天然に存在するプロモーターはまた、適合するRNAポリメラーゼと結合して原核生物中である種の遺伝子を高レベルで発現し得る。バクテリオファージT7 RNAポリメラーゼ/プロモーター系は、結合されたプロモーター系の例である(Studierら(1986)J.Mol.Biol.189:113;Taborら(1985)Proc Natl.Acad.Sci.82:1074)。さらに、雑種プロモーターもまた、バクテリオファージプロモーターおよびE.coliオペレーター領域を含有し得る(EPO公開No.267851)。
【0089】
機能プロモーター配列に加えて、能率のよいリボソーム結合部位もまた、原核生物での外来遺伝子の発現に有用である。E.coliでは、リボソーム結合部位はシャイン・ダルガーノ(SD)配列と呼ばれ、開始コドン(ATG)および開始コドンの3−11ヌクレオチド上流に位置する3−9ヌクレオチドの長さの配列を含む(Shineら(1975)Nature 254:34)。SD配列は、SD配列とE.coli 16S rRNAの3’末端(3’ and)との間で塩基対合してmRNAのリボソームへの結合を促進すると考えられている(Steitzら(1979)「メッセンジャーRNAにおける遺伝シグナルおよびヌクレオチド配列(Genetic signals and nucleotide sequences in messenger RNA)」,
Biological Regulation and Development:Gene Expression(R.F.Goldberger編))。弱リボソーム結合部位を有する原核遺伝子および真核遺伝子を発現するために、(Sambrookら(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual)。
【0090】
DNA分子は細胞内に発現され得る。プロモーター配列は、直接DNA分子に連結され得、その場合、N末端の最初のアミノ酸はメチオニンであり、これはATG開始コドンによりコードされる。必要であれば、N末端のメチオニンは、インビトロにおける臭化シアンとのインキュベーション、または細菌メチオニンN末端ペプチダーゼとのインビボまたはインビトロインキュベーションにより、タンパク質から切断され得る(EPO公開No.219237)。
【0091】
融合タンパク質は、直接発現の代替を提供する。通常は、内因性細菌タンパク質またはその他の安定なタンパク質のN末端部分をコードするDNA配列が、異種コーディング配列の5’末端に融合される。発現に際し、この構築物は、2つのアミノ酸配列の融合を提供する。例えば、バクテリオファージλ細胞遺伝子が外来遺伝子の5’末端で連結され得、細菌内で発現され得る。得られた融合タンパク質は、好ましくは、外来遺伝子からバクテリオファージタンパク質を切断するためのプロセッシング酵素(因子Xa)に対する部位を保持している(Nagaiら(1984)Nature 309:810)。融合タンパク質はまたlacZ由来の配列を用いて生成され得る(Jiaら(1987)Gene 60:197,trpE,Allenら(1987)J.Biotechnol. 5:93;Makoffら(1989)J.Gen.Microbiol.135:11、およびEPO公開No.324647,genes)。2つのアミノ酸配列を接続したDNA配列は、切断部位をコードし得るか、またはコードし得ない。その他の例は、ユビキチン融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、好ましくは、外来遺伝子からユビキチンを切断するためのプロセッシング酵素(例えば、ユビキチン特異プロセッシングプロテアーゼ)に対する部位を保持しているユビキチン領域を用いて生成される。この方法によって、そのままの外来タンパク質が単離され得る(Millerら(1989)Bio/Technology 7:698)。
【0092】
あるいは、外来タンパク質はまた、細菌で外来タンパク質分泌を提供するシグナルペプチド配列フラグメントを含有する融合タンパク質をコードするキメラDNA分子をつくることにより、細胞から分泌され得る(米国特許第4,336,336号)。シグナル配列フラグメントは通常、細胞からのタンパク質分泌を導く疎水性アミノ酸を含有するシグナルペプチドをコードする。タンパク質は、増殖培地(グラム陽性細菌)、または、細胞の内膜と外膜との間に位置する細胞周辺腔(グラム陰性細菌)のいずれかに分泌される。好ましくは、シグナルペプチドフラグメントと外来遺伝子との間でコードされるプロセッシング部位が存在し、これはインビボまたはインビトロにおいて切断され得る。
【0093】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、E.coli外膜タンパク質遺伝子(ompA)(Masuiら(1983),Experimental Manipulation of Gene Expression;Ghrayebら(1984)EMBO J.3:2437)およびE.coliアルカリホスファターゼシグナル配列(phoA),(Okaら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.82:7212)のような、分泌される細菌タンパク質の遺伝子由来であり得る。さらなる例として、種々のBacillus株由来のαーアミラーゼ遺伝子のシグナル配列は、B.subtilisから異種タンパク質を分泌するために使用され得る(Palvaら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:5582;EPO公開No.244042)。
【0094】
通常、細菌により認識される転写終止配列は、翻訳終止コドンに対して3’側に位置する調節領域であり、従って、プロモーターとともにコーディング配列に隣接する。これらの配列は、DNAにコードされるポリペプチドに翻訳され得るmRNAの転写を導く。転写終止配列はしばしば、転写終止の助けとなるステムループ構造を形成し得る、約50ヌクレオチドのDNA配列を含む。例には、E.coliのtrp遺伝子およびその他の生合成遺伝子のような、強プロモーターを伴った遺伝子由来の転写終止配列が含まれる。
【0095】
通常、プロモーター、シグナル配列(所望であれば)、目的のコーディング配列、および転写終止配列を含む上記の成分は、発現構築物中に組み立てられる。発現構築物は、細菌のような宿主に安定して維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中に維持される。レプリコンは、1つの複製系を有し、このため、発現、またはクローニングおよび増幅のいずれかのために原核宿主中に維持される。さらに、レプリコンは、高コピー数または低コピー数のプラスミドであり得る。高コピー数のプラスミドは、一般的に、約5から約200、そして通常約10から約150、の範囲のコピー数を有する。高コピー数のプラスミドを含有する宿主は、好ましくは少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約20のプラスミドを含有する。高コピー数または低コピー数のいずれかのベクターが、宿主でのベクターの効果および外来タンパク質に依存して選択され得る。
【0096】
あるいは、発現構築物は、組込みベクターを用いて細菌ゲノムに組み込まれ得る。組込みベクターは通常、ベクターの組込みを可能にする細菌染色体に相同な少なくとも1つの配列を含有する。組込みは、ベクター中の相同DNAと細菌染色体と間の組換えによると考えられる。例えば、種々のBacillus株由来のDNAで構築された組込みベクターは、Bacillus染色体に組み込む(EPO公開No.127328)。組込みベクターはまた、バクテリオファージまたはトランスポゾン配列を含有し得る。
【0097】
通常、染色体外および組込み発現構築物は、形質転換された細菌株の選択を可能にする選択マーカーを含有し得る。選択マーカーは、細菌宿主中で発現され得、アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、カナマイシン(ネオマイシン)およびテトラサイクリンのような薬剤に対して細菌を耐性にする遺伝子を含有し得る。(Daviesら、(1978)Annu.Rev.Microbiol.32:469)。選択マーカーはまた、ヒスチジン、トリプトファン、およびロイシンの生合成経路でのような、生合成遺伝子を含み得る。
【0098】
あるいは、上記成分のいくつかは、形質転換ベクター中に組み立てられ得る。形質転換ベクターは通常、レプリコン中に維持されるかまたは組込みベクターに組み込まれる選択マーカーを含有する。
【0099】
染色体外レプリコンまたは組込みベクターである、発現および形質転換ベクターは、多くの細菌への形質転換のために開発されている。例えば、発現ベクターは、特に以下の細菌のために開発されている:Bacillus subtilis,Palvら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA
79:5582;EPO公開No.036259およびNo.063953;PCT公開No.Wo84/04541;E.coli,Shimatakeら(1981)Nature 292:128;Amannら(1985)Gene 40:183;Studierら(1986)J.Mol.Biol.189:113;EPO公開No.036776,No.136829およびNo.136907;Streptococcus cremoris,Powellら(1988)Appl.Environ.Microbiol.54:655;Streptococcus lividans,Powellら(1988)Appl.Environ.Microbiol.54:655;およびStreptomyces lividans、米国特許第4,745,056号。
【0100】
外因性DNAの細菌宿主への導入方法は当該分野で公知であり、CaCl2、または、二価カチオンおよびDMS0のようなその他の試薬で処理された細菌の形質転換を包含する。DNAはまた、エレクトロポーレーションにより細菌細胞中に導入され得る。形質転換の方法は、通常形質転換されるべき細菌種により変化する。Massonら(1989)FEMS Microbiol.Lett. 60:273;Palvaら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:5582;EPO公開No.036259およびNo.063953;PCT公開No.WO84/04541、Bacillusに関する;Millerら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.85:856;Wangら(1990)J.Bacteriol.172:949、Campylobacterに関する;Cohenら(1973)Proc.Natl.Acad.Sci.69:2110;Dowerら(1988)Nucleic Acids Res.16:6127;Kushner(1978)「ColE1由来プラスミドによるE.coli形質転換のための改良法(An improved method for transformation
of E.coli with ColE1−derived plasmids)」, Genetic Engineering:Proceedings of the International Symposium on Genetic Engineering(H.W.BoyerおよびS.Nicosia編);Mandelら(1970)J.Mol.Biol.53:159;Taketo(1988)Biochim.Biophys.Acta 949:318、Escherichiaに関する;Chassyら(1987)FEMS Microbiol.Lett.44:173、Lactobacillusに関する;Fiedlerら(1988)Anal.Biochem
170:38、Pseudomonasに関する;Augustinら(1990) FEMS Microbiol.Lett.66:203、Staphylococcusに関する;Baranyら(1980)J.Bacteriol. 144:698;Harlander(1987)「エレクトロポーレーションによるStreptococcus lactisの形質転換(Transfomation of Streptococcus lactis by electroporation)」,Streptococcal Genetics (J.FerrettiおよびR.Curtiss III編);Perryら(1981)Infec.Immun.32:1295;Powellら(1988)Appl.Environ.Microbiol.54:655;Somkutiら(1987)Proc.4th Evr.Cong.Biotechnolory 1:412、Streptococcusに関する、を参照のこと。
【0101】
(iv.酵母発現)
酵母発現系もまた当業者に公知である。酵母プロモーターは、酵母RNAポリメラーゼに結合し得、コーディング配列(例えば、構造遺伝子)のmRNAへの下流(3’)転写を開始し得る、いずれものDNA配列である。プロモーターは、コーディング配列の5’末端近傍に通常位置する転写開始領域を有する。この転写開始領域は通常、RNAポリメラーゼ結合部位(「TATAボックス」)および転写開始部位を含む。酵母プロモーターはさらに、上流活性化配列(UAS)と呼ばれる第二ドメインを有し得、これは、存在する場合には通常構造遺伝子の遠位に存在する。UASにより、調節(誘導可能な)発現が行われる。構成的発現は、UASの非存在下で起こる。調節的発現は正または負のいずれかであり得、そのことにより転写を促進または減退する。
【0102】
酵母は、活性代謝経路を有する発酵微生物であり、従って、代謝経路の酵素をコードする配列は特に有用なプロモーター配列を提供する。例には、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)(EPO公開No.284044)、エノラーゼ、グルコキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸−デヒドロゲナーゼ(GAPまたはGAPDH)、ヘキソキナーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、およびピルビン酸キナーゼ(PyK)(EPO公開No.329203)が包含される。酸性ホスファターゼをコードする酵母PHO5遺伝子もまた、有用なプロモーター配列を提供する(Myanoharaら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:1)。
【0103】
さらに、天然に存在しない合成プロモーターもまた、酵母プロモーターとして機能する。例えば、1つの酵母プロモーターのUAS配列は、別の酵母プロモーターの転写活性化領域に接続され得、合成雑種プロモーターがつくられ得る。このような雑種プロモーターの例には、GAP転写活性化領域に連結されたADH調節配列が含まれる(米国特許第4,876,197号および米国特許第4,880,734号)。雑種プロモーターのその他の例には、GAPまたはPyKのような解糖酵素遺伝子の転写活性化領域に組み合わされた、ADH2、GAL4、GAL10、またはPHO5遺伝子のいずれかの調節配列からなるプロモーターが含まれる(EPO公開No.164556)。さらに、酵母プロモーターには、酵母RNAポリメラーゼに結合し、転写を開始する能力を有する、非酵母起源の天然に存在するプロモーターが含まれ得る。このようなプロモーターの例には、特に、Cohenら(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:1078;Henikoffら(1981)Nature 283:835;Hollenbergら(1981)Curr.Topics Microbiol.Immunol.96:119;Hollenbergら(1979)「酵母Saccharomyces cerevisiaeでの細菌抗生物質耐性遺伝子の発現(The Expresion of Bacterial Antibioic Resistance Genes in the Yeast Saccharomyces cerevisiae)」:Plasmids of Medical,Environmental and
Commercial Importance (K.N.TimmisおよびA.Puhler編);Mercerau−Puigalonら(1980)Gene 11:163;Panthierら(1980)Curr.Genet.2:109が、含まれる。
【0104】
DNA分子は酵母において細胞内に発現され得る。プロモーター配列は、DNA分子に直接に連結され得、その場合には、組換えタンパク質のN末端の最初のアミノ酸はいつもメチオニンであり、これはATG開始コドンによりコードされる。所望であれば、N末端メチオニンは、インビトロにおける臭化シアンとのインキュベーションにより、タンパク質から切断され得る。
【0105】
融合タンパク質は、哺乳類、バキュロウイルス、および細菌発現系と同様に、酵母発現系の代替を提供する。通常、内因性酵母タンパク質またはその他の安定なタンパク質のN末端部分をコードするDNA配列が、異種コーディング配列の5’に融合される。発現に際し、この構築物は、2つアミノ酸配列の融合を提供する。例えば、酵母またはヒトのスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)遺伝子が、外来遺伝子の5’末端で連結され得、酵母で発現され得る。2つのアミノ酸配列の接続部位DNA配列は、切断部位をコードし得るか、またはコードし得ない。例えば、EPO公開No.196056を参照のこと。その他の例は、ユビキチン融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、好ましくは、外来タンパク質からユビキチンを切断するためのプロセッシング酵素(例えば、ユビキチン特異プロセッシングプロテアーゼ)に対する部位を保持しているユビキチン領域でつくられる。従って、この方法によってそのままの外来タンパク質が単離され得る(例えば、PCT公開No.WO88/024066を参照のこと)。
【0106】
あるいは、外来タンパク質はまた、酵母での外来タンパク質の分泌を提供するリーダー配列フラグメントを含有する融合タンパク質をコードする、キメラDNA分子をつくることにより、細胞から増殖培地に分泌され得る。好ましくは、リーダーフラグメントと外来遺伝子との間でコードされるプロセッシング部位が存在し、インビボまたはインビトロのいずれかで切断され得る。リーダー配列フラグメントは通常、細胞からのタンパク質の分泌を導く疎水性アミノ酸を含有するシグナルペプチドをコードする。
【0107】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、酵母インベルターゼ遺伝子(EPO公開No.012873;JPO公開No.62,096,086)およびA因子遺伝子(米国特許第4,588,684号)のような、分泌酵母タンパク質の遺伝子に由来し得る。あるいは、インターフェロンリーダーのような、非酵母起源のリーダーが存在し、これもまた酵母での分泌を提供する(EPO公開No.060057)。
【0108】
分泌リーダーの好ましいクラスには、酵母α因子遺伝子のフラグメントを用いるリーダーがあり、これは「pre」シグナル配列および「pro」領域の両方を含有する。用いられ得るα因子フラグメントの型には、全長pre−pro α因子リーダー(約83アミノ酸残基)および切断型α因子リーダー(通常約25から約50アミノ酸残基)が含まれる(米国特許第4,546,083号および米国特許第4,870,008号;EPO公開No.324274)。分泌を提供するα因子リーダーフラグメントを用いる別のリーダーには、第一酵母のpre配列でつくられたハイブリッドα因子リーダーが含まれるが、第二酵母のα因子のpro領域は含まれない。(例えば、PCT公開No.WO89/02463を参照のこと)。
【0109】
通常、酵母により認識される転写終止配列は、翻訳終止コドンに対して3’側に位置する調節領域であり、従って、プロモーターとともにコーディング領域に隣接する。これらの配列は、DNAによりコードされるポリペプチドに翻訳され得るmRNAの転写を導く。転写終止配列およびその他の酵母認識終止配列の例は、解糖酵素をコードする配列などである。
【0110】
通常、プロモーター、リーダー(所望であれば)、目的のコーディング配列、および転写終止配列を含む上記の成分は、発現構築物中に組み立てられる。発現構築物はしばしば、酵母または細菌のような宿主中に安定して維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中に維持される。レプリコンは2つの複製系を有し得、このため、例えば、発現のために酵母中に、およびクローニングおよび増幅のために原核宿主中に維持される。このような酵母−細菌シャトルベクターの例には、YEp24(Botsteinら(1979)Gene 8:17−24);pCl/1(Brakeら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci USA 81:4642−4646);およびYRp17(Stinchcombら(1982)J.Mol.Biol.158:157)が含まれる。さらに、レプリコンは、高コピー数または低コピー数のプラスミドであり得る。高コピー数のプラスミドは一般に、約5から約200の範囲のコピー数を有し、通常約10から約150のコピー数を有する。高コピー数のプラスミドを含有する宿主は、好ましくは少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約20を有する。高コピー数または低コピー数のベクターは、宿主におけるベクターおよび外来タンパク質の効果に依存して選択され得る。
【0111】
あるいは、発現構築物は、組込みベクターを用いて酵母ゲノムに組み込まれ得る。組込みベクターは通常、ベクターの組込みを可能にする、酵母染色体に相同な少なくとも1つの配列を含有し、好ましくは、発現構築物に隣接する2つの相同な配列を含有する。組込みは、ベクター中の相同DNAと酵母染色体との組換えによると考えられる(Orr−Weaverら(1983)Methods in Enzymol.101:228−245)。組込みベクターは、ベクター中への封入に適切な相同配列を選択することにより、酵母の特異的な座に導かれ得る。1つ以上の発現構築物が組み込まれ得、おそらく産生される組換えタンパク質レベルに影響し得る(Rineら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:6750)。ベクターに含まれる染色体配列は、ベクター中の1つのセグメントとして存在して、完全ベクターの組込みになり得るか、または、染色体中の隣接セグメントに相同で、ベクター中で発現構築物に隣接する2つのセグメントとして存在して、発現構築物のみの安定な組込みになり得る。
【0112】
通常は、染色体外および組込み発現構築物は、形質転換された酵母株の選択を可能にする選択マーカーを含有し得る。選択マーカーは、ADE2、HIS4、LEU2、TRP1、およびALG7のような、酵母宿主で発現され得る生合成遺伝子、および、ツニカマイシンおよびG418のそれぞれに対する酵母細胞において耐性を与えるG418耐性遺伝子を含み得る。さらに、適切な選択マーカーはまた、金属のような毒素成分の存在下で増殖する能力を有する酵母を提供し得る。例えば、CUP1の存在は、銅イオンの存在下での酵母の増殖を可能にする(Buttら(1987)Microbiol,Rev. 51:351)。
【0113】
あるいは、上記成分のいくつかは、形質転換ベクター中に組み立てれられ得る。形質転換ベクターは通常、レプリコン中に維持されるかまたは組込みベクターに組み込まれる選択マーカーを含有する。
【0114】
染色体外レプリコンまたは組込みベクターである、発現および形質転換ベクターは、多くの酵母の形質転換のために開発されている。例えば、発現ベクターは、特に以下の酵母のために開発されている:Candida albicans(Kurtzら(1986)Mol.Cell.Biol. 6:142);Candida maltosa(Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol. 25:141);Hansenula polymorpha(Gleesonら(1986)J.Gen.Microbiol 132:3459;Roggenkampら(1986)Mol.Gen.Genet.202:302);Kluyveromyces fragilis(Dasら(1984)J.Bacteriol.158:1165);Kluyveromyces lactis(De Louvencourtら(1983)J.Bacteriol.154:737;Van den Bergら(1990)Bio/Technology 8:135);Pichia guillerimondii(Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141);Pichia pastoris(Creggら(1985)Mol.Cell.Biol.5:3376;米国特許第4,837.148号および米国特許第4,929,555号);Saccharomyces cerevisiae(Hinnenら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:1929;Itoら(1983)J.Bacteriol.153:163);Schizosaccharomyces pombe(Beachら(1981)Nature 300:706);および、Yarrowia lipolytica(Davidowら(1985)Curr.Genet.10:380471 Gaillardinら(1985)Curr.Genet.10:49)。
【0115】
外因性DNAの酵母宿主への導入方法は、当該分野では公知であり、通常は、スフェロプラストまたは完全酵母細胞をアルカリカチオンで処理する形質転換を包含する。形質転換方法は通常、形質転換される酵母種により変化する。例えば、Kurtzら(1986)Mol.Cell.Biol.6:142;Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141、Candidaに関する;Gleesonら(1986)J.Gen.Microbioy.132:3459;Roggenkampら(1986)Mol.Gen.Genet.202:302、Hansenulaに関する;Dasら(1984)J.bioteriol.58:1165;De Louvencourtら(1983)J.Bacteriol.154:1165;Van den Bergら(1990)Bio/Technology 8:135、Kluyveromycesに関する;Creggら(1985)Mol.Cell.Biol.5:3376;Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141;米国特許第4,837,148号および米国特許第4,929,555号、Pichiaに関する;Hinnenら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75;1929;Itoら(1983)J.Bacteriol.153:163、Saccharomycesに関する;Beachら(1981)Nature 300:706、Schizosaccharomycesに関する;Davidowら(1985)Curr.Genet.10:39;Gaillardinら(1985)Curr.Genet.10:49、Yarrowiaに関する;参照のこと。
【0116】
(E.ワクチン)
本明細書中で考察されている各H.pyloriタンパク質は、単一ワクチン候補物として、または1つ以上のその他の抗原との組み合わせで使用され得、後者はH.pyloriまたはその他の病原のいずれかに由来する。好ましくは「カクテル」ワクチンであり、例えば、細胞毒素(CT)抗原、CAIタンパク質、およびウレアーゼを含有する。さらに、hspが、これらの成分の1つ以上に対して加えられ得る。これらのワクチンは、予防剤(感染を予防するため)または治療剤(感染後に疾患を治療するため)のいずれかであり得る。
【0117】
このようなワクチンは、H.pylori抗原または抗原類を、通常は「薬学的に受容可能なキャリア」との組合せで含有し、このキャリアは、この組成物が与えられる個体に対して有害な抗体の産生をそれ自身が誘導しないいずれものキャリアを含む。適切なキャリアは、典型的には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、脂質凝集体(例えば、油滴またはリポソーム)、および不活性ウイルス粒子のような、大きくて徐々に代謝される高分子である。このようなキャリアは、当業者に周知である。さらに、これらのキャリアは、免疫刺激剤(「アジュバント」)として機能し得る。さらに、抗原は、ジフテリア、破傷風、コレラ、H.pyloriなどの病原体のような細菌トキソイドにコンジュゲートされ得る。
【0118】
組成物の効果を増強させる好ましいアジュバントには、以下が包含されるが、これらに限定されない:(1)アルミニウム塩(alum)(水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなど);(2)水中油型エマルジョン製剤〔ムラミルペプチド(下記を参照)のようなその他の特異免疫刺激剤または細菌細胞壁成分を伴うまたは伴わない〕、例えば、(a)MF59(PCT公開No.WO90/14837):5%スクワレン、0.5%Tween 80、および0.5%Span 85〔必須ではないが必要に応じて、種々の量のMTP−PE(下記を参照)を含有する〕を含有して、110Y型マイクロフルイダイザー(Microfluidics,Newton,MA)のようなマイクロフルイダイザーを使用して、サブミクロン粒子に処方される;(b)SAF:10%スクワレン、0.4%Tween 80、5%プルロニック(pluronic)−ブロックポリマーL121、およびthr−MDP(下記を参照)を含有し、マイクロフルイダイザーにかけてサブミクロン粒子エマルジョンにされるか、ボルテックスにかけてより大きな粒子サイズのエマルジョンを生成する;および、(c)RibiTMアジュバント系(RAS)(Ribi Immunochem,Hamilton,MT):2%スクワレン、0.2%Tween
80、および、1つ以上の細菌細胞壁成分(モノホスホリルリピド(monophosphorylipid) A(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)よりなる群にから選ばれる、好ましくはMPL+CWS(DetoxTM)を含有する;(3)サポニンアジュバント(例えばStimulonTM(Cambridge Bioscience,Worcester,MA))が使用され得るか、または、ISCOM(免疫刺激複合体)のような、それらからつくられた粒子;(4)完全フロイントアジュバント(CFA)および不完全フロイントアジュバント(IFA);(5)サイトカイン(例えば、インターロイキン(IL−1、IL−2など)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)など);および、(6)組成物の効果を増強するための免疫刺激剤として作用するその他の物質。AlumおよびMF59が好ましい。
【0119】
上記のように、ムラミルペプチドには、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ(huydroxyphosphoryloxy))−エチルアミン(MTP−PE)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0120】
免疫原性組成物(例えば、抗原、薬学的に受容可能なキャリア、およびアジュバント)は典型的に、水、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどのような希釈剤を含有する。さらに、湿潤または乳化剤、pH緩衝物質などのような補助物質が、このような賦形剤中に存在し得る。
【0121】
典型的には、免疫原性組成物は、溶液または懸濁液のいずれかとして注射用に調製される;注射の前に液体賦形剤に溶解または懸濁するのに適切な固形もまた、調製され得る。薬学的に受容可能なキャリアについて上記で考察したように、調製物は、アジュバント効果を増強するために、エマルジョンにされるか、またはリポソームにカプセル化され得る。
【0122】
ワクチンとして使用される免疫原性組成物は、免疫学的に有効な量の抗原ポリペプチド、および必要であれば、上記成分のいかなる他の成分をも含有する。「免疫学的に有効な量」とは、単回投与でまたは連続投与の一部として個体に投与される量が、治療または予防に有効であることを意味する。この量は、処置される個体の健康状態および身体条件、処置される個体の分類学上のグループ(例えば、ヒト以外の霊長類、霊長類など)、抗体を合成するための個体の免疫系の能力、所望の予防程度、ワクチン処方、医療状況での治療医の評価、およびその他の関連因子に依存して変化する。その量は比較的広範囲にあり、所定の試行により決定され得ると思われる。
【0123】
免疫原性組成物は従来より非経口的に、例えば、皮下または筋肉内注射により、投与される。その他の投与形態に適した処方には、経口および肺への処方、坐薬、および経皮投与が含まれる。経口処方は、H.pyloriタンパク質に対して最も好ましい。投与処置は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであり得る。ワクチンは、その他の免疫調節剤と組み合わせて投与され得る。
【0124】
(F.免疫診断アッセイ)
H.pylori抗原は、抗体レベルを検出するために免疫アッセイにおいて使用され得(または逆に、H.pylori抗体が抗原レベルを検出するために使用され得る)、特に、胃十二指腸疾患および十二指腸潰瘍との相関が得られ得る。免疫アッセイは、よく判っている組換え抗原に基づいて、今日使用されている観血的診断法に置き換えられるように開発され得る。例えば、血液または血清試料を包含する生物学的試料中のH.pyloriタンパク質に対する抗体が、検出され得る。免疫アッセイの設計は非常に多様であり、これらの多様性は当該分野では公知である。免疫アッセイのプロトコールは、例えば、競合、直接反応、またはサンドイッチ型アッセイに基づき得る。プロトコールはさらに、例えば、固体支持体を使用し得るか、または免疫沈降法によるものであり得る。ほとんどのアッセイは、標識された抗体またはポリペプチドの使用を包含する;その標識は、例えば、蛍光、化学発光、放射性、または染色分子であり得る。プローブからのシグナルを増幅するアッセイもまた周知である;その例は、ビオチンおよびアビジンを使用するアッセイ、ならびに、ELISAアッセイのような酵素が標識および介在した免疫アッセイである。
【0125】
免疫診断に適した、適切な標識試薬を含むキットが、適当な容器中に、本発明の組成物を含む適切な材料を、アッセイの実施に必要とされるその他の試薬および材料(例えば、適切な緩衝液、塩溶液など)、ならびにアッセイの説明書とともに包装することにより、構成される。
【実施例】
【0126】
(G.実施例)
以下に示されている実施例は、当業者が実施するための指針として提供され、いかなる方法においても本発明を限定するようには構成されていない。
【0127】
(i.H.pylori細胞毒素(CT)抗原)
(1.材料および方法)
H.pylori増殖およびDNA単離に関する一般的な材料および方法については、CAI抗原およびhspのそれぞれに関する、以下のii節およびiii節を参照のこと。
【0128】
(a.クローニング)
縮重オリゴヌクレオチドの2つの混合物を、Applied Biosystemsモデル380BのDNAシンセサイザーを使用して、合成した。これらの混合物を、Genamp PCRキットを使用して、製造業者の指示に従い、200ngの精製DNAと100μlのポリメラーゼ連鎖反応に4μMの濃度で使用した。この反応物を、94℃で1分間、48℃で2分間、および56℃で2分間インキュベートした。反応混合物をこの条件に30サイクル供した。
【0129】
この反応の生成物をアガロースゲル電気泳動により分析すると、約87bpの顕著なDNAフラグメントが現れた。制限酵素XbaIおよびEcoRIでの消化後に、そのフラグメントを、前もってXbaIおよびEcoRIで消化したBluscript SK+(Stratgene)プラスミドに連結した。混合した連結物を使用して、(200Ω)a BioRad Gene Pulser(California)を使用する2000Vおよび25μFでのエレクトロポレーションにより、コンピテントE.coliを形質転換した。形質転換されたE.coliを、100μg/mLのアンピシリンを含有するL−寒天プレート上での増殖に対して選択した。プラスミドDNAは、陽性E.coli単離物から抽出して、Sequenase 2(United States Biochemical Corporation)DNA配列決定キットを使用し、製造業者の指示に従って配列分析にかけた。
【0130】
(b.ライブラリーの調製)
(1)HindIIIフラグメントのライブラリー
7μgの精製DNAを、制限酵素HindIIで完全に消化した。3μgのBluescript SK+プラスミドDNAを、HindIIIで完全に消化し、次に、仔ウシ腸ホスファターゼで処理した。両DNA混合物を、水飽和フェノールと撹拌して精製し、次に67%V/Vまでエチルアルコールを加えて沈澱させた。両DNAを50μLの水に再懸濁させた。0.7μgのDNAフラグメントを、25 mM Tris(pH7.5)、10mM MgCl2および5ユニットのT4 DNAリガーゼを含有する溶液50μL中の、0.3μgのBluescript DNAと混合した。この混合物を15℃で20時間インキュベートし、その後、DNAを水飽和フェノールで抽出して、エチルアルコールで沈澱させた。続いて、そのDNAを50μLの水に再懸濁させた。エレクトロポーレーションにより、このDNA1μgをE.coliに導入して、約3000−10,000のアンピシリン耐性細菌コロニーを得た。
【0131】
2)EcoRIフラグメントのライブラリー
約0.7μgのEcoRI消化DNAを精製し、前もってEcoRIで消化して仔ウシ腸ホスファターゼで処理しておいた0.45μgのBluescript SK+プラスミドと混合した。そのフラグメントを50μLの溶液中で連結した。精製および沈澱の後に、そのDNAを50μLの水に再懸濁させた。この溶液1μLによるE.coliのエレクトロポレーションで、約200のアンピシリン耐性細菌コロニーを得た。
【0132】
さらなるクローニング用のゲノムから適切な制限フラグントを同定するために、プラスミドを32pで均一に標識し、種々の制限酵素で消化した株CCUG由来のDNAを分析するためのプローブとして使用し、アガロースゲル電気泳動で分離し、そしてニトロセルロースフィルターに移した。そのプローブにより、単一の約3.5kbのHindIII制限フラグメントが現れた。HindIII消化DNAフラグメントのライブラリーを調製し、Bluescriptプラスミドベクターにクローニングした。このライブラリーを、予めクローニングしておいた87bpフラグメントに対応する32p標識DNAでスクリーニングした。同一の約3.3kbpのHindIIIフラグメントを含有する2つのクローンが同定された。これらのHindIIIフラグメントのDNA配列決定により、前記の87kDa細胞毒素のアミノ末端に対応する23アミノ酸をコードし得る配列が明らかになった。これらの配列は、HindIII制限酵素部位により境界を定められフラグメントの末端で終止する、約300ヌクレオチドのオープンリーディングフレームの部分を含有した。また、この配列からは、HindIII部位から120bp離れた推定オープンリーディングフレーム内にEcoRI制限部位が存在することが明らかになった。
【0133】
EcoRI部位とHindIII部位との間の配列に対応する32p標識プローブを、Bluescript SKベクターにクローニングされたDNA由来のEcoRフラグメントのライブラリーをスクリーニングするために使用した。このプローブにより、2つのクローンが、約7.3kbpフラグメントを含有することが明らかになった。このフラグメントのDNA配列決定により、3.2kbpのHindIIIフラグメントから決定された配列と重複した、連続的なオープンリーディングフレームがあることが判った。これらの重複フラグメントのDNA配列、および、含有される1つの長いオープンリーディングフレームの概念的な(conceptual)翻訳を、それぞれ図1〜3および4に示す。
【0134】
これらのクローンは非常に不安定であることが認められたことは注目されるべきである。スクリーニングで同定された最初のコロニーは、あまりにも小さいので検出が困難であった。16−18時間の継代培養の従来方法によるこれらのクローンの広がりは、DNA再配列および欠失のために非常に不均一な群のプラスミドとなった。これらのクローンの十分な量を、抗生物質選択のない8−10時間の継代培養により増殖させた。この様式では、プラスミドの収量は比較的に少ないが、生存再配列プラスミドを含有する細菌の選択および副産物を排除した。
【0135】
(C.DNAライブラリーのスクリーニング)
顕著な87 bpフラグメントを含有するPCR反応産物を、Prime−a−geneキット(Promega)を使用するランダムプライマー法により32pで標識した。この標識プローブを、ニトロセルロースフィルター上に固定された約3000の細菌クローン由来のDNAとのハイブリダイゼーション反応に使用した。ハイブリダイゼーション反応は、0.3M NaCl溶液中60℃で実施した。陽性細菌クローンを発展させて、プラスミドDNAを調製した。プラスミドは、約3.3kbのDNA挿入断片を含有し、TOXHH1と呼ばれた。
【0136】
図1〜3に示されている292位と410位との間の配列を含有する120bpフラグメントは、プラスミドTOXHH1由来であり、EcoRIフラグメントのライブラリーの約400コロニーをスクリーニングするために使用した。約7.3kbのDNA配列を含有し、TOXEE1と呼ばれる陽性クローンを単離した。
【0137】
図1〜3に示されているヌクレオチド配列は、クローンTOXHH1およびTOXEE1から、Sequenase 2配列決定キットを使用して得た。図1〜3の1位と410位との間のヌクレオチオドをTOXHH1から得、そして、291位と3507位との間のヌクレオチドをTOXEE1から得た。プラスミドTOXHH1およびTOXEE1を含有するE.coliをアメリカンタイプカルチャーコレクションに寄託した。下記を参照のこと。
【0138】
(d.細胞毒素に対する抗血清の調製)
図1〜3に示されている配列のヌクレオチド116ー413に対応するDNAフラグメントを、細菌発現ベクターpex 34 Aにクローニングし、細菌プロモーターの誘導で、細胞毒素ポリペプチドのアミノ酸に融合され、以前に同定された23アミノ酸を含有する、MS2ポリメラーゼポリペプチドの一部を含有する融合タンパク質を産生させた。この融合タンパク質の約200μgを、アクリルアミド電気泳動で部分精製し、標準的な方法でウサギを免疫するために使用した。
【0139】
1ヶ月間隔3回の免疫後に採取したこれらのウサギからの抗血清を、標準的なイムノブロッティング実験に、H.pyloriの細胞毒素陽性株および細胞毒素陰性株からのタンパク質抽出物をプローブするために使用した。その抗血清は、見かけの分子量100kDaの、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動上で移動したポリペプチドを現した。このポリペプチドは、細胞毒素陽性株のタンパク質抽出物には検出されたが、細胞毒素陰性株には検出されなかった。免疫前に採取した血清は、このポリペプチドと反応しなかった。
【0140】
(e.空胞化活性の部分精製)
6mg/mlの濃度のH.pylori全膜を、1% CHAPS、0.5M
NaCl、10mM Hepes(pH 7.4)、2.5mM EDTA、20%スクロース溶液に、4℃で1時間溶解した。次に、この混合物を、30%、35%、40%、および55%スクロース段階を含む、不連続スクロースグラジエントにかけ、そして20000xgで17時間超遠心分離にかけた。グラジエントにかけたものを分画して、各画分を空胞化活性およびウレアーゼ活性に対して試験した。ウレアーゼ活性に関連した空胞化活性を、グラジエント画分のいくつかに認めた。空胞化活性のピークもまた、グラジエントの一番高い画分に認め、これらの画分には、本質的にウレアーゼ活性はなかった。
【0141】
このウレアーゼ非依存空胞化活性を、20%から34%の濃度の間の硫酸アンモニウムによる段階沈澱法(stepwise precipitation)によってさらに分画した。異なる濃度の硫酸アンモニウムで沈澱させたタンパク質の変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で顕著な約100kDaポリペプチドが現れ、このポリペプチドは空胞化活性に関して精製された。このポリペプチドは、上記の組換え融合タンパク質に対してつくられたウサギ抗血清により認識された。
【0142】
(2.結果)
H.pyloriゲノムの約10kbpに対応する2つの重複フラグメントがクローニングされた。これらのクローンは、1296アミノ酸(図4に示されている)のポリペプチドをコードし得る3960bp(図1〜3に示されている)からなる遺伝子を含有する。この推定ポリペプチドの分子量は139.8kdである。図1〜3における18位のメチオニンコドンの9bp上流のヌクレオチド配列AGGAAGは、シャイン−ダルガーノコンセンサス配列(the consensus Shine−Dalgarno sequence)に密接に類似しており、このメチオニンがポリペプチド合成の開始メチオニンに相当するという仮説を支持する。図1〜3の3906位の推定終止コドンの10bp下流に始まる30bpヌクレオチド配列は、原核転写ターミネーターの構造に密接に類似しており、メッセンジャーRNAコーディング配列の末端に相当すると思われる。
【0143】
細胞毒素遺伝子は、以下の基準により、H.pylori空胞化活性のポリペプチド前駆体をコードするとして定義される:
(i)推定ポリペプチドは、以前に記載された87kDa空胞化タンパク質(Cloverら、J.Biol.Chem.267:10570−75(1992))のアミノ末端として同定された23アミノ酸配列(図4、34−56位)を含有する。この配列は、原核リーダー配列に類似する33アミノ酸の後に続き、従って、この配列は、成熟タンパク質のアミノ末端に相当すると思われる;
(ii)目的のアミノ末端を含有する推定ポリペプチドの100アミノ酸フラグメントに特異的なウサギ抗血清は、H.pyloriの細胞毒素陽性株の100kDaポリペプチドを認識したが、細胞毒素陰性株では認識しなかった。この100kDaポリペプチドは、H.pylori膜から空胞化活性に対して精製する。
【0144】
まとめて、本明細書中に記載された遺伝子は、H.pylori細胞毒素活性に関連の100kDaポリペプチドにプロセスされる約140kDaポリペプチドをコードする。以前に記載された87kDaポリペチドは、100kDaポリペプチドがさらにプロセスされたか、または精製中のタンパク質分解によるかのいずれかにちがいない。
【0145】
(ii.H.pylori CAI抗原)
(1.材料および方法)
(a.材料の起源)
クローンA1、64/4、G5、A17、24および57/Dは、λgt11ライブラリーから得た。クローンB1は、HindIIIフラグメントのゲノムプラスミドライブラリーから得た。007はPCRにより得た。細胞毒素を産生するH.pylori株は、以下である:G10、G27、G29、G32、G33、G39、G56、G65、G105、G113A。非細胞毒素株は、以下である:G12、G21、G25、G47、G50、G204。それらは、Grosseto Hospital(Tuscany,Italy)の内視鏡検査生検標本から単離された。株CCUG 17874(細胞毒素陽性)はCulture Collection of the University of Gotheborgから得た。非細胞毒素株Pylo 2U+(ウレアーゼ陽性)およびPylo 2U−(ウレアーゼ陰性)は、F. Megraud, Centre Hospitalier,Bordeaux(France)から得た。E.coli株のDH10B(Bethesda Research Laboratories)、TG1、K12ΔH1Δtrp、Y1088、Y1089、Y1090は、当該分野では公知である。プラスミドBluescript SK+(Stratagene,La Jolla,CA)を、クローニング用ベクターとして使用した。MS2融合タンパク質の発現用の、pEx34
a、b、cプラスミドは、以前に記載されている。ライブラリー発現に使用されたλgt11ファージベクターは、λgt11クローニングシステムキット(Bethesda Research Laboratories)からのものである。E.coli株は、LB培地(24)で培養した。H.pylori株は、選択培地(5%ウマ血液、Dent or Skirrow’s抗生物質補充のColumbia寒天ベース、0.2%シクロデキストリン)、または、5% ウシ胎児血清(6)または0.2%シクロデキストリン(25)を含有するBrucella肉汁液体培地にプレートした。
【0146】
(b.H.pyloriの増殖およびDNA単離)
H.pylori株は、37℃で3日間、固体培地または液体培地中で培養した。両方とも、Oxoid(Basingstoke,England)またはBecton and Dickinsin(Cockeysville,MD)ガスパックジェネレーターを使用した微好気性環境中、または、5%CO2補充空気を含有するインキュベーター(26)中で培養した。細菌を採取して、最終濃度100μg/mlのリゾチームを含有するSTE(NaCl 0.1M、Tris−HCl 10mM(pH8)、EDTA 1mM(pH8))に再懸濁させ、室温で5分間インキュベートした。細菌を溶解するために、最終濃度1%にSDSを加え、65℃に加熱した。プロテイナーゼKを最終濃度25μg/mlに加えた後、溶液を50℃で2時間インキュベートした。DNAを、臭化エチジウムを加えたCsClグラジエントにより精製し、77%エタノールで沈澱させて封入ガラスキャピラリーで回収した。
【0147】
(c.λgt11発現ライブラリーの構築およびスクリーニング)
λgt11発現ライブラリーを作製するために、制限酵素HaeIIIおよびAluIで部分消化した、CCUG 17874株由来のゲノムDNAを使用した。0.8%アガロースゲル上での分画後、0.6kbと8Kbとの間の大きさのDNAを、Costar Spin−X(0.22ミクロン)微量遠心分離フィルターを使用して溶出した。各消化からの産物を合わせて、λgt11クローニングシステムキット(Bethesda Research Laboratories)およびGigapack II Goldパッケージングキット(Stratagene,La Jolla, CA)を使用して、発現ライブラリーを構築するために使用した。0.8−1x106個の組換えファージを含有するライブラリーをE.coli Y1088で増幅し、109ファージ/mlの力価、85%組換え、平均挿入断片の大きさ900塩基対の溶解物150mlを得た。Protoblotシステム(Promega,Madison,WI)を使用する標準的な方法により、免疫学的スクリーニングを実施した。
【0148】
(d.プラスミドライブラリーの構築)
EMBL4またはλDashのような標準ベクターを使用する、部分消化された染色体DNAの完全ゲノムライブラリーを作製する試みは、H.pyloriDNAクローニングにおいての多くの著者により記載された困難に直面し、十分なライブラリーを得られなかった。従って、制限酵素HindIIIで消化し、Bluescript SK+にクローニングした株CCUG 17874、G39およびG50由来のゲノムDNAを使用して、部分ライブラリーを得た。DNA連結、E. coli DH 10Bのエレクトロポレーション、スクリーニング、およびライブラリー増幅を実施した。10%を超えないバックグラウンドとともに70000から85000の範囲のコロニーを有するライブラリーを得た。
【0149】
(e.DNA操作およびヌクレオチド配列決定)
DNA操作を標準的な方法によって実施した。DNA配列決定をSequenase 2.0(USB)を使用して実施し、図5に示されているDNAフラグメントをBluscript KS+にサブクローニングした。各鎖を少なくとも3回配列決定した。DNAクローンが入手できなかった1533と2289との間の領域をPCRにより増幅し、非対称PCR、および増幅産物の直接配列決定により配列決定した。この領域の重複は、one and double side anchored PCRにより確認した:5’付着末端HindIII配列、およびClaI、SalI、XhoIの認識部位を含むエクスターナルユニバーサルアンカー(external universal anchor)(5’−GCAAGCTTATCGATGTCGACTCGAGCT−3’/5’−GACTCGAGTCGACATCGA−3’)を、プライマー伸長DNAに連結して増幅した。次に、入れられた(nested)プライマーによるPCRの第二ラウンドを使用して、クローニングおよび配列決定に適したDNAフラグメントを得た。DNA配列データを集めて、VMS下のVAX 3900走査GCGパッケージ(Genetics Computer Group,Inc.,Madison,WI)により分析した。EMBL VAXclusterを使用して、GenBankおよびEMBLデータベースを調べた。
【0150】
(f.タンパク質調製およびELISA)
タンパク質抽出物を、H.pyloriペレットを6Mグアニジンで処理して得た。ウエスタンブロッティング、SDS−PAGE、電気溶出を、標準的な方法で実施した。融合タンパク質を誘導し、electrocutionまたはイオン交換クロマトグラフィーにより精製した。精製タンパク質を、ウサギを免疫するため、およびELISAアッセイのマイクロタイタープレートをコーティングするために使用した。正常粘膜保有者、血液供給者、および患者に由来する血清は、A.Ponzetto(Torino,Italy)から得た。臨床診断は、胃生検の組織学に基づいた。試料の空胞化活性は、Coverら、Infect.Immun.59:1264−70(1991)に記載されているようにHeLa細胞で試験した。
【0151】
(2.結果)
(a.免疫優性および細胞毒性)
胃十二指腸疾患にかかっている患者由来の血清でプローブされたH.pyloriグアニジン抽出物のウエスタンブロットは、クーマシーブルー染色ゲルでの主要でない成分である130kDaのタンパク質が、試験された全血清により強く認識されることを示した。CAIタンパク質を電気溶出し、ウエスタンブロットでこのタンパク質のみを認識するマウス血清をつくるのにこれを使用した。次に、この血清を、H.pylori株の抽出物中のCAIタンパク質をウエスタンブロッティングにより検出するために使用した。抗原は、HeLa細胞で空胞化活性を有する10株全てに存在しており、このような活性を有さない8株には存在していなかった;さらに、タンパク質の大きさは株によりわずかに異なっていた。CAI抗原は、Campylobacter jejuni、Helicobacter mustelae、E.coli、およびBordetella pertussisのようなその他の試験された種では、ウエスタンブロッティングにより検出されなかった。
【0152】
(b.cai遺伝子の構造)
λgt11発現ライブラリーの106個のクローンを、CAI抗原に対して特異的なマウス血清を用いて、および胃十二指腸疾患の患者由来の血清プールを使用して、スクリーニングした。マウス血清により、3x10−3の頻度で陽性クローンが検出された。8つのクローンの配列分析により、それら全てが、図5に示されているクローンA1と部分的に重複することが明らかになった。ヒト血清プールにより、クローン57/D、64/4および24、および、クローンA1に重複する数種のクローンを含む、cai遺伝子の異なる領域を含有する多くのクローンが同定された。
【0153】
図5中のクローンA1、64/4、G5、A17、24、および57/Dは、λgt11ライブラリーから得た。クローンB1は、HindIIIフラグメントのプラスミドライブラリーから得た。プラスミド57/D、64/4、B1(B/1)、およびP1−24(最も後ろのプラスミドはヌクレオチド2150から2650)は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)に寄託した。下記を参照のこと。007はPCRにより得た。オープンリーディングフレームは、図5の下段に示されている。矢印は、配列決定のためのプライマーとして使用した合成オリゴヌクレチドの位置および方向を示し、そして、G39の繰り返し配列の挿入位置が示されている。株G39に認められる繰り返し配列のうち1つのヌクレオチドおよびアミノ酸配列もまた、示されている。大文字は、cai遺伝子から複製された配列D1、D2、およびD3を示し、小文字は、ヌクレオチドおよびアミノ酸リンカーを示し、Pはプロモーターであり、およびTはターミネーターである。
【0154】
λgt11ライブラリー由来のクローン、HindIIIプラスミドライブラリーから単離されたクローンB1、および染色体DNAのPCRにより得られたフラグメント007を使用して、全領域のヌクレオチド配列を決定した。5925個のヌクレオチド配列のコンピューター分析により、ヌクレオチド535から3977にわたる長いオープンリーディングフレームが、λgt11クローン64/4、24およびA1およびA17から生じる融合タンパク質のフレーム内にはまっていることが明らかになった。クローン57/Dは、クローニングされたフラグメントの3’末端のみにオープンリーディングフレームを含有するため、遺伝子をλgt11のβガラクトシダーゼと融合し得なかった。λgt11クローン57/D中の免疫反応性タンパク質の存在は、非融合タンパク質の発現を誘導する内因性プロモーターの存在によってのみ説明され得る。この仮説は、Bluescriptプラスミドベクターに挿入断片57/4を両方向でサブクローニングすること、および、免疫反応性タンパク質が両場合ともに得られたことを示すことによって、真実であることが証明された。同定された遺伝子が事実CAI抗原をコードするという確実な証拠は、pEx 34Bプラスミドベクターに挿入断片A17および64/4をサブクローニングして、融合タンパク質を得、これを精製して用いてウサギを免疫することにより得られる。得られた血清は、細胞毒素H.pylori株中のCAI抗原バンドを特異的に認識した。
【0155】
cai遺伝子は、1147アミノ酸からなる、推定分子量128012.73ダルトンおよび、等電点9.72を有する推定タンパク質をコードすた。精製タンパク質の基本特性を、二次元ゲル電気泳動により確認した。遺伝子のコドンの用法およびGC含有量(37%)は、その他のH.pylori遺伝子に関する記載と類似した(13,26)。推定リボソーム結合部位:AGGAGは、目的のATG開始コドンから5塩基対上流に同定された。ATG開始コドンから上流領域のプロモーター配列についてのコンピューター検索は、−10または−35領域のいづれかに類似する配列を同定したが、E.coliプロモーターに共通する領域または公開されえいるH.pyloriプロモーター配列に類似することは見いだされなかった。精製H.pyloriRNAのプライマー伸長分析により、ATG開始コドンの104および214塩基対上流に2つの転写開始部位が存在することが示された。正統なプロモーターは、いずれの転写開始部位の上流にも同定され得なかった。クローン57/DによるCAI抗原部分の発現は、E.coliもまた、この領域のプロモーターを認識していることを示唆したが、E.coliがH.pyloriの同じプロモーターを認識するか、またはA−Tに富むH.pyloriDNAが、プロモーターとして作用し得る領域を有するE. coliを提供するかは、明らかではない。rho非依存ターミネーターが、開始コドンの下流に同定された。図6〜8では、AGGAGリボソーム結合部位およびターミネーターには下線を付け、繰り返し配列および6個のアスパラギンを含有するモチーフは線で囲った。CAI抗原は非常に親水性であり、明白なリーダーペプチドまたはトランスメンブラン配列を示さなかった。最も親水性である領域は、アミノ酸600から900であり、そこではまた、多くの例外的な特徴が認められ得る:配列 EFKNGKNKDFSKおよびEPYIAの繰り返し、および、6個の連続したアスパラギンの存在(図6〜8では線で囲った)。
【0156】
(c.cai遺伝子の多様性)
遺伝子の多様性は、内部複製により生じると考えられている。異なる株におけるCAIタンパク質の大きさの不均一性の機構を見いだすために、より大きなCAIタンパク質(G39)を有する1つの株の構造を、サザンブロッティング、PCRおよびDNA配列決定により分析した。結果は、G39およびCCUG 17874のcai遺伝子が3406位までの大きさで同一であることを示し、G39株が、102塩基対からなる2つの同一の繰り返しにより生成される204塩基対の挿入断片を含有することが分かった。各繰り返しは、cai遺伝子の同じ領域からの3つのDNAセグメント(図5の配列D1、D2およびD3)の複製から生じ、小さなリンカー配列により接続されている配列を含有することが認められた。挿入がなされた領域および挿入断片自身の図式を、図5に示す。
【0157】
(d.非細胞毒素株中のcai抗原の非存在)
CAI抗原が非細胞毒素株に存在しない理由を研究するために、それらの2つ(G50およびG21)からのDNAをEcoRI、HindIIIおよびHaeIII制限酵素で消化し、cai遺伝子内の2つのプローブ(それぞれに、ヌクレオチド520−1840および2850−4331の範囲)を使用したサザンブロッティングにより試験した。両プローブは、株CCUG 17874およびG39において強くハイブリダイズするバンドを認識した。そのバンドは2つの株で大きさが変わり、遺伝子の多様性に一致する。しかし、プローブは、G50およびG21 DNAのいずれにもハイブリダイズしなかった。このことは、試験された非細胞毒素株がcai遺伝子を含まないことを示した。
【0158】
(e.血清抗体)
CAI抗原に対する血清抗体の存在を、胃十二指腸疾患に関連づけた。CAI抗原に対する定量的抗体応答を研究するために、pEx34にサブクローニングされたA17フラグメントにより産生された融合タンパク質を、均質に精製して、ELISA試験用にμタイタープレートをコーティングするために使用した。このアッセイでは、胃十二指腸病状の患者は、無作偽に選択された血液供給者および正常な胃粘膜を有する人間に認められるより、有意に高い平均ELISA力価を有した。抗体力価が、特に胃十二指腸疾患に関連するかどうかを評価するために、既知の組織学的診断による患者からの血清を、ELISAアッセイで試験した。十二指腸潰瘍の患者は、その他全ての患者より有意に高い平均抗体力価を有した。概して、ELISAは、胃十二指腸疾患患者の75.3%、および十二指腸潰瘍患者の100%を予測し得ることが認められた。
【0159】
1つの特定のELISAでは、CAI抗原に由来する230アミノ酸を含有する組換えタンパク質を、タンパク質に特異的な抗血清を使用した、H. pylori DNAの発現ライブラリーのスクリーニングによって同定した。組換え抗原を、E.coli中で融合タンパク質として発現させ、均質に精製して、μタイタープレートをコーティングするために使用した。次に、そのプレートを、ヤギ抗ヒトIgGアルカリホスファターゼコンジュゲートの1/2000希釈と90分間インキュベートした。洗浄後、酵素基質をプレートに加え、30分間後に405nmでの光学濃度を読みとった。胃疾患ではなく、ウエスタンブロッティングで検出可能な抗H.pylori抗体を有さない20人の固体からの血清を使用して、カットオフレベルを、平均吸光度+2標準偏差により決定した。ELISAアッセイを、規定通りの上部胃十二指腸内視鏡検査を受けた82人の消化不良患者(平均年齢50.6±13.4才、28才から80才)の末梢血試料で試験した。患者の胃洞部粘膜を、組織学およびギムザ染色のために得た。20人の患者は十二指腸潰瘍、5人は胃潰瘍、43人は慢性活性B型胃炎、8人は十二指腸炎、そして6人は胃粘膜が正常であった。十二指腸潰瘍の全ての患者は、カットオフレベルを超える光学濃度値を有した。十二指腸炎、胃潰瘍、および慢性胃炎の患者は、それぞれに、75%、80%および53.9%の症例において陽性ELISA値を有した。ELISAと組織学的ギムザ染色間との一致は、十二指腸潰瘍で95%、十二指腸炎で98%、胃潰瘍で80%、そして、慢性胃炎で55.8%であった。このアッセイは、十二指腸炎潰瘍疾患と非常に相関性を与えた(p<0.0005)。
【0160】
(iii.熱ショックタンパク質(hsp))
(1.材料および方法)
(a.H.pylori株および増殖条件)
使用したH.pylori株は:CCUG 17874、G39、およびG33(the hospital of Grosseto, Italyでの胃生検から単離した)、Pylo 2U+およびPylo 2U−(F. Megraud, hospital Pellegzin,Bordeaux,France)、BA96(University of Siena,Italyでの胃生検で単離した)であった。Pylo 2U+株は非細胞毒性;Pylo
2U−株は非細胞毒性およびウレアーゼ陰性である。全株は、0.2%シクロデキストリン、5μg/mlセフスロジン、および5μg/mlアムホテリシンBを含有するColumbia寒天で、微好気性条件下で37℃で5ー6日間ルーチンで増殖した。細胞を採取し、PBSで洗浄した。ペレットをLaemmli試料緩衝液に再懸濁させ、煮沸して溶解した。
【0161】
胃炎および潰瘍に冒された患者の血清(A.Ponzetto,hospital ”Le Molinette”,Torino,Italyから提供された)、および胃癌患者の血清(F.Roviello,University of Siena,Italyから提供された)を使用した。
【0162】
(b.ライブラリーの免疫スクリーニング)
λgt11 H.pylori DNA発現ライブラリーの500,000プラークを、0.2%マルトースおよび10mM MgSO4を含有するLB中で一晩増殖させたE.coliY1090株の懸濁液5mlと混合し、0.5 O.D.で10mM MgSO4中に再懸濁させた。37℃で10分間のインキュベーション後に、溶かしたTopAgarose75mlを、細菌/ファージ混合物に注ぎ入れ、その全部をBBLプレートに塗布した(50,000プラーク/プレート)。塗布したライブラリーを42℃で3.5時間インキュベートした後、予め10mM IPTGで湿潤させたニトロセルロースフィルター(Schleicher and Schuell,Dassel,Germany)をプレートに取付けて37℃でのインキュベーションを3.5時間続け、次いで4℃で一晩放置した。λタンパク質のついたフィルターを持ち上げてPBSですすぎ、TBST(10mM TRIS pH8、100mM NaCl、5M MgCl2)に溶解した5%脱脂粉乳に20分間浸した。最初のハイブリダイゼーション工程は、患者血清を用いて実施した;陽性プラークの呈色および可視化のために、アルカリホスファターゼコンジュゲート抗ヒトIg抗体(Cappel,West Chester,PA)、およびAP緩衝液(100mM Tris pH9.5、100mM NaCl、5mM MgCl2)中のNBT/BCIPキット(Promega,Madison,WI)を、製造者の指示に従って使用した。
【0163】
(c.組換えDNA法)
使用した試薬および制限酵素は、Sigma(St.Louis,MO)およびBoehringer(Mannheim,Germany)から入手した。分子クローニング、一本鎖DNA精製、E.coliでの形質転換、プローブの放射活性標識、H.pylori DNAゲノムライブラリーのコロニースクリーニング、サザンブロット分析、PAGEおよびウエスタンブロット分析について、標準的な方法を使用した。
【0164】
(d.DNA配列分析)
DNAフラグメントをBluescript SK+(Stratagene,San Diego,CA)にサブクローニングした。[33P]αdATP(New England Nuclear,Boston,MA)およびSequenaseキット(U.S.Biochemical Corp.,Cleveland,OH)を製造者の指示に従って使用して、一本鎖DNA配列決定を実施した。配列は両鎖について決定し、各鎖は平均2回配列決定した。コンピューター配列分析は、GCGパッケージを用いて実施した。
【0165】
(e.組換えタンパク質)
MS2ポリメラーゼ融合タンパク質を、pEX31の誘導体である、ベクターpEX34Aを用いて生産した。挿入断片Hp67(図9〜11のヌクレオチド445からヌクレオチド1402)およびEcoRIリンカーを、ベクターのEcoRi部位に挿入してクローニングした。停止コドンの位置を確認するために、HpG3’ HindIIIフラグメントを、pEX34AのHindIII部位に挿入してクローニングした。組換えプラスミドを、E coli K12:H1Δtrpに形質転換した。誘導後両場合とも、予期した分子量の融合タンパク質が産生された。EcoRI/EcoRIフラグメントの場合に、誘導後に得られた融合タンパク質を電気溶出し、標準的なプロトコールにより、ウサギに免疫した。
【0166】
(2.結果)
(a.発現ライブラリーのスクリーニングおよびH. pylori hspのクローニング)
H.pylori DNA発現ライブラリーのスクリーニングに適した血清を見つけるために、H.pyloriCCUG 17874株の超音波処理抽出物を、異なる型の胃炎に冒された患者の血清に対するウエスタンブロット分析で試験した。異なる血清による抗原認識のパターンは、おそらく、患者の免疫応答の相違、および感染に関連する株により発現された抗原の相違によって、多用である。
【0167】
血清N°19を、細菌増殖の間にインビボで発現されたH.pylori特異抗原を同定するためのλgt11 H.pylori DNA発現ライブラリーをスクリーニングするために、選択した。この血清を用いるライブラリーのスクリーニング後に、多くの陽性クローンを単離して特徴付けた。Hp67と呼ばれる、これらのうちの1つのヌクレオチド配列で、熱ショックタンパク質のhsp60ファミリーに高度の相同性を有するタンパク質をコードする、958塩基対のオープンリーディングフレームが明らかにされた(Ellis,Nature
358:191−92(1992))。全コーディング領域を得るために、異なる制限酵素により消化されたH.pylori DNAのサザンブロット分析でのプローブとして、フラグメントHp67を使用した。プローブHp67は、それぞれに約800および1000塩基対の2つのHindIIIバンドを認識した。HindIIIで消化されたDNAのゲノムH.pyloriライブラリーを、プローブHp67でスクリーニングし、予期した分子量の2つの陽性クローン(HpG5’およびHpG3’)を得た。プラスミドpHp60G2(約ヌクレオチド1から829)およびpHp60G5(約ヌクレオチド824から1838)を含有するE.coliを、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)に寄託した。
【0168】
(b.配列分析)
ヌクレオチド配列分析で、開始ATGの6塩基対上流の推定リボソーム結合部位を有する、1638塩基対のオープンリーディングフレームが明らかにされた。図9〜11は、H.pylori hspのヌクレチドおよびアミノ酸配列を示す。推定リボソーム結合部位および内部HindIII部位には、下線を付けた。445位のシトシンおよび1402位のグアニンは、Hp67フラグメント中の、それぞれに最初および最後のヌクレオチドである。1772位のチミジンを、因子独立ターミネーター領域の位置を計算して、転写された最後の推定ヌクレオチドとして同定した。オープンリーディングフレームは、推定分子量58.3kDaおよび推定pI値5.37を有する、546アミノ酸のタンパク質をコードした。この遺伝子のコドン選択は、H.pyloriコドンの用法と一致する。
【0169】
親水性特性の分析で、推定リーダーペプチドまたはその他のトランスメンブランドメイン以外の大部分の親水性タンパク質が明らかにされた。アミノ末端配列は、Dunnら、Infect.Immun.60:1946−51(1992)により、精製タンパク質で決定された30アミノ酸の配列と100%相同性を示し、Evansら、Infect.Immun.60:2125−27(1992)により公表された44アミノ酸の配列と1残基(Lysに代わってSer42)のみが異なった(Evansら、1992)。成熟hspタンパク質のN末端配列は、開始メチオニンを含有せず、このことは、メチオニンが翻訳後に除去されたことを示す。
【0170】
(c.hsp60ファミリーとの相同性)
アミノ酸配列分析で、熱ショックタンパク質hsp60のファミリーと高度な相同性を示した。このファミリーのメンバーは、あらゆる生物に存在する。異種のhsp60タンパク質間の相同性の程度に基づくと、H.pylori hspは、グラム陰性細菌のhsp60タンパク質のサブグループに属する;しかし、hsp60ファミリーの他のタンパク質との相同性の程度は、非常に高い(少なくとも54%一致)。
【0171】
(d.組換えタンパク質の発現およびポリクローナル抗血清の産生)
クローンHp67およびクローンHpG3’の挿入断片を、MS2ポリメラーゼのアミノ末端に融合したこれらのオープンリーディングフレームを発現するために、発現ベクターpEX34Aにサブクローニングした。そのクローンは、予測された大きさの組換えタンパク質を産生し、最初のスクリーニングのために使用したヒト血清により認識された。クローンHp67由来の融合タンパク質を電気溶出し、抗hsp特異ポリクローナル抗血清を得るためにウサギの免疫に使用した。得られた抗血清は、融合タンパク質と、ウレアーゼ陰性株および非細胞毒性株を含む、試験したH.pyloriのいくつかの株の全細胞抽出物の58 KDaのタンパク質との両方を認識した。
【0172】
hspは、試験し全H.pylori株により発現されたことが示され、その発現はウレアーゼの存在または細胞毒性に関連しない。抗hsp抗血清に認識されたタンパク質は、H.pyloriの水溶性抽出物に認められ、ウレアーゼサブユニットとともに精製された。このことは、このタンパク質の細菌の外膜への弱い関連性を示唆する。従って、hspはウレアーゼ関連および表面露出されたとして記載され得る。hsp相同タンパク質のほとんどが、細胞質またはミトコンドリアおよびプラスチドに局在するので、細胞表面への局在は驚きである。hspにリーダーペプチドが存在しないことは、これが、特有の移送系により膜に移送されるか、そのタンパク質が細胞質から放出され、細菌の死後に細菌の膜に受動的に吸着されるかのいずれかであることを示唆する。
【0173】
hsp60タンパク質は、オリゴマーまたはマルチマータンパク質の正常な折り畳み、組立、および輸送を補助する分子シャペロン(chaperon)として作用することが示された。H.pylori hspの細胞局在性、およびウレアーゼへの弱い関連性より、hspは膜表面に露出された最終四次構造がA6B6であるタンパク質の折り畳みおよび/または組立を補助する役割をなし得る、ウレアーゼのような複数のサブユニットからなることを示唆する。Austinら、J.Bacteriol.174:7470−73(1992)は、H.pylori hspの超微細構造は、4つのグループに並んで積み重った円盤状の粒子に組み立てられた、7つのサブユニットからなることが示された。この構造はウレアーゼ高分子の形および大きさに類似し、このことは、それらが同時精製になるこれらの2つの高分子の共通の特性を説明し得る。しかし、H.pylori hsp遺伝子は、ウレアーゼオペロンの部分ではない。他の細菌hsp60タンパク質の遺伝子構造に一致し、これはジシストロン性オペロンであるはずだ。
【0174】
(e.胃十二指腸疾患患者中の抗hsp抗体の存在)
精製融合タンパク質を、H.pylori感染患者ならびに萎縮性および表在性胃炎に冒された患者、ならびに十二指腸および胃潰瘍患者の血清を使用する、ウエスタンブロットにより試験した。ほとんどの血清は組換えタンパク質を認識した。しかし、認識の程度は、個々の患者間で非常に多様であり、抗体レベルは、疾患型と明白な相関を示さなかった。さらに、H.pylori抗原および特にhspタンパク質に対する抗体が、試験された胃癌患者の12血清のほとんどに認められた。H.pylori hsp認識は疾患の特定の臨床状態には関係しないが、H.pylori hspとそのヒト相同物間の高度な保存があるとすると、このタンパク質がヒトの対応物と交差反応する自己免疫抗体を誘導し得ることは可能である。このクラスは相同タンパク質は、別の系における自己免疫疾患の誘導に関係がある。従って非消化性患者中のヒト相同物と交差反応する可能性がある高力価抗H.pylori hsp抗体の存在は、このタンパク質が胃十二指腸疾患において役割を有することを示唆する。この自己反応性は、H.pylori誘導性胃炎で生じる組織の損傷に役割を果たし得、従ってこの細菌感染に関連する病原機序を増加した。
【0175】
このような保存されたタンパク質に対する高レベルの抗体は、やや異常である;ヒトのものを含むhsp60ファミリーのメンバー間で高度に相同であるので、このタンパク質は、宿主免疫系に非常によく許容されるにちがいない。多くの患者に認められる強い免疫応答は、2つの異なる方法で説明され得る:(1)免疫応答は、H.pylori hspに特異的なエピトープに対してのみ指示される;(2)免疫応答は、H.pylori hspおよびヒト相同物間で共通のエピトープに対して指示される。
【0176】
(H.生物学的材料の寄託)
以下の材料は、ブダペスト条約(特許手続き上微生物の寄託の国際的承認に関する)のもとに、本発明の譲受人であるBiocine Sclavo,S.p.A.により、1992年12月15日および1993年1月22日に、メリーランド州、ロックビル、パークローンドライブ12301、電話(301)231−5519のアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)に寄託された。
【0177】
細胞毒素タンパク質(CT)について:
ATCC No.69157 プラスミドTOXHH1を含むE.coli TG1
ATCC No. n/a プラスミドTOXEE1を含むE.coli TG1。
【0178】
CAIタンパク質について:
ATCC No.69158 プラスミド57/Dを含むE.coli TG1
ATCC No.69159 プラスミド64/4を含むE.coli TG1
ATCC No.69160 プラスミドP1−24を含むE.coli TG1
ATCC No.69161 プラスミドB/1を含むE.coli TG1。
【0179】
熱ショックタンパク質(hsp)について:
ATCC No.69155 プラスミドpHp60G2を含むE.coli
TG1
ATCC No.69156 プラスミドpHp605を含むE.coli TG1。
【0180】
これらの寄託物は、当業者の利便性のために提供されており、寄託が米国特許法112条のもとに必要とされることを認めるものではない。これらの寄託物の核酸配列およびこれらによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列は、本明細書中に参考として援用されており、万一寄託物の配列と比較して本明細書中に記載された配列に任意の誤りがある場合には、参考にされるべきである。寄託物質の製造、使用、または売却には認可が必要であり得るが、ここではそのような認可は承認されていない。
【0181】
Helicobacter pyloriは、B型胃炎、消化性潰瘍および胃癌の原因または補助因子であることが知られている。先進国および発展途上国の両方において、高い割合で人々はこの細菌に感染している。本発明は概して、ある種のH.pyloriタンパク質、これらのタンパク質を発現する遺伝子、および、これらのタンパク質の診断およびワクチン用途のための使用に関する。特に、H.pylori細胞毒素(CT)の分子クローニング、ヌクレオチド、およびアミノ酸配列、「細胞毒素関連免疫優性」(CAI)抗原、および熱ショックタンパク質(hsp60)が、本明細書中に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】細胞毒素(CT)タンパク質のヌクレオチド配列を示す図である。
【図2】図1の続きである。
【図3】図2の続きである。
【図4】細胞毒素(CT)タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図5】CAIタンパク質のcai遺伝子マップ、および、この遺伝子の同定および配列決定に使用されたクローンのまとめを示す図である。
【図6】CAI抗原のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す図である。
【図7】図6の続きである。
【図8】図7の続きである。
【図9】熱ショックタンパク質(hsp)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す図である。
【図10】図9の続きである。
【図11】図10の続きである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドであって、以下:
(1)アミノ酸配列 GRSVSPEPIYATIDDLGGPFPLKRHDKVDDLSKVの少なくとも2回の繰り返し;および
(2)以下のアミノ酸配列:
【化1】
【化2】
【化3】
から得られる少なくとも8アミノ酸の連続する配列、
を含む、ポリペプチド。
【請求項2】
少なくとも8アミノ酸の連続する配列を含む免疫原性ポリペプチドであって、該免疫原性ポリペプチドは、以下の特性を有する:
(1)該連続する配列は、(a)EFKNGKNKDFSK;(b)EPIYA;および(c)NNNNNNからなる群より選択される1つ以上のアミノ酸配列を含み;ならびに
(2)該少なくとも8アミノ酸の連続する配列は、以下のアミノ酸配列:
【化4】
【化5】
【化6】
から得られる。
【請求項3】
ポリペプチドをコードするDNA分子であって、該ポリペプチドは、以下:
(1)アミノ酸配列 GRSVSPEPIYATIDDLGGPFPLKRHDKVDDLSKVの少なくとも2回の繰り返し;および
(2)以下のアミノ酸配列:
【化7】
【化8】
【化9】
から得られる少なくとも8アミノ酸の連続する配列、を含む、
DNA分子。
【請求項4】
少なくとも8アミノ酸の連続する配列を含む免疫原性ポリペプチドをコードするDNA分子であって、該免疫原性ポリペプチドは、以下の特性を有する:
(1)該連続する配列は、(a)EFKNGKNKDFSK;(b)EPIYA;および(c)NNNNNNからなる群より選択される1つ以上のアミノ酸配列を含み;ならびに
(2)該少なくとも8アミノ酸の連続する配列は、以下のアミノ酸配列:
【化10】
【化11】
【化12】
から得られる。
【請求項1】
ポリペプチドであって、以下:
(1)アミノ酸配列 GRSVSPEPIYATIDDLGGPFPLKRHDKVDDLSKVの少なくとも2回の繰り返し;および
(2)以下のアミノ酸配列:
【化1】
【化2】
【化3】
から得られる少なくとも8アミノ酸の連続する配列、
を含む、ポリペプチド。
【請求項2】
少なくとも8アミノ酸の連続する配列を含む免疫原性ポリペプチドであって、該免疫原性ポリペプチドは、以下の特性を有する:
(1)該連続する配列は、(a)EFKNGKNKDFSK;(b)EPIYA;および(c)NNNNNNからなる群より選択される1つ以上のアミノ酸配列を含み;ならびに
(2)該少なくとも8アミノ酸の連続する配列は、以下のアミノ酸配列:
【化4】
【化5】
【化6】
から得られる。
【請求項3】
ポリペプチドをコードするDNA分子であって、該ポリペプチドは、以下:
(1)アミノ酸配列 GRSVSPEPIYATIDDLGGPFPLKRHDKVDDLSKVの少なくとも2回の繰り返し;および
(2)以下のアミノ酸配列:
【化7】
【化8】
【化9】
から得られる少なくとも8アミノ酸の連続する配列、を含む、
DNA分子。
【請求項4】
少なくとも8アミノ酸の連続する配列を含む免疫原性ポリペプチドをコードするDNA分子であって、該免疫原性ポリペプチドは、以下の特性を有する:
(1)該連続する配列は、(a)EFKNGKNKDFSK;(b)EPIYA;および(c)NNNNNNからなる群より選択される1つ以上のアミノ酸配列を含み;ならびに
(2)該少なくとも8アミノ酸の連続する配列は、以下のアミノ酸配列:
【化10】
【化11】
【化12】
から得られる。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−55168(P2006−55168A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263068(P2005−263068)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【分割の表示】特願2003−8806(P2003−8806)の分割
【原出願日】平成5年3月2日(1993.3.2)
【出願人】(592243793)カイロン ソチエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (107)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【分割の表示】特願2003−8806(P2003−8806)の分割
【原出願日】平成5年3月2日(1993.3.2)
【出願人】(592243793)カイロン ソチエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (107)
【Fターム(参考)】
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