説明

ワクチン接種のための天然ペプチド及びそれらの最適化された誘導体の使用

本発明は、ワクチン接種の分野、より具体的には抗腫瘍及び抗ウイルスのワクチン接種の分野に関する。本発明は、天然ペプチドに由来する最適化免疫原性ペプチドにより開始されたCTL免疫応答の一部を選択及び/又は高めるための医薬組成物中の天然ペプチドの使用に関する。本発明は、最適化されたペプチド及び同族の天然ペプチドのいくつかの用量を含むワクチン接種キットにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワクチン接種の分野、より具体的には抗腫瘍及び抗ウイルスのワクチン接種の分野に関する。本発明は、天然ペプチド(native peptide)由来の最適化された免疫原性ペプチドにより開始されたCTL免疫応答の一部分を選択及び/又は高めるための医薬組成物中の天然ペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の免疫療法は、腫瘍抗原に由来しかつ腫瘍細胞表面においてHLAクラスI分子により提示されるペプチドを認識する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を刺激することを意図する。CTLが標的とするペプチドは、優性(dominant)又は潜在性(cryptic)であり得る(Moudgil及びSercarz 1994)。優性ペプチドは、高いHLA親和性を有し、腫瘍細胞により頻繁に提示される。対照的に、潜在性ペプチドは、低いHLA親和性を有し、腫瘍細胞によりあまり提示されない。現在までに試験された全ての癌ワクチンは、優性ペプチドを標的とし、あまり成功していない(Slingluff, Yamshchikovら 2001; Knutson, Schiffmanら 2002; Schaed, Klimekら 2002; Parkhurst, Rileyら 2004; Vonderheide, Domchekら 2004)。マウスモデルを用いた研究は、腫瘍抗原、特にその優性ペプチドに対する寛容が効力の欠如の原因であることを示した(Cibotti, Kanellopoulosら 1992; Theobald, Biggsら 1997; Colella, Bullockら 2000; Hernandez, Leeら 2000; Grossmann, Davilaら 2001; Gross, Graff-Duboisら 2004)。
【0003】
この寛容を回避するために、潜在性ペプチドを用いるワクチン接種が近年提案された。ヒト化マウスにおいては潜在性ペプチドの寛容が弱いか又は存在せず、潜在性ペプチドが、それらの免疫原性が最適化されていればインビボで抗腫瘍免疫を効果的に誘発したことが観察された(Tourdot, Scardinoら 2000; Scardino, Grossら 2002; Gross, Graff-Duboisら 2004)。試験したほとんど全ての低親和性HLA-A*0201-拘束ペプチドの免疫原性を最適化するペプチド配列の改変は、以前に記載された(Tourdot, Scardinoら 2000)。
【0004】
TERT572Yは、ヒト腫瘍の85%により過剰発現される抗原であるTERTに由来するHLA-A*0201-関連最適化潜在性ペプチドである(Kim, Piatyszekら 1994)。TERT572は、ヒト及びマウスのTERTに存在し、TERT572Yは、HLA-A*0201トランスジェニックマウスにおいて抗腫瘍免疫を誘発できた。しかし、通常のTERT発現組織に対する自己免疫は観察されなかった(Gross, Graff-Duboisら 2004)。インビトロでは、TERT572Yは、健康なドナー及び前立腺癌患者の両方からの抗腫瘍CTLを刺激した。CTLはTERT発現腫瘍細胞を殺すが、TERT発現正常細胞は殺さない(Hernandez, Garcia-Ponsら 2002; Scardino, Grossら 2002)。
【0005】
しかし、同様のワクチン接種アプローチにおいて、最適化されたgp100209Mを用いた黒色腫患者のワクチン接種が、天然のgp100209ペプチドもgp100発現黒色腫細胞ももはや認識できないT細胞の増幅を導いたことが報告されている(Clay, Custerら 1999)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、現在、準優性(sub-dominant)又は潜在性のエピトープを標的するT細胞応答(特にこの応答が最適化されたペプチドにより開始される場合に)の開始及び維持ができるワクチン接種プロトコルに対する必要性がある。
【0007】
以下の実施例1に開示される研究は、i) 進行癌の患者においてインビボで抗腫瘍免疫応答を刺激するTERT572Yの能力;及びii) TERTを発現する正常細胞及び組織、例えば造血前駆体、消化管、胸腺及び肝臓に対する自己免疫の誘発の危険性を評価するように設計された。進行癌の患者へのTERT572Yを用いるワクチン接種は、完全に機能的な特異的CTLを刺激し、TERTを過剰発現する腫瘍細胞をインビトロで殺すことができた。さらに、ワクチン接種は安全であり、TERT陽性正常組織に対する自己免疫を全く誘発しなかった。このことは、最適化された潜在性ペプチドが腫瘍免疫療法のために考慮できることをヒトにおいてインビボで最初に示した証拠である。
【0008】
さらに、実施例2、3及び4に示すものとともにこれらの結果は、同族の(cognate)最適化されたペプチドでのワクチン接種に続く天然ペプチドの注射が、該最適化されたペプチドにより開始された免疫応答を維持できることを示す。理論に束縛されることなく、天然ペプチドの使用が、最適化されたペプチドにより補充された(recruited) T細胞のなかでも、腫瘍細胞により提示される天然ペプチドに対して最も高い特異性を有するものを選択し及び/又は高める(boost)ことを可能にすると仮定できる。
これらの知見は、同族の最適化されたペプチドにより高められた(raised) CTL免疫応答を改善するための、天然の潜在性又は非最適化ペプチドの使用を提案することを可能にする。
【0009】
所定のMHC分子についての「潜在性ペプチド」は、該MHC分子に結合できるが、MHC分子に対して弱い親和性及び/又はMHC/ペプチド複合体の弱い安定性でしか結合できないペプチドである。結果として、このペプチドは抗原提示細胞の表面では該MHC分子により乏しく提示されるのみであり、よって、該ペプチドが由来する抗原に対するCTL応答においてわずかしか又は全く参加しない。例えば、HLA A2の場合、潜在性ペプチドは、WO 0208716に記載されるように、低い親和性及び弱い安定化能力(RA>5及びDC50<2時間)を有するペプチドとして定義できる。
【0010】
「天然ペプチド」(潜在性又はそうでない)は、いずれの配列の改変も受けていない抗原のフラグメントに相当するペプチドである。
所定の天然ペプチドについての「最適化されたペプチド」は、該天然ペプチド中の1つ又はいくつかのアミノ酸置換により得られるペプチドであり、該改変はMHC分子のより大きい親和性及び/又はMHC/ペプチド複合体のより大きい安定性をもたらす。例えば、HLA-A2.1-関連ペプチドは、チロシンを最初の位置に導入することによって(P1Y置換)それらの配列を改変することにより最適化できる(Tourdot, Scardinoら 2000)。潜在性ペプチドを同定し、同族の最適化ペプチドを作製する方法は、例えば、その内容が本明細書に参照により組み込まれるPCT WO 02/08716に開示されている。HLA A2ペプチドを最適化するためのその他の改変、例えば、メチオニン又はロイシンによる位置2のアミノ酸の置換(Parkhurst, Salgallerら 1996; Bakker, van der Burgら 1997; Valmori, Fonteneauら 1998)、又はバリン又はロイシンによるC-末端アミノ酸の置換(Parkhurst, Salgallerら 1996)も記載されている。これらのペプチド改変を行って、本発明を行うための最適化されたペプチドを得ることができる。
【0011】
潜在性ペプチドは、それが由来するタンパク質を発現する標的細胞に対する特異的CTL応答をインビトロで作り出すことができない。対照的に、同族の最適化されたペプチドは、同じ標的細胞に対する特異的CTL応答を作り出すことができ、ここで、CTLの少なくとも一部は該潜在性ペプチドに対して高い結合活性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、天然ペプチドの、その同族の最適化されたペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持するための医薬組成物の製造のための使用である。本発明の好ましい実施形態によると、天然ペプチドは準優性又は潜在性である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、抗腫瘍又は抗ウイルスの免疫療法の領域において特に有用である。よって、天然ペプチドは、腫瘍抗原又はウイルス抗原、特に長期持続性の感染を生み出すウイルス、例えばHIV、HCV及びHBVからの抗原からであることが有利である。
【0014】
本発明によると、天然ペプチドは、同族の最適化されたペプチドを以前に受容した患者のワクチン接種のために用いることができる。
よって、本発明は、腫瘍又はウイルスの抗原に対して患者をワクチン接種する方法を含み、該方法は、該抗原の天然ペプチドに対して同族の最適化ペプチド、特に潜在性ペプチドをワクチン接種する第1工程と、その後に、該天然ペプチドをワクチン接種する第2工程とを含む。
【0015】
天然潜在性ペプチドTERT572 (RLFFYRKSV)及びその同族の最適化されたペプチドTERT572Y (YLFFYRKSV)を用いる抗腫瘍ワクチン接種の例は、以下の実施例1に示す。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によると、潜在性ペプチドはHLA A2により提示され、最適化されたペプチドは、該潜在性ペプチドのN-末端アミノ酸のチロシン残基での置換により得られる。HLA A2により提示され、本発明において用いることができる潜在性ペプチドと最適化されたペプチドとの対の限定しない例は、PCT WO 02/08716及び以下の表1に記載される。本発明に従って用いることができる天然ペプチドと同族の最適化されたペプチドとのその他の対も、以下の表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
本発明の別の態様は、同族の最適化されたペプチドで免疫された患者からの生体試料中に存在するCTLを天然ペプチドで刺激することにより、天然ペプチド、特に天然潜在性ペプチドに対する高い結合活性を有するCTLをインビトロで得るための方法である。この方法において、天然ペプチド及び最適化されたペプチドは、上記のものであることが有利である。
【0019】
本発明は、天然ペプチドの少なくとも1回用量(dose)と、その同族の最適化されたペプチドの少なくとも1回用量とを含む、ワクチン接種のための部分のキットにも関する。好ましい実施形態において、ワクチン接種キットは、最適化されたペプチドの2又は3回用量と、天然ペプチドの3、4、5又は6回用量とを含む。本発明による具体的なワクチン接種キットは、6回の注射の一連の最初のワクチン接種に適合され、最適化されたペプチドの2又は3回用量と、天然ペプチドの4又は3回用量とを含む。長期持続型の疾患の場合、この第一のワクチン接種の後に得られる免疫のレベルを、定期的な記憶力(recall)により維持することが好ましい。このことは、例えば、3〜6ヶ月ごとに注射を行うことにより可能である。よって、天然ペプチドの少なくとも2回用量であって40又は50回用量までを含む補足キットも本発明の一部分である。あるいは、ワクチン接種キットは、最適化されたペプチドの2〜3回用量と、天然ペプチドの3〜40若しくは50回までの用量とを含み得る。もちろん、キットに存在する該天然ペプチドと最適化されたペプチドは、上記のようなものである。
【0020】
各用量は、0.5〜10 mg、好ましくは1〜5 mgのペプチドを含む。好ましい実施形態において、各用量は、皮下注射用に処方される。例えば、アジュバントとして用いられるモンタニド(Montanide)で乳化された水溶液の懸濁物0.3〜1.5 ml中に、各用量を処方できる。当業者は、モンタニドの代わり(又はそれに加えて)にいずれのその他のアジュバントを選択できる。具体的な実施形態において、用量は水溶液の形にある。あるいは、用量は、注射される液体の溶液の即座の調製のための凍結乾燥されたペプチドの形であり得る。
本発明は、以下の図面及び実施例によりさらに説明される。
【0021】
図の凡例
図1:患者#1、#3、#8、#11及び#13においてエクスビボで検出されたTERT572Y-特異的CD8細胞。ワクチン接種前並びに2回目(#1、#8、#11)及び6回目(#13)のワクチン注射のあとに回収された患者#1、#8、#11及び#13からの融解したPBMCを、PE標識TERT572Yテトラマー、APC標識抗-CD8及びFITC標識抗-CD3で染色した。CD3+作動型(gated)細胞を分析した。
図2:患者#6及び#18からのPBMCのインビトロでの刺激の後に検出されたTERT572Y特異的CD8細胞。患者#6及び#18からの融解したPBMCを、10μM TERT572Yの非存在下(刺激なし)又は存在下(刺激あり)で9日間培養した。次いで、図1の凡例に記載されるようにして細胞を染色し、分析した。
【0022】
図3:免疫応答の時間経過。
図4:ワクチン接種により誘発されるTERT572Y特異的CD8細胞の機能的分析。
A) 2回目のワクチン注射の3週間後に回収した患者#4からのPBMCを、TERT572Yペプチドでインビトロにて9日間刺激した。TERT572Y特異的細胞を精製し、PHAを用いて増幅させた。増幅させた細胞を、TERT572Yテトラマー及びCD8 mAbで染色した。
B) TERT572Yテトラマー陽性細胞を、TERT572Y及び無関係のFluM58ペプチドを用いて6時間刺激し、次いで、PE標識抗-CD107aで染色し、サポニンで透過性にし、FITC標識抗-IFNγで染色して、細胞内IFNγを評価した。
C) TERT572Yテトラマー陽性細胞を、51Cr標識N418及びTERTでトランスフェクションしたN418細胞と4時間、通常の51Cr放出アッセイにおいてインキュベーションした。E/T比を示す。
D) TERT572Yテトラマー陽性細胞を、51Cr標識NA8及びME290腫瘍細胞と4時間、通常の51Cr放出アッセイにおいてインキュベーションした。E/T比を示す。
【実施例】
【0023】
実施例
実施例1:進行悪性腫瘍患者における最適化された潜在性ペプチドTERT572Yの安全性及び免疫原性:I相臨床研究
1.1. 患者及び方法
患者
化学療法耐性の悪性腫瘍の患者が、この研究に適格である。その他の適格基準は次のとおりである:利点が証明されたその他の治療のオプションがない進行性の疾患;少なくとも6ヶ月生存が予測される;患者はHLA-A*0201陽性でなければならない;年齢18〜75歳、一般状態(performance status) (WHO)<2、適切な骨髄(絶対好中球計数≧1500/mm3;絶対リンパ球計数≧1300/mm3;血小板>100000/mm3;Hgb>10g/dl)、腎臓(クレアチニン<1.5mg/dl)及び肝臓(ビリルビン<通常の上限値の1.5倍)の機能。患者は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、免疫療法又はコルチコステロイドを、研究に登録する前の1ヶ月以内に受けたか、又は既知の免疫不全又は自己免疫疾患を有していた場合は、除外した。プロトコルは、ヘラクリオン大学病院の倫理科学委員会及びギリシャの国家薬剤局により承認された。全ての患者は、研究に参加するために、告知に基づく同意の書面を提出した。
【0024】
ペプチドワクチンの調製
ワクチンは、モンタニドISA51 (Seppic Inc, France)中で乳化した最適化されたTERT572Y (YLFFYRKSV)及び天然TERT572 (RLFFYRKSV)ペプチドからなった。ワクチンペプチドは、固相Fmoc/Bu化学により、パトラス大学(ギリシャ)の薬学部で合成した。品質保証の研究は、アイデンティティ、滅菌性及び純度の確認(両方のペプチドについて>95%)を含んでいた。純度又は濃度の減少は、-80℃での貯蔵で2年を超えた後でも観察されなかった。各ペプチドは、滅菌水中での再構築及び希釈のための凍結乾燥粉末として調製した。
【0025】
ワクチン接種プロトコル
患者は、3週間ごとに投与された合計で6回の皮下ワクチン接種を受けた。0.5ml水溶液中のペプチドを、注射の直前に0.5mlのモンタニドISA51で乳化した。最適化されたTERT572Yペプチドを最初の2回のワクチン接種に用い、天然TERT572ペプチドを残りの4回のワクチン接種に用いた。ペプチドの5つの用量レベルを研究し、用量レベルは、両方のペプチドについて2、3、4、5及び6 mgを含んだ。各用量レベルには3人の患者を入れた。用量制限事象が観察された用量レベルでは、さらに3人の患者を含める計画であった。各患者は、6回全てのワクチン接種について同じペプチド用量を受けた。抗腫瘍活性を有し得るその他の治療、すなわち化学療法、放射線療法、ホルモン療法又はコルチコステロイドの投与は、ワクチン接種の期間中、許可されなかった。
【0026】
患者の評価
研究に入る前に、全ての患者を、完全な医療履歴、身体検査並びに弁別血清化学及び関連する腫瘍マーカーのベースライン測定を用いる完全な血液細胞計数により評価した。さらに、測定可能な疾患は、標準的なイメージング手順(胸部x線、超音波、胸部及び腹部のコンピュータ断層撮影スキャン、指示されていれば磁気共鳴イメージング(MRI)、並びに全身の骨スキャン)により決定した。ワクチン接種プロトコルの間の毒性は、完全血液細胞計数を毎週反復し、ワクチン接種期間の間の各後続の注射の3週間前ごと及びフォローアップの間の注射後毎月、医療履歴、身体検査及び血清化学を行うことにより評価した。毒性は、国立癌研究所(NCI)共通毒性基準を用いて評価して評点した(Ajani, Welchら 1990)。用量制限毒性(DLT)を、ワクチン接種プロトコル全体の間に評価し、以下のいずれかが発生することとして評価した:グレード4の血液学的毒性;>38.2℃の発熱を伴うグレード3〜4の好中球減少;グレード3〜4の非血液学的毒性;及び毒性によるいずれの治療の遅延。そのレベルで処置された患者の少なくとも50%がDLTを発生すれば、用量の漸増を停止し、DLT用量レベルに達した。MTD用量レベルは、DLT用量レベル未満の最初のレベルであると定義した。
【0027】
治療に対する応答は、2回のワクチン接種の後ごと又は臨床的に指示されていればそれより前にベースラインイメージング研究及び関連腫瘍マーカー測定を反復することにより評価した。治療に対する応答は、標準的なWHO基準を用いて完全寛解(CR)、部分寛解(PR)、安定疾患(SD)及び進行性疾患(PD)として評点した(Miller, Hoogstratenら 1981)。放射線学的応答は、放射線医の個別のパネルにより確認した。CR及びPRは、最短で4週間維持されなければならなかった。応答の持続期間を、応答の最初の証拠書類提出から疾患の進行まで測定した。進行までの時間(TTP)を、治療の開始から疾患の進行を客観的に文書化した最初の日までの間隔により決定した。全体的な生存(OS)は、研究に入った日から死亡の日まで測定した。フォローアップ時間は、最初の治療的投与の日から最後の接触又は死亡まで測定した。免疫応答は、最初の注射の前と、2回目、4回目及び6回目の注射の後に調べた。末梢血単核細胞(PBMC)を各時間点で回収して凍結した。
【0028】
細胞系統
T2は、TAP分子を欠くがHLA-A*0201を発現する変異ヒトT/Bハイブリッドである。HLA-A*0201陽性N418繊維芽細胞、TERTでトランスフェクションされたN418細胞、並びに黒色腫細胞系統Na8及びMe290は、P. Romero (Ludwig Institute for Cancer Research, Lausanne, Switzerland)により提供された。
【0029】
ペプチド
実験室での研究に用いたクラスI拘束ペプチドは、TERT572 (RLFFYRKSV、配列番号1)、TERT572Y (YLFFYRKSV、配列番号2)及びFluM58 (GILGFVFTL, 配列番号11)を含み、全てEpytop (Nimes, France)により製造された。
【0030】
PBMCのインビトロ刺激
融解したPBMC (200μl中に3×105細胞/ウェル)を、96ウェル丸底プレート中の完全培地(8%ヒトAB血清を補ったRPMI 1640)中で、10μM TERT572Yペプチドの存在下でインキュベートした。IL2を、48時間及び96時間後に10 U/mlの最終濃度で加えた。細胞を5% CO2-空気中で37℃にてインキュベートした。培養第9日目に、6つのウェルからの細胞をプールして、TERT572Y特異的CD8細胞の存在を、TERT572Yテトラマー染色により分析した。
【0031】
TERT572Yテトラマー染色
細胞を、PE結合TERT572Yテトラマー(Proimmune Ltd, Oxford, UK)と室温にて30分間インキュベートし、次いでAPC結合抗-CD8 (BD Pharmingen, Mississauga, Canada)及びFITC結合抗-CD3 (BD Pharmingen, Mississauga, Canada) mAbと4℃にて30分間インキュベートした。染色された細胞を、フローサイトメトリにより分析した(FACSCalibur, BD Biosciences, Mountain View, CA)。
【0032】
TERT572Yテトラマー陽性細胞のポリクローン増殖
PBMCを、9日間、10 U/ml IL2の存在下で10μM TERT572Yを用いて刺激した。細胞を抗-CD8 mAb及びTERT572Yテトラマーを用いて標識した後に、セルソーターを用いて単離した。選別された細胞は、PHA (Difco)を用いて14日間刺激した。
【0033】
CD107及び細胞内IFNγ二重標識
T細胞を、20μg/ml ブレフェルジン(Brefeldin) A (Sigma, Oakville, Canada)の存在下で、ペプチドを載せたT2細胞(10μM)を用いて刺激した。6時間後に、これらを洗浄し、PBS中のPE結合抗-CD107 mAb (BD Pharmingen, Mississauga, Canada)を用いて4℃にて25分間染色し、再び洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。細胞をPBS/0.2%サポニン/0.5% BSA (Sigma)で透過にし、APC結合抗-IFNγ mAb (BD Pharmingen, Mississauga, Canada)で染色した後に、フローサイトメトリ分析を行った(FACSCalibur, BD Biosciences, Mountain View, CA)。
【0034】
細胞毒性アッセイ
標的細胞を、100μCiの51Crを用いて90分間標識し、2回洗浄し、96ウェル丸底プレートに入れた(100μlのRPMI 1640+5%胎児ウシ血清中に3×103細胞/ウェル)。エフェクター細胞(100μl)を各ウェルに加えた。4時間後に、100μlの上清を回収し、放射活性をガンマカウンタで測定した。特異的溶解のパーセンテージは、次のようにして決定した:溶解 = (実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)×100。
【0035】
1.2. 結果
患者の特徴づけ、ワクチン接種及び臨床応答
試験に登録した19人の患者の特徴を、表2に示す。1人の患者(患者#11)以外の全ては、主に骨、肝臓及び肺での多発性転移を示す第IV段階であった。彼らは全て活性で進行性の疾患であり、ワクチン接種プロトコルに入る前にいくつかの治療、主に化学療法を受けていた。3人の患者は、用量レベル2、3、4及び5 mgのペプチドで登録したが、7人の患者は6 mgの用量を受けた。5人の患者は、疾患の進行が迅速であったので、4回目(#1、#5、#14及び#19)又は5回目(#18)のワクチン注射の後にプロトコルから離脱した。5人の患者は、その後、疾患進行の6か月以内に全て死亡した。残りの14人の患者はワクチン接種プロトコルを完了した。疾患は4人(29%)の患者(#9、#11、#12及び#13)で安定し、10人の患者で進行を続けた。後者の10人の患者は、続いて化学療法を受け、6人はいまだに生存している。疾患が9ヶ月間安定した4人の患者のうちの1人(患者#11)は、その後、進行したが、他の3人は、ワクチン接種の終了の後に別の治療を受けずにいまだに安定疾患を有する(患者#9及び#12については12ヵ月後、及び患者#13については9ヵ月後)。
【0036】
【表2】

【0037】
全体として、10.7ヶ月の中間値の(4.4〜27.6の範囲)フォローアップの後に9人の患者が死亡し、これは全て疾患の進行によるものであった。腫瘍の進行の時間の中間値は4.2ヶ月(2.3〜11.2の範囲)であり、全体的な生存の中間値は15.2ヶ月(4.4〜27.6の範囲)であった。
【0038】
毒性及び有害事象
研究全体にわたってDLTは観察されず、よってMTD用量レベルに到達していない(表3)。13人の患者が、グレードIの毒性を発生した。これは、局所皮膚反応(11人の患者)、貧血(6人の患者)、血小板減少(2人の患者)、疲労(1人の患者)及び食欲低下(1人の患者)で構成されていた。局所皮膚反応を除いて、その他の毒性は、ワクチン接種よりはむしろ疾患に関連しているようであった。グレードIの毒性は、ワクチン接種の経過の早期に現れた。3人の患者がグレードIIの毒性を発生し、疲労(3人の患者)、悪心(2人の患者)及び食欲低下(2人の患者)から構成されていた。患者#5 (NSCLC)において、疲労及び悪心が3回目のワクチン接種の後に表れ、いずれの特定の治療を行うことなく2週間後に消滅した。患者#10 (直腸結腸癌)において、3回目のワクチン接種の後に観察された疲労、悪心及び食欲低下は、ワクチン接種よりもむしろ疾患によると思われた。この患者は、致命的な腸閉塞を発生した。患者#18は、非常に迅速な疾患の進行を示し、よって4回目のワクチン接種の後にプロトコルから除外された。彼女は2ヵ月後に死亡した。特に、TERTはこれらの正常細胞及び組織で発現するが、著しい血液学的、腎臓、胃腸、又は肝臓の毒性は観察されなかった。患者を、毒性について10.7ヶ月の中間値で(4.4〜27.6の範囲)監視した。ワクチン接種プログラムの完了又は停止の後でさえも、患者を、いずれの遅延毒性の発生について毎月追跡した。しかし、遅延毒性の徴候又は所見は観察されなかった。
【0039】
【表3】

【0040】
免疫応答
ペプチド特異的CD8+細胞を、エクスビボ及びTERT572Yペプチドでの9日間のインビトロ刺激の後の両方で、TERT572Yテトラマー、抗-CD8及び抗-CD3 mAbを用いるPBMCの三重の染色により末梢血中で検出した。予備的研究において、TERT572Yテトラマーは、7人のHLA-A*0201の健康なドナーのCD8細胞の0.11%未満を標識した(平均0.035±0.035、範囲0.0〜0.11%) (データ示さず)。特異的免疫についての確実性のカットオフを、よって、0.14%(平均+3SD)に設定した。免疫応答を、14人のワクチン接種された患者において研究した(表4)。1人の患者(#2)だけがワクチンに応答しなかった。TERT572Y特異的細胞は、4人(29%)の患者においてエクスビボで検出された(図1)。特異的免疫は、患者#1、#8及び#11において2回目の注射の後に、そして患者#13において6回目のワクチン接種の後に現れた。ワクチン接種の前に、TERT572Yテトラマーは0.29%、0.33%及び1.00%のCD8+細胞を患者#1、#8及び#11においてインビトロPBMC刺激の後に標識したことに注目する価値がある(表4)。TERT572Y特異的細胞は、インビトロ刺激の後、2回目(#3、#4、#5、#6、#12、#15及び#19)又は4回目(#7及び#18)の注射の3週間後に9人の患者においても検出された(64%)。代表的な結果(患者#6及び#18)を図2に示す。免疫応答は、ワクチン接種プロトコルの終了の3及び14ヶ月後にも患者#13及び#11においてそれぞれ測定した。2人の患者の両方において、1.5%より多いテトラマー陽性CD8細胞が、それらのPBMCのインビトロ刺激の後に検出された(図3)。
【0041】
【表4】

【0042】
TERT572Y特異的CD8+細胞の機能を評価するために、患者#4からのインビトロ刺激されたPBMCからのTERT572Yテトラマー陽性細胞(図4A)を選別し、PHAを用いて増幅させ、TERT572Yペプチドに特異的に応答しかつTERTを過剰発現する腫瘍細胞を殺すそれらの能力について試験した。増幅された細胞の90%より多くが、TERT572Yテトラマーで標識された(図4A)。精製されたTERT572Y特異的細胞は、TERT572Yペプチドでの活性化の際にIFNγを産生しかつCD107aのアップレギュレーションを示したので(図4B)、完全に機能的であった。CTLは内因性TERTを認識し、TERTでトランスフェクションされたN418繊維芽細胞を特異的に殺したが、トランスフェクションされていないN418繊維芽細胞は殺さなかった(図4C)。重要なことに、CTLは、TERTを過剰発現する腫瘍細胞(Na8細胞)を殺したが、TERTを低レベルで発現する腫瘍細胞(ME290細胞)は殺さなかった(図4D)。
【0043】
1.3. 考察
今回の臨床試験の目的は、毒性プロフィールを評価し、普遍的腫瘍抗原に由来する潜在性ペプチドが癌患者において免疫を誘発でき、よって腫瘍免疫療法として考慮できることを証明するためであった。本発明者らは潜在性ペプチドTERT572を用いたが、これはHLA-A*0201により提示され、85%の腫瘍により過剰発現される普遍的腫瘍抗原であるTERTに由来する。免疫原性は、最初のアミノ酸をチロシンに置換することにより増進された(Tourdot, Scardinoら 2000)。結果は、進行癌患者のTERT572Yワクチン接種が、完全に機能的である特異的CTLを刺激し、インビトロでTERTを過剰発現する腫瘍細胞を殺すことができることを示した。ワクチン接種は、良好に許容され、TERTを発現する正常組織に対する自己免疫を誘発しないようであった。これらの結果は、最適化された潜在性ペプチドが腫瘍免疫療法の良好な候補であることの最初のヒトインビボでの証拠を提供する。
【0044】
腫瘍抗原は、変異していない自己タンパク質で、胸腺を含む正常組織によっても発現され、寛容の誘発に関与する。CTL、主に高い結合活性を有するものがT細胞レパトアから取り除かれるプロセスである寛容は、効果的な抗腫瘍T細胞応答の発生を妨げる主要なバリアである。しかし、寛容は、潜在性ペプチドよりもむしろ優性ペプチドに特異的なT細胞レパトアを主に形づくる(Cibotti, Kanellopoulosら 1992; Moudgil及びSercarz 1994)。ヒト化マウスモデルを用いて、マウスTERT (TERT572Y及びTERT988Y)に由来する2つの潜在性ペプチドを用いたワクチン接種が、効力のある抗腫瘍免疫を惹起できる高結合活性のCTLを補充したことが最近示された(Gross, Graff-Duboisら 2004)。今回の臨床研究において、ワクチン接種された患者の90%より多くが、TERTを過剰発現する腫瘍細胞を殺すことができる特異的T細胞を発生した。これに対して、モンタニド中で乳化した優性ペプチドTERT540で処置した患者の50%しかワクチンに応答しなかった(Parkhurst, Rileyら 2004)。しかし、初期に記載された優性TERT540の天然のプロセシングは(Vonderheide, Hahnら 1999; Minev, Hippら 2000; Vonderheide, Domchekら 2004)、より最近の研究では確認されておらず(Ayyoub, Migliaccioら 2001; Parkhurst, Rileyら 2004)、このことは、おそらく、TERT540が免疫自体(immunological self)に属していないことを示唆する。優性TERT540ペプチドの提示に関するこのあいまい性があるとすれば、潜在性ペプチドとの直接の無作為化した比較は、解釈するのが非常に困難な結果を生み出すであろう。
【0045】
今回の研究における患者でのワクチン応答の割合は、現在までに報告されている腫瘍ワクチン接種に関する約50の臨床試験において得られるものよりも高い(Pullarkat, Leeら 2003; Slingluff, Petroniら 2003)。高い免疫応答を示す以前の臨床試験のほとんど全ては、最小限の疾患で非常によい一般状態の患者を含んでいた(Disis, Gooleyら 2002; Pullarkat, Leeら 2003; Disis, Schiffmanら 2004; Vonderheide, Domchekら 2004)。Scheibenbogenら(Scheibenbogen, Leeら 1997)は、黒色腫患者における免疫反応性が疾患の寛解に関連することを証明した。対照的に、今回の研究においては、全ての患者は最終段階の疾患を有していた。
【0046】
免疫応答の程度と投与したペプチドの用量との間に相関関係は見出されなかった。このことは、HER2/neuワクチンに対する免疫応答がワクチン用量に依存しなかったことを示す最近のデータと一致する(Disis, Schiffmanら 2004)。この場合も、ワクチン用量と検出可能な応答が現れるまでに必要な時間間隔との間に相関関係は見出されなかった。13人の応答した患者は全て、2回目と4回目のワクチン注射の間に検出可能な特異的CTLを有していた。免疫の迅速な誘発は、特に、迅速に進行する悪性腫瘍の患者についてのこの背景において重要であろう。
【0047】
3回目から6回目のワクチン注射に天然TERT572ペプチドを用いることの原理は、最適化されたTERT572Yにより補充されたT細胞のうちで、腫瘍細胞により提示されるTERT572について最も高い特異性を有するものを選択することであった。実際に、Clayら(Clay, Custerら 1999)は、黒色腫患者への最適化されたgp100209Mのワクチン接種が、天然のgp100209ペプチドもgp100発現黒色腫細胞ももはや認識できないT細胞を増幅したことを示している。上記の結果は、天然ペプチドの注射が、最適化されたペプチドにより開始された免疫応答を維持できることを示す。さらに、ワクチン接種後1年を超える免疫応答の持続は、腫瘍細胞表面に提示される天然ペプチドがそれ自体により特異的免疫応答を維持できることを示唆する。インビボでの抗腫瘍免疫の顕著な特徴は自己免疫である。自己免疫は、それがメラノサイトのような必須でない正常な細胞及び組織を標的とする場合は許容できるが、造血前駆体のような必須細胞を標的する場合はワクチンの発展を阻害し得る。TERTは造血幹細胞、消化管、胸腺及び活性化されたB及びT細胞により発現されるが(Ramakrishnan, Eppenbergerら 1998; Liu, Schoonmakerら 1999)、ワクチン接種の終了後24ヶ月経っても自己免疫の徴候を示した患者はいなかった。このことは、マウスTERTの一部分でもあるTERT572Yペプチドをワクチン接種したHLA-A*0201トランスジェニックHHDマウスで得られた以前の結果を確かにする(Gross, Graff-Duboisら 2004)。ワクチン接種されたHHDマウスは、自己免疫の徴候を示さずに抗腫瘍免疫を発生した。さらに、TERT572Y特異的CTLが腫瘍細胞を殺したが、活性化されたB細胞は殺さなかった。TERT発現が、正常細胞に対して(腫瘍細胞とは反対に)、TERT572のような低親和性ペプチドの提示を許容しない程度に不充分であるということが説明として可能である。
【0048】
今回の研究において観察された毒性は、本質的に最小限であり、モンタニドアジュバントにより引き起こされる一過性の皮膚反応を除いて、全てのその他の穏やかな毒性も根底にある疾患に帰するものであり得るようであった。この試験に登録した患者の数が小さいことと進行性疾患であるので比較的短いフォローアップであったこととの制限があるが、このワクチン接種プログラムは、いずれの主要な急性又は短期間の毒性がないと結論付けることができる。しかし、長期の毒性は、悪性疾患がより治療されそうなよりよい予後の患者において評価されなければならない。
【0049】
倫理的な理由から、この研究は、腫瘍免疫療法にとって最良の候補ではない最終段階の癌患者を含んでいた。免疫療法は最小限の残存疾患の患者に対して適用することが最もよく、目標は進行癌を治癒することではなく再発を防止することであるべきだと、現在、一般的に同意されている。ワクチンが、活発に増殖している腫瘍を根絶できないことは、動物モデルにおいて明確に示されている(Cheever及びChen 1997)。腫瘍の縮小による臨床上の抗腫瘍活性は予めかなり治療されたこの群の患者では観察されなかったが、4人の患者が、この第I相試験において長期持続性の疾患安定化を示した。これらの患者は、以前に進行性の疾患を有し、TERT特異的CTLを発生し、これは彼らの血液中でワクチン接種プログラム終了後毎月検出できた。これらの患者のうち、ともに腎臓細胞癌腫を有する2人の患者(#9及び#13)が、過去にIL2又はIFNαを用いて治療に成功していたことが興味深く、このことによりこの癌の免疫療法に対する感受性が確認される。対照的に、優性TERT540ペプチドでワクチン接種された腎臓癌の11人の患者は、ペプチド特異的免疫応答を発生したときでさえも、客観的な臨床応答を示さなかった(Parkhurst, Rileyら 2004)。
【0050】
結論として、本研究は、最適化された潜在性TERT572Yペプチドでの進行癌患者のワクチン接種が安全であり、90%を超える患者において抗腫瘍免疫を誘発することを証明する。このことは、潜在性ペプチドが癌の免疫療法の有望な候補であることの最初の臨床的証明である。
【0051】
実施例2:天然潜在性ペプチドに対する高い結合活性を有するCTLのインビトロ選択と増幅
2.1. 材料及び方法
ペプチド
ペプチドTERT988Y (YLQVNSLQTV, 配列番号4)、TERT988 (DLQVNSLQTV, 配列番号3)、MAGE-A248V9 (YLEYRQVPV, 配列番号6)及びMAGE-A248D9 (YLEYRQVPD, 配列番号5)は、Epytop (Nimes, France)により製造された。
【0052】
動物及び細胞
HLA-A*0201トランスジェニックHHDマウス及びマウスRMAS/HHD腫瘍細胞は、以前に記載されたものであった(Pascolo, Bervasら 1997)。
【0053】
HHDマウスにおけるCTLの発生
HHDマウスに、フロイントの不完全アジュバント(IFA)中で乳化させた100μgのノナマーペプチドを、150μgのI-Ab拘束HBVコア128 Tヘルパーエピトープの存在下で皮下注射した。免疫したHHDマウスからの脾臓細胞(10 ml中に5×107細胞)を、RPMI1640 +10%FCS中でペプチド(10μM)とインビトロで5日間刺激した。CTL系統は、ペプチドと50U/ml IL-2 (Proleukin, Chiron Corp., Emeryville, CA)との存在下で、照射した脾細胞を用いるインビトロでの毎週の再刺激により確立した。
【0054】
細胞毒性アッセイ
マウスRMAS/HHD細胞を、記載されたようにして細胞毒性についての標的として用いた(Tourdot, Scardinoら 2000)。簡単に、2.5×10351Cr標識された標的を、漸増用量のペプチド(0.00001〜10μM)で、37℃にて60分間パルスした。次いで、100μl中のエフェクター細胞を加え、37℃にて4時間インキュベートした。インキュベーションの後に、100μlの上清を回収し、ガンマカウンタで放射活性を測定した。特異的溶解は、以下のようにして決定した:
溶解 = (実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)。
CTL結合活性は、最大溶解の半分を与えるペプチド濃度と定義する。よって、測定された結合活性(nMでの)が低いと、CTLの結合活性がより高い。
【0055】
インビボ腫瘍保護アッセイ
HHDマウスに、IFA中で乳化した100μgのペプチドを、150μgのlAb拘束HBVコア128エピトープの存在下で、1回、及び2週間後に再びワクチン接種した。2回目のワクチン接種の1週間後に、マウスを2×104 EL4/HHD細胞で皮下において攻撃した。生存について、2日ごとに記録した。
【0056】
2.2. 結果
TERT抗原からの潜在性エピトープを用いて得られた結果
HHDマウスを、最適化された潜在性TERT988Yペプチドで免疫した。11日後に、ワクチン接種したマウスからの脾臓細胞をプールし、50 IU/mlのIL2の存在下に、10μMのTERT988Y又は天然の潜在性TERT988ペプチドのいずれかで、インビトロにて連続的に刺激した。刺激は毎週繰り返した。1、3及び6回目のインビトロ刺激の後に、CTL系統を、天然TERT988ペプチドに対するそれらの結合活性について、通常の51Cr放出細胞毒性アッセイにおいて試験した(表5)。
【0057】
【表5】

【0058】
MAGE抗原からの潜在性エピトープを用いて得られた結果
HHDマウスを、潜在性MAGE-A248D9に相当する最適化されたMAGE-A248V9ペプチドで免疫した(ともにWO03083124に記載される)。11日後に、ワクチン接種したマウスからの脾臓細胞をプールし、50 IU/mlのIL2の存在下に、10μMのMAGE-A248V9又は天然の潜在性MAGE-A248D9ペプチドのいずれかで、インビトロにて連続的に刺激した。刺激は毎週繰り返した。1、3及び6回目のインビトロ刺激の後に、CTL系統を、天然MAGE-A248D9ペプチドに対するそれらの結合活性について、通常の51Cr放出細胞毒性アッセイにおいて試験した(表6)。
【0059】
【表6】

【0060】
2.3. 結果
最適化された潜在性ペプチドでのワクチン接種は、天然の潜在性ペプチドに対する高い結合活性を有する細胞を含むCTLレパトアを補充する。これらの高結合活性CTLは、インビトロで選択でき、最適化された潜在性ペプチドよりもむしろ天然ペプチドでの刺激により増幅できる。
【0061】
実施例3:天然ペプチドで追加免疫することによる高結合活性を有するCTLのインビボ選択
3.1. 材料及び方法
実施例2と同じ材料及び方法を用いた。
3.2. 結果
HHDマウスに、上記の最適化された潜在性TERT572Yペプチドでワクチン接種した。15日後に、これらに同じ最適化ペプチド又は天然の潜在性TERT572ペプチドのいずれかで追加免疫した。追加免疫の7日後に、これらの脾臓細胞を、10μMのTERT572でインビトロ刺激した。1サイクルのインビトロ刺激の後に発生したCTLを、TERT572へのその結合活性について試験した。表7は、6匹の個別のマウスからの結果を示す。
【0062】
【表7】

【0063】
3.3. 結論
最適化潜在性ペプチドでのインビボ初回抗原刺激は、天然ペプチドに対する高結合活性を有するCTLを含むレパトアを補充する。これらの高結合活性CTLは、インビボで選択でき、最適化ペプチドよりもむしろ天然ペプチドを用いる追加免疫により増幅できる。
【0064】
実施例4:HHDマウスにおける腫瘍免疫
4.1. 材料及び方法
実施例2と同じ材料及び方法を用いた。
gp100154という名称のさらなるペプチドも用いた:KTWGQYWQV (配列番号8)。
4.2. 結果
HHDマウスに、最適化された潜在性TERT572Y及びTERT988Yペプチドをワクチン接種し、15日後に同じ最適化ペプチド又は対応する天然の潜在性ペプチドで追加免疫した。追加免疫の10日後に、マウスをEL4/HHD腫瘍細胞で攻撃し、腫瘍増殖及び生存について監視した。gp100154ペプチドで初回刺激及び追加免疫したマウスを、ネガティブコントロールとして用いた(表8)。コントロールマウスの100%が、攻撃後43日までに死亡した。最適化ペプチドで初回刺激及び追加免疫したマウスの17%、及び最適化ペプチドで初回刺激しかつ天然ペプチドで追加免疫したマウスの50%が、腫瘍に対して最終的に保護された。
【0065】
【表8】

【0066】
4.3. 結論
腫瘍免疫は、同じ最適化ペプチドで初回抗原刺激及び追加免疫したマウスよりも、最適化ペプチドで初回抗原刺激され、天然ペプチドで追加免疫したマウスにおいてより効果がある。
【0067】
【表9−1】

【0068】
【表9−2】

【0069】
【表9−3】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】患者#1、#3、#8、#11及び#13においてエクスビボで検出されたTERT572Y-特異的CD8細胞。
【図2】患者#6及び#18からのPBMCのインビトロでの刺激の後に検出されたTERT572Y特異的CD8細胞。
【図3】免疫応答の時間経過。
【図4】ワクチン接種により誘発されるTERT572Y特異的CD8細胞の機能的分析。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ペプチドの同族の最適化されたペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持するための医薬組成物を製造するための天然ペプチドの使用。
【請求項2】
天然ペプチドが腫瘍抗原又はウイルス抗原からのものである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
天然ペプチドが潜在性ペプチドである請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
天然ペプチド及び最適化されたペプチドがHLA A2により提示され、最適化されたペプチドが天然ペプチドのN-末端アミノ酸のチロシン残基での置換により得られる請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
天然ペプチド及びその同族の最適化されたペプチドが、以下のペプチドの対の中から選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用:[TERT572 (配列番号1), TERT572Y1 (配列番号2)] ; [TERT988 (配列番号3), TERT988Y1 (配列番号4)] ; [MAGE-A248D9 (配列番号5), MAGE-A248V9 (配列番号6)] ; [MAGE-A248G9 (配列番号7), MAGE-A248V9 (配列番号6)] ; [Gp100 154 (配列番号8), Gp100 154Y1 (配列番号9)] ; [Gp100 154 (配列番号8), Gp100 154M155 (配列番号10)] ; [FluM58 (配列番号11), FluM58Y1 (配列番号12)] ; [HIVgag76 (配列番号13), HIVgag76Y1 (配列番号14)] ; [HBVpol575 (配列番号15), HBVpol575Y1 (配列番号16)] ; [HBVpol765 (配列番号17), HBVpol765Y1 (配列番号18)] ; [Mart-127 (配列番号19), Mart-127Y1 (配列番号20)] ; [Mart-126 (配列番号21), Mart-126L27 (配列番号22)] ; [Gp100 177 (配列番号23), Gp100 177Y1 (配列番号24)] ; [Gp100 178 (配列番号25), Gp100 178Y1 (配列番号26)] ; [Gp100 570 (配列番号27), Gp100 570Y1 (配列番号28)] ; [Gp100 209 (配列番号29), Gp100 209Y1 (配列番号30)] ; [Gp100 209 (配列番号29), Gp100 209M210 (配列番号31)] ; [Gp100 476 (配列番号32), Gp100 476Y1 (配列番号33)] ; [Gp100 457 (配列番号34), Gp100 457Y1 (配列番号35)] ; [HER-2/neu799 (配列番号36), HER-2/neu799Y1 (配列番号37)] ; [HER-2/neu369 (配列番号38), HER-2/neu369Y1 (配列番号39)] ; [HER-2/neu789 (配列番号40), HER-2/neu789Y1 (配列番号41)] ; [HER-2/neu48 (配列番号42), HER-2/neu48Y1 (配列番号43)] ; [HER-2/neu773 (配列番号44), HER-2/neu773Y1 (配列番号45)] ; [HER-2/neu5 (配列番号46), HER-2/neu5Y1 (配列番号47)] ; [HER-2/neu851 (配列番号48), HER-2/neu851Y1 (配列番号49)] ; [HER-2/neu661 (配列番号50), HER-2/neu661Y1 (配列番号51)] ; [HER-2/neu650 (配列番号52), HER-2/neu650Y1 (配列番号53)] ; [HER-2/neu466 (配列番号54), HER-2/neu466Y1 (配列番号55)] ; [HER-2/neu402 (配列番号56), HER-2/neu402Y1 (配列番号57)] ; [HER-2/neu391 (配列番号58), HER-2/neu391Y1 (配列番号59)] ; [HER-2/neu971 (配列番号60), HER-2/neu971Y1 (配列番号61)] ; [HBVpol28 (配列番号62), HBVpol28Y1 (配列番号63)] ; [HBVpol594 (配列番号64), HBVpol594Y1 (配列番号65)] ; [HBVpol985 (配列番号66), HBVpol985Y1 (配列番号67)] ; [EphA2 61 (配列番号68), EphA2 61Y1 (配列番号69)] ; [HER2 911 (配列番号70), HER911Y1V10 (配列番号71)] ; [HER4 911 (配列番号72), HER911Y1V10 (配列番号71)] ; [HER1 911 (配列番号73), HER911Y1V10 (配列番号71)] ; [HER2722 (配列番号74), HER722Y1V9 (配列番号75)] ; [HER3 722 (配列番号76), HER722Y1V9 (配列番号75)] ; [HER4 722 (配列番号77), HER722Y1V9 (配列番号75)] ; [HER1722 (配列番号78), HER722Y1V9 (配列番号75)] ; [HER2 845 (配列番号79), HER845Y1 (配列番号80)] ; [HER3 845 (配列番号81), HER845Y1 (配列番号80)] ; [HER2904 (配列番号82), HER904Y1 (配列番号83)] ; [HER4 904 (配列番号84), HER904Y1 (配列番号83)] ; [HER2 933 (配列番号85), HER933Y1 (配列番号86)] ; [HER1933 (配列番号87), HER933Y1 (配列番号86)] ; [HER2 945 (配列番号88), HER945Y1 (配列番号90)] ; [HER3 945 (配列番号89), HER945Y1 (配列番号90)] ; [HER4945 (配列番号91), HER945Y1 (配列番号90)] ;及び[HER1 945 (配列番号92), HER945Y1 (配列番号90)]。
【請求項6】
天然の潜在性ペプチドがTERT572 (RLFFYRKSV、配列番号1)であり、その同族の最適化されたペプチドがTERT572Y (YLFFYRKSV、配列番号2)である請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
天然の潜在性ペプチドがTERT988 (DLQVNSLQTV、配列番号3)であり、その同族の最適化されたペプチドがTERT988Y (YLQVNSLQTV、配列番号4)である請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
天然の潜在性ペプチドがMAGE-A248D9 (YLEYRQVPD、配列番号5)又はMAGE-A248G9 (YLEYRQVPG、配列番号7)であり、その同族の最適化されたペプチドがMAGE-A248V9 (YLEYRQVPV、配列番号6)である請求項1、2、3及び5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
天然ペプチドに由来する最適化された免疫原性ペプチドで免疫された患者からの生体試料中に存在するCTLを刺激する工程を含み、該刺激が天然ペプチドを用いて行われる、天然ペプチドに対する高い結合活性を有するCTLをインビトロで得るための方法。
【請求項10】
前記天然ペプチド及び最適化されたペプチドが、請求項2〜8のいずれか1項に記載されたものである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
天然ペプチドの少なくとも1回用量と、該天然ペプチドに由来する最適化された免疫原性ペプチドの少なくとも1回用量とを含むワクチン接種キット。
【請求項12】
最適化されたペプチドの2又は3回用量と、天然ペプチドの3、4、5、6又は50回までの用量とを含む請求項11に記載のワクチン接種キット。
【請求項13】
各用量が、1〜5 mgのペプチドを含む請求項11又は12に記載のワクチン接種キット。
【請求項14】
ワクチン接種用量が、皮下注射用に処方されている請求項11〜13のいずれか1項に記載のワクチン接種キット。
【請求項15】
天然ペプチド及び最適化されたペプチドが請求項2〜8のいずれか1項に記載されたものである請求項11〜14のいずれか1項に記載のワクチン接種キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−540483(P2008−540483A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510520(P2008−510520)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【国際出願番号】PCT/EP2006/005325
【国際公開番号】WO2006/120038
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(507370817)
【氏名又は名称原語表記】VAXON BIOTECH
【住所又は居所原語表記】Genopole,2 rue Gaston Cremieux,F−91057 Evry Cedex,FRANCE
【Fターム(参考)】