説明

下半身用衣類

【課題】下腹部を広い範囲に亘って引き締めて腹部のシルエットを美しく補整することができるようにした下半身用衣類を提供すること。
【解決手段】前身頃2側に、前面中央下部2aから腹部両側2b、2bを経て両側ウエスト部2c、2cまで斜め上に帯状に伸びる略V形帯状領域3と、この領域3の上縁3a、3aからウエスト部4までに形成される上腹部領域5とを設け、前記略V形帯状領域3と前記上腹部領域5との縦横方向の伸縮性を前者領域3が後者領域5よりも小さく設定され、かつ、腹部への引き締め力を前者領域3が後者領域5よりも大きく設定され、しかも、前者領域3の引き締め力の主作用方向を前面中央下部2aから両側ウエスト部2c、2cに至る斜め方向に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガードル等の腹部を引き締めて腹部のシルエットを美しく補整するための下半身用衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の下半身用衣類として、腹部から腰部、臀部を覆う股部を有する衣類の本体布に対して、下腹位置から左右外腹位置へと幅広に傾斜する略V形状の緊締力を有する補整布を重ね合わせ、上記補整布の外腹斜筋に沿わせる内側傾斜端縁と、ウエストライン位置近傍に沿わせる上端縁と、股部側下端縁と、下腹部中心ラインに位置する内側傾斜下端点から外側傾斜下端点を結ぶラインとを本体布に縫着している一方、上記補整布の外側傾斜端縁は本体布と縫着せずに遊離させた構成とすることによって、下腹部から左右外腹部を引き締めてすっきりさせるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来、ガードルのような股付き衣類の本体に対して、前身頃にはウエスト部から前腸棘点を通って股下に至る略V形の緊締ラインを設け、後身頃にも、ウエスト部から後腸棘点及び仙骨点を通って股下に至る略V形の緊締ラインを設け、これら前後身頃の緊締ラインを股下部で連続して平面展開状態で略X形状に形成し、これらの緊締ラインには長手方向の緊締力を付与することによって、着用時、骨盤を持ち上げて腰を高い位置に上げ、歩行時の姿勢を安定させて颯爽とした歩行を可能としたウオーキングパンツが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−328204号公報
【特許文献2】特開2006−52475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のものは、補整布の布幅が下部では細く、上部では太くされており、これでは、補整布によって下腹部に付与される引き締め力の作用範囲が下腹部の下側だけとなり、下腹部を広い範囲に亘って引き締めることができないという問題がある。
また、前記特許文献2のものは、前身頃側では、緊締ラインの幅が、下部では細く、上部では太くされており、これでは、下腹部に付与される引き締め力の作用範囲が下腹部の下側だけとなり、下腹部を広い範囲に亘って引き締めることができないという問題がある。その上、前記特許文献2のものは、前後身頃の緊締ラインが股下部でX形状に交差しているため、着用中、該緊締ラインを形成する布地が臀裂中央部及び股下中央部に片寄る方向の分力が作用して、食い込みを起こす問題もある。
【0005】
本発明は、前記問題点を解消し、下腹部を広い範囲に亘って引き締めて腹部のシルエットを美しく補整することができるようにした下半身用衣類を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために本発明は、前身頃側に、前面中央下部から腹部両側を経て両側ウエスト部まで斜め上に帯状に伸びる略V形帯状領域と、この領域の上縁からウエスト部までに形成される上腹部領域とを設け、前記略V形帯状領域と前記上腹部領域との縦横方向の伸縮性を前者領域が後者領域よりも小さく設定され、かつ、腹部への引き締め力を前者領域が後者領域よりも大きく設定され、しかも、前者領域の引き締め力の主作用方向を前面中央下部から両側ウエスト部に至る斜め方向に設定されていることを特徴としている。
【0007】
この構成によれば、略V形帯状領域の引き締め力によって着用者の下腹部を前面中央下部から両側ウエスト部に向けて斜め上後方へ引き上げることができ、しかも、前記略V形帯状領域と前記上腹部領域との縦横方向の伸縮性を前者領域が後者領域よりも小さく設定され、かつ、腹部への引き締め力を前者領域が後者領域よりも大きく設定されていることによって、この上腹部領域の着圧を低くしつつ腹部中央部の膨出を押さえて腹部のシルエットを美しく補整させることができる。
また、前記略V形帯状領域は、弾性糸と嵩高加工糸との複合糸、添え糸として嵩高加工糸を用いた糸によるニット、タック、ミスの複合編み組織とされ、前記上腹部領域は、弾性糸と嵩高加工糸との複合糸によるニット、タック、ミスの複合編み組織として縦横方向の伸縮性を抑制した編み組織とされていることを特徴としている。
【0008】
この構成によれば、前身頃を構成する略V形帯状領域と上腹部領域とを、糸種及び編み組織の変更だけで構成することができ、下半身用衣類の縫製の手数を削減することができる。
また、前記略V形帯状領域の上縁の開き角度を下縁の開き角度よりも大きく設定して前記略V形帯状領域の上下方向の帯幅を下部を広く、上部に向けて次第に狭くなる帯幅に構成してあることを特徴としている。
この構成によれば、略V形帯状領域の下部の帯幅が広くしてあるため、着用者の下腹部を広く包み込んで引き上げながら押さえて下腹部の膨出を補整することができる。
【0009】
さらに、前記略V形帯状領域の下縁を、そけい部相当部よりも少し上側でそけい部に沿うように設定してあることを特徴としている。
この構成によれば、着座姿勢でも、そけい部を圧迫することがない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、下腹部を広い範囲に亘って引き締めて腹部のシルエットを美しく補整することができるようにした下半身用衣類を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1、図2は本発明の下半身用衣類の実施形態を示す正面図であり、図3はその背面図である。これら図1〜図3において、本発明の下半身用衣類1は、前身頃2側に、前面中央下部2aから腹部両側2b、2bを経て両側ウエスト部2c、2cまで斜め上に帯状に伸びる略V形帯状領域3と、この領域3の上縁3aからウエスト部4までに形成される上腹部領域(図1の実施形態では逆三角形とした場合であり、図2の実施形態では倒立五角形とした場合であって、いずれであってもよい。)5とを設け、前記略V形帯状領域3と前記上腹部領域5との縦横方向の伸縮性を前者領域3が後者領域5よりも小さく設定され、かつ、腹部への引き締め力を前者領域3が後者領域5よりも大きく設定され、しかも、前者領域3の引き締め力の主作用方向を前面中央下部2aから両側ウエスト部2c、2cに至る斜め方向(図1の矢印F参照)に設定されている。
【0012】
前記略V形帯状領域3は、弾性糸と嵩高加工糸との複合糸及び該複合糸に添え糸(例えば、嵩高加工糸)によるニット、タック、ミスの複合編み組織とされる。この領域3の編み組織としては、図4に示すような構成とされる。図4における編み組織は、○;ニット、△;タック、×;ミスを表す記号で表示している。
また、前記上腹部領域5は、弾性糸と嵩高加工糸との複合糸によるニット、タック、ミスの複合編み組織として縦横方向の伸縮性を抑制した編み組織とされている。この領域5の編み組織としては、図5に示すような構成とされる。図5における編み組織は、○;ニット、△;タック、×;ミスを表す記号で表示している。
【0013】
なお、上記記号は、編み針の運動から見たときの編み目の形成のされ方を表しているもので、ニットとは、編み目を形成して編むことであり、タックとは、編み目をウエール方向に飛ばして編むことであり、ミスとは、編み目を形成しないで編むことであり、この部分では糸がコース方向に浮き編み状に編まれている。そして、2、4コースには、嵩高加工糸を添え糸編みしている。即ち、前記弾性糸としては、例えば、ポリウレタン糸が例示され、嵩高加工糸としては、ウーリーナイロン糸が例示される。そして、複合糸としては、例えば、弾性糸を芯糸とし、その外側に嵩高加工糸を巻き付けたシングルカバリング糸、又は、ダブルカバリング糸として使用され、その組み合わせとしては、78dtexのポリウレタン糸と33dtexのウーリーナイロン糸との複合糸、或いは、56dtexのポリウレタン糸と44dtexのウーリーナイロン糸との複合糸、添え糸の嵩高加工糸としては、56dtexのウーリーナイロン糸、その他の組み合わせが例示される。
【0014】
前記略V形帯状領域3は、図1に示すように、上縁3aの開き角度θ1を下縁3bの開き角度θ2よりも大きく設定して前記略V形帯状領域3の上下方向の帯幅を下部を広く、上部に向けて次第に狭くなる帯幅に構成してある。
また、前記略V形帯状領域3の下縁3bを、そけい部相当部よりも少し上側でそけい部に沿うように設定している。さらに、図2に示す第2実施形態においては、前記略V形帯状領域3の下縁3bの下側に沿って細帯状部3cが形成されている。この細帯状部3cは、そけい部の圧迫を緩和するために引き締め力を前記略V形帯状領域3よりも小さくした編み組織で構成されており、この編み組織も前記した弾性糸と嵩高加工糸との複合糸を使用してニット、タック、ミスの複合編み組織で構成されている。
【0015】
後身頃6側は、図3に示すように、左右のヒップ部7、7と、この左右のヒップ部7、7の周辺を取り囲むように配置されたヒップ周辺部8、8と、このヒップ周辺部8、8の下部及び周辺部から後部ウエスト部9、9までに形成されたヒップアップ用帯状部10、10とを備えている。左右のヒップ部7、7は、伸びやすい編み組織、例えば、プレーン編みで構成し、ヒップ周辺部8、8は、それよりも伸縮性の小さい編み組織、例えば、1×1タックメッシュ編みで構成して、ヒップ部7、7の膨らみを丸く補整させるようにしている。また、ヒップアップ用帯状部10、10は、上下方向の引き締め力の大きい編み組織で構成して、ヒップ部7、7及びヒップ周辺部8、8を持ち上げてヒップアップ効果を出すようにしている。
【0016】
前身頃2側の略V形帯状領域3の下部及び後身頃6のヒップアップ用帯状部10、10の下部は脚部11、11が一連に設けられている。この脚部11、11は、大腿前部側よりも後部側の引き締め力を大きくするような編み組織で構成されている。
なお、ヒップアップ用帯状部10、10と脚部11、11の編み組織は、例えば、前者が、1×3タックストライプ組織とされ、後者が2×1ミスストライプ組織とされている。
前後の身頃2、6の構成は、本実施形態においては、左右対称な編み組織となるように左右別々に丸編機によって筒状に編成され、この筒状生地の上半部一側を切開し、この切開部同士を互いに縫着して前後身頃の中央部で縫目12、13により縫い合わせて胴部を形成し、この切開部の下部にマチ布14を介在させて縫着することにより股下部を形成し、切開しないで残した下半部を脚部11、11としてロングガードルを構成した場合を例示している。そして、上記左右別々に丸編機によって筒状に編成する段階で、使用する糸の種類及び編み組織を変化させてそれぞれの部分に引き締め力変化を付与している。
【0017】
各部の引き締め力変化の態様は、例えば、
腹部(上腹部領域5内中央に設定した着圧センサーの値)では、8〜12hPa、
腸骨棘部(略V形帯状領域3内の腸骨棘部に設定した着圧センサーの値)では、28〜33hPa、
ヒップ脇(ヒップアップ用帯状部10内の外側部に設定した着圧センサーの値)では、15〜19hPa、
ヒップ部(ヒップ部7内の中央部に設定した着圧センサーの値)では、12〜15hPa、
なお、上記着圧データの測定は、人体下半身模型に本実施形態の下半身用衣類を装着し、該模型の前記各部に装備されたエアパック(着圧センサー)による圧力測定装置((株)エイエムアイ・テクノ製組込型圧力センサー「パラソル型エアパック」)を用いて測定することができる。
【0018】
前記各部の引き締め力に対応した編み組織を形成するには、丸編機に装備されているコンピュータの設定・制御機能によって達成される。
本発明の実施形態は、以上の構成からなるため、次のような作用効果が期待できる。即ち、本発明の下半身用衣類1は、略V形帯状領域3の引き締め力によって着用者の下腹部を前面中央下部2aから両側ウエスト部2c、2cに向けて斜め上後方へ引き上げることができ、しかも、略V形帯状領域3の下部の帯幅が広くしてあるため、下腹部を広く包み込んで引き上げながら押さえて下腹部の膨出を補整することができ、さらに、前記略V形帯状領域3と前記上腹部領域5との縦横方向の伸縮性を前者領域3が後者領域5よりも小さく設定され、かつ、腹部への引き締め力を前者領域3が後者領域5よりも大きく設定されていることによって、上腹部領域5の着圧を低くしつつ腹部中央部の膨出を押さえて腹部のシルエットを美しく補整させることができる。
【0019】
また、前記略V形帯状領域3は、弾性糸と嵩高加工糸との複合糸及び該複合糸に添え糸を引き揃えた糸によるニット、タック、ミスの複合編み組織とされ、前記上腹部領域5は、弾性糸と嵩高加工糸との複合糸によるニット、タック、ミスの複合編み組織として縦横方向の伸縮性を抑制した編み組織とされているため、前身頃2を構成する略V形帯状領域3と上腹部領域5とを、糸種及び編み組織の変更だけで構成することができ、下半身用衣類1の縫製の手数を削減することができる。
また、前記略V形帯状領域3の上縁3aの開き角度θ1を下縁3bの開き角度θ2よりも大きく設定して前記略V形帯状領域3の上下方向の帯幅を下部を広く、上部に向けて次第に狭くなる帯幅に構成してあるため、着用者の下腹部を広く包み込んで引き上げながら押さえて下腹部の膨出を補整することができる。
【0020】
さらに、前記略V形帯状領域3の下縁3bを、そけい部相当部よりも少し上側でそけい部に沿うように設定してあるため、着座姿勢でも、そけい部を圧迫することがない。
本発明の実施形態は、以上からなるが、本発明は、この実施形態にのみ制約されるものではなく、適宜変更して実施することができる。例えば、各部の引き締め力は、適宜変更して実施することができる。また、本実施形態は、ロングタイプのガードルを例示しているが、ショートタイプのガードルや、パンツ類に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の下半身用衣類の第1実施形態を示す正面図である。
【図2】本発明の下半身用衣類の第2実施形態を示す正面図である。
【図3】図2の背面図である。
【図4】図2の領域3の編み組織例を示す記号図である。
【図5】図2の領域5の編み組織例を示す記号図である。
【符号の説明】
【0022】
1 下半身用衣類
2 前身頃
3 略V形帯状領域
4 ウエスト部
5 上腹部領域
6 後身頃
7 ヒップ部
8 ヒップ周辺部
9 後部ウエスト部
10 ヒップアップ用帯状部
11 脚部
12,13 中央部の縫目
14 マチ布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃側に、前面中央下部から腹部両側を経て両側ウエスト部まで斜め上に帯状に伸びる略V形帯状領域と、この領域の上縁からウエスト部までに形成される上腹部領域とを設け、前記略V形帯状領域と前記上腹部領域との縦横方向の伸縮性を前者領域が後者領域よりも小さく設定され、かつ、腹部への引き締め力を前者領域が後者領域よりも大きく設定され、しかも、前者領域の引き締め力の主作用方向を前面中央下部から両側ウエスト部に至る斜め方向に設定されていることを特徴とする下半身用衣類。
【請求項2】
前記略V形帯状領域は、弾性糸と嵩高加工糸との複合糸、添え糸として嵩高加工糸を用いた糸によるニット、タック、ミスの複合編み組織とされ、
前記上腹部領域は、弾性糸と嵩高加工糸との複合糸によるニット、タック、ミスの複合編み組織として縦横方向の伸縮性を抑制した編み組織とされていることを特徴とする請求項1に記載の下半身用衣類。
【請求項3】
前記略V形帯状領域の上縁の開き角度を下縁の開き角度よりも大きく設定して前記略V形帯状領域の上下方向の帯幅を下部を広く、上部に向けて次第に狭くなる帯幅に構成してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の下半身用衣類。
【請求項4】
前記略V形帯状領域の下縁を、そけい部相当部よりも少し上側でそけい部に沿うように設定してあることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の下半身用衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−144302(P2009−144302A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325968(P2007−325968)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】