説明

ワーク移送方法及びワーク移送装置

【課題】ワークの所定距離の移送を、テーブルに対する位置ずれがなく短時間で行えるワーク移送方法を提供する。
【解決手段】テーブル(2)で支持した板状のワーク(W)を、テーブル(2)を移動することにより移送する。テーブル(2)側に設けた滑り防止部(5c)をテーブル(2)で支持したワーク(W)に対して接触させる接触ステップと、滑り防止部(5c)をワーク(W)に接触させた状態でテーブル(2)を移動するテーブル移動ステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク移送方法及びワーク移送装置に係り、特に、テーブルに載置したワークの所定距離の移送を位置ずれなく短時間で行えるワーク移送方法及びワーク移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンチプレスなどの加工機を用いたワークの加工工程において、加工前又は加工後のワークを移送する際に、例えば、吸着手段を備えて旋回等の動作をするロボットハンドを利用し、所定位置に載置されたワークを吸着して別の場所に移送することが行われている。
一方、ワークの上面に識別を目的とした印字をするため、ワークの上方側に印字装置を配設する場合がある。このときには、印字装置との干渉を避けるため、ロボットハンドの替わりに移動可能なテーブルを利用し、テーブル上に載せたワークをテーブルごと移送することも行われている。
また、テーブルを利用する場合には、ワークへの傷付き防止のため、テーブルにおけるワークの載置面に、ワークに傷を付けにくい材料で作られたブラシを植設することも行われている。
特許文献1には、テーブルのワーク載置面にブラシを植設し、そのブラシを介してワークを支持しつつ移送するテーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−185162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワークの加工工程は、常に高い加工効率が求められ、タクトタイムの短縮化が追求されている。
タクトタイムの短縮化には、まず、ワークを移送する際のテーブル移動速度を高速化するのが効果的である。
テーブル移動速度の高速化の具体的内容としては、移動速度自体の高速化、並びに、テーブルの静止状態から移動状態へ及び移動状態から静止状態への状態遷移の高速化がある。
次に、ワークの位置決め作業工数の低減化も効果的である。
すなわち、テーブルに載置したワークの位置が移送により変わらなければ、移送後の位置決め作業が省略でき、工数が低減する。
【0005】
しかしながら、従来の、ブラシを介して載置したワークをテーブルごと移送する方法では、テーブルを静止状態から移動状態に遷移させる際に、テーブルは移動を開始するもののワークは慣性で静止状態を維持しようとするために両者間にあってワークを支持するブラシが撓み、増速時の加速度が大きいと、ブラシとワークとの間に滑りが生じてテーブルに対するワークの位置がずれてしまうという問題があった。
逆に、テーブルを移動状態から静止状態に遷移させる際にも、テーブルは停止するもののワークは慣性で移動状態を継続しようとするために両者間にあってワークを支持するブラシが撓み、減速時の加速度が大きいと、ブラシとワークとの間に滑りが生じてテーブルに対するワークの位置がずれてしまうという問題があった。
【0006】
また、テーブルの移動状態における速度変化(急加速又は急減速)の程度によっては、ブラシとワークとの間に滑りが生じてテーブルに対するワークの位置がずれてしまうという虞があった。
このようなワークの位置ずれを防止するために、状態遷移時及び移送時の加速度を抑えざるを得ず、そのため所定時間内で得られる移動速度を大きくできず、結果として、ワーク移送の高速化とワークの位置決め作業低減化とを両立できない、という問題が生じていた。
また、ワークへの傷付きが許容されてブラシを要しない場合であっても、テーブルに直接載置されたワークは、移送の際の増速又は減速の加速度を大きくすると、ワークの慣性に起因してテーブルとの間に滑りが生じ、結果として移送によってテーブルに対するワークの位置がずれてしまうという同様の問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ワークの所定距離の移送を、テーブルに対する位置ずれがなく短時間で行えるワーク移送方法及びワーク移送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は次の手順及び構成を有する。
1) テーブル(2)で支持した板状のワーク(W)を、前記テーブル(2)を移動することにより移送するワーク移送方法であって、
前記テーブル(2)側に設けた滑り防止部(5c)を前記テーブル(2)で支持したワーク(W)に対して接触させる接触ステップと、
前記滑り防止部(5c)を前記ワーク(W)に接触させた状態で前記テーブル(2)を移動するテーブル移動ステップと、
を含むことを特徴とするワーク移送方法である。
2) 前記ワーク(W)を前記テーブル(2)に設けたブラシ(2e)を介して支持することを特徴とする1)に記載のワーク移送方法である。
3) 前記接触ステップを、前記テーブル(2)の速度又は加速度に応じて実行することを特徴とする1)又は2)に記載のワーク移送方法である。
4) 前記接触ステップを、前記テーブル(2)の速度(V)が0(ゼロ)の状態で実行することを特徴とする1)又は2)に記載のワーク移送方法である。
5) 前記ワーク(W)の前記テーブル(2)への搬入及び前記テーブル(2)からの搬出を行う際に、前記滑り防止部(5c)を前記ワーク(W)から離隔させておくことを特徴とする1)〜4)のいずれか一つに記載のワーク移送方法である。
6) 板状のワーク(W)を支持するワーク支持部(2s)を有するテーブル(2)と、前記テーブル(2)を移動させるテーブル駆動部(3)と、を備え、前記ワーク(W)を支持した前記テーブル(2)を前記テーブル駆動部(3)により移動させて前記ワーク(W)を移送するワーク移送装置であって、
前記テーブル(2)側に設けられ、前記テーブル(2)に支持された前記ワーク(W)に対し接離可能とされた滑り防止部(5c)と、
前記滑り防止部(5c)を前記テーブル(2)に支持された前記ワーク(W)に対して接離させる駆動部(5a)と、を備え、
前記滑り防止部(5c)は、前記駆動部(5a)の駆動により前記ワーク(W)に対し接触するよう構成されていることを特徴とするワーク移送装置(51)である。
7) 前記ワーク支持部(2s)は、ブラシ(2e)であることを特徴とする6)に記載のワーク移送装置(51)である。
8) 前記駆動部(5a)は、前記滑り防止部(5c)を前記ワーク(W)に接触させる駆動を、前記テーブル(2)の速度(V)又は加速度(α)に応じて行うよう構成されていることを特徴とする6)又は7)に記載のワーク移送装置(51)である。
9) 前記駆動部(5a)は、前記滑り防止部(5c)を前記ワーク(W)に接触させる駆動を、前記テーブル(2)の速度(V)が0(ゼロ)の状態で行うよう構成されていることを特徴とする6)又は7)に記載のワーク移送装置(51)である。
10) 前記ワーク(W)の前記テーブル(2)への搬入及び前記テーブル(2)からの搬出の際に、前記駆動部(5a)は、前記滑り防止部(5c)を前記ワーク(W)から離隔させるよう構成されていることを特徴とする6)〜9)のいずれか一つに記載のワーク移送装置(51)である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワークの所定距離の移送を、テーブルに対する位置ずれがなく短時間で行える、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のワーク移送装置の実施例を説明するための上面図である。
【図2】本発明のワーク移送装置の実施例及びそれを含むワーク移送システムについてのブロック図である。
【図3】本発明のワーク移送装置の実施例における縮位置を説明するための部分断面図である。
【図4】本発明のワーク移送装置の実施例における伸位置を説明するための部分断面図である。
【図5】本発明のワーク移送方法の実施例におけるシリンダの動作を説明するための図である。
【図6】本発明のワーク移送方法の実施例における動作例を説明するためのグラフである。
【図7】本発明のワーク移送方法の実施例における他の動作例を説明するためのグラフである。
【図8】本発明のワーク移送装置の実施例における変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図8を用いて説明する。
<実施例>
図1は、本発明のワーク移送装置の実施例であるワーク移送装置51を使用状態において上方からみた図である。この例で移送するワークWは板状の材料である。材質は例えば金属である。図2は、ワーク移送装置51を含むワーク移送システム51Sのブロック図である。図3及び図4は、図1におけるA−A位置での断面図であり、ワークWを含めて示されている。
ワーク移送装置51の上下左右前後の各方向は、図1,図3,及び図4に矢印をもって規定する。
【0012】
ワーク移送装置51は、予め設定されたパスラインに対応した高さをもって組立てられたフレーム体1と、フレーム体1によって前後方向(図1の矢印D1方向)に直線移動可能に支持されたテーブル2と、テーブル2を駆動するテーブル駆動部3と、を有して構成されている。
ワーク移送装置51は、テーブル2を<A位置>と<B位置>との間で直線移動するように構成されている。
また、図1には、便宜的に、<A位置>と<B位置>との両方にテーブル2があって、<B位置>におけるテーブルに左右方向幅Dw,奥行き方向幅DdなるワークWが載置された状態が示されている。
【0013】
オプションとして、移動途中のワークWに対してその上方から印字を可能とする例えばインクジェット方式の印字装置P1が併設される場合がある。
図1では、印字装置P1をフレーム体1の前後方向のほぼ中央に設けた例が示されている。
印字装置P1は、左右方向(図1の矢印D2方向)に延設されたレールP1aと、レールP1a上を移動可能とされたヘッドP1bと、ヘッドP1bを移動させるヘッド駆動部P1cと、を有して構成されている。
【0014】
テーブル駆動部3は、テーブル2をフレーム体1に対し<A位置>と<B位置>との間で前後方向に移動するようになっている。
テーブル2の<A位置>は、テーブル2に対して外部から搬入されたワークWが載置される位置であると共にテーブル2に載置されたワークWを外部へ搬出するためにテーブル2が静止状態となる位置である。
<A位置>でのワークWの搬入及び搬出は、図示しない搬入出装置が行う。図1では、矢印D3に示されるように、ワークWは左方から搬入され左方に向け搬出される例が示されている。搬入出装置は、例えば吸着部を備えたアームにより、搬入においては、ワークWを吸着しつつ別の場所からテーブル2上に載置し、搬出においては、テーブル2上からワークWを取り除き、別の場所へ移動させるよう構成されている。
【0015】
テーブル2の<B位置>は、テーブル2上に載置されているワークWを図示しない加工装置へ供給して加工を施すためのワークWの待機位置である。すなわち、テーブル2は<B位置>で静止状態となる。
<B位置>から加工装置へのワークWへの供給は、図示しない供給装置が行う。
加工装置は、例えばパンチプレスであり、ワークWに対し打ち抜き加工等を行う。
テーブル駆動部3及びヘッド駆動部P1cの駆動は、後述する制御部6により制御される。
【0016】
図1,図3,及び図4に示されるように、テーブル2は、パイプ状のパイプフレーム2aと、概ね平板状であって上下方向の凹凸形状を有して形成されたパネル2bと、パネル2bの凹部2b1に設けられた滑り防止装置5と、滑り防止装置5と干渉しないようにパネル2bの上方側に配設された植設パネル2dと、植設パネル2dに植設されたブラシ2eと、を有して構成されている。
詳しく説明すると、パイプフレーム2aは格子状に組まれ、パネル2bがパイプフレーム2a同士を連結すると共にパイプフレーム2a間の隙間を塞ぎ、さらに植設パネル2dがパネル2bを覆う、という構成になっている。また、いくつかのパネル2bは、複数の植設パネル2dにより覆われている。各部材同士は、主としてボルト及びナットの締結により一体化されている。
植設パネル2dには、左右方向及び前後方向にそれぞれ所定の間隔をあけて複数のブラシ2eが植設されている。ブラシ2eの単体は、金属に傷を付けにくい柔らかい繊維状材料の集合体として形成されている。繊維状材料の例はポリアミド系合成繊維である。
テーブル2に載置されたワークWは、図3及び図4に示されるように、複数のブラシ2eの上に載っている。すなわち、複数のブラシ2eによって支持されており、ブラシ2eはワークWを支持するワーク支持部2sとなっている。
【0017】
図1に例示されたテーブル2についてより具体的に説明すると、テーブル2を構成する複数のパイプフレーム2aは、矩形の外周枠GWとなっているパイプフレーム2a1〜2a4,外周枠GWで囲まれたエリアAR内に前後方向に延在してエリアARを左右方向に分割する三本のパイプフレーム2a5〜2a7,及びエリアAR内に左右方向に延在してエリアARを前後方向に分割する二本のパイプフレーム2a8,2a9である。
これら外周枠GW内に配設された五本のパイプフレーム2a5〜2a9により、エリアARは、十二のエリアAR1〜AR12に分割されている。
十二のエリアの内、エリアAR1,AR5,AR9,AR4,AR8,及びAR12には植設パネル2dが各一枚配設され、他のエリアには、植設パネル2dが各三枚配設されている。
また、エリアAR1,AR5,AR9,AR4,AR8,AR12の植設パネル2dと、植設パネル2dが各三枚配設されたエリアの内、エリアAR2,AR3,AR6,AR7,AR10,AR11における真ん中の植設パネル2dと、エリアAR10における左側の植設パネル2dには、中央部に孔2d1が形成されており、この孔2d1内に、凹部2b1に取り付けられた滑り防止装置5が入り込んでいる。
【0018】
次に、滑り防止装置5について図3及び図4を主に参照して詳述する。
滑り防止装置5は、ロッド5bを伸縮させるシリンダ5aと、ロッド5bの先端に取り付けられた滑り防止部5cと、を有して構成されている。
ロッド5b及び滑り防止部5cは、シリンダ5aの動作により、「伸位置」と「縮位置」との間で上下方向に移動するようになっている。
図3には、滑り防止装置5のロッド5bが「縮位置」で示され、図4には、滑り防止装置5のロッド5bが「伸位置」で示されている。
滑り防止部5cは、扁平の角柱状又は円柱状に形成されている。滑り防止装置5は、シリンダ5aの動作における「縮位置」で滑り防止部5cとワークWとが離隔し、「伸位置」において、滑り防止部5cの上面5c1がワークWの下面Wbに接触するようになっている。
「伸位置」の高さ位置は、滑り防止部5cがワークWの下面Wbに接触してもなおワークWがブラシ2eに支持されている位置に設定される。
換言するならば、ワークWがブラシ2eに支持される範囲内で、滑り防止部5cはワークWの下面Wbに接触すると共にワークWを上方に向け押し上げる。そして、その抗力によって摩擦力が発揮されるように「伸位置」及びブラシ2eの剛性等が設定されている。
滑り防止部5cは、少なくとも上面5c1を含む部位の材質が、ワークWの材質との関係において、静止摩擦係数がより大きいものに選定されている。例えば、ゴム材である。この材質は若干の粘着性を有するものであってもよい。
シリンダ5aの動作は、後述する制御部6により制御される。テーブル2にワークWが載置された際に、少なくともワークWに覆われる複数のシリンダ5aの動作が同期するように制御される。
【0019】
図2に示されるように、テーブル2のブラシ2e上にワークWが載置されているか否か、については、ワーク有無検出部7により検出される。ワーク有無検出部7は、ワークWの載置についての有無情報S1を制御部6に向け出力する。ワーク有無検出部7の構造等は限定されない。例えば、光電センサを利用することができる。
また、次手順が、ワークWがテーブル2に搬入される手順又はテーブル2から搬出される手順であるか否か、そうなる場合はいずれの手順になるか、については、ワーク搬入出制御部8(図2参照)からの搬入搬出情報S2として制御部6に供給される。
また、ワーク移送装置51全体の動作等の外部からの指示は、例えば、操作入力部9(図2参照)から作業者により制御部6に向け入力される。操作入力部9として、加工装置の操作盤や別に設置されたコンピュータの入力装置を適用してもよい。
【0020】
次に、テーブル駆動部3及び滑り防止装置5に対する制御部6の制御について、図5及び図6を主に参照して詳述する。
図5は、制御部6で制御する滑り防止装置5のシリンダ5aの動作及び非動作を、テーブル2上のワークWの有無と、テーブル2の状態モードであるワークWの搬出,搬入,及び移動の三つのモードと、によりマトリックス表示した図である。
制御部6は、ワークWの載置有無については、ワーク有無検出部7からの有無情報S1に基づいて判断し、ワークWの搬入搬出については、ワーク搬入出制御部8からの搬入搬出情報S2に基づいて判断する。
【0021】
テーブル2上にワークWが「有」の場合、ワーク搬入は行われない(図中斜線で表示)。ワーク搬出の際には、滑り防止部5cがワークWへ接触していると搬出抵抗となり得るので「縮位置」とする。移動モードでは「伸位置」とする。
テーブル上のワークが「無」の場合、ワーク搬入の際には、滑り防止部5cがワークWへ接触していると搬入抵抗となるので「縮位置」とする。ワーク搬出は行われず(図中斜線で表示)、また、移動モードでは「伸位置」とする。
ここで、ワークが「無」での移動モードは、ワークWが載置されていないので「縮位置」とするが、「伸位置」としても実質的に支障はない。図5では、「縮位置」も許容される意味で括弧付きとしている。
【0022】
図6(a)〜(c)は、テーブル2及び滑り防止装置5の動作についてのタイミングチャートである。詳しくは、図6(a)には、テーブル2の移動速度と時間との関係が示され、図6(b)には、テーブル2の移動速度に対するシリンダ5aの伸縮位置の基本設定例が示され、図6(c)には、テーブル2の移動速度に対するシリンダ5aの伸縮位置の別の設定例が示されている。
【0023】
図6(a)は、テーブル2の移動速度の設定例である。縦軸が速度Vで横軸が時間tである。この例は、時間t1〜t4の移動(以下、移動Iと称する)と、移動Iに対して独立した時間t5〜時間t7の移動(以下、移動IIと称する)とを、直列的に行うものである。
移動Iは、時間t1〜t2を加速度一定で増速し、時間t2〜t3を等速とし、時間t3〜t4を加速度一定で減速する移動パターンである。
移動IIは、等速部分がなく、時間t5〜t6を加速度一定で増速し、時間t6〜t7を加速度一定で減速する移動パターンである。
【0024】
これに対し、基本設定例は、図6(b)に示されるように、シリンダ5aのロッド5bを、テーブル2が移動Iを開始する時間t1よりも先の時間taにロッド5bを「伸位置」にし、移動IIが完了する時間t7よりも後の時間tbに「縮位置」にする。
また、別の設定例は、図6(c)に示されるように、シリンダ5aのロッド5bを、テーブル2が移動開始する時間t1よりも先の時間taにロッド5bを「伸位置」にし、移動Iが完了する時間t4よりも後の時間taeに「縮位置」とする。その後、テーブル2が移動IIを開始する時間t5よりも先の時間tbsにロッド5bを「伸位置」にし、移動IIが完了する時間t7よりも後の時間tbに「縮位置」にする。
【0025】
基本設定例は、テーブル2の移動が直列的に行われることが予め判明している場合に有効であり、ロッド5bの伸縮させる動作が一往復分少なく、時間短縮及び省エネルギ効果が得られると共に、ワークWのずれが生じる可能性をより少なくするものである。
時間taと時間t1との間隔,時間t4と時間taeとの間隔,時間tbsと時間t5との間隔,及び時間t7と時間tbとの間隔は、できるだけ短い方が好ましい。
これらの設定方法は、テーブル2が静止状態から移動状態へ状態遷移する時点(移動の開始時点)、又はテーブル2が移動状態から静止状態へ状態遷移する時点(移動の終了時点)に対応してシリンダ5aにおけるロッド5bの伸縮を制御する方法である。
さらに換言するならば、ロッド5bの伸縮を、テーブル2の速度Vに応じて制御するものである。上述の例は、速度Vが0(ゼロ)の状態でロッド5bの「伸位置」への移行及び「縮位置」への移行を実行するものである。
このロッド5bの「伸位置」及び「縮位置」への移行は、速度が0(ゼロ)の状態で実行するものに限らず、ワークWのテーブル2に対するずれが認められない程度の比較的低速の速度領域で実行するものであってもよい。
【0026】
図7(a)〜(c)は、テーブル2及び滑り防止装置5におけるシリンダ5aの動作の別のタイミングチャートである。詳しくは、図7(a)には、テーブル2の移動速度Vと時間tとの関係が、図7(b)には、テーブル2の加速度αと時間tとの関係が、図7(c)には、テーブル2の加速度αに対するロッド5bの伸縮位置の設定例が、示されている。図7(b)では、正の加速度が+α、負の加速度が−αとして示されている。
【0027】
図7(a)は、テーブル2の移動速度の別の設定例である。縦軸が速度Vで横軸が時間tである。この例は、図7(a)で示したものに類似した時間t1〜t4における移動Iと、移動Iとは独立した時間t5〜時間t10の別の移動(以下、移動IIIと称する)とを、直列的に行うものである。
移動Iは、時間t1〜t2を正の加速度一定(α1)で増速し、時間t2〜t3を等速とし、時間t3〜t4を負の加速度一定(−α2)で減速する移動パターンである。ここでは、α1<α2としてある。
移動IIIは、時間t5〜t7を加速度が線形増加するように増速し、時間t7〜t8を、加速度0(ゼロ)とした等速とし、時間t8〜時間t10を加速度が線形減少するように減速する移動パターンである。正の最大加速度をα3、負の最大加速度を−α4とし、α2<α3=α4としてある。
【0028】
ここでは更に、加速度αに対して閾値Sが設定されている。閾値Sは、例えば、α1<S<α2とされている。
この閾値Sよりも大きい加速度が生じている時間帯ではワークWの慣性に起因する滑りが生じ易くなるという判断から、制御部6は、加速度αが正の閾値S及び負の閾値−Sを越える時間範囲でロッド5bを伸状態とし、他の時間範囲で縮状態とする。
すなわち、図7(c)に示されるように、移動Iにおいて、制御部6は、シリンダ5aのロッド5bを、テーブル2の正の加速度が閾値Sを越えない時間t1〜t3で「縮位置」を維持し、負の加速度が閾値−Sを越える時間t3〜t4で「伸位置」とする。
また、移動IIIにおいて、制御部6は、ロッド5bを、テーブル2が速度増での移動状態である時間t5〜t7の内の、正の加速度が閾値Sを越える時間t6〜t7でロッド5dを「伸位置」とし、テーブル2が等速のt7〜t8において縮状態とし、テーブル2が減加速度での移動状態である時間t8〜t10の内の、負の加速度が閾値−Sを越える時間t8〜t9で「伸位置」とし、負の加速度が閾値−Sを越えない(ゼロに近い)時間t9〜t10で「縮位置」とする。
この設定方法は、テーブル2の移動状態における加速度αに対応してシリンダ5aにおけるロッド5bの伸縮を制御する方法である。より具体的には、例えば、正及び負の加速度が所定の値である閾値S及び閾値−Sを越えた際にロッド5bを伸状態へ移行させる。
制御部6は、加速度αを、テーブル2の動作速度と時間との関係から得る。また、テーブル2に加速度センサを設け、制御部6がその加速度センサの出力から加速度情報を得るように構成してもよい。
【0029】
加速度情報に基づいてシリンダ5aの動作を制御する場合、制御部6は、加速度αの程度に応じて、「伸位置」とする滑り防止装置5の数を制御することができる。
具体的には、必ずしもすべてのシリンダ5aの動作を同期させるのではなく、各シリンダ5aの動作を独立して制御し、加速度αが大きい程、「伸位置」とするロッド5bの本数を増やす。これは、ワークWのサイズによらず行ってよい。もちろん、ワークWのサイズに応じて、ワークWに覆われる複数の滑り防止装置5の中から適宜選択して伸縮動作させてもよい。
【0030】
テーブル2には、テーブル2を越えない種々のサイズのワークWが載置され得る。ワークWがいずれのサイズであっても、載置位置の基準となる基準隅部Kを設定しておくとよい。
図1及び図8において、基準隅部KはワークWの左前隅とテーブル2の左前隅とが対応するように設定されている。すなわち、テーブル2にワークWを載置する際には、ワークWの左前隅とテーブル2の左前隅との基準隅部Kが一致するように載置させる。
図1では、前後幅及び左右幅共に約1/3のワークW3(二点鎖線)が基準隅部Kを一致させて載置された例が示されている。
また、図8では、最大サイズのワークWに対し、それよりも小さい三種類のサイズのワークWs1〜Ws3が一点鎖線で記載されている。
図8に示されるように、基準隅部Kを設けた場合は、滑り防止装置5を、基準隅部Kを通る対角線Lt上又はその対角線Ltの近傍で、テーブル2のワーク載置面における他の部位よりも密になるように配置するとよい。
これにより、基準隅部Kを左前隅としてテーブル2に載置されたワークWに覆われる滑り防止装置5が、より多く存在するようになる。すなわち、複数の滑り防止装置5を高効率で稼働させることができる。
図1において、エリアAR10に他のエリアよりも多い三つの滑り防止装置5を配設してあるのは、テーブル2に基準隅部Kを合わせて小さいワークW3が載置されても、そのワークW3に対応した(覆われた)滑り防止装置5が存在するようにするためである。
【0031】
滑り防止装置5を設けたことで、滑り防止部5cがワークWの下面Wbに接触している状態、すなわち、ブラシ2eに加えて滑り防止部5cでも支持されている状態が得られる。この状態で、ワークWは、滑り防止部5cとの間で生じる摩擦力によって極めて滑り難くなっている。
すなわち、テーブル2が静止状態から移動状態に遷移する際の増速の加速度又は移動状態から静止状態に遷移する際の減速の加速度において、ワークWが滑りが生じ得る加速度が、ブラシ2eのみで支持されている場合に滑りが生じ得る加速度よりも遙かに大きい加速度となっている。
換言するならば、滑り防止装置5を設けたことで、テーブル2に支持されたワークWの位置ずれのない移送を、極めて高い加速度をもって行えるので、ワークWを、ずれがなく所定の距離移送させる時間が大幅に短縮する。
【0032】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【0033】
ワーク搬入出制御部8及び操作入力部9は、ワーク移送装置51に対して外部に備えられているものに限らず、ワーク移送装置51に含まれていてもよい。
滑り防止部5cの柱状形状は、円柱、角柱に限定されるものではない。楕円柱や異形柱など種々の形状にしてよい。また、楕円柱などの長手方向を有する形状の場合は、長手方向は、載置されるワークWの長手方向又はその滑り防止部5cと基準隅部Kとを通る直線に沿った方向であるとよい。
また、滑り防止部5cにおいて、ワークWに対する接触面である上面5c1は、それが滑らかな面である場合の静止摩擦係数よりも高い静止摩擦係数となる面であるとより良い。例えば梨地状の粗面、ローレット状の凹凸面などである。尚、この上面5c1の静止摩擦係数を高くする手法はこれらに限定されない。
実施例では、ロッド5bが「伸位置」にあってもワークWはブラシ2eに接触しているものを説明したが、ロッド5bの「伸位置」においてワークWがブラシ2eから離隔し、滑り防止部5cのみで支持されるよう構成してもよい。
また、実施例では、テーブル2の少なくとも静止状態でワークWがブラシ2eを介してテーブル2に支持されるものを説明したが、テーブル2にブラシ2eが植設されてなく、テーブル2の静止状態でワークWが直接テーブル2に支持される構成としてもよい。この場合のワーク支持部2sは、ワークWが載置されるテーブル2の上面となる。この場合は、ロッド5bの「伸位置」において、ワークWがテーブル2と離隔し、滑り防止部5cのみで支持されるようにするとよい。
ワーク支持部2sは、ブラシ2e以外にローラユニットやフリーボールベアリングであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 フレーム体
2 テーブル、2a,2a1〜2a9 パイプフレーム、2b パネル
2b1 凹部、2d 植設パネル、2e ブラシ、2s ワーク支持部
3 テーブル駆動部
5 滑り防止装置
5a シリンダ、5b ロッド、5c 滑り防止部、5c1 上面
6 制御部
7 ワーク有無検出部
8 ワーク搬入出制御部
9 操作入力部
51 ワーク移送装置、51S ワーク移送システム
AR,AR1〜AR12 エリア
Dh,Dw 幅
GW 外周枠
Lt 対角線
P1 印字装置、P1a レール、P1b ヘッド、P1c ヘッド駆動部
S1 (載置ワークの)有無情報、S2 搬入搬出情報
W,W3,Ws1〜Ws3 ワーク
Wb 下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブルで支持した板状のワークを、前記テーブルを移動することにより移送するワーク移送方法であって、
前記テーブル側に設けた滑り防止部を前記テーブルで支持したワークに対して接触させる接触ステップと、
前記滑り防止部を前記ワークに接触させた状態で前記テーブルを移動するテーブル移動ステップと、
を含むことを特徴とするワーク移送方法。
【請求項2】
前記ワークを前記テーブルに設けたブラシを介して支持することを特徴とする請求項1記載のワーク移送方法。
【請求項3】
前記接触ステップを、前記テーブルの速度又は加速度に応じて実行することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のワーク移送方法。
【請求項4】
前記接触ステップを、前記テーブルの速度が0(ゼロ)の状態で実行することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のワーク移送方法。
【請求項5】
前記ワークの前記テーブルへの搬入及び前記テーブルからの搬出を行う際に、前記滑り防止部を前記ワークから離隔させておくことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワーク移送方法。
【請求項6】
板状のワークを支持するワーク支持部を有するテーブルと、前記テーブルを移動させるテーブル駆動部と、を備え、前記ワークを支持した前記テーブルを前記テーブル駆動部により移動させて前記ワークを移送するワーク移送装置であって、
前記テーブル側に設けられ、前記テーブルに支持された前記ワークに対し接離可能とされた滑り防止部と、
前記滑り防止部を前記テーブルに支持された前記ワークに対して接離させる駆動部と、を備え、
前記滑り防止部は、前記駆動部の駆動により前記ワークに対し接触するよう構成されていることを特徴とするワーク移送装置。
【請求項7】
前記ワーク支持部は、ブラシであることを特徴とする請求項6記載のワーク移送装置。
【請求項8】
前記駆動部は、前記滑り防止部を前記ワークに接触させる駆動を、前記テーブルの速度又は加速度に応じて行うよう構成されていることを特徴とする請求項6又は請求項7記載のワーク移送装置。
【請求項9】
前記駆動部は、前記滑り防止部を前記ワークに接触させる駆動を、前記テーブルの速度が0(ゼロ)の状態で行うよう構成されていることを特徴とする請求項6又は請求項7記載のワーク移送装置。
【請求項10】
前記ワークの前記テーブルへの搬入及び前記テーブルからの搬出の際に、前記駆動部は、前記滑り防止部を前記ワークから離隔させるよう構成されていることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のワーク移送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91080(P2013−91080A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234973(P2011−234973)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(390014672)株式会社アマダ (548)