説明

一酸化炭素ガスの製造方法および製造装置

【課題】硫酸水溶液を用いた蟻酸の連続的な脱水反応により一酸化炭素ガスを製造する際に、反応に供されない蟻酸が反応系外に流出するのを防止することで、一酸化炭素ガスの工業的な製造に寄与する。
【解決手段】反応器2内の少なくとも硫酸水溶液を含む加熱された反応液に連続的に導入される蟻酸の脱水反応によって、一酸化炭素ガスと水を生成する。一酸化炭素ガスの流出路6に配置される共沸用装置20に、一酸化炭素ガスと共に、反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気を導入する。共沸用装置20の加熱と、共沸用装置20への水の供給により、共沸用装置20の内部に、水と蟻酸の共沸混合物の沸騰領域と、その下流の水単一の沸騰領域とを生じさせる。共沸用装置20から水蒸気と共に流出する一酸化炭素ガスを単離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸水溶液を用いた蟻酸の脱水反応により一酸化炭素ガスを製造するのに適した方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸(H2 SO4 )の水溶液中に導入される蟻酸(HCOOH)の脱水反応により、一酸化炭素ガス(CO)と水(H2 O)が生成されることは周知であり、その反応式は以下により表される。
HCOOH→CO+H2
【0003】
従来、蟻酸と硫酸水溶液を仕込んだ反応器を加熱することで、バッチ式により一酸化炭素ガスを製造することが行われている。この場合、脱水反応により生成された水により硫酸水溶液が次第に希釈され、反応速度が低下するために生産性が低下する。そのため、希釈された硫酸水溶液はアルカリで中和処理した後に廃棄されている。また、脱水反応に用いられなかった残余蟻酸は劇物であり、硫酸水溶液を廃棄する際に化学的酸素要求量(COD)の増加を防止するための処理が必要になる。
【0004】
そのような硫酸水溶液の廃棄を不要にするため、反応器内の加熱された硫酸水溶液に蟻酸を連続的に導入することで、脱水反応により一酸化炭素ガスと水を連続的に生成し、生成された水により希釈された硫酸水溶液を濃縮した後に再使用する方法が提案された。この従来の連続的に製造する方法においては、脱水反応により生成された水により希釈された硫酸水溶液は、生成された一酸化炭素ガスと共に反応器から流出され、次に一酸化炭素ガスから分離され、次に濃縮容器において減圧下で加熱されることで濃縮され、しかる後に反応器に戻されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−247707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の一酸化炭素ガスを連続的に製造する方法において、反応器内の硫酸水溶液に導入される全ての蟻酸を脱水反応に供するためには、硫酸水溶液への蟻酸の導入速度を制限する必要がある。しかし、蟻酸の導入速度を制限すると一酸化炭素ガスの生産性が低下する。そのため、一酸化炭素ガスを工業的に製造する場合、蟻酸の導入速度が蟻酸の分解速度よりも大きくなり、脱水反応に供されない残余蟻酸が生じる。そうすると、その残余蟻酸が蒸気として一酸化炭素ガスと共に反応系から流出してしまい、回収が困難になるという問題がある。さらに、生産性向上のために反応温度を高くすると、残余蟻酸の蒸発量が増加してしまう。本発明は、そのような従来技術の課題を解決できる一酸化炭素ガスの製造方法と製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明方法は、反応器内の少なくとも硫酸水溶液を含む加熱された反応液に連続的に導入される蟻酸の脱水反応によって、一酸化炭素ガスと水を生成する工程を備える一酸化炭素ガスの製造方法において、前記反応器からの一酸化炭素ガスの流出路に配置される共沸用装置に、生成された一酸化炭素ガスと共に、前記反応器内の反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気を導入する工程と、前記共沸用装置の内部に水と蟻酸の共沸混合物の沸騰領域を維持でき、前記共沸混合物の沸騰領域よりも一酸化炭素ガスの流れにおける下流位置に実質的に水単一の沸騰領域を維持できるように、前記共沸用装置を加熱する工程と、前記共沸用装置に水を導入する工程と、前記共沸用装置から水蒸気と共に流出する一酸化炭素ガスを単離する工程とを備え、前記共沸用装置への水の導入流量を、前記共沸用装置の内部における水と蟻酸の混合物の沸騰領域の下流位置に、実質的に水単一の沸騰領域が生じるように設定することを特徴とする。
本発明によれば、硫酸水溶液に導入される蟻酸の脱水反応により生成された一酸化炭素ガスは、反応器内において脱水反応により生成された水と脱水反応に供されなかった残余蟻酸を含む反応液の加熱により発生する水蒸気および蟻酸蒸気と共に、共沸用装置に導入される。
共沸用装置の内部は、加熱装置による加熱により、水と蟻酸の共沸混合物の沸騰領域を維持でき、その極大共沸点を有する共沸混合物の沸騰領域よりも一酸化炭素ガスの流れにおける下流位置に実質的に水単一の沸騰領域を維持できる。また、共沸用装置の内部温度は、一酸化炭素ガスの流れの上流から下流に向かうに従い自然に低下する。よって、共沸用装置に水と蟻酸の共沸混合物の共沸点を超える温度で導入された水蒸気と蟻酸蒸気は、共沸用装置における温度低下により水と蟻酸の混合物の沸騰領域を生じる。
さらに、共沸用装置に導入された水が沸騰することで水蒸気が発生する。この共沸用装置への水の導入は連続的または断続的に行うのが好ましい。この共沸用装置に導入される水の流量を適当に設定することで、共沸用装置に導入される水蒸気に対する蟻酸蒸気の割合が、共沸混合物における水に対する蟻酸の割合よりも大きい場合に、共沸用装置に導入される全ての蟻酸蒸気と水蒸気から蟻酸と水の混合物の沸騰領域を生じさせ、その混合物の沸騰領域の下流位置に実質的に水単一の沸騰領域を生じさせることができる。
これにより、共沸用装置により蟻酸蒸気の下流への流出が防止される。一酸化炭素ガスは共沸用装置から水蒸気と共に流出し、しかる後に単離される。なお、共沸用装置における気液接触を完全なものにするのは現実的には困難である等の理由により、水単一の沸騰領域に僅かに蟻酸が混入する場合があり得るが、蟻酸が反応系外に流出するのを防止できるように、実質的に水単一の沸騰領域が共沸混合物の沸騰領域よりも下流に維持されればよい。
また、反応器の上方に共沸用装置を配置する場合、共沸用装置における蟻酸と水の混合物の一部は、共沸混合物の組成に近い蟻酸水として、重力により共沸用装置の内面を伝って下方に向かい流れ、共沸用装置から流出する。その共沸用装置から流出した蟻酸水の一部は水蒸気および蟻酸蒸気となって再び共沸用装置に導入されるが、残部は反応器に向かい流れる。すなわち、残余蟻酸を回収して反応系に戻すことができる。
【0008】
本発明装置は、少なくとも硫酸水溶液を含む加熱された反応液を貯留する反応器と、前記反応器内の反応液へ蟻酸を連続的に導入可能な蟻酸導入路と、蟻酸の脱水反応により生成される一酸化炭素ガスを前記反応器から流出させるための流出路とを備える一酸化炭素ガスの製造装置において、前記流出路に配置され、前記反応器内の反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気が一酸化炭素ガスと共に導入される共沸用装置と、前記共沸用装置に導入される水蒸気と残余蟻酸の蒸気を、その導入前に水と蟻酸の共沸混合物の共沸点を超える温度に加熱する加熱装置と、前記共沸用装置の内部に水と蟻酸の共沸混合物の沸騰領域を維持でき、前記共沸混合物の沸騰領域よりも一酸化炭素ガスの流れにおける下流位置に実質的に水単一の沸騰領域を維持できるように、前記共沸用装置を加熱する加熱装置と、前記共沸用装置に水を導入するための液体導入口と、前記共沸用装置から水蒸気と共に流出する一酸化炭素ガスを単離する単離装置とを備え、前記共沸用装置への水の導入流量は、前記共沸用装置の内部における水と蟻酸の混合物の沸騰領域の下流位置に、実質的に水単一の沸騰領域が生じるように設定されていることを特徴とする。
本発明装置によれば本発明方法を実施できる。
【0009】
本発明方法において、前記共沸用装置に導入する水として、前記共沸用装置から流出する水蒸気の凝縮水が用いられるのが好ましい。この場合、本発明装置は前記共沸用装置から流出する水蒸気の凝縮器と、前記凝縮器による凝縮水を前記液体導入口に導く液体還流路とを備えるのが好ましい。これにより、脱水反応により生成される水を有効利用できる。
【0010】
本発明装置において、前記共沸用装置20は、下端導入口20aと上端流出口20bとを有する充填塔または棚段塔により構成され、前記下端導入口20aと前記上端流出口20bとの間に前記液体導入口20cが配置されているのが好ましい。これにより、各沸騰領域を容易に生じさせることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硫酸水溶液を用いた蟻酸の連続的な脱水反応により一酸化炭素ガスを製造する際に、反応に供されない残余蟻酸が反応系外に流出するのを防止することで、一酸化炭素ガスの工業的な製造に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の一酸化炭素ガスの製造装置の構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る一酸化炭素ガスの製造装置1を示す。製造装置1は、少なくとも硫酸水溶液を含む反応液を貯留する反応器2と、反応器2内の硫酸水溶液を加熱する加熱装置3を備える。加熱装置3は、例えば加熱温度制御可能なヒーターにより構成され、反応器2に取り付けられる。
【0014】
反応器2内の反応液へ蟻酸を連続的に導入するための蟻酸導入路4が設けられている。蟻酸導入路4の一端は蟻酸供給源5に接続され、他端は反応器2内の反応液内に配置され、蟻酸導入路4を介して液体状の蟻酸が反応器2内の反応液へ流量制御弁等の流量制御器(図示省略)を介して予め設定された流量で導入される。これにより、硫酸水溶液に導入される蟻酸の脱水反応により一酸化炭素ガスと水が生成される。
【0015】
反応器2に貯留される硫酸水溶液の当初の濃度は特に限定されないが、脱水反応を速く立ち上げる場合は70重量%以上にするのが好ましい。反応器2内の硫酸水溶液の温度は140℃〜220℃とするのが好ましい。140℃以下では生産性が低下し、220℃以上では脱水反応に供される前に蒸発してしまう蟻酸量が増大する。反応器2に貯留される反応液は、蟻酸導入路4から蟻酸が導入される迄は硫酸水溶液であり、蟻酸の導入後は脱水反応に供されなかった残余蟻酸と硫酸水溶液の混合物である。蟻酸の濃度は特に限定されないが、工業的な見地からは50重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのがより好ましい。蟻酸の硫酸水溶液への導入速度は、反応温度等に応じて、一酸化炭素ガスを効率良く製造できるように適当な値に実験的に設定すればよい。
【0016】
蟻酸の脱水反応により生成される一酸化炭素ガスを反応器2から流出させるための流出路6が設けられている。流出路6は、一端が反応器2に接続され、一端から上方に向かい延び、他端が排出用配管7の一端に接続される。反応器2において発生した一酸化炭素ガスは流出路6の中を上方に向かい流れる。
【0017】
流出路6に、気液接触装置10と共沸用装置20が配置される。気液接触装置10と共沸用装置20は直列に配置され、一酸化炭素ガスの流れにおいて気液接触装置10は共沸用装置20の上流に位置する。本実施形態においては、気液接触装置10と共沸用装置20はそれぞれ充填塔により構成される。各充填塔に充填される充填物は特に限定されず、例えばラシヒリングを用いことができる。なお、各気液接触装置10、20は充填塔に限定されず、流動する気体と液体とを接触させることができるものであればよく、例えば泡鐘塔のような棚段塔や多孔板塔により構成してもよい。
【0018】
気液接触装置10と反応器2との間で反応液を循環させる循環装置11と、気液接触装置10内の反応液を加熱する加熱装置12が設けられている。循環装置11は、反応器2の内部と流出路6における気液接触装置10の上方領域とを連絡する配管11aと、配管11aの途中に配置される吐出流量を制御可能なポンプ11bを有する。ポンプ11bにより配管11aを介して気液接触装置10の上方に送られた反応器2内の反応液が、重力により落下することで気液接触装置10に上端流出口10bから導入され、しかる後に反応器2に還流する。これにより気液接触装置10と反応器2との間で反応液が循環する。加熱装置12は、例えば加熱温度制御可能なヒーターにより構成され、気液接触装置10の外周を覆うジャケットに内蔵され、気液接触装置10内の反応液を外部から加熱する。加熱装置12による加熱により、気液接触装置10における反応液の温度を反応器2における反応液の温度と同一温度以上であって220℃以下の温度にするのが好ましい。気液接触装置10の高さは、理論段数で3〜6段の性能を奏するように設定するのが好ましい。
【0019】
一酸化炭素ガスは反応器2における蟻酸の脱水反応により連続的に生成されることから、反応器2から流出路6に向かう一酸化炭素ガスの流れが生じる。これにより一酸化炭素ガスは、反応器2内の反応液の加熱により発生する水蒸気と共に気液接触装置10に下端導入口10aから導入される。さらに、反応器2内の反応液の加熱により残余蟻酸の蒸気が発生し、その残余蟻酸の蒸気も一酸化炭素ガスと共に気液接触装置10に下端導入口10aから導入される。気液接触装置10においては、気液接触装置10内の反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気とが、気液接触装置10に導入された一酸化炭素ガスと混合するように、一酸化炭素ガスと反応液とが接触される。気液接触装置10において、反応液は下方に向かい流れ、一酸化炭素ガスは上方に向かい流れるので、反応液と一酸化炭素ガスとの接触は向流接触になる。気液接触装置10に導入された一酸化炭素ガスは、水蒸気および残余蟻酸の蒸気と共に上端流出口10bから流出する。
【0020】
これにより、反応器2と気液接触装置10との間においては一酸化炭素ガスに含まれる水蒸気が飽和していなくても、気液接触装置10において一酸化炭素ガスに含まれる水蒸気を増加させることができ、さらに一酸化炭素ガスに水蒸気を飽和させることもできる。一方、硫酸水溶液の濃度は、脱水反応により生成される水の量と水蒸気として一酸化炭素ガスと共に流出する量とが釣り合う値に維持される。よって、生産性向上のために蟻酸導入速度を増加させることで、一酸化炭素ガスの発生量に対する水蒸気の発生量が相対的に低下しても、気液接触装置10において反応液に含まれる硫酸水溶液を濃縮できる。すなわち、硫酸水溶液の濃度が低下するのを高温で加熱することなく抑制し、硫酸水溶液を廃棄することなく連続して使用し、一酸化炭素ガスを工業的に製造する際の生産性を向上できる。また、気液接触装置10における硫酸水溶液の濃度が反応器2内の硫酸水溶液よりも高くなるので、気液接触装置10に導入された残余蟻酸の蒸気が硫酸水溶液と接触することにより、気液接触装置においては反応器2におけるよりも蟻酸が速い速度で分解し、一酸化炭素ガスの生産性を向上できる。
【0021】
共沸用装置20に、気液接触装置10から流出する一酸化炭素ガスが、水蒸気および残余蟻酸の蒸気と共に導入される。すなわち、反応器2内の反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気および気液接触装置10内の反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気が、生成された一酸化炭素ガスと共に共沸用装置20に下端導入口20aから導入される。
【0022】
共沸用装置20に下端導入口20aから導入される水蒸気と残余蟻酸の蒸気の温度は、その導入前に加熱装置3、12により加熱されることで、水と蟻酸の共沸混合物の共沸点を超える値とされる。標準大気圧において水単体の沸点は100℃、ギ酸単体の沸点は100.8℃である。一方、水と蟻酸の混合物は、水の組成が25.5重量%の時に共沸混合物になり、その共沸点は標準大気圧において107.7℃である。
【0023】
共沸用装置20の内部に水と蟻酸の共沸混合物の沸騰領域を維持でき、その極大共沸点を有する共沸混合物の沸騰領域よりも一酸化炭素ガスの流れにおける下流位置に(本実施形態では上方位置に)実質的に水単一の沸騰領域を維持できるように、共沸用装置20を加熱する加熱装置21が設けられている。加熱装置21は、例えば加熱温度制御可能なヒーターにより構成され、共沸用装置20の外周を覆うジャケットに内蔵される。共沸用装置20の上端流出口20bは非加熱領域である大気中に通じるものとされ、本実施形態では加熱装置21による加熱温度が一定とされることで、共沸用装置20の内部温度は一酸化炭素ガスの流れの上流から下流に向かうに従い低下するものとされている。共沸用装置20に下端導入口20aから導入される水蒸気と蟻酸蒸気の温度が共沸点よりも充分に高い場合、加熱装置21による加熱温度が共沸点未満でも、共沸用装置20の内部を水と蟻酸の共沸混合物の沸騰領域を維持できる共沸点以上にできる。実質的に水単一の沸騰領域を維持するためには、共沸用装置20の上端流出口20bでの温度を水の沸点にすればよい。加熱装置21による共沸用装置20の加熱温度の具体的な値は実験的に求めればよい。共沸用装置20の高さは、理論段数で5段以上の性能を奏するように設定するのが好ましい。
【0024】
共沸用装置20に水を連続的に導入可能な液体導入口20cが設けられている。タンク23に一端が接続される液体導入路22の他端が液体導入口20cに接続される。液体導入口20cは、共沸用装置20の下端導入口20aと上端流出口20bとの間に配置されている。これにより液体導入口20cは、共沸用装置20への水蒸気と残余蟻酸の蒸気の導入位置よりも一酸化炭素ガスの流れにおける下流位置に配置される。液体導入路22の途中に配置される吐出流量を制御可能なポンプ24により、タンク23に貯留された水が液体導入口20cを介して共沸用装置20に導入される。
【0025】
共沸用装置20への液体導入口20cを介する水の導入流量は、共沸用装置20の内部における水と蟻酸の混合物の沸騰領域の下流位置に、実質的に水単一の沸騰領域が生じるのに必要な流量に設定されている。
もし、共沸用装置20の下端導入口20aから導入される水蒸気に対する蟻酸蒸気の割合が、共沸混合物における水に対する蟻酸の割合よりも小さい場合、その水蒸気の一部と蟻酸蒸気は共沸用装置20における温度低下により水と蟻酸の混合物の沸騰領域を生じ、水蒸気の残部は水と蟻酸の混合物の沸騰領域の下流位置において、さらなる温度低下により実質的に水単一の沸騰領域を生じる。
しかし、もし液体導入口20cから水が導入されず、共沸用装置20の下端導入口20aから導入される水蒸気に対する蟻酸蒸気の割合が、共沸混合物における水に対する蟻酸の割合よりも大きい場合は、その水蒸気と蟻酸蒸気の一部は共沸用装置20における温度低下により水と蟻酸の混合物の沸騰領域を生じ、蟻酸蒸気の残部はその混合物の沸騰領域の下流位置において、さらなる温度低下により蟻酸単一の沸騰領域を生じる。
これに対し、共沸用装置20の下端導入口20aから導入される水蒸気に対する蟻酸蒸気の割合が、共沸混合物における水に対する蟻酸の割合よりも大きい場合に、液体導入口20cから水を導入することで、その導入された水は共沸用装置20内において水蒸気となるので、共沸用装置20に導入される全ての蟻酸蒸気と水蒸気から蟻酸と水の混合物の沸騰領域を生じさせ、その混合物の沸騰領域の下流位置に実質的に水単一の沸騰領域を生じさせることができる。この場合、液体導入口20cからの水の導入流量は、下端導入口20aから導入される全ての蟻酸蒸気が共沸用装置20内の水蒸気とから共沸混合物を生じるのに必要な値よりも大きい値に設定され、その具体的な設定値は実験的に求めればよい。これにより、工業的な一酸化炭素ガスの製造のために硫酸水溶液への蟻酸の導入速度が大きく、共沸用装置20の下端導入口20aから導入される水蒸気に対する蟻酸蒸気の割合が、共沸混合物における水に対する蟻酸の割合よりも大きい場合に、共沸用装置20から蟻酸蒸気が下流に流出するのを防止できる。なお、共沸用装置20において沸騰領域を構成する水と蟻酸の混合物の組成は、例えば残余蟻酸の蒸気や水蒸気の発生量の変動等により変動するが、共沸混合物の組成あるいは共沸混合物の組成に近い組成に維持される。これにより、蟻酸が反応系外に流出するのが防止される。
また、反応器2の上方に気液接触装置10が配置され、気液接触装置10の上方に共沸用装置20が配置されることで、共沸用装置20における蟻酸と水の混合物の一部は、共沸混合物の組成に近い蟻酸水として、重力により共沸用装置20の内面を伝って下方に向かい流れ、共沸用装置20の下端導入口20aから流出する。その共沸用装置20から流出した蟻酸水の一部は水蒸気および蟻酸蒸気となって再び共沸用装置20に導入されるが、残部は反応器2に向かい流れる。その反応器2に向かい流れる蟻酸水を構成する蟻酸は、気液接触装置10において硫酸水溶液と接触することで分解され、これにより一酸化炭素ガスが生成される。さらに、蟻酸水の一部が気液接触装置10を通過して反応器2に回収されることになる。すなわち、残余蟻酸を回収して反応系に戻すことができる。
なお、共沸用装置20への水の導入は液体導入口20cからに限定されず、液体導入口20cに代えて、あるいは液体導入口20cと共に、下端導入口20aおよび/又は上端流出口20bから導入してもよい。
【0026】
気液接触装置10から水蒸気および残余蟻酸の蒸気と共に流出した一酸化炭素ガスは、共沸用装置20から水蒸気と共に流出し、しかる後に単離装置30により単離される。本実施形態の単離装置30は、流出路6に接続される凝縮器30aと、凝縮器30aに接続される気液分離器30bを有する。凝縮器30aにおいて一酸化炭素ガスと共に流出した水蒸気が凝縮され、気液分離器30bにおいて凝縮水から一酸化炭素ガスが分離される。単離された一酸化炭素ガスは大気圧下において回収される。これにより、反応器2、気液接触装置10および共沸用装置20の内部における圧力も大気圧とされる。
【0027】
単離された一酸化炭素ガスの一部を、反応器2の中に反応液に接触するように還流させるためのガス還流路31が設けられている。なお、単離された一酸化炭素ガスの一部を、反応器2ではなく気液接触装置10内の反応液に接触するように還流させるため、図中破線で示すようにガス還流路31′を設けてもよい。また、両還流路31、31′を設けてもよい。
【0028】
気液分離器30bにおいて一酸化炭素ガスから分離された水は、上記タンク23に導入される。これにより液体導入路22は、凝縮器30aにより凝縮された水を液体導入口20cに導く液体還流路を兼用する。なお、凝縮器30aによる凝縮水ではなく、別個独立した水源から水を液体導入口20cを介して共沸用装置20に導入してもよい。また、共沸用装置20の上端流出口20bの近傍に、水の沸騰領域に通じる開閉コック付取水口20dを設けることで、水を上端流出口20bから蒸気の状態で取り出すだけでなく、液体の状態でも取り出すようにしてもよい。その取水口20dから取り出した水を、液体導入口20cから共沸用装置20に還流させてもよい。
【実施例1】
【0029】
上記実施形態の製造装置1を用いて以下の実験を行った。
反応器2の容積は2000mlとし、そこに当初の反応液として濃度96重量%の硫酸水溶液1000gを貯留し、180℃に加熱した。
反応器2内の加熱された反応液に、純度100%の蟻酸を100g/分の流量で連続的に導入した。これにより、蟻酸の脱水反応によって一酸化炭素ガスと水を生成し、気液接触装置10に、反応器2内の反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気を、一酸化炭素ガスと共に下端導入口10aから導入した。なお、共沸用装置20の下端導入口20aから導入される水蒸気に対する蟻酸蒸気の割合が、共沸混合物における水に対する蟻酸の割合よりも大きくなるように、蟻酸の導入速度は大きくされている。
気液接触装置10は、内径10cm、長さ20cmのガラス製カラムにより構成し、そこに直径6mm、長さ6mm、厚さ0.4mmの磁性ラシヒリングを充填した。
循環装置11により反応器2と気液接触装置10との間で反応液を60ml/分の流量で循環させた。
気液接触装置10内の反応液を加熱装置12により200℃で加熱し、反応器2における反応液の温度以上にした。
気液接触装置10において一酸化炭素ガスと反応液とを接触させ、気液接触装置10における反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気を一酸化炭素ガスと混合し、共沸用装置20に水蒸気と残余蟻酸の蒸気を一酸化炭素ガスと共に下端導入口20aから導入した。
共沸用装置20は、内径10cm、長さ100cmのガラス製カラムにより構成し、そこに気液接触装置10に充填したものと同じ磁性ラシヒリングを充填した。
共沸用装置20を外部から加熱装置12によって約110℃で加熱し、共沸用装置20の内部に水と蟻酸の共沸混合物の沸騰領域を維持でき、その共沸混合物の沸騰領域よりも一酸化炭素ガスの流れにおける下流位置に実質的に水単一の沸騰領域を維持でき、気液接触装置10の内部温度が一酸化炭素ガスの流れの上流から下流に向かうに従い低下するようにした。
共沸用装置20の液体導入口20cを、下端導入口20aから上方20cmの位置に設けた。共沸用装置20にタンク23内の水を液体導入口20cから連続的に導入した。その液体導入口20cからの水の導入流量は、共沸用装置20の内部における水と蟻酸の混合物の沸騰領域の下流位置に、実質的に水単一の沸騰領域が生じるように200ml/分に設定した。
共沸用装置20の上端流出口20bから一酸化炭素ガスと共に流出する蒸気を、凝縮器30aとして用いたリービッヒコンデンサにおいて約5℃の冷水を循環させることで凝縮した。凝縮された液体と一酸化炭素ガスを気液分離器30bにおいて分離することで一酸化炭素ガスを単離した。凝縮された液体はタンク23に導入した。
製造装置1の約5時間にわたる連続運転の結果、凝縮された液体の平均増加速度は38.4g/分であり、一酸化炭素ガスの平均増加速度は標準状態の乾燥体積で47.1リットル/分であり、一酸化炭素ガスの収率は96.7%であった。凝縮された液体は蟻酸が0.16重量%で、残りが水であった。
【実施例2】
【0030】
以下の条件以外は実施例1と同様の実験を行った。
反応器2の反応液の加熱温度:200℃
反応器2の反応液への蟻酸の導入流量:50g/分
気液接触装置10の反応液の加熱温度:210℃
反応液の循環流量:50ml/分、
液体導入口20cからの水導入流量:30ml/分
他は実施例1と同様とした。
製造装置1の約5時間にわたる連続運転の結果、凝縮された液体の平均増加速度は19.4g/分であり、一酸化炭素ガスの平均増加速度は標準状態の乾燥体積で23.3リットル/分であり、一酸化炭素ガスの収率は95.7%であった。凝縮された液体は蟻酸が0.09重量%で、残りが水であった。
【実施例3】
【0031】
以下の条件以外は実施例1と同様の実験を行った。
共沸用装置20の外部加熱温度を約80℃とし、取水口20dから開閉コックを介して断続的に取り出した水の一部を、液体導入口20cから共沸用装置20に導入した。
他は実施例1と同様とした。
製造装置1の約5時間にわたる連続運転の結果、凝縮された液体の平均増加速度は38.1g/分であり、一酸化炭素ガスの平均増加速度は標準状態の乾燥体積で46.8リットル/分であり、一酸化炭素ガスの収率は96.1%であった。凝縮された液体は蟻酸が0.05重量%で、残りが水であった。
【0032】
上記実施例から、硫酸水溶液を廃棄することなく、工業的な生産に適した条件で一酸化炭素ガスを高い収率で製造でき、また、蟻酸が反応系外に流出するのを実質的に防止できることを確認できる。なお、上記実施例では蟻酸が僅かに反応系外に流出しているが、これは共沸用装置における気液接触を完全なものにするのは現実的には困難であることに基づくものであり、共沸用装置を長くすれば反応系外への流出量をほぼ零にすることもできる。
【0033】
本発明は上記実施形態や実施例に限定されない。例えば気液接触装置10は本発明に必須の構成ではない。
【符号の説明】
【0034】
1…一酸化炭素ガスの製造装置、2…反応器、3…加熱装置、4…蟻酸導入路、6…流出路、10…第1気液接触装置、11…循環装置、12…加熱装置、20…共沸用装置、20c…液体導入口、21…加熱装置、22…液体還流路、30…単離装置、30a…凝縮器、31…ガス還流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内の少なくとも硫酸水溶液を含む加熱された反応液に連続的に導入される蟻酸の脱水反応によって、一酸化炭素ガスと水を生成する工程を備える一酸化炭素ガスの製造方法において、
前記反応器からの一酸化炭素ガスの流出路に配置される共沸用装置に、生成された一酸化炭素ガスと共に、前記反応器内の反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気を導入する工程と、
前記共沸用装置の内部に水と蟻酸の共沸混合物の沸騰領域を維持でき、前記共沸混合物の沸騰領域よりも一酸化炭素ガスの流れにおける下流位置に実質的に水単一の沸騰領域を維持できるように、前記共沸用装置を加熱する工程と、
前記共沸用装置に水を導入する工程と、
前記共沸用装置から水蒸気と共に流出する一酸化炭素ガスを単離する工程とを備え、
前記共沸用装置への水の導入流量を、前記共沸用装置の内部における水と蟻酸の混合物の沸騰領域の下流位置に、実質的に水単一の沸騰領域が生じるように設定することを特徴とする一酸化炭素ガスの製造方法。
【請求項2】
前記共沸用装置に導入する水として、前記共沸用装置から流出する水蒸気の凝縮水が用いられる請求項1に記載の一酸化炭素ガスの製造方法。
【請求項3】
少なくとも硫酸水溶液を含む加熱された反応液を貯留する反応器と、前記反応器内の反応液へ蟻酸を連続的に導入可能な蟻酸導入路と、蟻酸の脱水反応により生成される一酸化炭素ガスを前記反応器から流出させるための流出路とを備える一酸化炭素ガスの製造装置において、
前記流出路に配置され、前記反応器内の反応液の加熱により発生する水蒸気と残余蟻酸の蒸気が一酸化炭素ガスと共に導入される共沸用装置と、
前記共沸用装置に導入される水蒸気と残余蟻酸の蒸気を、その導入前に水と蟻酸の共沸混合物の共沸点を超える温度に加熱する加熱装置と、
前記共沸用装置の内部に水と蟻酸の共沸混合物の沸騰領域を維持でき、前記共沸混合物の沸騰領域よりも一酸化炭素ガスの流れにおける下流位置に実質的に水単一の沸騰領域を維持できるように、前記共沸用装置を加熱する加熱装置と、
前記共沸用装置に水を導入するための液体導入口と、
前記共沸用装置から水蒸気と共に流出する一酸化炭素ガスを単離する単離装置とを備え、
前記共沸用装置への水の導入流量は、前記共沸用装置の内部における水と蟻酸の混合物の沸騰領域の下流位置に、実質的に水単一の沸騰領域が生じるように設定されていることを特徴とする一酸化炭素ガスの製造装置。
【請求項4】
前記共沸用装置は、下端導入口と上端流出口とを有する充填塔または棚段塔により構成され、前記下端導入口と前記上端流出口との間に前記液体導入口が配置されている請求項3に記載の一酸化炭素ガスの製造装置。
【請求項5】
前記共沸用装置から流出する水蒸気の凝縮器と、
前記凝縮器による凝縮水を前記液体導入口に導く液体還流路とを備える請求項3または4に記載の一酸化炭素ガスの製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−51853(P2011−51853A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203717(P2009−203717)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】