説明

上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の耐力予測方法および板厚設計方法

【課題】 ダイアフラム形式でかつ直筒状の接合部パネルを用いた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部につき、上部通しダイアフラムの接合部の耐力を精度良く容易に予測することができる耐力予測方法および板厚の設計方法を提供する。
【解決手段】 予測,設計の対象となる鉄骨柱梁接合部は、下柱1および上柱2が角形鋼管柱からなり、上柱の径が細くなっている。下柱1の上端および上柱2の下端には下部通しダイアフラムおよび上部通しダイアフラム5を溶接し、かつ上下のダイアフラム間に下柱2と同径の角形直筒状に形成された接合部パネルを介在させて溶接する。この接合部における上部通しダイアフラム5の耐力を予測する方法であって、上柱2に軸力Nが作用する場合の、上部通しダイアフラム5の面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy を、降伏線理論を用い、上柱1の軸力Nを反映させて求める。この設計方法では、このように求められた面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、それぞれ角形鋼管柱からなる上柱と下柱の径が異なる鉄骨造の梁接合部において、上部通しダイアフラムの耐力の予測および板厚設計を行う下柱異径の鉄骨柱梁接合部の耐力予測方法および板厚設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上柱と下柱の径が異なる鉄骨造の梁接合部においては、図17に示すように、下柱1と上柱2との間に、角筒形で台形の接合部パネル3Aを構成している。各柱1,2と接合部パネル3Aの間には、それぞれ、下,上の柱径に応じた大きさの下部通しダイアフラム4および上部通しダイアフラム5を溶接し、これらダイアフラム4,5に鉄骨梁6の端部を溶接で接合する。
【0003】
下柱1と上柱2の柱径の差が小さい場合は、図18に示すように、下柱1と同径の角筒状の接合部パネル3を、下柱1と同径の直筒状とする場合もある。接合部パネル3を直筒状とした場合については、上部通しダイアフラム5の補強につき提案されている(特許文献1)。
なお、ノンダイアフラム形式の鉄骨柱梁接合部につき、上下柱の偏心接合部の面外曲げ拘束耐力を、降伏線理論を用いて予想する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−265677号公報
【特許文献2】特開2007−146565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図17の台形の接合部パネル3Aを用いるものは、接合部の耐力や剛性が確保し易い。しかし、台形の接合部パネル3Aは、台形の平板状の4枚の鋼板を、それぞれが互いに適正な角度をなす状態に溶接で接合して製作しなけばならない。そのため、製作に高度な技術と手間がかかり、コスト高となる。例えば、接合部の加工コストは、鉄骨全体の加工コストの6割程度を占めることになる。
図18の平板上の上部通しダイアフラム5を用いるものは、構成が簡素であるが、平板上の上部通しダイアフラム5の中間部分で上柱2の下端を支持し、柱応力を上部通しダイアフラム5の面外曲げ抵抗で応力伝達することになる。そのため上部通しダイアフラム5による接合部の耐力と剛性の確保が難しく、旧鋼管構造設計指針解説の検討法では、下柱1と上柱2の径差が50mmまでとされている。そのため、径差が100mm以上の場合は、設計のよりどころがない。
【0006】
特許文献1における、図18の平板上の上部通しダイアフラム5を用いたうえで、上部通しダイアフラム5の補強部材を設けるものは、補強のための工数増により、製作時間や加工コストが増加する。
【0007】
この発明の課題は、ダイアフラム形式でかつ直筒状の接合部パネルを用いた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部につき、上部通しダイアフラムの接合部の耐力を精度良く容易に予測することができる耐力予測方法を提供することである。
この発明の他の課題は、ダイアフラム形式でかつ直筒状の接合部パネルを用いた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部につき、上部通しダイアフラムの板厚を、信頼性の高い耐力予測によって、接合部の耐力と剛性が信頼性高く確保できるように、適切に設計することができる板厚設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の耐力予測方法における、予測対象となる鉄骨柱梁接合部は、それぞれ角形鋼管柱からなる下柱および上柱を有し、上柱が下柱よりも小径であり、下柱の上端開口を閉じて周囲に張り出し前記下柱に全周溶接された下部通しダイアフラムと、前記下柱と略同径の角形直筒状に形成され前記下部通しダイアフラムの上面に下端が全周溶接されて立ち上がる接合部パネルと、この接合部パネルの上端開口を閉じて周囲に張り出し前記接合部パネルに全周溶接されて上面に前記上柱の下端が全周溶接された上部通しダイアフラムと、前記下部通しダイアフラムおよび上部通しダイアフラムの端面に上下フランジが接合される鉄骨梁とを備えた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部である。この鉄骨柱梁接合部は、柱応力を上部通しダイアフラムの面外曲げ抵抗で応力伝達することになる。
【0009】
この発明の第1の耐力予測方法は、上記予測対象の鉄骨柱梁接合部において、前記上部通しダイアフラムの耐力を予測する方法であって、前記上柱に軸力Nが作用する場合の、前記上部通しダイアフラムの前記上柱が接合された部位である接合部の面外曲げによる降伏曲げ耐力 fMy を、降伏線理論を用い、上柱の軸力Nを反映させて求めることを特徴とする。
【0010】
この方法によると、上部通しダイアフラムの面外曲げによる降伏曲げ耐力 fMy を、降伏線理論を用い、上柱の軸力Nを反映させて求めるため、降伏曲げ耐力 fMy を精度高く予測することができる。しかも、その他の解析方法を用いる場合に比べて手間をかけずに容易に予測することができる。
【0011】
上記の面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy は、次式(1)によって求める。
【0012】
【数1】

ここで、E:内部仕事
N:柱軸力(柱軸力Nは任意に与える)
δ3:軸方向の仮想変位
θ:上部通しダイアフラムの上柱軸心での回転角
ただし、内部仕事Eは、降伏線における内部仕事Σ LEi と軸降伏領域における内部仕事ΣEViとの和、
E=Σ LEi +ΣEViで与えられる。
降伏線における内部仕事 LEi は、次式で与えられる。
LEi =Li ・ LdMy ・θi
ここで、Li :各降伏線の長さ
θi :各降伏線の回転角
LdMy :上部通しダイアフラムに形成される降伏線の単位長さ当たりの降伏曲げモーメント
この降伏曲げモーメント LdMy は、次式で与える。
【数2】

ここで、td :上部通しダイアフラムの板厚
dσy :上部通しダイアフラムの降伏応力度
軸降伏領域における内部仕事EViは、次式で与えられる。
EVi= Cσy ・εi ・Vi
ここで、 Cσy :上柱の降伏応力度
εi :各軸降伏領域における歪み
Vi :各軸降伏領域の体積
ただし、降伏線の位置は面外降伏曲げ耐力 fMy が最小となる位置とする。
【0013】
この場合は、式(1)に、各パラメータの数値を代入して計算を行うだけで面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy を求めることができ、上部通しダイアフラムの面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy を、より容易に精度高く予測することができる。
【0014】
この発明の第2の耐力予測方法は、上記予測対象の鉄骨柱梁接合部において、前記上部通しダイアフラムのパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy を予測する方法であって、前記上柱に軸力Nが作用する場合の、前記上部通しダイアフラムの前記上柱が接合された部位である接合部のパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy を、降伏線理論を用い、前記上柱の軸力Nを反映させて求めることを特徴とする。
【0015】
この方法では、上部通しダイアフラムのパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy を、降伏線理論を用い、上柱の軸力Nを反映させて求めるため、パンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy を精度高く予測することができる。しかも、その他の解析方法を用いる場合に比べて手間をかけずに容易に予測することができる。
【0016】
上記のパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy は、次式(2)によって求める。
【0017】
【数3】

【0018】
ここで、 dσy :上部通しダイアフラムの降伏応力度
N :柱軸力(柱軸力Nは任意に与える)
Ao :置換断面の断面積
Zo :置換断面の断面係数
ただし、Ao =4B1 ・td ′
Zo は次式のとおり。
【0019】
【数4】


ここで、Io :置換断面の断面二次モーメント
td :上部通しダイアフラムの板厚
td ′=td /√3
B1 :上柱の幅(上柱は断面が正方形とする)
【0020】
この場合も、式(2)に、各パラメータの数値を代入して計算を行うだけでパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy を求めることができ、上部通しダイアフラムのパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy を、より容易に精度高く予測することができる。
【0021】
また、上記の課題は、第1の耐力予測方法で求めた面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy と、第2の耐力予測方法で求めたパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy とのうち、小さい方の耐力値を、上部通しダイアフラムの上柱が接合された接合部の降伏曲げ耐力 jMy とすることによって解決される。
【0022】
この方法では、上部通しダイアフラムの耐力を予測する上で重要な要素となる面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy とパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy とを考慮に入れて、小さい方の耐力値を接合部の降伏曲げ耐力 jMy の予測値とするため、信頼性の高い予測を行うことができる。
【0023】
この発明の第1の上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の板厚設計方法は、上記予測対象の鉄骨柱梁接合部が板厚設計方法の対象となる鉄骨柱梁接合部であり、前記上部通しダイアフラムの板厚を設計する方法であって、
定められた耐力評価式と、定められた剛性評価式を満足する板厚とし、
前記の定められた耐力評価式に、前記第1の耐力予測方法で求めた面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy と、第2の耐力予測方法で求めたパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy とのうち、小さい方の耐力値を、上部通しダイアフラムの上柱が接合された接合部の降伏曲げ耐力 jMy として用いることを特徴とする。
【0024】
この設計方法によると、耐力評価と接合部剛性の評価とを行い、耐力評価には、上部通しダイアフラムの耐力を予測する上で重要な要素となる面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy とパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy とを考慮に入れて、小さい方の耐力値を接合部の降伏曲げ耐力 jMy の値として板厚を設計するため、信頼性の高い耐力予測により、上部通しダイアフラムの板厚を適切な厚さに増して、接合部の耐力と剛性を確保し、上下柱間の筒形の接合部パネルを、台形とすることなく、直筒状として簡素化することができる。
【0025】
この設計方法は、具体的には、上部通しダイアフラムの板厚につき、以下の条件式を満足する板厚とするのが良い。
耐力評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚td は、以下の条件式を満足するように設定する。
td ≧ max( strtd , rigtd ,tcu,tcl)
tp ≧td
ここで、td :上部通しダイアフラムの必要板厚
strtd :耐力評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚
rigtd :剛性評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚
tcu:上柱板厚
tcl:下柱板厚
tp:接合部パネルの板厚
耐力評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚 strtd は、以下の条件式を満足するように設定する。
jMy ≧(1−n) cMy (n≦0.7)
jMu ≧1.3・ν・ cMp (n≦0.7)
【0026】
【数5】

【0027】
ここで、 jMy :上部通しダイアフラムの降伏曲げ耐力
jMu :上部通しダイアフラムの最大曲げ耐力
cMy :上柱の降伏曲げ耐力
cMp :上柱の全塑性曲げ耐力
n : 柱軸力比
N :上柱に作用する軸力
Ny :上階柱の降伏軸力
cAu :上階柱の断面積
cFy :上階柱の基準強度
ν :上階柱の軸力による全塑性曲げモーメントの低下率
n≦0.5の場合 ν=1−4n2 /3
0.5<n≦0.7の場合 ν=4(1−n)/3
剛性評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚 rigtd は、以下の条件式を満足するように設定する。
【0028】
【数6】

【0029】
この方法の場合、降伏耐力と最大耐力との2種類の耐力評価、および接合部剛性の評価を行って板厚を設計する。そのため、より信頼性の高い板厚設計が行える。
【0030】
上記各設計方法において、上部通しダイアフラムの板厚を選定する表として、行と列からなる表の各行に、下柱の各種の幅寸法または上柱の各種の幅寸法の一方を定め、前記表の各欄に、下柱の各種の幅寸法または上柱の各種の幅寸法の他方を定め、各行と列が交差する枡内に、対応する下柱と上柱の幅寸法に場合に適切となる上部通しダイアフラムの板厚を記載し、
この枡内に記載する板厚の値を、前記のいずれかの板厚設計方法の各条件式を満足する厚さとし、
上下柱異径の鉄骨柱梁接合部における上部通しダイアフラムの板厚を、下柱の幅寸法と上柱の幅寸法に応じて、前記表の該当する枡内に記載された板厚以上とする方法としても良い。
【0031】
この設計方法によると、下柱と上柱の幅寸法の組み合わせ毎に、適切となる上部通しダイアフラムの板厚を定めた表を用い、この表に定められた板厚以上として板厚を設計するため、個々の建物毎や個々の柱毎に、板厚設計のための複雑な耐力計算を行うことなく、適切な板厚を簡単に設計することができる。また、上記の表には、この発明の予測方法による信頼性の高い板厚の値が定められているため、信頼性の高い板厚設計が行える。
【発明の効果】
【0032】
この発明の上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の耐力予測方法は、それぞれ角形鋼管柱からなる下柱および上柱を有し、上柱が下柱よりも小径であり、下柱の上端開口を閉じて周囲に張り出し前記下柱に全周溶接された下部通しダイアフラムと、前記下柱と略同径の角形直筒状に形成され前記下部通しダイアフラムの上面に下端が全周溶接されて立ち上がる接合部パネルと、この接合部パネルの上端開口を閉じて周囲に張り出し前記接合部パネルに全周溶接されて上面に前記上柱の下端が全周溶接された上部通しダイアフラムと、前記下部通しダイアフラムおよび上部通しダイアフラムの端面に上下フランジが接合される鉄骨梁とを備えた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部において、前記上部通しダイアフラムの耐力を予測する方法であって、前記上柱に軸力Nが作用する場合の、前記上部通しダイアフラムの前記上柱が接合された部位である接合部の面外曲げによる降伏曲げ耐力 fMy を、降伏線理論を用い、前記上柱の軸力Nを反映させて求めるため、ダイアフラム形式でかつ直筒状の接合部パネルを用いた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部につき、上部通しダイアフラムの接合部の耐力を精度良く容易に予測することができる。
【0033】
この発明の上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の板厚設計方法によると、この発明の耐力予測方法の予測対象となるダイアフラム形式でかつ直筒状の接合部パネルを用いた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部につき、上部通しダイアフラムの耐力を予測する上で重要な要素となる面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy とパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy とを考慮に入れて、小さい方の耐力値を接合部の降伏曲げ耐力 jMy の値として板厚を設計するため、信頼性の高い耐力予測により、上部通しダイアフラムの板厚を適切な厚さに増して、接合部の耐力と剛性を信頼性高く確保し、上下柱間の筒形の接合部パネルを、台形とすることなく、直筒状として簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施形態に係る耐力予測方法および板厚設計方法の対象となる上下柱異径の鉄骨柱梁接合部のうち、心合わせ形式とした接合部の斜視図である。
【図2】同接合部の正面図および下面図である。
【図3】この発明の実施形態に係る耐力予測方法および板厚設計方法の対象となる上下柱異径の鉄骨柱梁接合部のうち、一方向偏心形式とした接合部の斜視図である。
【図4】同接合部の正面図および下面図である。
【図5】この発明の実施形態に係る耐力予測方法および板厚設計方法の対象となる上下柱異径の鉄骨柱梁接合部のうち、二方向偏心形式とした接合部の斜視図である。
【図6】同接合部の正面図および下面図である。
【図7】同心合わせ形式とした接合部のうち、柱軸力が小さい場合の面外曲げ降伏機構の説明図である。
【図8】同心合わせ形式とした接合部のうち、柱軸力が大きい場合の面外曲げ降伏機構の説明図である。
【図9】同心合わせ形式とした接合部におけるパンチングシャー降伏機構の説明図である。
【図10】前記一方向偏心形式とした心合わせ形式とした接合部の面外曲げ降伏機構の説明図である。
【図11】前記一方向偏心形式とした接合部におけるパンチングシャー降伏機構の説明図である。
【図12】前記二方向偏心形式とした心合わせ形式とした接合部の面外曲げ降伏機構の説明図である。
【図13】前記二方向偏心形式とした接合部におけるパンチングシャー降伏機構の説明図である。
【図14】前記二方向偏心形式とした心合わせ形式とした接合部の、45度方向入力の場合の面外曲げ降伏機構の説明図である。
【図15】前記二方向偏心形式とした心合わせ形式とした接合部の、45度方向入力の場合のパンチングシャー降伏機構の説明図である。
【図16】同設計方法で用いる上部通しダイアフラムの板厚を選定要き表の説明図である。
【図17】従来の上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の斜視図および正面図である。
【図18】従来の他の上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。この実施形態における耐力予測および板厚設計の対象となる上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の形式としては、図1,図2に示す心合わせ形式と、図3,図4に示す一方向偏心形式と、図5,6に示す二方向偏心形式とがある。
【0036】
図1,図2と共に、心合わせ形式の鉄骨柱梁接合部の構成を説明する。この上下柱異径の鉄骨柱梁接合部は、それぞれ断面正方形の角形鋼管柱からなる下柱1および上柱2を有し、上柱2が下柱1よりも小径である。下部通しダイアフラム4は、下柱1の上端開口を閉じるように上端面上に配置されて周囲に張り出し、下柱2に全周溶接されている。接合部パネル3は、下柱1と略同径の角形直筒状であり、下部通しダイアフラム4の上面に配置されて立ち上がり、下端が下部通しダイアフラム4に全周溶接されている。接合部パネル3には、例えば下柱1と同じ断面形状でかつ同じ断面寸法の角形鋼管の切断体が用いられる。上部通しダイアフラム5は、接合部パネル3の上端開口を閉じるように上端面上に配置されて周囲に張り出し、接合部パネル3に全周溶接されている。上柱2は、下端が下部通しダイアフラム4に載せられて下端の全周が上部通しダイアフラム4に溶接されている。下部通しダイアフラム4および上部通しダイアフラム5は、いずれも正方形である。各ダイアフラム4,5と柱1,2,接合部パネル3との溶接部7は、いずれも裏当て金8を用いた完全溶込み溶接である。下柱1および上柱2は、例えばそれぞれ下階柱および上階柱となる。
【0037】
鉄骨梁6はH形鋼からなり、その下側および上側のフランジ6a,6bが、下部通しダイアフラム4および上部通しダイアフラム5の端面に溶接されている。鉄骨梁6は、図示の例では柱の周囲の四方に延びて設けられているが、1〜3方向のいずれかのみに設けられていても良い。
【0038】
図3,4の一方向偏心形式の上下柱異径の鉄骨柱梁接合部は、小径の上柱2を、下柱1に対して断面の1辺が揃うように偏心させ、その直交方向に対しては互いに柱心が一致するように配置したものである。鉄骨梁6は、上下の柱2,1が一致する柱面を除く3方に接合されている。鉄骨梁6は、1方または2方のみに接合しても、また4方に接合しても良い。その他の構成は、図1,2と共に前述した心合わせ形式の鉄骨柱梁接合部と同じである。
【0039】
図5,6の二方向偏心形式の上下柱異径の鉄骨柱梁接合部は、小径の上柱2を、下柱1に対して隣合う2辺が揃うように、すなわち一つの角部が一致するように偏心させて配置したものである。鉄骨梁6は、前記一つの角部に対して対角線方向に対向する角部の両側に隣合う2辺に接合されている。鉄骨梁6は、1方のみに接合しても、また3方または4方に接合しても良い。その他の構成は、図1,2と共に前述した心合わせ形式の鉄骨柱梁接合部と同じである。
【0040】
上記の上下柱異径の鉄骨柱梁接合部を対象とする耐力予測方法および設計方法を説明する。
まず、上部通しダイアフラムの上柱2の面外曲げによる降伏曲げ耐力 fMy の予測方法の概略を説明する。ここでの説明では、予測対象となる鉄骨柱梁接合部は、上記の心合わせ形式、一方向偏心形式、および二方向偏心形式のいずれであっても良い。
【0041】
この耐力予測方法は、上柱2に軸力Nが作用する場合の、上部通しダイアフラム5の面外曲げによる降伏曲げ耐力 fMy を、降伏線理論を用い、上柱の軸力Nを反映させて求める。なお、以下の説明において、単に「ダイアフラム」とあるのは、「上部通しダイアフラム5」を意味する。
この面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy は、次式(1)によって求める。
【0042】
【数7】

【0043】
上記の式(1)によって面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy が求まる理由を説明する。
上部通しダイアフラム5に形成される降伏線の、単位長さ当たりの降伏曲げモーメント LdMy を次式で与える。
【0044】
【数8】

【0045】
ここで、td :上部通しダイアフラムの板厚
σy :上部通しダイアフラムの降伏応力度
である。
【0046】
各降伏線の長さをLi 、回転角をθi 、角単位長さ当たりの降伏曲げモーメントを LMy とすると、降伏線における内部仕事 LEi は、次式で与えられる。
LEi =Li ・ LMy ・θi
上柱1の降伏応力度を Cσy 、軸降伏領域における歪みをεi 、体積をVi とすると、軸降伏領域における内部仕事EViは、次式で与えられる。
EVi= Cσy ・εi ・Vi
内部仕事Eは、降伏線における内部仕事 LEi と軸降伏領域における内部仕事EViの和で与えられる。
E=Σ LEi +ΣEVi
LEi =Li ・ LMy ・θi
【0047】
面外曲げによる降伏曲げ耐力を fMy 、柱軸力をN、接合部の回転角をθ、軸方向変位をδとすると、外力による仕事Wは次式で与えられる。
W= fMy ・θ+N・δ
内部仕事Eと外力による仕事Wを等しいと置くと、降伏曲げ耐力 fMy と柱軸力Nの関係は、次式、つまり前述の式(1)で与えられる。
【0048】
【数9】

【0049】
接合部の最大耐力につき説明する。
上部通しダイアフラム5に形成される降伏線の単位長さ当たりの全塑性曲げモーメント LdMp を次式で与え、降伏耐力と同様の計算により、接合部の最大耐力を算出する。
【0050】
【数10】

【0051】
この耐力予測方法によると、上記のように、上部通しダイアフラム5の面外曲げによる降伏曲げ耐力 fMy を、降伏線理論を用い、上柱2の軸力Nを反映させて求めるため、降伏曲げ耐力 fMy を精度高く予測することができる。しかも、その他の解析方法を用いる場合に比べて手間をかけずに容易に予測することができる。
【0052】
次に、板厚の設計方法、およびこの設計方法で用いる耐力予測方法を説明する。なお、これらの方法の適用範囲は、鉄骨造の建築物、または鉄骨造と鉄筋コンクリート造,その他の構造とを併用する建築物の鉄骨造の接合部に適用する。建築物の規模に制限はない。
【0053】
上部通しダイアフラム5の接合部の設計方法を説明する。
上部通しダイアフラム5の必要板厚の算定においては、降伏耐力と最大耐力の2種類の耐力評価および接合部剛性の評価を行い、検討する。耐力に関しては、降伏線理論に基づいて、この実施形態で独自に導いた耐力式を用いてダイアフラム接合部の耐力を算定する。降伏耐力については上柱2の降伏曲げ耐力My 以上、最大耐力については上柱の全塑性曲げ耐力Mp の1.3倍以上となることを条件に、上部通しダイアフラム5の必要板厚を設定する。ただし、上柱の軸力比が0.7以下であることを条件とする。剛性に関しては、上部通しダイアフラム5の接合部の回転剛性が上柱2の剛度の25倍以上となることを条件に上部通しダイアフラム5の必要板厚を設定する。
なお、上記の適用条件とする、最大耐力が上柱の全塑性曲げ耐力Mp の1.3倍以上、上柱の軸力比が0.7以下、上部通しダイアフラム5の接合部の回転剛性が上柱2の剛度の25倍以上と言う各条件は、試験結果などに応じて任意に設定する。
【0054】
上部通しダイアフラム5の板厚は、以下の条件式を満足するように設定する。ただし、上柱2に作用する軸力は上柱の軸力比が0.7以下であることを条件とする。
td ≧ max( strtd , rigtd ,tcu,tcl) …(1.1)
tp ≧td …(1.2)
ここで、td :上部通しダイアフラムの必要板厚
strtd :耐力評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚
rigtd :剛性評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚
tcu:上柱板厚
tcl:下柱板厚
tp:接合部パネルの板厚
【0055】
耐力評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚 strtd は、以下の条件式を満足するように設定する。
jMy ≧(1−n) cMy (n≦0.7) …(1.3)
jMu ≧1.3・ν・ cMp (n≦0.7) …(1.4)
【0056】
【数11】

【0057】
ここで、 jMy :上部通しダイアフラムの降伏曲げ耐力
jMu :上部通しダイアフラムの最大曲げ耐力
cMy :上柱の降伏曲げ耐力
cMp :上柱の全塑性曲げ耐力
n : 柱軸力比
N :上柱に作用する軸力
Ny :上柱の降伏軸力
cAu :上柱の断面積
cFy :上柱の基準強度
ν :上柱の軸力による全塑性曲げモーメントの低下率
n≦0.5の場合 ν=1−4n2 /3 …(1.6)
0.5<n≦0.7の場合 ν=4(1−n)/3 …(1.7)
【0058】
上部通しダイアフラムの降伏曲げ耐力jMyは次式による。


…(1.8)
ここで、fMy : 上部通しダイアフラム接合部の面外曲げ降伏耐力
pMy : 上部通しダイアフラム接合部のパンチングシャー降伏耐力

【0059】
上部通しダイアフラム接合部の最大曲げ耐力jMuは次式による。


…(1.9)
ここで、 fMu : 上部通しダイアフラム接合部の面外曲げ最大耐力
pMu : 上部通しダイアフラム接合部のパンチングシャー最大耐力
【0060】
剛性評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚 rigtd は、以下の条件式を満足するように設定する。
【0061】
【数12】

【0062】
上部通しダイアフラム5の降伏曲げ耐力jMyおよび最大曲げ耐力jMuは、降伏線理論に基づいて算定されている。算定方法の詳細については以降の節に示す。
【0063】
(心合わせ接合部の耐力)
(心合わせ接合部の面外曲げ降伏耐力)
図7および図8に、心合わせ接合部の面外曲げ降伏機構を示す。図の太線は降伏線で、d はB, B’点における仮想変位である。上柱に、軸力と基端での曲げ力が作用した場合の圧縮軸降伏領域(1)と引張軸降伏領域(2)を設定し、それぞれ黒塗りとハッチングで示している。x とy は降伏線の位置を定義する寸法で、内部仕事を最小とする条件で値が決まる。図7の降伏機構Iは、柱軸力が小さく中立軸y(上柱の軸心からyの位置)が上柱の内側に位置する場合のものである。柱軸力が大きくなるに従って中立軸yが移動し、図8の降伏機構IIに示すように、中立軸yが上柱の外側に位置する降伏機構に移行する。
なお、図において、点A,A′,C,C′,E,E′は、平面視で下柱1の内周面上の位置であり、図7では、点A,A′,E,E′は角部に位置している。点B,B′,D,D′は、上柱2の外周面上の位置である。
【0064】
降伏機構Iを図8に示す。各降伏線の回転角を以下の式で与える。
【0065】
【数13】

【0066】
【数14】

【0067】
【数15】

【0068】
各降伏線における内部仕事は以下の式で与えられる。ここで、ダイアフラムと接合部パネルの交線に位置する降伏線(AC, A’C’, CE, C’E’, AA’, EE’)については、LdMyLpMyのいずれか小さい方を用いる。


…(2.14)


…(2.15)


…(2.16)


…(2.17)


…(2.18)


…(2.19)


…(2.20)


…(2.21)


…(2.22)


…(2.23)
【0069】
【数16】

【0070】
【数17】

【0071】
【数18】

【0072】
面外曲げによる降伏曲げ耐力をfMy、柱軸力をNとすると、外力による仕事Wは次式で与えられる。


…(2.34)
全ての降伏線と軸降伏領域における内部仕事の和をEとする。内部仕事Eと外力による仕事Wを等しいと置くと、面外曲げ降伏耐力fMyと柱軸力Nの関係は次式で与えられる。
【0073】
【数19】

【0074】
降伏線の位置を定義する寸法xとyはfMyを最小にする条件より求める。
【0075】
降伏機構II(柱軸力が大きく、中立軸が上柱の外側にある場合)
降伏機構IIを図8に示す。各降伏線の回転角を以下の式で与える。



【0076】
【数20】

【0077】
各降伏線における内部仕事は以下の式で与えられる。


…(2.42)


…(2.43)


…(2.44)


…(2.45)


…(2.46)


…(2.47)
【0078】
【数21】

【0079】
【数22】

【0080】
面外曲げによる降伏曲げ耐力をfMy、柱軸力をNとすると、外力による仕事Wは次式で与えられる。


…(2.54)
全ての降伏線と軸降伏領域における内部仕事の和をEとする。内部仕事Eと外力による仕事Wを等しいと置くと、面外曲げ降伏耐力fMyと柱軸力Nの関係は次式で与えられる。
【0081】
【数23】

【0082】
(心合わせ接合部の面外曲げ最大耐力)
面外曲げ最大耐力は前節と同様の計算で求める。ただし、以下の点が異なる。
ダイアフラムに形成される降伏線の単位長さ当たりの降伏曲げモーメントLdMyの代わりに、全塑性モーメントLdMpを用いる。
【0083】
【数24】

【0084】
【数25】

【0085】
軸降伏領域(1)および(2)における内部仕事を求めるに当たっては、上柱の降伏応力度csyの代わりに引張強さcsuを用いる。


…(2.58)


…(2.59)
ここで csu : 上柱の引張強さ
【0086】
(心合わせ接合部のパンチングシャー降伏耐力)
図9に心合わせ接合部のパンチングシャー降伏機構を示す。図の太線がパンチングシャー降伏線である。
パンチングシャー降伏線を、板厚td’の矩形鋼管に置換する。td’は次式で与える。


…(2.60)
td : ダイアフラムの厚さ
【0087】
【数26】



…(2.64)
dsy : ダイアフラムの降伏応力度

【0088】
(心合わせ接合部のパンチングシャー最大耐力)
パンチングシャー最大耐力は前節と同様の計算で求める。縁応力が引張強さとなる条件より、パンチングシャー最大耐力pMuと柱軸力Nの関係は次式で与えられる。
【0089】
【数27】

【0090】
(一方向偏心接合部の耐力)
(一方向偏心接合部の面外曲げ降伏耐力)
図10に一方向偏心接合部の面外曲げ降伏機構を示す。dはB, B’点における仮想変位である。上柱に圧縮軸降伏領域(1)と引張軸降伏領域(2)を設定し、それぞれ黒塗りとハッチングで示している。xとyは降伏線の位置を定義する寸法で、内部仕事を最小とする条件で値が決まる。一方向偏心接合部は作用する曲げモーメントの向きによって耐力が異なるが、ここでは接合部にとって最も不利となる荷重条件について示す。
【0091】
【数28】

【0092】
【数29】

【0093】
【数30】

【0094】
各降伏線における内部仕事は以下の式で与えられる。ここで、ダイアフラムと接合部パネルの交線に位置する降伏線(AC, A’C’, AA’)については、LdMyLpMyのいずれか小さい方を用いる。


…(3.11)


…(3.12)


…(3.13)


…(3.14)


…(3.15)


…(3.16)
【0095】
【数31】

【0096】
【数32】

【0097】
軸降伏領域(1)における内部仕事EV1は次式で与えられる。


…(3.20)
csy : 上柱の降伏応力度
軸降伏領域(2)の歪e2は次式で与えられる。
【0098】
【数33】

【0099】
軸降伏領域(1)の体積V2は次式で与えられる。


…(3.22)
軸降伏領域(2)における内部仕事EV2は次式で与えられる。


…(3.23)
接合部の回転角qは次式で与えられる。


…(3.24)
接合部の軸方向の仮想変位d3は次式で与えられる。
【0100】
【数34】

【0101】
面外曲げによる降伏曲げ耐力をfMy、柱軸力をNとすると、外力による仕事Wは次式で与えられる。


…(3.26)
全ての降伏線と軸降伏領域における内部仕事の和をEとする。内部仕事Eと外力による仕事Wを等しいと置くと、面外曲げ降伏耐力fMyと柱軸力Nの関係は次式で与えられる。
【0102】
【数35】

【0103】
(一方向偏心接合部の面外曲げ最大耐力)
面外曲げ最大耐力は前節と同様の計算で求める。ただし、以下の点が異なる。
ダイアフラムに形成される降伏線の単位長さ当たりの降伏曲げモーメントLdMyの代わりに、全塑性モーメントLdMpを用いる。
【0104】
【数36】

【0105】
接合部パネルの上部に形成される降伏線の単位長さ当たりの降伏曲げモーメントLpMyの代わりに、全塑性モーメントLpMpを用いる。
【0106】
【数37】

【0107】
軸降伏領域(1)および(2)における内部仕事を求めるに当たっては、上柱の降伏応力度csyの代わりに引張強さcsuを用いる。


…(3.30)


…(3.31)
csu : 上柱の引張強さ
【0108】
(一方向偏心接合部のパンチングシャー降伏耐力)
図11に一方向偏心接合部のパンチングシャー降伏機構を示す。ダイアフラムにパンチングシャー降伏線を仮定する(B-A-C-D間)。B-D間は上柱が降伏すると仮定する。

パンチングシャー降伏線を板厚td’の鋼板に置換する。td’は次式で与える。


…(3.32)
td : ダイアフラムの厚さ
上柱の中心から置換断面の中立軸までの距離をy0と置くと、置換断面の断面二次モーメントI0は次式で与えられる。
【0109】
【数38】

【0110】
中立軸から圧縮側縁までの距離ycは、


…(3.34)
中立軸から引張側縁までの距離ytは、


…(3.35)
圧縮側断面係数Zcは、


…(3.36)
引張側断面係数Ztは、


…(3.37)
置換断面の断面積A0は、


…(3.38)
圧縮側縁応力が降伏応力度となる条件より、二方向偏心接合部のパンチングシャーによる降伏曲げモーメントpMycと柱軸力Nの関係は次式で与えられる。
【0111】
【数39】

引張側縁応力が降伏応力度となる条件より、一方向偏心接合部のパンチングシャーによる降伏曲げモーメントpMytと柱軸力Nの関係は次式で与えられる。
【0112】
【数40】

【0113】
一方向偏心接合部のパンチングシャー降伏曲げ耐力pMyは次式で与える。


…(3.41)
【0114】
(一方向偏心接合部のパンチングシャー最大耐力)
一方向偏心接合部のパンチングシャー最大曲げ耐力pMuは次式で与える。


…(3.42)
【0115】
【数41】

【0116】
(二方向偏心接合部の耐力)
(二方向偏心接合部の面外曲げ降伏耐力)
図12に二方向偏心接合部の面外曲げ降伏機構を示す。図の太線は降伏線で、dはB, B’点における仮想変位である。上柱に圧縮軸降伏領域(1)と(2)、引張軸降伏領域(3)を設定し、それぞれ黒塗りとハッチングで示している。x, y, zは降伏線の位置を定義する寸法で、内部仕事を最小とする条件で決まる。二方向偏心接合部は作用する曲げモーメントの向きによって耐力が異なるが、ここでは接合部にとって最も不利となる荷重条件について示す。
【0117】
【数42】

【0118】
【数43】

【0119】
【数44】

【0120】
【数45】

【0121】
各降伏線における内部仕事は以下の式で与えられる。ここで、ダイアフラムと接合部パネルの交線に位置する降伏線(AC, A’C’, AA’)については、LdMyLpMyのいずれか小さい方を用いる。


…(4.14)


…(4.15)


…(4.16)


…(4.17)


…(4.18)


…(4.19)


…(4.20)


…(4.21)


…(4.22)
【0122】
【数46】

【0123】
軸降伏領域(2)の歪e2は次式で与えられる。


…(4.27)
軸降伏領域(2)の体積V2は次式で与えられる。
【0124】
【数47】

【0125】
軸降伏領域(2)における内部仕事EV2は次式で与えられる。


…(4.29)
軸降伏領域(3)の歪e3は次式で与えられる。
【0126】
【数48】

【0127】
軸降伏領域(3)の体積V3は次式で与えられる。


…(4.31)
軸降伏領域(3)における内部仕事EV3は次式で与えられる。


…(4.32)
接合部の回転角qは次式で与えられる。


…(4.33)
面外曲げによる降伏曲げ耐力をfMy、作用軸力をNとすると、外力による仕事Wは次式で与えられる。


…(4.34)
全ての降伏線と軸降伏領域における内部仕事の和をEとする。内部仕事Eと外力による仕事Wを等しいと置くと、接合部の面外曲げ降伏耐力fMyと柱軸力Nの関係は次式で与えられる。
【0128】
【数49】

【0129】
(二方向偏心接合部の面外曲げ最大耐力)
面外曲げ最大耐力は前節と同様の計算で求める。ただし、以下の点が異なる。
【0130】
【数50】

【0131】
軸降伏領域における内部仕事を求めるに当たっては、上柱の降伏応力度csyの代わりに引張強さcsuを用いる。


…(4.38)


…(4.39)


…(4.40)
ここで csu : 上柱の引張強さ
【0132】
(二方向偏心接合部のパンチングシャー降伏耐力)
図13に二方向偏心接合部のパンチングシャー降伏機構を示す。ダイアフラムにパンチングシャー降伏線を仮定する(B-A-C間)。B-D-C間は上柱が降伏すると仮定する。
パンチングシャー降伏線を板厚td’の鋼板に置換する。td’は次式で与える。


…(4.41)
td : ダイアフラムの厚さ
上柱の中心から置換断面の中立軸までの距離をy0と置くと、置換断面の断面二次モーメントI0は次式で与えられる。
【0133】
【数51】

【0134】
中立軸から圧縮側縁までの距離ycは、


…(4.43)
中立軸から引張側縁までの距離ytは、


…(4.44)
圧縮側断面係数Zcは、


…(4.45)
引張側断面係数Ztは、


…(4.46)
置換断面の断面積A0は、


…(4.47)
【0135】
【数52】

【0136】
二方向偏心接合部のパンチングシャーによる降伏曲げ耐力pMyは次式で与える。


…(4.50)

【0137】
(二方向偏心接合部のパンチングシャー最大耐力)
二方向偏心接合部のパンチングシャー最大曲げ耐力pMuは次式で与える。


…(4.51)
【0138】
【数53】

【0139】
(二方向偏心接合部(45度方向入力)の耐力)
(二方向偏心接合部(45度方向入力)の面外曲げ降伏耐力)
図14に二方向偏心45度方向入力のダイアフラム接合部面外曲げ降伏機構(右方向載荷)を示す。図の太線は降伏線で、d は仮想変位である。上階柱に圧縮軸降伏領域(1)と引張軸降伏領域(2)を設定し、それぞれ黒塗りとハッチングで示している。y は降伏線の位置を定義する寸法で、内部仕事を最小とする条件で値が決まる。二方向偏心接合部(45度方向入力)は作用する曲げモーメントの向きによって耐力が異なるが、ここでは図14に示す荷重条件についての計算過程を示す。
【0140】
【数54】

【0141】
【数55】

【0142】
【数56】

【0143】
各降伏線における内部仕事は以下の式で与えられる。


…(5.13)


…(5.14)


…(5.15)


…(5.16)


…(5.17)


…(5.18)
軸降伏領域(1)の歪e1は次式で与えられる。


…(5.19)
【0144】
【数57】

【0145】
軸降伏領域(1)における内部仕事EV1は次式で与えられる。


…(5.21)
csy : 上柱の降伏応力度
軸降伏領域(2)の歪e2は次式で与えられる。


…(5.22)
【0146】
【数58】

【0147】
軸降伏領域(2)における内部仕事EV2は次式で与えられる。


…(5.24)
面外曲げによる降伏曲げ耐力をfMy、作用軸力をNとすると、外力による仕事Wは次式で与えられる。


…(5.25)
【0148】
【数59】

【0149】
(二方向偏心接合部(45度方向入力)の面外曲げ最大耐力)
面外曲げ最大耐力は前節と同様の計算で求める。ただし、以下の点が異なる。
ダイアフラムに形成される降伏線の単位長さ当たりの降伏曲げモーメントLdMyの代わりに、全塑性モーメントLdMpを用いる。
【0150】
【数60】

【0151】
軸降伏領域における内部仕事を求めるに当たっては、上柱の降伏応力度csyの代わりに引張強さcsuを用いる。


…(5.29)


…(5.30)
csu : 上柱の引張強さ
【0152】
(二方向偏心接合部(45度方向入力)のパンチングシャー降伏耐力)
図15に二方向偏心接合部のパンチングシャー降伏機構を示す。ダイアフラムにパンチングシャー降伏線を仮定する。
パンチングシャー降伏線を板厚td’の鋼板に置換する。td’は次式で与える。


…(5.31)
td : ダイアフラムの厚さ
【0153】
【数61】

【0154】
置換断面の断面積A’は次式で与えられる。


…(5.34)
縁応力が降伏応力度となる条件より、二方向偏心接合部のパンチングシャーによる降伏曲げモーメントpMyと柱軸力Nの関係は次式で与えられる。
【数62】

【0155】
(二方向偏心接合部(45度方向入力)のパンチングシャー最大耐力)
パンチングシャー最大耐力は前節と同様の計算で求める。縁応力が引張強さとなる条件より、パンチングシャー最大耐力pMuと柱軸力Nの関係は次式で与えられる。
【0156】
【数63】

【0157】
以上の実施形態の方法で、上部通しダイアフラム5の耐力予測を行った結果を、実際の接合部を製作して試験した結果と比較したところ、実施形態の耐力式の計算結果は、試験結果とほぼ一致しており、降伏耐力、最大耐力ともに、実用上十分な精度で、かつ安全側の評価となっている。
【0158】
図16は、他の実施形態に係る設計方法で用いる上部通しダイアフラムの板厚の選定用の表の説明図である。この表20は、行と列からなる表であって、各行に、下柱の各種の幅寸法を定め、各欄に上柱の各種の幅寸法の他方を定めている。また、各行は、下柱の鋼管の板厚毎に細分し、さらに各板厚毎に、下柱の寸法毎に心合わせ形式,一方向偏心形式,二方向偏心形式の3種類の接合形式に細分している。各欄は、上柱の鋼管の板厚毎に細分している。これらの細分された各行と列が交差する枡内に、対応する下柱と上柱の幅寸法に場合に適切となる上部通しダイアフラムの板厚を記載している。
この枡内に記載する板厚の値は、この明細書の発明を実施するための形態の欄で述べた各条件式を満足する厚さとしている。なお、行と列は、互いに逆にしても良い。
【0159】
この実施形態では、上下柱異径の鉄骨柱梁接合部における上部通しダイアフラム5の板厚を、下柱1の幅寸法と上柱2の幅寸法、下柱1と上柱の板厚、および上記3種類の接合形式に応じて、表20の該当する枡内に記載された板厚以上とする。板厚の上限は、無駄に厚くならないように、任意に定めれば良い。
【0160】
この設計方法によると、下柱1と上柱2の幅寸法、板厚の組み合わせ、および接合形式毎に、適切となる上部通しダイアフラム5の板厚を定めた表20を用い、この表20に定められた板厚以上として板厚を設計するため、個々の建物毎や個々の柱毎に、板厚設計のための複雑な耐力計算を行うことなく、適切な板厚を簡単に設計することができる。また上記の表20には、この発明の前記実施形態の予測方法による信頼性の高い板厚の値が定められているため、信頼性の高い板厚設計が行える。
【0161】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、梁がH形鋼からなる場合を示したが、溶接組立H形断面材などであってもよい。
また、本発明では、面外曲げ降伏耐力fMy、パンチングシャー降伏耐力pMy、面外曲げ終局耐力fMu、及び、パンチングシャー終局耐力psMuを、上記の式で求める場合を示したが、これに限らず、要は、降伏線理論を用い、この降伏線理論に上柱の軸力を反映させて求めるようになされたものであればよい。
【符号の説明】
【0162】
1:下柱
2:上柱
3:接合部パネル
4:下部通しダイアフラム
5:上部通しダイアフラム
6:鉄骨梁
20:表

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ角形鋼管柱からなる下柱および上柱を有し、上柱が下柱よりも小径であり、下柱の上端開口を閉じて周囲に張り出し前記下柱に全周溶接された下部通しダイアフラムと、前記下柱と略同径の角形直筒状に形成され前記下部通しダイアフラムの上面に下端が全周溶接されて立ち上がる接合部パネルと、この接合部パネルの上端開口を閉じて周囲に張り出し前記接合部パネルに全周溶接されて上面に前記上柱の下端が全周溶接された上部通しダイアフラムと、前記下部通しダイアフラムおよび上部通しダイアフラムの端面に上下フランジが接合される鉄骨梁とを備えた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部において、前記上部通しダイアフラムの耐力を予測する方法であって、
前記上柱に軸力Nが作用する場合の、前記上部通しダイアフラムの面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy を、降伏線理論を用い、前記上柱の軸力Nを反映させて求め、
前記上部通しダイアフラムの前記面外降伏曲げ耐力 fMy を、次式(1)によって求めることを特徴とする上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の耐力予測方法。
【数1】

ここで、E:内部仕事
N:柱軸力(柱軸力Nは任意に与える)
δ:軸方向の仮想変位
θ3 :上部通しダイアフラムの上柱軸心での回転角
ただし、内部仕事Eは、降伏線における内部仕事Σ LEi と軸降伏領域における内部仕事ΣEViとの和、
E=Σ LEi +ΣEViで与えられる。
降伏線における内部仕事 LdEi は、次式で与えられる。
LdEi =Li ・ LdMy ・θi
ここで、Li :各降伏線の長さ
θi :各降伏線の回転角
LdMy :上部通しダイアフラムに形成される降伏線の単位長さ当たりの降伏曲げモーメント
この降伏曲げモーメント LMy は、次式で与える。
【数2】

ここで、td :上部通しダイアフラムの板厚
dσy :上部通しダイアフラムの降伏応力度
軸降伏領域における内部仕事EViは、次式で与えられる。
EVi= Cσy ・εi ・Vi
ここで、 Cσy :上柱の降伏応力度
εi :各軸降伏領域における歪み
Vi :各軸降伏領域の体積
ただし、降伏線の位置は面外降伏曲げ耐力 fMy が最小となる位置とする。
【請求項2】
それぞれ角形鋼管柱からなる下柱および上柱を有し、上柱が下柱よりも小径であり、下柱の上端開口を閉じて周囲に張り出し前記下柱に全周溶接された下部通しダイアフラムと、前記下柱と略同径の角形直筒状に形成され前記下部通しダイアフラムの上面に下端が全周溶接されて立ち上がる接合部パネルと、この接合部パネルの上端開口を閉じて周囲に張り出し前記接合部パネルに全周溶接されて上面に前記上柱の下端が全周溶接された上部通しダイアフラムと、前記下部通しダイアフラムおよび上部通しダイアフラムの端面に上下フランジが接合される鉄骨梁とを備えた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部において、前記上部通しダイアフラムの耐力を予測する方法であって、
前記上柱に軸力Nが作用する場合の、前記上部通しダイアフラムのパンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy を、降伏線理論を用い、前記上柱の軸力Nを反映させて求め、
前記接合部の前記パンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy を次式(2)によって求めることを特徴とする上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の耐力予測方法。
【数3】

ここで、 dσy :上部通しダイアフラムの降伏応力度
N :柱軸力(柱軸力Nは任意に与える)
Ao :置換断面の断面積
Zo :置換断面の断面係数
ただし、Ao =4B1 ・td ′
Zo は次式のとおり。
【数4】

ここで、I0 :置換断面の断面二次モーメント
td :上部通しダイアフラムの板厚td は板厚、
td ′=td /√3
B1 :上柱の幅(上柱は断面が正方形とする)
である。
【請求項3】
請求項1で求めた面外曲げ降伏曲げ耐力 fMy と、
請求項2パンチングシャー降伏曲げ耐力 pMy のうち、
小さい方の耐力値を、上部通しダイアフラムの降伏曲げ耐力 jMy とすることを特徴とする上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の耐力予測方法。
【請求項4】
それぞれ角形鋼管柱からなる下柱および上柱を有し、上柱が下柱よりも小径であり、下柱の上端開口を閉じて周囲に張り出し前記下柱に全周溶接された下部通しダイアフラムと、前記下柱と略同径の角形直筒状に形成され前記下部通しダイアフラムの上面に下端が全周溶接されて立ち上がる接合部パネルと、この接合部パネルの上端開口を閉じて周囲に張り出し前記接合部パネルに全周溶接されて上面に前記上柱の下端が全周溶接された上部通しダイアフラムと、前記下部通しダイアフラムおよび上部通しダイアフラムの端面に上下フランジが接合される鉄骨梁とを備えた上下柱異径の鉄骨柱梁接合部において、前記上部通しダイアフラムの板厚を設計する方法であって、
定められた耐力評価式と、定められた剛性評価式を満足する板厚とし、
前記の定められた耐力評価式に、請求項3記載の耐力予測方法で予測される降伏曲げ耐力 jMy を用いることを特徴とする上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の板厚設計方法。
【請求項5】
請求項4記載の板厚設計方法であって、上部通しダイアフラムの板厚は、以下の条件式を満足する板厚とすることを特徴とする上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の板厚設計方法。
耐力評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚 td は、以下の条件式を満足するように設定する。
td ≧ max( strtd , rigtd ,tcu,tcl)
tp ≧td
ここで、td :上部通しダイアフラムの必要板厚
strtd :耐力評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚
rigtd :剛性評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚
tcu:上柱板厚
tcl:下柱板厚
tp:接合部パネルの板厚
耐力評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚 strtd は、以下の条件式を満足するように設定する。
jMy ≧(1−n) cMy (n≦0.7)
jMu ≧1.3・ν・ cMp (n≦0.7)
【数5】

ここで、 jMy :上部通しダイアフラムの降伏曲げ耐力
jMu :上部通しダイアフラムの最大曲げ耐力
cMy :上柱の降伏曲げ耐力
cMp :上柱の全塑性曲げ耐力
n : 柱軸力比
N :上柱に作用する軸力
Ny :上階柱の降伏軸力
cAu :上階柱の断面積
cFy :上階柱の基準強度
ν :上階柱の軸力による全塑性曲げモーメントの低下率
n≦0.5の場合 ν=1−4n2 /3
0.5<n≦0.7の場合 ν=4(1−n)/3
剛性評価式を満足する上部通しダイアフラム板厚 rigtd は、以下の条件式を満足するように設定する。
【数6】

【請求項6】
上部通しダイアフラムの板厚を選定する表として、行と列からなる表の各行に、下柱の各種の幅寸法または上柱の各種の幅寸法の一方を定め、前記表の各欄に、下柱の各種の幅寸法または上柱の各種の幅寸法の他方を定め、各行と列が交差する枡内に、対応する下柱と上柱の幅寸法に場合に適切となる上部通しダイアフラムの板厚を記載し、
この枡内に記載する板厚の値を、請求項4または請求項5で定める各条件式を満足する厚さとし、
上下柱異径の鉄骨柱梁接合部における上部通しダイアフラムの板厚を、下柱の幅寸法と上柱の幅寸法に応じて、前記表の該当する枡内に記載された板厚以上とすることを特徴とする上下柱異径の鉄骨柱梁接合部の板厚設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−28997(P2013−28997A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167247(P2011−167247)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)