説明

不溶性陽極を用いた硫酸銅めっき方法とそのための装置

【課題】不溶性陽極を用いた硫酸銅めっき方法と装置において、従来に比し格段に優れた品質のめっき皮膜を低コストで提供すること。
【解決手段】そのために、不溶性陽極を用いた硫酸銅めっき工程中、めっき槽で消耗、不足する銅イオンを供給するための補給槽を別途設けて、めっき槽と補給槽とを連通・連結して構成する。そして補給槽には陽極として金属銅を使用し、対極としての陰極との間にカチオン交換膜を設けて、前記金属銅を電解溶解することによって、めっき液の濃度バランスを良好に維持しながら、前記不足分の銅イオンを補給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷用ロール、プリント配線基盤、装飾用銅めっき、半導体等の被めっき物に対して、硫酸銅めっき液から銅めっきを施すための、不溶性陽極を用いた硫酸銅めっき方法とそのための装置に関する。特に、めっき工程中に消耗、不足する銅イオンを連続的に補給するための補給槽をめっき槽とは別途設けることを特徴とする、不溶性陽極タイプのめっき方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銅からなる可溶性陽極を用いた従来の硫酸銅めっき方法は従来、広範に利用されているが、めっき品質に欠陥を生じやすいこと、めっき液濃度の変動のため液管理が困難なこと、めっき液中の銅濃度増加による過剰廃液処理の必要など様々な問題点がある。
【0003】
本特許出願人はそのような可溶性陽極に伴う問題点を克服するため、不溶性陽極を使用した硫酸銅めっき方法を始めて開発した(特許文献1)が、その後この方法にも問題がないとはいえないことが明らかになった。すなわち銅イオン補給のため酸化銅(II)を溶解させるが、この銅化合物は溶解度良好であるがコスト高であり、補給時飛散しやすくめっき槽環境を汚染するという問題がある。酸化銅(II)の外にも、例えば炭酸銅、亜酸化銅(I)などの銅化合物を溶解する方法が知られているが、それら銅化合物は総じてコスト高、溶解度、取り扱いの困難さ、含有不純物のめっき皮膜への悪影響の可能性、めっき装置の複雑化などの様々な問題点、制約があった。
【0004】
また銅イオン補給のために、めっき槽とは別個に銅イオン溶解槽(補給槽)を設け両者を連結して循環させるようにした補給方法が知られている(特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−131796号公報(特許第3455705号)
【特許文献2】特開2005−29876号公報
【特許文献3】特開平10−121297号公報
【0006】
特許文献2は金属銅をめっき液に浸漬して空気攪拌を行いめっき液中の遊離硫酸と溶存酸素との相乗作用によって金属銅を溶解して銅イオンを生成して補給する方法である。
特許文献3はめっき槽と、金属銅陽極の陽極室および硫酸溶液を含む陰極室がアニオン交換膜で区分されてなる銅イオン補給槽と、前記陽極室の硫酸イオン濃度の上昇を抑えるための硫酸イオン回収槽を備えた装置を使用して硫酸銅めっきを施す方法であり、このように余分の複雑な装置を要する。そのうえ、アニオン交換膜の使用を特徴とするので、硫酸基が陽極側に移動して過剰となり液バランスが崩れて液管理が困難となり、不溶性陽極から発生する酸素ガスが溶けて光沢剤を分解させるなどの問題点を生ずると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は本出願人による上記不溶性陽極を用いた硫酸銅めっき方法において、上記1価の酸化銅の孕む問題点、すなわちコスト高および取り扱いにくさなどを解決することにある。その結果として従来のこの種めっき方法に比し、格段に優れためっき皮膜(ピット、ざらつきがなく、美麗な光沢を有する)をより低コストで、簡便な装置の追加によって容易に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明は、不溶性陽極を用いた硫酸銅めっき方法であって、めっき工程中、消耗、不足する銅イオンを連続的に補充するため、金属銅イオンを供給する補給槽を別途設けて、前記補給槽には金属銅からなる陽極を使用し、対極としての陰極との間に少なくとも1枚のカチオン交換膜を設けることによって前記金属銅を電解溶解させることにある。
【0009】
また、前記方法を実施するための装置は、不溶性陽極と被めっき物陰極とを有し、硫酸銅溶液を収容するめっき槽と、銅系陽極と陰極とを有する銅イオン補給槽と、両槽を連通・連結する液移送循環手段とから構成されていて、前記補給槽の陽極は金属銅から構成されるとともに、前記陽極と陰極との間には少なくとも1枚のカチオン交換膜が隔壁として設けられていて、前記陽極の金属銅と陰極との間での電圧の印加により、金属銅の電解溶融が行われて銅イオンを供給、補給するようになっていることを特徴とする。
【0010】
さらに、不溶性陽極を用いた前記硫酸銅めっき装置において、前記めっき槽と前記補給槽は各直流電源(整流器)を介して陽極と陰極とが連結されていてもよく或いは共通の単一の直流電源(整流器)を介して連結されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上述の特徴を有する本発明によれば、めっき槽と別途銅イオン補給槽を設け、同補給槽の陽極として金属銅陽極を使用し、対極としての陰極との間にカチオン交換膜を隔壁として設けて、金属銅を電解溶解させるよう構成することによって、めっき液の濃度バランスが良好に維持されるので、その管理が容易となり、光沢剤の分解を起こすことなくめっき処理を行うことができ、結果として、格段に優れためっき皮膜を得ることが可能となる。
前記補給槽陽極としての金属銅の使用は本発明において重要な第1の要件である。金属銅の形状は概して一枚の板状体又は塊状集合体である。
第2の重要な要件はカチオン交換膜の使用である。カチオン交換膜以外の隔膜では、本発明の前記目的を達成することができないのみならず、補給槽の外にめっき液管理のための余分の装置が必要となり、複雑化するので、使用できない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の硫酸銅めっき方法を実施するための装置の1例を示す概略図である。
【図2】同装置の別の例を示す部分概略図である。
【図3】同装置のさらに他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の硫酸銅めっき方法と装置の概要について説明する。
本発明の硫酸銅めっき装置は、図1に示すように、硫酸銅めっき槽1と、銅イオン補給槽2と、両槽を連通・連結する、液移送循環手段3とから構成されている。
【0014】
めっき槽1は不溶性陽極11Aを内蔵する陽極室11と被めっき物としての陰極12Bとからなっていて、陽極室11は陰極12Bと対向する側にカチオン交換膜または中性膜13が取着されて、それによって陰極12Bと隔離されている。そして硫酸銅めっき液14がめっき槽を満たしている。
【0015】
本発明の要部をなす銅イオン補給槽2は、銅陽極21Aと陰極22Bを内蔵する陰極室22とから構成されており、陰極室22の、陽極21Aと対向する側に少なくとも1枚のカチオン交換膜23が取着されて、陽極21Aから隔離されていて、硫酸液24が補給槽を満たしている。そして、前記陽極21Aと陰極22Bとの間で電圧の印加によって電解が行われて、陽極の金属銅が電解溶解されるようになっている。前記銅陽極21Aは図1に図示されるように、例えばチタン籠のような陽極ケース21に収納された状態であってもよく、或いは一枚の板状体(21と21Aの一体化状態)であってもよい。
【0016】
めっき槽1と銅イオン補給槽2とは例えばフィルター付きポンプ31、32などの液移送循環手段3によって連通・連結されていて、めっき液14と電解溶解された銅イオン溶液(14と同成分)とが循環するようになっており、めっき工程中めっき槽で消耗により不足する銅イオンがポンプ31、32を介して補給槽からめっき槽に補給されると同時に、めっき槽からは濃度の薄くなっためっき液が補給槽に移送されて、液循環によって両槽の硫酸銅濃度の平衡が保たれることになる。
【0017】
図2は図1の銅イオン補給槽2の別の実施態様であって、カチオン交換膜23が複数枚(図では2枚)並列に設けられた例である。複数枚のカチオン交換膜23は陰極22Bを陽極21Aから隔離するように区画しており、銅イオンの陰極への移行によるロスがより確実に防止されるので、めっき槽への補給分を実質的に完全に利用することができる。
【0018】
本発明の硫酸銅めっき処理のめっき槽1において使用される不溶性陽極11Aは、アノードバッグの形態であり、自体公知の電極を使用することができるが、例えば酸化イリジウム被覆したチタン電極、白金被覆したチタン電極、フェライト電極等が挙げられる。隔壁13としては、カチオン交換膜または中性膜を使用できる。
対極としての陰極12Bは被めっき物であり、例えばプリント配線盤(スルーホール)、グラビア印刷用シリンダー、銅電解箔等が適用可能である。
【0019】
他方、補給槽2において、使用される陽極21Aは例えば含りん銅電極であって、板状、球状、円柱状体を呈している。陰極22Bは板状のチタンまたは銅電極、ステンレス板からなっている。そして陰極と陽極との間の通電によって銅陽極の電解溶解が起こり、銅イオンが生成される。陽極22B側壁に取着されるカチオン交換膜23は、電解溶解で生ずるカチオン、すなわち少量の2価銅イオンの外に水素イオンを陰極側に透過する働きをする。この水素イオンが水素ガスとして発生すると、めっき皮膜を損なう恐れがあるので、水素ガスの発生を防止するのが望ましい。そのためには水素イオン捕捉剤を陰極室22側に添加するのが好ましい。溶解により生成した銅イオンはめっき槽1においてめっき工程で不足する分が連続的に補充される。
【0020】
めっき槽1と補給槽2とを連結する液移送循環手段3として、例えばフィルター付きポンプ31、32が挙げられるが、このポンプによって、めっき液と銅イオン液が循環移送されて、両槽の濃度バランスを維持することができる。従って光沢剤の分解が防止されるので、優れた光沢のめっき皮膜を得ることが可能となる。
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【実施例1】
【0021】
図1の装置を用いて、硫酸銅めっきを表1のめっき浴組成を用いて下記条件下で行った。
【0022】
【表1】

めっき物(陰極) 電流密度 :5A/dm
表面積 :0.5dm
めっき時間:8時間
めっき後、めっき液組成の変化を測定したところ、次のような結果が得られた。
【0023】
めっき前 めっき後
硫酸銅 めっき槽 210g/l 208g/l
溶解槽 210g/l 211g/l
硫酸 めっき槽 60g/l 61g/l
溶解槽 60g/l 58g/l
以上から明らかなように、めっき液の組成には殆ど変化が見られなかった。従ってめっき工程中、銅イオンの消耗に対してもスムーズな補給が行われて良好なめっき処理が行われたことが分る。
【実施例2】
【0024】
図2の装置を用いて、表2のめっき浴組成により下記条件下で銅めっきを行った。
【0025】
【表2】

めっき物(陰極) 電流密度 :2A/dm
表面積 :0.5dm
めっき時間:10時間
めっき後、めっき液組成の変化を測定したところ、次のような結果が得られた。
【0026】
めっき前 めっき後
硫酸銅 めっき槽 90g/l 90g/l
溶解槽 90g/l 92g/l
硫酸 めっき槽 200g/l 200g/l
溶解槽 200g/l 199g/l
実施例1と同様、めっき液組成には殆ど変化がなかった。これは、銅イオンの補給が良好に行われてスムーズなめっき処理が行われたことを示している。
【実施例3】
【0027】
図3の装置(1台の整流器15Cを使用)を用いて、実施例1のめっき液組成により、実施例1と同じめっき条件でめっき処理を行った。
めっき後、めっき液の組成変化を調べたところ次の結果が得られた。
めっき前 めっき後
硫酸銅 めっき槽 210g/l 209g/l
溶解槽 210g/l 211g/l
硫酸 めっき槽 60g/l 60g/l
溶解槽 60g/l 59g/l
以上の通り、めっき液の組成変化はほぼなかった。整流器15Cの電圧は、個別の整流器(15A、15B)を用いた実施例1、2の場合と比べて約1V上昇したが、電力は少なくてすんだ。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の不溶性陽極を使用した硫酸銅めっき方法とそのための装置によれば、めっき槽とは別に銅イオン補給槽を設け、その補給槽には銅陽極を使用し陰極壁にカチオン交換膜を設ける改良を施すことによって、銅イオンを電解溶解によって定量的、連続的に補充することができるので、高コストの酸化銅を溶解させて補充する従来方法に比し、経済的かつ格段に優れためっき皮膜、すなわちざらつき、ピットなどの欠陥の全くない極めて美麗な皮膜を得ることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 めっき槽
11A 不溶性陽極
12B 被めっき物
14 硫酸銅めっき液
2 銅イオン補給槽
21A 銅陽極
22 陰極室
22B 陰極板
23 カチオン交換膜
24 硫酸溶液
3 液移送循環手段
4A、4B、4C 整流器(直流電源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性陽極を用いた硫酸銅めっき方法であって、
めっき工程中めっき槽で消耗、不足する銅イオンを連続的に供給するための銅イオン補給槽を別途設け、その場合めっき槽と補給槽との間で液移送循環が行われるように両槽を連通・連結させるように構成するとともに、
前記補給槽には、陽極として金属銅を使用し、前記陽極と陰極との間に少なくとも1枚のカチオン交換膜を隔膜として介在させて、前記金属銅を電解溶解させることにより、めっき液の濃度バランスを維持しながら、前記不足分の銅イオンを連続的に供給、補給することを特徴とする硫酸銅めっき方法。
【請求項2】
請求項1の硫酸銅めっき方法を実施するための装置であって、不溶性陽極と被めっき物陰極とから構成され、硫酸銅溶液を収容するめっき槽と;陽極と陰極とからなる銅イオン補給槽と;両槽を連通状態に連結する液移送循環手段とからなる装置において、前記補給槽の陽極は金属銅から構成されており;前記陽極と陰極との間には少なくとも1枚のカチオン交換膜が隔壁として設けられており;前記陽極と陰極とはその間での電圧の印加により前記金属銅の電解溶解が行われて不足分の銅イオンを連続的に供給、補給するようになっていることを特徴とする硫酸銅めっき装置。
【請求項3】
請求項1の硫酸銅めっき方法を実施するための装置であって、不溶性陽極と被めっき物陰極とから構成され、硫酸銅溶液を収容するめっき槽と;陽極と陰極とからなる銅イオン補給槽と;両槽を連通状態に連結する液移送循環手段とからなる装置において、前記補給槽の陽極は金属銅から構成され、前記陽極と陰極との間には少なくとも1枚のカチオン交換膜が隔壁として設けられており、前記陽極と陰極とはその間での電圧の印加により前記金属銅の電解溶解が行われて不足分の銅イオンを供給、補給するようになっていること、および前記めっき槽と前記補給槽とを連結して通電可能な、単一直流電源が設けられていることを特徴とする硫酸銅めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−237050(P2012−237050A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118482(P2011−118482)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(399120419)有限会社 ウイング (2)