説明

不飽和ポリエステル樹脂組成物及び不飽和ポリエステル樹脂成型品

【課題】クラック等の外観欠陥が無く、表面平滑性に優れた不飽和ポリエステル樹脂成型品を製造可能な不飽和ポリエステル樹脂組成物及び不飽和ポリエステル樹脂成型品を提供する。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂、低収縮材、ガラス繊維及び無機充填材を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物において、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、低収縮材を39〜60質量部含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形硬化して不飽和ポリエステル樹脂成型品とする。不飽和ポリエステル樹脂が、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂を含有するものであり、低収縮材が、ポリスチレン系樹脂を含有するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器のカバー又はケースや、電磁開閉器又はブレーカの消弧室等に用いられる不飽和ポリエステル樹脂組成物及び不飽和ポリエステル樹脂成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂成型品は、機械的特性等に優れることから、様々な産業分野において広く利用されている。
【0003】
ところで、不飽和ポリエステル樹脂は、硬化時に6〜10%の体積収縮を伴うため、成形品の表面平滑性が失われ易く、クラック、ソリなどが発生したり、ガラス繊維や充填剤等の浮き出しにより、色ムラ、艶ムラが生じる等の問題を有していた。そこで、不飽和ポリエステル樹脂の硬化時における体積収縮を抑制するため、低収縮化剤として熱可塑性樹脂を使用することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、不飽和ポリエステル樹脂と架橋剤との合計100質量部に対し、低収縮剤としてスチレン−酢酸ビニルブロック共重合体を15〜50質量部、無機充填剤を400〜1700質量部、ガラス繊維を20〜300質量部を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形して、電気・電子成形品を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−73975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の電気・電子成形品であっても、熱収縮を十分には抑制できず、成形品の表面積が大きくなるに伴い、成形品の表面平滑性が損なわれ易く、クラック、反り、色ムラ、艶ムラ等の外観欠陥が発生し易かった。
【0007】
よって、本発明の目的は、クラック等の外観欠陥が無く、表面平滑性に優れた不飽和ポリエステル樹脂成型品を製造可能な不飽和ポリエステル樹脂組成物及び不飽和ポリエステル樹脂成型品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく検討した結果、樹脂組成物中に、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、低収縮材を39〜60質量部含有させることで、クラック等の外観欠陥の極めて少ない成形品を製造できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂、低収縮材、ガラス繊維及び無機充填材を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物において、前記不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、前記低収縮材を39〜60質量部含有することを特徴とする。
【0010】
なお、特許文献1では、樹脂組成物中に、不飽和ポリエステル樹脂と架橋剤との合計100質量部に対し、低収縮剤を15〜50質量部含有させている。そして、実施例では、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、約130〜220質量部含有させており、本発明に比べて低収縮剤を大量に配合している。
【0011】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、前記不飽和ポリエステル樹脂が、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂を含有するものであり、前記低収縮材が、ポリスチレン系樹脂を含有するものであることが好ましい。そして、不飽和ポリエステル樹脂が、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂を50〜100質量%含有するものであり、低収縮材が、ポリスチレン系樹脂を50〜100質量%含有するものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の不飽和ポリエステル樹脂成型品は、上記不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形硬化して得られるものであることを特徴とする。
【0013】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂成型品は、電気・電子機器のカバー又はケース、電磁開閉器又はブレーカの消弧室に用いられることがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、硬化時に体積収縮し難く、該組成物を成形して得られる成形品は、表面平滑性に優れ、成形品の表面積が大きくても、クラック、反り、色ムラ、艶ムラなどがなく、外観が良好で、機械強度に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[不飽和ポリエステル樹脂組成物]
まず、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物について説明する。
【0016】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂と、低収縮材と、ガラス繊維と、無機充填材とを少なくとも含有する組成物である。
【0017】
(不飽和ポリエステル樹脂)
本発明で用いる不飽和ポリエステル樹脂は、その種類は特に限定されるものではない。多価アルコールと、酸成分とを反応させて得られるものを用いることができる。
【0018】
上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。多価アルコールとしては、水素化ビスフェノールAが好ましく用いることができる。
【0019】
上記酸成分としては、不飽和多塩基酸及び/又はその酸無水物を用いる。不飽和多塩基酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0020】
また、酸成分には、飽和脂肪酸及び/又はその酸無水物を更に用いることができる。飽和脂肪酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0021】
本発明で用いる不飽和ポリエステル樹脂は、酸成分の一部として、オルソフタル酸及び/又はその酸無水物を用いて得られる、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂が、特に好ましく用いることができる。
【0022】
オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂は、機械強度が高く、安価な材料であるものの、成形時にクラックが生じ易く、成形性に劣るものであったが、本発明によれば、成形性に劣るオルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂であっても、クラック等の無い、表面平滑性に優れた成形品を容易に製造できる。
【0023】
オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂中に50〜100質量%含有することが好ましい。50質量%未満であると、材料コストが嵩む傾向にある。
【0024】
(低収縮材)
本発明において、低収縮材とは、JIS K 7010−1995「繊維強化プラスチック用語」で規定されているように、不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を小さくするために配合される熱可塑性樹脂のことであり、その種類は特に限定されるものではない。ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリカプロラクタン系樹脂、ポリエチレン共重合体、ポリエチレンフタレート等の熱可塑性樹脂を用いることができる。なかでも、ポリスチレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
ポリスチレン系樹脂としては、酢酸ビニルとポリスチレンとの共重合体が好ましい一例として挙げられる。
【0026】
低収縮材と上記不飽和ポリエステル樹脂との組み合わせとしては、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂を含有する不飽和ポリエステル樹脂と、ポリスチレン系樹脂を含有する低収縮材との組み合わせが、好ましい一例として挙げられる。
【0027】
ポリスチレン系樹脂は、低収縮材中に50〜100質量%含有することが好ましい。
【0028】
低収縮材は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、39〜60質量部含有することが好ましく、45〜55質量部含有することがより好ましい。詳細はメカニズムは定かではないが、不飽和ポリエステル樹脂と低収縮材とを、上記割合で使用することにより、成形金型内での不飽和ポリエステル樹脂組成物の変形を抑えることができ、さらに過大な応力が掛かることを防止できたため、クラック等の外観欠陥を抑制できたと考えられる。
【0029】
(ガラス繊維)
本発明で用いるガラス繊維としては、その種類は特に限定されるものではない。例えば、チョップドストランド、ミルドガラス、ロービングガラス等が挙げられる。
【0030】
ガラス繊維の繊維長は、3〜20mmが好ましく、6〜12mmがより好ましい。3mm未満であると十分な強度が得られない。20mmを超えると樹脂との混合が困難である。
【0031】
ガラス繊維は、不飽和ポリエステル樹脂組成物中に10〜40質量%含有することが好ましく、15〜30質量%がより好ましい。ガラス繊維の含有量が10質量%未満であると、本用途に必要な強度が得られない、40質量%を超えると成形時の取扱、成形品質が劣る。
【0032】
(無機充填剤)
本発明で用いる無機充填剤としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0033】
無機充填剤は、不飽和ポリエステル樹脂組成物中に10〜40質量%含有することが好ましく、15〜30質量%がより好ましい。無機充填剤の含有量が10質量%未満であると、難燃性が劣り、40質量%を超えると成形時の取扱、成形品質が劣る。
【0034】
(その他成分)
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、物性を損なわない範囲で、更に、過酸化物系等の触媒、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の離型剤、顔料、カーボンブラック等の着色剤、酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの増粘剤、その他、用途により熱安定剤、熱可塑性弾性体、浸潤剤などを更に含有できる。
【0035】
[不飽和ポリエステル樹脂成型品]
次に、本発明の不飽和ポリエステル樹脂成型品について説明する。
【0036】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂成型品は、上記不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形硬化することで得られる。
【0037】
成形方法としては、特に限定は無い。モールド成形、射出成形、プレス成形など従来公知の方法を採用できる。成形条件は、成形方法により異なるので特に限定はしない。
【0038】
このようにして得られる本発明の不飽和ポリエステル樹脂成型品は、機械強度に優れる。また、成形品の表面積を大きくしても、クラック、反り、色ムラ、艶ムラなどの発生頻度が極めて小さく、外観が極めて良好である。
【0039】
この不飽和ポリエステル樹脂成型品は、電磁開閉器、ブレーカなどの電気・電子機器のカバー又はケース、電磁開閉器又はブレーカの消弧室に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0040】
下記表1および表2に示す原料を混練し、実施例1〜6、比較例1〜4の不飽和ポリエステル樹脂組成物を製造した。得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物を、加熱温度145℃、圧力14〜16MPaの成形条件で成形して成型品を製造した。得られた成形品について、目視による外観評価と、JIS K 6911に準拠したシャルピー衝撃試験を行った。結果を表1および表2にまとめて記す。
なお、成形品は、各実施例、比較例毎のサンプル数は10個とした。
外観評価は、成形品の表面におけるクラックについて、得られた成形品のサンプルの全数のうち、クラックの有るサンプルの個数の割合が、10%未満のものを◎、10%以上40%未満のものを○、40%以上75%未満のものを△、75%以上のものを×とした。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1に示すように、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、ポリスチレン系低収縮材を39〜60質量部含有する実施例1〜3の不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形した成形品は、シャルピー衝撃強度が高いものであった。また、実施例1〜3の成形品には、成形品表面にクラックが有り、外観の劣るサンプルは発生せず、全数が、表面にクラック、色ムラ、艶ムラがなく、外観良好なものであった。
これに対し、ポリスチレン系低収縮材の含有量が、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し39質量部未満である比較例1、2は、成形品表面にクラックが有り、外観の劣るサンプルが多かった。
また、ポリスチレン系低収縮材の含有量が、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し60質量部を超える比較例3は、シャルピー衝撃強度が低く、強度の劣るものであった。
【0044】
また、表2に示すように、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、ポリメタクリル酸メチル樹脂系低収縮材を39〜60質量部含有する実施例4〜6の不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形した成形品は、シャルピー衝撃強度が高いものであった。また、実施例4〜6の成形品には、成形品表面にクラックが有り、外観の劣るサンプルも有ったが、そのようなサンプルの発生割合は低いものであった。
これに対し、ポリメタクリル酸メチル樹脂系低収縮材の含有量が、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し60質量部を超える比較例4は、シャルピー衝撃強度が低く、強度の劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂、低収縮材、ガラス繊維及び無機充填材を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物において、
前記不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、前記低収縮材を39〜60質量部含有することを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記不飽和ポリエステル樹脂が、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂を含有するものであり、前記低収縮材が、ポリスチレン系樹脂を含有するものである、請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記不飽和ポリエステル樹脂が、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂を50〜100質量%含有する、請求項2に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記低収縮材が、ポリスチレン系樹脂を50〜100質量%含有する、請求項2に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形硬化して得られる不飽和ポリエステル樹脂成型品。
【請求項6】
電気・電子機器のカバー又はケースに用いられる、請求項5に記載の不飽和ポリエステル樹脂成型品。
【請求項7】
電磁開閉器又はブレーカの消弧室に用いられる、請求項5に記載の不飽和ポリエステル樹脂成型品。

【公開番号】特開2012−197340(P2012−197340A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61318(P2011−61318)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)
【Fターム(参考)】