説明

不溶性アゾ顔料の製造方法およびその製造装置

【課題】エジェクター内で連続的にジアゾ液と下漬液とを混合し、ジアゾ成分と下漬成分とを反応させることで、顔料の大量生産にも容易に対応できる工業的に有効な不溶性アゾ顔料の製造方法およびその製造装置を提供すること。
【解決手段】ジアゾ液と下漬液とを、エジェクターに連続的に注入してエジェクター内で、上記ジアゾ液と下漬液とを混合し、カップリング反応させることを特徴とする不溶性アゾ顔料の製造方法およびその製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エジェクターを使用した不溶性アゾ顔料の製造方法および装置に関し、より具体的にはエジェクターを使用したオフセットインキ、グラビアインキ、塗料、プラスチック用着色剤、捺染用顔料、カラートナー、インクジェット印刷インキ用などとして有用な不溶性アゾ顔料の製造方法および装置に関する。
【0002】
なお、本発明において「不溶性アゾ顔料」とは、その原料のジアゾニウム塩またはテトラゾニウム塩および下漬成分の何れもが、カルボキシル基および/またはスルホン基などの水溶性基を有さないアゾ顔料を意味し、「ジアゾ液」とは芳香族アミンまたはジアミンのジアゾニウム塩またはテトラゾニウム塩の溶液を意味し、「下漬液」とは、下漬成分の溶液または下漬成分の微細な分散液を意味し、「下漬成分」とはカップリング成分と同じ意味である。
【背景技術】
【0003】
不溶性アゾ顔料の通常の製造方法としては次のものが知られている。
(1)ジアゾ液を下漬液に添加してジアゾ成分と下漬成分とをカップリング反応させる。
(2)ジアゾ液および下漬液を所望のpH値の緩衝液に同時に添加して上記反応を行なわせる。
(3)下漬液をジアゾ液に添加して上記反応を行なわせる(特許文献1参照)。
【0004】
これらの方法は、いずれも単一反応槽内でジアゾ液と下漬液とを撹拌混合して顔料を製造する方法であるが、数十m3の単一反応槽内へジアゾ液および下漬液を注入する際には、カップリング反応率を上げるために多大な時間とエネルギーを必要とする。そのため、時間とともに変化するカップリングの反応温度、ジアゾ成分および下漬成分の濃度、反応液の攪拌状態、反応液のpHなどの如く、顔料粒子の生成に影響を及ぼす要因をコントロールすることは非常に難しく、その結果、生成する顔料の粒子径は不均一になりやすい。また、上記の方法では、カップリング反応が完結するまでに長時間を要するために、最初に生成した顔料粒子は凝集を起こしやすくなる。このような不均一な粒子径とその凝集は、その顔料使用に際し、顔料の分散性、透明性、鮮明性、着色力および光沢に悪影響を及ぼすこととなる。
【0005】
上記問題点を解決するために、不溶性アゾ顔料を製造する際に、ジアゾ液または下漬液に、これらの液のジアゾ成分または下漬成分とは異なるジアゾ成分、または下漬成分を添加することが検討されてきた。例えば、アセトアセトアニリド系、ピラゾロン系および/またはナフトール系下漬成分とカルボン酸基、スルホン酸基、カルボン酸アミド基などで変性された上記とは異種の下漬成分とジアゾ成分とを混合カップリングしてモノアゾ顔料を製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。また、アセトアセトアニリド系および/またはピラゾロン系下漬成分とカルボン酸基および/またはスルホン酸基などで変性された上記とは異種の下漬成分とジアゾ成分とを混合カップリングしてジスアゾ顔料を製造する方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0006】
このように第1の下漬成分に第2の下漬成分を組み合わせて使用することにより、生成する顔料粒子は微細化され、該顔料の使用時において透明性、着色力および分散性などに良好な効果を及ぼすが、その反面、生成する顔料粒子が微細化されるために、顔料粒子が凝集しやすくなり、該顔料の使用時において透明性、着色力および分散性などに悪影響を及ぼすことがある。さらに、従来のバッチ式単一反応槽の撹拌方式では上記の第2の下漬成分を添加しても、得られる顔料の粒子径は不均一になりやすいという問題点があった。
【0007】
また、上記従来の単一反応槽を用いる製造方法では、反応液の撹拌能力に限界があり、必ずしも満足のゆくカップリング反応率が得られるわけではなかった。その結果、得られる顔料の収率の低下を招き易く、得られる顔料の収率を上げようとすれば、ジアゾ成分に対して下漬成分を過剰に使用しなければならないなど、顔料の生産性が低下することとなる。
【0008】
さらに、従来の単一反応槽は、そのスケールが大きくなる程、それに用いる撹拌装置も大きくなり、そのため、顔料製造に多大な時間とエネルギーを必要とし、上記と同じく顔料の生産性の低下を招き、顔料の製造における採算性が低下する。
【0009】
これらの課題を解決する方法として、マイクロリアクターを使用した顔料の製造方法が紹介されている(非特許文献1参照)。この方法は、カップリング時の反応温度や反応時間などのコントロールが容易で均一な粒子径の顔料粒子が得られ、かつ経済的な製造方法ではあるが、マイクロリアクター内の反応系(反応チャンネル)が小さすぎるため、顔料の大量生産を行うことが難しい。また、生成した顔料の粒子がマイクロリアクター内で目詰まりすることも考えられ、顔料の生産性が悪く工業的には有用とは言えない。
【0010】
【特許文献1】特開昭56−81367号公報
【特許文献2】特公昭55−10630号公報
【特許文献3】特公昭55−49087号公報
【非特許文献1】「第27回顔料物性講座/顔料技術とナノテクノロジーの接点」/「有機顔料の開発指向とマイクロリアクターの利用」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の通り、特許文献1に記載のような従来の製造方法では、カップリング反応を制御することは難しく、生成する顔料の粒子径が不均一となり、十分な品質の顔料を得ることができなかった。また、上記非特許文献1の製造方法では、顔料の生産性が悪く、顔料の工業的な大量生産には対応が難しい。
【0012】
従って、本発明の目的は、エジェクター内で連続的にジアゾ液と下漬液とを混合し、ジアゾ成分と下漬成分とを反応させることで、顔料の大量生産にも容易に対応できる工業的に有効な不溶性アゾ顔料の製造方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、不溶性アゾ顔料の製造においてエジェクターを使用し、ジアゾ液と下漬液とを、エジェクター内で生じる強烈な乱流中でカップリング反応させることで、生成する顔料粒子の粒子径を制御することができ、さらにカップリング反応時間を短縮でき、カップリング反応率も上がり、生産性も良好になることを見出して本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は下記の製造方法と装置を提供する。
1.ジアゾ液と下漬液とを、エジェクターに連続的に注入してエジェクター内で、上記ジアゾ液と下漬液とを混合し、カップリング反応させることを特徴とする不溶性アゾ顔料の製造方法。
2.ジアゾ成分と下漬成分とをカップリング反応させた後、得られた不溶性アゾ顔料懸濁液とジアゾ液および下漬液のいずれか一方の溶液との混合液と、他方の溶液を上記エジェクターに連続的に注入し、カップリング反応が終了するまで上記混合液をエジェクターを通して繰り返し循環させる前記1に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
【0015】
3.ジアゾ液が、第1のジアゾ成分と、これとは異なる第2のジアゾ成分を、第1のジアゾ成分の0.1〜50モル%の量で含む前記1または2に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
4.下漬液が、第1の下漬成分と、これとは異なる第2の下漬成分を、第1の下漬成分の0.1〜50モル%の量で含む前記1または2に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
5.さらに緩衝液をエジェクターに連続的に注入する前記1に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
6.カップリング反応後の不溶性アゾ顔料の懸濁液を、50℃以上で加熱処理する前記1に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
7.不溶性アゾ顔料が、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、β−ナフトール顔料、ナフトールAS顔料またはベンツイミダゾロン顔料である前記1に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
【0016】
8.下記(1)〜(4)の各装置を備えていることを特徴とする、ジアゾ液および下漬液からの不溶性アゾ顔料の製造装置。
(1)ジアゾ液および下漬液から選ばれる第一流体の第1の貯槽(2)、第一流体をエジェクター(1)のノズルヘ送液する第1の流路(a)および第一流体を第1の流路を通して送液するためのポンプ(d)
(2)ノズル、吸引室、ディフューザーおよび温度制御手段(g)を備えたエジェクター(1)
(3)第一流体以外の第二流体の第2の貯槽(3)、第二流体をエジェクター(1)の吸引室ヘ導く第2の流路(b)および前記第2の流路(b)を通る前記第二流体の流量を調整する第1の流量制御手段(e)
(4)第一流体と第二流体との反応によって生じた不溶性アゾ顔料懸濁液を加熱処理するための加熱処理槽(5)、および前記不溶性アゾ顔料懸濁液をエジェクターのディフューザーから加熱処理槽へ導くための第3の流路(a’)。
【0017】
9.さらに緩衝液を使用し、第一流体と第二流体以外の第三流体としての前記緩衝液用の第3の貯槽(4)、第三流体をエジェクター(1)の吸引室ヘ導く第5の流路(c)および前記第5の流路(c)を通る前記第三流体の流量を調整する第2の流量制御手段(f)を有する前記8に記載の不溶性アゾ顔料の製造装置。
10.さらに第3の流路(a’)と第1の貯槽(2)とを連結する第4の流路(a’’)を有する前記8に記載の不溶性アゾ顔料の製造装置。
11.さらに緩衝液を使用し、第一流体と第二流体以外の第三流体として前記緩衝液用の第3の貯槽(4)、第三流体をエジェクター(1)の吸引室ヘ導く第5の流路(c)および前記第5の流路(c)を通る第三流体の流量を調整する第2の流量制御手段(f)を有する前記10に記載の不溶性アゾ顔料の製造装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、一般的で工業的にも多用されているエジェクターを応用することで、ジアゾ液と下漬液とを、エジェクター内で生じる強烈な乱流中でカップリング反応させることで、顔料粒子の粒子径を制御することができ、カップリング反応時間を短縮でき、カップリング反応率も上がり、不溶性アゾ顔料を生産性良好に製造することが可能である。本発明の方法により得られた不溶性アゾ顔料は、その使用時において優れた分散性、透明性、鮮明性、着色力および光沢を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
[第一の実施形態]
第一の実施形態の不溶性アゾ顔料の製造方法について図1を参照しながら説明する。
ジアゾ液(I)を第1の貯槽(2)から送液ポンプ(d)により第1の流路(a)を通じて供給して、エジェクター(1)のノズルから所望の流量で噴出させると同時に、下漬液(II)が第2の貯槽(3)から第2の流路(b)を通じて第1の流量制御手段(e)により所望の流量で上記エジェクター(1)に吸引される。エジェクター(1)は温度制御手段(g)によって所望の温度に制御され、エジェクター(1)内で両液は混合され、乱流条件の下でジアゾ成分と下漬成分とのカップリング反応が行われる。得られた不溶性アゾ顔料懸濁液は、エジェクター(1)から第3の流路(a’)を通じて加熱装置を有していてもよい処理槽(5)に供給されて不溶性アゾ顔料が製造される。収容された懸濁液を必要に応じて前記処理槽(5)において所望の温度で加熱処理してもよい。
図2には、エジェクター(1)に注入される溶液が、前記ジアゾ液(I)と下漬液(II)に加えて、第3の貯槽(4)から第5の流路(c)を通じて第2の流量制御手段(f)により所望の流量で吸引される緩衝液(III)を使用する方法であり、その他は図1に示す方法と同様にして不溶性アゾ顔料が製造される。
【0020】
次に第一の実施形態の不溶性アゾ顔料の製造方法について具体的に説明する。
第一の実施形態において、エジェクターのノズルから噴出される溶液(以後「第一流体」と略記する)がジアゾ液(I)である場合、エジェクターに吸引される溶液(以後「第二流体」と略記する)は下漬液(II)であり、第一流体が下漬液(II)である場合は、第二流体はジアゾ液(I)である。また、第一流体が緩衝液(III)である場合は、第二流体はジアゾ液(I)であり、エジェクターに吸引されるもう1つの溶液(以後「第三流体」と略記する)は下漬液(II)である。ここで、第二流体と第三流体は入れ替わってもよい。緩衝液(III)の供給にエジェクターを使用しない場合は、緩衝液(III)は処理槽に予め仕込んでおいてもよい。または緩衝液(III)をジアゾ液(I)または下漬液(II)に添加してもよい。
【0021】
第一の実施形態における第一流体、第二流体および第三流体の温度は50℃以下、好ましくは30℃以下であり得、かつ不溶性アゾ顔料を生成するエジェクター内の混合液の温度は50℃以下、好ましくは30℃以下であり得る。これらの温度が50℃を超えると、ジアゾ成分が分解し、その分解物が顔料の色相や鮮明性などに悪影響を及ぼすことがあるので一般的に好ましくない。前記温度を保持するために、第一の実施形態の製造装置は、エジェクターに温度を制御するための温度制御手段を備えることが好ましい。
【0022】
第一の実施形態においてエジェクターから排出された不溶性アゾ顔料を含む懸濁液は、処理槽にて加熱処理することが好ましい。不溶性アゾ顔料懸濁液の加熱処理温度は50℃以上であり、好ましくは70℃以上で加熱処理することで、顔料粒子径がより均一で分散性に優れた顔料となる。加熱処理温度が50℃未満では顔料の粒子径が成長せず、用途によっては好ましくない場合がある。
【0023】
第一の実施形態の不溶性アゾ顔料の製造方法において、第一流体を、第二流体或いは第三流体を十分に吸引できる程度の減圧を生じる流量で供給するのが好ましい。第一流体の好ましい流量はエジェクターのサイズ(寸法)、送液ポンプの能力および流路の径によって決まるので特定はできないが、一般的には作業性などを考慮し、1リットル/min.以上、好ましくは5リットル/min.以上である。1リットル/min.未満では作業効率も悪く、十分な減圧度を与えないので好ましくない。第二流体の吸引流量、または第二流体および第三流体の合計吸引流量は、第一流体の流量の3分の1以下(容量基準)である。3分の1を超えると、吸引室の総液量が多くなり、エジェクター内において効果的な乱流が得られず、ジアゾ成分と下漬成分との反応が効率良く行われないので好ましくない。
【0024】
第一の実施形態および以降の第二〜第四の実施形態で使用するエジェクターは、第一流体をノズルから吸引室に噴出させ、次いでディフューザーに流入させることにより、吸引室が低圧となり第二流体或いは第三流体が吸引されて第一流体と混合昇圧させて排出する装置である。第一の実施形態における吸引室には吸い込み口が一つ以上あり、二つ以上の流体は吸引室およびディフューザー内で乱流状態での混合を可能にすると同時にカップリング反応を短時間で効率的に行うことを可能にする。このようにエジェクター内で流体同士を瞬時に混合反応できるため、カップリング反応時間が大きく短縮される。この結果、反応温度、反応物質濃度およびpHの変動が防止され、顔料粒子に悪影響を与える要因を削除することができる。
【0025】
[第二の実施形態]
第二の実施形態の不溶性アゾ顔料の製造方法について図3を参照しながら説明する。
ジアゾ液(I)を第1の貯槽(2)から送液ポンプ(d)により第1の流路(a)に供給してエジェクター(1)のノズルから所望の流量で噴出させると同時に、下漬液(II)が第2の貯槽(3)から第2の流路(b)を通じて第1の流量制御手段(e)により所望の流量で上記エジェクター(1)に吸引される。エジェクター(1)は温度制御手段(g)によって所望の温度に制御され、エジェクター(1)内で両溶液は混合され、乱流条件の下、カップリング反応が行われる。得られた不溶性アゾ顔料懸濁液を第4の流路(a'')を通じて第1の貯槽(2)に循環し、ジアゾ液と不溶性アゾ顔料懸濁液との混合液(やはり(I)で示す)が第1の貯槽(2)から送液ポンプ(d)により再度第1の流路(a)を通じて供給され、エジェクター(1)のノズルから噴出されるようにし、カップリング反応が終了するまでこの循環を続ける。循環と同時に第2の流路(b)から下漬液(II)は吸引され続け、反応が終了した時には第2の貯槽(3)の下漬液(II)はなくなっている。
【0026】
反応終了後に得られた不溶性アゾ顔料懸濁液は、エジェクター(1)から第3の流路(a’)を通じて加熱処理槽(5)に供給され、所望の温度で加熱処理されて不溶性アゾ顔料が製造される。上記製造方法においては反応が始まるまでは上記ジアゾ液のみが、反応が始まってからはジアゾ液と反応後の上記不溶性アゾ顔料懸濁液の混合液が流路(a)を流れることとなる。図4はエジェクターに注入される溶液が三つあるが、上記図3に示す製造方法に類似の製造方法により不溶性アゾ顔料が製造される。
【0027】
次に第二の実施形態の不溶性アゾ顔料の連続製造方法について具体的に説明する。
第二の実施形態において、不溶性アゾ顔料懸濁液と混合される溶液(以後、第一流体と略記する)がジアゾ液(I)の場合、エジェクターに吸引される溶液(以後、第二流体と略記する)は下漬液(II)であり、第一流体が下漬液(II)の場合、第二流体はジアゾ液(I)である。また、第一流体が緩衝液(III)の場合、第二流体はジアゾ液(I)で、エジェクターに吸引されるもう一つの溶液(以後、第三流体と略記する)は下漬液(II)である。ここで、第二流体と第三流体は入れ替わってもよい。
【0028】
緩衝液の供給にエジェクターを使用しない場合、緩衝液を加熱処理槽に予め仕込んでおいてもよい。または緩衝液の成分、すなわち、緩衝成分をジアゾ液(I)または下漬液(II)に添加してもよい。第一流体と第二流体或いは第一流体、第二流体と第三流体とがエジェクター内で反応して不溶性アゾ顔料を生成し、不溶性アゾ顔料懸濁液となるが、この懸濁液を第一流体と混合した溶液を、カップリング反応が終了するまで循環させることで不溶性アゾ顔料を製造することができる。
【0029】
第二の実施形態の第一流体および不溶性アゾ顔料懸濁液の混合液と第二流体の温度、または、第一流体および不溶性アゾ顔料懸濁液の混合液、第二流体と第三流体の温度は50℃以下、好ましくは30℃以下であり、かつ不溶性アゾ顔料を製造するエジェクター内の混合液の温度は50℃以下、好ましくは30℃以下である。これらの温度が50℃を超えると、ジアゾ成分が分解し、その分解物が顔料の色相、鮮明性などに悪影響を及ぼすので好ましくない。前記温度を保持するために、第二の実施形態の製造装置は、エジェクターに温度を制御するための温度制御手段を備えることが好ましい。
【0030】
第二の実施形態において反応終了後に、不溶性アゾ顔料懸濁液はエジェクターから排出され、加熱処理槽に収容される。その後、加熱処理槽にて加熱処理されることが好ましい。不溶性アゾ顔料懸濁液の加熱処理温度は50℃以上であり、好ましくは70℃以上で加熱処理することで、顔料粒子径がより均一で分散性に優れた顔料となる。加熱処理温度が50℃未満では顔料の粒子径が成長せず、用途によっては好ましくない場合がある。
【0031】
第二の実施形態の不溶性アゾ顔料の製造方法において、第一流体および不溶性アゾ顔料懸濁液の合計流量は、第二流体或いは第三流体を十分に吸引できる程度の減圧を生じる合計流量が好ましい。第一流体および不溶性アゾ顔料懸濁液の好ましい合計流量はエジェクターのサイズ(寸法)、送液ポンプの能力および流路の径によって決まるので特定はできないが、一般的には作業性などを考慮し、1リットル/min.以上、好ましくは5リットル/min.以上である。1リットル/min.未満では作業効率も悪く、十分な減圧度を与えないので好ましくない。第二流体の吸引流量、または第二流体および第三流体の合計吸引流量は、第一流体および不溶性アゾ顔料懸濁液の合計流量の3分の1以下(容量基準)である。3分の1を超えると、吸引室での総液量が多くなり効果的な乱流が得られず反応が効率良く行われないので好ましくない。
【0032】
また、第一流体と不溶性アゾ顔料懸濁液の混合液は循環を繰り返すたびに新たな顔料を生成することとなり、上記第一流体と不溶性アゾ顔料懸濁液の混合液中の不溶性アゾ顔料の濃度が高くなり、第一流体の濃度が低くなる。そのため、エジェクター内で反応物質の濃度が変化することになるので第二流体および第三流体の吸引流量を流量制御手段により調整してエジェクターにおける反応物質の濃度を一定に保つことが好ましい。
【0033】
[第三の実施形態]
第三の実施形態は、前記第一の実施形態において、ジアゾ液として、第1のジアゾ成分と第1のジアゾ成分の0.1〜50モル%の量で第2のジアゾ成分を含むジアゾ液を使用するか、および/または下漬液として、第1の下漬成分と第1の下漬成分の0.1〜50モル%の量で第2の下漬成分を含む下漬液を使用する点が特徴であり、その他の全ての製造条件などは前記第一の実施形態と同一である。
【0034】
[第四の実施形態]
第四の実施形態は、前記第二の実施形態において、ジアゾ液として、第1のジアゾ成分と第1のジアゾ成分の0.1〜50モル%の量で第2のジアゾ成分を含むジアゾ液を使用するか、および/または下漬液として、第1の下漬成分と第1の下漬成分の0.1〜50モル%の量で第2の下漬成分を含む下漬液を使用する点が特徴であり、その他の製造条件などは前記第二の実施形態と同一である。
【0035】
第三および第四の実施形態で使用する第2のジアゾ成分としては、第1のジアゾ成分の誘導体を使用し得る。第1のジアゾ成分の誘導体としては、例えば、炭素数1〜4の低級アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基、カルボン酸アミド基類、スルホン酸アミド基類、アセチルアミノ基類などで置換された上記第1のジアゾ成分の誘導体が挙げられ、これらは単独でも使用できるし、または2種類以上の第2のジアゾ成分を組み合わせても使用できる。第2のジアゾ成分の含有比率は、第1のジアゾ成分100モル%に対して0.1〜50モル%、さらに好ましくは0.1〜20モル%である。50モル%を超えると得られる不溶性アゾ顔料の鮮明性が低下するので好ましくない。
【0036】
第三および第四の実施形態で使用する第2の下漬成分としては、第1の下漬成分の誘導体を使用し得る。第1の下漬成分の誘導体としては、例えば、炭素数1〜4の低級アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基、カルボン酸アミド基類、スルホン酸アミド基類、アセチルアミノ基類などで置換された上記第1の下漬成分の誘導体が挙げられ、これらは単独でも使用できるし、または2種類以上の第2の下漬成分を組み合わせても使用できる。第2の下漬成分の含有比率は、第1の下漬成分100モル%に対して0.1〜50モル%、さらに好ましくは0.1〜20モル%である。50モル%を超えると得られる不溶性アゾ顔料の鮮明性が低下するので好ましくない。
【0037】
本発明により製造し得る不溶性アゾ顔料とは、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、β−ナフトール顔料、ナフトールAS顔料、およびベンツイミダゾロン顔料などが挙げられ、アニリン類またはベンジジン類のジアゾ成分とアセトアセトアニリド類、ピラゾロン誘導体、β−ナフトール類、ナフトールAS類などを含む下漬成分とをカップリングさせることで得られる。本発明で使用するジアゾ成分および下漬成分は、上記の如き従来公知の不溶性アゾ顔料の製造に使用されているものであり、特に限定されるものではない。
【0038】
本発明の緩衝液(III)に使用する緩衝剤としては、酢酸/酢酸ナトリウム、ギ酸/ギ酸ナトリウム、炭酸/炭酸ナトリウム或いは炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。緩衝液のpHは3.0〜6.5、好ましくは3.5〜5.5である。pHが3.0未満ではカップリング反応が遅くなるので好ましくなく、pHが6.5を超えるとカップリング反応は速いが、ジアゾ成分が分解し易く生成する顔料中の不純物が多くなるので好ましくない。
【0039】
本発明の不溶性アゾ顔料の製造方法では、ジアゾ成分に対して下漬成分を過剰に使用することが好ましい。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分は、0.5〜5モル%、好ましくは0.5〜3モル%でよい。不溶性アゾ顔料がモノアゾ顔料の場合のジアゾ成分と下漬成分の反応比率に関して、ジアゾ成分と下漬成分のモル比が1:1.005〜1:1.05、好ましくは1:1.005〜1:1.03となるように、ジアゾ液および下漬液を連続して送液および吸引してカップリング反応を行うことができる。不溶性アゾ顔料がジスアゾ顔料の場合、カップリング反応はジアゾ成分1モルに対して下漬成分2モルが反応するため、その反応比率に関してジアゾ成分と下漬成分のモル比が1:2.01〜1:2.10、好ましくは1:2.01〜1:2.06となるように、ジアゾ液と下漬液とを連続して送液および吸引してカップリング反応を行うことができる。下漬成分の過剰分を少量とし、かつエジェクター内で効率的に反応させることにより、未反応のジアゾ成分が残らず、ジアゾ成分の分解やジアゾ成分の分子間縮合による副反応を防止できる。このように本発明の製造方法では通常のバッチ式単一反応槽の反応に比べて下漬成分の過剰分を削減することができるので、未反応の下漬成分量の減少に繋がり、顔料の鮮明性や着色力を向上させる。
【0040】
本発明においては、必要に応じて、顔料の分散性に関する助剤として、界面活性剤またはロジン類または溶剤などをジアゾ液、下漬液または緩衝液に添加してもよく、また、加熱処理槽にて加熱処理する前、中、後のいずれかの顔料の懸濁液に添加してもよい。或いはエジェクターにさらに別の吸込口をつくり、上記助剤を溶解した溶液または溶剤を吸引させてカップリング反応を行ってもよい。
【実施例】
【0041】
次に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これに限定されるものではない。なお、文中、「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。以下の文中では、図1〜図4の工程図および工程図中の各装置の符号を用いて説明した。
【0042】
〔第一実施形態〕
[実施例1]
3,3’−ジクロロベンジジン塩酸塩をその3倍モルの塩酸と2倍モルの亜硝酸ナトリウムを使用して、常法によりジアゾ化し、0.125モル/リットルのジアゾ液8リットル(液温5℃)を調製した。一方、アセトアセトアニリド358部を水酸化ナトリウム120部を含む水溶液に溶解し、0.253モル/リットルの下漬液8リットル(液温20℃)を調製した。また、80%酢酸水溶液300部と水酸化ナトリウム80部と水からなるpH4.7の緩衝液80リットル(液温20℃)を調製した。
【0043】
次に図2に示すように、上記緩衝液(第一流体(I)として)を第1の貯槽(2)から送液ポンプ(d)により、第1の流路(a)を通じてエジェクター(1)に流速6リットル/min.で流し込んだ。エジェクター(1)内で生じた減圧によりジアゾ液(第二流体(II)として)が第2の貯槽(3)から第2の流路(b)を通じて流速0.6リットル/min(第1の流量制御手段(e)で調整)で、下漬液(第三流体(III)として)が第3の貯槽(4)から第5の流路(c)を通じて流速0.6リットル/min.(第2の流量制御手段(f)で調整)で、温度制御手段(g)によって20℃に保持されたエジェクター(1)に吸引され、カップリング反応によりジスアゾ顔料C.I.ピグメントイエロー12(PY12)を生成した。
【0044】
得られたジスアゾ顔料の生成率は、カップリング反応と同時にエジェクター内で生じた強烈な乱流の影響により非常に良好であった。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分が約1モル%であったにもかかわらずカップリング反応は順調で、カップリング反応時間は約14分であった。生成した顔料の水性懸濁液はエジェクター(1)から第3の流路(a')を通じて排出され、加熱処理槽(5)に収容した。収容した顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから水洗して顔料分24.5%のジスアゾ顔料(PY12)のウェットケーキを得た。
【0045】
[比較例1]
ジアゾ液は実施例1と同様に調製した。一方、アセトアセトアニリド376部を水酸化ナトリウム120部を含む水溶液に溶解し、0.265モル/リットルの下漬液8リットル(液温20℃)を調製した。また、80%酢酸水溶液300部と水酸化ナトリウム80部と水からなるpH4.7の緩衝液20リットル(液温20℃)を調製した。この緩衝液を撹拌装置を備えたバッチ式単一反応槽に仕込み、撹拌しながらジアゾ液と下漬液を別々の注入管を通して1.5時間かけて同時に注入し、ジスアゾ顔料(PY12)を生成した。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分は6モル%であった。この顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから水洗して顔料分25.8%のジスアゾ顔料(PY12)のウェットケーキを得た。
【0046】
[試験例1]
以下の方法によって、実施例1および比較例1により得られたPY12のウェットケーキのオフセットインキ適性試験を次のようにして実施した。1リットルフラッシャーに70℃に加熱したオフセットインキ用ワニス230部を添加した後、顔料固形分換算で90部に相当する上記ウェットケーキを添加し、20分混練しながらフラッシングを行った。分離した水を除去した後、真空脱水しながらフラッシャー温度を90℃に昇温して水分を完全に除去した。その後、オフセットインキ用ワニス350部およびオフセットインキ用溶剤30部を徐々に加え、ベースインキ700部を作製した。このベースインキ70部にオフセットインキ用ワニス15部、溶剤10部および助剤5部を加えてタック6.3〜6.5に調整して試験用オフセットインキを得た。
【0047】
上記のようにして得た試験用インキの評価は以下のように行なった。
[透明性]
黒帯展色紙に試験用インキを展色して黒帯上の展色状態について目視により判定した。比較例1で得たウェットケーキを使用した試験用インキの透明性を標準値5として透明性を10段階で評価した。数字が大きいほど透明であることを示す。
[着色力]
アート紙に試験用インキをRIテスターで展色してグレタグ濃度計(反射濃度計)で濃度を測定して着色力を評価した。値が高いほど高着色力であることを示す。
[光沢]
アート紙に試験用インキをRIテスターで展色してグロスメーターで反射光を測定して光沢を評価した。値が高いほど高光沢であることを示す。以上の評価の結果を表1に示す。実施例1の顔料は、比較例1の顔料と比較して優れた透明性、着色力および光沢を示した。
以上より実施例1の製造方法の方が、比較例1の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0048】

【0049】
[実施例2]
アセトアセトアニリド358部を使用する代わりに、アセトアセト−o−トルイジド387部を使用した以外は、実施例1と同様にジスアゾ顔料(PY14)を製造した。得られたウェットケーキ顔料を乾燥して乾燥状態のジスアゾ顔料(PY14)を得た。
【0050】
[比較例2]
アセトアセトアニリド376部を使用する代わりに、アセトアセト−o−トルイジド405部を使用した以外は、比較例1と同様にジスアゾ顔料(PY14)を製造した。得られたウェットケーキ顔料を乾燥して乾燥状態のジスアゾ顔料(PY14)を得た。
【0051】
[試験例2]
以下の方法によって、実施例2および比較例2により得られたPY14の乾燥顔料のグラビアインキを調製し、グラビアインキ適性試験を実施した。試験用グラビアインキは、ニトロセルロースグラビアインキ用ワニス90部および60メッシュ金網を通して粉砕した顔料10部を200容量部のガラス瓶に入れ、3mmφのガラスビーズ100部を加えてレッドデビル分散機で1時間分散して調製した。
【0052】
[透明性]
得られた試験用インキをトリアセテートフィルムに展色し、展色したフィルムを黒色の紙上に置いてその透明性について目視により判定した。比較例2で得た顔料を使用した試験用インキの透明性を標準値5として10段階で評価した。数字が大きいほど透明であることを示す。
[着色力]
透明性における評価と同様に展色したフィルムを用いて着色力を目視により判定した。比較例2で得た顔料を使用した試験用インキの着色力を標準値5として10段階で評価した。数字が大きいほど高着色力であることを示す。
[光沢]
各展色したフィルムからの反射光をグロスメーターで測定してその光沢を評価した。値が高いほど高光沢であることを示す。
以上の評価の結果を表2に示す。実施例2の顔料は、比較例2の顔料と比較して優れた透明性、着色力および光沢を示した。以上より実施例2の製造方法の方が、比較例2の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0053】

【0054】
[実施例3]
3−アミノ−4−メトキシベンズアニリドをその3.5倍モルの塩酸と等モルの亜硝酸ナトリウムを使用して常法によりジアゾ化し、次いで酢酸ナトリウムを添加してpH4.0、0.025モル/リットルのジアゾ液40リットル(液温5℃)を調製した。一方、N−(4−クロロ−2,5−ジメトキシフェニル)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキシアミド(ナフトールAS−LC)362部を水酸化ナトリウム100部を含む水溶液に溶解し、0.126モル/リットルの下漬液8リットル(液温20℃)を調製した。
【0055】
次に図1に示すようにジアゾ液(第一流体(I)として)を第1の貯槽(2)から送液ポンプ(d)により第1の流路(a)を通じてエジェクター(1)に流速6リットル/min.で流し込んだ。エジェクター(1)内で生じた減圧により下漬液(第二流体(II)として)が第2の貯槽(3)から第2の流路(b)を通じて流速1.2リットル/min.(第1の流量制御手段(e)で調整)で、温度制御手段(g)によって20℃に保持されたエジェクター(1)に吸引され、カップリング反応してナフトールAS顔料(C.I.ピグメントレッド146(PR146))を生成した。
【0056】
得られたナフトールAS顔料の生成率は、カップリング反応と同時にエジェクター内で生じた強烈な乱流の影響により非常に良好であった。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分が約1モル%であったにもかかわらず、カップリング反応は順調に進み、カップリング反応時間は約7分であった。得られた顔料の水性懸濁液はエジェクター(1)から第3の流路(a')を通じて排出され加熱処理槽(5)に収容した。収容した顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから、水洗および乾燥してナフトールAS顔料(PR146)の乾燥顔料を得た。
【0057】
[比較例3]
ジアゾ液は実施例3と同様に調製した。一方、N−(4−クロロ−2,5−ジメトキシフェニル)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキシアミド(ナフトールAS−LC)376部を水酸化ナトリウム100部を含む水溶液に溶解し、0.131モル/リットルの下漬液8リットル(液温20℃)を調製した。ジアゾ液を撹拌装置を備えたバッチ式単一反応槽に仕込み、撹拌しながら下漬液を1時間かけて注入し、ナフトールAS顔料(PR146)を生成した。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分は5モル%であった。この生成した顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから、水洗および乾燥してナフトールAS顔料(PR146)を乾燥状態で得た。
【0058】
[試験例3]
実施例3および比較例3により得られたPR146の乾燥顔料のグラビアインキ適性試験を試験例2と同様にして行った。その評価の結果を表3に示した。実施例3の顔料は、比較例3の顔料と比較して優れた透明性、着色力および光沢を示した。以上より実施例3の製造方法の方が、比較例3の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0059】

【0060】
[実施例4]
2−メトキシ−4−ニトロアニリンを、その2.5倍モルの塩酸と等モルの亜硝酸ナトリウムを使用して常法によりジアゾ化し、0.125モル/リットルのジアゾ液8リットル(液温10℃)を調製した。一方、アセトアセト−o−アニシジド209.3部を水酸化ナトリウム50部を含む水溶液に溶解し、次いで酢酸水溶液を添加して下漬成分を析出させ、pH4.2、0.0253モル/リットルの下漬液40リットル(液温20℃)を調製した。
【0061】
次に図1に示すように、下漬液(第一流体(I)として)を第1の貯槽(2)から送液ポンプ(d)により第1の流路(a)を通じてエジェクター(1)に流速5リットル/min.で流し込んだ。エジェクター(1)内で生じた減圧によりジアゾ液(第二流体(II)として)が第2の貯槽(3)から第2の流路(b)を通じて流速1リットル/min.(第1の流量制御手段(e)で調整)で、温度制御手段(g)によって20℃に保持されたエジェクター(1)に吸引され、カップリング反応によりモノアゾ顔料(C.I.ピグメントイエロー74(PY74))を生成した。
【0062】
生成したモノアゾ顔料の生成率は、カップリング反応と同時にエジェクター内で生じた強烈な乱流の影響により非常に良好であった。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分が約1モル%にもかかわらず、カップリング反応は順調に進み、カップリング反応時間は約8分であった。生成した顔料の水性懸濁液はエジェクター(1)から第3の流路(a')を通じて排出され加熱処理槽(5)に収容した。収容した顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから、水洗および乾燥してモノアゾ顔料(PY74)を乾燥状態で得た。
【0063】
[比較例4]
ジアゾ液は実施例4と同様に調製した。一方、アセトアセト−o−アニシジド218部を水酸化ナトリウム50部を含む水溶液に溶解し、次いで酢酸水溶液を添加して下漬成分を析出させ、pH4.2、0.0525モル/リットルの下漬液20リットル(液温20℃)を調製した。この下漬液を撹拌装置を備えたバッチ式単一反応槽に仕込み、撹拌しながらジアゾ液を2時間かけて注入し、モノアゾ顔料(PY74)を生成した。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分は5モル%であった。この生成した顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから、水洗および乾燥してモノアゾ顔料(PY74)を乾燥状態で得た。
【0064】
[試験例4]
以下の方法によって、実施例4および比較例4により得られたPY74の乾燥顔料のカラートナー適性試験を実施した。試験試料としては、ポリエステル樹脂100部および顔料5部をボールミルにて撹拌混合後、溶融混練および冷却し、粉砕分級してカラートナーを得た。
【0065】
得られたトナー50部に疎水性シリカ0.3部を外添し、電子写真プリンターを用いて以下の方法により評価を行った。
[透明性]
上記で得られたトナーを用いて、ベタ画像をOHPシート上にそれぞれプリントし、画像の透明性について目視により判定した。比較例4で得られた顔料を使用したトナーの透明性を標準値5として10段階で評価した。数字が大きいほど透明であることを示す。
[着色力]
透明性の評価と同様にプリントした画像について着色力を目視により判定した。比較例4で得られた顔料を使用したトナーの着色力を標準値5として10段階で評価した。数字が大きいほど高着色力であることを示す。
[分散性]
分散媒への顔料の分散状態を目視により判定した。比較例4で得られた顔料を使用したトナーの分散性を標準値5として10段階で評価した。数字が大きいほど分散性が良好であることを示す。
以上の評価の結果を表4に示した。実施例4の顔料は、比較例4の顔料と比較して優れた透明性、着色力および分散性を示した。以上より実施例4の製造方法の方が、比較例4の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0066】

【0067】
[第二実施形態]
[実施例5]
実施例1で製造したジアゾ液8リットル(液温5℃)と、実施例1で製造した下漬液8リットル(液温20℃)を使用した。また、80%酢酸水溶液300部と水酸化ナトリウム80部と水とからなるpH4.7の緩衝液20リットル(液温20℃)を調製した。
次に図4に示すように、この緩衝液(第一流体(I)として)を第1の貯槽(2)から送液ポンプ(d)により、第1の流路(a)を通じてエジェクター(1)に流速5リットル/min.で流し込んだ。エジェクター(1)内で生じた減圧によりジアゾ液(第二流体(II)として)が第2の貯槽(3)から第2の流路(b)を通じて流速0.5リットル/min(第1の流量制御手段(e)で調整)で、下漬液(第三流体(III)として)が第3の貯槽(4)から第5の流路(c)を通じて流速0.5リットル/min.(第2の流量制御手段(f)で調整)で、温度制御手段(g)によって20℃に保持されたエジェクター(1)に吸引され、カップリング反応によりジスアゾ顔料(PY12)を生成した。
【0068】
得られたジスアゾ顔料(PY12)の懸濁液と緩衝液との混合液を第4の流路(a'')を通じて第1の貯槽(2)に循環し、送液ポンプ(d)により再度第1の流路(a)を通じてエジェクター(1)に送液し、第2の流路(b)および第5の流路(c)から吸引されるジアゾ液および下漬液がなくなるまで循環を続けた。ジアゾ液および下漬液の吸引量は第1および第2の流量制御手段((e)および(f))により徐々に減らしていった。
【0069】
得られた顔料の生成率は、カップリング反応と同時にエジェクター内で生じた強烈な乱流の影響により非常に良好であった。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分が約1モル%であったが、カップリング反応は順調で、カップリング反応時間は約30分であった。生成した顔料の水性懸濁液はエジェクター(1)から第3の流路(a’)を通じて排出され、加熱処理槽(5)に収容した。収容した顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから水洗して顔料分24.3%のジスアゾ顔料(PY12)のウェットケーキを得た。
【0070】
[試験例5]
実施例5および前記比較例1で得られたPY12のウェットケーキを用いて前記試験例1と同様にしてオフセットインキ適性試験を行なって下記表5の結果を得た。評価方法は前記試験例1と同じである。実施例5の顔料は、比較例1の顔料と比較して優れた透明性、着色力および光沢を示した。以上より実施例5の製造方法の方が、比較例1の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0071】

【0072】
[実施例6]
アセトアセトアニリド358部を使用する代わりに、アセトアセト−o−トルイジド387部を使用した以外は、実施例5と同様にジスアゾ顔料(PY14)を製造した。得られたウェットケーキ顔料を乾燥してジスアゾ顔料(PY14)を乾燥状態で得た。
【0073】
[試験例6]
実施例6および前記比較例2で得られたPY14の乾燥顔料を用いて前記試験例2と同様にしてグラビアインキ適性試験を行なって下記表6の結果を得た。評価方法は前記試験例2と同じである。実施例6の顔料は、比較例2の顔料と比較して優れた透明性、着色力および光沢を示した。以上より実施例6の製造方法の方が、比較例2の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0074】

【0075】
[実施例7]
3−アミノ−4−メトキシベンズアニリドをその3.5倍モルの塩酸と等モルの亜硝酸ナトリウムを使用して常法によりジアゾ化し、次いで酢酸ナトリウムを添加してpH4.0、0.05モル/リットルのジアゾ液20リットル(液温5℃)を調製した。一方、下漬液は実施例3で製造した下漬液8リットル(液温20℃)を使用した。次に図3に示すようにジアゾ液(第一流体(I)として)を第1の貯槽(2)から送液ポンプ(d)により第1の流路(a)を通じてエジェクター(1)に流速5リットル/min.で流し込んだ。エジェクター(1)内で生じた減圧により下漬液(第二流体(II)として)が第2の貯槽(3)から第2の流路(b)を通じて流速1リットル/min.(第1の流量制御手段(e)で調整)で、温度制御手段(g)によって20℃に保持されたエジェクター(1)に吸引され、カップリング反応してナフトールAS顔料(PR146)を生成した。
【0076】
得られたナフトールAS顔料(PR146)の懸濁液とジアゾ液との混合液を第4の流路(a'')を通じて第1の貯槽(2)に循環し、送液ポンプ(d)により再度第1の流路(a)を通じてエジェクター(1)に送液し、第2の流路(b)から吸引される下漬液がなくなるまで循環を続けた。下漬液の吸引量は第1の流量制御手段(e)により徐々に減らしていった。得られたナフトールAS顔料の生成率はカップリング反応と同時にエジェクター内で生じた強烈な乱流の影響により非常に良好であった。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分が約1モル%であったが、カップリング反応は順調に進み、カップリング反応時間は約30分であった。得られた顔料の水性懸濁液はエジェクター(1)から第3の流路(a’)を通じて排出され、加熱処理槽(5)に収容した。収容した顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから、水洗および乾燥してナフトールAS顔料(PR146)を乾燥状態で得た。
【0077】
[試験例7]
実施例7および前記比較例3で得られたPR146の乾燥顔料を用いて前記試験例3と同様にしてグラビアインキ適性試験を行なって下記表7の評価結果を得た。評価方法は前記試験例3と同じである。実施例7の顔料は、比較例3の顔料と比較して優れた透明性、着色力および光沢を示した。以上より実施例7の製造方法の方が、比較例3の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0078】

【0079】
[実施例8]
実施例4で製造したジアゾ液8リットル(液温10℃)を使用した。一方、アセトアセト−o−アニシジド209.3部を水酸化ナトリウム50部を含む水溶液に溶解し、次いで酢酸水溶液を添加して下漬成分を析出させ、pH4.2、0.0505モル/リットルの下漬液40リットル(液温20℃)を調製した。
次に図3に示すように、下漬液(第一流体(I)として)を第1の貯槽(2)から送液ポンプ(d)により第1の流路(a)を通じてエジェクター(1)に流速5リットル/min.で流し込んだ。エジェクター(1)内で生じた減圧によりジアゾ液(第二流体(II)として)が第2の貯槽(3)から第2の流路(b)を通じて流速1リットル/min.(第1の流量制御手段(e)で調整)で、温度制御手段(g)によって20℃に保持されたエジェクター(1)に吸引され、カップリング反応によりモノアゾ顔料(PY74)を生成した。
【0080】
得られたモノアゾ顔料(PY74)の懸濁液と下漬液との混合液を第4の流路(a'')を通じて第1の貯槽(2)に循環し、送液ポンプ(d)により再度第1の流路(a)を通じてエジェクター(1)に送液し、第2の流路(b)から吸引されるジアゾ液がなくなるまで循環を続けた。ジアゾ液の吸引量は第1の流量制御手段(e)により徐々に減らしていった。得られたモノアゾ顔料の生成率はカップリング反応と同時にエジェクター内で生じた強烈な乱流の影響により、非常に良好であった。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分が約1モル%であったが、カップリング反応は順調に進み、カップリング反応時間は約30分であった。生成した顔料の水性懸濁液はエジェクター(1)から第3の流路(a’)を通じて排出され加熱処理槽(5)に収容した。収容した顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから、水洗および乾燥してモノアゾ顔料(PY74)を乾燥状態で得た。
【0081】
[試験例8]
実施例8および前記比較例4で得られたPY74の乾燥顔料を用いて前記試験例4と同様にしてカラートナー適性試験を行なって下記表8の評価結果を得た。評価方法は前記試験例4と同じである。実施例8の顔料は、比較例4の顔料と比較して優れた透明性、着色力および分散性を示した。以上より実施例8の製造方法の方が、比較例4の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0082】

【0083】
[第三実施形態]
[実施例9]
アセトアセトアニリド344部、2−アセトアセチルアミノ安息香酸8.9部および4−アセトアセチルアミノベンズアミド8.9部を水酸化ナトリウム120部を含む水溶液に溶解し、0.253モル/リットルの下漬液8リットル(液温20℃)を調製した。この下漬液と実施例1で製造したジアゾ液8リットル(液温5℃)と、実施例1で調製した緩衝液80リットル(液温20℃)を用意した。以下実施例1と同様にして顔料分24.3%のジスアゾ顔料(PY12)のウェットケーキを得た。
【0084】
[比較例5]
ジアゾ液は実施例1と同様に調製した。一方、アセトアセトアニリド361部、2−アセトアセチルアミノ安息香酸9.3部、4−アセトアセチルアミノベンズアミド9.3部とを水酸化ナトリウム120部を含む水溶液に溶解し、0.265モル/リットルの下漬液8リットル(液温20℃)を調製した。また、80%酢酸水溶液300部と水酸化ナトリウム80部と水からなるpH4.7の緩衝液20リットル(液温20℃)を調製した。この緩衝液を撹拌装置を備えたバッチ式単一反応槽に仕込み、撹拌しながらジアゾ液と下漬液を別々の注入管を通して1.5時間かけて同時に注入し、ジスアゾ顔料(PY12)を生成した。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分は6モル%であった。この顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから、水洗して顔料分25.4%のジスアゾ顔料(PY12)のウェットケーキを得た。
【0085】
[試験例9]
実施例9および比較例5で得られたPY12のウェットケーキを用いて前記試験例1と同様にしてオフセットインキ適性試験を行なって下記表9の結果を得た。評価方法は前記試験例1と同じである。実施例9の顔料は、比較例5の顔料と比較して優れた透明性、着色力および光沢を示した。以上より実施例9の製造方法の方が、比較例5の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0086】

【0087】
[実施例10]
ジアゾ液は実施例1と同様に調製した。一方、アセトアセト−o−トルイジド367部と4−アセトアセチルアミノベンゼンスルホン酸26部とを水酸化ナトリウム120部を含む水溶液に溶解し、0.253モル/リットルの下漬液8リットル(液温20℃)を調製した。80%酢酸水溶液300部と水酸化ナトリウム80部と水からなるpH4.7の緩衝液80リットル(液温20℃)を調製し、実施例9と同様にジスアゾ顔料(PY14)を製造した。得られたウェットケーキ顔料を乾燥してジスアゾ顔料(PY14)を乾燥状態で得た。
【0088】
[比較例6]
ジアゾ液は実施例1と同様に調製した。一方、アセトアセト−o−トルイジド385部と4−アセトアセチルアミノベンゼンスルホン酸27.3部とを水酸化ナトリウム120部を含む水溶液に溶解し0.265モル/リットルの下漬液8リットル(液温20℃)を調製した。80%酢酸水溶液300部と水酸化ナトリウム80部と水からなるpH4.7の緩衝液20リットル(液温20℃)を調製し、比較例5と同様にジスアゾ顔料(PY14)を製造した。得られたウェットケーキ顔料を乾燥してジスアゾ顔料(PY14)を乾燥状態で得た。
【0089】
[試験例10]
実施例10および比較例6で得られたPY14の乾燥顔料を用いて前記試験例2と同様にしてグラビアインキ適性試験を行なって下記表10の評価結果を得た。評価方法は前記試験例2と同じである。実施例10の顔料は、比較例6の顔料と比較して優れた透明性、着色力および光沢を示した。以上より実施例10の製造方法の方が、比較例6の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0090】

【0091】
[実施例11]
2−メトキシ−4−ニトロアニリン163部と4−メチル−2−ニトロアニリン4.6部との混合物をその2.5倍モルの塩酸と等モルの亜硝酸ナトリウムを使用して常法によりジアゾ化し0.125モル/リットルのジアゾ液8リットル(液温10℃)を調製した。一方、アセトアセト−o−アニシジド209.3部を水酸化ナトリウム50部を含む水溶液に溶解し、次いで酢酸水溶液を添加して下漬成分を析出させ、pH4.2、0.0253モル/リットルの下漬液40リットル(液温20℃)を調製した。以下実施例4と同様にしてモノアゾ顔料(PY74)を乾燥状態で得た。
【0092】
[比較例7]
ジアゾ液は実施例11と同様に調製した。一方、アセトアセト−o−アニシジド218部を水酸化ナトリウム50部を含む水溶液に溶解し、次いで酢酸を添加して下漬成分を析出させ、pH4.2、0.0525モル/リットルの下漬液20リットル(液温20℃)を調製した。この下漬液を撹拌装置を備えたバッチ式単一反応槽に仕込み、撹拌しながらジアゾ液を2時間かけて注入し、モノアゾ顔料(PY74)を生成した。ジアゾ成分に対する下漬成分の過剰分は5モル%である。この生成した顔料の水性懸濁液を90℃まで加熱した後、顔料を濾過により集めてから、水洗および乾燥してモノアゾ顔料(PY74)を乾燥状態で得た。
【0093】
[試験例11]
実施例11および比較例7で得られたPY74の乾燥顔料を用いて前記試験例4と同様にしてカラートナー適性試験を行なって下記表11の評価結果を得た。評価方法は前記試験例4と同じである。実施例11の顔料は、比較例7の顔料と比較して優れた透明性、着色力および分散性を示した。以上より実施例11の製造方法の方が、比較例7の製造方法よりも、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料が得られることが明らかである。
【0094】

【0095】
[第四の実施形態]
[実施例12]
実施例1で製造したジアゾ液8リットル(液温5℃)と、実施例5で調製した緩衝液20リットル(液温20℃)と実施例9で製造した下漬液8リットル(液温20℃)とを用意した。以下実施例5と同様にして顔料分24.5%のジスアゾ顔料(PY12)のウェットケーキを得た。
【0096】
[試験例12]
実施例12および前記比較例5により得られたPY12のウェットケーキのオフセットインキ適性試験を試験例1と同様に実施した。以上の評価の結果を表12に示す。実施例12の本発明の顔料は、比較例5の顔料と比較して優れた透明性、着色力、光沢を示した。以上より実施例12の製造方法の方が、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料であることは明らかである。
【0097】

【0098】
[実施例13]
実施例12で使用したジアゾ液8リットル(液温5℃)と緩衝液20リットル(液温20℃)を用意した。一方、アセトアセト−o−トルイジド367部と4−アセトアセチルアミノベンゼンスルホン酸26部とを水酸化ナトリウム120部を含む水溶液に溶解し、0.253モル/リットルの下漬液8リットル(液温20℃)を調製した。以下、実施例12と同様にしてジスアゾ顔料(PY14)を製造した。得られたウェットケーキ顔料を乾燥してジスアゾ顔料(PY14)を乾燥状態で得た。
【0099】
[試験例13]
実施例13および前記比較例6により得られたPY14の乾燥顔料のグラビアインキ適性試験を試験例2と同様にして実施した。以上の評価の結果を表13に示す。実施例13の本発明の顔料は、比較例6の顔料と比較して優れた透明性、着色力、光沢を示した。以上より実施例13の製造方法の方が、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料であることは明らかである。
【0100】

【0101】
[実施例14]
2−メトキシ−4−ニトロアニリン163部と4−メチル−2−ニトロアニリン4.6部との混合物をその2.5倍モルの塩酸と等モルの亜硝酸ナトリウムを使用して常法によりジアゾ化し、0.125モル/リットルのジアゾ液8リットル(液温10℃)を調製した。一方、アセトアセト−o−アニシジド209.3部を水酸化ナトリウム50部を含む水溶液に溶解し、次いで酢酸を添加して下漬成分を析出させ、pH4.2、0.0505モル/リットルの下漬液20リットル(液温20℃)を調製した。以下実施例8と同様にしてモノアゾ顔料(PY74)を乾燥状態で得た。
【0102】
[試験例14]
実施例14および前記比較例7により得られたPY74の乾燥顔料のカラートナー適性試験を試験例4と同様にして実施した。以上の評価の結果を表14に示す。実施例14の本発明の顔料は、比較例7の顔料と比較して優れた透明性、着色力、分散性を示した。以上より実施例14の製造方法の方が、粒子が細かく均一で分散性が良好な顔料であることは明らかである。
【0103】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明による方法および装置は、一般的で工業的にも多用されているエジェクターを応用することで、分散性、透明性、鮮明性、着色力および光沢に優れた不溶性アゾ顔料を製造可能で、しかも従来よりもカップリング反応時間を大幅に短縮できると同時に、大量生産にも容易に対応でき、かつ経済的で生産性も良好である。これらの不溶性アゾ顔料は、オフセットインキ、グラビアインキ、塗料、プラスチック用着色剤、捺染用顔料、カラートナー、インクジェット印刷インキなどとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】第一または第三の実施形態における不溶性アゾ顔料の製造装置の工程図であり、第一流体と第二流体のみを使用した場合の工程図である。
【図2】第一または第三の実施形態における不溶性アゾ顔料の製造装置の工程図であり、第一流体、第二流体および第三流体を使用した場合の工程図である。
【図3】第二または第四の実施形態における不溶性アゾ顔料の製造装置の工程図であり、第一流体と第二流体のみを使用した場合の工程図である。
【図4】第二または第四の実施形態における不溶性アゾ顔料の製造装置の工程図であり、第一流体、第二流体および第三流体を使用した場合の工程図である。
【符号の説明】
【0106】
(1)エジェクター
(2)貯槽
(3)貯槽
(4)貯槽
(5)加熱処理槽
(a)流路
(a’)流路
(a'')流路
(b)流路
(c)流路
(d)送液ポンプ
(e)流量制御手段
(f)流量制御手段
(g)温度制御手段
(I)第一流体
(II)第二流体
(III)第三流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアゾ液と下漬液とを、エジェクターに連続的に注入してエジェクター内で、上記ジアゾ液と下漬液とを混合し、カップリング反応させることを特徴とする不溶性アゾ顔料の製造方法。
【請求項2】
ジアゾ成分と下漬成分とをカップリング反応させた後、得られた不溶性アゾ顔料懸濁液とジアゾ液および下漬液のいずれか一方の溶液との混合液と、他方の溶液を上記エジェクターに連続的に注入し、カップリング反応が終了するまで上記混合液をエジェクターを通して繰り返し循環させる請求項1に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
【請求項3】
ジアゾ液が、第1のジアゾ成分と、これとは異なる第2のジアゾ成分を、第1のジアゾ成分の0.1〜50モル%の量で含む請求項1または2に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
【請求項4】
下漬液が、第1の下漬成分と、これとは異なる第2の下漬成分を、第1の下漬成分の0.1〜50モル%の量で含む請求項1または2に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
【請求項5】
さらに緩衝液をエジェクターに連続的に注入する請求項1に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
【請求項6】
カップリング反応後の不溶性アゾ顔料の懸濁液を、50℃以上で加熱処理する請求項1に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
【請求項7】
不溶性アゾ顔料が、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、β−ナフトール顔料、ナフトールAS顔料またはベンツイミダゾロン顔料である請求項1に記載の不溶性アゾ顔料の製造方法。
【請求項8】
下記(1)〜(4)の各装置を備えていることを特徴とする、ジアゾ液および下漬液からの不溶性アゾ顔料の製造装置。
(1)ジアゾ液および下漬液から選ばれる第一流体の第1の貯槽(2)、第一流体をエジェクター(1)のノズルヘ送液する第1の流路(a)および第一流体を第1の流路を通して送液するためのポンプ(d)
(2)ノズル、吸引室、ディフューザーおよび温度制御手段(g)を備えたエジェクター(1)
(3)第一流体以外の第二流体の第2の貯槽(3)、第二流体をエジェクター(1)の吸引室ヘ導く第2の流路(b)および前記第2の流路(b)を通る前記第二流体の流量を調整する第1の流量制御手段(e)
(4)第一流体と第二流体との反応によって生じた不溶性アゾ顔料懸濁液を加熱処理するための加熱処理槽(5)、および前記不溶性アゾ顔料懸濁液をエジェクターのディフューザーから加熱処理槽へ導くための第3の流路(a’)。
【請求項9】
さらに緩衝液を使用し、第一流体と第二流体以外の第三流体としての前記緩衝液用の第3の貯槽(4)、第三流体をエジェクター(1)の吸引室ヘ導く第5の流路(c)および前記第5の流路(c)を通る前記第三流体の流量を調整する第2の流量制御手段(f)を有する請求項8に記載の不溶性アゾ顔料の製造装置。
【請求項10】
さらに第3の流路(a’)と第1の貯槽(2)とを連結する第4の流路(a'')を有する請求項8に記載の不溶性アゾ顔料の製造装置。
【請求項11】
さらに緩衝液を使用し、第一流体と第二流体以外の第三流体として前記緩衝液用の第3の貯槽(4)、第三流体をエジェクター(1)の吸引室ヘ導く第5の流路(c)および前記第5の流路(c)を通る第三流体の流量を調整する第2の流量制御手段(f)を有する請求項10に記載の不溶性アゾ顔料の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−161025(P2006−161025A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237328(P2005−237328)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)