説明

三交差変超波真空破砕装置

【課題】
本発明の解決すべき課題は大量の細胞を効率的に、かつ化学的な負荷をかけずに破砕する装置を提供することにある。
【解決手段】
内部に破砕対象となる生細胞含有試料を封入する真空破砕容器16と、真空破砕容器16に照射方向が向けられた少なくとも3つの超音波発生手段18,20,22と、前記超音波発生手段18,20,22の超音波強度および周波数を調整可能な変超手段24と、を備えたことを特徴とする三交差変超波真空破砕装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は破砕装置、特に細胞を破砕する三交差変超波真空破砕装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内の各種成分を抽出するため細胞の破砕を行う必要があるが、生細胞破砕を大量に行うためには細胞に対し過度の負荷を長時間に渡ってかけることは避ける必要がある。
しかしながら、細胞、特に動物の細胞は細胞壁を有さず、物理的強度は低いものの弾力性に富み、細胞破砕を大量に、かつ定量的に行うには高度な技術が必要であった。
【0003】
従来においても、このような比較的小さい対象物を温和な条件で破砕する為、超音波照射が用いられることがあり、たとえば特許文献1に記載の装置などを利用することもあったが、破砕にムラを生じやすく、破砕率で見ると必ずしも満足の行くものではなかった。
【0004】
一方、細胞に対して各種の物質を注入することも行われている。細胞内導入成分が低分子物質であると、細胞の吸収に期待することもできるが、たんぱく質、あるいは遺伝子などの高分子物質については強制的な導入を図らなくてはならず、たとえば毛細管を用いて細胞に注射するなどの高度な技術を要求される手動操作が必要とされた。
【特許文献1】特開2005−211837
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は比較的小さい対象物を効率的に、かつ化学的な負荷をかけずに破砕する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明にかかる三交差変超波真空破砕装置は、
内部に破砕対象となる試料を封入する真空破砕容器と、
真空破砕容器に照射方向が向けられた少なくとも3つの超音波発生手段と、
前記超音波発生手段の超音波強度および周波数を調整可能な変超手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、前記装置において、前記真空破砕容器は、その真空度が1〜10−3Paであることが好適である。
また、前記装置において、変超手段は、各超音波発生手段の発振周波数を17〜20KHzの範囲で調整可能であることが好適である。
また、前記装置において、該装置は細胞破砕するものであることが好適である。
また、前記装置において、該装置は細胞分散媒中の高分子物質を細胞内に導入するものであることが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる破砕装置によれば、超音波を三交差にかつ真空状態で破砕対象物に照射することにより、きわめて効率よく、且つ均一に破砕を行うことができる。
また、破砕対象を精細胞とした場合、細胞膜の一部を破砕する程度に抑制し、かつ細胞の分散媒に遺伝子或いはたんぱく質などの高分子物質を共存させておくことにより、細胞内に該高分子物質を効率的に取り込ませることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる三交差変超波真空破砕装置の概略構成を示す側面図が示されている。
同図に示す破砕装置10は、装置本体12上面に設けられた処理タンク14と、該処理タンク14内に配置された真空破砕容器16と、前記処理タンク14底部に設けられた3台の超音波発生器18,20,22と、該超音波発生器18,20,22の超音波強度、周波数を各発生器個別に調整可能な操作パネルを供えた変超器24とを備える。
【0010】
前記処理タンク14は、底面が逆台形状に第一傾斜面14a、水平底面14b、第二傾斜面14cを有しており、各面に前記超音波発生器18,20,22の発振面18a,20a,22aが配置されている。
【0011】
また、処理タンク14内には振動(超音波)の伝播が良好な金属製ないしガラス製の真空破砕容器16が配置されている。そして、前記各超音波発生器18,20,22の発振面18a,20a,22aの法線が真空破砕容器16内で交差するように設定されており、処理タンク14および真空破砕容器16内には水が注入されている。さらに、真空破砕容器16内には、超音波を透過しやすいガラス製容器26が複数配置可能である。
【0012】
前記変超器24は、各超音波発生器18,20,22に対し、発振周波数、発振強度、照射方法(連続照射か間欠照射か)及び間欠照射の場合の単位照射時間、単位休止時間、処理時間等を設定することができ、また処理タンク14の水温、真空破砕容器16の減圧度等も同一パネル上で設定することができる。無論、これらは別途装置に接続するコンピュータなどにより設定することも好適である。
【0013】
なお、真空破砕容器16は、ホルダ28を介して処理タンク14に取り付けられており、該ホルダ28ごと真空破砕容器16を設置、取り外しすることができる。該ホルダ28の詳細構造が図2に示す装置上面図に示されており、同図より明らかなようにホルダ28は矩形枠からなるハンドル28aと、破砕容器16の頂部を保持する保持パネル28bを備え、保持パネル28bの両端部は装置本体12の上面に固定されている。
【0014】
さらに、本実施形態においては、破砕容器16の頂部に試料液導入バルブ32を、底部に試料液排出バルブ34を備える。そして、排出バルブ34は排出管36を介して図示を省略したペリスタポンプに接続され、試料液の連続導入、連続排出を可能にしている。
【0015】
本実施形態にかかる三交差変超波真空破砕装置は概略以上のように構成され、次にその動作について説明する。
[細胞破砕]
まず、細胞分散液を注入したガラス製容器26を真空破砕容器16内に配置し、真空破砕容器(約3L容)16を密封し、処理タンク(約12L容)14に設置する。そして、図示を省略した真空ポンプにより減圧バルブ30を介して減圧する。減圧は通常の動物細胞を対象とした場合、1〜10−3Pa程度とすることが好適である。
そして、変超器により超音波発生器に発振指示を与える。この際、第一、第二及び第三超音波発生器には次のような指示を与える。
【0016】
表1
発振周波数 発振強度
第一超音波発生器 20KHz 200W
第二超音波発生器 20KHz 200W
第三超音波発生器 20KHz 200W
【0017】
なお、超音波照射は一単位10秒とし、非照射時間も一単位10秒とした。そして、この一単位の超音波照射、非照射を1時間行った。
この結果、細胞の破砕率は約100%(顕微鏡観察)となった。
【0018】
第一及び第二超音波発生器のみを駆動させた二交差超音波破砕器を用いた場合には破砕率は約40%であり、また第一、第二及び第三超音波発生器を駆動させるが、大気下で処理した場合には破砕率は50%であった。
【0019】
[遺伝子注入]
前記細胞破砕と同様に、細胞分散液を注入したガラス製容器26を真空破砕容器16内に配置し、真空破砕容器16を密封し、図示を省略した真空ポンプにより減圧バルブ30を介して減圧する。減圧は通常の動物細胞を対象とした場合、10−2Pa程度とすることが好適である。
そして、変超器により超音波発生器に発振指示を与える。この際、第一、第二及び第三超音波発生器には次のような指示を与える。
【0020】
表2
発振周波数 発振強度
第一超音波発生器 19KHz 150W
第二超音波発生器 19KHz 150W
第三超音波発生器 19KHz 150W
【0021】
なお、超音波照射は一単位3秒とし、非照射時間は一単位10秒とした。そして、この一単位の超音波照射、非照射を0.5時間行った。
この結果、細胞への遺伝子導入率は約50%となった。
【0022】
第一及び第二超音波発生器のみを駆動させた二交差超音波破砕器を用いた場合には導入率は10〜20%であり、また第一、第二及び第三超音波発生器を駆動させるが、大気下で処理した場合にも導入率は10〜20%であった。
【0023】
[周波数と導入率]
次に本発明者らは照射超音波の周波数と遺伝子導入率について検討を行った。発振周波数を調整したほかは、前記細胞部分破砕−遺伝子注入と同様の条件である。
【0024】
表3
発振周波数(Hz) 17 19 20
導入率 40% 50% 45%
【0025】
なお、本発明にかかる装置を細胞内への遺伝子導入に用いた場合、細胞の種類により好適な発振周波数、発振強度が異なる場合がある。
さらに、本発明においては三交差となるように超音波を照射するため、試料液の連続処理を行う際にも均一な破砕作用を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる三交差変超波真空破砕装置の側断面図である。
【図2】図1に示した装置の上面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 三交差変超波真空破砕装置
16 真空破砕容器
18,20,22 超音波発振器
26 変超器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に破砕対象となる試料を封入する真空破砕容器と、
真空破砕容器に照射方向が向けられた少なくとも3つの超音波発生手段と、
前記超音波発生手段の超音波強度および周波数を調整可能な変超手段と、
を備えたことを特徴とする三交差変超波真空破砕装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、前記真空破砕容器は、その真空度が1〜10−3Paであることを特徴とする三交差変超波真空破砕装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の装置において、前記変超手段は、各超音波発生手段の発振周波数を17〜20KHzの範囲で調整可能であることを特徴とする三交差変超波真空破砕装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、該装置は細胞破砕するものであることを特徴とする三交差変超波真空破砕装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の装置において、該装置は細胞分散媒中の高分子物質を細胞内に導入するものであることを特徴とする三交差変超波真空破砕装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−82862(P2009−82862A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258356(P2007−258356)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(302051083)エレコン科学株式会社 (6)
【Fターム(参考)】