説明

一部に消失模型を有する模型およびそれを用いる鋳造方法

【課題】生型に使用する模型を改良することによって、簡単な構造の模型となすと共に鋳造工程の作業性を大幅に改善すること。
【解決手段】生型に使用する模型であって、金型もしくは木型で製作される既存模型と、該既存模型に溶湯の熱によって消失する材料からなる消失模型を取り付け、鋳物砂を充填し造形する際に前記消失模型が既存模型から分離し鋳物砂に収納されている模型。且つ、模型の突出部など割り型を必要とする突起部分が鋳込み時の溶湯の熱によって消失する材料で構成され、前記突起部分が造形時に模型から分離し鋳物砂の中に残っている生型を使用し、所望する溶湯を鋳込む鋳造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生型を使用しての鋳物製品の製造に関するものであって、使用する金型や木型からなる既存模型に消失模型を部分的に取り付ける模型、およびそれを用いる鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生型を使用した鋳造は、自動車部品、電気部品など複雑な形状をする多くの産業製品に活用されており、一般的な製造方法は次の手順で行なわれている。
まず、上型と下型からなる模型を型枠に入れ、鋳物砂を充填し造形する。次に模型を取り外し上型と下型を合わせる型合わせを行なう。これで型の準備が終わり所望する溶湯を型枠内に入れる鋳込みが行なわれ、固化を待って開枠・砂落としを行い、堰バラシ・仕上げで鋳造工程を終了する。
この工程の中でより複雑な形状を作るために模型は、一体物ではなく複数の部材に分割されて組み合わされて構成されている。
自硬性鋳型に消失模型を使用した造型方法として特許文献1のものがある。
【0003】
【特許文献1】特開2007−90384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋳造は複雑な形状が出来るところに利点があり、そのために模型は最終的には2つ割りとして造形後分解できることが絶対条件である。したがって、模型は数多くに分解され複雑怪奇なものになっている。そのため、製作経費はもとより、その製作に多くの時間を要し、造形時の型抜きにも作業性を悪くする要因に成っている。
本発明は、生型に使用する模型を改良することによって、簡単な構造の模型となすと共に鋳造工程の作業性を大幅に改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
生型に使用する模型であって、金型もしくは木型で製作される既存模型と、該既存模型に溶湯の熱によって消失する材料からなる消失模型を取り付け、鋳物砂を充填し造形する際に前記消失模型が既存模型から分離し鋳物砂に収納されていることを特徴とする一部に消失模型を有する模型である。
【0006】
前記既存模型が消失模型を取り付けるための固定部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の一部に消失模型を有する模型である。
【0007】
前記固定部が造形時の模型引き抜き方向に平行に形成される突起を備えていることを特徴とする請求項2に記載の一部に消失模型を有する模型。
【0008】
前記固定部が消失模型を取り付けるために消失模型を吸い付ける吸引口を備えていることを特徴とする請求項2に記載の一部に消失模型を有する模型。
【0009】
生型を用いる鋳造方法であって、模型の突出部など割り型を必要とする突起部分が鋳込み時の溶湯の熱によって消失する材料で構成され、前記突起部分が造形時に模型から分離し鋳物砂の中に残っている生型を使用し、所望する溶湯を鋳込むことを特徴とする一部に消失模型を有する生型を用いる鋳造方法。
【発明の効果】
【0010】
溶湯の熱によって消失する材料からなる消失模型が注湯時に鋳物砂に収納される部分であることから、既存模型は製品と完全に一致する模型にする必要が無く、簡単な構造の模型で良く分割するなどの対処が不要となる。
また、鋳造方案は従来の生砂に対して使用していたものをそのまま適用することができる。
さらに、消失模型の取り付け工程以外の工程は、全て従来の工程と同じ工程で生産することができる。
【0011】
既存模型が消失模型を取り付けるための固定部を備えているので、消失模型が既存模型の所望する場所に確実に取り付けられ製品と相違ない模型とすることができる。
【0012】
固定部に備える突起が造形時の模型引き抜き方向に平行に形成されているので、消失模型が既存模型から分離する時に鋳物砂の破損を起こさずにスムースに造形することができる。
【0013】
固定部が消失模型を取り付けるために消失模型を吸い付ける吸引口を備えていることから、消失模型は吸引力の調整でいろいろな形状、大きさ、材料、取り付け場所などが可能となり、幅広い商品の模型に対応できる。
【0014】
模型の突出部など割り面を必要とする突起部分が鋳込み時の溶湯の熱によって消失する材料で構成され、突起部分が造形時に模型から分離し鋳物砂の中に残っている生型を使用するため、通常の生型鋳造では製作が困難な形状の製品が鋳造できる。
また、模型の分割面や合わせ面の数が減り製品のバリが大幅に減少するなどの著効を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は製品1の断面図である。図2は製品を2つ割にし、湯道を備える上型の断面図である。図3は図1の上型に対応する下型の断面図である。
図1において、製品1は上型となる製品1の上部1Aと下部1Bが割り面2A・2Bによって図示するZ−Z部で分割される。通常の鋳物は、型抜けが可能な形状であることが望ましく、型抜けが不可能な形状とは(1)砂型の抜勾配が1度未満のもの、あるいは逆勾配のもの、(2)抜き方向に対して直角方向へ突き出したものなどである。従って本実施例では、型抜け可能な形状部分をそれぞれ既存模型の上型3A・既存模型の下型3Bと呼び、型抜け不可能な形状部分をそれぞれ消失模型の上型4A・消失模型の下型4Bとする。この際、型抜け不可能な消失模型4A・4Bを消失する材料、例えば発砲スチロールなどで製作するものである。
【0016】
図2は、模型定盤6Aに製品1の割り面2Aに相当する既存模型3Aの割り面7Aを接合させ、既存模型3Aには型抜け不可能な部分である消失模型4Aを取り付ける。さらに既存模型3Aには、製品となる金属の溶湯を導入する湯道5が設けられている。
消失模型4Aは、造形時既存模型3Aから脱落しないように取り付ける必要があるが、型合せ時には、生砂の中に残す必要があり、既存模型3Aには消失模型4Aを取り付ける為の固定部8Aが設けられている。
既存模型3Aの固定部8Aは、既存模型3Aから穴出する突起9を備えている。この突起9はテーパー状に形成され消失楔型4Aの位置決めも兼ねる為に複数本配設されており、重要なことは造形時には脱落しないようにしっかり固定され、型合せ時には消失楔型4Aを既存模型3Aから分離させる必要がある。したがって、突起9は後述する型合せ時の概在模型3Aを生砂14から抜き取る方向と平行に取り付けられることが望ましい。
消失模型4Aの材質を発砲スチロールとする場合には、突起9に突き刺すことで固着でき、容易に既存模型3Aに取り付けることができる。
【0017】
図3は、製品1の下部1Bの模型であり、上部1Aと同様に模型定盤6Bに既存模型3Bの割り面7Bを接合させ、既存模型3Bには型抜け不可能な部分である消失模型4Bを取り付ける。この時消失模型4Bを取り付ける面は、型合せ時に既存模型3Bを抜き取る方向とほぼ平行に形成されているため上述した突起9を取り付けることができない。したがって消失模型4Bは、造形時、既存模型3Bから脱落しないようにする為に吸引口10を有する固定部8Bが設けられている。この固定部8Bは負圧によって消失模型4Bを既存模型3Bに押し付ける構造であり、吸引口10は固定部8Bから既存模型3Bおよび模型定盤6Bに設けられる吸引道11を介して、図示しない真空ポンプに連結されている。当然ながら固定部8Bには、消失模型4Bを取り付ける際の位置決めとする案内部が備えられている。
【0018】
次に図4に基づき製造工程の手順を説明する。
1.概在楔型の準備
図1aに概在模型の下段3Bを図1bに概在模型3Aの準備状態を示す。各々模型定盤6A・6Bに模型の割り面7A・7Bを取り付け固着する。
2.概在模型に消失模型(発砲スチロール製)の取り付け
図2aは下型、2bは上型を示す。
詳細は図2・図3で説明したように、発砲スチロール製の各々の消失模型4A・4Bを取り付ける。この時、消失模型4Bは、真空ポンプ12による負圧によって固着されている。
3.造型工程、図3aは下型、3bは上型を示す。
模型の取り付けが終わると模型定盤6A−6Bに型枠13を取り付け、上方から生砂14を充填する。この時、概在模型3A・3Bに取り付けた消失模型4A・4Bが外れ落ちない様に慎重な作業を要する。充填した生砂14は、図中の上方から圧力を掛け、生砂14の鋳型全体に強度を持たせるように造型する。
4.型合せ
造形が完了すると、模型定盤6A・6Bと共に概在模型3A・3Bを生砂14から抜き取る。この際、概在模型3A・3Bのみを抜き取り、消失模型4A−4Bは生砂14中に残すことが重要であり、慎重な作業が必要となる。
鋳込定盤15の上に型枠13の中に出来た下鋳型17の合せ面を上方に向けてセットし、その上に上鋳型16を組み合わせる。この時、概在模型3A・3Bに形どられた部分は空洞部18となり、この空洞部18に連接して消失模型4A・4Bが存在することになる。空洞部上方端には溶湯を入れる為の湯口19が設けられている。
5.鋳込み
型合せが終了すると、製品1の材質を溶解した金属溶湯20を湯口19から注湯する。
注湯された金属溶湯20は、空洞部18に充満し、消失模型4A・4Bを熱によって溶かし、消失模型4A・4B部分にも充満する。これによって製品1に相当する形状が確保できる。
尚、この時、消失模型4A・4Bが熱によって溶かされる時、ガスが発生するが、生砂14は幸いに通気性を持ち合わせており、型枠13外に放出され、内部に残留することはない。しかし、製品の形状や消失模型の大きさに応じて型枠に負圧による吸引口を設けてもよい。
6.開枠・砂落し
金属溶湯20が鋳型16・17内で凝固すると、鋳込定盤15を型枠13の下部から取り外し、型枠13から生砂14と共に鋳物21を取り出す。そして鋳物21の表面に付着している生砂14をショートブラストなどにより取り除く。
7.櫃バラシ・仕上げ
製品1と湯道5などの鋳造方案部を分離し、不要なバリ等を除去する。
【0019】
以上の製造工程において、従来の生型を用いた工程との違いは消失模型を取り付ける工程が増えるだけで、他は全て従来の工程と同じである。このために大幅なラインの変更などが必要でなく、工程を乱すこともなく、しかも簡単な模型を使用できるという著効を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】製品1の断面図である。
【図2】製品を2つ割にし、湯道を備える上型の断面図である。
【図3】製品の上型に対応する下型の断面図である。
【図4】製造工程の手順を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 製品
3A 既存模型の上型
3B 既存模型の下型
4A 消失模型の上型
4B 消失模型の下型
8 固定部
9 突起
10 吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生型に使用する模型であって、金型もしくは木型で製作される既存模型と、該既存模型に溶湯の熱によって消失する材料からなる消失模型を取り付け、鋳物砂を充填し造形する際に前記消失模型が既存模型から分離し鋳物砂に収納されていることを特徴とする一部に消失模型を有する模型。
【請求項2】
前記既存模型が消失模型を取り付けるための固定部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の一部に消失模型を有する模型。
【請求項3】
前記固定部が造形時の模型引き抜き方向に平行に形成される突起を備えていることを特徴とする請求項2に記載の一部に消失模型を有する模型。
【請求項4】
前記固定部が消失模型を取り付けるために消失模型を吸い付ける吸引口を備えていることを特徴とする請求項2に記載の一部に消失模型を有する模型。
【請求項5】
生型を用いる鋳造方法であって、模型の突出部など割り型を必要とする突起部分が鋳込み時の溶湯の熱によって消失する材料で構成され、前記突起部分が造形時に模型から分離し鋳物砂の中に残っている生型を使用し、所望する溶湯を鋳込むことを特徴とする一部に消失模型を有する生型を用いる鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−226434(P2009−226434A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73834(P2008−73834)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000154901)株式会社北川鉄工所 (63)
【Fターム(参考)】