説明

上下合体型のプラスチック筐体および上下合体型のプラスチック筐体の製造方法

【課題】 ネジ留めなどの機械的接合部分がなくとも両者がしっかりと接合され、かつ、靭性に優れたシュラウドを提供する。
【解決手段】 燃料タンクの側方に沿って延びこれを覆う上部シュラウド110とラジエータの側方を覆う下部シュラウド120を備え、先に合成樹脂により下部シュラウド120を成形し、下部シュラウド120の上辺付近を接合部分として表面から裏面へ貫く貫通孔121を設ける。ここで貫通孔121の表面側の面積より裏面側の面積の方を大きくなるように成形しておく。次に上部シュラウド110を成形するとともに接合部分130において下部シュラウド120に対して上部シュラウド110が上から覆い被さるように成形する。ここで下部シュラウドの貫通孔121に対して上部シュラウドの合成樹脂が入り込んでアンカー111となるように成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、自動二輪車のプラスチック筐体に関する。特に、オフロード型自動二輪車のプラスチック筐体に関する。自動二輪車のプラスチック筐体とは、例えば、シュラウド、サイドカバー、ゼッケンプレートなどである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車、特にオフロード型の自動二輪車にあっては、軽量化またはデザインのため合成樹脂から成型したシュラウドなどのプラスチック筐体カバーが取り付けられている。なお、シュラウドは燃料タンクの側面とその下方に配設されたラジエータの側面を保護する筐体としてそれらを外面から覆うように取り付けられている(特許文献1参照)。
最近の自動二輪車ではデザインが重要視されるようになり、シュラウドを含むプラスチック筐体カバーなどにおいても例えばいわゆるツートンカラーのデザインなど複雑な形状、色彩のものが多くなってきている。
【0003】
シュラウドを含む筐体カバーなどにおいてツートンカラーのデザインを作り込む方法としては以下のような方法が知られている。
【0004】
第1の方法がステッカーの貼り込み法である。つまり、シュラウド全体を合成樹脂により一体成形した後、部分的にステッカーを貼ることにより色彩をツートンカラーにする方法である。
しかし、一体成形した合成樹脂板にステッカーを貼る方法では、設計変更やデザイン変更に対応し難いという問題がある。
【0005】
第2の方法が塗装法である。つまり、シュラウド全体を合成樹脂により一体成形した後、塗装により着色して色彩をツートンカラーにする方法である。
しかし、塗装により着色する方法では、色ムラが生じ易い。また、シュラウドはライダーのブーツなどが当たる部分であり、塗装が剥げ易いという問題がある。
【0006】
第3の方法が複数筐体のネジ留め法である。つまり、シュラウドを色彩ごとに複数枚の部品に分け、それぞれを合成樹脂により成形し、それらをネジ留めなどして機械的につなぎ合わせる方法である。
【0007】
図16、図17は従来の複数筐体のネジ留め法により製造したネジ合体型のシュラウドの構成例である。図16はネジ合体型のシュラウドの表面図、図17はその断面図である。図16および図17に見るようにシュラウド200は上部シュラウド210と下部シュラウド220からなり、それぞれ別々の金型により別々に成形されている。上部シュラウド210の下端部分と下部シュラウド220の上端部分を重ね合わせて、その重なり部分の裏面にそれぞれ雌ネジ構造215、225を設け、ネジ230により螺合して、上部シュラウド210の下端部分と下部シュラウド220を合体させている。
この方法であれば、従来の塗装法のように色ムラなどが生じず色が剥げるという問題がないとされている(特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】特開平05−85440号公報
【特許文献2】特開2006−282050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の複数筐体のネジ留め法によれば、シュラウドを色彩ごとに複数枚の部品に分けてそれぞれを合成樹脂により成形するので色分けは綺麗になり、ツートンカラーのデザインを美しく実現することができる。例えば、上下ツートンカラーの場合、上下2つのシュラウド部品を別々に成形してから重ね合わせてネジ留めして製作すれば上下2色のきれいなツートンカラーのシュラウドを製作することができる。
【0010】
しかし、上記の複数筐体のネジ留め法によれば、従来のシュラウド全体を合成樹脂により一体成形する手順に比べ、上下2枚の色彩ごとのシュラウド部品を合成樹脂によりそれぞれ成形する手順と、上下2枚のシュラウド部品を重ね合わせる手順、両者の裏面においてネジ留めする手順が必要となり、多数の工程が増えてしまうという問題が生じる。シュラウドの形状やデザインにもよるが、ネジ留め箇所は5〜6箇所に上り、増加する工程が多数に上ってしまうことは問題である。さらに、ネジ止めする構造的強度をやマージンを確保するため、上下2枚のシュラウド部品を重ね合わせる領域にはある程度広い幅が必要であった。従来例であれば30mm以上あるものがほとんどである。
【0011】
また、シュラウドにデザイン性を持ち込み、合成樹脂により複雑な形状および色彩のものを製作するとしても、シュラウド本来の目的が燃料タンクおよびラジエータの保護カバーである以上、割れにくく、外力による変形をたわむことにより吸収する靭性を備えるなど、十分な構造的強度が求められる。そのため、合成樹脂の場合は一体成形することが好ましい。
【0012】
しかし、上記の複数筐体のネジ留め法によれば、ネジ留め部分で割れやすい、または、たわむことができず、靭性に乏しくなるという問題がある。
【0013】
上記問題点に鑑み、本発明は、シュラウドを、色彩ごとの合成樹脂成形としつつもネジ留めなどの機械的接合部分がなくとも両者がしっかりと接合され、かつ、靭性に優れたシュラウドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の上下合体型のシュラウドは、
自動二輪車のプラスチック筐体であって、上部プラスチック筐体と下部プラスチック筐体の上下2つのプラスチック筐体を備え、
先に合成樹脂により前記下部プラスチック筐体を成形し、前記下部プラスチック筐体の上辺付近を接合部分として表面から裏面へ貫く貫通孔を設け、前記貫通孔の表面側の面積より裏面側の面積の方を大きくなるように成形し、
前記下部プラスチック筐体の上方位置に後から合成樹脂により前記上部プラスチック筐体を成形するとともに、前記接合部分において前記下部プラスチック筐体に対して前記上部プラスチック筐体が上から覆い被さるように成形され、前記下部プラスチック筐体の貫通孔に対して前記上部プラスチック筐体の合成樹脂が入り込んでアンカーとなっていることを特徴とする。
【0015】
上記構成により、先に下部プラスチック筐体を成形してその上から上部プラスチック筐体を形成することにより上下合体型で成形でき、従来のネジ留めなどの作業工程に比べ、飛躍的に作業工程を短縮できる。また、上部プラスチック筐体を形成する際、下部プラスチック筐体の貫通孔を利用して抜け出ないいわゆるアンカーが形成され、両者が分離しにくくなっており構造強度が高くなっている。また、ネジ止めのような機械的接合でなく多数の小さなアンカー構造によりしっかり接合するものであるので上下2枚のプラスチック筐体を重ね合わせる幅は小さくても良く、20mm以下、例えば7mm程度とすることも可能である。
【0016】
次に、上記構成において、前記下部プラスチック筐体の接合部分において上端が鍵爪構造となっており、前記上部プラスチック筐体の接合部分において下端が前記下部プラスチック筐体上端の返し構造に嵌合する鍵爪構造となっており、前記上部プラスチック筐体の接合部分の下端が前記下部プラスチック筐体の接合部分の上端を巻き込みつつ前記下部プラスチック筐体上端の返し構造と前記上部プラスチック筐体下端の返し構造とを嵌合させて両者を合体させることが好ましい。
【0017】
上記構成により、前記上部プラスチック筐体の接合部分の下端が前記下部プラスチック筐体の接合部分の上端を巻き込みつつ鍵状の返し構造同士を嵌合させる構造とすることができ、両者の合体が確実となりさらに両者が外れにくくなる。
【0018】
次に、上記構成において、前記上部プラスチック筐体を成形する金型において、前記下部プラスチック筐体の表面側の前記接合部分の貫通孔のやや下方に前記上部プラスチック筐体の下端となる箇所に沿うように金型壁を設けておき、前記金型壁により上部プラスチック筐体用に注入する合成樹脂が下方に流れないようにし、前記上部プラスチック筐体と前記下部プラスチック筐体の境目を明確にしたことを特徴とする。
【0019】
上記構成により、先に成形された下部プラスチック筐体に対して上部プラスチック筐体を後から重ねて成形する際にも下部プラスチック筐体と上部プラスチック筐体の境目を明瞭に表わすことができ、ツートンカラーなどの色分けも綺麗に表現することができる。
【0020】
次に、上記構成において、前記上部プラスチック筐体および前記下部プラスチック筐体のそれぞれの裏面に構造強度を増すための仕切り壁が設けられ、前記接合部分において前記上部プラスチック筐体の裏面を走る前記仕切り壁と前記下部プラスチック筐体の裏面を走る前記仕切り壁とが接合され、前記接合部分において、前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁の上端が大きくなっており、前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁の下端が前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁の上端を含んで覆うように形成され、前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁の上端が前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁に対してアンカーとなっていることを特徴とする。
また、上下仕切り壁のアンカー構造を逆にすることも可能である。つまり、前記接合部分において、前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁の下端が大きくなっており、前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁の上端が前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁の下端を含んで覆うように形成され、前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁の下端が前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁に対してアンカーとなっていることを特徴とする。
【0021】
合成樹脂などで成形した板状のプラスチック筐体においては、板面のたわみに対する強度を高めるためその裏面に仕切り壁を設ける工夫があるが、本発明の上下合体型のプラスチック筐体ではその仕切り壁も利用することができる。上部プラスチック筐体および下部プラスチック筐体をまたがる仕切り壁の接合部分において一方を他方に対して埋め込む形としてアンカーを形成し、構造的強度を強くせしめるものである。
【0022】
なお、前記プラスチック筐体としては、自動二輪車のシュラウド、サイドカバー、ゼッケンプレートなどが含まれる。
【0023】
次に、本発明の上下合体型のシュラウドの製造方法は、
自動二輪車のプラスチック筐体であって、上部プラスチック筐体と下部プラスチック筐体の上下2つのプラスチック筐体を備える自動二輪車のプラスチック筐体を製造する方法であって、
前記下部プラスチック筐体を先に合成樹脂により成形し、前記下部プラスチック筐体の上辺付近を接合部分として表面から裏面へ貫く貫通孔を設け、前記貫通孔の表面側の面積より裏面側の面積の方を大きくなるように成形し、
前記下部プラスチック筐体の上方位置に後から合成樹脂により前記上部プラスチック筐体を成形するとともに、前記接合部分において前記下部プラスチック筐体に対して前記上部プラスチック筐体が上から覆い被さるように成形され、前記下部プラスチック筐体の貫通孔に対して前記上部プラスチック筐体の合成樹脂が入り込んでアンカーとなるように成形する上下合体型のプラスチック筐体の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる上下合体型のプラスチック筐体によれば、先に下部プラスチック筐体を成形してその上から上部プラスチック筐体を形成することにより、上下合体型に成形することができ、従来のネジ留めなどの作業工程に比べ、飛躍的に作業工程を短縮できる。また、上部プラスチック筐体を形成する際、下部プラスチック筐体の貫通孔を利用して抜け出ないいわゆるアンカーが形成され、両者が分離しにくくなっており構造強度が高くなっている。
また、本発明にかかる上下合体型のプラスチック筐体によれば、先に成形された下部プラスチック筐体に対して上部プラスチック筐体を後から重ねて成形する際にも下部プラスチック筐体と上部プラスチック筐体の境目を明瞭に表わすことができ、ツートンカラーなどの色分けも綺麗に表現することができる。
また、本発明にかかる上下合体型のプラスチック筐体によれば、上部プラスチック筐体および下部プラスチック筐体をまたがる仕切り壁の接合部分において一方を他方に対して埋め込む形としてアンカーを形成し、構造的強度を強くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の上下合体型のプラスチック筐体を添付図面に示す好適実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
以下、本願発明に係る上下合体型のプラスチック筐体として、オフロード型自動二輪車のシュラウドを一例として図面を参照しながら説明する。なお、本願発明に係る上下合体型のプラスチック筐体としては、オフロード型自動二輪車のシュラウドのほか、オフロード型自動二輪車のサイドカバー、オフロード型自動二輪車のゼッケンプレート(ライダーの風除けやレース時のゼッケンを取り付ける部位)などが挙げられる。
【0027】
図1は、本願発明の実施の形態に係る自動二輪車10を示す図である。この自動二輪車10は、典型的なモトクロス仕様の自動二輪車であり、クレードル型の車体フレーム11にエンジン12を装備している。エンジン12は簡略化して図示している。フレーム11の前端部には、ハンドル、ステアリングコラム、フロントフォーク、フロントフェンダー、前輪を含むなどのフロント部13が回転自在に支持されている。
【0028】
車体フレーム11の上部であってハンドルバーのすぐ後ろには、合成樹脂製の燃料タンク14が配設されている。該燃料タンク14の後方にはこれに連続するようにライダーが跨る騎乗型シート15が設けられている。さらにシート15の後方にはこれに連続するようにリヤカバー16が設けられている。
車体フレーム11の後端部には後輪18が設けられておりチェーンを介してエンジン12の駆動力が与えられる。
【0029】
燃料タンク14の下方には、ラジエータ19が配設されている。燃料タンク14の左右両側面と、ラジエータ19の左右両側面とは、シュラウド100で覆われている。シュラウド100は、典型的には、エンジンの冷却を阻害しないように、エンジンの側面を避けて覆うような形状をなしている。シート15の後ろ半部の左右両側からはそれぞれサイドカバー200が下方へ延びている。また、フロント部にはゼッケンプレート300がある。
【0030】
本実施例1の構成においては、シュラウド100は、デザイン上の工夫から上下のツートンカラーとなっており、上下合体型のシュラウド100となっており、上側のシュラウド部分を上部シュラウド110、下側のシュラウド部分を下部シュラウド120となっている。オフロード型自動二輪車のプラスチック筐体としてツートンカラーとなる部材は、シュラウド100、サイドカバー200、ゼッケンプレート300などがある。
【0031】
燃料タンク14の側方を覆う筐体が上部シュラウド110であり、ラジエータ19の側方を覆う筐体が下部シュラウド120である。なお、サイドカバー200も同様に上側のサイドカバー部分を上部サイドカバー210、下側のサイドカバー部分を下部サイドカバー220となっている。また、ゼッケンプレート300も同様に上側のゼッケンプレート部分を上部ゼッケンプレート310、下側のゼッケンプレート部分を下部ゼッケンプレート320となっている。
以下、シュラウド100を例として詳しく説明するが、同様な構造はサイドカバー200、ゼッケンプレート300についても適用可能である。
【0032】
図2は、本発明の実施例1にかかる上下合体型のシュラウドの表面図である。
図3は、同上下合体型のシュラウドの裏面図である。
図4は、接合部130の裏面の拡大図である。
図5は、接合部130の構造を断面において示した拡大図である。
【0033】
図2に示すように、本発明の上下合体型のシュラウド100は、上部シュラウド110と、下部シュラウド120を備えている。上部シュラウド110と下部シュラウド120は別々の色彩が施されればツートンカラーとなる。
上部シュラウド110の下端と下部シュラウド120の上端において接合部130が設けられている。この接合部130は上部シュラウド110と下部シュラウド120をしっかりと固定するマージンであるとともに両者をデザイン的に明瞭に分ける境界線となっている。この接合部130のラインが明瞭に表れている方がツートンカラーが綺麗に見えることとなる。
【0034】
本発明では接合部の構造およびその形成手順が以下のようになっている。
【0035】
図3および図4に示すように、接合部130の裏面には多数の構造物が見えている。この構成例では下部筐体の上端付近に設けられた多数の四角の貫通孔121から上部筐体110の突起構造(アンカー)111が貫通孔121の中に入り込んで嵌っている構造となっている。
【0036】
図5に見るように、貫通孔121の構造は、表面側の面積より裏面側の面積の方を大きくなるように成形されている。このような構造の貫通孔121を埋めるように上部筐体110のアンカー111が嵌めこまれている。このようなアンカー構造であると上部筐体110のアンカー111が折れたりねじ切れたりしない限り下部筐体の貫通孔121から抜け出ることはなく、両者がしっかりと嵌合固定し合う構造となっていることが分かる。上下2枚のシュラウド部品を重ね合わせる領域幅は小さくて良く、20mm以下、例えば7mm程度とすることができる。また、その重ね合わせ部分の厚みも薄いもので良く、例えば、5mm以下(3mmなど)でもしっかりとした嵌合が可能である。
【0037】
図6は試作した本発明のシュラウドにおける接合部130に関する設計例である。アンカー111は6つを一単位として形成され、当該単位を複数並べるスタイルとなっている。6つのアンカー111の長さは30mm、一つ一つのアンカーの隙間は1mmとなっている。一つのアンカーの幅は3.5mmとなっている。アンカー111を含むA−A線の断面図を見るように接合部の幅は7.0mm、厚みは3.0mmとなっている。上部筐体110と下部筐体120との間に設けられている溝は1.0mmとなっている。
【0038】
このようなアンカー構造は、上部シュラウド110と下部シュラウド120を別々に成形し、その後に合体させることは容易ではない。そこで、本発明では形成手順として以下の手順を採る。
【0039】
まず、先に合成樹脂により下部シュラウド120を成形して、下部シュラウド120の上辺付近を接合部分として表面から裏面へ貫く貫通孔121を設けておく。ここで貫通孔121の表面側の面積より裏面側の面積の方を大きくなるように成形しておく。
【0040】
次に、接合部分130において重ねつつ下部シュラウド120の上方部分に合成樹脂により上部シュラウド110を成形する。つまり接合部分130において下部シュラウド120に対して上部シュラウド110が上から覆い被さるように成形され、下部シュラウドの貫通孔121に対して上部シュラウドの合成樹脂が入り込んで埋め込んでアンカー111が形成される。
【0041】
このアンカー111の数であるが、接合部130に沿って多数設けておくことが好ましい。アンカー111一つ一つにより接合する力が得られるので、アンカー111の数が多い方が有利である。ただし、アンカー111により得られる接合力は、アンカー111の数、アンカー111の一つ一つの断面積の大きさなどにも影響されるので、アンカー111の一つ一つの断面積の大きさとそれらの数を調整する必要がある。
【0042】
次に、上記アンカー構造を形成する手順を説明する。
図7(a)から図7(d)は上記アンカー構造を形成する手順を模式的に説明する図である。
図7(a)に示すように、本発明では接合部130の溝131は、上部シュラウド110と下部シュラウド120のマージンであるとともに両者をデザイン的に明瞭に分ける境界線となっており、この接合部130の溝131のラインが明瞭に表れている方がツートンカラーが綺麗に見える。
図7(a)に示すように、下部シュラウド120を先に成形しておく。
【0043】
次に、図7(b)に示すように、先に成形した下部シュラウド120を金型にセットし、図7(c)に示すように上部シュラウド110の合成樹脂を注入する。
【0044】
ここで、図7(b)および図7(c)に示すように、接合部130の境界線が綺麗に表れるように金型150に工夫を施しておく。つまり、合成樹脂の注入圧力も高いため、上部シュラウド110を成形する金型150において、下部シュラウド120の表面側の接合部分130の貫通孔121のやや下方に上部シュラウド110の下端となる箇所に沿うように金型壁151を設けておき、金型壁151により上部シュラウド110用に注入する合成樹脂が下方に流れないようにし、上部シュラウド110と下部シュラウド120の境目を明確にする。この上部シュラウド110と下部シュラウド120の境目は溝131として形成されている。
【0045】
つまり、金型壁151は上部シュラウド110の合成樹脂を注入する際の合成樹脂の流れを制御する隔壁となるとともに上部シュラウド110と下部シュラウド120の境目を明確にする溝131を形成する役割を果たす。
溝131のエッジが明瞭であれば、上部シュラウド110と下部シュラウド120の境目が明瞭となる。
【0046】
最後に図7(d)に示すように金型150を除去する。
【0047】
次に、本発明の上下合体型のシュラウドの有利な点を整理しておく。
図8は、比較のために示す従来のネジ留め式によるシュラウドの裏面図である。
図9は、従来のネジ留め式によるシュラウドの断面図である。
従来のネジ留め式によるシュラウドであれば、上下シュラウドを別々に成形し、その後、両者を重ね合わせ裏面からネジを数か所(この例では10箇所)設けて螺合することにより上下シュラウドを留めている。
【0048】
従来のネジ留め式によるシュラウドでは上下シュラウドがしっかり固定されるものの以下のデメリットがある。
まず、従来のネジ留め法によれば、製造工程が多くなり製造コストが高くなるというデメリットがある。つまり、上下2枚のシュラウド部品を合成樹脂によりそれぞれ成形する手順、上下2枚のシュラウド部品を重ね合わせる手順、両者の裏面においてネジ留めする手順が必要となり、多数の工程がある。
【0049】
次に、裏面スペースの制限が大きいというデメリットがある。つまり、図8に見るようにネジを締めて螺合する厚みが必要となる。螺合による接合効果を十分に出すためには螺合の幅(厚み)をある程度確保する必要がある上、ネジ先がシュラウドの表面に出る不具合は避けなければならないのである程度のマージンを持たせる必要もあり、十分な厚みを確保しなければならない。そのため図8に示す如く柱状の突起のネジ230となっている。例えば上下2枚のシュラウドを重ね合わせた領域の幅は大きくなり、50mm以上あるがほとんどである。また、その厚みも大きくなり、ネジの長さ以上の厚み、例えば30mm以上あるものがほとんである。
【0050】
次に、従来のネジ留め法によれば、シュラウドの割れが生じやすいというデメリットがある。
従来のネジ留め法ではネジという点で留めているので、曲げ応力がネジ230に集中しやすい。そのため曲げが生じた場合にネジ230付近において割れが生じやすく靭性に乏しくなる。
【0051】
一方、本発明の上下合体型のシュラウドでは、従来のねじ留め法に比べてメリットが多々得られている。
【0052】
まず、製造工程が少なく製造コストが低くなるというメリットが得られる。つまり、下部シュラウド120を成形した後、上部シュラウドを重ねて成形するという2回の合成樹脂成形のみで形成することができ、従来のねじ留め法のように複数(例えば10箇所)のねじ留めの工程が不要となる。
【0053】
次に、裏面にネジなどの突起物がなく裏面スペースの制限がないというメリットが得られる。つまり、貫通孔121とアンカー111によるアンカー構造により上下シュラウドが接合され、従来のねじなどの障害物がなく、一枚の板状体で裏面スペースが有効に利用することができる。
【0054】
次に、裏面にネジなどの曲げ応力が集中する箇所がなく、接合部の境界線全体で曲げ応力を吸収することができ、優れた靭性を得ることができる。つまり、貫通孔121とアンカー111によるアンカー構造を適切に接合部の境界線全体に配設することにより接合部の境界線全体で曲げ応力を吸収でき、優れた靭性を得ることができる。
【0055】
以上、実施例1にかかる上下合体型のシュラウドによれば、上下合体型の成形とすることができ、従来のネジ留めなどの作業工程に比べ、飛躍的に作業工程を短縮でき、いわゆるアンカー構造が形成され、両者が分離しにくくなり構造強度が高くなる。
【実施例2】
【0056】
実施例2にかかる本発明の上下合体型のシュラウドの構成例について説明する。実施例2にかかる上下合体型のシュラウドは、実施例1に示した上下合体型のシュラウド構造に加え、接合部においていわゆる鍵爪構造を作り、より一層接合力を高めたものである。
【0057】
鍵爪構造について説明する。
図10は上下シュラウドの接合部分の断面構造を拡大して示した図である。
図10に見るように、下部シュラウド120の接合部分において上端が鍵爪構造122となっている。また、上部シュラウド110の接合部分において下端が下部シュラウド上端の返し構造122に嵌合する鍵爪構造112となっている。
実施例2においても、鍵爪構造112および122の嵌合は上部シュラウドの成形時に一体的に成形して作り込む。
【0058】
図11は、上部シュラウドの成形時に鍵爪構造112および122の嵌合を一体的に作り込む様子を示す図である。実施例1で説明したように下部シュラウド120を成形した後に上部シュラウドを成形するが、その際に、上部シュラウド110の接合部分の下端が下部シュラウド120の接合部分の上端を巻き込みつつ、下部シュラウド上端の返し構造122と上部シュラウド下端の返し構造112とを嵌合させて両者を合体させる。
【0059】
このように、下部シュラウド上端の返し構造122と上部シュラウド下端の返し構造112とを嵌合させることにより、上下方向の引っ張り強度が強くなり、横方向のたわみに対しても構造強度の向上を図ることができる。
【0060】
以上、本実施例2にかかる上下合体型シュラウドによれば、実施例1に示した上下合体型のシュラウド構造に加え、接合部においていわゆる鍵爪構造を作り、より一層接合力を高めることができる。
【実施例3】
【0061】
実施例3にかかる本発明の上下合体型のシュラウドの構成例について説明する。実施例3にかかる上下合体型のシュラウドは、実施例1に示した上下合体型のシュラウド構造に加え、裏面に構造強度を増すために設けられている仕切り壁接合部においてもアンカー構造を作り込み、より一層接合力を高めたものである。
【0062】
仕切り壁におけるアンカー構造について説明する。
図12は実施例3にかかる上下合体型シュラウドの裏面図である。
図12に見るように、実施例3にかかる上下合体型シュラウドの裏面には仕切り壁113および123が設けられている。この仕切り壁113、123自体は薄いシュラウド筐体のたわみ強度を増すための構造上の工夫である。仕切り壁113、123のような構造物が走っているとたわみに対する抵抗となる。
この仕切り壁113、123の両者の接合部においてもアンカー構造を設ける工夫である。
【0063】
まず、下部シュラウド側の仕切り壁123の上端124が、上部シュラウド側の仕切り壁113の下端114に対してアンカーとなっている構成例を示す。
【0064】
図12に見るように、仕切り壁構造113、123は、上部シュラウド110の裏面から下部シュラウド120の裏面まで貫いて走っている。この上部シュラウドの裏面を走る仕切り壁113と下部シュラウドの裏面を走る仕切り壁123とが接合部分において接合されている。
【0065】
図13に見るように、この接合部分において、下部シュラウドの仕切り壁123の下端124が大きくなっており、上部シュラウドの仕切り壁113の上端114が下部シュラウドの仕切り壁の上端124を含んで覆うように形成されている。つまり、下部シュラウドの仕切り壁の上端124が上部シュラウドの仕切り壁の下端114に対してアンカーとなっている。
この下部シュラウドの仕切り壁の上端124によるアンカー構造により、上下方向の引っ張り強度が増し、さらにたわみ方向に対する構造的強度も向上せしめることができる。
【0066】
次に、上部シュラウド側の仕切り壁113の上端114が、下部シュラウド側の仕切り壁123の下端124に対してアンカーとなっている構成例を示す。
【0067】
図14に見るように、仕切り壁構造113、123は、上部シュラウド110の裏面から下部シュラウド120の裏面まで貫いて走っている。この上部シュラウドの裏面を走る仕切り壁113と下部シュラウドの裏面を走る仕切り壁123とが接合部分において接合されている。
【0068】
図15に見るように、この接合部分において、上部シュラウドの仕切り壁113の下端114が大きくなっており、下部シュラウドの仕切り壁123の上端124が上部シュラウドの仕切り壁の下端114を含んで覆うように形成されている。上部シュラウドの仕切り壁の下端114が下部シュラウドの仕切り壁の上端124に対してアンカーとなっている。
この上部シュラウドの仕切り壁の下端114によるアンカー構造により、上下方向の引っ張り強度が増し、さらにたわみ方向に対する構造的強度も向上せしめることができる。
【0069】
以上、本実施例3にかかる上下合体型シュラウドによれば、実施例1に示した上下合体型のシュラウド構造に加え、接合部において裏面を走るいわゆる仕切り壁間のアンカー構造を作り込み、より一層接合力を高めることができる。
【0070】
以上、本発明の上下合体型のシュラウドの構成例における好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の上下合体型のシュラウドは、自動二輪車のシュラウドに適用することができる。特に、オフロード型自動二輪車のシュラウドに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本願発明の実施の形態に係る自動二輪車10を示す図
【図2】本発明の実施例1にかかる上下合体型のシュラウドの表面図
【図3】本発明の実施例1にかかる上下合体型のシュラウドの裏面図
【図4】接合部130の裏面の拡大図
【図5】接合部130の構造を断面において示した拡大図
【図6】接合部130の試作例を断面において示した拡大図
【図7】アンカー構造を形成する手順を模式的に説明する図
【図8】比較のために示す従来のネジ留め式によるシュラウドの裏面図
【図9】従来のネジ留め式によるシュラウドの断面図
【図10】実施例2にかかる上下シュラウドの接合部分の断面構造を拡大して示した図
【図11】上部シュラウドの成形時に鍵爪構造112および122の嵌合を一体的に作り込む様子を示す図
【図12】実施例3にかかる上下合体型シュラウドの一例の裏面図
【図13】接合部130の裏面の拡大図
【図14】実施例3にかかる上下合体型シュラウドの他の例の裏面図
【図15】接合部130の裏面の拡大図
【図16】従来技術のネジ合体型のシュラウドの表面図
【図17】従来技術のネジ合体型のシュラウドの裏面図
【符号の説明】
【0073】
10 自動二輪車
11 車体フレーム
12 エンジン
13 フロント部
14 燃料タンク
15 騎乗型シート
16 リヤカバー
17 サイドカバー
18 後輪
19 ラジエータ
100 上下合体型のシュラウド
110 上部シュラウド
111 アンカー
112 返し構造
113 仕切り壁
114 仕切り壁113の下端
120 下部シュラウド
121 貫通孔
122 返し構造
123 仕切り壁
124 仕切り壁123の上端
130 接合部
131 溝
150 金型
151 金型壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車のプラスチック筐体であって、上部プラスチック筐体と下部プラスチック筐体の上下2つのプラスチック筐体を備え、
先に合成樹脂により前記下部プラスチック筐体を成形し、前記下部プラスチック筐体の上辺付近を接合部分として表面から裏面へ貫く貫通孔を設け、前記貫通孔の表面側の面積より裏面側の面積の方を大きくなるように成形し、
前記下部プラスチック筐体の上方位置に後から合成樹脂により前記上部プラスチック筐体を成形するとともに、前記接合部分において前記下部プラスチック筐体に対して前記上部プラスチック筐体が上から覆い被さるように成形され、前記下部プラスチック筐体の貫通孔に対して前記上部プラスチック筐体の合成樹脂が入り込んでアンカーとなっていることを特徴とする上下合体型のプラスチック筐体。
【請求項2】
前記下部プラスチック筐体の接合部分において上端が鍵爪構造となっており、前記上部プラスチック筐体の接合部分において下端が前記下部プラスチック筐体上端の返し構造に嵌合する鍵爪構造となっており、
前記上部プラスチック筐体の接合部分の下端が前記下部プラスチック筐体の接合部分の上端を巻き込みつつ前記下部プラスチック筐体上端の返し構造と前記上部プラスチック筐体下端の返し構造とを嵌合させて両者を合体させた請求項1に記載の上下合体型のプラスチック筐体。
【請求項3】
前記上部プラスチック筐体を成形する金型において、前記下部プラスチック筐体の表面側の前記接合部分の貫通孔のやや下方に前記上部プラスチック筐体の下端となる箇所に沿うように金型壁を設けておき、前記金型壁により上部プラスチック筐体用に注入する合成樹脂が下方に流れないようにし、前記上部プラスチック筐体と前記下部プラスチック筐体の境目を明確にしたことを特徴とする請求項1または2に記載の上下合体型のプラスチック筐体。
【請求項4】
前記上部プラスチック筐体および前記下部プラスチック筐体のそれぞれの裏面に構造強度を増すための仕切り壁が設けられ、前記接合部分において前記上部プラスチック筐体の裏面を走る前記仕切り壁と前記下部プラスチック筐体の裏面を走る前記仕切り壁とが接合され、
前記接合部分において、前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁の上端が大きくなっており、前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁の下端が前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁の上端を含んで覆うように形成され、前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁の上端が前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁に対してアンカーとなっていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の上下合体型のプラスチック筐体。
【請求項5】
前記上部プラスチック筐体および前記下部プラスチック筐体のそれぞれの裏面に構造強度を増すための仕切り壁が設けられ、前記接合部分において前記上部プラスチック筐体の裏面を走る前記仕切り壁と前記下部プラスチック筐体の裏面を走る前記仕切り壁とが接合され、
前記接合部分において、前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁の下端が大きくなっており、前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁の上端が前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁の下端を含んで覆うように形成され、前記上部プラスチック筐体の前記仕切り壁の下端が前記下部プラスチック筐体の前記仕切り壁に対してアンカーとなっていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の上下合体型のプラスチック筐体。
【請求項6】
前記プラスチック筐体が、自動二輪車のシュラウド、サイドカバー、ゼッケンプレートのいずれかを含むものである請求項1から5のいずれか1項に記載の上下合体型のプラスチック筐体。
【請求項7】
自動二輪車のプラスチック筐体であって、上部プラスチック筐体と下部プラスチック筐体の上下2つのプラスチック筐体を備える自動二輪車のプラスチック筐体を製造する方法であって、
前記下部プラスチック筐体を先に合成樹脂により成形し、前記下部プラスチック筐体の上辺付近を接合部分として表面から裏面へ貫く貫通孔を設け、前記貫通孔の表面側の面積より裏面側の面積の方を大きくなるように成形し、
前記下部プラスチック筐体の上方位置に後から合成樹脂により前記上部プラスチック筐体を成形するとともに、前記接合部分において前記下部プラスチック筐体に対して前記上部プラスチック筐体が上から覆い被さるように成形され、前記下部プラスチック筐体の貫通孔に対して前記上部プラスチック筐体の合成樹脂が入り込んでアンカーとなるように成形する上下合体型のプラスチック筐体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−35142(P2009−35142A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201392(P2007−201392)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(505084723)株式会社三興 (8)
【出願人】(507261490)共栄産業株式会社 (8)