説明

ワンウェイクラッチ

【課題】内接歯車式ワンウェイクラッチにおいて、部品点数、組付工数の増加、組付精度の問題を生じることなく、遊星ギアの歯先がギア受入部の内周面に接触した状態で転動しないことを達成し、摺動音の発生を回避して静音化を図ること。
【解決手段】遊星ギア44、46の軸線方向の両端部に軸部56、58を突出形成し、ギア受入部40、42の軸線方向の両端壁には各々インナ部材20の外周側に開放されて軸部56、58を受け入れる軸受凹部60、62を形成する。軸部56、58と軸受凹部60、62との係合により、遊星ギア44、46が係止エッジ部52、54との係脱のために必要なインナ部材20に対する所定範囲の周方向変位を許して遊星ギア44、46がインナ部材20の径方向内方に変位することを禁止する構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンウェイクラッチに関し、特に、内接歯車式のワンウェイクラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファクシミリ装置やコピー機の給紙機構等に用いられるワンウェイクラッチとして、内周部に内歯車を有する筒状のアウタ部材と、前記内歯車の内側空間に回転自在に設けられ、外周部にギア受入部を形成され当該ギア受入部の周方向の一方の側に係止エッジ部を形成されたインナ部材と、前記複数のギア受入部の各々に転動可能に受容されて前記内歯車に噛合する遊星ギアとを有する内接歯車式のワンウェイクラッチが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
内接歯車式のワンウェイクラッチは、インナ部材がアウタ部材に対して一方の側に回転するときには、当該回転に伴って遊星ギアがギア受入部内を周方向の一方の側に変位することにより当該遊星ギアの歯谷部に係止エッジ部が係合し、当該係合によって遊星ギアが転動不能になり、アウタ部材とインナ部材とをトルク伝達関係で接続する。これに対し、インナ部材がアウタ部材に対して他方の側に回転するときには、当該回転に伴って遊星ギアがギア受入部内を周方向の他方の側に変位することにより、遊星ギアの歯谷部と係止エッジ部との係合が解除(離脱)されて遊星ギアが転動可能になり、アウタ部材とインナ部材との相対回転を許し、アウタ部材とインナ部材とをトルク伝達関係より切り離す。
【0004】
上述の如き内接歯車式のワンウェイクラッチでは、遊星ギアの歯先がギア受入部の内周面に接触した状態で転動すると、遊星ギアの歯数を角数とする多角形体がギア受入部内を転動することと同じにような状態になり、カチカチと云うような断続的な摺動音が生じ、静音化を阻害することになる。
【0005】
このことに対して、遊星ギアの両端部に軸部を突出形成し、ギア受入部の軸線方向両側には周方向に長い長孔を形成し、当該長孔に遊星ギアの軸部を嵌合させることにより、遊星ギアが係止エッジ部との係合と離脱のためにインナ部材に対して周方向には変位できるが、遊星ギアの歯先がギア受入部の内周面に接触しないよう、遊星ギアの径方向変位を実質的に禁止した移動範囲規定手段が設けられた内接歯車式ワンウェイクラッチがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−19757号公報
【特許文献2】特開2005−172199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の内接歯車式ワンウェイクラッチの移動範囲規定手段は、遊星ギアの両端部に突出形成された形成された軸部と、ギア受入部の軸線方向両側に形成された長孔との嵌合により、遊星ギアが両持ち支持されているものであるから、遊星ギアの両端部に突出している軸部を各々ギア受入部の軸線方向両側に形成された長孔に嵌め込む遊星ギアの組み付け上、長孔が形成される少なくともギア受入部の軸線方向片側の壁部は、インナ部材とは別部材で構成しなくてならない。このため、部品点数、組付工数が増え、しかも、ギア受入部の軸線方向両側の長孔の周方向の位置を揃えるための組付精度も要求される。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、内接歯車式ワンウェイクラッチにおいて、部品点数、組付工数の増加、組付精度の問題を生じることなく、遊星ギアの歯先がギア受入部の内周面に接触した状態で転動しないことを達成し、摺動音の発生を回避して静音化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるワンウェイクラッチは、内周部に内歯車を有する筒状のアウタ部材と、前記内歯車の内側空間に回転自在に設けられ、外周側に開口したギア受入部を形成され当該ギア受入部の周方向の一方の側に係止エッジ部を形成されたインナ部材と、前記複数のギア受入部の各々に転動可能に受容されて前記内歯車に噛合する遊星ギアとを有し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して一方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアが前記ギア受入部内を周方向の一方の側に変位することにより当該遊星ギアの歯谷部に係止エッジ部が係合し、当該係合によって前記遊星ギアが転動不能になり、前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係で接続し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して他方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアが前記ギア受入部内を周方向の他方の側に変位することにより、前記遊星ギアの歯谷部と前記係止エッジ部との係合が解除されて前記遊星ギアが転動可能になり、前記アウタ部材と前記インナ部材との相対回転を許し、前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係より切り離す内接歯車式のワンウェイクラッチであって、前記遊星ギアの軸線方向の両端部には軸部が突出形成され、前記ギア受入部の軸線方向の両端壁には各々前記インナ部材の外周側に開放されて前記軸部を受け入れる軸受凹部が形成され、前記軸部と前記軸受凹部との係合により、前記遊星ギアが前記係止エッジ部との係脱のために必要な前記インナ部材に対する所定範囲の周方向変位を許して前記遊星ギアが前記インナ部材の径方向内方に変位することを禁止している。
【0010】
この構成によれば、軸部と軸受凹部との係合により、遊星ギアがインナ部材の径方向内方に変位することが禁止されているので、遊星ギアの歯先がギア受入部の内周面に接触しないことを保証でき、遊星ギアの歯先がギア受入部の内周面に接触した状態で転動することに起因する摺動音の発生を回避することができる。遊星ギアがインナ部材の径方向外方に変位することは、遊星ギアと内歯車との噛合により制限される。
【0011】
ギア受入部の軸線方向の両端壁にある軸受凹部は、軸部との係合により遊星ギアがインナ部材の径方向内方に変位することを禁止するが、インナ部材の外周側に開放されているので、遊星ギアの軸線方向両端にある軸部を、各々、インナ部材の外周側より軸受凹部に嵌め込むことができる。これにより、ギア受入部の軸線方向片側の壁部をインナ部材とは別部材で構成する必要がなくなり、部品点数、組付工数の増加、組付精度の問題を招くことがない。
【0012】
本発明によるワンウェイクラッチは、好ましくは、前記遊星ギアの軸線方向両端の軸部の先端面が各々前記軸受凹部の軸線方向端面に当接し、前記インナ部材に対する前記遊星ギアの軸線方向移動が制限されている。
【0013】
この構成によれば、軸受凹部と軸部との係合によって遊星ギアのスラスト軸受がなされ、遊星ギアの歯部端面がギア受入部の軸線方向側壁に当接することを回避でき、この当接に起因する摺動音の発生も回避できる。
【0014】
本発明によるワンウェイクラッチは、好ましくは、前記遊星ギア毎の前記ギア受入部が複数個、前記インナ部材の軸線方向に互いに偏倚した位置に設けられている。
【0015】
この構成によれば、複数のギア受入部の配置が、インナ部材の軸線方向に互いに偏倚した位置に設けられているので、ギア受入部同士が干渉することなくギア受入部の径方向の深さをインナ部材の半径より大きくできる。これにより、遊星ギアを小径化することなく、ワンウェイクラッチの外径寸法を小さくできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるワンウェイクラッチは、軸部と軸受凹部との係合により、遊星ギアがインナ部材の径方向内方に変位することが禁止されているので、遊星ギアの歯先がギア受入部の内周面に接触しないことを保証でき、遊星ギアの歯先がギア受入部の内周面に接触した状態で転動することに起因する摺動音の発生を回避することができる。そのうえで、ギア受入部の軸線方向の両端壁にある軸受凹部は、軸部との係合により遊星ギアがインナ部材の径方向内方に変位することを禁止するが、インナ部材の外周側に開放されているので、遊星ギアの軸線方向両端にある軸部を、各々、インナ部材の外周側より軸受凹部に嵌め込むことがでる。このことにより、ギア受入部の軸線方向片側の壁部をインナ部材とは別部材で構成する必要がなくなり、部品点数、組付工数の増加、組付精度の問題を招くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明によるワンウェイクラッチの一つの実施例を示す縦断面図。
【図2】図1の線II−IIに沿った拡大断面図。
【図3】本実施例によるワンウェイクラッチの要部の拡大断面図(図1の線III−III断面相当)。
【図4】本実施例によるワンウェイクラッチの要部の分解斜視図。
【図5】本発明によるワンウェイクラッチの他の実施例の要部の分解斜視図。
【図6】本発明によるワンウェイクラッチの他の実施例の要部の拡大縦断面図。
【図7】本発明によるワンウェイクラッチの他の実施例の要部の拡大横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によるワンウェイクラッチの一つの実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0019】
ワンウェイクラッチは、クラッチケースをなす円筒状のアウタ部材10を有する。アウタ部材10は外周部12に図示されていない送りローラの円筒ゴム体等を取り付けられるものである。アウタ部材10の内周面には内周方向に一連の内歯(内歯車)14が形成されている。
【0020】
内歯車の内側空間に相当するアウタ部材10の円筒状の内部空間には、略円柱状のインナ部材20が軸線方向(図1で見て左右方向)に貫通している。インナ部材20は、軸線方向に離れた2箇所に設けられた軸受外周部22A、22Bをもってアウタ部材10の軸受内周部16A、16Bに回転方向に摺動可能に係合し、アウタ部材10より回転自在に同心に支持されている。インナ部材20の外周面には円環状突条24が形成され、アウタ部材10の内周面には円環状凹溝18が形成されており、円環状突条24と円環状凹溝18との係合によってアウタ部材10とインナ部材20との軸線方向の組み付け(抜け止め)が行われている。
【0021】
インナ部材20は、アウタ部材10の軸線方向端部より外方に突出した部分が軸受部26、28になっており、図示されていない外部の軸受部によって自身の中心軸線周りに回転可能に支持される。インナ部材20がアウタ部材10の軸線方向端部より外方に部分の外周部には駆動用外歯30が形成されている。
【0022】
インナ部材20には、複数、本実施形態では、2個のギア受入部40、42が形成されている。ギア受入部40、42は、各々、インナ部材20の外周部の一部を、ポケット状に彫り込んだ窪みであり、インナ部材20の外周側に開口している。ギア受入部40と42は、インナ部材20の軸線方向に互いに偏倚し、しかも、インナ部材20の軸線方向投影面で見て、インナ部材20の中心軸線に対して互いに点対称となる位置に形成されている。つまり、ギア受入部40と42は、インナ部材20の中心軸線周りに互いに180度回転変位した位置にある。
【0023】
インナ部材20には、ギア受入部40、42の周方向の一方の側の縁部、本実施例では、図2、図3で見てインナ部材20の反時計廻り方向の回転方向進み側の縁部に、角張った係止エッジ部52、54が形成されている。
【0024】
ギア受入部40、42には、外周面に一連の外歯48、50を形成された遊星ギア44、46が一つずつ転動可能に且つ所定量のみインナ部材20の周方向に変位可能に受容されている。遊星ギア44、46の外歯48、50は、各々、アウタ部材10の内歯14に噛合している。
【0025】
インナ部材20がアウタ部材10に対して一方の側(図2、図3で見て反時計廻り方向)に回転するときには、当該回転に伴って遊星ギア44、46がギア受入部40、42内を周方向の一方の側(図2、図3で見て反時計廻り方向進み側)に変位することにより、遊星ギア44、46の歯谷部に係止エッジ部52、54が係合する。この係合によって遊星ギア44、46は、外歯48、50をもって内歯14に噛合した状態のまま転動不能になり、アウタ部材10とインナ部材20とがトルク伝達関係で接続され、同回転方向(図2、図3で見て反時計廻り方向)に一体回転する。
【0026】
これに対し、インナ部材20がアウタ部材10に対して他方の側(図2、図3で見て時計廻り方向)に回転するときには、当該回転に伴って遊星ギア44、46がギア受入部40、42内を周方向の他方の側(図2、図3で見て時計廻り方向進み側)に変位することにより、遊星ギア44、46の歯谷部と係止エッジ部52、54との係合が解除される。これにより、遊星ギア44、46は、外歯48、50をもって内歯14に噛合した状態で転動可能になり、アウタ部材10とインナ部材20との相対回転を許し、アウタ部材10とインナ部材20とがトルク伝達関係より切り離された状態になる。換言すると、切き離し状態では、インナ部材20は、アウタ部材10に対して、図2、図3で見て反時計廻り方向に自由に回転できる。
【0027】
遊星ギア44、46の軸線方向(図1で見て左右方向)の両端部には、各々、軸部56、58が突出形成されている。ギア受入部40、42の軸線方向(図1で見て左右方向)の両端壁には、各々、インナ部材20の外周側に開放されて軸部56、58を受け入れる軸受凹部60、62が形成されている。
【0028】
軸受凹部60、62には、遊星ギア44、46の軸部56、58が係合する。この係合により、遊星ギア44、46は、各々、軸線方向両端の軸部56、58をもって軸受凹部60、62の底面(内周面)60A、62Aより両持ち支持され、ギア受入部40、42内における遊星ギア44、46の動き(自由度)は、軸受凹部60、62の形状(インナ部材20の軸線に直交する横断面形状)により規定されることになる。
【0029】
軸受凹部60、62は、遊星ギア44、46が係止エッジ部52、54との係脱のために必要なインナ部材10に対する所定範囲の周方向変位を許した態様で、軸部56、58が軸受凹部60、62の底面60A、62Aに当接することにより、遊星ギア44、46がインナ部材20の径方向内方に変位することを禁止する形状になっている。この軸受凹部60、62の底面60A、62Aの形状は、図3によく示されているように、遊星ギア44、46が係止エッジ部52、54との係脱のためにインナ部材10に対して所定範囲の周方向変位するための直線的な平面部分と、遊星ギア44、46が係止エッジ部52、54より離脱する側に設けられた円弧面部分とを含む形状であり、軸部56、58を回転(転動)可能に保持する。
【0030】
なお、図示実施例では、軸受凹部60、62の底面(内周面)60A、62Aと、ギア受入部40、42の底面40A、42Aとが相似形をなしているが、軸受凹部60、62の底面(内周面)60A、62Aの形状は、ギア受入部40、42内における遊星ギア44、46の動きを規定するものでないので、自由に設定することができる。
【0031】
上述したように、軸部56、58と軸受凹部60、62との係合により、遊星ギア44、46が係止エッジ部52、54との係脱のために必要なインナ部材10に対する所定範囲の周方向変位を許した態様で、遊星ギア44、46がインナ部材20の径方向内方に変位することを禁止されている。遊星ギア44、46がインナ部材20の径方向外方に変位することは、遊星ギア44、46の外歯48、50とアウタ部材10の内歯14との噛合により制限される。
【0032】
これにより、各部の寸法設定により、遊星ギア44、46の外歯48、50とアウタ部材10の内歯14との適切な噛合を保証した上で、遊星ギア44、46の歯先とギア受入部40、42の底面60A、62Aとの間に空隙eを確保し、遊星ギア44、46の歯先がギア受入部40、42の底面60A、62Aに接触しないことを保証できる。この結果、遊星ギア44、46の歯先が40の底面60A、62Aに接触した状態で遊星ギア44、46が転動することがなく、これに起因する摺動音の発生を確実に回避できる。
【0033】
ギア受入部40、42の軸線方向の両端壁にある軸受凹部60、62は、軸部56、58との係合により、遊星ギア44、46がインナ部材20の径方向内方に変位することを禁止するが、インナ部材20の外周側に開放された形状をしているので、遊星ギア44、46の軸線方向両端にある軸部56、58の双方を、各々、インナ部材20の外周側より軸受凹部60、62に嵌め込むことができる。これにより、ギア受入部40、42の軸線方向片側の壁部をインナ部材20とは別部材で構成する必要がなくなり、部品点数、組付工数の増加、組付精度の問題を招くことがない。
【0034】
また、本実施例では、遊星ギア44、46の外歯48、50の軸線方向両端が面取り形状48A、50Aになっている。これにより、外歯48、50の軸線方向端面と、ギア受入部40、42の軸線方向端面とが摺接することがなく、この部分での摺動音の発生も防止される。
【0035】
上述した実施例では、遊星ギア44、46を受容する2個のギア受入部40、42の配置が、インナ部材20の軸線方向に互いに偏倚し、隣り合うギア受入部40、42同士でインナ部材20の軸線方向で見て重複しない位置に設けられているので、ワンウェイクラッチの軸線方向寸法は長くなるものの、遊星ギア44、46を小径化することなく、ワンウェイクラッチの外径の小径化を図ることができる。
【0036】
なお、上述の実施形態では、インナ部材20に設けられるギア受入部の個数を2個としたが、ギア受入部の個数は、2個に限られることなく、必要に応じて、3個、4個と、それ以上の複数個であってもよい。
【0037】
軸受凹部60、62は、遊星ギア44、46の軸部56、58をインナ部材20の外周側より軸受凹部60、62内に嵌め込むことができる形状であればよく、図5に示されているように、インナ部材20の外周面に対する開口縁部に抜け止め用の突条61が形成されていてもよい。この場合、軸部56、58は、インナ部材20の外周側より突条61を乗り越えて軸受凹部60、62に嵌り込むことになる。
【0038】
本発明によるワンウェイクラッチの他の実施例を、図6を参照して説明する。なお、図6において、図1に対応する部分は、図1に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0039】
この実施例では、上述の実施例と同様に、軸部56、58と軸受凹部60、62との係合により、遊星ギア44、46が係止エッジ部52、54との係脱のために必要なインナ部材10に対する所定範囲の周方向変位を許した態様で、遊星ギア44、46がインナ部材20の径方向内方に変位することを禁止されていることに加えて、遊星ギア44、46の軸線方向両端の軸部56、58の先端面52A、54Aが、各々、軸受凹部60、62の軸線方向端面60B、62Bに当接し、インナ部材20に対する遊星ギア44、46の軸線方向移動が制限されている。
【0040】
これにより、遊星ギア44、46のスラスト軸受がなされ、遊星ギア44、46の歯部端面がギア受入部40、42の軸線方向側壁に当接することを回避でき、この当接に起因する摺動音の発生も回避できる。この場合には、遊星ギア44、46の外歯48、50の軸線方向両端を必ずしも面取り形状48A、50Aにする必要はない。
【0041】
また、遊星ギア44、46の軸線方向両端の軸部56、58の先端面52A、54Aが、軸受凹部60、62の軸線方向端面60B、62Bに当接していることにより、インナ部材20に対する遊星ギア44、46の取付姿勢が規正され、遊星ギア44、46の中心軸線がインナ部材20の中心軸線に対して傾斜することを防止できる。これにより、遊星ギア44、46の外歯48、50と内歯14との噛合において、「こじれ」を生じることがなく、遊星ギア44、46の外歯48、50と内歯14との噛合が良好に保たれる。
【0042】
また、ワンウェイクラッチの外径の小径化を図る必要がない場合には、図7に示されているように、複数の、各ギア受入部70毎の遊星ギア72を、インナ部材20の同一軸線方位置に配置してもよい。
【0043】
この実施例でも、前述の実施例と同様に、遊星ギア72の軸線方向両端の軸部74とギア受入部70の軸線方向両端壁に形成された軸受凹部76との係合により、遊星ギア72が係止エッジ部78との係脱のために必要なインナ部材10に対する所定範囲の周方向変位を許した態様で、遊星ギア72がインナ部材20の径方向内方に変位することを禁止されていることにより、前述の実施例と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
10 アウタ部材
14 内歯
12 端壁
16、18 円環状凹溝
20 インナ部材
22 円弧状案内突条
24 半円形フランジ部
26 端部部材
28 円形フランジ部
30 半円形フランジ部
32 外部接続部
34 円環状案内突条
40、42 ギア受入部
44、46 遊星ギア
48、50 外歯
52、54 係止エッジ部
56、58 軸部
60、62 軸受凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周部に内歯車を有する筒状のアウタ部材と、前記内歯車の内側空間に回転自在に設けられ、外周側に開口したギア受入部を形成され当該ギア受入部の周方向の一方の側に係止エッジ部を形成されたインナ部材と、前記複数のギア受入部の各々に転動可能に受容されて前記内歯車に噛合する遊星ギアとを有し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して一方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアが前記ギア受入部内を周方向の一方の側に変位することにより当該遊星ギアの歯谷部に係止エッジ部が係合し、当該係合によって前記遊星ギアが転動不能になり、前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係で接続し、前記インナ部材が前記アウタ部材に対して他方の側に回転するときには、当該回転に伴って前記遊星ギアが前記ギア受入部内を周方向の他方の側に変位することにより、前記遊星ギアの歯谷部と前記係止エッジ部との係合が解除されて前記遊星ギアが転動可能になり、前記アウタ部材と前記インナ部材との相対回転を許し、前記アウタ部材と前記インナ部材とをトルク伝達関係より切り離す内接歯車式のワンウェイクラッチであって、
前記遊星ギアの軸線方向の両端部には軸部が突出形成され、前記ギア受入部の軸線方向の両端壁には各々前記インナ部材の外周側に開放されて前記軸部を受け入れる軸受凹部が形成され、前記軸部と前記軸受凹部との係合により、前記遊星ギアが前記係止エッジ部との係脱のために必要な前記インナ部材に対する所定範囲の周方向変位を許して前記遊星ギアが前記インナ部材の径方向内方に変位することを禁止しているワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記遊星ギアの軸線方向両端の軸部の先端面が各々前記軸受凹部の軸線方向端面に当接し、前記インナ部材に対する前記遊星ギアの軸線方向移動が制限されている請求項1に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項3】
前記遊星ギア毎の前記ギア受入部が複数個、前記インナ部材の軸線方向に互いに偏倚した位置に設けられている請求項1または2に記載のワンウェイクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−231840(P2011−231840A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102162(P2010−102162)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)