説明

ワクチン免疫療法

【課題】自己免疫現象などの副作用を示すことなく、強い抗原特異的免疫応答を誘導する
ことができる、ワクチン及びワクチンの投与方法を提供すること。
【解決手段】アジュバントの投与から一定時間後に投与されることを特徴とするワクチン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジュバントの投与後に投与されることを特徴とするワクチン、及びワクチ
ンの投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチン免疫療法の有効性を確立するためには、抗原特異的T細胞の活性化によって、
疾患関連抗原に対して広範に免疫応答を誘導することが必要である(非特許文献1及び2
を参照)。百日咳などの無細胞性ワクチンの組成は全菌体ワクチンより明確になっている
が、ワクチン抗原の製法、含有量及び無毒化が相違しているため、製造法が異なる各無細
胞性ワクチンには固有の特徴がある。無細胞性ワクチンを他のワクチン抗原と併用する際
の安全性および有効性に関し、混合前後で同ワクチンの特徴を分析して評価することが必
要である。混合後に見られる免疫原性または有効性の低下を誘導する相互作用の機序は、
未だ十分には解明されていない(非特許文献3及び4)。現在の所、癌の免疫療法が成功
するかどうかは偶発的で予測することができない。この理由の一つとしては、免疫調節の
機構上の基礎の理解を欠いていることが挙げられる。さらに、免疫療法は系統的な成功も
未達成である。抗腫瘍の研究においては、前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)をコードす
るGMP-グレードのプラスミドDNAワクチンをげっ歯類に大量かつ反復して投与する場合の
安全性および免疫学的効果を調べることがなされている。ペプチドワクチンは無細胞性ワ
クチンの1種であるが、免疫原性が必ずしも強くないこと、および有効性について疑問が
ある。ペプチドワクチンの安全性および有効性の研究は極めて重要である。ペプチドワク
チンが機能するためにはアジュバントによる補助が必要なので、両者が副作用の発生なく
協調して有効性を発揮する方法の開発は、ワクチン研究者の主要な目標である(非特許文
献5及び6)。
【0003】
樹状細胞(DC)は強力な免疫刺激作用を有する。in vivoにおいて損傷、感染及び他の
刺激物質による刺激のない状況では、DCは不活性の状態を示し、未成熟DC(iDC)と呼ば
れる(非特許文献7〜9)。ムラミルジペプチド(MDP)(非特許文献10及び11)ま
たはMDPの誘導体は、DCの成熟化を誘導することができ、この作用によって樹状細胞表面
でβ2ミクログロブリン、CD11c、HLA-DR、およびCD83の発現が増加することが示されてい
る。さらに、MDP及びその誘導体は、IL-12などのサイトカイン産生を促進し、DCにおける
NF−κBの発現を増加させる。従って、MDPはDCの抗原提示を促進する。MDP誘導体は、同
様にDCの成熟化を誘導することができる。
【0004】
CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)は、感染細胞に対して抗ウイルス活性を直接及ぼすことに
より、抗ウイルス免疫において主要な役割を果たす。従って、CTLの抗ウイルス応答を効
率的に誘発するワクチンを開発することに大きな関心が寄せられている。最適なワクチン
を作成するためには、in vivoでCTLがどのように活性化されるかを熟知し、その知識に基
づいて合理的にワクチンを設計することが重要である。さらに、このような知識は、CTL
による抗腫瘍免疫療法の開発に対し、大きな影響を及ぼすと考えられる(非特許文献12
及び13)。
【0005】
ペプチドワクチンやアジュバントの多くは、マウスまたはヒトを対象として設計及び試
験されてきた(非特許文献14)。オバルブミン(Ovalbumin;以下、OVA)257-264ペプ
チドは、OVA特異的クラスI拘束性CTLの主要エピトープである。ウイルス発現ベクターへ
のCTLのエピトープ挿入は、ブタパルボウイルス偽VLP(PPV-VLPs)におけるOVA257-264ペ
プチドのように、マウスにおいて特異的CTL応答を効率的に誘導する(非特許文献15及
び16)。本発明者らは、OVA257-264(SIINFEKL)ぺプチド(配列番号1)をパルスした
骨髄DCによる免疫療法は、マウスにおいて抗原特異的CTLの活性を顕著に誘導することを
実証している。従って、モデルペプチドワクチンであるOVA257-264ぺプチドの適性は極め
て高く、誘導された強力なMHCクラスI拘束性のCTLは外来ペプチドOVA257-264によってi
n vivoで活性化されるので、新規かつ最良の戦略が設計されることになる。
【0006】
【非特許文献1】Foy. T. et al. Vaccine 19, 2598-606 (2001)
【非特許文献2】Lachman, L.B. et al. Cancer Gene Ther 8, 259-68 (2001)
【非特許文献3】Gzyl, A. et al. Przegl Epidemiol 58, 641-8 (2004)
【非特許文献4】Gzyl, A. Przegl Epidemiol 58, 361-7 (2004)
【非特許文献5】Levi, M. et al. J Acquir Immune Defic syndr 6, 855-64 (1993)
【非特許文献6】Moschos, S.A. et al., Immunol Cell Biol 82, 628-37 (2004)
【非特許文献7】Tomiyama, M et al., Anticancer Res 24, 3327-33 (2004)
【非特許文献8】Maksymowicz, M et al., Transplant Proc 37, 25-26 (2005)
【非特許文献9】Kikuchi, K. et al., Microbiol Immunol 49, 535-44 (2005)
【非特許文献10】Uehori, J. et al., J Immunol 174, 7096-103 (2005)
【非特許文献11】Moschos, S.A. et al., Vaccine 23, 1923-30 (2005)
【非特許文献12】Davis, M. et al., Annu.Rev.Biochem. 72, 717-42 (2003)
【非特許文献13】Sykulev, Y., et al., Immunity 4, 565-71 (1996)
【非特許文献14】Yewdell, J.W. et al., Annu.Rev.Immunol. 23, 651-82 (2005)
【非特許文献15】Sigal,L.J. et al., Nature 398, 77-80 (1999)
【非特許文献16】Freigang, S et al., Proc Natl Acad Sci USA 100, 13477-82 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ペプチドワクチンは安全性が高く、腫瘍および難治性感染疾患(例えば、AIDS、肝
炎、SARS、鳥インフルエンザなど)などへの応用が期待されている。しかし、ペプチ
ドワクチン単独では効果が低いため、アジュバントの使用が必要である。従来のペプチド
ワクチンの投与方法はペプチドとアジュバントの混合物を注射する方法であったが、この
方法では十分な免疫効果は得られていなかった。即ち、本発明は、強い抗原特異的免疫応
答を誘導することができ、かつ副作用が少ない、ワクチン及びワクチンの投与方法を提供
することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、マウスに予めアジュバント
を投与し、骨髄由来樹状細胞(BM-DC)を十分に活性化させた後に、モデル抗原ペプチド
(OVA257-264ぺプチド)を皮下注射することによって免疫効果を増強することができ、か
つ副作用の発生を抑制することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づい
て完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、アジュバントの投与から一定時間後に投与されることを特徴と
するワクチンが提供される。
好ましくは、本発明のワクチンは、アジュバントの投与から3〜48時間後に投与され
る。さらに好ましくは、本発明のワクチンは、アジュバントの投与から6〜9時間後に投
与される。
好ましくは、本発明のワクチンは、ペプチドワクチンである。
好ましくは、アジュバントは、muramyl dipeptide(MDP)又はその誘導体である。
好ましくは、本発明のワクチンは、感染性微生物抗原あるいは腫瘍抗原由来のペプチド
からなる。
【0010】
本発明の別の側面によれば、(a)上記した本発明のワクチン、及び(b)アジュバン
トを少なくとも含み、該アジュバントの投与から一定時間後に該ワクチンが投与されるこ
とを特徴とする、ワクチンキットが提供される。
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、アジュバントを非ヒト動物に投与し、アジュバント
の投与から一定時間後にワクチンを投与することを特徴とする、ワクチンの投与方法が提
供される。
【0012】
好ましくは、アジュバントの投与から3〜48時間後にワクチンを投与する。さらに好
ましくは、アジュバントの投与から6〜9時間後にワクチンを投与する。
好ましくは、ワクチンはペプチドワクチンである。
好ましくは、アジュバントは、muramyl dipeptide(MDP)又はその誘導体である。
【発明の効果】
【0013】
従来の方法(ペプチドとアジュバントの混合物の投与)で免疫されたマウスでは、皮膚
の形態、マウスの行動、体重などにおいて顕著な自己免疫疾患様症状を呈したのに対し、
本発明によるワクチンの投与方法においては正常な状態が保たれた。また、従来法ではO
VA257-264ぺプチドに対してCTL応答が低かったのに対し、本発明によるワクチンの投与方
法においては強く特異的なCTL応答が誘導された。即ち、本発明によれば、強い抗原特異
的免疫応答を誘導することができ、同時に自己免疫疾患様副作用の発生を抑制することが
できる、ワクチン及びワクチンの投与方法を提供することができる。本発明により、安全
、簡便、かつ有効性が保証されたペプチドワクチンを開発することが可能になる。本発明
によるワクチン及びワクチンの投与方法は、腫瘍及び難治性感染疾患(AIDS、肝炎、
SARS、鳥インフルエンザなど)の予防と治療に有用であると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
先ず、本発明の実施例の結果を参照しつつ、本発明について具体的に説明する。
MDP誘導体アジュバントで24時間刺激した後にDC成熟の誘導が示されたことから、MDP誘
導体アジュバントで6時間刺激してDCの前処置を行うと、DCの成熟が誘導される可能性が
ある。そこで、ペプチドとアジュバントとの混合ワクチン溶液を注射するというペプチド
ワクチン免疫療法の従来のプロトコルを変更することを試みることとし、ペプチドとアジ
ュバントをそれぞれ単独で注射することを設計した。まず、C57BLA/6マウスの右鼠蹊部に
MDP誘導体アジュバントを注射し、注射の6時間後にOVA257-264ぺプチドを同部位に注射し
た。さらに、1回目の注射後7日目に1回目と同様の注射法にて追加免疫した。このような
単独注射は、in vivoで先ずMDP誘導体アジュバントによってDC成熟を誘導することが期待
され、次いで、結合ペプチド成熟DCの補助によってCTLは完全に活性化する。対照として
、OVA257-264ぺプチドとアジュバントとの混合物を、C57BLA/6マウスの右鼠蹊部に、1回
目の投与後7日目に1回目と同様の注射法で注射した。追加免疫後7日目に、上記の混合物
の注射を行ったマウスは、完全脱毛、少量の皮膚出血、わずかな体重減少、および下肢の
緊張を呈した。上記の対照群のマウスとは対照的に、ペプチドとアジュバントを単独に注
射した場合には、異常は見られなかった(図1B)。
【0015】
次に、上記の方法で免疫を受けたマウスにおいて、抗原特異的CTL細胞応答が誘導され
るかどうかを調べた。免疫を受けた正常マウスおよび異常マウス由来の脾臓細胞からin
vitroでCTL細胞株を樹立し、INF-γ Elispot法を施行した結果、OVA257-264ぺプチド特異
的CTL応答は、免疫を受けた正常マウスでは強力に誘導されるが(図2A)、免疫を受け
た異常マウスでは誘導されない(図2B)ことが実証された。BM-DC+OVA257-264ぺプチ
ド+免疫処置を受けた正常マウス由来CTLのウェルは、OVA257-264ぺプチド無しのBM-DC+
CTLウェルと比べて、赤色、大型及び多数のスポットを示し(図2Aa)、ペプチド有り
のウェルとペプチド無しのウェルとの間でT検定によってスポット数を統計比較したとこ
ろ、有意差が認められた(p<0.0005)(図2Ab)。一方、異常マウス由来CTLのウェル
ではスポットはごく少数であり、大型のスポットは見られなかったが、ペプチド有りのウ
ェルとペプチド無しのウェルとの間に有意差が認められた(p<0.05、図2Ab)。アジュ
バントを省略してペプチドのみによって免疫したマウス由来のCTLは、いかなるペプチド
特異的INF-γElispot応答も示さなかった。これらの結果は、本発明による新しいペプチ
ドワクチンの投与方法により、副作用を発現することなくワクチン免疫が可能であること
を示している。
【0016】
抗原特異的Th1応答の確立が自己免疫疾患を阻害することは既報であるが、上記した本
発明の結果は、強力な抗原特異的CTL応答の確立により、自己免疫疾患の発生を抑制でき
る可能性を示している。しかし、OVA257-264(SIINFEKL)ぺプチドはわずか8個のアミノ
酸により構成されており、著名なクラスI拘束性CTLエピトープである。クラスII拘束性
Thエピトープは、クラスI拘束エピトープに比して長いことが知られているので、自己免
疫疾患の阻害は、強力なCTL免疫応答と相関している(図2)。
【0017】
ペプチドワクチン投与による十分な免疫効果を得るためには2回目の注射をどの時点で
行うのが最善であるのかが問題になる。アジュバント注射後0.5、1.5、3、6、9、24時間
後に行った2回目の注射(ペプチド注射)の結果より、「0.5および1.5時間後」群では部
分脱毛および下肢の緊張を呈することが示された。しかし、「3、6、9、24時間後」群で
は異常な特徴は示されなかった。一方、免疫応答は、図2Aに示すような経時的変化を示
した。0時間後群におけるマウスの疾患重症度を「10」とすると、「0.5および1.5時間後
」群の疾患重症度は「1.5および1」となる(図2C)。これらの結果より、マウスで免疫
を安全に確立するためには、アジュバントの投与の「6〜9時間後」が、最適なペプチド注
射実施時点であると考えられる。
【0018】
自己免疫現象が関与していると考えられる副作用の発生機序としては以下の2つの可能
性が考えられる(図4)。第一の可能性は、注射後未成熟DCは徐々に成熟化し、この過程
で多くのサイトカインおよびケモカインが産生され、両者が自己抗原特異的なアネルギー
状態の自己応答性T細胞を活性化するという発生機序である。この場合、不完全に活性化
されたDCは強力な特異的CTL免疫応答を活性化しないので、自己抗原特異的な自己応答性
T細胞の活性化を阻害できない。この仮説が正しいのであれば、アジュバントのみの注射
によって自己免疫疾患が誘導される。しかし、週1回、2週間のアジュバント注射では、
いかなる自己免疫疾患も誘導されなかった。従って、この可能性は除外された。第二の可
能性は、ペプチドとアジュバントとの混合物を注射すると、ペプチド存在下で未成熟DC+
ペプチドがCTLを緩慢かつ部分的に活性化するというものであり、不完全に活性化された
CTLは自己反応性T細胞の活性化を誘導し、この結果として自己免疫疾患が生じる。他方、
「6および9時間後」群に由来するCTLは、INF-γ Elispot法による注射後の経時的記録に
おいて、OVA257-264ぺプチドに特異的な応答を最も強力に示した。この結果から、上述し
た第二の機序が正しいことが示唆される。すなわち、成熟DCがCTLの完全かつ強力な活性
化を誘導し、この活性化によって自己免疫疾患の発生は抑制または予防される。一方、未
成熟DCまたは貪食性単核細胞から成熟DCを誘導するためには時間が必要であり、このこと
から、アジュバントの投与から一定時間後にワクチンを投与するという本発明のワクチン
投与方法の重要性が裏付けられる。
【0019】
また、図2Aおよび図2Bはもう1つの可能性を暗示している。すなわち、未成熟DCま
たは貪食性単核細胞により誘導された低応答CTLが自己免疫疾患発生を促進する可能性は
あるが、成熟DCに誘導された低応答CTLに同様の可能性は認められない。なぜなら、「24
時間後」群に由来するCTLの応答は、最も強力な応答の4分の1まで低下するので(図2B
)、同群由来の低応答CTLはいかなる疾患も誘発しないからである。従って、未成熟DC自
体、あるいは成熟DCへ分化する未成熟DCまたは貪食性単核細胞が産生するサイトカイン、
ならびにペプチドによって抗原特異的低応答CTL、さらに自己反応性T細胞は活性化される
。成熟DC量が十分であれば、ペプチド注射の結果として抗原特異的CTLは活性化されるが
、自己抗原特異的T細胞は活性化されない。従って、ペプチド注射をする場合、正常な抗
原特異的免疫応答の誘導または異常疾患を招く免疫応答の誘導において、マウスの初期条
件が主要な役割を果たす可能性がある。
【0020】
また、対照として、従来の免疫法(den Boer, A.T. et al. J Immunol 172, 6074-9 (
2004))により、ペプチド、MDP誘導体、および不完全フロイントアジュバント(IFA)の
混合溶液を調製して、OVAペプチドワクチンを投与した。IFN-γ Elispot法によって測定
した結果、6時間後(図2D)または24時間後の単独注射データと比較した場合、リンパ
節または脾臓に由来するCTLは極めて低い応答を示した。この結果は、本発明による新し
いワクチン投与方法の優位性を示している。また、本発明のワクチン投与方法による免疫
確立に必要とされるものは1種の主要エピトープペプチドだけであり、この点は、ペプチ
ドワクチンによって予防および治療を行う上で極めて実用的である。
【0021】
さらに組織学的解析により、「0〜3時間後」群に異常な変化が認められた(図3)。「
0.5時間後」群では最も著しい脱毛変化および中等度の炎症性細胞浸潤が経時的に出現し
たが、中等度の炎症性細胞浸潤は「3時間後」群で最も著明であり、同群では他の異常は
見られなかった。肉眼的には「0時間後」群に最も著しい疾患変化が認められたが、組織
学的解析結果は、軽度の脱毛変化および限局性の炎症性細胞浸潤を示し、このことは疾患
が急性期から慢性期へと移行する可能性を示している。一方、「6および24時間後」群は
対照群と同様の組織像であり、異常な組織学的変化を示さなかった。上記の結果により、
自己免疫疾患が誘導される可能性はあるが、アジュバントの投与から一定時間後にペプチ
ドを単独で注射する本発明によるワクチンの投与方法により、自己免疫疾患によると考え
られる副作用の発生を効果的に予防できることが示された。
【0022】
上記の通り、本発明のワクチンは、アジュバントの投与から一定時間後に投与されるこ
とを特徴とするワクチンである。具体的には、アジュバントの投与から3〜48時間後に
投与されることが好ましく、アジュバントの投与から6〜9時間後に投与されることが特
に好ましい。
【0023】
本発明のワクチンの種類は特に限定されず、ペプチドワクチン、DNAワクチン、生ワ
クチンなど任意のワクチンであるが、好ましくはペプチドワクチンである。本発明のワク
チンは、例えば、腫瘍および難治性感染疾患(例えば、AIDS、肝炎、SARS、鳥イ
ンフルエンザなど)の予防・治療用のワクチンであり、目的に応じて好適な抗原(ペプチ
ドワクチンの場合には、抗原ペプチド)を選択して使用することができる。例えば、腫瘍
の予防・治療用のワクチンである場合には、腫瘍抗原ペプチドをワクチンとして使用する
ことができる。
【0024】
ワクチンの投与経路は特に限定されず、経口投与でも非経口投与でもよいが、好ましく
は皮下投与、静脈内投与、腹腔内投与などの非経口投与である。
ワクチンの投与量は、ワクチンの種類、投与経路などに応じて適宜選択することができ
るが、例えば、1μg〜1000mg/kg/回、好ましくは10μg〜100mg/k
g/回とすることができる。
【0025】
本発明のワクチンと一緒に用いるアジュバントとしては、ワクチン(抗原)の投与に先
立って投与しておくことにより免疫応答を増強できる物質であれば、任意の物質を使用す
ることができる。殺菌微生物のように抗原性をもつもののほか,alum(硫酸アルミニウム
・カリウムなど)や鉱物油のように非抗原性のものでもよい。Freundは1947年抗原水溶液
を等量の油(鉱物油85%,界面活性剤15%)と混ぜ,乳剤の状態で注射すると抗体の産生
量が増大することを見出した。これは不完全フロインドアジュバントincomplete Freund
's adjuvant(IFA)と呼ばれ,これに結核菌の菌体成分を加えたものが完全アジュバント
complete F's. a.(CFA)である。結核菌菌体成分中の最小有効成分はN-acetylmuramyl
-L-alanyl-D-isoglutamine(muramyl dipeptide;MDP)であり、これらのフロインドアジ
ュバントは皮下,皮内または筋肉内に注射することが好ましい。このほか、水酸化アルミ
ニウム,リン酸アルミニウムなどの鉱酸塩はアジュバント効果を示す。また、細菌内毒素
、特にグラム陰性菌のリポ多糖類は抗体産生を著明に促進することができ、有効成分はl
ipid Aにある。本発明では、上記したものをアジュバントとして使用することができる。
本発明では、特に好ましくは、muramyl dipeptide(MDP)又はその誘導体をアジュバント
として使用することができる。
【0026】
アジュバントの投与経路は特に限定されず、経口投与でも非経口投与でもよいが、好ま
しくは皮下投与、静脈内投与、腹腔内投与などの非経口投与である。
アジュバントの投与量は、アジュバントの種類、投与経路などに応じて適宜選択するこ
とができるが、例えば、1μg〜1000mg/kg/回、好ましくは10μg〜100
mg/kg/回とすることができる。
【0027】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定さ
れるものではない。
【実施例】
【0028】
実施例1:本発明の免疫法及び従来の免疫法におけるOVA257-264ぺプチドに対するクラス
I(Kb)拘束CTLの応答の比較
OVA257-264ぺプチドおよびMDP誘導体アジュバントによって免疫したC57BLA/6マウスを
利用し、本発明の免疫法と従来の免疫法との間でOVA257-264ぺプチドに対するクラスI(
Kb)拘束性CTLの応答を比較した。また、2種のマウスの特徴を比較した。
【0029】
図1のAに、マウスに対する2種類の免疫法(a:本発明の免疫法、b:従来の免疫法
)を示す。ワクチン投与法の違いによってマウスを以下の4群に分類した。
1群:OVA257-263ぺプチド(100μg)+MDP誘導体(100μg)/PBS100 μl/マウスの混合
溶液を週1回2週間、右鼠蹊部に皮下注射して免疫;
2群:MDP誘導体(100 μg)/PBS100 ml/マウスを右鼠蹊部に皮下注射し、6時間後および
週1回2週間、OVA257-263ぺプチド(100μ(g)/PBS100 (l/マウスを右鼠蹊部に皮下注射し
て免疫。
3群または4群:MDP誘導体単独注射またはペプチド単独注射(陰性データは示さず)。
【0030】
図1のBには、2種のマウスの特徴を比較した結果を示す。a(本発明)は、MDP誘導
体アジュバントおよびOVA257-264ぺプチドをそれぞれ別々に単独に注射したマウスを示す
。b(比較例)は、MDP誘導体アジュバントおよびOVA257-264ぺプチドの混合溶液によっ
て免疫したマウスを示す。混合物の注射を行ったマウス(図1のBのb)では、完全脱毛
、少量の皮膚出血、わずかな体重減少、および下肢の緊張を呈し、自己免疫疾患の誘導の
可能性が示唆されたが、ペプチドとアジュバントを単独に注射したマウス(図1のBのa
)では、異常は見られなかった。
【0031】
図1のCには、マウスに由来するクラスI(Kb)拘束CTLのOVA257-264ぺプチド特異的
応答を比較した結果を示す(a:本発明の免疫法、b:従来の免疫法)。アッセイに使用
する抗原提示細胞を調製するために、骨髄由来DCを以下に示す方法でC57BLA/6マウスより
作製した。新鮮または凍結骨髄細胞(2×106)を直径10 cmの細菌シャーレでGM-CSF(10
ng/ml)を添加して7〜14日間培養した。DCを採取し洗浄した後、3時間、37℃にて各ペプ
チド20 mMでパルスした。このDCはCTL誘導およびアッセイに使用されることとなる。一方
、2回目の注射(追加免疫)の7日目に、脾臓細胞を各注射群から分離し、脾臓細胞を各免
疫マウス群から分離して、製造業者の指示に従ってMACS CD4ビーズを利用し、脾臓細胞か
らCD4+T細胞を除去した。CTL細胞株の作製のため、CD4+T細胞を除去した脾臓細胞を24ウ
ェルプレートにて密度5×106個/ペプチド(5μM)/ウェルとし、IL-2(100 u/ml)を添加
して1週間培養した。この細胞株をアッセイに使用した。Elispot法は市販のキット(MIN
ERVA TECH, Tokyo, Japan)を利用して行う。エフェクター細胞(CTL細胞株)(4×104
)および刺激細胞(DC)(1×104個)をOVAペプチド(10μM)有無の条件で、マウスイン
ターフェロン-γに特異的なモノクローナル抗体を4℃で一晩コーティングした96ウェルE
lispotプレートに播種した。37℃で16〜24時間培養した後、細胞を除去して製造業者が指
定した方法に従ってプレートを処理した。発生したスポットを立体顕微鏡で計測した。赤
色に呈色した境界不明瞭なスポットのみをスポット形成細胞(SFC)として計測した。図
中データは三重アッセイの平均を示す。標準偏差は概して平均の10%以内であった。対照
として、マウスにペプチド単独注射またはアジュバント単独注射も行った。CTLのINF-γ
Elispot法では陽性免疫応答は認められず、マウスにはいかなる異常な変化も見られなか
った。同様の結果を示した3回の実験より、一組の代表的データを示す。
【0032】
実施例2:マウスにおけるアジュバント注射後のOVAペプチド注射の最適時点の同定
異なる時点で2回目の注射(ペプチド注射)を実施し、免疫マウスの脾臓由来のCTLを用
いたINF-γElispot法により、OVAペプチドおよびアジュバントの免疫効果を測定した。方
法は実施例1と同様であるが、Elispot法において、エフェクターCTL数は4×106個/ウェ
ルである。ペプチドとアジュバントとの混合注射の実施時間を「0時間」とする。MDP誘導
体注射の0.5、1.5、3、6、9、24時間後、マウスに各々OVAペプチドを注射し、1回目の注
射後7日目に、1回目の注射と同様の方法でマウスに追加免疫を行った。上記の通り、異な
る時点で2回目の注射をしたマウスの脾臓由来のCTLによってINF-γElispot法を実施し、
得られたスポットの経時的変化を図2のAに示す。同CTLにおけるINF-γElispot法のスポ
ットの直接像を図2のBに示す。また、同マウスにおける経時的な疾患発生を図1のCに
示す。80%以上の脱毛が発生したマウスの疾患重症度を「重症度10」とし、疾患重症度の
評価基準とした。対照として、マウスに対してペプチド単独注射またはアジュバント単独
注射も行った。CTLのINF-γElispot法ではいかなる陽性免疫応答も認められず、異常な変
化の発生は皆無であった。
【0033】
単独注射および油との混合注射(IFA)との比較を図2のDに示す。単独注射群のデー
タは図3Bの6時間後による。対照として、OVA257-264ペプチド100μgおよびMDP誘導体1
00μgを含有するIFA/PBS 0.1 ml、あるいはOVA257-264ペプチド100μgを含有するIFA/PB
S 0.1 mlを、マウスの右鼠蹊部に皮下注射して免疫した。免疫2週間後、脾臓からT細胞を
調製し、上記と同様にin vitroで培養した。T細胞を右鼠蹊リンパ節より調製したところ
、同細胞は陰性データを示した。同様の結果を示した3回の実験より、一組の代表的デー
タを示した。各アッセイは3回の培養によって実施し、平均値を示す。平均値の標準誤差
は10%を超えなかった。
【0034】
実施例3:アジュバントおよびペプチドの混合注射または単独注射をしたマウスにおける
近傍皮膚下層の経時的な組織学的変化
1回目の免疫後14日目に、通常の組織学的方法により、検体を上記マウスから採取し、
固定、薄切してHE染色した。結果を図3に示す。
A:アジュバント注射の0時間後にペプチド注射、すなわちアジュバントとペプチドとの混
合物の注射
B:アジュバント注射の0.5時間後にペプチド注射
C:アジュバント注射の3時間後にペプチド注射
D:アジュバント注射の6時間後にペプチド注射
E:アジュバント注射の24時間後にペプチド注射
F:正常対照
【0035】
図3の結果から分かるように、「0〜3時間後」群に異常な変化が認められた。「0.5時
間後」群では最も著しい脱毛変化および中等度の炎症性細胞浸潤が経時的に出現したが、
中等度の炎症性細胞浸潤は「3時間後」群で最も著明であり、同群では他の異常は見られ
なかった。肉眼的には「0時間後」群に最も著しい疾患変化が認められたが、組織学的結
果は、軽度脱毛変化および限局性の炎症性細胞浸潤を示し、このことは疾患が急性期から
慢性期へと移行する可能性を示している。一方、「6および24時間後」群は対照群と同様
の組織像であり、異常な組織学的変化を示さなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、OVA257-264ぺプチドおよびMDP誘導体アジュバントを免疫したC57BLA/6マウスを利用し、本発明の免疫法と従来の免疫法との間でOVA257-264ぺプチドに対するクラスI(Kb)拘束CTLの応答を比較した結果を示す。
【図2】図2は、マウスにおけるアジュバント注射後のOVAペプチド注射実施の最適時点を同定した結果を示す。
【図3】図3は、アジュバントおよびペプチドの混合物を注射したマウス、及びアジュバントおよびペプチドをそれぞれ単独に注射したマウスにおける、近傍皮膚下層の経時的な組織学的変化を示す。
【図4】図4は、対照群と本発明群における免疫応答の違いに関する仮説を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0037】
SEQUENCE LISTING
<110> Kumamoto University
<120> Vaccine immunotherapy
<130> A51777A
<160> 1
<210> 1
<211> 8
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic peptide
<400> 1
Ser Ile Ile Asn Phe Glu Lys Leu
5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジュバントの投与から一定時間後に投与されることを特徴とするワク
チン。
【請求項2】
アジュバントの投与から3〜48時間後に投与されることを特徴とする
、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
アジュバントの投与から6〜9時間後に投与されることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のワクチン。
【請求項4】
ペプチドワクチンである、請求項1から3の何れかに記載のワクチン。
【請求項5】
アジュバントが、muramyl dipeptide(MDP)又はその誘導体である、請
求項1から4の何れかに記載のワクチン。
【請求項6】
感染性微生物抗原あるいは腫瘍抗原由来のペプチドからなる、請求項1
から5の何れかに記載のワクチン。
【請求項7】
(a)請求項1から5の何れかに記載のワクチン、及び(b)アジュバ
ントを少なくとも含み、該アジュバントの投与から一定時間後に該ワクチンが投与される
ことを特徴とする、ワクチンキット。
【請求項8】
アジュバントを非ヒト動物に投与し、アジュバントの投与から一定時間
後にワクチンを投与することを特徴とする、ワクチンの投与方法。
【請求項9】
アジュバントの投与から3〜48時間後にワクチンを投与する、請求項
8に記載のワクチンの投与方法。
【請求項10】
アジュバントの投与から6〜9時間後にワクチンを投与する、請求項
8又は9に記載のワクチンの投与方法。
【請求項11】
ワクチンがペプチドワクチンである、請求項8から10の何れかに記
載のワクチンの投与方法。
【請求項12】
アジュバントが、muramyl dipeptide(MDP)又はその誘導体である、
請求項8から11の何れかに記載のワクチンの投与方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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