説明

不織布

【課題】 耐熱性に優れ、引裂き強度が格段に向上した不織布を提供する。
【解決手段】 ポリエチレンナフタレート延伸短繊維およびポリエチレンナフタレート未延伸短繊維とからなり両短繊維が熱圧着されている不織布とし、該不織布で測定した未延伸短繊維のDSCのピーク温度が270℃以上である不織布とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布に関し、さらに詳しくは、ポリエチレンナフタレートからなる短繊維より構成された、引裂き強度及び耐熱性に優れた不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性を有する不織布の開発が種々の分野で要望されている。例えば保温材料、電気絶縁材料、フィルター、医療材料、建築材料等の分野において、不織布は広く利用されているが、これらの分野の一部において耐熱性が必要とされ、そのため耐熱性を有する不織布の開発の要求が高まっている。
【0003】
耐熱性不織布を得るための1つの方向は、その素材として耐熱性のポリマーを使用することである。耐熱性のポリマーの1つであるポリエチレンナフタレートを使用した不織布が既に提案されている。特許文献1には、ポリエチレンナフタレート繊維と潜在的接着性を有する重合体からの繊維とを混合したウェブを加熱接着した不織布が提案されている。この不織布は、接着成分として使用されている繊維が、代表的にはポリエチレンテレフタレート共重合体からの繊維であって、その融点はかなり低いものである。そのため、この不織布は接着成分の融点の影響を受け、ポリエチレンナフタレートの有する本来の耐熱性が生かされていない。
【0004】
また、特許文献2には、ポリエチレンナフタレート繊維から実質的になり、平均繊維径が0.1〜10μmであり、縦横の引っ張り強力に優れた不織布が提案されている。しかしながら、この不織布は、具体的にはジェット紡糸(メルトブロー)法で製造されたものであり、繊維径が不均一で細く、極細であるが、その繊維の強度は充分高いとは云えず、これが不織布の引裂き強度にも影響している。しかも、この不織布は、ジェット紡糸によるために、種々のタイプの特性を有する不織布を提供することが困難である。
【0005】
さらに、特許文献3及び4には、ポリエチレンテレテレフタレートのそれぞれ延伸短繊維と未延短伸繊維とを抄紙し、カレンダーで熱圧着してからなる感熱孔版原紙用不織布が記載されている。しかし、これらの引用文献に具示されているように金属/弾性ロール系カレンダー加圧機で金属ロール表面温度215℃、線圧20kg/cmの条件下で圧着して得られた不織布が具示されている。しかし、我々の研究によれば、かかる条件で成形した不織布は引裂き強度の点では未だ不十分であり、実用性の面で応用できる用途に限界があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭50−18773号公
【特許文献2】特開平4−146251号公報
【特許文献3】特開2000−118162号公報
【特許文献4】特開2000−118163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性に優れ、引裂き強度が格段に向上した不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの研究によれば、前記本発明の目的は、ポリエチレンナフタレート延伸短繊維およびポリエチレンナフタレート未延伸短繊維とからなり両短繊維が熱圧着されている不織布であって、該不織布で測定した未延伸短繊維のDSCのピーク温度が270℃以上であることを特徴とする不織布により達成されることが見出された。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性に優れ、引裂き強度が著しく向上した不織布が提供される。また、本発明の不織布は、高い強度も具備しており、薄くても十分に実用に耐えられるため、不織布の軽量化という面での効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、不織布が、ポリエチレンナフタレート延伸短繊維およびポリエチレンナフタレート未延伸短繊維とからなり、両繊維が熱圧着されている不織布である。
本発明の不織布においては、ポリエチレンナフタレート未延伸短繊維が実質的に接着成分として作用し、得られた不織布は強度を有し、かつ耐熱性は優れたものである。
【0011】
上記の両繊維を構成するポリエチレンナフタレート、具体的にはポリエチレン−2,6−ナフタレートまたは5モル%以下の第3成分を含む共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレートである。一般にポリエチレン−2,6−ナフタレートは、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体とエチレングリコールまたはその機能的誘導体とを、触媒の存在下で適当な反応条件の下に結合せしめることによって合成される。この場合、ポリエチレン−2,6−ナフタレートの重合完結前に適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば共重合または混合ポリエステルが合成されるが、適当な第3成分としては(a)2個のエステル形成官能基を有する化合物;例えばシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム等のカルボン酸;グリコール酸、p−オキシエトキシ安息香酸等のオキシカルボン酸;プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、p,p−ジフェノキシスルホン1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリアルキレングリコール、p−フェニレンビス(ジメチルシロキサン)等のオキシ化合物、あるいはその機能的誘導体;前記カルボン酸類、オキシカルボン酸類、オキシ化合物類またはその機能的誘導体から誘導せられる高重合度化合物等や、(b)1個のエステル形成官能基を有する化合物、例えば安息香酸、ベンゾイル安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコール等、(c)3個以上のエステル形成官能基を有する化合物、例えばグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等も実質的に線状である程度に使用せられる化合物として挙げられる。
【0012】
前記ポリエチレンナフタレートは、極限粘度[η]が0.45〜1.0のものを使用する。本明細書にいう極限粘度[η]は、ポリマーをフェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(混合比6:4)に溶解し、35℃で測定した粘度から求めた値である。極限粘度[η]が1.0を超えると溶融粘度が異常に高くなって溶融紡糸が困難となり、[η]が0.45未満では目的とする高融点を有し、物性も良好な繊維が得られないので不適当である。
【0013】
本発明における延伸短繊維は、複屈折△nが0.20以上の高配向であることが好ましく、より好ましくは0.20〜0.36、さらに好ましくは0.30〜0.35である。密度では、1.350〜1.365g/cmにあることが好ましい。
【0014】
また、未延伸短繊維は、Δnとしては0.01以下が好ましく、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.008以下である。繊維の配向が上記のように低いことで延伸短繊維との接着力が強固となり、繊維の脱落をより引き起こしにくいため好ましい。また、密度は1.325〜1.340であることが好ましい。
【0015】
本発明の不織布を構成する延伸短繊維および未延伸短繊維の繊維径は、あまり大きすぎても不織布の均一性が悪く、特に薄膜紙をつくるのが困難である。一方、延伸短繊維および未延伸短繊維の繊維径は、あまり小さすぎても、不織布として必要な強度が得られない。したがって、延伸短繊維および未延伸短繊維の繊維径は5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0016】
延伸短繊維、未延短伸繊維とも、断面形状はいかなるものでもよいが、未延伸短繊維は扁平なものが好ましく、その場合、断面の長径に相当する部分が上記繊維径の範囲であることが特に好ましい。
さらに延伸短繊維、未延伸短繊維とも、1〜15mm程度の短繊維であることがより好ましい。
【0017】
本発明の不織布は、上記の延伸短繊維と未延伸短繊維とからなり、両繊維が熱圧着されている不織布であるが、本発明においては、該不織布で測定した未延伸短繊維のDSCのピーク温度が270℃以上、好ましくは271℃以上であることが肝要である。
【0018】
不織布の成形において上記両繊維を熱圧着させる場合、カレンダーロール等を用いるが、例えば、特開2000−118163号公報の実施例に記載されているような金属/弾性ロール系カレンダー加圧機で金属ロール表面温度215℃、線圧20kg/cmの条件下で圧着して得られた不織布では、未延伸繊維のDSCのピーク温度が270℃未満になり、引裂き強度が著しく低下し、耐熱性も低くなる。
【0019】
この原因については定かではないが、不織布の引裂き強度には未延伸短繊維の結晶化が大きく影響しており、両短繊維が十分に融着していることに加え、さらにそのような状態で結晶化が十分に進んでいることが重要であると推測される。しかも、上記DSCのピーク温度を境に、何らかの微細構造の変化が起きると考えられ、不織布の引裂き強度が著しく向上する現象があることを見出した。
また、延伸短繊維のDSCのピーク温度は好ましくは277℃以上、より好ましくは278℃以上であり、この際、不織布の引裂き強度はより高くなる傾向にある。
【0020】
上記の未延伸短繊維と延伸短繊維は不織布のDSCを測定することによって、両者のピーク温度に違いがある場合は、2つのピークとなって現れ、低温側が未延伸短繊維の、高温側が延伸短繊維のピーク温度として発現する。さらに、未延伸短繊維のピーク温度が高温側にシフトすることにより、延伸短繊維のDSCピークと重なる場合も本発明には含まれる。
【0021】
本発明において、延伸短繊維の混合比率が低すぎると強度が低くなり、絶縁紙として必要な強度が得られにくい。一方、未延伸繊維の混合比率が低く過ぎると、接着性が不十分であり、表面平滑性に欠ける。したがって、本発明の不織布においては、延伸短繊維と未延伸短繊維との混合比率は90:10〜30:70の範囲が好ましく、80:20〜50:50の範囲がより好ましい。
【0022】
本発明の不織布の目付量は、あまり大きすぎても取り扱いが困難であり、逆に目付けが小さすぎても、強度が不十分となり問題である。したがって、本発明の不織布の目付量は、好ましくは10〜300g/mあり、より好ましくは20〜200g/mある。
【0023】
本発明の不織布の厚さは、あまり厚すぎても腰が強く、また熱処理効率が悪くなり問題である。逆に薄すぎても、腰が弱いためシワになりやすい。したがって、本発明の不織布の厚さは、好ましくは0.2〜6mm、より好ましくは0.4〜4mmである。
【0024】
本発明の不織布の引裂き強度は、0.1cN/(g/m)以上であり、電気絶縁紙、断熱材料、フィルターとして十分な引裂き強度を保持している。
【0025】
本発明の不織布は、引裂き強度、耐熱性、その他基本性能を損なわない範囲の第3成分を混合することは差し支えない。かかる第3成分として、天然繊維、ポリビニルアルコール系、アラミド系等の合成繊維等を用いることができる。
【0026】
以上に説明した本発明の不織布は例えば以下の方法によって製造することができる。
まず、未延伸繊維は、前述したポリエチレンナフタレートをチップ状などとし、常法により、溶融紡糸し、これを所定の長さにカットすることによって得ることができる。また、延伸単繊維は、前述したポリエチレンナフタレートをチップ状などとし、常法により、溶融紡糸し、これを延伸し、さらに必要に応じて熱処理を施した後、所定の長さにカットすることによって得ることができる。
【0027】
本発明においてポリエチレンナフタレートには、必要に応じて、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤あるいはポリシロキサン等の消泡剤等を配合することができる。
【0028】
得られた延伸短繊維および未延短伸繊維を、所定の割合となるように水中にパルパーあるいはビーターで混合分散させた後、円網、短網あるいは長網抄紙機で抄造し、次いで熱カレンダー圧着することで原綿が得られる。
【0029】
本発明の不織布において、前述したように未延伸短繊維のDSCのピーク温度を270℃以上に、さらに延伸短繊維のピーク温度を277℃以上に発現させるには、カレンダーロールを用いて成形する場合、該ロールの表面温度を160℃〜300℃、線圧を50〜250kg/cmにおいて両者の条件を調整することで可能である。具体的には、ロール表面温度が160℃のような低温であっても線圧が240kg/cm以上であれば、上記のDSCのピーク温度を270℃以上に発現させることができる。一方、カレンダーロール表面温度が260℃のような高温の場合は、線圧を50kg/cm以上とすれば、上記のDSCのピーク温度を発現させることができる。
【実施例】
【0030】
実施例における測定方法は次のとおりである。
(1)DSCピーク温度
パーキン・エルマー社製示差熱量分析装置にて、昇温速度10℃/分にて測定する。
(2)繊維複屈折率
白色光下で、偏光顕微鏡レベックス式コンペンセータを用いて測定する。
(3)不織布強力、伸度
JIS L 1096に準じ、定速伸度型引張り試験機にて測定する。
(4)不織布の引裂き強度
JIS L 1096に準じ、定速伸度型引張り試験機にて引き裂き強力を測定し、それを目付けで除した値とした。
【0031】
[実施例1]
(延伸短繊維の製造)
固有粘度が0.64のポリエチレンナフタレートチップを300℃で溶融し、孔数が1000の口金を通して295℃で吐出し、600m/分の速度で巻き取った。次にこの未延伸糸を3.5倍の倍率で95℃の温水中で延伸し、200℃で緊張熱処理、さらに150℃で弛緩熱処理して、平均繊維径5μmで複屈折が0.22の延伸繊維を得、これを5mmに切断して延伸短繊維とした。
【0032】
(未延伸短繊維の製造)
固有粘度が0.64のポリエチレンナフタレートチップを300℃で溶融し、孔数が1000の口金を通して295℃で吐出し、1000m/分の速度で巻き取り、平均繊維径8μmで複屈折が0.01の未延伸繊維を得、これを5mmに切断して未延伸短繊維とした。
【0033】
(抄紙)
延伸短繊維と未延伸短繊維とを65:35の重量比率でパルパー中で十分混合分散せしめた後、円網抄紙機で速度9m/分、ヤンキードライヤー表面温度130℃で加熱乾燥した。抄上げ目付量は10g/m2であった。
【0034】
次いで金属/弾性ロール系カレンダー加工機で金属ロール表面温度260℃、線圧60kg/cmの条件下圧着し、厚さ1mmの不織布を得た。この不織布のDSCを測定したところ、271℃に未延伸短繊維のピーク温度が、279℃に延伸短繊維のピーク温度がそれぞれ観察された。結果を表1に示す。なお、不織布の引裂き強度、強度、伸度はいずれも不織布の長さ方向の物性を示す。
【0035】
[実施例2、及び、比較例1、2]
抄紙におけるカレンダー条件を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして不織布を得た。結果を表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、優れた耐熱性を有し、かつ高い引裂き強度を有する短繊維不織布が提供される。従って断熱材料、電気絶縁紙、各種フィルター等の耐熱性と引裂き強度が要求される不織布の用途に有利に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレート延伸短繊維およびポリエチレンナフタレート未延伸短繊維とからなり両短繊維が熱圧着されている不織布であって、該不織布で測定した未延伸短繊維のDSCのピーク温度が270℃以上であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
不織布で測定した延伸短繊維のDSCのピーク温度が277℃以上である請求項1記載の不織布。
【請求項3】
引裂き強度が0.1cN/(g/m)以上である請求項1または2記載の不織布。
【請求項4】
ポリエチレンナフタレート延伸短繊維の複屈折率(△n)が0.22以上であるポリエチレンナフタレート短繊維および複屈折率(△n)が0.01以下である低配向ポリエチレンナフタレート短繊維が混繊され、熱圧着されている請求項1〜3のいずれかに記載の不織布。

【公開番号】特開2006−207085(P2006−207085A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23320(P2005−23320)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】