説明

不燃木材の製造方法

【課題】 木材に含浸させる難燃薬剤量が少なくても、建築基準法でいう不燃木材の基準を満たすことを可能にし、非加圧式である開槽式防腐処理方法を用いて製造できるようにして、製造を容易にして製造効率の向上を図る。
【解決手段】 木材を温浴中で煮沸する温浴処理工程(1)と、この木材を少なくとも燐酸を含む難燃薬剤溶液中に浸漬して木材に難燃薬剤を含浸する冷浴処理工程(2)と、難燃薬剤が含浸された木材を乾燥する中間乾燥工程(3)と、木材の表面を研削する研削工程(4)と、この木材にアルコキシ金属塩系塗料を塗布する塗装工程(5)と、塗装された木材を乾燥する最終乾燥工程(6)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃薬剤を含浸させた不燃木材の製造方法に係り、特に、建築基準法第2条第9号に示す発熱性試験で不燃材料としての規格を満足することが可能な不燃木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、木材は、軽さ,木目の外観,加工性の良さ等の観点から家屋等の建築用材として多く利用されているが、最大の難点は燃えやすいことであり、そのため木材を建築基準法でいう不燃材料(不燃木材)とする技術が種々開発されている。建築基準法第2条第9号に示されている不燃材料の条件は、不燃性試験(発熱速度試験ISO5660−1)の基準をクリアすることが必要となっている。ISO5660−1の燃焼試験は、材料が燃焼する際、酸素1kg消費あたりの熱量(cal)は材料の種類に拠らず、3.12×106cal(13.1MJ)であるという酸素消費法に基づいて、燃焼試験時の単位面積あたりの総発熱量を計測するものである。
この基準によれば、不燃木材の基準をクリアするためには、加熱時間20分、輻射強度50kW/m2 の試験条件で、主に、
(1)総発熱量が8MJ/m2 以下であること。
(2)防火上有害な裏面まで貫通する亀裂および穴がないこと。
(3)最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2 を超えないこと。
が挙げられている。更に、これら燃焼発熱性の基準の他に、ガス有毒性に関し、ガス有害性試験でマウスの平均行動停止時間が6.8分以上であるとする基準も満足する必要がある。
【0003】
従来、この基準を満たす不燃木材の製造方法としては、例えば、特開2003−211412号公報(特許文献1)に掲載された技術が知られている。
これは、図7に示すように、木材を乾燥させる第1乾燥工程と、第1乾燥工程により乾燥させた後、減圧された容器内で木材を減圧する第1減圧工程と、第1減圧工程により減圧させた後、減圧された容器内で木材を難燃薬剤に浸して木材組織に難燃薬剤を含浸させる第1減圧含浸工程と、第1減圧含浸工程により含浸させた後、容器内で木材を難燃薬剤に浸した状態で加圧して木材組織に難燃薬剤を更に含浸させる第1加圧含浸工程と、第1加圧含浸工程により含浸させた後、難燃薬剤が含浸された木材を乾燥する第2乾燥工程と、第2乾燥工程により乾燥させた後、減圧された容器内で木材を減圧する第2減圧工程と、第2減圧工程により減圧させた後、減圧された容器内で木材を難燃薬剤に浸して再度木材組織に難燃薬剤を含浸させる第2減圧含浸工程と、第2減圧含浸工程により含浸させた後、容器内で木材を難燃薬剤に浸した状態で加圧して再度木材組織に難燃薬剤を更に含浸させる第2加圧含浸工程と、第2加圧含浸工程により含浸させた後、難燃薬剤が含浸された木材を乾燥する第3乾燥工程とよりなる。
即ち、この従来の方法は、加圧式防腐処理工程(JIS A9002−1980)と乾燥工程を複数回繰り返すことで、木材中に難燃薬剤を240kg/m3 以上含浸させ、木材を不燃化する方法である。このことによって、上記建築基準が示す不燃木材の性能を満たす木材の製造を可能としている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−211412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の不燃木材の製造方法にあっては、加圧式防腐処理方法は加圧減圧型薬剤注入装置を必要とするため、圧力容器を取り扱う専門の工員を配置する必要があり、かつ操作も複雑であるため、製造が煩雑であり、誰でも簡易に不燃木材を製造することができないという問題があった。
これを解消するために、所謂非加圧式防腐処理方法としての開槽式防腐処理方法(JIS A9003−1980)を用いることが考えられる。この開槽式防腐処理方法は、木材を温浴中で煮沸し、その後、煮沸した木材を難燃薬剤溶液中に浸漬して木材に難燃薬剤を含浸する方法である。
然しながら、この開槽式防腐処理方法であると、容易に難燃薬剤を含浸させることはできるが、不燃木材としての上記の基準(性能)を満たすために必要な難燃薬剤量(例えば240kg/m3 以上)を木材中に含浸させることが困難であるという問題点があり、このため、いまだ非加圧式防腐処理方法では、建築基準法でいう不燃木材の基準を満たす不燃木材は提供されていないのが実情である。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、木材に含浸させる難燃薬剤量が少なくても、建築基準法でいう不燃木材の基準を満たすことを可能にし、非加圧式である開槽式防腐処理方法を用いて製造できるようにして、製造を容易にして製造効率の向上を図った不燃木材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等はこのような課題に対して、鋭意研究を重ねた結果、薬剤処理後の木材の表面に木質感を損なわせない程度にアルコキシ金属塩系塗料を塗布するだけで、加熱20分間の総発熱量が減少することを見出し、この知見に基づいて、不燃木材としての性能を満たすために必要な薬剤量を求めた結果、木材に含浸させる難燃薬剤量が少なくても、所定の基準を満たすようにできることが明らかとなり、本発明を完成させたものである。
【0008】
即ち、上記の課題を解決するため本発明の不燃木材の製造方法は、木材に難燃薬剤を含浸し、その後、該木材表面にアルコキシ金属塩系塗料を塗布する構成としている。
これにより、アルコキシ金属塩系塗料を塗布すると、アルコキシ金属塩系塗料は、アルコール性の加水分解・縮重合型の塗料であり、木材表面に疎水性・遮蔽性のガラス質膜を形成する。そのため、このアルコキシ金属塩系塗料と先に含浸させた難燃薬剤との相乗効果により、不燃木材の不燃性の性質が向上させられ、木材に含浸させる難燃薬剤量が少なくても、建築基準法でいう不燃木材の基準を満たすことが可能になる。そして、木材に含浸させる難燃薬剤量が少なくてもよくなることから、非加圧式である開槽式防腐処理方法を用いて製造できるようになり、製造が容易で製造効率が向上させられる。
【0009】
そして、上記難燃薬剤として、少なくとも燐酸を含む難燃薬剤を用いることが有効である。これにより、より一層、アルコキシ金属塩系塗料と先に含浸させた難燃薬剤との相乗効果を拡大させることができ、不燃性の性質をより一層向上させることができる。
実験(後述)によれば、建築基準法が示す発熱速度試験(ISO5660−1)において、難燃薬剤を含浸させないでアルコキシ金属塩系塗料のみを塗布した木材は、アルコキシ金属塩系塗料を塗布しない木材と比較しても、防火性能は向上しない。一方、燐酸を含む難燃薬剤を含浸させた木材にアルコキシ金属塩系塗料を塗布した木材は、アルコキシ金属塩系塗料を塗布しないで燐酸を含む難燃薬剤のみを含浸させた木材と比較すると、防火性能が著しく向上した。また、燐酸を含まない難燃薬剤としてホウ素を含む難燃薬剤があるが、ホウ素系難燃剤は水に対する溶解度が低く、木材中に含浸させることが難しいため、加圧式防腐処理方法以外では充分な防火性能を得られない。即ち、アルコキシ金属塩系塗料と少なくとも燐酸を含む難燃薬剤との組み合わせにより、開槽式防腐処理方法で防火性能の相乗効果をより一層発揮させることができるのである。
【0010】
その原理として、先ず、木材は加熱されると熱分解し、炭、タール、ガスになる。このうちタールはさらに分解し、一定の速度で可燃性ガスを放出する。この可燃性ガスが空気と混合して、可燃濃度になった時に木材は発炎する。一旦発炎するとこの燃焼熱が外部からの熱に加わるので、燃焼が促進される。
燐酸系防火薬剤は可燃性ガスを発生する化学的過程を変性させることによって、木材の防火効果を得る作用がある。すなわち、熱分解量の減少作用と熱分解速度を小さくする作用がある。つまり熱分解量が減少することによって、可燃性ガスの発生量が少なくなる。また、熱分解速度が小さくなることによって、可燃性混合気体が形成されにくくなる。
アルコキシ金属塩系塗料は、燐酸系防火薬剤を含浸させた木材に塗布することで、上記燐酸系防火薬剤の防火性能を補助し、総発熱量を減少させる働きがあると推測される。
すなわち、加熱初期の段階で、アルコキシ金属塩系塗料の塗膜が熱を遮蔽し、防火薬剤の温度上昇速度を小さくする効果があり、このことによって、可燃性ガスの発生を遅延させる。さらに、アルコキシ金属塩系塗料による塗膜は、可燃性ガスを材内に封じ込める効果があると推測される。
【0011】
そしてまた、上記アルコキシ金属塩系塗料として、無機物から構成される塗料,無機物に樹脂を含む塗料の少なくともいずれか一方を用いる構成としている。これにより、より一層、塗料の熱遮蔽性と塗膜持続性を向上させることによって、先に含浸させた難燃薬剤との相乗効果を拡大させることができ、不燃性の性質をより一層向上させることができる。
【0012】
そして、必要に応じ、木材を温浴中で煮沸する温浴処理工程と、該温浴処理工程で煮沸した木材を難燃薬剤溶液中に浸漬して該木材に難燃薬剤を含浸する冷浴処理工程と、該冷浴処理工程で難燃薬剤が含浸された木材を乾燥する中間乾燥工程と、該中間乾燥工程で乾燥された木材にアルコキシ金属塩系塗料を塗布する塗装工程と、該塗装工程で塗装された木材を乾燥する最終乾燥工程とを備えた構成としている。
温浴処理工程と冷浴処理工程とからなる非加圧式防腐処理方法を用いるので、含浸作業が簡易になり、それだけ不燃木材の製造が容易で、製造効率の向上が図られる。また、塗布工程では、アルコキシ金属塩系塗料は、刷毛、ローラーでの塗装が可能であり、水で希釈、洗浄等できることから、この点でも不燃木材の製造が容易であり、また塗装設備にかかる経費も少なく、より一層製造効率の向上が図られる。
更に、中間乾燥工程を設けているので、含水率を低減させることができ、塗装工程においてアルコキシ金属塩系塗料による塗膜の形成を均一にすることができることから、より一層、アルコキシ金属塩系塗料と先に含浸させた難燃薬剤との相乗効果を拡大させることができる。
【0013】
また、必要に応じ、上記塗装工程前に、木材の表面を研削する研削工程を備えた構成としている。木材表面の品質を向上させることができ、アルコキシ金属塩系塗料の疎水性・遮蔽性のガラス質膜を木材表面に均一に形成することができる。そのため、板材などの建築材料として、そのまま製品として完成させることができるようになる。
【0014】
また、必要に応じ、上記冷浴処理工程において、難燃処理剤を木材中に固形量で150kg/m3 以上含浸する構成としている。塗装工程においてアルコキシ金属塩系塗料が浸透した際、アルコキシ金属塩系塗料と難燃薬剤との相乗効果を確実に発揮させることができる。150kg/m3 に満たないとアルコキシ金属塩系塗料の適正塗膜厚との関係で相乗効果を十分に発揮できない。
【0015】
更に、必要に応じ、上記中間乾燥工程において、木材を加熱乾燥して含水率を15%以下にする構成としている。含水率を確実に低減させ、塗装工程においてアルコキシ金属塩系塗料をより一層木材内部に浸透させることができる。
【0016】
更にまた、必要に応じ、上記塗装工程において、アルコキシ金属塩系塗料の塗膜厚さTを30μm≦T≦60μmとする構成としている。これにより、木材の木質感を損なわない程度に塗布することができる。アルコキシ金属塩系塗料の塗膜が薄ければ薬剤の噴出、不燃性能の低下、多ければ、不燃性能は向上するが塗膜が脆くなり、塗装欠陥が発生する原因となることから、塗膜厚さTを30μm≦T≦60μm、望ましくは、40μm≦T≦50μmとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の不燃木材の製造方法によれば、アルコキシ金属塩系塗料と先に含浸させた難燃薬剤との相乗効果により、不燃木材の不燃性の性質を向上させることができ、木材に含浸させる難燃薬剤量が少なくても、建築基準法でいう不燃木材の基準を満たすことを可能にすることができる。そして、木材に含浸させる難燃薬剤量が少なくてもよくなることから、非加圧式である開槽式防腐処理方法を用いて製造できるようになり、製造を容易にして、製造効率を大幅に向上させることができる。また、アルコキシ金属塩系塗料は、刷毛、ローラーでの塗装が可能であり、水で希釈、洗浄等できることから、この点でも不燃木材の製造が容易であり、また塗装設備にかかる経費も少なく、より一層製造効率を向上させることができる。また、アルコキシ金属塩系塗料は有害な揮発物質(ホルムアルデヒド等)を含まないことから、近年の建築基準法が定める使用制限(ノンホル)をクリアする内装材とすることができ、防火性能の向上との相乗効果で様々な部位への用途拡大が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係る不燃木材の製造方法について説明する。
本発明の実施の形態に係る不燃木材の製造方法の基本的構成は、木材に難燃薬剤を含浸し、その後、木材表面にアルコキシ金属塩系塗料を塗布する構成からなる。
木材としては、例えば、杉,檜,サワグルミ,シナ等の種々の木材に適用可能であり、難燃薬剤を含浸させることができるものである限りどのような木材であっても良い。
【0019】
また、難燃薬剤としては、通常使用されるものが適用可能であり、中でも珪酸,燐酸を含む難燃薬剤が好ましく、特に、少なくとも燐酸:H3PO4やポリ燐酸:(HPO3nを含む難燃薬剤を用いることが望ましい。難燃薬剤においては、必要に応じて適宜有機系溶脱防止剤等の添加剤を加えたものであって良い。例えば、カルバミルポリ燐酸アンモニウム:NH2C(O)・(NH4PO3)・CO・NH2 、燐酸グアニル尿素 :H2NC(O)NHC(NH)NH2・H3PO4、燐酸メラミン: H3PO4・(C33NH23、などが挙げられる。
【0020】
アルコキシ金属塩系塗料は、アルコール性の加水分解・縮重合型の塗料であり、水性金属系塗料とは対照的に、疎水性・遮蔽性のガラス質膜を形成する。ガラス質の塗膜は、撥水性で、耐汚染性及び耐薬品性に優れ、電気絶縁性,非粘着性を示す。
具体的には、アルコキシ金属塩系塗料としては、無機物から構成される塗料,無機物に樹脂を含む塗料の少なくともいずれか一方を用いる。無機物から構成される塗料としては、例えば、SiO2 ,Al2 3 ,TiO2 ,ZrO2 ,Fe3 4 等の酸化金属を主成分としている。無機物に樹脂を含む塗料としては、所謂アルコキシ金属塩・樹脂ハイブリッド系塗料といわれ、上記の酸化金属に加えて、例えば、アクリル樹脂,フッ素樹脂,ブチラール樹脂などの樹脂を主成分として含有している。
【0021】
本発明の実施の形態に係る不燃木材の製造方法について、更に詳しく説明すると、図1に示すように、以下の工程から構成される。木材としては、建築材の板材の場合で説明する。
(1)温浴処理工程
木材を煮沸槽に入れた状態で煮沸する。例えば、100℃の温浴中(熱湯で)3時間加熱処理を行なう。
【0022】
(2)冷浴処理工程
温浴処理工程で煮沸した木材を難燃薬剤溶液中に浸漬して、木材に難燃薬剤を含浸する。難燃処理剤を木材中に固形量で150kg/m3 以上含浸することが望ましい。開槽式防腐処理方法(JIS A9003−1980)に準拠し、木材を容器に入れた難燃処理剤内に浸漬する。例えば、難燃薬剤溶液の濃度は、30%にし、容器中で48時間以上放置する。
【0023】
(3)中間乾燥工程
冷浴処理工程で難燃薬剤が含浸された木材を乾燥する。木材を加熱乾燥して含水率を15%以下にすることが望ましい。乾燥装置は、一般的な木材乾燥機を使用し、乾燥温度は50℃以下、乾燥時間は4日間以上とすることが望ましい。
【0024】
(4)研削工程
木材の表面を例えばフライス盤などで研削し、その後♯240〜400研磨紙による素地調整を行う。これにより木材表面の品質が向上させられる。
【0025】
(5)塗装工程
中間乾燥工程で乾燥され表面が研削された木材にアルコキシ金属塩系塗料を塗布する。アルコキシ金属塩系塗料の塗膜が薄ければ薬剤の噴出、不燃性能の低下、多ければ、不燃性能は向上するが塗膜が脆くなり、塗装欠陥が発生する原因となることから、塗膜厚さTを30μm≦T≦60μm、望ましくは、40μm≦T≦50μmとする。
【0026】
(6)最終乾燥工程
塗装工程で塗装された木材を乾燥する。これにより不燃木材が完成する。常温でも乾燥可能である。乾燥装置は熱風乾燥炉、遠・中・近赤外線乾燥装置が利用できる。熱風乾燥炉の場合では、40〜50℃、6〜8時間程度の強制乾燥をすることが望ましい。
【0027】
この実施の形態に係る不燃木材の製造方法によって製造された不燃木材によれば、アルコキシ金属塩系塗料と先に含浸させた難燃薬剤との相乗効果により、不燃木材の不燃性の性質が向上させられ、木材に含浸させる難燃薬剤量が少なくても、建築基準法でいう不燃木材の基準を満たすことができるようになる。
【実験例】
【0028】
次に、実験例を示す。
[実験例1]
試験材であるシナ材の縦×横×厚さ=240×120×20mmの板材を作成した。難燃薬剤としては、カルバミルポリ燐酸アンモニウムを用いた。加圧式防腐処理工程(JIS A9002−1980)と、開槽式防腐処理方法(JIS A9003−1980)とでそれぞれ試験材3枚ずつに含浸処理し、その薬剤含浸量を比較した。
【0029】
加圧式防腐処理工程(JIS A9002−1980)においては、濃度30%と50%の難燃薬剤溶液で満たした容器の中に試験材を入れ、その容器を真空加圧含浸装置で減圧処理(25torr、2時間)後、加圧処理(9.8kg/cm2 、24時間)した後、常温大気圧下にて24時間放置した。その後装置から取り出し、乾燥後、難燃薬剤含浸量を求めた。
【0030】
開槽式防腐処理方法(JIS A9003−1980)は、試験材を100℃の熱湯で3時間加熱処理を行い、その後濃度30%と50%の難燃薬剤溶液で満たした容器の中に試験材を入れ、48時間放置した。その後容器から取り出し、乾燥後、薬剤含浸量を求めた。
【0031】
試験結果を図2に示す。加圧式含浸方法による薬剤含浸量は濃度30%溶液で218kg/m3 、濃度50%溶液で386kg/m3 、開槽式含浸方法による薬剤含浸量は濃度30%溶液で157kg/m3 、濃度50%溶液で220kg/m3 となった。従って、開槽式含浸方法での薬剤含浸量は、加圧式に比べて濃度30%溶液で61kg/m3 、濃度50%溶液で166kg/m3 も少ないことが示された。
さらに実験(後述)によれば、建築基準法が示す発熱速度試験(ISO5660−1)において、含浸方法に拠らず薬剤含浸量200kg/m3 程度では不燃の性能は得られず、その一方でアルコキシ金属塩系塗料を塗布すると、150kg/m3 以上で不燃性能が得られることが示された。
【0032】
[実験例2]
試験材であるシナ材の縦×横×厚さ=100×100×15mmの板材を2枚作成した。そのうち一体には、アルコキシ金属塩系塗料を厚さ40μmで裏表塗布し、もう一体は塗装なしとして、不燃性試験(発熱速度試験ISO5660−1)を行った。
【0033】
試験結果を図3に示す。10分間の発熱量で比較すると、アルコキシ金属塩系塗料を塗布した場合でも、塗布しない場合でも変化は見られなかった。このことから、建築基準法が示す発熱速度試験(ISO5660−1)において、アルコキシ金属塩系塗料単体だけでは防火性能は向上しないことが示された。
【0034】
[実験例3]
シナ材の縦×横×厚さ=100×100×15mmの板材を4枚作成し、そのうち2枚に難燃薬剤であるカルバミルポリ燐酸アンモニウムを214kg/m3 含浸処理し、他の別の2枚に149kg/m3 含浸処理した。異なる薬剤量を含浸処理したそれぞれ2枚については塗装なしとし、他の別の2枚にアルコキシ金属塩系塗料を厚さ40μmで裏表塗布した。これらの試験材について、20分間の不燃性試験(発熱速度試験ISO5660−1)を行った。
【0035】
試験結果を図4に示す。20分間の発熱量で比較すると、アルコキシ金属塩系塗料を塗布した場合は、塗布しない場合に比べて発熱速度が抑制された。また、図4に示すようにアルコキシ金属塩系塗料を塗布すると薬剤含有量が200kg/m3 程度でも、建築基準法に示されている不燃材料の条件(20分間の総発熱量が8MJ/m2 以下であること)を満たすことが可能であることが示された。さらに、薬剤含有量149kg/m3 では、建築基準法に示されている不燃材料の条件(20分間の総発熱量が8MJ/m2 以下であること)を、僅かながら満たせない程度であったことから、薬剤含有量が150kg/m3以上であれば、不燃材料の条件を満たすことが可能であると考えられる。以上の結果から、図2に示すように、製造工程にアルコキシ金属塩系塗料の塗布を入れた場合は、開槽式含浸方法でも不燃木材の製造が可能であることが示された。
【0036】
即ち、図4は、難燃薬剤を含浸処理した木材にアルコキシ金属塩系塗料を塗布すると防火性能が向上することを示している。
更に、点線の横棒は建築基準法に示されている不燃材料の条件(20分間の総発熱量が8MJ/m2 以下であること)のラインを示しており、難燃薬剤を214kg/m3 含浸し、アルコキシ金属塩系塗料を塗布した含浸処理木材はラインより下に位置することから、不燃木材としての性能を有している。従って図2に示すように、開槽式含浸方法でも不燃木材が製造可能であることを示している。
【0037】
[実験例4]
難燃薬剤であるカルバミルポリ燐酸アンモニウムを240kg/m3 含浸処理したシナ材の縦×横×厚さ=100×100×15mmの板材を5枚作成した。そのうち一体にアルコキシ金属塩系のアルコキシ金属塩系塗料を厚さ40μmで裏表塗布し、一体に油性塗料を厚さ40μmで裏表塗布し、一体に自然系塗料を厚さ40μmで裏表塗布し、一体に水性系塗料を厚さ40μmで裏表塗布し、一体は塗装なしとして、10分間の不燃性試験(発熱速度試験ISO5660−1)を行なった。
【0038】
試験結果を図5に示す。10分間の総発熱量で比較した結果、アルコキシ金属塩系塗料以外の塗料では、総発熱量が無塗装に比べて高くなる傾向が見られた。このことから、難燃薬剤を含浸処理した木材の総発熱量を減少させる塗料はアルコキシ金属塩系塗料のみであることが示された。即ち、多種多様な塗料のうち、アルコキシ金属塩系塗料だけが、防火性能を向上させるといえる。
【0039】
[実験例5]
難燃薬剤であるカルバミルポリ燐酸アンモニウムを240kg/m3 含浸処理したシナ材の縦×横×厚さ=100×100×15mmの板材を4枚作成した。そのうち一体に酸化ケイ素から構成されるアルコキシ金属塩系塗料を厚さ40μmで裏表塗布し、一体に酸化ケイ素と酸化アルミニウム、銀で構成されるアルコキシ金属塩系塗料を厚さ40μmで裏表塗布し、一体に酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ブチラールから成るアルコキシ金属塩・樹脂ハイブリッド系塗料を厚さ40μmで裏表塗布し、一体は塗装なしとして、10分間の不燃性試験(発熱速度試験ISO5660−1)を行った。
【0040】
試験結果を図6に示す。10分間の総発熱量で比較した結果、いずれのアルコキシ金属塩系塗料も塗装無しと比べて総発熱量は減少した。このことから、酸化ケイ素を含むアルコキシ金属塩系塗料であれば、難燃薬剤を含浸処理した木材に塗布することで、含有成分に関わらず防火性能は向上することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係る不燃木材の製造方法を示す製造工程図である。
【図2】実験例に係り、木材の含浸方法別の薬剤平均含浸量を比較した結果を示す表図である。
【図3】実験例に係り、難燃薬剤を含浸処理しない木材にアルコキシ金属塩系塗料の塗布した場合の防火性能を比較した図である。
【図4】実験例に係り、難燃薬剤を含浸処理した木材にアルコキシ金属塩系塗料を塗布した場合の防火性能を比較した図である。
【図5】実験例に係り、難燃薬剤を含浸処理した木材の、塗料の種類別による防火性能を比較した図である。
【図6】実験例に係り、難燃薬剤を含浸処理した木材の、アルコキシ金属塩系塗料の種類別による防火性能を比較した図である。
【図7】従来の不燃木材の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【符号の説明】
【0042】
(1)温浴処理工程
(2)冷浴処理工程
(3)中間乾燥工程
(4)研削工程
(5)塗装工程
(6)最終乾燥工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材に難燃薬剤を含浸し、その後、該木材表面にアルコキシ金属塩系塗料を塗布することを特徴とする不燃木材の製造方法。
【請求項2】
上記難燃薬剤として、少なくとも燐酸を含む難燃薬剤を用いることを特徴とする請求項1記載の不燃木材の製造方法。
【請求項3】
上記アルコキシ金属塩系塗料として、無機物から構成される塗料,無機物に樹脂を含む塗料の少なくともいずれか一方を用いることを特徴とする請求項1または2記載の不燃木材の製造方法。
【請求項4】
木材を温浴中で煮沸する温浴処理工程と、該温浴処理工程で煮沸した木材を難燃薬剤溶液中に浸漬して該木材に難燃薬剤を含浸する冷浴処理工程と、該冷浴処理工程で難燃薬剤が含浸された木材を乾燥する中間乾燥工程と、該中間乾燥工程で乾燥された木材にアルコキシ金属塩系塗料を塗布する塗装工程と、該塗装工程で塗装された木材を乾燥する最終乾燥工程とを備えたことを特徴とする請求項1,2または3記載の不燃木材の製造方法。
【請求項5】
上記塗装工程前に、木材の表面を研削する研削工程を備えたことを特徴とする請求項4記載の不燃木材の製造方法。
【請求項6】
上記冷浴処理工程において、難燃処理剤を木材中に固形量で150kg/m3 以上含浸することを特徴とする請求項4または5記載の不燃木材の製造方法。
【請求項7】
上記中間乾燥工程において、木材を加熱乾燥して含水率を15%以下にすることを特徴とする請求項4,5または6記載の不燃木材の製造方法。
【請求項8】
上記塗装工程において、アルコキシ金属塩系塗料の塗膜厚さTを30μm≦T≦60μmとすることを特徴とする請求項4,5,6または7記載の不燃木材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−231652(P2006−231652A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48318(P2005−48318)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(390025793)岩手県 (38)
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【出願人】(503192527)
【Fターム(参考)】