説明

三次元形状造形物の製造方法

【課題】金属粉末材料層を薄く形成することが可能な三次元形状造形物の製造方法を提供すること。
【解決手段】金属の粉末材料Pの層の所定箇所に光ビームLを照射して当該箇所の粉末を焼結することで形成された焼結層mの表面上に新たな粉末材料Pの層を形成し、この新たな粉末材料Pの層の所定箇所に光ビームLを照射して当該箇所の粉末材料Pを焼結することで下層の焼結層mと一体となった新たな焼結層mを形成するという工程を繰り返して、複数の焼結層mが積層一体化された三次元形状造形物Mを製造するにあたり、前記下層の焼結層mの表面に新たな粉末材料Pの層を形成する前に当該下層の焼結層mの表面に接着剤gを散布し、その後、当該接着剤gが散布された焼結層mの表面に新たな粉末材料Pの層を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、金属粉末材料の層に光ビームを照射して焼結層を形成する工程を繰り返すことにより、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属粉末材料で形成された層に光ビームを照射して焼結層を形成する工程を繰り返すことにより、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
金属光造形と称されているこの技術においては、光ビームのエネルギー密度の調整により、金属粉末がほぼ完全に溶融した後に固化した状態(すなわち、焼結密度がほぼ100%の状態)を得ることができる。この状態を経て得られた造形物の表面(焼結層の表面)は非常に滑らかな面とすることができるので、滑らかな表面が要求される成形用金型等を製造する方法に適している。
【特許文献1】特開2005−48234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高精度な三次元形状造形物を形成するためには、微細な金属粉末材料の層をできるだけ薄くすることが必要である。
【0005】
しかしながら、焼結層の表面が滑らかになるとその滑らかな表面の上に薄く金属粉末材料の層を形成することが困難となる。その結果、滑らかな表面を有する高精度な三次元形状造形物を形成することが困難となる。
【0006】
本願発明は上記問題に鑑みなされたものであり、金属粉末材料層を薄く形成することが可能な三次元形状造形物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき説明する。
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明では、金属粉末材料の層の所定箇所に光ビームを照射して当該箇所の粉末材料を焼結することで形成された焼結層の表面上に新たな粉末材料の層を形成し、この新たな粉末材料の層の所定箇所に光ビームを照射して当該箇所の粉末材料を焼結することで下層の焼結層と一体となった新たな焼結層を形成するという工程を繰り返して、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造するにあたり、前記下層の焼結層の表面に新たな粉末材料の層を形成する前に当該下層の焼結層の表面に当該表面の滑り抵抗を大きくする材料を配し、その後、当該当該滑り抵抗を大きくする材料が配された焼結層の表面に新たな粉末材料の層を積層することを特徴としている。
【0009】
これによると、下層の焼結層の表面に滑り抵抗を大きくする材料を配しているので、下層の焼結層の表面上を金属粉末材料が滑りにくくなり、下層の焼結層の表面に薄く粉末材料の層を形成することが容易となる。この結果、製造される三次元形状造形物の精度を高めることが可能となる。
【0010】
なお、下層の焼結層の表面に滑り抵抗を大きくする材料としては、アクリルゴム系スプレーのり等の接着剤を用いることが可能である。
【0011】
下層の焼結層の表面に滑り抵抗を大きくする材料を配することで、請求項2に記載の発明のように、平均粒径が1μm以上100μm以下の微細な粉末材料で形成される粉末層を薄く形成することが可能となる。そして、微細な粉末層を薄く形成することが可能となるので、滑らかな表面を有する高精度な三次元形状造形物を形成することが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、光ビームの照射による前記粉末材料の層の焼結を、当該光ビームが照射された部分から発生するヒュームを吸引しながら行うことを特徴としている。これにより、ヒュームにより光ビームの照射状態に悪影響が及ぶことを抑制でき、所望の強度を有する三次元形状造形物を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の三次元形状造形物の製造方法においては、粉末層を形成する工程の前に接着剤を散布する工程を行うものとしたので、下層の焼結層の表面に薄く且つ均一な厚さの粉末材料の層を形成することが容易となる。この結果、製造される三次元形状造形物の精度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下本発明に係る三次元形状造形物の製造方法を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る三次元形状造形物製造装置の概略を示す斜視図であり、図2は三次元形状製造物製造装置の要部を模式的に示す縦断面図である。
【0015】
図1および図2に示すように、三次元形状造形物製造装置(以下単に「製造装置」と呼ぶ)1は、造形部10と供給部20とを備えている。
【0016】
供給部20はタンク状をなしており、その底面部22は昇降自在となっている。供給部20の内部には造形に用いられる金属の粉末材料Pが収容されている。本実施形態では、金属粉末材料Pは、クロムモリブデン鋼(SCM440)、ニッケル(Ni)、銅マンガン合金(CuMnNi)及び黒鉛(C)の混合粉末であり、
(70%SCM440−20%Ni−9%CuMnNi)+0.3%C
の配合割合のものが用いられる。また、本実施形態の金属粉末材料Pは平均粒径が約10μmの略球状のものが用いられる。
【0017】
造形部10は供給部20に隣接して設けられており、供給部20と同様のタンク状をなしている。そして、造形部10の底面部11も供給部20の底面部22と同様に昇降自在となっている。底面部11上には造形台12が設置されており、造形台12の上に粉末材料Pを焼結させてなる焼結層mが順次積み重ねられて造形物Mが作製される。
【0018】
移送ブレード30は、供給部20から造形部10に粉末材料Pを移送し、造形部10上に所定の厚みΔtの粉末層を形成するためのものである。移送ブレード30は、造形部10および供給部20の内寸よりも長い板状をなし、両端が往復動装置32に支持されている。移送ブレート30は、供給部20の外側から供給部20および造形部10の上方を通過して造形部10の外側まで水平移動する。移送ブレード30が造形部10の上方を通過する際、移送ブレード30の下部は造形台12との距離を一定に保って平行に移動できるようになっている。この結果、移送ブレード30で粉末材料Pを造形台12上に移送しつつ、造形台12又はその上に形成された焼結層mの上に均一の厚さΔtの粉末層を形成できるようになっている。
【0019】
造形部10の上方には、レーザ光などの光ビームLを照射する光ビーム照射装置40が配置されている。光ビーム照射装置40は、照射器42から照射された光ビームLを、ガルバノミラー等の複数の可動鏡43、44やレンズ45を組み合わせた光学系で偏向させたり集束させたりして、造形部10上の粉末層に照射する。可動鏡43、44などの光偏向装置は図示しないコンピュータなどで制御され、光ビームLの照射位置や焦点位置などが変えられる。
【0020】
造形部10の上方には、接着剤噴射装置50が設けられている。接着剤噴射装置50は、接着剤噴射ノズル51と接着剤用タンク55とを有しており、両者は可撓性のホース53で接続されている。接着剤噴射装置50を作動させると接着剤gが接着剤用タンク55からホース53を介して接着剤噴射ノズル51に供給される。そして、霧状となった接着剤gが接着剤噴射ノズル51から下方に向けて噴射されるようになっている。接着剤噴射ノズル51は、支持バー52に移動自在に取り付けられている。支持バー52は、造形部10および供給部20の両外側に沿って配置された案内駆動部54に支持されており、案内駆動部54に沿って移動可能となっている。その結果、接着剤噴射ノズル51は造形部10の上方においてXY両方向に自由に移動することができ、接着剤噴射装置50で造形部10上の所望の位置に接着剤gを散布することができるようになっている。なお、本実施形態では、接着剤としてアクリルゴム系スプレーのりを用いている。
【0021】
図2に示すように、製造装置1の全体が、密閉空間を構成する加工室60に収容されている。但し、光ビーム照射装置40の大部分は加工室60の外部に設置されていて、光ビームLは、加工室60の天面に設けられたレンズ45を通して加工室60の内部へと照射される。加工室60の壁面には吸排気口62を介して配管64およびバルブ63が接続されており、加工室60に圧力空気を送り込んだり、排気吸引したり、所望のガス雰囲気を作り出したりすることができるようになっている。
【0022】
以下、上述の構成の製造装置1を用いた三次元形状造形物の製造方法を説明する。図3(a)から(f)は、本実施形態に係る三次元形状造形物の製造工程を模式的に示すための図である。また図4は、三次元形状造形物の製造装置により製造される三次元形状造形物の一例を示す斜視図である。
【0023】
まず、図3(a)に示すように、接着剤噴射種装置50により、造形台12の上面全体に接着剤gを散布する(第1接着剤散布工程)。この際、接着剤gは、薄くかつ均一に散布することが好ましい。
【0024】
次に、供給部20の底面部22を少し上昇させることで粉末材料Pの一部を供給部20の上面部よりも少し上昇させる。また、造形部10の底面部11を下降させることにより、造形台12の上面を造形部10の上面よりも下降させる。この際、造形台12の上面と移送ブレード30の下部との間隔がΔtとなるように底面部11の下降距離が設定される。なお、本実施形態では、Δtは20μmとしている。
【0025】
そして図3(b)に示すように、供給部20の上面よりも上昇した部分の粉末材料Pを移送ブレード30で押し動かして造形台12の上面に供給し、造形台22の上に所定の厚さΔtの第1粉末層を形成する(第1粉末層形成工程)。
【0026】
この後、図3(c)に示すように、第1粉末層の所定箇所に光ビームLを照射し、当該照射箇所の粉末材料Pを溶融して焼結させることで、第1の焼結層mを形成する(第1焼結層形成工程)。なお、光ビームLを照射した際に造形台12上に散布した接着剤gは高温になって蒸発するため、第1の焼結層mには接着剤gはほとんど残らない。
【0027】
次に、図3(d)に示すように、接着剤噴射種装置50により、第1の焼結層m上に接着剤gを散布する(第2接着剤散布工程)。
【0028】
次に、供給部20の底面部22を少し上昇させることで粉末材料Pの一部を供給部20の上面部よりも少し上昇させる。また、造形部10の底面部11を下降させることにより、第1の焼結層mの上面を造形部10の上面よりも下降させる。この際、第1の焼結層mの上面部と移送ブレード30の下部との間隔がΔtとなるように底面部11の下降距離が設定される。そして図3(e)に示すように、供給部20の上面よりも上昇した部分の粉末材料Pを移送ブレード30で押し動かして第1の焼結層mの上面部に供給し、第1の焼結層mの上に所定の厚さΔtの第2粉末層を形成する(第2粉末層形成工程)。
【0029】
この後、図3(f)に示すように、第2粉末層の所定箇所に光ビームLを照射し、当該照射箇所の粉末を溶融して焼結させることで、第2の焼結層mを形成する(第2焼結層形成工程)。第2の焼結層mとその下の第1の層の焼結層mとは融着一体化されて三次元形状造形物Mの一部を構成する。
【0030】
この後、第2接着剤散布工程、第2粉末層形成工程及び第2焼結層形成工程と同様の工程を必要な回数繰り返すことにより、図4に示すような所望の形状の三次元形状造形物Mが製造される。
【0031】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0032】
本実施形態では、粉末層成形工程の前に接着剤散布工程を行っている。接着剤gを造形台12又は焼結層mの上面に散布することにより、造形台12又は焼結層mの表面の滑り抵抗を大きくすることができ、粉末材料Pが造形台12又は焼結層mの表面を滑りにくくすることができる。この結果、平均粒径約10μmという微細な金属粉末材料Pで形成される粉末層を薄く且つ均一の厚さに形成することが可能となる。そして、微細な粉末層を薄く且つ均一に形成することが可能となるので、滑らかな表面を有する高精度な三次元形状造形物を形成することが可能となる。
【0033】
なお本実施形態では、第1接着剤散布工程において造形台12の上面全体に接着剤gを散布することにより造形台12の表面の滑り抵抗を大きくしたが、造形台12の上面全体を予め粗面加工しておくことにより、造形台12の表面の滑り抵抗を大きくしてもよい。この場合、平均表面粗さが1μmRa以上5μmRa以下、最大表面粗さが5μmRz以上20μmRz以下程度の粗面加工処理を行うことが好ましい。
【0034】
[第2実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る三次元形状造形物の製造方法について、図5を参照して説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0035】
図5は本実施形態に係る三次元形状造形物の製造工程のうち焼結層形成工程を模式的に示すための図である。本実施形態では、製造装置1はヒューム吸引装置70が設けられている。ヒューム吸引装置70はエアポンプ及びフィルタを含んで構成され、吸い込み口73から加工室60内の雰囲気ガスを吸引してフィルタに通すことでヒュームや飛散した粉末を捕捉するためのものである。本実施形態では、焼結層形成工程において光ビームLを照射する際にヒューム吸引装置70を作動させる。
【0036】
粉末層に光ビームLを照射して粉末を焼結させる際、ヒューム(粉末が金属粉末であれば金属蒸気など)が発生する。このヒュームは上昇して上方位置にあるレンズ45に付着したり焼き付いたりしてレンズ45を曇らせる虞がある。レンズ45が曇ると光ビームLの透過率が低下し、焼結の不安定化や焼結部分の低密度化の原因となり、三次元形状造形物の強度が低下してしまうといった問題を招く。この点本実施形態では、焼結層形成工程において光ビームLを照射する際にヒューム吸引装置70を作動させている。これにより、光ビームLを照射して粉末を焼結させる際に発生するヒュームを吸引することができるので、ヒュームがレンズ45に付着したり焼き付いたりすることを抑制することが可能となる。この結果、レンズ45の状態及び光ビームLの照射状態を良好に維持することにより所望の強度を有する三次元形状造形物を製造することが可能となる。
【0037】
なお、本発明は上記実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施しても良い。
【0038】
金属粉末材料は上述のものに限られず、他のものを用いることも可能である。また、粉末材料の粒径も上述のものに限られない。粉末材料の粒径に関しては、1μm以上100μm以下程度のものを用いれば滑らかな表面の三次元形状造形物を形成することが可能であり、特に1μm以上20μm以下程度のものを用いることが好ましい。また、使用する粉末材料の粒径や要求される精度に応じて、粉末層の厚みΔtは適宜変更することが可能である。
【0039】
本実施形態では、接着剤gを用いて焼結層mの表面の滑り抵抗を大きくしたが、他の材料を焼結層mの表面に配することで焼結層mの表面の滑り抵抗を大きくしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本願発明の第1実施形態に係る三次元形状造形物製造装置の概略を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る三次元形状製造物製造装置の要部を模式的に示す縦断面図である。
【図3】第1実施形態に係る三次元形状造形物の製造工程を模式的に示すための図である。
【図4】三次元形状造形物の製造装置により製造される三次元形状造形物の一例を示す斜視図である。
【図5】第2実施形態に係る三次元形状造形物の製造工程のうち焼結層形成工程を模式的に示すための図である。
【符号の説明】
【0041】
1…三次元形状造形物製造装置、10…造形部、11…底面部、12…造形台20…供給部、22…底面部、30…移送ブレード、40…光ビーム照射装置、50…接着剤噴射装置、m…焼結層、M…三次元形状造形物、P…粉末材料、g…接着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末材料の層の所定箇所に光ビームを照射して当該箇所の粉末材料を焼結することで形成された焼結層の表面上に新たな粉末材料の層を形成し、この新たな粉末材料の層の所定箇所に光ビームを照射して当該箇所の粉末材料を焼結することで下層の焼結層と一体となった新たな焼結層を形成するという工程を繰り返して、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造するにあたり、
前記下層の焼結層の表面に新たな粉末材料の層を形成する前に当該下層の焼結層の表面に当該表面の滑り抵抗を大きくする材料を配し、その後、当該当該滑り抵抗を大きくする材料が配された焼結層の表面に新たな粉末材料の層を積層することを特徴とする三次元形状造形物の製造方法。
【請求項2】
前記粉末材料の平均粒径が1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項3】
光ビームの照射による前記粉末材料の層の焼結を、当該光ビームが照射された部分から発生するヒュームを吸引しながら行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の三次元形状造形物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−240075(P2008−240075A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82816(P2007−82816)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】