説明

一体型放射線遮蔽システム及びPETアイソトープ製造システムの放射線遮蔽シールド

【課題】安全な放射線環境を作り出すためのPETアイソトープ製造システム用の基本的な一体型放射線遮蔽を形成する装置を提供する。
【解決手段】PETアイソトープ製造用の一体型放射線遮蔽システムであって、サイクロトロン装置を収容する第1のコンパートメント7を含むメインボディを構成する放射線遮蔽ブロック1、2と、前記第1のコンパートメントを密閉された放射線遮蔽中に取り囲むための閉鎖ドアを構成する放射線遮蔽ブロック3、4と、液体ターゲット用の液体供給システムを収容するサブコンパートメントを含む第2のコンパートメント9と、2次冷却システムを収容するサブコンパートメントを含む第3のコンパートメント16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソトープの製造に係り、特に、PETアイソトープ製造システム用の一体型放射線遮蔽の独特な設計に関する。
【背景技術】
【0002】
PET(陽電子放出トモグラフィ)アイソトープ製造システムは、幾つかのサブシステム及び機能を有する複雑なシステムである。このシステムは、放射性トレーサを製造するため、放射能、特に、放射線障害に関する多くの規制に調和させる必要がある。顧客(例えばセットアップ及び試運転期間の間、何人かの請負人と共に働く病院)は、十分な耐床荷重(重い設備)を有する必要な空間、電力、一次冷却水、ガス供給、換気、圧縮空気、ドレイン等のPETアイソトープ製造システムのための全ての要求を満足する設備を提供する必要がある。顧客は、更に、放射性トレーサの準備のために必要なラボラトリを準備したり、将来の活動のためのスタッフを訓練したり等する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、PETアイソトープトレーサの新しい製造設備を準備する際には、多くの仕事が必要である。それらはプロジェクトの準備及び実現のための予算超過や時間ロスに容易につながり、その結果、顧客及び販売者の両方に望ましからざる衝撃をもたらすかもしれない。
【0004】
従って、製品をできる限り少数の主要構成部品で構成すべき要請がある。即ち、システムの一体化の程度が高いほど、設備の計画が容易になる。顧客は、届けられるシステムの全体像を迅速に理解することができ、PETアイソトープ製造システムと顧客自体の設備間の取り合いの数も限定される。このような考え方の更に優れた点は、顧客が変わっても製品の据付けがほとんど同一であり、製品ドキュメント、アップグレード、スペアパーツの取り扱い及び他のアフターサービス活動が、より効率的になり、全ての当事者にとって有益である。
【0005】
本発明は、安全な放射線環境を作り出すためのPETアイソトープ製造用サイクロトロンのための基本的な一体型放射線遮蔽機能を形成する装置及びシステムを提供することを課題とする。この装置及びシステムは、更に、幾つかのサブシステムと組み合わされ、高度に一体化された素敵な美的印象のデザインを有するものとなる。
【0006】
本発明の第1の目的は、例えば短寿命アイソトープの形で放射性トレーサを利用する通常の病院で十分に利用可能な床面積で運転するのに適した、限定された大きさを有する単一のユニットを呈するPETアイソトープ製造システム用の放射線シールドを作り出すことにある。
【0007】
本発明の他の目的は、時代を超えて美的なデザインを呈する放射線シールドのデザインを達成することにある。従って、放射線シールド及びその一体化されたサブシステムは、注意深く形付けられた、完全な望ましい放射線保護シールドを与えるシェル中に収容される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、PETアイソトープ製造用の一体型放射線遮蔽システムであって、サイクロトロン装置を収容する第1のコンパートメントを含むメインボディを構成する放射線遮蔽ブロックと、前記第1のコンパートメントを密閉された放射線遮蔽中に取り囲むための閉鎖ドアを構成する放射線遮蔽ブロックと、液体ターゲット用の液体供給システムを収容するサブコンパートメントを含む第2のサブコンパートメントと、2次冷却システムを収容するサブコンパートメントを含む第3のコンパートメントと、を備えるようにして、前記課題を解決したものである。
【0009】
ここで、前記第1のコンパートメントには、更に真空ポンプシステム、ターゲット、ターゲット支持システム、冷却水システム及びターゲット窓冷却システムを収容することができる。
【0010】
本発明は、又、PETアイソトープ製造システムの放射線遮蔽シールドであって、サイクロトロン装置を収容する第1のコンパートメントを含むメインボディを構成する放射線遮蔽ブロックと、前記第1のコンパートメントを密閉された放射線遮蔽中に取り囲むための閉鎖ドアを構成する放射線遮蔽ブロックと、を備えたことを特徴とするPETアイソトープ製造システムの放射線遮蔽シールドを提供するものである。
【0011】
ここで、前記各ブロックには、持ち上げ及び移動用の吊具を備えることができる。
【0012】
又、前記閉鎖ドアを構成する放射線遮蔽ブロックには、各々を持ち上げるに十分な重量物用ヒンジを固定的にモールドすることができる。
【0013】
又、前記ヒンジを全方向に調整可能とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により開示された装置は、PETアイソトープ製造用の一体型密閉耐放射線システムを構成し、これは、医療診断目的用の短寿命放射線トレーサを容易に得られるようにするため、主な病院内に容易に収容される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1−6により、本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態は、サイクロトロン一体型放射線シールドを形成する。
【0016】
本発明による装置の全体図は図1に示されており、合計4つのモールドされたブロック、即ち、2つの固定ブロック(第1のブロック)1及び固定ブロック(第2のブロック)2と、ドアを形成する2つの追加の可動ブロック(第3のブロック)3及び可動ブロック(第4のブロック)4からなる。PETアイソトープ製造システムの据付けは、通常、かなり重いサイクロトロン装置の組立調整作業を含む。ドアを構成する追加の放射線遮蔽ブロック3及び4は、単純な方法で動かす、即ち開くことができるので、PETアイソトープ製造システムに迅速にアクセスし、サービスを効率的に行うことができる。
【0017】
マッチキャスティング(match casting)技術により、ブロック間の立付けは、ほぼ完全となる。即ち、ぴったりした鋳造公差により、隙間がなく、床面に対して密着配置できる。遮蔽ブロックの組立アライメントに時間がかからないようにすることは、PETアイソトープ製造システムを据え付けるときに価値がある。
【0018】
放射線シールドを簡単に開けることができるようにするため、図3及び4に示されるドアを構成するブロック3及び4は、このブロック3及び4の重量負荷を持ち上げるに十分な重量物用ヒンジ上に設けられている。好適な実施例における、そのようなドアブロックは、7−8トンのオーダーの重さを有し、従って、放射線シールド全体は、10m3の特殊コンクリートに対応する重量になる。対応する各ブロック1及び2は、10−11トンの重さとなる。各ヒンジ5の部分は、放射線シールドを構成するコンクリートからなるブロック中に固定的にモールドされており、これにより、時間をかけて調整する必要性を無くしている。即ち、ヒンジは、実際、シールドの一体部品となっている。
【0019】
更に、これらのドア3、4は、わずかな力でドアを動かすことができるように、ほぼ摩擦が零となるヒンジ5中のローラベアリングによって支持される。これは、起こり得る挟まれ事故の場合にも有効である。更に、ヒンジ5は、全方向に調整可能であり、サイクロトロン装置を格納するケーシングが、放射能を漏洩させず、ほぼ気密な構造とするために、全ての必要な最終的な微調整を可能としている。
【0020】
本発明によるケーシングは、この一体型放射線シールドの据付けのために床にピットを設ける必要がない。使用者は、既に存在する床面を使用可能であり、ケーブルダクト、放射線シールドのレール及び駆動システムに必要な、時間のかかる予備設計及び、床表面のやり直しが不要である。一体型放射線シールドを据え付ける前に、床表面を、完全に平坦に且つ水平にし、一晩の硬化後に使用可能な自己レベリングタイプの低粘度樹脂によって処理することが望ましい。ブロック2の上には、外部に設置された回路への配線のための多数の取入れ開口が設けられている。
【0021】
各放射線遮蔽ブロック及びサイクロトロン装置には、据付け時にこれらの重量物の持ち上げ及び移動を迅速且つ容易にする油圧ジャッキローラ用の吊具が備えられている。
【0022】
放射線シールドは、該シールドの放射線減衰特性及び体積/重量比をバランスさせるように特別に設計された高密度のコンクリート(dense concrete)で出来ている。重量バラストは、良好なγ線減衰のために主に鉄鉱が用いられ、中性子線放射線の減衰容量を強化するためにボロン及び水素成分が添加されている。好適な実施例では、放射線シールドは、放射線防護のために25kg/m3のオーダーの水素質量と、5−10kg/m3の純ボロンを有し、最終密度が3.5のオーダーになるようにマグネタイト(黒鉱Fe34)によって密度が最大化されている。
【0023】
更に、ターゲットは、PEプラスチック及び鉛(Pb)を含むサンドイッチ型のシールドによって囲まれている。最終的に放射線シールドは、実質的に気密容器とされ、これにより、内側システムから放射能が偶発的にケーシングの外側に漏洩するのを防ぎ、システムが動作している部屋の中に低放射線環境を作り出す。(規制により必要であれば)シールド内を低圧とするための接続部も容易に与えられる。放射線シールドの内側システムを冷却する目的のためのシールド外側の周囲の空気からの空気循環も不要であり、更に、ケーシングの外部環境での放射線障害の危険性を非常に低い状態に維持するのを助ける。
【0024】
放射線シールドの内側には、イオン源、高周波電極システム及びビーム引出エレメントのような装置内部のサブシステム、及び、真空箱及びポンプ、冷却水を備えたターゲット、及び、ターゲット窓冷却装置のような、外付けのサブシステムを有するサイクロトロンを収容するメインコンパートメント(第1のコンパートメント)7がある。サイクロトロンのメンテナンスを容易にするために、その磁石コイル及び磁極は、イオンビームの加速面が垂直となるように位置されている。この設計及び可動ブロック3及び4により、サイクロトロンの真空箱は、イオンビームの加速空間を形成するように近接して配置された電磁石の磁極、及び、他の内部サブシステムを含む装置内部へのアクセスを容易とするために、この垂直面内で分離することもできる。このサイクロトロンは、特に、医療用途のための短寿命放射性診断用トレーサの製造のために用いられる水素の陰イオンビームを加速するために設計されている。放射線シールド内には、更に、図2に示すように、コンクリート部分1内に位置する廃ガス遅延ライン8も一体化されて設けられている。これは、廃ガス遅延ライン8内に導入される可能性のある放射性物質からコンクリートが完全に放射線を遮蔽するように、コンクリート中に埋め込まれた長いプラスチック管からなる。
【0025】
コンクリートケーシング部分1の左側には、更に第2のコンパートメント9(図1及び5参照)が設けられている。このコンパートメント9は、気体ターゲット(例えば11C及び15Oアイソトープ)用の、バルブ及び圧力計からなるターゲット媒体取扱部を収容する第1のサブコンパートメント10、液体ターゲット(例えば13N及び15Fアイソトープ)のための液体供給システムを収容する第2のサブコンパートメント11、15Oトレーサ用の処理システムを収容する第3のサブコンパートメント12及び11Cトレーサ用の処理システムを収容する第4のサブコンパートメント14を提供する。この第2のコンパートメント9は、更に、15O処理システムを取り囲む鉛の第1の放射線シールド13、及び、11C処理システム用の同様な鉛の第2の放射線シールド15を含んでいる。鉛シールド13、15には、ガス処理システムへのアクセスを容易とするために、ヒンジによって支持されたドアが設けられている。
【0026】
ケーシングの右側には、更に、2次冷却システム17、電力供給部18、真空システムコントローラ19及びイオンガス源コントローラ20を含む第3のコンパートメント16(図1及び6参照)がある。
【0027】
更に、前記4つの部分1−4によって作り出される放射線シールドの上には、ドアを動かすためのシールド面駆動モータや、例えば「磁場発生中」、「ビーム発生中」を示す警告表示等が配置されている。
【産業上の利用可能性】
【0028】
ここに開示したシステムの第1の効果は、設置場所用の設備として容易に適用されるコンパクトな自立型耐放射線ケーシングの設計にある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】PETアイソトープ製造用のシステムを収容する装置の斜視図
【図2】図1の装置及びシステムの正面図
【図3】図1の装置及びシステムの上面図
【図4】図3において、装置及びシステムの放射線遮蔽ドアが、内蔵されたサイクロトロン加速器に容易にアクセスできるように開かれた状態を示す図面
【図5】図1の装置及びシステムの左側面図
【図6】図1の装置及びシステムの右側面図
【符号の説明】
【0030】
1、2、3、4…ブロック
5…ヒンジ
7、9、16…コンパートメント
8…廃ガス遅延ライン
10、11、12、14…サブコンパートメント
13、15…放射線シールド
17…2次冷却システム
18…電力供給部
19…真空システムコントローラ
20…イオン源ガスコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PETアイソトープ製造用の一体型放射線遮蔽システムであって、
サイクロトロン装置を収容する第1のコンパートメントを含むメインボディを構成する放射線遮蔽ブロックと、
前記第1のコンパートメントを密閉された放射線遮蔽中に取り囲むための閉鎖ドアを構成する放射線遮蔽ブロックと、
液体ターゲット用の液体供給システムを収容するサブコンパートメントを含む第2のコンパートメントと、
2次冷却システムを収容するサブコンパートメントを含む第3のコンパートメントと、を備えたことを特徴とする一体型放射線遮蔽システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のコンパートメントには、更に真空ポンプシステム、ターゲット、ターゲット支持システム、冷却水システム及びターゲット窓冷却システムが収容されることを特徴とする一体型放射線遮蔽システム。
【請求項3】
PETアイソトープ製造システムの放射線遮蔽シールドであって、
サイクロトロン装置を収容する第1のコンパートメントを含むメインボディを構成する放射線遮蔽ブロックと、
前記第1のコンパートメントを密閉された放射線遮蔽中に取り囲むための閉鎖ドアを構成する放射線遮蔽ブロックと、
を備えたことを特徴とするPETアイソトープ製造システムの放射線遮蔽シールド。
【請求項4】
請求項3において、
前記各ブロックには、持ち上げ及び移動用の吊具が備えられていることを特徴とするPETアイソトープ製造システムの放射線遮蔽シールド。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記閉鎖ドアを構成する放射線遮蔽ブロックには、各々を持ち上げるに十分な重量物用ヒンジが固定的にモールドされていることを特徴とするPETアイソトープ製造システムの放射線遮蔽シールド。
【請求項6】
請求項5において、
前記ヒンジは全方向に調整可能であることを特徴とするPETアイソトープ製造システムの放射線遮蔽シールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−53213(P2009−53213A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312841(P2008−312841)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【分割の表示】特願平11−229661の分割
【原出願日】平成11年8月16日(1999.8.16)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)