説明

下水の造粒凝集方法

【課題】 下水の造粒凝集に用いる両性有機高分子凝集剤の添加量を低減する。
【解決手段】 下水に無機凝集剤を添加して攪拌した後、両性有機高分子凝集剤を添加して攪拌した後、又は、両性有機高分子凝集剤と共に、造粒凝集槽7の下部に導入し、上部から処理水を取り出す。両性有機高分子凝集剤を造粒凝集槽7の中間部にも注入する。両性有機高分子凝集剤として、特定組成のジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物/ジメチルアミノエチルアクリレート四級化物/アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合体を用いる。
【効果】 下水をスラッジブランケット法で固液分離するに当り、特定の両性有機高分子凝集剤を、下水とスラッジブランケットが混合する箇所とスラッジブランケット層の中間部付近とに添加することにより、凝集剤添加量の低減、処理水水質の向上が図れ、下水を低コストで効率的に処理できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は下水の造粒凝集方法に係り、特に、下水に有機高分子凝集剤を添加して凝集処理するに当り、少ない凝集剤の添加量で効率的な造粒凝集処理を行なう方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、下水の処理方法として、最初沈澱池の代わりに凝集処理によって下水に含まれる懸濁物質の大部分を除去する方法が提案されており、特開平3−98699号公報には、下水に無機凝集剤を添加した後、アニオン系有機高分子凝集剤を添加して凝集処理を行なう方法が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、アニオン系有機高分子凝集剤はカチオン系有機高分子凝集剤に比べて懸濁物質の凝集性には優れるが、得られる凝集物の脱水性は芳しくない。このため、脱水時にはカチオン系有機高分子凝集剤の使用が不可欠であり、結果として2種類の凝集剤を必要とし、管理上不都合である。
【0004】一方、本発明者らはすでにアニオン系有機高分子凝集剤と同等な懸濁物質の凝集性を示し、かつ、凝集物の脱水性はカチオン系有機高分子凝集剤使用時よりも優れる特定の組成・物性を有する両性有機高分子凝集剤を見出し、先に特許出願したが(特願平6−142368号)、この両性有機高分子凝集剤は、凝集時の必要添加量がアニオン系有機高分子凝集剤より多く、添加量の低減が求められている。
【0005】本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、下水の造粒凝集処理に当り、両性有機高分子凝集剤の必要添加量を大幅に低減することができる下水の造粒凝集方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の下水の造粒凝集方法は、下水に第1の凝集剤を添加して攪拌し、次いで、第2の凝集剤を添加して攪拌した後、又は、第2の凝集剤と共に、造粒凝集槽下部からこの下水を導入し、該造粒凝集槽のスラッジブランケットを通して下水を造粒凝集処理し、槽上部から処理水を取り出す方法であって、前記第2の凝集剤と同一の凝集剤を前記造粒凝集槽中間部に注入する下水の造粒凝集方法において、該第2の凝集剤として下記一般式(I),(II), (III)及び(IV)で表されるモノマーで構成される共重合体であって、モノマー(I)とモノマー(II)との合計含有量が15〜40モル%であり、モノマー(I)とモノマー(II)との合計に対するモノマー(I)の割合が0.1〜0.5であり、かつ、モノマー(III)の含有量が5〜10モル%である共重合体よりなる両性有機高分子凝集剤を用いることを特徴とする。
【0007】
【化2】


【0008】本発明の方法においては、下水に、まず、無機凝集剤を添加して混合・攪拌した後、両性有機高分子凝集剤を添加した後、或いは両性有機高分子凝集剤と共に造粒凝集槽に導入することにより、懸濁物質を凝集・造粒する。そして、更に、槽内のスラッジブランケット層の中間部付近に両性有機高分子凝集剤を添加することにより、より強固な凝集物にすると共に細かいフロックを凝集することで、懸濁物質の除去率を高め、清澄な処理水を得ることができる。
【0009】本発明の方法に従って、このように下水に有機高分子凝集剤を添加して造粒凝集槽にてスラッジブランケット法で固液分離するに当り、特定の両性有機高分子凝集剤を使用し、この両性有機高分子凝集剤を少なくとも下水とスラッジブランケットが混合する箇所とスラッジブランケット層の中間部付近の2ヵ所に添加することにより、従来の凝集剤添加量の半分の添加量で従来と同等の清澄な処理水を得ることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】図1は本発明の一実施例を示すフローチャートである。図1において、下水は、まず、図示しないスクリーンを経て流量調整池1に貯留される。1aは水中ポンプであり、このポンプ1aにより、懸濁物質が沈澱しないように調整池1内の下水が攪拌されている。この調整池1内の下水は、ポンプ2aを備える配管2を経て反応槽3の底部に導入され、攪拌機3Aによって攪拌される。この反応槽3へは、第1の凝集剤として、助剤希釈タンク4内の無機凝集剤が助剤注入ポンプ5aを備える配管5を経て注入されており、下水はこの無機凝集剤と十分に混合される。
【0012】無機凝集剤と混合された下水は、次いで、配管6を経て造粒凝集槽7の底部に導入される。この造粒凝集槽7へは、攪拌機8A付きのポリマー溶解槽8内の両性有機高分子凝集剤が、ポンプ9aを備える配管9Aを経て槽底部へ、また、ポンプ9bを備える配管9Bを経て、槽中間部へそれぞれ注入されており、造粒凝集槽7内で攪拌機7Aの回転により液が旋回されるのに伴って、下水中の懸濁物質が凝集・造粒され、造粒物となる。
【0013】この造粒凝集槽7としては、槽下部もしくは底部に無機凝集剤と両性有機高分子凝集剤を含む下水流入管、或いは無機凝集剤を含む下水流入管と両性有機高分子凝集剤注入管を備え、かつ、槽の中間の高さ位置に1以上の両性有機高分子凝集剤注入管を備え、また、槽上部に清澄水流出口を開口させた槽で、槽内部に有する攪拌羽根で槽内に供給された下水と両性有機高分子凝集剤とを攪拌して懸濁物質を凝集・造粒する反応槽であれば、いずれも適用可能である。
【0014】造粒凝集槽7で凝集されなかった液体は、処理水として造粒凝集槽7の上部より越流し、配管10Aを経て処理水槽11へ送られる。この処理水は、更に、放流先の水質基準によって、塩素滅菌等の処理を施した後、処理水排出ポンプ12Aを備える配管12を経て放流されるか、或いは、塩素滅菌せずに高次処理施設(図示せず。)へ送られる。一方、造粒凝集物は、少量の液と共に配管(排泥管)10Bを経て抜き出され、そのまま、或いは分離液を除去した後に脱水機(図示せず。)に供給され、従来法と同様にして脱水処理される。脱水機としては、遠心脱水機、真空脱水機、ベルトプレス型脱水機、スクリュープレス等、従来より使用されている脱水機が使用可能である。
【0015】本発明において処理対象となる下水としては、一般家庭や特定事業場からの排水の他、これらの排水の最初沈澱池流出水、活性汚泥処理後の最終沈澱池流出水などが挙げられる。
【0016】本発明で使用する第1の凝集剤としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸鉄などの無機凝集剤を挙げることができ、これらのうち、特に、ポリ塩化アルミニウムは他の無機凝集剤よりも低添加量での凝集性に優れており、最も好適である。
【0017】第1の凝集剤としての、これらの無機凝集剤の添加量は、下水中の懸濁物質濃度に左右されるが、Al又はFe換算濃度で約3〜10g/m3 −下水とするのが好ましい。このような無機凝集剤の添加量であれば、添加後の下水のpHは、添加前のpHより0.2〜0.5程度低下するのみである。
【0018】一方、本発明で用いる両性有機高分子凝集剤は下記一般式(I),(II), (III)及び(IV)で表される4種類のモノマー(以下、各々、モノマー(I),モノマー(II),モノマー(III),モノマー(IV)と称す。)を必須モノマーとし、これらを下記■〜■の式を満足するような組成比で含有する共重合体である。
【0019】
【化3】


【0020】
■ 15モル%≦モノマー(I)+モノマー(II)≦40モル% ■ 0.1≦モノマー(I)/(モノマー(I)+モノマー(II))≦0.5 ■ 5モル%≦モノマー(III)≦10モル%モノマー(I)はジアルキルアミノエチルメタクリレートの第四級アンモニウム塩であり、モノマー(II)はジアルキルアミノエチルアクリレートの第四級アンモニウム塩である。一般式(I)及び(II)中のR1 及びR3 は、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基、即ち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基又はt−ブチル基であって、R1 とR3 は同一であっても良いし、互いに異なっても良い。また、R2 及びR4 は上記炭素数1〜4のアルキル基又はベンジル基であって、R2 とR4 は同一であっても良いし、互いに異なっても良い。X- は塩素イオン(Cl-)、臭素イオン(Br- )、沃素イオン(I- )などのハロゲンイオン、HSO4-、SO42- (1/2SO42- )、NO3 - 、CH3 SO4-等の陰イオンである。前記一般式 (III)及び(IV)中のR5 及びR6 は、水素原子又はメチル基であり、Mは水素又はNa,K等のアルカリ金属を示す。
【0021】モノマー(I)としては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル四級化物、ジエチルアミノエチルメタクリレートの塩化ベンジル四級化物等を挙げることができる。モノマー(II)としては、例えば、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル四級化物、ジエチルアミノエチルアクリレートの塩化ベンジル四級化物等を挙げることができる。
【0022】モノマー (III)としては、アクリル酸、メタクリル酸或いはそれらの塩を挙げることができる。モノマー(IV)としては、アクリルアミド又はメタクリルアミドを挙げることができる。
【0023】これらモノマー(I),(II),(III)及び(IV)で構成される共重合体中のモノマー(I)とモノマー(II)との合計の含有割合が15モル%未満では懸濁物質の除去率が低下し、40モル%を超えても同様である。また、モノマー(I)とモノマー(II)との合計に対するモノマー(I)の割合が0.1未満では生成するフロックの強度が弱く、すぐ微細化してしまう。0.5を超えるとポリマーは分散しにくくなる。更に、共重合体中のモノマー(III)の含有割合が5モル%未満では懸濁物質の除去性が低下し、10モル%を超えるとポリマーは分散しにくくなる。
【0024】この共重合体の分子量は、1N−NaNO3 水溶液中、30℃での固有粘度が8.0dl/g以上を示すような値であれば良いが、安定した効果を得るためには、この固有粘度が10.0dl/g以上であることが好ましい。
【0025】本発明において、このような共重合体よりなる両性有機高分子凝集剤の添加量は、下水に対して2〜10g/m3 の割合とするのが好ましく、1.7〜9g/m3 を下水に予め混合攪拌するか或いは下水と共に造粒凝集槽の下部から導入し、0.3〜1g/m3 を造粒凝集槽の中間部に注入することにより、合計で上記添加割合となるようにするのが好ましい。なお、本発明において、造粒凝集槽の中間部とは、スラッジブランケット層が形成される領域を示し、一般には、造粒凝集槽の高さに対して、槽底部から1/5〜3/5の範囲の高さ位置をさす。
【0026】
【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0027】なお、実施例及び比較例で使用した有機高分子凝集剤は表1に示す通りである。
【0028】
【表1】


【0029】実施例1〜15下記水質のT下水処理場の流入下水にポリ塩化アルミニウムを5g−Al/m3 注入し、反応槽内で攪拌・混合した後、直ちに直径500mmφ、高さ1500mmの円筒形造粒凝集槽に導いて造粒凝集処理するに当り、両性有機高分子凝集剤(両−1,両−2,両−3)を表2に示す割合で造粒凝集槽底部入口部分と槽中間部のスラッジブランケット層内(槽底から60mmの位置)に分割注入した。上下二段の攪拌羽根で槽内を攪拌し、スラッジブランケット層高さ1000mm、清澄液部深さ500mm、下水通水量5m3 /hrで運転した。
【0030】流入下水水質SS :170mg/l濁度 :105度BOD :165mg/lCODMn:103mg/lこの処理において、槽上部よりオーバーフローで排出される分離水の濁度を測定して懸濁物質の除去率を算出し、結果を表2に示した。
【0031】実施例16〜30両性有機高分子凝集剤を表2に示す割合で造粒凝集槽底部入口部分とスラッジブランケット層内の2ヵ所(槽底から400mm及び700mmの位置)に分割注入した以外は、実施例1と同様にして造粒凝集処理を行い、懸濁物質の除去率を求め、結果を表2に示した。
【0032】比較例1〜15両性有機高分子凝集剤を表2に示す割合で造粒凝集槽底部入口部分にのみ注入したこと以外は実施例1と同様にして造粒凝集処理を行い、懸濁物質の除去率を求め、結果を表2に示した。
【0033】比較例16〜25両性有機高分子凝集剤の代わりにアニオン系有機高分子凝集剤(ア−1)を表2に示す割合で、造粒凝集槽入口部分のみ(比較例16〜20)、或いは造粒凝集槽入口部分とスラッジブランケット層内(槽底から600mmの位置)の2ヵ所に分割注入(比較例21〜25)したこと以外は実施例1と同様にして造粒凝集処理を行い、懸濁物質の除去率を求め、結果を表2に示した。
【0034】
【表2】


【0035】表2より次のことが明らかである。
【0036】即ち、実施例1〜15と比較例1〜15との比較から明らかなように、両性有機高分子凝集剤を分割注入することで、同じ添加量を一括注入するよりも懸濁物質除去率は高くなり、同じ懸濁物質除去率を得るために必要な両性有機高分子凝集剤添加量は40〜50%低減できた。また、比較例16〜25のアニオン系有機高分子凝集剤と比較しても、同じ凝集剤添加量での懸濁物質除去率は高くなった。
【0037】この結果は、実施設備規模で考えると、処理量1000m3 /日の施設では、一括注入(5mg/l)の場合の薬剤ランニングコストは273.75万円/年、本発明による分割注入(3mg/l)の場合には164.25万円/年で、109.5万円/年のコストが削減できることを示すものである。
【0038】
【発明の効果】以上詳述した通り、本発明の下水の造粒凝集方法によれば、下水に凝集剤を添加してスラッジブランケット法で造粒凝集処理するに当り、特定の両性有機高分子凝集剤を分割注入することにより、凝集剤添加量の低減、処理水水質の向上が図れ、下水を低コストで効率的に処理することが可能とされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の下水の造粒凝集方法の一実施例方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 流量調整池
3 反応槽
4 助剤希釈タンク
7 造粒凝集槽
8 ポリマー溶解槽
11 処理水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下水に第1の凝集剤を添加して攪拌し、次いで、第2の凝集剤を添加して攪拌した後、又は、第2の凝集剤と共に、造粒凝集槽下部からこの下水を導入し、該造粒凝集槽のスラッジブランケットを通して下水を造粒凝集処理し、槽上部から処理水を取り出す方法であって、前記第2の凝集剤と同一の凝集剤を前記造粒凝集槽中間部に注入する下水の造粒凝集方法において、該第2の凝集剤として下記一般式(I),(II), (III)及び(IV)で表されるモノマーで構成される共重合体であって、モノマー(I)とモノマー(II)との合計含有量が15〜40モル%であり、モノマー(I)とモノマー(II)との合計に対するモノマー(I)の割合が0.1〜0.5であり、かつ、モノマー(III)の含有量が5〜10モル%である共重合体よりなる両性有機高分子凝集剤を用いることを特徴とする下水の造粒凝集方法。
【化1】


【図1】
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