説明

一次元配列1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素分子集合体内包ゼオライトおよびその製造方法

【課題】
アントラセンの分子間の相対的配置を強制的に制御した場合に、分子間の相互作用が変化することが期待できるので、実質的に一次元配列している1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素分子集合体を提供すること。
【解決手段】
ゼオライト単結晶とアントラセンとを容器内に真空封入し、加熱することによって製造される。このゼオライト内に、実質的に一次元配列しているアントラセン様化合物分子集合体が1012/cm以上内包されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に一次元配列した1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素分子集合体に関する。また、実質的に一次元配列した1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素分子集合体を内包するゼオライトおよびその製造方法に関する。なお、これ以降、一次元配列した1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素をアントラセン様化合物ということがある。本発明は、とくに、内包される一次元配列したアントラセン様化合物量が極めて多いAFI単結晶ゼオライトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アン卜ラセンは電子授与型の分子であり、その化学構造の特徴から遷移モーメントが存在し、発光材料や錯体結晶、分子エレクトロニクス研究において重要な機能性分子のひとつであり、多くの研究報告がなされている。
たとえば、有機非線形光学材料としてアントラセンなどのπ電子共役構造を有する化合物の二量体をクラッド層内に配置させる技術が報告されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、これらの技術はアントラセン分子の二量体についての検討でしかない。
また、アントラセンなどの機能分子の経時変化を避けるために、該機能分子を、殻構造を形成する高分子内に内包させて、機能分子の安定化を計る技術が報告されている(特許文献3)が、この技術は、アントラセンなどの機能分子の経時変化を避けるための技術であり、機能性分子がどのような状態で内包されているのかなんら問題にするものではない。
【0003】
一方、ゼオライトはケイ素またはアルミニウムを中心とする各四面体構造同士がその各頂点の酸素原子を共有することによって3次元の綱目状に結合した結晶の総称のことある。ゼオライトはそこに存在するケイ素およびアルミニウムの比の違いによっていくつかのタイプに分けられる。また、ゼオライト内では、本来3価であるはずのアルミニウムも4価になるためにゼオライト骨格は負電荷を帯びる。そのため、この負電荷を補償している電荷補償陽イオンが存在する。ゼオライトの化学的性質は上記ケイ素およびアルミニウムの比、電荷補償陽イオンの種類などによって著しく異なることになる。
さらに、ゼオライトは、分子レベルで規則的に配列した均一な細孔を有する結晶であり、形状選択的な、あるいは骨格構造に起因した化学的・物理的吸着作用を持つことから、例えば、モレキュラーシーブ(分子ふるい)、各種有機化合物の分離吸着剤、芳香族化合物の異性化触媒や不均化触媒などとして、産業的にも広く使用されている。
そして、ゼオライトに親水性物質、極性化合物などを捕捉させる技術が報告されているが(特許文献4)、そこでは層状(二次元)に補足する技術が開示されているにすぎないのであって、一次元配列についてはなんら示唆されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平6−347846号公報
【特許文献2】特開平7−225402号公報
【特許文献3】特開2003−95999号公報
【特許文献4】特開2004−219212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アントラセン様化合物の分子集合体において、アントラセン様化合物の分子間の相対的配置を強制的に制御した場合に、分子間の相互作用が変化することが期待でき、新たな性質が発現されたり、今までとは異なる用途が期待できる。さらに、アントラセン様化合物の分子集合体において、とくに、異方的な形状を有するアントラセン様化合物分子の配向を制御の上、高密度に一次元配列させた系を作成することができれば、一次元配列アントラセン様化合物分子集合体は分子間のπ−π相互作用に基づく電子移動度の変化により、新規分子デバイス、配線としての利用が期待される。
従って、本発明の課題は、実質的に一次元配列したアントラセン様化合物分子集合体を提供することにあり、分子間の相対的配置を強制的に制御した実質的に一次元配列したアントラセン様化合物分子集合体を提供することにある。また、実質的に一次元配列しているアントラセン様化合物分子集合体を内包するゼオライトおよびその製造方法を提供することであり、分子間の相対的配置を強制的に制御した実質的に一次元配列したアントラセン様化合物分子集合体を内包するゼオライトおよびその製造方法を提供することである。さらに、アントラセン様化合物が高密度に内包するゼオライト、とくにアントラセン様化合物数が1012/cm以上内包されるゼオライトおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究する最中、特定のゼオライト単結晶を選択し、そのゼオライトとアントラセン様化合物分子を接触させて得られたアントラセン様化合物内包ゼオライトは、驚くべきことには、実質的に一次元配列しているアントラセン様化合物分子集合体を内包することを特徴とするゼオライトであること、また、可視光吸収および赤外線光吸収が、アントラセン様化合物分子集合体の配列方向に光の振動電場があるときに観察されるという知見を得た。本発明者らはこの知見に基づきさらに研究を重ね、ついに本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、請求項1の発明は、実質的に一次元配列していることを特徴とする1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素分子集合体である。ここで、一次元配列している、の意味は、たとえば、下記実施例2のデータから描いたAFI結晶の一次元細孔中に存在する配列したアントラセン分子の模式図である図1が示すように、ゼオライト細孔内にアントラセン様化合物が一次元的に配列している状態を意味する。また、実質的に、の意味は、内包された化合物のほとんどが一次元配列していることを示すのであり、ごく一部の化合物は一次元配列していないことを示す。すべての化合物が完全に一次元配列していることが望ましいが、本発明で開示する技術では、すべての化合物が完全に一次元配列しているとはいえない場合があるし、ごく一部の化合物は一次元配列していなくとも、本発明の初期の目的を達成できるかぎり、そのような分子集合体は上記本発明の分子集合体に属することを示すのである。
【0008】
請求項2の発明は、実質的に一次元配列しているアントラセン様化合物分子集合体を内包することを特徴とするゼオライトであり、アントラセン様化合物が高密度に内包する発明が請求項3の発明であり、その内包された化合物数が1012/cm以上である発明が請求項4の発明である。また、その内包された化合物量がゼオライトに対して10重量%以下にすることができる。さらに、請求項2の発明において、ゼオライトが一次元細孔を有する結晶である発明が請求項5の発明であり、ゼオライトが単結晶である発明が請求項6の発明であり、その単結晶がAFI単結晶である発明が請求項7の発明である。
【0009】
請求項8の発明は、ゼオライト単結晶にアントラセン様化合物を接触させることを特徴とする実質的に一次元配列しているアントラセン様化合物分子集合体を内包するゼオライトの製造方法である。接触させるアントラセン様化合物は気相であることが好ましい。請求項7の発明において、ゼオライト単結晶とアントラセン様化合物とを容器内に真空封入し、加熱する発明が請求項9の発明である。さらに、請求項8の発明において、アントラセン様化合物がアントラセン様化合物の結晶である発明が請求項10の発明である。さらに、請求項8の発明において、ゼオライトが単結晶である発明が請求項11の発明であり、その単結晶がAFI単結晶である発明が請求項12の発明である。
請求項8の発明において、内包するアントラセン様化合物がゼオライト内にて1012/cm以上である発明が請求項13の発明である。
【0010】
以下に本発明を詳細に記述する。
本発明の1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素は、下記の化合物をいう。1,2,4,5−テトラ置換ベンゼン。ここで、置換基はメチル基、エチル基、塩素原子、フッ素原子、アミノ基、カルボキシル基であり、同じ基で置換されている。ナフタレン、ベンゼン、アントラセン、テトラセン、ペンタセンであって、しかも縮環した結果直線的な形状を取る化合物。置換基を有するそれらの化合物。ここで、置換基は上記と同じである。また、置換基の位置は化合物が直線的な形状を取ることを妨げないように置換される。それら化合物の縮環内に所謂異種原子が存在する化合物。ここで、異種原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子がある。
具体的には、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、無水1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸(無水ピロメリット酸)、アクリジン、6,7−ベンゾキノリン、フェナジンなどを例示できる。
これらアントラセン様化合物は公知の方法により合成してもよいが、市販品を購入することにより、容易に入手することができる。
【0011】
本発明では、これらの分子が強制的に制御されていることが必要である。すなわち、ゼオライト細孔内にアントラセン様化合物が一次元的に配列して分子集合体を形成することが必要である。ここで、1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素はその化合物が有するπ電子雲が互いに重なり合っていることが好ましい。そのような状態に置かれていると、1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素の分子間のπ-π相互作用に基づく電子移動度の変化により、より優れた効果がもたらされるからである。
【0012】
本発明においてゼオライトとは、骨格構造の構成元素が、実質的にSi、Al、Oからなる結晶性マイクロポーラス物質をいう。ゼオライトとしてたとえば、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性アルミノフォスフェートなどが例示され、アルミニウムなどの一部の元素がガリウム、鉄、チタン、ボロン、コバルト、クロム等の金属で置換されたものでもよいが、本発明ではそれらに限定されない。
【0013】
本発明では所期の目的を達成できるゼオライトであれば、どのようなゼオライトでも使用できるが、そのなかでも、一次元細孔を有するゼオライト結晶が好ましい。ここで、一次元細孔を有するゼオライトとは、結晶一個を任意の方位から眺めた場合に、結晶表面から裏面に向かって実質的に直線で貫通している内径が約1nm以下の細孔を少なくとも一つ有するゼオライトをいう。ここで実質的に直線で貫通とは、本発明の所期の目的を達成できる程度の直線で貫通ということを意味する。
本発明のゼオライトはいわゆる単結晶ゼオライトも好ましく用いられ、とくにMOR単結晶、LTL単結晶、AFI単結晶、MFI単結晶が好ましい。さらにはAFI単結晶がより好ましい。
ここで、上記単結晶は公知のものであり、たとえばAtlas
of Zeolite Structure types、17(1/2), W. M.
Meier, D. H. Olson, Ch. Baerlocher, Zeolites,1996の記載に詳細に説明されている。
【0014】
本発明で用いるAFI結晶の模式図を図2に示す。ここでは、フレームワークの間に口径が0.73nmである細孔が形成されている。このAFI結晶のc軸方向の長さが100μm以上のものであると、さらに好ましい。
結晶の大きさなどは、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いて決定できる。
【0015】
これらのゼオライトは天然のものでも、合成ゼオライトでも構わない。ゼオライトの組成が自由に制御できるという点で合成ゼオライトの方が好ましい。合成の方法は従来公知の方法が採用できる。また、市販品を購入してもよい。
【0016】
本発明では、上記ゼオライトとアントラセンとを接触させ、一元的配向したアントラセン分子集合体が内包するゼオライトを製造する。該アントラセンはゼオライト内の細孔内に制御された状態で配向される。
ゼオライトとして上記AFI結晶を選択すると、口径が0.73nmである細孔にアントラセンが一元的配向して内包することになる。
【0017】
上記ゼオライトと接触させるアントラセンの量はアントラセンが内包される空間の量よりも過剰となるようにするとよい結果をもたらすことができる。また、アントラセンは結晶の形で反応容器内に加えることが望ましく、ゼオライトと接触するときには、昇華され、気体状となっていることが望ましい。
上記ゼオライトと接触させるアントラセンとは、公知の反応容器内に加え、不活性ガス雰囲気下、または減圧状態あるいは真空状態で接触させることが好ましい。この際、60〜130℃程度に加熱することが望ましい。反応時間は1時間〜2週間程度とする。
【0018】
なお、使用するゼオライトは予めゼオライト中の結晶水及び合成時に使った有機物を除去することが望ましい。合成時の有機物は大気中にて約700℃にて加熱することにより、焼成除去でき、結晶水は10−2Pa以下の真空状態で通常200〜500℃で加熱することにより、除去することができる。
【0019】
本発明で製造された実質的に一次元配列していることを特徴とするアントラセン様化合物、あるいは実質的に一次元配列しているアントラセン様化合物分子集合体を内包することを特徴とするゼオライトでは、内包するアントラセン様化合物の量は多いという特徴がある。たとえば、AFI結晶を用いたときには、その結晶内の細孔では1012/cm〜1014/cmもの高密度で存在することができる。また、ゼオライトに対して10wt%程度となるよう存在させることができる。また、本発明では、個々の一次元集合体を構成するアントラセン分子の線密度は1.2x10/cmとなるよう存在させることもできる。これはアントラセン分子が互いに接触、もしくは重なりあう程度となることを意味する。
それゆえ、アントラセン様化合物の分子間のπ-π相互作用に基づく電子移動度の変化により、新規分子デバイス、配線としての利用が期待される。
なお、上記線密度は、ゼオライト結晶の細孔のc軸方向の単位長さあたりの、ゼオライト結晶の細孔に内包されているアントラセン様化合物の分子数を意味する。
この線密度は、測定されたアントラセン様化合物の重量比からアントラセン様化合物の単位胞あたりに含まれる構成分子数(モル比)を算出し、更にゼオライトの一次元細孔と平行方向のゼオライト格子定数で割り算を行うことにより、線密度を確定することができる。
また、ゼオライト結晶が有する全ての一次元細孔がアントラセン様化合物分子で満たされており、アントラセン様化合物の分子集合体を形成するという考えに基づくと、アントラセン様化合物の分子集合体の面密度は、ゼオライト結晶の一次元細孔の面密度と等しいといえる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、実質的に一次元配列していることを特徴とする1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素分子集合体を容易に製造することができる。この集合体は分子間の相対的配置を強制的に制御されており、分子聞の相互作用が変化するので、ミクロなデバイスを構築することができる。すなわち、一次元配列したアントラセン分子集合体をゼオライト結晶中に作製することにより、マクロな電極接続も可能となる。さらに、そのゼオライトの長さが100μm以上のものであると、電極接続等が可能となり、マイクロデバイスとしての利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明はこれらの実施例になんら限定されない。
(参考例1)
(ゼオライト結晶の合成)
アルミナゾル(固形分10重量%:川研ファインケミカル社製)、シリカゾル(固形分40重量%:触媒化成社製)、リン酸(85重量%水溶液:和光純薬工業社製)、トリエチルアミン(TEA)(99重量%水溶液:和光純薬工業社製)、脱イオン水を、酸化物表記で、Al:P:SiO:TEA:HO=1:1.03:x:1.55:750(モル比)となるように混合し、水熱合成用オートクレーブに導入した。xの値は0〜0.3の値を取りうる。密封した後、190℃にて7日静置した。その結果、x=0では、化学組成がAl121248であり、x=0.3では、化学組成がAl11.811.1Si1.148組成のAFI結晶(c軸方向:100μm)を得た。
水熱合成により得られたAFI結晶の品質は粉末X線回折パターンの測定により、不純物の混入は認められず、ほぼ純粋であることを確認した。このX線回折パターンの測定結果と走査電子顕微鏡観察(図4)とを併せ、六角柱状の物質はそれぞれAFI構造を取る単結晶であることが分かった。
X線粉末回折パターン測定装置はRINT-2550V(理学電気製)を用いた。
【0022】
(実施例1〜3)1次元配列内包ゼオライトの製造
上記参考例で得たAFI結晶を700℃で大気中にて48時間加熱し、有機アミンを焼成除去した。更にこの有機アミンを除去した
AFI 結晶を10-2 Pa 以下の真空状態で400℃に加熱、この状態を2時間保持することでゼオライト中の水分子を除去した。
このAFI結晶50mgを大気に触れさせることなくアントラセン結晶(和光純薬工業社製)9mgと混合した後、ガラス管に真空封入した上で、100℃にて10日間加熱する。アントラセン分子は昇華し、AFI結晶の一次元細孔内に吸着され、一次元配列したアントラセン分子集合体がゼオライト細孔内に形成された。
このゼオライトのアントラセン分子の吸着量は8重量%であった。また、アントラセン分子の線密度は1x10/cmであった。
これらの結果から、アントラセン分子が互いに接触、もしくは重なりあう程度となっているということができる。
【0023】
アントラセン分子を内包するゼオライト単結晶を図4に示す。
使用機器
走査型顕微鏡:S−4500(日立製作所製)
【0024】
アントラセンの吸着量は CHN-ガスクロマトグラフ分析法で測定した。
使用機器は次のとおりである。
型式:EA1110 (CE INSTRUMENTS社製)
【0025】
参考例で合成したときは無色透明であったAFI結晶に着色が生じた。この着色は光学顕微鏡による透過観察において、強い異方性があることが示された。
E//cとすると、結晶は黒に近い暗緑色を呈し、一方、E⊥cではほぼ透明に近い色合いであった。
【0026】
アントラセン分子を内包するゼオライト単結晶に光を照射し、光子エネルギーと吸光度の関係を光の電場方向に分離して測定した。その結果を図5に示した。その結果から、E//c方向においてのみ、可視、及び赤外に光吸収が生じた。一方、E⊥cにおいては、可視・赤外に吸収が見られない代わり、3.0-3.8
eVに見られる振動構造状の複数の光吸収ピークはまさしく、孤立したアントラセン分子の内部遷移であるπ-πと解釈されているそれと一致する。これらのことから、分子が図1に書かれたように互いに斜め平行に配列し、アントラセン分子が有するπ電子が隣接分子のπ電子と若干重なるために生じた光遷移と解釈できた。
使用機器は自作の偏光顕微分光装置(特許出願中)によった。
【0027】
以上の結果から、ゼオライト結晶に内包されたアントラセン分子が互いに接触、もしくは重なりあう程度となっており、一次元配列したアントラセン分子間の相互作用が十分に発揮しているということができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】AFI結晶の一次元細孔中に存在する配列したアントラセン分子の模式図である。
【図2】ナノワイヤーを内包したAFI結晶の模式図である。
【図3】一次元配列された内包ゼオライト単結晶の光透過スペクトルを測定する場合の結晶軸と光の電場方向を模式的に示した説明図である。
【図4】実施例2で製造されたゼオライトの走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例2で製造されたアントラセン分子内包ゼオライト単結晶の光子エネルギーと吸光度の関係を光の電場方向に分離して測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に一次元配列していることを特徴とする1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素の分子集合体。
【請求項2】
実質的に一次元配列している1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素の分子集合体を内包することを特徴とするゼオライト。
【請求項3】
1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素が高密度に内包する請求項2記載のゼオライト。
【請求項4】
内包する1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素がゼオライト内にて1012/cm以上である請求項2記載のゼオライト。
【請求項5】
ゼオライトが一次元細孔を有する結晶である請求項2記載のゼオライト。
【請求項6】
ゼオライトが単結晶である請求項2記載のゼオライト。
【請求項7】
ゼオライトがAFI単結晶である請求項2記載のゼオライト。
【請求項8】
ゼオライト単結晶に1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素を接触させることを特徴とする実質的に一次元配列している1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素の分子集合体を内包するゼオライトの製造方法。
【請求項9】
ゼオライト単結晶と1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素とを容器内に真空封入し、加熱する請求項8記載のゼオライトの製造方法。
【請求項10】
1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素が1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素の結晶である請求項8記載のゼオライトの製造方法。
【請求項11】
ゼオライトが単結晶である請求項8記載のゼオライトの製造方法。
【請求項12】
ゼオライトがAFI単結晶である請求項8記載のゼオライトの製造方法。
【請求項13】
内包する1,2,4,5−テトラ置換ベンゼンあるいはベンゼン環が2〜5個縮環した直線的な形状の多核芳香族炭化水素がゼオライト内にて1012/cm以上である請求項8記載のゼオライトの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−273723(P2006−273723A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91137(P2005−91137)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人科学技術振興機構 委託研究「ゼオライトを用いた高集積秩序構造体の創製と電子物性制御に関する研究」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】