説明

上気道エアウェイ挿入練習装置

【課題】
上気道エアウェイの挿入の際に生じるトラブルを的確に再現して、術者に適切な挿入方法を理解させ、技量を向上させることができる、簡易で実用的な上気道エアウェイ挿入練習装置を提供する。
【解決手段】
上面が開放された凹形の横断面形を有する咽頭溝部2と、咽頭溝部2の一端に立設され、平面状あるいは凹面状の口蓋面を有する口蓋板3と、口蓋板3の咽頭溝部2との接続部近傍に開口する鼻咽開口8と、鼻咽開口8に垂下する軟口蓋片4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばラリンジアルマスクエアウェイのようなヒトの上気道に挿入して、人工呼吸を行う上気道エアウェイの挿入練習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工呼吸器と患者の気道を結合して肺内の換気を行う管状の器具を一般にエアウェイ(Airway)と呼ぶ。従来は、喉頭鏡による監視の下で、エアウェイを喉頭口から気管の内部に挿入する気管内挿管が多用されて来た。しかしながら、気管内挿管は気管内への挿入自体が困難な場合がある。更に、通常では気体しか存在しない気管にエアウェイを挿入する気管内挿管は人体への侵襲が強く、気管内の毛細管血流を障害し、気道上皮を損傷するなどの危険がある。また、気管内挿管時に使用する喉頭鏡と筋弛緩剤によって様々な合併症を惹起するおそれがある。
【0003】
そこで、近年、ラリンジアルマスクエアウェイ(Laryngeal Mask Airway)や食道閉鎖式エアウェイ等、声門より上部の気道つまり、上気道に留まって気管内に挿入されない上気道エアウェイが開発された。
【0004】
ラリンジアルマスクエアウェイは、数種類ある上気道エアウェイの中では最も早くから臨床に用いられ、最も普及している。図7は、ラリンジアルマスクエアウェイを患者に装着した状態を示す図である。図7において、100はラリンジアルマスクエアウェイであり、200は患者の頭部である。ラリンジアルマスクエアウェイ100は、エアウェイチューブ101、カフ102及びインフレーティングチューブ103から構成される。
【0005】
エアウェイチューブ101は図示しない人工呼吸器と喉頭201を結合して肺内の空気の換気を行う管であり、口腔202から挿入されて咽頭203の下部に達する。カフ102はエアウェイチューブ101の先端を取り囲む環状の空気嚢であり、咽頭203の壁面に密着して、喉頭201とエアウェイチューブ101を気密に結合して、エアウェイチューブ101を流れる空気が気管211以外の食道204や咽頭203に漏れるのを防ぐシールとして機能する。なお、カフ102は脱気されて萎んだ状態で咽頭203に挿入されて、正規の位置に位置決めされた後で、インフレーティングチューブ103を介して図示しないポンプで空気を注入されて膨らむ。また、エアウェイチューブ101を咽頭203から抜去する際は、カフ102内の空気はインフレーティングチューブ103を介して排出される。なお、205は前歯列、206は硬口蓋、207は軟口蓋、208は鼻咽腔、209は喉頭蓋、210は喉頭前庭、211は気管である。
【0006】
ラリンジアルマスクエアウェイ100を患者の咽頭203に挿入する際は、カフ102の背面部を硬口蓋206に適切な力と向きで押しつけ、カフ102の先端部を硬口蓋206に貼り付けるようにして、硬口蓋206と軟口蓋207のカーブに沿って滑らせて、咽頭203の下部に導き、カフ102が咽頭203の底部に当たった感触を術者が感じるまで押し込む。
【0007】
このように、エアウェイチューブ101は、術者によって、患者の咽頭203に挿入されるが、挿入手技の説明文を読んだだけで、適切な挿入方法を実践することは難しい。カフ102を硬口蓋206に密着させるために必要な力の強さと、挿入過程により変化する力を加える方向は、言葉による説明だけでは十分に理解されないことが原因である。不適切な挿入を行うと、カフ102は望ましくない位置に挿入され、各種の不具合を引き起こす。例えば、カフ102が喉頭前庭210や鼻咽腔208に迷入すると、エアウェイチューブ101と気管211が結合されず、換気が困難になる。また、カフ102の挿入が浅いと、エアウェイチューブ101を流れる空気が咽頭203や食道204に漏れるので、効率の良い換気が行えない。また、カフ102の正確な位置決めのための挿入と抜去の繰り返しは、外傷や有害な反射を引き起こす。したがって、術者は、カフ102を手探りで正確に位置決めできるような手技を体得する必要があり、そのための練習機材が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、特許文献2等に開示された気管挿管訓練用の人形を用いて、ラリンジアルマスクエアウェイ100の挿入トレーニングを行うための補助器具が開示されている。また、特許文献3には、ラリンジアルマスクエアウェイ100の挿入トレーニングを行うための人形が開示されている。
【特許文献1】実開平7−33350号公報
【特許文献2】特開昭59−30582号公報
【特許文献3】特開2000−214765号公報
【非特許文献1】JR Brimacombe他 原著、天羽敬祐 監訳 「ラリンジアルマスクのすべて」診断と治療社 刊、1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1等に開示された人形(以下、「従来の人形」と呼ぶ。)は、喉頭201や気管211等の形状を忠実に再現しているので、現実の気管内挿管に近い体験ができる利点があるが、顔や皮膚なども再現しているため、装置が大掛かりで高価であるという問題がある。また、従来の人形は、挿入過程を肉眼で確認するのが困難であるため、咽頭203内でのエアウェイチューブ101の挙動やカフ102の変形等の理解が妨げられている。
【0010】
また、従来の人形は本来、気管内挿管の訓練を目的しているので、ラリンジアルマスクエアウェイ100の訓練には不十分であり、術者に正確な挿入法を理解させることが難しい。更に、ラリンジアルマスクエアウェイ100に特有の次のようなトラブルを忠実に再現されず、十分な練習効果が得られないという問題がある。
(1)硬口蓋206および軟口蓋207を通って、咽頭203に突き当たったカフ102が捲返されて、鼻咽腔208に迷入するようなトラブル。
(2)咽頭203の内部で、カフ102が捲返されて、カフ102の縁部が捲返された状態でカフ102が留置されるトラブル。
(3)前歯列205にカフ102の先端が当たって、カフ102の先端縁が捲返されるトラブル。
(4)挿入前の不適切なカフ102の形成準備や挿入手技により、カフ102の先端が喉頭前庭210に迷入するトラブル。
【0011】
また、従来の人形では、軟口蓋207が硬質材料で形成されており、ヒトが起立した状態における軟口蓋207の形状(軟口蓋207の先端が重力によって、足下方向に垂下した状態)をモデル化している。この人形でラリンジアルマスクエアウェイ100の挿入を行うとカフ102は軟口蓋207のモデルに案内されて、咽頭203の下部にスムーズに導かれる。一方、現実のラリンジアルマスクエアウェイ100の挿入は、患者を横臥させて行うので、軟口蓋207の先端は後頭部方向に垂下している。しかも、患者の意識の低下若しくは筋弛緩剤の投与のために軟口蓋207は弛緩しているので、ラリンジアルマスクエアウェイ100が押し当てられると変形する。このため、ラリンジアルマスクエアウェイ100は咽頭203にスムーズに導かれず、鼻咽腔208に迷入する。つまり、従来の人形ではこのような現象を的確に再現できないという問題がある。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑み、なされたものであり、上気道エアウェイの挿入の際に生じるトラブルを的確に再現して、術者に適切な挿入方法を理解させることができる、簡易で実用的な上気道エアウェイ挿入練習装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第1の構成は、上面が開放された凹形の横断面形を有する咽頭溝部と、前記咽頭溝の一端に立設され、平面状あるいは、凹面状の口蓋面を有する口蓋部材と、前記口蓋部材の前記咽頭溝部との接続部近傍に開口する鼻咽開口と、前記鼻咽開口に垂下する軟口蓋片とを備えるものである。
【0014】
この構成によれば、上気道エアウェイの挿入経路に存在するヒトの器官を上気道エアウェイ挿入の練習に対して必要十分な程度にモデル化しているので、上気道エアウェイ挿入の効果的な練習が可能になる。
【0015】
硬口蓋のアーチが高い(湾曲が大きい)場合にはカフを硬口蓋に沿って滑らすのが難しいため、上気道エアウェイを口腔に対してやや斜めに接近させるslight lateral approach 法が採用されるが、口蓋面をヒトの口蓋を模擬した凹面状に形成すれば、slight lateral approach 法を実行する際の上気道エアウェイの挙動を的確に再現できる。ここで凹面状とは、水平断面および垂直断面の双方が曲線を成し、中央部が周辺部に対して凹んでいる形状をいい、口蓋部材の水平断面形はヒトの硬口蓋の前額面における湾曲を、垂直断面形は矢状面における湾曲をそれぞれ模擬している。
【0016】
なお、口蓋部材の口蓋面は凹面でなく、平面状に形成してもよい。ヒトの硬口蓋のアーチ(湾曲)には個人差があり、平面で模擬できる場合もあるからである。また、咽頭溝部の凹形断面の隅部に丸みを付けて、咽頭溝部の横断面形をU字形に形成すれば、ヒトの咽頭の断面形をより的確に模擬できるので、練習効果が向上する。
【0017】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第2の構成は、前記第1の構成において、前記軟口蓋片を可撓性部材により構成することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、軟口蓋片を可撓性部材で構成するので、上気道エアウェイが軟口蓋を押し上げて、鼻咽腔に迷入するトラブルを再現できるので、練習効果が向上する。ここで、可撓性部材はゴムには限られない。ヒトの軟口蓋の可撓性を再現できる素材を適宜選択して使用することができる。
【0019】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第3の構成は、前記第1又は第2の構成において、前記咽頭溝部の一部を掩蓋する咽頭前面板を備えることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、ヒトの咽頭前壁面を模擬する咽頭前面板を備えて、咽頭溝部の一部の断面を閉断面とするので、カフが咽頭内で折れ曲がるトラブルを再現でき、練習効果が向上する。
【0021】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第4の構成は、前記第3の構成において、前記咽頭前面板に喉頭片を備えることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、咽頭前面板に喉頭片を備えて、ヒトの喉頭を模擬するので、カフが喉頭に当たって進まなくなり、挿入過程が終了することを感触で確認でき、練習効果が向上する。
【0023】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第5の構成は、前記第4の構成において、前記喉頭片に内腔を有することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、喉頭片に内腔を有して、ヒトの喉頭の腔を模擬するので、カフが喉頭の内部に迷入するトラブルを再現でき、練習効果が向上する。
【0025】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第6の構成は、前記第1乃至第5の構成において、前記口蓋部材は、上端に歯列状突起を備えることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、口蓋部材の上端に歯列状突起を備えて、ヒトの前歯列を模擬するので、前歯のある人体で起こりやすい口腔内でのカフのめくれ返りを的確に再現でき、練習効果が向上する。
【0027】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第7の構成は、前記第6の構成において、形状又は寸法の異なる複数の前記歯列状突起を備えるともに、前記歯列状突起は、前記口蓋部材に対して着脱自在に連結されることを特徴とする。
【0028】
歯列の形状と大きさには個人差があり、歯牙の一部あるいは全部が脱落している場合もある。歯牙が全く無い場合には、上気道エアウェイを硬口蓋に密着させやすいので、挿入は容易になる。一方、歯牙が長い場合、若しくは歯牙が不均一な場合は、上気道エアウェイを硬口蓋に密着させるのが困難であり、適切な挿入も困難になる。この構成によれば、形状又は寸法の異なる複数の前記歯列状突起を着脱・交換自在にしたので、歯牙の形状・寸法、歯牙の有無という解剖的個人差と、それに伴う上気道エアウェイの挿入の難易度の違いが再現され、難易度に応じた練習が可能になる。
【0029】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第8の構成は、前記第1乃至第7の構成において、前記口蓋部材は、前記咽頭溝部に対して前記の接続部回りに回動・固定自在に連結されることを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、口蓋部材が咽頭溝部に対して回動・固定自在に連結されるので、患者の頭頚部の角度の違いを模擬して、挿入練習をすることができ、練習効果が向上する。
【0031】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第9の構成は、前記第1乃至第8の構成において、形状又は寸法の異なる複数の前記口蓋部材を備えるとともに、前記口蓋部材は前記咽頭溝部に対して着脱自在に連結されることを特徴とする。
【0032】
硬口蓋の形状寸法には個人差があり、硬口蓋の曲率が大きい患者、硬口蓋面の凹凸の顕著な患者は、硬口蓋へのカフの押し付けが不十分になり、通常の方法では挿入が困難である。この構成によれば、形状寸法の異なる口蓋部材を取り替えて、挿入の容易な形態から困難な形態まで、条件を変えながら練習できるので、練習効果が向上する。
【0033】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第10の構成は、前記第1乃至第9の構成において、形状又は寸法あるいは硬さの異なる複数の前記軟口蓋片を備えるとともに、前記軟口蓋片は、前記口蓋部材に対して着脱自在に連結されることを特徴とする。
【0034】
軟口蓋の形状寸法および硬さには個人差があり、また軟口蓋の硬さは患者の意識レベルや投与された薬剤によっても変化する。この構成によれば、このような個人差や意識レベル等の違いによる挿入難易度の違いを再現できるので、練習効果が向上する。
【0035】
本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置の第11の構成は、前記第1乃至第10の構成において、構成部材のー部又は全部を透明部材により構成することを特徴とする。
【0036】
この構成によれば、構成部材のー部又は全部を透明部材で構成するので、上気道エアウェイ挿入練習装置内でのエアウェイチューブの挙動やカフの変形を直接観察でき、練習効果が向上する。
【発明の効果】
【0037】
以上、説明したように本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置は、ヒトの口腔から喉頭に至る器官の内、上気道エアウェイの挿入に関係する器官を上気道エアウェイ挿入練習に対して必要十分な程度にモデル化しているので、上気道エアウェイの挿入の際に生じるトラブルを的確に再現して、術者に適切な挿入方法を理解させ、技量を向上させる効果がある。また、本発明の上気道エアウェイ挿入練習装置は比較的単純な形状の部品で構成されているので、製造が容易であり、安価に提供でき、上気道エアウェイの普及に資するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0039】
図1は、本発明の実施例を示す上気道エアウェイ挿入練習装置の三面図であり、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は正面図である。図2は前記上気道エアウェイ挿入練習装置の斜視図である。また、図3は前記上気道エアウェイ挿入練習装置とヒトの呼吸器との関係を示す図である。図1および図2に示すように、上気道エアウェイ挿入練習装置1は、咽頭溝部2、口蓋板3、軟口蓋片4、咽頭前面板5及び喉頭片6を備えている。
【0040】
咽頭溝部2は、ヒトの咽頭203を模擬する溝形の硬質プラスチック部材であり、底面が咽頭203の後壁に相当し、側面が咽頭203の側壁に相当する。また、咽頭溝部2の前記底面と前記側面の間の隅部は丸く整形されているので、咽頭溝部2の断面形はU字形をなし、ヒトの咽頭203の断面形を模している。また、咽頭溝部2の溝幅をヒトの咽頭203の径と略同一にしている。なお、咽頭溝部2は上気道エアウェイ挿入練習装置1の基台を兼ねている。
【0041】
口蓋板3は、咽頭溝部2の端部に立設された、ヒトの硬口蓋206を模擬するスプーン状の凹曲面を備えた硬質プラスチック部材であり、上端にヒトの上顎の前歯列205を模擬した歯列状突起7が形成され、下端、すなわち咽頭溝部2との接続部近傍にはヒトの鼻咽腔208を模擬した鼻咽開口8が開口している。鼻咽開口8には、ヒトの軟口蓋207を模擬したゴム製の軟口蓋片4が取り付けられ、鼻咽開口8の一部を塞いでいる。なお、鼻咽開口8の周囲は軟口蓋片4の厚さに相当する深さを有する凹部が形成され、軟口蓋片4は前記凹部に嵌装されている。また、軟口蓋片4の素材はゴムに限られず、ヒトの軟口蓋207を模擬するのに適当な可撓性を備えた各種の素材を選択できる。
【0042】
咽頭前面板5は、ヒトの咽頭203の前壁(正確に言えば、舌の後面、舌根を含む領域)を模擬した透明なアクリル板であり、咽頭溝部2の一部を被覆して閉断面を形成している。
【0043】
喉頭片6は、咽頭前面板5に接着固定された硬質プラスチックの小塊であり、ヒトの咽頭203に突出する喉頭201を模擬している。
【0044】
図4は上気道エアウェイ挿入練習装置1の変形例を示す斜視図である。この変形例は、喉頭片6にヒトの喉頭201の腔、つまり喉頭前庭210から気管211に至る腔を模擬した内腔9を形成していることを特徴とする。この内腔9により、カフ102が喉頭201内に迷入するトラブルを再現できる。
【0045】
図5は、上気道エアウェイ挿入練習装置1にラリンジアルマスクエアウェイ100を正しく挿入した状態を示す斜視図である。図5に示すように、ラリンジアルマスクエアウェイ100のカフ102は喉頭片6を包む位置に位置決めされ、この状態でカフ102に空気を入れて膨らませるとカフ102は咽頭前面板5に密着して、ラリンジアルマスクエアウェイ100がヒトの喉頭201と気密に結合した状態(図7参照)が模擬される。
【0046】
図6は、上気道エアウェイ挿入練習装置1の別の変形例を示す側面図である。この変形例では、咽頭溝部2と口蓋板3を別部品で構成し、口蓋板3を咽頭溝部2に枢支して、口蓋板3と咽頭溝部2の成す角度を変更自在にしている。なお、10は口蓋板3を任意の角度に固定するための蝶ナットである。なお、口蓋板3を任意の角度に固定する手段は蝶ナット10に限られない。公知の各種手段を適宜選択して使用することができる。
【0047】
ラリンジアルマスクエアウェイ100の挿入にあたっては、頚部を屈曲させて頭部を突き出す姿勢(sniffing position)を取らせて、口腔202と咽頭203の軸線が90°以上となるようにするが、患者の体格等の違いにより、口腔202と咽頭203の軸線が成す角度は必ずしも90°にならない。そのため、口蓋板3と咽頭溝部2の成す角度を様々に変更して、ラリンジアルマスクエアウェイ100の挿入練習をすれば、練習効果がさらに向上する。
【0048】
前歯列205の形状と大きさには個人差があり、歯牙の一部あるいは全部が脱落している場合もあるので、歯列状突起7を口蓋板3と別部材で構成し、歯列状突起7を口蓋板3に着脱自在にするとともに、寸法・形状の異なる複数の歯列状突起7を備えて、歯列状突起7を交換しながら挿入練習をすれば、異なる条件での練習ができるので、練習効果が向上する。また、歯列状突起7を取り外せば、歯牙の全部が脱落した患者を模擬することができる。なお、歯列状突起7を口蓋板3に着脱自在に連結する手段は、ネジあるいはバネを利用したクリップなど、公知の締結手段を適宜、選択すればよい。
【0049】
また、硬口蓋206の寸法、形状には個人差があり、患者によって大きく異なる。また、ラリンジアルマスクエアウェイ100の挿入は、カフ102を硬口蓋206に押し当てて、カフ102を硬口蓋206のアーチ状のカーブに沿って滑らせて行うので、硬口蓋206の寸法、形状によって、ラリンジアルマスクエアウェイ100の挿入の難易度は変化する。そこで、寸法、形状の異なる複数の口蓋板3を用意して、口蓋板3を交換しながら挿入練習をすれば、異なる条件での練習ができるので、練習効果が向上する。
【0050】
また、軟口蓋207の寸法、形状にも個人差があり、患者によって大きく異なる。さらに、軟口蓋207の硬さは患者の意識レベルや投与された薬剤によっても変化する。つまり、患者の意識レベルが低ければ軟口蓋207は弛緩して柔らかくなる。また、カフ102が鼻咽腔208に迷入する危険度は、軟口蓋207の寸法、形状あるいは硬さによって変化する。そこで、寸法、形状、硬度の異なる複数の軟口蓋片4を用意して、軟口蓋片4を交換しながら挿入練習をすれば、異なる条件での練習ができるので、練習効果が向上する。
【0051】
なお、軟口蓋片4は、軟口蓋片4自身の弾力によって、口蓋板3に形成された前記凹所に嵌合固定されるが、補助的に接着剤、両面テープ、面ファスナーを用いて、口蓋板3に着脱自在に連結してもよい。
【0052】
また、本実施例では、上気道エアウェイ挿入練習装置1を硬質プラスチックやアクリル板等で構成した例を示したが、本発明に係る上気道エアウェイ挿入練習装置の材料はこれらに限られるものではない。各種材料を適宜選択して使用することができる。例えば、咽頭溝部2、口蓋板3、咽頭前面板5や喉頭片6等に現実の咽頭203等の柔らかさを再現できる材料を使用すれば、より現実に近い挿入練習が可能になる。また、咽頭前面板5のみならず、他の構成部材も透明材料で構成すれば、エアウェイチューブ101の挙動やカフ102の変形の観察が更に容易になる。
【0053】
また、本発明に係る上気道エアウェイ挿入練習装置は、ラリンジアルマスクエアウェイのみならず、その他の上気道エアウェイ(例えば、食道閉鎖式エアウェイ)の挿入練習にも使用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例を示す上気道エアウェイ挿入練習装置の三面図である。
【図2】前記上気道エアウェイ挿入練習装置の斜視図である。
【図3】前記上気道エアウェイ挿入練習装置とヒトの呼吸器との関係を示す図である。
【図4】上気道エアウェイ挿入練習装置の変形例を示す斜視図である。
【図5】上気道エアウェイ挿入練習装置に上気道エアウェイを正しく挿入した状態を示す斜視図である。
【図6】上気道エアウェイ挿入練習装置の別の変形例を示す側面図である。
【図7】ラリンジアルマスクエアウェイを患者に装着した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 上気道エアウェイ挿入練習装置
2 咽頭溝部
3 口蓋板
4 軟口蓋片
5 咽頭前面板
6 喉頭片
7 歯列状突起
8 鼻咽開口
9 内腔
10 蝶ナット
100 ラリンジアルマスクエアウェイ
101 エアウェイチューブ
102 カフ
103 インフレーティングチューブ
200 患者の頭部
201 喉頭
202 口腔
203 咽頭
204 食道
205 前歯列
206 硬口蓋
207 軟口蓋
208 鼻咽腔
209 喉頭蓋
210 喉頭前庭
211 気管



【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開放された凹形の横断面形を有する咽頭溝部と、
前記咽頭溝部の一端に立設され、平面状あるいは凹面状の口蓋面を有する口蓋部材と、
前記口蓋部材の前記咽頭溝部との接続部近傍に開口する鼻咽開口と、
前記鼻咽開口に垂下する軟口蓋片と
を備える上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項2】
前記軟口蓋片を可撓性部材により構成することを特徴とする請求項1に記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項3】
前記咽頭溝部の一部を掩蓋する咽頭前面板を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項4】
前記咽頭前面板は、喉頭片を備えることを特徴とする請求項3に記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項5】
前記喉頭片は、内腔を有することを特徴とする請求項4に記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項6】
前記口蓋部材は、上端に歯列状突起を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項7】
形状又は寸法の異なる複数の前記歯列状突起を備えるともに、
前記歯列状突起は、前記口蓋部材に対して着脱自在に連結されることを特徴とする請求項6に記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項8】
前記口蓋部材は、前記咽頭溝部に対して前記の接続部回りに回動・固定自在に連結されることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項9】
形状又は寸法の異なる複数の前記口蓋部材を備えるとともに、
前記口蓋部材は、前記咽頭溝部に対して着脱自在に連結されることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項10】
形状又は寸法あるいは硬さの異なる複数の前記軟口蓋片を備えるとともに、
前記軟口蓋片は、前記口蓋部材に対して着脱自在に連結されることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。
【請求項11】
構成部材の一部又は全部を透明部材により構成することを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の上気道エアウェイ挿入練習装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−180743(P2008−180743A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132270(P2005−132270)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(505165273)
【Fターム(参考)】