説明

ワンウェイクラッチ

【課題】遊星ギアを小径化することなく、内接歯車式のワンウェイクラッチの小径化を推進する。
【解決手段】
遊星ギア44、46を受け入れる複数の凹部40、42を、インナ部材20の軸線方向に互いに偏倚し、凹部40、42が隣り合うもの同士でインナ部材20の軸線方向で見て重複しない位置に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンウェイクラッチに関し、特に、内接歯車式のワンウェイクラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファクシミリ装置やコピー機の給紙機構等に用いられるワンウェイクラッチとして、内周部に内歯車を有する筒状のアウタ部材と、前記内歯車の内側空間に回転自在に設けられ、外周部に係止エッジ部を形成された複数の凹部を有するインナ部材と、前記複数の凹部の各々に転動可能に受容されて前記内歯車に噛合する遊星ギアとを有し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して一方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部に前記係止エッジ部が係合することにより、当該遊星ギアが転動不能になって前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係で接続し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して他方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部と前記係止エッジ部との係合が解除されることにより、当該遊星ギアが転動可能になり、前記アウタ部材と前記インナ部材との相対回転を許し、前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係を切り離す内接歯車式のワンウェイクラッチが知られている(特許文献1、2)。
【特許文献1】実用新案登録公報第2505010号
【特許文献2】特開2004−19757公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
内接歯車式のワンウェイクラッチは、ラチット式のワンウェイクラッチに比して小径化が可能であるが、従来のものは、インナ部材の一つの横断面位置に複数の凹部が設けられ、その複数の凹部は、インナ部材の半径方向に重複しないように設ける必要があるため、更なる小径化を図ることに限界かある。
【0004】
遊星ギアの小径化は、ワンウェイクラッチの小径化に繋がるが、遊星ギアの小径化に伴い遊星ギアの歯が小さくなると、歯の強度不足が生じ、許容トルク伝達容量の低下を招く。また、遊星ギアの小径化は、遊星ギアの製造精度を上げる必要を生じ、生産性を低下する原因になる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、遊星ギアを小径化することなく、内接歯車式のワンウェイクラッチの小径化を推進することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるワンウェイクラッチは、内周部に内歯車を有する筒状のアウタ部材と、前記内歯車の内側空間に回転自在に設けられ、外周部に係止エッジ部を形成された複数の凹部を有するインナ部材と、前記複数の凹部の各々に転動可能に受容されて前記内歯車に噛合する遊星ギアとを有し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して一方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部に前記係止エッジ部が係合することにより、当該遊星ギアが転動不能になって前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係で接続し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して他方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部と前記係止エッジ部との係合が解除されることにより、当該遊星ギアが転動可能になり、前記アウタ部材と前記インナ部材との相対回転を許し、前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係を切り離す、内接歯車式のワンウェイクラッチであって、前記複数の凹部が前記インナ部材の軸線方向に互いに偏倚した位置に設けられている。
【0007】
本発明によるワンウェイクラッチは、好ましくは、前記凹部の径方向の深さが、前記インナ部材の半径より大きい。
【0008】
本発明によるワンウェイクラッチは、好ましくは、前記複数の凹部は、前記インナ部材の軸線方向投影面で見て、前記インナ部材の中心軸線に対して互いに点対称となる位置に配置されている。
【0009】
また、本発明によるワンウェイクラッチは、内周部に内歯車を有する筒状のアウタ部材と、前記内歯車の内側空間に回転自在に設けられ、外周部に係止エッジ部を形成された凹部を有するインナ部材と、前記凹部に転動可能に受容されて前記内歯車に噛合する遊星ギアとを有し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して一方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部に前記係止エッジ部が係合することにより、当該遊星ギアが転動不能になって前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係で接続し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して他方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部と前記係止エッジ部との係合が解除されることにより、当該遊星ギアが転動可能になり、前記アウタ部材と前記インナ部材との相対回転を許し、前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係を切り離す、内接歯車式のワンウェイクラッチであって、前記凹部の前記インナ部材の径方向の深さが、前記インナ部材の半径より大きい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるワンウェイクラッチは、複数の凹部の配置が、インナ部材の軸線方向に互いに偏倚した位置に設けられているので、ワンウェイクラッチの軸線方向寸法は長くなるものの、遊星ギアを小径化することなく、内接歯車式のワンウェイクラッチの小径化を推進できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明によるワンウェイクラッチの一つの実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0012】
ワンウェイクラッチは、クラッチケースをなすアウタ部材10を有する。アウタ部材10は、軸線方向の一方の端部を端壁12により閉じられた有底円筒体により構成され、内周面に一連の内歯(内歯車)14を形成されている。
【0013】
内歯車の内側空間に相当するアウタ部材10の円筒状の内部空間には、略円柱状のインナ部材20が回転自在に設けられている。
【0014】
インナ部材20の軸線方向の一方の端部には、インナ部材20の中心軸線周りの円弧状案内突条22が形成されている。アウタ部材10の端壁12には、アウタ部材10の内周面と同心の円環状凹溝14が形成されている。円弧状案内突条22は円環状凹溝16に摺動可能に係合している。
【0015】
インナ部材20の軸線方向の他方の端部には半円形フランジ部24が形成されている。インナ部材20のこの他方の端部側には端部部材26が配置されている。端部部材26は、円形フランジ部28と、円形フランジ部28の一方の側に形成され半円形フランジ部24と補形をなす半円形フランジ部30と、円形フランジ部30の他方の側に突出形成された外部接続部32とを有する。端部部材26は、半円形フランジ部30をもって半円形フランジ部24と係合してインナ部材20とトルク伝達関係で結合され、円形フランジ部28によってアウタ部材10の軸線方向の他方の開口端を覆蓋している。円形フランジ部28の外周面には円環状案内突条34が形成されており、円環状案内突条34はアウタ部材10の開口端部分の内周面に形成された円環状凹溝18に摺動可能に嵌合している。
【0016】
これにより、インナ部材20は、軸線方向の両端部をアウタ部材10より支持され、アウタ部材10の円筒状内部空間内を、当該円筒状内部空間の中心と同心に回転可能になっている。ここで、インナ部材20が、アウタ部材10の円筒状内部空間の中心と同心とは、当該円筒状内部空間の内周面に形成された一連の内歯14による内歯車の中心とインナ部材20の回転中心とが同心であることを意味する。
【0017】
インナ部材20には、複数、本実施形態では、2個の凹部40、42が、インナ部材20の軸線方向(図2で見て左右方向)に互いに偏倚し、インナ部材20の軸線方向で見て互いに重複しない位置に形成されている。しかも、凹部40、42は、インナ部材20の軸線方向投影面で見て、インナ部材20の中心軸線に対して互いに点対称となる位置に配置されている。つまり、凹部40と42は、インナ部材20の中心軸線周りに互いに180度回転変位しはた位置にある。
【0018】
凹部40、42は、インナ部材20の外周部の一部を、ポケット状に切り欠いたものである。凹部40、42には、外周面に一連の外歯48、50を形成された遊星ギア44、46が、自身の中心軸線周りに回転可能に、即ち、転動可能に、且つ所定量のみインナ部材20の周方向に変位可能に配置されている。
【0019】
遊星ギア44、46は、各々、このように凹部40、42に受容され、遊星ギア44、46の外歯48、50は、各々、内歯車14に噛合している。
【0020】
ここで、インナ部材20がアウタ部材10に対して一方の側に回転するクラッチ係合時のインナ部材20の回転方向を、図3、図4で見て時計廻り方向とし、インナ部材20がアウタ部材10に対して他方の側に回転するクラッチ非係合(解放)時のインナ部材20の回転方向を、図3、図4で見て反時計廻り方向とする。
【0021】
インナ部材20の上述の時計廻り方向で見て、凹部40、42の回転方向遅れ側の縁部には、遊星ギア44、46の外歯48、50による歯谷部48A、50Aに選択的に係合する係止エッジ部52、54が形成されている。
【0022】
インナ部材20がアウタ部材10に対して一方の側、つまり、図3、図4で見て時計廻り方向に回転する時には、当該回転に伴ってインナ部材20が凹部40、42の遊星ギア44、46に対して時計廻り方向側に変位することにより、係止エッジ部52、54の少なくとも一方が遊星ギア44、46の歯谷部48A、50Aに係合する。これにより、遊星ギア44、46の少なくとも一方が転動不能になり、遊星ギア44、46の外歯48、50とアウタ部材10の内歯14の噛合とのもとに、アウタ部材10とインナ部材20とがトルク伝達関係で接続される。
【0023】
これに対し、インナ部材20がアウタ部材10に対して他方の側、つまり、図3、図4で見て反時計廻り方向に回転する時には、当該回転に伴ってインナ部材20が凹部40、42の遊星ギア44、46に対して反時計廻り方向側に変位することにより、係止エッジ部52、54が遊星ギア44、46の歯谷部48A、50Aとの係合より離脱(係合解除)する。これにより、遊星ギア44、46が各々転動可能になり、アウタ部材10とインナ部材20とが相対回転できる状態になり、アウタ部材10とインナ部材20とのトルク伝達関係が切り離される。
【0024】
上述したように、本実施形態によるワンウェイクラッチによれば、各々、遊星ギア44、46を受容する2個の凹部40、42の配置が、インナ部材20の軸線方向に互いに偏倚し、隣り合う凹部40、42同士でインナ部材20の軸線方向で見て重複しない位置に設けられているので、ワンウェイクラッチの軸線方向寸法は長くなるものの、遊星ギア44、46を小径化することなく、ワンウェイクラッチの小径化が図られる。
【0025】
このような凹部40、42の配置により、凹部40、42を、インナ部材20の軸線方向投影面で見てインナ部材20の半径方向に重複して設けることができるから、図2、図3に示されているように、凹部40、42は、各々、径方向の深さ(インナ部材20の半径方向の深さ)Dをインナ部材20の半径Rより大きい深い窪みに設定する可能になる。このことに応じて、凹部40、42に配置する遊星ギア44、46として、歯車外径がインナ部材20の半径Rより大きい大型の歯車を用いることができるようになる。
【0026】
このことにより、遊星ギア44、46の小径化による弊害が生じることがなく、許容トルク伝達容量の増大が図られる。
【0027】
なお、上述の実施形態では、インナ部材20に設けられる凹部の個数を2個としたが、凹部の個数は、2個に限られることなく、必要に応じて、3個、4個と、それ以上の複数個であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明によるワンウェイクラッチの一つの実施形態を示す斜視図。
【図2】この発明によるワンウェイクラッチの一つの実施形態を示す断面図。
【図3】図2の線A−A断面図。
【図4】図2の線B−B断面図。
【符号の説明】
【0029】
10 アウタ部材
12 端壁
14 内歯
16、18 円環状凹溝
20 インナ部材
22 円弧状案内突条
24 半円形フランジ部
26 端部部材
28 円形フランジ部
30 半円形フランジ部
32 外部接続部
34 円環状案内突条
40、42 凹部
44、46 遊星ギア
48、50 外歯
44、46 遊星ギア
48、50 外歯
52、54 係止エッジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周部に内歯車を有する筒状のアウタ部材と、前記内歯車の内側空間に回転自在に設けられ、外周部に係止エッジ部を形成された複数の凹部を有するインナ部材と、前記複数の凹部の各々に転動可能に受容されて前記内歯車に噛合する遊星ギアとを有し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して一方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部に前記係止エッジ部が係合することにより、当該遊星ギアが転動不能になって前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係で接続し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して他方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部と前記係止エッジ部との係合が解除されることにより、当該遊星ギアが転動可能になり、前記アウタ部材と前記インナ部材との相対回転を許し、前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係を切り離す、内接歯車式のワンウェイクラッチであって、
前記複数の凹部が前記インナ部材の軸線方向に互いに偏倚した位置に設けられているワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記凹部の径方向の深さが、前記インナ部材の半径より大きい請求項1記載のワンウェイクラッチ。
【請求項3】
前記複数の凹部は、前記インナ部材の軸線方向投影面で見て、前記インナ部材の中心軸線に対して互いに点対称となる位置に配置されている請求項1または2に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項4】
内周部に内歯車を有する筒状のアウタ部材と、前記内歯車の内側空間に回転自在に設けられ、外周部に係止エッジ部を形成された凹部を有するインナ部材と、前記凹部に転動可能に受容されて前記内歯車に噛合する遊星ギアとを有し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して一方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部に前記係止エッジ部が係合することにより、当該遊星ギアが転動不能になって前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係で接続し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して他方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアの歯谷部と前記係止エッジ部との係合が解除されることにより、当該遊星ギアが転動可能になり、前記アウタ部材と前記インナ部材との相対回転を許し、前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係を切り離す、内接歯車式のワンウェイクラッチであって、
前記凹部の前記インナ部材の径方向の深さが、前記インナ部材の半径より大きいワンウェイクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−106985(P2010−106985A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280784(P2008−280784)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)