説明

両親媒性コポリマー材料

直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格及び該骨格に結合した多数の側鎖を有する両親媒性ポリマー材料。ここで骨格は、少なくとも1つのエチレン性不飽和脂肪族炭化水素モノマーと無水マレイン酸とのコポリマー、又は無水マレイン酸とエチレンと更なるエチレン性不飽和モノマーとのターポリマーからなる。この両親媒性ポリマー材料の合成方法も提供し、更にはこの両親媒性ポリマー材料を含有するチューインガムベース、組成物、及び乳剤も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水マレイン酸とエチレン性不飽和モノマーの骨格及び該骨格に結合した多数の側鎖を有するコポリマーからなる新規両親媒性ポリマー材料に関する。この新規材料はこれが添加されると組成物(特にチューインガム組成物)の接着性又は粘着性を低減するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
チューインガムの接着性は環境保護上重要な懸案事項となっている。
【0003】
通常チューインガム処方物を噛み終えると、噛み滓(cud)と呼ばれる水に溶解しない部分が残る。噛み滓の主成分は元々含まれていたチューインガムベースである。噛み滓は本来は容易に処分できるものであるが、無責任に廃棄すると多くの環境問題を引き起こす。特に、公共の場の噛み滓を取り除くために著しいコストがかかる。
【0004】
特許文献1は低粘着性の新規ポリマー材料を開示している。この新規ポリマー材料をチューインガム組成物に添加すると、組成物の接着性が低下することが示されている。このポリマー材料は直鎖状又は分岐鎖状の炭素−炭素ポリマー骨格及びそれに結合した多数の側鎖を有する。側鎖はアルキルシリルポリオキシアルキレン又はポリオキシアルキレンから誘導され、例えばマレイン酸単位/無水マレイン酸単位でポリマー骨格にグラフト結合する。
【0005】
無水マレイン酸とエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーは当技術分野で広く知られており、市販されている。例えば、ポリ(エチレン−alt−無水マレイン酸)及びポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)はシグマアルドリッチ社のカタログで購入できる。
【0006】
ポリ(エチレングリコール)を特定のポリ(モノマー−alt−無水マレイン酸)ポリマーの骨格に結合させる方法が知られている。例えば非特許文献1において、エッケルト(Eckert)らは、モノメトキシポリ(エチレングリコール)を部分的にグラフト結合させたポリ(スチレン−alt−無水マレイン酸)について記載している。この生成物を架橋するとヒドロゲルミクロスフェアが得られる。特許文献2には、ポリエチレングリコールをグラフト結合させたスチレン−無水物コポリマーが記載されている。同様に、非特許文献2において、リミン(Liming)らは、ポリ(ビニルメチルエーテル−alt−無水マレイン酸)骨格へのポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテルのグラフト化について報告している。特許文献3には、無水物系コポリマーとこれを官能基化する方法が記載されている。例えば、ポリ(スチレン−co−無水マレイン酸)をアミノ官能化PEG誘導体等のアミノ含有求核剤と反応させる。このポリマーを塗布することにより表面の親水性を調整できる。
【0007】
無水物系グラフトコポリマーを含有する組成物を調製する方法として、無溶媒法が知られている。例えば特許文献4には、エチレン性不飽和モノマー、無水物モノマー、ヒドロキシル末端基若しくはアミン末端基を有する単官能性ポリグリコール又は多官能性ポリグリコール、並びにフリーラジカル開始剤を混合し、混合物を生成する方法が記載されている。得られた混合物を加熱すると、洗浄用防汚剤として有用なグラフトコポリマー生成物を含む、ポリグリコールとエチレン性不飽和モノマーとのグラフトコポリマー材料混合物が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2006/016179
【特許文献2】EP0945501
【特許文献3】US2006/0057209
【特許文献4】EP0945473
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Macromolecules (1996), 29, 560-567
【非特許文献2】Chinese Journal of Polymer Science (1995), 13(3), 264-272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献4に開示された方法では多数の異なる生成物が形成されるが、本発明の方法ではそうではない。本発明で用いる方法では予め形成したポリマー骨格を側鎖前駆体と反応させるため、この問題は生じない。
【0011】
粘着性が低く、安価で、効率的に合成できる新規ポリマー材料の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様によれば、一般式(I):
B−(OR)x (I)
[式中、Bは直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格であり、前記骨格は少なくとも1つの炭素原子数3以上のエチレン性不飽和脂肪族炭化水素モノマーと無水マレイン酸とのコポリマーであり、ORはそれぞれ前記骨格に結合した親水性側鎖であり、xは前記側鎖の数を表し1〜5000である。]で表される両親媒性ポリマー材料が提供される。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、上記第1の態様の両親媒性ポリマー材料を製造する方法であって、少なくとも1つのエチレン性不飽和脂肪族炭化水素モノマーと無水マレイン酸とのコポリマー出発物質を、一般式(III):HO−Rで表される側鎖前駆体と反応させて、一般式(I)で表される両親媒性ポリマー材料を得ることを特徴とする製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格及び前記骨格に結合した多数の親水性側鎖を有する両親媒性ポリマー材料であって、前記骨格が無水マレイン酸とエチレンと更なるエチレン性不飽和モノマーとのターポリマーであることを特徴とする両親媒性ポリマー材料が提供される。
【0015】
本発明の第4の態様によれば、上記第3の態様の範囲に含まれる直鎖状又は分岐鎖状のターポリマー骨格を有する両親媒性ポリマー材料の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第5の態様によれば、直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格及び前記骨格に結合した多数の親水性側鎖を有する両親媒性ポリマー材料を含有するチューインガムベースであって、前記骨格が少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーと無水マレイン酸とのコポリマーであることを特徴とするチューインガムベースが提供される。
【0017】
本発明の第6の態様によれば、上記第5の態様で定義した両親媒性ポリマー材料と、1つ以上の甘味料又は香料とを含有するチューインガム組成物が提供される。
【0018】
本発明の第7の態様によれば、上記第1又は第3の態様で定義した両親媒性ポリマー材料を含有する乳剤が提供される。
【0019】
本発明のポリマー材料の骨格は柔軟であり、特許文献1に記載の骨格に無水マレイン酸を含まないポリマーと比較してより多くの側鎖結合部位を有する。この新規ポリマー材料は、様々な化学官能性や様々な無水マレイン酸含量を有する様々なポリマー骨格を有し得る。即ち、特許文献1のポリマーと比較して、本発明では側鎖による誘導体化の度合いをより正確に調整することができ、そのためポリマー材料の物理的性質を優位に制御できる。ターポリマー骨格中のエチレンコモノマーは、骨格の化学的安定性の向上に役立つ。
【0020】
「両親媒性」は、上記ポリマー材料が明確な親水性部と疎水性部とを有することを意味する。通常「親水性部」は水やその他の極性分子と相互作用する部分を意味する。通常「疎水性部」は水性媒体よりも油や脂質と優先的に相互作用する部分を意味する。このような異なる性質は、通常は上記側鎖及び骨格に見られる(側鎖は親水性、骨格は疎水性)。骨格における無水マレイン酸含量やコモノマー特性を変更することによって、骨格の疎水性度を変えることができる。側鎖及びポリマー骨格はイオン性であっても非イオン性であってもよい。
【0021】
「側鎖前駆体」はポリマー材料の側鎖となる側鎖出発物質である。「コポリマー出発物質」は無水マレイン酸と1以上の他のモノマーとのコポリマーであり、側鎖前駆体と反応してポリマー材料の骨格となる。同様に「ターポリマー出発物質」は無水マレイン酸とエチレンと更なるエチレン性不飽和モノマーとのターポリマーであり、側鎖前駆体と反応してポリマー材料の骨格となる。ターポリマーは3つの異なるモノマーを重合して得られるコポリマーである。従って、用語「ターポリマー」は用語「コポリマー」の範囲内に包含される。「コポリマー」という語を用いる場合は本発明の第1の態様について言及し、「ターポリマー」という語を用いる場合は本発明の第3の態様について言及するものとする。しかしながら、本発明の第1の態様はターポリマーも包含する。勿論、出発物質はコポリマー又はターポリマーの鎖を複数有していてもよい。同様に、ポリマー材料も側鎖を持つポリマー骨格の鎖を複数有していてもよい。
【0022】
通常、無水マレイン酸由来の単位を利用してポリマー材料中の側鎖をポリマー骨格に結合させる。
【0023】
なお、骨格中の無水マレイン酸について述べる際には、これはコポリマー又はターポリマー中に存在する無水マレイン酸由来の単位を示す。ポリマー材料中の「骨格」は、ポリマー材料の骨格を作るために無水マレイン酸由来の単位及び重合した他のモノマー由来の単位を含有する。「側鎖」は、側鎖前駆体がコポリマー出発物質又はターポリマー出発物質と反応した後に残った構造を有する。
【0024】
骨格がコポリマーである場合、一般式(I)のポリマー材料は、1骨格あたり1〜5000個、好ましくは1〜1000個、より好ましくは1〜500個又は1〜300個、更に好ましくは1〜150個、1〜100個、又は1〜50個の側鎖を有する。当然ながら、骨格上にグラフト化する側鎖の好ましい数は、骨格の分子量及び所望のポリマー材料特性に依る。ある実施形態では、骨格中の無水マレイン酸由来単位全てに側鎖が結合するわけではない。各無水マレイン酸由来単位には1又は2個の側鎖が結合してよい。
【0025】
ポリマー材料の骨格がターポリマーである場合、多数の親水性側鎖が骨格に結合し得る。通常は1〜5000個、好ましくは1〜1000個、1〜500個、又は1〜300個、より好ましくは1〜150個、1〜100個、又は1〜50個の側鎖が各骨格に結合する。
【0026】
通常、両親媒性ポリマー材料の側鎖は親水性である。一般式(I)のポリマー材料中、各側鎖はORで表される。ターポリマー骨格を有する両親媒性ポリマー材料中では、側鎖は窒素原子又は酸素原子を介して骨格に結合していてよい。即ち、この両親媒性ポリマー材料は一般式(IV):
1−(YR1x1 (IV)
[式中、B1は上記直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格であり、YR1はそれぞれ骨格に結合した親水性側鎖であり、Yは酸素(O)又はNR5であり、R5はH又はC1-4アルキルであり、x1は側鎖の数を表し1〜5000の範囲内である。]により表されるものであってよい。
【0027】
Yは好ましくは酸素ラジカルO、である。
【0028】
理論に結びつくものではないが、上記材料をガムベース等の組成物に添加すると、親水性側鎖が乾燥状態のガムベースの流動性を実質的に低下させ、捨てられた噛み滓は乾燥すると固くなり表面から除去しやすくなる。更に、親水性側鎖を有するため、咀嚼時に唾液がエラストマー可塑剤として機能し、ガムがより噛みやすくなる。
【0029】
ポリマー材料は親水性側鎖を有するため界面活性特性を示す。ガムベースに含まれる親水性側鎖含有ポリマー材料は、咀嚼中に濃縮されて親水性被膜を形成する。この親水性被膜はアスファルトや油が付いた敷石等の疎水性表面に付着しにくい。水を用いると、殆どの一般的な表面からポリマー材料を容易に除去できる。
【0030】
ポリマー材料の親水性側鎖は、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(ビニルアルコール)、ナトリウムポリ(スチレンスルホネート)、ポリグリシジル、タンパク質又はポリペプチド、多糖類(砂糖やデンプン等)、或いはポリ(アクリル酸)から誘導されるのが好ましく、ポリ(エチレンオキシド)から誘導されるのが最も好ましい。骨格に結合する前の段階では、側鎖は無水マレイン酸モノマーとエステル結合するためのヒドロキシル末端基を有してよい。ポリ(エチレンオキシド)はヘアシャンプーや食器洗浄液等に使われるような単純なアニオン性界面活性剤に強く結合し、電解質を形成する。このようなアニオン性界面活性剤と水の存在下、ポリマー材料は、酸化物表面、綿衣類、毛髪等の多くの一般的アニオン性表面にはじかれる。従って、有意な割合でポリ(エチレンオキシド)を含む場合、新規グラフト化ポリマー含有ガムベースは石鹸水で洗うことで容易に除去できる。
【0031】
通常、各無水マレイン酸単位に2つの側鎖をグラフト結合させるために十分な量の側鎖前駆体を添加する。典型的には1〜100重量%、更に典型的には2〜50重量%、多くの場合は2〜30重量%の無水マレイン酸単位を確実に側鎖によって誘導体化することを考慮して、そのために十分な量の側鎖前駆体を反応させる。しかしながら、本発明のある実施形態では、骨格中の無水マレイン酸単位を100%誘導体化し得るような十分な量の側鎖前駆体を添加する。他の実施形態では、各無水マレイン酸単位に2個又は1〜2個の側鎖前駆体を反応させるのに十分な量の側鎖前駆体を添加する。
【0032】
ポリマー材料中、側鎖OR及びOR1は式II:
−O−(YO)a−(ZO)b−R3 (II)
[式中、Y及びZはそれぞれ独立に炭素原子数2〜4のアルキレン基であり、R3はH又は任意に置換された炭素原子数1〜12のアルキル基、又はアシル基で結合した他のポリマー鎖であり、a及びbはそれぞれ独立に1〜200の整数であり、aとbの和は1〜250の範囲の値である。]で表されるのが好ましい。
【0033】
2つのモノマーYO及びZOを、例えば系に逐次添加することで、重合してブロックコポリマーを形成してよい。或いは、これらモノマーを用いて統計的コポリマー、ランダムコポリマー、又は交互コポリマーを形成してもよい。他の実施形態では、側鎖が第3のモノマーを含有していてもよい。
【0034】
上記aとbの和は、好ましくは5〜200、より好ましくは20〜120である。
【0035】
通常は、式II中のアルキレン基Y及びZの両方が−CH2−CH2である。ある実施形態においては、式II中の基R3はHである。
【0036】
また、他の実施形態では、R3は−CH3又は他の低級アルキル基(炭素原子数4以下)である。
【0037】
本発明の第1の態様において、ポリマー骨格は、無水マレイン酸と少なくとも1つの炭素原子数3以上のエチレン性不飽和脂肪族炭化水素モノマーとのコポリマーである。通常、コポリマーはバイポリマーであり、即ち2つの異なるモノマー(無水マレイン酸及び1つのエチレン性不飽和モノマー)を含有する。炭化水素モノマーは炭素原子と水素原子のみを含有する。エチレン性不飽和モノマーは、イソブチレン、1,3−ブタジエン、イソプレン、及びオクタデセンから選ぶのが最も好ましい。エチレン性不飽和脂肪族炭化水素モノマーは好ましくは3〜5個の炭素原子を有する。通常、このようなポリマー材料は、炭素原子数5を超える炭化水素モノマーを骨格中に用いたポリマー材料と比較して、高い親水性を示す。
【0038】
或いは、エチレン性不飽和モノマーは、7個以上、例えば8〜30個の炭素原子を含有してもよい。炭素原子数を増やすと、ポリマー材料の骨格はより高い疎水性を示し、特定用途に適した材料が得られる。通常、コポリマーは、1〜75重量%、好ましくは1〜50重量%又は5〜50重量%、更に好ましくは10〜50重量%の無水マレイン酸を含有する。
【0039】
本発明の第3の態様において、ポリマー骨格は、無水マレイン酸とエチレンと更なるエチレン性不飽和モノマーとのターポリマーである。この更なるエチレン性不飽和モノマーの「更なる」という語は、エチレン(これもエチレン性不飽和モノマーである)と区別するために使用している。
【0040】
通常、上記の更なるエチレン性不飽和モノマーは、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルである。
【0041】
他の実施形態では、上記の更なるエチレン性不飽和モノマーは酢酸アルケニル、好ましくは酢酸ビニルである。或いはビニルエーテルであってもよい。
【0042】
特に好ましいターポリマー骨格としては、エチレン−co−アクリル酸ブチル−co−無水マレイン酸及びエチレン−co−酢酸ビニル−co−無水マレイン酸が挙げられる。
【0043】
エチレン性不飽和モノマーと無水マレイン酸とのコポリマーは、ランダムコポリマー、統計的コポリマー、交互コポリマー、又はブロックコポリマー(A−Bブロックコポリマー、A−B−Aブロックコポリマー等)であってよい。一実施形態においては、上記コポリマーは交互コポリマーである。他の実施形態では、上記ポリマーはランダム(又は統計的)コポリマーである。同様に、ターポリマーC−D−Eは、ランダムポリマー又はブロックコポリマーであってよい。ここでCはエチレンであり、Dは無水マレイン酸であり、Eは更なるエチレン性不飽和モノマーである。
【0044】
−(C)X−(D)Y−(E)Z
通常、Cは25〜95重量%の範囲、Dは1〜50重量%の範囲、Eは5〜70重量%の範囲で含まれる。
【0045】
本発明において、上記ターポリマー出発物質は、典型的には1〜50重量%、より典型的には1〜30重量%、更に典型的には1〜15重量%の無水マレイン酸由来単位を含有する。
【0046】
側鎖前駆体と反応させる前の段階で、コポリマー/ターポリマー出発物質の分子量は、典型的には1000〜1000000、より典型的には2000〜100000である。各側鎖前駆体の分子量は、典型的には200〜100000、より典型的には450〜100000、好ましくは500〜50000、最も好ましくは1000〜10000である。
【0047】
本発明の第1の態様によるポリマー材料を製造する方法においては、上記側鎖前駆体はHO−Rで表され、ヒドロキシル末端基を有する。一般式(IV):B1−(YR1x1で表される両親媒性ポリマー材料を製造する方法においては、無水マレイン酸とエチレンと更なるエチレン性不飽和モノマーとのターポリマー出発物質を、一般式(V):H−YR1で表される側鎖前駆体と反応させ、一般式(IV)の両親媒性ポリマー材料を得る。即ち、この実施形態では、側鎖前駆体は末端にヒドロキシル基及びアミン基のいずれかを有してよい。ヒドロキシル官能化材料は適量摂取しても安全であり、このことは食品産業において広く一般的に受け入れられている。しかしながら、通常、アミン末端基を有する側鎖前駆体のほうがより速く骨格前駆体と反応し、そのため各骨格前駆体により多くの側鎖前駆体が反応する。
【0048】
側鎖前駆体として好適なポリエーテルアミンには市販されているものもある。アミンにより単官能化又は二官能化した様々なエチレンオキシド(EO)ポリマー及びプロピレンオキシド(PO)ポリマーが、ハンツマン(Huntsman)からジェフアミン(Jeffamine)のブランド名で販売されている。例えば、アミン官能化ポリマーと無水マレイン酸単位のみとの反応では、以下の3種の異なる構造のうちいずれかが生成する。
【0049】
【化1】

【0050】
Cで示した構造は、Aの分子内反応によってH2Oが脱離して形成されると考えられ、この脱離は酸等の触媒の作用により促進される。本発明では、単官能性、二官能性、三官能性、及び四官能性のアミンポリマーもいずれも使用してよく、幾つかハンツマンにより市販されている。親水性二官能性アミン側鎖前駆体を用いると、反応条件によっては両親媒性ポリマー材料が架橋されたり鎖が延長されたりすることがある。また、必要に応じて、ポリマー材料の特性を改善するために単官能性側鎖前駆体及び二官能性側鎖前駆体を組み合わせて使用してもよい。下記ジェフアミンM−1000及びM−2070は側鎖前駆体として特に好ましい構造と特性を有する。
【0051】
【化2】

【0052】
[x=6;y=約35、RはEO単位のH及びPO単位のCH3の混合物]
【0053】
ジェフアミンM−1000はEO:PO比が19:3、分子量が約1000のモノアミンポリエーテルであり、M−2070はEO:PO比が31:10、分子量が約2000のモノアミンポリエーテルである。これらポリマーはエチレンオキシド単位の比率が比較的高く、そのため親水性材料であると考えられる。M−1000及びM−2070はどちらもPIP−g−MAと効率良く反応することが分かっている。
【0054】
通常、側鎖前駆体は一方の末端にアルコール単位、他方の末端にアルキルオキシ基を有する。側鎖前駆体の好ましい例として、MeO−PEO−OHが挙げられる。上記ポリマー材料の形成方法において、このような側鎖が無水マレイン酸由来単位と反応し、無水物がアルコール分解され、カルボン酸エステルとカルボン酸が生じる。
【0055】
無水マレイン酸とアルコールの反応はアルコール分解であり、これによりエステルとカルボン酸が形成される。この反応はエステル化としても知られている。この反応は比較的速く触媒を必要としないが、酸触媒又は塩基触媒を用いてもよい。
【0056】
上記反応は実質的に以下のとおり表される。PX及びPYはコポリマー又はターポリマーの残余の部分を表し、ROHは代表的な側鎖前駆体である。
【0057】
【化3】

【0058】
上記方法において、ROHで表される2つの側鎖前駆体を同じ無水マレイン酸モノマーに反応させ、下記一般式の化合物を得てもよい。
【0059】
【化4】

【0060】
或いは、1つの無水マレイン酸モノマーに側鎖前駆体1つのみを反応させてもよい。この場合は無水マレイン酸由来単位にはフリーのカルボン酸基が残るが、上記方法の後段においてこのカルボン酸基を誘導体化してもよい。また、このカルボン酸基を脱プロトン化して、イオン性のポリマー材料骨格を得てもよい。
【0061】
必ずしも側鎖前駆体を骨格中の無水マレイン酸由来単位と直接反応させなくてもよい。例えば、予備段階でリンカーを無水マレイン酸由来単位と反応させてもよい。このリンカーは両端を適当な反応性基で官能化した短鎖炭化水素であってよく、例えば無水マレイン酸と反応可能なアルコールや、PEGヒドロキシル基と塩基触媒反応可能なハロゲン化物等であってよい。この場合、その後の反応段階において側鎖前駆体をリンカーと反応させる。この反応は溶液中で行ってよく、また反応物の1つ(PEG等)を溶媒として用いてもよい。
【0062】
本発明の方法において、側鎖前駆体は各末端にヒドロキシル基を有してよい。各末端基が異なる骨格中の無水マレイン酸由来単位と反応すると、架橋したポリマー材料が得られる。
【0063】
側鎖前駆体とコポリマー又はターポリマー出発物質との反応後、骨格中の未反応の無水マレイン酸由来単位を開環してもよい。加水分解又は塩基を用いることによって開環できる。これにより得られる生成物はイオン性であってよい。交互コポリマー等において骨格中の無水マレイン酸比率が高い場合、この更なる反応は特に有効である。
【0064】
本発明の方法は本発明の新規ポリマー材料の製造に適している。本発明の方法により製造されたポリマー材料の好ましい特性は、上述した本発明のポリマー材料の好ましい特性と同様である。
【0065】
両親媒性ポリマー材料を製造するための代替法としては、側鎖前駆体を無水マレイン酸モノマーと反応させ、次の段階でエチレン性不飽和モノマーと共に重合し、ポリマー材料を得る方法が挙げられる。
【0066】
上記ポリマー出発物質はシグマアルドリッチ社等の適切な化学物質メーカーから購入できる。例えば、シグマアルドリッチ社及び株式会社クラレはいずれもポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)を供給しており、株式会社クラレのものはISOBAMの商品名で販売されている。
【0067】
ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン)については、シェブロンフィリップスケミカルカンパニーLLC(Chevron Philips Chemical Company LLC.)が様々な好適なPA18ポリ無水物樹脂材料を製造している。
【0068】
ポリ(エチレン−co−アクリル酸ブチル−co−無水マレイン酸)材料はアルケマ(Arkema)社から入手でき、商品名ロタダー(Lotader、例えば2210、3210、4210、及び3410等級)として販売されている。アクリル酸ブチルに換えて他のアクリル酸アルキルを用いたコポリマー(3430、4404、及び4503等級のアクリル酸メチル、6200、8200、3300、TX8030、7500、5500、4700、及び4720等級のアクリル酸エチル等)も利用可能であり、ロタダーの商品名で販売されている。
【0069】
エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸ターポリマーとしては、多数のオレバック(Orevac)材料(9309、9314、9307Y、9318、9304、9305等級)が適している。
【0070】
同様に、モノメトキシポリ(エチレングリコール)(MPEG)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)等の好適な側鎖前駆体が、例えばシグマアルドリッチ社から販売されている。
【0071】
実施例に詳述するように、側鎖前駆体はコポリマー/ターポリマー出発物質と反応する。通常、この反応を行う際には、一般的にはコポリマー/ターポリマー出発物質及び側鎖前駆体を適当な溶媒に溶解する。例えば、DMFとトルエンの混合物が適している場合が多い。この混合物を不活性雰囲気下で約24時間、好ましくは還流温度(約110〜120℃)で加熱する。窒素やアルゴン等の不活性ガスを用いて不活性雰囲気とするのが好ましい。蒸留(共沸蒸留等)によって反応系から水を除去してもよい。コポリマー/ターポリマー出発物質及び側鎖前駆体が無水製品である場合は、この操作は不要である。得られたポリマー材料を冷却し、溶媒溶液から分離する。通常、沈殿、ろ過、及び乾燥によって回収する。
【0072】
或いは、コポリマー/ターポリマー出発物質及び側鎖前駆体を溶媒が存在しない系で反応させてもよい。例えば、コポリマー/ターポリマー出発物質及び側鎖前駆体の混合物を、適当な温度(最も適切には100〜200℃)で溶融し攪拌して反応を行うことができる。他の実施形態では、コポリマー/ターポリマー出発物質及び側鎖前駆体を熱間押出機に一緒に又は別個に添加し、反応押出を行ってもよい。通常、ポリマーの劣化を防ぐために、これら反応を不活性ガス(窒素等)下又は真空下で行うのが好ましい。
【0073】
通常、反応終了時、反応混合物はフリーの側鎖前駆体や骨格前駆体等、未反応の出発物質を含有する。反応に触媒を用いた場合は、残余の触媒も含有する場合がある。通常、上記反応では副生成物は生じない。最終的な組成物中にフリーの側鎖前駆体が存在すると有利な場合があるので、必ずしも両親媒性ポリマー材料を反応混合物から単離しなくてもよい。フリーの側鎖前駆体は両親媒性ポリマー材料と相互作用し、その特性を改善する場合がある。
【0074】
上記両親媒性ポリマー材料は、本発明の第6の態様で定義のチューインガム組成物に添加するのが最も好ましい。この態様では、両親媒性ポリマー材料は直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格及びそれに結合した多数の親水性側鎖を有する。骨格は少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーと無水マレイン酸とのコポリマーである。「コポリマー」という語はバイポリマー及びターポリマーの両方を包含する。上記モノマーは好ましくは炭化水素モノマーである。「エチレン性不飽和重合性炭化水素モノマー」は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有し、重合すると炭素−炭素ポリマー骨格を有する直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素ポリマーを形成することが可能な、重合性炭化水素を意味する。好ましい一実施形態では、エチレン性不飽和重合性炭化水素モノマーは4又は5個の炭素原子を含有し、例えばイソブチレン(2−メチルプロペン)である。或いは、該エチレン性不飽和モノマーは共役ジエン炭化水素モノマー、特に4又は5個の炭素原子を含有する共役ジエン炭化水素モノマー(1,3−ブタジエン、イソプレン等)であってもよい。本発明の第3の態様で記載したとおり、骨格はターポリマーであってもよい。また、エチレン性不飽和モノマーは1−オクタデセンであってもよい。
【0075】
本発明のこの態様では、エチレン性不飽和モノマーは芳香族であってよく、且つ/或いは水素と炭素以外の原子を含有してもよい。適当なエチレン性不飽和モノマーの例としては、スチレン及びビニルメチルエーテルが挙げられる。
【0076】
通常、側鎖は親水性である。コポリマー/ターポリマー出発物質と反応する側鎖前駆体は、末端にヒドロキシル基又はアミン基を有してよい。特に好ましい両親媒性ポリマー材料は一般式B2−(Y22x2で表される。式中、B2は直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格であり、該骨格は少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーと無水マレイン酸とのコポリマー又は上記ターポリマーであり、Y2はO又はNR5であり、x2は側鎖の数を示し1〜1000の範囲である。R5はH又はC1-4アルキルであり、Y22はそれぞれ親水性側鎖である。
【0077】
通常、コポリマー出発物質は1〜50重量%の無水マレイン酸を含有する。
【0078】
ポリマー材料は好ましくは本発明の第1又は第3の態様で定義のものである。
【0079】
チューインガム生成物は本質的に接着剤のような品質を有する。通常、チューインガム組成物は水溶性バルク部、水不溶性チュアブルガムベース、及び香料を含有する。通常、ガムベースはエラストマー、ビニルポリマー、エラストマー可塑剤(又は溶媒)、乳化剤、賦形剤、及び軟化剤(可塑剤)の混合物を含む。エラストマー、ワックス、エラストマー可塑剤、及びビニルポリマーは全てガムベースの接着性の原因となっていることが広く知られている。
【0080】
両親媒性ポリマー材料は、当技術分野で公知の標準的な技術に従って製造されたチューインガムベースに添加してよく、このような技術については特許文献1に更に記載されている。また、両親媒性ポリマー材料をガムベースとは別々にチューインガム組成物に添加してもよい。本発明の好ましい実施形態では、両親媒性ポリマー材料をガムベースとチューインガム組成物の両方に用いる。
【0081】
ワックス、エラストマー物質、及び/又はエラストマー溶媒の一部又は全部に加えて又は換えてポリマー材料をガムベースに添加することによって、ガムベースの接着性を低減でき、また噛み滓をより容易に表面から除去できる。従って、水又は低刺激洗浄液中で洗浄することによって、ガムベースを有利に除去することができる。更に、従来のガムベースとは対照的に、口腔体温の上昇のみならず、ポリマー材料の溶媒和(可塑化)によってガムベースの硬さが変化する。本発明の範囲内でガムベースの成分を変更することで、自然界の多様な表面及び環境条件に広く適合する様々なガムベース及び組成物が得られる。
【0082】
勿論、ガムベースに用いる全ての化合物は、人間の食用として許容される、例えば食品等級又は医薬品等級等のものでなければならない。
【0083】
通常、チューインガムベースは、3〜90重量%、好ましくは3〜15重量%のポリマー材料を含有する。ポリマー材料は、ガムベースの接着性の原因となる成分の一部又は全部を代替するものであってよい。
【0084】
チューインガムベースは0〜6重量%のワックスを含有してよい。ガムベースに用いられるワックスの例としては、マイクロクリスタリンワックス、天然ワックス、石油ワックス、パラフィンワックス、これらの混合物等が挙げられる。通常、ワックスは、風味放出速度の調整、更にはガムベースの固化、並びに保存期限及び質感の改善に有用である。ワックスはベース混合物を軟化させ、咀嚼中の弾力性を改善することも分かっている。好ましくは、ガムベースは実質的にワックスを含有せず、ポリマー材料によって上記特性を得る。
【0085】
エラストマー物質を用いることによって体積が増加し、更に望ましい弾力性や質感が得られる。適当なエラストマー物質としては、合成ゴム及び天然ゴムが挙げられる。より具体的には、エラストマー物質はブタジエン−スチレンコポリマー、ポリイソブチレン、イソブチレン−イソプレンコポリマー等から選ばれる。エラストマー物質の総量が少なすぎるとガムベースは弾力性、咀嚼時の食感、及び凝集性に乏しいものとなる一方、総量が多すぎるとガムベースは硬くゴムのようになることが分かっている。通常、ガムベースは10〜70重量%のエラストマー物質を含有する。通常、チューインガムベース中で、上記ポリマー材料はエラストマー物質の1重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは50重量%以上を占める。ある実施形態では、チューインガムベース中のエラストマー物質の全てがポリマー材料に置き換えられる。
【0086】
エラストマー可塑剤はエラストマー物質の軟化に役立ち、ロジン又は変性ロジン(水素化ロジン、二量体化ロジン、重合ロジン、これらの混合物等)のメチルグリセロールエステル又はペンタエリスリトールエステルであってよい。本発明のチューインガムベースで好適に使用できるエラストマー可塑剤の例としては、部分水素化ウッドロジンのペンタエリスリトールエステル、ウッドロジンのペンタエリスリトールエステル、部分二量体化ロジンのグリセロールエステル、重合ロジンのグリセロールエステル、トール油ロジンのグリセロールエステル、ウッドロジンと部分水素化ウッドロジンとのグリセロールエステル、ロジンの部分水素化メチルエステル、ポリテルペン等のテルペン樹脂、α−ピネン又はβ−ピネンのポリマー、並びにこれらの混合物等が挙げられる。エラストマー可塑剤の使用量はガムベースの30重量%以下であってよいが、エラストマー溶媒の好ましい範囲は2〜18重量%、好ましくは15重量%未満である。或いは、エラストマー溶媒を使用しなくてもよい。
【0087】
エラストマー可塑剤に対するエラストマーとポリマー材料の重量比は、好ましくは1〜50:1、より好ましくは5〜25:1である。
【0088】
チューインガムベースは非毒性ビニルポリマーを含有するのが好ましい。このようなポリマーは水に対して親和性を有し、その例としてはポリ(酢酸ビニル)、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、ラウリン酸ビニル/酢酸ビニルコポリマー等が挙げられる。非毒性ビニルポリマーは好ましくはポリ(酢酸ビニル)である。非毒性ビニルポリマーの量はチューインガムベースの15〜45重量%であることが好ましい。非毒性ビニルポリマーの分子量は2000以上である。
【0089】
チューインガムベースは賦形剤も含有するのが好ましい。賦形剤はガムベースの質感を改善するために使用され、更にガムベースの加工に役立つ。賦形剤の典型例としては、炭酸カルシウム、タルク、非晶質シリカ、リン酸三カルシウム等が挙げられる。賦形剤としてはシリカが好ましい。賦形剤粒子の大きさは、ガムベースの調剤時に凝集性、密度、及び加工特性に影響する。賦形剤粒子が小さいとガムベースの接着性が低下することが示されている。
【0090】
チューインガムベースは軟化剤を含有するのが好ましい。軟化剤は凝集性を調整し、質感を改善し、且つ製品を咀嚼中に急激な融解転移を引き起こすために使用される。軟化剤を用いるとガムベースをしっかりと混合することができる。軟化剤の典型例としては、水素化植物油、ラノリン、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、グリセリン等が挙げられる。通常、軟化剤の使用量はチューインガムベースの約15%〜約40重量%であり、好ましくは約20%〜約35%である。
【0091】
チューインガムベースは乳化剤を含有するのが好ましい。乳化剤はチューインガム組成物の非混和性成分を分散して単一の安定した系を形成するために役立つ。乳化剤の適当な例としては、レシチン、グリセロール、グリセロールモノオレエート、脂肪酸の乳酸エステル、グリセロールやプロピレングリコールの乳酸化脂肪酸エステル、モノ−、ジ−、及びトリ−ステアリルアセテート、クエン酸モノグリセリド、ステアリン酸、クエン酸ステアリルモノグリセリジル、ステアリル−2−乳酸、トリアセチル(triacyetyl)グリセリン、クエン酸トリエチル、及びポリエチレングリコール等が挙げられる。通常、乳化剤はチューインガムベースの約2%〜約10%、好ましくは約4%〜約6%を占める。
【0092】
チューインガム組成物はチューインガムベース及び1種以上の甘味料又は香料を含有する。チューインガム組成物は更に生物活性成分を含有してもよい。両親媒性ポリマー材料によってチューインガム組成物からの活性成分の放出が調整される。
【0093】
生物活性成分は人間や動物の体内で化学的又は物理的過程を修飾する任意の物質である。生物活性成分は好ましくは薬理活性成分であり、例えば血小板凝集抑制剤、勃起障害薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、狭心症用NOドナー、非オピオイド性鎮痛剤、抗菌剤、制酸剤、利尿剤、制吐剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、鎮咳剤、抗糖尿病薬(インスリン等)、オピオイド、ホルモン、これらの組み合わせ等である。活性成分としてはカフェインやニコチン等の刺激剤が好ましい。或いは、活性成分は鎮痛剤であってもよい。更に、活性成分はインスリンであってもよい。
【0094】
本発明の一実施形態においては、上記生物活性成分はジクロフェナク、ケトプロフェン、イブプロフェン、アスピリン等の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。また、活性成分はパラセタモール(通常NSAIDには含まれない)であってもよい。
【0095】
本発明の他の実施形態においては、生物活性成分はビタミン、ミネラル、又は他の栄養補給剤である。
【0096】
生物活性成分はドラセトロン等の制吐剤であってもよく、またクエン酸シルディナフィル等の勃起障害薬であってもよい。
【0097】
通常、チューインガム組成物は、0.01〜20重量%、より典型的には0.1〜5重量%の活性成分を含有する。チューインガム組成物は経口投与に適した単位剤形で形成してよい。単位剤形の質量は0.5〜4.5g(例えば約1g)が好ましい。通常、チューインガム組成物中の生物活性成分の量は、該成分の種類に応じて1〜400mg、より典型的には1〜10mgとする。例えば活性成分としてニコチンを用いる場合、チューインガム組成物は通常は1〜5mgのニコチンを含有する。活性成分としてイブプロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬を用いる場合、組成物は通常は10〜100mgの活性成分を含有する。
【0098】
通常、チューインガム組成物を噛む時間は1時間以下、より一般的には30分間以下であると考えられる。チューインガム組成物を30分間噛んだ後、該組成物中の活性成分の40%以上が口腔内に放出されるのが好ましく、45%以上が放出されるのがより好ましく、50%以上が放出されるのが最も好ましい。活性成分の特性と使用目的によっては、比較的より長い又は短い時間で放出してもよい。活性成分によってはゆっくりと持続的に放出することで副作用を低減でき好ましい。このような活性成分としてはUS6,592,850記載のクエン酸シルディナフィル等が挙げられる。このような場合、15分間噛んだ後に活性成分の50%以下が放出され、活性成分の放出が咀嚼開始から15〜30分間続くのが好ましい。
【0099】
また、より速い放出が好ましい場合がある。例えば、ニコチン置換療法中の喫煙者はニコチン渇望を満たすためにより速いニコチン送達を望む。このような場合、10分間噛んだ後に活性成分の25〜100%、より典型的には35〜65%が放出されるのが好ましい。適度な咀嚼時間で多量のニコチンを放出する高速放出型チューインガム組成物は、消費者が購入及び咀嚼するガムをより少なくすることができる点(即ち、ガムの数を少なく、或いはガムの大きさを小さくできる点)で有利である。また、チューインガム組成物に添加する活性成分の量を減らせる点で製造者にとって有利である。
【0100】
上記甘味料は、水溶性人工甘味料、水溶性物質、ジペプチド系甘味料、これらの混合物等の広範な材料から選択してよい。上記香料は、液体合成香料及び/又は草、葉、花、果実等由来のオイルから選択してよく、これらの組み合わせでもよい。適当な甘味料及び香料についてはUS4,518,615に更に記載されている。
【0101】
本発明のチューインガム組成物は、上記チューインガムベース、甘味料、及び香料に加えて、付加的な両親媒性ポリマー材料(即ち、上記チューインガムベースに含まれるポリマー材料とは異なるポリマー材料)を含有してよい。この付加的ポリマー材料を用いる場合、チューインガム組成物の1〜20重量%を占めるのが好ましく、3〜15重量%を占めるのがより好ましい。付加的ポリマー材料は、水溶性でも非水溶性でもよい。
【0102】
通常、チューインガム組成物を形成する際には、ガムベースを生物活性成分、甘味料、及び香料と共に混合する。標準的なチューインガム組成物の製造方法については、Formulation and Production of Chewing and Bubble Gum. ISBN: 0-904725-10-3に記載されており、該文献にはコーティング付きガムや中に液体を含むガムの製造についても示されている。
【0103】
典型的には、溶融状態のガムベースを甘味料及び香料と混合し、得られた混合物を冷却することによってチューインガム組成物が得られる。
【0104】
チューインガムベース及び組成物の形成に適した装置として、高温で成分を混合できる装置等が挙げられる。上記混合物を予熱してもよいが、最も典型的には混合鉢又は混合孔の周りにジャケットを配置して混合器を加熱する。研究室レベルでは、サーモフィッシャー社(Thermo Fisher Corporation)の混合器(HAAKE MiniLab Micro Compounder)を用いてガムベースとチューインガム組成物の両方を形成し得る。工業的な規模では、適切なスクリュー(又はオーガー)、Zブレード、又はダブルシグマブレードを有する混合装置が特に適している。
【0105】
ガムベースの場合、通常は80〜120℃(典型的には約100℃)の温度で成分を段階的に添加し混合する。ガムベースが形成された後、この材料を上記混合器から押し出す。
【0106】
チューインガム組成物を形成する際には、成分を均一に混合するために約100℃(例えば80〜120℃の範囲で)の温度に加熱してよい。このとき、チューインガム組成物が生物活性成分を含み、これが温度に敏感(即ち高温で不安定)であると、問題が生じることがある。活性成分が温度に敏感な場合、チューインガムベースを1以上の甘味料及び/又は香料と混合し、80〜120℃の範囲(好ましくは100℃)に加熱し、得られた混合物を通常40〜80℃(好ましくは50〜70℃)の範囲に冷却し、更に活性成分が安定に存在し得る温度に冷却し、その後、冷却した混合物に活性成分を添加してチューインガム組成物を得るのが好ましい。活性成分を添加する際には、1種以上の更なる甘味料又は香料を任意に添加してよい。上記本発明の第1の態様で定義した両親媒性ポリマー材料は、ガムベース形成工程又はチューインガム組成物形成工程(ii)で添加される。これら両方の工程でポリマー材料を添加してもよい。
【0107】
混合が完了した後、チューインガム組成物を押し出す。
【0108】
チューインガム組成物を押し出し、これを所望の形状に成形して、単位剤形を形成してよい。単位剤形の質量は、通常は0.5〜2.5gの範囲、より典型的には約1gである。単位剤形は円筒状、球状、又はタブレット状であってよい。
【0109】
チューインガム組成物は、通常は5〜95重量%、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは15〜45%のチューインガムベースを含有する。付加的ポリマー材料をチューインガム組成物を形成するために添加してもよく、その量は該組成物の1〜15%、より好ましくは3〜15%であってよい。
【0110】
チューインガム組成物を形成するための各ステップは、同一の装置内で連続的に行ってよく、また異なる位置で行ってもよく、後者の場合は冷却及び加熱を間欠的に行ってよい。
【0111】
上記新規ポリマー材料の有利な特性はチューインガムベースに用いた際に特に顕著に現れるが、当然ながらこの新規ポリマーは接着性低減又は親水性/疎水性バランス調整を必要とする他の組成物に用いても有利な特性を示す。該新規ポリマーは非毒性であると考えられるため、人体に接触する組成物に添加してよい。
【0112】
上記新規ポリマー材料をパーソナルケア用途に用いてもよく、例えば身体及び/又は毛髪の洗浄剤、化粧品、スキンケア、サンケア等に使用できる。ポリマー材料を食品用の乳化剤として用いてもよい。ポリマー材料は乳化剤、分散剤、化粧品補助剤、又は安定剤として用いるのが特に好ましい。また、ポリマー材料をホームケア用途に用いてもよく、例えば洗剤や、絨毯、布、窓、浴室、又は台所の洗浄剤、多目的洗浄剤等に使用できる。ポリマー材料はパーソナルケアやホームケア用の界面活性剤又は洗浄剤としても有用な場合がある。
【0113】
上記新規ポリマー材料は表面上の水の挙動に影響を及ぼすことが示されている。これは、該ポリマー材料を布、ガラス、及び建築物の表面をコーティングするために使用できることを意味する。更に、ポリマー材料を防曇被覆組成物として使用してもよい。
【0114】
このグラフトコポリマーの被膜は、例えば歩道、車道、建築物(セメント、コンクリート、ガラス、金属、煉瓦、石、花崗岩、タイル、その他の石造物、布等)のような、様々な表面の保護に有用であることが判る。
【0115】
他の実施形態では、新規ポリマー材料を、コンタクトレンズ表面等の湿潤剤又は農薬散布補助剤(葉湿潤剤)として用いる。
【0116】
本発明の第6の態様では、上記チューインガム組成物に関連して説明した両親媒性材料を含有する乳剤が提供される。この場合、両親媒性材料は通常は乳化剤として作用する。この乳剤は水中油型又は油中水型の乳剤であってよく、化粧品又は家庭用品(塗料等)に使用できる。両親媒性ポリマー材料は乳剤を安定化する界面活性剤として作用する場合もある。
【0117】
この実施形態においては、上記ポリマー材料の製法中、例えば加水分解又は塩基を用いることによって、骨格中の未反応の無水マレイン酸を開環するのが特に好ましい。乳剤中では、ポリマー材料は油相の通常0.1〜10重量%、好ましくは約1重量%を占めるが、乳剤の安定性を改善するためにこの比率を変更してもよい。ここで、「油」は水に非混合性の比較的疎水性の液体を意味する。例えば、この油はシリコーンオイル又はトルエンであってよい。通常、用途に応じて水と油の比率を変えてよく、水が主成分であっても油が主成分であってもよい。水及び油中でのポリマー材料の溶解性に応じて、乳剤の製剤方法及び構造が決まる。通常、油相に可溶な乳化剤で乳剤を安定化すると油中水型乳剤が得られ、一方、水溶性材料を用いて形成すると水中油型乳剤が得られる。既に詳述したとおり、選択したポリマー骨格の種類によって、得られる親水性及び親水性側鎖による誘導体化度が異なる。より疎水性が高い骨格を有する(或いはより親水性側鎖が少ない)ポリマー材料は油中水型乳剤を安定化する傾向があり、一方、より親水性が高い骨格を有する(或いはより側鎖が多い)ポリマー材料は水中油型乳剤を安定化する傾向がある。
【0118】
ポリマー材料の親水性親油性バランス(HLB)値は該材料の乳化剤としての機能の良い指標となり得る。HLB値については、Colloid & Surface Chemistry, Duncan J. Shaw, 4th edition, ISBN: 0750611820に詳細に記載されている。通常、ポリマー材料のHLB値が3〜6の場合は油中水型乳剤が得られ、HLB値が8〜15の場合は水中油型乳剤が得られる。
【0119】
更に、本発明は、上記チューインガム組成物に関連して説明した両親媒性ポリマー材料をクリーニング用の界面活性剤として用いる使用方法を提供する。この実施形態では、既に詳述した通り、NaOH等の塩基を用いて骨格中の未反応の無水マレイン酸を開環するのが好ましい。両親媒性ポリマー材料がナトリウム塩又はカリウム塩であることが最も好ましい。
【0120】
以下、図1〜3を参照して実施例により本発明を詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】様々なグラフトコポリマーの接触角測定を示す図である。
【図2】チューインガムからの桂皮アルデヒド放出を示す図である。
【図3】試料のイブプロフェン放出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0122】
参考実施例1.0 ポリマー骨格
1.1 無水マレイン酸コポリマー
ポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸):
分子量の異なる2種をシグマアルドリッチ社から入手した(該メーカーによる分子量Mnは6000及び60000g・mol-1)。
【0123】
ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン):
シグマアルドリッチ社から入手した(該メーカーによる分子量は30〜50000g・mol-1)。
【0124】
1.2 エチレン−無水マレイン酸ターポリマー
エチレン、無水マレイン酸、及び他のモノマーのランダムコポリマーである。
【0125】
ポリ(エチレン−co−アクリル酸ブチル−co−無水マレイン酸)
エチレン(91重量%)、N−アクリル酸ブチル(6重量%)、及び無水マレイン酸(3重量%)のコポリマーである。この物質はシグマアルドリッチ社から入手した(分子量及び正当性情報は開示されていない)。
【0126】
ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル−co−無水マレイン酸)
エチレン、酢酸ビニル、及び無水マレイン酸のコポリマーである。このポリマーはアルケマ社から入手した(商品名オレバック、9304等級を使用)。
【0127】
参考実施例2.0 側鎖前駆体
全ての試料においてメトキシポリエチレングリコール(MPEG、ポリエチレングリコールメチルエーテル(PEGME)としても知られる)をグラフト結合させた。この物質はシグマアルドリッチ社及びクラリアント社(Clariant、商品名Polyglykol M 2000S)の2社から入手した。いずれもポリマーは分子量が2000を有するものが販売されており、非常に類似の化学構造及び特性を有すると考えられる。ポリマー1、3〜5、及び7(表1)はアルドリッチ社の製品を用いて合成し、その他はクラリアント社の製品を用いて合成した。
【0128】
参考実施例3.0 グラフトコポリマー
「グラフトコポリマー」は「ポリマー材料」を示し、これら2つの用語は同じ意味で使用する。
【0129】
参考実施例1及び2に記載のものを用いて、骨格にMPEGをグラフト化して多数のグラフトコポリマーを合成した。
【0130】
【表1】

【0131】
「骨格MA負荷」は、骨格に含まれるMAのモル質量の割合を意味する。「標的MA」は、骨格に含まれ、反応混合物に添加されるMPEGと反応することが期待されるMAの総モル数の割合を意味する。この値が100の試料では、骨格中の全てのMA単位にPEG鎖をグラフト化するために、ポリマーに十分な量のMPEGを添加した。
【0132】
表1から明らかなように、全てのMAが反応の標的となるわけではない場合が多い。例えば、ポリマー試料1〜5の場合、交互コポリマー骨格中の無水マレイン酸の一部のみが反応した。これにより骨格上に多数の無水マレイン酸環が残るが、これらは開環して利用できる(乳化に関する記載参照)。なお、幾つかの試料では、MPEGとの反応の標的となり得る無水マレイン酸のうち、全てが反応したわけではない可能性がある。
【0133】
3.1 グラフトコポリマーの合成
ポリマー1:
反応フラスコ中のDMF(100mL)とトルエン(100mL)の混合物に、ポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)(Mn:6000g・mol-1、40g)及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn:2000g・mol-1、50g)を溶解した。窒素ガス下、フラスコを還流温度で24時間加熱して、共沸により反応系から水を除去しディーンスターク装置に回収した。得られたポリマー溶液を冷却し、ポリマーをジエチルエーテル中に沈殿させ、ろ過により回収し、乾燥して微量の溶媒を除去した。ブルカー社の分光計を用いて赤外分光法により無水マレイン酸単位に関連する1700〜1850cm-1の領域の変化を観察し、骨格のMPEGグラフト化を確認した。
【0134】
まず、試料をクロロホルムに溶解し、1830cm-1及び1790cm-1での透過率を測定して、骨格中の無水マレイン酸(MA)の濃度を決定する。通常、純溶媒の場合はこれらの位置で約83%の透過率が観察される。MAが存在すると、これらの位置で赤外線透過率が減少する。この減少はポリマーのMA濃度に直接比例する。グラフト化の結果としてMA濃度が減少するにつれて、透過率は再び増加すると考えられる。即ち、これら2つの位置での透過率を反応の前後で比較することによって、グラフト化が成功したか否かを評価することができる。
【0135】
ポリマー2:
ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn:2000g・mol-1、110g)をグラフトとして用いて、ポリマー1と同様の方法によりポリマー2を合成した。反応は計36時間続けた。ポリマー2の特性を、ポリマー1の場合と同様の方法により評価した。
【0136】
ポリマー3:
ポリ(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)(Mn:60000g・mol-1、40g)を骨格として用いて、ポリマー1と同様の方法によりポリマー3を合成した。ポリマー3の特性を、ポリマー1の場合と同様の方法により評価した。
【0137】
ポリマー4:
ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン)(Mn:30〜50000g・mol-1、50g)を骨格として用い、且つポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn:2000g・mol-1、30g)をグラフトとして用いて、ポリマー1と同様の方法によりポリマー4を合成した。反応溶媒としてはトルエン(200mL)を使用し、この場合はポリマー溶液を水中で沈殿させた。得られたグラフトコポリマーの両親媒性特性が原因で収率は低かった(理論収率25%)。ポリマー4の特性を、ポリマー1の場合と同様の方法により評価した。
【0138】
ポリマー5:
ポリマー溶液を水中で沈殿させず、反応溶媒を真空下で除去したことを除いてポリマー4と同様の方法により、ポリマー5を合成した。即ち、この材料はP4よりも高収率で単離され、最終製品中の過剰のPEGが重大な問題とならない用途に適していると考えられる。ポリマー5の特性を、ポリマー1の場合と同様の方法により評価した。
【0139】
ポリマー6:
ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン)(Mn:30〜50000g・mol-1、20g)且つポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn:2000g・mol-1、136g)をグラフトとして用いて、ポリマー4と同様の方法によりポリマー6を合成した。反応溶媒としてはトルエン(500mL)を使用し、ポリマー溶液はヘキサン中で沈殿させた。反応は計36時間続けた。ポリマー6の特性を、ポリマー1の場合と同様の方法により評価した。この場合、透析又は類似の方法によりポリマーから過剰のPEGを除去してもよい。
【0140】
ポリマー7:
ポリ(エチレン−co−アクリル酸ブチル−co−無水マレイン酸)(40g)を骨格として用い、且つポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn:2000g・mol-1、30g)をグラフトとして用いて、ポリマー1と同様の方法によりポリマー7を合成した。反応溶媒としてはキシレン(100mL)とトルエン(100mL)の混合物を使用し、この場合はポリマー溶液をエタノール中で沈殿させた。ポリマー7の特性を、ポリマー1の場合と同様の方法により評価した。
【0141】
ポリマー8:
ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル−co−無水マレイン酸)(40g)を骨格として用い、且つポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn:2000g・mol-1、13g)をグラフトとして用いて、ポリマー1と同様の方法によりポリマー8を合成した。反応溶媒としてはキシレン(125mL)とトルエン(125mL)の混合物を使用し、この場合はポリマー溶液をエタノール中で沈殿させた。ポリマー8の特性を、ポリマー1の場合と同様の方法により評価した。
【0142】
ポリマー9:
ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn:2000g・mol-1、39g)をグラフトとして用いて、ポリマー8と同様の方法によりポリマー9を合成した。ろ過した後、エタノールを追加して十分に洗浄し、ポリマー9からPEGを除去した。ポリマー9の特性を、ポリマー1の場合と同様の方法により評価した。
【0143】
ポリマー10:
(イソブチレン−alt−無水マレイン酸)(Mn:6000g・mol-1、20g)且つジェフアミンM−1000(アミン官能化ポリエーテル、Mn:1000g・mol-1、129g)をグラフトとして用いて、ポリマー1と類似の方法によりポリマー10を合成した。反応は溶媒としてトルエン(200mL)を用いて計24時間続けた。得られたポリマー溶液を冷却し、ヘキサン中0℃で沈殿させた。ポリマー10の特性を、ポリマー1の場合と同様の方法により評価した。
【0144】
実施例4:適用試験
テスト2(4.2接着性試験)を除き、以下の全ての試験がグラフトコポリマーの両親媒性によってもたらされる特性に関するものである。
【0145】
4.1 乳化剤/界面活性剤としてのポリマーの使用(テスト1)
4.1.1 目的
2つの非混合性液体からなる乳剤における上記ポリマーの乳化剤としての機能を測定する(界面活性を実証する)。両親媒性ポリマー材料は界面活性剤として作用するため、2つの相の界面に存在すると考えられる。親水性部(PEG)及び加水分解されたMA単位は水相中又は水相付近に存在すると考えられ、一方でポリマーの炭化水素骨格部分は油相(通常、完全には水混和性でない相)に含まれると考えられる。
【0146】
4.1.2 手順
材料
2MのNaOH溶液:NaOH(8g、アルドリッチ、ACS等級)を水(100mL)に溶解。
シリコーンオイル:ダウコーニングコーポレーション200(登録商標)流体、粘度5cSt(25℃)。
【0147】
油中水型乳剤
グラフトコポリマーが油(ここではトルエンを使用)に可溶で、水溶性は低いか、或いは有意な水溶性を示さない場合に適用できる。このような溶解挙動は、ポリマー6を除く全ての上記グラフトコポリマーにある程度共通している。ここではポリマー9を用いて実証する。理論に制約されるものではないが、形成される油と水のコロイド状混合物は、分散媒として油を含み分散相として水を含むと考えられ、故に油中水型乳剤と称される。通常、乳化剤(界面活性剤)がより溶解しやすい相は分散媒となりやすいと考えられる(このような一般論はバンクロフト則(Bancroft's rule)として公知)。従って、本例のように比較的疎水性又は不水溶性の界面活性剤と油からなる溶液に水を添加して乳剤を調製した場合、通常は油中水型乳剤が得られる。当業者は様々な手段により乳剤中で油と水のどちらが分散媒となるかについての情報を得ることができる。例えば、このような情報はIntroduction to Colloid & Surface Chemistry(Duncan J. Shaw, 4th edition, ISBN:0750611820)等に記載されている。これに記載されているある適切な方法においては、水と油(又は油混合物)を2つの異なる乳剤アリコートに添加する。乳剤が容易に油と混ざる場合(即ち、独立した油層が形成されない場合)は油が分散媒となり、油中水型構造が形成される。乳剤が水と混ざる場合は水が分散媒となり、水中油型構造が形成される。
【0148】
ポリマー9(0.44g)及びトルエン(44g、50mL)を100mLビーカー中に秤量し、この混合物を水浴中80℃で加熱してポリマー9を溶解した。同じ水浴中、他のビーカーで脱イオン水(50mL)を加熱した。続いて、これら両ビーカーを水浴から取り出し、液中にオーバーヘッドスターラー(overhead stirrer)を備えたパドル攪拌装置(paddle stirrer)を配置した。両ビーカーがまだ温かいうちに、トルエン溶液を激しく攪拌し、これに脱イオン水を徐々に加えた。いったん添加を完了し(〜2分間)、シルバーソン実験乳化機(Silverson laboratory emulsifier)を用いて乳剤を1分間せん断攪拌した。パドル攪拌装置による攪拌を再開し、乳剤の温度が室温となるまで保持した。次いで、封止したねじぶた式瓶に乳剤試料を入れ、時間間隔を規定して目視観察した(1時間、24時間、1週間)。
【0149】
乳剤のアリコートをトルエンに混合し、また他のアリコートを水に混合した。乳剤はトルエンとは容易に混ざったが、水とは混ざらず独立した層を形成した。従って、得られたコロイド状混合物は、乳剤の総量に対して0.5重量%の界面活性剤を含む油中水型乳剤であると考えられる。
【0150】
水中油型乳剤
グラフトコポリマーが更なる修飾を行わなくても元々水溶性であるが、(ここではトルエンを使用)油への溶解性は低いか(この場合)、或いは有意な油溶性を有さない場合に適用できる。理論に制約されるものではないが、形成される油と水のコロイド状混合物は分散媒として水を含み分散相として油を含むと考えられ、故に水中油型乳剤と称される。比較的親水性が高い界面活性剤と水とからなる溶液に油を添加して乳剤を調製した場合に、この構造が得られる。
【0151】
ポリマー6(2g)及び脱イオン水(50mL)を100mLビーカーに入れ、この混合物をマグネチックフォロアー(magnetic follower)で攪拌してポリマー6を溶解した。続いて、シルバーソン実験乳化機を用いて得られたポリマー溶液をせん断攪拌しながら、シリコーンオイル(50mL)を徐々に添加した。いったん添加を完了し(〜2分間)、封止したねじぶた式瓶に乳剤試料を入れ、時間間隔を規定して目視観察した(1時間、24時間、1週間)。
【0152】
乳剤のアリコートをシリコーンオイルに混合し、また他のアリコートを水に混合した。乳剤は水とは容易に混ざったが、シリコーンオイルとは混ざらず独立した層を形成した。従って、得られたコロイド状混合物は、乳剤の総量に対して約2重量%の界面活性剤を含む水中油型乳剤であると考えられる。
【0153】
開環グラフトコポリマーを用いた水中油型乳剤
上記の試料では、グラフトコポリマーは両親媒性ではあるが、乳化剤としての使用に有用な濃度で溶解するような十分な水溶性を有していない。そこで、加水分解(最も好ましくは塩基の助けをかりた加水分解)により骨格中の未反応無水マレイン酸を優先的に開環する。開環した酸基又は塩基はグラフトコポリマーの溶解を促進する。理論に制約されるものではないが、形成される油と水のコロイド状混合物は分散媒として水を含み分散相として油を含むと考えられ、故に水中油型乳剤と称される。
【0154】
ポリマー3(2g)及び2MのNaOH溶液(50mL)を100mLビーカーに入れ、この混合物をマグネチックフォロアーで攪拌してポリマー3を溶解した。続いて、シルバーソン実験乳化機を用いて得られたポリマー溶液をせん断攪拌しながら、これにシリコーンオイル(50mL)を徐々に添加した。いったん添加を完了し(〜2分間)、乳剤試料を封止したねじぶた式瓶に入れ、時間間隔を規定して目視観察した(1時間、24時間、1週間)。
【0155】
乳剤のアリコートをシリコーンオイルに混合し、また他のアリコートを水に混合した。乳剤は水とは容易に混ざったが、シリコーンオイルとは混ざらず独立した層を形成した。従って、得られたコロイド状混合物は、乳剤の総量に対して約2重量%の界面活性剤を含む水中油型乳剤であると考えられる。
【0156】
4.1.3 結果
3種の異なる方法を用いて乳剤を調製した。ポリマー9は油中水型乳剤を安定化し、ポリマー6は水中油型乳剤を安定化した。ポリマー3の場合は、ポリマー骨格中の無水マレイン酸残基を塩基で開環することによってグラフトポリマーを溶解した。得られた乳剤は1週間安定であった。ポリマー6の乳剤では1週間後に若干の分離が観察されたが、混合物を手で緩やかに振ることで、直ちに容易に再分散できた。乳剤の安定性は界面活性剤(乳化剤)濃度等の多数の要因に関係しており、従って該濃度を変えることで安定性はある程度変化する。より多量の乳化剤を用いると、乳剤が安定に存在する期間を延長できると期待される。場合によっては、他の界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム等のイオン性界面活性剤やアルコールエトキシレート等の非イオン性界面活性剤)を用いることでこれらの界面活性剤を含む乳剤の安定性を改善できる。勿論、産業用途又は民生用途において、他の様々な成分を用いて乳剤を改善してもよく、このような成分としては、当該用途に特異的な機能性成分又は活性成分、安定剤、保存剤、顔料、着色剤、芳香剤、増粘剤、消泡剤、造膜剤等が挙げられる。上記グラフトコポリマーは両親媒性であるために、界面活性及び乳化活性を有する。ポリマー材料の親水性を変えることも可能であり、そのため該ポリマー材料は水中油型構造及び油中水型構造のいずれにおいても、様々な油と水からなる乳剤を安定化するのに使われる可能性がある。
【0157】
4.1.4 結論
上記グラフトコポリマーを、油と水からなる乳剤用の界面活性剤として利用することが可能である。該ポリマーは修飾せずに使用してもよく、また開環して使用してもよい。より多くのPEGがグラフト結合したコポリマーは、通常は油よりも水に溶けやすく、そのため水中油型乳化剤として有用である場合が多い。逆に、親水性物質のグラフト化が少ないコポリマーは、油中水型乳剤の界面活性剤として有用である場合が多い。この場合、無水マレイン酸残基を開環することによってポリマーの水溶性を向上することでき、該材料を水中油型乳化剤として利用できる。
【0158】
実施例4.2.0 接着性試験(テスト2)
4.2.1 目的
上記グラフトコポリマーからなるフィルムの、非接着性表面を形成し接着物質(市販のチューインガム)の基板への接着を低減する機能を測定する。
【0159】
4.2.2 手順
ディスクの調製
ナイロン、PTFE、黄銅、及びステンレス鋼の棒を適当な大きさに切断し、直径5cm、厚さ3mmの平坦なディスク群を得た。次いで、試験に用いるポリマー溶液を調製した。ポリマー1はTHFに溶解して5重量%溶液とし、ポリマー3はTHFに溶解して3.3重量%溶液とし、ポリマー6はTHFに溶解して2.5重量%溶液とし、ポリマー2、7、8、及び9はトルエンに溶解して5重量%溶液とし、ポリマー4は酢酸エチルに溶解して2.5重量%溶液とした。溶液が温かいうちに小型ブラシを用いて慎重にディスクに塗布し、基板をそれぞれ各溶液で被覆した。上塗りする前にはディスクを30分間以上放置し乾燥した。総塗布回数は溶液の濃度に応じて調整し、例えば5重量%溶液の場合は計4回塗布し、2.5重量%溶液の場合は計8回塗布した。ディスクを通風室内に一晩放置し、完全に乾燥した。
【0160】
試験条件
チューインガム(リグレーエクストラガム(Wrigley's Extra brand)、ペパーミント味)を5分間噛み、直ちに各乾燥ディスクに付着させた。四角形状PTFEフィルムをガム上に載置し、1Lの水で満たした1Lガラス瓶を重りとして四角形状PTFEフィルムの上に置いた。
【0161】
試料を3晩放置し、その後重りを除去し、ガムの噛み滓を付着させた四角形状PTFEフィルムを人の手により慎重に剥がし、噛み滓のディスク表面への接着力を評価した。PTFEを用いたのは、除去しやすい不活性薄層を形成するためである。
【0162】
4.2.3 結果
4種の基板上で9種のポリマーを試験に供し、ガムのディスクへの接着性を1〜5の指標で評価した。指標1はガム噛み滓と基板表面間の接着性が非常に低かったことを示し、指標5は両者間の接着性が非常に高かったことを示す(表2)。ポリマー被覆による接着性低減効果を非保護基板と比較して評価するために、被覆を行わない対照実験も行った。
【0163】
【表2】

【0164】
対照実験より、通常、上記ガムの噛み滓は4種の基板に強く接着することが明らかである。上記グラフトコポリマーは全て上記表面に対する接着性の低減に適している。ポリマー7以外の全ての場合でグラフトコポリマーはナイロン上に非接着性表面を形成し、ポリマー3及び7以外の全ての場合でPTFEディスク上に非接着性又は低接着性の表面を形成した。また、2種の金属表面上では、全てのグラフトコポリマーが非接着性又は低接着性の表面を形成した。
【0165】
4.2.4 結論
上記グラフトコポリマーは表面の接着性の低減に適している。該コポリマーは例外なく金属表面の接着性を低下させ、ほぼ全ての場合でポリマー基板に対するガムの接着を低減した。
【0166】
実施例4.3.0 接触角測定(テスト3)
4.3.1 目的
多様な親水性を有する上記グラフトコポリマーの、表面の撥水性又は湿潤性を向上して上記表面特性を実現する機能を測定する。
【0167】
4.3.2 手順
ガラス棒を適当な大きさに切断し、直径5cm、厚さ3mmの平坦なガラスディスクを得た。これをテスト2(4.2.2)に類似の方法で調製した溶液で被覆した。ただし、全ての溶液の濃度を2.5重量%とし、ポリマー1〜3及び6はTHFに溶解し、ポリマー4は酢酸エチルに溶解し、ポリマー7〜9はトルエンに溶解した。
【0168】
全ての場合で、溶液が温かいうちに小型ブラシを用いて慎重にガラスディスクに塗布した。上塗りする前にはディスクを30分間以上放置し乾燥した。総塗布回数は溶液の濃度に応じて調整し、例えば5重量%溶液の場合は計4回塗布し、2.5重量%溶液の場合は計8回塗布した。ディスクを通風室内に一晩放置し、完全に乾燥した。
【0169】
その後、各ディスク上に水滴を置き、クルス社の液滴形状分析接触角ゴニオメーター(Kruss Drop Shape Analysis contact angle goniometer、モデル番号DSA10-Mk2)を用いて、水と基板の間の接触角を測定した。
【0170】
4.3.3 結果
各ポリマーフィルム及び被覆していない対照ガラス上の水滴の接触角を、30秒おきに10分間測定した。水滴の接触角が急激に低下し、その値を10分間続けて測定できない場合もあった。この場合、当初の接触角の測定も試みた。
【0171】
【表3】

【0172】
図1を参照することにより、おそらく最も容易に接触角データを比較し視覚的に確認することができる。
【0173】
ガラス上で水を観察した結果、水の接触角は0分の時点で約42°であり、4分後は35°であった。様々なポリマーで被覆したディスク上の水の接触角を図1に示す。ディスク表面をやや湿潤させるものもあったが、グラフトコポリマーがディスク上の水の接触角を増加させ、即ち表面をある程度撥水性化したことが分かる。ポリマー7、8、及び9は最も高い撥水性を示したが、これはおそらく該材料が非常に低いPEG負荷を有し、高疎水性であるためである。通常、疎水性が低い材料は小さな接触角を示す。試料P3及びP4は同様のPEG負荷を有するが、P4はグラフトコポリマー全体の親水性親油性バランス(HLB)に影響を及ぼす長鎖アルキルオクタデセン基を持ち、そのためP3フィルムのほうが小さな接触角を示す。即ち、両親媒性コポリマーがより親水性であっても疎水性であっても、骨格及びPEG負荷を所望のとおり変更することで、グラフトコポリマーの挙動を変えることができる。図1には示していないが、P6で被覆したディスク上の接触角は2分後に0°となった。理論に制限されるものではないが、この時点で水溶性ポリマーが水に溶解したか、或いは水を吸収したと考えられる。P4及びP6の骨格は全く同じであり、PEG負荷のみが異なる(P6では5倍)ことに注目すべきである。この事実は、グラフトコポリマーの親水性を調整することによって湿潤性又は撥水性の材料が得られることを示唆している。
【0174】
4.3.4 結論
上記グラフトコポリマーの両親媒特性(該材料で被覆した表面と水との相互作用)は、骨格及び骨格に対する両親媒性物質のグラフト化度を変更することによって調節できる。
【0175】
実施例4.4.0 両親媒性グラフトコポリマーによるチューインガムからの化学成分放出の調節
4.4.1 目的
上記グラフトコポリマーをチューインガムからの化学成分(この場合、市販の桂皮アルデヒド風味成分)の放出を調節するために使用する。
【0176】
4.4.2 手順
化学成分
食品等級の炭酸カルシウム(CaCO3)、エステルガム、水素化植物油(HVO、水素化大豆油)、ポリイソブチレン(PIB、分子量51000)、ポリ酢酸ビニル(PVAc、分子量26000)、グリセロールモノステアレート(glyceromonostearate、GMS)、マイクロクリスタリンワックス(マイクロワックス、融点82〜90℃)、ソルビトール液、及びソルビトール固体を、ガムベース社(Gum Base Company)から入手した。桂皮アルデヒド(98+%)は英国フィッシャーサイエンティフィック社(Fisher-Scientific UK)から入手した。
【0177】
チューインガムの製造
以下の表に示す組成を有するチューインガムベースを用いた。
【0178】
【表4】

【0179】
ガムベース材料をサーモエレクトロン社(Thermo Electron Corporation)製の小型実験用混合機/押出機(Haake Minilab micro compounder)で混合した。4段階で成分を混合し、最終段階を終えたときのみガムを押し出した。ガムベースの混合は100℃で行った。
【0180】
以下の表に従ってチューインガムを混合した。
【0181】
【表5】

【0182】
ガムベースと同じ装置を用いてガムを混合し、最終段階を終えた時点で押し出した。ガムの混合は60℃で行った。段階1では、ガムに添加する前にソルビトール液とソルビトール粉末を予備混合した。
【0183】
実験方法
ガムを予備成形し、咀嚼前に秤量し、各試剤の総量を概算できるよう重量を記録した。
【0184】
AB−FIA製咀嚼処理装置(ERWEKA DRT-1)を用い、2つの網状格子の間でガムの圧迫と捩り変形を交互に行った。水温37℃の水ジャケットを用いて咀嚼セルの温度を調節し(生体内で咀嚼されるときに予想される温度に調節)、咀嚼回数を1分当たり40回とした。咀嚼間隔は1.6mmとした。
【0185】
40mLの人工唾液(様々な塩の水性溶液、pH約6、下記表6参照)を咀嚼セルに添加し、底にプラスチック網を置いた。秤量した一片のガムを網の中央に載置し、その上に他の網を配置した。
【0186】
【表6】

【0187】
ガムの活性成分放出特性を分析する手順
特に断らない限り、咀嚼処理は表7に示すパラメーターの条件で行った。
【0188】
【表7】

【0189】
各実験の開始時には人工唾液とガムを含有するセルを5分間放置し、系を37℃に調節した後、ガムを咀嚼した。放出試験中、試験セルから試料を容量0.5mLずつ定期的に取り出した(5、10、15、20、25、30、40、50、及び60分)。
【0190】
全ての試料を、自動サンプラー、ポンプ、及びダイオードアレイ検出器を備えた標準的なパーキンエルマーHPLCシリーズ200システム(Perkin Elmer HPLC Series 200 system)を使用するHPLCで分析した。データ処理及び測定器制御はTotalchromソフトウェア(v6.2)を用いて行った。
【0191】
ガム(約1gに秤量)を2つのプラスチック網の間に配置し、人工唾液中で機械的に咀嚼処理した。全ての試料をHPLC装置で分析した。この装置の詳細を以下に示す。
【0192】
標準的パーキンエルマーHPLCシステムシリーズ200システム(Totalchrom(v6.2)システムによるデータ処理及び測定器制御)に、自動サンプラー、ポンプ、及びダイオードアレイ検出器を装着した。
【0193】
この場合、咀嚼によって放出された溶液中のフリーの桂皮アルデヒドをHPLCで分析した。桂皮アルデヒド分析条件は以下の通りである。
【0194】
カラム:バリアンポラリス(Varian Polaris)5u C18−A 250×4.6m
移動相:アセトニトリル/0.05%オルトリン酸(60/40)
流量:1mL/分
検出:UV250nm
注入量:5μL
【0195】
唾液中の試料を10mmのPTFEアクロディスク(acrodisc)シリンジフィルターでろ過した後、ニートの状態で注入した。
【0196】
0.02〜1.00mg/mLの範囲で、試料を標準物質(人工唾液中で調製)と比較した。上記装置では桂皮アルデヒドの保持時間は4.9分であり、この保持時間のピークを放出桂皮アルデヒドの検出に利用した。試料を2又は3回咀嚼処理し、すべての場合において矛盾の無い2つの放出曲線を得た。全ての試料をHPLC装置で2度分析したところ、高い再現性で結果が得られた。
【0197】
4.4.3 結果
ポリマー1〜4及び6〜9を用いてガムを調製し、人工唾液で咀嚼処理した。放出された桂皮アルデヒドをHPLCで分析した。グラフトコポリマーに換えてマイクロワックスを用いた対照材料(S3)も調製し、同様に分析した(図2)。
【0198】
対照材料(S3)を観察したところ、非常に安定した桂皮アルデヒド放出を示し、最終的に60分後には約60%を放出した。2種のグラフトコポリマー含有ガム(P8含有ガム及びP9含有ガム)はマイクロワックス材料に類似の放出特性を示したが、より高い最大桂皮アルデヒド放出をより速く示したか、或いはより低い最大桂皮アルデヒド放出をより遅く示した。例えば、ポリマー8は60分後にガム中の桂皮アルデヒドの40%のみを放出したが、対照材料は50%放出した。一方、P4含有ガムの桂皮アルデヒド放出は、30分経過前に約70%の桂皮アルデヒド放出安定状態に達した。P3含有ガムの放出速度は低かったが、最大放出は同程度かそれよりやや多かった。
【0199】
4.4 結論
本例で桂皮アルデヒドを用いて実証した通り、骨格及び両親媒性物質グラフト化度(即ち、親水性)を変更することによって、チューインガムの化学種放出特性を調節できる。骨格特有の化学的性質やグラフト化度を含む多数の要因に応じて唾液とガムに含まれる他の成分との相互作用が変化し、これら要因によって放出速度が決定されると考えられる。即ち、チューインガムの製造に使用可能な、様々な放出速度を示すグラフトコポリマー系を開示した。
【0200】
4.5.0 両親媒性グラフトコポリマーによる活性成分の放出の調節
4.5.1 目的
上記両親媒性グラフトコポリマーを、実際に活性成分を送達及び放出するために用いる。ここでは、該ポリマーとイブプロフェンの固体混合物(イブプロフェンを封入した混合物)からのイブプロフェンの放出を調べる。「イブプロフェンを封入」は、この活性成分がグラフトコポリマーによって物理的に被覆されているか、或いは包まれている状態を意味する。
【0201】
4.5.2 手順
材料
イブプロフェン(40等級)はアルベマーレ社(Albemarle)から入手した。
【0202】
ポリマーとイブプロフェンの固体混合物の調製
粉末化したグラフトコポリマーとイブプロフェンを、イブプロフェン含量が1重量%となるようにビーカー内に秤量した。これら2成分をスパチュラで予備混合して概ね均一な混合物を調製した後、小型実験用混合押出機(Haake Minilab micro compounder)を用いて60℃で混合及び押出を行った。ポリマー2を用いた試験では3.96gのポリマー2と0.04gのイブプロフェンを使用し、ポリマー3を用いた試験では2.97gのポリマー3と0.03gのイブプロフェンを使用した。
【0203】
試験方法
イブプロフェン封入試料(約1gに秤量した材料)を2つのプラスチック網の間に載置し、人工唾液中で機械的に咀嚼処理した。イブプロフェン封入試料の咀嚼処理の詳細は、桂皮アルデヒド含有チューインガムの場合(4.4.2)と同じとした。5、10、15、20、25、30、40、50、及び60分後に試料を取りだした。その後、試料を10mmのPTFEアクロディスクシリンジフィルターでろ過し、HPLC分析の準備をした。試料を上述したHPLC装置(4.4.2)を用いて分析した。実験の詳細は以下の通りである。
【0204】
イブプロフェンHPLC詳細:
カラム:ハイパーシル(Hypersil)C18 BDS、150×4.6mm
移動相:アセトニトリル/0.05%水性オルトリン酸、比率60/40、1mL/分
UV検出器、波長220nm
【0205】
イブプロフェン封入試料を2又は3回咀嚼処理し、いずれの場合も矛盾の無い2つの放出曲線を得た。全ての試料をHPLC装置で2度分析したところ、高い再現性で結果が得られた。
【0206】
4.5.3 結果
2種の異なるポリマーをイブプロフェン封入に用い、それぞれ咀嚼処理し、放出特性をHPLCで観測した(図3)。
【0207】
咀嚼処理中、両方のポリマー/イブプロフェン混合物が溶液中にイブプロフェンを放出した。2つの試料が唾液中に放出したイブプロフェンの総量は同程度であり、放出が安定状態となったと見られる時点で最大約60%であった。興味深いことに、ポリマー3を用いた試料よりも、ポリマー2を用いた試料のほうが速くイブプロフェンを放出した。両ポリマーは化学的に類似した骨格を有するが、骨格にグラフト化したMPEGの量はポリマー2のほうが非常に多い。従って、ポリマーの親水性が高いと、封入試料の分解が促進され、そのため咀嚼又は粉砕(ポリマーが硬い固体の場合)中に活性成分が迅速に放出されると説明できる。
【0208】
4.5.4 結論
2種のグラフトコポリマー材料にイブプロフェンを封入し、人工唾液中で試料を咀嚼してイブプロフェンを放出させた。グラフトコポリマー2はグラフトコポリマー3よりも速くイブプロフェンを放出したが、前者のポリマーはより多量のPEGを含有し親水性がより高い。両親媒性グラフトコポリマーの親水性を変更することによって、イブプロフェン放出速度を調節できると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
B−(OR)x (I)
[式中、Bは直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格であり、前記骨格は少なくとも1つの炭素原子数3以上のエチレン性不飽和脂肪族炭化水素モノマーと無水マレイン酸とのコポリマーであり、ORはそれぞれ前記骨格に結合した親水性側鎖であり、xは前記側鎖の数を表し1〜5000の範囲である。]で表される両親媒性ポリマー材料。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和炭化水素モノマーがイソブチレン、1,3−ブタジエン、イソプレン、及びオクタデセンから選ばれることを特徴とする請求項1に記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項3】
前記側鎖ORが前記骨格中の無水マレイン酸に結合していることを特徴とする請求項1又は2に記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項4】
xが1〜300、好ましくは1〜150の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項5】
前記側鎖がそれぞれ800〜10000の範囲分子量を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項6】
前記骨格が1000〜10000の範囲の分子量を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項7】
基Rが一般式(II):
−(YO)a−(ZO)b−R3 (II)
[式中、Y及びZはそれぞれ独立に炭素原子数2〜4のアルキレン基であり、R3はH、任意に置換された炭素原子数1〜12のアルキル基、又は他のポリマー骨格であり、a及びbはそれぞれ独立に1〜200の整数であり、aとbの和は1〜250の範囲の値である。]で表されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項8】
式II中、前記アルキレン基Y及びZが共に−CH2CH2−であることを特徴とする請求項7に記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項9】
式II中、前記基R3がH又はCH3であることを特徴とする請求項7又は8に記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項10】
式II中、bとcの和が20〜120の範囲の値であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項11】
前記骨格が1〜50重量%の無水マレイン酸を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項12】
先行請求項のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料を製造する方法であって、少なくとも1つのエチレン性不飽和脂肪族炭化水素モノマーと無水マレイン酸とのコポリマー出発物質を、一般式(III):HO−Rで表される側鎖前駆体と反応させて、一般式(I)で表される両親媒性ポリマー材料を得ることを特徴とする製造方法。
【請求項13】
前記骨格の無水マレイン酸部分を前記側鎖前駆体と反応させて一般式(I)で表される両親媒性ポリマー材料を得ることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
実質的に(i)請求項1〜11のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料、(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和脂肪族炭化水素モノマーと無水マレイン酸とのコポリマー出発物質、及び(iii)請求項12で定義の一般式(III)で表される側鎖前駆体のみからなる組成物。
【請求項15】
直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格及び前記骨格に結合した多数の親水性側鎖を有する両親媒性ポリマー材料であって、前記骨格は無水マレイン酸とエチレンと更なるエチレン性不飽和モノマーとのターポリマーであることを特徴とする両親媒性ポリマー材料。
【請求項16】
前記更なるエチレン性不飽和モノマーがアクリル酸アルキルであることを特徴とする請求項15に記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項17】
前記更なるエチレン性不飽和モノマーが酢酸アルケニル、好ましくは酢酸ビニルであることを特徴とする請求項15に記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項18】
一般式(IV):
1−(YR1x1 (IV)
[式中、B1は前記直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格であり、YR1はそれぞれ前記骨格に結合した親水性側鎖であり、YはO又はNR1であり、R1はH又はC1-4アルキルであり、x1は前記側鎖の数を表し1〜5000の範囲である。]で表されることを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項19】
YがOであることを特徴とする請求項18に記載の両親媒性ポリマー材料。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の両親媒性ポリマー材料を形成する方法であって、無水マレイン酸とエチレンと更なるエチレン性不飽和モノマーとのターポリマー出発物質を、一般式(V):H−YR1で表される側鎖前駆体と反応させて、一般式(IV)で表される両親媒性ポリマー材料を得ることを特徴とする形成方法。
【請求項21】
実質的に(i)請求項15〜19のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料、(ii)無水マレイン酸とエチレンと更なるエチレン性不飽和モノマーとのターポリマー出発物質、及び(iii)請求項20で定義の一般式(V)で表される側鎖前駆体のみからなる組成物。
【請求項22】
直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格及び前記骨格に結合した多数の親水性側鎖を有する両親媒性ポリマー材料を含有するチューインガムベースであって、前記骨格は少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーと無水マレイン酸とのコポリマーであることを特徴とするチューインガムベース。
【請求項23】
前記ポリマー材料が請求項1〜11及び15〜19のいずれかで定義のものであることを特徴とする請求項22に記載のチューインガムベース。
【請求項24】
直鎖状又は分岐鎖状のポリマー骨格及び前記骨格に結合した多数の親水性側鎖を有する両親媒性ポリマー材料と1以上の甘味料又は香料を含むチューインガム組成物であって、前記骨格は少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーと無水マレイン酸とのコポリマーであることを特徴とするチューインガム組成物。
【請求項25】
請求項22又は23で定義のチューインガムベースを含有することを特徴とする請求項24に記載のチューインガム組成物。
【請求項26】
更に生物活性成分を含有することを特徴とする請求項24又は25に記載のチューインガム組成物。
【請求項27】
請求項1〜11及び15〜19のいずれかに記載の両親媒性ポリマー材料を含有する乳剤。
【請求項28】
油中水型乳剤又は水中油型乳剤であることを特徴とする請求項27に記載の乳剤。
【請求項29】
請求項1〜11及び15〜19のいずれかで定義の両親媒性ポリマー材料を乳化剤として用いる使用方法。
【請求項30】
請求項1〜11及び15〜19のいずれかで定義の両親媒性ポリマー材料をクリーニング用の界面活性剤として用いる使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−504534(P2011−504534A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534502(P2010−534502)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066257
【国際公開番号】WO2009/068570
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(507369154)リヴォリマー リミテッド (5)
【Fターム(参考)】