説明

上着

【課題】温度環境の変化に柔軟に対応することが可能であり、しかも、服装の乱れや皺などが生じないフォーマルウェアの上着を提供することにある。
【解決手段】ベスト10の後身頃12の表生地15と裏生地16との間にスペース18が形成されている。裏生地16には、その中央に上下方向に長い開口21が形成されており、その開口21を開閉するためのスライドファスナー20が取り付けられている。開口21は、スペース18に通じており、開口21から保温シート25をスペース18の内部に収納することができる。ベスト10にはスナップボタン30が設けられており、これによってスペース18内で保温シート25を固定したり、不必要のときはスナップボタン30を解除して保温シート25を取り外すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後身頃の表生地と裏生地との間に収納部が形成された上着に関し、特に、所謂フォーマルウェアの上着に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジャケット等の上着においては、後身頃の表生地と裏生地との間に収納部が形成されたものが知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1及び特許文献2に記載の上着は、いずれも、後身頃の裏生地に開口が形成されており、その開口から収納部に保温材や発熱体を収納可能に構成されている。これにより、着用者は、寒さの程度に応じて上記保温材等を上記収納部に収納したり上記収納部から取り外したりすることができるようになり、1着の上着で幅広い温度変化に対する防寒対応が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭56−134314号公報
【特許文献2】実開昭63−69106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、省エネルギー問題等が考慮されて、冬季に過度に暖房に頼らずに摂氏20度程度の温度環境下で過ごそうという啓蒙活動が行われている。しかしながら、社会ではこのような活動に賛同して暖房の温度設定値を低く設定する地域・事業者が存在する一方で、ビジネス効率を最優先して従来どおり摂氏28度程度に設定する地域・事業者も存在している。このように温度環境の異なる近年の社会環境においては、例えば低温環境に合わせて服装を整えていたビジネスマンが滞在場所を低音環境から高温環境へ変えた場合に、汗ばむ暑さに対応できない服装に対して不快感を抱く。また、逆に、高温環境に合わせて服装を整えていたビジネスマンが滞在場所を高温環境から低音環境へ変えた場合は、凍える寒さに対応できない服装に対して不快感を抱く。このような場合に、上述の従来の上着があれば、脱いだ上着を持ち歩いたり、寒さに凍えることなく、温度環境の変化に柔軟に対応することができると思われる。
【0005】
しかしながら、前掲の特許文献1及び2に記載の従来の上着は、体を温める機能を重視した実用性の高いものであって、例えばアウトドアウェアや登山用ウェア、作業者用の防寒着などに好ましく用いられるものである。言い換えると、従来の上着は、あらゆるタイプの上着として好ましく適用されるものではない。例えば、フォーマルな場面やビジネスにおいて着用されるスーツやタキシード、又はこれらと合わせて着用されるベストなどの所謂フォーマルウェアの上着に従来の上着に施された工夫を適用すると、保温材が収容部に収納されたときに服装が乱れたり、外衣に現れる着用者のボディラインが崩れたりするという問題がある。フォーマルな場面やビジネスの場面では、このような問題は軽視できない。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、温度環境の変化に柔軟に対応することが可能であり、しかも、収納された保温材を原因とする服装の乱れやボディラインの崩れを防止することが可能なフォーマルウェアの上着を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、後身頃の表生地と裏生地との間に収納部が形成されたフォーマルウェアの上着であって、上記裏生地が上記後身頃の上下方向に沿って切り込まれて形成された開口の縁部に該開口を開閉させるスライドファスナーが設けられており、上記開口を通じて上記収納部に収納可能なように形成されたシート状の保温材が上記収納部の内部に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする上着として構成されている。なお、フォーマルウェアは、フォーマルな場面やビジネスにおいて着用されるスーツやタキシード、又はこれらと合わせて着用されるベストなどである。
【0008】
このように構成されているため、寒いときは収納部に保温材を取り付け、暑いときは収納部から保温材を取り外すことにより、温度環境の変化に柔軟に対応することができる。また、シート状の保温材が用いられているため、保温材を収納部に取り付けても、フォーマルウェアの着用時における服装の乱れが生じず、また、上着に現れる着用者のボディラインが崩れることもない。つまり、本発明は、皺などの服装の乱れやボディーラインの崩れが好ましくないフォーマルウェアの上着に好適である。
【0009】
(2) 上記保温材の上端部に留め具が設けられている。また、上記収納部の上部に上記留め具と係合可能な係合部が設けられている。上記留め具が上記係合部に係止されることによって上記保温材が上記収納部の内部で吊り下げられるように支持される。
【0010】
これにより、保温材を簡単に収納部の内部に取り付けることができ、また、収納部から保温材を簡単に取り外すことができる。また、着用者が上半身を動かしても、収容部内ではその動きに追従して保温材がずれてくれるため、保温材の皺寄せによる服装の乱れは生じない。また、着用者はストレスなく上半身を動かすことができる。
【0011】
(3) 上記スライドファスナーは、コンシールファスナーであることが好ましい。
【0012】
これにより、開口の縁部にスライドファスナーのテープやエレメントが表れないため、高いファッション性を維持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度環境の変化に柔軟に対応することが可能であり、しかも、収納された保温材を原因とする服装の乱れやボディラインの崩れを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るベスト10の構成を示す模式図である。
【図2】図2は、ベスト10の内面展開図である。
【図3】図3は、図2の切断線III-IIIの模式断面図である。
【図4】図4は、ベスト10の保温シート25が装着された状態の後身頃12及び保温シート25を示す模式図であり、(A)には裏生地16の一部が切り欠かされた状態の後身頃12の内面が示されており、(B)には保温シート25の正面図が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態に係るベスト10(本発明の上着の一例)について説明する。ベスト10は、ウェストコートとも称されるものであり、正装や礼装用の上着或いはスーツなどの所謂フォーマルウェアの下に着用して、着用者の胴体部分を覆う袖のない衣服である。つまり、ベスト10は、本発明のフォーマルウェアの上着の一例である。図1に示されるように、ベスト10は、前身頃11と後身頃12とが縫合されて一体化された構造となっている。後身頃12は、表生地15と裏生地16とが合わせられて、それらの縁部が縫い合わされることにより形成された二重仕立て構造となっている。後身頃12において、縁部以外の部分は縫合されていない。このように後身頃12が形成されているため、後身頃12のほぼ全体に渡って、表生地15と裏生地16との間に袋状のスペース18(図3参照、本発明の収納部の一例)が形成される。
【0016】
図2に示されるように、後身頃12の裏面の中央には、スライドファスナー20(本発明のスライドファスナーの一例)が取り付けられている。スライドファスナー20は、後身頃12の裏生地16がその中央で上下方向に沿って切り込まれた直線状の開口21を開閉するためのものである。この開口21は、後身頃12の内部に形成されたスペース18に通じている。
【0017】
スライドファスナー20は、コイル状のエレメント(務歯とも呼ばれている。)が連続した連続エレメントを有する所謂コイルファスナーである。本実施形態では、コイルファスナーの中でも、閉じられたときにファスナーテープ22や上記連続エレメントが開口21の内部に隠されて裏生地16の外側から見えなくなるように構成されたコンシールファスナーが採用されている。コンシールファスナーが用いられることにより、後身頃12の裏生地16にスライドファスナー20の部材が見えなくなるため、スライドファスナー20によるベスト10のファッション性の低下が防止される。なお、ファッション性の低下を容認する場合は、本発明のスライドファスナーとして、コンシールファスナー以外のスライドファスナーを用いてもかまわない。
【0018】
図3に示されるように、後身頃12の表生地15と裏生地16との間のスペース18には、保温シート25(本発明の保温材の一例)が収納されている。この保温シート25は、例えば、2枚の薄い生地の間に薄いシート状の中綿を挟み入れて、これら3枚のシートが重ねられた状態で縫い合わされたものである。このように構成された保温シート25は、中綿の空気層が断熱層の役割をすることにより、高い保温力を発揮する。保温シート25の厚みは、スペース18に保温シート25が収納されても後身頃12が過度に膨れたり、後身頃12の表生地15に皺などの乱れが生じたりしないようなサイズに定められている。本実施形態では、保温シート25は、3mm〜8mmの厚みに定められている。もちろん、保温シート25の厚みは、ベスト10の生地の厚みや材質などに応じて適宜変更可能である。また、図4に示されるように、保温シート25は、後身頃12の外形よりも一回り小さいサイズに形成されている。そのため、保温シート25は、スペース18に収納されたときにスペース18の全体にフィットする。なお、上述した構成の保温シート25に限られず、保温性を有するシート状の保温材であれば、如何なるものでも保温シート25に代えて用いることが可能である。
【0019】
図4に示されるように、ベスト10には、2つのスナップボタン30が設けられている。スナップボタン30は、留め具31と係合部32とからなり、これらが互いに係合解除可能に構成されている。留め具31は、保温シート25の上端部に設けられている。具体的には、留め具31は、保温シート25において着用者の両肩それぞれに対応する部位の上端部26に縫合等によって固定されている。係合部32は、スペース18の上部に留め具31と係合可能な位置に設けられている。具体的には、係合部32は、スペース18の上部を区画する生地の裏面、つまり、ベスト10において着用者の両肩それぞれに当接される部位のスペース18側の面に縫合等によって固定されている。なお、スナップボタン30に代えて、カギホックや面ファスナー、バネホックなどの係合解除可能な係合手段を採用してもかまわない。
【0020】
このようにベスト10が構成されているため、開口21を通じて保温シート25をスペース18に装着したり、スペース18から取り外したりすることができる。これにより、例えば、暑いときは、スライドファスナー20をスライドさせて開口21を開け、スナップボタン30の係合を解除して、スペース18から保温シート25を取り外すことにより、ベスト10を周囲の暑い温度環境に対応させることができる。また、寒いときは、スライドファスナー20をスライドさせて開口21を開けて、開口21から保温シート25をスペース18に収納し、2つのスナップボタン30を係合することにより、保温シート25を簡単に取り付けることができる。つまり、ベスト10を周囲の温度環境に対応させることができる。
【0021】
また、本実施形態の保温シート25は比較的薄い形状であり、着用者の背中全体を覆うように後身頃12の全体に配置されているため、保温シート25がスペース18に取り付けられても、ベスト10に皺などの乱れが生じず、また、ベスト10の着用時にベスト10の外面に現れる着用者のボディラインが崩れることもない。
【0022】
また、保温シート25をスペース18の内部に取り付けるためのスナップボタン30がスペース18の上部に設けられているため、保温シート25が取り付けられた状態で、保温シート25はスペース18の内部で吊り下げられるようにして支持される。このため、着用者が上半身を動かしてベスト10に捻りや撓みが加えられても、スペース18内で保温シート25が上半身の動きに追従してずれ動く。これにより、保温シート25が常にスペース18の内部で後身頃12にフィットするため、保温シート25の皺寄せなどによるベスト10の乱れは生じない。また、着用者はストレスなく上半身を動かすことができる。
【0023】
なお、上述の実施形態では、フォーマルウェアの下に着用されるベスト10を例示して本発明を説明したが、本発明は、フォーマルな場面やビジネスにおいて着用されるスーツやタキシードなどのフォーマルウェアの上着にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、後身頃の表生地と裏生地との間に収納部が形成された上着に利用可能であり、特に、フォーマルウェアの上着に利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
10:ベスト
11:前身頃
12:後身頃
15:表生地
16:裏生地
18:スペース
20:スライドファスナー
21:開口
22:ファスナーテープ
25:保温シート
26:上端部
30:スナップボタン
31:留め具
32:係合部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
後身頃の表生地と裏生地との間に収納部が形成されたフォーマルウェアの上着であって、
上記裏生地が上記後身頃の上下方向に沿って切り込まれて形成された開口の縁部に該開口を開閉させるスライドファスナーが設けられており、上記開口を通じて上記収納部に収納可能なように形成されたシート状の保温材が上記収納部の内部に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする上着。
【請求項2】
上記保温材の上端部に留め具が設けられており、上記収納部の上部に上記留め具と係合可能な係合部が設けられており、上記留め具が上記係合部に係止されることによって上記保温材が上記収納部の内部で吊り下げられるように支持される請求項1に記載の上着。
【請求項3】
上記スライドファスナーは、コンシールファスナーである請求項1又は2に記載の上着。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83011(P2013−83011A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223410(P2011−223410)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(311013395)有限会社M・R (1)
【Fターム(参考)】