世界的に流行するトリインフルエンザに対して迅速に応答するためのワクチン
本発明は、世界的に流行し得るトリインフルエンザウイルスに対するアデノウイルス系ワクチンに関する。本発明は、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸をそれぞれ有する複製欠陥アデノウイルスベクターを提供する。被験体に導入されると、発現されたA型インフルエンザポリペプチドは、インフルエンザに結合する抗体の産生を誘導する。本発明はまた、被験体に免疫応答を誘導するための方法を提供する。被験体は、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を有する複製欠陥アデノウイルスベクターを投与される。ベクターが被験体において発現されると、A型インフルエンザポリペプチドは、インフルエンザに対する抗体の産生を被験体に誘導する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する優先権に対する相互参照
本出願は、米国仮特許出願第60/634,660号(2004年12月9日出願)の優先権を主張し、またその全体が本明細書中に援用されている。
【0002】
1. 発明の分野
本発明は、インフルエンザワクチン接種、特に世界的に流行するトリインフルエンザに応答するワクチンの迅速な開発、および被験体における免疫応答の誘導方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2. 発明の背景
野生の水鳥(既知の全てのA型インフルエンザウイルスの天然の宿主)は、家畜である家禽において高致死性疾患の孤発性の大流行を引き起こすウイルスの供給源である。家禽における高病原性トリインフルエンザ(HPAI)株の最近の発生、続く東南アジアにおけるヒトへの感染は、家禽において頻繁な大流行を伴い、数億もの動物の破滅をもたらした。そのため、致命的な疾患が世界的にまん延する可能性に対する懸念が高まっている。(非特許文献1、および非特許文献2参照)。1997年に、高病原性トリインフルエンザH5N1が、香港において家禽からヒトへと伝染し、18名の感染者と6名の死者を生じ、2003年の再発では、2件の同様な症例を生じ、1名の死者を生じた(非特許文献2および非特許文献3)。2003〜2005年には、HPAI H5N1の甚大な大流行が9カ国のアジアの国で生じ、タイで19名、ベトナムで91名、インドネシアで7名、カンボジアで4名、ヒトにおける症例を生じ、合計で62名の死亡が報告された。さらに、家族集団におけるH5N1感染は、ヒトからヒトへの伝染の可能性を高めていた。H5N1ウイルスによる継続したヒトへの曝露および感染により、現在H5N1特異的免疫性を欠く全世界のヒト集団内にて効率的に伝染し得るトリ−ヒトリアソートメントウイルス発生の可能性も増加する。トリ−ヒトおよびブタ−ヒトのA型インフルエンザウイルス間のこのようなリアソートメントの事象は、1957年および1968年のインフルエンザ大流行と関連しており、1918年の大流行の事象については未だ明らかではない。
【0004】
世界的に流行するH5株発生の可能性ならびにそれに伴う疾病率および死亡率に対する懸念のために、有効なワクチンの探索に拍車がかかっている。従来の不活性化H5ワクチンは、臨床試験において継続して評価されているが、従来の不活性化インフルエンザワクチンの限られた生産能力は、ワクチン接種によりトリインフルエンザの世界的流行を制御する能力の重大な妨げとなり得る。したがって、予測不可能な将来の大流行に対して迅速かつ有効な選択肢を提供する代替的なアプローチが、至急必要である。インフルエンザワクチン接種の現在のストラテジーは、ワクチン製造に必要とされる時間によって制限されている。本発明は、世界的に流行するトリインフルエンザに応答するワクチンを迅速に開発するための方法および組成物を提供する。
【非特許文献1】Liら、Nature, 2004, 430:209−213
【非特許文献2】Yuenら、Lancet, 1998, 351:467−471
【非特許文献3】Nicholsonら、Lancet, 2003, 362:1733−17452.1. インフルエンザウイルス インフルエンザウイルスは、3つの型、すなわちA型、B型およびC型からなる。A型インフルエンザウイルスは、例えば、ヒト、ウマ、ブタ、フェレットおよびニワトリを含む様々なトリおよび哺乳類に感染する。B型およびC型インフルエンザは、ヒトにのみ存在する。A型インフルエンザに感染した動物はしばしば、インフルエンザウイルスの貯蔵庫として作用し、ヒト集団へと伝染する遺伝子的におよび抗原的に多岐にわたるウイルスのプールを生じる。伝染は、ヒトと感染動物との密接な接触、例えば、家畜の世話などにより生じ得る。ヒトからヒトへの伝染は、密接な接触またはせきもしくはくしゃみによって生じる飛沫の吸入により生じ得る。
【0005】
A型インフルエンザウイルス粒子の外側表面は、糖タンパク質ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)を含む脂質エンベロープから成る。HA糖タンパク質は、2つのサブユニット、すなわちHA1およびHA2と呼ばれるサブユニットから成る。HAは、シアル酸結合部位を含み、上気道および下気道の上皮細胞の外膜上にあるシアル酸に結合し、そして受容体が仲介するエンドサイトーシスにより細胞内に吸収される。細胞内に入ると、インフルエンザウイルス粒子はそのゲノムを放出し、当該ゲノムは、核に侵入し、新たなインフルエンザウイルス粒子の産生を開始する。NAもまた産生され、これは細胞表面よりシアル酸を切断し、放出されたインフルエンザウイルス粒子が再び捕捉されるのを防止する。ウイルスは短時間、一般的におよそ5日間インキュベートされるが、インキュベーション期間は大きく変化し得る。ウイルスは、病気が発症するおよそ1日前に分泌され、一般的に3〜5日間存続する。一般的な症状としては、発熱、けん怠感、不快感、頭痛、うずきおよび疼痛、せきならびにのどの痛みが挙げられる。いくつかの症状は、感染後数週間にわたって存続し得る。
【0006】
インフルエンザウイルスの別の株は、HAおよびNA糖タンパク質における変異によって主に特徴付けられ、そのためHAおよびNAは、ウイルスのサブタイプを同定するのに用いられる(すなわち、H5N1は、HAサブタイプ5およびNAサブタイプ1を示す)。このように、インフルエンザワクチンはしばしば、HAおよびNA分子を標的とする。従来のインフルエンザウイルスワクチンはしばしば、不活性化ウイルス全体を用いており、適切なHAおよび/またはNA分子を保有する。あるいは、HAおよびNAタンパク質またはそれらのサブユニットの組換え形態をワクチンとして用いていた。しかし、インフルエンザはRNAウイルスであり、頻繁に変異を生じやすく、ウイルスの抗原組成に一定のおよび永久の変化を生じる。抗原組成とは、免疫系によって認識されるポリペプチド(例えば、抗体結合エピトープ)の部分をいう。抗原組成のささいな、わずかな変化はしばしば、抗原ドリフトと呼ばれる。A型インフルエンザウイルスはまた、リアソートメントと呼ばれる方法において他のサブタイプに由来する遺伝子物質を「スワッピング」することができ、抗原シフトと呼ばれる抗原組成の大きな変化を生じる。ウイルス粒子に対する免疫応答は、HAおよびNA糖タンパク質への抗体の結合に依存しているため、糖タンパク質の頻繁な変化は、インフルエンザウイルスに対する免疫応答の有効性を減少させ、やがて実質的に免疫性の消失を生じる。A型インフルエンザが迅速に抗原シフトできる能力は、新しい株に対する既存の免疫性を欠いているために、インフルエンザの大流行をもたらし得る。
【0007】
2.2. インフルエンザワクチン
インフルエンザウイルスの迅速な抗原ドリフトまたは抗原シフトを行う能力により、インフルエンザの新規株に有効な新規ワクチンが定期的に必要とされる。有効なワクチンは、次回のインフルエンザの季節にまん延することが予想されるインフルエンザウイルス型を含めなければならない。異なる型のインフルエンザが含められた場合、ワクチンは感染に対する防御を生じない。したがって、インフルエンザウイルスワクチンの製造は、どんなインフルエンザウイルスがまん延するのかを予測することを必要とし、また突然の抗原シフトに対処することはできない。したがって、インフルエンザウイルスワクチンをすばやく生産および製造するための方法が当該分野において要求されている。
【0008】
多くのA型インフルエンザサブタイプが、トリに感染することが可能であるが、高病原性ウイルスのごく最近大流行は、サブタイプH5およびH7によって引き起こされた。ウイルスの潜在的な抗原シフトおよび結果として生じるトリにおける免疫性の欠失は、家畜化されたニワトリおよび家禽を含むトリ集団間のウイルスの迅速なまん延を引き起こした。一般的な制御手段は、感染したまたは曝露した全てのトリを処分することであるため、迅速なトリインフルエンザのまん延は、世界的に何百万ものトリを破棄することをもたらした。したがって、トリインフルエンザの大流行は、感染した家禽農場にとって壊滅的なものであり得、甚大な財政的損失を生じる。稀ではあるが、トリインフルエンザによるヒトへの感染も生じている。迅速な抗原シフトおよびトリインフルエンザウイルスの迅速なまん延の可能性により、トリインフルエンザウイルスによって引き起こされる世界的流行が将来的に生じ得るという大きな懸念が存在する。
【0009】
組換えアデノウイルス系ワクチン(recombinant adenovirus-based vaccine)の迅速な生産ならびにかかるワクチンのトリおよび、大流行に直面している高い危険性にある個体への投与により、致命的なトリインフルエンザの世界的流行を制御し得る。従来の不活性化インフルエンザワクチンの非常に長い開発時間および限られた生産能は、ワクチン接種によりトリインフルエンザの世界的流行を制御することを大きく妨げ得る。そのため、大量のインフルエンザワクチンを迅速に開発するためおよび大量生産するための方法が、当該分野において要求されている。本発明は、ベトナムにおいて2003〜2005年にヒトにて致命的な大流行をもたらした際に単離されたA/Vietnam/1203/2004(H5N1)(VN/1203/04)株のヘマグルチニン(HA)タンパク質に対するアデノウイルス系A型インフルエンザワクチンの迅速な開発を提供する。マウスのワクチン接種により、HA特異的抗体および異型免疫を生じ得る広範な細胞性免疫を生じた。全長HAを用いてワクチン接種したマウスは、VN/1203/04を用いた致命的な鼻腔内チャレンジより完全に防御された。さらに、単回の皮下免疫化により、VN/1203/04による大量の鼻腔内チャレンジからニワトリを完全に保護した。VN/1203/04は、対照ワクチンを接種した全てのニワトリを2日以内に殺すことができる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
3. 発明の概要
本発明は、世界的に流行し得る可能性のあるトリインフルエンザウイルスに対するアデノウイルス系ワクチン(例えば、アデノウイルス系H5N1インフルエンザワクチン)に関する。これは、本発明のアデノウイルス系ワクチンが免疫応答を誘導することを示す、マウスおよびニワトリにおける研究に少なくとも一部基く。本発明は、それぞれA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を有する複製欠陥アデノウイルスベクターを提供する。本発明は、A/Vietnam/1203/2004インフルエンザウイルス(VN/1203/04)に由来するコドン最適化ヘマグルチニン(HA)遺伝子を発現するE1/E3欠失アデノウイルス血清型5型系ベクターを提供する。本発明によるこれらのベクターを被験体に投与し、インフルエンザに結合する抗体の産生を含むがこれに限定されない免疫応答を誘導し得る。
【0011】
本発明はまた、被験体に免疫応答を誘導するための方法を提供する。例えば、本発明による方法は、被験体に複製欠陥アデノウイルスベクターを投与することを含み、かかるベクターは、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を有し、そして発現されたA型インフルエンザポリペプチドは、被験体においてインフルエンザに対する抗体の産生を誘導する。
【0012】
3.1.定義
本明細書中で用いられる場合、「トリインフルエンザウイルス」とは、トリに感染し得る任意のインフルエンザウイルスをいう。「高病原性トリインフルエンザウイルス(HPAI)」とは、高い病毒性を有し、かつ、高い死亡率によって特徴付けられるトリインフルエンザウイルスをいう。一実施形態において、トリインフルエンザウイルスは、H5サブタイプのものである。別の実施形態において、トリインフルエンザウイルスはH7サブタイプのものである。別の実施形態において、トリインフルエンザウイルスはH5N1サブタイプのものである。一実施形態において、トリインフルエンザウイルスはA/Vietnam/1203/2004(H5N1)である。別の実施形態において、トリインフルエンザウイルスはA/Hong Kong/156/1996(H5N1)である。
【0013】
本明細書中で用いられる場合、「cDNA」という用語は、一本鎖または二本鎖のDNA分子をさす。一本鎖cDNA分子については、そのDNA鎖が、遺伝子より転写されたメッセンジャーRNA(「mRNA」)に相補的である。二本鎖cDNA分子については、一のDNA鎖がmRNAに相補的であり、他方が第一のDNA鎖に相補的である。
【0014】
本明細書中で用いられる場合、「コード配列」または特定のタンパク質を「コードするヌクレオチド配列」とは、適切な調節配列の制御下に配置された場合、in vivoまたはin vitroにおいて転写され、ポリペプチドへと翻訳される核酸分子である。コード配列の境界は、5’末端にある開始コドンおよび3’末端にある翻訳停止コドンによって決定される。コード配列は、原核生物の核酸分子、真核生物のmRNAに由来するcDNA、真核生物(例えば、哺乳動物)の供給源に由来するゲノムDNA、ウイルスのRNAまたはDNA、および合成ヌクレオチド分子までも含むが、これらに限定されない。転写終結配列は一般的にコード配列の3’側に配置される。
【0015】
本明細書中で用いられる場合、「制御配列」という用語は、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、エンハンサーなど、および5'−UTRおよび3'−UTRを含む非翻訳領域(UTR)を総称的にさし、これらは宿主細胞におけるコード配列の転写および翻訳を集合的に生じる。本明細書中で用いられる場合、RNAポリメラーゼがプロモーター配列に結合し、コード配列がmRNAへ転写される際に、制御配列は細胞内にてコード配列の「転写を導く」。次にそのmRNAがコード配列によってコードされるポリペプチドへ翻訳される。
【0016】
本明細書中で用いられる場合、「遺伝子」という用語は、明確な生物学的活性を有する核酸またはタンパク質を直接的または間接的にコードするDNA分子をいう。
【0017】
本明細書中で用いられる場合、「ゲノムDNA」という用語は、RNA分子が転写されるDNA分子をいう。RNA分子は最も一般的にはメッセンジャーRNA(mRNA)分子であり、これは最終的に明確な生物学的活性を有するタンパク質へと翻訳される。あるいは、トランスファーRNA(tRNA)またはリボソームRNA(rRNA)分子であり、これらはタンパク質合成プロセスにおけるメディエーターである。
【0018】
本明細書中で用いられる場合、2つの核酸分子が、2以上の定量可能な生物学的機能を共有する場合、「機能的に同等」である。例えば、異なる一次配列の核酸分子が、同一のポリペプチドをコードし得る場合、異なってはいるが、これらの分子は機能的に同等である。このような例において、これらの分子はまた、高程度の配列相同性を共有する。同様に、異なる一次配列の核酸分子が、RNA転写のプロモーターとして活性を共有し、このRNA転写は、細胞の特定の亜集団で生じ、特有の調節物質群に反応する場合、このような核酸分子もまた機能的に同等である。
【0019】
本明細書中で用いられる場合、DNA構築物の「異種」領域は天然において他の分子と関連が見出されない別のDNA分子内に存在するかまたはそのDNA分子に結合しているDNAの同定可能なセグメントである。異種コード配列の例としては、コード配列それ自体が、天然では見いだされない構築物(例えば、天然の遺伝子とは異なるコドンを有する合成配列)である。対立遺伝子変異または天然の変異事象は、本明細書で用いられるようなDNAの異種領域を生じない。
【0020】
本明細書中で用いられる場合、一般的な配列解析ソフトウェア(例えば、Vector NTI、GCGまたはBLAST)を用いて測定した場合に、核酸分子の規定した長さに亘って、その核酸分子に含まれる少なくとも約60%〜75%または好ましくは少なくとも約80%または最も好ましくは少なくとも約90%のヌクレオチドが同一である場合、それら2つの核酸分子は「相同」である。相同であるDNA配列は、特定の系について規定されるようなストリンジェント条件下におけるハイブリダイゼーションによって同定できる。適切なハイブリダイゼーション条件は、当業者により規定される。例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Volume I, Ausubelら(編集). John Wiley:New York NY,(1989)第1版(ただし毎年更新されている)を参照。その中に、二トロセルロースフィルターに固定されたDNAサンプルに対する最高のハイブリダイゼーション特異性は、0.1〜2×SSC(15〜30 mM NaCl, 1.5〜3 mM クエン酸ナトリウム, pH 7.0)および0.1% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む溶液中で、65〜68℃またはそれ以上の温度にて繰り返し洗浄することにより達成し得ると記載される。また、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989を参照。ナイロンフィルターに固定されたDNAサンプルについては、ストリンジェントハイブリダイゼーション洗浄溶液は、40 mM NaPO4, pH 7.2、1〜2% SDSおよび1 mM EDTAを含み得る。さらに、洗浄温度は少なくとも65〜68℃が推奨されるが、非常にストリンジェントな洗浄に必要とされる最適温度は、核酸プローブの長さ、そのGC含有量、一価の陽イオンの濃度および、存在するのであればハイブリダイゼーション溶液に含まれるホルムアミドの割合によって決まる(Ausubelら、上記)。
【0021】
本明細書中で用いられる「核酸分子」という用語は、DNAおよびRNAの両方を含み、特に明示しない限り、二本鎖および一本鎖の核酸を含む。さらに、DNAおよびRNAの両方、DNA/RNAヘテロ二本鎖(DNA/RNAハイブリッドとしても知られる)、または同一鎖内にDNAおよびRNAの両方を含むキメラ分子を含む分子も含まれる。本発明の核酸分子は、修飾塩基を含んでもよい。本発明は、「センス」方向(すなわち、遺伝子のコード鎖と同一の向き)および「アンチセンス」方向(すなわち、遺伝子のコード鎖に対して相補的な方向)にある核酸分子を提供する。
【0022】
本明細書中で用いられる場合、「作動可能に連結される」という用語は、そのように記載された成分が、それらの通常の機能を果たせるように配置される核酸分子の配置をいう。したがって、コード配列に作動可能に連結される制御配列は、コード配列の発現を実行可能である。制御配列は、コード配列の発現を指令する限り、コード配列と隣接している必要はない。したがって、例えば、プロモーター配列とコード配列の間に、翻訳はされないが、転写される配列が介在しても、プロモーター配列はコード配列に「作動可能に連結される」とみなされ得る。
【0023】
本明細書中で用いられる「配列」という用語は特定のヌクレオチド配置または特定の機能を有する核酸分子(例えば、終止配列)をいう。
【0024】
本明細書中で用いられる外来性DNAは、「トランスダクション」、「トランスフェクション」または「トランスフォーメション」と称される方法によって細胞に導入し得る。トランスダクションとは、ウイルス由来のベクターを介して、真核細胞の膜を横断して、遺伝子物質(RNAまたはDNAのいずれか)を導入することをいう。トランスフェクションとは、化学的手段(例えば、リン酸カルシウム仲介沈殿)、機械的手段(例えば、エレクトロポレーション)または物理的手段(例えば、生体弾(bioballistic)による送達)によって真核細胞の膜を横断して遺伝子物質を導入することをいう。トランスフォーメション(形質転換)とは、非真核細胞例えば細菌細胞または酵母細胞へ遺伝子物質を化学的、機械的、物理的、または生物学的手段によって導入することをいう。細胞へ送達される遺伝子物質は、染色体DNAへ組み込まれ(共有結合され)てもされなくてもよい。例えば、遺伝子物質は、エピソームエレメント(例えば、プラスミド)に保持され得る。安定して形質転換された非真核細胞または安定してトランスフェクトされた真核細胞とは一般に、外来性DNAが染色体に組み込まれ、その結果染色体の複製を介してそれが娘細胞にも遺伝されるものか、または安定して維持されている染色体外のプラスミドを含むものをいう。この安定性は、外来性DNAを含む娘細胞の集団からなるクローンを確立する細胞の能力によって示される。子孫細胞の継続的な発生を経ても染色体に組み込まれていないおよび染色体外に維持されていない外来性DNAを含む細胞は、「一過的に形質転換された」または「一過的にトランスフェクトされた」という。
【0025】
本明細書中で用いられる「被験体」または「患者」という用語は、動物(例えば、トリまたは哺乳類)をいう。一実施形態において、被験体はヒトである。別の実施形態において、被験体は、家畜化されたトリ(例えば、ニワトリまたはアヒル)である。
【0026】
本明細書中で用いられる「由来する(derived)」という用語は、「〜より得られる(obtained from)」、「由来する(descending from)」または「〜より産生される(produced by)」を意味する。特定の親供給源に由来する核酸またはポリペプチドに関係して、「由来する(derived)」という用語は、その核酸配列またはアミノ酸配列の鋳型として親供給源を使用することをいう。親供給源に由来する核酸またはポリペプチドは、欠失、置換または改変の有無はあるが、親供給源の全てまたは一部分の核酸またはアミノ酸配列を有し得る。
【0027】
本明細書中で用いられる「ワクチン」とは、被験体に(細胞性および/または液性)免疫応答を誘発する組成物である。ワクチンは、感染の危険性を減少させるが、必ずしも感染を防ぐものではない。特異的な非限定的な実施形態において、ワクチンは細胞性および/または体液性免疫のレベルを、基線レベルの少なくとも30%、50%または100%増加させる。
【0028】
ワクチンの種類の例としては、生ウイルスワクチン(ウイルスが、疾患を引き起こさないように弱められているか弱毒化されている);殺ウイルスワクチン;1以上のウイルスタンパク質を含むワクチン;非病原性ウイルスが、疾患を引き起こすウイルス由来の免疫原性ペプチドをコードする遺伝情報を含むように操作されたキメラウイルス;およびそのようなペプチドをコードする裸の(naked)DNAが挙げられる。後者二つの種類のワクチンについて、非病原性ウイルスは、宿主細胞に感染することによって免疫原性ペプチドを「送達する」ことができ、裸のDNAは、宿主細胞に例えば、筋肉注射され、そこで取り込まれ、最終的に抗原タンパク質として発現される。有効でありうるワクチンの必要条件は、ウイルスによって変わり、特に、どの程度体液性免疫および/または細胞性免疫が感染の可能性を減らす必要があるのか、ウイルスの免疫原性領域における遺伝的変動性、ならびに病原性によって決まる。さらに別の種類のワクチンは、自己複製および自己制限RNA(「RNAレプリコン」)を使用し、これはトランスフェクトされた細胞の溶解を引き起こし、宿主の染色体に組み込まれるといった裸のDNAワクチンに関連する懸念を生じない(Chengら、2001, J. Virol. 75(5):2368−2376)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
4. 図面の簡単な説明
(後述の「図面の簡単な説明」の項を参照のこと)
5.発明の詳細な説明
本発明は、トリインフルエンザウイルスに対するアデノウイルス系ワクチン接種に関する。本発明は一部、2003〜2004年にヒトにて致命的に大流行した際に単離されたA/Vietnam/1203/2004(H5N1)株に基づくアデノウイルス系インフルエンザワクチンを5週間で開発する方法に基づく。ワクチン接種したマウスは、様々なウイルスに特異的な免疫性を有し、致命的な鼻腔内H5N1チャレンジより完全に保護されていたが、ワクチン接種されていない全ての対照動物は9日以内に死亡した。本発明は、世界的に流行し得る可能性のあるトリインフルエンザウイルスに対する、アデノウイルス系ワクチン接種ストラテジーを用いたインフルエンザワクチンの迅速な産生のための有望な系を提供する。
【0030】
非限定的な実施形態において、本発明は、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含む複製欠陥アデノウイルスベクターを提供し、被験体に導入されると、発現されたポリペプチドは、インフルエンザに結合する抗体の産生を誘導する。非限定的な実施形態において、本発明は、本発明のベクターおよび医薬的に許容可能な担体を提供する。非限定的な実施形態において、A型インフルエンザポリペプチドは、ヘマグルチニン(HA)もしくはHA1サブユニットまたはそれらの一部を含む。特定の非限定的な実施形態において、A型インフルエンザポリペプチドは、以下の実施例に記載されるA型インフルエンザポリペプチドのいずれか1つを含む。一実施形態において、A型インフルエンザポリペプチドはA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来する。別の実施形態において、A型インフルエンザポリペプチドは、A/Hong Kong/156/1996(H5N1)に由来する。
【0031】
別の非限定的な実施形態において、本発明は被験体に免疫応答を誘導するための方法を提供し、当該方法は、被験体に複製欠陥アデノウイルスベクターを投与することを含み、かかるベクターは、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含み、当該ポリペプチドが、被験体にインフルエンザに結合する抗体の産生を誘導する。被験体は動物、例えば、トリ(ニワトリ、アヒル、シチメンチョウ、ガチョウもしくは他の家禽または野生のトリ)あるいは哺乳類、好ましくはヒトであり得る。投与方法は、当該分野で既知の任意の方法であり得る。特定の、非限定的な実施形態において、本発明のベクターは、被験体に筋肉内、鼻腔内、または皮下投与される。
【0032】
本発明のベクターおよびワクチンは、高い危険性にあるヒト集団(例えば、医療従事者および動物飼育係)を保護し得る。さらに、ヒトアデノウイルスベクターが、ニワトリに免疫性を誘導できることを考慮すれば、感染しやすい家禽を、本発明の方法にしたがってワクチン接種できる。例えば、アデノウイルスに対する同時免疫により、広範にわたるワクチン接種を管理することができる。
【0033】
本発明のアデノウイルス系ワクチンは、数種のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交叉的保護(cross-protection)を与えることができる。
【0034】
5.1. アデノウイルスベクター
本発明はまた、A型インフルエンザポリペプチドを発現できるように、発現制御配列に作動可能に連結されたA型インフルエンザポリペプチドをコードする核酸を送達することに使用するための複製欠陥アデノウイルスベクターに関する。
【0035】
アデノウイルスは、無エンベロープDNAウイルスであり、安定しており、容易に操作できるうえ、高い力価で容易に増殖する。また、アデノウイルスゲノムからの遺伝子欠失により、外来DNAの大きな断片を挿入することができる。これらの特性により、アデノウイルスは、宿主細胞へ外来DNAを送達するための非常に有望なベクターである。「アデノウイルスベクター(adenovirus vector)」および「アデノウイルスベクター(adenoviral vector)」という用語は、本明細書において互換的に用いることができ、本発明のポリヌクレオチド構築物を指す。本発明のポリヌクレオチド構築物は、DNA、アデノウイルス外被に包まれたDNA、別のウイルスもしくはウイルス様形態(例えば、単純ヘルペスおよびAAV)に包まれたDNA、リポソームに封入されたDNA、ポリリシンと複合体化したDNA、合成ポリカチオン性分子と複合体化したDNA、トランスフェリンとコンジュゲートしたDNA、PEGなどの化合物と複合体化して免疫学的に「マスク」されたおよび/または半減期が増加したDNA、ならびに非ウイルス性タンパク質とコンジュゲートしたDNAなどを含むが、これらに限定されない様々な形状であり得る。本明細書中で用いられる「DNA」という用語は、標準的な塩基(A、T、C、およびG)ならびにこれら塩基のアナログまたは修飾体(メチル化ヌクレオチド、ヌクレオチド間修飾体(非電荷結合体およびチオエートなど)、糖類似体の使用、ならびに修飾および/または代替的な骨格構造(ポリアミドなど))を含む。
【0036】
アデノウイルスベクターは、ウイルスの増殖に必要な遺伝子機能(すなわち、必須アデノウイルス遺伝子機能)を少なくとも一つ欠失しており、それによって複製欠陥を生じる。複製欠陥アデノウイルスベクターは、細胞内でインキュベートし、その細胞内で欠失した遺伝子機能を補完し、複製欠陥アデノウイルスベクターの増殖を可能とし得る。アデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要とされるアデノウイルスゲノムのE1領域の少なくとも一つの必須遺伝子機能を欠失し得る。アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの2つ以上の領域における1つ以上の必須遺伝子機能を欠失し得る。例えば、アデノウイルスベクターは、E1、E2、E3またはE4領域のうちの1つ以上を欠失し得る。一実施形態において、アデノウイルスベクターは、E1およびE3領域を欠失している。
【0037】
アデノウイルスベクターDNAの供給源としては、アデノウイルスまたはキメラアデノウイルスの任意の種、株、サブタイプ、または種、株もしくはサブタイプの混合物が挙げられる。アデノウイルスベクターは、細胞内で増殖可能なアデノウイルスベクターであり得、それはアデノウイルスのゲノムに由来するかまたは当該ゲノムに基づくいくつかの有意な部分である(しかし、必ずしも実質的ではない)。アデノウイルスベクターは好ましくは、血清型5型のアデノウイルスゲノムを含む。
【0038】
核酸がアデノウイルスベクターに挿入され、そのアデノウイルスベクターに宿主細胞が感染した場合、核酸にコードされるポリペプチドが発現される。核酸は、ポリペプチドをコードするコード配列に作動可能に連結される制御配列を含み得る。一実施形態において、コード配列は、インフルエンザポリペプチドをコードする。好ましい実施形態において、コード配列は、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)株またはA/Hong Kong/156/1996(H5N1)株に由来するポリペプチドをコードする。
【0039】
アデノウイルスベクターの構築法および核酸のアデノウイルスベクターへの挿入法は、当該分野で十分に理解されており、一般的な分子生物学的方法(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989およびAusubelら、ならびに本明細書中で言及される参考文献などに記載される方法)を使用することを含む。さらに、アデノウイルスベクターは、例えば、米国特許第5,965,358号ならびに国際特許出願WO 98/56937, WO 99/15686およびWO 99/54441に記載される方法を使用して構築および/または精製できる。
【0040】
5.2. インフルエンザの核酸およびポリペプチド
本発明は、インフルエンザウイルスに由来し得る様々な核酸分子を含む組成物および/またはかかる核酸分子を利用する方法に関する。好ましい実施形態において、インフルエンザウイルスは、トリインフルエンザウイルスである。他の好ましい実施形態において、ウイルスは、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)(以下、「VN/1203/04」)株またはA/Hong Kong/156/1996(H5N1)(以下「HK/156/97」)株である。核酸は、ウイルスの全長またはHA1もしくはHA2サブユニットをコードし得る。
【0041】
A型インフルエンザウイルスのHAは、2つの構造的領域、球状のヘッド領域およびステム領域を含む。球状のヘッド領域は、標的細胞へのウイルスの付着に関与するシアル酸結合部位を含み、HAの赤血球凝集活性に役割を果たす。ステム領域は、ウイルスのエンベロープと標的細胞の外膜との間の膜融合をもたらす融合ペプチドを含む。A型インフルエンザウイルスのHAは、プロテアーゼによりHAが一部位切断されると活性化され、感染可能となる。得られたポリペプチドのうち大きなものをHA1と呼び、小さなものをHA2と呼ぶ。
【0042】
核酸は、コドン最適化され得る。コドン最適化とは、目的遺伝子の核酸変異体が、所与の宿主細胞における最適な発現のために改変されているコドンを含むようにする方法である。特定のコドン変化は、用いられる宿主細胞によって決まる。コドン最適化は、容易に利用可能なソフトウェアまたはアルゴリズム(例えば、UpGeneアルゴリズム)(www.vectorcore.pitt.edu/upgene.html)を使用して実施できる。Gao, W.ら、Biotechnol. Prog., 2004, 20:443−448参照。
【0043】
本発明は、インフルエンザポリペプチドをコードする単離された核酸に関する。インフルエンザウイルスタンパク質をコードする遺伝子は、ウイルスのゲノムDNAであろうとcDNAであろうと、インフルエンザウイルスの任意のサブタイプより単離することができる。インフルエンザウイルスのヘマグルチニン遺伝子を得るための方法は、上記したように当該分野において周知である(例えば、Sambrookら、上記参照)。従って、任意のインフルエンザウイルスサブタイプは潜在的に、インフルエンザウイルスの遺伝子の分子クローニングのための核酸供給源として役立ち得る。DNAは、化学合成によるクローン化DNA(例えば、DNA「ライブラリー」)より当該分野で公知の一般的な方法によるcDNAクローニンングによって、所望される細胞より精製したゲノムインフルエンザウイルスDNAもしくはその断片のクローニングによって得ることができる(例えば、Sambrookら、上記を参照)。好ましい実施形態において、ゲノムインフルエンザウイルスDNAは、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)株またはA/Hong Kong/156/1996(H5N1)株より得られる。
【0044】
ゲノムインフルエンザウイルスDNAを得たら、DNA断片を作製でき、これらのうちのいくつかは、所望される遺伝子をコードする。DNAは当該分野において周知である様々な制限酵素を用いて特定の部位で切断できる。あるいは、DNAは、DNAseを使用することによってまたは物理的にせん断することによって(例えば、音波処理によって)、断片化することができる。次に、線状DNA断片を、一般的な方法(アガロースゲルおよびポリアクリルアミドゲルによる電気泳動ならびにカラムクロマトグラフィーを含むがこれらに限定されない)によって、大きさに従って分離できる。
【0045】
当該分野において周知である多数の方法を用いて、特定のDNA断片を同定することができる。例えば、プローブを用いて、核酸ハイブリダイゼーションを介して既知配列をスクリーニングすることができる。例えば、インフルエンザウイルスタンパク質について得られた部分的なアミノ酸配列情報に対応するオリゴヌクレオチドを作製し、インフルエンザウイルスの遺伝子をコードするDNAに対するプローブとして、またはcDNAもしくはmRNAのプライマーとして(例えば、RT−PCR用のポリ−Tプライマーと組み合わせて)用いることができる。好ましくは、標的インフルエンザウイルスの遺伝子に特有の断片は、プローブとして用いられる。プローブに対してかなりの相同性を有するDNA断片は、ハイブリダイズする。相同性の程度が高くなるほど、よりストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を用いることができる。
【0046】
遺伝子の存在は、その発現産物の物理的、化学的または免疫学的特性に基くアッセイによって検出できる。例えば、特定の抗原特性を有するタンパク質を産生し得る核酸は、例えば、抗体への結合を測定することによって、または免疫応答を誘発するその能力を測定することによって、スクリーニングすることができる。
【0047】
本発明のインフルエンザウイルスDNAはまた、相補的mRNAに対するハイブリダイゼーションによって同定することができる。このような核酸断片は、利用可能な、精製したインフルエンザウイルスDNAを示しても良いし、部分的なアミノ酸配列情報より設計された合成オリゴヌクレオチドであっても良い。インフルエンザウイルスDNAはまた、免疫沈降分析またはin vitro翻訳産物の機能アッセイ(例えば、チロシンホスファターゼ活性)によって同定できる。
【0048】
本発明は、単離された核酸によってコードされるインフルエンザポリペプチドに関する。これは、任意のインフルエンザウイルス供給源に由来するインフルエンザウイルスタンパク質の全長タンパク質または天然の形態およびそれらの断片を含む。当業者は、当該分野において周知である従来方法を使用して、インフルエンザウイルスタンパク質またはそれらの断片を、所望される特性(例えば、抗原性)に基いて選択することができる。非限定的な例としては、(例えば、ELISAによって)インフルエンザ特異的抗体に対する結合能についてスクリーニングすることによって、または(例えば、ELISPOTによって)細胞仲介免疫応答の誘発能をスクリーニングすることによって、インフルエンザウイルスタンパク質またはそれらの断片をスクリーニングすることを含む。一実施形態において、インフルエンザポリペプチドは、ヘマグルチニンまたはそのサブユニットである。別の実施形態において、インフルエンザポリペプチドはHA1である。
【0049】
インフルエンザウイルスの遺伝子産物に関する誘導体および類似体の産生および使用は、本発明の範囲内である。インフルエンザウイルスの遺伝子産物誘導体は、機能的に同等な分子を生じる置換、付加または欠失によってコード核酸配列を改変することによって作製することができる。好ましくは、誘導体は、天然のインフルエンザウイルスタンパク質と比べて増強または増加した抗原活性を有するように作製される。
【0050】
5.3. ワクチン
本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターをワクチンとして用いて、インフルエンザによる感染の危険性を減らすことができる。かかるベクターをワクチンとして用いる場合、本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターを、公知の方法を使用して個体に投与する。投与は、従来の投与経路および/または目的の病原体の感染経路を模倣する経路によって行うことができる。複製欠陥アデノウイルスベクターと共に生理学的に許容可能な担体を含むワクチン組成物を投与することができる。組成物はまた、免疫賦活剤もしくはアジュバント、香味剤または安定剤を含んでも良い。
【0051】
従来的および医薬的に許容可能な投与経路としては、鼻腔内、筋肉内、気管内、腫瘍内、皮下、皮内、静脈内、直腸、経鼻、経口および他の非経口的投与経路が挙げられる。所望される場合、抗原ペプチドまたは疾患に応じて、投与経路を、組み合わせたり、調整したりしてもよい。ワクチン組成物は、単一用量または複数用量で投与でき、また追加免疫用量の投与を含み、免疫性を誘発および/または維持することができる。
【0052】
複製欠陥アデノウイルスベクターワクチンを「有効量」で投与する。有効量とはすなわち、選択した投与経路において、病原性有機物(すなわち、インフルエンザウイルス)による感染または感染に関連する症状に対して宿主を保護するのに効果的な免疫応答を誘発するのに有効な複製欠陥アデノウイルスベクターの量である。いくつかの実施形態において、複製欠陥アデノウイルスベクターワクチンの「有効量」は、投与経路において、インフルエンザウイルス感染に関連する症状を低減もしくは抑制するか、またはインフルエンザウイルス感染が生じる可能性を減少させるのに有効な免疫応答を誘発するのに効果的な、複製欠陥アデノウイルスベクターの量である。
【0053】
各ワクチン用量における複製欠陥アデノウイルスベクターの量は、一般に典型的なワクチンに関連する重大な副作用を生じることなく、免疫防御または他の免疫治療反応を誘発する量が選択される。このような量は、ワクチン製剤がアジュバントを含むにせよ、ベクターにコードされる核酸および様々な宿主による要因によって変わる。複製欠陥アデノウイルスベクターワクチンの有効な用量は一般に、約2×1010〜約10×1010のウイルス粒子の投与を含む。一実施形態において、約4×1010〜約7×1010のウイルス粒子を投与する。別の実施形態において、約5×1010のウイルス粒子を投与する。特定のワクチンについての最適な量は、抗体の力価および被験体における他の反応を観察することを含む一般的な研究によって確認することができる。ワクチンによって生じる免疫レベルを測定し、追加免疫の必要性を決定することができる。血清中の抗体力価を調べた後、必要に応じて追加免疫による免疫化が求められ得る。本発明のタンパク質に対する免疫応答は、アジュバントおよび/または免疫賦活剤を使用することによって増強できる。
【0054】
5.4. ワクチン組成物
本発明はさらに、本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターを含む組成物(医薬組成物を含む)を提供する。
【0055】
本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターを含む組成物は、緩衝液を含み得る。多くの好適な緩衝液は、当該分野において周知であり、当業者は適切な緩衝液を選択することができる。いくつかの例において、組成物は、医薬的に許容可能な賦形剤を含むことができ、賦形剤の多くは、当該分野において
公知であるため、本明細書中において詳細に考察する必要は無い。
【0056】
ワクチンとして用いる場合、本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターを種々の方法で製剤化することができる。一般的に、本発明のワクチンは、当該分野において周知である方法に従って、好適な医薬担体および/またはビヒクルを使用して製剤化される。好適なビヒクルは滅菌食塩水である。医薬的に許容可能な担体として知られ、また当業者に周知である他の水溶性および非水溶性の等張性無菌注射用溶液ならびに水溶性および非水溶性無菌懸濁液を製剤化に用いることができる。
【0057】
場合によって、本発明のワクチン組成物は、他の成分(例えば、アジュバント、安定剤、pH調整剤、保存剤など)を含んで処方できる。このような成分は、当業者に周知である。
【0058】
本発明のワクチン組成物は、それぞれ異なるインフルエンザウイルスポリペプチドを有する複数の複製欠陥アデノウイルスベクターを含み得る。
【0059】
5.6. 治療方法
本発明はまた、複製欠陥アデノウイルスベクターを哺乳動物に投与することを含む該哺乳動物に免疫応答を誘導する方法に関連し、かかるベクターはA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含み、当該ポリペプチドは、該哺乳動物にインフルエンザに結合する抗体の産生を誘発する。
【0060】
本発明は、本発明のA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を有する複製欠陥アデノウイルスベクターを被験体に投与することを含む、抗原に対する免疫応答を誘発する方法を提供し、かかる複製欠陥アデノウイルスベクターは細胞に侵入し、A型インフルエンザポリペプチドを発現し、そしてA型インフルエンザポリペプチドに対する免疫応答を誘発する。ポリペプチドは、様々な長さであり得、正常な宿主細胞による修飾(例えば、グリコシル化、ミリスチル化またはリン酸化)に付され得る。ポリペプチドは改変され、例えば、シグナル配列を使用することによって、細胞内、細胞外または細胞表面に発現され得る。
【0061】
本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターは、単独で、または上記の組成物に含めて投与することができる。本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターは、DNAの取り込みを促すか、または免疫応答を促進し得る他の薬物もしくは物質と同時投与できる。
【0062】
本発明との関連で、本明細書中に記載される方法および組成物を使用して、インフルエンザ感染に対する免疫防御反応を、インフルエンザによる感染に感染しやすい被験体(ヒトまたはヒト以外)に誘導できる。免疫応答が有効であるか否かは、一般的なアッセイ(インフルエンザ症状の進行を監視すること、インフルエンザ特異的抗体を調べること、またはインフルエンザ抗体を分泌している細胞を調べることを含むが、これらに限定されない)によって決めることができる。
【0063】
複製欠陥アデノウイルスベクターの投与は、当該分野で公知の任意の方法(静脈内、腹腔内、皮内、皮下、筋肉内、鼻腔内または吸引投与を含むがこれらに限定されない)によって実施できる。一実施形態において、被験体は、複製欠陥アデノウイルスベクターを経鼻吸入による粘膜経路を介して投与される。粘膜投与はまた、点鼻薬を用いることによって実施できる。粘膜投与経路としては、鼻孔、気管、舌または粘膜を含み得る。
【0064】
ワクチン接種したら、被験体をモニターし、ワクチン療法による効果を決定することができる。当業者に公知である任意の方法によって、ワクチン療法の効果を調べることができる。一実施形態において、血液または体液のサンプルをアッセイして、インフルエンザに特異的な抗体のレベルを検出することができる。別の実施形態において、ELISPOTを行い、インフルエンザに対する免疫応答を検出できる。
【0065】
一実施形態において、インフルエンザポリペプチドHAまたはその断片をコードする核酸を有する複製欠陥アデノウイルスベクターを使用して免疫を獲得する。特定の実施形態において、ポリペプチドは、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)(以下「VN/1203/04」)株由来のHA1サブユニットである。別の実施形態において、ポリペプチドはA/Hong Kong/156/1997(H5N1)株由来のHA1サブユニットである。
【実施例】
【0066】
6. 実施例
6.1.実施例1:インフルエンザを発現するアデノウイルスベクターの作製
3種のE1/E3欠失アデノウイルス血清型5型系ベクターを作製した。これらのベクターは、コドン最適化したインフルエンザA/Vietnam/1203/2004(H5N1)(VN/1203/04)の全長ヘマグルチニン(HA)またはHA1サブユニット(それぞれAd.VN1203.HA、Ad.VN1203HA1)およびインフルエンザA/Hong Kong/156/1997(H5N1)(HK/156/97)HA1(Ad.HK156HA1)を発現する。コドン最適化および遺伝子合成方法(Gao, 上記)により、野生型配列と比較して、ウイルス抗原の発現レベルを増加させ、またH5N1ウイルスを使用することなく組換え導入遺伝子の産生を可能にした。組換えアデノウイルスベクターの作製は、疾病対策センターより2004 Vietnam株のインフルエンザVN/1203/04 HA配列を受けた後、36日で完了した。これは、本発明によるアデノウイルス系ワクチンの開発についての迅速性を示す。
【0067】
6.1.1. IFN−γについてのELISPOTアッセイ
96ウェル被膜プレート(Millipore, Bedford, MA, USA)を、マウスIFN−γに対する10μg/ml mAb(AN−18;Mabtech AB, Mariemont, OH, USA)を用いて0.1 M 炭酸緩衝液中にて一晩インキュベートした。事前に凍結した脾細胞を解凍し、1ウェルあたり1×105〜2×105個の細胞を10%ウシ胎児血清を添加した培地に播いた。11アミノ酸だけ重複し、かつH5N1インフルエンザ株VN/1203/04およびA/HK/156/97(Sigma Genosys, The Woodlands, TX, USA)に由来する全長HA配列を示す各15merのペプチドを10 mg/mlにてDMSOに溶解し、19〜30ペプチドのプール(最終濃度3.33〜5.26μg/ml)、9〜10ペプチドのプール(5.0〜5.5μg/ml)またはこれまでに記載されるように5.0μg/mlにてそれぞれ用いた。Brown,(上記)。
【0068】
6.1.2. マウスにおけるIN VIVO免疫化
7匹ずつ4群のBALB/c マウスを5×1010ウイルス粒子のAd.VN1203.HA、Ad.VN1203HA1、Ad.HK156HA1(Ad.HA)または空ベクター Ad.Ψ5を用いて筋肉投与により免疫化し、14日後に追加免疫を行った。免疫化した動物由来の血清を、10日、24日および31日目にドットブロット分析によって抗体について初回スクリーニングを行い、全ての免疫化動物においてHA特異的抗体反応を同定した。次に抗インフルエンザウイルス H5N1中和抗体をH5特異的ELISAまたは中和試験(microneutralization)アッセイによって分析した。Rowe T.ら、J. Clin. Microbial. 1999;37(4):937−43参照。Ad.HAを用いてワクチン接種した全ての群は、高い力価のH5特異的 IgGを生じた(表1)。VN/1203/04またはHK/156/97に対する中和抗体は、対照Ad.Ψ5またはAd.VN1203HA1を用いて2回免疫化した群では検出されなかった。これに対して、Ad.VN1203.HAを用いて免疫化したマウスおよびAd.HK156HA1 を受けたマウスのうち何匹かにおける相同的サブタイプに対する中和抗体は、初回投与から10日目に検出され、力価は、追加免疫による免疫化から7日および14日後に大幅に増加した。とりわけ、Ad.VN1203.HAを用いて免疫化したマウスに由来する血清は、HK/156/97異種株を交叉中和することができた(表1)。
【0069】
ワクチンにより誘導された細胞性免疫を、第3回の免疫化を受けてから9日後に、1群あたり2匹のマウスで実施したIFN−γELISPOTアッセイによって調べた。全長VN/1203/04 HAタンパク質を表す重複している15merペプチドおよびHK/156/97の非コンセンサス配列をプールし、免疫の強さと幅(広さ)を調べた。次に、個々のエピトープを含むペプチドを、各ペプチドが2つのプールによって表されるマトリックスの分析により同定した。Brown, K.ら、J Immunol. 2003;171(12): 6875−82参照。HAに対する筋肉内免疫化を受けた全ての動物は、強力な細胞性応答を生じた。かかる細胞性応答は、マウス40において500個の新たに単離された脾細胞あたり1 HA特異的T細胞の最高の強さに達する(図1a)。累積的細胞性免疫応答は一般にHA領域特異的であり、Ad.VN1203.HAで免疫化した動物のみが、全長HAタンパク質の全体に反応するT細胞を生じた(図1a)。株特異的細胞性免疫のさらなる分析により、Ad.VN1203HA1またはAd.HK156HA1を用いた免疫化によって、VN1203−BおよびVN1203−Cのプール内に含まれるA/VN/1203/04コンセンサス配列に対する応答を誘導できることが示された。対して、Ad.HK156HA1による免疫化は、A/HK/156/97−特異的プールHK156−D応答を誘導する必要があった(図1b, c)。ワクチンにより誘導された免疫応答の詳細な特徴付けにより、免疫化群につき4つの優勢なペプチド標的を同定した(図1e, f, g)。とりわけ、免疫優勢VN1203.HA1p213−227および準優勢なVN1203.HA1P241−255領域に対する応答はHA1免疫化株にかかわらず保存されていた(図1e, f)。Ad.VN1203HA1 免疫化により誘導された細胞性免疫はVN1203.HA1P145−159 / VN1203.HA1P149−163ペプチドに対するものであり、これはこの領域内に共通のエピトープが存在することを示唆した。さらに、Ad.HK156HA1により免疫化された動物は、A/HK/156/97に特有のHK156.HA1p145−159 / HK156.HA1p149−163ペプチドに対する株特異的免疫性を示した(図1f)。興味深いことに、全長HAタンパク質をコードするAd.VN1203.HAによる免疫化は、潜在的に余分なエピトープの改変またはペプチドの選択的プロセシングにより、HA1−特異的免疫応答が変化した。Ad.VN1203.HA 免疫化は、VN1203.HA1p153−167およびVN1203.HA1p157−171内に含まれるSFFRNVVWLIKK エピトープに対する以前に特徴付けされた応答に加えて、A/VN/1203/04のHA2部分に含まれるVN1203.HA2p529−543 /VN1203.HA2p533−547 配列、ならびに非コンセンサスHK156.HA1p153−167ペプチド内に免疫優勢エピトープが存在すること示した(図1g)。
【0070】
2回目の免疫化から112日後に、全てのマウスを、100 LD50(50%致死感染用量)のVN/1203/04ウイルスを用いた鼻腔内接種によってチャレンジした。チャレンジから3日後までに、対照Ad.Ψ5 ベクターを用いて免疫化した全ての動物は、かなり体重が減り、その後チャレンジから6〜9日後の間に死亡した(表1)。これに対して、Ad.HAを接種した動物は、感染から14日後においても疾患の臨床的徴候を示さず、またわずかに、かつ一過的に体重が減少しただけであった。
【0071】
これらのデータは、複製欠陥アデノウイルス系ワクチンが、世界的に流行するH5株の出現に対する第一次の迅速な応答として有効であり得ることを示した。
【0072】
6.3. 実施例3:マウスにおけるIN VIVO 免疫化
6.3.1. インフルエンザウイルス
本研究に用いたインフルエンザウイルスは、A/Hong Kong/156/97(H5N1)(HK/156/97)およびA/Vietnam/1203/2004(H5N1)(VN/1203/04)であった。ウイルスストックを、10日齢の発育鶏卵の尿膜腔において、37℃で26時間増殖し、分注して、そして使用するまで−70℃で保存した。
【0073】
6.3.2. 遺伝子合成およびアデノウイルスベクターの構築
VN/1203/04由来のHA、HA1およびHA2 遺伝子ならびにHK/156/97由来のHA1遺伝子を、上記のように、UpGeneアルゴリズム(www.vectorcore.pitt.edu/upgene.html)を使用して、オリゴヌクレオチドを重複させることによってコドン最適化した。Gao, 上記参照。コドン最適化遺伝子を発現するE1/E3欠失アデノウイルスベクターを、アデノウイルスパッケージング細胞株CRE8へのCre−lox組換えを使用して構築した。Hardy, S.ら、J Virol. 1997, 71:1842−1849参照。組換えアデノウイルスを、CRE8細胞中で増殖し、塩化セシウム密度勾配遠心分離および透析により精製し、−70℃で保存した。アデノウイルス粒子の濃度測定は、ATCCより得られるアデノウイルス参照物質(Adenovirus Reference Material:ARM)に基く有効アッセイを用いた分光光度計分析によって行った。
【0074】
コドン最適化された4つのHA遺伝子を発現するE1/E3欠失アデノウイルス血清型5型系ベクターは、VN/1203/04ウイルス由来の全長タンパク質またはHA1もしくはHA2サブユニット(Ad.VNHA、Ad.VNHA1、Ad.VNHA2)のいずれかとして作製した。さらに、このベクターは、A/Hong Kong/156/1997(H5N1)(HK/156/97)ウイルス分離株のHA1部分(Ad.HKHA1)を含んで作製した。この組換えアデノウイルスベクターの作製は、VN/1203/04 HA 配列を得てから36日後に完了しており、これは迅速な開発およびアデノウイルス系ワクチン開発に必要とされる操作の容易性を示している。
【0075】
6.3.3. 動物実験
6週齢BALB/c マウスをマウス実験に用いた。各10匹のマウスからなる8つの群を、5×1010のウイルス粒子のAd.VNHA、Ad.VNHA1、Ad.HKHA1、Ad.VNHA2および空ベクターAdψ5を、0日目および14日目に筋肉内注射して免疫化した。マウスのさらなる群を同様にワクチン接種し、Ad.VNHA、Ad.VNHA1、Ad.VNHA2または空ベクター Ad.Ψ5を用いて追加免疫した(Exp. 2)。全てのマウスより採血し、抗体反応、免疫原性を示し得る防御の代理マーカーについて血清のスクリーニングを行った。Karupiah, G.ら、Scand J Immunol. 1992, 36, 99−105参照。10週目、追加免疫による免疫化から8週間後に、高力価のH5特異的抗体をAd.VNHA2群を除く全てのワクチン接種した動物において検出した。Ad.VNHA2群は、他の全てのワクチン接種した群よりも3桁以上低い力価を有した(図2a)。
【0076】
抗体反応が相同的VN/1203/04およびヘテロサブタイプHK/156/97インフルエンザ株を中和する程度を、ウマ赤血球細胞を用いた赤血球凝集抑制(HI)アッセイにより測定した。Stephensonら、Virus Research 2004, 103, 91−95参照。全長HAを用いたワクチン接種は、相同的およびヘテロタイプの抗体反応を誘導したが、Ad.VNHA1またはAd.HKHA1を用いたワクチン接種は主にワクチン化株に特異的な抗体反応を誘導した(図2b)。全長タンパク質と比べてHA1を用いた場合にわずかな抗体反応が検出されたのはおそらく、HA1サブユニットが、HA2が存在しないことにより三量体構造を欠くためである。血清HI反応の動態は、単一の免疫化が、高レベルの抗HA抗体反応を獲得するのに十分であり得ることを示す(図2c)。
【0077】
70日目に、マウスをCO2を用いて軽く麻酔し、PBSで希釈した50μlの100 LD50のVN/1203/04ウイルスを用いて鼻腔内接種した。マウスLD50力価を、上記のように測定した。Lu, X.H.,ら、J. Virol. 1999, 73:5903−5911参照。チャレンジによる防御の程度を調べるために、各群の8匹のワクチン接種したマウスを、100 LD50のVN/1203/04 H5N1ウイルスを用いて鼻腔内感染させた。1群あたり5匹のマウスを、病気、体重の減少、および死亡について感染後から14日間毎日観察し、1群あたり3匹のマウスを、実験に応じて、ウイルス単離のために感染から3日または6日後に屠殺した。
ワクチン接種により様々な程度の体液性免疫が誘導され、Ad.VNHA2を用いて免疫化した群が顕著に減少したH5特異的抗体反応を有するのであれば、次にワクチン接種に対する細胞性免疫応答を、さらなる追加免疫による免疫化の後1群あたり2匹のマウスを用いてIFN−酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイにより分析した。完全VN/1203/04 HAタンパク質を表す重複15merペプチドおよびHK/156/97の非保存性配列をプールし、免疫性の強さおよび幅を調べた。次に個々のエピトープを含むペプチドを、各ペプチドが2つのプールによって表されるマトリックスの分析により同定した。Brown, K.ら、J Immunol. 2003;171(12): 6875−82参照。全長HAまたはHA1もしくはHA2サブユニットにより免疫化した全ての動物は、HAペプチドに対する強い細胞性応答を生じ、これはAd.VNHA群において1,200個の新たに単離された脾細胞あたり1 HA特異的T細胞の平均ピーク強度に達した(図3A)。累積的(cumulative)細胞性免疫応答はHA領域−特異的であり、全長HAで免疫化した動物だけが、HA1およびHA2におよぶT細胞反応を生じた(図3a)。ワクチンにより誘導された免疫応答を詳細な特徴付けにより、保存されたおよび特有のペプチド標的を同定した(図3b)。予想されたとおり、保存されたHA1領域VN213−227およびVN241−255に対する細胞性応答が、HA1免疫化株に関わらず誘発されるが、アミノ酸145−163にわたるペプチド(VN/1203/04およびHK/156/97とは異なる)に対する反応は、それぞれのサブタイプにより免疫化した動物に限られた(図3b)。Ad.VNHA2 免疫化により、VN529−543 /VN533−547ペプチドで示されるHA2内の免疫優勢エピトープの存在が示された。Ad.VNHAによる免疫化により、HA1ペプチドVN153−167/VN157−171内に含まれるこれまでに同定されたSFFRNVVWLIKK エピトープ(Hioe, C.E.ら、J Virol. 1990, 64, 6246−6251;Katz, J.M.ら、Biomed Pharmacother. 2000, 54, 178−187)に対する準優勢な応答を誘発した。Ad.VNHAによる免疫化は、Ad.HA1が唯一の免疫原である場合に見られるHA1−特異的免疫応答の性質を変え、準優勢なVN529−543/VN533−547であったVN145−159/VN149−163、VN213−227およびVN241−255に対するわずかな応答を生じた(図3b)。これらのデータは、アデノウイルス系ワクチン接種が、HAに対する強い細胞性免疫応答を生じることを示し、HA2ワクチン接種の場合には、体液性免疫応答に対して優勢であるように思われる。
【0078】
第2次免疫化から8週間後、全てのマウスを100 LD50(50% 致死用量)のVN/1203/04を用いて鼻腔内接種によってチャレンジした。対照Ad.Ψ5 ベクターを用いて免疫化した全ての動物は、チャレンジ後3日目より体重がかなり減少し、チャレンジから6〜9日後に死亡した。対して、Ad.VNHA、Ad.VNHA1およびAd.HKHA1により免疫化した全ての動物は、わずかに一過的に体重が減少しただけであり、致命的なチャレンジでも生き残った(図4a, b)。Ad.VNHA2を用いて免疫化した全ての動物は、体重がかなり減少したが、本群の5匹のうち3匹は、8日後には体重が増え、完全に回復した(図4a, b)。この回復は注目すべき事実です。それはHA2によるワクチン接種がこれまで増強されたウイルスのクリアランスにのみ関連していた主に細胞性免疫応答およびインフルエンザ感染からの回復を誘発するというものである。Moss P., 2003, Dev Biol(Basel). 115, 31−37参照。チャレンジから3〜6日後に、1群あたり3匹の動物をウイルスを単離するために屠殺した。感染性ウイルスを、対照ワクチンを接種した群、および様々な度合いで、HA1もしくはHA2サブユニットを用いてワクチン接種した動物における複数の器官から単離した。これに対して、全長HAでワクチン接種したマウスに由来する器官より、感染から3日後に非常に低レベルのウイルスを単離し(0.5 log10 平均ウイルス力価, Exp. 1)、感染から6日後では全く単離されなかった(< 0.5 log10 平均ウイルス力価, Exp. 2)(図4c)。
【0079】
6.5. 実施例4:ニワトリのIN VIVO免疫化
6.5.1. 方法
本研究で用いたインフルエンザウイルスはA/Hong Kong/156/97(H5N1)(HK/156/97)およびA/Vietnam/1203/2004(H5N1)(VN/1203/04)であった。ウイルスストックを、実施例3に記載したように培養した。遺伝子合成およびアデノウイルスベクターの構築も、実施例3に記載するように実施した。
【0080】
トリの研究については、養鶏場(SEPRL, USDA)由来の特定の病原体に感染していない3週齢のニワトリ(single comb white leghorn chcked)を用いた。各10匹のニワトリの群を5×1010のウイルス粒子のAd.VNHAまたはAdΨ5を鼻腔内または皮下投与して免疫化した。6週齢にてニワトリを、106 EID50のVA/1203/04ウイルスを用いて後鼻孔口(choanal slit)より鼻腔内チャレンジして、防御を測定した。そのニワトリを、病気、体重の減少および死亡について、感染から14日間毎日観察した。赤血球凝集抑制(HI)抗体を検出するために血清を3、6および8週齢時に採取した。
【0081】
HIおよびELISAアッセイ。マウスより免疫血清を伏在静脈より採血して回収し、H5特異的抗体の存在を調べる前に、Vibrio cholerae由来の受容体破壊酵素(Denka−Seiken, San Francisco, CA, USA)を用いて処理した。Kendal,ら、In Concepts and procedures for laboratory−based influenza surveillance, Atlanta, CDC, B17−35.(1982)参照。HIアッセイを、上記したようにウイルスの4つのHAユニットおよび1% ウマ赤血球細胞を用いて実施した。Stephenson,(上記)参照。インフルエンザH5N1−特異的IgG 抗体を、1μg/mlの精製したバキュロウイルスによって発現されるVN/1203/04ウイルス由来の組換えH5 HAタンパク質(Protein Sciences Corporation, Meriden, CT, USA)を用いてプレートを被覆したことを除いて、上記と同様に酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって検出した(Katz, J.M.,ら、J. Infect. Dis. 1997, 175:352−363)。ELISAエンドポイント力価は、同様に希釈したネガティブコントロールサンプルの平均プラス1標準偏差の2倍よりも大きな光学密度を生じた最高希釈率として表した。
【0082】
6.5.2. 結果
マウスモデルにおけるワクチン接種およびチャレンジに対する有望な反応の後に、東南アジアにおけるHPAIの拡大にこの種が果たす重要な役割を鑑みて、ニワトリにおけるアデノウイルス系ワクチン接種の効果を調べた。Chen, H.ら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2004, 101:10452−10457参照。ニワトリにおけるH5N1感染の重篤性は、マウスとは異なる。なぜなら、ニワトリはチャレンジ後2日以上生存していることは稀であるが、未処置のマウスの平均生存日数は8日間である。当該ワクチンにより免疫化したマウスにおいて示される優れた防御を鑑みて、実験は全長HAを使用したワクチン接種に限定した。
【0083】
上記のように、10匹の3週齢ニワトリからなる4つの群を、5×1010のウイルス粒子のAd.VNHAまたは空ベクター Ad.Ψ5を用いて皮下または鼻腔内免疫化し、21日後に106 EID50のVN/1203/04を鼻腔内接種してチャレンジした。このウイルス用量は、マウスに与えたものよりも10,000倍高く、ニワトリが天然の大流行にて経験するよりもかなり高いチャレンジであると思われる。皮下免疫化群の全てのニワトリにおいて、ワクチン接種により、VN/1203/04に対するHI抗体が誘導された(表2)。これらのニワトリは、ウイルスによるチャレンジ後に追加免疫された。この群における全ての動物は、疾患の検出可能な臨床的徴候もなくチャレンジを生き延びた(表2)。これに対して、全ての対照免疫化ニワトリは、死亡し、その平均生存日数は1.8日間であった。Ad.VNHAを用いて鼻腔内免疫化したニワトリのうち1匹のみが、HI抗体を有していたが、群としては、ニワトリは、チャレンジ後50%の疾病率および50%の死亡率を示した(表2)。鼻腔内免疫化により得られる乏しい防御は、皮下経路と比較して、鼻腔内経路によるアデノウイルス血清型5型による限定された感染を反映し得る。ウイルスの力価の口腔および排泄腔の測定は、皮下投与されたワクチンがチャレンジウイルスの複製を非常に減少させ、その結果、ウイルスは胃腸(GI)菅において検出されず、レベルは気道において3桁も減少したことを示した(表2)。
【0084】
インフルエンザワクチン接種の新規ストラテジーが、家禽種におけるHPAIのまん延を制御するために、およびヒトからヒトへの感染能が明らかとなったら、ヒトでのHPAIの世界的な流行を防ぐために至急必要とされていることは、広く受け入れられている。本発明は、致命的な鼻腔内チャレンジに対して防御を与えることができる幅広くかつ有効なHA特異的な体液性免疫応答および細胞性免疫応答を誘導することができるアデノウイルスに基く免疫化の能力を示す。他のワクチンの使用におけるアデノウイルスを用いた免疫化への期待(Shiver J.W.ら、Nature 2002, 415:331−335;Sullivan, N.J.ら、Nature 2003, 424:681−684)およびヒトにおけるインフルエンザHAワクチンを用いたアデノウイルスに基く免疫化の有望な結果を与える。幅広い交叉保護的ワクチン接種は、家畜動物およびヒトにおいて有用であり得、アデノウイルスベクターは、発育鶏卵において従来の方法によってワクチンを増殖させることに取って代わる実用的なものであり得る。Adamら、J. Gen. Virol., 1995, 76(12):3153−3157参照。
【0085】
これらの知見は、致命的な鼻腔内チャレンジによって防御を生じる、幅広くかつ強力なHA特異的な体液性免疫応答および細胞性免疫応答を誘導する、アデノウイルスに基く免疫化の能力を示す。マウスにおいて不活性化H5N1インフルエンザウイルス全体のワクチンを使用したこれまでの研究は、株特異的中和抗体が、相同的インフルエンザウイルスによるチャレンジに対して長く持続する防御を生じるが(Subbarao, K.ら、Virology 2003, 305:192−200)、防御は抗原的に変異したウイルス株(例えば、ヘテロタイプHAウイルス株)に対して制限されていることを示した。本明細書中に示されるデータは、アデノウイルスに基く免疫化が抗原ドリフトしたウイルス株もカバーする幅広い防御を与えうる液性応答および細胞性応答の両方刺激することを示す。2つの最近の研究は、ブタおよびマウスにおけるアデノウイルス−ベクター化インフルエンザHA(H3N2)ワクチンの効能および免疫原性を示しており、また中和体液性免疫がない場合はヘテロタイプのチャレンジによる交叉的保護が生じ得ることを示している。Swayneら、Avian Dis., 2003, 47:1047−1050;Wesleyら、Vaccine, 2004, 22:3427−3434参照。
【0086】
アデノウイルス血清型5型に対するいくつかの集団の天然のベクター特異的免疫性(Nwanegbo, E.ら、Clin Diagn Lab Immunol. 2004, 11:351−357)は、HPAIに対する世界的なワクチン接種が実行された場合に、ワクチンの効能を潜在的に減少させ得、ヒト免疫不全ウイルスおよびエボラウイルスに対してアデノウイルス血清型5型に基くワクチンが有望であることを示し(Shiver J.W.ら、Nature 2002, 415:331−335;Sullivan, N.J.ら、Nature 2003, 424:681−684)、臨床試験に進められている。重要なことには、ワクチン接種は、既存の抗アデノウイルス抗体の存在にかかわらず、抗インフルエンザ中和抗体を誘導することにおいて非常に有効であることが見いだされ、このことはベクター特異的免疫性が克服され得ることを示した。同文献参照。あるいは、種々の異なるヒトおよびサルのアデノウイルス血清型は、代替的なベクターにより開発されたものであり、これは既存の血清型5型−特異的免疫性の問題を生じる可能性がある。Farinaら、J. Virol., 2001, 75:11603−11613;Gao, W.ら、Gene Ther. 2003, 10: 1941−1949;Meiら、J. Gen. Virol., 2003, 84:2061−2071;Pintoら、J. Immunol., 2003, 171:6774−6779参照。
【0087】
本発明は、HPAIの世界的流行の事象が生じた場合に、第1の迅速な応答として複製欠陥アデノウイルス系ワクチンを開発することを支持する。ニワトリに防御免疫性を誘導した場合、感染しやすい家禽の幅広い免疫化は、HPAIまん延に対する有効なバリアを生じ、かつ経済的にも有利であり得る。さらに、ワクチン接種治療計画はまず、医療従事者および動物飼育係などの高い危険性にあるヒト集団を標的とし得る。最終的に、致命的なヒト疾患の世界的流行による最悪のシナリオにおいて、アデノウイルスベースの免疫化を用いて、従来の不活性化インフルエンザワクチン技術を補完するか、または天然痘ウイルスの制御において実施されたようなリングワクチン接種ストラテジーなどの従来のワクチン接種ストラテジーを用いることによるものであり得る。
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
参考文献
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
様々な参考文献が本明細書中に引用されるが、これらはその全体が本明細書中に参照として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1A】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。A)全付加的細胞性免疫応答は、VN1203HAおよびHK156HAのHA1(黒)配列またはHA2(白)配列に対するものであった。
【図1B】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。B−D)参照 VN1203HA株(VN.A, VN.B, VN.C)またはHA1(黒)およびHA2(白)領域の非保存性HK156HA配列(HK.D)を含むペプチドのプールに対する株特異的細胞性免疫の分布。
【図1C】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。B−D)参照 VN1203HA株(VN.A, VN.B, VN.C)またはHA1(黒)およびHA2(白)領域の非保存性HK156HA配列(HK.D)を含むペプチドのプールに対する株特異的 細胞性免疫の分布。
【図1D】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。B−D)参照 VN1203HA株(VN.A, VN.B, VN.C)またはHA1(黒)およびHA2(白)領域の非保存性HK156HA配列(HK.D)を含むペプチドのプールに対する株特異的 細胞性免疫の分布。
【図1E】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。E−G)保存されたペプチドエピトープおよび株特異的ワクチンによって誘導されたペプチドエピトープの特徴。
【図1F】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。E−G)保存されたペプチドエピトープおよび株特異的ワクチンによって誘導されたペプチドエピトープの特徴。
【図1G】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。E−G)保存されたペプチドエピトープおよび株特異的ワクチンによって誘導されたペプチドエピトープの特徴。
【図2A】ワクチン接種したマウスにおける体液性免疫応答。(a)抗H5N1 HA IgG 抗体反応。二次免疫から8週間後に、1群あたり8匹のマウスより血清を回収し、精製したVN1203 HA 組換えタンパク質を使用して、H5N1サブタイプ特異的 IgG 抗体の存在についてELISAによって調べた。抗体の力価を、逆数エンドポイント(reciprocal endpoint)力価のlog10値で表す。
【図2B】ワクチン接種したマウスにおける体液性免疫応答。(b)血清 HI 抗体反応。血清を、二次ワクチン接種から8週間後に回収し、VN/1203/04(上)ウイルスまたはHK/156/97(下)ウイルスに対するHI 抗体について、それぞれ調べた。個々のマウスのHI 抗体の力価を、ウイルスの4 HA ユニットによる1% ウマ 赤血球の凝集を阻害する血清の最高希釈率の逆数のlog2値として表す。横軸は、各群の幾何平均を表す。
【図2C】ワクチン接種したマウスにおける体液性免疫応答。(c)血清 HI 抗体産生の反応速度。Ad.VNHA(黒三角), Ad.VNHA1(黒四角), Ad.HKHA1(×),または空ベクター Ad.Ψ5(白菱形)。
【図3A】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(a)15merペプチドのプールを使用したIFN−γELISPOTによって測定される、二次追加免疫から3〜5日後に採取された脾細胞のHA1−およびHA2−特異的応答。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【図3B】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(b)示されるような個々の15merペプチドを使用したIFN−ELISPOTにより測定される、個々のエピトープ特異的応答の同定。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【図4A】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(a)15merペプチドのプールを使用したIFN−γELISPOTによって測定される、二次追加免疫から3〜5日後に採取された脾細胞のHA1−およびHA2−特異的応答。(b)示されるような個々の15merペプチドを使用したIFN−ELISPOTにより測定される、個々のエピトープ特異的応答の同定。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【図4B】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(a)15merペプチドのプールを使用したIFN−γELISPOTによって測定される、二次追加免疫から3〜5日後に採取された脾細胞のHA1−およびHA2−特異的応答。(b)示されるような個々の15merペプチドを使用したIFN−ELISPOTにより測定される、個々のエピトープ特異的応答の同定。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【図4C】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(a)15merペプチドのプールを使用したIFN−γELISPOTによって測定される、二次追加免疫から3〜5日後に採取された脾細胞のHA1−およびHA2−特異的応答。(b)示されるような個々の15merペプチドを使用したIFN−ELISPOTにより測定される、個々のエピトープ特異的応答の同定。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【技術分野】
【0001】
関連する優先権に対する相互参照
本出願は、米国仮特許出願第60/634,660号(2004年12月9日出願)の優先権を主張し、またその全体が本明細書中に援用されている。
【0002】
1. 発明の分野
本発明は、インフルエンザワクチン接種、特に世界的に流行するトリインフルエンザに応答するワクチンの迅速な開発、および被験体における免疫応答の誘導方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2. 発明の背景
野生の水鳥(既知の全てのA型インフルエンザウイルスの天然の宿主)は、家畜である家禽において高致死性疾患の孤発性の大流行を引き起こすウイルスの供給源である。家禽における高病原性トリインフルエンザ(HPAI)株の最近の発生、続く東南アジアにおけるヒトへの感染は、家禽において頻繁な大流行を伴い、数億もの動物の破滅をもたらした。そのため、致命的な疾患が世界的にまん延する可能性に対する懸念が高まっている。(非特許文献1、および非特許文献2参照)。1997年に、高病原性トリインフルエンザH5N1が、香港において家禽からヒトへと伝染し、18名の感染者と6名の死者を生じ、2003年の再発では、2件の同様な症例を生じ、1名の死者を生じた(非特許文献2および非特許文献3)。2003〜2005年には、HPAI H5N1の甚大な大流行が9カ国のアジアの国で生じ、タイで19名、ベトナムで91名、インドネシアで7名、カンボジアで4名、ヒトにおける症例を生じ、合計で62名の死亡が報告された。さらに、家族集団におけるH5N1感染は、ヒトからヒトへの伝染の可能性を高めていた。H5N1ウイルスによる継続したヒトへの曝露および感染により、現在H5N1特異的免疫性を欠く全世界のヒト集団内にて効率的に伝染し得るトリ−ヒトリアソートメントウイルス発生の可能性も増加する。トリ−ヒトおよびブタ−ヒトのA型インフルエンザウイルス間のこのようなリアソートメントの事象は、1957年および1968年のインフルエンザ大流行と関連しており、1918年の大流行の事象については未だ明らかではない。
【0004】
世界的に流行するH5株発生の可能性ならびにそれに伴う疾病率および死亡率に対する懸念のために、有効なワクチンの探索に拍車がかかっている。従来の不活性化H5ワクチンは、臨床試験において継続して評価されているが、従来の不活性化インフルエンザワクチンの限られた生産能力は、ワクチン接種によりトリインフルエンザの世界的流行を制御する能力の重大な妨げとなり得る。したがって、予測不可能な将来の大流行に対して迅速かつ有効な選択肢を提供する代替的なアプローチが、至急必要である。インフルエンザワクチン接種の現在のストラテジーは、ワクチン製造に必要とされる時間によって制限されている。本発明は、世界的に流行するトリインフルエンザに応答するワクチンを迅速に開発するための方法および組成物を提供する。
【非特許文献1】Liら、Nature, 2004, 430:209−213
【非特許文献2】Yuenら、Lancet, 1998, 351:467−471
【非特許文献3】Nicholsonら、Lancet, 2003, 362:1733−17452.1. インフルエンザウイルス インフルエンザウイルスは、3つの型、すなわちA型、B型およびC型からなる。A型インフルエンザウイルスは、例えば、ヒト、ウマ、ブタ、フェレットおよびニワトリを含む様々なトリおよび哺乳類に感染する。B型およびC型インフルエンザは、ヒトにのみ存在する。A型インフルエンザに感染した動物はしばしば、インフルエンザウイルスの貯蔵庫として作用し、ヒト集団へと伝染する遺伝子的におよび抗原的に多岐にわたるウイルスのプールを生じる。伝染は、ヒトと感染動物との密接な接触、例えば、家畜の世話などにより生じ得る。ヒトからヒトへの伝染は、密接な接触またはせきもしくはくしゃみによって生じる飛沫の吸入により生じ得る。
【0005】
A型インフルエンザウイルス粒子の外側表面は、糖タンパク質ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)を含む脂質エンベロープから成る。HA糖タンパク質は、2つのサブユニット、すなわちHA1およびHA2と呼ばれるサブユニットから成る。HAは、シアル酸結合部位を含み、上気道および下気道の上皮細胞の外膜上にあるシアル酸に結合し、そして受容体が仲介するエンドサイトーシスにより細胞内に吸収される。細胞内に入ると、インフルエンザウイルス粒子はそのゲノムを放出し、当該ゲノムは、核に侵入し、新たなインフルエンザウイルス粒子の産生を開始する。NAもまた産生され、これは細胞表面よりシアル酸を切断し、放出されたインフルエンザウイルス粒子が再び捕捉されるのを防止する。ウイルスは短時間、一般的におよそ5日間インキュベートされるが、インキュベーション期間は大きく変化し得る。ウイルスは、病気が発症するおよそ1日前に分泌され、一般的に3〜5日間存続する。一般的な症状としては、発熱、けん怠感、不快感、頭痛、うずきおよび疼痛、せきならびにのどの痛みが挙げられる。いくつかの症状は、感染後数週間にわたって存続し得る。
【0006】
インフルエンザウイルスの別の株は、HAおよびNA糖タンパク質における変異によって主に特徴付けられ、そのためHAおよびNAは、ウイルスのサブタイプを同定するのに用いられる(すなわち、H5N1は、HAサブタイプ5およびNAサブタイプ1を示す)。このように、インフルエンザワクチンはしばしば、HAおよびNA分子を標的とする。従来のインフルエンザウイルスワクチンはしばしば、不活性化ウイルス全体を用いており、適切なHAおよび/またはNA分子を保有する。あるいは、HAおよびNAタンパク質またはそれらのサブユニットの組換え形態をワクチンとして用いていた。しかし、インフルエンザはRNAウイルスであり、頻繁に変異を生じやすく、ウイルスの抗原組成に一定のおよび永久の変化を生じる。抗原組成とは、免疫系によって認識されるポリペプチド(例えば、抗体結合エピトープ)の部分をいう。抗原組成のささいな、わずかな変化はしばしば、抗原ドリフトと呼ばれる。A型インフルエンザウイルスはまた、リアソートメントと呼ばれる方法において他のサブタイプに由来する遺伝子物質を「スワッピング」することができ、抗原シフトと呼ばれる抗原組成の大きな変化を生じる。ウイルス粒子に対する免疫応答は、HAおよびNA糖タンパク質への抗体の結合に依存しているため、糖タンパク質の頻繁な変化は、インフルエンザウイルスに対する免疫応答の有効性を減少させ、やがて実質的に免疫性の消失を生じる。A型インフルエンザが迅速に抗原シフトできる能力は、新しい株に対する既存の免疫性を欠いているために、インフルエンザの大流行をもたらし得る。
【0007】
2.2. インフルエンザワクチン
インフルエンザウイルスの迅速な抗原ドリフトまたは抗原シフトを行う能力により、インフルエンザの新規株に有効な新規ワクチンが定期的に必要とされる。有効なワクチンは、次回のインフルエンザの季節にまん延することが予想されるインフルエンザウイルス型を含めなければならない。異なる型のインフルエンザが含められた場合、ワクチンは感染に対する防御を生じない。したがって、インフルエンザウイルスワクチンの製造は、どんなインフルエンザウイルスがまん延するのかを予測することを必要とし、また突然の抗原シフトに対処することはできない。したがって、インフルエンザウイルスワクチンをすばやく生産および製造するための方法が当該分野において要求されている。
【0008】
多くのA型インフルエンザサブタイプが、トリに感染することが可能であるが、高病原性ウイルスのごく最近大流行は、サブタイプH5およびH7によって引き起こされた。ウイルスの潜在的な抗原シフトおよび結果として生じるトリにおける免疫性の欠失は、家畜化されたニワトリおよび家禽を含むトリ集団間のウイルスの迅速なまん延を引き起こした。一般的な制御手段は、感染したまたは曝露した全てのトリを処分することであるため、迅速なトリインフルエンザのまん延は、世界的に何百万ものトリを破棄することをもたらした。したがって、トリインフルエンザの大流行は、感染した家禽農場にとって壊滅的なものであり得、甚大な財政的損失を生じる。稀ではあるが、トリインフルエンザによるヒトへの感染も生じている。迅速な抗原シフトおよびトリインフルエンザウイルスの迅速なまん延の可能性により、トリインフルエンザウイルスによって引き起こされる世界的流行が将来的に生じ得るという大きな懸念が存在する。
【0009】
組換えアデノウイルス系ワクチン(recombinant adenovirus-based vaccine)の迅速な生産ならびにかかるワクチンのトリおよび、大流行に直面している高い危険性にある個体への投与により、致命的なトリインフルエンザの世界的流行を制御し得る。従来の不活性化インフルエンザワクチンの非常に長い開発時間および限られた生産能は、ワクチン接種によりトリインフルエンザの世界的流行を制御することを大きく妨げ得る。そのため、大量のインフルエンザワクチンを迅速に開発するためおよび大量生産するための方法が、当該分野において要求されている。本発明は、ベトナムにおいて2003〜2005年にヒトにて致命的な大流行をもたらした際に単離されたA/Vietnam/1203/2004(H5N1)(VN/1203/04)株のヘマグルチニン(HA)タンパク質に対するアデノウイルス系A型インフルエンザワクチンの迅速な開発を提供する。マウスのワクチン接種により、HA特異的抗体および異型免疫を生じ得る広範な細胞性免疫を生じた。全長HAを用いてワクチン接種したマウスは、VN/1203/04を用いた致命的な鼻腔内チャレンジより完全に防御された。さらに、単回の皮下免疫化により、VN/1203/04による大量の鼻腔内チャレンジからニワトリを完全に保護した。VN/1203/04は、対照ワクチンを接種した全てのニワトリを2日以内に殺すことができる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
3. 発明の概要
本発明は、世界的に流行し得る可能性のあるトリインフルエンザウイルスに対するアデノウイルス系ワクチン(例えば、アデノウイルス系H5N1インフルエンザワクチン)に関する。これは、本発明のアデノウイルス系ワクチンが免疫応答を誘導することを示す、マウスおよびニワトリにおける研究に少なくとも一部基く。本発明は、それぞれA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を有する複製欠陥アデノウイルスベクターを提供する。本発明は、A/Vietnam/1203/2004インフルエンザウイルス(VN/1203/04)に由来するコドン最適化ヘマグルチニン(HA)遺伝子を発現するE1/E3欠失アデノウイルス血清型5型系ベクターを提供する。本発明によるこれらのベクターを被験体に投与し、インフルエンザに結合する抗体の産生を含むがこれに限定されない免疫応答を誘導し得る。
【0011】
本発明はまた、被験体に免疫応答を誘導するための方法を提供する。例えば、本発明による方法は、被験体に複製欠陥アデノウイルスベクターを投与することを含み、かかるベクターは、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を有し、そして発現されたA型インフルエンザポリペプチドは、被験体においてインフルエンザに対する抗体の産生を誘導する。
【0012】
3.1.定義
本明細書中で用いられる場合、「トリインフルエンザウイルス」とは、トリに感染し得る任意のインフルエンザウイルスをいう。「高病原性トリインフルエンザウイルス(HPAI)」とは、高い病毒性を有し、かつ、高い死亡率によって特徴付けられるトリインフルエンザウイルスをいう。一実施形態において、トリインフルエンザウイルスは、H5サブタイプのものである。別の実施形態において、トリインフルエンザウイルスはH7サブタイプのものである。別の実施形態において、トリインフルエンザウイルスはH5N1サブタイプのものである。一実施形態において、トリインフルエンザウイルスはA/Vietnam/1203/2004(H5N1)である。別の実施形態において、トリインフルエンザウイルスはA/Hong Kong/156/1996(H5N1)である。
【0013】
本明細書中で用いられる場合、「cDNA」という用語は、一本鎖または二本鎖のDNA分子をさす。一本鎖cDNA分子については、そのDNA鎖が、遺伝子より転写されたメッセンジャーRNA(「mRNA」)に相補的である。二本鎖cDNA分子については、一のDNA鎖がmRNAに相補的であり、他方が第一のDNA鎖に相補的である。
【0014】
本明細書中で用いられる場合、「コード配列」または特定のタンパク質を「コードするヌクレオチド配列」とは、適切な調節配列の制御下に配置された場合、in vivoまたはin vitroにおいて転写され、ポリペプチドへと翻訳される核酸分子である。コード配列の境界は、5’末端にある開始コドンおよび3’末端にある翻訳停止コドンによって決定される。コード配列は、原核生物の核酸分子、真核生物のmRNAに由来するcDNA、真核生物(例えば、哺乳動物)の供給源に由来するゲノムDNA、ウイルスのRNAまたはDNA、および合成ヌクレオチド分子までも含むが、これらに限定されない。転写終結配列は一般的にコード配列の3’側に配置される。
【0015】
本明細書中で用いられる場合、「制御配列」という用語は、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、エンハンサーなど、および5'−UTRおよび3'−UTRを含む非翻訳領域(UTR)を総称的にさし、これらは宿主細胞におけるコード配列の転写および翻訳を集合的に生じる。本明細書中で用いられる場合、RNAポリメラーゼがプロモーター配列に結合し、コード配列がmRNAへ転写される際に、制御配列は細胞内にてコード配列の「転写を導く」。次にそのmRNAがコード配列によってコードされるポリペプチドへ翻訳される。
【0016】
本明細書中で用いられる場合、「遺伝子」という用語は、明確な生物学的活性を有する核酸またはタンパク質を直接的または間接的にコードするDNA分子をいう。
【0017】
本明細書中で用いられる場合、「ゲノムDNA」という用語は、RNA分子が転写されるDNA分子をいう。RNA分子は最も一般的にはメッセンジャーRNA(mRNA)分子であり、これは最終的に明確な生物学的活性を有するタンパク質へと翻訳される。あるいは、トランスファーRNA(tRNA)またはリボソームRNA(rRNA)分子であり、これらはタンパク質合成プロセスにおけるメディエーターである。
【0018】
本明細書中で用いられる場合、2つの核酸分子が、2以上の定量可能な生物学的機能を共有する場合、「機能的に同等」である。例えば、異なる一次配列の核酸分子が、同一のポリペプチドをコードし得る場合、異なってはいるが、これらの分子は機能的に同等である。このような例において、これらの分子はまた、高程度の配列相同性を共有する。同様に、異なる一次配列の核酸分子が、RNA転写のプロモーターとして活性を共有し、このRNA転写は、細胞の特定の亜集団で生じ、特有の調節物質群に反応する場合、このような核酸分子もまた機能的に同等である。
【0019】
本明細書中で用いられる場合、DNA構築物の「異種」領域は天然において他の分子と関連が見出されない別のDNA分子内に存在するかまたはそのDNA分子に結合しているDNAの同定可能なセグメントである。異種コード配列の例としては、コード配列それ自体が、天然では見いだされない構築物(例えば、天然の遺伝子とは異なるコドンを有する合成配列)である。対立遺伝子変異または天然の変異事象は、本明細書で用いられるようなDNAの異種領域を生じない。
【0020】
本明細書中で用いられる場合、一般的な配列解析ソフトウェア(例えば、Vector NTI、GCGまたはBLAST)を用いて測定した場合に、核酸分子の規定した長さに亘って、その核酸分子に含まれる少なくとも約60%〜75%または好ましくは少なくとも約80%または最も好ましくは少なくとも約90%のヌクレオチドが同一である場合、それら2つの核酸分子は「相同」である。相同であるDNA配列は、特定の系について規定されるようなストリンジェント条件下におけるハイブリダイゼーションによって同定できる。適切なハイブリダイゼーション条件は、当業者により規定される。例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Volume I, Ausubelら(編集). John Wiley:New York NY,(1989)第1版(ただし毎年更新されている)を参照。その中に、二トロセルロースフィルターに固定されたDNAサンプルに対する最高のハイブリダイゼーション特異性は、0.1〜2×SSC(15〜30 mM NaCl, 1.5〜3 mM クエン酸ナトリウム, pH 7.0)および0.1% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む溶液中で、65〜68℃またはそれ以上の温度にて繰り返し洗浄することにより達成し得ると記載される。また、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989を参照。ナイロンフィルターに固定されたDNAサンプルについては、ストリンジェントハイブリダイゼーション洗浄溶液は、40 mM NaPO4, pH 7.2、1〜2% SDSおよび1 mM EDTAを含み得る。さらに、洗浄温度は少なくとも65〜68℃が推奨されるが、非常にストリンジェントな洗浄に必要とされる最適温度は、核酸プローブの長さ、そのGC含有量、一価の陽イオンの濃度および、存在するのであればハイブリダイゼーション溶液に含まれるホルムアミドの割合によって決まる(Ausubelら、上記)。
【0021】
本明細書中で用いられる「核酸分子」という用語は、DNAおよびRNAの両方を含み、特に明示しない限り、二本鎖および一本鎖の核酸を含む。さらに、DNAおよびRNAの両方、DNA/RNAヘテロ二本鎖(DNA/RNAハイブリッドとしても知られる)、または同一鎖内にDNAおよびRNAの両方を含むキメラ分子を含む分子も含まれる。本発明の核酸分子は、修飾塩基を含んでもよい。本発明は、「センス」方向(すなわち、遺伝子のコード鎖と同一の向き)および「アンチセンス」方向(すなわち、遺伝子のコード鎖に対して相補的な方向)にある核酸分子を提供する。
【0022】
本明細書中で用いられる場合、「作動可能に連結される」という用語は、そのように記載された成分が、それらの通常の機能を果たせるように配置される核酸分子の配置をいう。したがって、コード配列に作動可能に連結される制御配列は、コード配列の発現を実行可能である。制御配列は、コード配列の発現を指令する限り、コード配列と隣接している必要はない。したがって、例えば、プロモーター配列とコード配列の間に、翻訳はされないが、転写される配列が介在しても、プロモーター配列はコード配列に「作動可能に連結される」とみなされ得る。
【0023】
本明細書中で用いられる「配列」という用語は特定のヌクレオチド配置または特定の機能を有する核酸分子(例えば、終止配列)をいう。
【0024】
本明細書中で用いられる外来性DNAは、「トランスダクション」、「トランスフェクション」または「トランスフォーメション」と称される方法によって細胞に導入し得る。トランスダクションとは、ウイルス由来のベクターを介して、真核細胞の膜を横断して、遺伝子物質(RNAまたはDNAのいずれか)を導入することをいう。トランスフェクションとは、化学的手段(例えば、リン酸カルシウム仲介沈殿)、機械的手段(例えば、エレクトロポレーション)または物理的手段(例えば、生体弾(bioballistic)による送達)によって真核細胞の膜を横断して遺伝子物質を導入することをいう。トランスフォーメション(形質転換)とは、非真核細胞例えば細菌細胞または酵母細胞へ遺伝子物質を化学的、機械的、物理的、または生物学的手段によって導入することをいう。細胞へ送達される遺伝子物質は、染色体DNAへ組み込まれ(共有結合され)てもされなくてもよい。例えば、遺伝子物質は、エピソームエレメント(例えば、プラスミド)に保持され得る。安定して形質転換された非真核細胞または安定してトランスフェクトされた真核細胞とは一般に、外来性DNAが染色体に組み込まれ、その結果染色体の複製を介してそれが娘細胞にも遺伝されるものか、または安定して維持されている染色体外のプラスミドを含むものをいう。この安定性は、外来性DNAを含む娘細胞の集団からなるクローンを確立する細胞の能力によって示される。子孫細胞の継続的な発生を経ても染色体に組み込まれていないおよび染色体外に維持されていない外来性DNAを含む細胞は、「一過的に形質転換された」または「一過的にトランスフェクトされた」という。
【0025】
本明細書中で用いられる「被験体」または「患者」という用語は、動物(例えば、トリまたは哺乳類)をいう。一実施形態において、被験体はヒトである。別の実施形態において、被験体は、家畜化されたトリ(例えば、ニワトリまたはアヒル)である。
【0026】
本明細書中で用いられる「由来する(derived)」という用語は、「〜より得られる(obtained from)」、「由来する(descending from)」または「〜より産生される(produced by)」を意味する。特定の親供給源に由来する核酸またはポリペプチドに関係して、「由来する(derived)」という用語は、その核酸配列またはアミノ酸配列の鋳型として親供給源を使用することをいう。親供給源に由来する核酸またはポリペプチドは、欠失、置換または改変の有無はあるが、親供給源の全てまたは一部分の核酸またはアミノ酸配列を有し得る。
【0027】
本明細書中で用いられる「ワクチン」とは、被験体に(細胞性および/または液性)免疫応答を誘発する組成物である。ワクチンは、感染の危険性を減少させるが、必ずしも感染を防ぐものではない。特異的な非限定的な実施形態において、ワクチンは細胞性および/または体液性免疫のレベルを、基線レベルの少なくとも30%、50%または100%増加させる。
【0028】
ワクチンの種類の例としては、生ウイルスワクチン(ウイルスが、疾患を引き起こさないように弱められているか弱毒化されている);殺ウイルスワクチン;1以上のウイルスタンパク質を含むワクチン;非病原性ウイルスが、疾患を引き起こすウイルス由来の免疫原性ペプチドをコードする遺伝情報を含むように操作されたキメラウイルス;およびそのようなペプチドをコードする裸の(naked)DNAが挙げられる。後者二つの種類のワクチンについて、非病原性ウイルスは、宿主細胞に感染することによって免疫原性ペプチドを「送達する」ことができ、裸のDNAは、宿主細胞に例えば、筋肉注射され、そこで取り込まれ、最終的に抗原タンパク質として発現される。有効でありうるワクチンの必要条件は、ウイルスによって変わり、特に、どの程度体液性免疫および/または細胞性免疫が感染の可能性を減らす必要があるのか、ウイルスの免疫原性領域における遺伝的変動性、ならびに病原性によって決まる。さらに別の種類のワクチンは、自己複製および自己制限RNA(「RNAレプリコン」)を使用し、これはトランスフェクトされた細胞の溶解を引き起こし、宿主の染色体に組み込まれるといった裸のDNAワクチンに関連する懸念を生じない(Chengら、2001, J. Virol. 75(5):2368−2376)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
4. 図面の簡単な説明
(後述の「図面の簡単な説明」の項を参照のこと)
5.発明の詳細な説明
本発明は、トリインフルエンザウイルスに対するアデノウイルス系ワクチン接種に関する。本発明は一部、2003〜2004年にヒトにて致命的に大流行した際に単離されたA/Vietnam/1203/2004(H5N1)株に基づくアデノウイルス系インフルエンザワクチンを5週間で開発する方法に基づく。ワクチン接種したマウスは、様々なウイルスに特異的な免疫性を有し、致命的な鼻腔内H5N1チャレンジより完全に保護されていたが、ワクチン接種されていない全ての対照動物は9日以内に死亡した。本発明は、世界的に流行し得る可能性のあるトリインフルエンザウイルスに対する、アデノウイルス系ワクチン接種ストラテジーを用いたインフルエンザワクチンの迅速な産生のための有望な系を提供する。
【0030】
非限定的な実施形態において、本発明は、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含む複製欠陥アデノウイルスベクターを提供し、被験体に導入されると、発現されたポリペプチドは、インフルエンザに結合する抗体の産生を誘導する。非限定的な実施形態において、本発明は、本発明のベクターおよび医薬的に許容可能な担体を提供する。非限定的な実施形態において、A型インフルエンザポリペプチドは、ヘマグルチニン(HA)もしくはHA1サブユニットまたはそれらの一部を含む。特定の非限定的な実施形態において、A型インフルエンザポリペプチドは、以下の実施例に記載されるA型インフルエンザポリペプチドのいずれか1つを含む。一実施形態において、A型インフルエンザポリペプチドはA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来する。別の実施形態において、A型インフルエンザポリペプチドは、A/Hong Kong/156/1996(H5N1)に由来する。
【0031】
別の非限定的な実施形態において、本発明は被験体に免疫応答を誘導するための方法を提供し、当該方法は、被験体に複製欠陥アデノウイルスベクターを投与することを含み、かかるベクターは、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含み、当該ポリペプチドが、被験体にインフルエンザに結合する抗体の産生を誘導する。被験体は動物、例えば、トリ(ニワトリ、アヒル、シチメンチョウ、ガチョウもしくは他の家禽または野生のトリ)あるいは哺乳類、好ましくはヒトであり得る。投与方法は、当該分野で既知の任意の方法であり得る。特定の、非限定的な実施形態において、本発明のベクターは、被験体に筋肉内、鼻腔内、または皮下投与される。
【0032】
本発明のベクターおよびワクチンは、高い危険性にあるヒト集団(例えば、医療従事者および動物飼育係)を保護し得る。さらに、ヒトアデノウイルスベクターが、ニワトリに免疫性を誘導できることを考慮すれば、感染しやすい家禽を、本発明の方法にしたがってワクチン接種できる。例えば、アデノウイルスに対する同時免疫により、広範にわたるワクチン接種を管理することができる。
【0033】
本発明のアデノウイルス系ワクチンは、数種のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交叉的保護(cross-protection)を与えることができる。
【0034】
5.1. アデノウイルスベクター
本発明はまた、A型インフルエンザポリペプチドを発現できるように、発現制御配列に作動可能に連結されたA型インフルエンザポリペプチドをコードする核酸を送達することに使用するための複製欠陥アデノウイルスベクターに関する。
【0035】
アデノウイルスは、無エンベロープDNAウイルスであり、安定しており、容易に操作できるうえ、高い力価で容易に増殖する。また、アデノウイルスゲノムからの遺伝子欠失により、外来DNAの大きな断片を挿入することができる。これらの特性により、アデノウイルスは、宿主細胞へ外来DNAを送達するための非常に有望なベクターである。「アデノウイルスベクター(adenovirus vector)」および「アデノウイルスベクター(adenoviral vector)」という用語は、本明細書において互換的に用いることができ、本発明のポリヌクレオチド構築物を指す。本発明のポリヌクレオチド構築物は、DNA、アデノウイルス外被に包まれたDNA、別のウイルスもしくはウイルス様形態(例えば、単純ヘルペスおよびAAV)に包まれたDNA、リポソームに封入されたDNA、ポリリシンと複合体化したDNA、合成ポリカチオン性分子と複合体化したDNA、トランスフェリンとコンジュゲートしたDNA、PEGなどの化合物と複合体化して免疫学的に「マスク」されたおよび/または半減期が増加したDNA、ならびに非ウイルス性タンパク質とコンジュゲートしたDNAなどを含むが、これらに限定されない様々な形状であり得る。本明細書中で用いられる「DNA」という用語は、標準的な塩基(A、T、C、およびG)ならびにこれら塩基のアナログまたは修飾体(メチル化ヌクレオチド、ヌクレオチド間修飾体(非電荷結合体およびチオエートなど)、糖類似体の使用、ならびに修飾および/または代替的な骨格構造(ポリアミドなど))を含む。
【0036】
アデノウイルスベクターは、ウイルスの増殖に必要な遺伝子機能(すなわち、必須アデノウイルス遺伝子機能)を少なくとも一つ欠失しており、それによって複製欠陥を生じる。複製欠陥アデノウイルスベクターは、細胞内でインキュベートし、その細胞内で欠失した遺伝子機能を補完し、複製欠陥アデノウイルスベクターの増殖を可能とし得る。アデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要とされるアデノウイルスゲノムのE1領域の少なくとも一つの必須遺伝子機能を欠失し得る。アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの2つ以上の領域における1つ以上の必須遺伝子機能を欠失し得る。例えば、アデノウイルスベクターは、E1、E2、E3またはE4領域のうちの1つ以上を欠失し得る。一実施形態において、アデノウイルスベクターは、E1およびE3領域を欠失している。
【0037】
アデノウイルスベクターDNAの供給源としては、アデノウイルスまたはキメラアデノウイルスの任意の種、株、サブタイプ、または種、株もしくはサブタイプの混合物が挙げられる。アデノウイルスベクターは、細胞内で増殖可能なアデノウイルスベクターであり得、それはアデノウイルスのゲノムに由来するかまたは当該ゲノムに基づくいくつかの有意な部分である(しかし、必ずしも実質的ではない)。アデノウイルスベクターは好ましくは、血清型5型のアデノウイルスゲノムを含む。
【0038】
核酸がアデノウイルスベクターに挿入され、そのアデノウイルスベクターに宿主細胞が感染した場合、核酸にコードされるポリペプチドが発現される。核酸は、ポリペプチドをコードするコード配列に作動可能に連結される制御配列を含み得る。一実施形態において、コード配列は、インフルエンザポリペプチドをコードする。好ましい実施形態において、コード配列は、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)株またはA/Hong Kong/156/1996(H5N1)株に由来するポリペプチドをコードする。
【0039】
アデノウイルスベクターの構築法および核酸のアデノウイルスベクターへの挿入法は、当該分野で十分に理解されており、一般的な分子生物学的方法(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989およびAusubelら、ならびに本明細書中で言及される参考文献などに記載される方法)を使用することを含む。さらに、アデノウイルスベクターは、例えば、米国特許第5,965,358号ならびに国際特許出願WO 98/56937, WO 99/15686およびWO 99/54441に記載される方法を使用して構築および/または精製できる。
【0040】
5.2. インフルエンザの核酸およびポリペプチド
本発明は、インフルエンザウイルスに由来し得る様々な核酸分子を含む組成物および/またはかかる核酸分子を利用する方法に関する。好ましい実施形態において、インフルエンザウイルスは、トリインフルエンザウイルスである。他の好ましい実施形態において、ウイルスは、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)(以下、「VN/1203/04」)株またはA/Hong Kong/156/1996(H5N1)(以下「HK/156/97」)株である。核酸は、ウイルスの全長またはHA1もしくはHA2サブユニットをコードし得る。
【0041】
A型インフルエンザウイルスのHAは、2つの構造的領域、球状のヘッド領域およびステム領域を含む。球状のヘッド領域は、標的細胞へのウイルスの付着に関与するシアル酸結合部位を含み、HAの赤血球凝集活性に役割を果たす。ステム領域は、ウイルスのエンベロープと標的細胞の外膜との間の膜融合をもたらす融合ペプチドを含む。A型インフルエンザウイルスのHAは、プロテアーゼによりHAが一部位切断されると活性化され、感染可能となる。得られたポリペプチドのうち大きなものをHA1と呼び、小さなものをHA2と呼ぶ。
【0042】
核酸は、コドン最適化され得る。コドン最適化とは、目的遺伝子の核酸変異体が、所与の宿主細胞における最適な発現のために改変されているコドンを含むようにする方法である。特定のコドン変化は、用いられる宿主細胞によって決まる。コドン最適化は、容易に利用可能なソフトウェアまたはアルゴリズム(例えば、UpGeneアルゴリズム)(www.vectorcore.pitt.edu/upgene.html)を使用して実施できる。Gao, W.ら、Biotechnol. Prog., 2004, 20:443−448参照。
【0043】
本発明は、インフルエンザポリペプチドをコードする単離された核酸に関する。インフルエンザウイルスタンパク質をコードする遺伝子は、ウイルスのゲノムDNAであろうとcDNAであろうと、インフルエンザウイルスの任意のサブタイプより単離することができる。インフルエンザウイルスのヘマグルチニン遺伝子を得るための方法は、上記したように当該分野において周知である(例えば、Sambrookら、上記参照)。従って、任意のインフルエンザウイルスサブタイプは潜在的に、インフルエンザウイルスの遺伝子の分子クローニングのための核酸供給源として役立ち得る。DNAは、化学合成によるクローン化DNA(例えば、DNA「ライブラリー」)より当該分野で公知の一般的な方法によるcDNAクローニンングによって、所望される細胞より精製したゲノムインフルエンザウイルスDNAもしくはその断片のクローニングによって得ることができる(例えば、Sambrookら、上記を参照)。好ましい実施形態において、ゲノムインフルエンザウイルスDNAは、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)株またはA/Hong Kong/156/1996(H5N1)株より得られる。
【0044】
ゲノムインフルエンザウイルスDNAを得たら、DNA断片を作製でき、これらのうちのいくつかは、所望される遺伝子をコードする。DNAは当該分野において周知である様々な制限酵素を用いて特定の部位で切断できる。あるいは、DNAは、DNAseを使用することによってまたは物理的にせん断することによって(例えば、音波処理によって)、断片化することができる。次に、線状DNA断片を、一般的な方法(アガロースゲルおよびポリアクリルアミドゲルによる電気泳動ならびにカラムクロマトグラフィーを含むがこれらに限定されない)によって、大きさに従って分離できる。
【0045】
当該分野において周知である多数の方法を用いて、特定のDNA断片を同定することができる。例えば、プローブを用いて、核酸ハイブリダイゼーションを介して既知配列をスクリーニングすることができる。例えば、インフルエンザウイルスタンパク質について得られた部分的なアミノ酸配列情報に対応するオリゴヌクレオチドを作製し、インフルエンザウイルスの遺伝子をコードするDNAに対するプローブとして、またはcDNAもしくはmRNAのプライマーとして(例えば、RT−PCR用のポリ−Tプライマーと組み合わせて)用いることができる。好ましくは、標的インフルエンザウイルスの遺伝子に特有の断片は、プローブとして用いられる。プローブに対してかなりの相同性を有するDNA断片は、ハイブリダイズする。相同性の程度が高くなるほど、よりストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を用いることができる。
【0046】
遺伝子の存在は、その発現産物の物理的、化学的または免疫学的特性に基くアッセイによって検出できる。例えば、特定の抗原特性を有するタンパク質を産生し得る核酸は、例えば、抗体への結合を測定することによって、または免疫応答を誘発するその能力を測定することによって、スクリーニングすることができる。
【0047】
本発明のインフルエンザウイルスDNAはまた、相補的mRNAに対するハイブリダイゼーションによって同定することができる。このような核酸断片は、利用可能な、精製したインフルエンザウイルスDNAを示しても良いし、部分的なアミノ酸配列情報より設計された合成オリゴヌクレオチドであっても良い。インフルエンザウイルスDNAはまた、免疫沈降分析またはin vitro翻訳産物の機能アッセイ(例えば、チロシンホスファターゼ活性)によって同定できる。
【0048】
本発明は、単離された核酸によってコードされるインフルエンザポリペプチドに関する。これは、任意のインフルエンザウイルス供給源に由来するインフルエンザウイルスタンパク質の全長タンパク質または天然の形態およびそれらの断片を含む。当業者は、当該分野において周知である従来方法を使用して、インフルエンザウイルスタンパク質またはそれらの断片を、所望される特性(例えば、抗原性)に基いて選択することができる。非限定的な例としては、(例えば、ELISAによって)インフルエンザ特異的抗体に対する結合能についてスクリーニングすることによって、または(例えば、ELISPOTによって)細胞仲介免疫応答の誘発能をスクリーニングすることによって、インフルエンザウイルスタンパク質またはそれらの断片をスクリーニングすることを含む。一実施形態において、インフルエンザポリペプチドは、ヘマグルチニンまたはそのサブユニットである。別の実施形態において、インフルエンザポリペプチドはHA1である。
【0049】
インフルエンザウイルスの遺伝子産物に関する誘導体および類似体の産生および使用は、本発明の範囲内である。インフルエンザウイルスの遺伝子産物誘導体は、機能的に同等な分子を生じる置換、付加または欠失によってコード核酸配列を改変することによって作製することができる。好ましくは、誘導体は、天然のインフルエンザウイルスタンパク質と比べて増強または増加した抗原活性を有するように作製される。
【0050】
5.3. ワクチン
本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターをワクチンとして用いて、インフルエンザによる感染の危険性を減らすことができる。かかるベクターをワクチンとして用いる場合、本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターを、公知の方法を使用して個体に投与する。投与は、従来の投与経路および/または目的の病原体の感染経路を模倣する経路によって行うことができる。複製欠陥アデノウイルスベクターと共に生理学的に許容可能な担体を含むワクチン組成物を投与することができる。組成物はまた、免疫賦活剤もしくはアジュバント、香味剤または安定剤を含んでも良い。
【0051】
従来的および医薬的に許容可能な投与経路としては、鼻腔内、筋肉内、気管内、腫瘍内、皮下、皮内、静脈内、直腸、経鼻、経口および他の非経口的投与経路が挙げられる。所望される場合、抗原ペプチドまたは疾患に応じて、投与経路を、組み合わせたり、調整したりしてもよい。ワクチン組成物は、単一用量または複数用量で投与でき、また追加免疫用量の投与を含み、免疫性を誘発および/または維持することができる。
【0052】
複製欠陥アデノウイルスベクターワクチンを「有効量」で投与する。有効量とはすなわち、選択した投与経路において、病原性有機物(すなわち、インフルエンザウイルス)による感染または感染に関連する症状に対して宿主を保護するのに効果的な免疫応答を誘発するのに有効な複製欠陥アデノウイルスベクターの量である。いくつかの実施形態において、複製欠陥アデノウイルスベクターワクチンの「有効量」は、投与経路において、インフルエンザウイルス感染に関連する症状を低減もしくは抑制するか、またはインフルエンザウイルス感染が生じる可能性を減少させるのに有効な免疫応答を誘発するのに効果的な、複製欠陥アデノウイルスベクターの量である。
【0053】
各ワクチン用量における複製欠陥アデノウイルスベクターの量は、一般に典型的なワクチンに関連する重大な副作用を生じることなく、免疫防御または他の免疫治療反応を誘発する量が選択される。このような量は、ワクチン製剤がアジュバントを含むにせよ、ベクターにコードされる核酸および様々な宿主による要因によって変わる。複製欠陥アデノウイルスベクターワクチンの有効な用量は一般に、約2×1010〜約10×1010のウイルス粒子の投与を含む。一実施形態において、約4×1010〜約7×1010のウイルス粒子を投与する。別の実施形態において、約5×1010のウイルス粒子を投与する。特定のワクチンについての最適な量は、抗体の力価および被験体における他の反応を観察することを含む一般的な研究によって確認することができる。ワクチンによって生じる免疫レベルを測定し、追加免疫の必要性を決定することができる。血清中の抗体力価を調べた後、必要に応じて追加免疫による免疫化が求められ得る。本発明のタンパク質に対する免疫応答は、アジュバントおよび/または免疫賦活剤を使用することによって増強できる。
【0054】
5.4. ワクチン組成物
本発明はさらに、本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターを含む組成物(医薬組成物を含む)を提供する。
【0055】
本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターを含む組成物は、緩衝液を含み得る。多くの好適な緩衝液は、当該分野において周知であり、当業者は適切な緩衝液を選択することができる。いくつかの例において、組成物は、医薬的に許容可能な賦形剤を含むことができ、賦形剤の多くは、当該分野において
公知であるため、本明細書中において詳細に考察する必要は無い。
【0056】
ワクチンとして用いる場合、本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターを種々の方法で製剤化することができる。一般的に、本発明のワクチンは、当該分野において周知である方法に従って、好適な医薬担体および/またはビヒクルを使用して製剤化される。好適なビヒクルは滅菌食塩水である。医薬的に許容可能な担体として知られ、また当業者に周知である他の水溶性および非水溶性の等張性無菌注射用溶液ならびに水溶性および非水溶性無菌懸濁液を製剤化に用いることができる。
【0057】
場合によって、本発明のワクチン組成物は、他の成分(例えば、アジュバント、安定剤、pH調整剤、保存剤など)を含んで処方できる。このような成分は、当業者に周知である。
【0058】
本発明のワクチン組成物は、それぞれ異なるインフルエンザウイルスポリペプチドを有する複数の複製欠陥アデノウイルスベクターを含み得る。
【0059】
5.6. 治療方法
本発明はまた、複製欠陥アデノウイルスベクターを哺乳動物に投与することを含む該哺乳動物に免疫応答を誘導する方法に関連し、かかるベクターはA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含み、当該ポリペプチドは、該哺乳動物にインフルエンザに結合する抗体の産生を誘発する。
【0060】
本発明は、本発明のA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を有する複製欠陥アデノウイルスベクターを被験体に投与することを含む、抗原に対する免疫応答を誘発する方法を提供し、かかる複製欠陥アデノウイルスベクターは細胞に侵入し、A型インフルエンザポリペプチドを発現し、そしてA型インフルエンザポリペプチドに対する免疫応答を誘発する。ポリペプチドは、様々な長さであり得、正常な宿主細胞による修飾(例えば、グリコシル化、ミリスチル化またはリン酸化)に付され得る。ポリペプチドは改変され、例えば、シグナル配列を使用することによって、細胞内、細胞外または細胞表面に発現され得る。
【0061】
本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターは、単独で、または上記の組成物に含めて投与することができる。本発明の複製欠陥アデノウイルスベクターは、DNAの取り込みを促すか、または免疫応答を促進し得る他の薬物もしくは物質と同時投与できる。
【0062】
本発明との関連で、本明細書中に記載される方法および組成物を使用して、インフルエンザ感染に対する免疫防御反応を、インフルエンザによる感染に感染しやすい被験体(ヒトまたはヒト以外)に誘導できる。免疫応答が有効であるか否かは、一般的なアッセイ(インフルエンザ症状の進行を監視すること、インフルエンザ特異的抗体を調べること、またはインフルエンザ抗体を分泌している細胞を調べることを含むが、これらに限定されない)によって決めることができる。
【0063】
複製欠陥アデノウイルスベクターの投与は、当該分野で公知の任意の方法(静脈内、腹腔内、皮内、皮下、筋肉内、鼻腔内または吸引投与を含むがこれらに限定されない)によって実施できる。一実施形態において、被験体は、複製欠陥アデノウイルスベクターを経鼻吸入による粘膜経路を介して投与される。粘膜投与はまた、点鼻薬を用いることによって実施できる。粘膜投与経路としては、鼻孔、気管、舌または粘膜を含み得る。
【0064】
ワクチン接種したら、被験体をモニターし、ワクチン療法による効果を決定することができる。当業者に公知である任意の方法によって、ワクチン療法の効果を調べることができる。一実施形態において、血液または体液のサンプルをアッセイして、インフルエンザに特異的な抗体のレベルを検出することができる。別の実施形態において、ELISPOTを行い、インフルエンザに対する免疫応答を検出できる。
【0065】
一実施形態において、インフルエンザポリペプチドHAまたはその断片をコードする核酸を有する複製欠陥アデノウイルスベクターを使用して免疫を獲得する。特定の実施形態において、ポリペプチドは、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)(以下「VN/1203/04」)株由来のHA1サブユニットである。別の実施形態において、ポリペプチドはA/Hong Kong/156/1997(H5N1)株由来のHA1サブユニットである。
【実施例】
【0066】
6. 実施例
6.1.実施例1:インフルエンザを発現するアデノウイルスベクターの作製
3種のE1/E3欠失アデノウイルス血清型5型系ベクターを作製した。これらのベクターは、コドン最適化したインフルエンザA/Vietnam/1203/2004(H5N1)(VN/1203/04)の全長ヘマグルチニン(HA)またはHA1サブユニット(それぞれAd.VN1203.HA、Ad.VN1203HA1)およびインフルエンザA/Hong Kong/156/1997(H5N1)(HK/156/97)HA1(Ad.HK156HA1)を発現する。コドン最適化および遺伝子合成方法(Gao, 上記)により、野生型配列と比較して、ウイルス抗原の発現レベルを増加させ、またH5N1ウイルスを使用することなく組換え導入遺伝子の産生を可能にした。組換えアデノウイルスベクターの作製は、疾病対策センターより2004 Vietnam株のインフルエンザVN/1203/04 HA配列を受けた後、36日で完了した。これは、本発明によるアデノウイルス系ワクチンの開発についての迅速性を示す。
【0067】
6.1.1. IFN−γについてのELISPOTアッセイ
96ウェル被膜プレート(Millipore, Bedford, MA, USA)を、マウスIFN−γに対する10μg/ml mAb(AN−18;Mabtech AB, Mariemont, OH, USA)を用いて0.1 M 炭酸緩衝液中にて一晩インキュベートした。事前に凍結した脾細胞を解凍し、1ウェルあたり1×105〜2×105個の細胞を10%ウシ胎児血清を添加した培地に播いた。11アミノ酸だけ重複し、かつH5N1インフルエンザ株VN/1203/04およびA/HK/156/97(Sigma Genosys, The Woodlands, TX, USA)に由来する全長HA配列を示す各15merのペプチドを10 mg/mlにてDMSOに溶解し、19〜30ペプチドのプール(最終濃度3.33〜5.26μg/ml)、9〜10ペプチドのプール(5.0〜5.5μg/ml)またはこれまでに記載されるように5.0μg/mlにてそれぞれ用いた。Brown,(上記)。
【0068】
6.1.2. マウスにおけるIN VIVO免疫化
7匹ずつ4群のBALB/c マウスを5×1010ウイルス粒子のAd.VN1203.HA、Ad.VN1203HA1、Ad.HK156HA1(Ad.HA)または空ベクター Ad.Ψ5を用いて筋肉投与により免疫化し、14日後に追加免疫を行った。免疫化した動物由来の血清を、10日、24日および31日目にドットブロット分析によって抗体について初回スクリーニングを行い、全ての免疫化動物においてHA特異的抗体反応を同定した。次に抗インフルエンザウイルス H5N1中和抗体をH5特異的ELISAまたは中和試験(microneutralization)アッセイによって分析した。Rowe T.ら、J. Clin. Microbial. 1999;37(4):937−43参照。Ad.HAを用いてワクチン接種した全ての群は、高い力価のH5特異的 IgGを生じた(表1)。VN/1203/04またはHK/156/97に対する中和抗体は、対照Ad.Ψ5またはAd.VN1203HA1を用いて2回免疫化した群では検出されなかった。これに対して、Ad.VN1203.HAを用いて免疫化したマウスおよびAd.HK156HA1 を受けたマウスのうち何匹かにおける相同的サブタイプに対する中和抗体は、初回投与から10日目に検出され、力価は、追加免疫による免疫化から7日および14日後に大幅に増加した。とりわけ、Ad.VN1203.HAを用いて免疫化したマウスに由来する血清は、HK/156/97異種株を交叉中和することができた(表1)。
【0069】
ワクチンにより誘導された細胞性免疫を、第3回の免疫化を受けてから9日後に、1群あたり2匹のマウスで実施したIFN−γELISPOTアッセイによって調べた。全長VN/1203/04 HAタンパク質を表す重複している15merペプチドおよびHK/156/97の非コンセンサス配列をプールし、免疫の強さと幅(広さ)を調べた。次に、個々のエピトープを含むペプチドを、各ペプチドが2つのプールによって表されるマトリックスの分析により同定した。Brown, K.ら、J Immunol. 2003;171(12): 6875−82参照。HAに対する筋肉内免疫化を受けた全ての動物は、強力な細胞性応答を生じた。かかる細胞性応答は、マウス40において500個の新たに単離された脾細胞あたり1 HA特異的T細胞の最高の強さに達する(図1a)。累積的細胞性免疫応答は一般にHA領域特異的であり、Ad.VN1203.HAで免疫化した動物のみが、全長HAタンパク質の全体に反応するT細胞を生じた(図1a)。株特異的細胞性免疫のさらなる分析により、Ad.VN1203HA1またはAd.HK156HA1を用いた免疫化によって、VN1203−BおよびVN1203−Cのプール内に含まれるA/VN/1203/04コンセンサス配列に対する応答を誘導できることが示された。対して、Ad.HK156HA1による免疫化は、A/HK/156/97−特異的プールHK156−D応答を誘導する必要があった(図1b, c)。ワクチンにより誘導された免疫応答の詳細な特徴付けにより、免疫化群につき4つの優勢なペプチド標的を同定した(図1e, f, g)。とりわけ、免疫優勢VN1203.HA1p213−227および準優勢なVN1203.HA1P241−255領域に対する応答はHA1免疫化株にかかわらず保存されていた(図1e, f)。Ad.VN1203HA1 免疫化により誘導された細胞性免疫はVN1203.HA1P145−159 / VN1203.HA1P149−163ペプチドに対するものであり、これはこの領域内に共通のエピトープが存在することを示唆した。さらに、Ad.HK156HA1により免疫化された動物は、A/HK/156/97に特有のHK156.HA1p145−159 / HK156.HA1p149−163ペプチドに対する株特異的免疫性を示した(図1f)。興味深いことに、全長HAタンパク質をコードするAd.VN1203.HAによる免疫化は、潜在的に余分なエピトープの改変またはペプチドの選択的プロセシングにより、HA1−特異的免疫応答が変化した。Ad.VN1203.HA 免疫化は、VN1203.HA1p153−167およびVN1203.HA1p157−171内に含まれるSFFRNVVWLIKK エピトープに対する以前に特徴付けされた応答に加えて、A/VN/1203/04のHA2部分に含まれるVN1203.HA2p529−543 /VN1203.HA2p533−547 配列、ならびに非コンセンサスHK156.HA1p153−167ペプチド内に免疫優勢エピトープが存在すること示した(図1g)。
【0070】
2回目の免疫化から112日後に、全てのマウスを、100 LD50(50%致死感染用量)のVN/1203/04ウイルスを用いた鼻腔内接種によってチャレンジした。チャレンジから3日後までに、対照Ad.Ψ5 ベクターを用いて免疫化した全ての動物は、かなり体重が減り、その後チャレンジから6〜9日後の間に死亡した(表1)。これに対して、Ad.HAを接種した動物は、感染から14日後においても疾患の臨床的徴候を示さず、またわずかに、かつ一過的に体重が減少しただけであった。
【0071】
これらのデータは、複製欠陥アデノウイルス系ワクチンが、世界的に流行するH5株の出現に対する第一次の迅速な応答として有効であり得ることを示した。
【0072】
6.3. 実施例3:マウスにおけるIN VIVO 免疫化
6.3.1. インフルエンザウイルス
本研究に用いたインフルエンザウイルスは、A/Hong Kong/156/97(H5N1)(HK/156/97)およびA/Vietnam/1203/2004(H5N1)(VN/1203/04)であった。ウイルスストックを、10日齢の発育鶏卵の尿膜腔において、37℃で26時間増殖し、分注して、そして使用するまで−70℃で保存した。
【0073】
6.3.2. 遺伝子合成およびアデノウイルスベクターの構築
VN/1203/04由来のHA、HA1およびHA2 遺伝子ならびにHK/156/97由来のHA1遺伝子を、上記のように、UpGeneアルゴリズム(www.vectorcore.pitt.edu/upgene.html)を使用して、オリゴヌクレオチドを重複させることによってコドン最適化した。Gao, 上記参照。コドン最適化遺伝子を発現するE1/E3欠失アデノウイルスベクターを、アデノウイルスパッケージング細胞株CRE8へのCre−lox組換えを使用して構築した。Hardy, S.ら、J Virol. 1997, 71:1842−1849参照。組換えアデノウイルスを、CRE8細胞中で増殖し、塩化セシウム密度勾配遠心分離および透析により精製し、−70℃で保存した。アデノウイルス粒子の濃度測定は、ATCCより得られるアデノウイルス参照物質(Adenovirus Reference Material:ARM)に基く有効アッセイを用いた分光光度計分析によって行った。
【0074】
コドン最適化された4つのHA遺伝子を発現するE1/E3欠失アデノウイルス血清型5型系ベクターは、VN/1203/04ウイルス由来の全長タンパク質またはHA1もしくはHA2サブユニット(Ad.VNHA、Ad.VNHA1、Ad.VNHA2)のいずれかとして作製した。さらに、このベクターは、A/Hong Kong/156/1997(H5N1)(HK/156/97)ウイルス分離株のHA1部分(Ad.HKHA1)を含んで作製した。この組換えアデノウイルスベクターの作製は、VN/1203/04 HA 配列を得てから36日後に完了しており、これは迅速な開発およびアデノウイルス系ワクチン開発に必要とされる操作の容易性を示している。
【0075】
6.3.3. 動物実験
6週齢BALB/c マウスをマウス実験に用いた。各10匹のマウスからなる8つの群を、5×1010のウイルス粒子のAd.VNHA、Ad.VNHA1、Ad.HKHA1、Ad.VNHA2および空ベクターAdψ5を、0日目および14日目に筋肉内注射して免疫化した。マウスのさらなる群を同様にワクチン接種し、Ad.VNHA、Ad.VNHA1、Ad.VNHA2または空ベクター Ad.Ψ5を用いて追加免疫した(Exp. 2)。全てのマウスより採血し、抗体反応、免疫原性を示し得る防御の代理マーカーについて血清のスクリーニングを行った。Karupiah, G.ら、Scand J Immunol. 1992, 36, 99−105参照。10週目、追加免疫による免疫化から8週間後に、高力価のH5特異的抗体をAd.VNHA2群を除く全てのワクチン接種した動物において検出した。Ad.VNHA2群は、他の全てのワクチン接種した群よりも3桁以上低い力価を有した(図2a)。
【0076】
抗体反応が相同的VN/1203/04およびヘテロサブタイプHK/156/97インフルエンザ株を中和する程度を、ウマ赤血球細胞を用いた赤血球凝集抑制(HI)アッセイにより測定した。Stephensonら、Virus Research 2004, 103, 91−95参照。全長HAを用いたワクチン接種は、相同的およびヘテロタイプの抗体反応を誘導したが、Ad.VNHA1またはAd.HKHA1を用いたワクチン接種は主にワクチン化株に特異的な抗体反応を誘導した(図2b)。全長タンパク質と比べてHA1を用いた場合にわずかな抗体反応が検出されたのはおそらく、HA1サブユニットが、HA2が存在しないことにより三量体構造を欠くためである。血清HI反応の動態は、単一の免疫化が、高レベルの抗HA抗体反応を獲得するのに十分であり得ることを示す(図2c)。
【0077】
70日目に、マウスをCO2を用いて軽く麻酔し、PBSで希釈した50μlの100 LD50のVN/1203/04ウイルスを用いて鼻腔内接種した。マウスLD50力価を、上記のように測定した。Lu, X.H.,ら、J. Virol. 1999, 73:5903−5911参照。チャレンジによる防御の程度を調べるために、各群の8匹のワクチン接種したマウスを、100 LD50のVN/1203/04 H5N1ウイルスを用いて鼻腔内感染させた。1群あたり5匹のマウスを、病気、体重の減少、および死亡について感染後から14日間毎日観察し、1群あたり3匹のマウスを、実験に応じて、ウイルス単離のために感染から3日または6日後に屠殺した。
ワクチン接種により様々な程度の体液性免疫が誘導され、Ad.VNHA2を用いて免疫化した群が顕著に減少したH5特異的抗体反応を有するのであれば、次にワクチン接種に対する細胞性免疫応答を、さらなる追加免疫による免疫化の後1群あたり2匹のマウスを用いてIFN−酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイにより分析した。完全VN/1203/04 HAタンパク質を表す重複15merペプチドおよびHK/156/97の非保存性配列をプールし、免疫性の強さおよび幅を調べた。次に個々のエピトープを含むペプチドを、各ペプチドが2つのプールによって表されるマトリックスの分析により同定した。Brown, K.ら、J Immunol. 2003;171(12): 6875−82参照。全長HAまたはHA1もしくはHA2サブユニットにより免疫化した全ての動物は、HAペプチドに対する強い細胞性応答を生じ、これはAd.VNHA群において1,200個の新たに単離された脾細胞あたり1 HA特異的T細胞の平均ピーク強度に達した(図3A)。累積的(cumulative)細胞性免疫応答はHA領域−特異的であり、全長HAで免疫化した動物だけが、HA1およびHA2におよぶT細胞反応を生じた(図3a)。ワクチンにより誘導された免疫応答を詳細な特徴付けにより、保存されたおよび特有のペプチド標的を同定した(図3b)。予想されたとおり、保存されたHA1領域VN213−227およびVN241−255に対する細胞性応答が、HA1免疫化株に関わらず誘発されるが、アミノ酸145−163にわたるペプチド(VN/1203/04およびHK/156/97とは異なる)に対する反応は、それぞれのサブタイプにより免疫化した動物に限られた(図3b)。Ad.VNHA2 免疫化により、VN529−543 /VN533−547ペプチドで示されるHA2内の免疫優勢エピトープの存在が示された。Ad.VNHAによる免疫化により、HA1ペプチドVN153−167/VN157−171内に含まれるこれまでに同定されたSFFRNVVWLIKK エピトープ(Hioe, C.E.ら、J Virol. 1990, 64, 6246−6251;Katz, J.M.ら、Biomed Pharmacother. 2000, 54, 178−187)に対する準優勢な応答を誘発した。Ad.VNHAによる免疫化は、Ad.HA1が唯一の免疫原である場合に見られるHA1−特異的免疫応答の性質を変え、準優勢なVN529−543/VN533−547であったVN145−159/VN149−163、VN213−227およびVN241−255に対するわずかな応答を生じた(図3b)。これらのデータは、アデノウイルス系ワクチン接種が、HAに対する強い細胞性免疫応答を生じることを示し、HA2ワクチン接種の場合には、体液性免疫応答に対して優勢であるように思われる。
【0078】
第2次免疫化から8週間後、全てのマウスを100 LD50(50% 致死用量)のVN/1203/04を用いて鼻腔内接種によってチャレンジした。対照Ad.Ψ5 ベクターを用いて免疫化した全ての動物は、チャレンジ後3日目より体重がかなり減少し、チャレンジから6〜9日後に死亡した。対して、Ad.VNHA、Ad.VNHA1およびAd.HKHA1により免疫化した全ての動物は、わずかに一過的に体重が減少しただけであり、致命的なチャレンジでも生き残った(図4a, b)。Ad.VNHA2を用いて免疫化した全ての動物は、体重がかなり減少したが、本群の5匹のうち3匹は、8日後には体重が増え、完全に回復した(図4a, b)。この回復は注目すべき事実です。それはHA2によるワクチン接種がこれまで増強されたウイルスのクリアランスにのみ関連していた主に細胞性免疫応答およびインフルエンザ感染からの回復を誘発するというものである。Moss P., 2003, Dev Biol(Basel). 115, 31−37参照。チャレンジから3〜6日後に、1群あたり3匹の動物をウイルスを単離するために屠殺した。感染性ウイルスを、対照ワクチンを接種した群、および様々な度合いで、HA1もしくはHA2サブユニットを用いてワクチン接種した動物における複数の器官から単離した。これに対して、全長HAでワクチン接種したマウスに由来する器官より、感染から3日後に非常に低レベルのウイルスを単離し(0.5 log10 平均ウイルス力価, Exp. 1)、感染から6日後では全く単離されなかった(< 0.5 log10 平均ウイルス力価, Exp. 2)(図4c)。
【0079】
6.5. 実施例4:ニワトリのIN VIVO免疫化
6.5.1. 方法
本研究で用いたインフルエンザウイルスはA/Hong Kong/156/97(H5N1)(HK/156/97)およびA/Vietnam/1203/2004(H5N1)(VN/1203/04)であった。ウイルスストックを、実施例3に記載したように培養した。遺伝子合成およびアデノウイルスベクターの構築も、実施例3に記載するように実施した。
【0080】
トリの研究については、養鶏場(SEPRL, USDA)由来の特定の病原体に感染していない3週齢のニワトリ(single comb white leghorn chcked)を用いた。各10匹のニワトリの群を5×1010のウイルス粒子のAd.VNHAまたはAdΨ5を鼻腔内または皮下投与して免疫化した。6週齢にてニワトリを、106 EID50のVA/1203/04ウイルスを用いて後鼻孔口(choanal slit)より鼻腔内チャレンジして、防御を測定した。そのニワトリを、病気、体重の減少および死亡について、感染から14日間毎日観察した。赤血球凝集抑制(HI)抗体を検出するために血清を3、6および8週齢時に採取した。
【0081】
HIおよびELISAアッセイ。マウスより免疫血清を伏在静脈より採血して回収し、H5特異的抗体の存在を調べる前に、Vibrio cholerae由来の受容体破壊酵素(Denka−Seiken, San Francisco, CA, USA)を用いて処理した。Kendal,ら、In Concepts and procedures for laboratory−based influenza surveillance, Atlanta, CDC, B17−35.(1982)参照。HIアッセイを、上記したようにウイルスの4つのHAユニットおよび1% ウマ赤血球細胞を用いて実施した。Stephenson,(上記)参照。インフルエンザH5N1−特異的IgG 抗体を、1μg/mlの精製したバキュロウイルスによって発現されるVN/1203/04ウイルス由来の組換えH5 HAタンパク質(Protein Sciences Corporation, Meriden, CT, USA)を用いてプレートを被覆したことを除いて、上記と同様に酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって検出した(Katz, J.M.,ら、J. Infect. Dis. 1997, 175:352−363)。ELISAエンドポイント力価は、同様に希釈したネガティブコントロールサンプルの平均プラス1標準偏差の2倍よりも大きな光学密度を生じた最高希釈率として表した。
【0082】
6.5.2. 結果
マウスモデルにおけるワクチン接種およびチャレンジに対する有望な反応の後に、東南アジアにおけるHPAIの拡大にこの種が果たす重要な役割を鑑みて、ニワトリにおけるアデノウイルス系ワクチン接種の効果を調べた。Chen, H.ら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2004, 101:10452−10457参照。ニワトリにおけるH5N1感染の重篤性は、マウスとは異なる。なぜなら、ニワトリはチャレンジ後2日以上生存していることは稀であるが、未処置のマウスの平均生存日数は8日間である。当該ワクチンにより免疫化したマウスにおいて示される優れた防御を鑑みて、実験は全長HAを使用したワクチン接種に限定した。
【0083】
上記のように、10匹の3週齢ニワトリからなる4つの群を、5×1010のウイルス粒子のAd.VNHAまたは空ベクター Ad.Ψ5を用いて皮下または鼻腔内免疫化し、21日後に106 EID50のVN/1203/04を鼻腔内接種してチャレンジした。このウイルス用量は、マウスに与えたものよりも10,000倍高く、ニワトリが天然の大流行にて経験するよりもかなり高いチャレンジであると思われる。皮下免疫化群の全てのニワトリにおいて、ワクチン接種により、VN/1203/04に対するHI抗体が誘導された(表2)。これらのニワトリは、ウイルスによるチャレンジ後に追加免疫された。この群における全ての動物は、疾患の検出可能な臨床的徴候もなくチャレンジを生き延びた(表2)。これに対して、全ての対照免疫化ニワトリは、死亡し、その平均生存日数は1.8日間であった。Ad.VNHAを用いて鼻腔内免疫化したニワトリのうち1匹のみが、HI抗体を有していたが、群としては、ニワトリは、チャレンジ後50%の疾病率および50%の死亡率を示した(表2)。鼻腔内免疫化により得られる乏しい防御は、皮下経路と比較して、鼻腔内経路によるアデノウイルス血清型5型による限定された感染を反映し得る。ウイルスの力価の口腔および排泄腔の測定は、皮下投与されたワクチンがチャレンジウイルスの複製を非常に減少させ、その結果、ウイルスは胃腸(GI)菅において検出されず、レベルは気道において3桁も減少したことを示した(表2)。
【0084】
インフルエンザワクチン接種の新規ストラテジーが、家禽種におけるHPAIのまん延を制御するために、およびヒトからヒトへの感染能が明らかとなったら、ヒトでのHPAIの世界的な流行を防ぐために至急必要とされていることは、広く受け入れられている。本発明は、致命的な鼻腔内チャレンジに対して防御を与えることができる幅広くかつ有効なHA特異的な体液性免疫応答および細胞性免疫応答を誘導することができるアデノウイルスに基く免疫化の能力を示す。他のワクチンの使用におけるアデノウイルスを用いた免疫化への期待(Shiver J.W.ら、Nature 2002, 415:331−335;Sullivan, N.J.ら、Nature 2003, 424:681−684)およびヒトにおけるインフルエンザHAワクチンを用いたアデノウイルスに基く免疫化の有望な結果を与える。幅広い交叉保護的ワクチン接種は、家畜動物およびヒトにおいて有用であり得、アデノウイルスベクターは、発育鶏卵において従来の方法によってワクチンを増殖させることに取って代わる実用的なものであり得る。Adamら、J. Gen. Virol., 1995, 76(12):3153−3157参照。
【0085】
これらの知見は、致命的な鼻腔内チャレンジによって防御を生じる、幅広くかつ強力なHA特異的な体液性免疫応答および細胞性免疫応答を誘導する、アデノウイルスに基く免疫化の能力を示す。マウスにおいて不活性化H5N1インフルエンザウイルス全体のワクチンを使用したこれまでの研究は、株特異的中和抗体が、相同的インフルエンザウイルスによるチャレンジに対して長く持続する防御を生じるが(Subbarao, K.ら、Virology 2003, 305:192−200)、防御は抗原的に変異したウイルス株(例えば、ヘテロタイプHAウイルス株)に対して制限されていることを示した。本明細書中に示されるデータは、アデノウイルスに基く免疫化が抗原ドリフトしたウイルス株もカバーする幅広い防御を与えうる液性応答および細胞性応答の両方刺激することを示す。2つの最近の研究は、ブタおよびマウスにおけるアデノウイルス−ベクター化インフルエンザHA(H3N2)ワクチンの効能および免疫原性を示しており、また中和体液性免疫がない場合はヘテロタイプのチャレンジによる交叉的保護が生じ得ることを示している。Swayneら、Avian Dis., 2003, 47:1047−1050;Wesleyら、Vaccine, 2004, 22:3427−3434参照。
【0086】
アデノウイルス血清型5型に対するいくつかの集団の天然のベクター特異的免疫性(Nwanegbo, E.ら、Clin Diagn Lab Immunol. 2004, 11:351−357)は、HPAIに対する世界的なワクチン接種が実行された場合に、ワクチンの効能を潜在的に減少させ得、ヒト免疫不全ウイルスおよびエボラウイルスに対してアデノウイルス血清型5型に基くワクチンが有望であることを示し(Shiver J.W.ら、Nature 2002, 415:331−335;Sullivan, N.J.ら、Nature 2003, 424:681−684)、臨床試験に進められている。重要なことには、ワクチン接種は、既存の抗アデノウイルス抗体の存在にかかわらず、抗インフルエンザ中和抗体を誘導することにおいて非常に有効であることが見いだされ、このことはベクター特異的免疫性が克服され得ることを示した。同文献参照。あるいは、種々の異なるヒトおよびサルのアデノウイルス血清型は、代替的なベクターにより開発されたものであり、これは既存の血清型5型−特異的免疫性の問題を生じる可能性がある。Farinaら、J. Virol., 2001, 75:11603−11613;Gao, W.ら、Gene Ther. 2003, 10: 1941−1949;Meiら、J. Gen. Virol., 2003, 84:2061−2071;Pintoら、J. Immunol., 2003, 171:6774−6779参照。
【0087】
本発明は、HPAIの世界的流行の事象が生じた場合に、第1の迅速な応答として複製欠陥アデノウイルス系ワクチンを開発することを支持する。ニワトリに防御免疫性を誘導した場合、感染しやすい家禽の幅広い免疫化は、HPAIまん延に対する有効なバリアを生じ、かつ経済的にも有利であり得る。さらに、ワクチン接種治療計画はまず、医療従事者および動物飼育係などの高い危険性にあるヒト集団を標的とし得る。最終的に、致命的なヒト疾患の世界的流行による最悪のシナリオにおいて、アデノウイルスベースの免疫化を用いて、従来の不活性化インフルエンザワクチン技術を補完するか、または天然痘ウイルスの制御において実施されたようなリングワクチン接種ストラテジーなどの従来のワクチン接種ストラテジーを用いることによるものであり得る。
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
参考文献
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
様々な参考文献が本明細書中に引用されるが、これらはその全体が本明細書中に参照として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1A】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。A)全付加的細胞性免疫応答は、VN1203HAおよびHK156HAのHA1(黒)配列またはHA2(白)配列に対するものであった。
【図1B】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。B−D)参照 VN1203HA株(VN.A, VN.B, VN.C)またはHA1(黒)およびHA2(白)領域の非保存性HK156HA配列(HK.D)を含むペプチドのプールに対する株特異的細胞性免疫の分布。
【図1C】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。B−D)参照 VN1203HA株(VN.A, VN.B, VN.C)またはHA1(黒)およびHA2(白)領域の非保存性HK156HA配列(HK.D)を含むペプチドのプールに対する株特異的 細胞性免疫の分布。
【図1D】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。B−D)参照 VN1203HA株(VN.A, VN.B, VN.C)またはHA1(黒)およびHA2(白)領域の非保存性HK156HA配列(HK.D)を含むペプチドのプールに対する株特異的 細胞性免疫の分布。
【図1E】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。E−G)保存されたペプチドエピトープおよび株特異的ワクチンによって誘導されたペプチドエピトープの特徴。
【図1F】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。E−G)保存されたペプチドエピトープおよび株特異的ワクチンによって誘導されたペプチドエピトープの特徴。
【図1G】Ad5系HAワクチンによる免疫化によって、マウスに様々なウイルスに特異的な免疫応答および防御を誘導する。完全VN1203HAタンパク質とさらなる非保存性 HK156HA 配列からなる15mer 重複ペプチドにより刺激された新たに融解された脾細胞のIFN−γELISPOT分析。1群あたり2匹の動物より生じる応答を示す。E−G)保存されたペプチドエピトープおよび株特異的ワクチンによって誘導されたペプチドエピトープの特徴。
【図2A】ワクチン接種したマウスにおける体液性免疫応答。(a)抗H5N1 HA IgG 抗体反応。二次免疫から8週間後に、1群あたり8匹のマウスより血清を回収し、精製したVN1203 HA 組換えタンパク質を使用して、H5N1サブタイプ特異的 IgG 抗体の存在についてELISAによって調べた。抗体の力価を、逆数エンドポイント(reciprocal endpoint)力価のlog10値で表す。
【図2B】ワクチン接種したマウスにおける体液性免疫応答。(b)血清 HI 抗体反応。血清を、二次ワクチン接種から8週間後に回収し、VN/1203/04(上)ウイルスまたはHK/156/97(下)ウイルスに対するHI 抗体について、それぞれ調べた。個々のマウスのHI 抗体の力価を、ウイルスの4 HA ユニットによる1% ウマ 赤血球の凝集を阻害する血清の最高希釈率の逆数のlog2値として表す。横軸は、各群の幾何平均を表す。
【図2C】ワクチン接種したマウスにおける体液性免疫応答。(c)血清 HI 抗体産生の反応速度。Ad.VNHA(黒三角), Ad.VNHA1(黒四角), Ad.HKHA1(×),または空ベクター Ad.Ψ5(白菱形)。
【図3A】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(a)15merペプチドのプールを使用したIFN−γELISPOTによって測定される、二次追加免疫から3〜5日後に採取された脾細胞のHA1−およびHA2−特異的応答。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【図3B】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(b)示されるような個々の15merペプチドを使用したIFN−ELISPOTにより測定される、個々のエピトープ特異的応答の同定。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【図4A】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(a)15merペプチドのプールを使用したIFN−γELISPOTによって測定される、二次追加免疫から3〜5日後に採取された脾細胞のHA1−およびHA2−特異的応答。(b)示されるような個々の15merペプチドを使用したIFN−ELISPOTにより測定される、個々のエピトープ特異的応答の同定。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【図4B】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(a)15merペプチドのプールを使用したIFN−γELISPOTによって測定される、二次追加免疫から3〜5日後に採取された脾細胞のHA1−およびHA2−特異的応答。(b)示されるような個々の15merペプチドを使用したIFN−ELISPOTにより測定される、個々のエピトープ特異的応答の同定。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【図4C】ワクチン接種したマウスにおける細胞性免疫応答。(a)15merペプチドのプールを使用したIFN−γELISPOTによって測定される、二次追加免疫から3〜5日後に採取された脾細胞のHA1−およびHA2−特異的応答。(b)示されるような個々の15merペプチドを使用したIFN−ELISPOTにより測定される、個々のエピトープ特異的応答の同定。データは、1群あたり最低でも2匹のマウスにおける3回の測定値の平均値+ SEMを表す。SFCはスポット形成細胞(spot−forming cell)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A型インフルエンザポリペプチドを発現できるように、発現制御配列に作動可能に連結したA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含む複製欠陥アデノウイルスベクターであって、該ベクターが被験体に導入されると、発現されたポリペプチドは、インフルエンザに結合する抗体の産生を該被験体に誘導する、上記複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項2】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニン(HA)である、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項3】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項2記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項4】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来する、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項5】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニン(HA)である、請求項2記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項6】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項3記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項7】
被験体が哺乳動物である、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項8】
被験体がヒトである、請求項7記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項9】
被験体がトリである、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項10】
被験体がニワトリである、請求項9記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項11】
アデノウイルスベクターがE1またはE3を欠いている、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項12】
被験体に複製欠陥アデノウイルスベクターを投与することを含む該被験体に免疫応答を誘導するための方法であって、該ベクターは、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含み、かつ該ポリペプチドは、該被験体にインフルエンザに結合する抗体の産生を誘導する、上記方法。
【請求項13】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニンである、請求項11記載の方法。
【請求項14】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来する、請求項12記載の方法。
【請求項16】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニンである、請求項13記載の方法。
【請求項17】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
被験体が哺乳動物である、請求項11記載の方法。
【請求項19】
被験体がヒトである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
被験体がトリである、請求項11記載の方法。
【請求項21】
被験体がニワトリである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
(1)A型インフルエンザポリペプチドを発現できるように、発現制御配列に作動可能に連結されたA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含む複製欠陥アデノウイルスベクターであって、該ベクターが被験体に導入されると、発現されたポリペプチドが被験体にインフルエンザに結合する抗体の産生を誘導する、上記複製欠陥アデノウイルスベクター、および(2)医薬的に許容可能な担体、を含む、ワクチン組成物
【請求項23】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニン(HA)である、請求項22記載のワクチン。
【請求項24】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項23記載のワクチン。
【請求項25】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来する、請求項22記載のワクチン。
【請求項26】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニン(HA)である、請求項23記載のワクチン。
【請求項27】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項24記載のワクチン。
【請求項28】
被験体が哺乳動物である、請求項22記載のワクチン。
【請求項29】
被験体がヒトである、請求項28記載のワクチン。
【請求項30】
被験体がトリである、請求項22記載のワクチン。
【請求項31】
被験体がニワトリである、請求項30記載のワクチン。
【請求項1】
A型インフルエンザポリペプチドを発現できるように、発現制御配列に作動可能に連結したA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含む複製欠陥アデノウイルスベクターであって、該ベクターが被験体に導入されると、発現されたポリペプチドは、インフルエンザに結合する抗体の産生を該被験体に誘導する、上記複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項2】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニン(HA)である、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項3】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項2記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項4】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来する、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項5】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニン(HA)である、請求項2記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項6】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項3記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項7】
被験体が哺乳動物である、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項8】
被験体がヒトである、請求項7記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項9】
被験体がトリである、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項10】
被験体がニワトリである、請求項9記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項11】
アデノウイルスベクターがE1またはE3を欠いている、請求項1記載の複製欠陥アデノウイルスベクター。
【請求項12】
被験体に複製欠陥アデノウイルスベクターを投与することを含む該被験体に免疫応答を誘導するための方法であって、該ベクターは、A型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含み、かつ該ポリペプチドは、該被験体にインフルエンザに結合する抗体の産生を誘導する、上記方法。
【請求項13】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニンである、請求項11記載の方法。
【請求項14】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来する、請求項12記載の方法。
【請求項16】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニンである、請求項13記載の方法。
【請求項17】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
被験体が哺乳動物である、請求項11記載の方法。
【請求項19】
被験体がヒトである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
被験体がトリである、請求項11記載の方法。
【請求項21】
被験体がニワトリである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
(1)A型インフルエンザポリペプチドを発現できるように、発現制御配列に作動可能に連結されたA型インフルエンザポリペプチドをコ−ドする核酸を含む複製欠陥アデノウイルスベクターであって、該ベクターが被験体に導入されると、発現されたポリペプチドが被験体にインフルエンザに結合する抗体の産生を誘導する、上記複製欠陥アデノウイルスベクター、および(2)医薬的に許容可能な担体、を含む、ワクチン組成物
【請求項23】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニン(HA)である、請求項22記載のワクチン。
【請求項24】
A型インフルエンザポリペプチドがヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項23記載のワクチン。
【請求項25】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来する、請求項22記載のワクチン。
【請求項26】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニン(HA)である、請求項23記載のワクチン。
【請求項27】
A型インフルエンザポリペプチドがA/Vietnam/1203/2004(H5N1)に由来するヘマグルチニンサブユニット1(HA1)である、請求項24記載のワクチン。
【請求項28】
被験体が哺乳動物である、請求項22記載のワクチン。
【請求項29】
被験体がヒトである、請求項28記載のワクチン。
【請求項30】
被験体がトリである、請求項22記載のワクチン。
【請求項31】
被験体がニワトリである、請求項30記載のワクチン。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【公表番号】特表2008−522621(P2008−522621A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545608(P2007−545608)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/044361
【国際公開番号】WO2006/063101
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(500091313)ユニヴァーシティ オヴ ピッツバーグ オヴ ザ コモンウェルス システム オヴ ハイアー エデュケーション (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/044361
【国際公開番号】WO2006/063101
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(500091313)ユニヴァーシティ オヴ ピッツバーグ オヴ ザ コモンウェルス システム オヴ ハイアー エデュケーション (10)
【Fターム(参考)】
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