説明

ワサビ風味増強剤、ワサビ香料組成物および飲食品のワサビ風味増強方法。

【課題】すり立ての生ワサビの、フレッシュで瑞々しく、オイリー感、根茎感のある香気、香味を付与、増強できるワサビ風味増強剤、ワサビ風味組成物および飲食品のワサビ風味増強方法を提供すること。
【解決手段】3−メチル−γ−デカラクトン、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジン及びトランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールから選ばれる1種または2種以上の混合物をワサビ風味組成物または飲食品に少量、添加することにより、ワサビの香気、香味を増強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワサビの香気、香味を付与、増強できるワサビ風味増強剤、ワサビ香料組成物および飲食品のワサビ風味増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワサビはアブラナ科ワサビ属の日本原産の植物で、学名はWasabia japonica Matsum.である。山間部に自生しているが、食用のワサビはそのほとんどが水ワサビ(沢ワサビ)、畑ワサビとして栽培されている。通常は、生のワサビの根茎をすり下ろしたものを、薬味としてソバ、刺身、寿司などの料理に添えて使用する。日本料理独特のものであり、他の香辛料、薬味にはない風味を有し、近年の日本食ブームで海外でも使用量が増えつつある。しかしながら、生ワサビは高価なので、ワサビの根茎を粉砕、乾燥したものを原料の一部に使用し、他の原料を組み合わせることにより、加工品である練りワサビや粉ワサビが生産され、一般に消費されている。
【0003】
なお、本発明において、風味という表現、および香気、香味という表現を使う場合があるが同義である。食品の風味と言えば、一般的に香り、味を含めた感覚的効果全体を指す。また、香気物質として知られている物質が味覚にも影響を与えることも示唆されており、ヒトに対する感覚的効果全体を、本発明では風味または香気、香味と表現している。
【0004】
セイヨウワサビ(西洋ワサビ、ホースラディッシュ;学名Armoracia rusticana)と区別するためにワサビを本ワサビと呼ぶこともある。市販の練りワサビの原料としてセイヨウワサビが使用されることもあるが、その風味は全く異なる。
【0005】
ワサビ中には、アブラナ科植物に含有される芥子油配当体の一種であるシニグリンが存在し、すり下ろしの際、酸素の存在下、酵素反応により、アリルイソチオシアネートなどのイソチオシアネート類が生成し、これらが香気、香味などの風味に貢献していることが知られている。しかしながら、イソチオシアネート類はセイヨウワサビにも存在し、鼻に抜ける刺激とシャープな辛味がその香気的特徴である。また、イソチオシアネート類以外にも多くの香気成分、呈味成分が同時に生成し、これら全体として天然ワサビの良好な風味を醸し出している。これら天然の生ワサビの香気、香味などの風味に関与する成分は、空気中の酸素により容易に酸化され、劣化してしまう性質があり、通常、ワサビ風味食品にはこれらを補うために香料製品が使用されている。
【0006】
これまで、ワサビ風味を改善する方法についていくつかの報告がある。イソマルトール、アニスアルデヒド、アネトール、ソトロン、エチルマルトール、メープルシロップフレーバー、フェネグリークオレオレジン、ロベッジオレオレジン、カンゾウオレオレジン、グリチルリチン、及び単離されたマルトールから選ばれる少なくとも1種の香気成分と、イソチオシアネート類とを含有してなる辛味調合品(特許文献1)、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、γ−テルピネン、シトラール、シネオール、リナロール、シトロネラール、イソシトラール、サビネン、テルピネオレン、サフロール及びミルセンから選ばれる少なくとも1種の香気成分と、3-ブテニルイソチオシアネートを含有し、さらに、一般式RN=C=Sで表される化合物(3-ブテニルイソチオシアネートを除く)の少なくとも1種を含有するワサビ香味調合品(特許文献2)、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、γ−テルピネン、シトラール、シネオール、リナロール、シトロネラール、サビネン及びミルセンから選ばれる1種以上の香気成分と、アリルイソチオシアネートを含有するワサビ香味調合品(特許文献3)、ジアリルサルファイド、ジアリルジサルファイド、ジプロピルジサルファイド、メチルプロピルジサルファイド、アリルプロピルジサルファイド及びジアリルトリサルファイドから選ばれる1種以上の香気成分と、アリルイソチオシアネートを含有してなるワサビ香味調合品(特許文献4)、ベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、ペリラアルデヒド及びクミンアルコールから選ばれる1種以上の香気成分と、一般式RN=C=Sで表される化合物の少なくとも1種を含有するワサビ香味調合品とAw調整剤及び/又はpH調整剤とを含有する練りワサビ、(特許文献5)、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、γ−テルピネン、シトラール、シネオール、リナロール、シトロネラール、サビネン及びミルセンから選ばれる1種以上の香気成分と、一般式RN=C=Sで表される化合物の少なくとも1種を含有してなるワサビ香味調合品とAw調整剤及び/又はpH調整剤とを含有する練りワサビ(特許文献6)、ジアリルサルファイド、ジアリルジサルファイド、ジプロピルジサルファイド、メチルプロピルジサルファイド、アリルプロピルジサルファイド及びジアリルトリサルファイドから選ばれる1種以上の香気成分と、一般式RN=C=Sで表される化合物の少なくとも1種を含有するワサビ香味調合品とAw調整剤及び/又はpH調整剤とを含有する練りワサビ(特許文献7)、ベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、ペリラルデヒド及びクミンアルコールから選ばれる1種以上の香気成分と、アリルイソチオシアネートを含有するワサビ香味調合品(特許文献8)、3−メチル−2,4−ノナンジオンを含有するワサビ香味組成物(特許文献9)などの提案である。
【0007】
しかしながら、より消費者の嗜好を満足させる、ワサビ風味増強剤あるいはワサビ香料組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3115245号
【特許文献2】特許第3373738号
【特許文献3】特許第3553278号
【特許文献4】特許第3553283号
【特許文献5】特許第3556632号
【特許文献6】特許第3556633号
【特許文献7】特許第3556634号
【特許文献8】特許第3560739号
【特許文献9】特開2008−306957号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ワサビ:香りの百科、日本香料協会編・朝倉書店、p466〜467
【非特許文献2】香辛野菜、ワサビ:香料の事典・朝倉書店、p273〜274
【非特許文献3】わさびの知識:金印ホームページ、http://www.kinjirushi.co.jp/dictionary/hon/hon.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、消費者の嗜好性の多様化にさらに応えるためのワサビ風味の付与、増強に関するものであり、従来技術にはない、すり立ての生ワサビの、フレッシュで瑞々しく、オイリー感、根茎感を伴った持続性のある香気、香味を付与、増強できるワサビ風味増強剤、ワサビ香料組成物および飲食品のワサビ風味増強方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、すり立ての生ワサビの風味の付与、増強の検討を行うに際し、従来の報告および提案を詳細に調べた。その結果、すり立ての生ワサビの風味を再現するために、第一に辛みの香りの主体としてアリルイソシアネートに代表されるイソチオシアネート類を使用し、第二に、フレッシュさ、グリーン感を付与する目的で、野菜を始め、植物に広く存在するシス−3−ヘキセノール、シス−3−ヘキサナール、(2E,6Z)−ノナジエノール、(2E,6Z)−ノナジエナール、シス−3−ヘキセニルアセテート、3−メチル−2,4−ノナンジオンなどの化合物を使用し、これらを補うものとして他の香料化合物を使用していることが判った。
【0012】
しかしながら、本発明者らは、従来の報告あるいは提案にある香料化合物およびその組み合わせでは、確かに、辛みの香り、グリーン感は付与、増強できるものの、すり立ての生ワサビの香気、香味の再現は不十分であることを確認した。生ワサビをするときには鮫皮の用具で焦らずゆっくりとすると好ましい香りと辛味が得られると言われるが、実際、上手にすれた生ワサビの風味は、意外にも、不快なほどツンとした辛味が強くなく柔らかで、ワサビ精油に由来すると思われるトロッとした、あるいは、ねっとりとした持続性のある味わい、および、ワサビ根茎を噛んだような繊維感、フレッシュさ、力強さがあることが判明した。
【0013】
上記の、ワサビ精油に由来すると思われるトロッとした持続性のある味わい(以後、オイリー感と呼ぶ)、および、ワサビ根茎を噛んだような繊維感、フレッシュさ、力強さ(以後、根茎感と呼ぶ)は、これまでの報告等では指摘されていない。なお、ここで使用するオイリー感という用語は植物油脂、動物油脂などを味わうときに感ずる油脂に由来するべとべとした、あるいは、重たい、舌にまとわりつく油脂感のことではない。油脂を全く含まない食品でも実に濃厚なトロッとした感覚、あるいは、ねっとりとした感覚を与える場合があり、そのような感覚をここではオイリー感と呼ぶ。
【0014】
これまでワサビ等での存在が確認され、報告された化合物、および、従来技術でワサビに使用されている化合物を一つ一つ再検討したが、上記、オイリー感、根茎感に対応する香気、香味を付与、増強できる化合物は見あたらなかった。
【0015】
そこでこれらの報告、従来技術にはない化合物を種々検討した結果、オイリー感を顕著に付与、増強させる化合物として、3−メチル−γ−デカラクトンおよびトランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールを見いだし、根茎感を顕著に付与、増強できる化合物として、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンおよび2−イソブチル−3−メトキシピラジンを見いだした。そこで上記化合物から選ばれる1種以上をワサビ風味食品に少量、添加したところ、生ワサビのすり立てのフレッシュで瑞々しい香気に加え、オイリー感、根茎感を伴った持続性のある香気、香味を付与、増強できるとともに、香気バランスを改善できることを確認し、本発明を完成させた。
【0016】
かくして、本発明は、3−メチル−γ−デカラクトン、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジンおよびトランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールから選ばれる1種または2種以上の混合物からなるワサビ風味増強剤を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記のワサビ風味増強剤および少なくとも1種のイソチオシアネート類を含有するワサビ香料組成物であって、イソチオシアネート類の重量を基準として、3−メチル−γ−デカラクトンが2ppm〜20000ppmの濃度範囲、3−メチル−2−ブテン−1−チオールが0.2ppb〜2ppmの濃度範囲、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンが2ppb〜20ppmの濃度範囲、2−イソブチル−3−メトキシピラジンが2ppb〜20ppmの濃度範囲、または、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールが20ppb〜200ppmの濃度範囲となるように含有するワサビ香料組成物を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記のワサビ風味増強剤をワサビ風味食品の重量を基準として、3−メチル−γ−デカラクトンが0.002ppm〜40ppmの濃度範囲、3−メチル−2−ブテン−1−チオールが0.0002ppb〜4ppbの濃度範囲、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、2−イソブチル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、または、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールが0.02ppb〜400ppbの濃度範囲となるように添加するワサビ風味食品を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、前記のワサビ風味増強剤をワサビ風味食品の重量を基準として、3−メチル−γ−デカラクトンが0.002ppm〜40ppmの濃度範囲、3−メチル−2−ブテン−1−チオールが0.0002ppb〜4ppbの濃度範囲、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、2−イソブチル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、または、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールが0.02ppb〜400ppbの濃度範囲となるように添加するワサビ風味食品のワサビ風味増強方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、前記のワサビ香料組成物を飲食品の重量を基準として、2ppm〜20000ppmの濃度範囲で添加するワサビ風味食品を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、前記のワサビ香料組成物を飲食品の重量を基準として、2ppm〜20000ppmの濃度範囲で添加する飲食品のワサビ風味の付与または増強方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来の練りワサビや粉ワサビが鼻にツンと来る刺激感ばかりが強調されるのに対し、本発明のワサビ風味増強剤またはワサビ香料組成物を添加すれば、すり立て生ワサビの、良質、かつ、持続的な香気、香味を付与、または、増強することができる。また、ワサビ風味ドレッシング、ワサビ風味海苔、ワサビ風味ふりかけ、ワサビ風味せんべい、ワサビ風味佃煮、ワサビ風味各種珍味、その他のワサビ風味飲食品に使用することにより、飲食品の商品価値、嗜好性を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0024】
本発明の方法において使用する3−メチル−γ−デカラクトン、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジンおよびトランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールは、それ自体公知のものであり、公知の合成法により調製し、使用することができるが、容易に入手可能な市販品を使用しても良い。上記の5つの化合物は1種のみをワサビ風味増強剤として用いることもできるし、2種以上の任意の混合物として用いてもよい。混合割合は、すり立ての天然ワサビのどのような特徴を際だたせるかにより異なるので、上記5成分のそれぞれの香気特性を生かし、決定すればよい。
【0025】
例えば、すり立ての生ワサビのオイリー感を強くする場合には、3−メチル−γ−デカラクトン、または、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールの混合割合を増やし、根茎感を強くする場合には、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、または、2−イソブチル−3−メトキシピラジンの配合割合を増やせばよい。また、これらの成分を添加することにより、ワサビ風味食品およびワサビ香料組成物に持続性と厚みのある香気、香味を付与することができる。
【0026】
本発明のワサビ風味増強剤には、前記の成分を溶解するのに適当な溶剤、例えば、エチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、中鎖脂肪酸グリセリンエステル、食用植物油などの食用油脂、あるいは植物性樹脂類などを使用することができる。
【0027】
本発明のワサビ風味増強剤をワサビ風味食品へ添加する場合の濃度は、ワサビ風味食品の重量を基準として、3−メチル−γ−デカラクトンが0.002ppm〜40ppmの濃度範囲、好ましくは、0.02ppm〜4ppmの濃度範囲、3−メチル−2−ブテン−1−チオールが0.0002ppb〜4ppbの濃度範囲、好ましくは、0.002ppb〜0.4ppbの濃度範囲、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、好ましくは、0.02ppb〜4ppbの濃度範囲、2−イソブチル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、好ましくは、0.02ppb〜4ppbの濃度範囲、または、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールが0.02ppb〜400ppbの濃度範囲、好ましくは0.2ppb〜40ppbの濃度範囲となるように添加する。上限を超える場合には、添加する化合物の香気が強すぎてワサビ風味食品の風味のバランスを崩すことになり、好ましくなく、下限以下ではワサビ風味食品のワサビ風味増強の効果が得られない。
【0028】
なお、本発明のワサビ風味食品とは、例えば、ワサビを含有するか、又はワサビを全く含有せずに香料によってワサビの風味を付与された食品であって、例えば、ワサビ抽出物、ワサビ精油、練りワサビ、粉ワサビなどのワサビ製品;ワサビ漬け、ワサビ風味佃煮、ワサビふりかけ、ワサビ風味各種珍味などの加工品;ワサビドレッシング、ワサビマヨネーズ、ワサビ醤油、ワサビ風味調味液などの調味料類;ワサビ風味スナック菓子、ワサビせんべい、ワサビアイスクリーム、ワサビ風味チーズ、ワサビ風味練り製品、ワサビ風味あるいはワサビ風味をフレーバーの一部に用いた飲料などその他の飲食品が挙げられる。
【0029】
本発明のワサビ香料組成物に使用するイソチオシアネート類としては、例えば、アリルイソチオシアネート、メチルイソチオシアネート、エチルイソチオシアネート、n−プロピルイソチオシアネート、イソプロピルイソチオシアネート、n−ブチルイソチオシアネート、イソブチルイソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、1−メチルプロピルイソチオシアネート、n−アミルイソチオシアネート、イソアミルイソチオシアネート、3−ブテニルイソチオシアネート、4−ペンテニルイソチオシアネート、5−ヘキセニルイソチオシアネート、3−メチルチオプロピルイソチオシアネート、n−ヘキシルイソチオシアネート、フェニルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、β−フェニルエチルイソチオシアネート、6−ヘプテニルイソチオシアネート、4−メチルチオブチルイソチオシアネート、5−メチルチオアミルイソチオシアネート、6−メチルチオヘキシルイソチオシアネート、7−メチルチオヘプチルイソチオシアネート、シクロヘキシルイソチオシアネート、n−ヘプチルイソチオシアネート、n−オクチルイソチオシアネート、n−ノニルイソチオシアネートなど1種または2種以上の混合物を使用することができるが、これらに限定されるわけではない。ただし、天然のワサビに多量に存在し、価格的にも安価なアリルイソチオシアネートを好ましいものとして挙げることができる。また、これらのイソチオシアネート類の多くは、ワサビの香気成分として公知のものである。
【0030】
次に、本発明のワサビ香料組成物において、イソチオシアネート類と、3−メチル−γ−デカラクトン、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジンおよびトランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールの混合割合であるが、目的とするワサビ香料組成物の特徴にもよるが、例えば、イソチオシアネート類の重量を基準として、3−メチル−γ−デカラクトンは2ppm〜20000ppm、好ましくは、10ppm〜5000ppmの濃度範囲、3−メチル−2−ブテン−1−チオールは0.2ppb〜2ppm、好ましくは、1ppb〜0.5ppmの濃度範囲、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンは2ppb〜20ppm、好ましくは、10ppb〜5ppmの濃度範囲、2−イソブチル−3−メトキシピラジンは2ppb〜20ppm、好ましくは、10ppb〜5ppmの濃度範囲、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールは20ppb〜200ppm、好ましくは、100ppb〜50ppmの濃度範囲を挙げることができる。それぞれ、上限を超える場合には、添加する化合物の香気が強すぎてワサビ香料組成物としてのバランスを崩すことになり、好ましくなく、下限以下ではそれぞれの化合物のワサビ風味増強の効果が得られない。
【0031】
また、本発明のワサビ香料組成物には、上記以外の香気成分を配合することもできる。例えば、リモネン、オシメン、α−ピネン、β−ピネン、γ−テルピネン、サビネン、ミルセンなどの炭化水素類;リナロール、シトロネロール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロムゴール、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、テトラヒドロミルセノール、オシメノール、テルピネオール、3−ツヤノール、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、α−フェニルエチルアルコール、シス−3−ヘキセノールなどのアルコール類;アセトアルデヒド、n−ヘキサナール、n−ヘプタナール、n−オクタナール、n−ノナナール、シス−3−ヘキセナール、シス−6−ノネナール、3,5,5−トリメチルヘキサナール、デカナール、ウンデカナール、2−メチルデカナール、ドデカナール、トリデカナール、テトラデカナール、トランス−2−ヘキセナール、トランス−4−デセナール、シス−4−デセナール、トランス−2−デセナール、10−ウンデセナール、トランス−2−ウンデセナール、トランス−2−ドデセナール、3−ドデセナール、トランス−2−トリデセナール、2,4−ヘキサジエナール、2,4−デカジエナール、2,4−ドデカジエナール、5,9−ジメチル−4,8−デカジエナール、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、バニリン、エチルバニリンなどのアルデヒド類;2−ブタノン、3−ヘプタノン、3−オクタノン、2−ノナノン、2−ウンデカノン、2−トリデカノン、メチルヘプテノン、ジメチルオクテノン、ゲラニルアセトン、2,3,5−トリメチル−4−シクロヘキセニル−1−メチルケトン、3−メチル−2,4−ノナンジオン、ネロン(ジボダンジャパン社、登録商標)、ヌートカトン、ジヒドロヌートカトン、アセトフェノン、4,7−ジヒドロ−2−イソペンチル−2−メチル−1,3−ジオキセピンなどのケトン類;ギ酸プロピル、ギ酸オクチル、ギ酸リナリル、ギ酸シトロネリル、ギ酸ゲラニル、ギ酸ネリル、ギ酸テルピニル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸シス−3−ヘキセニル、酢酸トランス−2−ヘキセニル、酢酸オクチル、酢酸ノニル、酢酸デシル、酢酸ドデシル、酢酸ジメチルウンデカジエニル、酢酸オシメニル、酢酸ミルセニル、酢酸ジヒドロミルセニル、酢酸リナリル、酢酸シトロネリル、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、酢酸テトラヒドロムゴール、酢酸ラバンジュリル、酢酸ネロリドール、酢酸ジヒドロクミニル、酢酸テルピニル、酢酸シトリル、酢酸ノピル、酢酸ジヒドロテルピニル、酢酸2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニルメチル、酢酸ミラルディル、酢酸ベチコール、プロピオン酸デセニル、プロピオン酸リナリル、プロピオン酸ゲラニル、プロピオン酸ネリル、プロピオン酸テルピニル、プロピオン酸トリシクロデセニル、プロピオン酸スチラリル、酪酸オクチル、酪酸ネリル、酪酸シンナミル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸オクチル、イソ酪酸リナリル、イソ酪酸ネリル、イソ吉草酸リナリル、イソ吉草酸テルピニル、イソ吉草酸フェニルエチル、2−メチル吉草酸2−メチルペンチル、3−ヒドロキシヘキサン酸メチル、3−ヒドロキシヘキサン酸エチル、オクタン酸メチル、オクタン酸オクチル、オクタン酸リナリル、ノナン酸メチル、ウンデシレン酸メチル、安息香酸リナリル、ケイヒ酸メチル、アンゲリカ酸イソプレニル、ゲラン酸メチル、クエン酸トリエチルなどのエステル類;チモール、カルバクロール、β−ナフトールイソブチルエーテルなどのフェノール類;γ−ウンデカラクトン、δ−ドデカラクトンなどのラクトン類;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、2−デセン酸、ゲラン酸などの脂肪酸類;ジアリルサルファイド、ジアリルジサルファイド、ジプロピルジサルファイド、メチルプロピルジサルファイド、アリルプロピルジサルファイド、ジアリルトリサルファイドなどのサルファイド類;アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、N−メチルアントラニル酸メチル、N−2′−メチルペンチリデンアントラニル酸メチル、リガントラール、ドデカンニトリル、2−トリデセンニトリル、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、3,7−ジメチル−2,6−ノナジエノニトリル、インドール、5−メチル−3−ヘプタノンオキシム、チオゲラニオール、リモネンチオール、P−メンチル−8−チオールなどの含窒素・含硫化合物類など公知の合成香料化合物およびワサビの溶剤抽出物、水蒸気蒸留物、酵素処理、加熱反応などにより得られるワサビ香気を有するフレーバー、あるいは、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツなどの柑橘類精油、花精油、ペパーミント油、スペアミント油、ジンジャー、ペッパー、オニオンなどのスパイス精油などの植物精油;コーラナッツエキストラクト、コーヒーエキストラクト、ワニラエキストラクト、ココアエキストラクト、紅茶エキストラクト、スパイス類エキストラクトなどの油性エキストラクト及びこれらのオレオレジン類を挙げることができるがこれらに限定されるわけではない。これらを任意に組み合わせて混合することにより、ワサビ香料組成物を調製することができる。
【0032】
本発明のワサビ香料組成物に配合できる香気成分以外の成分としては、香気成分を溶解するのに適当な溶剤、例えば、水、エチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、中鎖脂肪酸グリセリンエステル、食用植物油などの食用油脂、あるいは食品に使用可能な天然色素類、ビタミン類、植物性樹脂類などを挙げることができる。
【0033】
さらに、これらの液状のワサビ香料組成物に乳糖、デキストリン、アラビアガム、シクロデキストリンなどの賦形剤を加えて粉末状とするか、あるいは、食品に使用可能な種々の乳化剤を用いて乳化物とするか、あるいは、ペースト状、顆粒状、マイクロカプセルなど、その使用目的により、任意の剤形のものを調製し、用いることができる。
【0034】
本発明のワサビ香料組成物のワサビ風味食品への配合量は、その目的あるいはワサビ風味増強剤の種類によっても異なるが、例えば、2ppm〜20000ppm、好ましくは、20ppm〜2000ppmの濃度範囲を挙げることができる。
【0035】
また、本発明のワサビ香料組成物は、ワサビ風味食品に添加して、ワサビ風味を増強できるとともに、ワサビ風味を全く有しない、種々の飲食品に添加することにより、ワサビ風味が付与された飲食品を容易に製造することができる。
【0036】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、これらに限定されるわけではない。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
ワサビ風味増強剤の調製
表1〜3の組成に従い、3−メチル−γ−デカラクトン、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジン及びトランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールを計り取り、市販の中鎖脂肪酸グリセリンエステル(MCTと呼ぶ)に溶解し、ワサビ風味増強剤として発明品1〜21を調製した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
市販チューブ入り練りワサビへのワサビ風味増強剤の添加効果
市販チューブ入り練りワサビ(アリルイソチオシアネートを約0.3%含有)を用意し、これに、表1〜3のワサビ風味増強剤の組成−1〜3に従い、調製した発明品1〜21のワサビ風味増強剤を質量%で0.3%となるように添加し、良く混合した。これらをワサビ風味増強剤を添加しない参考品1とともに10人の良く訓練されたパネラーにより評価を行った。官能評価を10名全員の平均的なコメントとしてまとめ、オイリー感、根茎感は各人の10点満点評価の平均値で表し、その数値の合計を合計点とした(表4)。
【0042】
【表4】

【0043】
表4の結果から明らかなように、ワサビ風味増強剤を全く添加しない参考品1の市販チューブ入り練りワサビは、刺激感はあるものの、すり立ての生ワサビのフレッシュさ、瑞々しさ、オイリー感、根茎感はほとんど感じられず、評価点も、オイリー感0.3、根茎感0.5(合計点0.8)と非常に低かった。また、ツンとした辛味のある香気、香味は味わった瞬間に感じられるものの、持続性はなく、すり立ての生ワサビのフレッシュさ、瑞々しさ、オイリー感、根茎感はほとんど感じられなかった。
【0044】
これに対して、発明品1〜21のワサビ風味増強剤を添加したものは、いずれもすり立ての生ワサビの風味を有しており、3−メチル−γ−デカラクトン、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールの添加により、オイリー感の数値が高くなり、すなわち、オイリー感を付与、増強する効果が認められた。また、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンおよび2−イソブチル−3−メトキシピラジンの添加により、根茎感の数値が高くなり、すなわち、根茎感を付与、増強する効果が認められた。また、発明品1〜21のワサビ風味増強剤を添加したものは、味わった瞬間の辛味のある香気、香味は刺激感が抑えられ、好ましい香気、香味が持続することが確認された。
【0045】
特に、発明品1はすり立ての生ワサビの、フレッシュさ、瑞々しさがあり、持続性と厚みのあるオイリー感、根茎感のある、良質で満足感のある風味であり、評価点は、オイリー感9.9、根茎感9.9(合計点19.8)と最も評価が高かった。
【0046】
[実施例2]
イソチオシアネート類に対するワサビ風味増強剤の添加の濃度範囲の検討
表5のワサビ香料処方に従い、香料化合物を計り取り、MCTに溶解し、ワサビ香料組成物として発明品22〜26および比較品1〜3を調製した。
【0047】
処方中、アリルイソチオシアネート、4−ペンテニルイソオシアネート、5−ヘキセニルイソチオシアネートの3成分がイソチオシアネート類であり、これにシス−3−ヘキセノール、シス−3−ヘキセニルアセテートを加えた5成分をワサビ香料処方のベースとして、発明品22〜26および比較品1〜3に添加している。
【0048】
発明品22〜26は、ベースに対して、オイリー感に寄与する成分(3−メチル−γ−デカラクトン、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナール)、根茎感に寄与する成分(3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジン)の添加濃度を変えたものである。
【0049】
比較品1はこれらの成分を全く含まないベースであり、比較品2および3はこれらの成分を発明品22〜26の濃度範囲より低い量、または超える量、添加したものである。
【0050】
【表5】

【0051】
発明品22〜26および比較品1〜3の官能評価
発明品22〜26および比較品1〜3をMCTで200倍に希釈し、10人の良く訓練されたパネラーにより評価を行った。その結果を表6に示す。
【0052】
【表6】

【0053】
表6の結果からわかるように、発明品22〜25はオイリー感に寄与する成分(3−メチル−γ−デカラクトン、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナール)が増えるとオイリー感が強くなり、根茎感に寄与する成分(3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジン)が増えると根茎感が強くなり、いずれもすり立ての生ワサビの、フレッシュさ、瑞々しさがあり、良質で満足感のある風味であった。発明品26はオイリー感、根茎感が非常に強いが、すり立ての生ワサビの、フレッシュさ、瑞々しさが感じられ、パンチが効いた風味であるとの評価であった。
【0054】
一方、オイリー感に寄与する成分および根茎感に寄与する成分を全く含まない比較品1は、刺激感はあるものの、すり立ての生ワサビのフレッシュさ、瑞々しさ、オイリー感、根茎感が感じられず、風味がかなり劣り、満足感も欠けていた。
【0055】
比較品2はオイリー感に寄与する成分および根茎感に寄与する成分をわずかに含むが、もはや、この濃度では、オイリー感、根茎感は感じられなかった。
【0056】
また、比較品3はオイリー感に寄与する成分および根茎感に寄与する成分を多量に含むものであるが、オイリー感、根茎感というよりは、強い違和感があり、刺激感も強く、ワサビ感が逆に弱まって風味バランスが損なわれていた。
【0057】
結果として、イソチオシアネート類に対する、オイリー感に寄与する成分(3−メチル−γ−デカラクトン、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナール)、および、根茎感に寄与する成分(3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジン)は、発明品22〜26の濃度範囲であれば、オイリー感、根茎感およびすり立ての生ワサビのフレッシュさ、瑞々しさのある風味を付与することができることが確認された。また、そのうち、発明品23〜25は良質で満足感のある風味を有し、オイリー感に寄与する成分、および、根茎感に寄与する成分の濃度が好ましいことが確認された。
【0058】
[実施例3]
ワサビ香料組成物の調製
表7、表8の組成に従い、香料化合物を計り取り、市販の中鎖脂肪酸グリセリンエステル(MCT)に溶解し、発明品27〜32および比較品4〜9のワサビ香料組成物を調製した。
【0059】
【表7】

【0060】
【表8】

【0061】
和風ドレッシングへの添加効果
基本和風ドレッシングは、市販サラダ油大さじ2、食用酢大さじ1、市販醤油大さじ1、塩少々、砂糖少々を良く混合したものを用いた。
【0062】
これに、表7および表8のワサビ香料処方−2および3に従い、調製した発明品27〜32および比較品4〜9のワサビ香料組成物を質量%で0.1%となるように添加し、良く混合した。これらの添加品および無添加品(参考品2)を10人の良く訓練されたパネラーにより評価を行った。官能評価を10名全員の平均的なコメントとしてまとめ、オイリー感、根茎感は各人の10点満点評価の平均値で表し、その数値の合計を合計点とした(表9)。
【0063】
【表9】

【0064】
表9の結果からわかる様に、発明品27〜32は生ワサビを醤油に溶かしたような、軽快な辛味と食欲をそそるフレッシュで瑞々しさがあり、オイリー感、根茎感が持続性と厚みを与え、良質で満足感のある和風ドレッシングとなった。評価点で見ても、オイリー感9.1〜9.9、根茎感9.5〜9.8(合計点18.7〜19.7)と非常に高かった。また、発明品27〜32のワサビ香料組成物を添加したものは、味わった瞬間の辛味のある香気、香味は刺激感が抑えられていることが確認された。
【0065】
これに対し、比較品4〜9はツンと来る辛味はあるものの、生ワサビのフレッシュさ、瑞々しさ、オイリー感、根茎感がなく、全体として醤油、酢の香気との相性が悪く、満足感に欠けるものであり、オイリー感0.6〜1.1、根茎感0.7〜1.0(合計点1.4〜1.9)と非常に低く、香気、香味は持続性がなかった。
【0066】
昆布佃煮への添加効果
市販の昆布佃煮を購入し、これに、表7および表8のワサビ香料処方−2および3に従い、調製した発明品27〜32および比較品4〜9のワサビ香料組成物を質量%で0.15%となるように添加し、良く混合した。これらの添加品および無添加品(参考品3)を10人の良く訓練されたパネラーにより評価を行った。官能評価を10名全員の平均的なコメントとしてまとめ、オイリー感、根茎感は各人の10点満点評価の平均値で表し、その数値の合計を合計点とした(表10)。
【0067】
【表10】

【0068】
表10の結果からわかる様に、発明品27〜32を添加した昆布佃煮は、生ワサビの軽快な辛味と食欲をそそるフレッシュさ、瑞々しさ、オイリー感、根茎感が持続し、単調な昆布佃煮の風味を改善し、良質な満足感があった。評価点で見ても、オイリー感8.9〜9.6、根茎感8.8〜9.3(合計点17.8〜18.7)と非常に高かった。また、これらの発明品を添加した昆布佃煮は、味わった瞬間の不快な刺激感が抑えられていることが確認された。
【0069】
これに対し、比較品4〜9はツンと来る辛味あるものの、セイヨウワサビ的で生ワサビのフレッシュさ、瑞々しさ、オイリー感、根茎感がなく、昆布佃煮との相性も悪く、満足感に欠けるものであり、オイリー感0.3〜0.5、根茎感0.4〜0.7(合計点0.7〜1.2)と非常に低く、香気、香味の持続性がなかった。
【0070】
市販チューブ入り練りワサビ、和風ドレッシング、昆布佃煮への添加試験の結果により、本発明のワサビ風味増強剤、ワサビ香料組成物を飲食品に添加することにより、すり立ての生ワサビの、フレッシュで瑞々しく、オイリー感、根茎感を伴った持続性のある香気、香味を付与、増強できることが確認され、より嗜好性、付加価値の高い商品開発が可能となることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−メチル−γ−デカラクトン、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジンおよびトランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールから選ばれる1種または2種以上の混合物からなるワサビ風味増強剤。
【請求項2】
請求項1のワサビ風味増強剤および少なくとも1種のイソチオシアネート類を含有するワサビ香料組成物であって、イソチオシアネート類の重量を基準として、3−メチル−γ−デカラクトンが2ppm〜20000ppmの濃度範囲、3−メチル−2−ブテン−1−チオールが0.2ppb〜2ppmの濃度範囲、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンが2ppb〜20ppmの濃度範囲、2−イソブチル−3−メトキシピラジンが2ppb〜20ppmの濃度範囲、または、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールが20ppb〜200ppmの濃度範囲となるように含有することを特徴とするワサビ香料組成物。
【請求項3】
請求項1のワサビ風味増強剤をワサビ風味食品の重量を基準として、3−メチル−γ−デカラクトンが0.002ppm〜40ppmの濃度範囲、3−メチル−2−ブテン−1−チオールが0.0002ppb〜4ppbの濃度範囲、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、2−イソブチル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、または、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールが0.02ppb〜400ppbの濃度範囲となるように添加することを特徴とするワサビ風味食品。
【請求項4】
請求項1のワサビ風味増強剤をワサビ風味食品の重量を基準として、3−メチル−γ−デカラクトンが0.002ppm〜40ppmの濃度範囲、3−メチル−2−ブテン−1−チオールが0.0002ppb〜4ppbの濃度範囲、2−イソプロピル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、2−イソブチル−3−メトキシピラジンが0.002ppb〜40ppbの濃度範囲、または、トランス−4,5−エポキシ−(E)−2−デセナールが0.02ppb〜400ppbの濃度範囲となるように添加することを特徴とする飲食品のワサビ風味増強方法。
【請求項5】
請求項2に記載のワサビ香料組成物を飲食品の重量を基準として、2ppm〜20000ppmの濃度範囲で添加することを特徴とするワサビ風味食品。
【請求項6】
請求項2に記載のワサビ香料組成物を飲食品の重量を基準として、2ppm〜20000ppmの濃度範囲で添加することを特徴とする飲食品のワサビ風味の付与または増強方法。