説明

一倍体接合方法を用いた酵母におけるヘテロ多量体のポリペプチド類の合成方法

【課題】接合形質転換受容体における組み換えヘテロ多量体たんぱく質群の合成および分泌用の方法を提供する。
【解決手段】最初の発現ベクターを最初の一倍体細胞中に形質転換し;そして別の発現ベクターを別の一倍体細胞中に形質転換する。それぞれが別々に非同一ポリペプチド群を合成する形質転換一倍体細胞群を同定し、その後遺伝的に接合または融合した。得られた二倍体菌株群を用いて、完全に組立てられそして生物機能的なヘテロ多量体たんぱく質を産生し、分泌させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一倍体接合方法を用いた酵母におけるヘテロ多量体のポリペプチド類の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
組み換えたんぱく質生産は、高速大量処理スクリーニング、機能性の検証、構造生物学および医薬ポリペプチド類の生産にとっては必須な活動である。Escherichia coli(大腸菌)は、低価格の基質において高細胞密度まで容易に増殖し、確立した遺伝手法および発現ベクター類を有するので、異種性たんぱく質の発現に広く使用される生物である。しかしながら、大腸菌は活性な生物分子を効率的に生産するには必ずしも十分ではない。生物的活性であるためには、ポリペプチド鎖はジスルフィド結合群の適切な形成を含めて正確に生来の三次元構造に折り畳まれていなければならず、複数の鎖の正確な会合を更に必要とする。
【0003】
当該たんぱく質の活性状態は熱力学的に有利に働くが、折り畳みについての時間スケールはミリ秒から数日の間で変化しうる。例えば、サブユニットおよびサブドメインの整列化に対する必要により動力学的障害が起こる。そして特に真核生物のたんぱく質では正確に折り畳まれたたんぱく質を形成するために共有反応が起こらなければならない。後者の型の反応にはジスルフィド結合形成、プロリンペプチド結合周辺のポリペプチド鎖のシス/トランス異性化、たんぱく質前駆体のプロセシングおよび補欠分子族の連結反応が含まれる。これらの動力学的制限で、自己会合および凝集体の形成を促進する露出した疎水性の‘粘着性’表面群を含有し部分的に折り畳まれた中間体の蓄積という結果を生じうる。
【0004】
抗体群は四量体たんぱく質で、臨床診断および治療において多くの用途を有している。各抗体四量体は2つの同一軽鎖および2つの同一重鎖から構成されている。ある特定型の純粋な純ヒトまたはヒト化抗体群を天然源から多くの目的に対して十分な量を精製するのは難しい或いは不可能である。結局、バイオテクノロジーおよび製薬の会社は、大規模にそれらを調製するために組み換えDNAに基づく方法に転換した。機能性抗体の生産には当該2つのポリペプチド類の合成だけでなく、N−末端分泌シグナル配列のたんぱく質分解プロセシング;適切な折り畳みおよび四量体へのポリペプチド類の組立;ジスルフィド結合の形成;および特異的なN−結合糖鎖形成を含む多くの翻訳後の修飾も必要とする。全てのこれらの現象は真核細胞の分泌経路、真核細胞に独特な細胞小器官複合体において起こる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような複合体たんぱく質の組み換え合成は、これまで生物的活性物質用のより高等な真核組織培養に基づくシステムに依存しなければならなかった。しかしながら、哺乳類の組織培養に基づく生産システムは著しく費用がかかり、微生物培養法に比べて複雑である。加えて、動物副産物から由来する物質を用いて生産される治療用生産物に関しては問題があり続ける。
【0006】
真核生物としてPichia pastorisは、たんぱく質プロセシング、たんぱく質折り畳みおよび翻訳後の修飾のような高等真核発現システムの多くの利点を有し、一方E.coliまたはSaccharomyces cerevisiae(出芽酵母)のようなものと同じく扱いが容易である。バキュロウイルスまたは哺乳類組織培養などのような他の真核発現システムを使用するより迅速、容易で安価であり、一般的により高度な発現レベルを与える。酵母としては、Pichia pastorisはSaccharomycesとともに分子的および遺伝的取扱いでの利点を共有する。これらの特徴がたんぱく質発現システムとしてPichiaを非常に有用なものとしている。
【0007】
Saccharomycesについて開発した多くの手法がPichiaに適用できる。これらには相補性;遺伝子破壊および遺伝子置換による形質転換が含まれる。加えて、Saccharomycesに使用された遺伝子命名法がPichiaに適用された。SaccharomycesおよびPichiaの両方中の遺伝子産物間での交雑相補性もある。Saccharomycesからの幾つかの野生型遺伝子はPichia中の同等な突然変異遺伝子を補完する。
【0008】
Pichia pastorisにおける異種発現は細胞内または分泌のどちらでありうる。分泌は発現たんぱく質上に分泌経路を標的とするシグナル配列の存在が必要である。幾つかの異種たんぱく質の上に存在する生来の分泌シグナルを含む幾つかの異なる分泌シグナル配列群の使用では成功したが、成功は変動しやすかった。異種たんぱく質の分泌での起こりうる利点は、Pichia pastorisが非常に少量でしか生来のたんぱく質を分泌しないことである。これは、最小Pichia生育培地での非常に少量のたんぱく質と相まって、培地中の全たんぱく質の圧倒的多くが当該分泌異種たんぱく質になるので、当該たんぱく質の精製における最初の工程として役立つことを意味する。
【0009】
Pichiaを含んだ多くの種の酵母は接合形質転換受容性である。これが2つの別々の一倍体菌株を自然に接合させることができ、2種の染色体複製物を保有する二倍体種を生み出すことを可能とする。
【0010】
P.pastorisは種々の異種たんぱく質、例えばB型肝炎表面の抗原(Cregg et al.(1987)Bio/Technology 5:479)、リゾチームおよびインベルターゼ(Digan et al.(1988)Dev.Indust.MIcro.29:59;Tschopp et al.(1987)Bio/Technology 5:1305)の生産に用いて成功したが、他の異種遺伝子生産物をPichiaにて、特に分泌で製造する試みでは良否が混ざった結果を与えた。当該P.pastoris発現システムに関する理解の現在のレベルでは、与えられた遺伝子がこの酵母において相当なレベルまで発現できるか、またはPichiaがその細胞の中に組み換え遺伝子産物の存在を許容するかどうかは予知できない。更に、P.pastorisによりある特定のたんぱく質が分泌されるか、または分泌されてもどの程度の効率であるかを予知するのは特に困難である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はPichia種を含んだ形質転換受容性酵母の接合から異種のヘテロ多量体分泌のための改良された方法を提供する。
【0012】
発明の概要)
形質転換受容性酵母を接合することで組み換えヘテロ多量体たんぱく質群の合成と分泌するための方法が提供される。関心のあるヘテロ多量体たんぱく質群は少なくとも2種の非同一ポリペプチド鎖群、例えば抗体の重鎖および軽鎖群、MHCのアルファおよびベータ鎖群などを含む。発現ベクターは各非同一ポリペプチド鎖用に提供される。
【0013】
各発現ベクターは一倍体酵母細胞中に形質転換される。本発明の幾つかの実施形態では、当該一倍体酵母細胞は遺伝的に標識され、そこでは当該一倍体酵母細胞は相補的対の1つである。最初の発現ベクターは1つの一倍体細胞中に形質転換され、別の発現ベクターは別の一倍体細胞に形質転換される。当該一倍体細胞群を接合させる場合、これは直接的遺伝子の融合によるか、同じ現象をスフェロプラスト融合により誘導する。
【0014】
当該一倍体細胞群での非同一ポリペプチドの発現レベルは適切な選択、ベクター複製物数、プロモーター強度および/または誘導などにより個々測定され調整される。本発明の1つの実施形態においては、各発現ベクターのプロモーターは異なる。本発明の他の実施形態では、同じプロモーターがそれぞれに供される。プロモーター群は構成的または誘導性でありうる。
【0015】
各々が個々に非同一ポリペプチドを合成する形質転換した一倍体細胞は同定され、その後遺伝的に交雑されるか融合される。得られた二倍体菌株は完全に組み立てられ生物的に機能的なヘテロ多量体たんぱく質を生産し分泌するのに使用される。当該二倍体方法論は全長生成物の産生および分泌を強化するための適正化サブユニット対形成を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A−D】組み立てた全長組み換え抗体の産生。免疫ブロット検出方法論を使用して、それぞれが当該抗体のサブユニットを産生する親一倍体Pichia菌株および完全に組み立てられた抗体を形成する両サブユニットを産生する標的二倍体菌株の特性を示した。図1Aに示した酵母菌株群は代表的菌株群のそれぞれの静置培養を示し、上部はそれぞれ重鎖(H)および軽鎖(L)サブユニットを含有している別々の一倍体菌株群であり;下部は両方のサブユニットを産生している接合した安定二倍体である。図1Bは当該親のH鎖一倍体のみで見出されるH鎖およびHおよびL鎖の両方を含有している接合二倍体の選択的検出を示している。図1CはHおよびL鎖の一般的検出を示しており、たんぱく質産生が全ての3菌株で盛んであることを立証している。図1Dは正確に組み立てられた全抗体の二倍体菌株における選択的検出を示し、当該二倍体システムのみが完全組立抗体を産生できることが確認される。
【図2】Picchia pastorisにおける全長抗体の産生。全長抗体の異種発現は二倍体Pichia pastoris菌株を用いて行った。出された抗体たんぱく質はたんぱく質Aアフィニティークロマトグラフィーを用いて馴化培地から単離した。ピーク画分の一定分量を示した。当該ヒトIgG標準品は精製して貯めたヒトIgGから得られた。
【図3】組み立てた抗体を検出し、巧みに処理して全長マウス/ヒトキメラ抗体を産生させた二倍体Pichia pastoris菌株のサブクローン群から得た培地上澄液で特徴付けを行った。マイクロタイタープレート群を抗ヒトFc選択的抗体群で被覆して当該培養培地から抗体を捕捉した。正確に組み立てた抗体を、対形成重鎖CH1およびκ軽鎖の定常領域を認識するヒト選択的(Fab')2を用いて検出した。分かっている培地の連続希釈物を当該プレートに適用した。現像は標準ELISA可視化法による。検出は、mlg標準品においてはいかなる検出可能なシグナルもないことで示されるように選択的である。
【図4】Jurkat T細胞とともに伝統的な哺乳類由来抗体を含有しているPichia産生組み換え抗体菌株CD3。Jurkat T細胞をガラススライド上に固定化し、染色を酵母および哺乳類細胞群中に産生した抗CD3抗体を用いて行った。検出はビオチン化抱合抗げっ歯類二次抗体を用いて行い、HRP‐ストレプトアビジン誘導体で現像する。当該画像群は各組み換え抗体で処理したスライドの代表的領域である。バックグランドは現像用の対照であり、一次抗CD3抗体なしで行う。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態の詳細な説明)
組み換えヘテロ多量体たんぱく質は接合形質転換受容性酵母の二倍体菌株から分泌される。遺伝的に標識した酵母一倍体細胞の対はヘテロ多量体たんぱく質のサブユニットを含む発現ベクター群により形質転換される。1個の一倍体細胞は最初の発現ベクターを含み、別の一倍体細胞は別の発現ベクターを含む。場合によりヘテロ三量体、ヘテロ四量体などの合成のために、更なる発現ベクターを一倍体または二倍体細胞に導入してもよいし;或いは当該最初または別の発現ベクターは更なるコード配列群を含むことができる。非同一ポリペプチドの発現レベルは適当な選択、ベクター複製物数、プロモーターの強さおよび/または誘導などにより個々に較正され、調整される。当該形質転換した一倍体細胞群は遺伝的に交雑させるか融合させる。得られた二倍体または四倍体菌株は完全に組み立てられそして生物的機能性ヘテロ多量体たんぱく質を産生し、分泌するために利用される。
【0018】
たんぱく質産生の際に二倍体または四倍体細胞群を利用すると思いがけない利益をもたらす。当該細胞群は生産の目的、即ちスケールアップ、および一倍体細胞の増殖では害となりうる条件下で長期間増殖させることができるが、その条件には高細胞密度;最小培地での増殖;低温度での増殖;選択圧なしでの安定増殖が含まれ、それは異種遺伝子配列の完全性の保持および長時間で高レベル発現の維持を提供する。これらの利点は少なくとも部分的には2種の別々な親の一倍体菌株からの二倍体菌株の創出により生じる。当該一倍体菌株群は多くの微量な独立栄養性突然変異を含むことができ、その突然変異は高度に選択的条件の下で増殖させることができる二倍体または四倍体において補完される。
【0019】
(定義)
本発明は特定の方法論、手順、細胞菌株、動物種または属および記載した試薬に限られることはなく、変化してもよいと理解すべきものである。また本明細書で使用される専門用語は説明する特定の実施形態のみを説明する目的のためで、本発明の目的を制限する意図は無く、本発明は添付した請求項のみに制限されるであろう。
【0020】
本明細書で使用するように、単数の形式“a”、“and”および“the”には文脈が明確に他であると指示がなければ複数の指示対象が含まれる。そこで、例えば“a cell”に関しては当該細胞の複数が含まれ、“the protein”に関しては1個以上のたんぱく質および当技術分野の当事者であれば知っている同等物が含まれる等である。本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、明らかに他であると示さなければ当技術分野の当事者が通常理解するものと同じ意味を有している。
【0021】
接合形質転換受容性酵母種 当該酵母種は一倍体および二倍体の形態で存在する。当該二倍体細胞群は、適切な条件下では無制限の世代数につき二倍体形態で増殖する。二倍体細胞群は胞子を形成して一倍体細胞を形成することもできる。加えて、連続的な接合は更なる栄養要求性二倍体の接合を介して四倍体菌株を生じることもできる。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、接合形質転換受容性酵母は、属としてArixiozyma;Ascobotryozyma;Citeromyces;Debaryomyces;Dekkera;Eremothecium;Issatchenkia;Kazachstania;Kluyveromyces;Kodamaea;Lodderomyces;Pachysolen;Pichia;Saccharomyces;Saturnispora;Tetrapisispora;Torulaspora;WilliopsisおよびZygosaccharomycesが含まれるSaccharomycetaceae科の一員である。
【0023】
属Pichiaは特に重要である。Pichiaは、種としてPichia pastoris、Pichia methanolicaおよびHansenula polymorpha(Pichia angusta)を含んだ多くの種を含む。属Pichia pastorisが最も好ましい。
【0024】
一倍体酵母細胞:細胞の通常ゲノム(染色体の)相補体の各遺伝子につき単一複製物を有する細胞。
【0025】
二倍体酵母細胞:細胞の通常ゲノム相補体の全遺伝子につき2つの複製物(対立遺伝子)を有する細胞で、典型的には2つの一倍体細胞の融合(接合)の処理により形成される。
【0026】
四倍体酵母細胞:細胞の通常ゲノム相補体の全遺伝子につき4つの複製物(対立遺伝子)を有する細胞で、典型的には2つの一倍体細胞の融合(接合)の処理により形成される。四倍体は2,3または4個の異なるカセットを有している。当該四倍体はS.cerevisiaeではホモ接合性雌雄異型a/aおよびα/α二倍体の選択的接合により、およびPichiaでは一倍体の連続的接合により栄養要求性二倍体を得ることで得られる。例えば、[met his]一倍体は[ade his]一倍体と接合できると二倍体[his]を得る;そして[met arg]一倍体は[ade arg]一倍体と接合できると二倍体[arg]を得て;その後当該二倍体[his]×二倍体[arg]で四倍体の原栄養体を得る。当技術分野の当事者であれば二倍体細胞の利点および用途は四倍体細胞にも適用できることが理解されるであろう。
【0027】
酵母接合:2つの一倍体酵母細胞が自然に融合して1つの二倍体酵母細胞を形成する工程。
【0028】
減数分裂:二倍体酵母細胞が減少的分裂を起こして4つの一倍体胞子生成物を形成する工程。各胞子はその後出芽して、一倍体植物成長株細胞を形成する。
【0029】
選択可能な標識:選択可能な標識は遺伝子または遺伝子断片で、それは増殖表現型(個体増殖特性)を、例えば形質転換現象を通してその遺伝子を受け取った細胞に授ける。当該選択可能標識はその細胞を生き残らせ、その選択可能標識遺伝子を受け取らない細胞は増殖できない条件下の選択的増殖培地にて増殖することを可能とする。選択可能な標識は一般的に幾つかの型に分類され、細胞に抗生物質又は他の薬剤に対する抵抗性、2個のts変異体を交雑または1個のts変異体を形質転換するときの温度に対する抵抗性を与える遺伝子のようなポジティブ選択可能標識遺伝子群;生合成遺伝子を持たない全ての細胞が必要とする特定の栄養素がない培地において成長する能力を細胞に与える生合成遺伝子、または野生型遺伝子をもたない細胞につき成長不能を与える突然変異生合成遺伝子のようなネガティブ選択可能遺伝子群などが含まれる。これに適合する標識には、これだけに限らないが:ZEO;G418;HIS5;LYS3;MET1;MET3a;ADE1;ADE3;URA3などが含まれる。
【0030】
発現ベクター:これらのDNA種は当該標的宿主細胞内の外来たんぱく質の表現に関して操作を容易にする要素を含有する。好都合なことに、形質転換用の配列の操作およびDNAの産生は始めに細菌宿主、例えばE.coliの中で行われ、通常ベクター群には複製の細菌源および適切な細菌の選択標識を含む操作を容易にする配列が含まれるであろう。選択可能標識は選択培養培地において増殖する形質転換した宿主細胞の生存または増殖に必要なたんぱく質をコード化する。当該選択遺伝子を含有するベクターで形質転換していない宿主細胞は当該培養培地では生存しないであろう。典型的選択遺伝子は(a)抗生物質または他の毒物への抵抗性を与え、(b)栄養要求性欠失を補完し、または(c)天然培地から得られない重要な栄養素を供給するたんぱく質をコード化している。
【0031】
本発明の方法にて使用する発現ベクター類には、形質転換した酵母菌株群を同定するための選択可能な栄養要求性または薬剤標識を含んでいる酵母特異な配列群を更に含んでいる。薬剤標識は酵母宿主細胞において当該ベクターの複製物数を増幅する為に更に使用できる。
【0032】
関心のあるポリペプチドコード配列は酵母細胞群中のポリペプチドの発現を提供する転写および翻訳の制御配列に作動可能に結合される。これらのベクター成分には、これだけに限らないが以下の1つ以上を含むことができる:エンハンサー要素、プロモーターおよび転写終結因子配列が含まれる。当該ペプチドの分泌用配列群には、例えばシグナル配列なども含むことができる。酵母の複製開始点は、発現ベクターがしばしば当該酵母のゲノム中に組み込まれるので任意的である。
【0033】
本発明の1つの実施形態では、酵母二倍体細胞群からポリペプチドの最適化分泌を供する配列群に関心あるポリペプチドが作動可能に結合されているか、または融合されている。
【0034】
核酸群は他の核酸配列と機能的関連で取り付けられるとき“作動可能に結合される”。例えば、ポリペプチドの分泌に関与するたんぱく質前駆体として発現されればシグナル配列用のDNAは当該ポリペプチド用のDNAへ使用できるよう結合されている;プロモーターまたはエンハンサーは、それが当該配列の転写に影響を与えればコード配列に使用できるよう結合されている。一般的に“作動可能に結合される”とは、結合されたDNA配列群が近接しており、分泌性リーダーの場合は近接していて読み取り相にある。しかしながら、エンハンサー類は近接していなければならいことはない。結合は都合の良い制限部位での連結或いはそれに代わるものとして当技術分野の当事者であれば知っているPCR/組み換え法(Gateway Technology;Invitrogen,Carlsbad California)により連結して完結する。そのような部位がない場合、従来のやり方に従い合成オリゴヌクレオチドアダプター群またはリンカー群が使用される。
【0035】
プロモーター類は、それらが作動可能に結合している特定の核酸配列の転写と翻訳を制御する構造遺伝子(一般的に約100から1000bp内)の開始コドンの上流(5')に位置している非翻訳配列である。そのようなプロモーター群は幾つかに分類される:誘導性、構成的およびリプレッサーの非存在に応じて転写のレベルを増加させる抑圧可能なプロモーター群である。誘導性プロモーター群は、例えば栄養の存在または非存在或いは温度の変化などの培養条件におけるある程度の変化に応じてそれらの制御のもとにDNAからの転写のレベル増加を開始することができる。
【0036】
当該酵母プロモーター断片は相同組み換え用および酵母ゲノムにおける同じ部位への発現ベクターの組み込みの部位としても役立つことができる;或いは選択可能標識は相同組み換え用の部位として使用される。Pichiaの形質転換はCregg et al.(1985)Mol.Cell.Biol.5:3376〜3385に記載されている。
【0037】
Pichiaからの適したプロモーター類の例には、AOX1 and プロモーター(Cregg et al.(1989)Mol.Cell.Biol.9:1316〜1323);ICL1 プロモーター(Menendez et al.(2003)Yeast 20(13):1097〜108);glyceraldehyde‐3‐phosphate dehydrogenase プロモーター(GAP)(Waterham et al.(1997)Gene 186(1):37〜44);およびFLD1 プロモーター(Shen et al.(1998)Gene 216(1):93〜102)が含まれる。当該GAPプロモーターは強力な構成的プロモーターで、当該AOXとFLD1プロモーターは誘導性である。
【0038】
関心のあるポリペプチド類は直接的に組み換えで産生されるばかりでなく、例えばシグナル配列或いは成熟たんぱく質かポリペプチドのN末端における特異な開裂部位を有する他のポリペプチドなどの異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとして産生される。一般的には、当該シグナル配列は当該ベクターの成分であってもよく、または当該ベクター中に挿入されたポリペプチドコード配列の一部であってもよい。選ばれた好ましい異種シグナル配列は、当該宿主細胞内で利用できる標準経路の1つにより認識され、処理されるものである。S.Cerevisiaeアルファ因子プロシグナル前駆体はP.pastorisからの種々な組み換えたんぱく質群の分泌について効果的であることが分かった。関心のある分泌シグナル群には哺乳類シグナル配列群も含まれ、それは分泌されるたんぱく質には異質であってもよく、分泌されるたんぱく質に対して生来の配列であってもよい。シグナル配列群にはペプチド前駆体配列群が含まれ、幾つかの場合ではペプチド前駆体配列群が含まれても良い。多くのこのようなシグナル配列群は当技術分野では知られており、免疫グロブリン鎖、例えばK28プロトキシン前駆体配列、PHA‐E、FACE、ヒトMCP‐1、ヒト血清アルブミンシグナル配列群、ヒトIg重鎖、ヒトIg軽鎖などで見出されたシグナル配列群を含む。例えば、Hashimoto et al.Protein Eng 11(2)75(1998)およびKobayashi et al.Therapeutic Apheresis 2(4)257(1998)を参照されたい。
【0039】
転写は転写活性化因子配列群を当該ベクターに挿入することで増加する。これらの活性化因子群はDNAのシス作用性要素で、通常は約10から300bpであり、プロモーターに作用してその転写を増加させる。転写エンハンサー群は比較的に配向および位置非依存的で、イントロン内と同様、コード配列それ自身内にて転写単位に対し5'および3'で見出されていた。当該エンハンサーは当該コード配列に対し5'および3'の位置で当該発現ベクター中にスプライシングされるが、好ましくは当該プロモーターからは5'の位置に位置する。
【0040】
真核宿主細胞で使用される発現ベクター群は、転写の終結および当該mRNAを安定化するのに必要な配列群も含有することができる。そのような配列群は真核またはウイルスDNA或いはcDNAの非翻訳領域において翻訳終結コドンに対して3'から通常利用できる。これらの領域は、当該mRNAの非翻訳部分においてポリアデニル化断片として転写されたヌクレオチドセグメントを含有する。
【0041】
上記成分の1つ以上を含有している適切なベクター群の作成では標準的連結手法またはPCR/組み換え方法を使用する。単離したプラスミド類またはDNA断片群を必要なプラスミド類を産生するのに望ましい形で、或いは組み換え方法で切断し、仕立てそして再連結する。作成されたプラスミド群中の正確な配列を確認する分析のために、当該連結混合物を用いて宿主細胞を形質転換し、そして適した抗生物質抵抗性(例えば、アンピシリンまたはゼオシン)で成功した形質転換体群を選択する。当該形質転換体群からのプラスミドを調製し、制限エンドヌクレアーゼ消化で分析し、配列決定する。
【0042】
断片群の制限および連結に代わるものとして、att部位における組み換え方法および組み換え酵素群がベクター中にDNA配列を挿入するのに用いることができる。このような方法は、例えばLandy(1989)Ann.Rev.Biochem.58:913〜949に記載されており、当技術分野の当事者であれば知っている。このような方法はラムダとE.coli−コード化組み換えたんぱく質群の混合物により仲介された分子間DNA組み換えを使用する。組み換えは相互作用しているDNA分子における特定な付着(att)部位群間で生じる。att部位の説明についてはWeisberg and Landy(1983)Site‐Specific Recombination in Phage Lambda,in Lambda II,Weisberg,ed.(Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Press),pp.211〜250を参照されたい。当該組み換え部位に隣接しているDNAセグメント群が切り換わるので、組み換え後のatt部位は各親のベクターにより供与された配列からなる交雑配列である。当該組み換えはいずれの形態のDNA間でも起こりうる。
【0043】
関心のある配列を適切なベクター中に連結することにより、att部位を関心のある配列に導入してもよい;特異なプライマー群を使うことによりatt B部位を含有するPCR生成物を産生する;att部位を含有する適切なベクター中にクローン化したcDNAライブラリーを産生するなどである。
【0044】
本明細書で使用する、折り畳みはポリペプチド群およびたんぱく質群の三次元構造に言及したもので、アミノ酸残基間の相互作用が当該構造を安定化するように作用する。非共有相互作用が構造を決めるのに重要であるが、通常関心あるたんぱく質群は2個のシステイン残基で形成される分子内および/または分子間共有ジスルフィド結合を有しているであろう。自然界に生じるたんぱく質群およびポリペプチド群、またはそれらの誘導体群と変異体群については、適切な折り畳みは典型的には最適生物活性を生じる配置であり、活性の評価、例えばリガンド結合、酵素活性などで都合よく観測できる。
【0045】
幾つかの例、例えば望ましい生成物が合成由来であるときは、生物活性に基づく評価法はあまり意味がない。そのような分子の適した折り畳みは、物理的性質、エネルギー的配慮、モデル化研究などに基づいて決定できるであろう。
【0046】
当該発現宿主は、折り畳みおよびジスルフィド結合形成を増進する1つ以上の酵素群、即ちフォールダーゼ群、シャペロニン群などをコード化した配列の導入により更に修飾されてもよい。そのような配列群は当該酵母宿主細胞内で構成的に、または当分野で知られているベクター群、標識群などで誘導的に表現されてもよい。好ましくは発現の好ましいパターン用に間に合う転写制御要素群を含んだ配列群が標的方法論により酵母ゲノム中に安定的に組み込まれる。
【0047】
例えば、当該真核PDIはたんぱく質のシステイン酸化およびジスルフィド結合異性化の効率的触媒であるばかりでなく、シャペロン活性をも示す。PDIの同時発現は複数ジスルフィド結合を有している活性たんぱく質類の産生を容易にすることができる。同じように関心があるのはBIP(免疫グロブリン重鎖結合たんぱく質)であるシクロフィリンなどの発現である。当該発明の1つの実施形態では、一倍体の親の菌株の各々は異なる折り畳み酵素を発現、例えば1つの菌株がBIPを発現し、他の菌株はPDIを発現してもよい。
【0048】
“望ましいたんぱく質”または“標的たんぱく質”という用語は同義的に使用され、一般的には2つ以上の非同一ポリペプチド鎖群を有しているいずれかの分泌たんぱく質を称し、そこでは当該鎖群は別々に合成されたもので、即ち単一ポリペプチド鎖の翻訳後開裂から生じたものではない。当該ポリペプチド類は当該酵母にとっては異種、即ち外来性のものである。好ましくは、哺乳類ポリペプチド群、即ち哺乳類ゲノムにコード化されたポリペプチド群が使用される。
【0049】
好ましい実施形態では、当該たんぱく質は抗体である。“抗体”という用語はエピトープに適合し、認識する特異な形を持つ全てのポリペプチド鎖含有分子構造が含まれることを意図し、1つ以上の非共有結合相互作用が当該分子構造およびエピトープ間の複合体を安定化する。典型的な抗体分子は免疫グロブリンで、全ての源、即ちヒト、げっ歯類、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、他の哺乳類、ニワトリ、他の鳥類などからの全ての型の免疫グロブリン、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDなどが“抗体群”と考えられる。多くの抗体コード配列群が既に記述されており、他のものも当技術分野でよく知られた方法により取り上げることができる。
【0050】
例えば、抗体群または抗体結合断片群は遺伝子工学で産生することができる。この手法では、他の方法と同じように抗体産生細胞群は望ましい抗原または免疫原で感作される。抗体産生細胞から単離されたメッセンジャーRNAは鋳型として使用され、PCR増殖法を用いてcDNAを作る。それぞれが当初の抗原特異性を保持している1つの重鎖遺伝子および1つの軽鎖遺伝子を含有しているベクター群のライブラリーは、当該発現ベクター群中に増幅した免疫グロブリンcDNAの適切な区分を挿入することにより産生される。組合わせのライブラリーを当該重鎖遺伝子ライブラリーと当該軽鎖遺伝子ライブラリーを組み合わせることにより作成する。これは重鎖と軽鎖を同時発現するクローン群のライブラリーを生じる(Fab断片または抗体分子の抗体結合断片に類似している)。これらの遺伝子群を担持するベクター群は宿主細胞の中に同時形質移入される。抗体遺伝子合成が当該形質移入宿主に誘導されると、当該重鎖および軽鎖たんぱく質は自己集合して抗体群または免疫原による選別して検出できる活性抗体群を産生する。
【0051】
関心のある抗体コード配列には、天然配列群によりコード化されたものとともに明らかになった核酸類およびそれらの変種とは当該遺伝コードの縮重のおかげで順序が同一でない核酸類が含まれる。変種ポリペプチド群にはアミノ酸(aa)置換群、付加群または欠損群を含むことができる。当該アミノ酸置換群は保存アミノ酸置換群または糖修飾部位を変更するように非必須アミノ酸を除去するため、或いは機能に必要ないシステイン残基の1つ以上の置換または欠失により誤った畳み込みを最小にするための置換群でありうる。変種類は当該たんぱく質の特定な領域の強化された生物活性を保持または有するように設計されうる(例えば、機能領域、触媒的アミノ酸残基群など)。変種類には本明細書で開示したポリペプチド群の断片、特に生物活性断片群および/または機能領域群に相当する断片群も含まれる。クローン化遺伝子群の生体外変異原性についての手法は既知である。同様に当該主題の発明に含まれるのは、通常の分子生物手法を用いて修飾され、たんぱく質分解への抵抗性を改良するか溶解特性を最適化するかまたは治療剤としてより適するようにしたペプチド群である。
【0052】
キメラの抗体群は、定常性軽鎖および他からの重鎖領域を有する1種の抗体産生細胞群から得られた可変軽鎖および重鎖領域(VKおよびVH)を結合する組み換え方法で産生できる。典型的には主にヒト領域を有する抗体を産生するために、キメラの抗体群はげっ歯類またはウサギの可変領域群およびヒト定常性領域群を用いる。そのようなキメラの抗体群の産生は当技術分野ではよく知られており、標準的な手段で達成できる(例えば、参照として全体が当明細書に組入れられている米国特許第5,624,659号で説明されているように)。
【0053】
ヒト化抗体群は更にヒト様な免疫グロブリン領域を含有するように、また当該動物由来抗体の相補性決定領域のみを組入れるように操作される。これは当該モノクローナル抗体可変領域の超可変ループの配列を注意深く調べて、これらをヒト抗体鎖群の構造に当てはめることにより達成される。表面的には複雑であるが、当該工程は実際には簡単である。例えば、全体が本明細書に組み込まれた米国特許第6,187,287号を参照。
【0054】
免疫グロブリン群全体(またはそれらの組み換え対応物)に加えて、エピトープ結合部位(例えば、Fab'、F(ab')または他の断片)を含んでいる免疫グロブリン断片群は合成することができる。“断片”または最小免疫グロブリン群は組み換え免疫グロブリン手法を利用して設計される。例えば、本発明で使用される“Fv”免疫グロブリン群は、可変軽鎖領域および可変重鎖領域を合成することで産生できる。抗体群の組合わせ、例えば2つの別個のFv特異性を含むダイマーにも関心がもたれる。
【0055】
免疫グロブリン群は翻訳後修飾でき、例えば、本発明の方法および組成物にて利用されるような、化学リンカー群や蛍光色素、酵素群、基質群、化学発光部分などのような検出可能な部分、或いはストレプトアビジン、アビジンまたはビオチンなどのような特異な結合部分を付け加えることができる。
【0056】
(ポリペプチドの合成方法)
形質転換した接合形質転換受容性一倍体酵母細胞群は、望ましいたんぱく質のサブユニット対形成を可能とする遺伝的方法を提供する。一倍体酵母菌株群は2つの発現ベクターのそれぞれにて形質転換され、最初のベクターは1つのポリペプチド鎖の合成を導き、別のベクターは別の非同一ポリペプチド鎖の合成を導く。当該2つの一倍体菌株を接合させて、最適化標的たんぱく質産生が得られる二倍体宿主を供する。
【0057】
場合により、更なる非同一コード配列(群)が供せられる。当該配列群は追加の発現ベクター群上或いは最初または別の発現ベクター群中に存在することができる。当該技術で知られているように、複数のコード配列群が別々に個々のプロモーター群から発現されるか、またはシストロン(たんぱく質コード領域)におけるATGのような開始コドンへ直接配列内リボソームの進入を促進する要素である“配列内リボソーム進入部位”または“IRES”の包含により協調的に発現でき、それにより当該遺伝子のキャップ非依存性翻訳へと導く。酵母中で機能的なIRES要素はThompson et al.(2001)P.N.A.S.98:12866〜12868にて説明されている。
【0058】
本発明の1つの実施形態では、抗体配列群はIgAの増強された安定性を供する分泌型J鎖(米国特許第5,959,177号および第5,202,422号を参照)との組合わせで産生される。
【0059】
当該2種の一倍体酵母菌種はそれぞれ栄養要求性で、当該一倍体細胞群の増殖には培地に補足が必要となる。栄養要求株の対は相補的であるので、当該一倍体細胞が必要とする補足物がなくても当該二倍体産生物は増殖する。酵母中ではアミノ酸(例えば、メチオニン、リシン、ヒスチジン、アルギニンなど)、ヌクレオシド群(例えば、ura3、ade1など)などを含む多くの当該遺伝的標識群が知られている。アミノ酸標識群は本発明の方法にとっては好ましいであろう。
【0060】
当該2種の形質転換した一倍体細胞群は遺伝的に交雑され、この接合現象から生じる二倍体群はそれらの交雑栄養要求により選択できる。それに代わるものとして、当該2種の形質転換一倍体菌株の集団をスフェロプラスト化し、融合し、そして二倍体の子孫が再生され、選択される。いずれかの方法により、二倍体菌株は同定され、それらの一倍体の親と違い二倍体は同じ栄養要求性を持たないので選択的に増殖できる。例えば、当該二倍体細胞群は最小培地で増殖できる。当該二倍体合成方法はある利点を有する。二倍体菌株は基本的変異に対してより広範囲な補充をすることで、増強したレベルの異種たんぱく質産生する可能性を有し、それが組み換えたんぱく質の産生および/または分泌に影響を及ぼすであろう。
【0061】
本発明の1つの実施形態では、当該一倍体菌株のそれぞれがポリペプチド群のライブラリー、例えば抗体の重鎖または軽鎖のライブラリーにより形質転換される。当該ポリペプチド群を合成する形質転換された一倍体細胞を相補性一倍体細胞群と接合させる。得られる二倍体細胞群を機能性たんぱく質につき選別する。当該二倍体細胞群は、機能性試験に関して数多くのポリペプチド群の組合わせを迅速で、使いやすくそして安価にまとめる方法を供する。この手法は特にヘテロ二量体たんぱく質生成物に適用でき、最適化したサブユニット合成レベルは機能性たんぱく質の発現および分泌に重要である。
【0062】
本発明の他の実施形態では、当該2つのサブユニットの発現レベル比は生成物産生を最大限にするために調節される。ヘテロ二量体サブユニットたんぱく質レベルは最終生成物産生に影響を与えることが以前示されている(Simmons LC,J Immunol Methods.2002 May 1;263(1〜2):133〜47)。調節は接合工程に先立って、発現ベクター上に存在する標識について選択することで達成できる。当該ベクターの複製物数を安定して増加させることで、当該発現レベルを増加させることができる。幾つかの例では、1つの鎖のレベルを他と比較して増加させて当該ポリペプチド群のサブユニット間で均衡がとれた比率を達成するのが望ましい。抗生物質抵抗性標識群、例えばZeocin抵抗標識、G418抵抗性などはこの目的のために有用で、ZeocinまたはG418のより高いレベルに対し抵抗性である形質転換体を選択することにより菌株中にある発現ベクターの複数の統合された複製物を含有する菌株につき濃縮する方法を提供する。当該サブユニット遺伝子群の、例えば1:1;1:2など適切な比率は効率的なたんぱく質産生に重要であろう。同じプロモーターが両方のサブユニットを転写するのに使用されるときでも、多くの他の因子群が発現されるたんぱく質の最終レベルに寄与するので、1つのコード化遺伝子の複製物数を他に比べて増加させるのに有効になりうる。それに代わるものとして、単一複製ベクター菌株群に比べて高レベルでポリペプチドを産生する二倍体菌株は、両方が当該発現ベクターの複数の複製物を有する2つの一倍体菌株群を接合することで作り出される。
【0063】
宿主細胞群は上記した発現ベクター群により形質転換させ、接合させて二倍体菌株を形成し、プロモーター群の誘導、形質転換体群の選別または望ましい配列群をコードしている遺伝子群を増幅するのに適するように改良した従来の栄養培地中で培養する。酵母の増殖に適した数多くの最小培地は当技術分野では知られている。これらの培地のいずれも必要に応じて塩類(塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびリン酸ナトリウムのような)、緩衝液(HEPESのような)、ヌクレオシド群(アデノシンおよびチミジンのような)、抗生物質、微量な元素群、およびグルコースまたは同等のエネルギー源で補足される。いずれの他の必要な補助物も、当技術分野の当事者であれば知っているだろう適切な濃度で含まれていてよい。当該培養条件、温度、pHなどは発現について選択した宿主細胞で前に使用したものであり、通常の熟練技術者にとっては明らかなものである。
【0064】
分泌されたたんぱく質は当該培養培地から回収される。フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)のようなプロテアーゼ阻害物が精製の間におけるたんぱく質分解を阻止するのに有用で、抗生物質は外来性汚染物の増殖を防止するのに含まれるであろう。当該組成物につき、当該技術分野で知られている方法を用いて濃縮、ろ過、透析などを行うことができる。
【0065】
本発明の二倍体細胞群は産生の目的で増殖する。当該産生の目的には望ましくは最小培地での増殖が含まれ、その培地は、前もって作られたアミノ酸および他の複雑な生体分子群に欠けており、例えば窒素源としてアンモニアおよびエネルギーおよび炭素源としてグルコース、そしてリン酸塩、カルシウム源として塩類などを含んだ培地である。当該生産用培地は抗生物質群、アミノ酸群、プリン群、ピリミジン群などのような選択用薬剤が十分でないのが好ましい。当該二倍体は高細胞濃度まで増殖でき、例えば少なくとも約50g/L;より通常では少なくとも約100g/L;そして少なくとも約300、約400、約500g/L以上である。
【0066】
本発明の1つの実施形態では、生産目的の本題細胞群の増殖は低温度で実施され、その温度は対数期の間、定常期の間において、または両方で低下させることができる。“低温度”という用語は少なくとも約15℃、より通常では少なくとも約17℃、そして約20℃である温度を称し、通常約25℃未満、より通常で約22℃未満である。増殖温度は産生培養基における全長分泌たんぱく質の産生に影響を与えることができ、当該培養増殖温度を低下させると当該無傷の生成物収量を強力に増加させることができる。当該低下させた温度は折り畳みと当該宿主が用いる翻訳後処理経路により細胞内輸送を助けるようで、細胞プロテアーゼ分解を低減させるとともに当該標的産生物を産生する。
【0067】
本発明の方法は分泌した活性たんぱく質、特に分泌した活性抗体群の発現を提供し、そこでは本明細書で使用するような“活性抗体群”は少なくとも2つの適切に対となった鎖が正しく折り畳まれた多量体を称し、それは正確にその同族の抗体に結合する。活性たんぱく質の発現レベルは通常少なくとも約50mg/L培養物、より通常では少なくとも約100mg/L,好ましくは少なくとも約500mg/L,そして1000mg/L以上であろう。
【0068】
本発明の方法は生産において当該宿主および異種コード配列の安定性を増加させることができる。当該安定性は、例えば時間に対する発現の高レベル維持で証明され、その場合発現の開始でのレベルは約20倍化、50倍化、100倍化以上において約20%未満、通常は10%未満減少し、そして約5%未満減少するであろう。
【0069】
当該菌株の安定性は長い時間異種遺伝子配列の完全性保持を同様にもたらし、当該活性コード配列および必要な転写調節要素の配列は、約20倍化、50倍化、100倍化以上では少なくとも当該二倍体細胞群の約99%、通常少なくとも当該二倍体細胞群の約99.9%および好ましくは少なくとも当該二倍体細胞群の約99.99%において保持される。好ましくは、当該二倍体細胞群の実質的全てが当該活性コード配列および必要な転写調節要素の配列を保持する。
【0070】
本発明は特定の方法論、プロトコール類、細胞系、動物種または属、構築物および記述した試薬に限定されるものではなく、それら自体は当然変化すると理解されるべきである。本明細書で使用する専門用語は特定の実施形態のみを説明する目的であり、本発明の目的を制限することを意図するものではなく、本発明は添付した請求項のみに制限されるであろう。
【0071】
他に定義しなければ、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当事者には普通理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと同様または同等な方法、装置および材料のいずれも本発明の実施または試験に使用できるが、好ましい方法、装置および材料はここで説明する。
【0072】
本明細書で触れた全ての公報は、例えば当該公報に記載されている当該細胞系、構築物および方法論を説明し開示する目的で参照に組み込まれており、今説明する発明と組合わせて使用することも可能である。上記および本文全体で検討した公報は、本発明の出願日に先行するそれらの開示のみを規定する。本明細書のいずれも、当該発明者が先行発明に基づくそのような開示に先行する資格がないことを承認するものと解釈されるべきものではない。
【0073】
以下の実施例は、当技術分野の当事者に主題発明の実施法や使用法の完全な開示および説明を提示するために出されているもので、当該発明に関係する目的を限定する意図はない。使用した数字(例えば、量、温度、濃度など)に関して正確を期すための努力がなされているが、幾つかの実験的誤差および偏差は許されるべきであろう。他に示さねば、割合は重量割合、分子量は平均分子量、温度は摂氏;そして圧は大気圧または大気圧付近である。
【0074】
(実験の部)
【実施例1】
【0075】
当該二倍体抗体産生法の効率を示すために、以下の試薬群を調製した。
抗体遺伝子群:キメラヒト化マウスモノクローナル抗体OKT3の3種類の形態の合成を目指し、遺伝子群をクローン化し、組み立てた。これらの当該組立物において使用する可変領域の出所はGenbankで見出すことができる。受入番号A22261;マウスOKT3重鎖(International Patent Application WO 9109967‐A 3 11‐JUL‐1991)。受入番号A22259;マウスOKT3軽鎖(International Patent Application WO 9109967‐A 3 11‐JUL‐1991)。
【0076】
3種全ての形態は同一のVκCκ軽鎖遺伝子(SEQ ID NO:10)を利用した。3種の重鎖遺伝子群については、全て同一のマウス可変領域(V)をコード化するが、お互いにヒト重鎖定常領域群のアミノ酸配列において異なっていた。最初の組立物は単一通常N‐結合グルコシル化部位提示(全長グルコシル化重鎖)(SEQ ID NO:13およびNo14)を伴う全長野生型重鎖(Cγ1)の合成を導いた。第二の遺伝子は、当該配列中のヌクレオチドを接合して作成した非グリコシル化重鎖の合成を導いて、グルコシル化部位識別配列(ASN‐X‐Thr/Ser)(全長非グルコシル化重鎖)(SEQ ID NO:15)にある301番目のスレオニンをアラニンに変更する。第三の遺伝子組立物は、定常領域の大部分がヒンジ領域(Fab重鎖)(SEQ ID NO:16)の後から欠落している重鎖の合成を導いた。
【0077】
発現ベクター:当該ベクターは以下の機能性成分を含有する:1)細菌Escherrichia coli細胞中のプラスミドベクターの複製を促進する突然変異体ColE1の複製開始点;2)抗生物質Zeocinへの抵抗性を与え、E.coliおよびP.pastrisの両方の形質転換用で選択可能な標識として役立つ細菌のSh ble遺伝子;3)グリセルアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(GAP)プロモーターからなり、Saccharomyces cerevisiaeアルファ接合因子プレプロ分泌リーダー配列をコードしている配列群に融合し、次いでP.pastorisアルコールオキシダーゼI遺伝子(AOX1)からのP.pastoris転写終結シグナルをコードしている配列群が続く発現カセット。当該Zeocin抵抗性標識遺伝子は、Zeocinのより高いレベルに抵抗する形質転換体について選ぶことにより菌株中にある発現ベクターの複数の統合された複製物を含有する菌株群につき濃縮する方法を提供する。
【0078】
P.pastoris菌株:本実施例で使用した栄養要求性菌株はP.patroris ade1およびura3菌株で、それは増殖のためにそれぞれアデニンおよびウラシルの補足を必要とする。菌株met1およびlys3も使用された。2つの栄養要求性菌株の相補的セットはいずれも二倍体菌株の作成および維持に使うこともできたが、これら2つの菌株は特に2つの理由により本方法に適している。第一は、これらはその接合または融合の結果である二倍体菌株よりゆるやかに増殖する。そこで、一倍体ade1およびura3細胞の少数が培地中に残っているか、或いは減数分裂または他の仕組みを通じて発生しても、当該二倍体菌株は培養液中ではそれらよりも多く増殖するはずである。
【0079】
第二は、それらが接合した二倍体生成物のコロニーは通常の白またはクリーム色であり、培養液中の一倍体ade1突然変異体であるいずれの菌株の細胞もはっきりとしたピンク色のコロニーを形成するので、これらの菌株の有性世代を観察することが容易である。加えて、一倍体ura3突然変異体である菌株のいずれも薬剤5‐フルオロ‐オロチン酸(FOA)に対する抵抗性があり、培養物の試料につきFOAを伴う最小培地+ウラシルのプレートに蒔くことにより感度よく同定できる。これらのプレートにおいて、ウラシル要求ura3突然変異体(多分一倍体であろう)菌株のみが増殖しコロニーを形成できる。そこで、ade1およびura3で標識した一倍体親菌株により、得られる抗体産生二倍体菌株(一倍体対二倍体)の有性世代は容易に観察可能である。
【0080】
(方法)
軽鎖および重鎖抗体遺伝子群の転写用pGAPZ‐アルファ発現ベクター群の作成。軽鎖および重鎖の両方の可変領域をクローン化するために、マウスOKT3 CD3ハイブリドーマの細胞菌株の細胞群を増殖させ、全RNAを抽出した。その後2種のRT‐PCR反応を実施したが、1種はOKT3抗体遺伝子群の軽鎖に特異的であり、1種はOKT3抗体遺伝子群の重鎖可変領域コード化配列群に特異的であった。当該重鎖および軽鎖可変領域を増幅するために使用したプライマー群はそれぞれの可変領域群に関して(SEQ ID NO:1)5'‐CCGCTCGAGAAAAGAGAGGCTGAAGCTCAGGTCCAGCTGCAGCAGTC‐3'および(SEQ ID NO:3)5'‐CCGCTCGAGAAAAGAGAGGCTGAAGCTCAAATTGTTCTCACCCAGTCTCC‐3'とともに(SEQ ID NO:2)5'‐TGGGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACTGTGAGAGTGGTGC‐3'および(SEQ ID NO:4)5'‐GACAGATGGTGCAGCCACAGCCCGG TTTATTTCCAACTTTGTCC‐3'であった。
【0081】
ヒト重鎖および軽鎖定常領域遺伝子群に関して、ヒト白血球5'‐stretch plus cDNAライブラリーをClontech(HL 5019t)から購入した。2種のPCR反応を、本ライブラリーに基づき当該重鎖および軽鎖定常領域に特異なプライマー群を用いて実施した、それぞれ(重鎖:(SEQ ID NO:6)5'‐GCACCACTCTCACAGTCTCCTCAGCCTCCACCAAGGGCCCA‐3および全長に関しては(SEQ ID NO:5)5'‐ATAAGAATGCGGCCGCTCATTTACCCGGAGACAGGGAG‐3'とともに、FAB産生に関しては(SEQ ID NO:7)5'‐TGCGGCCGCTCATGGGCACGGTGGGCATGTGT‐3';軽鎖:(SEQ ID NO:9)5'‐GGACAAAGTTGGAAATAAACCGGGCTGTGGCTGCACCATCTGTC‐3'および(SEQ ID NO:8)5'‐ATAAGAATGCGGCCGCTAACACTCTCCCCTGTTGAAGCT‐3'であった。
【0082】
当該マウス軽鎖可変領域をコード化しているDNA配列を骨格中でヒト軽鎖定常領域(SEQ ID NO:11とSEQ ID NO:12)に融合した。当該最終融合構築物をコード化している断片をP.pastoris発現ベクターpGAPZ‐アルファ中にpGAPZ‐アルファ中の5'‐Xholおよび3'‐Notl部位を通じた連結により挿入した。当該マウス重鎖可変領域をコード化しているDNA配列を骨格中で3種のヒト重鎖定常領域のおのおのをコード化している配列群に融合した。これらの融合生成物をその後同様な5'‐Xholおよび3'‐Notl方法を用いてpGAPZ‐アルファ中に挿入した。(グリコシル化バージョンに関してはSEQ ID NO:13およびSEQ ID NO:14;アグリコシル化バージョンに関してはSEQ ID NO:15;当該Fab断片に関してはSEQ ID NO:16)。全てのベクター群における適切な抗体遺伝子DNA配列群は、次の実験に先立って直接DNA配列決定法により確認した。
【0083】
P.pastorisの一倍体ade1 ura3,met1およびlys3宿主菌株への発現ベクター群の形質転換。一倍体P.pastoris菌株の形質転換およびP.pastoris性周期の遺伝的取扱いはHiggins,D.R.,およびCregg,J.M.,Eds.1998.Pichia Protocols.Methods in Molecular Biology.Humana Press,Totowa,NJ中に記載されている通りである。
【0084】
形質転換に先立って、各発現ベクターをGAPプロモーター配列群内でAvrilにより直線化して当該ベクター群のP.pastorisゲノムのGAPプロモーター遺伝子座への組み込みを導いた。各ベクターの試料はその後電気窄孔法でade1、ura3、met1およびlys3菌株の電気形質転換受容性培養物中に個々に形質転換させ、成功した形質転換体は抗生物質Zeocinへの抵抗性につきYPD Zeocinプレートにて選択する。得られたコロニー群を選択し、単一コロニーを得るためにYPD Zeocinプレート上に画線し、その後適切な抗体遺伝子挿入のために各菌株から抽出したゲノムDNAにつきPCRアッセイ法で当該抗体遺伝子挿入の存在、および/または各菌株の抗体鎖を合成する能力についてはコロニーリフト法/免疫ブロット法により試験を行った(Wung et al.Biotechniques 21 808〜812(1996))。3種の重鎖構成物の1つを発現する一倍体ade1、met1およびlys3菌株を二倍体作成用に軽鎖遺伝子を発現する一倍体ura3菌株とともに回収した。重鎖遺伝子群を発現する一倍体を適切な軽鎖一倍体ura3と接合させて二倍体分泌たんぱく質を産生した。
【0085】
単一抗体鎖を合成する一倍体菌株の接合、および四量体機能性抗体群を合成する二倍体誘導体の選択。P.pastoris一倍体菌株を接合するために、交雑させる各ade1(またはmet1およびlys3)重鎖産生菌株を、富YPDプレートに横断的に画線をし、当該ura3軽鎖産生菌株は二枚目のYPDプレートで横断的に画線をした(プレート当たり約10線)。30℃で培養して1または2日目後、重鎖菌株を含有している1つのプレートおよびura3軽鎖菌株を含有する1つのプレートから細胞群をレプリカ平板ブロック上の滅菌ベルベット布に斜交並行模様で移して、細胞群の斑を含有する各重鎖菌株を各軽鎖菌株と混合した。当該交差‐画線レプリカ蒔種細胞群はその後接合プレートに移し、25℃で培養して菌株間の接合の開始を刺激した。二日後、接合プレート上の細胞群を再びレプリカ平板ブロック上の滅菌ベルベット布に移し、その後最小培地プレート群に移した。これらのプレート群を30℃で3日間培養し、プロトトロフィック二倍体菌株のコロニー群の選択的増殖をさせた。生じたコロニー群を採取し、次の最小培地プレート上に画線して単一コロニーを単離し、各二倍体菌株を精製した。得られた二倍体細胞系はその後抗体産生に関して試験を行った。
【0086】
推定上の二倍体菌株につき、それらが二倍体で抗体産生用の両方の発現ベクター群を含有していることを示すための試験を行った。二倍性について、菌株の試料を接合プレート上に広げて減数分裂を行い、胞子を形成するように刺激した。一倍体胞子生成物を収集し、表現型につき試験を行った。得られた胞子生成物の多くの割合が一種または二種の栄養要求性である場合、原菌株は二倍体であったに違いないと結論づけた。二倍体菌株は、各々からゲノムDNAを抽出し、このDNAを各遺伝子に特異なPCR反応にて使用して両方の抗体遺伝子の存在につき試験を行った。
【0087】
単一抗体鎖を合成する一倍体菌株の融合および四量体機能性抗体群を合成する二倍体誘導体群の選択。上記した接合手順に代わるものとして、一倍体ade1およびura3菌株を産生する単一鎖抗体の個々の培養物をスフェロプラスト化し、それらの得られたスフェロプラスト群をポリエチレングリコール/CaClを用いて融合させた。当該融合一倍体菌株群をその後1Mソルビトールおよび最小培地を含有する寒天に埋め込み、二倍体菌体につきそれらの細胞壁を再生させ、目に見えるコロニー群に増殖させる。得られたコロニー群を当該寒天から採取して、最小培地上に画線し、当該プレート群を30℃で2日間培養して二倍体細胞系の単一細胞群を生じさせる。得られた推定上の二倍体細胞系はその後に上記したように二倍性および抗体産生につき試験をした。
【0088】
抗体群の精製および分析。上記した方法を用いたura3軽鎖菌株2252およびlys3重鎖菌株2254の接合により全長抗体の産生用の二倍体菌株を導いた。二倍体P.pastoris発現菌株の振とうフラスコまたは発酵槽から培養培地を回収し、SDS‐PAGEおよび、ヒトIgGの重鎖や軽鎖または特異的にIgGの重鎖に対する抗体群を用いた免疫ブロット法により検査した。このデータは図2に示す。
【0089】
抗体群を分泌する酵母を精製するために、抗体産生培養物から内容が分かっている培地につきたんぱく質Aカラムを通過させ、20mMリン酸ナトリウム、pH7.0,結合緩衝液で洗浄した後、たんぱく質A結合たんぱく質を0.1MグリシンHCl緩衝液、pH3.0を用いて溶出した。最も多くのたんぱく質を含んだ画分をCoomasie blue染色SDS‐PAGEで試験を行い、抗体たんぱく質については免疫ブロッティング法で試験を行った。画分群は同様にELISAアッセイ法で試験を行ったが、そこではマイクロタイタープレート群を最初にF(ab')2ヤギ抗ヒトIgG、Fcγ(Jackson Immuno,Cat No.109‐006‐008)で被覆した。次のプレート群は酵母製抗体群の希釈物と反応させた。最後にプレート群をIgGF(ab')2のHRP‐抱合ヤギ抗ヒトF(ab')2のF(ab')2断片(Jackson Immuno,Cat No.109‐036‐097)と反応させた。プレート群はその後TMP基質(Sigma Chemical)で展開させ、反応は0.5M HClで収束させる。結果はBioRadミクロタイタープレートリーダーにて415nmで定量した。データは図3に示す。
【0090】
抗体活性についてのアッセイ。当該組み換え酵母由来キメラの抗体につき機能的活性を標的抗原を含有する細胞の免疫組織化学的染色法により評価した。当該キメラの抗体はT細胞上に見出されるCD3複合体を選択的に認識する。JurkatのT細胞群は抗原の原料として使用され、細胞表面染色はAndersson and Sander(Immunol lett.1989 Jan31;20(2):115〜20)またはAndersson et al.(Eur J Immunol.1988 Dec;18(12):2081〜4)中に記載されている手順を利用して実施した。
【0091】
Jurkat T細胞をガラススライド上に固定化し、適切な遮断用血清で遮断し、哺乳類および酵母産生組み換え一次抗体で1時間染色した。当該固定化した試料群はその後ペルオキシダーゼ遮断剤で処理し、次いで当該抗体の各形態(哺乳類については抗‐マウスおよび酵母については抗‐ヒト)について特異的なビオチン化Fc選択的二次抗体で染色した。検出はHRP‐Streptavidin系を用いて実施した。デジタル画像処理を実施して各染色試料につきデータを収集した。哺乳類由来および酵母由来のOKT‐3についてのパネルにて観察された細胞の暗染色により試料群中の正のシグナルを検出した。このデータは図4に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母二倍体中に少なくとも2種の非同一サブユニットポリペプチド鎖を含んでいる分泌されたヘテロ多量体たんぱく質の合成方法であって、当該方法は;
最初の酵母一倍体細胞を、前記たんぱく質の最初のサブユニットを含む発現ベクターが最初の酵母プロモーターに作動可能に結合されている最初の発現ベクターにより形質転換させ;
別の酵母一倍体細胞を、前記たんぱく質の別のサブユニットを含んでいる発現ベクターが別の酵母プロモーターに作動可能に結合されている別の発現ベクターにより形質転換させ;
前記最初および前記別の酵母一倍体細胞群から二倍体細胞を産生させ;
前記最初および前記別のサブユニットが前記多量体たんぱく質として発現、分泌される条件下で前記二倍体細胞を培養させることを含む、前記ヘテロ多量体たんぱく質を合成する方法。
【請求項2】
前記酵母二倍体がピキア(Pichia)種である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ピキア(Pichia)種は、ピキア パストリス(Pichia pastoris)、ピキア メタノリカ(Pichia methanolica)およびピキア アングスタ(Pichia angusta)からなる群より選択する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ヘテロ多量体たんぱく質は、少なくとも重鎖および軽鎖の可変領域を含んでいる抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ヘテロ多量体たんぱく質は、少なくとも重鎖および軽鎖の可変領域および定常領域を含んでいる抗体である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記最初の発現ベクターは軽鎖または重鎖配列群のライブラリーを含み、前記別の発現ベクターは単一の軽鎖または重鎖配列を含む、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記最初の発現ベクターは軽鎖または重鎖配列群のライブラリーを含み、前記別の発現ベクターは軽鎖または重鎖配列群のライブラリーを含む、請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記最初および別の酵母一倍体細胞群は相補的栄養要求体群である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記二倍体細胞を前記最初および別の酵母一倍体細胞群から産生する前記工程に前記一倍体細胞群の接合を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記最初および別の酵母一倍体細胞群から二倍体細胞を産生する前記工程には前記最初および別の一倍体細胞群のスフェロプラスト融合を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記二倍体細胞を産生する前に、前記最初または前記別のサブユニットの発現レベルを調整する工程を更に含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記最初の酵母プロモーターと前記別の酵母プロモーターが同じである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記最初の酵母プロモーターと前記別の酵母プロモーターが異なる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記酵母プロモーター群の1つまたは両方が構成型プロモーター群である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記酵母プロモーター群の1つまたは両方が誘導性プロモーター群である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記プロモーターがGAPプロモーターである、請求項1記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの前記非同一サブユニットポリペプチド鎖は二倍体分泌および発現のための最適化シグナル配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記培養工程は最小培地において行われる、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記最小培地は選択用薬剤に欠けている、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記培養工程は低い温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記多量体たんぱく質は前記二倍体細胞群から、少なくとも約100mg/L培養物の濃度まで分泌される、請求項1記載の方法。

【図1A−D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−95669(P2012−95669A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29170(P2012−29170)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【分割の表示】特願2006−536888(P2006−536888)の分割
【原出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(506137549)ケック グラジュエイト インスティチュート (2)
【出願人】(506137550)アルダー バイオファーマスーティカルズ、インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】